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第12回
都市デザインの手法 (5)歴史的環境とその保全
都市デザイン
1.歴史的環境保存の意義
(1)高度経済成長からの価値観の転換 • 昭和30年からの高度経済成長期
– 日本列島改造論(田中角栄) – 経済中心主義、大衆社会の出現、文化の一元化
→ 地域の切り捨て 保存 = 趣味的で後ろ向き – 全国一律の画一的で安直な風景
歴史的経緯
• 量から質の時代へ – 歴史的環境の保存への転換
• 目先の新しさ or 特徴のある地域に根ざした風景?
• 長い時間の積み重ねによる生活空間の見直しへ
– 地域の固有性と生活圏の復権 • 歴史的環境に見られる完結した生活圏
• 独自の文化 ← 気候、風土、歴史
– 保全conservation <保存preservation <保護protect
長崎県平戸市的山大島神浦
(2)都市計画の転換
• うるおいのあるまちづくりへ – 個性的な、魅力的な、親しみのあるまちづくり
← 都市の歴史と自然風土
• 都市の歴史的環境に対する措置 – 土地利用上の建築行為の制限(例:伝統的建造物群保存地区)
佐賀県鹿島市肥前浜宿 浜中町八本木宿地区
2.民家の保存
(1)民家の放棄から文化財指定へ
• 戦後の民家の放棄 – 都市への集中と地方の過疎 – 辺境における民家の放棄
• 戦後の民主化による新たなパラダイム – 古社寺(戦前の文化財保護) → 「民家」の素朴な美しさ – 建築史学における「編年」手法の発達
→ 建築年代の確定 ⇒ 文化財指定 – 昭和37年頃以降、組織的民家調査へ
• 文化財指定による保存へ – 所有者サイド: 使いにくい、寒い、暗い → 求められる生活の近代化 – 保存者サイド: 価値=オリジナル性
– 民家の地方公共団体等への寄贈・売却 → 復原保存
• 最良の手段 = 家の持ち主が保存し住み続ける
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(2)民家の公開展示と活用
• 民家の公開展示 =屋外博物館 – 住み続けることが困難な民家の保存
– 集めることによる維持管理のしやすさと総合的な展示
• 単なる保存収集から風土づくりへ – 日本民家集落博物館(S.
35,豊中市) • 南部の曲家、白川郷の合掌造、椎葉の農家など
→ 本来の風土と異なり実感がない
→ 地域の人々の反発
日本民家集落博物館
• 地域に限った民家の収集 →テーマ性のある野外博物館
– 金沢江戸村(石川県、S42、加賀藩政下の士農工商の家)
– 飛騨の里(高山市、S45、合掌造、板葺きの家など)
– 北海道開拓の村(北海道札幌市、S48) 金沢江戸村(石川県)
金沢江戸村
飛騨の里(高山市)
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北海道開拓村
• テーマパークの破綻から保存活用へ – 金沢江戸村の破綻 – 金沢湯涌創造の森(石川県、H15)の開設 体験工房、宿泊施設など
⇒デメリット: 用途上の問題から建築基準法上の制限を受けることが多い。 例)内装制限
旧乗田家住宅
構造部材を残す → 補強
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保存と利活用
活用部分:NPO法人水とまちなみの会事務室 3.近代洋風建築の保存
(1)意義 • 明治・大正期の近代化の足跡 – ・明治以後の西洋文化の流入に関する生き証人(文明開化の象徴)
• 質の高い建築デザイン – 様式主義建築 – 西欧技術と日本伝統技術の融合(煉瓦・石造+和小屋など)
• 都市のシンボル – 記号論的な象徴性 福岡市赤煉瓦文化館
辰野金吾設計、明治42年完成
(2)近代洋風建築の文化財指定: -第1の手法- • 文化財指定 (国、県、市町村)
– 保存修理が原則(古い部材をできるだけ残す) – 建設年代等の特定は最低限必要 – 復原年代、文化財指定理由の確定
• 文化財指定の裏にかくれていること – 持ち主の同意が必要 → 文化財指定されていない建築も多い 例)東京駅 – 建替え要望と保存運動
• 建替え要望 ← 都心の一等地の商業建築等 • 保存運動 ← 望まれる「現状保存」「復原保存」
東京駅 左:建設当初 下:現在
明治洋風建築から大正・昭和初期へ
• 昭和35年頃は明治期のみ(明治洋風建築) • 昭和49年 山邑邸(F.L.ライト設計、大正15年) • 明治生命館(昭和9年建設) →昭和初期の建築まで拡大
