作用機序から考える 潰瘍性大腸炎治療 - asahi kasei...2014/10/24 · 02 jddw2014...
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No.2015.3-0210
JDDW2014 サテライトシンポジウム2014年10月24日(金)17:30ー19:00 第3会場
作用機序から考える潰瘍性大腸炎治療としての
LCAPの位置づけ
滋賀医科大学 消化器内科
安藤 朗 先生
演 者
兵庫医科大学 炎症性腸疾患学講座 外科部門
池内 浩基 先生
司 会
はじめに 白血球除去療法(LCAP)は、私の恩師である下山孝教授(当時)と、澤田康史先生が中心となって開発した潰瘍性大腸炎(UC)に対する新たな治療法であり、私にとっても思い入れの強い治療法です。本日は、作用機序から考える潰瘍性大腸炎治療としてのLCAPの位置づけと題して、東京慈恵会医科大学の猿田雅之先生、滋賀医科大学の安藤朗先生にご講演をいただきます。
本講演記録は2014年10月に神戸で開催された第56回日本消化器病学会大会におけるサテライトシンポジウムでの講演内容をもとに作成したものです。
お わりに LCAPの有効性は、以前から実臨床において多くの報告があったものの、その作用機序が良くわからないと言われてきました。ただ、今回の2人の先生の報告にもあるように、その機序も解明されようとしています。 最近、IBDに対する薬物治療の進歩は著しいものがあります。ただ、いずれの治療においてもその副作用を避けて通ることはできません。LCAPは術後の合併症に影響を与えないことが明らかとなっています。強力な薬物療法にLCAPを併用することによって、寛解に導くことができれば、患者さんにとっては非常に有益ですし、もし、緊急手術となった場合にも、その副作用を考慮する必要はありません。 日本から発信した治療法として、ますます進歩し、IBD患者さんのQOL向上に寄与することを願っています。
東京慈恵会医科大学 消化器・肝臓内科
猿田 雅之 先生
演 者
兵庫医科大学炎症性腸疾患学講座外科部門
池内 浩基 先生
02
JDDW2014 サテライトシンポジウム 作用機序から考える潰瘍性大腸炎治療としてのLCAPの位置づけ
03
考えられます。そこで、この調査においてIFXとTac併用例の有効性と安全性をまとめました(図7)。IFXもしくはTacでも寛解導入できていない症例にLCAPを追加もしくは同時スタートすることで、50~75%の寛解導入率が得られています。一方、IFXやTacを併用した場合でも、LCAPの副作用発現率が増加することはなく、また感染症の副作用も認めませんでした。
当院で、重症例の追加オプションとしてLCAPを使用した症例を提示します(図8)。44歳女性、全大腸炎型、初発でしたが劇症に近い重症で、Tacにより寛解導入できたのですが、残念ながら8か月後に再燃してしまいました。そこでIFXを導入したのですが、内視鏡的にも臨床的にも改善がみられなかったため、2回目のIFX投与2週間後にLCAPを併用することにしました。すると、臨床症状は速やかに改善し、LCAP 7回目終了後の内視鏡像にも徐々に改善がみられました。この患者さんは、喜んで外来に戻り、LCAPを10回目まで完遂することができました。 しかし、粘膜治癒には至らなかったこともあり、2か月後に再燃し再入院しました。既に2回も強力な免疫抑制療法を行っていることから、患者さんには手術を勧めたのですが、患者さんの強い希望で再度LCAPによる治療を開始しました。すると、また速やかに症状が改善し、この患者さんは現在、5-ASAとIFXで寛解を維持しています。 ここ数年間で、当院においてLCAPを施行した43例の治療結
骨髄細胞/後骨髄細胞の出現
Yamaji K., et al. Ther Apher 6(6): 402-412, 2002
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
Time Course
