28 4 21 潰瘍性大腸炎治療の実際...2016/04/21  · 第102回 日本消化器病学会総会...

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102日本消化器病学会総会 ランチョンセミナー7 平成28421日(木) 潰瘍性大腸炎治療の実際 近年、潰瘍性大腸炎(UC)の難治例に対しては、タクロリムスや生物学的製剤が相次いで保険適用 となり、効果的な治療環境が整ってきました。一方、白血球除去療法(LCAP)は保険適用から15年が 経過し、 有効性と安全性が両立する優れた治療法として広く普及しています。いわゆるintensive療法など、 その有用性を向上させるための工夫やノウハウも蓄積されてきました。本日は、 UC治療の最前線で実際に 数多くの患者さんに LCAP を施行している 2 人 の ス ペ シャリストを お 招 きし 、今 後 の UC 治療に おいて、どのようにLCAPを活用していけば良いのか、また、どのように運用すれば、さらに効果的・ 効率的な治療が可能になるのか、お話を伺いたいと思います。 はじめに はじめに 兵庫医科大学 炎症性腸疾患学講座 内科部門 横山 陽子 先生 演者 兵庫医科大学 炎症性腸疾患学講座 内科部門 中村 志郎 先生 司会 北里大学医学部 消化器内科学 横山 先生 演者 LCAP学術情報 本講演記録は20164月に東京で開催された第102回日本消化器病学会総会ランチョンセミナー7での講演内容をもとに作成したものです。

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Page 1: 28 4 21 潰瘍性大腸炎治療の実際...2016/04/21  · 第102回 日本消化器病学会総会 ランチョンセミナー7 平成28年4月21日(木) 潰瘍性大腸炎治療の実際

第102回 日本消化器病学会総会 ランチョンセミナー7平成28年4月21日(木)

潰瘍性大腸炎治療の実際

 近年、潰瘍性大腸炎(UC)の難治例に対しては、タクロリムスや生物学的製剤が相次いで保険適用となり、効果的な治療環境が整ってきました。一方、白血球除去療法(LCAP)は保険適用から15年が経過し、有効性と安全性が両立する優れた治療法として広く普及しています。いわゆるintensive療法など、その有用性を向上させるための工夫やノウハウも蓄積されてきました。本日は、UC治療の最前線で実際に数多くの患者さんにLCAPを施行している2人のスペシャリストをお招きし、今後のUC治療において、どのようにLCAPを活用していけば良いのか、また、どのように運用すれば、さらに効果的・効率的な治療が可能になるのか、お話を伺いたいと思います。

はじめにはじめに

兵庫医科大学炎症性腸疾患学講座 内科部門 横山 陽子 先生

演者

兵庫医科大学炎症性腸疾患学講座 内科部門 中村 志郎 先生

司会

北里大学医学部消化器内科学

横山 薫 先生演者

LCAP学術情報

本講演記録は2016年4月に東京で開催された第102回日本消化器病学会総会ランチョンセミナー7での講演内容をもとに作成したものです。

Page 2: 28 4 21 潰瘍性大腸炎治療の実際...2016/04/21  · 第102回 日本消化器病学会総会 ランチョンセミナー7 平成28年4月21日(木) 潰瘍性大腸炎治療の実際

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LCAP開発の流れ図1

1989年 澤田康史先生が、米国留学中に白血球除去 療法のヒントを得る。

1993年 下山らは、日本で初めてステロイド抵抗性 UCに対してLCAPを施行し、その臨床的効果 について厚生労働省の研究班で報告。

1996年 中等症以上のUCに対してLCAPの治験が 多施設で始まる。

2001年8月 UCに対して保険適用。

下山 孝名誉教授

澤田 康史先生

血液処理量30mL/kg(BWA-LCAP)の有効性と安全性

BWA-LCAPの有効性は従来処理量群と同等

BWA-LCAP群のフィルター内圧上昇発生率は従来法より低い結果に

UCDAIの比較 EIの比較

フィルター内圧上昇発生率(70mmHg以上)

BWA-LCAP

従来法LCAP

0 2 4 6 8 10 12

9.6±1.63.7±2.7

8.4±1.92.1±1.9

BWA-LCAP

従来法LCAP

0 2 4 6 8 10 12

10.6±0.46.6±1.3

9.6±0.54.5±0.5

BWA-LCAP

従来法LCAP

0 5 10 15 20(%)

2.1%(3/140)

16.4%(23/140)

UCDAI(points) EI(points)

検定法:Fisherの正確確率検定

Fukunaga K, et al.Journal of Clinical Apheresis(2011)26, 326-331.

