2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章...

48
個別報告二 2010-2030 年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 趙晋平

Upload: others

Post on 18-Oct-2019

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

個別報告二

2010-2030 年の中国産業構造の

変化動向に対する分析と展望

趙晋平

Page 2: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

目 次

内容要約 ........................................................................................................ 1

第1章 過去 20 年の中国産業構造の変遷の主な特徴 ................................... 2

第1節 1990―2010 年の各次産業構造の変化動向 ................................................. 2 第2節 第一次産業の内部構造変動の新たな特徴 .................................................. 5 第3節 第二次産業の内部構造の変化 .................................................................... 6 第4節 サービス業内部構造の変化の基本的な特徴..............................................11

第 2 章 中国の産業構造調整が直面する新たな環境、新たな情勢 .............. 16

第1節 ポスト金融危機の時代、世界の範囲内で再度の産業の構造調整と科学技術

の革命が現れる...................................................................................... 17 第2節 中国の経済成長モデル転換方法及び産業構造調整の圧力は顕著に増大し

ている.................................................................................................... 18 第3節 中国の従来のローコスト競争での優位勢はしだいに弱まっており、新たな

競争の優位性を早急に形成する必要がある ........................................... 19 第4節 中国の工業化は、引き続き資源環境の制約及び気候変化への挑戦に直面す

る........................................................................................................... 21 第5節 中国の工業製品市場の需給関係が大きな変化を発生させる ................... 23 第6節 強力にサービス業及びサービス貿易の発展を推進することを、中国が直面

する喫緊の課題とする ........................................................................... 24

第3章 中国の産業構造の中長期の変化動向及び重要な課題 ..................... 25

第1節 工業化は中期段階から後期段階への過渡期にある ................................. 25 第2節 従来の比較優位を維持すると同時に、新たな競争の優位を形成する ..... 27 第3節 中国経済の国際化水準は顕著に向上しており「資本受け入れ」及び

「海外投資」のいずれも大きな発展を得ている .................................... 27 第4節 工業とサービス業の「相互牽引」による経済成長の局面が基本的に

形成される............................................................................................. 28 第5節 技術刷新能力が顕著に向上し、経済成長モデルの転換は

実質的な進展を得る .............................................................................. 29 第6節 従来の産業はモデルチェンジしてグレードアップをはかり、

競争力を堅牢にし、かつ強化する ......................................................... 31 第7節 戦略的新興産業の成長は更に加速し、主導産業として位置付けされる.. 33

第4章 2010~2030 年の産業構造の予測と分析 ........................................ 38

第1節 2010~2030 年各次産業構造変化の予測 ................................................... 38 第2節 2010~2030 年 第二次産業内部構造の変動予測 ..................................... 41 第3節 第三次産業の内部構造変化の予測 ........................................................... 44 第4節 中国の主要産業の世界における地位は変化する..................................... 45

Page 3: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

1  

内容要約

2008 年の秋に勃発した国際金融危機は、主要な経済体の経済成長動向と世

界経済の局面を大きく変えた。新興市場経済の迅速な復興に伴って、ポスト金

融危機時代の世界の経済成長の将来性が改めて明らかになってきている。発展

途上国が将来の世界経済構造に及ぼす作用が日増しに注目を集め、重要視され

ている。中国は世界 大の発展途上国として、ここ 30 年来、急速な経済成長

の勢いを維持してきたが、特に今回の国際金融危機の深刻な衝撃に直面して、

速やかに強力な対応策をとり、世界の主要な経済体の中で率先して復興を進め、

世界経済全体の危機脱出に貢献した。しかし、中国経済自身に存在する多くの

構造的問題は、危機が終了しても完全に取り除かれたわけではなく、従来の粗

放型成長モデルの弊害がより目立ってきている。どのような成長モデル転換と

構造調整を行うかは、将来の経済発展における活力と国際競争力を維持する上

で早急に研究を進めなければならない重大な課題となっている。本報告は中国

の産業構造の変化を予測、分析することを研究の突破口及び主要内容とし、

2030 年の中国経済展望の研究のために、科学的かつ客観的な認識の根拠と参

考を提供するよう努めるものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Page 4: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

2  

第1章 過去 20 年の中国産業構造の変遷の主な特徴

第1節 1990―2010 年の各次産業構造の変化動向

国家統計局が発表した一次統計報告1によると、2010 年に中国の第一次・第

二次・第三次産業の付加価値が GDP に占める比率はそれぞれ 10.2%、46.9%、

42.9%である。1990 年と比較すると、第一次産業の比率は 16.9 ポイント下が

り、第二次産業と第三次産業はそれぞれ 5.6 ポイント及び 11.4 ポイント上が

った。総体的に見ると、過去 20 年間における、中国の産業構造の変化は 1970

年代来の主な特徴(図 1を参照)を継続しており、第一次産業の比率は下降を

続け、第二次産業は第一の産業としての地位を強固にし、第三次産業のシェア

は顕著に上昇している。

新中国建国から発展過程を振りかえると、中国の産業構造の変化はおおむね

3 段階に分けることができる。第一段階は 1950 年代初期~70 年代初期で、20

年余りの間、第一次産業は基本的に第一の産業という重要な位置を占めており、

中国は明らかに農業経済の段階にあり、工業とサービス業はまだ初歩の発展レ

ベルにあった。第二段階は 1970 年代初期~80 年代中期で、第二次産業の比率

が第一次産業を上回り、中国は工業化の初期段階に入ったが、依然として第一

次産業の比率が第三次産業を上回り、国民経済における地位は比較的安定して

いた。第三段階は 1980 年代中期以降で、第二次産業の地位は強固さを維持し

さらに強化され、第三次産業の比率が第一次産業を上回り、急速に上昇した。

第一次産業の付加価値が GDP に占める比率は直線的に下降し始め、第二次及び

第三次産業との距離は拡大を続けた。この段階では、第二次産業を主柱とする

産業構造の特徴は変わらないものの、第三次産業成長の経済成長に対する貢献

率は明らかに上昇し、第二次産業に接近しさらにはそれを超え、経済成長牽引

の主要要素の1つになった。(表 2を参照)。

                                                              1  国家統計局ホームページ:2011 年 1 月 20 日

Page 5: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

3  

图1 三次产业结构的变化

0

10

20

30

40

50

60

1950 1956 1962 1968 1974 1980 1986 1992 1998 2004 2010

年份

比重(%)

第一产业

第二产业

第三产业

表 1 1990-2010 年の各次産業構造の変化(%)

GDP 第一次産業 第二次産業 第三次産業

1990 100.0 27.1 41.3 31.6

1995 100.0 19.9 47.2 32.9

2000 100.0 15.1 45.9 39.0

2005 100.0 12.2 47.7 40.1

2010 100.0 10.2 46.9 43.0

資料:国家統計局

表 2 産業付加価値の GDP 成長に対する貢献率(%)

GDP 第一次産業 第二次産業 第三次産業

1980-1985 100.0 26.7 37.5 35.9

1985-1990 100.0 25.9 39.9 34.2

1990-1995 100.0 16.8 49.8 33.4

1995-2000 100.0 7.3 43.9 48.8

2000-2005 100.0 8.9 49.8 41.3

2005-2010 100.0 8.4 46.2 45.4

注:貢献率は当年の価格付加価値により計算。

資料:国家統計局の国民経済予測統計

就業構造から見ると、ここ 20 年間は第二次及び第三次産業の労働生産性が

第一次産業と比較して顕著に高く、労働力の第一次産業から第二次及び第三次

産業の移行の持続的な加速を招いた。第一次産業の就業率は 1990 年の 60.1%

から 2009 年 38.1%にまで低下し、第一次産業の実際の就業人口は 3.9 億人か

図 1 各次産業構造の変 

第一次産業

第二次産業

第三次産業

年度 

図1 各次産業構造の変化 

Page 6: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

4  

ら 3 億人と、21.2%減少した。これと同時に、非農業部門が受け入れる就業人

口が急速に増加した。第二次産業の就業人口の比率は 1990 年の 21.4%から

27.8%まで上昇し、実際の就業人口は 1.4 億人足らずから 2.1 億人にまで増加

した。同時期に第三次産業の就業人口の比率は 18.5%から 34.1%まで上昇し、

実際の就業人口は 2.1 倍以上増加して、増加幅は第二次産業の 53%を遙かに上

回った。

图2 就业人数的三次产业结构(%)

第一产业

第二产业

第三产业

0%

20%

40%

60%

80%

100%

1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010

年份

比重(%)

表 3 1990-2010 年の各次産業の就業構造の変化(%)

就業の総計 第一次産業 第二次産業 第三次産業

1990 100.0 60.1 21.4 18.5

1995 100.0 52.2 23.0 24.8

2000 100.0 50.0 22.5 27.5

2005 100.0 44.8 23.8 31.3

2009 100.0 38.1 27.8 34.1

資料:国家統計局

中国経済の急成長に伴って、中国の各産業の世界的地位も 20 年来急速な成

長を続けている。1990 年の中国 GDP は全世界の 1.6%を占めるに過ぎなかった

が、2008 年には 7.1%まで増加し、そのうち農業の付加価値が世界に占める比

率は 8.6%から 21.3%、工業は 2.2%から 10.8%まで増加した。同時期のサービス

業の増加は 2.3%に過ぎず、世界に占める比率は GDP 及び第一次、第二次産業

第三次産業 

第二次産業

第一次産業 

年 度 

図 2 就業人口の各次産業構造(%) 

Page 7: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

5  

の比率を下回っており、20 年間に生じた変化は決して大きいとは言えず、中

国のサービス業の発展が相対的に停滞していることを示している。その他に、

中国の農業は国内での地位は少しずつ下がっているものの、世界での位置づけ

は著しく上昇して、工業とサービス業を上回っている。これは、中国の第一次

産業の発展の立ち後れは工業及びサービス業と比較してのもので、世界的な視

点から見ると、中国は農業の発展が早い国家の1つと言えることを示唆してい

る。

表 4 中国の各産業の世界的地位の変化(%)

GDP 農業 工業 サービス業

1980 1.7 7.4 2.3 0.7

1985 2.5 10.6 3.2 1.3

1990 1.6 8.6 2.2 0.9

1995 2.5 12.0 4.0 1.3

2000 3.7 16.0 6.3 2.3

2005 4.9 17.8 8.7 3.2

2008 7.1 21.3 10.8 4.1

注:2008 年の工業及びサービス業の付加価値の比率は 2007 年のデータによる計算結果

資料:世界銀行統計データ

第2節 第一次産業の内部構造変動の新たな特徴

自然災害が頻発する情況の下で、中国農業の食糧生産は長年連続して豊作を

得ており、農村経済と農民の収入の増加も新たな段階へと進んだ。更に重要な

ことは、農業の産業構造がグレードアップしているということである。現代的

な農業の産業構造は栽培業主体から多種の形式に転換して全面的に発展して

いる。生産総額に基づいて計算すると、過去 20 年、農業における栽培業の割

合は下がり続け、1990 年の 64.7%から 2009 年の 50.7%まで減少している。牧

畜業は牧畜の飼育方法の進歩、大規模化、集約化、標準化というレベルアップ

により速やかに発展し、農業総生産額に占める割合は 20 世紀末の 25.7%から

2009 年の 32.3%まで上昇した。漁業は近年、休漁、禁漁の規制を受け、捕獲量

管理の強化、厳格な漁業資源保護措置等の影響により、農業総生産額に占める

割合が幾分反落している。しかし 20 年前と比較すると依然として大幅に増加

しており、1990 年の 5.1%から 2009 の 9.3%に上昇している。林業の発展は比

Page 8: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

6  

較的穏やかで、過去 20 年の間 3.6%~4.2%の割合を維持している。

表 5 農業の産業構造の変化(%)

第一次産業 栽培業 林業 牧畜業 漁業 1990 100.0 64.7 4.3 25.7 5.4 1995 100.0 58.4 3.5 29.7 8.4 2000 100.0 55.7 3.8 29.7 10.9 2005 100.0 49.7 3.6 33.7 10.2 2009 100.0 50.7 3.9 32.3 9.3

