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財政学11租税(5)消費税(付加価値税)(12016624日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授) 1

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Page 1: 財政学 - Takasaki City University of Economics › ... › public_finance_1_2016_resume11.pdf財政学Ⅰ 第11 回 租税(5)消費税(付加価値税)(1) 2016 年 6月24日(金)

財政学Ⅰ 第11回 租税(5)消費税(付加価値税)(1) 2016年6月24日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

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Page 2: 財政学 - Takasaki City University of Economics › ... › public_finance_1_2016_resume11.pdf財政学Ⅰ 第11 回 租税(5)消費税(付加価値税)(1) 2016 年 6月24日(金)

消費税の体系(1) 消費税:消費という租税客体に着目する租税。

租税主体には着目しない。

租税負担が転嫁し、納税者と負担者が異なることが予定されている間接税。

日本の消費税は、正確には付加価値税(value - added tax)。

消費税は大きく関税と内国消費税に分けられ、内国消費税はさらに個別消費税と一般消費税に分けられる(スライド3)。 個別消費税:特定の生産物に課税される。

酒税、たばこ税など

一般消費税:すべての生産物に課税される。

日本の消費税

一般消費税はさらに、単段階課税と多段階課税に分けられる。 単段階課税:製造、卸売、小売のいずれかの段階で課税される。

どの段階で課税されるかによって、製造者売上税、卸売売上税、小売売上税と呼ばれる。

多段階課税:製造、卸売、小売のすべての段階で課税される。

取引高税と付加価値税がこれに該当。

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消費税の体系(2) 3

消費税

内国消費税

関税

個別消費税

一般消費税

多段階課税

単段階課税

取引高税

付加価値税

製造者売上税

卸売売上税

小売売上税

出所:神野直彦『財政学 改訂版』200ページに一部修正。

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消費税の発展(1)

歴史的に、消費税は個別消費税から出発。

消費税には、取引価格を課税標準とする従価税と取引数量を課税標準とする従量税が存在。 取引価格は捉えにくいため、従価税よりも従量税の方が税務執行が容易。

しかし、従量税は課税する生産物ごとに数量の単位を変える必要があるため、必然的に個別消費税にならざるを得ない。

例:たばこ税であれば本数、酒税であればリットル。

税収を確保するために、個別消費税は需要の価格弾力性の低い生産物に課税せざるを得ない。 需要の価格弾力性:価格の変化に対して需要量がどれだけ変化するかを測る指標。高ければ価格の変化に対して需要量は大きく変化し、低ければ小さく変化する。

奢侈品の価格弾力性は高く、生活必需品の価格弾力性は低い。

しかし、生活必需品への課税は人間の基本的な生存にかかわるため、強い租税抵抗をもたらす。そのため、人間の生存には直接かかわらず、なおかつ需要の価格弾力性の低い酒、たばこ、ガソリンなどに課税されることに。

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消費税の発展(2)

従量税で課税される個別消費税は、インフレーションに対応できないという欠点を持つ。 数量を課税標準とするため、価格が上昇しても租税負担額は一定のままであり、実質的な負担はむしろ低下してしまう。

従価税であれば、価格の上昇とともに税収も増加する。また、価格を課税標準とする以上、個別消費税に固執する必要はなく、あらゆる財・サービスに課税することができる。 価格という尺度はすべての財・サービスに共通であるため。

インフレーションが激化した第一次世界大戦末期に一般消費税が登場。 ドイツとフランスで取引高税が導入される。

取引高税は、取引の各段階で課税される多段階課税。しかし、各段階の売上額に次々と課税していくため、租税負担が取引ごとに累積していくという現象(カスケード効果)が発生(スライド8)。 カスケード効果は、製造段階から小売段階までの取引回数を少なくすることによって回避できるため、企業の垂直統合

を促し、それによる独占をもたらすという好ましくない結果を招くことに。

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消費税の発展(3)

取引高税によるカスケード効果を除去するため、ただ一つの取引段階に限って課税する製造者売上税、卸売売上税、小売売上税という単段階課税が導入される。 単段階課税では、登録業者間での取引は非課税とし、登録業者が非登録業者に販売した際に課税する(スライド7)。

