20170126 ku-librarians勉強会 #210...

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情報リテラシーの習熟 〜大学・図書館間における 再認識の必要性〜 京都女子大学図書館司書課程 助教 坂本 ku-librarians 2017.01.26

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情報リテラシーの習熟〜大学・図書館間における

再認識の必要性〜

京都女子大学図書館司書課程 助教

坂本 俊

ku-librarians 2017.01.26

発表内容

•情報リテラシーの定義・概要

•大学における情報リテラシー教育

•初年次教育と情報リテラシー教育

•大学図書館と情報リテラシー教育

•大学における実践例

•今後の情報リテラシー教育に必要なこと

ACRL高等教育のための情報リテラシー能力基準

「情報が必要なときにそれを認識し、必要な情報を効果的に見つけだし、評価し、利用する」ことができるように個々人が身に着けるべき一連の能力

必要な情報の範囲を確定する

必要な情報に効果的かつ効率的にアクセスする

情報と情報源を批判的に評価する

選び出した情報を個人の知識基盤のなかに組み入れる

特定の目的を達成するために情報を効果的に利用する

情報利用をめぐる経済的、法的、社会的問題を理解し、倫理的、合法的に情報にアクセスし利用する

国立大学図書館協会教育学習支援検討特別委員会高等教育のための情報リテラシー基準2015年版

「高等教育の学びの場において必要と考えられる情報活用能力」、すなわち「課題を認識し、その解決のために必要な情報を探索し、入手し、得られた情報を分析・評価、整理・管理し、批判的に検討し、自らの知識を再構造化し、発信する能力」

IFLAGuidelines on Information Literacy for Lifelong Learning

引用:http://www.ifla.org/files/assets/information-literacy/publications/ifla-guidelines-en.pdf

情報リテラシーの定義

情報リテラシーという概念は、これまでも様々な形で提示されてきているが、‘情報’を主体とする形で、コンピュータリテラシー、メディアリテラシーなど類似概念を、またそれらの能力習得のための教育活動を包括する概念として定義することができる。

具体的な習得・技術内容は

①情報の必要性の認識、②情報の検索・識別、③情報の入手・活用の3つの要素となる。

大学における情報リテラシー教育

2012年に8月にだされた中央審議会答申『新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて』において、

学士力の向上を図るとして、優れた知識やアイディアの積極的な活用によって成熟社会を更に発展させるための教育を行っていくことが提示された。

1) 知識や技能を活用して複雑な事柄を問題として理解し、答えのない問題に解を見出していくための批判的、合理的な思考力をはじめとする認知的能力

2) 人間としての自らの責務を果たし、他者に配慮しながらチームワークやリーダーシップを発揮して社会的責任を担いうる、倫理的、社会的能力

3) 総合的かつ持続的な学修経験に基づく創造力と構想力

4) 想定外の困難に際して的確な判断をするための基盤となる教養、知識、経験を育むこと

学士課程教育の質的転換

大学教育において、従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、学生が主体的な学びを通して問題を発見し、独力で解を見出していく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換を図る。

具体的には、双方向の講義、演習、実験、実習や実技等を中心とした授業形態へとカリキュラム全体を再考し、学生が自ら主体的に学ぶことを前提とした学習環境を構築することを目指す。

情報リテラシー教育実施大学数

年度 国立大学 公立大学 私立大学 計

H16 85 67 514 666

H22 86 78 563 727

H23 86 77 569 732

H24 86 78 568 732

H25 86 81 570 737

H26 85 82 570 737

参照:文部科学省「学術基盤実態調査」(平成17年度,平成27年度)より作成http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/jouhoukiban/kekka/1279736.htm

アクティブラーニングの前提条件としての基礎教育

初年次教育と情報リテラシー教育

初年次教育の定義として・・・

「高等学校や他大学からの円滑な移行を図るための、学習および人格的な成長に向け、大学での学問的・社会的な諸経験を成功させるべく主に新入生を対象に組まれた総合教育プログラム」

初年次教育の主なプログラム内容

レポート・論文などの文章技法

コンピュータを用いた情報処理や通信の基礎技術

プレゼンテーションやディスカッションなどの口頭発表の技法

学問や大学教育全般に対する動機付け

論理的思考や問題発見・解決能力の向上

図書館の利用・文献検索の方法

初年次教育の類型

類型 目標 実用例

入学前教育 高校と大学の接続 課題図書・作文添削

補修教育 基礎学力の補修 未習科目(数学 etc.)