■ LCAP開始前 ■ LCAP10回終了後 / BWA-LCAP群と従来法LCAP群のLCAP10回終了後のUCDAI、EI値に有意差なし / *:p<0.05 検定法:Wilcoxonの符号付順位検定 平均値±標準誤差

図2

p=0.002

 潰瘍性大腸炎(UC)に対する白血球除去療法(LCAP)は、澤田康史 先生が米国留学中にヒントを得たことをきっかけに、当科の下山孝教授 (当時)らのグループが中心となって開発した治療法です(図1)。2001年8月に保険適用となって以降、難治性UC患者の治療法として広く普及し、 その有効性と安全性や作用機序に関する様々なデータが報告されて います。また、保険適用以後15年間で、その有効性を保ったまま利便性を 向上させるような工夫も行われてきました。

 その一つが、当科の福永健先生らが報告したLCAPの血液処理量

についての工夫です。LCAPの血液処理量は、従来、2~3Lとされて きましたが、福永先生らは、血液処理量を3Lで固定した群と体重1kg当たり 30mL(体重60kgの方なら1.8L)で調整した群とで有効性に差がないこと、さらに、LCAPの弱点である差圧上昇の発生率を大幅に低下できる ことを報告しました(図2)。2014年に報告したLCAPの大規模な市販後 調査の結果でも、血液処理量と有効性の間に統計学的な相関を認め ない結果が得られています。

 一方、当科の長瀬先生らは、過去に血球成分除去療法(CAP)を受けた患者さんを対象にアンケート調査を行い、患者さんの意思決定に重要な 因子を検討しています。その結果、患者さんがCAPの治療に伴う負担と して考えられる因子として、通院の負担、穿刺時の痛み、そして治療時間

が抽出されましたが、特に治療時間が長いことが患者さんの負担となって いることが分かりました(図3)。通院の負担は患者さんのライフスタイルに合わせて夜間や休日でも可能な透析施設で、また自宅や会社から通院の 便利なクリニックで治療を受けていただくことで解消されつつあります。 穿刺時の痛みはリドカインテープで対応できます。そして、特に患者さんが 負担を感じていた治療時間については、血液処理量を体重1kg当たり30mLに調節することで患者さんの拘束時間も短縮させることができます。

 これらの結果を踏まえると、血液処理量を適切に調節することで、

LCAPの有効性を保ったまま差圧上昇を大幅に低減でき、さらに患者さんの利便性をも向上できると考えています(図4)。

新たな時代を迎えた潰瘍性大腸炎治療における白血球除去療法(LCAP)の期待と展望 兵庫医科大学

炎症性腸疾患学講座 内科部門 横山 陽子 先生

保険適用から15年、工夫により向上してきた 白血球除去療法の利便性

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CAP再治療の希望に影響をおよぼす因子

ロジスティック回帰分析の結果従属変数:再治療 実施したい、実施したくない

Nagase K et al., Therapeutic Apheresis and Dialysis(2013)17, 490-497.

CAP再治療の希望に重要な因子は有効性と治療時間

説明変数満足度

効果安全性

治療の負担治療時間痛み

通院の負担

偏回帰係数

1.340.80

-1.42-0.80-0.96

尤度比χ2値

20.70 3.87

12.30 5.84 4.47

p-value

<0.001 0.051

<0.001 0.016 0.035

Odds ratio

3.812.23

0.240.450.38

95%CI

1.90-7.661.00-4.97

0.10-0.590.23-0.870.15-0.97

図3

当科におけるUCとCDの年齢分布図5

10~14 15~19 20~24 25~29 30~34 35~39 40~44 45~49 50~54 55~59 60~64 65~69 70~74 75~79 80~84 85~89 90~ 年齢(歳)

3530

25

20

15

10

5

0

n数

CD   UCCD患者20代後半~40代前半

60歳以上のUC患者:34.4%

高齢者(60歳以上)におけるLCAPの有効性図6

臨床的寛解(CAI≦4)

臨床的改善(△CAI50%以上低下)

100

80

60

40

20

0

<60歳  ≧60歳 <60歳  ≧60歳(%)

68.5%(356/520)

70.9%(73/103)

73.3%(381/520)

76.7%(79/103)

粘膜治癒(EI=0)

粘膜治癒(EI≦1)

100

80

60

40

20

0

(%)

20.4%(37/181)

17.6%(9/51)

63.5%(115/181)58.8%

(30/51)

60歳以上と60歳未満で、臨床的寛解率、粘膜治癒率に有意な差は認められなかった 。

検定法:Fisherの正確確率検定

高齢者(60歳以上)におけるLCAPの安全性図7

≧60歳

検定法:Fisherの正確確率検定

<60歳

20

10

0

(%)

10.7%(77/721)

n.s.