注:比率は当年の生産総額によって計算 資料:国家統計局

第3節 第二次産業の内部構造の変化

1.アジア金融危機後の重化学工業化の動向は顕著に加速している

1950 年代初期から、中国の工業で重工業が占める比率は、大半の年度で軽

工業より高い。その中でも 2 段階あるが、重工業の比率と軽工業の間の開きは

拡大を続けており、重工業化の特徴が顕著に現れている。1つ目の段階は 1970

年代で、もう1つの段階は 1997 年アジア金融危機以降現在まで続いている。

しかも後者の段階においては、その差異は前者を遥かに上回っており、重工業

化の顕著な特徴となっている。(図3を参照)。70 年代の重工業化は 10 年に及

ぶ文化大革命の動乱の後、経済の回復段階で基礎工業の投資が成長を加速した

結果であり、低水準の重工業化に属する。アジア金融危機以降は、住民の消費

構造のグレードアップに従って住宅と自動車が消費を主導するようになり、都

市化進行の加速がもたらした結果である。工業生産総額によって計算すると、

2000 年~2009 年の期間、中国の重工業が全ての工業に占める比率は 50.8%か

ら 70.5%となり、20%近く上昇した。2008 年の秋以降は、国際金融危機の影

響下で、重工業の成長速度は大幅に反落した。しかし 2009 年下半期以降、世

界経済が徐々に復興したことと、インフラ投資の強力な推進によって、重工業

は再び成長を加速し、工業経済の成長を動かす主要要素となっている。

Page 9: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

7  

3 求める 中国は若い重工業の比率を経過する

資料:国家統計局

2.機械設備製造業の主導産業としての地位がいっそう強化される

製品の主要な用途によって分類するならば、全ての工業採掘業、消費財加工

業、材料加工業、金属製造加工業、機械設備製造業、その他の工業という 6

種類に大別することができ、重化学工業化を主要な特徴とする工業の内部構造

変化の主要な規則から中国を一歩踏み込んで把握することが可能となる。計算

結果には、2000~2009 年の期間、機械設備製造業が全ての工業に占める比率

の上昇幅が 3.0 ポイントで、現在全ての工業に占める比率はすでに 30.9%に達

しており、2000 年以降は基本的に上昇傾向を保ち、第一の工業産業としての

主導的地位を維持してきたことが現れている。その他、機械設備製造業の比率

は消費財製造業の比率を上回り、その差は 2000 年の 3.3 ポイントから 10.4

ポイントまで拡大しており、その他の産業分類との差もいっそう拡大している。

機械設備の製造業には電気機械、専用設備、電子通信設備、運輸設備等の技術

及び資本集約型の産業が含まれ、産業ごとの統計には、電子通信設備、電気機

械、運輸設備等の機械設備類の製造業が全ての工業の中で比較的大きな比率を

維持すると同時に、構造比率の上昇幅が比較的大きな産業(表 8及び表 9を参

照)でもあることが現れている。これら産業の成長の加速は、中国の産業構造

中国の 

軽工業   

図 3 中国の軽・重工業の比率の推移 

軽工業  重工業 

Page 10: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

8  

のグレードアップを促す重要な役割を果たしている。

表 6 工業の六大部門の細分基準

具体的業種

採掘業 石炭採掘及び洗鉱業、石油及び天然ガス業、鉄金属鉱採掘選鉱業、

非鉄金属採掘選鉱業、非金属鉱採掘選鉱業、その他鉱物採掘選鉱業

消費財 加工業

食品製造業、農業副食品加工業、飲料製造業、タバコ製品業、紡織

業、紡織服装、靴、帽子製造業、皮革、毛皮、羽毛製品業、木材加

工及び木、竹、藤、シュロ、草製品業、家具製造業、製紙及び紙製

品業、印刷業及び記録メディアコピー、文化教育スポーツ用品製造

原材料 加工業

石油加工、コークス製造及び核燃料加工業、化学原料及び化学製品

製造業、化学繊維製造業、医薬品製造業、ゴム製品業、プラスチッ

ク製品業、非金属鉱物製品業、電力、熱エネルギー生産及び供給業

金属製造

加工業 鉄金属加工業、非鉄金属の製錬及び圧延加工業、金属製品製錬及び

圧延業

機械設備

製造業

一般設備製造業、専用設備製造業、交通運輸設備製造業、電気機械

及び器材製造業、通信設備、コンピュータ及びその他電子設備製造

業、計器器具及び文化、事務機械製造業

その他の

業種

工芸品及びその他製造業、廃棄資源及び廃棄材回収加工業、電力、

熱エネルギー生産及び供給業、ガス生産及び供給業、水生産及び供

給業

3.金属製造加工業の比率の上昇が国内エネルギー消費の圧力を増大させた

金属関連の工業が占める比率は上昇を続けており、これは近年の工業構造

の変化で も際立った特徴である。統計には、金属製造加工業が全ての工業生

産総額に占める比率は 2000 年の 11.3%から 2008 年の 15.9 パーセントにまで

上昇し、2009 年には少々下がったものの、依然として 2000 年に比べて 3.4 ポ

イント高く、六大業種の中で上昇幅が 大であることが示されている。金属関

連工業の急速な成長は主に、住民の消費構造のグレードアップと都市化進行か

ら直接的、間接的な牽引を受けてのことである。推算によると、2000~2008

年の間に、自動車及び不動産業の成長が原材料加工業部門の成長に及ぼす作用

はこの部門全体の成長の 60%以上を占めると見られている。そのうち、不動産

業の鉄鋼工業の成長に対する貢献は 70%前後に達している。産業分類に基づい

て計算した比率及びその変化の幅は、金属工業の中で も重要な産業が鉄金属

Page 11: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

9  

精錬及び圧延加工業であり、その全ての工業産業に占める比率は第 2位に位置

し、2000~2009 年の比率の上昇幅は第一位であることを示している(表 8 及

び表 9 を参照)。金属工業は高エネルギー消費産業であり、金属工業の比率が

高まることは、高エネルギー消費産業の部門エネルギー強度に対する引き上げ

効果が増大することを意味する。これも、それ以前の数年間に中国の部門 GDP

エネルギー消費が下がることなく上がり続けたことの重要な構造的要素の1

つである。

表 7 六大産業分類に基づく工業の内部構造の変化(%)

2000 2005 2008 2009 累計変化

工業の合計 100.0 100.0 100.0 100.0 0.0

採掘業 6.4 5.9 6.6 6.0 -0.4

消費財加工業 24.5 20.6 19.7 20.5 -4.0

材料加工業 22.9 20.5 20.4 20.5 -2.4

金属製造加工業 11.0 14.3 15.9 14.5 3.4

機械設備製造業 27.8 30.2 29.9 30.9 3.0

その他の工業 7.3 8.4 7.4 7.7 0.3

資料:国家統計局の工業生産総額統計に基づく計算

表 8 十大工業産業が工業生産総額に占める比率の変化(%) 2000 2009 増減

通信設備、コンピュータその他電子設備製造業 8.81 8.13 -0.68鉄金属精錬及び圧延加工業 5.52 7.78 2.25 交通運輸設備製造業 6.26 7.61 1.35 化学原料及び化学製品製造業 6.71 6.73 0.02 電気機械及び器材製造業 5.64 6.16 0.51 電力、熱エネルギー生産及び供給業 5.38 6.10 0.72 農業副食品加工業 4.35 5.10 0.75 一般設備製造業 3.56 4.99 1.43 非金属鉱物製品業 4.31 4.53 0.22 紡織業 6.01 4.19 -1.82 小計 56.56 61.31 4.75

注:十大産業は工業生産総額に占める比率が 大の 10 の工業業界である

資料:国家統計局の工業生産総額統計に基づく計算

Page 12: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

10  

表 9 2000-2009 年の比率の上昇幅が 大の 10 の工業業界(%)

2000 2009 増減 鉄金属精錬及び圧延加工業 5.52 7.78 2.25

石炭採掘及び洗鉱業 1.49 2.99 1.50

一般設備製造業 3.56 4.99 1.43

交通運輸設備製造業 6.26 7.61 1.35

非鉄金属精錬及び圧延加工業 2.54 3.75 1.21

工芸品及びその他製造業 0.00 0.81 0.81

農業副食品加工業 4.35 5.10 0.75

電力、熱エネルギー生産及び供給業 5.38 6.10 0.72

電気機械及び器材製造業 5.64 6.16 0.51

専用設備製造業 2.56 3.06 0.50

小計 37.31 48.35 11.04

資料:国家統計局の工業生産総額統計に基づく計算

4.技術集約型産業の国際市場における地位と競争力は顕著に向上している

機械及び運輸設備製造業は資本及び技術集約型産業に属し、20 年来、これ

らの産業の成長が加速したため、全ての工業における市場シェアは顕著に上昇

し、国際競争力も一定の向上を見た。1990~2009 年の間に、中国の機械設備

輸出の年平均成長率は 25.5%に達し、世界平均の 7.9%という水準を大幅に上回

った。中でも自動車輸出の同時期における年平均成長率は 25.7%に達し、世界

の平均成長率を 20 ポイントも上回っている。時期ごとに分けて見ると、機械

運輸設備の1990年代及び2000~2009年の期間における平均成長率は基本的に

同程度である。しかし自動車の後者の期間における平均成長率は 32.5%に達し、

90 年代を 13 ポイント近く上回っており(表 10 を参照)、中国の自動車の輸出

が主に 21 世紀に入ってから発展したことを示している。機械運輸設備の輸出

も急速に増加し、中国の同類商品の世界市場シェアは 1990 年の 1%未満から

2009 年の 15.0%に増加している。貿易特化係数は-28.9%から 22.2%に転じ、

依然として日本や韓国より低いもののかなり接近している。

一方、機械運輸設備等、資本集約型の輸出も急速に増加し、中国の工業製品

構造のグレードアップのために大きな促進作用を果たした。機械的運輸設備の

貿易が工業製品に占める比率から見ると、中国は 2009 年に 48.5%に達してお

り、日本や韓国より少し低いものの世界の平均水準より 7.5 ポイント(表 11

を参照)高い。強調すべきは、中国の資本集約型製品の大部分が中核となる部

Page 13: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

11  

品を輸入して加工、組み立てを行った上で輸出する加工貿易方式を取っており、

輸出製品の国内付加率及び技術価値はおしなべて低いということである。また

一方で、中国の輸入の世界における市場シェアも顕著に上昇し、世界の機械運

輸設備産業の成長に貢献している。特に日本と韓国は中国に必要な部品の主要

な出所の1つであり、機械類製品が長期にわたり比較的高い市場シェアを維持

しているのは、中国の需要が貢献する部分が大きい。

表 10 中国機械運輸設備輸出の成長率と世界平均の比較

 

機械運輸設備輸出の 年平均成長率(%)

自動車の輸出の 年平均成長率(%)

世界 中国 世界 中国 1990-2000 10.9 25.7 6.1 19.9 2000-2009 4.6 25.3 4.3 32.5 1990-2009 7.9 25.5 5.3 25.7 資料:JETRO 貿易統計(www.jetro.go.jp)に基づく。

表 11 中国の機械貿易比率及び日韓との比較

機械貿易が工業製品に 占める比率(%)

中国機械貿易

が世界に占め

る比率(%) 貿易特化係数(%)

世界 中国 日本 韓国 輸出 輸入 中国 韓国 日本1990 37.9 20.6 56.5 41.2 0.95 1.7 -28.9 16.7 71.9 2000 46.7 37.1 55.4 54.6 3.32 3.46 -3.8 28.7 45.5 2008 41.5 46.7 51.3 50.7 15.04 9.2 22.2 35.7 45.9 2009 41.0 48.5 49.5 50.5 16.93 10.75 20.1 37.0 39.4

資料:JETRO 貿易統計(www.jetro.go.jp)に基づく。

第4節 サービス業内部構造の変化の基本的な特徴

1.長期的に見て、その他サービス業の比率上昇が も顕著である

第三次産業の大分類から見て、1990~2009 年の間、宿泊飲食を除く主要な

サービス業はいずれも二桁以上の年平均成長率を維持した。そのうち、その他

サービス業及び卸売・小売業の年平均成長率はそれぞれ 39.9%と 19.6%に達し、

六大サービス業の中で も速い成長を示している(表 12 参照)。異なる時期か

ら見ると、2005~2009 年の間、金融及び不動産業は成長を加速し、20 年の平

均成長率を顕著に上回り、このことはこの時期の不動産価格の上昇、金融市場

の開放、金融製品の顕著な増加と直接関連している。注意すべきは、大分類の

Page 14: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

12  

中のその他サービス業の成長は、第三次産業の平均成長率より速く、1990~

2009 年の間の六大分類のサービス業の中で、その他サービス業の比率だけが

大幅に上昇し、他のサービス業は多くの時期で下がっている。よって、さらに

細分化した産業分析を進める必要がある。

表 12 1990~2009 年の間の主要サービス業成長の情勢

運輸 倉庫

卸売・ 小売業

宿泊 飲食

金融業 不動産 その他

1990-1995 14.7 24.9 6.4 12.6 12.0 29.3 1995-2000 15.6 18.0 5.1 6.9 9.6 44.9 2000-2005 12.4 16.0 5.7 5.5 12.1 48.3 2005-2009 8.8 20.7 4.0 16.0 13.9 36.6 1990-2009 11.2 19.6 4.8 11.8 12.7 39.9