転換教育 移行支援 一年次セミナー

スタディスキル 学習技術の獲得 文章表現

専門ガイダンス 専門教育 基礎科目

キャリア支援 社会への移行支援 ソーシャルスキル

出典:絹川正吉「学士課程教育における初年次教育」『キャンパスマネージメント』2007,25(4), p.22.

大学図書館と情報リテラシー教育

日本で、一部の大学図書館を除いて、研究図書館になりえていない理由として・・・

学生が図書館で本を探して読むのは「本来の」学習活動の一環ではなく、学習をさらに深めようとする学生の意欲的な行動の一部となってしまっていた。日本の近代の大学図書館は、大学のすべての学生の学習活動を支援するための仕組みではなく、勉強好き、本好きの学生のためのものであった。

大学図書館は本好きな人間による本好きな人間のための図書館であり、研究と教育という課題に応える組織ではなかった。

学生が、大学で自主的に勉学を進めるためには、関連分野の資料を探すことが不可欠であり、この点で様々な情報の中から必要な情報を探しだし活用する力は、情報リテラシーの中でも重要な役割を持つようになっている。

参照:慈道佐代子「情報リテラシー教育の理論的枠組みと大学図書館における実践についての考察」『大学図書館』 2005 , 75, p.48.

(アメリカの図書館において)もし教育についての学生の考え方が、図書館は授業の主題と娯楽的読書に関してのみ有用であるということで終わるならば、彼らは情報リテラシーを身につけたことにはならない。実際、転移可能性は情報リテラシーの本質である。

参照:パトリシア・セブン・ブレイビク, E.ゴードン・ギー著,三浦逸雄, 宮部頼子, 斉藤泰則訳.『情報を使う力』勁草書房, 1995. p.51.

大学図書館における利用者教育

1. 図書館オリエンテーション(library orientation)

図書館について利用者が認知することを目的としている。ほとんどの大学で新入生向けガイダンス、図書館ツアーなどの形式で実施している。

2. 図書館利用指導(library instruction)

個々の図書館の利用方法を指導するもの。対象となる図書館の保有する情報資源をの利用方法を主眼とする。

3. 文献利用指導(bibliographic instruction)

特定の図書館に縛られることなく、文献の探索方法を指導することを主眼とする。

利用者教育と情報リテラシー教育との関係

大学生にとって必要な情報リテラシーを想定すると、図書館だけでは完結しない、多様で高度なレベルまでを視野に入れることになるため、大学図書館が情報リテラシー教育(への関わり)の看板を掲げることは、大学コミュニティ全体における情報リテラシー教育(利用者教育)を語ることにつながる。

学生にとって必要な情報リテラシーの習得・向上を促進するためには、図書館だけでなく、授業なども含めて、習得・向上の機会計画的、体系的に用意されなくてはならないということである。

参照:野末俊比古「大学図書館と情報リテラシー教育」『変わりゆく大学図書館』勁草書房, 2005. p.47.

電子図書館的機能の充実・強化について

「大学図書館における電子図書館的機能の充実・強化について」(学術審議会建議 1996年)

電子的情報資料の有効利用を含めた、情報リテラシー(情報利活用能力)教育の重要性も認識されてきており、こうした情報リテラシーを前提とした、学生の自主的な学習活動も推奨されている。大学図書館は、これら電子的教材作成、情報リテラシー教育及び学生の自主学習等に対する支援において、その一翼を担うことが求められている。特に、学生向けの利用者教育は、情報リテラシー教育の一環として、大学図書館の協力の下に、全学的に取り組むことができるよう、教育体制の整備が必要である。

印刷物がデジタル化されたことによって、自己充足的で場所に依存したコレクションという概念が陳腐化している。大学図書館は、もはや教員や学生の情報要求をコレクションの拡大といった従来の方法ではみたすことができない。

参照:B.L.ホーキンス, P.バッティン編, 三浦逸雄, 斉藤泰則, 廣田とし子訳『デジタル時代の大学と図書館』. 玉川大学出版部, 2002. p.21

大学における実践例

筑波大学情報学群知識情報・図書館学類

「図書館情報リテラシー」の開発

【コンセプト】

1) ネットワーク情報資源の活用を念頭においた情報検索

2) 筑波大学附属図書館からアクセス可能な情報資源を活用

3) 図書館情報学と図書館利用教育の融合

(図書館情報メディア研究科教員、附属図書館職員、図書館情報学専攻大学院生)