7.9%(10/126)

60歳以上の主な副作用は、血圧低下3例3件(軽微1件、中等度2件)、嘔吐2例3件(軽微2件、中等度1件)、血小板数減少2例4件(軽微4件)、アナフィラキシー様ショック1例2件(中等度2件)で、副作用の種類に特徴的なものはみられず、また、重篤な事象および死亡症例はなかった。

LCAPにおける悩みが解消

図4

患者にとっての利便性の向上

目標処理量 down

down圧上昇発生率

患者の治療(拘束)時間 down

BWA-LCAPの有用性

第102回 日本消化器病学会総会 ランチョンセミナー7 「潰瘍性大腸炎治療の実際」

 我が国のUC患者さんの特徴として、高齢者が多いことが挙げられます。図5は当科のUCとクローン病(CD)患者さんの年齢分布です。CDは主に20~40歳代に患者さんが多く認められますが、UCは60歳 以上にもピークがあることが分かります。安全性がより重要となる 高齢者の治療として、LCAPの需要は高まっていると考えられます。 そこで高齢者に着目して、前述の大規模な市販後調査の結果を

サブ解析してみました。この市販後調査にエントリーされた全847例中、 60歳以上の占める割合は14.9%でした。最高齢の患者さんは88歳で、 これはLCAPが安全性の高い治療であることが広く認識されている証だと思います。有効性については、60歳以上と60歳未満で臨床的寛解率、粘膜治癒率に有意差を認めませんでした(図6)。また安全性の比較でも、副作用の発現率に両群間で有意な差を認めず(図7)、 かつ、60歳以上で重篤な副作用や死亡に至った症例はありませんでした。この結果から、LCAPは高齢者に対しても有効で安全な治療法であること を再確認することができました。

増加する高齢者の潰瘍性大腸炎患者

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4

図10

5ASA: 5aminosalicylates PSL:prednisolone

H23年8月H23年12月

H24年4月H24年8月

H24年12月H25年4月

H25年8月H25年12月

H26年4月H26年8月

H26年12月H27年4月

H27年6月H27年8月

H27年10月H27年12月

H28年2月

臨床的寛解 寛解維持

CAPTAIN study

H26年IFX導入

PSL

5ASA 2400mg

30mg 30mg 15mg ステロイド注腸

AZA ▶ 6MP

GMA LCAP

PSL

H27年4月IFX中止H27年6月LCAP開始

(H26年11月)発症 再燃 再燃 寛解

ステロイド離脱

H27年4月IFX濃度<0.10μg/ml

ATI(-)

臨床経過:40歳代 男性 左側大腸炎型UC ステロイド依存 罹病期間3年 IFX効果減弱、AZA不耐、6MP無効

IFX投与中の再燃に対するLCAP施行症例図9

● 2症例はIFX併用でLCAPを施行(  )● 2症例はIFX中止しLCAPを施行(  )

上小鶴孝二ら 日本アフェレシス学会 2015年

3 41 2

LCAP導入前

14

12

10

8

6

4

2

0

CAI(点)

1, 2クール終了後

34

1

2

いずれも臨床症状の改善を認めた。

当科でのUCに対するIFX投与 長期成績図8

二次無効25例

39.7%

寛解維持31例

49.2%

副作用中止7例

11.1%

12週時寛解 63例

平均経過観察期間 19.0±14.0ヶ月

宮嵜孝子ら 日本内視鏡学会総会 2015年

ことから、生物学的製剤の効果減弱例に対する治療としても期待できる

と考えています。当科ではIFXの効果減弱例4例に対してLCAPを追加 した経験がありますが、4例とも臨床症状の改善を認めています(図9)。 そのうちの1例の臨床経過をお示しします(図10)。症例は40歳代の男性、 ステロイド依存、かつアザチオプリン不耐例です。発症時、30mg/日の ステロイド内服で治療を開始し、臨床的寛解に至りましたが、ステロイド

