平成25年度 第3回 「産業政策デザイン・フォーラム...

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1 ―  ― 平成25年度 第3回 「産業政策デザイン・フォーラム」 テーマ「中小企業」 平成25年12月18日(水)18:30~ 仙台市役所本庁舎2階 第5委員会室 ○参加者の自己紹介 ●㈱東日本大震災事業者再生支援機構代表取締役専務 荒波 辰也(あらなみ・たつや)さん 商工中金という政策金融機関に約40年勤めました。2年前から東日本大震災事業者再生支 援機構で被災事業者支援の仕事に就いております。よろしくお願いいたします。 ●㈱ゆいネット代表取締役 稲葉 雅子(いなば・まさこ)さん 会社は、一人二人から始められる小さいビジネスを応援するという講座をやらせてもらっ ています。よろしくお願いします。 ●㈱インターサポート 代表取締役 浦沢 みよこ(うらさわ・みよこ)さん 留学支援の留学のエージェントをやっております。よろしくお願いします。 ●宮城県中小企業家同友会 代表理事 佐藤 元一(さとう・もとかず)さん 宮城県中小企業家同友会の3人いる代表理事の一人です。同友会は、「いい会社をつくろ う」「いい経営者になろう」「いい経営環境をつくろう」という3つの目的達成のために頑張っ ているところです。よろしくお願いします。 ●ハリウコミュニケーションズ㈱ 代表取締役 針生 英一(はりう・えいいち)さん 六丁の目で印刷会社を経営しております。よろしくお願いします。 ●㈱産電工業 代表取締役 髙橋 昌勝(たかはし・まさかつ)さん 電気工事業を中心に、機械器具の設置、配管工事、配電盤の開発、コンピュータ関係の機 器のソフトウエア等の開発製造を行っている会社で、主に公共施設、インフラ設備、浄水場 の建設などの工事を請け負っております。 (一社)みやぎ工業会 専務理事兼事務局長 八島 和彦(やしま・かずひこ)さん みやぎ工業会でいろいろな活動を行っています。できるだけ皆さんの意を酌みながら、環 境変化に応じた形の活動をしていければと考えております。よろしくお願いします。 ●クリスロード商店街振興組合 副理事長 山崎 浩之(やまざき・ひろゆき)さん クリスロード商店街の一員として参加させてもらっています。事業は、洋服の小売業をやっ ていたところを業態変更いたしました。

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Page 1: 平成25年度 第3回 「産業政策デザイン・フォーラム …...会に貢献する事業であると。このソーシャルビジネスは、社会性と事業性と革新性の3つを

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平成25年度 第3回 「産業政策デザイン・フォーラム」テーマ「中小企業」

平成25年12月18日(水)18:30~

仙台市役所本庁舎2階 第5委員会室

○参加者の自己紹介●㈱東日本大震災事業者再生支援機構代表取締役専務 荒波 辰也(あらなみ・たつや)さん

 商工中金という政策金融機関に約40年勤めました。2年前から東日本大震災事業者再生支

援機構で被災事業者支援の仕事に就いております。よろしくお願いいたします。

●㈱ゆいネット代表取締役 稲葉 雅子(いなば・まさこ)さん

 会社は、一人二人から始められる小さいビジネスを応援するという講座をやらせてもらっ

ています。よろしくお願いします。

●㈱インターサポート 代表取締役 浦沢 みよこ(うらさわ・みよこ)さん

 留学支援の留学のエージェントをやっております。よろしくお願いします。

●宮城県中小企業家同友会 代表理事 佐藤 元一(さとう・もとかず)さん

 宮城県中小企業家同友会の3人いる代表理事の一人です。同友会は、「いい会社をつくろ

う」「いい経営者になろう」「いい経営環境をつくろう」という3つの目的達成のために頑張っ

ているところです。よろしくお願いします。

●ハリウコミュニケーションズ㈱ 代表取締役 針生 英一(はりう・えいいち)さん

 六丁の目で印刷会社を経営しております。よろしくお願いします。

●㈱産電工業 代表取締役 髙橋 昌勝(たかはし・まさかつ)さん

 電気工事業を中心に、機械器具の設置、配管工事、配電盤の開発、コンピュータ関係の機

器のソフトウエア等の開発製造を行っている会社で、主に公共施設、インフラ設備、浄水場

の建設などの工事を請け負っております。

● (一社)みやぎ工業会 専務理事兼事務局長 八島 和彦(やしま・かずひこ)さん

 みやぎ工業会でいろいろな活動を行っています。できるだけ皆さんの意を酌みながら、環

境変化に応じた形の活動をしていければと考えております。よろしくお願いします。

●クリスロード商店街振興組合 副理事長 山崎 浩之(やまざき・ひろゆき)さん

 クリスロード商店街の一員として参加させてもらっています。事業は、洋服の小売業をやっ

ていたところを業態変更いたしました。

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●㈱アップルファーム 代表取締役 渡部 哲也(わたなべ・てつや)さん

