1. 中枢神経系 central nervous system1. 中枢神経系 central nervous system...

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36 a b c d f e g h i j m n k l 前角細胞の体部位的 近位 遠位 屈筋 伸筋 実習内容:神経組織 (2) 中枢神経と末梢神経 SBO 中枢神経系の基本構造(白質と灰白質)の組織構築・機能を説明できる. 脊髄・小脳・大脳の皮質・髄質における細胞構築を組織標本で鑑別同定できる. 末梢神経の基本構造を説明できる. キーワード 神経膠細胞、星状膠細、神経内膜、神経周膜、神経周膜細胞、神経終末、運動終板、神経筋接合 1. 中枢神経系 central nervous system 脳と脊髄から構成 伝導路である白質と、神経細胞体が存在する灰白質から成る。 白質:神経線維束。有髄線維からなり、光を乱反射、脊髄表層、脳の髄質などに分布 灰白質:細胞体と樹状突起、多数のシナプスが存在し、ニューロン間の情報伝達の場。神経細胞体は多数存在 するが、神経線維も多く、切片上では神経細胞体は少なく感じる。脳の皮質・神経核などに分布 *中枢神経系の組織像は脊髄も含め比較的単純に見えるが、ニューロンが存在する位置そのものが機能と密接に関連する事 が多いので、観察には注意が必要である。 1.脊髄 1)断面の基本構造 灰白質 Substantia grisea 神経細胞を多く含む領域 a. 後角 (後柱)cornu posterius (Posterior column) b. 側角 (側柱)c. laterale (中間質) c. 前角 (前柱)c. anterius 白質 Substantia alba 有髄神経線維の束≒伝導路 d. 後索 funiculus posterior e. 側索 funiculus lateralis f. 前索 funiculus anterior g. 中心管 central canal h. 前正中裂 fissure mediana anterior i. 後正中溝 sulcus medianus posterior j. 後根 dorsal root k. 前根 ventral root l. 後根神経節 dorsal root ganglion m. 硬膜+クモ膜 n. 神経周膜 peroneurium 2)部位と機能 灰白質: 脊髄内のニューロン:その特徴から以下の3種に分類される。 (1) 内細胞 internal cell 脊髄内の至る所に存在し短い突起を持ち、灰白質の外へ突起を延ばさない。主に介在ニューロンとして灰白質内 のニューロン間の連絡を司り、反射機能などに重要な役割を持つ。ゴルジ型(ゴルジ II ) (2) 索細胞 fasciculus cell 脊髄から同側もしくは対側の白質へ神経突起を上行性・下行性にのばす神経細胞を指す。ダイテルス型 (3) 根細胞 root cell 神経細胞の突起が前根に入るもので、主に前角の運動神経細胞(下位ニューロン)と交感・副交感神経細胞(節 前ニューロン)を指す。 補足)脊髄(後根)神経節ニューロン spinal(dorsal) ganglion cell 神経細胞体は脊髄内に存在しないが、その中枢側神経突起を後角へ送る。 図1

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a

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n k l

前角細胞の体部位的

近位

遠位 屈筋

伸筋

実習内容:神経組織 (2) 中枢神経と末梢神経 SBO 中枢神経系の基本構造(白質と灰白質)の組織構築・機能を説明できる.

脊髄・小脳・大脳の皮質・髄質における細胞構築を組織標本で鑑別同定できる. 末梢神経の基本構造を説明できる.

キーワード 神経膠細胞、星状膠細、神経内膜、神経周膜、神経周膜細胞、神経終末、運動終板、神経筋接合

1. 中枢神経系 central nervous system 脳と脊髄から構成

伝導路である白質と、神経細胞体が存在する灰白質から成る。

白質:神経線維束。有髄線維からなり、光を乱反射、脊髄表層、脳の髄質などに分布 灰白質:細胞体と樹状突起、多数のシナプスが存在し、ニューロン間の情報伝達の場。神経細胞体は多数存在

するが、神経線維も多く、切片上では神経細胞体は少なく感じる。脳の皮質・神経核などに分布

*中枢神経系の組織像は脊髄も含め比較的単純に見えるが、ニューロンが存在する位置そのものが機能と密接に関連する事が多いので、観察には注意が必要である。

1.脊髄

1)断面の基本構造

灰白質 Substantia grisea 神経細胞を多く含む領域 a. 後角 (後柱)cornu posterius (Posterior column) b. 側角 (側柱)c. laterale (中間質) c. 前角 (前柱)c. anterius 白質 Substantia alba 有髄神経線維の束≒伝導路 d. 後索 funiculus posterior e. 側索 funiculus lateralis f. 前索 funiculus anterior g. 中心管 central canal h. 前正中裂 fissure mediana anterior i. 後正中溝 sulcus medianus posterior j. 後根 dorsal root k. 前根 ventral root l. 後根神経節 dorsal root ganglion m. 硬膜+クモ膜 n. 神経周膜 peroneurium

