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日本消化器病学会 機能性消化管疾患診療ガイドライン 2014機能性ディスペプシア(FDEvidence-based Clinical Practice Guidelines for Functional Dyspepsia 機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014

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日本消化器病学会機能性消化管疾患診療ガイドライン 2014—機能性ディスペプシア(FD)

Evidence-based Clinical Practice Guidelines for Functional Dyspepsia

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

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日本消化器病学会機能性消化管疾患診療ガイドライン—機能性

ディスペプシア(FD)作成・評価委員会は,機能性消化管疾患診療

ガイドライン—機能性ディスペプシア(FD)の内容については責任

を負うが,実際の臨床行為の結果については各担当医が負うべきで

ある.

機能性消化管疾患診療ガイドライン—機能性ディスペプシア

(FD)の内容は,一般論として臨床現場の意思決定を支援するもの

であり,医療訴訟等の資料となるものではない.

日本消化器病学会 2014 年 4 月 1 日

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

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機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

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日本消化器病学会は,すでに胃食道逆流症(GERD),消化性潰瘍,肝硬変,クローン病,胆石症,慢性膵炎の 6疾患ガイドラインを刊行し,市民向けの姉妹版であるそれぞれの疾患ガイドブックと併せ会員に配布している.これらのガイドラインは一般書籍としても販売され学会員以外の方々にも広く利用されているほか,その内容も他の書籍に数多く引用されている.このように,日常的によく遭遇するいわゆる Common Diseaseに関するきちんとしたガイドラインの必要性と重要性に鑑み,日本消化器病学会は,ガイドラインとしてさらに整備する必要度が高い疾患について評議員アンケートを行い,機能性消化管疾患,大腸ポリープ,NAFLD/NASHガイドラインを策定することが決定された.ガイドライン作成過程で機能性消化管疾患は,機能性ディスペプシア(FD)と過敏性腸症候群(IBS)との 2つのガイドラインとして別々に作成されることになり,第二次ガイドラインについては合計 4疾患がこの度発刊されることになった.第一次ガイドライン 6疾患では,関連学会から作成あるいは評価委員を推薦していただき,

それらの方々にガイドラインの作成メンバーとして加わっていたのであるが,第二次ガイドラインではそれぞれの疾患に関連の深い各学会との協力体制を強化し日本消化器病学会が核となって共同体制のもと策定されたものである.すなわち,機能性消化管疾患は,日本消化管学会,日本神経消化器病学会,大腸ポリープは,日本消化管学会,日本消化器がん検診学会,日本消化器内視鏡学会,日本大腸肛門病学会,大腸癌研究会,NAFLD/NASHは日本肝臓学会を協力学会としており,これらの諸学会のご協力に深く感謝したい.様々なガイドラインが数多くつくられているなかで,複数の専門学会が共通認識に基づいて日常臨床に役立つよう協力して,これらの Common Diseaseのガイドラインを策定した意義は大きいと思われる.今後も,関連する学会のいわば相互乗り入れ方式が積極的に導入され,ガイドライン相互の齟齬などをきたすことのない継続的な努力が望まれる.第二次ガイドラインの策定にあたっても,第一次ガイドラインと同様,学会総会,大会など

において中間報告や最終案の報告を行い,会員からの意見交換を行ってきたが,学会ホームページでもパブリックコメントを求め,作成過程の透明性や公開性を担保した.しかし,学会ホームページ上でのパブリックコメントに関しては,私自身もコメントを寄せた経験から,システムの利便性やコメント期間が必ずしも十分ではなく,幅広い意見の汲み取りができていたとはいえないように感じられた.ガイドライン刊行後にも,幅広い疑問点や意見,あるいは新たな知見を反映できるようにするには,さらにシステム改良を行っていく必要があると考えている.

今回の第二次日本消化器病学会ガイドラインのエビデンスレベル,推奨の強さに関しては,第一次の 6疾患ガイドラインで用いたMinds(Medical information network distribution serv-

ice)システムとは異なる,GRADE(The Grading of Recommendations Assessment, Develop-

ment and Evaluation)Working Groupが提唱するシステムの考え方を取り入れることとした.これは GRADEシステムが,単にエビデンスに基づいて推奨の強さを決めるのではなく,それが患者にとって便益があるのかどうか,費用はどうなのか,あるいは比較対照試験であってもその方法によってエビデンスレベルを変更する必要があることなど,臨床介入や推奨が患者の

日本消化器病学会ガイドラインの刊行にあたって

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アウトカムにとって有用かどうかを重視する立場に立っているため,患者の立場により即したガイドラインをつくるうえで有用であると考えられることによる.したがって,Evidence-Based

Medicine(EBM)ではこのシステムに基づくガイドラインが国際的には主流となっている.一方,GRADEシステムに基づくガイドラインは国内では先駆的な試みであり,その適用にあたっては,GRADEシステムをきちんと理解し,文献的エビデンスについてもより肌理細かな配慮が必要となるため,今回の第二次ガイドラインの発刊が予定より遅れる原因ともなった.しかし,日本消化器病学会はこれらのガイドラインを日本消化器病学会の英文誌である J. Gastroenterol-

ogyに掲載する予定であり,その場合にも国際的に認知されている GRADEシステムを用いるほうが世界的視野に基づくガイドラインとしての位置づけをより強化できると思われる.現在前掲の 6疾患ガイドラインもいわゆる Sunset Rule(日没ルール:作成から長期経過したガイドラインは妥当性が担保できないため,退場させる取り決め)に基づいて改訂作業が行われているが,その際にもこの GRADEシステムに準じた方式を採用する予定である.

このように新しく刊行される日本消化器病学会ガイドラインは,国内諸学会との密接な連携のもとに策定され,わが国の消化器臨床の規範となるべき方法論と内容を有しており,英文論文として国際的にも発信できる優れたガイドラインではないかと思われる.ガイドラインづくりには,多大な時間と労力を必要とすることはいうまでもないが,その過

程で得られるものも少なくない.なにより,これらのガイドラインにより消化器病学の臨床水準が向上し,患者のための適正な医療が提供できる一助となれば幸いである.これまでガイドライン委員会で多大なご尽力をいただいた木下芳一理事,渡辺 守理事,なら

びに各疾患ガイドライン作成ならびに評価委員会のメンバーの諸先生,ならびに刊行にあたって惜しみなくご協力をいただいた南江堂出版部の方々に厚く御礼申し上げる.

2014 年 4月

日本消化器病学会理事長

菅野健太郎

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

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委員長 木下 芳一 島根大学第二内科副委員長 渡辺  守 東京医科歯科大学消化器内科委員 荒川 哲男 大阪市立大学消化器内科学

上野 文昭 大船中央病院内科西原 利治 高知大学消化器内科坂本 長逸 日本医科大学消化器内科学下瀬川 徹 東北大学消化器病態学白鳥 敬子 東京女子医科大学消化器内科杉原 健一 東京医科歯科大学腫瘍外科田妻  進 広島大学総合診療科田中 信治 広島大学内視鏡診療科坪内 博仁 鹿児島市立病院中山 健夫 京都大学健康情報学二村 雄次 愛知県がんセンター野口 善令 名古屋第二赤十字病院総合内科福井  博 奈良県立医科大学第三内科福土  審 東北大学行動医学分野・東北大学病院心療内科本郷 道夫 公立黒川病院松井 敏幸 福岡大学筑紫病院消化器科三輪 洋人 兵庫医科大学内科学消化管科森實 敏夫 日本医療機能評価機構山口直比古 東京理科大学野田図書館吉田 雅博 化学療法研究所附属病院人工透析・一般外科芳野 純治 藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院消化器内科渡辺 純夫 順天堂大学消化器内科

オブザーバー 菅野健太郎 自治医科大学消化器内科

統括委員会一覧

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協力学会:日本消化管学会,日本神経消化器病学会

■ 責任者 木下 芳一 島根大学第二内科

■ 作成委員会委員長 三輪 洋人 兵庫医科大学内科学消化管科副委員長 草野 元康 群馬大学光学医療診療部委員 有澤 富康 金沢医科大学消化器内科学

大島 忠之 兵庫医科大学内科学消化管科加藤 元嗣 北海道大学光学医療診療部城  卓志 名古屋市立大学消化器・代謝内科学鈴木 秀和 慶應義塾大学内科学(消化器)富永 和作 大阪市立大学消化器内科中田 浩二 東京慈恵会医科大学外科永原 章仁 順天堂大学消化器内科二神 生爾 日本医科大学消化器内科学眞部 紀明 川崎医科大学内視鏡・超音波センター

■ 評価委員会委員長 本郷 道夫 公立黒川病院副委員長 乾  明夫 鹿児島大学心身内科学委員 春間  賢 川崎医科大学消化器内科学

樋口 和秀 大阪医科大学第二内科屋嘉比康治 埼玉医科大学総合医療センター消化器・肝臓内科

■ オブザーバー 上村 直実 国立国際医療研究センター国府台病院消化器内科

作成協力者 栗林 志行 群馬大学病態制御内科学講座河村  修 群馬大学病態制御内科学講座保坂 浩子 群馬大学病態制御内科学講座下山 康之 群馬大学病態制御内科学講座川田 晃世 群馬大学病態制御内科学講座神谷  武 名古屋市立大学消化器・代謝内科学鹿野美千子 名古屋市立大学消化器・代謝内科学正岡 建洋 慶應義塾大学内科学(消化器)北條麻理子 順天堂大学消化器内科

機能性消化管疾患診療ガイドライン—機能性ディスペプシア(FD)委員会

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これまで形態学を中心に消化器病学が進んできたわが国においては,器質的疾患がないのに腹部症状を生じる機能性消化管疾患に対する関心は低かった.しかし,生活レベルの向上とともに国民の QOLへの関心が高まったこと,そして複雑化する現代社会において増加するストレスがその発症に関与していることなどを背景として,機能性消化管疾患に対する関心が飛躍的に高まってきている.実際,日常診療では腹部の愁訴を訴える患者は極めて多く,これらの患者を正しく診断し,科学的に対応することが求められるようになった.そこで,日本消化器病学会ではこの疾患に対して標準的な診断・治療指針を示すため,機能性消化管疾患に対するガイドラインを作成することとなった.機能性消化管疾患については,機能性ディスペプシアと過敏性腸症候群の二部門に分け,と

もにガイドライン統括委員会の定める手順に従ってガイドラインを作成,評価した.作成委員,評価委員は日本消化管学会,日本神経消化器病学会からの推薦を考慮して選任された.まず,2011 年 7 月のガイドライン統括委員会で作成基本方針と作成スケジュールの確認が行われ,ここでガイドラインは GRADEシステムの考え方を取り入れて作成することとなった.同月からGRADEシステムの勉強会が開催され,クリニカルクエスチョン(CQ)が作成された.2011 年11 月から,CQに沿ってキーワードが策定され,文献検索が始まった.CQに対するステートメントを作成するため,拾い上げられた論文を一次,二次選択を通じて選択し,これらの文献の構造化抄録を作成した.論文検索期間は 1983 年から 2011 年 9 月とし,この期間外のものは検索期間外論文として取り扱った.また,キーワードからの検索では候補論文として上がらなかったにもかかわらず引用が必要な論文はハンドサーチ論文として取り扱った.文献検索は 2012 年内に終了し,ステートメントおよび解説の執筆に取りかかった.2013 年 1 月からは,作成委員会を 6回開催し,作成されたステートメント案に対して討議,投票のうえ,ステートメントと解説文が決定され,評価委員会で評価,修正が加えられた.2013 年 12 月にパブリックコメントを求め,これをもとに最終的に修正が加えられ「機能性消化管疾患診療ガイドライン 2014—機能性ディスペプシア(FD)」が完成した.

2013 年 5 月に機能性ディスペプシアという保険病名が誕生し,今回この疾患に対するガイドラインができたことで,この領域が注目を浴びるとともに,機能性消化管疾患を有する患者に対して正しい診断とよりよい治療が提供される素地が整ったと思われる.ただ,現在機能性ディスペプシアに対する保険適用を有している薬剤はアコチアミドのみであるため,ガイドラインで推奨されている治療には保険上の制約がある.また,本ガイドラインはこれら患者の診療に携わる医師を対象としており,作成はすべて日本消化器病学会の資金によるものであることを付記しておきたい.

2014 年 4月

日本消化器病学会機能性消化管疾患診療ガイドライン—機能性ディスペプシア(FD)作成委員長

三輪洋人

機能性消化管疾患診療ガイドライン—機能性ディスペプシア(FD)作成の手順

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1.エビデンス収集それぞれのクリニカルクエスチョン(CQ)からキーワードを抽出し,学術論文を収集した.

データベースは,英文論文はMEDLINE,Cochrane Libraryを用いて,日本語論文は医学中央雑誌を用いた.各キーワードおよび検索式,検索期間は日本消化器病学会ホームページに掲載する予定である.収集した論文のうち,ヒトまたは humanに対して行われた臨床研究を採用し,動物実験や遺

伝子研究に関する論文は除外した.患者データに基づかない専門家個人の意見は参考にしたが,エビデンスとしては用いなかった.

2.エビデンス総体の評価方法1)各論文の評価:構造化抄録の作成各論文に対して,研究デザイン 1)(表1)を含め,論文情報を要約した構造化抄録を作成した.

さらに RCTや観察研究に対して,Verhagenらの内的妥当性チェックリストを参考にしてバイアスのリスクを判定した(表2).総体としてのエビデンス評価は,GRADE(The Grading of Rec-

ommendations Assessment, Development and Evaluation)システム 2〜21)の考え方を参考にして評価し,CQ各項目に対する総体としてのエビデンスの質を決定し表記した(表3).2)アウトカムごと,研究デザインごとの蓄積された複数論文の総合評価(1)初期評価:各研究デザイン群の評価

�メタ群,ランダム群=「初期評価 A」�非ランダム群,コホート群,ケースコントロール群,横断群=「初期評価 C」�ケースシリーズ群=「初期評価 D」

(2)エビデンスレベルを下げる要因の有無の評価�研究の質にバイアスリスクがある�結果に非一貫性がある

本ガイドライン作成方法

表 1 研究デザイン各文献へは下記9種類の「研究デザイン」を付記した. (1)メタ (システマティックレビュー /RCTのメタアナリシス) (2)ランダム (ランダム化比較試験) (3)非ランダム (非ランダム化比較試験) (4)コホート (分析疫学的研究(コホート研究)) (5)ケースコントロール (分析疫学的研究(症例対照研究)) (6)横断 (分析疫学的研究(横断研究)) (7)ケースシリーズ (記述研究(症例報告やケース・シリーズ)) (8)ガイドライン (診療ガイドライン) (9)(記載なし) (患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見は, 参考にしたが,エビデンスとしては用いないこととした)

本ガイドライン作成方法

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

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本ガイドライン作成方法

�エビデンスの非直接性がある�データが不精確である�出版バイアスの可能性が高い

(3)エビデンスレベルを上げる要因の有無の評価�大きな効果があり,交絡因子がない�用量–反応勾配がある�可能性のある交絡因子が,真の効果をより弱めている

(4)総合評価:最終的なエビデンスの質「A,B,C,D」を評価判定した.3)エビデンスの質の定義方法エビデンスレベルは海外と日本で別の記載とせずに 1つとした.またエビデンスは複数文献

を統合・作成した統合レベル(body of evidence)とし,表3の A〜Dで表記した.また,1つ 1つのエビデンスに「保険適用あり」の記載はせず,保険適用不可の場合に,解

説の中で明記した.

表 2 バイアスリスク評価項目

選択バイアス

(1)ランダム系列生成詳細に記載されている

か(2)コンシールメント

組み入れる患者の隠蔽化がなされているか

実行バイアス (3)盲検化

検出バイアス (4)盲検化

症例減少バイアス

(5)ITT解析ITT 解析の原則を掲げて,追跡からの脱落者に対してその原則を遵守しているか

(6)アウトカム報告バイアス

 (解析における採用および除外データを含めて)(7)その他のバイアス

告・研究計画書に記載されているにもかかわらず,報告されていないアウトカムがないか

表3 エビデンスの質A:質の高いエビデンス(High)   真の効果がその効果推定値に近似していると確信できる.B:中程度の質のエビデンス(Moderate)   効果の推定値が中程度信頼できる.   真の効果は,効果の効果推定値におおよそ近いが,それが実質的に異なる可能性もある.C:質の低いエビデンス(Low)   効果推定値に対する信頼は限定的である.   真の効果は,効果の推定値と,実質的に異なるかもしれない.D:非常に質の低いエビデンス(Very Low)   効果推定値がほとんど信頼できない.   真の効果は,効果の推定値と実質的におおよそ異なりそうである.

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

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3.推奨の強さの決定以上の作業によって得られた結果をもとに,治療の推奨文章の案を作成提示した.次に,推

奨の強さを決めるためにコンセンサス会議を開催した.推奨の強さは,①エビデンスの確かさ,②患者の嗜好,③益と害,④コスト評価,の 4項目

を評価項目とした.コンセンサス形成方法は,Delphi法,nominal group technique(NGT)法に準じて投票を用い,70%以上の賛成をもって決定とした.1回目で,結論が集約できないときは,各結果を公表し,日本の医療状況を加味して協議の上,投票を繰り返した.作成委員会は,この集計結果を総合して評価し,表4に示す推奨の強さを決定し,本文中の囲み内に明瞭に表記した.推奨の強さは「1:強い推奨」,「2:弱い推奨」の 2通りであるが,「強く推奨する」や「弱く

推奨する」という文言は馴染まないため,下記のとおり表記した.

4.本ガイドラインの対象1)利用対象:一般臨床医2)診療対象:成人の患者を対象とした.小児は対象外とした.

5.改訂について本ガイドラインは,日本消化器病学会ガイドライン委員会を中心として改訂を予定している.

6.作成費用について本ガイドラインの作成はすべて日本消化器病学会が費用を負担しており,他企業からの資金

提供はない.

7.利益相反について1)日本消化器病学会ガイドライン委員会では,ガイドライン統括委員・各ガイドライン作

成・評価委員と企業との経済的な関係につき,各委員から利益相反状況の申告を得た(詳細は「利益相反に関して」に記す).

2)本ガイドラインでは,利益相反への対応として,協力学会の参加によって意見の偏りを防ぎ,さらに委員による投票によって公平性を担保するように努めた.また,出版前のパブリックコメントを学会員から受け付けることで幅広い意見を収集した.

■引用文献1) 福井次矢,山口直人(監修).Minds診療ガイドライン作成の手引き 2014,医学書院,東京,20142) 相原守夫,相原智之,福田眞作.診療ガイドラインのための GRADEシステム,凸版メディア,弘前,

表 4 推奨の強さ推奨度

1(強い推奨)“ 実施する ” ことを推奨する“実施しない ”ことを推奨する

2(弱い推奨)“ 実施する ” ことを提案する“実施しない ”ことを提案する

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

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本ガイドライン作成方法

20103) The GRADE* working group. Grading quality of evidence and strength of recommendations. BMJ 2004;

328: 1490-1494 (printed, abridged version)4) Guyatt GH, Oxman AD, Vist G, et al; GRADE Working Group. Rating quality of evidence and strength of

recommendations GRADE: an emerging consensus on rating quality of evidence and strength of recom-mendations. BMJ 2008; 336: 924-926

5) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; GRADE Working Group. Rating quality of evidence and strengthof recommendations: What is "quality of evidence" and why is it important to clinicians? BMJ 2008; 336:995-998

6) Schünemann HJ, Oxman AD, Brozek J, et al; GRADE Working Group. Grading quality of evidence andstrength of recommendations for diagnostic tests and strategies. BMJ 2008; 336: 1106-1110

7) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; GRADE working group .Rating quality of evidence and strength ofrecommendations: incorporating considerations of resources use into grading recommendations. BMJ2008; 336: 1170-1173

8) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; GRADE Working Group. Rating quality of evidence and strengthof recommendations: going from evidence to recommendations. BMJ 2008; 336: 1049-1051

9) Jaeschke R, Guyatt GH, Dellinger P, et al; GRADE working group. Use of GRADE grid to reach decisionson clinical practice guidelines when consensus is elusive. BMJ 2008; 337: a744

10) Guyatt G, Oxman AD, Akl E, et al. GRADE guidelines 1. Introduction-GRADE evidence profiles and sum-mary of findings tables. J Clin Epidemiol 2011; 64: 383-394

11) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al. GRADE guidelines 2. Framing the question and deciding on impor-tant outcomes.J Clin Epidemiol 2011; 64: 295-400

12) Balshem H, Helfand M, Schunemann HJ, et al. GRADE guidelines 3: rating the quality of evidence. J ClinEpidemiol 2011; 64: 401-406

13) Guyatt GH, Oxman AD, Vist G, et al. GRADE guidelines 4: rating the quality of evidence - study limita-tion (risk of bias). J Clin Epidemiol 2011; 64: 407-415

14) Guyatt GH, Oxman AD, Montori V, et al. GRADE guidelines 5: rating the quality of evidence - publicationbias. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1277-1282

15) Guyatt G, Oxman AD, Kunz R, et al. GRADE guidelines 6. Rating the quality of evidence - imprecision. JClin Epidemiol 2011; 64: 1283-1293

16) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; The GRADE Working Group. GRADE guidelines: 7. Rating thequality of evidence - inconsistency. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1294-1302

17) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; The GRADE Working Group. GRADE guidelines: 8. Rating thequality of evidence - indirectness. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1303-1310

18) Guyatt GH, Oxman AD, Sultan S, et al; The GRADE Working Group. GRADE guidelines: 9. Rating up thequality of evidence. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1311-1316

19) Brunetti M, Shemilt I, et al; The GRADE Working. GRADE guidelines: 10. Considering resource use andrating the quality of economic evidence. J Clin Epidemiol 2013; 66: 140-150

20) Guyatt G, Oxman AD, Sultan S, et al. GRADE guidelines: 11. Making an overall rating of confidence ineffect estimates for a single outcome and for all outcomes. J Clin Epidemiol 2013; 66: 151-157

21) Guyatt GH, Oxman AD, Santesso N, et al. GRADE guidelines 12. Preparing Summary of Findings tables-binary outcomes. J Clin Epidemiol 2013; 66: 158-172

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

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日本消化器病学会ガイドライン委員会では,ガイドライン統括委員と企業との経済的な関係につき,下記の基準で,各委員から利益相反状況の申告を得た.機能性消化管疾患診療ガイドライン―機能性ディスペプシア(FD)作成・評価委員には診療ガイドライン対象疾患に関

連する企業との経済的な関係につき,下記の基準で,各委員から利益相反状況の申告を得た.申告された企業名を下記に示す(対象期間は 2011 年 1 月 1日から 2013 年 12 月 31 日).企業名は 2014 年 3 月現在の

名称とした.非営利団体は含まれない.

1.委員または委員の配偶者,一親等内の親族,または収入・財産を共有する者が個人として何らかの報酬を得た企業・団体役員・顧問職(100 万円以上),株(100 万円以上または当該株式の 5%以上保有),特許権使用料(100 万円以上)

2.委員が個人として何らかの報酬を得た企業・団体講演料(100 万円以上),原稿料(100 万円以上),その他の報酬(5万円以上)

3.委員の所属部門と産学連携を行っている企業・団体研究費(200 万円以上),寄付金(200 万円以上),寄付講座

※統括委員会においては日本消化器病学会診療ガイドラインに関係した企業・団体,作成・評価委員においては診療ガイドライン対象疾患に関係した企業・団体の申告を求めた

統括委員および作成・評価委員はすべて,診療ガイドラインの内容と作成法について,医療・医学の専門家として科学的・医学的な公正さを保証し,患者のアウトカム,Quality of lifeの向上を第一として作業を行った.利益相反の扱いは,国内外で議論が進行中であり,今後,適宜,方針・様式を見直すものである.

表 1 統括委員と企業との経済的な関係(五十音順)

1.アステラス製薬株式会社,エーザイ株式会社,大塚製薬株式会社2.アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アッヴィ合同会社,アボットジャパン株式会社,株式会社医学書院,エーザイ株式会社,MSD株式会社,大塚製薬株式会社,杏林製薬株式会社,ゼリア新薬工業株式会社,第一三共株式会社,大鵬薬品工業株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,ファイザー株式会社,株式会社ヤクルト本社

3.旭化成メディカル株式会社,味の素製薬株式会社,アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アッヴィ合同会社,アボットジャパン株式会社,エーザイ株式会社,MSD株式会社,大塚製薬株式会社,小野薬品工業株式会社,株式会社カン研究所,杏林製薬株式会社,協和発酵キリン株式会社,株式会社 JIMRO,株式会社ジーンケア研究所,株式会社スズケン,ゼリア新薬工業株式会社,センチュリーメディカル株式会社,第一三共株式会社,大日本住友製薬株式会社,大鵬薬品工業株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,中外製薬株式会社,東レ株式会社,ブリストル・マイヤーズ株式会社,株式会社ミノファーゲン製薬,持田製薬株式会社,株式会社ヤクルト本社,ヤンセンファーマ株式会社,ユーシービージャパン株式会社

表 2 作成・評価委員と企業との経済的な関係(五十音順)

1.なし2.アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アボットジャパン株式会社,エーザイ株式会社,大塚製薬株式会社,ゼリア新薬工業株式会社,第一三共株式会社,武田薬品工業株式会社,株式会社ツムラ,日本新薬株式会社

3.味の素製薬株式会社,アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,イーエヌ大塚製薬株式会社,エーザイ株式会社,MSD株式会社,大塚製薬株式会社,ギブン・イメージング株式会社,杏林製薬株式会社,サノフィ株式会社,株式会社 JIMRO,ゼリア新薬工業株式会社,第一三共株式会社,大日本住友製薬株式会社,大鵬薬品工業株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,中外製薬株式会社,株式会社ツムラ,日本新薬株式会社,バイエル薬品株式会社,VanaH株式会社,ファイザー株式会社,株式会社ヤクルト本社

利益相反に関して

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第1章 概念・定義・疫学 

第2章 病態

第3章 診断 

第4章 治療

第5章 予後・合併症

本ガイドラインの構成

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【診断と治療のフローチャート[プライマリケアでの対応]】

フローチャート・図表

機能性ディスペプシア 疑いの治療

推奨の強さ1(使用することを推奨する)のものを初期治療に,それ以外を第二段階の治療選択肢とし,使用してもよい薬剤とした

症状の原因となる器質的疾患あり

症状の原因となる器質的疾患なし

症状持続または再燃

数ヵ月以内に内視鏡あるいはその他の検査で器質的疾患が除外されている場合内視鏡検査をスキップ

機能性ディスペプシア

慢性的なディスペプシア症状患者

他疾患

問診・身体所見・採血

状態/診断

検査判断

内視鏡検査

あり

なし

4週を目処とする注5

警告徴候注1

可能

不可内視鏡検査がすぐできる

陽性判断 or治療成功

治療 陰性判断 or治療不成功

酸分泌抑制薬運動機能改善薬

初期治療

機能性ディスペプシア 疑い

説明と保証/食事・生活指導

初期治療

注2

注3

注4

二次治療

抗不安薬抗うつ薬漢方薬

注 1:警告徴候とは以下の症状をいう.�原因が特定できない体重減少�再発性の嘔吐�出血徴候�嚥下困難�高齢者また NSAIDs,低用量アスピリンの使用者は機能性ディスペプシア患者には含めない.注 2:内視鏡検査を行わない場合には機能性ディスペプシアの診断がつけられないため,「機能性ディスペプシア疑い」患者として

治療を開始してもよいが,4 週を目途に治療し効果のないときには内視鏡検査を行う.注 3:説明と保証患者に機能性ディスペプシアが,上部消化管の機能的変調によって起こっている病態であり,生命予後に影響する病態の可能性が

低いことを説明する.主治医が患者の愁訴を医学的対応が必要な病態として受け止めたこと,愁訴に対して治療方針が立てられることを説明することで,患者との適切な治療的関係を構築する.内視鏡検査前の状態にあっては,器質的疾患の確実な除外には内視鏡検査が必要であることを説明する.

注 4:二次治療の薬剤も状況に応じて使用してもよい.ここでは推奨の強さ 1(使用することを推奨する)のものを初期治療に,それ以外を二次治療とし,使用してもよい薬剤とした.

注 5:これまでの機能性ディスペプシアの治療効果を調べた研究では効果判定を 4 週としている研究が多く,また治療効果が不十分で治療法を再考する時期として多くの専門家が 4 週間程度を目安としていることから4週を目途とした.

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フローチャート・図表

【診断と治療のフローチャート[消化器科専門医での対応]】

機能性ディスペプシア

推奨の強さ1(使用することを推奨する)のものを初期治療に,それ以外を第二段階の治療選択肢とし,使用してもよい薬剤とした

症状の原因となる所見あり

症状の原因となる所見なし

症状の原因となる所見なし

症状再燃

症状不変

症状改善

陽性

陰性

胃炎の所見がある場合

(除菌治療抵抗性 FD)

注4

症状不変

慢性的なディスペプシア症状患者

他疾患

問診・身体所見・採血

内視鏡検査

あり

なし警告徴候

HP関連ディスペプシア

HP除菌

HP診断

症状の原因となる所見あり

他疾患

他の画像診断

酸分泌抑制薬運動機能改善薬

初期治療

機能性ディスペプシア

説明と保証/食事・生活指導

治療抵抗性 FD注5

他疾患の検索

初期治療

注3

二次治療

消化管機能検査・心理社会的因子の評価

専門治療

注6

二次治療

抗不安薬抗うつ薬漢方薬

注1

注2

注7

注 1:警告徴候とは以下の症状をいう.�原因が特定できない体重減少�再発性の嘔吐�出血徴候�嚥下困難�高齢者また NSAIDs,低用量アスピリンの使用者は機能性ディスペプシア患者には含めない.注 2:H. pylori 除菌効果の判定時期については十分なコンセンサスは得られていない.注 3:説明と保証患者に機能性ディスペプシアが,上部消化管の機能的変調によって起こっている病態であり,生命予後に影響する病態の可能性が

低いことを説明する.主治医が患者の愁訴を医学的対応が必要な病態として受け止めたこと,愁訴に対して治療方針が立てられることを説明することで,患者との適切な治療的関係を構築する.内視鏡検査前の状態にあっては,器質的疾患の確実な除外には内視鏡検査が必要であることを説明する.

