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1 ≪線形代数及び演習 I ≫の進め方
線形代数は,ほとんどすべての科学技術分野と社会科学分野おいて必要とされている基礎知識である.この講義・演習では,線形変換という視点から線形代数にアプローチする.コンピュータ・グラフィックスでは,図形の回転,拡大・縮小,対称変換,平行移動,図形をずらす操作などが必要であるが,その多くが,線形変換と呼ばれるものに対応し,行列で表現される. 線形代数で最も重要なものは行列の固有値・固有ベクトルと対角化である.2 次曲線を例として採用し,この有用性をビジュアルに説明する.
1.1 モチベーションとゴール(2 次曲線)
≪ 2 次曲線≫ xy 平面において x と y の 2 次方程式
ax2 + 2bxy + cy2 + dx+ ey + f = 0 (1.1)
が表す図形を 2 次曲線という.ここに,a,b,c,d,e,f はすべて定数であり,2次の項の係数 a,b,c の少なくとも 1 つは 0ではない.たとえば,a = c = 1,b = d = e = 0,f = −1 であれば (1.1) は
x2 + y2 − 1 = 0
となり,これは原点を中心とする半径 1 の円を表す.また,a = −1,e = 1,その他の定数がすべて 0 ならば
y = x2
となり,放物線を表す.定数 a ~ f の選び方に応じて (1.1) はさまざま 2 次曲線を表す.例として,(1.1) で a = 5,b = 0,c = 1,d = −10,e = 2 とした
5x2 + y2 − 10x+ 2y + f = 0 (1.2)
について考えよう.これを
5x2 + y2 − 10x+ 2y + f = 0
⇐⇒ 5(x2 − 2x+ 1) + (y2 + 2y + 1) = 6− f
⇐⇒ 5(x− 1)2 + (y + 1)2 = 6− f
と平方完成して整理すれば
(x− 1)2 +(y + 1)2
5=
6− f
5(1.3)
となる.(1.3) は f < 6 ならば楕円(Figure 1.1 の左上,f = −9)を表す.f
が大きくなるにつれて長軸,短軸が短くなり,f = 6 では 1 点 (1,−1) に縮む.f > 6 の場合,(1.3) は空集合を表す.
1
≪空集合≫ 要素が何もない集合を空集合という.f > 6 の場合,(1.3) の左辺は常に正または 0,右辺は負になり,この方程式を満たす実数 x,y は 1 組も存在しないので,この方程式が表す図形は空集合であるという.
≪楕円,双曲線・交差する 2 直線,放物線≫ 代表的な 2 次曲線は Figure 1.1
に図示した楕円,双曲線・交差する 2 直線,放物線である.このほかに,平行な 2 直線,1 直線も 2 次曲線である.上の例に現れた 1 点,空集合は<曲線>ではないが (1.1) が表す図形という意味で 2 次曲線の仲間とする.
22 ( 1)
( 1) 35
yx
+− + =
22 ( 1) 1
( 1)4 2
yx
−+ − =
22 ( 1)
( 1) 04
yx
−+ − =
2( 1) 3y x= + −
Figure 1.1: 代表的な 2 次曲線(双曲線,交差する 2 直線,楕円,放物線),このほかに,平行な 2 直線,1 直線,1 点,空集合も 2 次曲線である
例題1-1 9x2 − y2 + 4y − a = 0 が表す 2 次曲線の名称を書け.
(解答例)与えられた 2 次方程式を平方完成し,整理すれば
9x2 − y2 + 4y − a = 0
⇐⇒ 9x2 − (y − 2)2 = a− ⇐⇒ x2 − (y − 2)2
32=
a−9
となる.したがって,この 2 次方程式は a = ならば交差する 2 直線を,
a = ならば双曲線を表す.なお,a− > 0 の場合と a− < 0 の場合では双曲線の開き方が異なることに注意せよ.
2
�
�課題1-1 つぎの方程式が大カッコ[ ]内に示された 2 次曲線を表す
ように に適切な数を入れよ.
(1) x2 − (y2 − 6y + ) = 0 [交差する 2 直線]
(2) x2 − 2x+ = 0 [1 直線]
(3) x2 + 2y2 + 4y + = 0 [1 点]
≪ 2 次曲線の標準形≫ 例えば
x2 + 4xy + 4y2 − 2√5x+
√5y = 0 (1.4)
は,(1.1) で a = 1,b = 2,c = 4,d = −2√5,e =
√5,f = 0 とした 2 次方程
式であるが,この 2 次方程式がどのような 2 次曲線を表すのかをどのようにして判定できるのであろうか.実は,2 次の項 x2,xy,y2 の係数 a = 1,b = 2,c = 4 から作られる 2 次の 実対称行列(
a bb c
)=
(1 22 4
)の 固有値 と 固有ベクトル を計算し,固有ベクトルから構成される直交行列によってこの実対称行列を 対角化 するように (1.4) を変換すればこの疑問に答えることができる.線形代数及び演習 I のゴールは ≪行列の固有値や固有ベクトルの意味と性
質を理解し,その計算方法を身に付ける≫ ことである.これを応用すれば x,y の 2 次方程式がどのような 2 次曲線を表すのかを判定できるようになるのである.
�
�まとめ:線形代数及び演習 I のゴール� �
行列の 固有値 や 固有ベクトル の意味と性質を理解し,その計算方法を身に付ける.これを応用すれば,たとえば x,y の 2 次方程式が与えられたとき,それがどのような 2 次曲線を表すのかを判定できるようになる.� �
1.2 演習・実習のチェック
演習や実習にはセルフチェックのものとTAチェックのものがある.
≪セルフチェック≫ セルフチェックの演習や実習については,できたと思ったら自分自身で解答例と照合し,OKならば,ボールペンなどを使用してチェックリストにサインする.いろいろ考えても分からない場合は解答例を見ながら考え直してもよい.解答例を見ても分からない場合や自分のやり方や答えで良いのか分からない際にはTAや担当教員に質問することが望ましい.
≪TAチェック≫ TAチェックの演習や実習については,できたと思ったら担当教員かTAにチェックを申し込みなさい.なお,つぎの 2 点に注意しなさい.
3
• 受講学生は,TAがチェックリストへ記載するのを確認し,自分自身でチェックしたTAの氏名とチェック日を自分のノートなどに記録しなければなりません.
• TAの説明を理解できなかったり,TAの判断がおかしいのではなどと感じたら,その旨を担当教員に伝えなさい.
≪ボランティア・ポイント≫ 早くできても帰ってはいけない(欠席扱いになることがある).早くできた学生には他の学生を指導することが期待され,担当教員の事前承認が必要であるが,ボランティア・ポイントとして成績にも反映される.
≪締切に遅れた場合≫ 締切に遅れた課題や演習については,5講時終了後,チェックリストへの記録を担当教員に申し込みなさい.
1.3 線形代数及び演習 I のウェブサイト
線形代数及び演習 I に関する資料はつぎのウェブサイトから入手できる. http://www.math.ryukoku.ac.jp/~tsutomu/LA.html
「池田勉」で検索し,「池田勉の Web Site」をクリックすれば容易にこの URL に到達できるだろう.講義や演習の資料だけではなく,定期試験の過去問や解答例,評価点の分布や学生による授業評価集計結果などもこのウェブサイトから入手できる.
1.4 成績の評価
下記の割合で成績を評価する: ・平常点 20%:演習・実習の達成状況(締切に遅れた場合も提出可能) ・ミニテスト 20%:講義資料・ノートの持込可,TAへの質問可 ・定期試験 60%:ウェブサイトで定期試験の過去問や解答例を公開,筆記 用具以外は持込不可さらに,他の学生に教えてあげたり,黒板で例題を解くことなどによって得られるボランティア・ポイントを最高評価100点の範囲内で成績に加算する.
1.5 出席の確認
不特定小数の学生に対して出席の確認を行うことがある.欠席の場合は成績評価の際に減算する(不在確認1回につき1点減算).
1.6 定期試験問題(案)の募集
成績評価の 60 %を占める定期試験の問題(案)を募集する.応募できるのは受講学生と担当TAである.今年度の線形代数及び演習 I にふさわしい問題を提案して欲しい.7月19日(火)までに紙に書いた案を担当教員に手渡して欲しい.提案された問題がそのまま出題されることはないが,採用されたら,よく似た問題を出題される.また,問題文には「謝辞(感謝の言葉)」が書かれる.
4
1.7 アルジェブラさんとリニアーくん
線形代数及び演習 I の講義・演習・実習の手助けをするキャラクターとして,アルジェブラさん(Ms. Algebra)とリニアーくん(Mr. Linear)を導入する.よろしく.
Figure 1.2: 左はアルジェブラさん,右はリニアーくん
5
2 行列とベクトルの計算
行列のできるラーメン屋さん,コンサート会場の周りに前夜から長い行列ができる,蟻の行列などのように,日常生活では行列という言葉は≪多くの人間や生物などが列を作って並んでいるさま≫を表すために使われることが多い. しかしながら,日常生活での言い回しとは異なり,線形代数で扱う行列とは数を長方形の形に並べたものである.また,ベクトルとは数を横 1列に並べたり,縦 1列に並べたものである.この章では行列とベクトルの基本的な計算方法を説明する.
2.1 ベクトルの表現
≪ベクトルの成分と次元≫ 実数や複素数を並べて括弧でくくったものをベクトルという.たとえば, (
3 −1)
はベクトルである.一般に,ベクトル(a1 a2 · · · an
)(2.1)
の中の最初(左端)の数 a1 を第 1 成分,i番目の数 ai を第 i 成分といい,成分の総数 n を次元という.たとえば,ベクトル
(3 −1
) の次元は 2,第 1
成分は 3,第 2 成分は −1 である.また,(−2 7 4 −5
)の次元は 4,第 2 成分は 7,第 4 成分は −5 である.ベクトルを表示するために,上の例では数を横 1列に並べたが,
(3−1
),
−274−5
,
a1a2...an
のように縦に並べてもよい.成分を横に並べたものを 横ベクトル,縦に並べたものを 縦ベクトル という.また,a,x,y のような太字の英小文字でベクトルを表すことがある.さらに,すべての成分が 0 のベクトルは 零ベクトル と呼ばれ,数字 0 の太字 0 で表現されることが多い.
Tidbit: ベクトル空間� �本書で紹介するよりもはるかに広い枠組みの中でベクトルは考えられている.たとえば,関数 f(x) = x や g(x) = x2 もベクトルとみなすことができる.この場合,関数 f + g は (f + g)(x) = x+ x2 と定義される.詳しいことは「関数空間」や「ベクトル空間」でウェブ検索をすれば調べることができる.ただし,理工系であっても,大学の初級課程のレベルでは実数や複素数を成分とするベクトルに関する議論だけで線形代数の本質を学ぶことができる.このため,本書では数を並べた数ベクトルのみを扱う.� �
6
2.2 ベクトルのスカラー倍,和と差
≪等しいベクトル≫ 2 つのベクトル a,b の次元が同じであり,対応する成分がすべて等しいときに,a,b は等しいという.
≪スカラー倍≫ ベクトル a に数 λ を乗じたスカラー倍 λa とは a の各成分をλ 倍したものである.
a =
a1a2...an
=⇒ λa =
λa1λa2...
λan
−1 を乗じた (−1)a は単に −a と書かれることもある.
≪和と差≫ 同じ次元を持つ 2 つのベクトル a,b に対して和と差が定義される.和 a+ b は成分同士を加えたものとして,差 a− b は a+ (−b) として定義される.
a =
a1a2...an
, b =
b1b2...bn
=⇒ a+ b =
a1 + b1a2 + b2
...an + bn
, a− b =
a1 − b1a2 − b2
...an − bn
例題2-1 a =
3−15
,b =
74−2
とするとき,つぎを計算せよ. (1) −3a (2) 2a− 3b (3) 3a+ 2c = b となるベクトル c
(解答例)(1) − 3a = −3
3
−1
5
=
−9
3
−15
(2) 2a− 3b = 2
3
−1
5
− 3
7
4
−2
=
6
−2
10
−
21
12
−6
=
−15
−14
16
(3) c =1
2(b− 3a) =
1
2
7− 3 · 34− 3 · (−1)
−2− 3 · 5
=1
2
−2
7
−17
7
�
�課題2-1 a =
−274−5
,b =
3−13−1
とするとき,つぎを計算せよ. (1) −2a (2) 3a− 2b (3) 4a+ c = b となるベクトル c
�
�課題2-2 i =
√−1を虚数単位とする(i2 = −1).a =
(1i
),b =
(i−1
)として,つぎを計算せよ.
(1) (1 + i)a (2) 2ia+ (1− i)b (3) ia+ c = 2b となるベクトル c�
�課題2-3 下の図のベクトル a,bに対して,−2a,2a+b,a−3b,2b−a
を図の中に書き込め.
a
b
�
�まとめ:ベクトルのスカラー倍,和と差� �
λ,µ を数(実数か複素数),a,b,c を同じ次元のベクトルとする.このときつぎが成り立つ.
(1) (λµ)a = λ(µa) (2) (λ+ µ)a = λa+ µa
(3) λ(a+ b) = λa+ λb (4) a+ b = b+ a
(5) (a+ b) + c = a+ (b+ c) (6) a+ 0 = 0+ a = a� �2.3 実ベクトルの内積
≪実ベクトル≫ すべての成分が実数であるベクトルを実ベクトルといい,複素数成分が 1 つでもある場合は 複素ベクトル という.この節では,実ベクトル
8
は点の座標と対応することを復習し,2 つの実ベクトルの内積の定義と性質を確認する(複素ベクトルの内積は 5 章で解説する).
O x
y
1
3
A
1
2
p
p
=
a
2P2p
1p
1P
Figure 2.1: 2 次元の直交座標系
Oy
z
1p
2p
3p
x
1P
1
2 2P
0
p
p
=
1
3 2
3
P
p
p
p
=
Figure 2.2: 3 次元の直交座標系
≪ベクトルの大きさ≫ はじめに,2 次元の直交座標系と 2 次元ベクトルの対応を考える.平面上の点の位置は 座標 や 位置ベクトル によって表される.中学校や高等学校では座標は横に書かれること多いが,線形変換を扱う際には縦書きで表現した方が便利である.たとえば,Figure 2.1 の点 A の位置は x 座標√3 と y 座標 1 を成分とする 2 次元ベクトル
(√31
)で表される.位置ベクト
ル−→OA =
(√31
)も同じベクトルになる.ベクトル a の大きさはその長さで定
義され,|a| のように絶対値と同じ記号で表す.ベクトル a =−−→OP2 =
(p1p2
)の
大きさはピタゴラスの定理 |−−→OP2|2 = |
−−→OP1|2 + |
−−−→P1P2|2 = p1
2 + p22 より
|a| = |−−→OP2| =√
p12 + p22
である.Figure 2.2 に示したように 3 次元の直交座標系と 3 次元ベクトルの対応も同様である.すなわち,点 P3 の位置は x,y,z 座標の値を成分とする 3
次元ベクトル
p1p2p3
で表される.点 P3 から xy 平面へ下ろした垂線の足を P2,
P2 から x 軸への垂線の足を P1 とする.すると,3 次元ベクトル a =−−→OP3 の
長さは,ピタゴラスの定理を三角形 OP2P3 と OP1P2 に適用
|a|2 = |−−→OP3|2 = |
−−→OP2|2 + |
−−−→P2P3|2 = |
−−→OP1|2 + |
−−−→P1P2|2 + |
−−−→P2P3|2
することによって|a| = |
−−→OP3| =
√p12 + p22 + p32
であることが分かる.
9
O
1
2
1
P nn
n
n
p
p
p
p
−
−
=
⋮
1
21
1
P
0
nn
n
p
p
p−−
−
=
⋮
1
22P
00
nn
p
p −−
=
⋮
1 2, ,n
x x −⋯
1nx −
nx
np
1np −
1 2, ,n
p p −⋯
Figure 2.3: n 次元の直交座標系
つぎに n 次元のベクトルを考える.n
は 4 でも 5 でも,100 でも 1000 でも構わない.我々は 3 次元空間の中で暮らしているので,n 次元ベクトルといわれるとちょっとびっくりするかも知れない.しかし,まずは単純に 100 次元ベクトルとは数が 100 個並んだもの,n 次元ベクトルとは数が n 個並んだものと考えよう.
Figure 2.3 には x1 軸,· · ·,xn−2 軸を 1 本にまとめることによって n 次元の直交座標系が模式的に描かれている.ピタゴラスの定理を n− 1 回適用すれば
|−−→OPn|2 = |
−−−−→OPn−1|2 + |
−−−−→Pn−1Pn|2 = |
−−−−→OPn−2|2 + |
−−−−−−→Pn−2Pn−1|2 + |
−−−−→Pn−1Pn|2
= · · · · · · · · · · · · · · ·
= |−−→OP1|2 + |
−−−→P1P2|2 + · · ·+ |
−−−−−−→Pn−2Pn−1|2 + |
−−−−→Pn−1Pn|2
であるから,a =−−→OPn の長さはつぎのようになる.
|a| = |−−→OPn| =
√p12 + p22 + · · ·+ pn−1
2 + pn2
≪実ベクトルの内積≫ 実ベクトル a と b の内積 (a, b) はおのおのの大きさ|a|,|b| と 2 つのベクトルがなす角 θ(0 ≤ θ ≤ π) によって
(a, b) = |a| |b| cos θ (2.2)
と定義される(Figure 2.4 参照).この定義は,3 次元のベクトルに対しても,n 次元のベクトルに対しても同じである.なぜならば,Figure 2.5 に示すように,a =
−→PA,b =
−→PB となるような点 P,A,B を選び,この 3 点を通る平面
内で考えれば,2 次元のベクトルの場合と同一であるからである.
a
b
θ
Figure 2.4: ベクトルの内積
a
b
θ
O
PA
B
1 2, ,n
x x −⋯
1nx −
nx
Figure 2.5: n 次元空間における内積
10
≪内積の成分表示≫ 高等学校では,内積 (2.2) をベクトルの成分で表すことも
学んだ.n 次元ベクトル a =
a1a2...an
と b =
b1b2...bn
の内積も
(a, b) = a1b1 + a2b2 + · · ·+ anbn (2.3)
と成分の積と和で表現できる.実際,Figure 2.5 の三角形 PAB に関する余弦定理
|AB|2 = |PA|2 + |PB|2 − 2|PA||PB| cos θ
すなわち,|b− a|2 = |a|2 + |b|2 − 2|a||b| cos θ を利用すれば,
(a, b) = |a||b| cos θ =1
2
(|a|2 + |b|2 − |b− a|2
)=
1
2
(n∑
j=1
aj2 +
n∑j=1
bj2 −
n∑j=1
(bj − aj)2
)
=1
2
n∑j=1
(aj
2 + bj2 − (bj
2 − 2bjaj + aj2))=
n∑j=1
ajbj = (2.3) の右辺
となる.同値な 2 つの定義 (2.2) と (2.3) からベクトル a と b がなす角 θ を
cos θ =(a, b)
|a| |b|(2.4)
から求めることができる.特に,a と b が直交するときには
(a, b) = 0 (2.5)
が成り立つ.一方,0 ではないベクトル a と b が平行になるのは
a = kb
となる実数 k が存在するときである.
例題2-2 a を実数,x =
(12
),y =
(−3a
)とする.
(1) x と y がなす角が3π
4になるような a を求めよ.
(2) x と y が平行になるような a を求めよ.
(解答例)(1) (x,y) = −3 + 2a,|x| =√5,|y| =
√9 + a2 である.(2.4) より
2a− 3√5√9 + a2
= cos3π
4= − 1√
2(2.6)
11
となる.両辺を自乗して a に関して整理すれば (a+ 1)(a− 9) = 0 が得られるが,a = −1,a = 9 のうち (2.6) を満たすのは a = −1 だけである.したがって,求める a は a = −1 である.(2) x = ky なる実数 k が存在するときに x と y が平行になる.成分の比較1 = −3k,2 = ka より k = −1/3,a = −6 が得られる.
�
�課題2-4 a を実数,x =
(1−1
),y =
(a1
)とする.
(1) x と y が直交するような a を求めよ.
(2) x と y がなす角がπ
3になるような a を求めよ.
(3) x と y が平行になるような a を求めよ.
�
�課題2-5(TAチェック) a,b を実数,x =
2a0
,y =
1−1b
とする.(1) x と y が直交するような a,b を求めよ.
(2) x と y が平行になるような a,b を求めよ.
(3) x と z =
1−1√2
がなす角が π
4になるような a を求めよ.
�
�課題2-6(TAチェック) a,b,c を実数,x =
a
a+ 1bc
,y =
2−103
とする.(1) x と y が直交するような a,b,c を求めよ.
(2) x と y が平行になるような a,b,c を求めよ.
�
�まとめ:実ベクトルの内積� �
λ を実数,a,b,c を同じ次元のベクトルとする.このときつぎが成り立つ.
(1) (a, b+ c) = (a, b) + (a, c) (2) (a+ b, c) = (a, c) + (b, c)
(3) (λa, b) = (a, λb) = λ(a, b) (4) (a, b) = (b,a)
(5) (a,a) ≥ 0 であり,等号は a = 0 のときのみ成立� �
12
2.4 ベクトルによる図形の表現
O x
y
P
0P
a
2−
23
Figure 2.6: 直線のベクトル方程式
≪直線のベクトル方程式≫ 平面上の直線の方程式としては y =
ax+ b(a,b は実数)が中学校や高等学校では使われる.これは直線を 1 次関数のグラフとして捕らえた表現であり,分かりやすいが,y 軸に平行な直線を表現できない.一方,x = cy+d
という表現は x 軸に平行な直線を表現できない.ここでは,直線上の 1点の位
置ベクトルと直線の方向を示すベクトルで直線を表現する.た
とえば,Figure 2.6 のように点 P0 =
(−22
)を通り,a =
(21
)の方向に伸びる
直線を考える.するとこの直線上の点 P =
(xy
)の位置ベクトル
−→OP はある実
数 t を用いて−→OP =
−−→OP0 + ta
で表される.逆に,このように表現される点全体
−→OP =
−−→OP0 + ta (t は実数) (2.7)
は P0 を通り,a の方向に伸びる直線全体と一致する.(2.7) やこれを成分ごとに書いた (
xy
)=
(−22
)+ t
(21
)(t は実数) (2.8)
を直線のベクトル方程式という.一般に,a = 0 ならば (2.7) は P0 を通る方向 a の直線のベクトル方程式に
なる.一方 a = 0 ならば (2.7) は 1 点 P0 を表す.
例題2-3 つぎの直線のベクトル方程式を求めよ.
(1) 2 点(−1−3
),(23
)を通る直線 (2) 直線 y = 3x+ 1
(3) 点(
2−2
)を通り y 軸に平行な直線
(解答例)(1) 直線の方向は(23
)−(−1−3
)=
(36
)であるから,この直線のベ
クトル方程式は (x
y
)=
(−1
−3
)+ t
(6
)(t は実数)
13
である.なお,(36
)は(12
)や(−1−2
)と平行であり,この直線は
(23
)も通
るから (x
y
)=
(−3
)+ t
(1)(t は実数)
(x
y
)=
(3
)+ t
(−1)(t は実数)
なども同じ直線を表すベクトル方程式である.
(2) この直線の方向は(13
)であり,
(01
)を通るから,ベクトル方程式はつぎ
の通りである. (x
y
)=
(0)
+ t
(3
)(t は実数)
(3) 直線の方向は(01
)であるから,ベクトル方程式はつぎの通りである.
(x
y
)=
(2)
+ t
(1
)(t は実数)
�
�課題2-7(TAチェック) つぎの直線のベクトル方程式を求めよ.
(1) 2 点(12
),(
2−1
)を通る直線 (2) 直線 2x+ 3y = 1
(3) 点(
3−1
)を通り,傾きが −1 である直線
(4) 点(
2−2
)を通り x 軸に平行な直線
例題2-4 ベクトル方程式で表現されたつぎの 2 直線の交点を求めよ.