離脱後、約1ヶ月で再燃しました。30mg/日のステロイド内服を再開 しましたが、15mg/日の時点で再燃したため、IFXを導入しました。 その後、1年間、寛解を維持できましたが、残念ながら効果減弱を認めた ため、ステロイド注腸の局所療法を併用しながらLCAPを追加しました。 すると臨床的寛解に向かい、粘膜治癒も得られました。この患者さんは

ステロイド離脱にも成功し、現在、この後お話しするCAPTAIN studyに参加し寛解を維持しています。

 次に、LCAPの今後の課題と期待、展望について考えてみました。 近年、生物学的製剤がUC治療にも使用可能となり、難治例の治療の 選択肢が広がりました。生物学的製剤の有効性は高く有用な治療ですが、 長期的に使用することで、残念ながら効果減弱を来す患者さんを認めます。 当科の成績では、インフリキシマブ(IFX)の投与開始12週後の寛解例 63例のうち、平均経過観察期間19.0±14.0ヶ月中、寛解を維持できて いたのは31例(49.2%)、効果減弱を認めたのは25例(39.7%)となって います(図8)。このような生物学的製剤の効果減弱例に対して、今後、 どのように治療を行うかが、UC治療の新たな課題となっています。 LCAPは体外循環により白血球を除去するというユニークな作用機序を有していること、抗凝固剤以外に薬剤を用いない安全な治療である

生物学的製剤の効果減弱例に対する LCAPの効果

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5

CAPTAIN study 試験デザイン 図11

CAPによる寛解導入

CAP上乗せ群月2回の維持治療

対照群通常の薬物治療

多施設共同によるオープン形式の無作為割付比較試験

4週以内

無作為に振り分け

Take on messages図12

高齢者(≧60歳)に対する有効性と安全性

今後の課題と展望生物学的製剤 効果減弱例に対する有効性ステロイド依存+IM無効や不耐症例に対するCAPTAIN studyの有効性

有効性を維持したまま、利便性が向上体重で調節した血液処理量  変わらぬ有効性・治療時間の短縮・安全性の向上

UC治療に求められていること図1

・ 早期寛解導入・ 寛解維持期間が長い・ 維持療法まで同一治療・ PSLフリー・ PSL減量・離脱

・ 副作用が少ない・ 高齢者・小児にも安心・ 併存疾患を悪化させない

有効性 安全性

・ クリニカルパスが明確・ 通院回数が少ない・ 短時間で治療が終わる・ 服薬のアドヒアランス がよい

利便性

第102回 日本消化器病学会総会 ランチョンセミナー7 「潰瘍性大腸炎治療の実際」

今、潰瘍性大腸炎治療に求められること、白血球除去療法 (LCAP)が応えられること

 現在、LCAPを含むCAPはUCの寛解維持療法としては保険適用 されていません。しかし、寛解導入療法として効果が得られた患者

さんは維持療法でも効果が得られる可能性が高いことから、現在、

CAPの寛解維持療法としての有効性と安全性を検証するための

多施設共同臨床研究CAPTAIN studyが実施されています(図11)。 CAPTAIN studyの基本的なプロトコールですが、CAPで寛解導入 に成功した症例を対象に、1年間にわたり月2回のCAPを維持療法 として行い(CAP群)、通常治療群と比較して1年間の寛解維持率の差を検討します。選択基準はステロイド依存例や抵抗例が対象ですが、 他にも免疫調節薬が無効もしくは不耐の症例も対象とされています。 現在、全国で100例を超える症例がエントリーされていますが、本研究 の結果から、CAPが寛解維持療法としても臨床で使用可能となることを 期待しています(図12)。

本邦における潰瘍性大腸炎(UC)の患者数は年々増加しており、 最新のデータでは、特定疾患の受給者証を持つ患者さんが18万人を超えました。特に最近は、高齢化社会を反映し、60歳以上の高齢の患者さんが急増しています。

今、UCの治療に求められることを考えてみました(図1)。最も大切なのは、やはり治療効果が高いことです。症状をできるだけ早く改善

させ寛解導入すること、かつ長期にわたり寛解維持できることが重要 です。また、できるだけ早くステロイドを離脱することも大切な観点

です。次に安全性です。UCは小児から高齢者まで幅広い年齢層の 患者さんがおり、そのような患者さんにも安全に使用できることが 大切です。特に高齢者の場合、併存疾患に対する治療薬との薬物相互 作用にも注意を要します。もう一つは利便性です。UC患者さんには 就労や就学をしながら療養生活を送っている方も多いため、来院する