注 4:H. pylori 未検のときH. pylori 診断へ戻る

注 5:H. pylori 除菌治療,初期・二次治療で効果がなかった患者をいう.注 6:心療内科的治療(自律訓練法,認知行動療法,催眠療法など)などが含まれる.注 7:H. pylori 除菌治療を施行したあと,6〜12 ヵ月経過しても症状が消失または改善している場合は HP 関連ディスペプシア(H.

pylori associated dyspepsia)という.

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【診断と治療のフローチャート[全体像簡略版]】

症状の原因となる所見あり

症状の原因となる所見なし

症状の原因となる所見なし

症状再燃

症状不変

症状改善

陽性

陰性

胃炎の所見のある場合

(除菌治療抵抗性 FD)

注7

症状不変

慢性的なディスペプシア症状患者

他疾患

問診・身体所見・採血

内視鏡検査

あり

なし警告徴候

HP関連ディスペプシア

HP除菌

HP診断

症状の原因となる所見あり

4週を目処とする

他疾患

他の画像診断

機能性ディスペプシア

説明と保証/食事・生活指導

治療抵抗性 FD

他疾患の検索

初期治療

機能性ディスペプシア 疑い

説明と保証/食事・生活指導

初期治療

注3

注2

注4注5

二次治療

消化管機能検査・心理社会的因子の評価

専門治療

注9

注8

注1

注6

症状不変または再燃

注10

注 1:警告徴候とは以下の症状をいう.�原因が特定できない体重減少�再発性の嘔吐�出血徴候�嚥下困難�高齢者また NSAIDs,低用量アスピリンの使用者は機能性ディスペプシア患者には含めない.注 2:内視鏡検査を行わない場合には機能性ディスペプシアの診断がつけられないため,「機能性ディスペプシア疑い」患者として

治療を開始してもよいが,4 週を目途に治療し効果のないときには内視鏡検査を行う.注 3:説明と保証患者に機能性ディスペプシアが,上部消化管の機能的変調によって起こっている病態であり,生命予後に影響する病態の可能性が

低いことを説明する.主治医が患者の愁訴を医学的対応が必要な病態として受け止めたこと,愁訴に対して治療方針が立てられることを説明することで,患者との適切な治療的関係を構築する.内視鏡検査前の状態にあっては,器質的疾患の確実な除外には内視鏡検査が必要であることを説明する.

注 4:二次治療の薬剤も状況に応じて使用してもよい.ここでは推奨の強さ 1(使用することを推奨する)のものを初期治療に,それ以外を二次治療とし,使用してもよい薬剤とした.

注 5:これまでの機能性ディスペプシアの治療効果を調べた研究では効果判定を 4 週としている研究が多く,また治療効果が不十分で治療法を再考する時期として多くの専門家が 4 週間程度を目安としていることから 4 週を目途とした.

注 6:H. pylori 除菌効果の判定時期については十分なコンセンサスは得られていない.注 7:H. pylori 未検のとき

H. pylori 診断へ戻る注 8:H. pylori 除菌治療,初期・二次治療で効果がなかった患者をいう.注 9:心療内科的治療(自律訓練法,認知行動療法,催眠療法など)などが含まれる.注 10:H. pylori 除菌治療を施行したあと,6〜12 ヵ月経過しても症状が消失または改善している場合は HP 関連ディスペプシア

(H. pylori associated dyspepsia)という.

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フローチャート・図表

【診療レベルに応じた FD診断に行いうる検査】

CQ 推奨の強さ EvL

EvL:エビデンスレベル(evidence level) na:推奨の強さなし(not applicable) LDA:低用量アスピリン(low dose aspirin)

PC医:プライマリケア医▲:可能ならば実施する検査▽:他疾患鑑別の必要性に応じて行う●:実施が望ましい検査*:研究施設によって行いうる機能検査は異なる

PC医 消化器病専門医 研究機関

病歴聴取(医療面接)

自己記入式問診票

身体診察

NSAIDs,LDA使用の確認

末梢血,生化学一般

炎症反応

便潜血検査

腹部X線

上部消化管内視鏡

H. pylori 感染検査

上部消化管透視

腹部超音波検査

腹部CT検査

消化管機能検査*

心理社会的因子の評価

3‒4

3‒7

3‒9

3‒7

3‒7

3‒7

3‒2

3‒1

3‒6

3‒2

3‒2

3‒2

3‒2,3‒8

3‒5

2

2

na

2

2

2

2

2

1

2

2

2

2

1

B

B

A

C

C

機能性ディスペプシア診断のためには,器質的疾患の除外が必要である.問診でも,ある程度の診断は可能ではあるが,確実な診断には内視鏡検査が必須であり,診療のいずれかの段階で内視鏡検査を行うことが必要である(CQ3-1,推奨の強さ 2,エビデンスレベル B).H. pylori 検査は,除菌によって症状改善に至るものがあり,推奨の強さ 1,エビデンスレベル A と判定された.H. pylori感染症として保険診療が可能であるが,ディスペプシア症状改善を起こす確率が高いわけではない.

上部消化管透視は今日の消化器診療では器質的診断のために用いられる頻度は少なく,むしろ専門医での機能検査の一環として用いられることがある.

他疾患除外のために行うことがある検査は▽で示した.ここに示す検査は,機能性ディスペプシアを積極的に診断するためだけではなく,機能性ディスペプシアと他疾患とを鑑別すると

きに行うものを含めたものであり,すべての患者に適用すべきものではなく,患者の症状あるいは症候にあわせて選択するものの参考として提示するものである.

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クリニカルクエスチョン一覧

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第1章 概念・定義・疫学

CQ 1-1 ディスペプシアとは何か? …………………………………………………………………2CQ 1-2 FDはどのように定義されるか?……………………………………………………………4CQ 1-3 現状の慢性胃炎と FDの関係はどのようになるのか? …………………………………6CQ 1-4 日本の日常診療において RomeⅢ基準の使用は妥当か?(期間や下位分類)…………8CQ 1-5 日本人の FDの有病率はどのくらいか? …………………………………………………11CQ 1-6 FDの有病率は増加しているか? …………………………………………………………13CQ 1-7 FDに性差はあるか? ………………………………………………………………………15CQ 1-8 FDの頻度は肥満者で高いか? ……………………………………………………………16CQ 1-9 FDは高齢者よりも若年者に多いか? ……………………………………………………17CQ 1-10 FD患者の受療行動は症状の持続期間や強さに影響を受けるか? ……………………18CQ 1-11 FD患者の QOLは低下しているか? ……………………………………………………20CQ 1-12 症状の程度は QOLと相関するか? ………………………………………………………22CQ 1-13 病悩期間は QOLと相関するか? …………………………………………………………23

第2章 病 態

CQ 2-1 FDの病態は多因子によるものか? ………………………………………………………26CQ 2-2 FDの病態に胃適応性弛緩障害は関連するか? …………………………………………27CQ 2-3 FDの病態に胃排出障害は関連するか? …………………………………………………28CQ 2-4 FDの病態に内臓知覚過敏は関連するか? ………………………………………………30CQ 2-5 心理社会的因子は FDに関連するか? ……………………………………………………31CQ 2-6 胃酸は FDの発症に関連するか? …………………………………………………………33CQ 2-7 H. pylori 感染は FDに関連するか? ………………………………………………………36CQ 2-8 家族歴・遺伝的要因は FDに関連するか? ………………………………………………38CQ 2-9 幼少期や思春期の環境は FDに関連するか? ……………………………………………40CQ 2-10 感染性胃腸炎の罹患後に FDの発症がみられるか? ……………………………………41CQ 2-11 生活習慣は FDに関連するか? ……………………………………………………………43CQ 2-12 食事内容や食習慣は FDの増悪に関連するか? …………………………………………45CQ 2-13 胃の形状(胃下垂,瀑状胃)は FDの発症に関連するか?………………………………47

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クリニカルクエスチョン一覧

第3章 診 断

CQ 3-1 日常診療において内視鏡検査は FDの診断に必要か? …………………………………50CQ 3-2 内視鏡検査以外の画像検査は FDの診断に必要か? ……………………………………51CQ 3-3 FDの診断に有用な診断指標(バイオマーカー)はあるか? ……………………………52CQ 3-4 FDの診療に自己記入式質問票は有用か? ………………………………………………53CQ 3-5 FDの診療に心理社会的因子の評価は必要か? …………………………………………55CQ 3-6 FDの診断時に H. pylori 検査をすべきか? ………………………………………………56CQ 3-7 アラームサイン(警告徴候)は器質的疾患を疑うべきサインとなるか? ……………57CQ 3-8 消化管機能検査は日常診療を行ううえで有用か?………………………………………59CQ 3-9 NSAIDs,低用量アスピリン服用者は FDから除外すべきか? ………………………61CQ 3-10 FDの重症度の評価は必要か?(軽症,中等症,重症 FDなどの区別は必要か?)

………………………………………………………………………………………………62

第4章 治 療

CQ 4-1 FDの治療目標は患者が満足しうる症状改善が得られることか? ……………………64CQ 4-2 FDの治療において,プラセボ効果は大きいか? ………………………………………65CQ 4-3 FD患者のプラセボ効果は女性で男性より高いか? ……………………………………66CQ 4-4 FDの治療において,良好な患者-医師関係を構築することは有効か?………………67CQ 4-5 FDの治療として,生活習慣指導や食事療法は有効か? ………………………………68CQ 4-6 FDの治療薬として,酸分泌抑制薬は有効か? …………………………………………69CQ 4-7 プロトンポンプ阻害薬はヒスタミンH2 受容体拮抗薬よりも有効か? ………………71CQ 4-8 FDの治療薬として,消化管運動機能改善薬は有効か? ………………………………73CQ 4-9 FDの治療として,H. pylori 除菌治療は有効か? ………………………………………76CQ 4-10 FDの治療薬として,漢方薬は有効か? …………………………………………………79CQ 4-11 FDの治療薬として,抗うつ薬・抗不安薬は有効か? …………………………………81CQ 4-12 FDの治療薬として,制酸薬,プロスタグランジン誘導体および消化管粘膜保護薬

は有効か?…………………………………………………………………………………84CQ 4-13 FDの治療として,薬剤併用療法は有効か? ……………………………………………85CQ 4-14 FDの治療として,認知行動療法は有効か? ……………………………………………86CQ 4-15 FDの治療として,自律神経訓練法は有効か? …………………………………………88CQ 4-16 FDの治療として,催眠療法は有効か? …………………………………………………90CQ 4-17 FDの治療として,鍼灸療法は有効か? …………………………………………………91CQ 4-18 FDの治療は病型に基づいて行うのがよいか? …………………………………………92CQ 4-19 病悩期間が長いほど治療に抵抗するか?…………………………………………………94CQ 4-20 治療抵抗性の FD患者はどの時点で治療を変更すべきか? ……………………………95CQ 4-21 FD診療では,症状消失後の薬物治療を継続すべきか? ………………………………97

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第5章 予後・合併症

CQ 5-1 FDは再発するか? ……………………………………………………………………… 100CQ 5-2 FDには気分障害,神経症性障害の合併の頻度は高いか?……………………………101CQ 5-3 FDと胃食道逆流症(GERD)の合併の頻度は高いか?…………………………………103CQ 5-4 FDと過敏性腸症候群(IBS)の合併の頻度は高いか? …………………………………105CQ 5-5 FDと慢性便秘の合併の頻度は高いか?…………………………………………………107CQ 5-6 FDに胆膵疾患(機能性胆囊・Oddi括約筋障害,慢性膵炎,膵癌)は混在している

か? ………………………………………………………………………………………108

索引 ………………………………………………………………………………………………………109

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略語一覧

BMI body mass indexCBT cognitive behavioral therapy 認知行動療法EPS epigastric pain syndrome 心窩部痛症候群FD functional dyspepsia 機能性ディスペプシアFGID functional gastrointestinal disorder 機能性消化管疾患GERD gastroesophageal refl ux disease 胃食道逆流症GHQ General Health QuestionnairesH2RA histamine H2-receptor antagonist ヒスタミンH2 受容体拮抗薬HADS hospital anxiety and depression scoreIBS irritable bowel syndrome 過敏性腸症候群IMC interdigestive migrating complexes 空腹時強収縮NSAIDs non-steroidal anti-infl ammatory drugs 非ステロイド性消炎鎮痛薬NUD non-ulcer dyspepsia

PAGI-QOL Patient Assessment of Upper GastroIntestinal Disorders-Quality of Life

PDS postprandial distress syndrome 食後愁訴症候群PGWB index Psychological General Well-Being indexPPI proton pump inhibitor プロトンポンプ阻害薬QOL quality of life 生活の質SF-36 Short Form 36 Health survey

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1.概念・定義・疫学

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解説

ディスペプシアとはもともと bad(dys)digestion(peptein)を意味するギリシャ語であるという.しかしながら,これまで広く様々な腹部症状に対して使用されてきた曖昧な用語である 1, 2).以前は時折あるいは持続的に生じる近位消化管に由来すると思われる症状とするのが一般的

であり,具体的には abdominal pain or discomfort(腹痛または不快感),postprandial fullness

(食後の胃もたれ),abdominal bloating(腹部膨満感),belching(曖気,ゲップ),early satiety

(早期飽満感,早期満腹感),anorexia(食欲不振),nausea(悪心),vomiting(嘔吐),heartburn

(胸やけ),regurgitation(呑酸,逆流感)などの症状を指していた 2).すなわち,これらの症状が単独であるいは複数存在するときにディスペプシア症状を有する状態とされた.

注目すべきはディスペプシアという用語は時代とともに変遷していることであるが,これはnon-ulcer dyspepsiaや functional dyspepiaなど機能性ディスペプシアの定義の変遷と関連すると思われる.1989 年の AGAのworking teamの報告では,ディスペプシアは「上部消化管(食道,胃,十二指腸)に由来すると思われる上腹部や胸骨背部の痛み,不快感,胸やけ,嘔気,嘔吐などの症状」と定義され,これは広く上腹部のすべての症状と解釈できる 3).一方,機能性消化管疾患(FGID)の定義,分類には Rome委員会が大きな役割を果たしており全世界に大きな影響力を持つが,1991 年の RomeⅠ基準では,ディスペプシアは「持続的なあるいは反復する上腹部の中心に生じる腹部の痛みまたは不快感」と定義されており,胸やけのみの症状はディスペプシアに含めない立場を取っている 4).1999 年の RomeⅡ基準 5)においてもこのディスペプシアの定義は継承されているが,より具体的に心窩部痛,心窩部不快感,早期満腹感,胃もたれ,膨満感,嘔気をディスペプシア症状としており,明確に胸やけ・逆流などの逆流症状を除外していることには注目すべきである.また,2006 年の RomeⅢ基準 6)においてはディスペプシアをさらに狭義に定義しているが,ここでもやはりディスペプシアに胃食道逆流症状を含めていない.これらのことより,歴史的にはディスペプシアは胸やけなどの食道の症状を含めて考えられ

ることもあったが,胃食道逆流症の概念が明確になるにつれて,胃・十二指腸の症状に限定するようになってきたと思われる.そこで本ガイドラインではディスペプシアに食道の症状と考

Clinical Question 1-11.概念・定義・疫学

ディスペプシアとは何か?

CQ 1-1 ディスペプシアとは何か?

ステートメント

● ディスペプシアとは心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とした腹部症状をいう.

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えられる逆流症状を含めず「心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とした腹部症状」と定義した.

文献

1) Chiba N. Definitions of dyspepsia: time for a reappraisal. Eur J Surg Suppl 1998; 583: 14-232) Heading RC. Definitions of dyspepsia. Scand J Gastroenterol Suppl 1991; 182: 1-63) Anonymous. Management of dyspepsia: report of a working party. Lancet 1988; 1 (8585): 576-579(ガイド

ライン)4) Talley N, Colin-Jones D, Koch K, et al. Functional dyspepsia: a classification with guidelines for diagnosis

and management. Gastroenterol Int 1991; 4: 145-160(ガイドライン)5) Talley NJ, Stanghellini V, Heading RC, et al. Functional gastroduodenal disorders. Gut 1999; 45 (Suppl 2):

II37-II42(ガイドライン)6) Tack J, Talley NJ, Camilleri M, et al. Functional gastroduodenal disorders. Gastroenterology 2006; 130:

1466-1479(ガイドライン)

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解説

1989 年に発表された AGAworking partyの報告では,ディスペプシアに胸やけや胸骨背部痛を加えるなど広い定義を採用しており,器質的疾患を伴わないディスペプシアを non-ulcer dys-

pepsia(NUD)と命名した 1).すなわちNUDは「上部消化管疾患に由来すると思われる上腹部症状で,4週間以上継続し,運動と関係なく,原因となる器質的・全身的疾患がないもの」と定義されている.ここではNUDを gastroesophageal reflux like,dysmotility like,ulcer like,aerophagia,idiopathicの 5つのグループに分類した.1991 年の RomeⅠ基準では 2),「持続的なあるいは反復する上腹部の中心に生じる腹部の痛み

または不快感が 1ヵ月以上続く場合で(そのうち 7日以上に症状がある),明らかに症状の原因となる器質的疾患がなく,腹部手術や消化性潰瘍の既往がないもの」と定義されている.この分類では functional dyspepsiaという用語が使用され,FDは ulcer like,dysmotility like,unspecif-

icの 3つに分類された.1999 年の RomeⅡ基準では 3),基本的に RomeⅠ基準を継承しつつ FD

を定義している.すなわち「症状の原因となるような器質的疾患がなく,反復性の上腹部を中心とした痛みや不快感が過去 12 ヵ月間の内 12 週間に起こり,しかも IBSを合併していないもの」と定義している.この分類でも FDは ulcer like,dysmotility like,unscpecificの 3つに分類されている.2006 年の RomeⅢ基準では 4),FDを 2つのレベルで定義している.ひとつは一般的でより広義に臨床的に用いる定義で「症状の原因となるような器質的,全身性,代謝性の疾患がないにもかかわらず胃十二指腸に由来すると思われる症状が慢性的に生じているもの」である.もうひとつは臨床研究や病態研究のための定義であり,これは「症状の原因となる器質的疾患がないのににもかかわらず,食後のもたれ感や早期満腹感,心窩部痛,心窩部灼熱感のうちの 1つ以上の症状があり,これらが 6ヵ月以上前に初発し,3ヵ月以上続いているもの」と定義されている.この 4つの症状のうち,前二者を有するものを PDS(postprandial distress

syndrome),後二者を有するものを EPS(epigastric pain syndrome)と呼んでいる.また,最近発表されたアジアの FDに関するコンセンサス(J Gastroenterol Hepatol 2012; 27: 626-641 a)[検索期間外文献])では FDを「症状の原因となる器質的,全身性,代謝性の疾患がないにもかかわらず,慢性的にディスペプシア症状を有する状態」と定義しているが,これも今までの FD研

Clinical Question 1-21.概念・定義・疫学

FD はどのように定義されるか?

CQ 1-2 FD はどのように定義されるか?

ステートメント

● 症状の原因となる器質的,全身性,代謝性疾患がないのにもかかわらず,慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患.

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究の流れに沿ったものといえよう.このように考えると,FDの病態・治療にかかわる研究はこれら AGAや Rome委員会の定義

に基づいて行われてきたものであり,換言すればこれまでの膨大なエビデンスはこれらの定義の上に成り立っている.この意味において,わが国のガイドラインにおいてもこの歴史的な背景を踏まえて FDを定義すべきであると考える.しかし,これまでは慢性であることの定義は様々であり,またディスペプシア症状の位置づけにもバラツキがあるため,わが国の実情にあった定義が必要であると考えられる.そこでわが国においても,FDという概念が受け入れられ,広く使用されて,多くのディスペプシア患者が正しく治療されるためにはより現実的で理解されやすい定義が必要であるとの考えから,ガイドライン委員会としてステートメントに記す定義を提案したい.

文献

1) Anonymous. Management of dyspepsia: report of a working party. Lancet 1988; 1 (8585): 576-579(ガイドライン)

2) Talley N, Colin-Jones D, Koch K, et al. Functional dyspepsia: a classification with guidelines for diagnosisand management. Gastroenterol Int 1991; 4: 145-160(ガイドライン)

3) Talley NJ, Stanghellini V, Heading RC, et al. Functional gastroduodenal disorders. Gut 1999; 45 (Suppl 2):II37-II42(ガイドライン)

4) Tack J, Talley NJ, Camilleri M, et al. Functional gastroduodenal disorders. Gastroenterology 2006; 130:1466-1479(ガイドライン)

【検索期間外文献】a) Miwa H, Ghoshal UC, Fock KM, et al. Asian consensus report on functional dyspepsia. J Gastroenterol

Hepatol 2012; 27: 626-641(ガイドライン)

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解説

一般的に日本では,胃炎は症候性胃炎(症状はあるが器質的疾患のないものの総称),組織学的胃炎(胃粘膜の組織学的炎症),内視鏡的胃炎(内視鏡的に同定可能な胃粘膜のびまん性,あるいは限局性で発赤,びらん,凹凸不正粘膜など)の異なる概念が混同されてきた.ここで,明らかな器質的疾患がないのにディスペプシア症状のある FDは症候性胃炎の概念と最も類似していると思われる.しかし,本来の意味の慢性胃炎は慢性的な胃粘膜の組織学的炎症により定義されるべきで,

また FDは症状により定義される疾患であるため,基本的に両者は異なる概念の疾患であると考えてよい.すなわち,組織学的慢性胃炎の有無とディスペプシア症状の有無は異なった次元の命題であり,両者は併存することもしないこともある.残念ながら,現在では両者が混同して使用されており,FD患者の多くは慢性炎症がなくても慢性胃炎として治療されてきた.これは機能性ディスペプシアという保険病名がわが国になかったことが最も大きな原因であると思われるが,これまでこの両者はほぼ同様に扱われてきた感がある.このように慢性胃炎と FDの概念は同一ではないが,実際に胃炎の所見と症状の関連性は強

くないと考えられる.内視鏡検査所見に関しては,組織学的に判定された胃炎と内視鏡的に判定された胃炎の一致率も 60%程度とあまり高くないとされ 1),また内視鏡的所見と上腹部症状との関連についての検討結果は報告間の差が大きいが 2, 3),前庭部胃炎とディスペプシアとの関連を示唆する報告は多い 4, 5).ただ胃粘膜の慢性炎症と症状の程度は相関しないという報告が多く 2, 6),特に萎縮性胃炎とディスペプシアの関連性は低いと考えるのが一般的である 1).ディスペプシア症状と内視鏡所見,組織学的胃炎との関連を遡行的に検討した日本からの報告でも,一部の内視鏡所見(前庭部の線状発赤)がディスペプシア症状と関連したものの組織学的胃炎の程度と萎縮の程度はディスペプシア症状と関連しなかった 4).このように,ディスペプシア症状の原因を胃粘膜の組織学的な変化に求めることは難しいことからも,組織学的慢性胃炎と FDは異なる疾患であると銘記すべきである.

Clinical Question 1-31.概念・定義・疫学

現状の慢性胃炎と FD の関係はどのようになるのか?

CQ 1-3 現状の慢性胃炎と FD の関係はどのようになるのか?

ステートメント

● FD 患者の多くはこれまで慢性胃炎として診断,治療されてきたが,FD は症状により定義される疾患であり,両者は同一のものではない.

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文献

1) 木下芳一,天野祐二.内視鏡的胃炎と上腹部症状の関係.日本消化器病学会雑誌 2007; 104: 1573-15792) Lai ST, Fung KP, Ng FH, et al. A quantitative analysis of symptoms of non-ulcer dyspepsia as related to

age, pathology, and Helicobacter infection. Scand J Gastroenterol 1996; 31: 1078-1082(横断)3) Kyzekove J, Arlt J, Arltova M. Is there any relationship between functional dyspepsia and chronic gastritis

associated with Helicobacter pylori infection? Hepatogastroenterology 2001; 48: 594-602(横断)4) Tahara T, Arisawa T, Shibata T, et al. Association of endoscopic appearances with dyspeptic symptoms. J

Gastroenterol 2008; 43: 208-215(横断)5) Koskenpato J, Farkkila M, Sipponen P. Helicobacter pylori and different topographic types of gastritis: treat-

ment response after successful eradication therapy in functional dyspepsia. Scand J Gastroenterol 2002; 37:778-784(横断)

6) Turkkan E, Uslan I, Acarturk G, et al. Does Helicobacter pylori-induced inflammation of gastric mucosadetermine the severity of symptoms in functional dyspepsia? J Gastroenterol 2009; 44: 66-70(横断)

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解説

RomeⅢ基準では FDを 2つのレベルで定義している 1).ひとつは一般的に用いる広い意味での定義と,もうひとつは研究用に用いるより細かく規定された定義である.前者は一般臨床で用いるもので「症状の原因となる器質的,全身性,代謝性疾患がないのにもかかわらず,胃十二指腸領域に由来すると思われる症状を呈する疾患」と定義され,また後者は「器質的疾患がないにもかかわらず,煩わしい食後もたれ感,早期満腹感,心窩部痛,心窩部灼熱感の 4つの症状のうち 1つ以上の症状を有し,さらにこれらが 3ヵ月以上継続し,初発症状が 6ヵ月以上前にみられるもの」と定義されている(表1).また,4つの症状のうち前二者を有するものを食後愁訴症候群(postprandial distress syndrome:PDS),後二者を有するものを心窩部痛症候群(epigastric pain syndrome:EPS)と呼んでいる.本ガイドラインは基本的に一般医家を対象として診療の指針を示すものであるため,前者に準じた定義を採用している.

一般には RomeⅢ基準の定義としては研究用基準(定義)がよく知られており,この意味で使

Clinical Question 1-41.概念・定義・疫学

日本の日常診療において RomeⅢ基準の使用は妥当か?(期間や下位分類)

CQ 1-4 日本の日常診療において RomeⅢ基準の使用は妥当か?(期間や下位分類)

ステートメント

● RomeⅢ基準はわが国の日常診療での使用には必ずしも適していない.

表1 FD診断のためのRomeⅢ基準(特に研究目的やさらに詳しい定義が必要な場合の定義)

以下の4つうち少なくとも1つ以上の症状があること食後愁訴症候群(postprandial distress syndrome:PDS)* 1.食後膨満感 2.早期満腹感(early satiation)心窩部痛症候群(epigastric pain syndrome:EPS)** 3.心窩部痛 4.心窩部灼熱感症状を説明できる明らかな器質的疾患がないもの少なくとも6ヵ月以上前に症状を経験し,最近3ヵ月間症状が続いているもの症状が持続しているとはPDSに関しては週に数回(2~3回以上),EPSに関しては週に1回以上の頻度で生じることをいう*:EPS症状を併存することがあり,また食後のもたれ感,食後の悪心,ゲップをきたすことがある.**:少なくとも中等度以上の強さの心窩部に限定する間欠的な痛みで排便や排ガスで軽快しない.痛みは灼熱感のこともあるが胸骨後部に起こるものではない.症状は空腹時に起こることもある.PDS症状を併存することがある.(文献1より引用改変)

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用されることが多い.しかし,この基準は日常診療では必ずしも日本人 FD患者の診断には適していないことが報告されている.Kinoshitaらは,内視鏡で異常がなくしかもディスペプシア症状を有している 2,946 人を対象に検討したところ,RomeⅢ基準ではその 12.3%しか FDと診断されず,その主な理由は症状持続期間(病悩期間)の規定によるものであった(Intern Med 2011;50: 2269-2276 a)[検索期間外文献]).しかし,症状が 1ヵ月までと 1〜6ヵ月と 6ヵ月以上持続する患者を比較しても,症状の強さも,QOLも変わらなかった(図1).すなわち,RomeⅢ基準では慢性的な症状発現を具体的な病悩期間の設定により定義することを試みたが,結果的にその方法はわが国においては意義が少ないと考えられた.これは日本人では医療機関へのアクセスがよいため,症状発現から来院するまでの期間が短いことによる可能性がある.同様にMan-

abeらは,364 人の内視鏡で所見のないディスペプシア患者を対象に調査したところ,6割以上の患者が罹病期間の項目で RomeⅢ基準に合致しなかったことを報告している 2).このようにRomeⅢ基準では症状の持続期間が長く設定されているが,これは諸外国と日本の医療保険制度の違いによるものが大きい.日本の医療機関では短期間の有症状者の受診が多く,実態を反映できる定義が必要である.また,病態が多因子にわたり複雑な FDを定義すること自体の根本的な難しさも忘れてはな

らない.van Kerkhovenらは,RomeⅠ,Ⅱ,Ⅲ基準での診断された FD患者は FDと思われる患者の 41%,81%,60%であり,その 25%が Rome基準の 3つすべてで FDと診断され,15%はどの診断基準でも診断されなかったという 3).RomeⅢの研究用基準では PDSと EPSという下

図 1 日本における病悩期間別の FD 患者 2,549 人の症状の程度上腹部症状のある慢性胃炎患者を対象としたわが国における症状調査の結果.心窩部痛や胃もたれがあるにもか

かわらず内視鏡的に明らかな器質的病変がない 2,549 人(ほぼ FD 患者と考えられる)を対象として,病悩期間と症状の程度を比べた結果,症状の程度と病悩期間には明らかな関連性はなかった.同様にこれら患者の QOL も病悩期間と関連しなかった.このことは,RomeⅢ基準で慢性の基準とされている 6 ヵ月という期間によって FD を定義することはわが国においては根拠のないことものであることを意味している.(文献 a より引用改変)

0

0.5

1

1.5

2

0

0.5

1

1.5

2

病悩期間

心窩部痛の程度

胃もたれ感の程度

<1ヵ月 1~6ヵ月 6ヵ月以上

NS

NS心窩部痛

NS

病悩期間<1ヵ月 1~6ヵ月 6ヵ月以上

NS

NS胃もたれ

NS

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1.概念・定義・疫学

位分類が採用されているが,この報告では EPSと PDSは FDと思われる患者の 44%と 42%に存在し,26%は両方,40%はどちらでもなかったという.わが国で RomeⅢ基準質問票によって FD患者を診断した検討では,その 1/3 は PDSにも EPSにも当てはまらないと報告されており 4),また PDS患者の 50%が EPSを合併し,EPS患者の 72%は PDSを合併しているとも報告されている 2).これらのことは,PDSと EPSに分類できない患者が多く,さらには両者にはかなりの重なりがあることを示している.ただ,このことはわが国にだけ特有なことではない.消化器症状は人種や文化,言語に左右されることから,RomeⅢ診断基準の妥当性は各地域や国によって個別に再検証されるべきであろう(J Gastroenterol Hepatol 2012; 27: 626-641 b)[検索期間外文献]).