(xy
)=
(01
)+ t
(13
)(t は実数),
(xy
)=
(23
)− s
(12
)(s は実数)
(解答例) 交点では {t = 2− s1 + 3t = 3− 2s
が成立する.上の式の t を下の式に代入すれば,1 + 3(2− s) = 3− 2s となり,
s = 4 である.したがって,交点は
( )である.
14
�
�課題2-8 ベクトル方程式で表現されたつぎの 2 直線の交点を求めよ.
(xy
)=
(−1−3
)+ t
(12
)(t は実数),
(xy
)=
(−22
)+ s
(21
)(s は実数)
平面上の直線と同じ考え方に基づいて,3 次元空間における直線も,さらには,n 次元空間における直線も (2.7) と同じ形のベクトル方程式で表現さ
れる.たとえば,3 次元空間の 2 点
1−12
と 2
3−1
を通る直線の方向は 23−1
−
1−12
=
14−3
であるから,ベクトル方程式はつぎの通りである.xyz
=
1−12
+ t
14−3
(t は実数)
Tidbit: ベクトルによる円の表現� �
O
x
y
P
0P
θ
Figure 2.7: ベクトルによる円の表現
直線だけではなく,いろいろな図形がベクトルを利用して表現され
る.たとえば,P0 =
(p1p2
)を中
心とする半径 r の円の方程式としては
(x− p1)2 + (y − p2)
2 = r2
がよく使われるが,これは円を中心からの距離が一定の集合として捕らえた表現である.この考え方を少しだけ変更してみよう.長さr のひもを用意し,その一端を原点から P0 まで移動し固定する.その後,もう 1 つの端を引っ張ってぐるぐる回せば円を描ける.こうして,ベクトルを利用した円の表現(
xy
)=
(p1p2
)+ r
(cos θsin θ
)(0 ≤ θ ≤ 2π) (2.9)
が得られる(Figure 2.7 参照).ここに,P =
(xy
)は円の上の点,θ は線
分 P0P が x 軸の正の方向となす角であり,0 ≤ θ ≤ 2π はひもの端をぐるぐる回すことに対応する.� �
15
Tidbit: 楕円,双曲線,放物線のベクトルを利用した表現� �楕円,双曲線,放物線もベクトルを利用して表現できる.
楕 円:x2
22+ (y − 1)2 = 1 ⇐⇒
(xy
)=
(01
)+
(2 cos θsin θ
) (0 ≤ θ ≤ 2π)
双曲線:x2
22− (y − 1)2 = 1 ⇐⇒
(xy
)=
(01
)+
(±2 cosh tsinh t
)(t は実数)
放物線:x = 4− 3(y + 1)2 ⇐⇒(xy
)=
(40
)−(3(t+ 1)2
−t
)(t は実数)
ここに cosh t =1
2(et + e−t),sinh t =
1
2(et − e−t) は双曲線関数と呼ばれる.� �
2.5 行列の表現
≪行ベクトル,列ベクトル,・・・≫ 実数や複素数を長方形の形に並べて括弧でくくったものを行列という.たとえば,(
3 −2 04 5 1
)(2.10)
は行列である.数の横の並びを行といい,上から順に,第 1行,第 2行,· · · という.行がベクトルであることを明示する際には行ベクトルという.縦の並びを列と呼び,左から順に,第 1 列,第 2 列,· · · という.列をベクトルとして扱うときは列ベクトルと呼ぶ.(2.10) の場合は,第 1 行ベクトルが
(3 −2 0
)であり,
(01
)が第 3 列ベクトルである.
行の数が m,列の数が n である行列をm 行 n 列行列 とかm × n 行列 と呼ぶ.行と列の数が等しい n× n 行列は n 次正方行列 と呼ばれる.たとえば,
(2.10) は 2× 3 行列,(1 −20 3
)は 2 次正方行列である.
ベクトルも行列の一種である.実際,n 次元横ベクトルは 1×n 行列,m 次元縦ベクトルは m× 1 行列である.ベクトルと同様に,行列を構成する数を成分という.行列
a11 · · · a1j · · · a1n...
. . ....
. . ....
ai1 · · · aij · · · ain...
. . ....
. . ....
am1 · · · amj · · · amn
(2.11)
の i 行 j 列目に位置する成分 aij は i 行 j 列成分 とか (i, j) 成分 とか呼ばれる.大きな行列の成分をすべて表示することは煩わしいこともあり,行列を A,
16
B,X,Y のように英大文字で表したり,(aij)のように (i, j) 成分で代表した
りする.
≪単位行列,零行列≫(1 00 1
)のように aij = 1(i = j),aij = 0(i = j)で
ある正方行列は単位行列と呼ばれ E や I で表現される.すべての成分が 0 の行列は零行列と呼ばれ,英大文字 O で表記される.E,I,O は他の一般の行列を表すためには使用しない方がよい.
≪等しい行列≫ 行列 A,B の行の数も列の数も等しいとき A,B は同じ型を持つという.また,2つの行列 A,B が等しいとは,A,B が同じ型を持ち,対応する成分がすべて等しいことである.
≪転置行列≫ 行列 A の行と列を入れ替えたものを転置行列といい,左肩に t
を付けた tA で表す.転置行列を表す記号を使えば,縦ベクトルも 3−20
= t(3 −2 0
)のように横書きすることができる.
例題2-5 (2.10) の転置行列はつぎの通りである.
t
(3 −2 04 5 1
)=
�
�課題2-9 つぎの に適切な記号などを入れよ.
(1) A が m× n 行列ならば tA は × 行列である.
(2) (2.11) の転置行列の (i, j) 成分は である.
�
�課題2-10 つぎの行列の転置行列を計算せよ.
A1 =(4 0
),A2 =
(0 −1 0
),A3 =
(−20
),A4 =
(1 0−2 0
),
A5 =
(0 1 02 0 1
),A6 =
002
,A7 =
1 00 50 3
,A8 =
0 0 −1−2 0 00 3 0
17
Tidbit: 行列はベクトルを並べたものとして考えられる� �(2.11) の行列の第 1 行ベクトル
(a11 · · · a1j · · · a1n
)を u1,· · ·,
第 i 行ベクトル(ai1 · · · aij · · · ain
)を ui,· · ·,第 m 行ベクトル(
am1 · · · amj · · · amn
)を um と置けば,(2.11) の行列はこれらを縦に
並べたものとなる.a11 · · · a1j · · · a1n...
. . ....
. . ....
ai1 · · · aij · · · ain...
. . ....
. . ....
am1 · · · amj · · · amn
=
u1
· · ·ui
· · ·um
(2.12)
また,(2.11) の行列の第 j 列ベクトル t(a1j · · · aij · · · amj
)を vj と置
けば(j = 1, 2, · · · , n),(2.11) の行列はa11 · · · a1j · · · a1n...
. . ....
. . ....
ai1 · · · aij · · · ain...
. . ....
. . ....
am1 · · · amj · · · amn
=(
v1 · · · vj · · · vn
)(2.13)
のように列ベクトルを n 個並べて表現できる.� �2.6 行列のスカラー倍,和と差
≪スカラー倍≫ ベクトルと同様に,行列 A に数 λ を乗じたスカラー倍 λA とは A の各成分を λ 倍したもの
λ
a11 a12 · · · a1na21 a22 · · · a2n...
.... . .
...am1 am2 · · · amn
=
λa11 λa12 · · · λa1nλa21 λa22 · · · λa2n...
.... . .
...λam1 λam2 · · · λamn
(2.14)
であり,−1 を乗じた (−1)A は単に −A と書かれる.行列 A とそのスカラー倍 λA は同じ型を持つ.
≪和と差≫ 同じ型の行列 A と B に対して,和 A + B は成分同士を加えたものとして,差 A−B は A+ (−B) として定義される.したがって,
A =
a11 a12 · · · a1na21 a22 · · · a2n...
.... . .
...am1 am2 · · · amn
, B =
b11 b12 · · · b1nb21 b22 · · · b2n...
.... . .
...bm1 bm2 · · · bmn
ならば
18
A+B =
a11 + b11 a12 + b12 · · · a1n + b1na21 + b21 a22 + b22 · · · a2n + b2n
......
. . ....
am1 + bm1 am2 + bm2 · · · amn + bmm
(2.15)
A−B =
a11 − b11 a12 − b12 · · · a1n − b1na21 − b21 a22 − b22 · · · a2n − b2n
......
. . ....
am1 − bm1 am2 − bm2 · · · amn − bmm
(2.16)
となる.A+B や A−B の型は A や B と同じである.
例題2-6 つぎの行列のスカラー倍,和や差を考える.
A =
(0 2 −34 0 2
), B =
(1 −1 0−1 1 2
),
C =
0 2−3 40 2
, D =
2 −31 4−2 1
(2.17)
A と B は同じ型,C と D も同じ型であり,
2A+B =
(1 3 −6
7 1 6
), 3C − 2D =
−4 12
−11 4
4 4
となる.しかし,2× 3 行列である A や B と 3× 2 行列である C や D の型は異なるので,A と C の和や B と D の差は考えない.�
�課題2-11 (2.17) の A,B,C,D に対して,つぎを計算せよ.
A+ 2 tC, 3D + 2 tB, B −tC, D − 3 tA
�
�まとめ:行列のスカラー倍,和と差� �
λ,µ を数(実数か複素数),A,B,C を同じ型の行列とする.また,O を同じ型の零行列とする.このときつぎが成り立つ.
(1) (λµ)A = λ(µA) (2) (λ+ µ)A = λA+ µA
(3) λ(A+B) = λA+ λB (4) A+B = B + A
(5) (A+B) + C = A+ (B + C) (6) A+O = O + A = A� �
19
2.7 行列の積
≪積が定義されるための条件≫ 2 つの行列 A,B の積 AB は A の列の数と B
の行の数が一致するときにだけ考えられる.A =(aij)が m×n行列,B =
(bij)
が n× p 行列のとき,積 AB =(cij)は m× p 行列として
AB =
a11 · · · a1j · · · a1n...
. . ....
. . ....
ai1 · · · aij · · · ain...
. . ....
. . ....
am1 · · · amj · · · amn
b11 · · · b1j · · · b1p...
. . ....
. . ....
bi1 · · · bij · · · bip...
. . ....
. . ....
bn1 · · · bnj · · · bnp
=
n∑k=1
a1kbk1 · · ·n∑
k=1
a1kbkj · · ·n∑
k=1
a1kbkp
.... . .
.... . .
...n∑
k=1
aikbk1 · · ·n∑
k=1
aikbkj · · ·n∑
k=1
aikbkp
.... . .
.... . .
...n∑
k=1
amkbk1 · · ·n∑
k=1
amkbkj · · ·n∑
k=1
amkbkp
(2.18)
のように定義される,すなわち,積 AB の (i, j) 成分 cij は
cij = ai1b1j + ai2b2j + · · ·+ ainbnj 1 ≤ i ≤ m, 1 ≤ j ≤ p (2.19)
である.
例題2-7 (2.17) の行列の積を考える.A と B は 2× 3 行列,C と D は
3× 2 行列であるから,積 AC,DB などが定義される.実際,
AC =
(0 2 −3
4 0 2
) 0 2−3 40 2
=
(−6 2
0 12
)
BD =
(1 −1 0
−1 1 2
) 2 −31 4−2 1
=
(1 −7
−5 9
)
CA =
0 2
−3 4
0 2
(0 2 −3
4 0 2
)=
8 0 4
16 −6 17
8 0 4
DB =
2 −3
1 4
−2 1
( 1 −1 0
−1 1 2
)=
5 −5 −6
−3 3 8
−3 3 2
20
である.なお,AC,BD は 2× 2 行列であるのに対して CA,DB は 3× 3 行列であるから AC = CA,BD = DB である.�
�課題2-12 つぎの行列の積を計算し,簡潔な形に整理せよ.
(1)
(cos θ sin θ− sin θ cos θ
)(cos θ − sin θsin θ cos θ
) (2)
(1 −b0 1
)(1 b0 1
)
≪行列のべき乗≫ A が正方行列ならば,積 AA = A2 が定義される.A2 も同じ型の正方行列になるので,A3,A4,· · · も Ak = AAk−1 によって順次定義される.�
�課題2-13 課題2-10の行列 A1 ~ A8 について積を定義できるか否
かを調べ,定義できる場合には計算せよ(A42,A8
2 も含めて 22 通り).
Tidbit: 行列の積の行ベクトル,列ベクトルによる表現� �(2.18) の行列 A の第 i 行ベクトルを ai,B の第 j 列ベクトルを bj とすれば,ai は 1 × n 行列,bj は n × 1 行列であるから積 aibj が定義される.この積を定義にしたがって計算すると
aibj = ai1b1j + ai2b2j + · · ·+ ainbnj
となり,(2.19) に示された A と B の積 AB の (i, j) 成分と一致する.このことは,A を行ベクトルを縦に並べた形で書き,B を列ベクトルを横に並べた形で書けば,積 AB をつぎのような形で表現できることを示している.
AB =
a1
a2...
am
(b1 b2 · · · bp)=
a1b1 a1b2 · · · a1bpa2b1 a2b2 · · · a2bp...
.... . .
...amb1 amb2 · · · ambp
(2.20)
また,A はそのままにして,B だけを列ベクトルを横に並べた形で書けば
AB = A(b1 b2 · · · bp
)=(Ab1 Ab2 · · · Abp
)(2.21)
のように計算することもできる.� �≪積の非可換性( AB = BA)≫ 実数や複素数 λ,µ については λµ = µλ で
21
あるが,行列の積に関しては AB と BA が等しいとは限らない.たとえば,
A =
(0 2 −34 0 2
) と B =
0−30
に関しては,AB は定義されるが,B の列の数と A の行の数が一致しないのでBA は定義することさえできない.また,
A =
(0 2 −34 0 2
) と B =
0 2−3 40 2
の場合,AB も BA も定義されるが,2×2 行列である AB が 3×3 行列であるBA に等しくはなりえない.さらに,A,B が同じ型の正方行列であれば AB
も BA も同じ型の正方行列であるが,つぎのように AB = BA となる場合もある.
A =
(1 −11 1
), B =
(1 10 1
)⇒ AB =
(1 0
1 2
), BA =
(2 0
1 1
)
≪行列の転置と行列の積≫ 行列の転置と行列の積については,章末の Tidbit:t(AB) =tB tA の証明 で示されているように
t(AB) =tB tA
が成立する.ここでは 2 つの例を与えるに留める.
例題2-8 A =
(1 10 1
),B =
(1 02 1
)とする.すると
AB =
(3 1
2 1
), t(AB) =
(3 2
1 1
), BA =
(1 1
2 3
), t(BA) =
(1 2
1 3
),
tA =
(1 0
1 1
), tB =
(1 2
0 1
), tA tB =
(1 2
1 3
), tB tA =
(3 2
1 1
)であり,t(AB) =tB tA,t(BA) =tA tB が成立している.
�
�まとめ:行列の積� �
数(実数か複素数)λ と行列 A,B,C に対してつぎが成り立つ.ただし,下記に現れる積が定義される条件を A,B,C は満たしているものとする.
(1) λ(AB) = (λA)B = A(λB) (2) (AB)C = A(BC) = ABC
(3) A(B + C) = AB + AC (4) (A+B)C = AC +BC
(5) t(AB) = tB tA
(6) AB = BA とは限らない(一般に AB = BA である)� �22
�
�まとめ:単位行列との積� �
I を n 次単位行列とする.つぎが成り立つ.
(1) m× n 行列 A に対して AI = A である.
(2) n× p 行列 B に対して IB = B である.� �≪実行列・実ベクトルの内積≫ ベクトルの場合と同様にすべての成分が実数である行列を 実行列 といい,1 つでも複素数成分がある場合は複素行列という.行列 A,B が実行列ならば (2.18)∼(2.19) より積 AB の (i, j) 成分は A の
第 i 行ベクトルと B の第 j 列ベクトルの内積に等しい.実ベクトルの内積は行列の積の形で表現できる.実際,縦ベクトル a =
t(a1 a2 · · · an
)と b =t
(b1 b2 · · · bn
)の内積 (a, b) はつぎに示すよう
に tab に等しい.
(a, b) = a1b1 + a2b2 + · · ·+ anbn =(a1 a2 · · · an
)b1b2...bn
= tab
≪実対称行列≫ tA = A を満たす実行列を実対称行列という.実対称行列は必然的に正方行列になるので n 次実対称行列のように呼ばれる.x,y の 2 次方程式や x,y,z の 2 次方程式は実対称行列を用いて 行列形式 で表される.
例題2-9 x,y の 2 次方程式を 2 次の実対称行列 A,1 × 2 実行列 B,
実数 c を用いて
(x y
)A
(xy
)+B
(xy
)+ c = 0 (2.22)
の形に書くことができる.たとえば,
7x2 − 6√3xy + 13y2 + 4
√3x+ 4y − 12 = 0
はつぎのように表される.
(x y
)( 7 −3√3
−3√3 13
)(x
y
)+(4√3 4
)(xy
)− 12 = 0
�
�課題2-14(TAチェック) つぎの 2 次方程式を 2 次の実対称行列 A,
1× 2 実行列 B,実数 c を用いて (2.22) の形に書け.
(1) 2xy + 4√2x+ 2
√2y + 9 = 0
(2) x2 + 4xy + 4y2 − 2√5x+
√5y = 0
23
Tidbit: t(AB) =tB tA の証明� �まず n 次元の横ベクトル a =
(a1 a2 · · · an
)と縦ベクトル b =t(
b1 b2 · · · bn)を考える.すると
ab =(a1 a2 · · · an
)b1b2...bn
= a1b1 + a2b2 + · · ·+ anbn
tbta =(b1 b2 · · · bn
)a1a2...an
= b1a1 + b2a2 + · · ·+ bnan
である.すなわち,t(ab) = ab = tbta (2.23)
である.一般の行列については,(2.20) のように,A を行ベクトルを縦に並べた形で書き,B を列ベクトルを横に並べた形で書けば (tB)(tA) は
(tB)(tA) =
tb1tb2...
tbp
(ta1ta2 · · · tam
)=
tb1
ta1tb1
ta2 · · · tb1tam
tb2ta1
tb2ta2 · · · tb2
tam...
.... . .
...tbp
ta1tbp
ta2 · · · tbptam
と表現される.(tB)(tA) の (i, j) 成分 tbi
taj は (2.23) により,AB の (j, i)成分 ajbi に等しい.したがって,t(AB) = (tB)(tA) である.� �
24
3 平面上の線形変換
行列は数を長方形の形に並べたものであるが,単なる数字の表に止まらず,空間から空間への写像という意味を持つ.すべての線分を線分か点に移し,すべての面を面か線分か点に移す線形写像と呼ばれる写像を行列は表現する. この章では,まず,基本的な線形変換に対応する 2 次正方行列を紹介する.ついで,線形写像の合成から行列やベクトルの積が必然的に導入されることを解説し,図形を変換するという意識の下で行列の計算を行う.
3.1 平面から平面への写像
≪写像と変換≫ 2 つの集合 X と Y において,X の 1 つ 1 つの要素に Y の要素を 1つずつ対応させる規則を X から Y への写像という.X と Y が一致するとき,写像のことを変換ともいう.
この章では,平面から平面への変換(xy
)→(x′
y′
)を考える.たとえば,
(x′
y′
)=
2x
1
2y
(3.1)
は,x 方向は 2 倍に拡大し,y 方向は半分に縮小する変換である.また,(x′
y′
)=
(1
2(x+ y)
y
)(3.2)
は,x 座標と y 座標の平均を新しい x 座標にする変換である.
例題3-1 (3.1) によって平面上の点の列を
(x1
y1
)=
(a
b
),
(xn+1
yn+1
)=
2xn
1
2yn
(n = 1, 2, 3, · · · )
と定義する.すると,xn = 2n−1a,yn =
(1
2
)n−1
b となる.
�
�課題3-1 (3.2) によって平面上の点の列を
(x1
y1
)=
(a
b
),
(xn+1
yn+1
)=
(1
2(xn + yn)
yn
)(n = 1, 2, 3, · · · )
と定義する.このとき,xn,yn(n = 1, 2, 3, · · ·)を a,b,n で表せ.
25
Tidbit: エノン(Henon)写像� �(3.1),(3.2)の右辺は xと y の 1次式であるが,2次の項が現れる例として,(
x′
y′
)=
(1− px2 + qy
x
)(ただし,p = 1.4,q = 0.3) (3.3)
-2
-1.5
-1
-0.5
0
0.5
1
1.5
2
-1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3
x
y
Figure 3.1: 直線 x = 0,y = 4x,y = −4x の像
を考える.エノン写像と呼ばれるこの変換は y 軸に平行な直線 x = c(c は定数)を x 軸に平行な直線 y = c に写像し,その他の直線を放物線に写像する.たとえば,直線 x = 0,y = 4x,y = −4xは,それぞれ,Figure 3.1の直線,上側の放物線,下側の放物線に写像される.
例題3-2 エノン写像 (3.3)によ
って直線 y = rx はどのような図形に写像されるか.ベクトルを利用して表現せよ.
(解答例) 直線 y = rx のベクトル
方程式(xy
)=
(trt
)(t は実数)を
(3.3) に代入すれば(x′
y′
)=
(1− pt2 + qrt
t
)=
1 +q2r2
4p0
−
(p(t− qr
2p)2
−t
)(t は実数)
となる.これは,Tidbit: 楕円,双曲線,放物線のベクトルを利用した表現(p. 17)に例示したように,x 軸を対称軸とする放物線を表す.� �
3.2 線形変換の基本的性質
≪線形変換≫ (3.1),(3.2) は行列を用いて,それぞれ,(x′
y′
)=
(2 00 1/2
)(xy
),
(x′
y′
)=
(1/2 1/20 1
)(xy
)
とも表現される.y 軸に関する対称移動(x′
y′
)=
(−xy
)も行列を用いて(
x′
y′
)=
(−1 00 1
)(xy
)(3.4)
と表される.このように 2 次の実正方行列 A によって(x′
y′
)= A
(xy
)(3.5)
26
と表される変換は平面上の線形変換と呼ばれる.
≪線形変換はすべての直線を直線か 1 点に写像≫ xy 平面上の点(cd
)を通り,
ベクトル(ab
)= 0 の方向に伸びる直線は
(xy
)=
(cd
)+ t
(ab
)(t は実数)
と表された((2.7),(2.8) 参照).これを 2 次の実正方行列 A によって変換すれば (
x′
y′
)= A
(xy
)= A
(cd
)+ tA
(ab
)(t は実数) (3.6)
となる.(3.6) は,A
(ab
)= 0 ならば点 A
(cd
)を通り,ベクトル A
(ab
)の方
向に伸びる直線を表し,A
(ab
)= 0 ならば一点 A
(cd
)を表す.以上より,線
形変換はすべての直線を 直線か 1 点 に写像することが分かる.
例題3-3 行列 A =
(1 11 1
)が表す線形変換によって直線はどのような図
形に写像されるか調べよ.(解答例) 直線のベクトル方程式を(
xy
)=
(cd
)+ t
(ab
)(t は実数),
(ab
)= 0 (3.7)
とする.この直線は A によって(x′
y′
)= A
(xy
)=
(1 11 1
){(cd
)+ t
(ab
)}=
(c+ dc+ d
)+ t
(a+ ba+ b
)(t は実数)に写像される.したがって,a + b = 0(傾きが −1)ならば 1 点(
c+ dc+ d
)に写像され,a+ b = 0(傾きが −1 ではない)ならば
(c+ dc+ d
)を通
る傾きが 1 の直線に写像される.
例題3-4 行列 A =
(1 11 2
)が表す線形変換はすべての直線を直線に写像
することを示せ.(解答例) ベクトル方程式 (3.7) で与えられる直線は A によって(
x′
y′
)= A
(xy
)=
(1 11 2
){(cd
)+ t
(ab
)}=
(c+ dc+ 2d
)+ t
(a+ ba+ 2b
)(t は実数)に写像される.a + b,a + 2b の少なくと一方は 0 ではない(両方
とも 0 ならば a = b = 0 となり,(ab
)= 0 という前提に矛盾)ので,このベク
27
トル方程式は直線を表す.以上より,(1 11 2
)が表す線形変換はすべての直線
を直線に写像することが分かった.
