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財政学12租税(6)消費税(付加価値税)(2201671日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授) 1

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Page 1: 1 第12回 租税(6)消費税(付加価値税)(2 2016 …財政学 Ⅰ 第 12 回 租税(6)消費税(付加価値税)(2) 2016 年 7月1日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

財政学Ⅰ 第12回 租税(6)消費税(付加価値税)(2) 2016年7月1日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

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Page 2: 1 第12回 租税(6)消費税(付加価値税)(2 2016 …財政学 Ⅰ 第 12 回 租税(6)消費税(付加価値税)(2) 2016 年 7月1日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

日本の消費税(1) 2014年度決算における消費税の収入額は16.0兆円で、税収に占める割合は30.3%、一般会計の歳入総額に占める割合は15.3%。 税収としては所得税(16.8兆円)に次ぎ、法人税(11.0兆円)を大きく上回る規模。

税率は8%で、そのうち1.7%が地方税分(地方消費税)。 さらに、6.3%の国税分のうち1.4%が地方交付税分となるため、税率8%のうち3.1%が地方分となる。

創設当初(1989年4月)の税率は3%で、その際には地方税分はなし。1997年4月に5%に引き上げられた際に、そのうち1%が地方税分となる。現在の税率は2014年4月から。

課税対象は原則として、国内におけるすべての財・サービスの取引(国内取引)と、外国貨物の取引(輸入取引)(スライド3)。 国内取引でも課税されない取引が一部にある(非課税取引)。

輸入品には課税されるが、輸出品には課税されない(輸出免税取引)。

原産地原則に対する仕向地原則(後述)。

納税義務者は個人事業者および法人。

前段階からの仕入額として、機械等の資本財の購入額も控除することを認める消費型付加価値税。 政府支出と外国貿易を捨象した場合に、 GDP = C + I ⇔ C = GDP -I であることからこのように呼ばれる。世界で最も普及しているタイプの付加価値税。

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日本の消費税(2) 3

輸入取引

課税取引(課税貨物の引取り)

非課税取引 例:有価証券の輸入

国外において行う取引(不課税取引)

出所:江島一彦編著『図説日本の税制 平成27年度版』財経詳報社、193ページ。

日本の消費税の課税対象

国内取引

資産の譲渡等及び特

定仕入れ

課税取引

輸出免税取引

非課税取引 例:土地の譲渡、貸付け

資産の譲渡等及び特定仕入れに該当しない取引(不課税取引)

例:寄附金、配当

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日本の消費税(3) 日本の消費税では、前段階の(仕入れに係わる)税額控除はインボイスを用いずに、帳簿上で行われる。

EUの付加価値税ではインボイスに税額が明記されているので、正確な前段階税額控除が可能。

単一税率の下では、インボイスがなくても前段階の税額の計算に支障はないが、複数税率の下では、インボイスがなければ正確な計算は困難。

前段階の税額の計算をより正確に行うために、帳簿とともに取引の相手方が発行した請求書等を保存することを1997年の改正で義務付ける(請求書等保存方式)。

2021年に「適格請求書」の名称でインボイスを導入予定。

小規模事業者に対する特例措置 前々年(事業年度)または前年(事業年度)の上半期の課税売上高が1,000万円以下の事業者は、納税義務を免除(免税点制度)。

課税売上高が5,000万円以下の事業者は簡易課税制度を利用可能。

売上げにかかわる消費税額に「みなし仕入率」(スライド6)を掛け合わせた額を、前段階の税額として控除できる制度。

しかし、みなし仕入率が売上額に対する実際の仕入額の比率を上回る場合、実際よりも多くの税額を控除できるため、納税額が少なく済んでしまい、その分が事業者の利益となる(益税)。

毎年度の予算総則において、国の消費税収のうち地方交付税交付金に充てる部分以外は、基礎年金、高齢者医療、介護、子供・子育て支援の社会保障四経費に充てることを明記(福祉目的化、スライド6)。

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日本の消費税(5) 5

業種 みなし仕入率第1種事業(卸売業) 90%

第2種事業(小売業) 80%第3種事業(製造業等) 70%第4種事業(その他) 60%第5種事業(サービス業等) 50%第6種事業(不動産業) 40%

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日本の消費税(6) 6

消費税の使途

出所:財務省ホームページ(http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/122.htm)

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世界の付加価値税(1)

付加価値税が世界で初めて導入されたのは1954年のフランス。その後、1960年代にEC諸国で域内取引を円滑にするため、相次いで導入される。 EC委員会が加盟国に対して付加価値税の導入を指令するとともに、付加価値税の導入をECへの加盟条件とした。

その後、アジア、アフリカでも付加価値税を導入する国が広がる。 しかし、アメリカは州税として小売売上税が存在するため、現在に至るまで導入せず。

現在のEUでは、各国間で付加価値税の統一を図るため、遵守すべき基準を設定。 標準税率は15%以上。

ゼロ税率および割増税率は否定。

軽減税率は5%以上で2本以下。

軽減税率を実施する場合、一般に生活必需品が対象となるが、具体的に何を対象とするのかを決めるのは非常に困難(スライド10)。 例:ハンバーガーを店内で食べる場合は「外食」となり、標準税率が適用されるが、持ち帰りの場合は「食料」となり、軽減税率が適用される。