pre 750 15 30 45 60 2 3 6 12 24 48 72 1681,500 3,0002,250
末梢血白血球数 (/mm3 )
mL min hrs
LCAP
図4 白血球除去療法中/後の末梢血白血球数の経時変化
細胞群バランスの改善 活性化血小板除去
骨髄由来上皮細胞・筋線維芽細胞誘導
抗炎症効果・免疫調節効果
腸粘膜傷害の改善 組織修復効果
リンパ球 単球 顆粒球 血小板
炎症惹起
炎症制御
図3 LCAPの作用機序
L
日本における潰瘍性大腸炎(UC)患者数は増加の一途をたどっており、近年では16万人に達しています。UCは残念ながら完治できない疾患ですが、様々な治療法の登場により、単に病勢をコントロールするだけではなく、臨床的寛解や粘膜治癒、さらに長期の寛解維持を達成できる状況になっています。 日本のUCの特徴の1つは、6割以上の方が軽症だということです。軽症の患者さんでは外来で5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤やステロイドを上手く使うことで、寛解導入を目指します。ステロイドは悪い面ばかりが強調されていますが、短期集中で上手く使えば良い薬だと考えています。残りの3割程度の中等
症から重症の患者さんや、ステロイドを上手く使っても寛解導入や寛解維持が難しいステロイド抵抗、ステロイド依存の患者さんなどに対しては、白血球除去療法(LCAP)、インフリキシマブ(IFX)などの抗TNF-α抗体製剤、タクロリムス(Tac)などの免疫調節薬が追加されることになります。
ここで、UCの発症メカニズムについて考えてみたいと思います(図1)。UCは主にリンパ球系の疾患であることがわかってきています。したがって、活性化したCD4陽性Tリンパ球などを制御することや、炎症を抑える役割を果たす制御性T細胞(Treg)の働きを是正することが重要です。一方、IFXなどは、マクロファージなどから産生されるTNF-αをピンポイントで抑えることで効果を発揮します。また今後話題になるものとして、リンパ球の接着因子を阻害する治療薬も開発されています。これは、炎症性腸疾患では、局所で炎症が惹起されると、あたかも炎に薪をくべるように、末
梢血中から顆粒球・単球などが接着・浸潤し炎症を増悪・持続させるため、その接着・浸潤を抑えて抗炎症作用を示す薬剤です。
LCAPは体外循環により末梢血中の白血球を除去することで、UCの炎症を抑える治療法です。特に注目すべきなのは、LCAPは顆粒球・単球だけでなく、リンパ球と血小板も除去できる点です(図2)。LCAPはTリンパ球系、マクロファージ系、好中球系など様々な部分に働きかけることで、総合的に病態改善に寄与していると考えられます。また、TNF-αの産生抑制や活性化血小板の除去などの抗炎症作用だけでなく、骨髄由来の筋線維芽細胞の誘導による粘膜修復作用なども報告されています(図3)。 LCAPにより白血球を除去してしまうと、感染症の懸念があるのではないかと心配されますが、実はLCAPを開始してから約30分後(血液処理量で1.5L付近)を起点にオーバーシュートという現象が起き、末梢血中の白血球は逆に増加することがわかっています(図4)。この時、ナイーブTリンパ球や骨髄由来の細胞も増加することが知られており、病態改善や粘膜治癒に寄与していると考えられています。 また昔から、UCは『腸管内におけるDIC(播種性血管内凝固症候群)』と例えられ、活性化した血小板が病態増悪に関与していると考えられています。実際、炎症の強い慢性化したUC症例では、血小板数が40~60×104/μLあるいはそれ以上の高値になることもあります。LCAPによる活性化血小板の除去は、こうした病態の是正にも関与していると考えられます。
では、LCAPが実際どのように使用されているのか、2010
年5月~2013年3月にかけて行われた大規模な使用成績調査の結果をご紹介します。全国116施設で847例のデータを集めた結果です。まず、LCAPの特長の1つである安全性についてですが、副作用発現率は10.3%(87例/847例)、主な副作用は、頭痛(2.2%)、悪心(1.4%)、発熱(1.3%)などの体外循環療法に一般的に認められるものがほとんどでした(表1)。また、併用薬剤による副作用発現率に変化はなく