�
�課題3-2(TAチェック) 行列A =
(1 −1−1 1
)が表す線形変換によって
1 点に写像される直線をすべて求めよ.
�
�課題3-3(TAチェック) 行列 A =
(1 11 0
)が表す線形変換はすべての
直線を直線に写像する.方向が(ab
)である直線がどのような方向の直線に移
るかを調べよ.
3.3 いろいろな線形変換
≪拡大・縮小,反転≫ Figure 3.2 に縦・横の 拡大・縮小や縦・横の反転を表す
1 00 1
1 00 1 −
1 00 2
1.5 00 2
1 00 1 − 1 0
0 2 −
1.5 00 2
− −
0.5 00 1
Figure 3.2: 拡大・縮小,反転を表す行列
行列の例を示す.これらはすべて(a 00 d
)の形の行列であり,これによって表
される線形変換は (x′
y′
)=
(a 0
0 d
)(x
y
)=
(ax
dy
)と書ける.したがって,|a| が横(x 軸)方向の拡大率,|d| が縦(y 軸)方向の拡大率を表し,a < 0 ならば横(x 軸)方向に反転され,d < 0 ならば縦(y
28
軸)方向に反転される.なお,単位行列(1 00 1
)は 恒等変換(何も動かさない
変換)に対応する.
≪座標軸に沿ってずらす変換≫ Figure 3.3 は座標軸に沿ってずらす変換の例を
示す.これらは(1 b0 1
)か(1 0c 1
)の形である.
(1 b0 1
)が表す線形変換は
(x′
y′
)=
(1 b
0 1
)(x
y
)=
(x+ by
y
)
であるから,y 座標の値を保ちつつ,x 軸に沿ってずらす変換を表す.一方,(1 0c 1
)はつぎのように x 座標の値を保ちつつ,y 軸に沿ってずらす変換を
表す. (x′
y′
)=
(1 0
c 1
)(x
y
)=
(x
y + cx
)
1 10 1
1 10 1 −
1 01 1
−
1 01 1
Figure 3.3: 座標軸に沿ってずらす変換を表す行列
≪回転移動≫ 原点のまわりに図形を θ だけ回転させると,Figure 3.4 に図示
したように,点(10
)は(cos θsin θ
)に,点
(01
)は(− sin θcos θ
)に移動する.した
がって,一般の点(xy
)= x
(10
)+ y
(01
)は
x
(cos θ
sin θ
)+ y
(− sin θ
cos θ
)=
((cos θ)x− (sin θ)y
(sin θ)x+ (cos θ)y
)=
(cos θ − sin θ
sin θ cos θ
)(x
y
)
に移動する.このことから,原点のまわりに図形を θ 回転させる変換を表す行
29
列は
(cos θ − sin θ
sin θ cos θ
)であることが分かる.Figure 3.5 にリニアーくんを原点
のまわりに −π
6,
π
4,
π
2,
5π
6回転した結果を示す.
O x
y
1
1θ
θ
cos
sin
θ
θ
sin
cos
θ
θ
−
Figure 3.4: 原点のまわりの回転
6
πθ = −
5
6
πθ =
2
πθ =
4
πθ =
cos sin
sin cos
θ θ
θ θ
−
Figure 3.5: 回転移動を表す行列
3.4 合成変換
≪合成変換と行列の積≫ 原点のまわりにπ
2だけ回転する変換および y 軸方向
に 2 倍する変換を表す行列を A,B とすれば,原点のまわりにπ
2だけ回転し
た後に y 軸方向に 2 倍する変換はどのような行列で表されるだろうか.行列A,B は
A =
(cos(π/2) − sin(π/2)sin(π/2) cos(π/2)
)=
(0 −11 0
), B =
(1 00 2
)(3.8)
であった.したがって,点(xy
)を原点のまわりに
π
2だけ回転した点を
(x′
y′
),
それをさらに y 軸方向に 2 倍した点を(x′′
y′′
)とすれば
(x′
y′
)=
(0 −11 0
)(xy
)=
(−yx
),
(x′′
y′′
)=
(1 00 2
)(x′
y′
)=
(x′
2y′
)である.右側の式に左側の式を代入すれば(
x′′
y′′
)=
(x′
2y′
)=
(−y2x
)=
(0 −12 0
)(xy
)
30
が得られる.一方,BA =
(1 00 2
)(0 −11 0
)=
(0 −12 0
)だから,積 BA が求
める行列である.一般に(xy
)A−−−→
(x′
y′
)B−−−→
(x′′
y′′
)と続けて変換されたときには(
x′
y′
)= A
(xy
),
(x′′
y′′
)= B
(x′
y′
)である.したがって(
x′′
y′′
)= B
(x′
y′
)= B
(A
(xy
))= (BA)
(xy
)となる.つまり,A による変換と B による変換を続けた合成変換は行列の積BA によって表現される(AB ではないことに注意せよ).逆の視点からは,行列の積 AB はB による変換に A による変換を続けた
変換を表現するように定義されていることが分かる.
Tidbit: 線形変換の合成と行列の積� �n 次元の実ベクトル全体からなる集合を n 次元空間といい,Rn で表す.(3.5) のように平面 R2 から R2 への線形変換は 2× 2 行列によって表現される.同様に R3 から R3 への線形変換は 3× 3 行列によって表される.また,R2 から R3 への線形写像は 3× 2 行列によって,R3 から R2 への線形写像は 2× 3 行列によって表現される. 一般に,Rn から Rm への線形写像はx1
′
...xm
′
=
a11 · · · a1n...
. . ....
am1 · · · amn
x1
...xn
のように m× n 行列によって与えられる. p× q 行列 A,m× n 行列 B による線形写像
Rq −−−→A
Rp, Rn −−−→B
Rm
を考える.すると,n = p の場合には A による写像に B による写像を続ける
Rq −−−→A
Rp ≡ Rn −−−→B
Rm
ことが可能になる.この線形写像の合成に対応して,n = p の場合に積 BAが定義される.� �≪再び積の非可換性( AB = BA)≫ 行列 Aによる変換に行列 Bによる変換を続けた合成変換を表すのが積 BAであるという観点は,積の非可換性(AB = BA)
31
をより明確にするだろう.Figure 3.6 は積の非可換性をビジュアルに示すもの
である.A,B はそれぞれ (3.8) の原点のまわりのπ
2回転,縦方向の 2 倍拡大
を表す行列であり,図の上の流れは回転してから縦に拡大する変換(BA),下の流れは縦に拡大してから回転する変換(AB)を表す.
縦
縦
回転
回転
0 11 0A − =
0 11 0A − =
1 00 2B
=
1 00 2B
=
Figure 3.6: <回転してから縦に拡大>と<縦に拡大してから回転>
行列 A,B について,AB = BA のとき A と B は可換であるといい,AB = BAのときは Aと B は非可換であるという.行列の積は一般には非可換(AB = BA)であるが特別な行列同士は可換(AB = BA)になることがある.
例題3-5 x 軸に沿ってずらす変換同士は可換であり,y 軸に沿ってずら
す変換同士も可換である.ただし,x 軸に沿ってずらす変換と y 軸に沿ってずらす変換は可換ではない.実際,(
1 b0 1
)(1 b′
0 1
)=
(1 b+ b′
0 1
),
(1 0c 1
)(1 0c′ 1
)=
(1 0
c+ c′ 1
)
であるから,(1 b0 1
)と(1 b′
0 1
)は可換であり,
(1 0c 1
)と(1 0c′ 1
)も可換で
ある.一方,(1 b0 1
)(1 0c 1
)=
(1 + bc b
c 1
),
(1 0c 1
)(1 b0 1
)=
(1 bc 1 + bc
)
だから bc = 0 のとき(1 b0 1
)と(1 0c 1
)は可換ではない.
�
�課題3-4 原点のまわりの回転を表す行列同士は可換であることを,原点
のまわりに α だけ回転する変換を表す行列と β だけ回転する変換を表す行列の積を計算することによって示せ.
32
�
�課題3-5(TAチェック) すべての 2 次正方行列と可換な 2 次正方行列
A =
(a bc d
)を求めよ.
Solution:求める行列 A はすべての 2 次正方行列 X に対して AX − XA =
O となるものである.したがって,X =
(1 00 0
)に対しても AX − XA =( )
= O でなければならない.このことから = 0かつ = 0であ
ることが分かる.また,X =
(0 10 0
)とすると AX −XA =
( )= O
であるから d = であることが分かる.逆に,a を任意の数,A =
(a 00 a
)とすれば,すべての 2 次正方行列 X =
(x yz w
)に対して
AX =
( ), XA =
( )
であり AX = XA が成り立つ.以上より,A = a
(1 00 1
)(a は任意の数)が
求める行列である.なお,この形の行列は スカラー行列 と呼ばれる.
≪変換の合成≫ 例として,原点を通る一般の直線に関する対称移動を表現する行列を単純な線形変換の合成によって求めよう.直線が x 軸の正の向きとなす
Ox
y
Ox
y
Ox
y
Ox
y
θ
θ
x
Figure 3.7: 原点で x 軸の正の向きと角 θ で交わる直線に関する対称移動
角を θ とする.Figure 3.7 に示したように,まず直線と図形(リニアーくん)
33
を一緒に原点のまわりに −θ だけ回転する(右上).これを表す行列は(cos(−θ) − sin(−θ)
sin(−θ) cos(−θ)
)=
(cos θ sin θ
− sin θ cos θ
)
である.回転の後,直線は x 軸と一致するので,この直線に関する対称移動は(1 00 −1
)によって表される(右下).最後に,直線と図形を一緒に原点のまわりに θ だけ回転すれば,直線は元に戻り図形は対称移動後のものとなる(左下).この回転を表す行列は (
cos θ − sin θ
sin θ cos θ
)
である.以上を例題としてまとめる.
例題3-6 原点で x 軸の正の向きと角 θ で交わる直線に関する対称移動を
表現する行列を求めよ.
(解答例) 求める行列はつぎのように表される.(cos θ − sin θ
sin θ cos θ
)(1 0
0 −1
)(cos θ sin θ
− sin θ cos θ
)
=
(cos θ − sin θ
sin θ cos θ
)(cos θ sin θ
sin θ − cos θ
)
=
(cos2 θ − sin2 θ 2 cos θ sin θ
2 cos θ sin θ sin2 θ − cos2 θ
)=
(cos 2θ sin 2θ
sin 2θ − cos 2θ
)(3.9)
�
�課題3-6 直線 y = − 1√
3x が x 軸の正の向きとなす角を求めよ.さらに,
この直線に関する対称移動を表す行列を求めよ.
�
�課題3-7 ベクトル方程式
(xy
)= t
(−1√3
)(t は実数)で与えられる直線
が x 軸の正の向きとなす角を求めよ.さらに,この直線に関する対称移動を表す行列を求めよ.�
�課題3-8 a を実数とする.直線 y = ax が x 軸の正の向きとなす角を θ
(−π/2 ≤ θ < π/2)とし,cos θ,sin θ 求めよ.さらに,この直線に関する対称移動を表す行列を求めよ.
34
�
�課題3-9(TAチェック) a を実数とする.Figure 3.8 のように,原点で
x 軸の正の向きと角 θ で交わる直線に沿って a 倍する変換を表す行列をつぎの単純な線形変換の合成によって求めよ.
(1) まず直線と図形を一緒に原点のまわりに −θ だけ回転する.
(2) 回転の後,直線は x 軸と一致するので,x 軸方向に a 倍する.
(3) 最後に,直線と図形を一緒に原点のまわりに θ だけ回転させる.
こうすれば,直線は元に戻り図形は直線に沿って a 倍したものとなる.
Ox
y
θ
Figure 3.8: 一般の直線に沿った拡大
3.5 図形の拡大率と行列式
≪拡大・縮小率と行列式≫ 2 次正方行列による線形変換の前後で図形の大きさ(面積)はどのように変わるだろうか.
θP
QR
O
1
1
x
y
Pa
c
′
Rb
d
′
Qa b
c d
+ ′ +
Figure 3.9: 面積拡大率
Figure 3.5にも示されているように回転しても図形の大きさは変わらないし,Figure 3.3 のような座標軸に沿ってずらす変換を受けても図形の大きさは変わらないように見える.また,Figure 3.2 に描かれているよ
うに,行列(a 00 d
)によって縦や横
に拡大・縮小されたり反転されたりすると面積は |ad| 倍になる.一般の 2 次正方行列 A について
拡大率を計算しよう.多くの図形はさまざまな大きさの正方形の和集合となるので,面積が 1 の正方形がどのような面積の図形に写像されるかを
調べる.A =
(a bc d
)によって,Fig-
ure 3.9の原点 Oは Oに,点 P
(10
),
35
Q
(11
),R
(01
)はそれぞれP′
(ac
),Q′
(a+ bc+ d
),R′
(bd
)に移される.線形変換
は直線を直線か一点に移すから,正方形 OPQRは平行四辺形 OP′Q′R′ に写像される.この平行四辺形の面積 S は三角形 OP′R′ の 2倍であるから,θ = ∠P′OR′
とおき,(2.4) を用いれば,
S = |OP′||OR′| sin θ = |OP′||OR′|√1− cos2 θ
=
√|OP′|2|OR′|2 − (
−−→OP′,
−−→OR′)2
=√(a2 + c2)(b2 + d2)− (ab+ cd)2
=√a2d2 + b2c2 − 2abcd =
√(ad− bc)2 = |ad− bc|
(3.10)
となる.したがって,A による面積拡大率は |ad − bc| である.なお,ここに
現れる ad− bc は行列 A =
(a bc d
)の 行列式 と呼ばれ,detA,|A| あるいは∣∣∣∣a b
c d
∣∣∣∣ で表される.例題3-7 縦や横に拡大・縮小したり,座標軸に関して反転する線形変換
を表す行列(a 00 d
)の行列式は ad,面積拡大率は |ad| である.
�
�課題3-10 座標軸に沿ってずらす変換を表す行列
(1 b0 1
),(1 0c 1
)や
原点のまわりの回転を表す行列(cos θ − sin θsin θ cos θ
)の行列式と面積拡大率を求
めよ.
例題3-8 つぎの行列が表す線形変換によって Figure 3.9の正方形 OPQR
がどのような図形に移されるかを調べよ.また,行列式と面積拡大率を求めよ.
(1)
(1 22 −2
) (2)
(1 21 2
)
(解答例) (1) 正方形 OPQR は O,(12
),(30
),(
2−2
)を頂点とする平行四
辺形に移される.行列式は −2− 4 = −6,面積拡大率は 6 である.
(2) 正方形の頂点 O,P,Q,R は,それぞれ, O,
(1
1
),
(3
3
),
(2
2
)に移さ
れる.したがって,この正方形は
(0
0
)と
(3
3
)を結ぶ線分に移される.行列式
は 2− 2 = 0,面積拡大率も 0 である.
36
�
�課題3-11 つぎの行列が表す線形変換によって Figure 3.9の正方形OPQR
がどのような図形に移されるかを調べよ.また,行列式と面積拡大率を求めよ.
(1)
(1 21 0
) (2)
(2 1−1 0
) (3)
(1 −2−1 2
)
≪行列式の符号≫ 行列式の絶対値は面積拡大率であるが,その符号はどのような意味を持つだろうか.Figure 3.2 には8種類の行列による変換後のリニアーくんが描かれている.右上,左下,下のリニアーくんは時計回りの向きであるが,他の5つは反時計回りである.この事実と呼応して,右上,左下,下の変換を表す行列の行列式は負であるが,他の5つは正である.また,Figure 3.5 やFigure 3.3 に現れる行列の行列式はすべて正であり,変換後のリニアーくんは反時計回りである.このように 行列式が正ならば向きが保たれ,負ならば逆向きになる ことが分かる.
3.6 逆変換・逆行列
≪座標軸に沿ってずらす変換の逆変換≫ 行列(1 b0 1
)が表す x軸に沿ってずら
す線形変換は(xy
)から
(x′
y′
)=
(x+ by
y
)への写像である.この関係を
(xy
)を(x′
y′
)で表す形に書き換えれば
(xy
)=
(x′ − by′
y′
)=
(1 −b0 1
)(x′
y′
)
となる.したがって,(1 b0 1
)が表す線形変換の逆変換は行列
(1 −b0 1
)によっ
て与えられる.同様に,(1 0c 1
)が表す y 軸に沿ってずらす線形変換の逆変換
は(
1 0−c 1
)によって与えられる.
≪回転,拡大・縮小,座標軸に関する反転の逆変換≫ 課題2-12,課題3-4からも分かるように,原点のまわりの θ だけの回転の逆変換を表す行列は(cos(−θ) − sin(−θ)
sin(−θ) cos(−θ)
)=
(cos θ sin θ
− sin θ cos θ
)である.また,ad = 0 のとき,(
a 00 d
)による縦や横の拡大・縮小や座標軸に関する反転の逆変換を表す行列
は(1/a 00 1/d
)である.
37
≪逆行列≫ x 軸に沿ってずらす変換とその逆変換を表す行列 A =
(1 b0 1
)と
B =
(1 −b0 1
)の間には
BA = AB =
(1 00 1
)= I (I:恒等変換を表す単位行列)
という関係がある.一般に,行列 A に対して
BA = AB = I (3.11)
を満たす行列 B を A の逆行列といい,B = A−1 と表す.行列 A,B,I を数a,b,1 に置き換えると (3.11) は
ba = ab = 1
に対応する.上式が成り立つとき b を a の 逆数 といった(b =1
a≡ a−1).こ
のように,数の世界における逆数という概念を行列の世界まで拡張したものが逆行列である.数 a の逆数は a = 0 ならば存在した.では,行列の場合はどうだろうか.
例題3-9 例題3-8に現れたつぎの行列の逆行列が存在するか否かを調べ,
存在するなら求めよ.
(1)
(1 22 −2
) (2)
(1 21 2
)
(解答例)(1)存在を仮定して,求める逆行列を(x yz w
)と置く.
(x yz w
)(1 22 −2
)=
I より (x+ 2y 2x− 2yz + 2w 2z − 2w
)=
(1 00 1
)である.したがって{
x+ 2y = 12x− 2y = 0
,
{z + 2w = 02z − 2w = 1
⇐⇒{
x = 1/3y = 1/3
,
{z = 1/3w = −1/6
となる.こうして得られた行列1
6
(2 22 −1
)については
(1 2
2 −2
)1
6
(2 22 −1
)=
I も成り立つ.したがって,これが求める逆行列である.
(2) 存在を仮定して,求める逆行列を(x yz w
)と置く.
(x yz w
)(1 21 2
)= I
より(x+ y 2x+ 2yz + w 2z + 2w
)=
(1 00 1
)⇐⇒
{x+ y = 12x+ 2y = 0
,
{z + w = 02z + 2w = 1
38
でなければならないが,このようなことはありえない.したがって(1 21 2
)の
逆行列は存在しない.
≪逆行列が存在するための条件と計算方法≫ 逆行列が存在する行列を正則行列と呼ぶ.一般の 2 次正方行列が正則であるための条件と逆行列の計算方法を考
えよう.A =
(a bc d
)が正則であると仮定して,その逆行列を X =
(x yz w
)とする.すると,XA = I より(
ax+ cy bx+ dyaz + cw bz + dw
)=
(1 00 1
)⇐⇒
{ax+ cy = 1bx+ dy = 0
,
{az + cw = 0bz + dw = 1
となる.まず detA = ad− bc = 0 の場合を考える.この場合には,上の x と y の連
立 1 次方程式から y を消去すると (ad− bc)x = d となるから
x =d
ad− bc
である.y,z,w も同様にして求めることができ,A =
(a bc d
)の逆行列
X = A−1 =1
ad− bc
(d −b
−c a
)(3.12)
が得られる.つぎに detA = 0 の場合を考える.この場合には,(ad − bc)x = d より
d = 0 でなければならない.また,x と y の連立 1 次方程式から x を消去すると (ad− bc)y = −b となるから b = 0 でなければならない.だが,b = d = 0 はbz + dw = 1 と矛盾する.したがって detA = 0 のとき A は正則ではない.
以上より,A =
(a bc d
)は detA = ad− bc = 0 の場合に限り正則であり,
逆行列は (3.12) で与えられる.さらに,つぎに示すように,Aも B も正則であるとき積 AB も正則であり,
その逆行列は (AB)−1 = B−1A−1 となる.
(B−1A−1)(AB) = B−1(A−1A)B = B−1IB = B−1B = I
(AB)(B−1A−1) = A(BB−1)A−1 = AIA−1 = AA−1 = I
�
�課題3-12 課題3-11に現れたつぎの行列の逆行列が存在するか否か
を調べ,存在するなら求めよ.
(1)
(1 21 0
) (2)
(2 1−1 0
) (3)
(1 −2−1 2
)
39
�
�課題3-13 つぎの行列について逆行列が存在するか否かを調べ,存在す
る場合にはそれを求めよ.
(1)
(1 21 1
) (2)
(1 21/2 1
) (3)
(1 2−1 0
)
�
�課題3-14 つぎの行列についてどのような数 a に対して逆行列が存在す
るかを調べ,存在するときは,逆行列も求めよ.
(1)
(a −1−3 2
) (2)
(a a3
1 1
)
3.7 ベクトルの線形独立性と行列のランク
≪線形独立なベクトルの組≫ 2 つのベクトル v1 =
(ac
),v2 =
(bd
)に対して,
集合a1v1 + a2v2 (a1,a2 は実数) (3.13)
を考える.v1 = v2 = 0ならば (3.13)は原点のみからなる集合である.また,一方が零ベクトルではなくとも他方が零ベクトルであったり,v1 と v2 が平行な場合には (3.13)は直線になる(Figure 3.10の左図参照).v1 も v2 も零ベクトルではなく,かつ,互いに平行ではないとき (3.13)は平面を表すが,このようなときに v1,v2は線形独立であるという(Figure 3.10の右図参照).線形独立ではないときは線形従属であるという.点 R1,R2 を
−−→OR1 = v1,
−−→OR2 = v2 となるように
x
y
x
y
O O
1R 1R
2R
2R
1v 1v
2v
2v
Figure 3.10: 線形従属であるベクトル(左)と線形独立であるベクトル(右)
選ぶ.すると,(3.13)が平面を表すのは,3点 O,R1,R2が一直線上にないとき,すなわち,三角形 OR1R2 がつぶれないときである.(3.10) で計算したように,
この三角形の面積は1
2|ad− bc|である.したがって,det
(v1 v2
)= ad−bc = 0
の場合に限り v1 =
(ac
),v2 =
(bd
)は線形独立である.
40
≪ 2 次正方行列のランク≫ 2 次正方行列 A =
(a bc d
)の列ベクトルを v1 =(
ac
),v2 =
(bd
)とする.すると A によって平面全体は
A
(xy
)=(v1 v2
)(xy
)= xv1 + yv2 (x,y は実数) (3.14)
に写像される.(3.14) が平面(2 次元空間)のとき A のランクは 2 であるといい,直線(1 次元空間)のとき A のランクは 1 であるといい,原点のみ(0 次元空間)のとき A のランクは 0 であるという(A のランクは記号 rankA で表す).(3.14) は (3.13) の a1,a2 を x,y で取り替えたものであるから,
v1 と v2 が線形独立 ⇐⇒ rankA = 2
v1 と v2 は線形従属だが,少なくとも一方は零ベクトルではない
⇐⇒ rankA = 1
v1 も v2 も零ベクトル ⇐⇒ rankA = 0
(3.15)
である.
例題3-10 例題3-8,例題3-9に現れたつぎの行列が平面全体をど
のような図形に写像するかを調べ,ランクを求めよ.
(1)
(1 22 −2
) (2)
(1 21 2
)
(解答例) (1) det
(1 22 −2
)= −6 = 0 だから,この行列によって平面全体は
平面全体に写像され,rank
(1 22 −2
)= 2 である.