明治生命館(岡田信一設計、昭和9年)
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(3)近代洋風建築の再利用: -第2の手法- • 再活用保存
– 主たる構造、外壁などはできるだけ残す
– ヨーロッパ諸国に多い再活用保存
– 用途変更 → 建築基準法上の問題が生じる
(例)古い銀行→博物館(不特定多数の利用)
– 平成8年 文化財登録制度の導入
• 内部の改造は自由 • 外観の1/4以下の改変は届出不要
• 設計費の半額補助
• 外壁保存 – 利便性、耐久性、建築基準法上の問題の解決
– 床面積不足の解決 – ただし、文化財指定は困難 ← オリジナルな構造の改造
日本火災横浜ビル
• 一部保存 – 少しでもイメージを残す(活用が主)
– (例)入口の装飾だけを取り付ける
文化財としての価値はない
• 文脈保存 – 1980年代後半 ポストモダンの時代など
– 古い町並みに沿わせた建築など:
建築的な手法の一
お茶の水スクエア 磯崎新設計
(4)近代洋風建築の移築保存: -第3の手法- • 建築の構造
– 木造建築は移築しやすい – 煉瓦造、石造は移築しにくい ⇒第1、2の手法
• 環境の再現 – 地域社会の中で親しまれること
→ もともとの環境を移築場所の中に再現すること
– 野外博物館:テーマのある移築保存
例)昭和58年「北海道開拓の村」
旧唐津銀行本店
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地上部分 煉瓦造 →保存
地階部分 鉄筋コンクリート →活用
床のみ、鉄骨によるブレース補強
まとめ
• 戦後拡大した歴史的環境保存の流れ – 民家 → 近代洋風建築 → 歴史的町並み – 戦後民主化の象徴としての「民家」 – 明治・大正期の近代化を示す「近代洋風建築」
• 保存の方向 – 修理保存と文化財指定
• オリジナルの保存 = 建設年代の特定 ☞ 調査と編年(民家) • 偽物をつくらないこと ☞ 復原年代の決定
– 利活用の重要性(「文化財利活用学」) • 活用の範囲(場所と内容)の特定 ☞ 全部指定と部分指定
小城市・牛津赤れんが館
玉屋の前身「旧田中丸商店」の倉庫
牛津赤れんが会の発足と活動
クラック (ひび)
現況の断面図
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建物のひび割れ
建物の面(れんが)で剛性を保っている
軟弱地盤
松杭
新たな杭がこのままでは打てない。
建物のひび割れ
窓をつくってしまった!!!
軟弱地盤
建物のひび割れ
建物の弱いところができてしまった。→ひび割れ
軟弱地盤
歴史的環境の再生(案)を考える
• 地元から与えられた課題: – 赤れんが会の事務建物の新設
• 事務室 • 日常的に使える休憩スペース • 倉庫 • トイレ
– 建物の保存修理 • 亀裂の修復 ← 低平地で地盤が弱い • 不特定多数の利用 • 現在の活動(音楽会、絵画展示)の継続
– 駐車場の整備
ポイント1
• 牛津赤れんが館は、牛津の街中に残る ほぼ唯一の景観資源である。 – かつての宿場町の面影はない。
– 玉屋の前身である「旧田中丸商店」の倉庫。
– 牛津町に寄贈された。
ポイント2
• 地域住民から保存と活用が求められている。 – 牛津赤れんが会 – 若手芸術家集団「ハーベスト99」
– フォーラム牛津
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ポイント3
• 亀裂が入り危険な状態である。 – 軟弱地盤の上 – 鉄工所時代に窓が空けられた。
– 剛性がなくなり亀裂が入った。
– 消防法、建築基準法上、問題!
現況の建物配置
牛津赤れんが館
駐車場
どこに新しい事務建物を設置するか。
かつての田中丸商店
参考にしよう!
現在の敷地
赤れんが館の構造補強 (最も確実な方法)
建物をゆっくり 曳き家する。
軟弱地盤
赤れんが館の構造補強 (最も確実な方法)
地盤まで 杭を打った後、 元に戻す。
軟弱地盤
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赤れんが館の構造補強 (最も確実な方法)
内部を鉄骨で 補強する。
軟弱地盤
新しい建物の理想的配置
外側を鉄骨 内側に煉瓦
赤れんが館修復の完成
赤れんが館修復の完成 赤れんが館修復の完成
鉄骨補強(地盤対策なし)
亀裂対策
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