果をまとめました(図9)。当院では、基本的にステロイド大量静注にLCAPを上乗せする場合(20例)が多いのですが、IFXやTac、CyAに上乗せした症例(10例)もいます。このような強力な治療との併用でも、8割程度の症例でLCAPの効果が得られています。LCAPは重症例への追加オプションとしても有用と考えています。
最後に、今後のUC治療におけるLCAPの役割について考えてみたいと思います。今後、新たな治療薬としてナタリズマブやベドリズマブなどの接着因子阻害薬が登場してくる予定です。これらの治療薬は、リンパ球が腸に接着・浸潤する際に重要なα4あるいはα4β7と呼ばれるレセプターを阻害するもので、UCおよびクローン病(CD)に対する治療薬として日本でも治験が行われています。また、小腸特異的なレセプターであるCCR9を阻害するTraficet-ENという薬は、CDに有用な治療薬
として開発が進められています。 LCAPは、おそらくα4β7やCCR9を発現した腸型Tリンパ球も除去することが期待できますので、作用機序的には、接着因子阻害薬と同様の効果を発揮するのではないかと考えられます(図10)。特にCCR9を発現したTリンパ球の除去は、小腸型CDへの有効性を示唆するものですから、今後検討を進める必要があります。また、一部の接着因子阻害薬の重篤な副作用として、多発性白質脳症(PML)が問題になっていますが、LCAPではそのような副作用は報告されていませんので、安全性の面では接着因子阻害薬よりも安全に使用できることも期待できます。今後は、LCAPが腸に浸潤するTリンパ球にどのような影響を及ぼすのか、接着因子阻害薬と同等以上の役割を果たせるのか、詳しく調べていく必要があると考えています。
現状、重症や劇症の難治性UCに対しては、ステロイド大量静注療法から治療を始めますが、それでも難渋する症例に対しては、IFX、Tac、CyAなどの追加治療を選択することになります。しかし、その選択方法は明確化されていません。私は、ある治療薬を投与したが無効だったのですぐに他の治療薬に次々と移るような治療は、できるだけ避けるべきと考えています。そのような観点では、例えばTacで治療を始めたらTacで治療を完遂させるために、効果が不十分な際にはLCAPを上乗せするという方法も有用だと考えます(図11)。ただ、このような強力な免疫抑制療法を行っていることや、高齢発症のUC患者さんも増えていることなどを踏まえると、感染症の副作用発現には十分注意する必要があると考えています。
抗原提示細胞、マクロファージの活性化 神経ペプチド
活性酸素
アラキドン酸カスケード
好中球
神経
Sands, B. Gastro 118:S68, 2000 を改変
線維芽細胞
腸管粘膜 抗原 細菌、食事抗原
修復と再構築
炎症と傷害
炎症細胞の誘導と接着、侵入
炎症誘導サイトカインの産生
抗原認識やCD4+ Tリンパ球の活性化
活性化T細胞の抑制と制御性T細胞の産生
ICAM-1
血管内皮細胞
Th1 Th2
マクロファージ
活性化/病原性マクロファージ
活性化Tリンパ球
CD4+ Tリンパ球IL-2
IL-4
IFN-γ(-)(-)IL-10
IL-12IFN-γ
TNF-αIL-1β
潰瘍性大腸炎治療の現状潰瘍性大腸炎の発症メカニズムと治療ストラテジー
東京慈恵会医科大学 消化器・肝臓内科猿田 雅之 先生
演 者
潰瘍性大腸炎治療におけるLCAPの役割
LCAPの大規模な使用成績調査結果
安全性評価対象症例数
副作用発現症例数
副作用発現件数
副作用発現率(症例数ベース)
847例
87例
194件
10.3%
Y. Yokoyama, K. Matsuoka, T. Kobayashi et al., Journal of Crohn’s and Colitis 8; 981-991, 2014
表1 安全性-LCAP使用成績調査
全身障害および投与局所様態発熱返血時の返血部位症状悪寒