2)部位と機能

灰白質: 脊髄内のニューロン:その特徴から以下の3種に分類される。 (1) 内細胞 internal cell

脊髄内の至る所に存在し短い突起を持ち、灰白質の外へ突起を延ばさない。主に介在ニューロンとして灰白質内

のニューロン間の連絡を司り、反射機能などに重要な役割を持つ。ゴルジ型(ゴルジ II 型) (2) 索細胞 fasciculus cell

脊髄から同側もしくは対側の白質へ神経突起を上行性・下行性にのばす神経細胞を指す。ダイテルス型

(3) 根細胞 root cell 神経細胞の突起が前根に入るもので、主に前角の運動神経細胞(下位ニューロン)と交感・副交感神経細胞(節

前ニューロン)を指す。

補足)脊髄(後根)神経節ニューロン spinal(dorsal) ganglion cell 神経細胞体は脊髄内に存在しないが、その中枢側神経突起を後角へ送る。

図1

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灰白質内の知っておくべき主な構造(上図参照) ① 終帯 = 後外側路 Lissauer’s tr. 多くの一次知覚線維が斜走する。

② 海綿質 substantia spongiosa ≒ Rexed I

③ 膠様質 substantia gelatinosa ≒ Rexed II

④ 胸髄核 = Clarke’s nucl. 主に胸髄(Th1-L2)の後角内側部にみられる。 下半身からの深部感覚中継(→後脊髄小脳路)

⑤ 脊髄網様体 reticular formation 頸髄の後角と側角の間に存在 白質と灰白質が混ざり合った領域(脊髄よりも脳幹においてよく発達)

⑥ 運動性脊髄前角細胞の小群(神経核) 体部位的局在を持って分布

参考:Rexed の分類 脊髄灰白質を10層に分ける。海綿質は Rexed I 層に相当する。

白質:縦走する神経線維束。表面に近い層は脳-脊髄間の連絡を、灰白質に近い部分は異なる脊髄レベル間の連絡を担う(固有束)。

3)脊髄レベルによる構造の違い

白質は上位レベルに行くほど豊富。 前角・後角は頸髄・腰髄で特に発達→頸膨大・腰膨大 胸髄で側角が発達。 楔状束は下位胸髄以下にはみられない。 頸髄に網様体+

2.大脳皮質 cerebral cortex

1)神経細胞の形態

(1) 錐体細胞 pyramidal cell

(2) 果粒細胞 granule cell (星状細胞 stellate cell)

(3) 紡錘細胞 fusiform cell

2)大脳皮質の細胞構築

(1) 等皮質と不等皮質

①等皮質 isocortex :6層

新皮質 neocortex

②不等皮質(異皮質 allocortex :3層

古皮質 paleocortex(嗅皮質など)

原皮質 archicortex(海馬など)

(2) 新皮質の6層構造

①分子層 molecular layer

ニューロンに乏しいⅢ,Ⅳ層の錐体細胞の樹状突起の末梢分枝が広がる。

②外果粒層 external granular layer

果粒細胞、小型の錐体細胞.同側および対側の大脳皮質へ出力.

③外錐体細胞層 external pyramidal cell layer

中型の錐体細胞.同側および対側の大脳皮質へ出力.

④内果粒層 internal granular layer

果粒細胞.視床の特殊核から入力(視床皮質投射線維).

⑤内錐体細胞層 internal pyramidal cell layer

ベッツの巨大錐体細胞 giant pyramidal cell of Betz

運動野に存在.皮質下核(線条体、赤核、橋核、オリーブ核など)や脊髄への投射線維を出力.

⑥多形細胞層 multiform cell layer 紡錘細胞.視床へ出力(皮質視床投射線維).

多数の知覚性シナプス侵害刺激(温痛覚)が存在する。

図3.大脳皮質細胞構築の部位による違い

図2

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3.小脳皮質 cerebellar cortex

1)小脳の基本構築

2)小脳皮質の3層構造

(1) 分子層 molecular layer

①星状細胞 stellate cell

②籠細胞 basket cell

(2) プルキンエ細胞層 Purkinje cell layer

①プルキンエ細胞 Purkinje cell(大型の細胞で小脳皮質の出力細胞、小脳核へ投射)

(3) 果粒層 granular layer

①果粒細胞 granular cell

②ゴルジ細胞 Golgi cell

③小脳糸球 cerebellar glomerulus (エオジン小体 eosin body)

【顆粒層に見られるシナプス複合体】

苔状線維 mossy fiber(脊髄、脳幹からの軸索)

果粒細胞の樹状突起

ゴルジ細胞の軸索

図5.大脳皮質の神経細胞

図4.大脳皮質の線維連絡

図6.小脳の正中断面

図7.小脳皮質の神経細胞構築

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4.髄膜 meninges

内 軟膜 pia mater

subarachnoidal space クモ膜下腔 CSF+ leptomeninges ↓ クモ膜 arachnoidea 結合組織様の組織(一部上皮様の構造を取る。中皮)