 仙台市から認可を受けて、障害者の就労の施設として「六丁目農園」という野菜のバイキ

ングレストランを行っております。

○針生さんのプレゼンテーション~ソーシャルビジネスと地域戦略~

 私の会社は変わっていて、印刷物の企画、デザインなども行っているのですが、実は教育

支援事業とか、まちづくりのコーディネート事業や事業開発支援など、通常の印刷会社とは

ちょっと違っています。現在、印刷業界は非常に価格競争が厳しいです。価格と折り合いを

どうつけていくのかということは、我々の業界も非常に大きな課題ですが、一方で弊社では

ソリューションビジネスを通じて付加価値を高める企業を目指していかなければいけないと

いうことでして、その取り組みとして、教育やまちづくりをやっているところです。

 そういったことを考えていくと、やはり自社だけではできないことが増えてくるので、専

門性を持ったいろいろな方々とネットワークを組んでいく中で、さまざまなノウハウとか資

源を統合し応用していくことや、企業セクターだけではなく、異分野のセクターと連携をし

ていくことが非常に重要と思っています。

 私どもの会社の基本的な考え方としては、様々なステークホルダーとの信頼関係をきちん

と作っていくことが中小企業のブランディング戦略の根本であるべきだということです。あ

とは価格競争については、「効率と手間暇」というのは合理化とは相反する部分ではあるの

ですが、手間暇をかけていい仕事をすることと、それをお金に換えていく努力の両方がない

と中小企業は非常に厳しいと考えています。

 中小企業がどうやってその地域と密着しながら知名度を高めていくのかということについ

て、我々なりの答えが、「ソーシャルビジネス化」をしていこうという発想です。

 市民活動がこれだけ普及してきたのは、地域社会に課題があるからです。それが、公的セ

クターだけでは解決できなくなっており、非常に複雑化、多様化しています。ソーシャルビ

ジネスの原点は、この社会的課題がビジネスの種ではないかということであり、「これはボ

ランティアではなくて事業化をして解決をしていくのだ」というのが基本的な考え方になり

ます。社会的課題解決にビジネスの手法を取り入れ、新たな社会的価値を生み出すことが社

会に貢献する事業であると。このソーシャルビジネスは、社会性と事業性と革新性の3つを

重要視しています。こういう取り組みを通じてさまざまな情報が入ってきたり、悩みを聞い

たりしますが、それ自体が実はマーケティングだということで、今までのように企業が利益

だけを追い求めていくだけでは、企業経営もなかなか難しい時代になってきたと思います。

 そういう考え方に基づいて、当社では、学校教育分野でのソリューションをもう十数年続

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けています。当社の中には、学・社教育支援部という教育専門のセクションがあり、教育の