胃腸障害悪心腹痛
神経系障害頭痛
皮膚および皮下組織障害発疹
臨床検査血小板数減少血圧低下
呼吸器、胸郭および縦隔障害鼻閉呼吸困難
免疫系障害アナフィラキシー様ショック
1.3%(11)0.7%(6)0.6%(5)
1.4%(12)0.5%(4)
2.2%(19)
0.6%(5)
0.8%(7)0.6%(5)
0.7%(6)0.7%(6)
0.5%(4)
副作用名 発現率(症例数)
●副作用発現一覧(0.5%以上)
図1 炎症性腸疾患の発症メカニズム
100
80
60
40
20
0
各血球成分除去率の経時変化
時間(分)15 30 45 60
除去率(%)
顆粒球、単球
血小板
リンパ球
Qb=50mL/min, n=14参考文献 BIO Clinica 12(5): 339-342, 1997
安藤 朗, 他. IBD Research 1(4): 262-266, 2007
・LCAPの前後で、顆粒球、単球は、ほぼ100%、リンパ球と血小板は40~60%吸着される。
・安藤らの報告でも、リンパ球、単球、血小板のいずれもが除去される。
図2 セルソーバEXの各血球成分除去率の経時変化
成長因子など
(図5)、様々な治療薬と併用しやすいことも分かっています。 有効性評価対象623例における臨床的寛解(Lichtiger CAI≦4)率は68.9%、内視鏡所見のあった232例における粘膜治癒(Disease Activity Index; DAIの内視鏡サブスコア≦1)率は62.5%でした(図6)。この結果から、実臨床におけるLCAPの優れた有効性が確認されています。 一方、私が注目したいのは、この使用成績調査でLCAPは143例の症例でIFX、Tac、シクロスポリン(CyA)と併用されていたこと、また3割を超える症例がCAI 12以上の重症だったことです。これは実臨床では、重症の患者さんの治療の追加オプションとしてもLCAPが使用されている現状を反映したものと
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JDDW2014 サテライトシンポジウム 作用機序から考える潰瘍性大腸炎治療としてのLCAPの位置づけ
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考えられます。そこで、この調査においてIFXとTac併用例の有効性と安全性をまとめました(図7)。IFXもしくはTacでも寛解導入できていない症例にLCAPを追加もしくは同時スタートすることで、50~75%の寛解導入率が得られています。一方、IFXやTacを併用した場合でも、LCAPの副作用発現率が増加することはなく、また感染症の副作用も認めませんでした。
当院で、重症例の追加オプションとしてLCAPを使用した症例を提示します(図8)。44歳女性、全大腸炎型、初発でしたが劇症に近い重症で、Tacにより寛解導入できたのですが、残念ながら8か月後に再燃してしまいました。そこでIFXを導入したのですが、内視鏡的にも臨床的にも改善がみられなかったため、2回目のIFX投与2週間後にLCAPを併用することにしました。すると、臨床症状は速やかに改善し、LCAP 7回目終了後の内視鏡像にも徐々に改善がみられました。この患者さんは、喜んで外来に戻り、LCAPを10回目まで完遂することができました。 しかし、粘膜治癒には至らなかったこともあり、2か月後に再燃し再入院しました。既に2回も強力な免疫抑制療法を行っていることから、患者さんには手術を勧めたのですが、患者さんの強い希望で再度LCAPによる治療を開始しました。すると、また速やかに症状が改善し、この患者さんは現在、5-ASAとIFXで寛解を維持しています。 ここ数年間で、当院においてLCAPを施行した43例の治療結
骨髄細胞/後骨髄細胞の出現
Yamaji K., et al. Ther Apher 6(6): 402-412, 2002
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