注:成長率は不変価格に基づき計算

資料:2010 年 中国統計年鑑

表 13 第三次産業の内部構造の変化

第三次

産業 運輸 倉庫

卸売・

小売業

宿泊、

飲食 金融業 不動産 その他

1990 100.0 19.8 21.5 5.1 17.3 11.2 25.0 1995 100.0 16.2 23.9 6.0 14.0 11.8 28.0 2000 100.0 15.9 21.1 5.5 10.6 10.7 36.2 2005 100.0 14.2 18.6 5.6 8.1 11.4 42.0 2009 100.0 11.6 19.6 4.8 12.0 12.6 39.4

注:当時の価格の第三次産業の増加額に基づき計算 資料:2010 年 中国統計年鑑

表 14 生産性サービス業及び生活性サービスの 2 分類

分類 生産性サービス業 生活性のサービス業

細分 業種

交通運輸、倉庫及び郵便業 情報伝達、コンピュータサービ

ス及びソフトウェア業 金融業 貸借及びビジネスサービス業 科学研究、技術サービス及び地

質調査測量業 水利、環境及び公共施設管理業

卸売・小売業 宿泊飲食業 不動産業 住民サービス及びその他サー

ビス業 教育 衛生、社会保障及び社会福祉

業 文化、スポーツ及び娯楽業 公共管理及び社会組織

注:当表中の業界は主に『中国統計年鑑』2005-2008 年の中の、

第三次産業の付加価値による業界分類に基づく

Page 15: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

13  

2.生産性サービス業の地位の上昇

サービス業の細分産業については、主なサービス対象に基づき生産性サービ

ス業と生活性サービス業の二種類に分けられる。そのうち、生産性サービス業

は主に生産企業に対して商業サービスを提供する。表 14 にはこの二種類の産

業の具体的な内容を示した。

2004 年以降、世界経済のサービス化傾向は絶えず強化され、それに伴い中

国の生産性サービス業が国民経済及びサービス業に占める比率は上昇傾向を

持続した。2004 年の生産性サービス業の付加価値がサービス業に占める比率

は 37.3%で、2008 年に 38.0%と 0.7 ポイント高まった。これとは対照的に、生

活性サービス業の比率は目立って下がっており、生活性サービス業がサービス

業に占める比率は 2004 年の 62.7%から、2008 年の 62.0%へ 0.7 ポイント下が

った。

細分したサービス業から見ると、交通運輸、郵便・電信・通信業、卸売・小

売、貿易、飲食等、従来からのサービス業の主導的地位は変わらないものの、

現代物流、情報、金融、ビジネスのサービス等の生産性サービス業の発展は依

然として低い。2008 年、金融業付加価値がサービス業の付加価値に占める比

率は 11.3%で、貸借及びビジネスサービス業がサービス業に占める比率は 4.3%

に過ぎない。

生産性サービス業の内部から見ると、現在比率が 大なのは従来からの交通

運輸、郵便、電信通信業で、その次が金融業、情報伝達、コンピュータのサー

ビス及びソフトウェア業、貸借及びビジネスサービス業である。各類の生産性

サービス業のうち、金融業は成長が も速く、 も潜在力のある業界である。

2008 年における金融業が生産性サービス業に占める比率は 2004 年に比べて

3.0 ポイント上昇しており、細分された産業のうちで 大の上昇幅となってい

る。(表 15 を参照)。上述の分析は、ここ 10 年間、中国のサービス業発展を推

進してきたのが主に生産性サービス業であり、中でも金融業が も際立ってい

ることを示している。同時に、生活性サービス業の中では、卸売・小売業、不

動産業が突出した推進効果を上げたことが示されている。

Page 16: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

14  

表 15 細分したサービス業の比率の変化

2004 2005 2006 2007 2008 増減累

交通運輸、倉庫及び郵便業 14.4 14.2 13.8 13.1 12.5 -2.0

情報伝達、コンピュータサービ

ス、ソフトウェア業 6.6 6.5 6.4 6.0 6.0 -0.6

金融業 8.4 8.1 9.1 11.1 11.3 3.0

貸借及びビジネスサービス業 4.1 4.2 4.3 4.2 4.3 0.2

科学研究、技術サービス及び地

質調査測量 2.7 2.9 3.0 3.1 3.0 0.3

水利、環境及び公共施設管理 1.2 1.1 1.1 1.0 1.0 -0.2

生産性サービス業 計 37.3 37.1 37.7 38.5 38.0 0.7

卸売・小売業 19.3 18.6 18.7 18.8 19.9 0.6

宿泊飲食業 5.7 5.6 5.4 5.0 5.0 -0.6

不動産業 11.1 11.7 12.4 11.2 0.1

住民サービス及びその他サービ

ス業 3.8 4.2 4.0 3.6 3.5 -0.3

教育 7.6 7.7 7.2 6.9 6.8 -0.8

衛生、社会保障と社会福祉 4.1 4.0 3.8 3.6 3.5 -0.5

文化、スポーツ及び娯楽業 1.6 1.6 1.5 1.5 1.5 -0.2

公共管理及び社会組織 9.5 9.8 10.0 9.7 10.5 1.0

生活性サービス業 計 62.7 62.9 62.3 61.5 62.0 -0.7

第三次産業の合計 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 0.0

資料:国務院発展研究センター情報ネット(www.drcnet.com.cn)

Page 17: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

15  

表 16 都市及び町のサービス業の内部就業構造の変化

都市と町の就業人口

(万人) 構造比率(%)

2003 2008 2003 2008 増減

年平均成

長率(%)

生産性サービス業 1684.6 1933.3 40.1 43.0 2.9 2.8 交通運輸、倉庫及び

郵便業 636.5 627.3 15.2 14.0 -1.2 -0.3

情報伝達、コンピュ

ータサービス、ソフ

トウェア業

116.8 159.5 2.8 3.5 0.8 6.4

金融業 353.3 417.6 8.4 9.3 0.9 3.4

貸借及びビジネス

サービス業 183.5 274.7 4.4 6.1 1.7 8.4

科学研究、技術サー

ビス及び地質調査

測量

221.9 257.0 5.3 5.7 0.4 3.0

水利、環境及び公共

施設管理 172.5 197.3 4.1 4.4 0.3 2.7

生活性サービス業 4200.6 4495.4 100.0 100.0 0.0 1.4 卸売・小売業 628.1 514.4 15.0 11.4 -3.5 -3.9