回数が少なく治療が短時間で済むこと、治療の目安としてクリニカル

パスが明確であることも重要なポイントです。

寛解維持療法への期待:CAPTAIN study

潰瘍性大腸炎の治療に求められること :有効性、安全性、利便性

北里大学医学部 消化器内科学 横山 薫 先生

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6

副作用図3

副作用発現率は10.3%(87/847例)で、その種類の多くは、体外循環療法に一般的に認められる副作用でした。

副作用発現頻度(0.5%以上)副作用名

頭痛悪心発熱血小板数減少返血時の返血部位症状鼻閉

2.2%(19)1.4%(12)1.3%(11)0.8%( 7)0.7%( 6)0.7%( 6)

0.7%( 6)0.6%( 5)0.6%( 5)0.6%( 5)0.5%( 4)0.5%( 4)

呼吸困難悪寒発疹血圧低下腹痛アナフィラキシー様ショック

発現率(症例数) 副作用名 発現率(症例数)

Y. Yokoyama, K. Matsuoka, T. Kobayashi et al., Journal of Crohn’s and Colitis (2014) 8 , 981-991.

LCAPの早期寛解導入

847例による使用成績調査の結果によると、 intensive LCAP群の寛解までの平均日数は約2週間でした。

Intensive治療スケジュールの一例

1週

施行頻度

Weekly群(n=63)

Intensive群(n=158)

27.6±14.6日

p<0.001

15.4± 8.6日

臨床的寛解までの日数

(平均±標準偏差)

検定結果(Wilcoxonの順位和検定)

Y. Yokoyama, K. Matsuoka, T. Kobayashi et al., Journal of Crohn’s and Colitis (2014) 8 , 981-991.

図2

2週 3週 4週

5週 6週 7週 8週

LCAP

LCAP

LCAP

LCAP

LCAP

LCAP

LCAP

LCAP

LCAP

LCAP

0

100(%)

80

60

40

20

0 10 20 30寛解までの日数

Intensive群(n=239)

Weekly群Intensive群

p<0.001(Log-rank test)

Weekly群(n=101)

40 50 60 70(日)

累積寛解導入率

LCAPの位置づけ図4

LCAPはUC難治例に躊躇せず導入してよい治療法

非難治例

LCAP

難治例にさせないために

難治例

シクロスポリン

タクロリムスインフリキシマブアダリムマブ

LCAP

PSL抵抗例PSL依存例への総投与量を増やさない!易感染性を防ぐ!

白血球除去療法(LCAP)は有効性と安全性に優れた治療法です。 最近報告された大規模な市販後調査の結果で、改めてその有効性

と安全性が確認されています。特に、週2回以上のLCAPを行うintensive LCAPでは平均約2週間で寛解が得られること(図2)、 また、副作用の発現率は10.3%で、その種類も体外循環療法に一般的 にみられる副作用が多かったと報告されています(図3)。LCAPは 薬物療法と比べると利便性の部分に課題は残りますが、UC治療に 求められる有効性と安全性を兼ね備えた治療法であると考えています。

 現在のLCAPのUC治療における位置づけですが(図4)、一つは 5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤だけでは効果不十分な患者さんの難治化を避けるために、ステロイドを併用せずにLCAPを行う方法があります。また、難治例に対しては様々な薬物療法がありますが、 まずは安全性に優れたLCAPを検討しています。LCAPは5-ASAの次に行なう治療と考えています。

 当院での症例を紹介します。罹病期間約1年の20歳の男性、 全大腸炎型で入院時のpartial Mayo スコア8点、Seo indexは 186点、中等症でしたが腹痛の症状が強かったため入院治療と しました(図5)。入院後、5-ASA製剤4,000mg内服に加え、ステロイド フリーで週2回のLCAP治療を開始したところ、7日後(LCAP2回 終了時)には臨床的寛解に至り退院となりました。排便回数の減少と ともに、5-ASA注腸の併用も可能となり、ステロイドを使用せず外来 での治療が可能となっています。

 もう一例は29歳の男性、他院にてUC 診断時にステロイド 40mgと血球成分除去療法で入院加療し、その後5-ASA製剤の内服を継続していましたが、粘膜治癒には至らなかった症例です(図6)。転居に 伴い当院へ転院し、しばらく症状は落ち着いていましたが、再燃し