文献

1) Tack J, Talley NJ, Camilleri M, et al. Functional gastroduodenal disorders. Gastroenterology 2006; 130:1466-1479(ガイドライン)

2) Manabe N, Haruma K, Hata J, et al. Clinical characteristics of Japanese dyspeptic patients: is the RomeⅢclassification applicable? Scand J Gastroenterol 2010; 45: 567-572(横断)

3) van Kerkhoven LA, Laheij RJ, Meineche-Schmidt V, et al. Functional dyspepsia: not all roads seem to leadto rome. J Clin Gastroenterol 2009; 43: 118-122(横断)

4) Nakajima S, Takahashi K, Sato J, et al. Spectra of functional gastrointestinal disorders diagnosed byRomeⅢ integrative questionnaire in a Japanese outpatient office and the impact of overlapping. J Gas-troenterol Hepatol 2010; 25 (Suppl 1): S138-S143(横断)

【検索期間外文献】a) Kinoshita Y, Chiba T. Characteristics of Japanese patients with chronic gastritis and comparison with func-

tional dyspepsia defined by ROME III criteria: based on the large-scale survey: FUTURE study. InternMed 2011; 50: 2269-2276(横断)

b) Miwa H, Ghoshal UC, Fock KM, et al. Asian consensus report on functional dyspepsia. J GastroenterolHepatol 2012; 27: 626-641(ガイドライン)

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解説

日本における FDの有病率は,用いた FDの定義により異なってはいるが,採用文献に示すように計画的に検討された横断的報告が多く,報告されている有病率に大きな隔たりはない(表1)1〜7).FDの有病率を考える場合,対象者が健診者か病院受診者かで異なることが考えられ,両者を分けて評価する必要がある.健診者を対象とした場合の FDの有病率に関する報告は,古いものでは 1993 年に発表されたものから最近では 2010 年に発表されたものまでみられるが,その有病率は 10%程度とほぼ一定している.また,欧米からの FDの有病率に関する主な報告をみると,北欧で 14.7%,米国で 15%,英国で 23.8%であり,本邦の頻度は,欧米に比較すると同等かやや低値とする報告が多い 8).一方,病院受診者を対象とする FDの有病率に関する報告は,古いものでは 1992 年に報告したものから,新しいものでは 2000 年に報告したものが認められるが,FDの有病率は上腹部症状を訴えて病院受診した患者の約半数と報告されている.残念ながら今回採用された論文はいずれも単施設での検討であり,多施設共同研究による疫学調査ではない.

Clinical Question 1-51.概念・定義・疫学

日本人の FD の有病率はどのくらいか?

CQ 1-5 日本人の FD の有病率はどのくらいか?

ステートメント

● 日本人の FD の有病率は,健診受診者の 11%から 17%であり,上腹部症状を訴え病院を受診した患者の 45%から 53%である.

表1報告者 報告年 研究

デザイン FDの定義 対象 対象症例数 有病率(%)

Kiyota K, et al 1) 1992年 横断研究 NUD(AGAカテゴリー分類)

病院受診のディスペプシア患者

106 53%

Schlemper RJ, et al 2) 1993年 横断研究 NUD(AGAカテゴリー分類)

職場健診者 731 13%

Hirakawa K, et al 3) 1999年 横断研究 NUD(AGAカテゴリー分類)

健診受診者 1,139 17%

河村ら 4) 2000年 横断研究 ローマ基準(1991年)

器質的疾患(-)健診受診者

907 11%

Kawamura A, et al 5) 2001年 横断研究 RomeⅡ 健診受診者 2,263 8.9%(dysmotility)5.2%(ulcer-like)

Kaji M, et al 6) 2010年 横断研究 RomeⅢ 職場健診者 2,680 10%Okumura T, et al 7) 2010年 横断研究 RomeⅢ(一部改変)病院受診者のディ

スペプシア患者381 44.6%

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1.概念・定義・疫学

文献

1) 清田啓介.Non-Ulcer Dyspepsia(NUD)に対する臨床的疫学的研究.日本消化器病学会雑誌 1992; 89:1973-1981(横断)

2) Schlemper RJ, van der Werf SD, Vandenbroucke JP, et al. Peptic ulcer, non-ulcer dyspepsia and irritablebowel syndrome in The Netherlands and Japan. Scand J Gastroenterol Suppl 1993; 200: 33-41(横断)

3) Hirakawa K, Adachi K, Amano K, et al. Prevalence of non-ulcer dyspepsia in the Japanese population. JGastroenterol Hepatol 1999; 14: 1083-1087(横断)

4) 河村 朗,足立経一,勝部知子,ほか.消化器愁訴(Dyspepsia)と消化管運動異常に関する研究—NUDの頻度及び Helicobacter pylori 感染との関係について.Therapeutic Research 2000; 21: 1341-1343(横断)

5) Kawamura A, Adachi K, Takashima T, et al. Prevalence of functional dyspepsia and its relationship withHelicobacter pylori infection in a Japanese population. J Gastroenterol Hepatol 2001; 16: 384-388(横断)

6) Kaji M, Fujiwara Y, Shiba M, et al. Prevalence of overlaps between GERD, FD and IBS and impact onhealth-related quality of life. J Gastroenterol Hepatol 2010; 25: 1151-1156(横断)

7) Okumura T, Tanno S, Ohhira M, et al. Prevalence of functional dyspepsia in an outpatient clinic with pri-mary care physicians in Japan. J Gastroenterol 2010; 45: 187-194(横断)

8) Mahadeva S, Goh KL. Epidemiology of functional dyspepsia: a global perspective. World J Gastroenterol2006; 12: 2661-2666

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解説

FDの有病率は,用いた FDの定義により若干の違いはみられるが,1980 年から 2000 年までの欧米における論文の reviewでは,FDの有病率が増加しているという傾向は認めていない 1).一方,本邦と欧米とでは Helicobacter pylori(H. pylori)感染率をはじめ胃内環境が異なっているため,必ずしも欧米のデータを本邦のデータとして適応できない.H. pylori 感染率の低下に伴い,本邦の外来および入院患者における消化性潰瘍および胃癌の割合は 17 年間前と比較して減少傾向にあることが報告されている 2).また,上部消化管内視鏡検査を受けた患者の検査動機となった症状と内視鏡所見の推移を 25 年間にわたり同一施設で検討した報告では,全年代を通して検査動機としてディスペプシア症状が最も多かったが,消化性潰瘍を含む器質的病変の割合は減少傾向にあり,器質的病変のない症例が増加してきていることが報告されている 3).以上の報告から,近年の本邦における H. pylori 感染率の低下に伴い,上部消化管疾患に占める器質的疾患の割合が低下しており,上部消化管疾患の疾患構造に変化が生じていることが推察される.

日本人における FDの有病率は,1990 年の報告では上腹部症状を訴え病院を受診した患者の53%に認めたとしており,1997〜1998 年の報告では健診者の 11%,17%であり,2004 年から2009 年の同一施設における検討では上腹部症状を訴え病院を受診した患者の 45%であったと報告している 4〜7).以上のように FDが発症する要因は増加していると思われるが,現時点では本邦で FDが増加

しているかどうかは,エビデンスがなく評価が困難である.

文献

1) Gschossmann JM, Haag S, Holtmann G. Epidemiological trends of functional gastrointestinal disorders.Dig Dis 2001; 19: 189-194

2) Nakajima S, Nishiyama Y, Yamaoka M, et al. Changes in the prevalence of Helicobacter pylori infection andgastrointestinal diseases in the past 17 years. J Gastroenterol Hepatol 2010; 25 (Suppl 1): S99-S110(横断)

3) Manabe N, Haruma K, Kamada T, et al. Changes of upper gastrointestinal symptoms and endoscopic

Clinical Question 1-61.概念・定義・疫学

FD の有病率は増加しているか?

CQ 1-6 FD の有病率は増加しているか?

ステートメント

● FD の有病率の推移に関するエビデンスは少なく,FD が増加しているかどうかの評価は困難である.

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1.概念・定義・疫学

findings in Japan over 25 years. Intern Med 2011; 50: 1357-1363(横断)4) 河村 朗,足立経一,勝部知子,ほか.消化器愁訴(Dyspepsia)と消化管運動異常に関する研究—NUD

の頻度及び Helicobacter pylori 感染との関係について.Therapeutic Research 2000; 21: 1341-1343(横断)5) Okumura T, Tanno S, Ohhira M, et al. Prevalence of functional dyspepsia in an outpatient clinic with pri-

mary care physicians in Japan. J Gastroenterol 2010; 45: 187-194(横断)6) Kawamura A, Adachi K, Takashima T, et al. Prevalence of functional dyspepsia and its relationship with

Helicobacter pylori infection in a Japanese population. J Gastroenterol Hepatol 2001; 16: 384-388(横断)7) Hirakawa K, Adachi K, Amano K, et al. Prevalence of non-ulcer dyspepsia in the Japanese population. J

Gastroenterol Hepatol 1999; 14: 1083-1087(横断)

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解説

欧米の population-based studyでは,女性のほうが男性よりも FDを発症しやすく,治癒もしにくいことが示されている 1).また,プライマリケアにおける FDにも性差が認められ,女性の割合が高いことが示されている 2).日本の健診者を対象とした報告でも同様の傾向が認められており,FDは女性の割合が高いことが示唆される 3).しかしながら,FDの有病率には性差はないとする報告もあり,結果が一貫していない 4, 5).以上の報告をまとめると,用いた FDの定義により異なってはいるが,FDの有病率に性差が存在する可能性は示唆される.しかしながら,本邦ではエビデンスが不足しており結論が出ない.

文献

1) Olafsdottir LB, Gudjonsson H, Jonsdottir HH, et al. Natural history of functional dyspepsia: a 10-year pop-ulation-based study. Digestion 2010; 81: 53-61(コホート)

2) Baron JH, Sonnenberg A. Hospital admissions and primary care attendances for nonulcer dyspepsia,reflux oesophagitis and peptic ulcer in Scotland 1981-2004. Eur J Gastroenterol Hepatol 2008; 20: 180-186

(ケースコントロール)3) Schlemper RJ, van der Werf SD, Vandenbroucke JP, et al. Peptic ulcer, non-ulcer dyspepsia and irritable

bowel syndrome in The Netherlands and Japan. Scand J Gastroenterol Suppl 1993; 200: 33-41(横断)4) Okumura T, Tanno S, Ohhira M, et al. Prevalence of functional dyspepsia in an outpatient clinic with pri-

mary care physicians in Japan. J Gastroenterol 2010; 45: 187-194(横断)5) 清田啓介.Non-Ulcer Dyspepsia(NUD)に対する臨床的疫学的研究.日本消化器病学会雑誌 1992; 89:

1973-1981(横断)

Clinical Question 1-71.概念・定義・疫学

FD に性差はあるか?

CQ 1-7 FD に性差はあるか?

ステートメント

● FD は女性に多いと報告されているが,日本人でのデータは少ない.

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— 16 —

解説

1999 年に行われたわが国と欧米 7ヵ国での一般住民(未検査ディスペプシア)を対象としたDIGEST study(Domestic/International Gastroenterology Surveillance Study)では,ディスペプシア症状は BMIが高い住民ほど,その有症状率も高いという結果であった 1).2010 年のアイスランドにおける大規模な 10 年規模の population-based studyでは,BMIそのものは FDの発症とは特に関連なく,体重減少や食欲の変動が FDの発症と関連が強いと報告されている 2).一方で,H. pylori 除菌治療後に BMIが増加する患者は,ディスペプシア症状が改善することによるという報告もみられる 3).残念ながら FDと BMIの関連を検討したわが国からの報告は少ない.これまでの報告をまとめると,用いた FDの定義によっても若干の違いがみられるが,FDの有病率は BMIと関連があるとする報告とないとする報告に分かれており,一定の見解が得られていない.報告毎の対象の違い,体重以外の心理社会的ストレスなどの要因の関与などが両者の関連を不明瞭化している可能性がある.現状では,BMIの値そのものよりも,むしろ BMIの変化の原因となる食習慣,生活習慣,心理社会的ストレスの関連が強いと考えられる.

文献

1) Stanghellini V. Three-month prevalence rates of gastrointestinal symptoms and the influence of demo-graphic factors: results from the Domestic/International Gastroenterology Surveillance Study (DIGEST).Scand J Gastroenterol Suppl 1999; 231: 20-28(横断)

2) Olafsdottir LB, Gudjonsson H, Jonsdottir HH, et al. Natural history of functional dyspepsia: a 10-year pop-ulation-based study. Digestion 2010; 81: 53-61(コホート)

3) Lane JA, Murray LJ, Harvey IM, et al. Randomised clinical trial: Helicobacter pylori eradication is associatedwith a significantly increased body mass index in a placebo-controlled study. Aliment Pharmacol Ther2011; 33: 922-929(ランダム)

Clinical Question 1-81.概念・定義・疫学

FD の頻度は肥満者で高いか?

CQ 1-8 FD の頻度は肥満者で高いか?

ステートメント

● FD の頻度と体重の関係については,一定の見解が得られていない.

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— 17 —

解説

2010 年に報告された欧米の population-based studyでは,若年者のほうが高齢者よりも FD

を発症しやすいことが示されている 1).2010 年に報告されたわが国の病院受診者を対象とした検討では,FDの有病率は 70 歳以上の女性で有意に低いことが示されている 2).2012 年に報告された台湾からの population-based studyでは,RomeⅢ基準に合致した機能性消化管疾患の特徴は若年者が多かったとしている(Asia Pac J Clin Nutr 2012; 21: 594-600 a)[検索期間外文献]).しかし,2008 年に報告された欧米からのプライマリケアを対象とした研究のように,FDは 65〜74 歳をピークに増加するとの報告もある 3).以上の報告をまとめると,対象患者や用いた FD

の定義により FDの年齢分布に若干の違いがみられるが,FDは高齢者よりも若年者に多いと考えられる.しかし,本邦ではエビデンスが不足しており,FDが高齢者よりも若年者に多いかは不明である.

文献

1) Olafsdottir LB, Gudjonsson H, Jonsdottir HH, et al. Natural history of functional dyspepsia: a 10-year pop-ulation-based study. Digestion 2010; 81: 53-61(コホート)

2) Okumura T, Tanno S, Ohhira M, et al. Prevalence of functional dyspepsia in an outpatient clinic with pri-mary care physicians in Japan. J Gastroenterol 2010; 45: 187-194(横断)

3) Baron JH, Sonnenberg A. Hospital admissions and primary care attendances for nonulcer dyspepsia,reflux oesophagitis and peptic ulcer in Scotland 1981-2004. Eur J Gastroenterol Hepatol 2008; 20: 180-186

(ケースコントロール)

【検索期間外文献】a) Chang FY, Chen PH, Wu TC, et al. Prevalence of functional gastrointestinal disorders in Taiwan: question-

naire-based survey for adults based on the RomeⅢ criteria. Asia Pac J Clin Nutr 2012; 21: 594-600(横断)

Clinical Question 1-91.概念・定義・疫学

FD は高齢者よりも若年者に多いか?

CQ 1-9 FD は高齢者よりも若年者に多いか?

ステートメント

● FD は高齢者よりも若年者に多いとする報告が多いが,わが国では一定の見解が得られていない.

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解説

FDの受療行動は QOLのみで決定されるものではなく,患者の性格や心理状態,経済状態,医療制度にも大きく関与することが考えられる 1〜7).日本からの報告では,FDの病悩期間は初回の受療行動に関連しないことが示唆される 7)(Intern Med 2011; 50: 2269-2276 a)[検索期間外文献]).また,治療介入後の受療行動に関しては,欧州 6ヵ国による FD患者の治療後 3ヵ月間における受療行動に関する大規模な臨床研究がなされており,治療奏効群は,治療抵抗群と比較して病院受療回数が少ないことが示されている 8).以上の報告をまとめると,FD患者の初回の受療行動は,症状の持続期間の影響を受けないが,再診以降の受療行動は症状の持続期間に影響を受けると考えられる.

文献

1) Williams RE, Black CL, Kim HY, et al. Determinants of healthcare-seeking behaviour among subjects withirritable bowel syndrome. Aliment Pharmacol Ther 2006; 23: 1667-1675(ケースコントロール)

2) Alander T, Svärdsudd K, Johansson SE, et al. Psychological illness iscommonly associated with functionalgastrointestinal disorders and is important to consider during patient consultation: a population-basedstudy. BMCMed 2005; 3: 8(ケースコントロール)

3) Hu WH, Wong WM, Lam CL, et al. Anxiety but not depression determines health care-seeking behaviourin Chinese patients with dyspepsia and irritable bowel syndrome: a population-based study. AlimentPharmacol Ther 2002; 16: 2081-2088(ケースコントロール)

4) Westbrook JI, McIntosh J, Talley NJ. Factors associated with consultingmedical or non-medical practition-ers for dyspepsia: an australianpopulation-based study. Aliment Pharmacol Ther 2000; 14: 1581-1588

(ケースコントロール)5) Howell S, Talley NJ. Does fear of serious disease predict consulting behaviour amongst patients with dys-

pepsia in general practice? Eur J Gastroenterol Hepatol 1999; 11: 881-886(ケースコントロール)6) Hungin AP, Hill C, Raghunath A. Systematic review: frequency and reasons for consultation for gastro-

oesophageal reflux disease and dyspepsia. Aliment Pharmacol Ther 2009; 30: 331-342(ケースコントロール)

7) Manabe N, Haruma K, Hata J, et al. Clinical characteristics of Japanese dyspeptic patients: is the RomeⅢclassification applicable? Scand J Gastroenterol 2010; 45: 567-572(横断)

Clinical Question 1-101.概念・定義・疫学

FD 患者の受療行動は症状の持続期間や強さに影響を受けるか?

CQ 1-10 FD 患者の受療行動は症状の持続期間や強さに影響を受けるか?

ステートメント

● FD 患者の初回の受療行動は,症状の持続期間の影響を受けないが,再診以降の受療行動は症状の持続期間に影響を受けるとの報告がある.

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— 19 —

8) Meineche-Schmidt V, Talley NJ, Pap A, et al. Impact of functional dyspepsia on quality of life and healthcare consumption after cessation of antisecretory treatment: a multicentre 3-month follow-up study. ScandJ Gastroenterol 1999; 34: 566-574(横断)

【検索期間外文献】a) Kinoshita Y, Chiba T. Characteristics of Japanese Patients with Chronic Gastritis and Comparison with

Functional Dyspepsia Defined by ROME III Criteria: Based on the Large-Scale Survey, FUTURE Study.Intern Med 2011; 50: 2269-2276(横断)

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

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解説

Short Form 36Health survey(SF-36)を用いた一般住民を対象とした大規模横断研究によると,FDは身体的,精神的,社会的なすべての領域で QOLが低下していた 1)(図1a).また,健診受診者を対象とした横断研究において,FDは健常者と比較して Short Form 8 Health survey

(SF-8)による QOLが低下していた 2).さらに,病院受診者を対象とした横断研究においても同様に,FDは健常者と比較して SF-36 による QOLが有意に低下していた 3〜5)(図1b).Psycho-

Clinical Question 1-111.概念・定義・疫学

FD 患者の QOL は低下しているか?

CQ 1-11 FD 患者の QOL は低下しているか?

ステートメント

● FD 患者の QOL は低下している.

図 1a:一般住民を対象をした FD の QOL.スウェーデンにおける 1,001 人の一般住民を対象とした大規模横断研究による

と,FD は身体的,精神的,社会的なすべての領域で QOL が低下していた.(文献 1 より引用改変)b:病院受診者を対象をした FD の QOL.450 人の無症状献血者,300 人の難治性 FD を対象としたドイツの横断研究

によると,FD は身体的,精神的領域で QOL が低下していた.(文献 4 より引用改変)

0

50

100

0

50

100a

Short Form 36

Short Form 36

身体的QOL

精神的QOL

社会的QOL

b

身体的QOL

精神的QOL

献血者 FD(胃もたれ)一般住民 FD FD(胃痛)

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— 21 —

logical General Well-Being(PGWB)indexと General Health Questionnaires(GHQ)を用いた病院受診 FD患者とした 1年間の QOLの推移の研究では,FDの QOLは初診時には低下していたが,症状の改善とともに改善がみられたとしている 6).以上をまとめると,QOLの評価方法の違いはあるが,その結果は一貫しており,またいずれも計画的に検討された横断的報告であり信頼性が高く,FD患者の QOLは低下していると考えられる.

文献

1) Aro P, Talley NJ, Agréus L, et al. Functional dyspepsia impairs quality of life in the adult population. Ali-ment Pharmacol Ther 2011; 33: 1215-1224(横断)

2) Kaji M, Fujiwara Y, Shiba M, et al. Prevalence of overlaps between GERD, FD and IBS and impact onhealth-related quality of life. J Gastroenterol Hepatol 2010; 25: 1151-1156(横断)

3) Haag S, Senf W, Häuser W, et al. Impairment of health-related quality of life in functional dyspepsia andchronic liver disease: the influence of depression and anxiety. Aliment Pharmacol Ther 2008; 27: 561-571

(ケースコントロール)4) Haag S, Senf W, Tagay S, et al. Is there any association between disturbed gastrointestinal visceromotor

and sensory function and impaired quality of life in functional dyspepsia? Neurogastroenterol Motil 2010;22: 262-e79(横断)

5) Talley NJ, Locke GR 3rd, Lahr BD, et al. Functional dyspepsia, delayed gastric emptying, and impairedquality of life. Gut 2006; 55: 933-939(横断)

6) Gutiérrez A, Rodrigo L, Riestra S, et al. Quality of life in patients with functional dyspepsia: a prospective1-year follow-up study in Spanish patients. Eur J Gastroenterol Hepatol 2003; 15: 1175-1181(コホート)

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

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解説

FD患者の QOLの報告には,これまで何種類かの問診票が用いられている.Short Form 36(SF-36)を用いて評価した QOLの評価では,ディスペプシア症状の強さに比例して QOLの低下が認められた 1).また,食事負荷により誘発された際のディスペプシア症状の強さと SF-36 を用いた QOLの間にも相関が認められている 2).さらに,Nepean Dyspepsia indexを用いたQOLでも,ディスペプシア症状の程度と相関がみられている 3).また,治療の介入によるディスペプシア症状の改善とともに Psychological General Well-Being(PGWB)を用いた QOLが改善することも報告されている 4).PGWB indexと General Health Questionnaireを用いた病院受診 FD患者を対象とした 1年間の QOLの推移の研究では,FDの QOLは初診時には低下していたが,症状の改善とともに改善がみられたと報告している 5).以上をまとめると,QOLの評価に用いた問診票の違いはあるが,その結果は一貫しており,いずれも計画的に検討された横断的検討であり信頼性が高く,FD患者の症状の程度は QOLと相関すると考えられる.

文献

1) Haag S, Senf W, Häuser W, et al. Impairment of health-related quality of life in functional dyspepsia andchronic liver disease: the influence of depression and anxiety. Aliment Pharmacol Ther 2008; 27: 561-571

(ケースコントロール)2) Haag S, Senf W, Tagay S, et al. Is there any association between disturbed gastrointestinal visceromotor

and sensory function and impaired quality of life in functional dyspepsia? Neurogastroenterol Motil 2010;22: 262-e79(横断)

3) Talley NJ, Verlinden M, Jones M. Validity of a new quality of life scale for functional dyspepsia: a UnitedStates multicenter trial of the Nepean Dyspepsia Index. Am J Gastroenterol 1999; 94: 2390-2397(横断)

4) Meineche-Schmidt V, Talley NJ, Pap A, et al. Impact of functional dyspepsia on quality of life and healthcare consumption after cessation of antisecretory treatment: a multicentre 3-month follow-up study. ScandJ Gastroenterol 1999; 34: 566-574(コホート)

5) Gutiérrez A, Rodrigo L, Riestra S, et al. Quality of life in patients with functional dyspepsia: a prospective1-year follow-up study in Spanish patients. Eur J Gastroenterol Hepatol 2003; 15: 1175-1181(コホート)

Clinical Question 1-121.概念・定義・疫学

症状の程度は QOL と相関するか?

CQ 1-12 症状の程度は QOL と相関するか?

ステートメント

● FD 患者のディスペプシア症状が強いと,QOL は低下する.

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解説

これまでにディスペプシア症状の改善とともに QOLが改善することは知られているが(図1)1〜3),FDの臨床経過に関しては不明な点が多く,なかには自然治癒あるいは軽快する症例もあることが報告されており,必ずしも罹病期間と QOLの間には相関はないことが推察される.病悩期間と FD 患者の QOL との関連に関する記載は,Gutiérrez らの論文(2003 年)と

Kinoshitaらの論文(2011 年)に認められる.Gutiérrezらは H. pylori 感染陽性の FD患者は,H.

pylori 非感染の FD患者に比較して,病悩期間が長いが QOLについては 2群間で差はないと報

Clinical Question 1-131.概念・定義・疫学

病悩期間は QOL と相関するか?

CQ 1-13 病悩期間は QOL と相関するか?

ステートメント

● FD 患者の病悩期間と QOL は,必ずしも相関しない.

図 1 FD 患者における Psychological General Well-Being Index(a)と General Health Question-naire score(b)の推移

FD 患者における Psychological General Well-Being Index および General Health Questionnaire score は,1 年間の臨床経過に伴い改善傾向がみられている.(文献 3 より引用改変)

80

90

100

110

120

6

9

12

18

15

21

24

baseline

3 ヵ月6ヵ

月9ヵ

月12ヵ月

Mean total score

Best

aPsychological General Well‒Being index

Worst

follow‒up baseline

3 ヵ月6ヵ

月9ヵ

月12ヵ月

Mean total score

Worst

bGeneral Health Questionnaire

Best

follow‒up

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告している 3).また,Kinoshitaらは FDの QOLと病悩期間には関連がなく,症状の数に関係していると報告している(Intern Med 2011; 50: 2269-2276 a)[検索期間外文献]).しかしながら,現時点ではエビデンスが少なく,FD患者の病悩期間と QOLは,必ずしも相関しないという記述にとどめた.

文献

1) Suzuki H, Masaoka T, Sakai G, et al. Improvement of gastrointestinal quality of life scores in cases of Heli-cobacter pylori-positive functional dyspepsia after successful eradication therapy. J Gastroenterol Hepatol2005; 20: 1652-1660(コホート)

2) Meineche-Schmidt V, Talley NJ, Pap A, et al. Impact of functional dyspepsia on quality of life and healthcare consumption after cessation of antisecretory treatment: a multicentre 3-month follow-up study. ScandJ Gastroenterol 1999; 34: 566-574(コホート)

3) Gutiérrez A, Rodrigo L, Riestra S, et al. Quality of life in patients with functional dyspepsia: a prospective1-year follow-up study in Spanish patients. Eur J Gastroenterol Hepatol 2003; 15: 1175-1181(コホート)

【検索期間外文献】a) Kinoshita Y, Chiba T. Characteristics of Japanese Patients with Chronic Gastritis and Comparison with

Functional Dyspepsia Defined by ROME III Criteria: Based on the Large-Scale Survey, FUTURE Study.Intern Med 2011; 50: 2269-2276(横断)

1.概念・定義・疫学

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2.病 態

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Clinical Question 2-12.病 態

FD の病態は多因子によるものか?

CQ 2-1 FD の病態は多因子によるものか?

ステートメント

● FD の病態には多因子が関与しているものと考えられる.

解説

FDの病態に関しては,胃適応性弛緩障害 1),胃排出障害 2),内臓知覚過敏 3),社会的因子 4),H. pylori 感染 5),胃酸分泌 6),遺伝的要因 7),心理的要因(特に不安や虐待歴)8),サルモネラ感染などの感染性腸炎の既往 9),アルコールや喫煙などの生活習慣 10),胃形態(Neurogastroenterol

Motil 2012; 24: 451-e214 a)[検索期間外文献]),などが関与しているものと考えられている.

文献

1) Tack J, Piessevaux H, Coulie B, et al. Role of impaired gastric accommodation to a meal in functional dys-pepsia. Gastroenterology 1998; 115: 1346-1352(コホート)

2) Stanghellini V, Tosetti C, Paternico A, et al. Risk indicators of delayed gastric emptying of solids inpatients with functional dyspepsia. Gastroenterology 1996; 110: 1036-1042(横断)

3) Hammer J, Führer M, Pipal L, et al. Hypersensitivity for capsaicin in patients with functional dyspepsia.Neurogastroenterol Motil 2008; 20: 125-133(ランダム)

4) Henningsen P, Zimmermann T, sattel H. Medically unexplained physical symptoms, anxiety, and depres-sion: a metaanalytic review. PsychosomMed 2003; 65: 528-533(メタ)

5) Moayyedi P, Soo S, Deeks J, et al. Systematic review and economic evaluation of Helicobacter pylori eradica-tion treatment for non-ulcer dyspepsia: Dyspepsia Review Group. BMJ 2000; 321: 659-664

6) Moayyedi P, Delaney BC, Vakil N, et al. The efficacy of proton pump inhibitors in nonulcer dyspepsia: asystematic review and economic analysis. Gastroenterology 2004; 127: 1329-1337(メタ)

7) Holtmann G, Siffert W, Haag S, et al. G-protein beta 3 subunit 825 CC genotype is associated with unex-plained functional dyspepsia. Gastroenterology 2004; 126: 971-979

8) Aro P, Talley NJ, Ronkainen J. Anxiety is associated with univestigated functional dyspepsia (RomeⅢcri-teria) in Swedish population-based study. Gastroenterology 2009; 137: 94-100(横断)

9) Tack J, Demedts I, Dehondt G, et al. Clinical and pathophysiological characteristics of acute-onset func-tional dyspepsia. Gastroenterology 2002; 122: 1738-1747(ケースコントロール)

10) Talley NJ, Weaver AL, Zinsmeister AR. Smoking, alcohol, and nonsteroidal anti-inflammatory drugs inoutpatients with functional dyspepsia and among dyspepsia subgroups. Am J Gastroenterol 1994; 89: 524-528(ケースコントロール)

【検索期間外文献】a) Kusano M, Hosaka H, Moki H, et al. Cascade stomach is associated with upper gastrointestinal symptoms:

a population-based study. Neurogastroenterol Motil 2012; 24: 451-e214(ランダム)

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

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解説

以前より,シンチグラフィーや腹部エコーにより FD患者では胃内の食物の分布に異常があることが指摘されていた 1).胃適応性弛緩測定法としてのバロスタットの登場により FD患者の一部において胃適応性弛緩が認められ,その症状と関連があることが報告された 2, 3).適応性弛緩を改善する薬剤により症状も改善したとする報告もあるが 2),これらは placebo controlled study

ではない.また,胃適応性弛緩と症状との間に関連が認められなかったとする報告も散見される 4).症状の原因となるまだ明らかにされていない病態があり,それに胃適応性弛緩障害が合併しているにすぎないとする意見もある.近年,FD患者における二重盲検 placebo control study

の結果が報告され,胃適応性弛緩と症状の改善に関連性が認められた(Neurogastroenterol Motil

2012; 24: 540-545 a)[検索期間外文献]).

