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eizojoho industrial 1 November 2010今日のシステムデベロッパーは、安価な携帯電 話に用いられるものから、防衛や天文用にデザイ ンされたより先進的なものまで、様々な撮像デバ イスを選択することができる。沢山の選択肢の中 から、センサ、カメラ、レンズ、照明をどう組み 合わせたら特定アプリケーションのニーズに合う のかを見極めなければならない。幸いにも、テス トターゲット製品の活用は、システム開発に係わ るトータルコストと比べると、遥かに低い投資額 でカメラ/レンズの組み合わせの性能評価を可能 にする(写真1)。 最も頻繁に用いられるテストターゲット製品は、 USAF 1951ターゲットだろう。このターゲットは、 水平ラインと垂直ラインの対のパターンが色々な サイズで含まれている(図1)。このターゲットは、 イメージングシステムが様々な空間周波数(単位 は“本/mm”)で一時に撮像することを可能にする。 ターゲット上の各パターンサイズ(“ライン数”と して定義)は、決められた幅の黒線と白線を有し、 1 ~ 6 までのライン数で識別される。 6つのライン数(エレメント数)で1つのグルー プを形成し、各グループは正、負、あるいはゼロ の数字を用いて識別される。グループ数とライン 数の組み合わせにより、特定の空間周波数が決定 される。 USAF ターゲットは、パターン全体の中央に向 かうほどに空間周波数が増し、解像パターンが高 くなるようパターン配置されている。このパター ン配置は、ズームレンズをテストする際、特に有 益となる。レンズの倍率が上がると、実視野の大 きさは反対に小さくなるため、ズームレンズの実 視野エリア内で高解像パターンが残ることにな る。倍率を変える度にターゲットの位置を調整す る必要がなくなる。 しかしながら、高解像パターンがテストチャー トの中央に残ることが時として好ましくないこと もある。なぜなら、レンズは実視野内の中央部と 周辺部とではその解像力性能が大きく異なるから だ。大抵の場合、レンズの解像力は、視野の中心 から離れれば離れるほど落ちていく。そのため、 レンズの解像力とコントラスト性能を様々な位置 はじめに 1 USAF 1951ターゲット 2 ~豊富なテストターゲット製品が、イメージングシステムの解像力評価を行うために用いられる~ テストターゲット製品の活用 Edmund Optics Inc Gregory Hollows 著 エドモンド・オプティクス・ジャパン 新井大典 訳 写真1

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Page 1: テストターゲット製品の活用 - 映像情報 web|産業開 …¸±November 2010 eizojoho industrial 産業用カメラレンズ・照明 で確認することが重要になる。

eizojoho industrial 1November 2010︱

 今日のシステムデベロッパーは、安価な携帯電話に用いられるものから、防衛や天文用にデザインされたより先進的なものまで、様々な撮像デバイスを選択することができる。沢山の選択肢の中から、センサ、カメラ、レンズ、照明をどう組み合わせたら特定アプリケーションのニーズに合うのかを見極めなければならない。幸いにも、テストターゲット製品の活用は、システム開発に係わるトータルコストと比べると、遥かに低い投資額でカメラ/レンズの組み合わせの性能評価を可能にする(写真1)。

 最も頻繁に用いられるテストターゲット製品は、USAF 1951ターゲットだろう。このターゲットは、水平ラインと垂直ラインの対のパターンが色々なサイズで含まれている(図1)。このターゲットは、イメージングシステムが様々な空間周波数(単位は“本/mm”)で一時に撮像することを可能にする。 ターゲット上の各パターンサイズ(“ライン数”として定義)は、決められた幅の黒線と白線を有し、1 ~ 6までのライン数で識別される。 6つのライン数(エレメント数)で1つのグループを形成し、各グループは正、負、あるいはゼロ

