心科研2016 水野
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スクールカーストとは
• 学級内の児童、生徒の「友だちグループ」間のステータスを表す言葉。• いじめの誘因ともなりうる。• 上位層の生徒ほど支配的で高い学校適応を示す
( 森口 , 2007; 鈴木 , 2012)
• 定義:学級内におけるグループ間の地位格差
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スクールカースト研究の課題
• 実証的な研究が少ない e.g., 堀 (2015) や森口 (2008) ・・・教師や評論家の経験的な論
考 学術的視点による調査・考察( e.g., 鈴木 , 2012 )は少数
• 「スクールカースト」の心理的プロセスの不在 鈴木 (2012) は「スクールカースト」を「権力」と説明し
たが・・・
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研究1の提案
• 計量的調査によって実証的な検討をおこなう 基礎的知見を蓄積する 心理学的観点からの研究
• 「スクールカースト」の心理的プロセスに着目 何が地位→学校適応に関係しているのかを明らかにする 集団間の地位に関連し、地位格差を是認する志向性に着
目
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社会的支配理論・社会的支配志向性
• 社会に集団間の地位格差を維持・促進するイデオロギーが存在( Ho et al., 2012 ; Sidanius&Pratto, 1999 )
• 個人差は社会的支配志向性 (SDO) によって説明 高地位集団の成員は SDO が高い
• 高い SDO =地位格差の是認・正当化
• SDO と生徒の人気 (Popularity) は正の相関 (Mayeux, 2014)
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研究1の目的と予測
•目的 「友だちグループ」間の地位と SDO 、学級適応感
の関係を検討する
•予測 グループ間の地位が高いことは、格差の是認に対
する態度を通して、学級への適応感を向上させる
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グループ間地位 学級適応感
社会的支配志向性+ +
+
調査協力者と内容
• 協力者 中学1〜3年生( 1179 名)
• 時期と方法 2015 年 10 月〜 11 月に実施
• 倫理審査 所属機関(教育学院)の倫理委員会の承認
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グループ間地位とグループ内地位
• 教室内にグループがあると回答した生徒に対し・・・
1 番関わるグループを想定してもらうように教示
• グループ間地位 (生徒が知覚した)グループ間の地位 「私のいるグループは教室の中で中心的な存在だ」( 5
件法)
• グループ内地位 (生徒が知覚した)グループ内の地位 「私は自分のグループの中では中心的な存在だ」 (5 件法 )
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その他の測定項目
• SDO (杉浦他 , 2014 ) 原文を中学生に向けた表現に変更( 7 件法→ 5 件法) 「集団支配志向性」:集団間の平等への態度 「平等主義志向性」:集団間の格差関係への態度
• 学級適応感 大久保( 2005 )の青年用適応感尺度を改変 「居心地の良さ」と「課題・目標の存在」( 5 件法)
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構造方程式モデリングによる検討
• グループ間地位と SDO 、学級適応感との関係性を検討
• 統制変数 学年、性別、グループ内地位
• 分析対象者 992 名
• 平等主義志向性は項目の多くに天井効果が見られたので投入しなかった
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グループ間地位
学級適応感
SDO(集団支配志向
性)
変数間の関係性
• 全ての変数間で正の関係
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グループ間地位 居心地の
良さ
SDO(集団支配志向
性) .14***
課題・目標の
存在
*** p <.001 ** p <.01 * p<.05
.29***
.10**
.17***
.16*** .53***
グループ内地位→居心地: β = .154***
グループ内地位→課題・目標: β = .147***
グループ内地位→集団支配志向性: β = .058 n.s.
