1 第6回 租税(1)租税原則と租税理論...財政学 Ⅰ 第 6 回...

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財政学6租税(1)租税原則と租税理論 2015515日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授) 1

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Page 1: 1 第6回 租税(1)租税原則と租税理論...財政学 Ⅰ 第 6 回 租税(1)租税原則と租税理論 2015 年 5月15日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

財政学Ⅰ 第6回 租税(1)租税原則と租税理論 2015年5月15日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

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租税とは何か

租税:政府(国・地方自治体)が支出に必要な収入を賄うために、市場から強制的に、無償で調達する貨幣。 現代の国家は、土地、労働、資本という生産要素を所有しない無産国家。そのため、政府活動に必要な貨幣を租税として調達しなければならない、租税国家でもある。

近代以前の国家は、生産要素を所有する家産国家であった。

「無償で」の意味:個々の納税者には、反対給付(政府の公共サービス)への請求権がない。

反対給付への請求権は、あくまで国民・住民全体にある(一般報償性原理)。

市場経済における個別報償性原理との違い。

政府の収入源には、租税だけでなく公債もあるが、その発行は租税収入を前提としている。 公債は、将来的には租税収入によって償還することが前提となっている。

すなわち、公債は租税の「先取り」。

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租税の根拠

租税の根拠:政府が市場から租税を強制的に、無償で調達することの正当性について述べる。租税利益説と租税義務説からなる。 租税利益説:国民が国家から受ける利益の対価として租税を正当化。

17~19世紀のイギリスとフランスで唱えられる。

国家は国民の身体と財産の保護を目的として成り立っているとする「社会契約説的国家観」が背景。

この場合の「利益」は個別報償ではなく、あくまで一般報償。

租税義務説:国民が租税を納めるのは国家に対する当然の義務として租税を正当化。

19世紀のドイツで唱えられる。

国家を国民を超越した存在として位置づけ、国民は有機体である国家の一構成員であると考える「有機体的国家観」が背景。

日本国憲法第30条は「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」と述べ、租税義務説に立脚。

租税義務説には同義反復の側面あり。そのため、租税義務説が定着する一方で、租税利益説も繰り返し提唱される。

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租税負担配分の原則(1) 租税の根拠によって租税の「強制性」と「無償性」を正当化した次に、国民・住民にどのように租税の負担を求めるのかが問題に。 国民・住民から租税負担の合意を取り付けるには、その負担のあり方が「公正」でなければならない。

租税負担のあり方の基準が租税負担配分の原則であり、利益(応益)原則と能力(応能)原則からなる。 利益(応益)原則:政府が提供する公共サービスからの利益に応じて租税を負担することが公正である。

能力(応能)原則:納税者の支払い能力(担税力)に応じて租税を負担することが公正である。

水平的公平と垂直的公平の二つのレベルで支払い能力に配慮。

水平的公平:支払い能力の等しい人々には等しい取り扱いをする。

垂直的公平:支払い能力の異なる人々には異なる取り扱いをする。

租税の根拠と租税負担配分の原則の関係(スライド5) 租税利益説は利益(応益)原則と結び付く。

租税義務説は能力(応能)原則と結び付く。

支払い能力はあるが、公共サービスからの受益の意識が希薄な人々に対しても、租税負担を求めることができる。

租税利益説と能力(応能)原則を結び付けることも可能。

この場合の「利益」は個別報償ではなく、あくまで一般報償であるため。

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租税負担配分の原則(2) 5

租税利益説

租税義務説

利益原則

能力原則

租税の根拠 租税負担配分の原則

出所:神野直彦『財政学 改訂版』157頁

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租税原則(1)

租税負担配分の原則を含みながら、租税政策のあるべき姿を体系的に論じるのが租税原則(スライド9)。

アダム・スミスの租税原則は、18世紀のイギリスにおいて市場経済が形成されてくる時代のもので、自由主義的な「小さな政府」の思想に基づく。『国富論』で提唱。 公平:租税負担配分についての原則。「各人それぞれの能力に比例して、すなわち国家の保護のもとに享受する収入に比例して」負担するべきと主張。