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世界の付加価値税(2) 8

付加価値税率(標準税率)の国際比較

出所:財務省ホームページ(http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/102.htm)

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世界の付加価値税(3) 9

日本 イギリス ドイツ フランス

8%(地方消費税を含む)

書籍、食料品等…5.5%

割増税率

なし なし なし なし

出所:江島一彦編著『図説日本の税制 平成27年度版』財経詳報社、313ページ。

軽減税率

なし 家庭用燃料および電力等…5%

食料品、水道水、新聞、雑誌、書籍、旅客輸送、宿泊施設の利用等…7%

旅客輸送、肥料、宿泊施設の利用、外食サービス等…10%

新聞、雑誌、医薬品等…2.1%

税率

標準税率

20% 19% 20%

ゼロ税率

なし 食料品、水道水、新聞、雑誌、書籍、国内旅客輸送、医薬品、住宅の建築、障害者用機器等

なし なし

付加価値税における非課税、税率構造の国際比較(2015年1月現在)

非課税

土地の譲渡・賃貸、住宅の賃貸、金融・保険、医療、教育、福祉等

土地の譲渡・賃貸、建物の譲渡・賃貸、金融・保険、医療、教育、郵便、福祉等

不動産取引、不動産賃貸、金融・保険、医療、教育、郵便等

不動産取引、不動産賃貸、金融・保険、医療、教育、郵便等

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世界の付加価値税(4) 10

ドイツ イギリス

19% 17.5%標準税率(19%) ゼロ税率

軽減税率(7%)が適用される品目を限定列挙 標準税率(17.5%)が適用される品目を限定列挙

・一定の生きた動物(家畜用の牛、豚等)

・牛乳及び乳製品、卵等並びに天然はちみつ・飼牛や飼鶏の胃腸等・生鮮の植物及び根菜 ・アルコール飲料・果実、野菜(果汁及び野菜汁を除く)・コーヒー、茶、マテ茶及び香辛料・穀物、澱粉、パン及び果実粉等 ・ポテトチップス等のスナック菓子類

・ペットフード・自家醸造のための原材料品

・砂糖及び砂糖製品・ココア含有の調整食料品・食塩(水溶液にしたものを除く)・食酢 ・冷凍された状態では消費に適さないヨーグルト・牛乳を75%以上含む乳飲料等 ・干したさくらんぼ

・砂糖づけの果皮・茶、マテ茶、ハーブ茶等及びこれらの加工品・牛乳及びその加工品・「食肉、酵母及び卵」の加工品

出所:石弘光『消費税の政治経済学―税制と政治のはざまで』71ページ。

食料品に対する付加価値税の課税状況(2008年1月現在)

・宅配による飲食物の提供、建物内における飲食物の提供及び温かい持ち帰り用食品の提供・肉類、魚類(観賞用魚を除く)、甲殻類(イセエビ及

びロブスターを除く)及び軟体動物(牡蠣及びエスカルゴを除く)

・アイスクリーム、フローズンヨーグルト等の冷凍菓子類・菓子類(ケーキ及びチョコレートでコーティングされていないビスケットを除く)

・その他の飲料(フルーツジュース及び瓶詰め水を含む)及びシロップ類

・動物性又は植物性の食用油脂で加工されているラード及びマーガリン等

(注)上記標準税率適用品目から除外される品目(ゼロ税率適用品目)

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外国貿易と付加価値税(1) 国境を越えて財の取引が行われる場合に、付加価値税をどのように課すか。

仕向地原則:財の最終消費地に税収が帰属する。輸出非課税、輸入課税。

原産地原則:財の原産地に税収が帰属する。輸出課税、輸入非課税。

仕向地原則の例(スライド12) A国の製造業者は卸売業者に価格50の財を販売し、代金50および税額5(50×10%)を受け取って税務署に納税する。

A国の卸売業者は価格50の財に付加価値50を上乗せし、価格100でB国に輸出。輸出は非課税なので、納税額は前段階の製造業者に支払った税額5を差し引いて0-5=-5となり、その分が税務署から還付される。

以上より、A国の税収は差し引き0となる。

輸入された財には税関でB国の税率が適用され、輸入した小売業者は税額5(100×5%)を税関に納付する。

B国の小売業者は価格100の財に付加価値200を上乗せして販売し、代金300と税額15(300×5%)を消費者から受け取る。そして税額15から、税関に納付した税額5を差し引いた10を税務署に納税。

以上より、B国の税収は15となり、消費者の税負担額と一致。また、消費地と税収の帰属地はB国で一致。

仕向地原則では、国産品も輸入品も、価格が同じであれば税額も同じになる。そのため、各国間で税率を統一する必要がない。 原産地原則では、たとえ価格が同じでも各国間で税率が異なれば、国産品と輸入品の税額は異なる。

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外国貿易と付加価値税(2) 12

出所:持田信樹『財政学』188ページに一部修正。

税収0 税収15

消費者はB国の消費税のみを負担(消費地と税収の帰属地が一致)

国境

A国 A国 B国 B国 外国貨物の引取り

に係る消費税額を

控除税務署 税務署 税関 税務署

還付 納税 納税5 5(0-5) 5 10(15-5)

(A国)税率10% (B国)税率5%

輸出免税 輸入課税

A事業者 A'事業者 B事業者消費者

(製造) (卸売) (小売)

50+税5 100 300+税15税負担15

納税