コースウェア開発

第1期(2005年11月〜2006年3月)

1) 先行事例の収集と分析

演習補助型(京都大学、東北大学等)

一コマ型(東京大学、三重大学等)

2) カリキュラム全体案の作成

1コマ(75分×2)として全10コマとする。

文献情報の入手方法

出典・引用の記録方法

附属図書館のポータルサイトの解説

NII,JSTが提供する情報資源の活用

第2期(2006年4月〜2007年3月)

学部1年生への履修対象者の変更

‘情報’と‘メディア’の概略を追加し、

初年次教育として、図書館の利用法を重視した構成へ

2007年2月『図書館情報リテラシー教本試作版』制作

第3期(2007年4月〜2007年11月)

12月から実施される「図書館情報リテラシー」に向けて、『教本試作版』の掲載Webサイト情報の更新、コンテンツの変更などの修正をおこない2007年11月『図書館情報リテラシー教本 2007年度版』制作

『図書館情報リテラシー教本 2007年度版』

第4期(2007年12月〜2008年3月)

総合科目「図書館情報リテラシー」の実施

【カリキュラム前半:基礎情報リテラシー】

ネットワーク情報資源の解説

基礎文献情報の読み方、記録方法

【カリキュラム後半:附属図書館を活用した情報探索法】

附属図書館の保有する情報資源の紹介

附属図書館Webサイト(図書館ポータルサイト)の利用

NII,JSTの提供する外部DBの紹介および利用方法

時間外学習支援のためのWiki(サポートページの開設)

情報リテラシーに関するアンケート調査の実施

「図書館情報リテラシー」授業概要

授業タイトル 授業概要

1 イントロダクション カリキュラムの説明および演習グループ分け

2 Web上の情報を用いた検索方法 Web情報の特性の把握サーチエンジンの解説・検索語の理解

3 情報追跡の基礎的技法 雑誌記事索引、専門機関・図書館Webサイトの利用方法

4 文献情報の読み方・書き方、引用のマナー

SIST02を用いた文献情報の記録方法RefWorksを用いた情報管理方法

5 公的情報に関するインターネット情報源

e-Govの利用、総務省統計局ポータルサイトの活用

6 筑波大学附属図書館Web(1) 図書館ポータルの概要説明

7 同 (2) ILL,NACSIS Webcatの理解と利用方法

8 同 (3) 電子ジャーナルの概要と利用方法

9 同 (4) CiNii,Web of Scienceの理解と利用方法

10 NII,JSTのデータベース GeNiiコンテンツの利用方法JーSTAGEの概要と利用方法

今後の情報リテラシー教育に必要なこと

1. 接続を意識した教育ロードマップ

2. 全学を通した柔軟な組織体制

3. スケールを意識した情報活用方法

4. 対象者の行動思考と既習状況の把握

情報リテラシー教育のガイドライン(2015年版)

学術分野共通に求められる情報活用能力の育成のためのガイドラインにおける学びの要素

1) 情報及び通信技術を用いて問題発見・解決を思考する枠組みの獲得(到達目標A)

2) 情報社会の有効性と問題点を認識し、主体的に判断するための知識・態度(到達目標B)

3) 情報通信技術に関する科学的な理解・技能(到達目標C)

情報リテラシーの具体的な指導として・・・

「問題発見・解決思考の枠組みの活用」を体験させながら、「情報倫理的な側面」、「科学的な理解・技能の側面」を学習させる。

ウェブスケールへの転換

これまで図書館という機関は、図書館施設という限りある収蔵量に対して、必要とされる情報資源を選定し、蔵書として構成しており、自館利用者に対して有益な情報資源を収集し、提供できるかというインスティテューションスケール(機関規模)による収集・保存・利用が図書館利用(および教育)の中心となっていた。

情報資源、提供手段の多様化から、その範囲をウェブスケール(ウェブ規模)へ拡張させることが必要となり、いかにWeb上、現実空間上に点在する情報資源に対して、良

質なアクセス手段を確保し、伝達できるかということを求められるようになった。

ご静聴ありがとうございました。