能力原則のようにも読めるが、実際には利益原則の提唱。

「比例課税」のため、課税による所得再分配はない。

市場による所得分配を公正とする。

明確:課税が恣意的に行われないように、課税要件は法律によって明確に示されなければならない。

便宜:租税は納税者が納税義務を履行しやすい時期と方法で徴収されなければならない。

徴税費最小:徴税費用をできる限り少なくするという、効率的な税務行政についての原則。

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租税原則(2)

ワグナーの租税原則は、19世紀末にドイツが急速な近代化を進めていく時代の原則。スミスの租税原則とは対照的に、「大きな政府」の思想に基づく。 財政政策上の原則:支出(財政需要)が決まれば、それに必要な収入を調達しなければならない。量出制入の公準に基づく。

税収の十分性:租税は財政需要を十分に充足しなければならない。

税収の可動性:租税は財政需要の増減に対して弾力的に対応し、それを充足しなければならない。

国民経済上の原則:必要な税収を確保するとともに、市場経済の発展を阻害しないように配慮しなければならない。

税源選択の妥当性:正しい税源は所得であり、財産ではない。

税種選択の妥当性:「転嫁」などの作用に配慮して、正しい税種を選択しなければならない。

公正の原則 課税の普遍性:すべての国民が納税の義務を負う。

課税の公平性:能力原則に基づき、累進的に課税することが公平である。

アダム・スミスのように市場による所得分配を公正とは考えず、租税によって再分配を行うべきであると考える。

税務行政上の原則:スミスの租税原則の「明確」「便宜」「徴税費最小」をひとまとめにしたもの。

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租税原則(3)

ノイマルクの租税原則 ワグナーの租税原則とほぼ共通の原則を有する。

所得再分配を明確に掲げる(「所得・財政再分配」)。

ワグナーの租税原則にはなかった、市場経済への中立性(「競争中立性」)と経済成長への寄与(「成長政策実現」)を掲げる。

マスグレイブの租税原則 ワグナーの租税原則の「財政政策上の原則」とノイマルクの租税原則の「国庫収入上・財政政策上の原則」に相当する原則は掲げられず。

ノイマルクの租税原則と同様、市場への中立性(「効率的な市場の経済決定に関する干渉の最小化」)と経済成長への寄与(「租税政策と安定成長政策の調和」)を掲げる。

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租税原則(4) 9

スミスの租税原則 ワグナーの租税原則 ノイマルクの租税原則 マスグレイブの租税原則Ⅰ.財政政策上の原則 Ⅰ.国庫収入上・財政政策上の原則 1.税収の十分性  1.十分性 2.税収の可動性  2.伸張性Ⅱ.国民経済上の原則 Ⅲ.経済政策的原則 2.効率的な市場の経済決定に関する 3.税源選択の妥当性  7.租税の個別介入措置排除 干渉の最小化 4.税種選択の妥当性  8.個人領域への介入最小化 3.投資促進などの租税政策による租税

 9.競争中立性 体系の公平侵害の最小化 10.課税の積極的弾力性 4.租税構造と安定成長政策の調和 11.課税の自動的弾力性 12.成長政策実現

Ⅰ.公平 Ⅲ.公正の原則 Ⅱ.倫理的・社会政策的原則 1.税負担の配分の公平 5.課税の普遍性  3.普遍性 6.課税の公平性  4.公平

 5.給付能力比例 6.所得・財産再分配

Ⅱ.明確 Ⅳ.税務行政上の原則 Ⅳ.税法上・税務行政上の原則 5.公正で非恣意的な税務行政と理解Ⅲ.便宜  7.明確  13.整合性と体系性 の容易な租税体系Ⅳ.徴税費最小  8.便宜  14.明瞭性 6.徴税費および納税協力費の最小化