ソリューションの専門チームを昨年立ち上げました。文科省や教育委員会、大学と連携しな

がら、数々の新しい教育の仕組みづくりやパイロット事業をやっています。その中で、学校、

地域とともに若者や子供たちを育てていくという環境づくりが必要ではないかということか

ら、学校と地域の協働を支援しています。

 それから、理科実験事業を平成19年度から実施しています。理科離れが進んで久しいので

すが、それが産業競争力の弱体化につながるという懸念があります。これを解決するために、

地場のものづくり企業と連携をしながら、学習指導要領に沿った教育プログラム、実験プロ

グラムの開発をしています。そのプログラムに基づき、地域の企業の技術者たちが学校で実

験を行います。企業のものづくりと学校の理科の授業をつなげることによって、子供たちの

学びのモチベーションにつなげる仕組みをつくっているのです。協力企業にとっても、教育

CSRにかかわることで、社員のモチベーションも上がり、地域貢献ができると大変好評を

いただいており、去年は94校189クラス、5,300名の子供たちに理科の実験事業を実施しました。

 教育に対するいろいろなソリューションを提供していくと、実はいろいろな仕事につな

がっていきます。何で印刷会社がこういうことをやるのだと、いろいろな方々から言われま

したが、私たちの考え方をお伝えすると、皆さんご理解いただけます。ただ考える、仮説を

立てるだけではなくて、あくまでも「実施する」ことが大事。「シンク・アンド・ドゥ・タンク」

というコンセプトをつくっていますが、結果的に地域のフィールドの中で先進モデルをつく

ると、いろいろな人とか情報が集まってきて、それが次のビジネスにつながっていくという

循環が出来上がってきています。

○渡部さんのプレゼンテーション~ずっとここで働きたいといわれる会社~

 私の取り組みは、障害者だけではなく、高齢者や過疎化した水産漁業者など、地域、会社、

個人にやりがいを感じてもらえるようになり、結果として活性化しているというビジネスス

キームと思っています。

 事業としては、野菜のビュッフェレストランやカキ小屋、牛タンのお店を始めたりして、

社員数200名ぐらいの半分は何らかの障害を持っている方々と働いています。

 企業の目的、理念は何かというときに、僕はずっと事業経営をしてきましたが、福祉事業

には非常に後発で入ったもので、今までと同じことをやってはいけないと考え、自分の得意

分野で障害者の就労をしようとなりました。そこで、「障害者を納税者にすること」と、「た

だ働く納税者になるだけではなくやりがいと生きがいをつくっていくこと」、この2つを理

念に掲げて4年前に始めました。

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 いろいろな障害を持った方々と働いていく中で、事業所の特徴は、その人に合った環境を

つくっていこうという一般企業と真逆の発想で組織づくりをしたところが、今に至っている

と思います。そこにあるものと、適材適所でポジションを合わせていくことによって、新し

いマッチングから新たなものを創造していくことを、まずひとつレストランで始めました。

 手段と目的という話ですが、何のためにレストランを広げていくか、働ける能力がある人

たちに職場を提供してやりがいと生きがいをつくるために会社なり事業所が必要とスタッフ

に認識してもらうことです。対象者は障害者から始まったのですが、高齢者だったり、被災

者だったり、生産者であったりと、すごく解釈が広がっていることが我々の企業の目的になっ

ています。

 キーワードは再生で、居抜き物件なり、障害者の活力ということで、お金をかけずに今あ

るものを生かしていくか、社会負荷をかけずにやっていくかがポイントになってくると思い

ます。そんな取り組みをメディアに取り上げていただくと、口コミとなって売り上げにも直

結をしてきます。

 その代表として六丁目農園という障害者就労型野菜バイキングレストランがあります。こ

こは、非常に場所がわかりにくいところでも広告宣伝費を一切かけずに、ホテルメトロポリ

タンと同じくらいの集客があると言われています。ポイントは、福祉と収益事業の両立で、

社会問題と収益をいかに結びつけていくかというモデルがソーシャルビジネスの根本なのか

なと。収益を度外視しては、雇用も守れない状況になります。やはり利益というものは非常

に重要です。利益の上げ方として、企業の理論ではなくて、地域問題を解決することにして

いくこと。近江商人のような三方よしという発想が非常に重要になってまいります。

 震災後、農業、水産業、大きなダメージがあったときに、そこを企業の力でより活性化し

ていく6次化という取り組みがありました。私が出資してカキの養殖業者さんと会社をつ

くったのが、宮城県孤崎水産6次化販売という会社になります。

 震災前から過疎化が進み、それが震災によって顕在化されている。そこを3次産業者の力

と一緒になっていくことが地域の活性化になるということで、今売り上げが上がっている浜

になっています。「ガイアの夜明け」等々の取材を受けたこともありまして、生き生きとして、

毎月東京に行って営業をしているということです。その後ろ姿を見て、後継者がかっこいい

と思って地域に残っていくという取り組みをしています。

 最後のキーワードとして、公益資本主義を今提唱しています。これは、日本人だからこそ

つくっていける新しい考え方、公益資本主義をこれからの公用語にしていこうと推進委員会

を立ち上げて、全国規模で今動き出したところの理事をやっており、法律も含めた変化、例

えば寄附に対する税制問題などもこの推進協議会でやっていこうと、具体的に動いています。

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○ディスカッション◆地域のために自分の会社がどうあるべきか考えていた会社は震災からもいち早く立ち上がれた