(2) この行列によって平面全体は(1 2
1 2
)(x
y
)= (x+ 2y)
(1
1
) (x,y は実数)
に写像される.この集合は x+ 2y = z と置けば
z
(1
1
) (z は実数)
と同じであるから,原点を通る傾き 1の直線である.また,このことから rank
(1 21 2
)=
1 である.
41
�
�課題3-15(TAチェック) 課題3-11,課題3-12に現れたつぎの
行列が平面全体をどのような図形に写像するかを調べ,ランクを求めよ.
(1)
(1 21 0
) (2)
(2 1−1 0
) (3)
(1 −2−1 2
)
�
�課題3-16(TAチェック) a,b を実数,A =
(a+ b 2a2b a+ b
)とする.
(1) rankA = 0 となるような a,b をすべて求めよ.
(2) rankA = 1 となるような a,b をすべて求めよ.
�
�課題3-17 課題3-13の行列のランクを求めよ.
�
�課題3-18(TAチェック) 課題3-14の行列のランクを求めよ.
�
�まとめ:ベクトルの線形独立性・ランク・面積拡大率・行列式・逆行列� �
2 次正方行列A =
(a bc d
)=(v1 v2
)についてつぎが成り立つ.
v1,v2 は線形従属 v1,v2 は線形独立
⇕ ⇕rankA < 2 rankA = 2
⇕ ⇕A は平面全体を 1 直線か 1 点に写像 A は平面全体を平面全体に写像
⇕ ⇕面積拡大率は零 面積拡大率は正
⇕ ⇕detA = 0 detA = 0
⇕ ⇕A の逆行列 A−1 は存在しない A の逆行列 A−1 は存在する� �
42
4 連立 1 次方程式と行列の基本変形
「70 円の鉛筆と 90 円のボールペンをあわせて 15 本買ったら代金は 1170 円でした.それぞれ何本買ったでしょうか」というのは小学生のころからおなじみの連立 1 次方程式の問題である.未知変数の数が大変多い連立 1 次方程式を効率よく解く方法が数学的に研究され,コンピュータを使ってすばやく解を得ることができるようになったため,天気予報の精度が近年飛躍的に向上したといわれている.連立 1 次方程式は線形代数という数理概念と現代社会の科学技術・社会科学活動との重要な接点の一つである. 高校までの数学では,解がちょうど 1 つ(1 組)ある連立 1 次方程式を扱うが,ここでは,解が存在しない場合や解に自由度がある場合なども解説し,連立 1 次方程式の解の構造を明らかにする.なお,行列やベクトルの計算における基盤的な操作技術である行基本変形(Gauss の消去法)もこの章で紹介する.
4.1 2 元連立 1 次方程式
≪変数消去法(掃き出し法)≫ 2 つの未知数 x,y に関する 2 つの式からなる連立 1 次方程式を考える.「70 円の鉛筆と 90 円のボールペンをあわせて 15 本買ったら代金は 1170 円でした.それぞれ何本買ったでしょうか」からはじめよう.鉛筆の数を x,ボールペンの数を y とすれば{
x+ y = 15
70x+ 90y = 1170(4.1)
である.これを変数消去法(掃き出し法)で解くプロセスを 1 つ 1 つ書けば{x+ y = 15
70x+ 90y = 1170
[1]−−−−−−−−→(2):(2)−70×(1)
{x+ y = 15
20y = 120
[2]−−−−−−−→(2):(2)×1/20
{x+ y = 15
y = 6
[3]−−−−−−→(1):(1)−(2)
{x = 9
y = 6
(4.2)
となるであろう.すなわち,
[1] 第 2 式から第 1 式の 70 倍を減じて,x を消去する
[2] 第 2 式の両辺に 1/20 をかけて,y を求める
[3] 第 1 式から第 2 式を減じて y を消去し,x を求める
という操作によって解が得られる.「ある方程式に 0 ではない数をかける」操作と「ある方程式に別の方程式の何倍かを加える」操作によって (4.1) を解くことができる.もう 1 つ別の方程式を考える.{
7x+ 13y = 25
x+ 2y = 4(4.3)
43
これを変数消去法で解くプロセスは,たとえば,{7x+ 13y = 25
x+ 2y = 4
[1]−−−−−−→(1) ⇐⇒ (2)
{x+ 2y = 4
7x+ 13y = 25
[2]−−−−−−−−→(2):(2)−7×(1){
x+ 2y = 4
−y = −3
[3]−−−−−−−→(2):(2)×(−1)
{x+ 2y = 4
y = 3
[4]−−−−−−−−→(1):(1)−2×(2)
{x = −2
y = 3
(4.4)
である.すなわち,
[1] 第 1 式と第 2 式を入れ替える
[2] 第 2 式から第 1 式の 7 倍を減じて,x を消去する
[3] 第 2 式の両辺に −1 をかけて,y を求める
[4] 第 1 式から第 2 式の 2 倍をを減じて y を消去し,x を求める
という操作によって解が得られる.(4.1) を解く際に使用した 2 つの操作に加えて,「方程式を入れ替える」操作が利用されている.
�
�まとめ:変数消去法� �
変数消去法はつぎの 3 つの基本操作からなる.
(1) ある方程式に 0 ではない数 をかける(0 をかけるとその方程式の情報がすべて失われる)
(2) ある方程式に別の方程式の何倍かを加える
(3) 方程式を入れ替える
なお,基本操作は 可逆 であることに注意しよう.たとえば (4.4) において,{x = −2y = 3
から基本操作によって (4.4) のどの段階までも戻ることができ,
出発点である (4.3) も再現できる.� �≪行基本変形による連立 1 次方程式の解法≫ 連立 1 次方程式 (4.3) は行列とベクトルを用いて
(7 131 2
)(xy
)=
(254
) または
(7 13 251 2 4
) xy−1
= 0 (4.5)
と表現できる.ここに,x,y の係数を並べた(7 131 2
)は 係数行列,係数の右
に定数項を付け加えた(7 13 251 2 4
)は 拡大係数行列 と呼ばれる.(4.3) を変
44
数消去法で解くプロセス (4.4) から,変数を表す記号 x,y や算術記号を取り除き,x,y の係数と定数項を行列として並べると
(7 13 25
1 2 4
)[1]−−−−−−→
(1) ⇐⇒ (2)
(1 2 4
7 13 25
)[2]−−−−−−−−→
(2):(2)−7×(1)(1 2 4
0 −1 −3
)[3]−−−−−−−→
(2):(2)×(−1)
(1 2 4
0 1 3
)[4]−−−−−−−−→
(1):(1)−2×(2)
(1 0 −2
0 1 3
) (4.6)
となる.最後の行列(1 0 −20 1 3
)は{
1 · x+ 0 · y = −2
0 · x+ 1 · y = 3=⇒
{x = −2
y = 3
を意味している.変数消去法のプロセス (4.4) に対応する (4.6) のような行列の変形を 行基本
変形,または,Gauss の消去法 と呼ぶ.�
�課題4-1 連立 1 次方程式 (4.1) の拡大係数行列を求め,拡大係数行列の行
基本変形によって解を求めよ.
�
�まとめ:行基本変形� �
行基本変形は変数消去法の 3 つの基本操作に対応するつぎの 3 つの基本変形からなる.
(1) ある行に 0 ではない数 をかける(0 をかけるとその行の情報がすべて失われる)
(2) ある行に別の行の何倍かを加える
(3) 行を入れ替える
なお,行基本変形は 可逆 であることに注意しよう.� �例題4-1 行列の成分に 未定定数(定数ではあるがその値が確定していないもの)が含まれている場合の行基本変形には注意が必要である.たとえば,a
が 0 であるかも知れないときには(1 −a 0a 1 1
)−−−−−→(1):(1)×a× × ×
(a −a2 0a 1 1
)のような変形は許されない.もし a = 0 ならば変形後の第 1 行の成分はすべて0 になり,第 1 行に関するすべての情報が失われるからである.a が実定数で
あるとき,行列(1 −a 0a 1 1
)からの正しい行基本変形の一例をつぎに示す.
45
(1 −a 0a 1 1
)[1]−−−−−−−−→
(2):(2)−a×(1)
(1 −a 00 1 + a2 1
)[2]−−−−−−−−−→
(2):(2)×1/(1+a2)(1 −a 00 1 1/(1 + a2)
)[3]−−−−−−−−→
(1):(1)+a×(2)
(1 0 a/(1 + a2)0 1 1/(1 + a2)
)�
�課題4-2(TAチェック) つぎの 2 つの変形は未定定数 a に適切な条件を
課さない限りは正しくない.(a 1 11 1 1
)−−−−−−−→(2):(2)−(1)/a× × ××
(a 1 10 1− 1/a 1− 1/a
)(a 1 10 1− a 1− a
)−−−−−−−→(2):(2)/(1−a)× × ××
(a 1 10 1 1
)行列
(a 1 11 1 1
)を正しい行基本変形によって
(1 1 10 1− a 1− a
)に変形せよ.
なお,この後は,a− 1 = 0 と a− 1 = 0 の場合に分けて議論することになる.
≪線形変換の視点から連立 1 次方程式を眺めると・・・≫ 2 次の実正方行列 A は平面から平面への線形変換を表す.p,q を実定数とするとき,連立 1 次方程式
A
(xy
)=
(pq
)(4.7)
を解くことは,A によって(pq
)に移される点
(xy
)を求めることと同じであ
る.3 章において A が表す線形変換によって直線がどのような図形に写像されるかを調べ,さらに,平面全体がどのような図形に写像されるかを調べた.連立 1 次方程式の解を求めるという立場からは,これらの結果はつぎのようにまとめられる.
A によって平面全体が平面全体に写像されるならばすべての実定数 p,q について (4.7) はちょうど 1 個の解を持つ.このとき A は逆行列 A−1 を持ち,(4.7) の両辺の左側から A−1 を掛けることによって,解を(
xy
)= A−1
(pq
)(4.8)
と表現することができる.一方,平面全体が A によって直線や 1 点に移されるならば,p,q の値に
よって (4.7) はたくさんの解を持ったり,1 個も解を持たなかったりする.
例題4-2 例題3-10で示したように(1 22 −2
)が表す線形変換は平面全
体を平面全体に移す.この行列を係数行列とする連立 1 次方程式{x+ 2y = p
2x− 2y = q(4.9)
46
を拡大係数行列の行基本変形によって解け.ただし,p,q は実定数である.
(解答例)拡大係数行列の行基本変形(1 2 p
2 −2 q
)[1]−−−−−−−−→
(2):(2)−2×(1)
(1 2 p
0 −6 q − 2p
)[2]−−−−−−−−→
(2):(2)×(−1/6)(1 2 p
0 1 (2p− q)/6
)[3]−−−−−−−−→
(1):(1)−2×(2)
(1 0 (p+ q)/3
0 1 (2p− q)/6
) (4.10)
によって,解 x = (p+ q)/3,y = (2p− q)/6 が得られる.
例題4-3 例題3-10で示したように(1 21 2
)が表す線形変換は平面全
体を原点を通る傾き 1 の直線に写像する(Figure 4.1).この行列を係数行列とするつぎの連立 1 次方程式を拡大係数行列の行基本変形によって解け.
(1)
{x+ 2y = 1
x+ 2y = 2(2)
{x+ 2y = 1
x+ 2y = 1(4.11)
(解答例)(1) 拡大係数行列の行基本変形の手順は下記の通りである.(1 2 1
1 2 2
)[1]−−−−−−→
(2):(2)−(1)
(1 2 1
0 0 1
)(4.12)
最後の行列の第 2 行は正しくない等式 0 · x + 0 · y = 1 を要求している.した
がって (1) は解を持たない.線形変換の視点からは,点(12
)は原点を通る傾
き 1 の直線上にはない(Figure 4.1)ので解が存在しないと解釈できる.
x
y
O x
y
O
平面全体が1つの
この直線全体が1点に
直線に写像される
写像される1/2
1 1
1
2
Figure 4.1: 線形変換の視点から連立 1 次方程式 (4.11) を眺めると・・・
(2) 拡大係数行列の行基本変形の手順は下記の通りである.(1 2 1
1 2 1
)[1]−−−−−−→
(2):(2)−(1)
(1 2 1
0 0 0
)(4.13)
47
最後の行列の第 2 行は自明の等式 0 · x + 0 · y = 0 を意味している.したがって,第 1 行が意味する x+ 2y = 1 によって,解は{
x = 2t+ 1
y = −t(t は実数) (4.14)
となる.線形変換の視点からは,行列(1 21 2
)が表す線形変換によって直線
x + 2y = 1 全体が 1 点
(1
1
)に移される(Figure 4.1)のでこの直線上のすべ
ての点が (2) の解になると解釈される.
�
�課題4-3(TAチェック) 課題3-17で示したように
(1 21 1
)が表す線
形変換は平面全体を平面全体に移す.この行列を係数行列とする連立 1次方程式{x+ 2y = p
x+ y = q(4.15)
を拡大係数行列の行基本変形によって解け.ただし,p,q は実定数である.なお,最初に (2, 1) 成分が 0 になるように変形し,ついで,(2, 1) 成分を 0 に保ちつつ (1, 2) 成分が 0 になるように変形せよ.
�
�課題4-4(TAチェック) 課題3-15で示したように
(1 −2−1 2
)が表
す線形変換は平面全体を原点を通る傾き −1 の直線に写像する.この行列を係数行列とするつぎの連立 1 次方程式を拡大係数行列の行基本変形によって解け.ただし,最初に (2, 1) 成分が 0 になるように変形せよ.
(1)
{x− 2y = 1
−x+ 2y = 2(2)
{x− 2y = 1
−x+ 2y = −1(4.16)
�
�課題4-5 A =
(0 10 2
)を係数行列とするつぎの連立 1 次方程式を拡大係
数行列の行基本変形によって解け.
(1) A
(xy
)=
(11
)(2) A
(xy
)=
(−2−4
)(4.17)
�
�課題4-6 零行列 A =
(0 00 0
)が表す線形変換は平面全体を原点に写像す
る.A を係数行列とするつぎの連立 1 次方程式を拡大係数行列の行基本変形によって解け.
(1) A
(xy
)=
(20
)(2) A
(xy
)=
(00
)(4.18)
48
≪ 2 元連立 1 次方程式の解の構造≫ ここまでの解説などをまとめれば,A =(a bc d
)を係数行列とする 2元連立 1次方程式の拡大係数行列 A =
(a b pc d q
)は行基本変形によってつぎのいずれかに変形できる.
(i)
(1
0 1
)(ii)
(1
0 0 1
)(iii)
(1
0 0 0
)
(iv)
(0 1
0 0 1
)(v)
(0 1
0 0 0
)
(vi)
(0 0 1
0 0 0
)(vii)
(0 0 0
0 0 0
) (にはなんら
かの数が入る
)(4.19)
(ac
)= 0 ならば (i) - (iii) のどれかに,
(ac
)= 0,
(bd
)= 0 ならば (iv) - (v)
のどちらかに,A が零行列ならば (vi) - (vii) のどちらかになる.また,これまでに登場した連立 1 次方程式に関してはつぎの通りである.
• (4.1),(4.3),(4.9),(4.15)の(1 1 1570 90 1170
),(7 13 251 2 4
),(1 2 p2 −2 q
),(
1 2 p1 1 q
)は (i) 型であり,どの場合もちょうど 1 個の解が存在した.
• (4.11) の (1) と (4.16) の (1) の(1 2 11 2 2
),(
1 −2 1−1 2 2
)は (ii) 型で
あり,どの場合も解は存在しなかった.
• (4.11) の (2) と (4.16) の (2) の(1 2 11 2 1
),(
1 −2 1−1 2 −1
)は (iii) 型
であり,どの場合もある直線全体が解であった.
• (4.17)の (1)の(0 1 10 2 1
)は (iv)型であり,解は存在しなかった.(4.17)
の (2) の(0 1 −20 2 −4
)は (v) 型であり,直線 y = −2 全体が解であった.
• (4.18)の (1)の(0 0 20 0 0
)は (vi)型であり,解は存在しなかった.(4.18)
の (2) の(0 0 00 0 0
)は (vii) 型であり,平面全体が解であった.
以上の例で確認したように,A を係数行列,A を拡大係数行列とする 2 元連立 1 次方程式の解の存在と一意性はつぎのようにまとめられる.
49
�
�まとめ:2 元連立 1 次方程式の解の構造� �
(1) A が (i) に変形されるならば,ちょうど 1 個の解が存在する.
(2) A が (ii),(iv),(vi) に変形されるならば,解は存在しない.
(3) A が (iii),(v) に変形されるならば,無数の解 u+ tv (t は実数)が
存在する.ここに,u は定数項(pq
)によって決定される定ベクトル,
v = 0 は A によって 1 点に写像される直線の方向を表すベクトルである.
(4) A が (vii) に変形されるならば,平面全体(st
)(s,t は実数)が解
である.� �4.2 階段行列
≪階段行列とは≫ つぎの表は (4.19) の (i) - (vii) の各行について左端から連続する 0 の数を調べたものである.これを見ると,{
ℓ1 が列の数 3 より小さければ ℓ1 < ℓ2
ℓ1 が列の数 3 と等しければ ℓ1 = ℓ2(4.20)
(i) (ii) (iii) (iv) (v) (vi) (vii)
第 1 行目の左端から連続する 0 の数 ℓ1 0 0 0 1 1 2 3
第 2 行目の左端から連続する 0 の数 ℓ2 1 2 3 2 3 3 3
となっている.このような特性を m× n 行列に対しても定義しよう.m× n 行列 A の第 i 行目の左端から連続する 0 の数を ℓi とする(i = 1, 2, · · · ,m).(4.20) と同様なつぎの関係式が成り立つとき A は階段行列と呼ばれる.{
ℓi < n ならば ℓi < ℓi+1
ℓi = n ならば ℓi = ℓi+1
(i = 1, 2, · · · ,m− 1) (4.21)
(4.19) の行列はすべて階段行列である.また,
(1)
1 10 20 0
(2)
1 0 0 40 0 0 00 0 0 0
(3)
1 1 0 20 0 2 00 0 0 7
も階段行列である.実際,つぎのように確認できる.
(1) ℓ1 = 0,ℓ2 = 1,ℓ3 = 2 より ℓ1 < ℓ2 < ℓ3
(2) 0 = ℓ1 < ℓ2 = ℓ3 = 4 =(列の数)
(3) ℓ1 = 0,ℓ2 = 2,ℓ3 = 3 より ℓ1 < ℓ2 < ℓ3
50
この例では,各行について 0 以外の要素があったら,それ自身とその右側をすべて青字にした.階段行列という名称は,青字の部分を上下さかさまにすれば階段のように見えることに由来している.実際,(3) の青字の部分を上下さかさまにすればつぎのようになる.
階段行列ではない例として
(1)
1 00 50 3
(2)
0 2 3−2 2 −20 3 6
を挙げておく.これらが階段行列ではないことはつぎのようにして確認される.
(1) ℓ2 = ℓ3 = 1 <(列の数)= 2
(2) ℓ1 > ℓ2
�
�課題4-7(TAチェック) つぎの行列が階段行列であるか否かを判定せよ.
(1)
0 1 0 10 0 0 00 0 1 0
(2)(4 −5 1
)(3)
1 1 −1 20 −1 2 −10 −3 −1 4
(4)
−2 00 00 0
(5)
0 1 0 10 0 0 −10 0 0 0
(6)
1 1 −1 1 20 0 0 0 10 0 0 0 −1
≪行基本変形で階段行列へ≫ 2× 3 行列に対する行基本変形に関する まとめ:行基本変形(p. 47)は m × n 行列にも適用できる.ここでは,一般の行列を行基本変形によって階段行列に変形する方法を紹介する.
例題4-4:行基本変形による階段行列へ変形例1
[1]:0 ではない (1, 1) 成分 を利用して,第 2 行目以下の第 1 列成分がすべて
0 になるように行基本変形を行う.
[2]:0 ではない (2, 2) 成分 を利用して,(3, 2) 成分が 0 になるように行基本
変形を施す.
51
1 1 −1 2
2 1 0 3−3 −6 2 −2
[1], (2):(2)−2×(1)−−−−−−−−−−→(3):(3)+3×(1)
1 1 −1 2
0 −1 2 −1
0 −3 −1 4
[2]−−−−−−−−→
(3):(3)−3×(2)
1 1 −1 20 −1 2 −10 0 −7 7
(4.22)
例題4-5:行基本変形による階段行列へ変形例2
[1]:行を交換して (1, 1) 成分が 0 ではないようにする.
[2], [3]:以降の操作は例4-4と同じ方針で行う. 0 2 −1 3−1 1 1 22 −4 −1 −7
[1]−−−−−−→(1) ⇐⇒ (2)
−1 1 1 2
0 2 −1 32 −4 −1 −7
[2]−−−−−−−−→(3):(3)+2×(1)
−1 1 1 2
0 2 −1 3
0 −2 1 −3
[3]−−−−−−→
(3):(3)+(2)
−1 1 1 20 2 −1 30 0 0 0
(4.23)
例題4-6:行基本変形による階段行列へ変形例3 すべての行の第 1 列成
分が 0 なので,第 2 列成分に注目する.0 0 1 30 0 1 20 1 −1 −70 −1 −1 7
[1]−−−−−−→(1) ⇐⇒ (3)
0 1 −1 −7
0 0 1 20 0 1 30 −1 −1 7
[2]−−−−−−→(4):(4)+(1)
0 1 −1 −7
0 0 1 2
0 0 1 30 0 −2 0
[3], (3):(3)−(2)−−−−−−−−→(4):(4)+2×(2)
0 1 −1 −70 0 1 2
0 0 0 1
0 0 0 4
[4]−−−−−−−−→(4):(4)−4×(3)
0 1 −1 −70 0 1 20 0 0 10 0 0 0
(4.24)
[1]:第 2 列成分が 0 ではない行が第 1 行になるように行を交換する.
52
[2]:0 ではない (1, 2) 成分 を利用して,第 2 行目以下の第 2 列成分がすべて
0 になるように行基本変形を行う.
[3]: (2, 3) 成分 が 0 ではないから,第 3 行目以降の第 3 列成分が 0 になるよ
うに行基本変形を施す.
[4]:0ではない (3, 4) 成分 を利用して,(4, 4)成分が 0になるように操作する.
�
�課題4-8(TAチェック) つぎの行列を行基本変形によって階段行列に変
形せよ.
(1)
0 1 −1 20 −2 3 31 1 1 1
(2)
1 1 −1 22 1 0 3−2 −3 4 −5
(3)
0 0 1 30 −1 3 20 4 −10 −30 1 1 3
4.3 n 元連立 1 次方程式
4.1 では x と y の 2 つを未知変数とする連立 1 次方程式を拡大係数行列の行基本変形を利用して解く方法を解説した.この節では n 個の未知変数 x1,x2,· · ·,xn に関する連立 1 次方程式を考える.
a11x1 + a12x2 + · · · a1nxn = p1
a21x1 + a22x2 + · · · a2nxn = p2
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·am1x1 + am2x2 + · · · amnxn = pm
(4.25)
ここに,aij,pi(i = 1, 2, · · · ,m,j = 1, 2, · · · , n)はすべて定数である.4.1 では式の数も未知変数の数と同じ 2 としたが,この節では,式の数 m
は未知変数の数 n と等しいとは限らないものとする.x1,x2,· · ·,xn の係数を並べたつぎの行列 A は (4.25) の係数行列,A の右側に定数項を付け加えたA は拡大係数行列と呼ばれる.
A =
a11 a12 · · · a1na21 a22 · · · a2n...
.... . .
...am1 am2 · · · amn
A =
a11 a12 · · · a1n p1a21 a22 · · · a2n p2...
.... . .