文献

1) Gilja OH, Hausken T, Wilhelmsen I, et al. Impaired accommodation of proximal stomach to a meal infunctional dyspepsia. Dig Dis Sci 1996; 41: 689-696(コホート)

2) Tack J, Piessevaux H, Coulie B, et al. Role of impaired gastric accommodation to a meal in functional dys-pepsia. Gastroenterology 1998; 115: 1346-1352(コホート)

3) Troncon LE, Thompson DG, Ahluwalia NK, et al. Relations between upper abdominal symptoms and gas-tric distension abnormalities in dysmotility like functional dyspepsia and after vagotomy. Gut 1995; 37: 17-22(コホート)

4) Boeckxstaens GE, Hirsch DP, Kuiken SD, et al. The proximal stomach and postprandial symptoms in func-tional dyspeptics. Am J Gastroenterol 2002; 97: 40-48(コホート)

【検索期間外文献】a) Kusunoki H, Haruma K, Manabe N, et al. Therapeutic efficacy of acotiamide in patients with functional

dyspepsia based on enhanced postprandial gastric accommodation and emptying: randomized controlledstudy evaluation by real-time ultrasonography. Neurogastroenterol Motil 2012; 24: 540-545(ランダム)

Clinical Question 2-22.病 態

FD の病態に胃適応性弛緩障害は関連するか?

CQ 2-2 FD の病態に胃適応性弛緩障害は関連するか?

ステートメント

● FD の病態には胃適応性弛緩反応が関連するものがある.

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解説

FD患者のなかには健常者に比べて胃排出が遅延している患者がいることが報告されている 1〜7).このような報告をまとめたメタアナリシスでは,FD患者では胃排出遅延を示す患者が約 40%と高いことが示されている 8).また,食後のもたれ感と嘔吐は固形食の胃排出と関連があることや 9),さらに FD患者の一部には食後早期の胃排出が異常に速い患者が存在するという報告がある 10, 11).しかし,胃排出は健常対照者に比べて遅延していることが多いが,遅延の程度と症状の重症度に相関があるという報告はなく,胃排出が正常な FD患者が半数認められることから,胃排出遅延は一要因に過ぎないと考えられる.

また,FD患者では血中モチリン値が低く,空腹時強収縮(interdigestive migrating complex-

es:IMC)の発現が少ないこと 12)や,特に PDS(postprandial distress syndrome)患者では胃排出遅延と血中グレリン低値が関連すること 6)も報告されている.

文献

1) Stanghellini V, Tosetti C, Paternico A, et al. Risk indicators of delayed gastric emptying of solids inpatients with functional dyspepsia. Gastroenterology 1996; 110: 1036-1042(横断)

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5) Talley NJ, Locke GR, Lahr BD, et al. Functional dyspepsia, delayed gastric emptying, and impaired qualityof life. Gut 2006; 55: 933-939(コホート)

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7) Kikuchi K, Kusano M, Kawamura O, et al. Measurement and evaluation of gastric emptying using

Clinical Question 2-32.病 態

FD の病態に胃排出障害は関連するか?

CQ 2-3 FD の病態に胃排出障害は関連するか?

ステートメント

● FD の病態には胃排出障害が関連するものがある.

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radiopaque barium markers. Dig Dis Sci 2000; 45: 242-247(ケースコントロール)8) Quartero AO, de Wit NJ, Lodder AC, et al. Disturbed solid-phase gastric emptying in functional dyspep-

sia: a meta-analysis. Dig Dis Sci 1998; 43: 2028-2033(メタ)9) Sarnelli G, Caenepeel P, Geypens B, et al. Symptoms associated with impaired gastric emptying of solids

and liquids in functional dyspepsia. Am J Gastroenterol 2003; 98: 783-788(横断)10) Lunding JA, Tefera S, Gilja OH, et al. Rapid initial gastric emptying and hypersensitivity to gastric filling

in functional dyspepsia: effects of duodenal lipids. Scand J Gastroenterol 2006; 41: 1028-1036(ケースコントロール)

11) Zai H, Kusano M. Investigation of gastric emptying disorders in patients with functional dyspepsiareveals impaired inhibitory gastric emptying regulation in the early postcibal period. Digestion 2009; 79(Suppl 1): 13-18(ケースシリーズ)

12) Kusano M, Sekiguchi T, Kawamura O, et al. Further classification of dysmotility-like dyspepsia by interdi-gestive gastroduodenal manometry and plasma motilin level. Am J Gastroenterol 1997; 92: 481-484(ケースコントロール)

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解説

胃の伸展刺激に対して FD患者においては健常者よりも高い頻度で疼痛を感じた 1).また,胃の伸展刺激に対する腹部膨満感の閾値が FD患者において有意に低かった 2).次に,4℃の冷水テストによる疼痛出現までの閾値が FD患者において健常者よりも有意に低い 3).さらに,十二指腸に酸を注入すると FD患者では健常者よりも有意に嘔気を感じるとの報告 4)や十二指腸に脂肪を注入すると FD患者では健常者よりも有意に膨満感や不快感を感じるとの報告がある 5〜7).以上より FD患者では胃の伸展刺激や温度刺激による知覚過敏や十二指腸への酸や脂肪など注入による知覚過敏を有している.

文献

1) Lemann M. Abnormal perception of visceral pain in response to gastric distension in chronic idiopathicdyspepsia: the irritable stomach syndrome. Dig Dis Sci 1991; 36: 1249-1254(横断)

2) Rhee PL. Evaluation of individual symptoms cannot predict presence of gastric hypersensitivity in func-tional dyspepsia. Dig Dis Sci 2000; 45: 1680-1684(横断)

3) Bouin M. Pain hypersensitivity in patients with functional gastrointestinal disorders: a gastrointestinal-specific defect or a general systemic condition? Dig Dis Sci 2001; 46: 2542-2548(横断)

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5) Bjornsson E. Effects of duodenal lipids on gastric sensitivity and relaxation in patients with ulcer-like anddysmotility-like dyspepsia. Digestion 2003; 67: 209-217(横断)

6) Barbera R. Abnormal sensitivity to duodenal lipid infusion in patients with functional dyspepsia. Eur JGastroenterol Hepatol 1995; 7: 1051-1057(横断)

7) Barbera R. Nutrient-specific modulation of gastric mechanosensitivity in patients with functional dyspep-sia. Dig Dis Sci 1995; 40: 1636-1641(横断)

Clinical Question 2-42.病 態

FD の病態に内臓知覚過敏は関連するか?

CQ 2-4 FD の病態に内臓知覚過敏は関連するか?

ステートメント

● FD 患者では胃の伸展刺激や温度刺激による知覚過敏や十二指腸への酸や脂肪などの注入による知覚過敏が示され,FD の病態には内臓知覚過敏が関連するものがある.

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解説

脳と腸管は相互に密接に関連しており,機能性消化管疾患の臨床的発現には,幼少時の体験や,生活上のストレスなどの環境的・社会的要因と,不安や抑うつ,身体化などの心理的要因,腸管の運動や知覚といった腸生理が相互に作用している(図1).これまでの研究から機能性消化管疾患において,心理社会因子が,常習的な欠勤,受療行動,症状,健康関連 QOLなどに影響する可能性が示唆されているが 1〜3),独立した指標は明確化されておらず,各因子が相互的に作用していると考えられる.また,心理社会的因子をスコア化する種々の問診票のスコアにお

Clinical Question 2-52.病 態

心理社会的因子は FD に関連するか?

CQ 2-5 心理社会的因子は FD に関連するか?

ステートメント

● 心理社会的因子が FD と関連することがある.

図 1 機能性消化管疾患の病因と臨床的発現の生物心理社会モデル(RomeⅢ the functional gastrointestinal disorders, 3rd Ed, 2006 より引用改変)

幼少期遺伝環境

心理社会的要因•生活上のストレス•心理状態•対処能力•社会的支援

生理的機能•運動性•知覚•炎症•細菌叢の変化 FGIDs

•薬物療法•受診•日常的機能•QOL

FGIDs

中枢神経系 腸管神経系

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いて,FD患者では健常者と比較し高値を示し 4),HADS(hospital anxiety and depression score)により不安のある群で有意に RomeⅢ基準による FD,特に PDSと関連していた 5).さらに,メタアナリシスによると,non-ulcer dyspepsia(NUD)を含む機能性疾患と抑うつ,不安との間に中等度の相関があり,NUD群では,健常者または器質的疾患を有する群と比較し,抑うつと不安障害が有意に多かった 6).一般住民調査により,機能性消化管疾患の独立した予測因子として,神経症,不安があげられ,抑うつは,単変量解析のみで関連を示していた 7).アジアからの報告によれば,不安と抑うつと FDの関連は認めるが,受療行動には,抑うつではなく,不安が関連していることが示されている 8).

文献

1) Drossman DA, Li Z, Andruzzi E, et al. Householder survey of functional gastrointestinal disorders: preva-lence, sociodemography and health impact. Dig Dis Sci 1993; 38: 1569-1580(横断)

2) Haag S, Senf W, Hauser W, et al. Impairment of health related quality of life in functional dyspepsia andchronic liver disease: the influence of depression and anxiety. Aliment Pharmacol Ther 2008; 27: 561-571

(ケースコントロール)3) Koloski NA, Talley NJ, Boyce PM. Epidemiology and health care seeking in the functional GI disorders: a

population based study. Am J Gastroenterol 2002; 97: 2290-2299(横断)4) Wilhelmsen T, Haug TT, Sipponen P, et al. Helicobactor pylori in functional dyspepsia and normal con-

trols. Scand J Gastroenterol 1994; 29: 522-527(ケースコントロール)5) Aro P, Talley NJ, Ronkainen J. Anxiety is associated with univestigated functional dyspepsia (RomeⅢcri-

teria) in Swedish population-based study. Gastroenterology 2009; 137: 94-100(横断)6) Henningsen P, Zimmermann T, Sattel H. Medically unexplained physical symptoms, anxiety, and depres-

sion: a metaanalytic review. PhychosomMed 2003; 65: 528-533(メタ)7) Haug TT, Mykletun A, Dahl AA. Are anxiety and depression related to gastro intestinal symptoms in the

general population? Scand J Gastroenterol 2002; 37: 294-298(横断)8) HuWH, Wong WM, Lam CL, et al. Anxiety but not depression determines health care-seeking behavior in

Chinese patients with dyspepsia with dyspepsia and irritable bowel syndrome: a population-based study.Aliment Pharmacol Ther 2002; 16: 2081-2088(横断)

2.病 態

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解説

胃酸分泌抑制薬が FDの症状改善に有効であることは,複数のメタアナリシスによって明らかにされている 1〜3).また,健常者の胃への直接的な酸刺激によって様々な上腹部症状が出現し 4),さらに FD患者では誘発される症状が有意に強かったことが報告されている(Aliment Pharmacol

Ther 2012; 35: 175-182 a)[検索期間外文献])(図1).しかし,FD患者の基礎胃酸分泌量,最高酸分泌量は健常者と同様であるとの報告が多い 5, 6).ただ,ガストリン放出ペプチド(GRP)による刺激酸分泌量は H. pylori 陽性の FD患者に限って,H. pylori 陽性の健常者および H. pylori 陰性の健常者より多いとの報告がある 7).一方で,胃酸に対する胃または十二指腸粘膜の知覚過敏がFD症状の発生に関与していると考えられている 8〜11).さらには,FDでは食後十二指腸内が健常者より酸性になることが示され,十二指腸内への酸流入が十二指腸運動の低下,適応性弛緩の減弱,胃知覚過敏を引き起こす可能性が報告されている 12, 13)(図2).

Clinical Question 2-62.病 態

胃酸は FD の発症に関連するか?

CQ 2-6 胃酸は FD の発症に関連するか?

ステートメント

● FD 症状に対する胃酸分泌抑制薬の有効性,および胃酸が消化管運動や内臓知覚に与える影響から,胃酸の存在が FD 症状の発症に関与するものがあると考えられる.

図 1 胃内酸注入で惹起される上腹部症状(文献 4 より改変)

胃のもたれ*

げっぷ*

吐き気・むかむか感*

お腹の張り*

0510152025

胃の痛み

胸やけ

満腹感

n=27 *p<0.05

0.1M塩酸注入真水注入

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2.病 態

文献

1) Moayyedi P, Delaney BC, Vakil N, et al. The efficacy of proton pump inhibitors in nonulcer dyspepsia: asystematic review and economic analysis. Gastroenterology 2004; 127: 1329-1337(メタ)

2) Wang WH, Huang JQ, Zheng GF, et al. Effects of proton-pump inhibitors on functional dyspepsia: a meta-analysis of randomized placebo-controlled trials. Clin Gastroenterol Hepatol 2007; 5: 178-185(メタ)

3) Moayyedi P, Soo S, Deeks J, et al. Pharmacological interventions for non-ulcer dyspepsia. Cochrane Data-base Syst Rev 2006; 18: CD001960. Update in: Cochrane Database Syst Rev 2011; CD001960(メタ)

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6) Nyrén O. Secretory abnormalities in functional dyspepsia. Scand J Gastroenterol Suppl 1991; 182: 25-287) El-Omar E, Penman I, Ardill JE, et al. A substantial proportion of non-ulcer dyspepsia patients have the

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8) Bates S, Sjoden PO, Fellenius J, et al. Blocked and nonblocked acid secretion and reported pain in ulcer,nonulcer dyspepsia, and normal subjects. Gastroenterology 1989; 97: 376-383(ケースコントロール)

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12) Lee KJ, Vos R, Janssens J, et al. Influence of duodenal acidification on the sensorimotor function of theproximal stomach in humans. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2004; 286: G278-G284(ケースコン

図 2 胃酸分泌と関連する機能障害

HP感染

酸分泌亢進酸分泌低下 適応性弛緩

拡張不全

知覚閾値

胃知覚過敏

知覚閾値

十二指腸知覚過敏

幽門輪機能 排出能

胃液の急速排出

知覚 知覚

酸分泌

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トロール)13) Lee KJ, Kim JH, Cho SW. Dyspeptic symptoms associated with hypersensitivity to gastric distension

induced by duodenal acidification. J Gastroenterol Hepatol 2006; 21: 515-520(ケースコントロール)

【検索期間外文献】a) Oshima T, Okugawa T, Tomita T, et al. Generation of dyspeptic symptoms by direct acid and water infu-

sion into the stomachs of functional dyspepsia patients and healthy subjects. Aliment Pharmacol Ther2012; 35: 175-182(ケースコントロール)

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解説

H. pylori 感染と FDとの関連性についてはまだ議論の余地があるが,H. pylori 感染はディスペプシア症状の発現に関与していると考えられる.H. pylori 感染に伴う慢性炎症は,組織学的な炎症にとどまらず胃酸分泌機能にも変化が及んでいる.H. pylori 感染が胃・十二指腸運動や内臓知覚に与える影響については明確にはなっていない 1〜6).また,疫学的な検討では,H. pylori 感染と FDとの関連は明確ではない 7〜9).一方で,H. pylori 除菌によるディスペプシア症状の改善については一定の傾向が認められていないものの,メタアナリシスによって約 10%の FD患者に H.

pylori 除菌の有効性が示され,またアジアでのメタアナリシスにおいては,欧米より高い H.

pylori 除菌の効果が示されている 10, 11).この点から H. pylori 感染は,すべてのディスペプシア症状の発現に関与するわけではないものの,ディスペプシア症状を誘発する因子のひとつと考えられる.以上のことから,H. pylori 除菌によりディスペプシア症状の改善が得られた場合は,H.

pylori 関連ディスペプシアとして FDから分けるべきであるとの考えもある(J Neurogastroen-

terol Motil 2011; 17, 366-371 a)[検索期間外文献]).2014 年 1 月に行われた Kyoto Global Con-

sensus Meeting for H. pylori infection(日本消化器病学会主催)ではこの問題が討議され,H.

pylori 除菌を施行したあと,6〜12 ヵ月経過後,症状が消失または改善している場合は,H. pylori

関連ディスペプシアと定義することとなった.

文献

1) Pieramico O, Ditschuneit H, Malfertheiner P. Gastrointestinal motility in patients with non-ulcer dyspep-sia: a role for Helicobacter pylori infection? Am J Gastroenterol 1993; 88: 364-368(ケースコントロール)

2) Caballero-Plasencia AM, Muros-Navarro MC, et al. Dyspeptic symptoms and gastric emptying of solids inpatients with functional dyspepsia: role of Helicobacter pylori infection. Scand J Gastroenterol 1995; 30: 745-751(ケースコントロール)

3) Koskenpato J, Korppi-Tommola T, Kairemo K, et al. Long-term follow-up study of gastric emptying andHelicobacter pylori eradication among patients with functional dyspepsia. Dig Dis Sci 2000; 45: 1763-1768

(コホート)

Clinical Question 2-72.病 態

H. pylori 感染は FD に関連するか?

CQ 2-7 H. pylori 感染は FD に関連するか?

ステートメント

● H. pylori 除菌でディスペプシア症状の改善が得られることがあり,H. pylori 感染は FD に関連することがある.

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— 37 —

4) Matsumoto Y, Ito M, Kamino D, et al. Relation between histologic gastritis and gastric motility in Japanesepatients with functional dyspepsia: evaluation by transabdominal ultrasonography. J Gastroenterol 2008;43: 332-337(ケースコントロール)

5) Scott AM, Kellow JE, Shuter B, et al. Intragastric distribution and gastric emptying of solids and liquids infunctional dyspepsia: lack of influence of symptom subgroups and H. pylori-associated gastritis. Dig DisSci 1993; 38: 2247-2254(ケースコントロール)

6) Mearin F, de Ribot X, Balboa A, et al. Does Helicobacter pylori infection increase gastric sensitivity in func-tional dyspepsia? Gut 1995; 37: 47-51(ケースコントロール)

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8) Kawamura A, Adachi K, Takashima T, et al. Prevalence of functional dyspepsia and its relationship withHelicobacter pylori infection in a Japanese population. J Gastroenterol Hepatol 2001; 16: 384-388(横断)

9) Heikkinen M, Farkkila M. Long-term outcome of functional dyspepsia: effect of Helicobacter pylori infec-tion. A 6- to 7-year follow-up study. Scand J Gastroenterol 2002; 37: 905-910(コホート)

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【検索期間外文献】a) Sugano K. Should we still subcategorize Helicobacter pylori-associated dyspepsia as functional disease? J

Neurogastroenterol Motil 2011; 17, 366-371

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解説

FDと家族歴の関連性を示す報告がされている 1).また,FDの疾患感受性に遺伝子因子が関与している可能性が考えられている.これまで G蛋白をコードする G-protein β3(GNB3)のC825T 遺伝子多型 2〜4),シクロオキシゲナーゼ(COX)-1 の T1675C 遺伝子多型 5),transient

receptor potential vanilloid(TRPV1)の G315C遺伝子多型 6),C-fibersの SCN10A遺伝子多型(J

Gastroenterol 2013; 48: 73-80 a)[検索期間外文献]),セロトニントランスポーター遺伝子のSLC6A4 遺伝子多型 7),それに結合する pri-microRNA 325 遺伝子多型(J Gastroenterol 2012; 47:1091-1098 b)[検索期間外文献])などについて報告されている.しかし,FDと遺伝子多型との関連性についてはまだ明確にはなっていない.

文献

1) Locke GR 3rd, Zinsmeister AR, Talley NJ, et al. Familial association in adults with functional gastrointesti-nal disorders. Mayo Clin Proc 2000; 75: 907-912(ケースコントロール)

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3) Oshima T, Nakajima S, Yokoyama T, et al. The G-protein beta3 subunit 825 TT genotype is associated withepigastric pain syndrome-like dyspepsia. BMCMed Genet 2010; 11: 13-19(ケースコントロール)

4) Shimpuku M, Futagami S, Kawagoe T, et al. G-protein β3 subunit 825CC genotype is associated with post-prandial distress syndrome with impaired gastric emptying and with the feeling of hunger in Japanese.Neurogastroenterol Motil 2011; 23: 1073-1080(ケースコントロール)

5) Arisawa T, Tahara T, Shibata T, et al. Genetic polymorphisms of cyclooxygenase-1 (COX-1) are associatedwith functional dyspepsia in Japanese women. J Womens Health (Larchmt) 2008; 17: 1039-1043(ケースコントロール)

6) Tahara T, Shibata T, Nakamura M, et al. Homozygous TRPV1 315C influences the susceptibility to func-tional dyspepsia. J Clin Gastroenterol 2010; 44: 1-7(ケースコントロール)

7) Toyoshima F, Oshima T, Nakajima S, et al. Serotonin transporter gene polymorphism may be associatedwith functional dyspepsia in a Japanese population. BMCMed Genet 2011; 12: 88(ケースコントロール)

Clinical Question 2-82.病 態

家族歴・遺伝的要因は FD に関連するか?

CQ 2-8 家族歴・遺伝的要因は FD に関連するか?

ステートメント

● 家族歴や様々な遺伝子多型が FD と関連する可能性が示されている.

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— 39 —

【検索期間外文献】a) Arisawa T, Tahara T, Shiroeda H, et al. Genetic polymorphisms of SCN10A are associated with functional

dyspepsia in Japanese subjects. J Gastroenterol 2013; 48: 73-80(ケースコントロール)b) Arisawa T, Tahara T, Fukuyama T, et al. Genetic polymorphism of pri-microRNA 325, targeting SLC6A4

3’-UTR, is closely associated with the risk of functional dyspepsia in Japan. J Gastroenterol 2012; 47: 1091-1098(ケースコントロール)

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— 40 —

解説

被虐待歴と機能性消化管疾患との関連性が認められている 1).バロスタットによる胃知覚および胃機能と幼少期や思春期での被虐待歴の関連を検討した研究では,被虐待歴は胃知覚における不快閾値が低下しており,知覚過敏と関連していた 2, 3).また,身体的虐待より性的虐待のほうが胃知覚および胃運動に与える影響が強かったが,胃排出に関しては一定の成績が示されていない 2).PETを用いた脳の活動性を評価した研究では,被虐待歴は内臓知覚と関連する領域に異なった活動性が示された 4).胃排出に関しては一定の成績が示されていない.

文献

1) Drossman DA, Talley NJ, Leserman J, et al. Sexual and physical abuse and gastrointestinal illness: reviewand recommendations. Ann Intern Med 1995; 123: 782-794(メタ)

2) Geeraerts B, Van Oudenhove L, Fischler B, et al. Influence of abuse history on gastric sensorimotor func-tion in functional dyspepsia. Neurogastroenterol Motil 2009; 21: 33-41(ケースコントロール)

3) Van Oudenhove L, Vandenberghe J, Vos R, et al. Abuse history, depression, and somatization are associat-ed with gastric sensitivity and gastric empting in functional dysplasia. Psychosom Med 2011; 73: 648-655

(ケースコントロール)4) Van Oudenhove L, Vandenberghe J, Dupont P, et al. Regional brain activity in functional dyspepsia: a

H(2)(15)O-PET study on the role of gastric sensitivity and abuse history. Gastroenterology 2010; 139: 36-47(ケースコントロール)

Clinical Question 2-92.病 態

幼少期や思春期の環境は FD に関連するか?

CQ 2-9 幼少期や思春期の環境は FD に関連するか?

ステートメント

● 幼少期や思春期での被虐待歴は FD と関連するものがある.

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解説

サルモネラ感染性胃腸炎が流行したスペインの一地方で,流行後も 1年間にわたり FD症状を訴える患者が増加したとする疫学的報告がある 1).発熱・下痢・悪心・嘔吐・筋肉痛といった,急性感染性胃腸炎後に FD症状が持続しているとの報告がある 2).さらに,感染後 FD患者においては,早期飽満感・体重減少・悪心などの臨床症状がしばしば見受けられることも報告されている 3).わが国においても,明らかな急性感染性胃腸炎後もしくは採血検査での CRP陽性,便培養陽性などから急性感染性胃腸炎が疑われ,これを契機として FD症状が持続する感染後 FD症例が報告されている 4).また,アジアでも,感染後 FD患者の胃粘膜内mast cellやEC cellの有意な増加を認めるとする報告などがある 5, 6)(図1).

Clinical Question 2-102.病 態

感染性胃腸炎の罹患後に FD の発症がみられるか?

CQ 2-10 感染性胃腸炎の罹患後に FD の発症がみられるか?

ステートメント

● 感染性胃腸炎を契機とした FD の発症がみられることがある.

図 1 感染性胃腸炎罹患後 FD(Spiller R. Gastroenterology 2010; 138: 1660-1663 を一部改変)

Giardia IambliaNeurogastroenterol Motil 2007; 19: 977‒982

NorovirusAm J Gastroenterol 2011; 106: 130‒138

病原体消化管局所の炎症

Salmonella sppGastroenterology 2005; 129: 98‒104

Campylobacter spp, E. coli, O-157Gastroenterology 2010; 138: 1727‒1736Am J Gastroenterol 2010;105: 1835‒1842

感染後 FD患者の十二指腸粘膜にマクロファージを主体とする炎症細胞浸潤の増加と報告Neurogastroenterol Motil 2009; 21: 832‒e56

感染後 FD患者の十二指腸粘膜に好酸球とマクロファージを主体とする炎症細胞浸潤の増加と報告Am J Gastroenterol 2010; 105: 1835‒1842

感染後 FD患者の胃粘膜に肥満細胞とEC細胞の浸潤の増加と報告Scand J Gastroenterol 2010; 45: 573‒581

中枢

人格,心気症神経病的傾向,抑うつ

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2.病 態

これら,感染後 FD症例の病態であるが,十二指腸を責任臓器と考え,十二指腸粘膜内の炎症細胞浸潤に着目した報告がいくつかあげられる.十二指腸粘膜の腺窩内ではヘルパー T細胞の浸潤が抑制されており,一方でマクロファージの浸潤が増加していたとする報告 2)やマクロファージに加え好酸球の有意な浸潤を認めるとする報告 4)がある(図1).

文献

1) Mearin F, Pérez-Oliveras M, Perelló A, et al. Dyspepsia and irritable bowel syndrome after a salmonellagastroenteritis outbreak: one-year follow-up cohort study. Gastroenterology 2005; 129: 98-104(横断)

2) Kindt S, Tertychnyy A, de Hertogh G, et al. Intestinal immune activation in presumed post-infectiousfunctional dyspepsia. Neurogastroenterol Motil 2009; 21: 832-e56(ケースコントロール)

3) Tack J, Demedts I, Dehondt G, et al. Clinical and pathophysiological characteristics of acute-onset func-tional dyspepsia Gastroenterology 2002; 122: 1738-1747(ケースコントロール)

4) Futagami S, Shindo T, Kawagoe T, et al. Migration of eosinophils and CCR2-/CD68-double positive cellsinto the duodenal mucosa of patients with postinfectious functional dyspepsia. Am J Gastroenterol 2010;105: 1835-1842(ケースコントロール)

5) Li X, Chen H, Lu H, et al. The study on the role of inflammatory cells and mediators in post-infectiousfunctional dyspepsia. Scand J Gastroenterol 2010; 45: 573-581(ケースコントロール)

6) Fock KM. Functional dyspepsia, H. pylori and post-infectious FD. J Gastroenterol Hepatol 2011; 26 (Suppl3): 39-41

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解説

FD症状と喫煙・アルコール消費量・不眠といった生活習慣とは相関している.ディスペプシア患者においては,消化性潰瘍患者と比較して,精神神経的問題・社会的背景・

life styleを比較すると,異なっており,精神的ファクターや社会的背景などとディスペプシア症状が相関していた 1).さらに,FD患者は,喫煙をする傾向と制酸薬・アスピリン・NSAIDsを服用する傾向にある 2)(図1).さらに FD患者は何らかの宗教に入信していないことや,お茶の消費量が有意に少なく,アルコール消費量はむしろ少ない傾向にあった 3)(図1).RomeⅡ分類に基づく FD患者にあっては,ulcer-like型の FD患者においては non-specific型の FD患者に

Clinical Question 2-112.病 態

生活習慣は FD に関連するか?

CQ 2-11 生活習慣は FD に関連するか?

ステートメント

● 喫煙,アルコール摂取量,不眠などの生活習慣は FD 症状に関与する傾向がある.

図 1 生活習慣と FD

喫煙は増悪因子Am J Gastroenterol 2004; 99: 2210‒2216Intern Med 2011; 50: 2443‒2447FD 診察の手引き,本郷道夫(編),ヴァンメディカル,2008

睡眠障害は関連因子Neurogastroenterol Motil 2012; 24: 464‒471J Gastroenterol Hepatol 2011; 26 (Suppl 3): 19‒22Gut 1994; 35: 916‒925J Gastroenterol Hepatol 2013; 28: 1314‒1320

アルコール摂取量は関連因子Eur J Gastroenterol Hepatol 2010; 22: 75‒80Am J Gastroenterol 1994; 89: 524‒528

機能性ディスペプシア

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2.病 態

比較してアルコール摂取量が少ない傾向にあった 4).加えて,独身で生活を送っている傾向が有意にみられた.また,FD患者においては,健常者に比較して夜間に繰り返し覚醒したり,起床時に熟睡感が得られないなどの睡眠障害が,より有意に認められる傾向にあった 5).加えて,わが国からも,睡眠は FD症状に関係するという報告がある 6)(Neurogastroenterol

Motil 2012; 24: 464-471 a)[検索期間外文献])(図1).