佐藤 私が一番大事にしているのは経営理念と経営方針と経営計画の3つを総称した経営指

針で、科学性と社会性と人間性という3つを必ず含めて経営理念を成文化する運動としてずっ

とやってきて、実際やっていることが我々の一つのモデルにも考えられるなと感じました。

 甚大被災地で会社や工場が流された中でいち早く我々の仲間が立ち上がれたのは、経営指

針をきちんと成文化している会社がほとんどだったわけです。地域と自分の会社との関係を

いつも考えて、地域のために自分の会社がどうあるべきかを絶えず対比して考えていたとい

うことから、何とか立ち上がったと。地域をいかに早く再生するかということで、今も頑張っ

てもらっているわけですが、その根本は、我々が言う経営指針にあると感じておりまして、

お二人のお話は、逆に我々を力づけていただいた気がします。

◆ものづくりの楽しさを覚えた子供たちが会社に入ってくれればという気持ちでボランティア

髙橋 私も発明協会の幹事をやっていて、月に2回ぐらい土曜日に学校を借りて、子供たちに

ものづくりの楽しさを教えています。将来ものづくりの楽しさを覚えた子供たちが会社に入って

くれればいいなという教育的な部分を目的に、結局はボランティアのような活動をやっています。

先ほど科学を商売につなげようという話がありましたが、実際ビジネスにつながっているかをお

聞きしたいのと、間接的なビジネスというお話もあったのですが、本当に間接的なビジネスで商

売になっているのかを質問して、その後また違う話をしたいと思います。

◆地域や企業が連携してキャリア教育は十分なビジネスになる

針生 子供たちが社会に出たときに、いかに自立して生きていく力を育むか。学校教育はど

うしても学力を重視しますが、企業の立場からすると、新たな課題にチャレンジしていく姿

勢が大事なのですね。ところがそういった力を育てるのは学校現場だけではなかなか難しい

ことがあって、地域や企業が協力し合って役割を果たしていくべきではないかと思っていま

す。平成17年度から経済産業省の事業で、私どもの会社で「キャリア教育事業」を受託した

のがきっかけで、教育とは深くかかわってきました。これはボランティアではなくビジネス

に確実につながっていて、国や自治体、キャリア教育であれば、企業からもお金もいただく

こともありますし、そこから派生していく仕事もたくさん出てきます。ビジネスのつなぎ方

や考え方が、恐らく一般的な企業のやり方とは違うと思います。私はNPOの世界も知って

いて、NPOの手法や考え方を勉強したことがあって、お金のつくり方には独特の感覚があ

ります。

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◆セクターを超えた異分野とのコラボレーションはビジネスマッチングにも有効なのでは