製造者売上税では、登録業者である製造業者が非登録業者である卸売業者に販売した際に課税。

しかし、製造業者が卸売業者に一定の製造作業を行わせることによって販売価格を低め、課税標準を小さくして納税額を少なくすることが可能。 そのため製造者売上税は、卸売業者をも登録業者とする卸売売上税に発展せざるを得ない。

さらに同様の理由によって、卸売売上税は小売売上税へ発展。こうしてすべての企業が登録業者となり、小売業者が消費者に販売した際に課税される。 小売売上税の課税標準は製造者売上税や卸売売上税よりも大きく、低い税率で多額の税収を確保することが可能。

しかし、小売段階まで課税が猶予されるため、納税時期が遅れることに。そこで納税時期を早めるために、製造段階や卸売段階でも小売売上税を徴収する分割納付制が導入される(スライド8)。

これは、小売売上税が付加価値税へ発展したことを意味。

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消費税の発展(4) 7

登録業者 (製造業者)

登録業者 (製造業者)

非登録業者 (卸売業者)

非課税 課税

登録業者 (製造業者)

登録業者 (製造業者)

登録業者 (卸売業者)

非登録業者 (小売業者)

非課税 非課税 課税

登録業者 (製造業者)

非課税 非課税 非課税 課税 登録業者

(製造業者) 登録業者

(卸売業者) 登録業者

(小売業者) 消費者

製造者売上税

卸売売上税

小売売上税

出所:神野直彦『財政学 改訂版』204ページに一部修正。

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消費税の発展(5) 8

取引高税 小売売上税 付加価値税Ⅰ 製造 100 10 (100×0.1) 課税猶予  10 (100×0.1-0)Ⅱ 卸売 200 20 (200×0.1) 課税猶予  10 (200×0.1-10)Ⅲ 小売 300 30 (300×0.1) 30  10 (300×0.1-20)税収総額 60 30 30

出所:神野直彦『財政学 改訂版』205ページに一部修正。

取引高税、小売売上税、付加価値税

取引段階 売上額納税額

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付加価値税のしくみ(1)

付加価値税の例(スライド11) 製造業者は卸売業者に、売上額100に税率10%をかけて算出した税額10を請求し、取り立てて納税。

卸売業者は小売業者に、売上額200に税率10%をかけて算出した税額20を請求し、そこから製造業者に支払った税額10を差し引いた残額10を納税。

小売業者は消費者に、売上額300に税率10%をかけて算出した税額30を請求し、そこから卸売業者に支払った税額20を差し引いた残額10を納税。

税収総額は10 + 10 + 10 = 30。その最終的な負担は消費者が負う。

上記の例は、各業者の売上額に税率をかけて算出した金額から、前段階の業者に請求された税額を控除して納税額を算出する、前段階税額控除方式の付加価値税。 前段階の業者が後段階の業者に税を請求する際、インボイス(送り状)を使用することから、インボイス方式とも呼ば

れる。EUの付加価値税で採用されている方式。

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付加価値税のしくみ(2)

前段階税額控除方式に対して、売上額から仕入額を差し引き、それに税率をかけて納税額を算出する付加価値税は、前段階売上高控除方式の付加価値税と呼ばれる(スライド11)。 売上額から仕入額を差し引く作業を帳簿上で行うため、帳簿方式あるいはアカウント方式とも呼ばれる。

日本の消費税で採用されている方式。

売上額をA、仕入額をB、税率をt とすると、納税額は、前段階税額控除方式ではAt-Bt、前段階売上高控除方式では(A-B) t となり、一致する。 しかし、免税や軽減税率が導入されると、両者は異なってくる。

二種類の税率 t および t’ がある場合、税額は前段階税額控除方式ではAt-B t’ となり、前段階売上高控除方式では ( A-B) t’ = At’ -B t’ となる。

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付加価値税のしくみ(3) 11

税請求額(F) 税控除額(G) 納税額(E)(A × D) (前段階税額) (F - G)