文献

1) Johnsen R, Straume B, Forde OH. Peptic ulcer and non-ulcer dyspepsia-a disease and a disorder. Scand JPrim Health Care 1988; 6: 239-243(ケースコントロール)

2) Shaib Y, El-Serag HB. The prevalence and risk factors of functional dyspepsia in a multiethnic populationin the United States. Am J Gastroenterol 2004; 99: 2210-2216(ケースコントロール)

3) Chen TS, Luo JC, Chang FY. Psychosocial spiritual factors in patients with functional dyspepsia: a compar-ative study with normal individual having the same endoscopic features. Eur J Gastroenterol Hepatol2010; 22: 75-80(ケースコントロール)

4) Talley NJ, Weaver AL, Zinsmeister AR. Smoking, alcohol, and nonsteroidal anti-inflammatory drugs inoutpatients with functional dyspepsia and among dyspepsia subgroups. Am J Gastroenterol 1994; 89: 524-528(ケースコントロール)

5) David D, Mertz H, Fefer B, et al. Sleep and duodenal motor activity in patients with severe non-ulcer dys-pepsia. Gut 1994; 35: 916-925(ケースコントロール)

6) Hongo M. Epidemiology of FGID symptoms in Japanese general population with reference to life style. JGastroenterol Hepatol 2011; 26 (Suppl 3): 19-22(横断)

【検索期間外文献】a) Miwa H. Life style in persons with functional gastrointestinal disorders-large scale internet survey of life

style in Japan. Neurogastroenterol Motil 2012; 24: 464-471(横断)

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解説

FD患者の食事内容自体は,健常者と比較して摂取カロリー,蛋白質量,炭水化物量などには差は認められない 1).しかし,脂肪摂取量は健常者より少ない傾向にある 2).このことは,FD患者が脂肪食を摂ることで,症状が出現することを経験しているためとも考えられる.FD患者では,腹満感と脂肪摂取に比較的相関があると報告されている 2).実際,高脂肪食の負荷によって健常者に比べて,吐き気・腹痛が FD患者でより有意に出現しやすいことが報告されている 3).このことは,FD患者の胃内にバルーンを留置した状態で十二指腸内に脂肪を投与することで,より腹部膨満感,満腹感,吐き気をきたしやすくなるとする報告でも実証されている 4).また,唐辛子成分でもある,カプサイシンや spicy foodについても FD患者で,いくつかの報

告がなされている.カプサイシンは TRPV1 を介して,上腹部の痛みや灼熱感をきたすことが知られている.実際,カプサイシンや spicy foodの摂取により FD患者では,FD症状が増悪すると報告されている 5, 6).一方で,慢性的にカプサイシンを含有した食事を摂ることで,FD症状が軽減されるとする報告もある 7).また,FD患者は食事をスキップしたり,早食いをする食習慣がみられる傾向にあり,たとえ

ば,脂肪摂取量が健常者より少ないにもかかわらず,夜間に脂肪を多く含む食事を摂る傾向にある 8)など,食事内容と食習慣のバランスの悪さが FD症状を誘発する傾向にあると考えられ,この両者の修正により FD症状の改善が期待できると思われる.

文献

1) Carvalho RV, Lorena SL, Almeida JR, et al. Food intolerance, diet composition, and eating patterns infunctional dyspepsia patients. Dig Dis Sci 2010; 55: 60-65(ケースコントロール)

2) Pilichiewicz AN, Horowitz M, Holtmann GJ, et al. Relationship between symptoms and dietary patternsin patients with functional dyspepsia. Clin Gastroenterol Heaptol 2009; 7: 317-322(ケースコントロール)

3) Pilichiewicz AN, Feltrin KL, Horowitz M, et al. Functional dyspepsia is associated with a greater sympto-matic response to fat but not carbohydrate, increased fasting and postprandial CCK, and diminished PYY.Am J Gastroenterol 2008; 103: 2613-2623(ケースコントロール)

Clinical Question 2-122.病 態

食事内容や食習慣は FD の増悪に関連するか?

CQ 2-12 食事内容や食習慣は FD の増悪に関連するか?

ステートメント

● 高脂肪食は一部の FD 症状の増悪に関与する可能性が高い.

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2.病 態

4) Fried M, Feinle C. The role of fat and cholecystokinin in functional dyspepsia. Gut 2002; 51 (Suppl): i54-i57(ケースコントロール)

5) Mullan A, Kavanagh P, O’Mahony P, et al. Food and nutrient intakes and eating patterns in functional andorganic dyspepsia. Eur J Clin Nutr 1994; 48: 97-105(ケースコントロール)

6) Hammer J, Führer M, Pipal L, et al. Hypersensitivity for capsaicin in patients with functional dyspepsia.Neurogastroenterol Motil 2008; 20: 125-133(ランダム)

7) Bortolotti M, Coccia G, Grossi G, et al. The treatment of functional dyspepsia with red pepper. AlimentPharmacol Ther 2002; 16: 1075-1082(ランダム)

8) Cuperus P, Keeling PW, Gibney MJ. Eating patterns in functional dyspepsia: a case control study. Eur JClin Nutr 1996; 50: 520-523(ケースコントロール)

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解説

バリウム検査を用いた詳細な検討 1)によれば,FD症状の発現は健常者群に比較して胃下垂群において有意に低値であったとしている.一方,上腹部症状(逆流症状,FD症状)の発現を瀑状胃の有無で検討すると,瀑状胃群では,正常胃群に比較して上腹部症状は有意に高率であり,特に,逆流症状は有意に高率であった.FD症状は,瀑状胃群では有意ではないものの,正常胃群に比べて高率に認められたとする報告(Neurogastroenterol Motil 2012; 24: 451-e214 a)[検索期間外文献])がある.

文献

1) Kusano M, Moki F, Hosaka H, et al. Gastroptosis is associated with less dyspepsia, rather than a cause ofdyspepsia, in Japanese persons. Intern Med 2011; 50: 667-671(ケースコントロール)

【検索期間外文献】a) Kusano M, Hosaka H, Moki H, et al. Cascade stomach is associated with upper gastrointestinal symptoms:

a population-based study. Neurogastroenterol Motil 2012; 24: 451-e214(ランダム)

Clinical Question 2-132.病 態

胃の形状(胃下垂,瀑状胃)は FD の発症に関連するか?

CQ 2-13 胃の形状(胃下垂,瀑状胃)は FD の発症に関連するか?

ステートメント

● 胃(胃下垂,瀑状胃)の形状とディスペプシア症状の頻度とは関連する傾向にある.

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3.診 断

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解説

FD診断の基本は,RomeⅢ基準などによる症状の評価と器質的疾患の除外である.これまでに FD症状の問診や自己記入式問診票のみで,消化性潰瘍などの器質的疾患に伴う上腹部症状を区別することは困難であるとの報告 1〜4)が多数あり,特に欧米に比べ胃癌の発生が多い日本においては,器質的疾患の除外に内視鏡検査が必要であるとの意見が多い.また,内視鏡検査を行うと,胃癌などの器質的疾患が存在しないことを患者さんに適切に伝えることができ,さらには H. pylori 感染・組織学的慢性胃炎の有無を検査できることからも,FDの診療上内視鏡検査を行うことは大きな利点と考えられる.

しかし,日常の臨床において,すべての医療機関で内視鏡検査が可能であるわけではなく,また,コストの問題や検査の苦痛や恐怖などから,検査を拒否される患者さんも少なからず存在する.これらの点に加え,症状の軽減と QOLの改善が FD治療の主な目的であることを考慮すると,内視鏡検査より症状の軽減を目指した治療をまず開始すべき例も存在するように考えられる.

いずれにせよ,FDの診療では,内視鏡検査を行うことは大変重要である.内視鏡検査ができない施設でも,漫然と治療だけを行うことは避けるべきであり,内視鏡検査を検査可能な施設に依頼してでも,器質的疾患の除外に努めることが必要であろう.

文献

1) Nyren O, Adami HO, Gustavsson S, et al. The “Epigastric distress syndrome” a possible disease entityidentified by history and endoscopy in patients with nonulcer dyspepsia. J Clin Gastroenterol 1987; 9: 303-309(コホート)

2) Lundquist P, Seensalu R, Linden B, et al. Symptom criteria do not distinguish between functional andorganic dyspepsia. Eur J Surg 1998; 164: 345-352(ケースコントロール)

3) Talley NJ, Walker MM, Aro P, et al. Non-ulcer dyspepsia and duodenal eosinophilia: an adult endoscopicpopulation- based case-control study. Clin Gastroenterol Hepatol 2007; 5: 1175-1183(横断)

4) Ji R, Yu T, Gu XM, et al. Gastric metaplasia of the duodenum: in vivo diagnosis by endoscopy and its rela-tionship with functional dyspepsia. J Gastroenterol Hepatol 2011; 26: 73-77(横断)

Clinical Question 3-13.診 断

日常診療において内視鏡検査は FD の診断に必要か?

CQ 3-1 日常診療において内視鏡検査は FD の診断に必要か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 他疾患の除外が重要となる FD の診断において,内視鏡検査を行う意義は大きく,診療のいずれかの段階で内視鏡検査を行うことを提案する.

2(100%) B

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解説

FD診断の基本として重要である器質的な消化管疾患の除外に用いる内視鏡に加えて,腹部超音波,CTなどの画像診断は,消化管以外の器質的疾患を除外するうえで重要な手段であり,状況によって積極的に行うべきと考えられる.一方,FDの診療において,超音波やシンチグラムなどの画像診断を用い胃,十二指腸運動機

能を検討した報告は多い 1〜6).このような画像診断による機能検査のみから FDの診断は困難であるが,FDの消化管運動機能異常の把握,病態診断には有用であると考えられる.しかし,現時点でこれらの画像を用いた FDの機能検査は保険適用にはなっておらず,すべての日常診療に用いることができないのが現状である.

文献

1) Gilja OH, Hausken T, Berstad A, et al. Three-dimensional ultrasonography of the gastric antrum inpatients with functional dyspepsia. Scand J Gastroenterol 1996; 31: 847-855(横断)

2) Lorend M, Bucceri AM, Catalano F, et al. Pattern of gastric emptying in functional dyspepsia: an ultra-sonographic study. Dig Dis Sci 2004; 49: 404-407(横断)

3) Savoye G, Bouin M, Denis P, et al. Delayed postprandial fundic relaxation: a new abnormal finding infunctional dyspepsia. Scand J Gastroenterol 2005; 40: 354-355(横断)

4) Misiara GP, Troncon LEA, Moraes ER, et al. Comparison between manual and automated techniques forassessment of data from dynamic antral scintigraphy. Ann Nucl Med 2008; 22: 761-767(横断)

5) Kusunoki H, Haruma K, Hara M, et al. Simple and non-invasive assessment of the accommodation reflexof the proximal stomach. J Smooth Muscle Res 2010; 46: 249-258(横断)

6) Kato M, Nishida U, Nishida M, et al. Pathophysiological classification of functional dyspepsia using anovel drinking-ultrasonography test. Digestion 2010; 82: 162-166(横断)

Clinical Question 3-23.診 断

内視鏡検査以外の画像検査は FD の診断に必要か?

CQ 3-2 内視鏡検査以外の画像検査は FD の診断に必要か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● FD の診断に,必要に応じて内視鏡検査以外の画像検査を行うことを提案する.

2(90%) C

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解説

現在のところ,FDの診断に有用な診断指標(バイオマーカー)は認められない.これまで,血中グレリン値 1)あるいは各種遺伝子多型など FDに関する種々の診断指標(バイオマーカー)の検討 2, 3)が,健常者と比較した症例対照研究を主体になされている.この研究では一定の成果が認められるが,FD診断に広く応用できる診断指標(バイオマーカー)は確認されず,一部の施設で研究的に用いられているのが現状である.また保険適用になっている診断指標(バイオマーカー)もない.ただし,FD診療において,器質的疾患の除外診断のために行われる炎症反応などの血液生化

学,免疫検査は有用かつ重要と考えられる.

文献

1) Shinomiya T, Fukunaga M, Akamizu T, et al. Plasma acylated ghrelin levels correlate with subjectivesymptoms of functional duspepsia in female patients. Scant J Gastroenterol 2005; 40: 648-653(ケースコントロール)

2) Holtmann G, Talley NJ. Hypothesis driven research and molecular mechanisms in functional dyspepsia:the beginning of a beautiful friendship in research and practice? Am J Gastroenterol 2006; 101: 593-595

(ケースシリーズ)3) Liebregts T, Adam B, Bredack C, et al. Small bowel homing T cells are associated with symptoms and

delayed gastric emptying in functional dyspepsia. Am J Gastroenterol 2011; 106: 1089-1098(ケースコントロール)

Clinical Question 3-33.診 断

FD の診断に有用な診断指標(バイオマーカー)はあるか?

CQ 3-3 FD の診断に有用な診断指標(バイオマーカー)はあるか?

ステートメント

● FD の診断にあたって,有用な診断指標(バイオマーカー)は現在のところ認められない.

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— 53 —

解説

FDの診療にあたっては,まず症状の詳細を把握することが基本となる.上腹部痛や食後膨満感など種々の症状をより正確に把握するには,問診のみの診察では限界があるため,FD症状の種類,程度などを客観的に評価する方法として,自己記入式質問票が用いられることが多い.世界には多くの FDに関する自己記入式質問票 1〜8)があり,日本でも GSRS 9),出雲スケール 10),FSSG 11)などが用いられている.しかし,多くの場合,これらの質問票のみで消化性潰瘍などの器質的疾患による上腹部症状を鑑別することは難しく,器質的疾患の除外には内視鏡検査など他の検査を組み合わせることが重要となる.また,FDの治療効果判定にも自己記入式質問票は非常に有用である.実際これまでのほとん

どの臨床試験は,薬剤の治療効果判定には自己記入式質問票が用いられている.このように FD診療にあたっては,診断,治療両面において,自己記入式質問票の有用性は

高いと考えられ,自己記入式質問票を積極的に用いることが推奨される.

文献

1) Talley NJ, Piper DW. The association between non-ulcer dyspepsia and other gastrointestinal disorders.Scand J Gastroenterol 1985; 20: 896-900(横断)

2) Junghard O, Lauritsen K, Talley NJ, et al. Validation of seven graded diary cards for severity of dyspepticsympytoms in patients with non ulcer dyspepsia. Eur J Surg Suppl 1998; 583: 106-111(ケースシリーズ)

3) Lundquist P, Seensalu R, Linden B, et al. Symptom criteria do not distinguish between functional andorganic dyspepsia. Eur J Surg 1998; 164: 345-352

4) Talley NJ, Verlinden M, Jones M. Validity of a new quality of life scale for functional dyspepsia: a UnitedStates multicenter trial of the Nepean dyspepsia index. Am J Gastroenterol 1999; 94: 2390-2397(横断)

5) Jones M, Maganti K. Symptoms, gastric function, and psychosocial factors in functional dyspepsia. J ClinGastroenterol 2004; 38: 866-872(横断)

6) Lu CL, Lang HC, Chang FY, et al. Prevalence and health/social impacts of functional dyspepsia in Tai-wan: a study based on the Rome criteria questionnaire survey assisted by endoscopic exclusion among a

Clinical Question 3-43.診 断

FD の診療に自己記入式質問票は有用か?

CQ 3-4 FD の診療に自己記入式質問票は有用か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● FD の診療に自己記入式質問票は有用であり,行うことを提案する. 2(100%) B

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3.診 断

physical chek-up population. Scand J Gastroenterol 2005; 40: 402-411(横断)7) Jones M, Talley NJ. Minimum clinically important difference for the Nepean dyspepsia index, a validated

quality of life scale for functional dyspepsia. Am J Gastroenterol 2009; 104: 1483-1488(横断)8) Von Reisswitz PS, Mazzoleni LE, Sander GB, et al. Portuguese validation of the RomeⅢ diagnostic ques-

tionnaire for functional dyspepsia. Arq Gastroenterol 2010; 47: 354-360(横断)9) Dimenas E, Glise H, Hallerback B, et al. Quality of life in patients with upper gastrointestinal symptoms.

Scand J Gastroenterol 1993; 28: 681-68710) Kakuta E, Yamashita N, Katsube T, et al. Abdominal symptom-related QOL in indivisuals visiting an out-

patient clinic and those affecting an annual health check. Intern Med 2011; 50: 1517-152211) Kusano M, Shimoyama Y, Sugimoto S, et al. Development and evaluation of FSSG: frequency scale for the

symptoms of GERD. J Gastroenterol 2004; 39: 888-891

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解説

一般に心理社会的因子は FD発症のリスク要因,病態のひとつと考えられている.ストレスなどの心理社会的因子が FDの病態に関与する程度は患者によって異なり,また同じ患者でも時期によりその都度変化しているため,注意深い観察が必要との指摘 1)がある.FDの診療にあたっては,その診断時には心理社会的な問題点をも整理し,診断治療プロセス

では心療内科的なアプローチ 2)を併用することが望まれる.

文献

1) Wilhelmsen I, Haug TT, Ursin H, et al. Discriminant analysis of factors distinguishing patients with func-tional dyspepsia from patients with duodenal ulcer. Dig Dis Sci 1995; 40: 1105-1111(ケースコントロール)

2) 中井吉英,石野振一郎,福永幹彦.心身症としての NUD/FD心療治療ガイドライン.厚生労働省精神・神経疾患研究委託費総括研究報告書—心身症の診断・治療ガイドライン作成とその実証,2002: p27-28(ガイドライン)

Clinical Question 3-53.診 断

FD の診療に心理社会的因子の評価は必要か?

CQ 3-5 FD の診療に心理社会的因子の評価は必要か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● FD の診療に心理社会的因子の評価は必要であり,行うことを推奨する.

1(100%) C

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解説

FDの病態と H. pylori 感染との関連性については,H. pylori の感染率を健常者と比較した研究,除菌療法が FD症状に効果があるかをみた RCT,システマティックレビュー,メタアナリシスなど質が高い多くの報告 1〜5)がある.これらをみると,FD症状と H. pylori 感染の関連,あるいは,除菌療法の効果に関してのいずれにおいても,有意な差があるとするものとないとする報告 6, 7)が混在しており,一定の結果が出ていないのが現況である.しかし,これらの報告からは,少なくとも除菌療法が FD症状の改善に有効な例がある可能性

は否定できないことから,米国の治療ガイドラインでは,H. pylori 陽性の FD患者は第一選択として除菌療法が勧められている.また,H. pylori 感染は炎症性細胞の著明な浸潤を伴う慢性炎症を胃粘膜に引き起こし,FD以外にも胃癌などの様々な疾患に関与していることから,慢性疾患である FDの診療において,少なくとも H. pylori の感染の有無を知っておく必要があると考えられる.

文献

1) Lai ST, Fung KP, Lee KC, et al. A quantitative analysis of symptoms of non-ulcer dyspepsia as related toage, pathology, and Helicobacter infection. Scand J Gastroenterol 1996; 31: 1078-1082(横断)

2) ArmstrongD. Helicobacter pylori infection and dyspepsia. Scand J Gastroenterol (Suppl) 1996; 215: 38-47(メタ)3) Heikkinen M, Farkkila M. Long-term outcome of functional dyspepsia; effect of Helicobacter pylori infec-

tion. A 6- to 7-year follow-up study. Scand J Gastroenterol 2002; 37: 905-910(コホート)4) Simren M, Jozef Janssens RV, Tack J. Unsuppressed postprandial phasic contractility in the proximal stom-

ach in functional dyspepsia: relevance to symptoms. Am J Gastroenterol 2003; 98: 2169-2175(横断)5) Stolte M, Muller H, Talley NJ, et al. In patients with Helicobacter pylori gastritis and functional dyspepsia, a

biopsy from the incisura angularis provides useful diagnostic information. Pathol Res Pract 2006; 202: 405-413(横断)

6) Talley NJ, Axon A, Bytzer P, et al. Management of uninvestigated and functional dyspepsia: a workingparty report for the World Congress of Gastroenterology 1998. Aliment Pharmacol Ther 1999; 13: 1135-1148(メタ)

7) 山崎幸直.機能性胃腸症に対するH. pylori除菌の長期効果.消化器科 2008; 47: 156-161(コホート)

Clinical Question 3-63.診 断

FD の診断時に H. pylori 検査をすべきか?

CQ 3-6 FD の診断時に H. pylori 検査をすべきか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● FD の診断時に H. pylori 検査を行うことを推奨する. 1(100%) A

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解説

アラームサイン(警告徴候)とは,体重減少,再発性の嘔吐,出血,嚥下困難,高齢,腹部腫瘤,発熱といった器質的疾患の存在を疑うべき徴候である(日本内科学会雑誌 2012; 101: 2690-2697 a)[検索期間外文献]).Hammerらの検討では FD患者も器質的疾患を有する患者と同様に何らかのアラームサインを呈していた.各アラームサイン毎の検討でも器質的疾患を有する患者と FD患者との間に存在率の差を認めず,アラームサインのみでは器質的疾患と FDを鑑別することができなかった 1).悪性腫瘍などの重度の器質的疾患を見逃すリスクは低くなく,アラームサインを認めれば,器質的疾患の存在を疑うべきであり,認めなくても器質的疾患の可能性は否定できない(図1).なお,家庭医システムの発達した欧州からの報告では,プライマリケ

Clinical Question 3-73.診 断

アラームサイン(警告徴候)は器質的疾患を疑うべきサインとなるか?

CQ 3-7 アラームサイン(警告徴候)は器質的疾患を疑うべきサインとなるか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● アラームサイン(警告徴候)を器質的疾患を疑うべきサインとすることを提案する.

2(100%) B

図 1 アラームサイン(警告徴候)を有する場合の診断アルゴリズム

慢性・反復性のディスペプシア症状

積極的に器質的疾患を疑うYes

No

器質的疾患の可能性は否定できず

アラームサイン(警告徴候)(体重減少,再発性の嘔吐,出血,嚥下困難,高齢,腹部腫瘤,発熱の有無)

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3.診 断

ア医から消化器専門医へと医療機関の専門性が高くなるにつれて,アラームサインの存在率が上がってくることが記されている 2).

文献

1) Hammer J, Eslick GD, Howell SC, et al. Diagnostic yield of alarm features in irritable bowel syndrome andfunctional dyspepsia. Gut 2004; 53: 666-672(横断)

2) Madsen LG, Bytzer P. The value of alarm features in identifying organic causes of dyspepsia. Can J Gas-troenterol 2000; 14: 713-720

【検索期間外文献】a) 本郷道夫,福土 審,庄司知隆,ほか.機能性胃腸症の病態と治療.日本内科学会雑誌 2012; 101: 2690-

2697

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解説

FD患者 35 名と年齢,性別が同等な対照群 28 名の胃排出能をシンチグラフィで検討したところ,FD患者において有意な胃排出遅延を認めたとの報告がある 1).また,別の報告では,FD患者 40 名と対照群 29 名の胃排出能をシンチグラフィで検討し,胃排出能の有意な差を認めなかった 2).しかし,後者では患者群と対照群の背景因子が揃っておらず,前者の結果との比較は困難である.また,FD患者 52 名と年齢,性別が同等な対照群 18 名で経腸栄養剤によるドリンクテストを

行ったところ,FD群においては対照群と比較して有意に少ない量で飽満感の出現を認めた 3).別報の FD患者 78 名と年齢,性別が同等な対照群 34 名で経腸栄養剤によるドリンクテストによる比較では,前出の報告と同様に FD群では対照群と比較して有意に少ない量で飽満感の出現を認めたが,同時に行われた 13Cオクタン酸負荷呼気試験による胃排出能測定では FD群と対照群との間に胃排出能に有意な差を認めなかった 4).これらは,FDでは胃排出能は正常で,胃適応性弛緩障害が病因となる一群の存在を示唆している.しかし,消化管機能障害の有無と病態,治療反応性は必ずしも一致しないところから,Asian consensus for FDのステートメントでは,「ルーチンの臨床テストとして推奨しない」とされている(J Gastroenterol Hepatol 2012; 27:626-641 a)[検索期間外文献]).消化管機能検査を行うことにより,一部の症例においては胃排出能や胃適応性弛緩の障害と

いった症状の起因となっている病態を明確にすることができ,消化管運動機能改善薬の適応を決める際の判断材料になる可能性があるが,臨床研究として限られた施設においてのみ施行可能であることが現況である.

文献

1) Rahim MK, Durr ES, Mateen A, et al. Studies of gastric emptying time in patients with non-ulcer dyspep-sia. Nucl Med Commun 2007; 28: 852-858(非ランダム)

Clinical Question 3-83.診 断

消化管機能検査は日常診療を行ううえで有用か?

CQ 3-8 消化管機能検査は日常診療を行ううえで有用か?

ステートメント

● 現状ではモダリティの普及の面や消化管機能障害の有無と病態,治療反応性が必ずしも一致しないところから,日常診療における有用性は明らかではない.

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2) Piessevaux H, Tack J, Walrand S, et al. Intragastric distribution of a standardized meal in health and func-tional dyspepsia: correlation with specific symptoms. Neurogastroenterol Motil 2003; 15: 447-455(非ランダム)

3) Cuomo R, Sarnelli G, Grasso R, et al. Functional dyspepsia symptoms, gastric emptying and satietyprovocative test: analysis of relationships. Scand J Gastroenterol 2001; 36: 1030-1036(非ランダム)

4) Kindt S, Coulie B, Wajs E, et al. Reproducibility and symptomatic predictors of a slow nutrient drinkingtest in health and in functional dyspepsia. Neurogastroenterol Motil 2008; 20: 320-329(非ランダム)

【検索期間外文献】a) Miwa H, Ghoshal UC, Fock KM, et al. Asian consensus report on functional dyspepsia. J Gastroenterol

Hepatol 2012; 27: 626-641(ガイドライン)

3.診 断

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解説

NSAIDsを使用したプラセボ対照試験のメタアナリシスの結果では,NSAIDs内服により,ディスペプシア症状の出現率は有意に増加した 1).以上のように,NSAIDs,低用量アスピリンを服用し,ディスペプシア症状を有する患者は可能な範囲で内服を中止し,中止して症状が軽減もしくは消褪するものは FDから除外すべきである(図1).

文献

1) Straus WL, Ofman JJ, MacLean C, et al. Do NSAIDs cause dyspepsia? a meta-analysis evaluating alterna-tive dyspepsia definitions. Am J Gastroenterol 2002; 97: 1951-1958(メタ)

Clinical Question 3-93.診 断

NSAIDs,低用量アスピリン服用者は FD から除外すべきか?

図 1 NSAIDs,低用量アスピリンを服用している場合の診断アルゴリズム

慢性・反復性のディスペプシア症状

可能な範囲で内服を中止し,中止して症状が軽減もしくは消褪するものは FDから除外する

Yes

No

FDを疑い,診断を進める

NSAIDs,低用量アスピリン服用

の有無

CQ 3-9 NSAIDs,低用量アスピリン服用者は FD から除外すべきか?

ステートメント

● NSAIDs,低用量アスピリン服用者は可能な範囲で内服を中止し,中止して症状が軽減もしくは消褪するものは FD から除外すべきである.

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解説

FDは症状によって診断される疾患であり,その重症度の評価には質問票が用いられることが多い.FDの問診票には症状の強さや頻度,性状を評価するものや生活の質(quality of Life:QOL)への影響を評価するものがある.腹部症状による QOLへの影響を評価する質問票であるPatient Assessment of Upper GastroIntestinal Disorders-Quality of Life(PAGI-QOL)は自宅での臥床を余儀なくされたり,欠勤を余儀なくされた症例においてはそうでない症例と比べて,PAGI-QOLのスコアに有意差を認めた 1).

二重盲検ランダム化クロスオーバー試験で,78名の FD患者に対し,4週間の期間中,1週間毎にラニチジン 300mgとプラセボを交互に投与し,質問票による評価を行ったところ,dys-

motility-like症状と治療不応性との関連が認められた(オッズ比 3.3).このとき,ulcer-like症状は,全体では治療反応性との関連は認められなかったが,50例の治療不応例のうち,前年に強い心窩部痛症状を呈した群では治療抵抗性との関連が示唆された(オッズ比 3.13)2).以上のように,FD患者において質問票による重症度を評価することで,生活の質への影響度

の評価や治療への反応性の予測を評価できる可能性があり,重症度の評価は必要である.

文献

1) de la Loge C, Trudeau E, Marquis P, et al. Cross-cultural development and validation of a patient self-administered questionnaire to assess quality of life in upper gastrointestinal disorders: the PAGI-QOL.Qual Life Res 2004; 13: 1751-1762(コホート)

2) Holtmann G, Kutscher SU, Haag S, et al. Clinical presentation and personality factors are predictors of theresponse to treatment in patients with functional dyspepsia; a randomized, double-blind placebo-con-trolled crossover study. Dig Dis Sci 2004; 49: 672-679(ランダム)

Clinical Question 3-103.診 断

FD の重症度の評価は必要か?(軽症,中等症,重症 FD などの区別は必要か?)

CQ 3-10 FD の重症度の評価は必要か?(軽症,中等症,重症 FD などの区別は必要か?)

ステートメント

● FD 患者においては質問票による重症度の評価により治療への反応性の予測や日常生活の質への影響度を評価できる可能性があり,重症度の評価は必要である.

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4.治 療

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解説

機能性消化管疾患では,器質的な病変や血液生化学検査上の異常を有さないことから,患者が納得・満足しうる十分な症状の改善が治療の主要目標となる.機能性消化管疾患(多くは IBS)患者を対象とした多くの臨床研究において“満足しうる(ある

いは十分な)症状改善”が主要評価項目として使われており,臨床試験における主要評価項目として容認しうるものと考えられている 1, 2).Rome委員会により IBS患者を対象とした 12 の臨床試験のメタアナリシスが行われ 3),主要

評価項目としての“満足しうる(あるいは十分な)症状改善”と“治療前の 50%以上の症状改善”の妥当性について検討された.その結果,いずれの評価項目も治療前の症状の強さに影響されず,強い構成概念妥当性があり,臨床的に意義のある最小変化量を検出することが可能であることから推奨している.FD患者を対象とした臨床試験にも“満足しうる(あるいは十分な)症状改善”は使われており 4),

FDの治療目標としても有用と考えられる.

文献

1) Irvine EJ, Whitehead WE, Chey WD, et al. Design of treatment trials for functional gastrointestinal disor-ders. Gastroenterology 2006; 130: 1538-1551

2) Camilleri M, Mangel AW, Fehnel SE, et al. Primary endpoints for irritable bowel syndrome trials: a reviewof performance of endpoints. Clin Gastroenterol Hepatol 2007; 5: 534-540

3) Spiegel B, Camilleri M, Bolus R, et al. Psychometric evaluation of patient-reported outcomes in irritablebowel syndrome randomized controlled trials: a Rome Foundation report. Gastroenterology 2009; 137:1944-1953(メタ)

4) Vakil N, Cohard-Radice M. Tegaserod treatment for dysmotility-like functional dyspepsia: results of tworandomized, controlled trials. Am J Gastroenterol 2008; 103: 1906-1919(ランダム)

Clinical Question 4-14.治 療

FD の治療目標は患者が満足しうる症状改善が得られることか?