髙橋 なるほど。この間、子供たちにいろいろ教えて、結果的にはお金がなくてなかなか苦

しい状況で、自前でやっているところなのですが、もしビジネスにつなげられるのであれば、

もっといろいろな教育ができると思っていたものですから。

 それから、ソリューションビジネスのお話を聞いたのですが、異業種だけではなくてセク

ターを超えた異分野とのコラボレーションという話を聞きまして、私はみやぎ工業会でビジネ

スマッチングの部会長をやっており、民間版のビジネスマッチングをつくろうと、工業会での

ビジネスマッチングというスタイルのほかに、個人的に投資をして会社をつくりました。例え

ば、工業関係で言えば開発できるが販売できない、販売できるが製造できないなどですね。い

ろいろな業者や会社を集めて、ハブになってビジネス展開がうまくできないかと。もう作って

3年になるのですが、なかなか利益まで上がるような状況になっていない、事業でいろいろな

技術的にも困っている会社をうまくコラボレーションできたらいいのではないかというビジネ

スをやってきたのですが、現状はまだまだ難しい状況で、今お聞きした話では、随分うまくいっ

ているのかなと感じましたので、そのうちまた教えていただきたいと思っています。

◆工業はこれまでの請負的なものづくりを変える必要が

八島 みやぎ工業会でも11月に、復興の状況のアンケートをとりました。みやぎ工業会自体

は沿岸部の企業が多くないので、津波被害があったのは会員数360社のうち約1割の34社で

す。その中で3.11の売り上げを超えている、同等または超えているとした企業が約7割い

ました。沿岸部のほうは3割未満の方が10%ぐらいおりましたから、今後支援をある程度絞っ

ていかないと、なかなか全体の底上げにはならないのかなと。この地域の中小企業が、自社

のセールスポイントをきちっとまとめて、積極的に出ていく時期なのだろうなと。やはり宮

城県の方々は、請負的なものづくりが多かったので、ここを変えていかないとだめではない

かと思います。補助金頼みでは復興はしない、自立の精神がない限りだめだという印象を受

けています。

 それと、県内がどういう状況になっているかというのを改めて検証して、支援の仕方も変

えていかないと、なかなかエンジンがかかってこないのかという印象を感じています。

◆40、50代くらいの組合員とスクラムももう1回つくり直したら、今論理性を求めてやって

 いる次元も、一歩一歩進んでいくのでは

山崎 組合というのは、改めて思ったのは、体質が古いなと。今回の震災の問題でも、皆さ

ん表面はいいのですよ。この4年、旧商店街を一つの網羅した形で、面の広がりで市民、消

費者あるいはユーザーに対して、私たちの持っているポテンシャルをもう少し持続的に高め

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て、お買い物を一つの手段として楽しんでいただけるような論理で始まりましたが、今やる

べきことを次の世代とタッグを組んでもう少し強引にやらないという問題提起はみんなお互

いに共有しているのですね。

 組合員の役員の年齢を見ていると、私も含め皆60を超えているのですよ。ところが、組合

員には40、50代で、おもしろい男がいっぱいいます。ただそれを組織の中で吸い上げるシス

テムがない。どうしても商店街の組合は、昔からじいさん、ばあさんから子供までの年代に

よる人間関係が強いです。

 60、70代の人よりは、やはり40、50代くらいの組合員とスクラムももう1回つくり直した

ら、今論理性を求めてやっている次元も、一歩一歩進んでいくのではないかなと思います。

 それともう一つは、我々がすすめる事業というのは、1、2年で種をまいたものが、3、

4年して結果を出すということがあるのです。事業計画を立てるときには、そこのところの

継続性を受け皿の我々がモデルチェンジしてでもどうやっていくかなというところが、私の

役目として担わされている部分があるので、きょうは本当に勉強になって、刺激を受けて、

元気よく帰れると思っています。

◆留学を東北の新しい産業の一つとして掘り起こしたい

浦沢 今、留学でもグローバル化がキーワードとなっています。日本の会社自体がグローバ

ル化しており、対応できるグローバルな人材供給が必要と言われてきているからです。東北

大学が今回グローバル人材育成の国の補助金を獲得したそうですが、東北では唯一というこ

とだったので、東北全体のグローバル化はまだまだ高等教育のところでも意識が薄いと感じ

ています。ただ、実感としては、留学は去年に比べて回復していますし、今年は120%ぐら

いになってくると思いますので、伸びてきています。グローバル人材の育成という目標を明

確に持った形で外に出すのが私たちの今の大きなポイントではあるのですが、留学から帰っ

てきたらどう活かしていけるのか、新しい切り口の教育という方たちの意見を聞いて、学生

たちに対して働きかけができるとおもしろいと思いました。

 実際、留学は語学産業に分類され、産業の全体総額が1兆円に届く勢いなのですが、仙台

エリア、東北エリアには利益がほとんど落ちていないのが現状なので、新しい産業の一つと

して、まだまだ仙台地域でも掘り起こしができると考えていたところです。

◆うまくいったからこそ次をやってみようと思って実際にやる人が成功していくのでは

稲葉 私どもの会社では、仙台市の委託事業で、地域ビジネス創出支援事業という仕事をし

ています。通称「ちっちゃいビジネス開業応援塾」といって、1人や2人、家族ベースで何

か仕事を始めようという方々を応援するための講座を開いています。

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 そこの中で、社会的課題が実はビジネスの種とは私もよく言っていて、私たちは地域ビジ