宿泊飲食業 172.1 193.2 4.1 4.3 0.2 2.3

不動産業 120.2 172.7 2.9 3.8 1.0 7.5

住民サービス及び

その他サービス業 52.8 56.5 1.3 1.3 0.0 1.4

教育 1442.8 1534.0 34.3 34.1 -0.2 1.2

衛生、社会保障と社

会福祉 485.8 563.6 11.6 12.5 1.0 3.0

文化、スポーツ及び

娯楽業 127.8 126.0 3.0 2.8 -0.2 -0.3

公共管理及び社会

組織 1171.0 1335.0 27.9 29.7 1.8 2.7

サービス業合計 5885.2 6428.7 140.1 143.0 2.9 1.8

資料:国家統計局『2009 年中国統計年鑑』

3.生活性サービス業の就業吸引力は強力である

サービス業の就業構造にも明らかな変化が発生した。2003~2008 年の都

市・町部門のサービス業の内部就業構造の割合から見ると、生産性サービス業

の就業規模はサービス業就業総量の 1/2 にも満たない。しかし年平均成長率は

生活性サービス業を大きく上回り、2003~2008 年の生産性サービス業の就業

増加の速度が 2.8%であるのに対し、生活性サービス業の年平均成長率はわず

Page 18: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

16  

か 1.4%で、生産性サービス業の成長幅は生活性サービス業の 2 倍となってい

る。(表 16 参照)。

細分した業種から見ると、サービス業の大部分の業種で就業人口が増加して

いるが、発展は不均衡である。生活性サービス業の中では教育業の就業受け入

れ能力が 大で、サービス業の就業人口総数の 1/3 ほどを占めている。その次

は公共管理及び社会組織部門で、サービス業の就業人口総数の 1/4 を占めてい

る。不動産業の就業規模は大きくないが、不動産業の繁栄が持続していること

で新たに大量の就業が増加しており、2008 年の不動産業就業人口は 2003 年の

年平均に較べて 7.3%増加した。注意すべきことは、卸売・小売業は、長い間

就業を提供してきた重要な部門であるが、2008 年の就業人口は 2003 年に比べ

て年平均で 3.9%減少しており、その就業創造の能力が萎縮し始めている。同

時に、文化、スポーツ及び娯楽業にも就業減少という状況が現れている。

生産性サービス業のうちで、交通運輸、倉庫及び郵便業の就業割合は も高

く、サービス業の就業人口総数の 1/8 を占めている。その次は金融業で、情報

伝達、コンピュータサービス及びソフトウェア業、貸借及びビジネスサービス

業の就業割合は小さく、両者の合計は 10%近い。ただしこの業種の就業の増加

速度は速く、2008 年の 2業種の就業規模はそれぞれ 2003 年に比べて 6.4%及び

8.4%高くなっている。金融業の就業の年平均の増加率は 3.4%に達している。

これらは生産性サービス業の就業創造の潜在力が極めて大きいことを示して

いる。

第2章 中国の産業構造調整が直面する新たな環境、新た

な情勢

2011 年は中国の第 12 次5カ年計画開始の年である。今後 20 年間の発展に

とって、第 12 次5カ年計画の期間は も 黃重要で、 金発展期になる可能性の

ある時期であり、また矛盾が際立って来る可能性もある時期である。第 12 次

5カ年計画から 2030 年までの更に長い期間には、中国が直面する構造調整及

び発展モデル転換の圧力は過去のいかなる時期よりも大きくなる。

Page 19: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

17  

第1節 ポスト金融危機の時代、世界の範囲内で再度の産業の構造

調整と科学技術の革命が現れる

世界の主要な経済体を見渡すと、新技術革命は全世界の産業構造調整を加速

し、1990 年代の初めには ICT(情報通信技術)、後には BT(バイオテクノロジ

ー)、技術創造の需要( も典型的な例はインターネットの応用)と、技術が

産業構造を決定して経済発展を牽引した。金融危機が発生した後、米国、ヨー

ロッパ、日本等の国家は新エネルギー等の産業発展を非常に重視している。例

えば米国連邦政府の経済刺激対策においてグリーン投資(green activities

investment)の割合は 15%前後に達し、新エネルギー等の産業発展を強力に

支援しており、当面の金融危機及び長期の気候変化という 2つの大きな世界的

な危機に対応し、エネルギーの安全、気候変化等の重要な問題を解決すると同

時に、経済発展のための新たな空間を探し、新たな就業の機会を創造し、グロ

ーバルな競争で高位を占めるものである。歴史的経験は、各危機の後、いずれ

も重大な制度革新及び技術革新が行われ、人類社会が新たな歴史の起点上で著

しい進歩を得ることを示している。ますます明確になってきた発展の趨勢は、

全世界が新エネルギー及び低炭素技術等の分野の科学技術革命前夜の状態に

在り、全世界で新エネルギーの主導による産業構造調整及び科学技術革命が起

こりうるというものである。世界経済もまたグリーン経済、低炭素経済へモデ

ルチェンジする懐胎期にある。

このようなモデルチェンジは、現在すでに世界経済に対し、次の 5方面の大

きな影響が目立ってきている。1つ目は新エネルギー及び低炭素技術が世界経

済の成長及び新たな就業機会を創造する戦略的新興産業になっており、世界の

産業競争及び技術競争における要害の高地となっていることである。2つ目は

貿易ルール及び貿易構造をも変える可能性があり、現在米国、ヨーロッパ等の

国家の政府、立法者がそれらの発展途上国に対して、不変措置によって温室効

果ガスを排出する商品を制限する炭素税徴収を行っておらず、貿易と関係があ

る CO2 排出は遠からぬ将来、ますます厳格な監視と制限を受けるだろう。それ

によって輸出主導型に頼った成長をしているには挑戦がとりわけ厳しくなる。

3つ目は大衆の消費行為を変える可能性があり、政府は需要の側から大衆の低

Page 20: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

18  

炭素製品購入を促し、EU 及び米国は公共及び個人の領域で多くの措置を行い、

具体的な商品の炭素含有量に評価を行っており、目標は消費者のために炭素基

準のガイドラインを作ることにある。イギリス政府及び炭素信托会社共同で製

品中の炭素の影響を評価する方法を開発しており、それは製品 1kg あたりの、

そのライフサイクルにおいて含まれる炭素のグラム数を標準化するもので、計

算内容には製品の品質保証期間、生産国、生産国のインフラ情況及び食品製品

の運輸距離が含まれる。4つ目は全世界の炭素市場の規模が石油市場の規模を

遙かに超える可能性があり、米国の Waxman-Markey が提案した議案は、2020

年までに炭素取引市場の生産総額を毎年 1万億ドル、すなわちヨーロッパの排

出規制の 2 倍にするというもので、韓国はすでに 2008 年に強制的な国内排出

取引規制を決定し、オーストラリアの炭素取引市場は 2011 年 7 月に運行を始

め、日本は 2008 年 6 月に排出取引規制の実用性に対する評価を行うという計

画を公布している。5つ目は企業、資本市場及び金融機関の行動規範に影響す

るもので、将来 5~15 年の間に企業がどのように炭素の情報公開を行うかがそ

の株価を決定し、すでに自ら情報公開している例もある。この情勢下で、中国

が挑む厳峻な状況はそれ以上に発展につながる歴史的チャンスでもある。もし

主導権を握り、しかるべき対応をすれば、新たなグローバル競争において一席

を獲得し、同時にこれをきっかけとして長年蓄積してきた構造的矛盾を解決し、

経済成長モデル転換を加速することができる。

第2節 中国の経済成長モデル転換方法及び産業構造調整の圧力

は顕著に増大している

中国国内から見ると、消費構造のグレードアップ及び都市化の加速は中国の

経済の内生的成長力である。この内生的成長構造は、金融危機の影響変化を受

けて変わるものではなく、工業化と都市化の進行が依然として持続しており、

これは第 12 次5カ年計画以降もしばらくの間、中国経済が速い成長を実現す

る基礎でありかつ前提となるものである。

しかし中国の経済発展を外部環境から見ると、世界経済回復の進行に不確定

Page 21: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

19  

要素が存在していることで問題をますます複雑化させているのみならず、さら

に重要なことには中長期的な意義を持つ構造的な変化が発生している。主要な

先進国の投資、消費、輸出に対する構造的調整、特に米国が借金による消費(消

費が GDP に占める割合を 70%前後とする)に頼って経済成長モデルの変化を

支援し、このような調整の過程(主に世帯負債表の調整)は少なくとも 10 年

間続いており、一部の先進国も含め実体経済と仮想経済の関係調整を行って、

製造業の復興、特に新興産業の発展によって復興を実現しようと試みる。これ

らの構造的変化は、中国の将来の経済発展に新たな挑戦と新たな圧力をもたら

すものである。

新たな情勢下で、中国の経済成長モデルは粗放で、産業構造の不合理等、蓄

積した構造的矛盾及び内包する経済変動のリスクが非常に際立っている。重化

学工業の急速に発展する段階での特徴は、資源環境の圧力の継続的増大をもた

らしただけではなく、国際資源の製品価格の急落の影響を受けて、中国の経済

発展が払う代価は大きく、変動性が大きい。更に、中国が新たなグローバル分

業体系を築く過程において、中国は産業リンケージのローエンドに位置し、付

加価値は低く、リスクに対抗する能力も低い。

例えば紡織工業の一定規模以上の 4.52 万の企業のうち、3 分の 2 の企業の

平均利益はわずか 0.1%(2008 年末)であり、輸出税還付等の政策に頼って生

産運営を維持している状況である。このような構造的矛盾は、今回の金融危機

の経過において存分に暴露され、高度経済成長期に構造的矛盾を隠蔽し、経済

回復期に解決できない事態に達していたとすれば、産業の構造調整は経済回復

及び持続的で速い発展を実現するためのキーポイントになる。

第3節 中国の従来のローコスト競争での優位勢はしだいに弱ま

っており、新たな競争の優位性を早急に形成する必要があ

中国の状況を見ると、政府レベルではローコストを国家間競争の戦略とし

て打ち出したことはないものの、事実上、企業から業界、地方政府にいたるま

Page 22: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

20  

で、あらゆる手を尽くしてローコスト潜在力の掘り起こしに努めており、事実

上のローコスト優位を形成している。しかし中国の国際競争におけるローコス

ト優位性依存は、長期にわたって維持することは難しく、労働力、土地等の要

素において急速なコスト上昇が起きている。生産年齢人口の供給成長率は低下

し「人口によるボーナス」は着実に減少している。実際に、中国の従来のロー

コスト優位は弱まりつつあり、生産要素の価格上昇は明らかで、従来の優位性

が弱まるスピードさえも予想外に加速している。ローコスト優位が短期間のう

ちに完全に失われることは考えがたいものの、現在の優勢を維持するよう努め

ると同時に、新たな競争の優位を形成する必要がある。例えば、2008 年に南

方のある輸出志向型経済地区に対して行った調査研究では、労働力コスト及び

原材料コストがごく短い期間にそれぞれ 10%前後上昇していることが明らか

になった。一部の方面のコストが目立って上昇するのは一時的なことであるが、

一部は長期的であり、逆転することはできない。 近、学術界は「人口ボーナ

ス」及び「ルイスの転換点」について討論を展開しているが、今のところルイ

スの転換点が数年のうちに出現するという結論の正否がどうであれ、その提示

する結論は「第 12 次5カ年計画」の期間に、この問題が更に露呈されると注

意を促すものである。

横の方向から見ると、インド、パキスタン、ベトナム等の国で、紡織業の雇

用コストは中国の 38%相当に過ぎず、原料コストは中国の 70%に過ぎない。中

国の東、中、西部地区がそれぞれ異なる工業化段階にあることを考慮すると、

中国は空間調整を通じて既存の優勢の潜在力を維持しているものの、新たな要

素の組み合わせが必要である。この新たな要素の組合せは、体制が順調な条件

下で行政地域を越えた組合を求めるだけでなく、中西部地区への産業の移転を

推進し、更に東部等の地区に不足していた高度要素(例えば技術イノベーショ

ン、ブランド等)を形成するように求め、ダイナミックの優位を確立して、新

たな競争の優位を形成するものである。土地、エネルギー資源、労働力等の要

素コストの相対的、高速、集中的な上昇の、経済発展に対する長期の影響は軽

視してはならず、コスト上昇の周期内での経済の持続的で安定した発展の道を

探さなければならない。この要素コストの上昇という問題をうまく処理できる

Page 23: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

21  

ならば、経済成長モデルの転換を推進する有利な要素となる。もしうまく処理

できなければ、経済発展に対して長期の損害を与える可能性もある。ラテンア

メリカ国家等の国際経験と教訓は、国家と地区は発展段階に応じたダイナミッ

クの比較優位を形成しなければならず、さもなければ「成長の限界」と発展の停

滞が出現することを示している。将来の数年間が、中国の競争優位により戦略

的モデルチェンジを行うキーポイントとなる時期であり、一方で現在の競争の

優位を維持し、もう一方で新たな競争の優位を形成、確立すべき時期である。

第4節 中国の工業化は、引き続き資源環境の制約及び気候変化へ

の挑戦に直面する

国際経験は、エネルギーの消費の増加速度は経済の発展段階と直接関係があ

ることを示している。図 4には一部の先行工業化国家の単位 GDP 当たりエネル

ギー消費量の変化曲線を示しており、この曲線が逆 U 型であることがわかる。

イギリス、米国は工業化の発展に伴い、単位 GDP 当たりエネルギー消費量が上

昇を続け、ピーク値は急速な工業化のピーク期に出現している(イギリスでは

1880 年前後で、イギリスの産業革命の成長加速期にあたる。米国では 1920 年

前後で、米国の急速な工業化の時期にあたる)。日本のピーク値は第一次オイ

ルショックが勃発した 1974 年前後に出現したが、日本は 1955 年から「重化学

工業化」戦略を実施し、それ以後単位 GDP 当たりエネルギー消費量が上昇を続

けたが、オイルショック勃発以後、日本は重化学工業化戦略を放棄せざるを得

なくなり、産業構造は高付加価値の加工組み立て業(例えば自動車、家電等)

に転換して発展した。中国の現在の発展及び直面する資源、エネルギー供給の

圧力は、日本の当時の状況と相似性がある。「第 11 次5カ年計画」の期間に、

一連の省エネルギー、低排出の政策と措置を推進したものの、やはり圧力は存

在し続けている。

Page 24: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

22  

図 4 一部国家の単位 GDP 当たりエネルギー消費量の変化

我々は「第 11 次5カ年計画」の実施状況に対して評価を行い、11 次5カ年

計画前の 3 年間の単位当たり GDP エネルギー消費量は累計で 12.5%下がり、

技術的省エネルギーと構造的省エネルギーの2大省エネルギーの道から見て、

技術的省エネルギーの貢献率は約 80%、構造的省エネルギーの貢献率は 20%

で、8 業種 14 項目の製品のエネルギー消費指標の平均(重み付き)及び国際

的な先進水準の開きは 2000 年の 40%前後から、2007 年の 20%前後まで縮小し

た。技術的省エネルギーの道の中で立ち後れた生産能力が「キーポイント」と

淘汰を経たのち、極めて重要な作用を発揮する。「第 12 次5カ年計画」の時期

に、単位GDP当たりエネルギー消費量減少目標を17~18%前後とするならば、

構造的省エネルギー貢献率を顕著に高めなければならず、構造的省エネルギー

と技術的省エネルギーの貢献率はそれぞれ 50%前後を占める必要がある。な

ぜなら立ち後れた生産能力を淘汰して、海外の先進的レベルとの開きが減少し

ているからである。一方、単位 GDP 当たりエネルギー消費量は目立った減少を

続けているが、エネルギー消費総量も増加し続けている。現在、中国の 1人当

たりエネルギー消費量は米国の 7 分の 1 に過ぎず、OECD 国家の平均水準の 4

分の 1 である。いくつかの重要な資源の消費量もピーク値には至っていない。

このように、中国の直面するエネルギー資源環境の圧力は持続的に増大してい

る。

この他、中国はまた気候変化に対する新たな挑戦にも直面しており、経済社

Page 25: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

23  

会の発展に深刻な影響を与えている。中国はすでに二酸化炭素の一大排出国と

なっている。我々が 2050 年の中国のエネルギー消費及び二酸化炭素排出につ

いて状況分析を行った結果では、低炭素経済発展の道が存在するとしても、

2030 年以前に、中国の二酸化炭素排出総量がピーク値に到達した後に下がる

可能性は少ない。気候変化の問題は、中国低炭素産業の発展、低炭素技術の新

たな奇遇をもたらしているが、経済発展のコストをも増加させた。これは中国

に、一方では対外交渉において大きな発展の余地を得るよう努力を求め、もう

一方では積極的な措置を採って、グリーン経済、低炭素経済を発展させ、気候

変化の影響を緩和し、それに対応できる能力を高めることを要求している。

第5節 中国の工業製品市場の需給関係が大きな変化を発生させ

今後を見ると、中国の工業製品、特に重化学工業製品は需給関係の新たな変

化に直面する。新中国成立から 30 年は商品とサービスの「無から有へ」とい

う問題を解決し、改革開放実施後の 30 年は「少(ない)から多(い)へ」と

いう問題を解決した。10 数年前(特にアジア金融危機の後、中国は不足経済

の時代と決別した)は、軽工業と紡織工業製品の不足を解決し、「第十次五カ

年計画」の下半期及び「第 11 次5カ年計画」を通じて重化学工業が急速に発

展し、重化学工業製品の不足も解決して、それまでの段階における石炭・電気・

石油が動かしていた全局面的、持続的な供給が緊迫した状況は再現しづらくな

った。需給関係の新たな変化は、中国の経済発展を新たな起点に立たせ「低(い)