CQ 4-1 FD の治療目標は患者が満足しうる症状改善が得られることか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 患者が満足しうる症状改善は FD の重要な治療目標である. なし B

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解説

FD治療のときに生じるプラセボ効果は 5〜90%と報告により様々であり,その平均は 56%である 1).エンドポイントの違い(症状改善率,消失率,改善割合)により,プラセボ効果や治療有効率も変化することに留意する必要があるが,器質的疾患である炎症性腸疾患のプラセボ効果を検討したメタアナリシスによるとプラセボ効果は,クローン病では 18%,潰瘍性大腸炎では 9.1%であった 2, 3).したがって FDの場合,器質的疾患よりプラセボ効果が大である場合が多いと考えられる.FD患者では,「説明と保証」により症状が改善する可能性があり,「説明と保証」効果(フローチャート注釈参照)が本来のプラセボ効果に相加的あるいは相乗的に作用している可能性がある.

文献

1) Moayyedi P, Soo S, Deeks J, et al. Pharmacological interventions for non-ulcer dyspepsia. Cochrane Data-base Syst Rev 2006; (4): CD001960(メタ)

2) Su C, Lichtenstein GR, Krok K, et al. A meta-analysis of the placebo rates of remission and response inclinical trials of active Crohn’s disease. Gastroenterology 2004; 126: 1257-1269(メタ)

3) Ilnyckyj A, Shanahan F, Anton PA, et al. Quantification of the placebo response in ulcerative colitis. Gas-troenterology 1997; 112: 1854-1858(メタ)

Clinical Question 4-24.治 療

FD の治療において,プラセボ効果は大きいか?

CQ 4-2 FD の治療において,プラセボ効果は大きいか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● FD の治療においてプラセボ効果は大きい. なし A

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— 66 —

解説

機能性消化管疾患ではプラセボ効果が高いことがいわれているが,このプラセボ効果に影響を与える因子の検討は,これまで多くない.プラセボ効果における性差は,二重盲検試験に用いられたプラセボ群のデータを集積することで検討されたコホート研究が 2つあるのみで,プラセボ効果に性差はない(表1)1, 2).一方で,プラセボ効果を低下させる因子として低 BMIと症状の恒常性 1)や喫煙 2)が報告されている.

文献

1) Talley NJ, Locke GR, Lahr BD, et al. Predictors of the placebo response in functional dyspepsia. AlimentPharmacol Ther 2006; 23: 923-936(コホート)

2) Enck P, Vinson B, Malfertheiner P, et al. The placebo response in functional dyspepsia: reanalysis of trialdata. Neurogastroenterol Motil 2009; 21: 370-377(コホート)

Clinical Question 4-34.治 療

FD 患者のプラセボ効果は女性で男性より高いか?

CQ 4-3 FD 患者のプラセボ効果は女性で男性より高いか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● プラセボ効果に性差はない. なし C

表1 FDに対するプラセボ反応性と性プラセボ反応者 プラセボ非反応者

年齢 44.4(41.26,47.53) 43.1(40.84,45.31)性(%女性) 72.4(62.2,82.5) 74.3(67.1,81.5)(文献1より)

プラセボ反応者 プラセボ非反応者年齢 50.6 ± 2.5 48.5 ± 1.5性(男:女) 11:24 42:80(文献 2より)

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解説

機能性消化管疾患において良好な患者–医師関係を築くことの重要性については RomeⅢ1)にも記載されており,また複数の専門家からも指摘されている 2〜4).FDと同じく機能性消化管疾患に属する IBS患者を対象とした検討では,患者–医師関係が良

好であるほど IBS症状による再受診の回数が少ないという結果であった 5).良好な患者–医師関係を築くことは医療の基本であり,証明する必要のない公理といえる.す

なわち医師への信頼度の増大は,疾病治療のための動機づけとなり,服薬や生活習慣改善のコンプライアンスを高め,不安を取り除き,治療効果の上乗せが期待される.

文献

1) Francis C, Rona LL, Laurence AB, et al. Psychosocial aspects of functional gastrointestinal disorders. In:RomeⅢ: The Functional Gastrointestinal Disorders, Douglas AD (ed), McLean, Va: Degnon Associates,2006: p295

2) Drossman DA. Psychosocial sound bites: exercises in the patient-doctor relationship. Am J Gastroenterol1997; 92: 1418-1423

3) 本郷道夫,遠藤由香.ディスペプシア症状への対応—ディスペプシアの疫学と日常診療での対応患者との良好な関係構築から始まる診療.日本消化器病学会雑誌 2007; 104: 1580-1586

4) 三輪洋人.機能性消化管障害診療の現状と患者ニーズ調査.新薬と臨牀 2011; 60: 1013-10195) Owens DM, Talley NJ. The irritable bowel syndrome: long-term prognosis and the physician-patient inter-

action. Ann Intern Med 1995; 122: 107-112(ケースコントロール)

Clinical Question 4-44.治 療

FD の治療において,良好な患者–医師関係を構築することは有効か?

CQ 4-4 FD の治療において,良好な患者–医師関係を構築することは有効か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 良好な患者–医師関係を構築することは,FD の治療において有効であり,行うことを推奨する.

1(100%) B

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解説

FD患者の背景因子を調べてみると,必要な睡眠が確保されておらず,また食事時間の不規則や野菜摂取不足などの食習慣の乱れなどがみられる(Neurogastroenterol Motil 2012; 24: 464-471 a)

[検索期間外文献]).しかし,FDの治療としての生活習慣指導や食事療法の有用性を検討した報告はまだ少ない.

検索した範囲でのランダム化比較試験は Pilichiewiczら 1)による 1報告のみである.彼らは高カロリー脂肪食は炭水化物を中心とした高カロリー食および低カロリーコントロール食と比較して嘔気と痛みが強い(それぞれ p<0.01,p=0.05)ことを示し,高カロリー脂肪食を避けることによって FD症状の一部を軽減する可能性を報告した.エビデンスとなる参考文献の記載はないが,RomeⅢのなかでも食事療法の有用性が記載されている.嗜好品に関しては,観察研究で飲酒ありと喫煙ありが FD患者に多いという報告 2)もあれば,

少ないという相反する報告 3)がある.したがって,飲酒や喫煙に関する生活習慣指導の有用性は明らかにされていない.介入試験などのエビエデンスは少ないが,生活習慣指導や食事療法は実施するにあたって不

利益がなく,実地臨床では常識として行われていることから推奨度は高い.

文献

1) Pilichiewicz AN, Feltrin KL, Horowitz M, et al. Functional dyspepsia is associated with a greater sympto-matic response to fat but not carbohydrate, increased fasting and postprandial CCK, and diminished PYY.Am J Gastroenterol 2008; 103: 2613-2623(ランダム)

2) 蓑田智憲.ドック及び職場検診のNUD(non-ulcer dyspepsia)の実態.健康医学 1996; 11: 196-199(横断)3) 松谷正一.Non-ulcer dyspepsia患者の背景因子および消化管運動賦活の意義—消化管運動賦活調整剤シサ

プリド(アセナリン(R))の効果.診療と新薬 1994; 31: 215-221(横断)

【検索期間外文献】a) Miwa H. Life style in persons with functional gastrointestinal disorders: large-scale internet survey of

lifestyle in Japan. Neurogastroenterol Motil 2012; 24: 464-471(横断)

Clinical Question 4-54.治 療

FD の治療として,生活習慣指導や食事療法は有効か?

CQ 4-5 FD の治療として,生活習慣指導や食事療法は有効か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 生活指導や食事療法は有効であり,行うことを推奨する. 1(100%) B

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解説

エビデンスレベルの高いメタアナリシスは,2006 年以前の報告をもとにしたものである.7つの対象論文 3,725 名に対して行ったメタアナリシスでは,プロトンポンプ阻害薬(PPI)による症状軽減効果は,10.6%であると報告されている 1).2006 年のコクランシステマティックレビューによると,対象は non-ulcer dyspepsiaではあるが,ヒスタミンH2 受容体拮抗薬(H2RA)は,11 の試験 2,164 名の解析結果で,プラセボに対して 22%を上回る有効性が示され,PPIを用いた 8つの試験 3,293 名の解析結果では,14%上回る有効性が報告されている(図1)2).個々のランダム化試験については,1998 年の報告では 1,248 名を対象にした試験であるが,PPIによる有効性は 36%であり,プラセボ(28%)を有意に上回る結果であった 3).しかし,下位分類

Clinical Question 4-64.治 療

FD の治療薬として,酸分泌抑制薬は有効か?

CQ 4-6 FD の治療薬として,酸分泌抑制薬は有効か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● FD の治療薬として,酸分泌抑制薬は有効であり,使用することを推奨する.

1(91%) A

図 1 プロトンポンプ阻害薬とプラセボを用いた non-ulcer dyspepsia に対する介入試験のメタアナリシス

(文献 2 より一部改変)

0.1 0.2 0.51

2 5 10

Blum

Bolling-Sternevald

Farup

Peura M96

Peura M97

Talley BOND

Talley OPERA

Wong

274/395

71/100

6/14

165/261

164/249

242/423

277/403

231/301

2,146

171/203

79/96

8/10

104/131

109/133

162/219

141/203

107/152

1,147

0.82[0.75,0.90]

0.86[0.74,1.01]

0.54[0.27,1.06]

0.80[0.70,0.90]

0.80[0.71,0.91]

0.77[0.69,0.87]

0.99[0.88,1.11]

1.09[0.97,1.23]

0.86[0.78,0.95]

15.6

12.2

1.8

13.7

14.0

14.3

14.4

14.0

100.0

試験PPIn/N

プラセボn/N

相対危険度(ランダム)95%Cl

NNT=9(95%Cl 6~26)PPIs 14% over placebo response rate

相対危険度(ランダム)95%Cl

ウエイト(%)

合計(95%Cl)Total events:1,430(PPI),881(Placebo)Test for heterogeneity chi-square=29.61,df=7,p=0.0001,I=76.4%Test for overall effect z=3.02,p=0.003

PPI が有用 プラセボが有用

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4.治 療

別では潰瘍型には奏効したが,運動不全型には効果は示されていない.その後 2000 年の報告では,プラセボとの比較で PPIによる上乗せ効果が 17.6%と示されている 4).その後も,PPI治療での有効性がなかったとの報告 5)や,同種 PPI治療であるにもかかわらず有効性が得られた報告 6)もある.その後の新規 PPIでの報告では,4週間 PPI治療での有効性が 55.5%とプラセボ(30.2%)を上回ること 7)や 1週間 PPI治療での有効性も報告 8)されている.しかし,種々の報告をまとめてみても,酸分泌動態に影響を与える H. pylori 感染の有無別では,その有効性が異なるとの事実もあり,また 8週治療後での有効性で差が消失するとの報告も多く,今後検討すべき課題も多い.さらには,2006 年に RomeⅢ基準が報告されて以降,その基準に合致した FD

患者を用いたランダム化二重盲検比較試験の報告は少ない.RomeⅢ基準に合致した FD患者を対象にした本邦からの報告では,逆流感や嘔気といった症状での改善効果はプラセボに対して示された 9).その他オーバーラップとしての異常酸逆流を伴う RomeⅢ基準 FD患者では,PPI

治療が有効であることも報告されている 10).いずれにせよ,日常臨床のなかで汎用されているH2RAでも,FDに対する保険適用はなく,慢性胃炎での半量使用が認められているに過ぎず,PPIにおいても保険適用は今のところない.欧米を中心としたデータをもとに本文を作成したが,prokineticsの存在しない国・地域での成績も含まれており,本邦からみた area biasの点も考慮すべきことは事実である.ムスカリン受容体拮抗薬,H2RA,PPIなど,有効である可能性を示すこれら薬剤について,その投与量,期間など本邦における成績はまだまだ少ないことから,その標準化には今後のさらなる検討が待たれている.

文献

1) Wang WH, Huang JQ, Zheng GF, et al. Effects of proton-pump inhibitors on functional dyspepsia: a meta-analysis of randomized placebo-controlled trials. Clin Gastroenterol Hepatol 2007; 5: 178-185(メタ)

2) Moayyedi P, Soo S, Deeks J, et al. Pharmacological interventions for non-ulcer dyspepsia. Cochrane Data-base Syst Rev 2006; 4: CD001960(メタ)

3) Talley NJ, Meineche-Schmidt V, Pare P, et al. Efficacy of omeprazole in functional dyspepsia: double-blind, randomized, placebo-controlled trials (the Bond and Opera studies). Aliment Pharmacol Ther 1998;12: 1055-1065(ランダム)

4) Blum AL ,Arnold R, Stolte M, et al. Short course acid suppressive treatment for patients with functionaldyspepsia: results depend on Helicobacter pylori status: The Frosch Study Group. Gut 2000; 47: 473-480(ランダム)

5) Wong WM, Wong BC, Hung WK, et al. Double blind, randomised, placebo controlled study of four weeksof lansoprazole for the treatment of functional dyspepsia in Chinese patients. Gut 2002; 51: 502-506(ランダム)

6) Peura DA, Kovacs TO, Metz DC, et al. Lansoprazole in the treatment of functional dyspepsia: two double-blind, randomized, placebo-controlled trials. Am J Med 2004; 116: 740-748(ランダム)

7) van Zanten SV, Armstrong D, Chiba N, et al. Esomeprazole 40 mg once a day in patients with functionaldyspepsia: the randomized, placebo-controlled "ENTER" trial. Am J Gastroenterol 2006; 101: 2096-2106

(ランダム)8) Talley NJ, Vakil N, Lauritsen K, et al. Randomized-controlled trial of esomeprazole in functional dyspep-

sia patients with epigastric pain or burning: does a 1-week trial of acid suppression predict symptomresponse? Aliment Pharmacol Ther 2007; 26: 673-682(ランダム)

9) Tominaga K, Suzuki H, Umegaki E, et al. Rabeprazole improves the symptoms of functional dyspepsia: adouble- blind randomized placebo-controlled multi-center trial in Japan: The CAESAR study. Gastroen-terology 2010; 5 (Suppl 1): S55(ランダム)

10) Xiao YL, Peng S, Tao J, et al. Prevalence and symptom pattern of pathologic esophageal acid reflux in patientswith functional dyspepsia based on the RomeⅢ criteria. Am J Gastroenterol 2010; 105: 2026-2631(横断)

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解説

FDに対するプロトンポンプ阻害薬(PPI)とヒスタミンH2 受容体拮抗薬(H2RA)の効果を比較した文献は,1つのランダム比較試験 1)と 1つの抄録のみで,この 2つの報告でメタアナリシスがなされ,PPI とH2RAの効果に有意差は示されていない(図1)2).また,このメタアナリシス以降に RomeⅢ基準の FDに対するこの 2種の薬剤での直接比較試験は行われていないため,現在の診断基準での FDにおける PPIとH2RAの効果に違いがあるかどうかは不明である.

なお,未検査のディスペプシア患者いわゆる uninvestigated dyspepsia での検討では,CADET-HN 3)を含めエビデンスレベルの高い報告がある.これらの報告では,PPIはH2RAに比べて有意に有効であり,米国消化器病学会(AGA)のテクニカルレビュー 4)においても PPIが有意であることがメタアナリシスされている.しかし,未検査であるため逆流性食道炎や消化性潰瘍などの器質的疾患が除外されていない患者での検討で,FDがしっかり定義されていない

Clinical Question 4-74.治 療

プロトンポンプ阻害薬はヒスタミン H2 受容体拮抗薬よりも有効か?

CQ 4-7 プロトンポンプ阻害薬はヒスタミン H2 受容体拮抗薬よりも有効か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● プロトンポンプ阻害薬とヒスタミン H2 受容体拮抗薬の効果に有意差を認めない.したがって,どちらの治療も有効である. なし A

図 1 プロトンポンプ阻害薬とヒスタミン H2 受容体拮抗薬による全体症状改善反応(文献 2 より引用改変)

0.1 0.2 0.5 1 2 5 10

Blum

Wyeth 98/002

274/395

43/73

468

144/193

50/78

271

0.93[0.84,1.03]

0.92[0.71,1.18]

0.93[0.84,1.02]

80.0

20.0

100.0

試験PPIn/N

H2RAn/N

相対危険度95%Cl

相対危険度95% Cl

ウエイト(%)

合計(95%Cl)

PPI が有用 H2RAが有用

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4.治 療

ことからメタアナリシスがされているコクランレビュー 2)においてこれらの論文は採用されていない.したがって本ガイドラインにおいてもこれらの論文は推奨の強さの決定においては採用していない.また,FDに対して PPIとH2RAは保険適用を有していない.

文献

1) Blum AL, Arnold R, Stolte M, et al. Short course acid suppressive treatment for patients with functionaldyspepsia: results depend on Helicobacter pylori status: The Frosch Study Group. Gut 2000; 47: 473-480(メタ)

2) Moayyedi P, Soo S, Deeks J, et al. Pharmacological interventions for non-ulcer dyspepsia. Cochrane Data-base Syst Rev 2006: CD001960(ランダム)

3) Veldhuyzen van Zanten SJ, Chiba N, Armstrong D, et al. A randomized trial comparing omeprazole, rani-tidine, cisapride, or placebo in Helicobacter pylori negative, primary care patients with dyspepsia: theCADET-HN study. Am J Gastroenterol 2005; 100: 1477-1488(ランダム)*

4) Talley NJ, Vakil NB, Moayyedi P, et al. American Gastroenterological Association technical review on theevaluation of dyspepsia. Gastroenterology 2005; 129: 1756-1780(メタ)*

*:文献 3,4については,本文中に記載の理由により,本 CQの推奨の強さの決定においては採用していない.

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解説

消化管運動機能改善薬(prokinetics)とは,機能性消化管疾患の治療薬として開発された薬剤で,消化管運動機能改善を中心に,内臓知覚過敏の改善効果を示す薬剤の総称であり,消化管運動促進のみの薬剤とは一線を画すものと定義する(motilide 1)は,基本的に消化管運動促進作用のみであり,消化管運動機能改善薬の範疇からは除外するべき化合物である).これまでに,消化管運動機能改善薬として開発され FDあるいは FD相当の病態に対して用いられてきた薬剤には,オピオイド受容体刺激作用を有するトリメブチン,ドパミン D2 受容体拮抗作用を有するメトクロプラミド,ドンペリドン,イトプリド,5-HT4 受容体刺激作用を有するシサプリド,モサプリド,tegaserod,コリンエステラーゼ阻害作用を有するアコチアミドなどがあり,その作用機序は多種多様である.これらの薬剤のうちいくつかはすでに市場から撤退したり,国内への導入が見送られたりしており,現在わが国で処方が可能な薬剤は,トリメブチン,メトクロプラミド,ドンペリドン,イトプリド,モサプリド,アコチアミドである.FD患者において消化管運動機能改善薬の投与によりプラセボ群と比べて有意な症状改善が得

られることが,2つのメタアナリシスにより報告されている 2, 3)(図1).その後に行われた複数の RCTの結果について作用機序別に述べる.D2 拮抗薬のイトプリドに関して海外で行われた 2編の二重盲検 RCTが報告されている.最初の検討(554 例)4)では,症状改善におけるイトプリドの有効性が示されたが,その後に行われた 2つの phaseⅢ試験(1,170 例)5)ではプラセボ投薬群との差は認められなかった.5-HT4 受容体刺激薬である tegaserodは海外で行われた 2つの二重盲検 RCT(n=2,667)6)で有効性が報告されたが国内導入前に撤退している.また,同様に 5-HT4 受容体刺激薬であるモサプリドは国内でのオープンラベル比較対照試験(n=618)(J Gas-

troenterol Hepatol 2012; 27: 62-68 a)[検索期間外文献])では比較対照薬に対して有意の症状改善が認められたものの,海外でのプラセボ対照試験(n=566)7)では有意な差は確認されなかった.コリンエステラーゼ阻害薬であるアコチアミドは日本人を対象とした GCPガイドラインに基づく臨床試験で(n=1,156)8)(Gut 2012; 61: 821-828 b)[検索期間外文献]),PDS-FDにおいてプラセボの効果を有意に上回りその有効性が示され,わが国で唯一,FDに対しての保険適用薬と

Clinical Question 4-84.治 療

FD の治療薬として,消化管運動機能改善薬は有効か?

CQ 4-8 FD の治療薬として,消化管運動機能改善薬は有効か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 消化管運動機能改善薬は FD 患者の症状改善に有効であり,使用することを推奨する.

1(91%) A

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4.治 療

なっている.上記の結果から,消化管運動機能改善薬は FDの治療に有用と考えられる.消化管運動機能

改善薬は特に食事関連愁訴(胃もたれ,上腹部膨満感,早期飽満感)に有効との報告もみられることから 8),患者の主要症状や病型による RCTの層別解析を行うことやその結果に基づいて消化管運動機能改善薬の治療対象を選別することも重要と考えられる.

文献

1) Talley NJ, Verlinden M, Snape W, et al. Failure of a motilin receptor agonist (ABT-229) to relieve the symp-toms of functional dyspepsia in patients with and without delayed gastric emptying: a randomized dou-ble-blind placebo-controlled trial. Aliment Pharmacol Ther 2000; 14: 1653-1661(ランダム)

2) Moayyedi P, Soo S, Deeks J, et al. Pharmacological interventions for non-ulcer dyspepsia (review).Cochrane Databese of Systematic Reviews 2006: CD001960(メタ)

3) Hiyama T, Haruma K. Meta-analysis of the effects of prokinetic agents in patients with functional dyspep-sia. J Gastroenterol Hepatol 2007; 22: 304-310(メタ)

4) Holtmann G, Parow C. A placebo-controlled trial of itopride in functional dyspepsia. N Engl J Med 2006;

図 1 消化管運動機能改善薬とプラセボを用いた non-ulcer dyspepsia に対する介入試験のメタアナリシス

(文献 2 より)

0.1 0.2 0.5 1 2 5 10

Al-Quorain

Bekhti

Champion

Chung

De Groot

De Nutte

Francois

Hannon

Hansen

Holtmann

Kellow

Rosch

Wood

Yeoh

6/44

7/20

43/83

4/14

21/56

3/17

3/17

3/11

41/109

51/59

5/28

10/54

1/6

17/38

556

32/45

16/20

13/20

12/15

32/57

8/15

10/17

9/11

42/110

52/61

10/28

38/55

2/5

19/38

497

0.10[0.04,0.23]

0.17[0.05,0.57]

0.59[0.22,1.57]

0.13[0.03,0.57]

0.48[0.23,0.99]

0.22[0.05,0.91]

0.18[0.05,0.72]

0.12[0.02,0.63]

0.98[0.57,1.68]

1.10[0.40,3.06]

0.41[0.13,1.32]

0.13[0.06,0.28]

0.34[0.03,4.36]

0.81[0.33,1.99]

0.38[0.30,0.50]

9.5

4.3

7.0

3.2

12.2

3.2

3.6

2.5

22.3

6.3

4.8

11.7

1.0

8.3

100.0

試験プロキネティクス

n/Nプラセボn/N

オッズ比95%Cl

オッズ比95%Cl

ウエイト(%)

合計(95%Cl)Total events 215(Prokinetics),295(Placebo)Test for heterogeneity chi-square=44.67,df=13,p=<0.0001,I=70.9%Test for overall effect z=7.31,p=<0.00001

プロキネティクスが有用 プラセボが有用

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354: 832-840(ランダム)5) Talley NJ, Tack J, Ptak T, et al. Itopride in functional dyspepsia: results of two phaseⅢ multicentre, ran-

domised, double-blind, placebo-controlled trials. Gut 2008; 57: 740-746(ランダム)6) Vakil N, Laine L, Talley NJ, et al. Tegaserod treatment for dysmotility-like functional dyspepsia: results of

two randomized, controlled trials. Am J Gastroenterol 2008; 103: 1906-1919(ランダム)7) Hallerback BI, Bommelaer G, Bredberg E, et al. Dose finding study of mosapride in functional dyspepsia: a

placebo-controlled, randomized study. Aliment Pharmacol Ther 2002; 16: 959-967(ランダム)8) Matsueda K, Hongo M, Tack J, et al. Clinical trial: dose-dependent therapeutic efficacy of acotiamide

hydrochloride (Z-338) in patients with functional dyspepsia - 100mg t.i.d. is an optimal dosage. Neurogas-troenterol Motil 2010; 22: 618-e173(ランダム)

【検索期間外文献】a) Hongo M, Harasawa S, Mine T, et al. Large-scale randomized clinical study on functional dyspepsia treat-

ment with mosapride or teprenone: Japan mosapride Mega-Study (JMMS). J Gastroenterol Hepatol 2012;27: 62-68(ランダム)

b) Matsueda K, Hongo M, Tack J, et al. A placebo-controlled trial of acotiamide for meal-related symptoms offunctional dyspepsia. Gut 2012; 61: 821-828(ランダム)

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

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— 76 —

解説

FD・NUD例に対して H. pylori 除菌治療が有用であるかについては,1998 年,McCollらは除菌治療群の 21%で,コントロール群の 7%で症状が(ほとんど)消失し(p<0.001),有用であると報告した 1).同時期に Blumらは,除菌群で 27.4%,コントロール群の 20.7%で症状が(ほとんど)消失したが有意差を認めず(p=0.17)2),相反する結果であった.その後も除菌治療の有用性の有無について数多くの報告がされたが,その結果は一致しなかった.2006 年,それまでに報告された研究のうち 13 編のシステマティックレビューが発表された.除菌治療による症状改善は,除菌群で 36%(range 21〜62%),プラセボ群で 30%(range 7〜51%),relative risk

reduction は 8%(95%CI 3〜12%),NNT(number needed to treat)は 18(95%CI 12〜48)であった 3).このシステマティックレビューに,その後発表された 4 編を加えた 17 編でのシステマティックレビューでは除菌群で 36%(range 15〜75%),プラセボ群で 29%(range 7〜51%)の反応率,NNTは 14(95%CI 10〜25),relative riskは 0.90(95%CI 0.86〜0.94)であり,研究間での heterogeneityや funnel plotの非対称性はみられず,除菌効果は小さいが有意に有用であると結論された 4).アジアからの報告をみると,中国で行われた 7論文 761 例でのシステマティックレビューで

はオッズ比3.61(95%CI 2.62〜4.98)と除菌治療は有用であると結論されているが,採用された論文は double blindではないか記載がなく,また,割り付け方法も不明確であり,結果の解釈に注意を要する 5).もう一方は,RomeⅡを対象とした 82 例の RCT であるが,1 年後で除菌群24.4%,プラセボ群 7.7%で症状改善(p=0.02,95%CI 1.1〜17.7)がみられた 6).RomeⅢ基準で診断された FDでの除菌治療効果についての報告をみると,404 例の RomeⅢ

基準で診断された FDでの検討では,症状が改善した患者割合は除菌群で 49.0%,コントロール群で 36.5%(p=0.01),NNTは 8であった(Arch Intern Med 2011; 171: 1929-1936 a)[検索期間外文献]).もう一方は single blindであり,観察期間が 3ヵ月と短いが,除菌群で 36.7%,プラセボ群で 19.6%の改善率(p<0.05)であり,EPSには除菌が有効だが,PDSでは改善しなかったとしている 7).Moayyediら 4)のシステマティックレビューにMazzoleniら a)の結果を追加して

Clinical Question 4-94.治 療

FD の治療として,H. pylori 除菌治療は有効か?

CQ 4-9 FD の治療として,H. pylori 除菌治療は有効か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● H. pylori 陽性者に対して,H. pylori 除菌治療は一部の症例で有効であり,行うことを推奨する.

1(91%) A

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

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再解析を行った報告では,RR 0.91(95%CI 0.87〜0.94),NNTは 13(95%CI 9〜19)で文献 4との一貫性が示された(図1)(Arch Intern Med 2011; 171: 1936-1937 b)[検索期間外文献]).この結論はすなわち,症状改善がみられない例も多いことを示しながらも除菌治療の有用性を物語っている.以上より,除菌治療は FD症状改善効果を認めることは明白である.FDの治療に特効薬がな

い現状では,NNTは大きいものの除菌治療は治療選択肢のひとつとして有用である.「H. pylori 感染の診断と治療のガイドライン」8)では,H. pylori 感染症として除菌治療が推奨さ

れている.除菌治療の副作用は忍容でき,明らかな不利益はない.これらの点を勘案すると推奨度は強くなる.

