007-044 旋盤加工 第01章 - pub.nikkan.co.jp · 9 第 1章 汎用旋盤の構造と仕組み...

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1 汎用旋盤の 構造と仕組み 本章では、汎用旋盤の各種機能を「構造」と「仕組 み」の観点から説明します。旋盤の構造と仕組みを理 解することによって、日ごろ何気なく使用している機 能を理論的に裏づけることができ、旋盤作業の精度が 高まるとともに、作業ミスも減少できます。 したがって、旋盤の構造と仕組みを真から理解し、 頭でイメージできることが、スキルアップの第一歩と いえます。

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第1章

汎用旋盤の構造と仕組み

 本章では、汎用旋盤の各種機能を「構造」と「仕組

み」の観点から説明します。旋盤の構造と仕組みを理

解することによって、日ごろ何気なく使用している機

能を理論的に裏づけることができ、旋盤作業の精度が

高まるとともに、作業ミスも減少できます。

 したがって、旋盤の構造と仕組みを真から理解し、

頭でイメージできることが、スキルアップの第一歩と

いえます。

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1-1●主軸起動レバーの構造

 図 1-1に、「主軸起動レバー」と「主軸起動レバー伝達軸」を示しま

す。また、図1-2に、主軸頭に内蔵されている「スイッチング機構」を

示します。図 1-1 から、主軸起動レバーの操作(正転、中立、逆転)

は、主軸起動レバー伝達軸に伝達されることがわかります。そして、主

軸起動レバー伝達軸は、図 1-2 に示すスイッチング機構に連動してお

り、スイッチング機構が「入切」することにより、電動機(モータ)に

電流が流れ、主軸が回転します。すなわち、主軸起動レバーの運動は、

主軸起動レバー伝達軸を介して、主軸頭に内蔵されているスイッチング

機構に伝わり、スイッチング機構が「入切」することによって、主軸が

回転する仕組みになっています。したがって、主軸起動レバーを操作し

ても主軸が回転しない場合には、スイッチング機構が故障している可能

性が考えられます。スイッチング機構を点検する場合には、安全に十分

留意し、必ず「主電源」を切った後に行って下さい。

 また、本書で紹介する旋盤の場合には、スイッチング機構を固定する

「ねじ」がそれほど頑丈でないので、主軸起動レバーの操作を不要に激

しくすると、この「ねじ」が破損し、スイッチング機構が正常に作動し

なくなることがあります。例えば、フットブレーキを使用せずに、主軸

起動レバーの正回転、逆回転の切り替え動作で主軸の回転を停止する行

為を繰返し行うと、スイッチング機構を固定する「ねじ」が破損し、正

常な電流の「入切」が行われず、主軸が起動できなくなります。

 なお、主軸起動レバーの正回転、逆回転の切替えで主軸の回転を停止

する行為は、フットブレーキがない旋盤で行う行為であって、本旋盤の

ように、フットブレーキが付属している旋盤では、フットブレーキを踏

むことにより、主軸の回転を停止するのが基本です。フットブレーキが

付属しているにもかかわらず、主軸起動レバーの正回転、逆回転の切り

替えで主軸の回転を停止する行為は、推奨される行為ではありません。

易 中 難

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第1章●汎用旋盤の構造と仕組み

 電動機(モータ)の起動時には、平常時の5~6倍の電流が流れます。

頻繁に主軸の正転、逆転を繰り返すと、過電流が電動機(モータ)に流

れることを防止するため、旋盤の背面にある電気ボックス(図 1-3参

照)中のサーマルリレー(過負荷検出機器)が作動します。サーマルリ

レーが作動すると、主軸起動レバーを操作しても電動機(モータ)は回

転しません。万一、サーマルリレーが作動した場合には、「復帰ボタン」

を押せば正常に戻りますが、この作業は、必ず主電源を切ってから行う

主軸起動レバー伝達軸

主軸起動レバー

図1-1 主軸起動レバーと主軸起動レバー伝達軸

主軸頭

主軸起動スイッチング機構

主軸起動レバー伝達軸

図1-2 主軸頭に内蔵されている主軸起動のスイッチング機構

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ようにしてください。また、何度もサーマルリレーが作動するようであ

れば、他の原因が考えられるので、その原因を追及し、対策する必要が

あります。

ヒューズサーマルリレー

図1-3 旋盤背面にある電気ボックス中のサーマルリレー

チェックポイント

電動機(モータ)に過電流が流れた場合には、下図に示すヒューズが切れることがあります。ヒューズが切れると、電動機(モータ)に電流が流れないため、主軸は回転できません。ヒューズが切れた場合には、新しいものと交換する必要があります。

ヒューズ

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第1章●汎用旋盤の構造と仕組み

1-2●主軸駆動ベルトの張力の調整

 図 1-4に、「主軸頭の防護カバー」と「ベースの側面カバー」を外し

た様子を示します。「主軸頭の防護カバー」および「ベースの側面カバ

ー」は、六角ボルトやプラスドライバーなどの工具を使用して取り外す

ことができます。ただし、防護カバーは少し重いので取り外す際は手を

挟んだり、落としたりしないよう十分に注意してください。

 図から、「電動機(モータ)」と「主軸の回転数変換軸」は4本のVベ

ルトで締結されていることがわかります。つまり、電動機(モータ)の

回転運動が、Vベルトを介して主軸回転数変換軸に伝わることにより、

設定された回転数で主軸が回転する仕組みになっています。

 ここで、重要となるのが「Vベルトの張力」です。Vベルトはゴム製

で、旋盤の使用年数の経過や使用時間の増加にともない劣化します。劣

化に起因して、Vベルトの張力が弱くなると、Vベルトが電動機(モー

タ)の回転に対して滑るため、電動機(モータ)のトルク(回転力)が

回転数変換軸に伝達されません。つまり、主軸は所定のトルクを得るこ

とができません。

自動送り量変換歯車

主軸回転数変換軸

主軸頭

Vベルト

電動機(モータ)図1-4 主軸頭の防護カバーとベースの側面カバーを外した様子

易 中 難

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 このように、Vベルトの張力が弱くなることにより、電動機(モー

タ)の回転に対してVベルトが滑る現象を、「スリップ現象」といいま

す。「スリップ現象」が発生した場合には、主軸起動レバーを操作した瞬

間、Vベルトの滑りに起因して「キュッ!」という音がします。したが

って、主軸起動レバーを操作した瞬間、「キュッ!」という音がするよ

うな場合には、Vベルトの張力不足が原因と考えられるため、Vベルト

の張力を適切に調整する必要があります。

 以下に、Vベルトの張力調整作業の原理と手順を示します。

 図 1-5に、電動機(モータ)とVベルトの連結部を示します。図か

ら、電動機(モータ)は「モータベース」に設置されており、モータベ

ースを上下することによって、電動機(モータ)の位置(高さ)を調整

できることがわかります。つまり、モータベースを下げることで、電動

機(モータ)の位置は下側(床面に近づける方向)に移動することにな

ります。すなわち、電動機(モータ)と主軸回転変換軸の距離は長くな

るため、Vベルトは引っ張られ張力は強くなります。

 この一方、電動機(モータ)の位置を上側(床面より遠ざける方向)

に移動させることにより、電動機(モータ)と主軸回転変換軸の距離は

短くなるため、Vベルトは緩み、張力は弱くなります。

電動機(モータ)

Vベルト

モータベース

図1-5 電動機(モータ)とVベルトの連結部