の数字を用いて識別される。グループ数とライン数の組み合わせにより、特定の空間周波数が決定される。 USAFターゲットは、パターン全体の中央に向かうほどに空間周波数が増し、解像パターンが高くなるようパターン配置されている。このパターン配置は、ズームレンズをテストする際、特に有益となる。レンズの倍率が上がると、実視野の大きさは反対に小さくなるため、ズームレンズの実視野エリア内で高解像パターンが残ることになる。倍率を変える度にターゲットの位置を調整する必要がなくなる。 しかしながら、高解像パターンがテストチャートの中央に残ることが時として好ましくないこともある。なぜなら、レンズは実視野内の中央部と周辺部とではその解像力性能が大きく異なるからだ。大抵の場合、レンズの解像力は、視野の中心から離れれば離れるほど落ちていく。そのため、レンズの解像力とコントラスト性能を様々な位置

はじめに1

USAF 1951ターゲット2

~豊富なテストターゲット製品が、イメージングシステムの解像力評価を行うために用いられる~

テストターゲット製品の活用Edmund Optics Inc/Gregory Hollows 著

エドモンド・オプティクス・ジャパン/新井大典 訳

写真1

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eizojoho industrial2︱November 2010

産業用カメラレンズ・照明

で確認することが重要になる。 システム性能を十分に評価するためには、テストターゲットを実視野内で動かす必要がある。またテストパターンの位置を移動することは、解析する画像の数が増えることを意味し、テストに要する時間も増えることを意味する。 また、このテスト法の別の不都合な点は、テストターゲットが被検レンズのある地点のみでピント合わせされていることにある。レンズの視野全体でベストフォーカスされているかを見極めることは簡単ではない。レンズ/カメラシステムが画像の中心部でピントを合わせている時、視野の中央では非常に高解像だが、視野の角の方ではかなり低解像になる。そのためレンズを若干デフォーカスし、視野全体の解像のバランスを取ることを行う。この時、視野中央の解像力性能は落ちることになるが、大抵のケースにおいて問題とはならない。なぜなら、デフォーカスしてもアプリケーションの要求レベルを依然十分に満たす解像力が得られるからだ。 USAFテストパターンのような様々な解像パターンで構成されたテストターゲット製品を用い

てシステム性能を決める場合、その考えられる問題は、視野内のあらゆる地点で解析する必要性にある。テストターゲットを用いて視野中心での解像力性能が最も高かったレンズが、視野全体でもベストな性能をもつとは限らない。このテスト法を用いる際の重要事項は、あるピント位置での視野全体の分析を行うことにある。 システムの最良の性能を決定するには、レンズを視野の中央にピントを合わせて同部におけるベスト性能を評価し、次に視野周辺部にピントを再調整して同部でのベスト性能を評価することが直感的に考えられる。しかしながら、これはシステムがどうパフォーマンスを発揮するかを示すことには繋がらない。通常のオペレーションにおいては、ピントの再調整を行うことはまず考えられないからだ。

 USAFターゲットを用いることにより生じる問題のいくつかを解消するのに、異なるテストターゲット製品の使用が考えられる。ロンキー・ルー

ロンキー・ルーリング3

図1  USAF 1951ターゲットは、与えられた場所におけるイメージングシステムの迅速な評価を可能にする。その連鎖的に変化するデザインは、ズームレンズを望遠側にして倍率を上げて見た時に適当なテストパターンが視野内に入るようにデザインされている。USAFパターンの各空間周波数の大きさは、所定の一覧表から見つけることができる。また以下の計算式からも求めることができる。空間周波数(本/mm) = 2(グループ数+(ライン数−1)/6)

023456

1

01

123456

223456

3

21

123456

Group or Element? Example:

System Resoltion

Out of Focus

Group No.Element No.

Example:

Group 0

Group 1

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eizojoho industrial 3November 2010︱

産業用カメラレンズ・照明

リングはその1つだ。ロンキー・ルーリングは、ある単一な空間周波数のみを基板全体の一方向に施したテストパターンを指す(図2)。基板全体に単一な周波数パターンを施しているため、視野全体にわたるシステムのベストフォーカスを一時で決定することができる。 ロンキー・ルーリングをテストチャートとして用いる場合に、2つの問題がある。1つは、ロンキー・ルーリングは単一の空間周波数しか評価できないため、評価する必要のある別の周波数が存在する場合は、そのロンキー・ルーリングも必要となる。 次に、ロンキー・ルーリングは、その周波数パターンが一方向のみにしかないため、非点収差に代表される視野の方向により異なる解像力性能を生み出す光学収差の有無を評価することができな