から高(い)へ」という問題を解決することに力を尽くさせている。

角度を変えて分析すると、2002 年以降の中国経済の急速な発展が主に重化

学工業製品不足下での重化学工業の急速な成長を刺激したとすれば、不足状態

と完全に決別した後で、経済の持続的発展を牽引したのはどの産業であったの

か。第 12 次5カ年計画期間及び今後かなりの長期間、発展の動力は 2 つの方

面からのものとなる。その1つ目は従来の産業のモデルチェンジとグレードア

ップが行われ、金融危機のプロセスにおいて海外からの需要が急激に反落した

こと、及び危機後の主要国家の構造的調整が、従来の産業の需要と供給の矛盾

Page 26: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

24  

を激化させ、このように必要なモデルチェンジの中からグレードアップと発展

を求めたことである。2つ目は新興の戦略的産業の発展が早急に必要とされ、

重化学工業の経済発展に対する牽引作用が依然として存在するものの、その力

量と潜在力はいずれも弱まっており、新興産業の育成、発展を行い、戦略的継

承を実現し、経済発展に持続的な動力を提供し、新興産業の発展(例えば省エ

ネルギー環境保護産業)、また従来の産業のモデルチェンジとグレードアップ

のために技術的手段と産業の基礎を提供したということである。

第6節 強力にサービス業及びサービス貿易の発展を推進するこ

とを、中国が直面する喫緊の課題とする

表 17 サービス業及びサービス貿易が占める比率の国際比較(単位:%)

米国 日本 世界 ブラジル 韓国 インド 中国

1990 70 58 61 53 49 44 32

2000 75 66 67 67 57 50 39

サービ

ス業が

GDPに占め

る比率 2007 77 69 69 66 60 52 40

1990 5 4 8 2 8 3 3

2000 5 4 10 4 12 7 6

サービ

ス貿易

GDPに占め

る比率 2007 7 6 12 5 18 14 7

資料:世界銀行統計に基づき計算

統計データは2、中国の現在のサービス業付加価値の比率が 40%に過ぎず、サ

ービス貿易が GDP に占める比率は 10%を下回り、いずれも世界平均的水準(表

17 参照)より明らかに低いことを示している。しかもサービス貿易では長期

にわたり大きな輸入超過が出現していることを示している。実際には、中国の

サービス業の比率が大変低く、サービス貿易の国際競争力が強くないことは、

                                                              2 世界銀行の世界サービス業及びサービス貿易のデータに基づき、サービス業の付加価値は 2007 年のデ

ータ、サービス貿易は 2008 年のデータ。

Page 27: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

25  

すでに産業構造のグレードアップにおいて際立った問題となっている。サービ

ス貿易を強力に発展させ、サービス業の成長を加速させることが、第一、二、

三次産業の協同の経済成長推進を実現する。これは経済成長モデル転換の重要

な内容の1つであり、就業の持続的かつ速い成長、サービス業の国際競争力向

上及び単位 GDP 当たり消費エネルギー水準を下げることのいずれに対しても

重要な意義を持つ。中国には比較的国際化水準の高い巨大都市がいくつもあり、

各種の経済組織と人口が高度に集中しており、すでにサービス貿易発展の基礎

と産業実力があり、サービス貿易への巨大需要が存在している。これは、第

12 次5カ年計画期間及び今後比較的長期におけるサービス貿易の国際競争力

及び省エネルギー、排出削減の推進効果上、新たなステップアップにつながる

条件である。

第3章 中国の産業構造の中長期の変化動向及び重要な

課題

これから 5 年間は中国の第 12 次5カ年計画の 5 年間にあたる。経済社会発

展の重点は経済成長モデルの転換、経済成長の質的向上を高めることであって、

産業構造の調整はその中の も重要な目標の1つである。国際、国内市場の情

勢及び政策の環境の変遷に伴い、この時期は産業構造にいくつかの新たな変化

が出現する可能性がある。これらの変化は中国の将来 20 年間の産業構造の変

化動向に重要な影響を及ぼす。

第1節 工業化は中期段階から後期段階への過渡期にある

2002 年からの中国の工業化のプロセスは、重化学工業の急速な発展を主要

な特徴とする中後期段階を呈している。実際には、工業化の中期段階は早くも

1992 年には出現しており、このような工業化中期段階の特徴がすでに 16、17

年の間継続している。先行工業化国家との比較をすると、中国の工業化プロセ

スが時間軸上で急激に圧縮されており、筆者は第 12 次5カ年計画期間を、中

国の工業化プロセスに新たな段階的変化が現れ、まもなく中級段階から上級段

Page 28: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

26  

階への過渡期に位置すると認識している。

理論上から言うと、工業化プロセスの段階の違いを判断する根拠は主に3つ

ある(主に世界の経済学者が、数十の国家に対して展開した実証研究を基礎と

して得た経験則的判断に依拠する)。1 つ目は第一次・第二次・第三次産業の

構造変化。第一次産業の比率が 20%以下まで下がり、工業の比率がサービス業

を上回ると、工業化は中期段階に入る。農業の比率が 10%前後に低下し、工業

の比率が 高水準に上がると工業化は後期段階に入る(サイモン・クズネッツ)。

2つ目は第一次・第二次・第三次産業の労働力分布による工業化の初期、中期、

後期の 3段階で、第一次産業の就業人口が社会全体の就業人口に占める比率は

それぞれ約 80%、50%、20%以下となる(ペティ=クラークの法則)。3つ目は都

市化水準で、工業化の初期・中期・後期の 3段階で、都市と町の人口が総人口

に占める比率は約 30%、60%、70%以上となる。

中国の実際の情況から見ると、上述の 3つの判断基準を同時に達成すること

は難しい。2008 年の第一次産業の就業の比率、都市化率はそれぞれ 39.6%、

45.7%で、そのうちの原因は、既存の関連統計データには実際の状況が正確に

反映されておらず、都市化が工業化に立ち後れている等の要素がある。前述の

通り、第 12 次5カ年計画期間は重化学製品が不足し、重化学工業の成長が加

速する局面は出現しづらかった。そしてサービス業は成長加速の条件をすでに

備えていた。第 12 次5カ年計画の末期には、第二次産業の占める比率は 47%

前後まで低下し、第二次産業、第三次産業の占める比率が類似するという状況

になる。第一次産業の就業比率は 22.5%前後まで低下し、前の 2つの判定基準

から、中国は工業化の中期段階から後期段階に向かう過渡期の特徴を表してい

る。更に長期的に見ると、2020 年頃には中国の第三次産業の比率は第二次産

業を上回り、中国経済はポスト工業化初期段階に入ると考えられる。

Page 29: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

27  

第2節 従来の比較優位を維持すると同時に、新たな競争の優位を

形成する

従来の比較優位が顕著に弱まる状勢の下で、国家の競争戦略の調整は一刻も

猶予できず、国際競争力の向上という角度から、競争の新たな優位を築くこと

に着目し、従来の比較優位及び競争の新たな優位の戦略的継承を実現し、二度

の五カ年程度の期間に、新たな国家競争の優位を確立しなければならない。

国際経験は、競争優位のグレードアップのプロセスには、グレードアップの

「陥穽」があり、対応が悪ければ、従来の比較優位を放棄することとなり、グ

レードアップの「渋滞」を解決しうる方策を失い、経済を劣勢に陥らせること

を示している。これはラテンアメリカ国家に多い先例である。その他の発展途

上国と比較すると、中国はイノベーション等の分野で一定の優位性を持ってお

り、先進国と比較すると、中国は製造のローコストという優位性を持っている

が、現在は中間の位置にあって、2つの方面の両方に配慮していかなければな

らない。その一方とはイノベーションを核心能力とする新たな競争の優位性を

形成するよう努めることである。もう一方とはあらゆる手を尽くして既存の競

争優位を維持することである。

第3節 中国経済の国際化水準は顕著に向上しており「資本受け入

れ」及び「海外投資」のいずれも大きな発展を得ている

第 12 次5カ年計画期間に、中国の輸出志向型経済は新たな発展段階を迎え

る。国際的視点から見ると、経済のグローバル化が深く進行するに従って、全

世界の産業分業の新体系と国際生産ネットワークが速やかに形成され、世界の

産業分業は水平分業から垂直分業に発展し、グローバル産業(global

industry)も出現し、研究・開発、生産、仕入れ等の産業リンケージが世界的

範囲で形成される。産業転換も産業リンケージ転換の新たな特徴を呈する。世

界の産業分業システムの再構築プロセスにおいて、多国籍企業(ひいてはグロ

ーバル企業)が主導的かつ支配的地位に立つ。

金融危機の影響を受けて、多数の多国籍企業は危機以前の急速な拡張から収

Page 30: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

28  

縮的調整に転じ、多国籍企業のうちでも特に研究・開発のアウトソーシング、

設計のアウトソーシング、マーケティングのアウトソーシングサービスの企業

が生存と発展の苦境に立たされ、国際化にモデルチェンジ中の中国企業に機会

を提供する。つまり、中国の産業構造調整は国際資源の比較的高い階層を利用、

統合して、産業のモデルチェンジ、グレードアップを実現し、特に併合買い付

け等の多種の方法を利用して、中国企業に不足しているハード資源(自然資源)

とソフト資源(技術、ブランド、マーケティングルート等)を得る。これは第

12 次5カ年計画期間に、中国企業の国際化の新傾向及び新要求を十分に重視

し、国際化の発展に不適切な政策障害を取り除き、中国の多国籍企業を育てる

力となる。

現在、中国は依然として急速な工業化と急速な都市化という「2つの“速い”」

時期にあり、筆者は、急速な工業化がなお 10 年間ほど続くと予測する。それ

から「1つの“穏やか”と1つの“速い”」時期(工業化は着実に進行し、都

市化は依然として急成長期にある)に入り、更に 10 年ほどを経て「2 つの穏

やか」な成長期に入る。このような「構造調整、モデルチェンジ促進」が迫っ

ており、時間に限りがある急速成長期をしっかりと捉え、成長の中で産業構造

を調整、成長モデルを転換し、成長による増加分を利用して貯蔵量を追加する

ことで経済社会の安定を維持しなければ、極めて大きな経済的代償を支払い、

ひいては社会的代価を支払うことになる。

第4節 工業とサービス業の「相互牽引」による経済成長の局面が

基本的に形成される

サービス業の発展が停滞している原因は、サービス業の構造的欠陥、すなわ

ち生産性サービス業と先端サービス業の発展が停滞しているということであ

る。言い換えると、サービス業の構造のグレードアップを実現することによっ

てのみ、サービス業総量の拡大を実現できるということである。サービス業と

製造業の発展の関係は対立と排斥や相互に代替する関係ではなく、互いに支え

合い、互いに促進し合う関係である。特に生産性サービス業の発展、技術進歩、

新生産モデルの産業への浸透は、国民経済全体の運用効率と品質を高め、産業

Page 31: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

29  

構造のモデルチェンジ、グレードアップにますます重要な作用を及ぼし、生産

分野から分離された生産性サービス業が次第に主導性と支配性を持つように

なる。その他、サービス業と製造業が融合し合い、新たな産業業態を形成する。

情報、研究と開発、設計、マーケティング、融資、技術サポート、物流サービ

ス等の生産過程との結合も次第に緊密になり、多くの製造企業が製品の生産だ

けに関心を持つことはなくなり、製品全体のライフサイクルに関わるようにな

る。製造業のサービス化は、世界のサービス業発展の新たな動向の1つとなる。

デロイト・トウシュ・トーマツ(Deloitte Touche Tohmatsu)は『製造業のサ

ービス革命』(The service revolution of global manufacturing industries)