ネス創出支援事業の中で、1人や2人で何か仕事を始めたい人を応援していますが、1人で

お仕事を始めて、莫大に売り上げを上げる方もいますが、大方は自分が食べていける分だけ

でいい方、赤字さえ出なければいいと考えている方で、そこを少しずつ超えていかないと、

実際に事業化と言えないと思っているのです。その事業化するためのアイデアの一つが、今

日お話しいただいた針生社長や渡部社長にはあると思うのです。

 例えば、針生社長の場合はもともとやっている業務に加え、何か新しいことに枠を広げよ

うという観点になること、渡部社長の場合は、うまくいっているからと現状に満足する方が

多いところを、「うまくいったからこそ次をと考える」からだと思うのですね。そこには、

うまくいったから次をやってみようかと思うか、思って実際にやるかという2つのステップ

があると思います。こういうことは誰にも教えてもらわないので、そう思った人が成功して

いく、会社を大きくしていくと思うのですが、そう思うべきだと教える機関というのは確か

にないと、きょうお話を伺っていて思いました。

 起業支援をやっていると、形式的に教える人たちはいっぱいいるのですが、次のステップ

にいくこと自体の道を教える誰かがいるといいのではないかと思いました。

◆融資を行う事業者には、必ず誰のために何をやりたいかを聞いている

荒波 前回の参加者の方から、資金繰りのことで、本当につらくて寝られない夜が何度も続

いたというお話があったので、金融にある程度携わってきた人間から見て、どの辺からそう

いう問題が発生したのかについて、少し論点が外れるのですがお話ししたいと思います。

 私は以前、商工中金仙台支店で次長をやっていたのですが、銀行員の大部分は、返済が確

実と言えない融資は問題債権であるという考え方に縛られていると思います。これでは成熟

段階にある部門を確立していない企業は、融資対象となりにくくなります。

 それから、返済原資を確実とするために、信用保証協会の保証や不動産担保、あるいは社

長さんたちの個人保証に依存してしまいます。これは間違っていると思っています。

 リスクを勘案して融資していくのが金融機関の仕事と思っていまして、機構の職員にも、

事業者の方に質問することについては、誰のために何をやりたいですかと必ずお聴きするよ

うにと指導しています。その人の事業者の魂はどこにあるか、誰のために何をやりたいかと

いうことが、針生さんや渡部さんがおっしゃる企業理念と一緒かと思いました。

◆現状のままで満足する人と、どんどん広げていく人の違いは目標の持ち方

渡部 お金持ちになりたいだとか見栄など自分のためだけならば、自分が満足するとやめて

しまいますが、目標が他人や地域のためとなれば、際限なく、もっともっとという状態にな

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ります。小さいまま、現状のままで満足する人とどんどん広がっていく人の違いは、目標の

持ち方だと思うのです。

 また、自分の中で無理だと思っても、ちょっとしたアドバイスや御縁で、とまりかけた車

がまた走り出して加速していくことはありますので、ひとつのご縁っていうのはすごく大事

だなと改めてお話を聞いて思いました。

◆すごくいい資源があることに気がつくと、そこを梃子にどう自分たちのビジネスを変えてい

 くかという力になる

針生 企業の寿命という話がありますが、大体創業してから5年以内に85%、10年以内だと

98%ぐらい倒産すると言われています。30年以上生き抜けられる企業というのは、本当に奇

跡的で0.0何%ぐらいになるそうで、企業が生き残っていくのは大変難しいことだと改めて

感じています。生き残っている企業というのは、業態変革の連続ですよね。時代に合わせて

柔軟に自分たちのビジネスを変化させていくということと、あとは荒波さんがおっしゃった

ように、金融とのおつき合いの仕方も大事ですね。実は当社が所属している印刷団地を通じ

て、銀行さんとのつき合い方を覚えてきたというのがあるのです。銀行との付き合い方に関

してもベースがない経営者は、なかなか最初苦労すると思っています。

 私も自分で商売をやってみて感じるのは、厳しさのなかで、自社の中に実はすごくいいリ

ソースがあることに気がつくと、そこを梃子に自分たちのビジネスを変えていく力になりま

す。そこに気が付かないと、変革は厳しいと思います。どの業界も、業績が良いところと悪

いところは必ずあるものです。必ずしも全部が悪い業界は無いのです。私が印刷団地の理事

長になったときに、旧来型の組合からどう脱却するかという議論の中で、ビジネスデザイン

センター構想というのをぶち上げました。当初は理事長の言っていることはようわからんと

最初随分批判を受けましたが、6年たってみると、ようやく組合の方向として、道筋が出来

てきました。

 印刷団地ではインキュベーション施設を震災前につくりました。生まれたての企業に一人

立ちをしていくための支援をしていくのが非常に重要だと思っています。この地域で新しい

ビジネスを育てない限り、印刷業である自分たちにもリターンはないわけですから、兎に角

地域のビジネスを育てていこうという思いでつくりました。このインキュベーションを立ち

上げるに当たっては、仙台市からも支援をいただきながらスタートしましたが、今は自前で

運営しています。将来的には、こういった創業や新商品開発の支援を拡大していこうと思い

ます。また、組合の事務局を、コストセンターではなく、新事業を開拓していくプロフィッ

トセンターに変えていきたいと思っています。そのために、いい人材をつかまえて、組合の

次の事業につなげていくことで、組合自体も業態変革をしていこうと取り組んでいます。

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◆正しい考え方や理念がもっと担保力として付加されてもいいのではないか