 9.徴税費最小  15.実行可能性 16.継続性 17.徴税費最小 18.便宜

出所:神野直彦『財政学 改訂版』160頁。

租税原則の変遷

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租税の基礎理論(1) 課税の際に必要となる要件

租税客体:課税する事実・物件

例:酒税であれば、酒を製造したという事実。租税客体を数量化したものが課税標準。

租税主体:租税を納税する納税者と、負担する担税者からなる。

納税者と担税者は同じ場合もあれば、異なる場合もある(後述)。

課税標準が決まれば、それに税率を掛けることで税額が決定される。

税負担:所得額に対する税額の割合 比例:所得額にかかわらず税負担は一定。

累進:所得額が増えると税負担は上昇。

逆進:所得額が増えると税負担は低下。

転嫁:租税の実質的な負担が納税者から他の経済主体に移動し、納税者と担税者が異なること。 前転:納税者である販売者が販売価格を租税分引き上げることで、税負担を購買者に転嫁すること。

後転:納税者である購買者が購入価格を租税分引き下げることで、税負担を販売者に転嫁すること。

帰着:租税の実施的な負担が最終的な担税者に落ち着くこと。

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租税の基礎理論(2)

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逆進

比例

累進

所得

税負担

出所:金澤史男編『財政学』97頁

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租税の分類(1) 租税はいくつかの基準に基づいて分類することが可能

直接税・間接税 直接税:納税者と担税者が一致する(転嫁がない)ことが予定されている租税。

例:所得税、法人税、住民税、固定資産税、贈与税、相続税

法人税は税負担が前転によって購買者に転嫁される可能性があるため、間接税に分類されることも。

間接税:納税者と担税者が異なる(転嫁がある)ことが予定されている租税。

例:消費税、酒税、たばこ税

直接税は納税者の負担感が強く働くが、間接税はそれが働きにくいため、増税に対する納税者の抵抗(租税抵抗)が小さく、「取りやすい」租税とされる。

公平性との関係 直接税:主として所得を課税対象とし、垂直的公平の達成に効果があるが、所得の正確な捕捉が難しい場合があるので、水平的公平の達成には困難が伴う。

所得税の「クロヨン問題」

間接税:消費を課税対象とし、税率が一定(比例税率)であるため、水平的公平の達成には効果があるが、垂直的公平の達成は不可能。

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租税の分類(2) 人税・物税

人税:租税主体にまず着目し、それに帰属する事実を租税客体とする租税。

例:所得税

物税:租税客体にまず着目し、それに従って租税主体を決める租税。

例:固定資産税

人税は租税主体の状況に応じて税負担を調整することが可能だが、物税は租税客体が先に決まるため、そうした調整は困難。

所得課税・消費課税・資産課税 それぞれ所得、消費、資産に対して課税。所得と消費がフローの経済力であるのに対して、資産はストックの経済力。

普通税・目的税 普通税は使途に制限がない租税。目的税は使途に制限があり、特定の目的に充てるための租税。

目的税は「ノン・アフェクタシオンの原則」に反する。

国税・地方税 国税は国(中央政府)が課す租税。地方税は地方自治体(地方公共団体、地方政府)が課す租税。

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租税の分類(3) 14

所得・資産 消費個人 個人所得税

納税 (家計) 遺産・贈与税義務者 企業 個別消費税

(法人) 付加価値税

課税ベース

法人所得税

支出税

注:赤の部分が直接税、青の部分が間接税。

主要な租税の分類

出所:池上岳彦編『現代財政を学ぶ』110頁より作成。

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租税の分類(4) 15

国税 地方税 国税 地方税

所得税 個人住民税 消費税 地方消費税

法人税 個人事業税 酒税 地方たばこ税

地方法人特別税 法人住民税 たばこ税 軽油引取税

復興特別所得税 法人事業税 たばこ特別税 自動車取得税

復興特別法人税 道府県民税利子割 揮発油税 ゴルフ場利用税

地方法人税 道府県民税配当割 地方揮発油税 入湯税

石油ガス税 自動車税

自動車重量税 軽自動車税

相続税・贈与税 不動産取得税 航空機燃料税 鉱産税

登録免許税 固定資産税 石油石炭税 狩猟税

印紙税 都市計画税 電源開発促進税 鉱区税

事業所税 関税

特別土地保有税 とん税

法定外普通税 特別とん税

法定外目的税

出所:財務省ホームページ

資産課税等

消費課税

国税・地方税の税目

道府県民税株式等譲渡所得割

所得課税

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租税の分類(5) 16