と題する報告において、世界の 80 社に対して調査を行った。これらの企業の

サービス収入の比率の平均値は 25%を上回り、そのうち 19%の企業のサービ

ス収入の比率は 50%を上回っている。中国の工業企業技術の研究開発、設計、

ブランド、マーケティング等の分野の成長が速くない重要な原因の 1つは、関

連サービス業のサポートが不足し、原材料(鋼鉄や非鉄金属)等の製品の価格

の変動性が大きく取引コストが高いことで、これは市場システムも不健全さと

物流の産業効率の低さと関係がある。

今後、特に第 12 次5カ年計画期間時期に、工業とサービス業の「相互牽引」

の成長局面を形成する。これはサービス業の経済成長に対する貢献率を上昇持

続の軌道に戻し、サービス業の構造のグレードアップを通じてサービス業の発

展を加速するものである。いわゆる工業とサービスの相互促進、相互支持の成

長局面は、一方では生産性サービス業及び先端サービス業の発展を通じて、工

業構造のグレードアップと効率の持続的改善に強力な支えを提供し、もう一方

では巨大工業の利用及び企業サービスのアウトソーシングを奨励して、生産性

サービス業のために巨大な市場を形成し、相互に促進し合う構造を形成するも

のである。

第5節 技術刷新能力が顕著に向上し、経済成長モデルの転換は実

質的な進展を得る

研究により、第二次産業の全要素生産性は決して持続的に向上しているわ

Page 32: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

30  

けではなく、近年はむしろ低下が目立っており、先進国における 50%という水

準 に較べて明らかに低いものであることがわかった。数年来の全要素におけ

る生産性低下の原因は多方面に渡る。一方では工業化の発展段階の要素があり、

重化学工業の急速な発展が資本集約型産業の比率を増加させ、資本の有機的構

成が著しく高まり、資本が労働に取って代わるという傾向が強まる。もう一方

では更なる技術の進歩、効率の向上が顕著でない等の原因がある。

それ以外に、中国製品の付加価値は著しく低く、製造業の付加価値率はわず

か 26.2%で、米国、日本と比較してそれぞれ 23 ポイント、22 ポイント低く、

特に通信設備、コンピュータ及び関連設備製造業の分野では、付加価値が 22%

しかなく、「ハイテク産業」は決して高付加価値をもたらしてはいない。我々

が 6 つの業界の 2600 あまりの工業企業についてイノベーション調査を展開し

たところ、オリジナルイノベーションを展開している企業はわずか 6.0%で、

集積イノベーションを展開している企業が 45.3%、特許、特別な技術を導入し

ている企業が 72.1%、設備購入によって技術イノベーションを展開している企

業が 65.5%を占めていた。

これらの情況は、中国の工業化は成長モデルの粗放な問題を決して解決して

いるわけでなく、近年は全要素における生産性が持続的に高まる正しい軌道か

らそれてしまったことをはっきり表している。中国の工業化戦略は「消費主導

型」から「消費主導型」と「イノベーション主導型」が相互に組み合わさった

戦略に転換し、新たな発展環境と体制構造を築き、体制改革の推進及び技術進

歩の促進の両面から工業の全要素生産性の向上を持続し、中国の工業化の更に

高効率な発展を推進して、工業化の二度目の飛躍を実現する必要がある。

産業技術のイノベーション能力を高めて、経験を総括する基礎の上で、新た

な構想と新たな方法を持つ必要がある。当面 も際立った問題は産業のハイエ

ンドの共通性を持った技術供給の構造に問題が生じていることで、企業のイノ

ベーション能力のさらなる向上を制約していることである。この問題を解決す

るために、次の 2つの方法を非常に重視しなければならない。

1つ目は産業の新技術の開発連盟を築くことである。中国企業は技術基盤が

脆弱で、規模も大きくない。産・官・学を緊密に結合し、イノベーション連盟

Page 33: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

31  

を築き、力を合わせ、産業の共通性を持ったハイエンド技術の攻略に力を尽く

すべきである。今までのところこの事業への関心は不足しており、発展は滞っ

ている。国際的には、技術イノベーション連盟(多国籍の連盟をも)が急激に

発展している。例えば、1990 年代初期に、米国は新エネルギーの自動車に対

応する産業連盟――米自動車研究協議会(USCAR)を創設し、傘下には米国先

進バッテリー協会(USCAR)を含む多くの部門を持ち、現在実施しているハイ

ブリッドカー推進の政府計画は、主に連盟の助けを得て実施しているもので、

政府は資金面で連盟を支え、組織化の程度を高めることで日本を超えることを

目標にしている。

2つ目は、イノベーションの優れた企業をいっそう支援することである。イ

ギリスの貿易産業省の報告書によると、2007 年の世界の 1400 強にランキング

される企業が研究開発に投じた費用の総額は 5450 億ドルで、そのうち上位 50

社が 1400 社の総額の 45%を占めており、技術イノベーションの資源は優位の

企業に集中し、大企業の全世界の技術イノベーションにおける地位と作用は下

がることなく上がり続けていると指摘している。これは実際には、発展途上国

が産業をグレードアップし、イノベーション能力を向上させることのハードル

を高くするものであり、発展途上国の産業のグレードアップにさらなる挑戦を

もたらす。中国のイノベーション能力優位の企業と多国籍企業の格差は巨大で

あり、この背景の下、中国の産業イノベーションを重点的に進め、イノベーシ

ョンの優位企業の力が発揮されるようにし、政府はイノベーションの優位企業

の助けを得て、全業界に対して技術イノベーションの新たな拠点、プロジェク

ト拠点を提供し、中小企業のイノベーションを促すことで産業リンケージのイ

ノベーションを促すべきである。

第6節 従来の産業はモデルチェンジしてグレードアップをはか

り、競争力を堅牢にし、かつ強化する

従来からの産業をいかにモデルチェンジしグレードアップするかは、長らく

検討されているが未だに解決していない古くからの問題である。整った市場経

済の条件の下で、市場自体は自らの調節機能を有しているが、政策、ことに省

Page 34: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

32  

エネルギー環境保護政策は不備な部分がありしかるべきレベルに達しておら

ず、産業の不均衡な発展をもたらし、産業構造の調整とモデルチェンジによる

グレードアップを停滞させている。現在、生産能力過剰という問題に対して異

なる見解が多々あるが、生産能力過剰は市場が判定することなのか、それとも

政府が決定することなのかは、そのコントロール方法についても論争がある。

生産能力過剰の問題は非常に複雑で、有効な競争環境下での生産能力過剰も含

まれており、更には構造的な生産能力過剰、周期的な生産能力過剰、長期的な

生産能力過剰も含まれる。実際、生産能力過剰のコントロール政策が効果を得

にくいこと、政府の判断のミスが生じたこと及び政府主導下で構造調整が過度

に行われた等の問題があった(もし政府の提唱により、板巻鋼管の比率を引き

上げた鋼鉄製品の構造調整が行われれば、過度の調整が生じる)。

省エネルギーを足がかりにして、産業構造のモデルチェンジとグレードアッ

プを促進するのが、市場経済下の有効な方法で、政府が直接市場に関与して過

度の調節が起きることを防ぎ、市場メカニズムの欠陥を補うこともできる。獲

得した収益はエネルギー資源の消耗を減らし、生態環境を保護し、持続的な発

展能力を強化する他、産業の構造調整、モデルチェンジ、グレードアップの促

進といった面でも以下のような効果が予想される。1つ目は高エネルギー消費、

高物質消費、高汚染の立ち後れた生産能力の淘汰を加速することである。2つ

目は技術イノベーションを促進し、新たな技術、新たな工程の開発、ハイテク

と先進的な技術適用により従来の工業をグレードアップさせることである。3

つ目は生産設備の大型化を推進し、規模の経済性を実現することである。4つ

目は製品の構造調整とイノベーションを奨励し、省エネルギー、環境保護製品

とサービスを数多く提供して付加価値を上げることである。5つ目は先進的な

管理モデルの応用を促進し、省エネルギー、環境保護サービス業を発展させる

ことである。6 つ目は循環型経済の発展を推進することで、原材料の仕入れ、

運輸、保管、生産から包装、流通加工、配送、販売、廃棄物の回収とリサイク

ルまで全プロセスにおいて循環型経済システムを構築することである。

「立ち後れを淘汰し、先進を奨励する」という原則に基づいて、法律、経済

(特に重要である)、行政の手段を総合的に運用し、体制改革と構造補完を通

Page 35: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

33  

じて、省エネルギー、低排出に関する長期にわたって効果的なルールを作り上

げ、エネルギー資源の価格、グリーン税収政策、金融、規格化、市場進出許可、

立ち後れた生産能力を退出させる方面で改革と改善を行わなければならない。

省エネルギー低排出事業を政府が積極的に提唱して、真に企業の自覚した行動

に転換し、省エネルギー低排出の促進によって従来の産業を調整、モデルチェ

ンジ、グレードアップする有効な構造を形成するべきである。

それ以外に、産業のバリュー・チェーンに向けたミドル・ハイエンドへのグレ

ードアップを促進し、設計、研究・開発能力を高め、業界内で積極的に「ブラ

ンド興業」、「品質興業」戦略を提唱、実施して、製品の付加価値を著しく高め

る必要がある。

第7節 戦略的新興産業の成長は更に加速し、主導産業として位置

付けされる

経済総量増加を牽引し、効果的に構造調整ができ、かつイノベーション効果

が顕著で、力強い市場ニーズがあり、持続的発展が可能な産業を選び、戦略的

新興産業として育成する。

戦略的新興産業は、以下3つに分類される。1つ目は技術が比較的成熟し産

業の土台ができており、近い将来活躍が見込まれる産業(「モノのインターネ

ット」や次世代インターネット等)、2 つ目は技術進歩が目覚ましく、近い将

来大きな成長が期待できる産業(例:新エネルギー産業、省エネルギー、環境

保護産業、新材料産業)、3 つ目は近い将来成長が見込まれ、中長期的な戦略

意義が顕著な産業(例:電気自動車産業、バイオテクノロジー産業)である。

それぞれの戦略的新興産業にあわせて、的確な発展目標、主な構想、重点領

域と政策を明確にし、オリジナルな創造力を育て、構造調整を促し、世界の産

業構造の調整と科学技術革新のプロセスにおける一角を占めるよう尽力すべ

きである。

中長期的に見ると、中国の戦略的新興産業の成長は顕著に加速しており、10

~20 年の成長プロセスにおいて、徐々に中国経済の主導産業となりつつある。

Page 36: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

34  

産業は以下のものを含む。

1.新エネルギー産業

新エネルギー3 開発は、金融危機と気候変動を同時に解決する戦略的拠点と

みなされ、国の経済刺激策でも関連分野への投資が拡大されている。新エネル

ギーの技術革新は加速し、エネルギー転換効率は著しく向上した。新エネルギ

ーは、スケールメリットを追求する段階に入り、徐々にエネルギーの補完から

主力エネルギーへと代わり、エネルギー供給を増やす重要な手段となりつつあ

る。中国は再生可能エネルギーの資源が豊富である。水力発電の設備容量は

5.4 億 Kw であり、世界第 1位である。また陸地で 3億 Kw の風力エネルギーが

利用可能であり、沿岸地の分を合わせると約 10 億 Kw が利用可能である。太陽

エネルギーも非常に豊富であり、国土面積の 2/3 の地域で、年間日照時間は

2200 時間以上になる。バイオマス資源でもエネルギーへ転換可能な潜在力は、

中国標準炭換算で約 5億トンとなる。中国の 2008 年の水力発電、原子力発電、

風力発電、太陽エネルギー等新エネルギーの利用総量は、中国標準炭換算で

2.34 億トンとなり、エネルギー総消費量の 8.9%を占める。新エネルギー産業

はすでに規模も広がり、システムも整ってきている。長期的に見れば、新エネ

ルギー産業は、急速な成長に必要な条件、マーケット、政策環境が整っている

と言えよう。

2.環境関連産業

環境関連産業は、主に製品の 終処分や技術・資源の総合利用、環境保護

サービスの3つを指す。環境関連産業は、典型的な政策推進型産業であり、法

制定が業界振興を進める鍵となる。統計では、1997 年~2007 年の世界の環境

関連産業(資源総合利用を含まず)の市場規模は 3500 億ドルからすでに 7000

億ドルまで増加、年平均成長率は約 7.2%であり、世界の経済成長率をはるか

に上回る。金融危機以降、新たに環境事業ブームが起こり、近代的な環境保護

技術が環境関連産業の世界的競争で優位に立つと予測されている。

                                                              3  新エネルギー産業には、風力発電、太陽エネルギー、バイオマスエネルギー等の再生可能なエネルギ

ーを含み、更にクリーン・コール・テクノロジー、高度な原子力発電技術も含まれる。 

Page 37: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

35  

中国の環境関連産業の 2007 年生産額は 7025 億元、GDP の 2.6%に相当する。

そのうち環境保護設備、環境保護サービス業の生産額はそれぞれ 625 億元、500