佐藤 私は建設業ですが、今はマスコミで物から心の時代と言われていますが、銀行の担保

力はまだ土地と金なわけです。物から心の時代はいいのですが、正しい考え方や理念がもっ

と担保力として付加されてもいいのではないかと思います。そのための数字的な裏づけとい

うのは当然必要ですが、その延長線上で今までの担保力を物ではなくて考え方に移していっ

ていただければいいというのが一つです。

 それから、信用力というのが、何によって信用するかということを、貸し手も借り手も共

有しないとだめだと思うのです。今高齢社会に向かっていますが、このままいくと数字的に

は破綻するという感じになっています。土地を持っているが有効に使う方法がわからず困っ

ている人もたくさんいるわけです。それを有効に使う方法を知っている我々が、担保力の問

題とか、考え方はここでこれだけ需要があってというと、感覚的な数字で計画を作っても、

なかなかそれが融資の対象にならない。なおかつ先祖伝来の土地を何とか有効に使いたいが、

いい話に乗れば大体うまくない話が多いと地主さんそのものがこのような提案に対して非常

に不信感を持っている。このような場合に行政が絡むことが必要ではないかと思うのです。

例えば全体的に不足感がある高齢者対策の施設をもっと増やすために、行政も保証まではい

かなくても指導するとか何らかの形で加わることができれば、今からはそういう担保力とい

うものを、今までの物だけではなくて、考え方、集まった人のブレーンの質も勘案していっ

て、担保とできないかと考えています。

◆役所関係はコラボレーションできたりする仕組みをつくるような役目を

髙橋 実はうちの会社、5年前に手形の不渡りを起こしたのですが、やはり潰すわけにはいか

ないということで、民事再生の道をたどったのですが、そのときに金融機関さんは何も助けてく

れなかったですね。一昨年前には終結をして今は普通の会社に戻り気づいたことが、融資を受け

なくてもいいことでした。担保がないので、技術力とか信用力で借りたいのですが、金融機関で

貸してくれないのが現状です。そこで、借りないでやる方法を考えなくてはいけないことに気づ

きまして、今は、全然融資を受けずに、10億ぐらいの現金でぐるぐる回しているという状況です。

 私が思うには、役所関係は仕事をもらえたり、コラボレーションできたりする仕組みをつくる

ような役目をしていただければ、資金繰りは自分でできる実感がありました。

◆よい日本産品はまだまだあるということを気づかせて世界に向かわせるというのも、ある意

 味では我々の役割

八島 我々なりに魅力ある工業会とはどうあるべきか、ここ1、2年、いろいろ考えてはい

るんですが、皆さんの会費だけでやっているので、やはりいかに多くの会員が参加できるよ

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うな仕掛け、あるいは場の設定ができるかが、我々の問題なのかなと思います。会費だけ出