外来での寛解導入療法を開始しました。Partial Mayo スコア8点、Seo indexは191点の中等症です。ステロイド30mg内服に加え 週2回のLCAP治療を開始したところ、治療開始11日後(LCAP 2回終了時)に臨床的寛解に至りました。さらに、本症例は5-ASA製剤の内服だけでは粘膜治癒を得られなかった経緯をふまえて、

LCAP施行中からチオプリン製剤の併用を始めました。チオプリン 製剤服用時は、副作用のモニタリングが必要ですが、LCAPとの併用なのでこまめに血液検査値を確認することも容易でした。

UC治療におけるLCAPの位置づけ

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7

症例1: 20歳 男性 全大腸炎型 中等症

PSLフリー + LCAP

図5

入院

20XX年

5-ASA

5-ASA注腸

LCAP

121086420

2 2

1

3

2

1

0

1/16 22 26 29 2/2 6 9 13 16 20 23 27 3/1

4000mg

Seo値186 113

9 Partial Mayo寛解までの日数:LCAP開始7日

(LCAP2回後)6

3

0

便性状:有形

■ 血便 ■ 腹痛ー 便回数

便回数

血便・腹痛

0 0 0 0 0 0 0

症例2: 29歳 男性 全大腸炎型 中等症

PSL30mg + LCAP + AZA

図6

20XX年

5-ASA

PSL内服(mg)

LCAP

121086420

2

0

1

3

2

1

0

10/5 19 11/2 16 30 14 28 251/12 2/8 2412/8

3600mg

Seo値 191 97 103 101 89

9 Partial Mayo 寛解までの日数:LCAP開始11日(LCAP2回後)

6

3

0

便性状:有形

■ 血便 ■ 腹痛ー 便回数

便回数

血便・腹痛

50mg25mgAZA

30 25 20 17.5 15 12.5 10

0 0 0 0 0

LCAP施行のポイント図7

・ 貼付用局所麻酔剤 (ペンレスⓇ等)を患者に 事前に渡し、30分前位 に貼ってもらう

痛さへの対処

・ 全例ヘパリンを使用 NMアレルギー回避1)2)

1)Sawada K, et al. Therapeutic Apheresis and Dialysis(2016)20, 197-204.2)松本ら 日本アフェレシス学会雑誌(2013)32, 204-207.

NM: Nafamostat Mesilate

抗凝固剤

・ 30mL/分で脱血を行う・ 来院後、生食等補液 (約500mL)し、トイレ後 LCAP開始

脱血不良/ルート確保困難例

・ IBDが血栓症合併のリスク であることを認識する・ 血液浄化に用いる ダブルルーメン カテーテル不使用

血栓症・感染症のリスク低減

LCAP患者説明のコツ図8

・ LCAPは効果も高く、薬剤に比べ副作用が少ない、自分の血液を 洗うだけの治療です。・ LCAPは薬剤のように血中にとどまるものがありません。・ LCAPの副作用は頭痛や悪心などが主です。副作用はほぼ治療 終了後に消失します。・ 穿刺箇所に貼付用麻酔剤を使うので痛みは緩和できます。

・ 通院治療が可能です。・ 1回の治療は1時間程度です。・ 10回で治療が終わります=治療のゴール期間が明確・ 症状に合わせて治療間隔が調整できます。 例)症状がつらいときは   週2回の治療   症状が改善すれば週1回の治療

有効性・安全性

治療スケジュール

第102回 日本消化器病学会総会 ランチョンセミナー7 「潰瘍性大腸炎治療の実際」

当院でLCAPを施行する際の工夫について紹介いたします(図7)。まず、穿刺の痛みに対してはリドカインテープでその緩和を図って

います。治療中の脱血不良や血管確保が困難な症例では、血流量を

30mL/分に下げたり、施行前に輸液を行うことで対処します。以前は カテーテル留置で施行することもありましたが、UCは血栓症を 起こすリスクが高いこともあり、現在は末梢血管からルートを確保 しています。

また、患者さんにLCAPのことを説明する際の工夫ですが(図8)、安全性が高いことを強調します。分かりやすいように「自分の血液を 洗うだけの治療です」「抗凝固剤以外の薬剤は使いません」と説明 しています。また、LCAPを開始した後でも、他の治療に移行したり追加することも可能であることを伝えます。外来で施行可能であり、