......
am1 am2 · · · amn pm
(4.26)
Tidbit: 線形変換の合成と行列の積(p. 33)でも紹介したように m × n
行列 A は n 次元空間 Rn から m 次元空間 Rm への線形写像を表す.したがって,(4.25) を解くことは A によって t
(p1 p2 · · · pm
)に写像される点
t(x1 x2 · · · xn
)を求めることと同じである.
2 元連立 1 次方程式と同様に n 元連立 1 次方程式も拡大係数行列の行基本変形によって解く.
53
例題4-7 例題4-4の行列を拡大係数行列とする連立 1 次方程式x+ y − z = 2
2x+ y = 3
−3x− 6y + 2z = −2
(4.27)
を行基本変形によって解け.
(解答例)最初に拡大係数行列を階段行列に変形することが肝要である.その後,さらに分かりやすい形になるように行基本変形を進める.
1 1 −1 22 1 0 3−3 −6 2 −2
(4.22)−−−→
1 1 −1 20 −1 2 −10 0 −7 7
(2):(2)×(−1)−−−−−−−−→(3):(3)×(−1/7)
1 1 −1 2
0 1 −2 1
0 0 1 −1
(1):(1)+(3)−−−−−−−−→(2):(2)+2×(3)
1 1 0 1
0 1 0 −1
0 0 1 −1
−−−−−−→(1):(1)−(2)
1 0 0 2
0 1 0 −1
0 0 1 −1
(4.28)
したがって,解は x = 2,y = −1,z = −1 である.
例題4-8 例題4-5の行列を拡大係数行列とする連立 1 次方程式2y − z = 3
−x+ y + z = 2
2x− 4y − z = −7
(4.29)
を行基本変形によって解け.
(解答例)最初に拡大係数行列を階段行列に変形し,その後,さらに分かりやすい形になるように行基本変形を進める. 0 2 −1 3
−1 1 1 22 −4 −1 −7
(4.23)−−−→
−1 1 1 20 2 −1 30 0 0 0
(1):(1)×(−1)−−−−−−−→(2):(2)×(−1)
1 −1 −1 −20 −2 1 −30 0 0 0
−−−−−−→(1):(1)+(2)
1 −3 0 −50 −2 1 −30 0 0 0
(4.30)
最後の行列の第 1 行,第 2 行は,それぞれ,x − 3y = −5,−2y + z = −3 を意味する.したがって,t を任意の実数として y = t とすれば,解はつぎのように表される.
54
x = 3t− 5
y = t
z = 2t− 3
(t は実数) (4.31)
(解説)3次元空間における直線を表す (4.31)が解であるとは,この直線全体が
行列
0 2 −1−1 1 12 −4 −1
により一点 3
2−7
に写像されることを意味している.例題4-9 例題4-8の連立 1 次方程式の定数項 −7 を −6 に取り替えた
2y − z = 3
−x+ y + z = 2
2x− 4y − z = −6
(4.32)
を拡大係数行列の行基本変形によって解け.
(解答例)(4.23) と同じ行基本変形を施せば 0 2 −1 3−1 1 1 22 −4 −1 −6
−→
−1 1 1 20 2 −1 30 0 0 1
(4.33)
となる.最後の行列の第 3 行は正しくない等式 0 · x+0 · y+0 · z = 1 を要求している.したがって,(4.32) の解は存在しない.
(解説)行列
0 2 −1−1 1 12 −4 −1
によって 3
2−6
に写像される点が 1 つもない
ことが意味されている.
例題4-10 式の数が未知変数の数より少ない連立 1 次方程式3x+ 4y + 5z + 6u+ 7v = 8
2x+ 3y + 4z + 5u+ 6v = 7
x+ 2y + 3z + 4u+ 5v = 6
(4.34)
を拡大係数行列の行基本変形によって解け.
(解答例)拡大係数行列に行基本変形を施すと3 4 5 6 7 82 3 4 5 6 71 2 3 4 5 6
−−−−−−→(1) ⇐⇒ (3)
1 2 3 4 5 62 3 4 5 6 73 4 5 6 7 8
(2):(2)−2×(1)−−−−−−−−→(3):(3)−3×(1)
1 2 3 4 5 60 −1 −2 −3 −4 −50 −2 −4 −6 −8 −10
(2):(2)×(−1)−−−−−−−→(3):(3)×(−1)
1 2 3 4 5 60 1 2 3 4 50 2 4 6 8 10
(1):(1)−2×(2)−−−−−−−−→(3):(3)−2×(2)
1 0 −1 −2 −3 −40 1 2 3 4 50 0 0 0 0 0
55
となる.最後の行列の第 1 行,第 2 行は,それぞれ,x − z − 2u − 3v = −4,y + 2z + 3u + 4v = 5 を意味する.したがって,p,q,r を任意の実数としてz = p,u = q,v = r とすれば,解はつぎのように表される.
x = p+ 2q + 3r − 4y = −2p− 3q − 4r + 5z = pu = qv = r
(p,q,r は任意の実数)
(解説)(4.34) は無数の解を持ったが,式の数が未知変数の数より少ない場合であっても,つぎのように解が存在しないことがあることに注意しよう.{
x+ y + z = 0
2x+ 2y + 2z = 7
例題4-11 式の数が未知変数の数より多い連立 1 次方程式
(1)
4x+ y = 6
x+ 3y = 7
3x− 2y = −1
(2)
4x+ y = 5
x+ 3y = 7
3x− 2y = −1
(4.35)
を拡大係数行列の行基本変形によって解け.
(解答例)(1) 拡大係数行列に行基本変形を施すと4 1 6
1 3 7
3 −2 −1
−−−−−−→(1) ⇐⇒ (2)
1 3 7
4 1 6
3 −2 −1
(2):(2)−4×(1)−−−−−−−−→(3):(3)−3×(1)
1 3 7
0 −11 −22
0 −11 −22
(2):(2)×(−1/11)−−−−−−−−−→(3):(3)×(−1/11)
1 3 7
0 1 2
0 1 2
(1):(1)−3×(2)−−−−−−−−→(3):(3)−(2)
1 0 1
0 1 2
0 0 0
となる.したがって,解は x = 1,y = 2 である.(2) 拡大係数行列に同じように行基本変形を施すと4 1 5
1 3 7
3 −2 −1
−−−−−−→(1) ⇐⇒ (2)
1 3 7
4 1 5
3 −2 −1
(2):(2)−4×(1)−−−−−−−−→(3):(3)−3×(1)
1 3 7
0 −11 −23
0 −11 −22
−−−−−−→(3):(3)−(2)
1 3 7
0 −11 −23
0 0 1
となる.最後の行列の第 3 行は正しくない等式 0 · x + 0 · y = 1 を要求している.したがって,(2) は解を持たない.
56
�
�課題4-9 課題4-8 (1) の行列を拡大係数行列とする連立 1 次方程式
y − z = 2
−2y + 3z = 3
x+ y + z = 1
(4.36)
を行基本変形によって解け.�
�課題4-10 課題4-8 (2) の行列を拡大係数行列とする連立 1 次方程式
x+ y − z = 2
2x+ y = 3
−2x− 3y + 4z = −5
(4.37)
を行基本変形によって解け.�
�課題4-11 課題4-10の連立 1次方程式の定数項 −5を 0で取り替えた
x+ y − z = 2
2x+ y = 3
−2x− 3y + 4z = 0
(4.38)
を行基本変形によって解け.�
�課題4-12(TAチェック) 式の数が未知変数の数より少ないつぎの連立
1 次方程式を拡大係数行列の行基本変形によって解け.{2x− 3y + z − u+ 2v = 1
−x+ y + 2z + 2u− 3v = 2(4.39)
�
�課題4-13 式の数が未知変数の数より多いつぎの連立 1 次方程式を拡大
係数行列の行基本変形によって解け.
(1)
3x+ y = 6
x+ 2y = 7
2x− y = −1
(2)
3x+ y = 6
x+ 2y = 5
2x− y = −1
4.4 ベクトルの線形独立性
≪線形独立な n 個のベクトルの組≫ 2 つの 2 次元ベクトル v1,v2 は
集合 a1v1 + a2v2 (a1,a2 は実数)が平面を表す (4.40)
57
とき線形独立であると 3.7 で定義した.これを v1 =
(ac
),v2 =
(bd
)の成分
に関する条件として表現すれば ad− bc = 0 であった.ad− bc = 0 ならば,行
列(v1 v2
)=
(a bc d
)の逆行列が存在するから,連立 1 次方程式(
a bc d
)(a1a2
)=
(00
)(4.41)
は唯一の解 a1 = 0,a2 = 0 を持つ.(4.41) は a1v1 + a2v2 = 0 とも表現できるから,線形独立性の定義 (4.40) は
a1v1 + a2v2 = 0 ならば a1 = a2 = 0 (4.42)
と同値である.
n 個のベクトルの線形独立性は (4.42) を拡張した形で定義される.つまり,
a1v1 + a2v2 + · · ·+ anvn = 0 ならば a1 = a2 = · · · = an = 0 (4.43)
のとき v1,v2,· · ·,vn は線形独立であるという.線形独立ではないときには線形従属であるという.v1,v2,· · ·,vn が線形従属であれば,a1v1 + a2v2 +
· · ·+ anvn = 0 の係数 a1,a2,· · ·,an の中に 0 ではないものがあるので,それを aj とすれば,
vj = −(a1v1 + · · ·+ aj−1vj−1 + aj+1vj+1 + · · ·+ anvn)/aj
と 0 ではない係数 aj に対応するベクトル vj が他のベクトルの線形結合で表現される.この事実が線形 従属 という用語の由来である.
例題4-12 つぎのベクトル v1,v2,v3 の線形独立性を調べよ.
(1) v1 =
(10
), v2 =
(15
), v3 =
(03
)
(2) v1 =
0−21
, v2 =
1−11
, v3 =
201
(3) v1 =
0−21
, v2 =
1−11
, v3 =
101
(解答例)(1) a1v1 + a2v2 + a3v3 = 0 と仮定する.すると,(
1 1 00 5 3
)a1a2a3
=
(00
)である.この連立 1 次方程式を拡大係数行列の行基本変形によって解くと(
1 1 0 00 5 3 0
)(1)×5−−−→
(5 5 0 00 5 3 0
)(1)−(2)−−−−→
(5 0 −3 00 5 3 0
)58
となる.最後の行列の第 1行,第 2行は,それぞれ,5a1−3a3 = 0,5a2+3a3 = 0
を意味する.したがって,たとえば a1 = 3,a2 = −3,a3 = 5 が解である.3v1 − 3v2 + 5v3 = 0 だから v1,v2,v3 は線形従属である.(2) a1v1 + a2v2 + a3v3 = 0 と仮定する.すると, 0 1 2
−2 −1 01 1 1
a1a2a3
=
000
である.この連立 1 次方程式の拡大係数行列に行基本変形を施すと 0 1 2 0
−2 −1 0 01 1 1 0
−−−−−−→(1) ⇐⇒ (3)
1 1 1 0−2 −1 0 00 1 2 0
(2)+2×(1)−−−−−−→
1 1 1 00 1 2 00 1 2 0
−−−−→(3)−(2)
1 1 1 00 1 2 00 0 0 0
−−−−→(1)−(2)
1 0 −1 00 1 2 00 0 0 0
となる.最後の行列の第 1 行,第 2 行は,それぞれ,a1− a3 = 0,a2+2a3 = 0
を意味する.したがって,たとえば a1 = 1,a2 = −2,a3 = 1 が解である.v1 − 2v2 + v3 = 0 だから v1,v2,v3 は線形従属である.(3) a1v1 + a2v2 + a3v3 = 0 と仮定する.すると, 0 1 1
−2 −1 01 1 1
a1a2a3
=
000
である.この連立 1 次方程式の拡大係数行列に行基本変形を施すと 0 1 1 0
−2 −1 0 01 1 1 0
−−−−−−→(1) ⇐⇒ (3)
1 1 1 0−2 −1 0 00 1 1 0
(2)+2×(1)−−−−−−→
1 1 1 00 1 2 00 1 1 0
−−−−→(3)−(2)
1 1 1 00 1 2 00 0 −1 0
(1)+(3)−−−−−−→(2)+2×(3)
1 1 0 00 1 0 00 0 −1 0
(1)−(2)−−−−−→(3)/(−1)
1 0 0 00 1 0 00 0 1 0
となる.これより a1 = 0,a2 = 0,a3 = 0 であるから v1,v2,v3 は線形独立である.�
�課題4-14 つぎのベクトル v1,v2,v3 の線形独立性を調べよ.
(1) v1 =
(12
), v2 =
(23
), v3 =
(34
)
(2) v1 =
−121
, v2 =
112
, v3 =
1−10
(3) v1 =
111
, v2 =
0−2−3
, v3 =
210
59
4.5 一般の行列のランク
≪再び 2 次正方行列のランク≫ 2 元連立 1 次方程式の拡大係数行列が行基本変形によって (4.19) の階段行列 (i) - (vii) のいずれかに変形できたように,2
次正方行列 A は行基本変形によってつぎのいずれかの型の階段行列に変形できる(
にはなんらかの数が入る).
(α)
(1
0 1
) (β)
(1
0 0
) (γ)
(0 1
0 0
) (δ)
(0 0
0 0
)(4.44)
rankA = 2 ならば (α) に,rankA = 1 ならば (β) または (γ) に,rankA = 0 ならば (δ) に変形される.詳細は Appendix (No. 1) で説明されている.階段行列 (α),(β),(γ),(δ) について,零ベクトルではない行ベクトルの数とそれに変形される行列のランクを整理したつぎの表は,2 次正方行列のランクはその行列から行基本変形によって得られる階段行列の零ベクトルではない行ベクトルの数と一致する ことを示している.
(α) (β) (γ) (δ)
零ベクトルではない行ベクトルの数 2 1 1 0
変形される行列のランク 2 1 1 0
≪階段行列のランク≫ 階段行列のランクは 零ベクトルではない行ベクトルの数 と定義される.階段行列の零ベクトルではない行ベクトル全体が線形独立であることは Appendix (No. 2) で証明されている.
≪一般の行列のランク≫ 一般の m × n 行列のランクは,その行列から行基本変形によって得られる階段行列のランク と定義される.同じ行列から出発してもいろいろな階段行列に到達するが,得られる階段行列のランクは同じである.この事実の証明については Appendix (No. 3) を参照せよ.
Appendix (No. 3) には,行基本変形を行っても行ベクトルの線形独立性は変わらないことも示されている.つまり,線形独立であった行ベクトルの組が行基本変形によって線形従属になることはないし,逆に,線形従属であった行ベクトルの組が行基本変形によって線形独立になることもない.したがって,行列のランクを 線形独立な行ベクトルの最大数 と定義してもよい.�
�課題4-15(TAチェック) つぎの行列を行基本変形により階段行列に変
形してランクを計算せよ.
(1)
a −1−1 22 −4
(2)
a a2 a3
1 2 32 3 4
≪行列の列基本変形≫ つぎの 3 つの操作からなる変形を列基本変形という.
60
(1) ある列に 0 ではない数 をかける(0 をかけるとその行の情報がすべて失われる)
(2) ある列に別の列の何倍かを加える
(3) 列を入れ替える
行基本変形が可逆であり,行ベクトルの線形独立性を保つように,列基本変形も可逆であり,列ベクトルの線形独立性を保つことに注意しよう.行列を行基本変形により階段行列に変形し,さらに,列基本変形を行うと,
線形独立な行ベクトルの最大数と線形独立な列ベクトルの最大数が一致することが示される.詳細は Appendix (No. 4) で説明されている.以上より,行列のランクに関するつぎのまとめが得られる.
�
�まとめ:行列のランク� �
つぎの 3 つは互いに等しい.
(1) 線形独立な行ベクトルの最大数
(2) 線形独立な列ベクトルの最大数
(3) 階段行列に変形したときの零ベクトルではない行ベクトルの数
したがって,行列のランクはその行の数以下であり,列の数以下である.� �
Figure 4.2: 左はアルジェブラさん,右はリニアーくん
61
4.6 連立 1 次方程式の解の構造
≪係数行列と拡大係数行列のランク≫ つぎの表には,4.3 で取り扱った連立 1
次方程式について係数行列 A や拡大係数行列 A のランク,解の存在・一意性が整理されている.なお,拡大係数行列から得られる階段行列の右端の列を取り除いたものが係数行列から得られる階段行列になる.
拡大係数行列とそれから得られる階段行列 rankA rankA変数の数 解の存在
例題4-7
(1 1 −1 22 1 0 3−3 −6 2 −2
)→(
1 1 −1 20 −1 2 −10 0 −7 7
)3 3 3 一意に存在
例題4-8
(0 2 −1 3−1 1 1 22 −4 −1 −7
)→( −1 1 1 2
0 2 −1 30 0 0 0
)2 2 3 無数に存在
例題4-9
(0 2 −1 3−1 1 1 22 −4 −1 −6
)→( −1 1 1 2
0 2 −1 30 0 0 1
)2 3 存在しない
例題4-10
(3 4 5 6 7 82 3 4 5 6 71 2 3 4 5 6
)→(
1 0 −1 −2 −3 −40 1 2 3 4 50 0 0 0 0 0
)2 2 5 無数に存在
例題4-11
(1)
(4 1 61 3 73 −2 −1
)→(
1 0 10 1 20 0 0
)2 2 2 一意に存在
例題4-11
(2)
(4 1 51 3 73 −2 −1
)→(
1 3 70 −11 −230 0 1
)2 3 存在しない
課題4-9
(0 1 −1 20 −2 3 31 1 1 1
)→(
1 1 1 10 1 −1 20 0 1 7
)3 3 3 一意に存在
課題4-10
(1 1 −1 22 1 0 3−2 −3 4 −5
)→(
1 1 −1 20 −1 2 −10 0 0 0
)2 2 3 無数に存在
課題4-11
(1 1 −1 22 1 0 3−2 −3 4 0
)→(
1 1 −1 20 −1 2 −10 0 0 5
)2 3 存在しない
課題4-12
(2 −3 1 −1 2 1−1 1 2 2 −3 2
)→( −1 1 2 2 −3 2
0 −1 5 3 −4 5
)2 2 5 無数に存在
課題4-13
(1)
(3 1 61 2 72 −1 −1
)→(
1 2 70 1 30 0 0
)2 2 2 一意に存在
課題4-13
(2)
(3 1 61 2 52 −1 −1
)→(
1 2 50 −5 −90 0 −2
)2 3 存在しない
上の表に示唆されているように,連立 1 次方程式の解の構造はつぎのようにまとめられる.これは Appendix (No. 5) で証明されている.
�
�まとめ:連立 1 次方程式の解の構造� �
(1) 係数行列と拡大係数行列のランクが同じならば解が存在し,そうでなければ解は存在しない.
(2) 係数行列と拡大係数行列のランクが未知変数の数と同じならば解は 1つだけ存在し,未知変数の数よりも小さければ無数の解が存在する.� �
62
4.7 n 次正方行列の逆行列
I を n 次単位行列とする.n 次正方行列 A に対して,
AX = I, XA = I (4.45)
を満たす n 次正方行列 X が存在するとき,X を A の逆行列といい X = A−1
と表す.章末の Tidbit: AX = I ならば XA = I において,AX = I を満たす X は XA = I も満たすことが示されるので,AX = I を満たす X が A
の逆行列である.逆行列が存在する行列を 正則行列 と呼ぶ.また,正則な n
次正則行列 A,B の積 AB も正則であり,(AB)−1 = B−1A−1 が成立する.
4.8 行基本変形によるランクと逆行列の計算
≪逆行列の計算は連立 1 次方程式の計算≫ 単位行列 I の第 j 列ベクトルをej,A の逆行列 X の第 j 列ベクトルを xj とする(j = 1, 2, · · · , n).するとI =
(e1 e2 · · · en
),X =
(x1 x2 · · · xn
)であるから (4.45) の AX = I
は
AX = I ⇐⇒ A(x1 x2 · · · xn
)=(e1 e2 · · · en
)
⇐⇒
Ax1 = e1
Ax2 = e2
· · · · · · · · ·Axn = en
(4.46)
と分解される.したがって,逆行列は 同じ係数行列を持つ n 個の連立 1 次方程式を解いて得られる.すなわち,共通の係数行列 A の右に単位行列 I =(e1 e2 · · · en
)を置いた拡大係数行列(
A I)=(A e1 e2 · · · en
)(4.47)
に行基本変形を適用することによって A の逆行列が計算される.なお,この過程において A のランクも計算され,正則性も判定できる.
例題4-13 つぎの行列のランクを計算せよ.さらに,正則性を調べ,正則
ならば拡大係数行列の行基本変形により逆行列を求めよ.
(1) A =
0 −1 11 −2 11 0 −2
(2) B =
1 1 −22 1 03 2 −2
(解答例)(1) 拡大係数行列に行基本変形を適用して,ランクの計算,正則性の判定,逆行列の計算を同時に行う.
63
0 −1 1 1 0 01 −2 1 0 1 01 0 −2 0 0 1
[1]:(1) ⇐⇒ (2)−−−−−−−−→
1 −2 1 0 1 00 −1 1 1 0 01 0 −2 0 0 1
[2]:(2)×(−1)−−−−−−−→(3)−(1)1 −2 1 0 1 0
0 1 −1 −1 0 00 2 −3 0 −1 1
[3]−−−−−−→(3)−2×(2)
1 −2 1 0 1 00 1 −1 −1 0 00 0 −1 2 −1 1
[4]:(1)+(3)−−−−−−→(2)−(3)1 −2 0 2 0 1
0 1 0 −3 1 −10 0 −1 2 −1 1
[5]:(1)+2×(2)−−−−−−−→(3)×(−1)
1 0 0 −4 2 −10 1 0 −3 1 −10 0 1 −2 1 −1
したがって,A のランクは 3 であり,逆行列は
−4 2 −1−3 1 −1−2 1 −1
である.(2) 同様に同時計算を行う.すると1 1 −2 1 0 0
2 1 0 0 1 03 2 −2 0 0 1
(2)−2×(1)−−−−−−→(3)−3×(1)
1 1 −2 1 0 00 −1 4 −2 1 00 −1 4 −3 0 1
−−−−→(3)−(2)1 1 −2 1 0 0
0 −1 4 −2 1 00 0 0 −1 −1 1
まで行基本変形できるが,この段階で,B のランクが 2 であることが分かる.また,最後の行列の第 3 行は正しくない等式を要求しているので B の逆行列は存在しないことも分かる.
≪行列のランクと正則性≫ 例題4-13が例示しているように.拡大係数行列(A I
)の行基本変形において,左半分は A の行基本変形になる.したがって,
この過程で n 次正方行列 A のランクを計算できる.rankA = n ならば,A は正則であり,
(A I
)を行基本変形によって左半分
を単位行列 I に変形したときの右半分が A の逆行列である.逆に,rankA < n ならば,行基本変形の途中で,左半分のすべての成分が 0
である行が現れるが,そのとき,対応する右半分には 0 ではない成分が必ずある.なぜならば,単位行列のすべての行ベクトルは線形独立であり,4.5 で説明したように,行基本変形の過程で線形従属になることはないからである.したがって,rankA < n ならば n 次正方行列 A は正則ではない.�
�課題4-16(TAチェック) 行基本変形によりつぎの行列のランクと逆行
列を計算せよ.
(1)
0 1 11 1 4−1 2 0
(2)
1 2 −12 −1 11 1 2
64
�
�課題4-17(TAチェック) 行基本変形によりつぎの行列のランクを計算
し,正則性を調べよ.
(1)
−1 1 12 1 −11 2 0
(2)
1 −1 22 4 −23 0 3
�
�課題4-18(TAチェック) 行基本変形によりつぎの行列のランクと逆行
列を計算せよ. 0 3 −4 −32 −4 2 31 1 −3 −13 −1 −4 0
章末の Tidbit: AX = I ならば XA = I において,AX = I を満たすX は XA = I も満たすことが示されるので,行列のランクと逆行列についてはつぎのようにまとめられる.
�
�まとめ:ランクと逆行列� �
(1) n 次正方行列のランクが n に等しいときに限り,その逆行列が存在する.