して、全然出てこない方もいるわけです。やはり出てきて、フェイス・トゥ・フェイスでい

ろいろなことをやってみたいですね。すぐ仕事には結びつかないが、回りまわってというの

は間違いなくあるので、できるだけ皆さんには参加してくださいというお話はしていますが、

まだ道半ばかという気はしています。

 もう一つ、我々工業は世界で今後どう闘っていくのかを改めて今問い直している状況です。

工場、特に食品はセンサーが大きな役割を果たしていて、設備の問題を含めて、工業がまだ

まだいろいろな意味で関与して、第6次産業的なものもできるのかな、日本の中小企業の果

たす役割というのは、この辺にもあるのかなと。よい日本産品は、まだまだあると思うので

す。それを気づかせて世界に向かわせるというのも、ある意味では我々の役割なのかなとい

うふうに感じています。

◆我々商店街が、もう1回集団の目的と手段を整理すべき

山崎 我々商店街が、もう1回集団の目的と手段を整理すべきと思っていました。目的意識

を持って仕事ができるチームをもっとつくっていかないと。ただ、よその町内のトップ集団

には言いにくいですね。

 実際次の世代、40、50代の人たちに、そういう思いの共有をしていることがあります。それ

と商店街の役員としてこういう会にお呼びいただいて学ばせてもらうのですが、それをまちに

持って帰ってきて、懇談の場をもって引き出しを多くしてあげるのですが、話題にならず、個

人の財産になっているということがあります。今私担わせていただいているお役目の中で、ひ

とつひとつの切り口をもう1回、何のために今頑張るのだというところを、再チャレンジした

いなということと、実働部隊がいる間にいろいろな施策、手段を試してみたいと思っています。

◆仙台市のお金にひもづけをして、また仙台に落ちていくというような仕組みができればおもしろい

浦沢 ワシントン州では、州に税金を支払う会社のものしか絶対買ってはいけない決まりに

なっているそうです。要するに、仙台市から払う先が東京の会社である状態がこれからもど

んどん続いていくという形ではなく、仙台市のお金にひもづけをしてもらって、今度どんど

んまた仙台に落ちていくというような仕組みができればおもしろいとは常に思っています。

仙台市のお金にひもづけしてもらって、小さい人たちを育てていく、そして大きなマインド

になってもらうまで待ってもらうというのは、大切と思っています。

◆こういうところに出てこられるようになる機会がないと、下が新しく育たない

稲葉 先日ある勉強会で、九州の湯布院の観光協会の会長さんにお目にかかりました。その

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方は49歳の女性なのですが、その理事や役員さんが皆さん年下だそうです。役員には60代や

70代の方は入れないそうです。最初は軋轢もいろいろあると思いますが、何かしらルール化

して、新しい風を入れていかないと、一気には変わらないと思います。

 先ほど、いろいろなことが個人の財産になって、町内会や商店街に返ってこないというお

話がありましたが、それもやはり、返るためのフィールドがどこにもないからだと思います。

仙台で私は10年やっているのですが、まだ新米です。もっと若い、新しい人たちが、こうい

うところに出てこられるようになって皆さんのお話を聞ける機会がないと、下が新しく育た

ないと思います。

◆経営者たちがあくなき挑戦と、疑問と、エネルギーを持って、周りに発信していく責任がある

渡部 事業にはやはり、金融という部分のおつき合いが大事だと思います。今は金融機関の

査定も随分変わってきていて、公益性と人間性、そして収益性と、このバランスで融資して

いるような気がしています。今までの担保主義というのはもう完全になくなってきて、新し

い切り口と、銀行も非常に変わってきていて、特に震災以降は変わってきていると感じては

います。やはり旧態依然から変えていくために、とにかく変化させていかないと、消滅して

しまうわけで、経営者たちがあくなき挑戦と、疑問と、エネルギーを持って、周りに発信し

ていく責任があると感じます。

◆まちづくりのストーリー、事業開発のストーリーを書ける人、いろいろな分野にそういう人

 たちを育成していくべき

針生 私は、まちづくりのストーリーを書ける人、事業開発のストーリーを書ける人、いろ

いろな分野にそういう人たちを育成していくべきと思っています。こういう人たちは、もち

ろん知恵とか知識も必要ですが、一緒に汗をかく、思いを共有することが大事で、そういう

人たちがいろいろな分野にたくさん育ってくると、まちの活力が出てくると思います。

 それから、これは特に地方都市ではなかなか人材が少ないので、高い専門性を持った人た

ちの育成をしていかないといけないと思います。特にこの支援の専門家に関しては、オール

マイティというのはいないので、いろいろな専門家が連携することが必要です。

 それから、支援機関同士も、県や市、国を超えて連携をして、中小企業の育成をやっていっ

てもらいたいと最後にお話しして終わりたいと思います。

●まとめ座長 これまで女性の起業、起業と創業に関してフォーラムを開催いたしましたが、今回は

既に前から事業をなさっておられる中小企業の皆様が、その中小企業を活性化する上で何が

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必要かというようなことについて、我々として認識もしたいし、皆さんとそういった認識を

共有したい、そういうふうに思い、テーマとしたところです。我々としては、あくなきチャ

レンジをして、産業政策をデザインしたいと思っていますのでよろしくお願いします。