い。この問題を解決するには、ロンキー・ルーリングを90°回転し、別方向での画像も分析する必要がある。

 3番目のタイプのテストターゲット製品は、沢山の数のスターターゲットで構成する“マルチスター”ターゲット製品の活用である。このパターンは、上述のUSAFとロンキー・ルーリングのテストパターンの利点の多くを併せもった、いわば 「いいとこどり」 ともいえるテストチャートだ。スターターゲットの各パターンは、既知の角度を持つくさび状の黒線と白線を交互に配置し、全体としては1つの円を形成している(図3)。くさび状のパターンは、空間周波数が連続的に変化

長所の組み合わせ4

図2  ロンキー・ルーリングは、視野全体におけるシステムのベストフォーカスと性能を迅速に評価する。ただし、このターゲットは、単一周波数の一方向のみの解像力テストを行うだけになる。上の図は、ロンキー・ルーリングを3種類の異なるレンズで撮像した時の像コントラストの比較を表す。撮像は、視野の中心部と周辺部で各々行っている。3種類のレンズは、製品の仕様的には同等と謳われているが、画質を実際に比較すると像コントラストに大きな違いがあることが確認できる。なおこの画像比較は、視野の一方向のみの解像力性能比較となる。

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eizojoho industrial4︱November 2010

産業用カメラレンズ・照明

図3  スターターゲットは、既知の角度を持つくさび状の黒線と白線を交互に配置し、全体としては一つの円を形成する

したテストパターンとして機能し、画像の垂直と水平方向の両方向の性能を一時に評価できる。またそれ以外の方向の評価も、ターゲットの位置を再調整することなく行うことができる。 沢山のスターターゲットをレンズの視野全体に配置することにより、視野全体でのベストフォーカスを決めるとともに、水平と垂直両方向の解像力性能の評価も様々な空間周波数で同時に行うことができる(図4)。一時にこれらの情報の全てを可視化することで、テスト評価をすばやく行うことができる。 ほかのターゲット製品と同様、スターターゲットにも欠点はある。くさび状のパターンは連続的に周波数を変えていくため、被検システムで得られる解像力性能を決める際に、他のターゲット製品のような明確な判断がとりづらいことだ。 加えて、スターターゲットの円形形状とその非対称になる画像は、ラインプロファイラに代表さ

れる単純なソフトウェアを用いて取り込んだ画像から正確な情報を抽出することを難しくしてしまう。スターターゲットを十分に活用するには、より高度な画像解析ソフトウェアプログラムが要求される。

 以上にあげたテストターゲットを用いたシステムベンチテスト法は、カメラ/レンズシステムの選定を行う際にも助けになる。またそのケースにかかわらず、このテスト法の長所と短所を理解しておくことは、テスト結果を誤って理解するのを避けるためにもとても重要になる。また人の眼による評価よりもより信頼性に優れた評価を行うために、画像解析ソフトウェアを導入するのも一考となる。

さいごに5

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eizojoho industrial 5November 2010︱

産業用カメラレンズ・照明

著) Gregory HollowsDirector, Machine Vision SolutionEdmund Optics101 East Gloucester PikeBarrington, NJ 08007 USA

訳) 新井大典  エドモンド・オプティクス・ジャパン株式会社 シニアマーケティングマネージャー 〒112-0001  東京都文京区白山5-36-9

白山麻の実ビル3F TEL.03-5800-4751 FAX.03-5800-4733 http://www.edmundoptics.jp/

※ 本稿は、米国誌「Vision Systems Design」に寄稿された論文より転載

図4  マルチスターターゲットは、視野内の各ポイントで多方向の解像力評価を広い空間周波数域で行うことを可能にする。この時、テストパターンを回転する必要はない。上の左右にある画像は、各々 2種類の異なるレンズ(レンズAとレンズB)を用いて視野の中央(Aの囲み)、下側(Bの囲み)、右下角(Cの囲み)で撮像したスターターゲットパターンの比較を表す。方向を含めた解像力の違いが見て取れる。

レンズA レンズB

C BC

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