(2) 拡大係数行列の行基本変形により,ランクと(存在する場合の)逆行列を計算できる.
(3) 正則な n次正則行列 A,B の積 AB も正則であり,(AB)−1 = B−1A−1
が成立する.� �
65
Tidbit: AX = I ならば XA = I� �例題4-13 (1) の拡大係数行列に対する行基本変形を再考しよう.このプロセスによって
(A I
)=
0 −1 1 1 0 01 −2 1 0 1 01 0 −2 0 0 1
=⇒
1 0 0 −4 2 −10 1 0 −3 1 −10 0 1 −2 1 −1
=(I X
)と変形されている(X = A−1).このプロセスを(
I X)= (ある行列)
(A I
)という形で表現することを目指して,例題4-13 (1) の行基本変形を辿ってみよう.すると
[1][1]:(1) ⇐⇒ (2)−−−−−−−−→ は左から P1 =
0 1 0
1 0 0
0 0 1
を掛けることと同じ
[2][2]:(2)×(−1)−−−−−−−→
(3)−(1)は左から P2 =
1 0 0
0 −1 0
−1 0 1
を掛けることと同じ
[3][3]−−−−−−→
(3)−2×(2)は左から P3 =
1 0 0
0 1 0
0 −2 1
を掛けることと同じ
[4][4]:(1)+(3)−−−−−−→(2)−(3)
は左から P4 =
1 0 1
0 1 −1
0 0 1
を掛けることと同じ
[5][5]:(1)+2×(2)−−−−−−−→(3)×(−1)
は左から P5 =
1 2 0
0 1 0
0 0 −1
を掛けることと同じである.上の 5 つの行基本変形をまとめ,P = P5P4P3P2P1 と置けば(
I X)= P
(A I
)=(PA P
)=⇒ I = PA, X = P
が成立する.したがって,(4.46) を解いて得られる X は P そのものであり,I = PA より,X は XA = I も満たす. 例題4-13 (1) を例として説明したが,一般性はいささかも損なわれていない.以上より,AX = I ならば XA = I である.� �
66
5 2 次正方行列の対角化・三角化とその応用
行列 A を作用させても方向が変わらない直線があったとする.すると,その直線の方向 v に限定すれば A が表す線形変換はベクトルに関する正比例 Av = λv となる.正比例の要である比例定数に相当する λ は 固有値 と呼ばれ,行列 A を特徴付けるものとなる.たとえば,2 次正方行列 A が相異なる 2 つの固有値を持てば A は固有値を成分とする対角行列((i, i) 成分以外は 0 の行列)に変形され,キリッと明快な計算と論理展開が可能になる.
5.1 固有値と固有ベクトル
≪変換されても変わらない方向≫ 2 次正方行列 A =
(1 41 −2
)が表す線形変換
は,detA = −6 = 0 であるから,平面全体を平面全体に移し,すべての直線を直線に移す.この行列 A を作用させても方向が変わらない直線を捜すことからこの節をはじめる.原点を通る直線(
xy
)= t
(ab
)(t は実数),
(ab
)= 0 (5.1)
は A =
(1 41 −2
)によって直線
(x′
y′
)= tA
(ab
)= t
(1 41 −2
)(ab
)= t
(a+ 4ba− 2b
)(t は実数) (5.2)
に写像される.この 2 つの直線が平行になるのは行列式 det
(a a+ 4bb a− 2b
)=
a(a− 2b)− (a+ 4b)b = a2 − 3ab− 4b2 = (a− 4b)(a+ b) = 0 のとき,すなわち,
直線の方向が(41
)と(
1−1
)のときである.
(ab
)=
(41
)ならば,変換後の直
線は
x
y
O 11
−
41
方向
方向
Figure 5.1: 変換後も変わらない方向
x
y
O
A1
1
−
1
1
−
Figure 5.2: 変換後も変わらない方向(固有値が重解)
67
(x′
y′
)= 2t
(41
)(t は実数) (5.3)
である(Figure 5.1).一方,(ab
)=
(1−1
)ならば,変換後の直線は
(x′
y′
)= −3t
(1−1
)(t は実数) (5.4)
である.(5.3) や (5.4) をベクトルに関する正比例の形で表現すれば,それぞれ,
A
(41
)= 2
(41
), A
(1−1
)= −3
(1−1
)(5.5)
となるから,(41
)の方向には向きを保ったまま 2倍に引き伸ばす変換,
(1−1
)の方向には逆向きに 3 倍する変換と考えられる.原点のまわりでの回転を表す線形変換のように,変換の前後で方向が変わら
ない直線が存在しない線形変換もあるが,つぎに考察する固有値と対応する固有ベクトルという形で一般化される.
≪固有値と固有値に対応する固有ベクトル≫ A を n 次正方行列とする.このとき,
Av = λv, v = 0 (5.6)
を満たす数 λを Aの固有値,零ベクトルではない n次元ベクトル v を λに対応する A の 固有ベクトル という.問題 (5.6) は A の 固有値問題 と呼ばれる.
(5.6) の第 1 式は (A − λI)v = 0 と書き換えられる.rank(A − λI) = n ならば v = 0 となるから,rank(A− λI) < n のときに限り λ は A の固有値となる.条件 rank(A− λI) < n は λ に関する n 次方程式に帰着され,固有方程式
と呼ばれる.たとえば,2 次正方行列 A =
(a bc d
)については
rank(A− λI) < 2 ⇐⇒ det(A− λI) =
∣∣∣∣a− λ bc d− λ
∣∣∣∣ = 0
⇐⇒ (a− λ)(d− λ)− bc = 0
⇐⇒ λ2 − (a+ d)λ+ ad− bc = 0
(5.7)
となり,この 2 次方程式が A =
(a bc d
)の固有値 λ を決定する.
固有値 λ が決定したら,連立 1 次方程式
(A− λI)v = 0 (5.8)
を行基本変形によって解いて,固有ベクトル v = 0 が得られる.ただし,(5.8)
の定数項はすべて 0 であるから,拡大係数行列ではなく係数行列に行基本変形を施せば十分である.
68
例題5-1 つぎの行列の固有値と固有ベクトルを求めよ.
(1)
(1 41 −2
) (2)
(3 1−1 1
) (3)
(√3 −1/2
2√3
) (4)
(2 00 2
)
(解答例)各問に対して行列を A と書く.
(1) 固有方程式 det(A− λI) =
∣∣∣∣1− λ 41 −2− λ
∣∣∣∣ = 0 を整理した
(λ− 1)(λ+ 2)− 4 = λ2 + λ− 6 = (λ− 2)(λ+ 3) = 0
から,固有値 λ1 = 2,λ2 = −3が得られる.λ1 = 2に対応する固有ベクトルは,行基本変形
(aaaaaaaa−−−−−→bbbbbbbb
は aaaaaaaa の後に bbbbbbbb をすることを意味する)
A− λ1I =
(−1 41 −4
)(2)+(1)−−−−→
(−1 40 0
)
から v1 = t
(41
)(∀t = 0)である.λ2 = −3 に対応する固有ベクトルは,
A− λ2I =
(4 41 1
)(1)/4−−−−→
(2)−(1)A− λ2I =
(1 10 0
)
から v2 = t
(1−1
)(∀t = 0)である.なお,{λ1,v1},{λ2,v2} は,それぞれ,
(5.5) の第 1 式,第 2 式に対応する.
(2) 固有方程式 det(A− λI) =
∣∣∣∣3− λ 1−1 1− λ
∣∣∣∣ = 0 を整理した
(λ− 3)(λ− 1) + 1 = λ2 − 4λ+ 4 = (λ− 2)2 = 0
から,固有値 λ = 2(重解)が得られる.固有ベクトルは,行基本変形
A− λI =
(1 1−1 −1
)(2)+(1)−−−−→
(1 10 0
)
から v = t
(1−1
)(∀t = 0)となる.この方向と拡大の様子を Figure 5.2 に示
す.固有値が重解であるため,変換前後で不変な方向が 1 つしかないのが (1)
との違いである.
(3) 固有方程式 det(A− λI) =
∣∣∣∣√3− λ −1/2
2√3− λ
∣∣∣∣ = 0 を整理した
(λ−√3)2 + 1 = λ2 − 2
√3λ+ 4 = 0
から,固有値 λ1 =√3 + i,λ2 =
√3 − i が得られる(i =
√−1:虚数単位).
λ1 =√3 + i に対応する固有ベクトルは,行基本変形
A− λ1I =
(−i −1/22 −i
)(1)×2i−−−−→(2)−(1)
(2 −i0 0
)69
から v1 = t
(i2
)(∀t = 0)である.λ2 =
√3 − i に対応する固有ベクトルは,
行基本変形
A− λ2I =
(i −1/22 i
)(1)×2−−−−−→
(2)+i×(1)
(2i −10 0
)から v2 = t
(12i
)(∀t = 0)である.
(4) 固有方程式 det(A− λI) =
∣∣∣∣2− λ 00 2− λ
∣∣∣∣ = 0 から固有値は λ = 2(重解)
である.A− λI =
(0 00 0
)よりすべての非零ベクトルが固有ベクトルである.
�
�課題5-1 つぎの行列の固有値と固有ベクトルを求めよ.
(1)
(3 −52 −4
) (2)
(−1 24 −8
) (3)
(1 22 1
)
�
�課題5-2 つぎの行列の固有値と固有ベクトルを求めよ.
(1)
(0 1−1 2
) (2)
(1 −22 −3
)
�
�課題5-3(TAチェック) つぎの行列の固有値と固有ベクトルを求めよ.(
1 −31/3 1
)
≪共役複素数・複素ベクトルの内積≫ 複素数 λ = α + iβ (i =√−1:虚数単
位,α,β:実数)に対して虚数部の符号を変えた α− iβ を λ の共役複素数といい λ で表す.また,複素数を成分とする複素ベクトル v の各成分をその共役複素数で置き換えたものを v の共役複素ベクトルといい,v で表す.
2 次の実正方行列の固有方程式 (5.7) は,2 つの相異なる実数解,重解,互いに共役な複素数解を持ちうる.互いに共役な複素固有値(λ2 = λ1)に対応する固有ベクトルも互いに共役な複素ベクトルになるようにできる(v2 = v1).
2 つの複素ベクトル a =
a1a2...an
と b =
b1b2...bn
の内積は,実ベクトルの内積を拡張して,
(a, b) =t ab = a1 b1 + a2 b2 + · · ·+ an bn (5.9)
70
と定義される.この定義 (5.9) から,つぎの性質がしたがう.
�
�まとめ:複素ベクトルの内積� �
λ を複素数,a,b,c を複素ベクトルとする.このときつぎが成り立つ.
(1) (a, b+ c) = (a, b) + (a, c) (2) (a+ b, c) = (a, c) + (b, c)
(3−1) (λa, b) = λ(a, b) (3−2) (a, λb) = λ(a, b)
(4) (a, b) = (b,a)
(5) (a,a) ≥ 0 であり,等号は a = 0 のときのみ成立� �5.2 固有ベクトルの線形独立性
簡単な例として 2 次正方行列 A =
(1 41 −2
)を考える.A は相異なる固有値
λ1 = 2,λ2 = −3 を持ち,対応する固有ベクトルは,それぞれ,v1 =
(41
),
v2 =
(1−1
)であった.この 2 つの固有ベクトルを並べた行列の行列式は
det(v1 v2
)=
∣∣∣∣4 11 −1
∣∣∣∣ = −5 = 0 であるから v1,v2 は線形独立である.
Appendix (No. 6) で証明されているように,一般の n 次正方行列の固有ベクトルの線形独立性についてはつぎが成り立つ.
�
�まとめ:固有ベクトルの線形独立性� �
n 次正方行列 A の相異なる固有値 λ1,λ2,· · ·,λr に対応する固有ベクトル v1,v2,· · ·,vr は線形独立である.� �
5.3 2 次正方行列の対角化・三角化
≪固有値が相異なる場合≫ 2 次正方行列 A が相異なる固有値 λ1,λ2 を持つ場合を考える.λ1,λ2 に対応する固有ベクトルをそれぞれ v1,v2 とすれば
Av1 = λ1v1 Av2 = λ2v2
である.P =(v1 v2
)と置くと,上の 2 つの式より
AP = A(v1 v2
)=(Av1 Av2
)=(λ1v1 λ2v2
)=
(v1 v2
)(λ1 00 λ2
)= P
(λ1 00 λ2
)
71
が得られる..まとめ:固有ベクトルの線形独立性(p. 73)より P は正則だから,上の最初と最後の式の左から P の逆行列をかければ
P−1AP =
(λ1 00 λ2
)(5.10)
がしたがう.これを行列 A の 対角化 という.
≪固有値 λ が重解の場合≫ ついで,2 次正方行列 A の固有値 λ が重解である場合を取り扱う.rank(A − λI) < 2 であるので,rank(A − λI) = 0 とrank(A− λI) = 1 の場合に分けて考えよう.
rank(A − λI) = 0 とする.すると,A − λI は零行列 O =
(0 00 0
)に等し
いので,A は対角行列 A =
(λ 00 λ
)である.
rank(A− λI) = 1 とする.この場合は (5.10) のように A を対角化することはできないが,三角化することはできる.行列 A の固有値 λ に対応する固有ベクトルを v1 とする.Appendix (No. 7) で
(A− λI)v2 = v1 (5.11)
を満たすベクトル v2 が無数に存在するが証明されているが,そのうちの 1 つを任意に選び,P =
(v1 v2
)と置く.すると,(5.11) から
AP = A(v1 v2
)=(Av1 Av2
)=(λv1 v1 + λv2
)=
(v1 v2
)(λ 10 λ
)= P
(λ 10 λ
) (5.12)
が得られる.Appendix (No. 7) で証明されているように v1 と v2 は線形独立であるから P は正則行列である・(5.12) の最初と最後の式の左から P の逆行列をかければ
P−1AP =
(λ 10 λ
)(5.13)
となる.これを行列 A の 三角化 という.
例題5-2 (例題5-1参照)つぎの行列を対角化,または,三角化せよ.
(1)
(1 41 −2
) (2)
(3 1−1 1
) (3)
(√3 −1/2
2√3
)
(解答例)各問に対して行列を A と書く.例題5-1で求めた固有値と固有ベクトルを利用して対角化,または,三角化することができる.(1) 固有値は λ1 = 2,λ2 = −3 であった.このように相異なる固有値を持つこの行列 A は対角化できる.実際,λ1 = 2,λ2 = −3 に対応する固有ベクトルと
72
して v1 =
(41
),v2 =
(1−1
)を選び,P =
(v1 v2
)=
(4 11 −1
)と置けば A
はつぎのように対角化される:
P−1 = −1
5
(−1 −1−1 4
)=
1
5
(1 11 −4
), P−1AP =
(2 00 −3
)
(2) この行列 A の固有値 λ = 2 は重解であり,A− λI =
(1 1−1 −1
)のランク
は 1 である.したがって,A は対角化はできないが,三角化はできる.λ = 2
に対応する固有ベクトルとして v1 =
(1−1
)を選ぼう.(5.11) を満たす v2 は
拡大係数行列の行基本変形(A− λI v1
)=
(1 1 1−1 −1 −1
)(2)+(1)−−−−→
(1 1 10 0 0
)
から,たとえば,v2 =
(01
)と選べる.P =
(v1 v2
)=
(1 0−1 1
)と置けば A
はつぎのように三角化できる:
P−1 =
(1 01 1
), P−1AP =
(2 10 2
)(3)固有値は λ1 =
√3+ i,λ2 =
√3− iであった.このように相異なる固有値を
持つこの行列 A は対角化できる.実際, λ1 =√3+ i,λ2 =
√3− i に対応する
固有ベクトルとして v1 =
(i2
),v2 =
(12i
)を選び,P =
(v1 v2
)=
(i 12 2i
)と置けば A はつぎのように対角化される:
P−1 = −1
4
(2i −1−2 i
), P−1AP =
(√3 + i 0
0√3− i
)
�
�まとめ: 2 次正方行列 A の対角化・三角化� �
(1) 相異なる固有値を持つ 2 次正方行列 A は対角化できる.
(2) 固有値 λ が重解,rank(A−λI) = 0 ならば A は元々対角行列である.
(3) 固有値 λ が重解,rank(A−λI) = 1 ならば A は対角化はできないが,三角化できる.� �
�
�課題5-4 (課題5-1参照)つぎの行列を対角化せよ.
(1)
(3 −52 −4
) (2)
(−1 24 −8
) (3)
(1 22 1
)73
�
�課題5-5(TAチェック) (課題5-2参照)つぎの行列を三角化せよ.
(1)
(0 1−1 2
) (2)
(1 −22 −3
)
�
�課題5-6(TAチェック) (課題5-3参照)つぎの行列を対角化せよ.(
1 −31/3 1
)
5.4 対角化・三角化の応用 ≪行列のべき乗≫
≪行列のべき乗≫ 対角行列(λ1 00 λ2
),上三角行列
(λ 10 λ
)のべき乗は,そ
れぞれ,つぎのように簡単に計算できる(トレーニング4,問題1).(λ1 00 λ2
)n
=
(λ1
n 00 λ2
n
),
(λ 10 λ
)n
=
(λn nλn−1
0 λn
)一般の 2 次正方行列のべき乗の計算は,行列の対角化・三角化によって見
通しが良くなる.実際,A がある正則行列 P によって
P−1AP = D
と対角化あるいは三角化されたとする.ここに D は対角行列か上の形の三角行列である.すると,
A = PDP−1
だから,つぎのようにして A のべき乗 An が計算される.
A2 = (PDP−1)2 = (PDP−1)(PDP−1) = PD(P−1P )DP−1
= PDIDP−1 = PD2P−1
A3 = (PDP−1)3 = (PDP−1)(PDP−1)(PDP−1)
= PD(P−1P )D(P−1P )DP−1 = PDIDIDP−1 = PD3P−1
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·An = (PDP−1)n = (PDP−1)(PDP−1) · · · (PDP−1)(PDP−1) = PDnP−1
例題5-3 (例題5-2参照)つぎの行列のべき乗を計算せよ.
(1)
(1 41 −2
) (2)
(3 1−1 1
) (3)
(√3 −1/2
2√3
)74
(解答例)各問に対して行列を A と書く.例題5-2で行った対角化・三角化を利用する.
(1) P =
(4 11 −1
)と選ぶことができ,
P−1 =1
5
(1 11 −4
), A = P
(2 00 −3
)P−1
であった.したがって,つぎのようにべき乗を計算できる.
An = P
(2 00 −3
)n
P−1 =
(4 11 −1
)(2n 00 (−3)n
)P−1
=
(2n+2 (−3)n
2n −(−3)n
)1
5
(1 11 −4
)
=1
5
(2n+2 + (−3)n 2n+2 − 4(−3)n
2n − (−3)n 2n + 4(−3)n
)
(2) P =
(1 0−1 1
)と選ぶことができ,
P−1 =
(1 01 1
), A = P
(2 10 2
)P−1
であった.したがって,つぎのようにべき乗を計算できる.
An = P
(2 10 2
)n
P−1 =
(1 0−1 1
)(2n n2n−1
0 2n
)P−1
=
(2n n2n−1
−2n (2− n)2n−1
)(1 01 1
)=
((n+ 2)2n−1 n2n−1
−n2n−1 (2− n)2n−1
)
= 2n−1
(n+ 2 n−n 2− n
)
(3) P =
(i 12 2i
)と選ぶことができ,
P−1 = − 1
4
(2i −1−2 i
), A = P
(√3 + i 0
0√3− i
)P−1
であった.α = π/6,β = cosα+i sinαと置く.すると,√3+i = 2
(√3
2+ i
1
2
)=
2β,√3− i = 2β である.ド・モアブルの公式より
βn = cosnα + i sinnα
β = cosα− i sinα = cos(−α) + i sin(−α)
βn = cos(−nα) + i sin(−nα) = cos(nα)− i sin(nα)
βn + βn = 2 cos(nα) = 2 cos(nπ
6), βn − βn = 2i sin(nα) = 2i sin(
nπ
6)
75
であることに注意してべき乗の計算を行うとつぎのようになる.
An = P
(2β 00 2β
)n
P−1 = 2n(i 12 2i
)(βn 00 βn
)P−1
= 2n(iβn βn
2βn 2iβn
)(−1
4)
(2i −1−2 i
)
= −2n−2
(−2(βn + βn) −i(βn − βn)4i(βn − βn) −2(βn + βn)
)
= −2n−2
(−4 cos(nα) 2 sin(nα)
−8 sin(nα) −4 cos(nα)
)
= 2n−1
2 cosnπ
6− sin
nπ
6
4 sinnπ
62 cos
nπ
6
�
�課題5-7 (課題5-4参照)つぎの行列のべき乗を計算せよ.
(1)
(3 −52 −4
) (2)
(−1 24 −8
) (3)
(1 22 1
)
�
�課題5-8(TAチェック) (課題5-5参照)つぎの行列のべき乗を計算
せよ.
(1)
(0 1−1 2
) (2)
(1 −22 −3
)
�
�課題5-9(TAチェック) (課題5-6参照)行列
(1 −31/3 1
)のべき乗
を計算し,実行列で表せ.
5.5 対角化・三角化の応用 ≪数列の一般項≫
≪等比数列の拡張≫ 数列
xn+1 = −2xn (n = 0, 1, 2, · · · ) (5.14)
を考える.xn は公比 −2 の等比数列である.一般項は初項 x0 と n によって
xn = (−2)nx0 (n = 0, 1, 2, · · · ) (5.15)
と表される.つぎに,2 つの漸化式{xn+1 = axn + byn
yn+1 = cxn + dyn(n = 0, 1, 2, · · · ) (5.16)
76
で定まる数列 xn,yn を考えよう.A =
(a bc d
)と置けば,この漸化式は
(xn+1
yn+1
)= A
(xn
yn
)(n = 0, 1, 2, · · · ) (5.17)
と書き換えられ,一般項は初項(x0
y0
)と n によって(
xn
yn
)= An
(x0
y0
)(n = 0, 1, 2, · · · )
と与えられる.
例題5-4 (例題5-3参照)つぎの数列の一般項を求めよ.
(1)
(x0
y0
)=
(1
1
),
{xn+1 = xn + 4yn
yn+1 = xn − 2yn(n = 0, 1, 2, · · · )
(2)
(x0
y0
)=
(1
1
),
{xn+1 = 3xn + yn
yn+1 = −xn + yn(n = 0, 1, 2, · · · )
(3)
(x0
y0
)=
(1
2
),
{xn+1 =
√3xn − yn/2
yn+1 = 2xn +√3yn
(n = 0, 1, 2, · · · )
(解答例)(1) 例題5-3 (1) の計算結果より一般項はつぎのようになる.(xn
yn
)=
(1 41 −2
)n(11
)=
1
5
(2n+2 + (−3)n 2n+2 − 4(−3)n
2n − (−3)n 2n + 4(−3)n
)(11
)
=1
5
(2n+3 + (−3)n+1
2n+1 − (−3)n+1
)
(2) 例題5-3 (2) の計算結果より一般項はつぎのようになる.(xn
yn
)=
(3 1−1 1
)n(11
)= 2n−1
(n+ 2 n−n 2− n
)(11
)
= 2n−1
(2n+ 22− 2n
)= 2n
(n+ 11− n
)
(3) 例題5-3 (3) の計算結果より一般項はつぎのようになる.(xn
yn
)=
(√3 −1/2
2√3
)n(1
2
)= 2n−1
2 cosnπ
6− sin
nπ
6
4 sinnπ
62 cos
nπ
6
(12
)
= 2n−1
2 cosnπ
6− 2 sin
nπ
6
4 sinnπ
6+ 4 cos
nπ
6
= 2n√2
cos(nπ
6+
π
4)
2 sin(nπ
6+
π
4)
77
�
�課題5-10 (課題5-7参照)つぎの数列の一般項を求めよ.