外 硬膜 dura mater 内葉・外葉の二葉からなる交織性緻密結合組織

5.脳室及び脈絡叢 choroid plexus, plexus choroideus

脳脊髄液

脳室は脳脊髄液 cerebrospinal fluid で満たされている。脳脊髄液は後述の脈絡叢で作られた後、脳室をみたし、第四脳

室正中孔・外側孔よりクモ膜下腔に流出しそこを満たす。この脳脊髄液の一部は硬膜静脈洞に突出するクモ膜顆粒から

静脈に吸収されると考えられている。

上衣細胞

脳室表面は通常、脳室上衣細胞 ependymal cell と呼ばれる単層立方~円柱上皮が被う。表面に線毛を持つ。この細胞

間は閉鎖帯の発達が悪い。すなわち、脳脊髄液はたやすく脳実質に入ることができる。

脈絡叢

脳には発生期に神経管壁が分裂増殖せず脳壁が生涯一層の上衣細胞層のみから形成される部位がある(脈絡上皮層,

上皮板 lamina epithelialis)。ここでは軟膜組織と上衣細胞が直接接しており、このような組織を「脈絡組織(tela chorioidea)」と呼ぶ。そして、軟膜の組織(脈絡板)が脈絡上皮層を脳室腔へ押し上げ絨毛様の突起を形成したものが脈絡叢である。 脈絡上皮:閉鎖帯+ 線毛+ 微絨毛(polypoid border)+ 脳脊髄液 cerebrospinal fluid 生産 側脳室脈絡叢・第三脳室脈絡叢・第四脳室脈絡叢 共に構造は同じ

図8.小脳糸球の電顕像の模式図 図9.小脳皮質内線維連絡

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2.末梢神経の構造 1.末梢神経の一般的構成

動物神経系 運動神経(遠心性)

・末梢神経系 感覚(知覚)神経(求心性)

植物神経系(自律神経系)

・ 運動神経の細胞体は,脊髄前角及び脳幹の運動性神経核に存在.

・ 知覚神経の細胞体は,(脊髄)神経節に存在.

・ 自律神経の細胞体(節後線維を出す)は、(自律)神経節に存在.

2.末梢神経線維の構築

1)肉眼解剖学的に認められる「末梢神経線維」の横断像は下図の如くなっている:

図 A.末梢神経線維横断図

2)神経内膜

神経根、末梢神経を構成する個々の神経線維を直接含む結合組織を

神経内膜 endoneurium という.

・神経内膜の二層性:外層、内層

・神経血管(vasa nervarum)

図.B

図 B.図 A中枠囲い部分の

拡大図

神経上膜

神経周膜 神経血管

神経内膜

シュワン細胞の核

有髄神経線維

髄鞘

無髄神経線維

軸索

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3)神経周膜

数百本から千本に及ぶ神経線維束をまとめて包む被膜を神経周膜 perineuriumという.

神経周膜細胞 peri neurial cell

神経周膜 薄い細胞で,円筒状かつ同心円状に配列.

接着装置(+),基底膜(+)

結合組織性被膜(外層)

※ 血液神経関門 blood-nerve-barrier

4)神経上膜 epineurium

神経周膜に包まれた神経線維群をさらに外側から覆う疎性結合組織.

3.末梢有髄神経線維の teasing

1本ずつに単離された神経線維を,スライドガラス上に引き伸ばし,光学顕微鏡下に観察できる.

4.末梢神経の神経終末の分類

1)運動神経終末 motor nerve ending(筋の項を参照)

・脊髄前角運動ニューロンの神経終末が骨格筋線維とシナプス

(神経筋接合 neuromuscular junction)

・運動終板 motor endplateを形成.

2)知覚神経終末 sensory nerve ending(皮膚の項を参照)

知覚神経節ニューロンの神経終末

①自由神経終末 free nerve ending

・神経終末に特別の装置が存在しない.

②有被膜性(被覆性)神経終末 encapsulated nerve ending

・線維芽細胞や膠原線維が被膜を形成.

・知覚受容装置を形成 … 機械受容器

3)自律神経終末 autonomic nerve ending

・自律神経節の節後ニューロンの神経終末

・平滑筋線維や腺細胞と接する.

・自由神経終末

輪間節 輪間節

Ranvier 絞輪

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4)運動終板 motor endplate の構造

【光顕及び電顕的構造】

発展事項

中枢神経

1.大脳皮質のコラム(細胞柱)の構造・機能について調べてみよう。

2.プルキンエ細胞細胞が興奮性・抑制性入力信号を受け止め、それを統合する神経回路につ

いて調べてみよう。

3.筋萎縮性側索硬化症(ALS:運動性の上位・下位ニューロンの変性病変)やフリードライ

ヒ失調症(上行性線維系の変性病変)で、脊髄断面はどの様な組織像になるだろうか? 末梢神経 1. 節性脱髄(segmental demyelination)とは何か、調べてみよう.

2. 神経根の被膜はどうなっているか.

3. 重症筋無力症 myasthenia gravis とは何か、調べてみよう.

4. 多発性硬化症 multiple sclerosis とは何か.

5. 脳が損傷を受けた際、神経膠細胞はどのような反応を示すのか.

6. 脳腫瘍の際、血液脳関門はどのように変化するのか.