治療回数が10回までと決まっていることを伝え、治療のゴールを イメージしていただくようにしています。

LCAPを施行する上での当院の工夫

Page 8: 28 4 21 潰瘍性大腸炎治療の実際...2016/04/21  · 第102回 日本消化器病学会総会 ランチョンセミナー7 平成28年4月21日(木) 潰瘍性大腸炎治療の実際

LCAPを使いこなす図9

・ 早めにCAPを導入する ・ ステロイド投与前の導入を検討・ AZA/6MP導入期に併用

・ 高齢者や併存疾患例に併用

活動期UCに対しては、安全性も高く躊躇せずにLCAPを導入

・ 生物学的製剤投与前の感染症有無等チェックする期間、 5-ASAプラスαの治療として ⇒ 効果があればLCAPのみ ⇒ 無効であれば生物学的製剤ON・ IFX/ADA導入期に併用 ・ IFX/ADA効果減弱時に併用

中等症の場合

重症の場合

重症度にかかわらず

症例3: 46歳 男性 全大腸炎型 重症

IFX + LCAP 同時スタート

図10

Seo値 257 209167 166 137 119

9Partial Mayo

寛解までの日数:LCAP開始14日(LCAP4回後)

6

3

0

入院低残渣食

外来施行

20XX年

5-ASA

LCAPIFX

121086420

11

3 3

2

1

0

3/20 4/2 9 17 24 5/1 5/8 1126 30

40001000mg

1

3

1

2■ 血便 ■ 腹痛ー 便回数

便回数

血便・腹痛

0 0 0 0 0 0

 本日は、東西のUC治療の最前線で活躍されているスペシャリストの先生お二人から、LCAPのより良い使い方についてお話を伺うことができました。現在、UCに対してはベドリズマブやAJM300などの新しい薬剤が開発され、新たな治療手段として期待されています。一方、LCAPは白血球を直接除去し、悪影響を及ぼすような免疫担当細胞を病変局所に浸潤させないことで効果を発揮する治療法です。新薬の作用機序と対比することで、LCAPの作用機序のプロセスについても、改めて見直されています。 LCAPは、増え続ける高齢者にも適していること、その作用機序から生物学的製剤の効果減弱例に対する効果も期待できること、さらに、ウイークポイントである寛解維持療法に対しても、CAPTAIN studyによる検討が進行中であることを確認して、本日のランチョンセミナーを終わらせていただきます。中村 志郎 先生

兵庫医科大学炎症性腸疾患学講座 内科部門

おわりに

LCAPを、より一歩進んで使いこなす方法を考えてみました(図9)。 まず中等症であれば、安全性の高いLCAPはできるだけ早めに 導入した方が良いですし、寛解維持まで見据えた場合、症例2のように LCAP施行時からチオプリン製剤の併用を始めることも有効と 考えます。また重症の場合には、生物学的製剤との併用も可能です。 生物学的製剤を投与する際には、感染症の有無の確認が必要ですが、 LCAPはその結果を待たず、生物学的製剤に先行して治療を開始する ことも可能です。また、最近増えてきている生物学的製剤の効果減弱例

に併用することも一つの使い方でしょう。

 当院での生物学的製剤との併用例を1例紹介します(図10)。46歳の男性、全大腸炎型、partial Mayo スコア9点、Seo indexは257点の 重症で、内視鏡所見でも深掘れ潰瘍が散見されました。本来、ステロイド 大量静注療法の適用ですが、ご本人が以前、ステロイドの副作用に 苦しんだ経験があり、ステロイドの使用を拒否されました。そこで、 インフリキシマブ( IFX)とLCAPの併用で治療を開始しました。

治療に対する反応は良好で、治療開始から14日後(LCAP4回終了時) に臨床的寛解に至り、IFX 2回目投与後に退院できました。その後、 3回目投与までの間に残りのLCAPを行って、以後、IFXで寛解を維持 しています。

 現在、UC治療には様々な薬物療法が使用可能となっています。 さらに、複数の薬剤の治験も進行中で、今後も治療の選択肢は増えて いくでしょう。新しい薬剤が使用可能となると、新薬の方に目が向きがち になりますが、本邦には、有効性と安全性に優れたLCAPがあります。 既存治療の効果が不十分で、治療のステップアップを考える場合、 「まずLCAPを行ってみる」という選択肢があることを思い出して いただければと思います。

本邦で開発されたLCAPを使いこなす

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