(1)
(x0
y0
)=
(1
2
),
{xn+1 = 3xn − 5yn
yn+1 = 2xn − 4yn(n = 0, 1, 2, · · · )
(2)
(x0
y0
)=
(1
2
),
{xn+1 = −xn + 2yn
yn+1 = 4xn − 8yn(n = 0, 1, 2, · · · )
(3)
(x0
y0
)=
(1
2
),
{xn+1 = xn + 2yn
yn+1 = 2xn + yn(n = 0, 1, 2, · · · )
�
�課題5-11 (課題5-8参照)つぎの数列の一般項を求めよ.
(1)
(x0
y0
)=
(2
1
),
{xn+1 = yn
yn+1 = −xn + 2yn(n = 0, 1, 2, · · · )
(2)
(x0
y0
)=
(1
2
),
{xn+1 = xn − 2yn
yn+1 = 2xn − 3yn(n = 0, 1, 2, · · · )
�
�課題5-12 (課題5-9参照)つぎの数列の一般項を求めよ.(
x0
y0
)=
(3
1
),
{xn+1 = xn − 3yn
yn+1 = xn/3 + yn(n = 0, 1, 2, · · · )
Tidbit: 行列式と固有方程式� �第 3章で面積拡大率を表すものとして 2次正方行列の行列式を導入したが,n次正方行列の行列式も定義され,(5.6)が解を持つための条件 rank(A−λI) <n は n によらず det(A− λI) = 0 と同値である.det(A− λI) = 0 は λ に関する n 次方程式である. この資料では 体積拡大率 を表現するものとして 3 次正方行列の行列式を紹介し,さらに,固有方程式を利用して 3 次正方行列の固有値を求める.ただし,本資料は 4 次以上の高次正方行列の行列式には言及しない.� �
78
6 2 次実対称行列の直交行列による対角化
2 次の正方行列は平面から平面への線形変換を表す.特に,直交行列は任意の図形をそれと合同な図形に移す. x,y の 2 次方程式の係数から構成されるような 2 次の実対称行列の固有値は必ず実数である.さらに嬉しいことに,2 次の実対称行列は必ず直交行列によって対角行列に変形される.このことを利用すれば,x,y の 2 次方程式の係数から構成される実対称行列の 2 つの固有値の符号を調べることによって,その 2 次方程式が表す曲線が楕円の仲間であるか,双曲線の仲間であるか,放物線の仲間であるかを判定できる.
6.1 直交行列と合同変換
≪直交行列とは≫ tPP = P tP = I を満たす実正方行列 P を 直交行列 という.この条件は P の転置行列が P の逆行列であることを示す.
≪直交行列は合同変換を表す≫ たとえば,つぎの行列は 2次の直交行列である.(−1 00 1
),
(1 00 −1
),
(cos θ − sin θsin θ cos θ
),
(cos θ sin θsin θ − cos θ
)左から順番に,y 軸に関する対称変換,x 軸に関する対称変換,原点のまわりに θ だけ回転する変換,x 軸に関する対称変換の後に原点のまわりに θ だけ回転する変換を表す行列である.これらの例には,変換前後の図形が合同であるという共通の性質があるが,実は,以下に示すように,すべての直交行列は任意の図形を合同な図形に移す合同変換を表す.実際,P を直交行列,x,y を任意のベクトルとすると
内積 (Px, Py) =t (Px)(Py) = tx(tPP )y = txy = (x,y) (6.1)
である.ここで x = y としてみれば,直交行列はベクトルの長さを変えないことが分かる.さらに,2 つのベクトルの内積も変えないから,ベクトルがなす角も変えない.これは直交行列がすべての図形を合同な図形に写像することを意味している(Figure 6.1 参照).
θ x
y
θ′
, , P P θ θ′= = =x x y y
P
Py
Px
Figure 6.1: 直交行列は合同変換を表す
79
6.2 正規直交系
≪直交行列の列ベクトルと行ベクトル≫ n 次の直交行列 P の第 j 列ベクトルを vj (j = 1, 2, · · · , n)とする:P =
(v1 v2 · · · vn
).すると,
tPP =
tv1tv2...
tvn
(v1 v2 · · · vn
)=
tv1v1
tv1v2 · · · tv1vntv2v1
tv2v2 · · · tv2vn...
.... . .
...tvnv1
tvnv2 · · · tvnvn
である.つまり,tPP の (i, j) 成分は vi と vj の内積 tvivj = (vi,vj) である.したがって,条件 tPP = I は
内積 (vi,vj) =
{1 (i = j)
0 (i = j)(6.2)
を意味する.すなわち,v1,v2,· · ·,vn はすべて長さ 1のベクトルであり,しかも,互いに直交してしている.このようなベクトルの組は 正規直交系 と呼ばれる.つぎに,直交行列の行ベクトルの性質を調べよう.n 次直交行列 P の第 i
行ベクトルを ui (i = 1, 2, · · · , n)とする:P =
u1
u2...un
.すると,
P tP =
u1
u2...un
(tu1tu2 · · · tun
)=
u1
tu1 u1tu2 · · · u1
tun
u2tu1 u2
tu2 · · · u2tun
......
. . ....
untu1 un
tu2 · · · untun
である.つまり,P tP の (i, j) 成分は ui と uj の内積 ui
tuj = (ui,uj) である.したがって,条件 P tP = I は
内積 (ui,uj) =
{1 (i = j)
0 (i = j)(6.3)
を意味する.すなわち,行ベクトル u1,u2,· · ·,un も正規直交系である.以上より,直交行列の列ベクトル全体は正規直交系,行ベクトル全体も正規直交系 であることが分かる.
≪ 2 次の直交行列の決定≫ 2 次の直交行列 P =
(p qr s
)をすべて求めよう.
p2 + r2 = 1 より p = cos θ,r = sin θ となる θ が存在する.また,q2 + s2 = 1
より q = cosα,s = sinα となる α が存在する.P の第 1 列ベクトルと第 2 列ベクトルは直交するから
0 = pq + rs = cos θ cosα+ sin θ sinα = cos(θ − α) = cos(α− θ),
80
したがって,α = θ ± π
2+ 2nπ(n = 0,±1,±2, · · ·)である.α = θ +
π
2+ 2nπ
ならば,cosα = cos(θ +π
2) = − sin θ,sinα = sin(θ +
π
2) = cos θ より
P =
(cos θ − sin θ
sin θ cos θ
)(6.4)
である.一方,α = θ − π
2+ 2nπ ならば,cosα = cos(θ − π
2) = sin θ,sinα =
sin(θ − π
2) = − cos θ より P は
P =
(cos θ sin θ
sin θ − cos θ
)=
(cos θ − sin θ
sin θ cos θ
)(1 0
0 −1
)(6.5)
となる.�
�まとめ: 2 次の直交行列� �
2 次の直交行列は原点のまわりの回転変換を表す行列 (6.4) か座標軸に関する対称移動と原点のまわりの回転変換の合成を表す行列 (6.5) のいずれかである.� �
�
�課題6-1(0.8 0.6r s
)が直交行列になるように r,s の値を定めよ.
�
�課題6-2 つぎの行列が直交行列であるか否かを判定せよ.また,直交行列
である場合には,適切な角 θ を使って (6.4) か (6.5) の形に書き直せ.
(1)1
2
(√3 1
1√3
)(2)
1
2
(√3 1
1 −√3
)(3)
1
2
(√3 1
−1√3
)
(4)1
2
(√3 1
−1 −√3
)(5)
1
2
(−√3 1
1√3
)(6)
1
2
(−√3 1
1 −√3
)
(7)1
2
(−√3 1
−1√3
)(8)
1
2
(−√3 1
−1 −√3
)(9)
(−1 0
0 −1
)
(10)
(1 0
0 −1
)(11)
(0 1
−1 0
)(12)
(0 1
1 0
)
81
6.3 実対称行列の固有値と固有ベクトル
≪ 2 次の実対称行列の固有値≫ 2 次の実対称行列 A =
(a bb d
)の固有方程式
は,det(A− λI) = (λ− a)(λ− d)− b2 より
λ2 − (a+ d)λ+ ad− b2 = 0 (6.6)
となる.判別式は D = (a + d)2 − 4ad + 4b2 = (a− d)2 + 4b2 ≥ 0 であるので,固有値は実数 である.判別式が 0 になるのは a = d,b = 0 の場合だけに限る.
したがって,スカラー行列 A =
(a 00 a
)の固有値だけが重解になり,それ以外
の実対称行列は相異なる実固有値を持つ.
≪ 2 次の実対称行列の固有ベクトル≫ スカラー行列については,すべての非零
ベクトルが固有ベクトルであるから,たとえば,v1 =
(10
),v2 =
(01
)と選
べば,2 つの固有ベクトルが正規直交系になる.スカラー行列ではない 2 次の実対称行列 A の相異なる固有値を λ1,λ2,対
応する固有ベクトルをそれぞれ v1,v2 とする.すると,
λ1(tv1v2) = (λ1
tv1)v2 = t(λ1v1)v2 = t(Av1)v2 = (tv1tA)v2
= (tv1A)v2 = tv1(Av2) = tv1(λ2v2) = λ2(tv1v2)
(6.7)
である.λ1 = λ2 より,(6.7) は tv1v2 = 0,つまり,v1 と v2 が直交することを意味する.したがって,正規直交系になるように 2 つの固有ベクトル v1,v2
を選ぶことができる.
6.4 実対称行列の対角化
≪ 2 次の実対称行列の回転行列による対角化≫ 2 次の実対称行列の固有ベクトル v1,v2 は P =
(v1 v2
)が直交行列になるように選べるだけではなく,−v2
も固有ベクトルであるから P =(v1 v2
)が原点のまわりの回転を表すように
できる.したがって,2 次の実対称行列は原点のまわりでの回転を表す回転行列によって対角化できる.
例題6-1 つぎの実対称行列を回転行列によって対角化せよ.
(1)
(2
√3√
3 4
) (2)
(0 22 3
) (3)
(1 −1−1 1
)(解答例)各問に対して行列を A と書く.
(1) 固有方程式 det(A− λI) =
∣∣∣∣2− λ√3√
3 4− λ
∣∣∣∣ = 0 を整理した
(λ− 2)(λ− 4)− 3 = λ2 − 6λ+ 5 = (λ− 5)(λ− 1) = 0
82
から,固有値 λ1 = 5,λ2 = 1 が得られる.λ1 = 5 に対応する固有ベクトルは
A− λ1I =
(−3
√3√
3 −1
)(1)/
√3−−−−→
(2)+(1)
(−√3 1
0 0
)
から v1 =1
2
(1√3
)と選べる.係数
1
2は |v1| = 1 にするためのものである.
λ2 = 1 に対応する固有ベクトル v2 は,行基本変形
A− λ2I =
(1
√3√
3 3
)(2)−
√3×(1)−−−−−−−→
(1
√3
0 0
)
から,v2 =1
2
(−√3
1
)と選べる.係数
1
2は |v1| = 1 とするためのもの
である.以上より,A は原点のまわりでの回転行列 P =1
2
(1 −
√3
√3 1
)=cos
π
3− sin
π
3
sinπ
3cos
π
3
によって tPAP =
(5 00 1
)と対角化される.
(2) 固有方程式 det(A− λI) =
∣∣∣∣−λ 22 3− λ
∣∣∣∣ = 0 を整理した
−λ(3− λ)− 4 = λ2 − 3λ− 4 = (λ− 4)(λ+ 1) = 0
から,固有値 λ1 = 4,λ2 = −1 が得られる.λ1 = 4 に対応する固有ベクトルは
A− λ1I =
(−4 22 −1
)(1)/2−−−−→
(2)+(1)
(−2 10 0
)
から,v1 =1√5
(12
)と選べる.係数
1√5は |v1| = 1 とするためのものである.
λ2 = −1 に対応する固有ベクトル v2 は,行基本変形
A− λ2I =
(1 22 4
)(2)−2×(1)−−−−−−→
(1 20 0
)
から,v2 =1√5
(−21
)と選べる.係数
1√5は |v1| = 1とするためのものである.
以上より,Aは原点のまわりでの回転行列 P =1√5
(1 −22 1
)=
(cosα − sinα
sinα cosα
)によって tPAP =
(4 00 −1
)と対角化される.ここに αは cosα =
1√5,sinα =
83
2√5を満たす角度である.
(3) 固有方程式 det(A− λI) =
∣∣∣∣1− λ −1−1 1− λ
∣∣∣∣ = 0 を整理した
(λ− 1)2 − 1 = λ2 − 2λ = λ(λ− 2) = 0
から,固有値 λ1 = 2,λ2 = 0 が得られる.λ1 = 2 に対応する固有ベクトル v1
は,行基本変形
A− λ1I =
(−1 −1−1 −1
)(2)−(1)−−−−−→(1)×(−1)
(1 10 0
)
から,v1 =1√2
(1−1
)と選べる.係数
1√2は |v1| = 1 とするためのものであ
る.λ2 = 0 に対応する固有ベクトル v2 は,行基本変形
A− λ1I =
(1 −1−1 1
)(2)+(1)−−−−→
(1 −10 0
)
から,v2 =1√2
(11
)と選べる.係数
1√2は |v1| = 1 とするためのもの
である.以上より,A は原点のまわりでの回転行列 P =1√2
(1 1
−1 1
)=cos
(−π
4
)− sin
(−π
4
)sin(−π
4
)cos(−π
4
) によって tPAP =
(2 00 0
)と対角化される.
�
�課題6-3(TAチェック) つぎの実対称行列を回転行列によって対角化せよ.(
7 −3√3
−3√3 13
)
�
�課題6-4(TAチェック) つぎの実対称行列を回転行列によって対角化せよ.(
0 1
1 0
)
�
�課題6-5(TAチェック) つぎの実対称行列を回転行列によって対角化せよ.(
1 2
2 4
)
84
6.5 x の 2 次方程式が表す図形
≪ x の 2 次方程式≫ はじめに x の 2 次方程式
ax2 + 2bx+ c = 0 (a = 0) (6.8)
が表す図形を考える.ここに,(6.8) が表す図形とは (6.8) を満たす点の集合,つまり (6.8) の実数解全体のことである.いうまでもなく,(6.8) を満たす点は,判別式 D = b2 − ac が正ならば 2 つ,D = 0 ならば 1 つあり,D < 0 のときは 1 つもない.
2 次方程式が表す図形の係数への依存性は,簡単な例
x2 + c = 0 (6.9)
の場合にはつぎのようになる.
• c < 0 ならば (6.9) を満たすのは x = −√−c と x =
√−c の 2 点である.
この範囲で c が 0 に近づくにつれて 2 点はしだいに近づく.
• c = 0 で 2 点は原点で合体して 1 点になる.
• c > 0 に対しては (6.9) を満たす点は存在しない.
≪空集合≫ 要素が何もない集合を空集合という.c > 0 の場合,(6.9) の左辺は常に正であり,右辺は 0 である.したがって,(6.9) を満たす実数 x は 1 つも存在しないので,この方程式が表す図形は空集合であるという.
6.6 交差項 xy の係数が 0 である 2 次方程式が表す曲線
≪ 2 次曲線≫ xy 平面において x と y の 2 次方程式
ax2 + 2bxy + cy2 + dx+ ey + f = 0 (6.10)
が表す図形を 2 次曲線 という.ここに,a,b,c,d,e,f はすべて定数であり,2 次の項の係数 a,b,c の少なくとも 1 つは 0 ではない.�
�課題6-6 xy 平面上の 2 次曲線を表す一般式は (6.10) である.つぎの例に
ついて,a ∼ f の値を求めよ.ただし,α,β は正の定数である.
(1)x2
α2+
y2
β2= 1 (2)
x2
α2+
y2
β2= 0 (3)
x2
α2+
y2
β2= −1
(4)x2
α2− y2
β2= 1 (5)
x2
α2− y2
β2= 0 (6)
x2
α2= 1
(7)x2
α2= 0 (8)
x2
α2= −1 (9)
x2
α2= y
85
≪交差項 xy の係数が 0 である 2 次方程式≫ 課題6-6の例のように xy の係数が 0 の場合
ax2 + cy2 + dx+ ey + f = 0 (6.11)
について,2 次方程式が表す図形を考えよう.(6.11) とこれに −1 を掛けた 2
次方程式は同じ図形を表す.また,x と y を交換した 2 次方程式は合同な図形を表す.したがって,a > 0 であると考えてよいので,(6.11) は本質的にはつぎの 3 つに類別される.
楕 円 (E) 型: a > 0, c > 0
双曲線 (H) 型: a > 0, c < 0
放物線 (P) 型: a > 0, c = 0
�
�課題6-7 課題6-6の 2 次方程式が楕円 (E) 型,双曲線 (H) 型,放物線
(P) 型のいずれかであるかを判定せよ.
≪楕円とその仲間たち:1つの例≫ 楕円型の例として,第1章の (1.2)で扱った
5x2 + y2 − 10x+ 2y + f = 0 (6.12)
を再び取り上げる.これを x,y の両方について平方完成して,整理すれば
5(x− 1)2 + (y + 1)2 = 6− f ⇔ (x− 1)2 +(y + 1)2
5=
6− f
5
となる.したがって,(6.12) は
• f = −9 のとき楕円(Figure 6.2 の左上)を表す.
• f < 6 の範囲では楕円を表す.この範囲で f が 6 に近づくにつれて長径も短径も小さくなる.
• f = 6 では 1 点(
1−1
)を表す.
• f > 6 のときには空集合を表す.
一般の楕円型については ≪楕円 (E) 型の 2 次方程式が表す図形≫ を参照せよ.
≪双曲線とその仲間たち:1つの例≫ 双曲線型の例として
4x2 − y2 + 8x+ 2y + f = 0 (6.13)
を取り上げる.これを x,y の両方について平方完成して,整理すれば
4(x+ 1)2 − (y − 1)2 = 3− f ⇔ (x+ 1)2 − (y − 1)2
4=
3− f
4
となる.したがって,(6.13) は
86
• f = 1 のとき双曲線(Figure 6.2 の右上)を表す.
• f < 3 の範囲では x 軸方向に開いた双曲線を表す.この範囲で f が 3 に近づくにつれて双曲線は 2 本の漸近線に近づく.
• f = 3 のとき漸近線(Figure 6.2 左下)を表す.
• f > 3 の範囲では y 軸方向に開いた双曲線を表す.
一般の双曲線型については ≪双曲線 (H) 型の 2 次方程式が表す図形≫ を参照せよ.
22 ( 1)
( 1) 35
yx
+− + =
22 ( 1) 1
( 1)4 2
yx
−+ − =
22 ( 1)
( 1) 04
yx
−+ − =
2( 1) 3y x= + −
Figure 6.2: 典型的な 2 次曲線
≪放物線とその仲間たち:1つの例≫ 放物線型の例として
2x2 + 4x+ ey − 4 = 0 (6.14)
を考える.これを x について平方完成して,整理すれば
(−e)y = 2(x+ 1)2 − 6
となる.したがって,(6.14) は
• e = −2 のとき放物線(Figure 6.2 の右下)を表す.
87
• e < 0 の範囲では下に凸の放物線を表す.この範囲で e が 0 に近づくにつれて放物線は平行な 2 直線 (x+ 1)2 = 3 に近づく.
• e = 0 のとき平行な 2 直線 (x+ 1)2 = 3 を表す.
• e > 0 の範囲では上に凸の放物線を表す.
一般の放物線型については ≪放物線 (P) 型の 2 次方程式が表す図形≫ を参照せよ.
≪楕円 (E) 型の 2 次方程式が表す図形≫ 一般の楕円型を考えよう.(6.11) において a > 0,c > 0 としてよい.(6.11) を平方完成すれば
a
(x+
d
2a
)2
+ c(y +
e
2c
)2=
d2
4a+
e2
4c− f (a > 0, c > 0)
となる.ここで,x1 = − d
2a,y1 = − e
2c,p =
d2
4a+
e2
4c− f 置けば
a(x− x1)2 + c(y − y1)
2 = p (a > 0, c > 0)
と整理され,p の符号によりつぎのように分類される..
p > 0 ⇒ (x− x1)2
α2+
(y − y1)2
β2= 1 (楕円)(
α =√
p/a, β =√p/c)
p = 0 ⇒ (x− x1)2
α2+
(y − y1)2
β2= 0 (1 点)(
α =√
1/a, β =√1/c)
p < 0 ⇒ (x− x1)2
α2+
(y − y1)2
β2= −1 (空集合)(
α =√
−p/a, β =√−p/c
)
(6.15)
≪双曲線 (H) 型の 2 次方程式が表す図形≫ 次に一般の双曲線型を考えよう.(6.11) において a > 0,c < 0 としてよい.(6.11) を平方完成すれば
a
(x+
d
2a
)2
+ c(y +
e
2c
)2=
d2
4a+
e2
4c− f (a > 0, c < 0)
となる.ここで,x1 = − d
2a,y1 = − e
2c,p =
d2
4a+
e2
4c− f と置けば
a(x− x1)2 − (−c)(y − y1)
2 = p (a > 0, −c > 0)
と整理され,p の符号によりつぎのように分類される.
88
p > 0 ⇒ (x− x1)2
α2− (y − y1)
2
β2= 1 (x 軸方向に開いた双曲線)(
α =√
p/a, β =√
−p/c)
p = 0 ⇒ (x− x1)2
α2− (y − y1)
2
β2= 0 (交差する 2 直線)(
α =√
1/a, β =√
−1/c)
p < 0 ⇒ (y − y1)2
β2− (x− x1)
2
α2= 1 (y 軸方向に開いた双曲線)(
α =√
−p/a, β =√
p/c)
(6.16)
≪放物線 (P) 型の 2 次方程式が表す図形≫ 一般の放物線型を考えよう.(6.11)
で a > 0,c = 0 としてよい.a > 0 を利用すれば (6.11) は
a
(x+
d
2a
)2
+ ey =d2
4a− f (a > 0)
と平方完成される.ここで,x1 = − d
2a,p =
d2
4a− f と置けば
a(x− x1)2 + ey = p (a > 0)
と整理され,e が 0 であるか否かと p の符号によりつぎのように分類される.
e = 0, p > 0 ⇒ (x− x1)2
α2= 1 (平行な 2 直線)(
α =√
p/a)
e = 0, p = 0 ⇒ (x− x1)2
α2= 0 (1 直線)(
α =√
1/a)
e = 0, p < 0 ⇒ (x− x1)2
α2= −1 (空集合)(
α =√
−p/a)
e = 0 ⇒ y =p
e− a
e(x− x1)
2 (放物線)
(6.17)
以上に示したように,交差項 xy の係数が 0 である 2 次方程式は,必要ならば両辺に −1 を掛けたり,変数 x と y を交換したりし,適切な平方完成をすれば,標準形 と呼ばれる (6.15),(6.16),(6.17) のいずれかに変形できる.
89
�
�課題6-8(TAチェック) つぎの 2 次方程式を標準形に変形し,どのよう
な 2 次曲線を表すか判定せよ.
(1) 9− x2 − 4y2 + 4x+ 24y = 0 (2) 28− x2 + 4y2 + 4x+ 24y = 0
(3) x− 4y2 + 24y − 31 = 0 (4) 13− 4y2 − 24y = 0
�
�まとめ: 交差項の係数が 0 である 2 次方程式が表す図形� �
交差項 xy の係数が 0 である 2 次方程式 ax2 + cy2 + dx + ey + f = 0(|a|+ |c| > 0)が表す図形はつぎの通りである.