文献

1) McColl K, Murray L, El-Omar E, et al. Symptomatic benefit from eradicating Helicobacter pylori infection inpatients with nonulcer dyspepsia. N Engl J Med 1998; 339: 1869-1874(ランダム)

2) Blum AL, Talley NJ, O’Moráin C, et al. Lack of effect of treating Helicobacter pylori infection in patients withnonulcer dyspepsia: Omeprazole plus Clarithromycin and Amoxicillin Effect One Year after Treatment(OCAY) Study Group. N Engl J Med 1998; 339: 1875-1881(ランダム)

3) Moayyedi P. Eradication of Helicobacter pylori for non-ulcer dyspepsia. Cochrane Database Syst Rev 2005;(1): CD002096(メタ)

図 1(文献 b より)

0.2 0.5 1.0 2.0

Blum et al, 1998McColl et al, 1998Koelz, 2003Talley et al(Orchid Study),1999Talley et al(USA),1999Miwa, 2000Malfertheiner et al, 2003Bruley Des Varannes et al, 2001Froehlich et al, 2001Koskenpato et al, 2001Gisbert et al, 2004Hsu, 2001Veldhuyzen van Zanten et al, 2003González Carro, 2004Martinek, 2005Ruìz Garcia et al, 2005Mazzoleni et al, 2006Mazzoleni et al, 2011Combined[Random]

0.92(0.81~1.03)0.85(0.76~0.93)0.95(0.80~1.11)0.96(0.87~1.05)0.94(0.82~1.07)0.90(0.70~1.17)0.95(0.86~1.06)0.83(0.68~1.00)0.98(0.86~1.12)0.93(0.79~1.08)0.76(0.41~1.53)0.93(0.65~1.33)0.89(0.70~1.13)0.69(0.47~0.99)0.56(0.22~1.30)0.72(0.57~0.88)0.91(0.76~1.06)0.82(0.70~0.97)0.91(0.87~0.94)

RR,95%Cl

RR(95%Cl)

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4.治 療

4) Moayyedi P. Eradication of Helicobacter pylori for non-ulcer dyspepsia. Cochrane Database Syst Rev 2006;(2): CD002096(メタ)

5) Jin X, Li YM. Systematic review and meta-analysis from Chinese literature: the association between Heli-cobacter pylori eradication and improvement of functional dyspepsia. Helicobacter 2007; 12: 541-546(メタ)

6) Gwee KA, Teng L, Wong RK, et al. The response of Asian patients with functional dyspepsia to eradica-tion of Helicobacter pylori infection. Eur J Gastroenterol Hepatol 2009; 21: 417-424(ランダム)

7) Lan L, Yu J, Chen YL, et al. Symptom-based tendencies of Helicobacter pylori eradication in patients withfunctional dyspepsia. World J Gastroenterol 2011; 17: 3242-3247(ランダム)

8) 浅香正博,上村直実,太田浩良,ほか;日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会.H.pylori 感染の診断と治療のガイドライン 2009 改訂版.日本ヘリコバクター学会誌 2009; 10 (Suppl): 1-25(ガイドライン)

【検索期間外文献】a) Mazzoleni LE, Sander GB, Francesconi CF, et al. Helicobacter pylori eradication in functional dyspepsia:

HEROES trial. Arch Intern Med 2011; 171: 1929-1936(ランダム)b) Moayyedi P. Helicobacter pylori eradication for functional dyspepsia: what are we treating?: comment on

"Helicobacter pylori eradication in functional dyspepsia". Arch Intern Med 2011; 171: 1936-1937(メタ)

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解説

漢方薬には古くから「証」の概念があり,その概念に基づき,種々の不定愁訴などへの対応に有効であることが経験上示されてきた.FDの症状は,“医学的に説明がつきにくい身体的症状”といわれることもあるように,日常臨床的には不定愁訴のカテゴリーに組み込まれてしまうこともしばしばである.そのようななか,1993 年にプラセボとの比較試験において,六君子湯の 7日間投薬のあと,non-ulcer dyspepsia(現在では機能性ディスペプシア:FD)患者における心窩部膨満感,げっぷ,嘔気などの症状を改善することが報告された 1).また,同時に病態生理の一部として関与する胃運動機能低下を改善することも示された.その後,厳密なプラセボとはいえないものの大規模比較試験が本邦においてなされ,運動機能不全症状を有する FD患者に対して,上腹部愁訴の改善効果が示されたことは特筆に値する 2).上腹部症状と関連した運動機能改善作用については,胃の貯留能改善を中心として,その後いくつかの報告がなされた 3, 4).さらには,消化管運動機能を司るペプチドであるグレリンの血漿レベルでの上昇作用を有するとの報告から,消化管運動機能改善薬(ドンペリドン)との比較試験もなされるようになり,消化不良症状などの改善に有効であることが報告された(Hepato-Gastroenterology 2012; 59: 62-66 a)

[検索期間外文献]).また,半夏厚朴湯においてもケースコントロールスタディーではあるが,上腹部痛,消化不良症症状の改善に有効であるとの報告もある 5).本邦での漢方薬での報告に加え,種々のハーブの抽出物質からなる生薬として STW5(本邦では未承認)も,FD患者症状の改善に有効とドイツから報告されている 6).このように,漢方薬の一部薬剤には,FD患者の病態生理改善に呼応したディスペプシア症状改善作用を示す可能性を示唆するエビデンスは存在する(図1).上記の一部内容について示したレビューも存在する 7).しかし,プラセボを用いたランダム化比較試験など,質の高いまとまったエビデンスはまだまだ少ないことも事実であり,今後のさらなる検討が待たれている.

Clinical Question 4-104.治 療

FD の治療薬として,漢方薬は有効か?

CQ 4-10 FD の治療薬として,漢方薬は有効か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● FD の治療薬として,漢方薬の一部は有効であり,使用することを提案する.

2(100%) A

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4.治 療

文献

1) Tatsuta M, Iishi H. Effect of treatment with liu-jun-zi-tang (TJ-43) on gastric emptying and gastrointestinalsymptoms in dyspeptic patients. Aliment Pharmacol Ther 1993; 7: 459-462(ランダム)

2) 原澤 茂,三好秋馬,三輪 剛,ほか.運動不全型の上腹部愁訴(dysmotility-like dyspepsia)に対する TJ-43 六君子湯の多施設共同市販後臨床試験—二重盲検群間比較法による検討.医学のあゆみ 1998; 187: 207-229(ランダム)

3) Shiratori M, Shoji T, Kanazawa M, et al. Effect of rikkunshito on gastric sensorimotor function under dis-tention. Neurogastroenterol Motil 2011; 23: 323-329(横断)

4) Kusunoki H, Haruma K, Hata J, et al. Efficacy of Rikkunshito, a traditional Japanese medicine (Kampo), intreating functional dyspepsia. Intern Med 2010; 49: 2195-2202(横断)

5) Oikawa T, Ito G, Hoshino T, et al. Hangekobokuto (Banxia-houpo-tang), a Kampo Medicine that TreatsFunctional Dyspepsia. Evid Based Complement Alternat Med 2009; 6: 375-378(ケースコントロール)

6) Von Arnim U, Peitz U, Vinson B, et al. STW 5, a phytopharmacon for patients with functional dyspepsia:results of a multicenter, placebo-controlled double-blind study. Am J Gastroenterol 2007; 102: 1268-1275

(ランダム)7) Suzuki H, Inadomi JM, Hibi T. Japanese herbal medicine in functional gastrointestinal disorders. Neuro-

gastroenterol Motil 2009; 21: 688-696(メタ)

【検索期間外文献】a) Arai M, Matsumura T, Tsuchiya N, et al. Rikkunshito improves the symptoms in patients with functional

dyspepsia, accompanied by an increase in the level of plasma ghrelin. Hepato-Gastroenterology 2012; 59:62-66(ランダム)

図 1 FD と漢方(J Gastroenterol 2013; 48: 452-462 一部改変)

〈FD & 胃排出機能〉1.J Pharmacol Sci 2005; 98: 161‒1672.Evid Based Complement Alternat Med 2009: 1‒8

3.Aliment Pharmacol Ther 1993; 7: 459‒4624.Intern Med 2010; 49: 2195‒22025.Pediatr Surg Int 2009; 25: 987‒9906.Pediatr Surg Int 2004; 19: 760‒7657.Evid Based Complement Alternat Med 2009; 6: 375‒378

〈FD & 胃適応性弛緩反応〉1.Drugs Exptl Clin Res 1999; 25: 211‒ 2182.Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2010; 298: G755‒G763

3.Intern Med 2010; 49: 2195‒2202.4.Neurogastroenterol Motil 2011; 23: 323‒329

〈FD & 食事摂取〉[グレリン&ニューロペプチド]

1.Gastroenterology 2008; 134: 2004‒20132.Endocrinology 2010; 151: 3773‒37823.Hepatogastroenterology 2012; 59: 62‒664.Biol Pharm Bull 2003; 26: 1104‒11075.Biol Pharm Bull 2001; 24: 841‒8436.Biol Pharm Bull 2003; 26: 101‒1047.Regul Pept 2010; 161: 97‒1058.Biochem Biophys Res Commun 2011; 412: 506‒511

9.Clin Exp Gastroenterol 2011; 4: 291‒29610.Int J Surg Oncol 2011; 2011: 715623

nI.4lA.302vE.2J.1

2022‒5912:94;0102deMnret4‒954:7;3991rehTlocamrahPtnemi

8‒1:900deMtanretlAtnemelpmoCdesaBdiv761‒161:89;5002icSlocamrahP

〉能機出排胃&DF〈

agorueN.4MnretnI.32;0102hPJmA.2EsgurD.1〈

264

‒323:32;1102litoMloretneortsa.2022‒5912:94;0102deM

367G‒557G:892loisyhPreviLtsetniortsaGloisyh812‒112:52;9991seRnilCltpxE

〉応反緩弛性応適胃&DF

02vE.7eP.6eP.5

873‒573:6;900deMtanretlAtnemelpmoCdesaBdiv567‒067:91;4002tnIgruSrtaide099‒789:52;9002tnIgruSrtaide

nircodnE.2eortsaG.1レグ[

923

2873‒3773:151;0102ygolon3102‒4002:431;8002ygoloretne

]ドチプペローュニ&ンリレ〉取摂事食&DF〈

uSJtnI.01

pxEnilC.915‒605mehcoiB.8PlugeR.7ahPloiB.6ahPloiB.5ahPloiB.4gotapeH.3nircodnE.2

326517:1102;1102locnOgr

692‒192:4;1102loretneortsaGp1

:214;1102nummoCseRsyhpoiBm501‒79:161;0102tpeP

401‒101:62;3002lluBmra348‒148:42;1002lluBmra7011‒4011:62;3002lluBmra66‒26:95;2102ygoloretneortsag

28733773:151;0102ygolon

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解説

精神心理的側面から考慮すると,FDの病態生理にそれらが深く関与するとの報告は多い.しかしながら,これら薬剤を治療薬として介入させた大規模な RCTはいまだ多いとはいえない.統合失調症に使用される levosulpiride(本邦未承認)での有効性を示す多施設共同試験が,イタリアのグループから報告された 1).本薬剤はドパミンタイプ 2受容体をブロックすることから消化管運動機能にまで影響するが,プラセボを含む 2つの消化管運動機能改善薬との比較試験において,levosulpirideが他の群に比較して食後の膨満感,心窩部痛,胸やけ症状の改善に有効であったことが,独自の symptom scaleと VAS scaleを用いた試験結果として示されている.また副作用についても,各群約 10%前後の出現率であったが,群間での差は認められていない.その後,スペインのグループからもシサプリド(製造中止)との比較試験の結果,同等改善度を示すとの報告もなされている 2).その他,抗うつ薬として,venlafaxineを用いた試験結果も報告 3)

されているが,本邦における開発は中止であるため,本邦 FD患者での有効性については不明のままである.一方,本邦からの報告では,抗不安薬であるタンドスピロンを用いた試験(図1)4)

のみがある.この試験結果からは,上腹部不快感,痛みがプラセボ比較の中で改善されており,不安尺度あるいは QOLスコアについても改善作用を示していたのが特徴的といえる.これら代表的な報告を踏まえ,抗うつ薬あるいは抗不安薬といった中枢神経系作用薬に対するメタアナリシスが,2つ認められている(図2)5, 6).ひとつには,三環系抗うつ薬などを含めた中枢神経系作動薬などのディスペプシア症状改善の有効性を示してはいるが,標準的消化器病薬との間には有意な差はないことから,優越性は証明されていない.また本邦からのメタアナリシスの報告では,これら薬剤を用いた試験の中で,解析対象となる論文数が少なかったことや試験デザインなどにも問題があることも示されており,これら薬剤の有効性を示した結果とまでは結論づけられていないのが現状である.選択的セロトニン再取り込み阻害薬は,現在抗うつ薬のなかで使用される頻度が増しているが,投与初期での嘔気症状の出現などのためか,FDに関する有効性を示したまとまった報告は今のところない.

Clinical Question 4-114.治 療

FD の治療薬として,抗うつ薬・抗不安薬は有効か?

CQ 4-11 FD の治療薬として,抗うつ薬・抗不安薬は有効か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● FD の治療薬として,抗うつ薬・抗不安薬の一部は有効であり,使用することを提案する.

2(100%) A

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4.治 療

文献

1) Corazza GR, Biagi F, Albano O, et al. Levosulpiride in functional dyspepsia: a multicentric, double-blind,controlled trial. Ital J Gastroenterol 1996; 28: 317-323(ランダム)

2) Mearin F, Rodrigo L, Perez-Mota A, et al. Levosulpiride and cisapride in the treatment of dysmotility-likefunctional dyspepsia: a randomized, double-masked trial. Clin Gastroenterol Hepatol 2004; 2: 301-308(ランダム)

3) van Kerkhoven LA, Laheij RJ, Aparicio N, et al. Effect of the antidepressant venlafaxine in functional dys-pepsia: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Clin Gastroenterol Hepatol 2008; 6: 746-752

図 1 FD と抗不安薬(文献 4 より一部改変)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

Proportion of responders

-0.1%(-7.6% to 7.3%)

p=0.86

Week 1

2.4%(-8.4% to 13.2%)

p=0.56

Week 2

Follow‒up time

PlaceboTandospirone 13.4%

(1.1% to 25.7%)p=0.017

Week 3

18.6%(5.7% to 32.0%)

p=0.0016

Week 4

上腹部痛 At week 4 Discomfort不快感 At week 4 Bloating鼓腸 At week 4 Early satiety早期飽満感 At week 4 Nausea嘔気 At week 4 Vomiting嘔吐 At week 4 Anorexia食欲不振 At week 4 Belchingゲップ At week 4

1.21±1.050.58±0.78

1.55±0.960.64±0.80

0.99±1.000.50±0.80

1.16±0.940.50±0.68

1.21±1.060.72±0.96

0.85±1.010.34±0.69

0.64±0.930.37±0.71

1.04±1.140.45±0.67

1.12±0.940.73±0.73

1.54±0.841.00±0.81

1.03±1.030.67±0.89

1.17±1.000.62±0.81

1.14±1.060.61±0.81

0.87±0.950.39±0.63

0.63±0.890.34±0.63

0.73±0.870.53±0.78

-0.63±0.90

-0.92±0.95

-0.49±0.84

-0.66±0.85

-0.49±0.92

-0.51±0.79

-0.27±0.69

-0.59±0.91

<0.0001

<0.0001

0.0003

<0.0001

<0.0001

<0.0001

0.0004

0.035

0.021

0.002

0.310

0.364

0.815

0.658

0.723

0.228

-0.40±0.83

-0.53±0.91

-0.36±0.86

-0.55±0.76

-0.53±0.88

-0.47±0.90

-0.29±0.71

-0.20±0.77

<0.0001

<0.0001

<0.0001

<0.0001

<0.0001

<0.0001

0.0004

<0.0001

(%)

図 2 FD と抗うつ薬・抗不安薬(文献 6 より一部改変)

0

4

8

0.1 10.1 10 10

1/SE(

Effect size)

Relative risk

Relative risk(95%Cl)WeightStudy

0.24(0.10~0.60)

0.64(0.41~0.98)

0.43(0.23~0.81)

0.81(0.61~1.09)

0.55(0.36~0.85)

8.89

7.50

7.00

8.00

Tanum and Malt

Song et al

Arienti et al

McHardy et al

In favor of placeboIn favor of true drugs

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— 83 —

(ランダム)4) Miwa H, Nagahara A, Tominaga K, et al. Efficacy of the 5-HT1A agonist tandospirone citrate in improving

symptoms of patients with functional dyspepsia: a randomized controlled trial. Am J Gastroenterol 2009;104: 2779-2787(ランダム)

5) Passos Mdo C, Duro D, Fregni F. CNS or classic drugs for the treatment of pain in functional dyspepsia? asystematic review and meta-analysis of the literature. Pain Physician 2008; 11: 597-609(メタ)

6) Hojo M, Miwa H, Yokoyama T, et al. Treatment of functional dyspepsia with antianxiety or antidepressiveagents: systematic review. J Gastroenterol 2005; 40: 1036-1042(メタ)

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— 84 —

解説

FDに対する制酸薬,プロスタグランジン誘導体および消化管粘膜保護薬の有効性は明らかでなく,2006 年のコクランのメタアナリシス 1)で,制酸薬(RR 1.02,95%CI 0.76〜1.36),スクラルファート(RR 0.71,95%CI 0.36〜1.40),ミソプロストールの non-ulcer dyspepsia(NUD)に対する効果は示されていない 1).コクランの報告以降の検討では,レバミピドのプラセボ対照二重盲検試験が米国と本邦で検討され,有効性は示されていない 2, 3).したがってこれまでの報告で,FDの治療に明確な有効性が示された消化管粘膜保護薬は存在しない.しかし,Talleyら 2)によって行われたレバミピドの試験は,本来必要かつ予定された症例数

が集積される前に試験を終了しており,有効性がないことを断定するには十分でない.これまでの報告から FDに対して消化管粘膜保護薬による治療を行うことを提案や推奨する

ことはできない.しかし,一方で,行わないように提案するだけのデータもないことから,本CQについては,作成委員会の全会一致で推奨度をつけないこととした.

文献

1) Moayyedi P, Soo S, Deeks J, et al. Pharmacological interventions for non-ulcer dyspepsia. Cochrane Data-base Syst Rev 2006: CD001960(メタ)

2) Talley NJ, Riff DS, Schwartz H, et al. Double-blind placebo-controlled multicentre studies of rebamipide, agastroprotective drug, in the treatment of functional dyspepsia with or without Helicobacter pylori infec-tion. Aliment Pharmacol Ther 2001; 15: 1603-1611(ランダム)

3) Miwa H, Osada T, Nagahara A, et al. Effect of a gastro-protective agent, rebamipide, on symptomimprovement in patients with functional dyspepsia: a double-blind placebo-controlled study in Japan. JGastroenterol Hepatol 2006; 21: 1826-1831(ランダム)

Clinical Question 4-124.治 療

FD の治療薬として,制酸薬,プロスタグランジン誘導体および消化管粘膜保護薬は有効か?

CQ 4-12 FD の治療薬として,制酸薬,プロスタグランジン誘導体および消化管粘膜保護薬は有効か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 制酸薬,プロスタグランジン誘導体(ミソプロストール)および消化管粘膜保護薬(スクラルファート,レバミピド)の有効性は明らかでない.

なし B

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— 85 —

解説

薬剤併用療法が,単剤投与と比べて FDの治療に有用であることを示すエビデンスはみられない.しかし,実地臨床では,しばしば薬剤併用療法が行われている.FDの病型により,“胃部痛”には酸分泌抑制薬が,また“胃もたれ”には消化管運動機能改善薬

が選択されている 1).また,心理社会的要因の関与が大きい場合には,抗精神薬が使用されることもある.RomeⅢでは病型の併存が認められており,“併存型”に対して酸分泌抑制薬と消化管運動機能改善薬の併用療法を行うことは容認されると考えられる.FDでは,複数の病態が症状の出現にかかわっていることが少なくない.そのような場合に

は,各病態を targetとした複数の薬剤の併用療法を行うことで治療効果が高まることが予測される.実際には,各治療薬の単剤投与の有効性を調べるための臨床研究は多く行われているが,薬

剤併用療法の有効性を調べた臨床研究の報告はみられないため,今後検証していく必要がある.

文献

1) Talley NJ, Lam SK, Goh KL, et al. Management guidelines for uninvestigated and functional dyspepsia inthe Asia-Pacific region: First Asian Pacific Working Party on Functional Dyspepsia. J Gastroenterol Hepa-tol 1998; 13: 335-353(ガイドライン)

Clinical Question 4-134.治 療

FD の治療として,薬剤併用療法は有効か?

CQ 4-13 FD の治療として,薬剤併用療法は有効か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● FD の治療として薬剤併用療法が行われることがあるが,そのエビデンスは明らかではない. なし −

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Clinical Question 4-144.治 療

FD の治療として,認知行動療法は有効か?

CQ 4-14 FD の治療として,認知行動療法は有効か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 認知行動療法は,FD の治療に有効であり,行うことを提案する. 2(100%) B

解説

認知行動療法(cognitive behavioral therapy:CBT)とは,症状出現の状況を自ら解析し(認知),症状改善もしくは回避のためにどのような考え方や行動をとるのが適切であるのかを患者と治療者の間で確認作業をしながら進める治療法である.CBTには患者–医師間のラポール(信頼し合い安心して気持ちを伝えられる関係)の形成がなされたあとの保障という側面や生活指導・食事指導という側面も含まれる.FDに対する CBTの有効性について,小規模の RCTの報告がみられる 1).CBT群ではコント

ロール群よりも大きな症状の改善がみられ,上腹部症状については,痛み(p=0.050),吐気(p=0.021),胸やけ(p=0.002)であったが,腹部不快感と腹部膨満感では両群間に差はみられなかった.FDと同じく機能性消化管疾患に属する IBSについては,CBTが有効であることを示す多くの

RCTによる報告がみられる.最近のレビュー(Clin Gastroenterol Hepatol 2013; 11: 208-216 a)[検索期間外文献])によると,成人の IBS患者を対象とした 18 の RCTのうち 15 において CBTがIBSの改善に有効であることが報告されている.機能性消化管疾患では,その患者背景や病態に共通性がみられるため(CQ 2-5 図 1 参照),これらの RCTの結果から CBTは FDに対しても有効であることが予想される.FDに対する CBTの有効性についての情報は限られており,今後さらなる検証が必要である.

また,FDの日常臨床において,投薬治療と同等に認知・行動療法を自由に選択できる環境は整備されておらず,その実施は一部の専門施設に限られる.このため,現時点では CBTの一般化は難しく,消化器疾患領域における CBT導入手法の確立と普及が望まれる.

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文献

1) Haug TT, Wilhelmsen I, Svebak S, et al. Psychotherapy in functional dyspepsia. J Psychosom Res 1994; 38:735-744(ランダム)

【検索期間外文献】a) Olafur SP, William EW. Psychological treatments in functional gastrointestinal disorders: a primer for the

gastroenterologist. Clin Gastroenterol Hepatol 2013; 11: 208-216

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解説

自律神経系は,中枢神経系と末梢臓器との間に介在し,末梢機能を制御するものであり,脳腸相関の関与が強く示唆される FD病態に自律神経系が関与することは推察される.自律神経訓練法とは,ストレス緩和,心身症,神経症に有効とされる自己催眠療法を意味し,静かな部屋で閉眼し体の力を抜きながら心のなかで 6つの公式を唱える訓練法として行われ,一般には副交感神経機能を高めるものとされている.2000 年に報告された論文のなかでは,20 名の FD

患者に対して心拍変動を用いて,自律神経系とディスペプシア症状との関連性について解析している 1).そのなかで,FD患者には,交感神経系刺激反応性 FDと副交感神経系刺激不変性 FD

とが存在することを示している.これらは,健常者との比較ではないのが残念であるが,前者は嘔気症状や心理学的側面での関与が強く,後者は胃電図に異常が認められるなど,自律神経系と FD病態との関連性を示唆している.一方,健常者(12 名)と FD患者(28 名)とで比較された報告では,心拍変動を用いた評価において,FD患者では自律神経系スコアにおいて高く,心窩部痛や心窩部灼熱感と自律神経機能異常との関連性が示されている.しかし,内臓知覚過敏や胃排出遅延との関連性は示されておらず,症状関与以外の生理学的な反応との関連性も示されていない 2).同じく健常者との比較として,副交感神経系の低下,交感神経系の亢進が認められ,自律神経系反射に関して,一部の FD患者では反応異常が認められるとの報告がある 3).さらにコリン作動性神経亢進が胃適応性弛緩反応不全と関連するとの報告もある 4).しかしながら,その自律神経系と FD病態,特に症状との関連性を示唆する報告はあるものの,薬剤あるいは自律神経訓練法を介入させた報告はないことから,現状では有効との結論には至らない.

Clinical Question 4-154.治 療

FD の治療として,自律神経訓練法は有効か?

CQ 4-15 FD の治療として,自律神経訓練法は有効か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● FD の治療として,自律神経訓練法は有効であるとの確固たるエビデンスはない. なし −

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文献

1) Muth ER, Koch KL, Stern RM. Significance of autonomic nervous system activity in functional dyspepsia.Dig Dis Sci 2000; 45: 854-863(横断)

2) Park DI, Rhee PL, Kim YH, et al. Role of autonomic dysfunction in patients with functional dyspepsia. DigLiv Dis 2001; 33: 464-471(ケースコントロール)

3) Lorena SL, Figueiredo MJ, Almeida JR, et al. Autonomic function in patients with functional dyspepsiaassessed by 24-hour heart rate variability. Dig Dis Sci 2002; 47: 27-31(ケースコントロール)

4) Lunding JA, Gilja OH, Hausken T, et al. Distension-induced gastric accommodation in functional dyspep-sia: effect of autonomic manipulation. Neurogastroenterol Motil 2007; 19: 365-375(ケースコントロール)

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Clinical Question 4-164.治 療

FD の治療として,催眠療法は有効か?

CQ 4-16 FD の治療として,催眠療法は有効か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● FD の治療として催眠療法は有効であり,行うことを提案する. 2(100%) B

解説

Calvertらは 1),催眠療法群と,催眠療法は行わず,かつ薬物療法として偽薬を投与した偽薬群,そしてラニチジン 150mg 1 日 2 回投与した薬物療法群の 3群の無作為対照試験を行った.16 週間の治療終了時点の症状スコアの検討で,催眠療法群は 59%に改善がみられた.偽薬群は41%の改善がみられ,催眠療法群と有意な差はなかった(p=0.057).一方,薬物療法群の改善した割合は 33%で,催眠療法群のほうに有意な改善がみられた(p=0.01).治療終了後 40 週間経過した時点では,催眠療法群は 73%,偽薬群は 34%そして薬物療法群は 43%に改善がみられていた.催眠療法群は他の 2群と比較して有意な症状改善効果がみられた(それぞれ p<0.02,p<0.01).この報告により催眠療法の有効性が示された.機能性消化管疾患のひとつである過敏性腸症候群(IBS)に対して催眠療法が有効であったという報告もいくつか出ており,催眠療法はFDに対する期待される治療法のひとつと考えられる.しかし,エビデンスとなる報告は Calvert

らの 1報告であることより,今後質の高い無作為対照試験を行い,有用性を確立していく必要がある.

文献

1) Calvert EL, Houghton LA, Cooper P, et al. Long-term improvement in functional dyspepsia using hyp-notherapy. Gastroenterology 2002; 123: 1778-1785(ランダム)

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Clinical Question 4-174.治 療

FD の治療として,鍼灸療法は有効か?

CQ 4-17 FD の治療として,鍼灸療法は有効か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 経皮的電気鍼(はり)治療が有効であるとの報告があるが,評価は定まっていない. なし D

● 灸治療の有効性は明らかでない. なし D

解説

FDに対する鍼(はり)療法の有効性を検討した報告は多くなく,各報告の症例数も少ない.27 人の FD患者に対してクロスオーバー・二重盲検試験で 1日 2回の経皮的電気鍼治療を 2週間行うと腹部症状が有意に改善することが示された 1).しかし,鍼(針)を刺入して行う鍼治療では,68 人の FD患者に対する単盲検試験で有効といわれている鍼治療部位とそうでない部位で 1週間に 3回の治療を 2週間行うと,有意差はなかった.すなわちこの研究では,プラセボ効果を除外できず明確な有用性は示されていない 2).また本邦からの報告はなく,一般的な治療とはなっていない.したがって患者が望む場合には FDに対する鍼灸治療に精通している施設で行われることが望ましい.一方,灸治療については,まったく検討がなされておらず有効性は明らかでない.

文献

1) Liu S, Peng S, Hou X, et al. Transcutaneous electroacupuncture improves dyspeptic symptoms andincreases high frequency heart rate variability in patients with functional dyspepsia. NeurogastroenterolMotil 2008; 20: 1204-1211(ランダム)

2) Park YC, Kang W, Choi SM, et al. Evaluation of manual acupuncture at classical and nondefined points fortreatment of functional dyspepsia: a randomized-controlled trial. J Altern Complement Med 2009; 15: 879-884(ランダム)

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Clinical Question 4-184.治 療

FD の治療は病型に基づいて行うのがよいか?

CQ 4-18 FD の治療は病型に基づいて行うのがよいか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● FD の治療は,病型に基づいて行うことを提案する. 2(90%) A

解説

FDの診断基準には,Rome基準が用いられている.時代の変遷はあるが必ず病型分類が存在し,それらは症状を基本とした分類となっている.つまり症状ならびに病型分類したうえでの治療介入は,効果を示す場合と示さない場合とが明確にされている.プラセボとの比較試験のなかで,消化管運動機能改善薬と酸分泌抑制薬を用いた研究が,病型分類されない FD患者に対して施行され,その結果両薬剤のプラセボに対する優越性は証明されなかった 1).そのサブクラス解析でもこれら両薬剤での有効性を予測できなかったことも追記されている.PPI治療介入がなされた中国からの試験においても,プラセボに対する優越性が示されず,さらには症状ベースでの PPI治療有効性は予測されていない 2).しかし,酸逆流症状を合併する一部の場合には,有効である可能性が示されている.本邦からの粘膜防御因子製剤を使用した RCTにおいても,病型・症状分類なしではプラセボとの優越性は示されていない 3).その一方で,酸分泌抑制薬はプラセボに対して腹痛のエピソードや程度に対して有効であるとの報告がある 4).痛み症状つまり心窩部痛症候群(epigastric pain syndrome:EPS)タイプの FD患者に対して,有効である可能性が示唆されている.消化管運動機能改善薬に関しては本邦からの報告はなく,シサプリド(製造中止)や tegasrod(本邦未承認)での報告がある.前者は胃電図における異常のあるFD患者に関して,食後の鼓腸や不快感を有意に改善することが示されている 5).つまり病型は食後愁訴症候群(postprandial distress syndrome:PDS)タイプに相当すると理解される.tegas-

rodも正常胃排出能を有する FD患者に対して,食事に関連した適応性弛緩反応といった運動機能の改善に影響する,つまりこれも同様に PDSタイプの FDでの有効性の可能性が示されているのである 6).これら両薬剤は,痛みを中心とする EPSタイプの FD患者に有効であるのか,症状別や病型別での有効性が示されておらず,さらには現在本邦において使用不可能であるため,これら成績をもって症状別・タイプ別での有効性が示されているとは結論づけ難い.また,酸分泌抑制薬の介入試験に対する RCTを対象にしたメタアナリシスも存在する.3,725 名の FD患者,7つの研究に対して,PPIのプラセボに対する有効性が示され,RomeⅡ基準における潰瘍型に特に有効であるが,運動不全型には有効でないことも示されている 7).これら成績からは,

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PPIなどの酸分泌抑制薬の使用も,病型あるいは症状に応じて使用すればきちんとした有効性が示されることを示唆していると思われ,日本人 FDの治療は,病型に基づいて行うほうがよいと提案される.しかし,RomeⅢ基準が提唱され,病型に基づく治療アルゴリズムは一般的とされているが 8),FDの病態においては患者個々で不均一であり,病型に基づく治療法を推奨するエビデンスは乏しいこともまた事実である.