億元で、それぞれ米国の環境保護設備、環境保護サービス業生産額の 6.1%、

11%に相当する。今の中国はまだ環境の質の面でも環境保全に関するインフラ

水準でも著しい遅れがある。2008 年末で、国内都市の下水処理率はわずか 65%

であり、全国でまだ 194 市と 78%の県政府所在地に下水処理場がなく、多数

の郷・鎮、村には下水処理施設さえない。都市ゴミの無害化焼却と堆肥化の比

率は 20%未満であり、日・韓のレベルに比べてはるかに低い。2009~2015 年の

期間、都市の下水処理、生活ゴミ焼却炉、排ガス処理装置への投資総額は合わ

せて 7400 億元で、年平均 1057 億元が投入されるとみられる。環境関連産業の

発展の余地は大きい。長期的に見ると、環境関連産業は持続的な規模拡大と高

い効率化が望める巨大な潜在力を秘めている。

3.新エネルギー自動車

米国 4、日本、ヨーロッパ等主要な自動車生産国は、早くも 90 年代の初め

に一連の政府計画を実施し、新エネルギー自動車開発を支援してきた。研究は

10 年を超え、電気自動車の実用化を 終的な解決策とする技術ルートが徐々

に輪郭を表し、関連技術と産業は一定の発展を見せ、世界の自動車工業は重要

な技術革命の可能性を孕んでいる。米国を代表とする自動車生産大国は、金融

危機の勃発後、電気自動車開発を経済活性化の重要プロジェクトとして、政府

支援を強化し、国際競争で優位に立つことや経済成長の回復、エネルギーの安

全保障、気候変化への対応等いくつもの目標達成を期待している。政府の強力

な支援とも関連するが、明確に産業化の歩みを加速化させることで、電気自動

車は世界の重要な新興産業となりえる。

中国は新興の自動車生産大国であり、産業技術モデルチェンジの厳しい局面

に向かう一方、貴重な歴史的チャンスも生まれている。調査の中で、中国は電

気自動車の研究・開発と産業化を推進する基盤と条件を急速に整えていること

がわかった。戦略目標を明確にし、適切な政策がとられるならば、中国は日本

                                                              4 1992 年にクリントン政権下の政府が「自動車新世代に関する協力計画(PNGV)」を実施し、2002 年に

は「Freedom CAR」への名称変更と調整を行った。

Page 38: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

36  

が石油危機後にコンパクトカーによって国際競争力を優位にしたように、電気

自動車分野においてイノベーションをおこし優位な競争力をもつ可能性もあ

るだろう。

4.バイオテクノロジー産業

バイオテクノロジー産業は、中長期的な意義のある戦略的産業である。10

年来、世界のバイオ産業の売上高は 5年ごとに倍増するスピードで成長し、多

くの国でバイオ産業の成長スピードは 30%を上回る。バイオテクノロジー経済

は 21 世紀において も早く成長した経済分野となり、人類はまもなくバイオ

経済の時代に突入するだろう。

世界のバイオ産業の発展プロセス・動向から見ると、初期はおよそ 1980 年

から 2000 年までであり、成長期は 2000 年~2025 年まで、成熟期は 2025 年以

降とみられる。世界のバイオ産業は、今なお少数の多国籍企業が支配する独占

的構造を呈していない。世界のバイオ産業は、現在初期の段階から急速な成長

段階への過渡期にあり、2008 年にようやく利益が出るようになった。OECD が

発表した『2030 年のバイオ経済:施政綱領の策定』は、2030 年まで工業分野

での応用でバイオ技術は総生産量の39%、農業分野では36%、医療分野で25%

を占めており、中では工業での応用が も大きな潜在力を持っていると指摘し

ている。

世界の先進国と比較すると、中国のバイオ産業の技術や人材、基礎研究は、

ハイテク分野の中では格差が小さい方であり、バイオ資源も豊富なことから、

飛躍的な発展も期待できる分野とみられている。中国のバイオ産業の目指す目

標は、必ず長期的展望に立ち、戦略的でなければならず、今の様々な応用分野

産業の成熟度に応じて、条件が整った分野から産業化を加速させ、同時に潜在

能力がある分野に焦点をあてて、すみやかに研究開発を進めるべきである。

産業の成熟度から見れば、バイオ農業が も成熟している。遺伝子組み換え

技術の政策が適時適切に調整されるならば、産業化を加速させることができる

だろう。バイオ製薬はこれに次ぎ、バイオ工業(バイオエネルギー、バイオ製

造等を含む)の潜在力も大きい。

Page 39: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

37  

5.モノのインターネットと情報産業

MIT は 1999 年に初めて『モノのインターネット』(The Internet of Things)

という概念を提示し、国際電気通信連合(ITU)は 2005 年、年度報告をする中

でその概念を更に発展させた。『モノのインターネット』とは、モノに対し全

面的な感知能力を備え、情報に対しては確実な伝送とインテリジェント処理が

できる、モノとモノをつなぐ情報ネットワークである。全面的に感知する力、

確実な伝送、インテリジェント処理力が『モノのインターネット』の特徴であ

る。

『モノのインターネット』には3つの階層がある。感知階層は RFID(「電波

による個体識別」)、二次元コード、カメラ、センサー、センサーネットワーク

など、感知、キャプチャー、計測の技術手段を用いてモノへの情報収集を行う。

ネットワーク階層はさまざまな通信ネットワークやインターネットの融合を

通じ、モノを情報ネットワークにつなぎ、いつでもどこでも確実に情報を交

換・共有する。応用階層はクラウドコンピューティングやファジィ認識など

様々なインテリジェント技術を用い、数多くの地域、業界、部門をまたいでデ

ータ・情報を分析処理し、インテリジェントな戦略・コントロールを行う。

現在、米国政府は「Smarter Planet」(地球のスマート化)を大変重視して

おり、IBM は 2008 年末に、「インターネット+『モノのインターネット』=

Smarter Planet」という概念を提示した。EU は 2009 年 6 月、『モノのインタ

ーネット行動計画』を発表した。日本政府は『i-Japan 戦略 2015』を打ち出し

たが、これは『e-Japan』『u-Japan』を引き継いだ国家情報戦略のアップデー

ト版である。

中国は、国情にふさわしい『モノのインターネット』行動計画と戦略を打ち

出し、情報技術の更なる応用を加速させ、情報技術によって国の競争力と経済

オペレーションのレベルを引き上げる戦略的役割が十分に発揮できるように

し、そして感知技術の開発、インターネットの進化、重点的応用領域の3つの

面から、積極的に中国の『モノのインターネット』を推進すべきである。

インターネットは情報化時代の も重要なインフラの1つであり、『モノの

インターネット』の重要な構成部分である。現在、世界中のインターネットが

Page 40: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

38  

進化の過程にある。次世代のインターネット(IPv6)は、現行インターネット

の拡張性、セキュリティ、適時性、敏捷性、マネジメント、通信速度等におけ

る弱点を強化するために研究された。とりわけ現行インターネットが採用する

IPv4 アドレスがいよいよ世界的に枯渇しつつある状況で、アドレスを充分に

割り振ることができる次世代インターネットの開発が焦眉の急となっている。

世界銀行が 120 か国を対象に行った 新の分析によると、ブロードバンド普

及率が 10 ポイント上昇するごとに、経済成長は 1.3 ポイント増加する。中国

で 2015 年のインターネット普及率が 50%に達するとすれば、将来 6年間で 2.8

ポイント、年平均 0.47 ポイントの増加が促されると予想され、その牽引効果

は顕著である。将来 5年間でネットワーク構築の投資需要は数千億元に達する。

パソコン購入によって総額約1.2兆~1.5兆元のマーケットを創出し、ルータ、

交換台、システムソフト、ネット管理ソフト等の周辺機器やソフトウェアも毎

年数千億元の売上が見込まれ、コンテンツサービス市場の潜在力も巨大である。

より長期的に見ても、情報産業の潜在能力と発展の余地はやはり巨大であり、

中国の市場チャンスも著しく増大するだろう。

第4章 2010~2030 年の産業構造の予測と分析

第1節 2010~2030 年各次産業構造変化の予測

1.2015~2020 年の間に第三次産業の比率が第二次産業を上回る

国際的経験から見て、各次産業の構造変化は三段階に分けることができる。

第一段階では、第一次産業が重要な位置を占め、第二段階では、第二次産業が

大きな比率を占めるようになり、第三段階に入ると、第三次産業が経済を牽引

する主導力となる。韓国の各次産業の構造変化を例にとると、1969 年に第二

次産業の比率が第一次産業を超え、しかも毎年 1%増の速さで上昇を続けた。

1980 年には、第二次産業の重要性が低下し、第三次産業の重要性が上昇、韓

国経済はサービス業発展をメインとする段階に入った。中国の各次産業構造は、

1970 年頃、第一段階から第二段階へ移り、今は第二段階の後期である。基準

シナリオの仮定 5の下では、2020 年頃までにはサービス業の比率は第二次産業

                                                              5  李善同、何建武論文を参照

Page 41: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

39  

を超え、中国経済の主導産業となる。(表 18 参照)

予測では、2010 年から 2030 年の間、第一次産業と第二次産業の比率は下が

り続け、第三次産業は上昇が続き、構造変化が も明らかになることを示す。

第一次産業は 2007 年の 11.3%から 2030 年の 3.2%に、第二次産業は 50%から

45.4%まで下降、第三次産業は 38.7%から 51.4%に上昇する。就業構造は労働生

産率や都市化の限定性等の要素の影響を受け、第一次産業の就業比率は大きく

下降するが、2030 年まで依然として 20%前後を維持するだろう。第二次産業の

就業比率の変化は比較的小さく、労働力は第一次産業から第三次産業に集中し

ている動向が顕著である。以上の予測から、おそらく 2020 年頃までには、中

国経済は第二段階から第三段階に進み、脱工業化の初期段階に入るとみられる。

表 18 中国の各次産業構造の変化(基準シナリオ)

生産構造(%) 就業構造(%)

第一次産業 第二次産業 第三次産業 第一次産業 第二次産業 第三次産業

2007 11.3 50.0 38.7 40.8 26.8 32.4 2010 10.4 48.5 41.1 38.4 27.1 34.5 2015 7.4 46.8 45.8 33.8 27.1 39.1 2020 5.5 46.5 47.9 28.9 28.7 42.4 2030 3.2 45.4 51.4 20.6 31.2 48.3

注:生産構造は GDP と各産業の付加価値と予測値により計算。就業構造は、各産業の就業

人口の予測値より計算。経済発展が順調に発展するケースを条件として仮定

資料:李善同、何建武の DRCCGE モデルに予測結果

2.経済成長モデルの転換戦略の実施は、産業構造のグレードアップを顕著

に加速させる

理論と国際的な経験が示すように、第一段階から第二段階へ、第二段階か

ら第三段階へ転換する過程は、国家の経済水準が上昇を続け、産業構造がグレ

ードアップすることである。DRCCGE モデルを使って中国経済の未来の動向を

シミュレートした結果、中国が適切に成長モデルの転換戦略を進め、都市化と

工業化の発展促進に努めるならば、経済構造の調整への力強さは増し、産業発

展拡大の加速化の条件が整う。表 19 が示すように、成長モデルの転換が比較

的早く進めば、2015 年には中国の第三次産業の比率は第二次産業の 44.6%を超

えて 47.7%に達し、第一位となる可能性がある。そうなれば、中国が第三段階

Page 42: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

40  

に入るのは基準シナリオと比較して 5年ほど早くなり、第三次産業が GDP に占

めるシェアが50%を上回る時期は、基準シナリオより10年前後早まる。一方、

労働力の第一次産業から非農業部門、とりわけ第三次産業へのシフトも著しく

加速すると思われる。第三次産業の就業人数は「第 12 次5カ年計画」末期に

4割を超え、2030 年には 50%以上に達するだろう。

表 19 中国の各次産業の構造変化予測

(成長モデルの転換が加速した場合)

産業(%) 就業構造(%)

第一次産業 第二次産業 第三次産業 第一次産業 第二次産業 第三次産業

2007 11.3 50 38.7 40.8 26.8 32.42010 10.4 48.5 41.1 38.4 27.1 34.52015 7.7 44.6 47.7 32.5 26.4 41.12020 5.5 42.7 51.8 26.1 27.6 46.42030 3.1 38.6 58.3 14.0 29.3 56.7

注:生産構造は GDP と各産業の付加価値と予測値により計算。就業構造は、各産業の就業

人口の予測値より計算。経済発展が順調に発展するケースを条件として仮定

資料:李善同、何建武の DRCCGE モデル予測結果

表 20 異なる経済状況下における 2030 年予測値

産業構造(%) 就業構造(%)