χ2(3)=7.57, p = .056, CFI=.995, RMSEA=.039
R2 = .05
R2 = .11
R2 = .19
間接効果の推定(ブートストラップ法)
間接効果(バイアス修正法、リサンプリング数= 2000回)
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グループ間地位 居心地の
良さ
SDO(集団支配志向
性)+
課題・目標の
存在
居心地の良さ: β = .026, 95%CI [.012―.046]
課題・目標の存在: β = .017, 95%CI [.010―.042]
+
+
研究1で得られた意義 / 課題
• 「スクールカースト」のプロセスを解明 ①グループ間の地位が適応感に関連する直接的なプロセ
ス ②地位格差の維持・正当化を媒介する間接的なプロセス 「スクールカースト」の実証的知見の蓄積
• 学校適応が社会的に望ましくない態度・価値観と関連
適応してない生徒だけではなく、適応している生徒にも注目
「学校に適応する」の意味を再考することを示唆
•本研究は「スクールカースト」における態度レベルの検討
実際の行動指標( e.g. 攻撃行動、いじめ)を検討する必要
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研究 2•目的
「友だちグループ」間の地位といじめ被害の関係を明らかにする
•予測 グループ間の地位が低いといじめ被害を受けやす
い 性別・教師との関係の良さが効果を調整する
いじめの発生頻度は女子<男子( e.g., Berger, 2007 ) 教師関係は援助要請を予測 (e.g., 加藤他 , 2016)
水野・加藤・太田(準備中) 14
調査協力者と内容
• 協力者 X県 Y市の中学1〜3年生( 2388 名)
• 時期と方法 2016 年 7 月に実施
• 倫理審査 所属機関(教育学院)の倫理委員会の承認を得た
水野・加藤・太田(準備中 15
測定内容(今報告分のみ抜粋)
• グループ間地位(5件法) 研究 1 と同様
• いじめ被害の項目( 5 件法) 殴られる・蹴られる(身体的いじめ) 直接悪口を言われる(言語的いじめ) 陰口を言われる(関係性いじめ) ネットでいじめられる(ネットいじめ)
• 教師との関係の良さ( 5 件法,うち 3 項目: α=.93 ) 大久保・青柳(200 4 )
水野・加藤・太田(準備中) 16
結果(ポアソン回帰)
身体的いじめ
言語的いじめ
関係性いじめ ネットいじめCoef.(b) Coef.(b) Coef.(b) Coef.(b)
性別 (A) -.22*** -.10*** .15*** .00
教師との関係 (B) -.03* -.06* -.07 ** -.01
グループ間地位 (C) -.00 -.02 -.04* .00
A×C .02 .05 .04 .00A×B .05* -.01 -.04 .01B×C -.01 -.01 -.01 -.01A×B×C .00 .00 .02 -.03*
決定係数 .09 .04 .06 .01
水野・加藤・太田(準備中) 17
*** p <.001 ** p <.01 * p<.05
注 1) 男子 =1,女子 =2注 2) 変数は中心化処理注 3) 学年は共変量で投入
単純傾斜検定
水野・加藤・太田(準備中) 18
*
• 教師との関係が悪い(- 1SD )群 男子は非有意な傾き( b = -.01, n.s. ) 女子は有意な傾き( b = .03, p <.01 )
• 教師との関係が良い( +1SD )群 男女とも非有意
(bs = -.03―-.02, n.s.)-1SD +1SD
0.00
0.05
0.10
0.15
男子女子
グループ間地位
ネットいじめの被害
**
単純傾斜検定
水野・加藤・太田(準備中) 19
• 男子は有意な傾き( b = -.05, p<.01 )• 女子は非有意の傾き( b = -.01, n.s. )
-1SD +1SD0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
0.30
0.35
0.40
男子
教師との関係の良さ
言語的いじめの被害
**
研究2の結果のまとめ・考察
• スクールカーストといじめ被害の関連 ①男女とも陰口の被害に遭いやすい ②教師関係が悪い女子高地位グループでネットいじめ被害増
③目に見えるようないじめ被害とは関連しなかった
• 性別と教師関係による調整効果 教師との関係の悪さは援助要請を打ち消す 人気な生徒は評判 (reputational) いじめの対象 (Closson et al.,
2016) ネットいじめでも噂の攻撃は女子に多い( Abeele & Cock,
2004 ) 本研究では「どのグループにいじめられたか」は考慮し
てない水野・加藤・太田(準備中) 20