ジオエコノミクス・レビュー vol.22 20160408

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1 ジオエコノミクス・レビュー™ 第 22 号 実践編 今号の趣旨 北朝鮮情勢が目まぐるしく動いています。今回も、これらの意味合いについて考えて みたいと思います。 トランプ政権の「あらゆる選択肢」とは? 選択 4 月号の記事「朝鮮半島『騒乱』前夜」によれば、トランプ政権の「あらゆる選 択肢」とは①金融制裁措置の強化、②北朝鮮の基地への直接攻撃、③韓国への 核兵器再配備、④サイバー攻撃の強化を意味するそうです。①については中国系 金融機関を巻き込んだ資金流出防止措置が米議会でも議論されており、今後可 能性の高いシナリオでしょう。しかしこれは従来の制裁の延長に過ぎませんし、実際 問題としてどれほど抑止力になるのかは不透明です。③については、朴大統領弾劾 により韓国の政情は混とんとしている状況ですが、次期大統領次第と言えそうです。 現在最有力と呼び声高いのは、リベラルとされる文在寅氏です。北朝鮮とは対話を 図る可能性が指摘されており、韓国への核兵器再配備の可能性は低そうです。④ については、イランで一定の実績があるものの、数年後には克服されてしまいました。 しかもイランは、現在の北朝鮮よりも「easy target=簡単な標的」だったとされてい ます(ニューヨークタイムズ 3 月 4 日記事)。解釈するならば、対北朝鮮でも一定 の遅延効果はあるかもしれないが、効果は限定的というところでしょうか。 トランプ政権は「あらゆる選択肢」を検討するとは言うものの、実質的イ ンパクトをもたらす手段は、②北朝鮮の基地への直接攻撃くらいしか残さ れていないのかもしれません。ご挨拶 本ニューズレターも第 22 号発行と なりました。 本ニューズレターでは最近注目を集 めている「ジオエコノミクス」的観点か ら日本企業を取り巻く政治経済情 勢を分析し、皆様のビジネス上の意 思決定の一助となれればと思ってお ります。 今回も北朝鮮情勢について考えて みたいと思います。 株式会社藤村総合研究所 代表取締役 藤村慎也

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ジオエコノミクス・レビュー™ 第 22 号 実践編

今号の趣旨

北朝鮮情勢が目まぐるしく動いています。今回も、これらの意味合いについて考えて

みたいと思います。

トランプ政権の「あらゆる選択肢」とは?

選択 4 月号の記事「朝鮮半島『騒乱』前夜」によれば、トランプ政権の「あらゆる選

択肢」とは①金融制裁措置の強化、②北朝鮮の基地への直接攻撃、③韓国への

核兵器再配備、④サイバー攻撃の強化を意味するそうです。①については中国系

金融機関を巻き込んだ資金流出防止措置が米議会でも議論されており、今後可

能性の高いシナリオでしょう。しかしこれは従来の制裁の延長に過ぎませんし、実際

問題としてどれほど抑止力になるのかは不透明です。③については、朴大統領弾劾

により韓国の政情は混とんとしている状況ですが、次期大統領次第と言えそうです。

現在最有力と呼び声高いのは、リベラルとされる文在寅氏です。北朝鮮とは対話を

図る可能性が指摘されており、韓国への核兵器再配備の可能性は低そうです。④

については、イランで一定の実績があるものの、数年後には克服されてしまいました。

しかもイランは、現在の北朝鮮よりも「easy target=簡単な標的」だったとされてい

ます(ニューヨークタイムズ 3 月 4 日記事)。解釈するならば、対北朝鮮でも一定

の遅延効果はあるかもしれないが、効果は限定的というところでしょうか。

“トランプ政権は「あらゆる選択肢」を検討するとは言うものの、実質的イ

ンパクトをもたらす手段は、②北朝鮮の基地への直接攻撃くらいしか残さ

れていないのかもしれません。”

ご挨拶

本ニューズレターも第 22 号発行と

なりました。

本ニューズレターでは最近注目を集

めている「ジオエコノミクス」的観点か

ら日本企業を取り巻く政治経済情

勢を分析し、皆様のビジネス上の意

思決定の一助となれればと思ってお

ります。

今回も北朝鮮情勢について考えて

みたいと思います。

株式会社藤村総合研究所 代表取締役

藤村慎也

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トランプ政権は「あらゆる選択肢」を検討するとは言うものの、実質的インパクトをもた

らす手段は、②北朝鮮の基地への直接攻撃くらいしか残されていないのかもしれま

せん。ここで言う「実質的インパクト」とは、「北朝鮮が米国本土への核攻撃能力を

獲得することを防ぐ」という意味です。

先制攻撃しかないのか?米国が勘案するシナリオとは?

米国が北朝鮮を攻撃することは、日本を含む周辺諸国にとっては避けたいシナリオで

しょう。米国にもリスクがないわけではありません。先制攻撃したところで核施設をすべ

て発見できるかわかりません。そうこうしているうちに韓国や日本の米軍基地を攻撃さ

れてしまったら、それこそ両国の世論は反発するでしょう。あらゆることを考慮したうえ

で、今のところ、米国にとって先制攻撃することの利益は、そのリスクを上回っていない

との判断があると思われます。

習主席訪米が鍵

日経新聞に掲載された英 FT 誌記事によれば、先制攻撃がない場合、「多くの専

門家は米国には北朝鮮への影響力が最も大きい中国の協力が必要だと見ている。

だが、米政府がより効果的な制裁や異論の多い秘密作戦といった選択肢を模索す

る可能性もある」そうです。トランプ大統領は「(中国が)米国に協力するなら、それは中国にとって非常に良いことだ。協力しないな

ら、誰にとっても良くない結果になるだろう」と述べたそうです。米国の選択肢は 3 つ。①中国が米国に協力するか、②(協力しない

場合)米国が北朝鮮に先制攻撃をしかけるか、③(いずれも無理な場合)より効果的な制裁や秘密作戦を模索するかーもっと

も、③を選択した場合は、トランプ大統領自らが否定した、オバマ前大統領の「戦略的忍耐」に回帰することになるかもしれません。

参考文献

David E. Sanger and William J. Broad, “Trump Inherits a Secret Cyberwar Against North Korean Missiles”,

The New York Times, Mar 4, 2017

“The loser in South Korea’s last presidential race has another go”, The Economist, Mar 30, 2017

「朝鮮半島『騒乱』前夜」 選択 2017 年 4 月号

「米軍『北朝鮮先制攻撃』のシナリオ」 選択 2017 年 4 月号

「[FT]トランプ氏会見、中国に北朝鮮への対応迫る」 日本経済新聞 2017 年 4 月 3 日

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