文献

1) Hansen JM, Bytzer P, Schaffalitzky de Muckadell OB. Placebo-controlled trial of cisapride and nizatidinein unselected patients with functional dyspepsia. Am J Gastroenterol 1998; 93: 368-374(ランダム)

2) Wong WM, Wong BC, Hung WK, et al. Double blind, randomised, placebo controlled study of four weeksof lansoprazole for the treatment of functional dyspepsia in Chinese patients. Gut 2002; 51: 502-506(ランダム)

3) Miwa H, Osada T, Nagahara A, et al. Effect of a gastro-protective agent, rebamipide, on symptomimprovement in patients with functional dyspepsia: a double-blind placebo-controlled study in Japan. JGastroenterol Hepatol 2006; 21: 1826-1831(ランダム)

4) Talley NJ, McNeil D, Hayden A, et al. Randomized, double-blind, placebo-controlled crossover trial ofcimetidine and pirenzepine in nonulcer dyspepsia. Gastroenterology 1986; 91: 149-156(ランダム)

5) Chen JD, Ke MY, Lin XM, et al. Cisapride provides symptomatic relief in functional dyspepsia associatedwith gastric myoelectrical abnormality. Aliment Pharmacol Ther 2000; 14: 1041-1047(ランダム)

6) Tack J, Janssen P, Bisschops R, et al. Influence of tegaserod on proximal gastric tone and on the perceptionof gastric distention in functional dyspepsia. Neurogastroenterol Motil 2011; 23: e32-e39(ランダム)

7) Wang WH, Huang JQ, Zheng GF, et al. Effects of proton-pump inhibitors on functional dyspepsia: a meta-analysis of randomized placebo-controlled trials. Clin Gastroenterol Hepatol 2007; 5: 178-185(メタ)

8) Geeraerts B, Tack J. Functional dyspepsia: past, present, and future. Gastroenterology 2008; 43: 251-255

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Clinical Question 4-194.治 療

病悩期間が長いほど治療に抵抗するか?

CQ 4-19 病悩期間が長いほど治療に抵抗するか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 病悩期間が長いほど治療に抵抗するかどうかはまだ不明である. なし −

解説

器質的疾患がない 4週間以上にわたる上腹部症状を有する患者に PPI治療を行った研究に対して,治療効果を予測する因子が何かを多変量解析により検討したところ,病悩期間が 3ヵ月未満であると治療効果が出やすいことが明らかとなった(オッズ比 1.16,95%CI 1.06〜2.58)1).また,4ヵ月以上にわたる上部症状を有する H. pylori 陽性患者に対して除菌治療を行った研究で,病悩期間が長いほど治療効果が少ないことが示された 2).一方,病悩期間が 1ヵ月から 3ヵ月,3ヵ月から 1年,1年以上で治療効果に差があるかどうかを検討したところ,有意差がなかったという報告もある 3).したがって,病悩期間が長いほど治療に抵抗するかどうかに関してはまだ結論を出すことはできない.実臨床においては病悩期間が長いほど治療に難渋する印象があるため,さらなる検討が必要である.

文献

1) Bolling-Sternevald E, Lauritsen K, Talley NJ, et al. Is it possible to predict treatment response to a protonpump inhibitor in functional dyspepsia. Aliment Pharmacol Ther 2003; 18: 117-124(ランダム)

2) McColl K. Symptomatic benefit from eradicating Helicobacter pylori infection in patients with nonulcer dys-pepsia. N Engl J Med 1998; 339: 1869-1874(ランダム)

3) Meineche-Schmidt V, Talley NJ, Pap A, et al. Impact of functional dyspepsia on quality of life and healthcare consumption after cessation of antisecretory treatment: a multicentre 3-month follow-up study. ScandJ Gastroenterol 1999; 34: 566-574(コホート)

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Clinical Question 4-204.治 療

治療抵抗性の FD 患者はどの時点で治療を変更すべきか?

CQ 4-20 治療抵抗性の FD 患者はどの時点で治療を変更すべきか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 治療抵抗性の FD 患者における治療変更時期の目安は約 4 週間とすることを提案する.

2(70%) C

解説

アジア太平洋地域および米国におけるディスペプシアのガイドラインでは,4週間または 2〜4週間の投薬治療を行っても十分な治療効果がみられない場合には,他の治療法に変更することを推奨している 1, 2).また,FD患者を対象とした臨床研究におけるアウトカム評価時期を投薬治療 4週間後に設定しているのは,H2RAでは 15/21(71%),消化管運動機能改善薬では 21/30(70%)であった(図1)1).機能性消化管疾患患者を対象とした臨床試験をデザインする際の治療期間として EMEAガイドラインでは 4週間の投薬期間を容認している 3, 4).これらのことから,十分な治療効果が得られない場合に治療法を再考する時期として多くの

図 1 FD に対する 49 の薬物治療比較試験(H2RA,prokinetics)における有効性評価時期の分布

(文献 1 より作成)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

1週 2週 4週 6週 8週 12ヵ月

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4.治 療

専門家が投薬治療 4週間後を目安としていることがうかがわれる.したがって,4週間の投薬治療を行っても患者が満足(納得)できる治療効果が得られない場合には,治療法の変更に考慮するべきと考えられる.

文献

1) Talley NJ, Lam SK, Goh KL, et al. Management guidelines for uninvestigated and functional dyspepsia inthe Asia-Pacific region: First Asian Pacific Working Party on Functional Dyspepsia. J Gastroenterol Hepa-tol 1998; 13: 335-353(ガイドライン)

2) Talley NJ, Vakil N. Guidelines for the management of dyspepsia. Am J Gastroenterol 2005; 100: 2324-2337(ガイドライン)

3) Irvine EJ, Whitehead WE, Chey WD, et al. Design of treatment trials for functional gastrointestinal disor-ders: Design of Treatment Trials Committee. Gastroenterology 2006; 130: 1538-1551

4) Committee for Proprietary Medicinal Products (CPMP). CPMP/EWP/785/97. Points to consider on theevaluation of medicinal products for the treatment of IBS. 785/97. European Agency for the Evaluation ofMedicinal Products, London, 2003

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Clinical Question 4-214.治 療

FD 診療では,症状消失後の薬物治療を継続すべきか?

CQ 4-21 FD 診療では,症状消失後の薬物治療を継続すべきか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 症状消失後に薬物治療を中止することを提案する. 2(80%) C

解説

これまでの検討で,実薬あるいはプラセボの投与後に症状が消失した 43 人中,平均 9.7 ヵ月の無治療経過観察期間に症状の再発は 1人(2.3%)のみであったとの報告 1)や PPIの二重盲検試験で治療効果のあった群で初期治療を盲検化したまま無治療で 3ヵ月経過観察すると 20%のみに症状が再発し,80%では症状が再発しなかったとの報告がある 2).さらにアコチアミドの臨床試験では,4週間の内服治療後に,内服を中止してもさらに少なくとも 4週間は治療効果が有意に持続したと報告されている(Gut 2012; 61: 821-828 a)[検索期間外文献]).一方で,ディスペプシア症状で 8週以上 PPIが長期投与されていた 9人中,休薬後 1年後には 6人(67%)で PPI

の再開が必要であったとの報告がある 3).しかし,治療中止による合併症が発生したとの報告はない.したがって,症状消失後に薬物投与を漫然と継続する必要はなく,薬物投与を中止して経過観察することは可能であると思われる.たとえ症状が再発することがあっても症状再発時には再度同等の薬物を投与することで治療が可能であると考えられる.

文献

1) Frazzoni M, Lonardo A, Grisendi A, et al. Are routine duodenal and antral biopsies useful in the manage-ment of "functional" dyspepsia? a diagnostic and therapeutic study. J Clin Gastroenterol 1993; 17: 101-108

(コホート)2) Meineche-Schmidt V, Talley NJ, Pap A, et al. Impact of functional dyspepsia on quality of life and health

care consumption after cessation of antisecretory treatment: a multicentre 3-month follow-up study. ScandJ Gastroenterol 1999; 34: 566-574(コホート)

3) Bjornsson E, Abrahamsson H, Simren M, et al. Discontinuation of proton pump inhibitors in patients onlong-term therapy: a double-blind, placebo-controlled trial. Aliment Pharmacol Ther 2006; 24: 945-954(コホート)

【検索期間外文献】a) Matsueda K, Hongo M, Tack J, et al. A placebo-controlled trial of acotiamide for meal-related symptoms of

functional dyspepsia. Gut 2012; 61: 821-828(ランダム)

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5.予後・合併症

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Clinical Question 5-15.予後・合併症

FD は再発するか?

CQ 5-1 FD は再発するか?

ステートメント

● FD は再発することがある.

解説

4 週間 PPIまたはプラセボ治療を行った FD患者群を観察した報告では,治療後 3ヵ月経過した時点で,症状が消失した患者 181 人中 20%の患者に再発がみられた 1).再発は治療後早期に生じた.8週間以上 PPIが投与されていた逆流症状のないディスペプシア症状を有する患者 9人中,休薬して 1年経過した時点で,67%の患者に PPIの再開が必要となった 2).シサプリド治療を行った患者群を 1ヵ月半後に観察した報告でも約 22.5%に再発がみられた 3).除菌治療,シサプリド治療,そしてプラセボ治療後に症状が消失した 53人を平均 9.7 ヵ月の無治療で経過観察したところ,1人(プラセボ治療者)に再発がみられたという報告もある 4).

H. pylori 除菌後 6ヵ月間の観察で,6ヵ月の時点で症状がない患者は 60%であり,そのうち持続的に症状がない患者は 32.7%であった.この結果は,残りの 27.3%は,経過中に症状の再発や消失を生じたことを示唆している 5).以上より FDが再発することがあるのは明らかである.

文献

1) Meineche-Schmidt V, Talley NJ, Pap A, et al. Impact of functional dyspepsia on quality of life and healthcare consumption after cessation of antisecretory treatment: a multicentre 3-month follow-up study. ScandJ Gastroenterol 1999; 34: 566-574(コホート)

2) Björnsson E, Abrahamsson H, Simrén M, et al. Discontinuation of proton pump inhibitors in patients onlong-term therapy: a double-blind, placebo-controlled trial. Aliment Pharmacol Ther 2006; 24: 945-954(ランダム)

3) Rosch W. Chronic functional dyspepsia: short- and medium-term outcome of a therapeutic trial with cis-apride. Clin Ther 1994; 16: 437-445(コホート)

4) Frazzoni M, Lonardo A, Grisendi A, et al. Are routine duodenal and antral biopsies useful in the manage-ment of "functional" dyspepsia? a diagnostic and therapeutic study. J Clin Gastroenterol 1993; 17: 101-108

(ランダム)5) Maconi G, Sainaghi M, Molteni M, et al. Predictors of long-term outcome of functional dyspepsia and duo-

denal ulcer after successful Helicobacter pylori eradication: a 7-year follow-up study. Eur J GastroenterolHepatol 2009; 21: 387-393(コホート)

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解説

FDの症状出現には,様々な心理社会的因子が関与することが知られており,このことに関しては本ガイドラインの CQ 2-5 で検討されている.FDにおいて不安,うつなどの心理的偏倚が特徴的にみられるという報告も多い 1, 2).しかし,不安指数およびうつ指数ともに,健常者と比較して差がないというケースコントロー

ルスタディもある 3).気分障害,神経症性障害との合併が多いかどうかに関しては,Henningsenら 4)は 2001 年ま

での論文に対してメタアナリシスを行い,FDとともに過敏性症候群,線維筋痛症,慢性疲労症候群を合わせた疾患群の場合,うつ病または不安障害が健常者または器質的疾患患者より有意に多いことを示した.FD単独の場合は,健常者と比較して,有意差をもってうつ状態または不安状態にあることを示しているが,FDは健常者と比較して有意に気分障害,神経症性障害の合併が多いとまでは示していない.Haugら 5)は FD患者の 34%,そして十二指腸潰瘍患者の 15%に精神疾患の合併があり,精

神疾患の合併率に有意差があると報告した(p=0.001).精神疾患の多くは不安障害であった.その後,Pajalaら 6)は上部消化管由来と思われる症状を有する患者に対して,内視鏡検査を

行い FDおよび器質的疾患患者に分け,両群間での精神疾患(不安障害またはうつ病)の合併率を比較するとともに,フィンランドの一般人にみられる精神疾患合併率と比較した.FD患者群の精神疾患合併率は 38%,そして器質的疾患群での合併率は 36.4%で有意差はなかった.一方,一般人の精神疾患合併率は 15%であり,症状を有する患者群(FDでも器質的疾患群でも)のほうが一般人と比較して有意に合併率は高かった.彼らはこの報告から精神疾患が不快な症状に対する非特異的反応の結果生じたものである可能性を提唱した.Leeら 7)は RomeⅢ基準を満たした FDおよび過敏性腸症候群(IBS)患者と,症状がなくかつ

内視鏡検査で異常を認めない健常者に対して質問票によるうつ傾向の評価を行った.その結果,FD単独群または FDと IBS合併群は健常者と比較して有意にうつ傾向にあると報告した.この報告のなかで彼らは,FDは症状に基づいて診断される疾患であり,同じような身体症状を有するうつ病や身体化障害などの精神疾患を FDと診断してしまう可能性があることに注意する必

Clinical Question 5-25.予後・合併症

FD には気分障害,神経症性障害の合併の頻度は高いか?

CQ 5-2 FD には気分障害,神経症性障害の合併の頻度は高いか?

ステートメント

● FD には気分障害,神経症性障害を合併することが多い.

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5.予後・合併症

要があると考察している.最近の Aroら 8)の疫学調査は FDと気分障害,神経症性障害を議論するうえで大きな注目を

集めている.1,001 人に対して内視鏡検査を行い,そのうち RomeⅢ基準を満たすものを FDと診断し検討した.その結果,不安障害は FDに関係し(オッズ比 2.56,95%CI 1.06〜6.19),またFDのなかでも食後愁訴症候群のみに関係があることが示された.うつ病は FDと関係しないことが示された.この疫学調査では否定されたが,うつ病との関係については,その後 Sattarら 9)

が各群 150 人のケースコントロールスタディで,うつ病や不安障害を含むケース群が健常者であるコントロール群と比較して,有意に多くみられる(ケース群の合併率は 71.33%,コントロール群の合併率 15.33%)と報告しており,うつ病が合併するという報告も蓄積されつつある.

文献

1) Kok LP, Yap IL, Guan RY. Psychosocial aspects of non-ulcer dyspepsia. Singapore Med J 1989; 30: 346-349(ケースコントロール)

2) Nakao H, Konishi H, Mitsufuji S, et al. Comparison of clinical features and patient background in func-tional dyspepsia and peptic ulcer. Dig Dis Sci 2007; 52: 2152-2158(ケースコントロール)

3) Kaneko H, Mitsuma T, Fujii S, et al. Immunoreactive-somatostatin concentrations of the human stomachand mood state in patients with functional dyspepsia: a preliminary case-control study. J GastroenterolHepatol 1993; 8: 322-327(ケースコントロール)

4) Henningsen P, Zimmermann T, Sattel H. Medically unexplained physical symptoms, anxiety, and depres-sion: a meta-analytic review. PsychosomMed 2003; 65: 528-533(メタ)

5) Haug TT, Svebak S, Wilhelmsen I, et al. Psychological factors and somatic symptoms in functional dyspep-sia: a comparison with duodenal ulcer and healthy controls. Psychosom Res 1994; 38: 281-291(ケースコントロール)

6) Pajala M, Heikkinen M, Hintikka J. Mental distress in patients with functional or organic dyspepsia: acomparative study with a sample of the general population. Aliment Pharmacol Ther 2005; 21: 277-281

(横断)7) Lee HJ, Lee SY, Kim JH, et al. Depressive mood and quality of life in functional gastrointestinal disorders:

differences between functional dyspepsia, irritable bowel syndrome and overlap syndrome. Gen HospPsychiatry 2010; 32: 499-502(横断)

8) Aro P, Talley NJ, Ronkainen J, et al. Anxiety is associated with uninvestigated and functional dyspepsia(RomeⅢ criteria) in a Swedish population-based study. Gastroenterology 2009; 137: 94-100(横断)

9) Sattar A, Salih M, Jafri W. Burden of common mental disorders in patients with functional dyspepsia. JPak Med Assoc 2010; 60: 995-997(ケースコントロール)

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解説

機能性消化管疾患である FDは,自覚症状を中心に診断されることから,時に胃食道逆流症(GERD)の非びらん型や過敏性腸症候群(IBS)と同じ範疇として捉えられることもある.それら消化管由来の自覚症状が関連あるいは連動することから,合併・併存する可能性も示唆されている.本邦における横断研究において,2,680 名の勤務労働者を対象に自覚症状評価から,GERD,FD,IBSの合併頻度が示されている.FD様患者では,実に 47.6%に GERDあるいはIBS様症状が合併し,FDと GERDでは,24.6%にその合併が認められていた(図1)1).またオ

Clinical Question 5-35.予後・合併症

FD と胃食道逆流症(GERD)の合併の頻度は高いか?

CQ 5-3 FD と胃食道逆流症(GERD)の合併の頻度は高いか?

ステートメント

● FD と胃食道逆流症との合併の頻度は比較的高い.

図 1 FD と GERD,IBS との合併の頻度(J Gastroenterol Hepatol 2010; 25: 1151-1156 より一部改変)

コントロールn=2,012(1,350/662)

40.4±14.2 年

胃食道逆流症 7.7%n=207(144/63)39.1±13.3 年

機能性ディスペプシア 10.0%n=269(153/116)38.2±12.8 年

過敏性腸症候群 14.2%n=381(185/196)36.4±11.9 年

110(4.1%)

29(1.1%)

63(2.3%)

257(9.6%)

141(5.3%)

32(1.2%)

36(1.3%)

年3.31±1.93)36/441(702=n%7.7症流逆道食胃  

   

3

年2.41±4.04)266/053,1(210,2=n

ルーロトンコ

14(5.35(

41

 

   

))

) ))

11044.1%)%14(((011

29(1.1%)%11(

92

63(2.3%)%32(

36 257(9.6%)%69(

75241%%)%3314

32(1.2%)%21(

2336(1.3%)%31(

63

 

   

 

   

年8.21±2.83)611/351(962=n%0.01アシプペスィデ性能機

 

   =n敏過%

 

   

年9.11±4.63)691/581(183=%2.41群候症腸性敏

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5.予後・合併症

ランダからの報告では,263 名の GERD患者に対して調査した結果,25%に FDとの合併が認められたと報告されている 2).これら報告からの頻度では,約 4人に 1人の割合が,これら疾患を合併する可能性が示唆される.しかし,これら報告はすべて症状調査に基づく診断であるため,器質的疾患の除外を行ったあとであれば,さらにその頻度は低下する可能性も含まれている.器質的疾患を除外されたディスペプシア患者を対象に調査した報告では,22%にその合併があると示されている 3).疾患としての合併のみならず,FD患者のなかで異常酸逆流を病態として認める頻度を報告した論文もある.24 時間 pHモニターによる評価法の違いによっては,36%あるいは 60%もの患者に,異常酸逆流を認めていたとの報告がある 4).その一方で,247 名の FD患者を対象にした論文では,胸やけ症状のない典型的な FD患者では,24 時間 pHモニターにおいて 18.5%に異常酸逆流が認められ,これらは心窩部痛出現と関連していると結論づけられている 5).これらの報告からすると,FD患者のなかには異常酸逆流を認める集団が,少なからずある一定の割合で存在することは事実である.しかし,健診者での頻度(7.6%),外来受診者での頻度(10.6%)であることを考慮すると,FD患者からみた GERDの併存頻度は比較的高いものと思われる.

文献

1) Kaji M, Fujiwara Y, Shiba M, et al. Prevalence of overlaps between GERD, FD and IBS and impact onhealth-related quality of life. J Gastroent Hepatol 2010; 25: 1151-1156(コホート)

2) De Vries DR, Van Herwaarden MA, Baron A, et al. Concomitant functional dyspepsia and irritable bowelsyndrome decrease health-related quality of life in gastroesophageal reflux disease. Scand J Gastroentel.2007; 42: 951-956(ケースコントロール)

3) Talley NJ, Piper DW. The association between non-ulcer dyspepsia and other gastrointestinal disorders.Scand J Gastroenterol 1985; 20: 896-900(コホート)

4) Pfeiffer A, Aronbayev J, Schmidt T, et al. Gastric emptying, esophageal 24-hour pH and gastric potentialdifference measurements in non-ulcer dyspepsia. Gastroenterol Clin Biol 1992; 16: 395-400(横断)

5) Tack J, Caenepeel P, Arts J, et al. Prevalence of acid reflux in functional dyspepsia and its association withsymptom profile. Gut 2005; 54: 1370-1376(コホート)

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解説

機能性消化管疾患である FDは,自覚症状を中心に診断されることから,時に胃食道逆流症(GERD)の非びらん型や過敏性腸症候群(IBS)と同じ範疇として捉えられることもある.それら消化管由来の自覚症状が関連あるいは連動することから,合併・併存する可能性も示唆されている.本邦における横断研究において,2,680 名の勤務労働者を対象に自覚症状評価から,GERD,FD,IBSの合併頻度が示されている.FD様患者では,実に 47.6%に GERDあるいはIBS様症状が合併し,FDと IBSでは 34.2%にその合併が認められていた(CQ 5-3 図 1 参照)1).Taiwanからの報告 2)では,RomeⅠ基準と RomeⅡ基準に照らし合わせた際の症状ベースでの診断には差が認められ,併存についても前者では約 60%,後者では 18.9%の併存が認められている.その一方で,症状ベースである RomeⅢ基準に照らした診断を用いた報告では,その併存は 5%としながらも,IBSである患者は IBSでない患者に比べ,約 2倍の確率で FDを合併することからその頻度は高いと結論づけている 3).しかし,これら報告はすべて症状調査に基づく診断であるため,器質的疾患の除外を行ったあとであれば,さらにその頻度は低下する可能性も含まれている.器質的疾患を除外されたディスペプシア患者を対象に調査した報告では,30%にその合併があると示されている 4).同様に器質的疾患の除外のもとでなされた調査研究 5)で,70 名の FDならびに 142 名の IBSが RomeⅢ基準で診断され,そのなかで 42 名が併存と診断されている.FDからみると 60%にあたり,IBSからみると 29.5%にあたるのである.欧米からの報告 6)でも,43%の患者において両者疾患の併存があったと記されている.FD患者におけるnatural historyを調査した論文のなかでも,1996 年,2006 年での調査比較においても,FDとIBSとの関連性は強いものであるとされている 7).このように,FDと IBSとの併存について,その頻度は様々であるが,少なからずある一定の割合で存在することは事実であり,一般健診者などでの疾病率よりは FD患者での IBS併存率は比較的高いと思われる.

Clinical Question 5-45.予後・合併症

FD と過敏性腸症候群(IBS)の合併の頻度は高いか?

CQ 5-4 FD と過敏性腸症候群(IBS)の合併の頻度は高いか?

ステートメント

● FD と IBS の合併の頻度は比較的高い.

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文献

1) Kaji M, Fujiwara Y, Shiba M, et al. Prevalence of overlaps between GERD, FD and IBS and impact onhealth-related quality of life. J Gastroenterol Hepatol 2010; 25: 1151-1156(コホート)

2) Lu CL, Lang HC, Chang FY, et al. Prevalence and health/social impacts of functional dyspepsia in Tai-wan: a study based on the Rome criteria questionnaire survey assisted by endoscopic exclusion among aphysical chek-up population. Scand J Gastroenterol 2005; 40: 402-411(横断)

3) Wang A, Liao X, Xiong L, et al. The clinical overlap between functional dyspepsia and irritable bowel syn-drome based on RomeⅢ criteria. BMC Gastroenterology 2008; 8: 43: 1-7(横断)

4) Talley NJ, Piper DW. The association between non-ulcer dyspepsia and other gastrointestinal disorders.Scand J Gastroenterol 1985; 20: 896-900(コホート)

5) Lee HJ, Lee SY, Kim JH, et al. Depressive mood and quality of life in functional gastrointestinal disorders:differences between functional dyspepsia, irritable bowel syndrome and overlap syndrome. General Hos-pital Psychiatry 2010; 32: 499-502(コホート)

6) Holtmann G, Goebell H, Talley NJ. Functional dyspepsia and irritable bowel syndrome: is there a commonpathophysiological basis? Am J Gastroenterol 1997; 92: 954-959(横断)

7) Olafsdottir LB, Gudjonsson H, Jonsdottir HH, et al. Natural history of functional dyspepsia a 10-year pop-ulation-based study. Digestion 2010; 81: 53-61(コホート)

5.予後・合併症

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解説

FDと慢性便秘(含:機能性便秘,症候性便秘,薬剤性便秘,IBS便秘型)の関係を検討した報告はまったくない.便秘の期間を定義しない基準を用いた横断研究が 2006 年オーストラリアでなされており,non-ulcer dyspepsia(NUD)では便秘の合併が 34.2%と GERD(19.3%)や器質的上部消化管疾患患者(13.6%)にくらべて多いと報告されている 1).本邦では,基幹病院受診者にRomeⅢ成人機能性消化管疾患質問票(日本語版)を用いて検討がなされ,機能性消化管疾患と診断された 94 人中 29 人が FD(30.9%),21 人が機能性便秘(22.3%)と診断され,FD 29 人中 4人(13.8%)に機能性便秘が合併していたと報告されている 2).さらに多数例での検討が必要であるが,FDに慢性便秘が併存する頻度は高い可能性がある.

文献

1) Hammer J, Talley NJ. Disturbed bowel habits in patients with non-ulcer dyspepsia. Aliment PharmacolTher 2006; 24: 405-410(横断)

2) Nakajima S, Takahashi K, Sato J, et al. Spectra of functional gastrointestinal disorders diagnosed by RomeⅢ integrative questionnaire in a Japanese outpatient office and the impact of overlapping. J GastroenterolHepatol 2010; 25 (Suppl 1): S138-S143(横断)

Clinical Question 5-55.予後・合併症

FD と慢性便秘の合併の頻度は高いか?

CQ 5-5 FD と慢性便秘の合併の頻度は高いか?

ステートメント

● FD と慢性便秘の合併頻度は高い可能性がある.

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解説

これまでに膵炎を指摘されていないディスペプシア患者に膵機能検査を行うと,24.1%(111/460)に慢性膵炎の可能性があると報告されている 1).一方,機能性胆囊・Oddi括約筋障害,膵癌が混在していたとの報告はない.また,ディスペプシア患者の 27.3%(6/22)で膵機能低下があるとの報告 2)があり,間接的にプロテアーゼインヒビターであるメシル酸カモスタットとH2 受容体拮抗薬であるファモチジンの効果比較があり,メシル酸カモスタットの有効性が報告されている 3).

文献

1) Andersen BN, Scheel J, Rune SJ, et al. Exocrine pancreatic function in patients with dyspepsia. Hepatogas-troenterology 1982; 29: 35-37(コホート)

2) Smith RC, Talley NJ, Dent OF, et al. Exocrine pancreatic function and chronic unexplained dyspepsia: acase-control study. Int J Pancreatol 1991; 8: 253-262(ケースコントロール)

3) Ashizawa N, Hashimoto T, Miyake T, et al. Efficacy of camostat mesilate compared with famotidine fortreatment of functional dyspepsia: is camostat mesilate effective? J Gastroenterol Hepatol 2006; 21: 767-771

(ランダム)

Clinical Question 5-65.予後・合併症

FD に胆膵疾患(機能性胆囊・Oddi 括約筋障害,慢性膵炎,膵癌)は混在しているか?

CQ 5-6 FD に胆膵疾患(機能性胆囊・Oddi 括約筋障害,慢性膵炎,膵癌)は混在しているか?

ステートメント

● FD から慢性膵炎が十分除外されていない可能性がある.

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— 109 —

欧文索引

CCBT(cognition-behavior therapy) 86

EEPS(epigastric pain syndrome) 4, 8, 92

GGERD 103

HH. pylori 36, 56H. pylori 除菌 76

IIBS 105IMC(interdigestive migrating complexes) 28

NNSAIDs 61NUD(non-ulcer dyspepsia) 4

OOddi括約筋障害 108

PPDS(postprandial distress syndrome) 4, 8, 92prokinetics 73

QQOL 20, 22

RRome�基準 8

和文索引

あアラームサイン 57

い胃下垂 47胃酸 33胃食道逆流症 103胃適応性弛緩障害 27遺伝的要因 38胃排出障害 28

か家族歴 38過敏性腸症候群 105患者–医師関係 67感染性胃腸炎 41漢方薬 79

き機能性胆囊 108気分障害 101

く空腹時強収縮 28

け警告徴候 57

こ抗うつ薬 81高脂肪食 45抗不安薬 81

さ再発 100催眠療法 90酸分泌抑制薬 69

索 引

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— 110 —

し自己記入式質問票 53重症度評価 62受療行動 18消化管運動機能改善薬 73消化管機能検査 59消化管粘膜保護薬 84食後愁訴症候群 8, 92食事療法 68自律神経訓練法 88心窩部痛症候群 8, 92鍼灸療法 91神経症性障害 101心理社会的因子 31, 55

す膵癌 108

せ生活習慣 43, 68性差 15制酸薬 84

ち治療抵抗性 95

てディスペプシア 2低用量アスピリン 61

な内視鏡検査 50内臓知覚過敏 30

に認知行動療法 86

は瀑状胃 47

ひヒスタミンH2 受容体拮抗薬 71肥満 16病悩期間 23, 94

ふプラセボ効果 65, 66プロスタグランジン誘導体 84プロトンポンプ阻害薬 71

ま慢性胃炎 6慢性膵炎 108慢性便秘 107

や薬剤併用療法 85

ゆ有病率 11, 13

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2014 年 4 月 20 日 発行

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機能性消化管疾患診療ガイドライン 2014 ̶ 機能性ディスペプシア(FD)

編集・発行 一般財団法人日本消化器病学会理事長 菅野健太郎〒104-0061 東京都中央区銀座 8-9-13 K-18ビル8階電話 03─3573─4297

The Japanese Society of Gastroenterology, 2014

印刷・製本 日経印刷株式会社

制作 株式会社 南 江 堂〒113-8410 東京都文京区本郷三丁目42 番 6 号電話 (出版)03─3811─7236 (営業)03─3811─7239

Evidence-based Clinical Practice Guidelines for Functional Dyspepsia

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