第一次産業 第二次産業 第三次産業 第一次産業 第二次産業 第三次産業

基準シナリオ 3.2 45.4 51.4 20.6 31.2 48.3

モデル転換状況 3.1 38.6 58.3 14.0 29.3 56.7注:生産構造は GDP と各産業の付加価値と予測値により計算。就業構造は、各産業の就業

人口の予測値より計算

資料:李善同、何建武の DRCCGE モデル予測結果

経済成長モデルの転換が加速するという仮定で予測した場合、2030 年に中

国の第一次産業、第二次産業及び第三次産業の付加価値の対 GDP 比は、それぞ

れ 3.1%、38.6%、58.3%となり、現在の中所得国に近い産業構造レベルとなる。

これを基準シナリオによる予測を比較すると、第二次産業は 6.8 ポイント下が

り、第三次産業は 6.0 ポイント上昇する。労働力の構造から見ると、第一次産

業の就業比率は基準シナリオで 20.6%から 14.0%に下降する(表 20 を参照)。

このような産業構造によって、中国経済が直面する資源と環境圧力は著しく減

Page 43: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

41  

少し、省エネルギー型及びエコロジー型経済社会システム構築への大きな推進

力となることは疑問の余地がない。

第2節 2010~2030 年 第二次産業内部構造の変動予測

1.消費財製造業と建築業の第二次産業に占める地位は強化される

第二次産業を採掘業、消費財製造業、中間財製造業、資本財製造業、建築業

の 5 種に区分するならば、基準シナリオの仮定でのモデル予測では、2030 年

まで中国の採掘業、中間財製造業、資本財製造業の 3 つの産業の比率は 2007

年より下降し、消費財製造業、建築業の比率はそれぞれ上昇する(表 21 を参

照)。採掘業、中間財、消費財製造業等の発展は、工業化の影響をより多く受

け、投資との相関程度は比較的密接である。消費財製造業と建築業の成長は、

主に需要と都市化からもたらされる。このことから分かるのは、今後 20 年で

中国の工業化の速度が緩和され、投資が経済成長に及ぼす作用が弱まるが、都

市化は長期にわたり発展スピードを維持し、消費需要の増加が経済成長と構造

変化にもたらす作用は著しく上昇する。これは中国が現在追求する消費と投資

が協同する経済成長モデルの転換目標と一致している。課題は、高付加価値あ

るいはハイテク産業の資本財製造業の比率が下降していることが示すように、

市場ニーズの変化等の要素のみに依存していることで、依然として産業構造の

グレードアップは満足できる初期目標に到達していないことを意味している。

表 21 2010~2030 年 第二次産業の内部構造の変化予測

(基準シナリオ:単位%)

2007 2010 2015 2020 2030 採掘業 10.5 9.7 9.3 9.0 8.4 消費財製造業 18.2 19.0 19.3 19.3 19.7 中間財製造業 33.3 31.8 32.1 31.7 31.0 資本財製造業 27.4 27.4 27.1 26.9 27.0 建築業 10.7 12.1 12.2 12.9 13.9 第二次産業の

合計 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

資料:表 20 に同じ

Page 44: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

42  

2.経済成長モデル転換の加速が第二次産業の転換とグレードアップの効果

を著しく高める

2010~2030 年に経済成長モデル転換が加速するという状況及び基準シナリ

オ下での第二産業の構造変化を比較することで、以下に挙げるいくつかの特徴

が分かる。1つは 2030 年、採掘業の比率が 2007 年と比較して下降幅が基準シ

ナリオの 2.14 ポイントから 4.39 ポイントまで拡大する。第二に建築業の上げ

幅がある程度縮小する。第三に消費財製造業の比率が 1.52 ポイントから 4.53

ポイントに上昇する。第四に資本財製造業の比率が同時期に 0.12 ポイント上

昇する可能性がある(表 22 を参照)。以上に挙げた点からもわかるように、適

切に成長モデル転換を推進すれば、基準シナリオ下の産業構造のグレードアッ

プ効果を著しく高め、また技術集約型産業の地位を上昇させ、産業構造調整と

適化、グレードアップを更に加速させることになる。

表 22 異なる経済状況下における第二次産業の内部構造変化の比較

基準シナリオ 成長モデル転換が加速した

状況 2030 年の 比率(%)

2007 年と比

較した増減 2030 年の 比率(%)

2007 年と比

較した増減 採掘業 8.38 -2.14 6.14 -4.39 消費財製造業 19.68 1.52 22.69 4.53 中間材製造業 31.04 -2.21 31.09 -2.17 資本材製造業 26.97 -0.41 27.49 0.12 建築業 13.93 3.24 12.59 1.91

資料:表 20 に同じ

3.製造業の構造調整は省エネルギー低排出の目標実現により有利となる

DRCCGE モデルの予測結果によれば、経済成長モデルが早期に転換した場合、

2030 年に 17 種の業界のうち 8 種の業界の比率が 2007 年に比べて上昇する。

その中には食品業、電力・水・ガス供給業、アパレル、製紙・文具・スポーツ

用品業、運輸・設備、木製品、電気機械等が含まれる。中でも食品の上げ幅が

も大きく、1.92 ポイントに達する。アパレル、運輸・設備、電気機械等の

上げ幅はそれぞれ 0.2~1.5 ポイントの間となった。一方、冶金、化学工業、

非金属製品、機械、石油加工・コークス製造、電子通信設備、その他の工業、

Page 45: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

43  

計器器具、金属製品等 9種の業界の比率は下降した。中でも冶金の比率の下げ

幅は も大きく、2.46 ポイントとなった。他の業界は 0.07~1.6 ポイントの

間で推移した(表 23 参照)。全体的に見て、比率が下降した業界の多くは、高

エネルギー消費産業であり、比率が上昇した業界は、低エネルギー消費産業が

多い。

製造業構造の予測については、上述工業構造の変化の特徴と同じである。成

長モデルが早期に転換すると仮定した場合、予測では、2030 年に高エネルギ

ー消費製造業の比率は 43.6%に達し、2007 年比 3.18 ポイント下降した。基準

シナリオと比較すると、下降効果は 1.2%ポイント拡大した(表 24 参照)。一

方、低エネルギー消費産業の比率は著しく上昇し、長い間エネルギー消費が省

エネルギー技術の効果を相殺するという不利な状況を改善し、省エネルギー低

排出を高める重要な役割を果たした。

表 23 製造業構造の可能性の変化(成長モデル転換の状況下)

製造業の構造(%)

2007 年実際値 2030 年予測値 2030~2007 比率の増減

食品 8.94 10.86 1.92 電気、ガス、水 9.83 11.70 1.87 服飾 3.78 5.23 1.45 紙・文具・スポーツ用品 3.34 4.12 0.78 交通運輸設備 5.90 6.65 0.75 木製品 2.44 2.87 0.42 紡織 4.55 4.85 0.30 電気設備 4.36 4.60 0.24 金属製品 3.56 3.49 -0.07 計器器具 1.01 0.89 -0.12 その他の工業 4.99 4.61 -0.38 電子通信設備 6.44 5.97 -0.48 石油加工・コークス 3.44 2.69 -0.74 機械 8.48 7.62 -0.86 非金属製品業 5.77 4.75 -1.02 化学工業 12.11 10.51 -1.60 冶金 11.07 8.61 -2.46 工業の合計 100.00 100.00 0.00

資料:表 20 に同じ

Page 46: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

44  

表 24 異なる経済状況下における製造業の内部構造の変化比較

基準シナリオ 成長モデル転換が加速した状況

2030 年の 比率(%)

2007 年と比較

した増減 2030 年の 比率(%)

2007 年と比較

した増減 高エネルギー

消費 43.55 -1.99 42.37 -3.18

低エネルギー

消費 56.45 1.99 57.63 3.18

製造業合計 100.00 0.00 100.00 0.00 資料:表 20 と同じ

第3節 第三次産業の内部構造変化の予測

2010~2030 年、第三次産業の中国経済での位置は顕著に高まる。また第三

次産業の内部構造も大きな変化が生まれ、中でも も際立った特徴は、生活型

サービス業の位置付けが著しく向上することである。予測によれば、運輸・通

信・金融保険といったサービス業は、典型的な生産型サービス業で、この種の

サービス業が第三次産業に占める比率は 2007~2030 年の間徐々に下降してい

き、その他サービス業の多数は生活型サービス業であり、その比率は徐々に上

昇する(表 25 参照)。この事と消費が経済成長を牽引する役割が強まる事とは

直接の関係がある。一方、経済成長モデルが転換するケースでは、生活型サー

ビス業の比率の上げ幅は、明らかに基準シナリオ(表 26 参照)を上回る。

表 25 2010~2030 年 第三次産業の内部構造の変化予測(単位:%)

2007 2010 2015 2020 2030その他サービス業 66.7 68.5 69.7 70.3 71.8運輸・通信・金融保険 33.3 31.5 30.3 29.7 28.2第三次産業の合計 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

資料:表 20 に同じ

表 26 異なる経済状況下における第三次産業の内部構造の変化比較

基準シナリオ 成長モデル転換が加速した状況

2030 年の 比率(%)

2007 年と比

較した増減 2030 年の 比率(%)

2007 年と比

較した増減 運輸・通信・金融保険 30.19 -3.06 28.16 -5.09 その他サービス業 69.81 3.06 71.84 5.09 第三次産業合計 100.00 100.00 100.00 100.00

資料:表 20 に同じ

Page 47: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

45  

第4節 中国の主要産業の世界における地位は変化する

中国の主要産業の持続的成長と産業構造の変化に伴い、主要産業の世界に

おける地位にも相応の変化が生じるだろう。この変化による可能性を推測し、

発展水準が近い国と比較を行うため、まず世界と比較対象国の工業とサービス

業の将来成長レベルについて予測を行った。表 27 は、世界とロシア、ブラジ

ル、インド、中国等のいわゆる BRICs の過去 20 年の工業とサービス業の年平

均成長率を示すもので、中国の成長率は、世界平均や他三カ国の平均成長率を

顕著に上回っていることがわかる。インドとロシアの年平均成長率も世界の平

均を上回っている。

表 27 1990~2007 年の BRICs の年平均成長率

世界 ブラジル ロシア インド 中国 工業 2.6 2.2 5.7 6.6 12.7 サービス業 3.1 3.7 7.1 8.1 10.9

注:ロシアの年平均成長率は 2000~2007 年のデータに基づき計算

成長率は 2000 ドルの価格により計算

資料:世界銀行

表 2 8 2007~2030 年 BRICs の工業とサービス業が世界に占める比率の変化

工業付加価値が世界に占める

比率(%) サービス業の付加価値が世界

に占める比率(%) 2007 2030 増減 2007 2030 増減

ロシア 1.21 2.41 1.20 0.84 2.02 1.18ブラジル 1.75 1.60 -0.15 1.92 2.20 0.28インド 1.77 4.28 2.51 1.60 4.73 3.13中国 11.04 28.32 17.28 3.88 11.10 7.224 か国計 15.77 36.61 20.84 8.24 20.05 11.81注:2008―2030 年の世界とロシア、ブラジル、インドの工業、サービス業の付加価値の

年平均成長速度と 1990~2007 年の年平均成長率が同じと仮定。中国は、李善同が異なる

時期の付加価値成長率の予測値に基づき計算

世界とインド、ブラジル、ロシアの工業とサービス業が今後 20 年間ずっと

1990~2007 年の年平均レベルを維持すると仮定すると、中国は 2010~2030 年

の年平均成長速度において DRCCGE モデルに基づく予測結果を確定し、BRICs

各国の工業とサービス業が世界に占める比率の変化を予測した。(表 28 参照)。

Page 48: 2010-2030年の中国産業構造の 変化動向に対する分析と展望 · 2 第1章 過去20年の中国産業構造の変遷の主な特徴 第1節 1990―2010年の各次産業構造の変化動向

46  

まず、2030 年までに、BRICs のうちロシア、インド、中国の工業付加価値が世

界に占める比率は、2007 年と比較してそれぞれ 1.2、2.5、17.3 ポイント上昇

する。中でも中国が占める比率は 28.3 ポイントという世界的に高いレベルに

上昇する見込みがある。四カ国の工業付加価値は合計すると合わせて世界の

1/3 を上回る。そして 2030 年には、中国、インド、ロシア、ブラジルのサー

ビス業の付加価値が世界に占める比率も 2007 年と比較してそれぞれ 0.28~

7.22 ポイント上昇し、そのうち中国の比率は 11.1%に達すると思われる。4か

国のサービス業の付加価値総額は、世界のおよそ 1/5 前後に達すると見込まれ

る。総体的に見て、中国とその他の新たな経済体の工業とサービス業の世界に

おける地位は著しく上昇し、中国は名実ともに世界の工業及びサービス業大国

になると期待される。