第1章 q12 第三者行為損害賠償請求の仕組み 債権管理・回収の実情 47 総 括...
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2 債権管理・回収の実情
47
総
括
第7章
水洗便所改造工事
資
金
貸
付
金
第6章
市営住宅家賃
第5章
保育所保育料
第4章
下水道事業
受益者負担金
第3章
介護保険料等
第2章
国民健康保険
料
等
第1章Q12 第三者行為損害賠償請求の仕組み
第三者行為損害賠償請求の仕組みについて,教えてください。
市町村は,給付事由が第三者の行為により生じた場合において,保険給付を行ったときは,その給
付の価額の限度において,被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得します(国保法
64条1項)。これを保険代位といいます。
解 説
1 保険代位の仕組み
①治療関係費用等の損害賠償請求権
(ただし,過失相殺減額後の金額)
◇給付の都度,当然に,権利が移転する◇給付時に,対象債権が存在しなければ, 移転しない
③権利移転②保険給付
被害者 加害者
保険者
2 最判平10年9月10日・判タ986号189頁は,「国民健康保険の保険者が被保険者に対し療養の給付
を行ったときは,国民健康保険法64条1項により,保険者はその給付の価額の限度(ただし,被保
険者の一部負担金相当額を除く。)において被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求権を代
位取得し,右損害賠償請求権は,その給付がされた都度,当然に保険者に移転するものである(最
高裁昭和41年オ第425号同42年10月31日第三小法廷判決・裁判集民88号869頁参照)。」と判示してい
ます。
したがって,交通事故を例にとると,市町村が取得する債権の性質は,被保険者が加害者に対し
て有する不法行為に基づく損害賠償請求権そのものであり,純然たる私債権となります。そして,
過失相殺(民法722条)された残額の限度で請求できることになります。
3 他方で,同判決は,「しかしながら,同法64条1項は,療養の給付の時に,被保険者の第三者に
対する損害賠償請求権が存在していることを前提とするものであり,療養の給付に先立ち,これと
同一の事由について被保険者が第三者から損害賠償を受けた場合には,これにより右損害賠償請求
権はその価額の限度で消滅することになるから,保険者はその残存する額を限度としてこれを代位
AA
債務管理・回収 実務マニュアル.indb 47債務管理・回収 実務マニュアル.indb 47 2010/10/12 19:42:592010/10/12 19:42:59
第1章 国民健康保険料等
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取得するものと解される。」とも判示しています。
したがって,市町村が国民健康保険の給付を行う時点で,被保険者に代位の対象となる損害賠償
請求権が現に存在することが前提となります。
ア 例えば,被保険者が,詐さ
病びょう
,交通事故と関連性のない既往症,症状固定,治療の必要性・相当
性の不存在,治療方法の不適などの理由により,治療関係費等に関する損害賠償請求権を法律上
取得しない場合は,市町村への権利移転の効力が生じないことになります。
イ また,被保険者が治療関係費等に関する損害賠償請求権を法律上取得した場合でも,市町村が
国民健康保険の給付を実施する前に,示談成立などにより,対象債権が消滅していた場合には,
市町村への権利移転の効力が発生しないことになります。つまり,市町村への権利移転の効力が
発生するためには,市町村は,原則として,被保険者が示談する前に,保険給付を行っておくこ
とが必要となります。ただし,被保険者の示談が先行する場合でも,示談書中に対象債権を消滅
させない条項を設けることができれば,将来,市町村が国民健康保険の給付を実施した時点で,
市町村への権利移転の効力が発生することになります。
Q13 第三者行為損害賠償請求権の時効管理・債権保全
第三者行為損害賠償請求権の時効管理と債権保全に関して留意すべき点について,教えてくださ
い。
① 消滅時効について
人身事故の場合,実務上,治癒又は症状固定時をもって消滅時効の起算点として取り扱っています。
治癒又は症状固定後も,加害者側保険会社が治療費患者負担分を被保険者に支払っている場合は,
損害賠償債務の「承認」(民法147条3号)に該当し,消滅時効の進行が中断する可能性があります。
② 権利保全について
A市の国民健康保険給付に先立ち,被保険者と加害者との間の示談が先行する場合は,当該示談書
には「国民健康保険求償については別途応ずる」旨の条項を入れておくことが必要です。
解 説
1 はじめに
一般に,A市が取得する第三者行為損害賠償請求権の求償事務については,B県国保連へ委託し
ていますので,担当課としては,関心が希薄となっていると思われます。
しかしながら,債権管理上留意すべき重要な点がありますので,A市としても,法的知識を身に
つけ,しっかりとチェックし,場合によっては,A市独自に管理・回収を図る必要があります。
2 消滅時効について
AA
債務管理・回収 実務マニュアル.indb 48債務管理・回収 実務マニュアル.indb 48 2010/10/12 19:43:002010/10/12 19:43:00