Ⅰ 100 0 10% 10 0 10Ⅱ 200 100 10% 20 10 10Ⅲ 300 200 10% 30 20 10

税収総額 30出所:神野直彦『財政学 改訂版』206ページに一部修正。

前段階税額控除方式

取引段階 売上額(A) 仕入額(B) 税率(D)

付加価値(C) 納税額(E)(A - B) (C × D)

Ⅰ 100 0 100 10% 10Ⅱ 200 100 100 10% 10Ⅲ 300 200 100 10% 10

税収総額 30出所:神野直彦『財政学 改訂版』206ページに一部修正。

前段階売上高控除方式

取引段階 売上額(A) 仕入額(B) 税率(D)

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付加価値税のしくみ(4)

中間段階で免税が行われた場合(スライド13) 前段階控除方式:業者Ⅰの納税額に変化はなく、業者Ⅱは納税しない(業者Ⅰに請求された税額を控除することは認められない)。業者Ⅱは納税しないので、業者Ⅲに税額を請求しない。そのため業者Ⅲは、控除額がゼロとなり、30の税額を納税する(300×10%-0=30)。税収総額は免税が行われない場合よりも10増え、40に。 免税業者は前段階の業者から税額を請求されるにもかかわらず、後段階の業者に税額を請求することができないため、実質的な税負担を負う。

前段階売上高控除方式:(A-B) t で税額が算出されるため、業者Ⅰにも業者Ⅲにも納税額に変化はなく、業者Ⅱのみが納税しない。したがって、税収総額は30から20に減少。

前段階税額控除方式での「免税」は、税収総額が増えるために実質的な免税を意味しない。そのため、軽減税率あるいはゼロ税率が用いられる(スライド14)。 軽減税率の場合:業者Ⅱは売上額に軽減税率をかけ、そこから前段階の業者Ⅰに請求された税額を控除した額を納税。

ゼロ税率の場合:業者Ⅱは上記と同様に納税額を算出。マイナスの金額は税務当局から還付される。

いずれの場合も税収総額は30となり、税率が一律10%の場合と変わらない。 後段階の業者に対する税請求額の減少は、その業者の控除額の減少となって相殺されるとともに、マイナスの納税額は還付されるため。

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付加価値税のしくみ(5) 13

税請求額(F) 税控除額(G) 納税額(E)(A × D) (前段階税額) (F - G)

Ⅰ 100 0 10% 10 0 10Ⅱ 200 100 免税 0 10 0Ⅲ 300 200 10% 30 0 30

税収総額 40※控除不可

出所:神野直彦『財政学 改訂版』206ページに一部修正。

取引段階 売上額(A) 仕入額(B) 税率(D)

前段階税額控除方式で業者Ⅱが免税

付加価値(C) 納税額(E)(A - B) (C × D)

Ⅰ 100 0 100 10% 10Ⅱ 200 100 100 免税 0Ⅲ 300 200 100 10% 10

税収総額 20出所:神野直彦『財政学 改訂版』206ページに一部修正。

取引段階 売上額(A) 仕入額(B) 税率(D)

前段階売上高控除方式で業者Ⅱが免税

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付加価値税のしくみ(6) 14

税請求額(F) 税控除額(G) 納税額(E)(A × D) (前段階税額) (F - G)

Ⅰ 100 0 10% 10 0 10Ⅱ 200 100 8% 16 10 6Ⅲ 300 200 10% 30 16 14

税収総額 30出所:神野直彦『財政学 改訂版』206ページに一部修正。

前段階税額控除方式で業者Ⅱに軽減税率

取引段階 売上額(A) 仕入額(B) 税率(D)

税請求額(F) 税控除額(G) 納税額(E)(A × D) (前段階税額) (F - G)

Ⅰ 100 0 10% 10 0 10Ⅱ 200 100 0% 0 10 -10Ⅲ 300 200 10% 30 0 30

税収総額 30※税務当局より還付

出所:神野直彦『財政学 改訂版』206ページに一部修正。

前段階税額控除方式で業者Ⅱにゼロ税率

取引段階 売上額(A) 仕入額(B) 税率(D)