(E) ac > 0 ならば,楕円,1 点,または,空集合
(H) ac < 0 ならば,双曲線,または,交差する 2 直線
(P) ac = 0 ならば,放物線,平行な 2 直線,1 直線,または,空集合� �6.7 一般の 2 次方程式が表す曲線
≪一般の 2 次方程式が表す曲線≫ x,y の 2 次方程式 (6.10) は 2 次の実対称
行列 A =
(a bb c
),1× 2 実行列 B =
(d e
),実数 f を用いて
(x y
)A
(xy
)+B
(xy
)+ f = 0 (6.18)
の形に書くことができる.また,Aは回転を表す行列 P =
(p −qq p
)(p = cos θ,
q = sin θ) によって
tPAP =
(λ1 00 λ2
), λ1, λ2 : Aの固有値
と対角化されることを学んだ.そこで,(6.10) ≡ (6.18) の x,y に変数変換(xy
)= P
(uv
)(6.19)
を施すと,(6.10) ≡ (6.18) は
(6.18) ⇔(u v
)tPAP
(uv
)+BP
(uv
)+ f = 0
⇔(u v
)(λ1 00 λ2
)(uv
)+BP
(uv
)+ f = 0
90
を経て,交差項 uv の係数が 0 である u,v の 2 次方程式
λ1u2 + λ2v
2 + (dp+ eq)u+ (−dq + ep)v + f = 0 (6.20)
に変換される.直交行列は合同変換を表すから,u,v の 2 次方程式 (6.20) が表す 2 次曲線は x,y の 2 次方程式 (6.10) ≡ (6.18) が表す 2 次曲線と合同である.実際,直交行列 P を原点のまわりの θ だけの回転を表す行列として選んだから,(6.20) が定める uv 平面上の図形を原点のまわりの θ だけの回転したものが (6.10) ≡ (6.18) によって定まる xy 平面上の図形となる.
�
�まとめ: 2 次方程式が表す図形� �
実対称行列(a bb c
)(|a|+ |b|+ |c| > 0)の固有値を λ1,λ2 とする.2 次
方程式 ax2 +2bxy+ cy2 + dx+ ey+ f = 0 が表す図形はつぎの通りである.
(E) λ1λ2 > 0 ならば,楕円,1 点,または,空集合
(H) λ1λ2 < 0 ならば,双曲線,または,交差する 2 直線
(P) λ1λ2 = 0 ならば,放物線,平行な 2 直線,1 直線,または,空集合� �≪楕円とその仲間たち≫ 楕円とその仲間たちを表す 2 次方程式の例を提供しよう.
例題6-2 つぎの 2 次方程式を標準形に変形し,どのような 2 次曲線を表
すか判定せよ.
(1) 2x2 + 2√3xy + 4y2 − (5 +
√3)x+ (1− 5
√3)y − 9 = 0
(2) 2x2 + 2√3xy + 4y2 − (5 +
√3)x+ (1− 5
√3)y + 6 = 0
(3) 2x2 + 2√3xy + 4y2 − (5 +
√3)x+ (1− 5
√3)y + 11 = 0
(解答例)A =
(2
√3
√3 4
),B =
(−(5 +
√3) 1− 5
√3)と置けば,どの方
程式も
(x y
)A
(xy
)+B
(xy
)+ f = 0
と表現される.(1) なら f = −9,(2) なら f = 6,(3) なら f = 11 であ
91
る. 例題6-1 (1) によれば A は原点のまわりでの π/3 回転を表す行列 P =
1
2
(1 −
√3
√3 1
)によって tPAP =
(5 00 1
)と対角化される.
変数変換(xy
)= P
(uv
)を施せば,
BP =(−(5 +
√3) 1− 5
√3) 12
(1 −
√3
√3 1
)=(−10 2
)であるから,変換後の 2 次方程式は
5u2 + v2 − 10u+ 2v + f = 0 ⇔ 5(u− 1)2 + (v + 1)2 = 6− f (6.21)
となる.したがって,(1)は楕円を,(2)は 1点(
1−1
)を,(3)は空集合を表す.
f = −9 のときの (6.21)
(u− 1)2 +(v + 1)2
5= 3
が表す楕円を Figure 6.3 左側に示す.これを原点のまわりで π/3 回転したものが (1) で定まる xy 平面上の楕円(Figure 6.3 右側)である.
π/3 回転O
u
v
O
y
x
Figure 6.3: (1) が定める楕円:左は uv 平面上,右は xy 平面上
�
�課題6-9 つぎの 2 次方程式を標準形に変形し,どのような 2 次曲線を表
すか判定せよ(課題6-3参照のこと).
(1) 7x2 − 6√3xy + 13y2 + 4
√3x+ 4y − 12 = 0
(2) 7x2 − 6√3xy + 13y2 + 4
√3x+ 4y + 4 = 0
(3) 7x2 − 6√3xy + 13y2 + 4
√3x+ 4y + 5 = 0
92
≪双曲線とその仲間たち≫ 双曲線とその仲間たちを表す 2 次方程式の例を提供しよう.
例題6-3 つぎの 2 次方程式を標準形に変形し,どのような 2 次曲線を表
すか判定せよ.
(1) 4xy + 3y2 +4√5x+
18√5y + 1 = 0
(2) 4xy + 3y2 +4√5x+
18√5y + 3 = 0
(3) 4xy + 3y2 +4√5x+
18√5y + 5 = 0
(解答例)A =
(0 2
2 3
),B =
(4√5
18√5
)と置けば,どの方程式も
(x y
)A
(xy
)+B
(xy
)+ f = 0
と表現される.(1) なら f = 1,(2) なら f = 3,(3) なら f = 5 である. 例
題6-1 (2) によれば A は原点のまわりでの回転行列 P =1√5
(1 −2
2 1
)=(
cosα − sinα
sinα cosα
)によって tPAP =
(4 00 −1
)と対角化される.ここに α は
cosα =1√5,sinα =
2√5を満たす角度である.
変数変換(xy
)= P
(uv
)を施せば,
BP =
(4√5
18√5
)1√5
(1 −2
2 1
)=(8 2
)であるから,変換後の 2 次方程式は
4u2 − v2 + 8u+ 2v + f = 0 ⇔ 4(u+ 1)2 − (v − 1)2 = 3− f (6.22)
となる.したがって,(1),(3) は双曲線を,(2) は交差する 2 直線を表す.
f = 1 のときの (6.22) は (u+ 1)2 − (v − 1)2
4=
1
2となるが,これが表す双
曲線を Figure 6.4 左側に示す.これを原点のまわりで α 回転したものが (1) で定まる xy 平面上の双曲線(Figure 6.4 右側)である.
f = 3 のときの (6.22) は (u+ 1)2 − (v − 1)2
4= 0 となるが,これが表す交
差する 2 直線を Figure 6.5 左側に示す.これを原点のまわりで α 回転したものが (2) で定まる xy 平面上の交差する 2 直線(Figure 6.5 右側)である.
93
f = 5 のときの (6.22) は(v − 1)2
4− (u+ 1)2 =
1
2となるが,これが表す双
曲線を Figure 6.6 左側に示す.これを原点のまわりで α 回転したものが (3) で定まる xy 平面上の双曲線(Figure 6.6 右側)である.
α 回転
O Ou
v y
x1cos
5
α =
2sin
5
α =
Figure 6.4: (1) が定める双曲線:左は uv 平面上,右は xy 平面上
α 回転
O Ou
v y
x1cos
5
α =
2sin
5
α =
Figure 6.5: (2) が定める交差する 2 直線:左は uv 平面上,右は xy 平面上
α 回転
O Ou
v y
x1cos
5
α =
2sin
5
α =
Figure 6.6: (3) が定める双曲線:左は uv 平面上,右は xy 平面上
�
�課題6-10 つぎの 2 次方程式を標準形に変形し,どのような 2 次曲線を
表すか判定せよ(課題6-4参照のこと).
(1) 2xy + 4√2x+ 2
√2y + 7 = 0 (2) 2xy + 4
√2x+ 2
√2y + 8 = 0
(3) 2xy + 4√2x+ 2
√2y + 9 = 0
94
≪放物線とその仲間たち≫ 放物線とその仲間たちを表す 2 次方程式の例を提供しよう.
例題6-4 つぎの 2 次方程式を標準形に変形し,どのような 2 次曲線を表
すか判定せよ.
(1) x2 + y2 − 2xy + 2√2x− 2
√2y = 0
(2) x2 + y2 − 2xy + 2√2x− 2
√2y + 2 = 0
(3) x2 + y2 − 2xy + 2√2x− 2
√2y + 4 = 0
(4) x2 + y2 − 2xy +√2x− 3
√2y − 4 = 0
(解答例)A =
(1 −1−1 1
),B =
(2√2 −2
√2)と置けば,(1),(2),(3) は
(x y
)A
(xy
)+B
(xy
)+ f = 0
と表現される.(1)なら f = 0,(2)なら f = 2,(3)なら f = 4である. 例題6-
1 (3)によれば Aは原点のまわりでの −π/4回転を表す行列 P =1√2
(1 1−1 1
)
によって tPAP =
(2 00 0
)と対角化される.
変数変換(xy
)= P
(uv
)を施せば,
BP =(2√2 −2
√2) 1√
2
(1 1−1 1
)=(4 0
)であるから,変換後の 2 次方程式は
2u2 + 4u+ f = 0 ⇔ 2(u+ 1)2 = 2− f
⇔ (u+ 1)2 = 1− f/2(6.23)
となる.したがって,(6.23) は,f = 0 のときは平行な 2 直線 u = −2,u = 0,f = 2 のときは 1 直線 u = −1,f = 4 のときは空集合を表す.
(1),(2),(3) の場合と同じ 2 次実対称行列 A を用い,B =(√
2 −3√2),
f = −4 と置けば (4) も
(x y
)A
(xy
)+B
(xy
)+ f = 0
95
と表現される.変数変換(xy
)= P
(uv
)を施せば,
BP =(√
2 −3√2) 1√
2
(1 1−1 1
)=(4 −2
)であるから,変換後の 2 次方程式は
2u2 + 4u− 2v − 4 = 0 ⇔ 2(u+ 1)2 − 2v = 6
⇔ (u+ 1)2 − v = 3(6.24)
となる.したがって,(4) は放物線を表す.この放物線を Figure 6.7 左側に示す.これを原点のまわりで −π/4 回転したものが (4) で定まる xy 平面上の放物線(Figure 6.7 右側)である.
O u
v
O
y
x
/ 4 π−
Figure 6.7: (4) が定める放物線:左は uv 平面上,右は xy 平面上
�
�課題6-11 つぎの 2 次方程式を標準形に変形し,どのような 2 次曲線を
表すか判定せよ(課題6-5参照のこと).
(1) x2 + 4xy + 4y2 − 2√5x+
√5y = 0 (2) x2 + 4xy + 4y2 − 5 = 0
(3) x2 + 4xy + 4y2 = 0 (4) x2 + 4xy + 4y2 + 5 = 0
96
7 空間 3 次元の線形変換と固有値問題
第 3 章では,平面から平面への線形変換を表すものとして 2 次正方行列を位置づけ,変換による図形の拡大率という視点から行列式を導入した.さらに,第 5 章では 2 次正方行列の固有値問題を学修した. この章では,空間 3 次元の線形変換を表す 3 次正方行列の行列式を体積拡大率を表すものとして理解し,さらに,3 次正方行列の固有値および固有ベクトルの計算法を身に付ける.
7.1 立方体はどんな図形に移されるか
空間 3 次元の線形変換 x′ = axx+ bxy + cxz
y′ = ayx+ byy + cyz
z′ = azx+ bzy + czz
(7.1)
(ax,bx,cx,ay,by,cy,az,bz,cz は実の定数)は 3 次正方行列
A =
ax bx cx
ay by cy
az bz cz
=(a b c
), a =
ax
ay
az
, b =
bx
by
bz
, c =
cx
cy
cz
(7.2)
によって x′
y′
z′
= A
xyz
(7.3)
と表される.この線形変換によって e1 =
100
,e2 =
010
,e3 =
001
は,それぞれ,a,b,c に移される.したがって,立方体 (0, 1) × (0, 1) × (0, 1) =
{(x, y, z) : 0 ≤ x ≤ 1, 0 ≤ y ≤ 1, 0 ≤ z ≤ 1} は
( )A= a b c
OO 1e
3e
2e
a
b
c
Figure 7.1: 空間 3 次元の線形変換
• rankA = 3(a,b,c が線形独立)ならば平行六面体(Figure 7.1)に移され,
97
• rankA = 2(a,b,c のうちの 2 つだけが線形独立)ならば平面図形に移され,
• rankA = 1(a,b,cのうちの 1つだけが線形独立)ならば線分に移され,
• rankA = 0(a,b,c がすべて零ベクトル)ならば一点(原点)に移される.
7.2 体積拡大率・スカラー三重積・3 次正方行列の行列式
≪復習:面積拡大率≫ 平面上の線形変換の場合,行列(ax bxay by
)によって表さ
れる線形変換の面積拡大率はその行列式∣∣∣∣ax bxay by
∣∣∣∣ = axby − bxay (7.4)
の絶対値であった(Figure 7.2).
x x
y y
a b
a b
Figure 7.2: たすき掛けによる 2 次正方行列の行列式の計算
≪平行六面体の体積とスカラー三重積≫ (7.2) の行列 A =(a b c
)のランク
が 3 の場合を最初に考える.この時,A =(a b c
)が表す線形変換によって,
立方体 (0, 1)× (0, 1)× (0, 1) はa,b,c を辺とする平行六面体に移されるから,この平行六面体の体積 V が体積拡大率である.
a
b
c
θ
α
×b c
O
A
B
CD
Figure 7.3: 平行六面体の体積
b,c を辺とする平行四辺形 OBDC の面積 S は
S = |b| |c| sin θ = |b× c|
98
である.ここに θ は b と c がなす角,b × c は b と c の外積である.a がb × c となす角を α (0 ≤ α ≤ π),a が平行四辺形 OBDC となす角を α′
(0 ≤ α′ ≤ π
2)とする.すると,α =
π
2− α′ または α =
π
2+ α′ であるが,いず
れにしても,sinα′ = | cosα| である.以上より,a,b,c を辺とする平行六面体の体積 V は
V = S |a| sinα′ = |a| |b× c| | cosα| = |(a, b× c)|
となる.ここに現れる (a, b× c) はベクトル a,b,c の スカラー三重積 と呼ばれる.つぎに (7.2) の行列 A =
(a b c
)のランクが 3 より小さい場合を考えよ
う.この時,A が表す線形変換によって,立方体 (0, 1)× (0, 1)× (0, 1) は平面図形か,線分か一点に移されるので,いずれにしても,体積拡大率は 0 である.一方,a,b,c は線形独立ではないので,このうちの 1 つは他の 2 つの線形結合で表される.この場合,外積とスカラー三重積の関する性質
y × x = −(x× y), x× x = 0, (x, x× y) = 0
を利用すれば,いずれの場合についても (a, b × c) = 0 であることが分かる.実際,a = pb+ qc (p,q:実数)ならば
(a, b× c) = (pb+ qc, b× c) = p(b, b× c) + q(c, b× c)
= p(b, b× c)− q(c, c× b) = 0 + 0 = 0
である.また,b = pa+ qc (p,q:実数)ならば
(a, b× c) = (a, (pa+ qc)× c) = p(a, a× c) + q(a, c× c) = 0
である.以上より,行列 A =
(a b c
)が表す線形変換の体積拡大率はスカラー三
重積 (a, b× c) の絶対値であることが示された.
≪ 3 次正方行列の行列式≫ 本書では A =(a b c
)の行列式をスカラー三重積
(a, b× c) によって定義し,
detA, det(a b c
),
∣∣a b c∣∣ ,
∣∣∣∣∣∣∣ax bx cx
ay by cy
az bz cz
∣∣∣∣∣∣∣のように表記する.外積は b × c =
bycz − bzcy
bzcx − bxcz
bxcy − bycx
のように成分表示される.したがって, A =
(a b c
)の行列式は
detA =
∣∣∣∣∣∣∣ax bx cx
ay by cy
az bz cz
∣∣∣∣∣∣∣ = (a, b× c)
= ax(bycz − bzcy) + ay(bzcx − bxcz) + az(bxcy − bycx)
(7.5)
99
となる.(7.5) は種々の形に書きなおすことができるが,∣∣∣∣∣∣∣ax bx cx
ay by cy
az bz cz
∣∣∣∣∣∣∣ = ax
∣∣∣∣by cybz cz
∣∣∣∣− ay
∣∣∣∣bx cxbz cz
∣∣∣∣+ az
∣∣∣∣bx cxby cy
∣∣∣∣ (7.6)
は余因子展開による行列式の計算に対応する.
7.3 行列式の計算方法
≪行基本変形や列基本変形と行列式≫ つぎのような行列式の基本的な性質をあらかじめ知っておくと計算が簡単になる.
(r1) ある行を p 倍すると,もとの行列式の p 倍になる
(r2) ある行に別の行の何倍かを加えても,行列式は変わらない
(r3) 2 つの行を入れ替えると,もとの行列式の符号を変えたものになる
(rc) 転置行列の行列式はもとの行列式に等しい
上の性質 (r1) ∼ (r3) と (rc) から
(c1) ある列を p 倍すると,もとの行列式の p 倍になる
(c2) ある列に別の列の何倍かを加えても,行列式は変わらない
(c3) 2 つの列を入れ替えると,もとの行列式の符号を変えたものになる
という性質もあることが分かる.本書では,上の性質と (7.6),(7.4) を利用して行列式を計算する.
例題7-1 つぎの行列式の値を求めよ.
(1)
∣∣∣∣∣∣5 15 101 4 1−3 1 2
∣∣∣∣∣∣ (2)
∣∣∣∣∣∣a2 a 1a 1 a2
1 a2 a
∣∣∣∣∣∣ (3)
∣∣∣∣∣∣5 1 023 −47 23 1 0
∣∣∣∣∣∣(解答例)
(1)
∣∣∣∣∣∣5 15 101 4 1−3 1 2
∣∣∣∣∣∣ =∣∣∣∣∣∣5 · 1 5 · 3 5 · 21 4 1−3 1 2
∣∣∣∣∣∣ (r1)=== 5
∣∣∣∣∣∣1 3 21 4 1−3 1 2
∣∣∣∣∣∣(2)−(1)
=======(3)+3×(1)
5
∣∣∣∣∣∣1 3 20 1 −10 10 8
∣∣∣∣∣∣ (7.6)==== 5
∣∣∣∣ 1 −110 8
∣∣∣∣ (7.4)==== 5(8 + 10) = 90
100
(2)
∣∣∣∣∣∣a2 a 1a 1 a2
1 a2 a
∣∣∣∣∣∣ (1)−a2×(3)========(2)−a×(3)
∣∣∣∣∣∣0 a− a4 1− a3
0 1− a3 a2 − a2
1 a2 a
∣∣∣∣∣∣ (7.6)====
∣∣∣∣a− a4 1− a3
1− a3 0
∣∣∣∣(7.4)==== −(1− a3)2
(3)
∣∣∣∣∣∣5 1 023 −47 23 1 0
∣∣∣∣∣∣ (c3)=== −
∣∣∣∣∣∣0 1 52 −47 230 1 3
∣∣∣∣∣∣ (7.6)==== 2
∣∣∣∣1 51 3
∣∣∣∣ (7.4)==== 2(3− 5) = −4
�
�課題7-1 つぎの行列式の値を求めよ.
(1)
∣∣∣∣∣∣91 92 9394 95 9697 98 99
∣∣∣∣∣∣ (2)
∣∣∣∣∣∣2 1 23 0 12 1 3
∣∣∣∣∣∣ (3)
∣∣∣∣∣∣1 a a2
1 b b2
1 c c2
∣∣∣∣∣∣
7.4 3 次正方行列の固有値と固有ベクトル
≪ 3 次正方行列の固有値≫ A を 3 次正方行列とする.第 5 章で一般的に定義したように
Av = λv, v = 0 (7.7)
を満たす数 λを Aの固有値,零ベクトルではない 3次元ベクトル v を λに対応する Aの固有ベクトルという.第 5章で解説したように rank(A−λI) < 3のときに限り λは Aの固有値となる.条件 rank(A−λI) < 3は条件 det(A−λI) = 0
と同値である.したがって,A =
ax bx cx
ay by cy
az bz cz
の固有値 λ は固有方程式
∣∣∣∣∣∣∣ax − λ bx cx
ay by − λ cy
az bz cz − λ
∣∣∣∣∣∣∣ = 0 (7.8)
の解である.(7.8) は λ に関する 3 次の多項式である.固有値 λ が決定したら,連立 1 次方程式
(A− λI)v = 0 (7.9)
を行基本変形によって解いて,固有ベクトル v = 0 が得られる.ただし,(7.9)
の定数項はすべて 0 であるから,拡大係数行列ではなく係数行列に行基本変形を施せばよい.
101
例題7-2 つぎの行列の固有値と固有ベクトルを求めよ.
A =
−1 2 7
0 0 2
1 −2 1
(解答例)det(A− λI) は∣∣∣∣∣∣∣
−1− λ 2 7
0 −λ 2
1 −2 1− λ
∣∣∣∣∣∣∣(1)+(1+λ)×(3)==========
∣∣∣∣∣∣∣0 2− 2(1 + λ) 7 + (1− λ)(1 + λ)
0 −λ 2
1 −2 1− λ
∣∣∣∣∣∣∣(7.6)====
∣∣∣∣∣−2λ 8− λ2
−λ 2
∣∣∣∣∣ (c1)=== −λ
∣∣∣∣∣2 8− λ2
1 2
∣∣∣∣∣ (7.4)==== −λ(4− (8− λ2))
= −λ(λ2 − 4) = −λ(λ− 2)(λ+ 2)
と整理される.したがって,固有値は λ1 = 2,λ2 = 0,λ3 = −2 である.λ1 = 2 に対応する固有ベクトル v1 は,行基本変形
A− λ1I =
−3 2 7
0 −2 2
1 −2 −1
(1)⇐⇒(3)−−−−−→
1 −2 −1
0 −2 2
−3 2 7
(3)+3×(1)−−−−−−→(2)/(−2)
1 −2 −1
0 1 −1
0 −4 4
(3)+4×(2)−−−−−−→(1)+2×(2)
1 0 −3
0 1 −1
0 0 0
から v1 = t
311
(∀t = 0)である.
λ2 = 0 に対応する固有ベクトル v2 は,行基本変形
A− λ2I =
−1 2 7
0 0 2
1 −2 1
(2)/2−−−−−→(1)⇐⇒(3)
1 −2 1
0 0 1
−1 2 7
(3)+(1)−−−−→
1 −2 1
0 0 1
0 0 8
(1)−(2)−−−−−−→
(3)−8×(2)
1 −2 0
0 0 1
0 0 0
から v2 = t
210
(∀t = 0)である.
102
λ3 = −2 に対応する固有ベクトル v3 は,行基本変形
A− λ3I =
1 2 7
0 2 2
1 −2 3
(3)−(1)−−−−→(2)/2
1 2 7
0 1 1
0 −4 −4
(3)+4×(2)−−−−−−→(1)−2×(2)
1 0 5
0 1 1
0 0 0
から v3 = t
51−1
(∀t = 0)である.
例題7-3 つぎの行列の固有値と固有ベクトルを求めよ.
A =
1 1 −1
0 1 0
0 0 1
(解答例)det(A− λI) は∣∣∣∣∣∣∣
1− λ 1 −1
0 1− λ 0
0 0 1− λ
∣∣∣∣∣∣∣(7.6)==== (1− λ)
∣∣∣∣∣1− λ 0
0 1− λ
∣∣∣∣∣ (7.4)==== −(λ− 1)3
と整理される.したがって,固有値は λ = 1(三重解)である.λ = 1 に対応する固有ベクトル v は,
A− λI =
0 1 −1
0 0 0
0 0 0
であるから v =
stt
(∀(s, t) = (0, 0))である.
�
�課題7-2 つぎの行列の固有値と固有ベクトルを求めよ.
A =
−2 0 −12 1 −2−5 0 2
�
�課題7-3 つぎの行列の固有値と固有ベクトルを求めよ.
A =
2 1 1−2 0 03 1 0
103
�
�課題7-4(TAチェック つぎの行列の固有値と固有ベクトルを求めよ.
A =
0 −4 −10 2 01 1 2
B =
2 0 0−1 1 01 0 1
�
�課題7-5(TAチェック つぎの行列の固有値と固有ベクトルを求めよ.
A =
1 0 20 0 10 −1 2
B =
1 1 00 1 00 −1 1
C =
1 0 00 1 00 0 1
104