Time Course
pre 750 15 30 45 60 2 3 6 12 24 48 72 1681,500 3,0002,250
末梢血白血球数 (/mm3 )
mL min hrs
LCAP
図4 白血球除去療法中/後の末梢血白血球数の経時変化
細胞群バランスの改善 活性化血小板除去
骨髄由来上皮細胞・筋線維芽細胞誘導
抗炎症効果・免疫調節効果
腸粘膜傷害の改善 組織修復効果
リンパ球 単球 顆粒球 血小板
炎症惹起
炎症制御
図3 LCAPの作用機序
L
日本における潰瘍性大腸炎(UC)患者数は増加の一途をたどっており、近年では16万人に達しています。UCは残念ながら完治できない疾患ですが、様々な治療法の登場により、単に病勢をコントロールするだけではなく、臨床的寛解や粘膜治癒、さらに長期の寛解維持を達成できる状況になっています。 日本のUCの特徴の1つは、6割以上の方が軽症だということです。軽症の患者さんでは外来で5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤やステロイドを上手く使うことで、寛解導入を目指します。ステロイドは悪い面ばかりが強調されていますが、短期集中で上手く使えば良い薬だと考えています。残りの3割程度の中等
症から重症の患者さんや、ステロイドを上手く使っても寛解導入や寛解維持が難しいステロイド抵抗、ステロイド依存の患者さんなどに対しては、白血球除去療法(LCAP)、インフリキシマブ(IFX)などの抗TNF-α抗体製剤、タクロリムス(Tac)などの免疫調節薬が追加されることになります。
ここで、UCの発症メカニズムについて考えてみたいと思います(図1)。UCは主にリンパ球系の疾患であることがわかってきています。したがって、活性化したCD4陽性Tリンパ球などを制御することや、炎症を抑える役割を果たす制御性T細胞(Treg)の働きを是正することが重要です。一方、IFXなどは、マクロファージなどから産生されるTNF-αをピンポイントで抑えることで効果を発揮します。また今後話題になるものとして、リンパ球の接着因子を阻害する治療薬も開発されています。これは、炎症性腸疾患では、局所で炎症が惹起されると、あたかも炎に薪をくべるように、末
梢血中から顆粒球・単球などが接着・浸潤し炎症を増悪・持続させるため、その接着・浸潤を抑えて抗炎症作用を示す薬剤です。
LCAPは体外循環により末梢血中の白血球を除去することで、UCの炎症を抑える治療法です。特に注目すべきなのは、LCAPは顆粒球・単球だけでなく、リンパ球と血小板も除去できる点です(図2)。LCAPはTリンパ球系、マクロファージ系、好中球系など様々な部分に働きかけることで、総合的に病態改善に寄与していると考えられます。また、TNF-αの産生抑制や活性化血小板の除去などの抗炎症作用だけでなく、骨髄由来の筋線維芽細胞の誘導による粘膜修復作用なども報告されています(図3)。 LCAPにより白血球を除去してしまうと、感染症の懸念があるのではないかと心配されますが、実はLCAPを開始してから約30分後(血液処理量で1.5L付近)を起点にオーバーシュートという現象が起き、末梢血中の白血球は逆に増加することがわかっています(図4)。この時、ナイーブTリンパ球や骨髄由来の細胞も増加することが知られており、病態改善や粘膜治癒に寄与していると考えられています。 また昔から、UCは『腸管内におけるDIC(播種性血管内凝固症候群)』と例えられ、活性化した血小板が病態増悪に関与していると考えられています。実際、炎症の強い慢性化したUC症例では、血小板数が40~60×104/μLあるいはそれ以上の高値になることもあります。LCAPによる活性化血小板の除去は、こうした病態の是正にも関与していると考えられます。
では、LCAPが実際どのように使用されているのか、2010
年5月~2013年3月にかけて行われた大規模な使用成績調査の結果をご紹介します。全国116施設で847例のデータを集めた結果です。まず、LCAPの特長の1つである安全性についてですが、副作用発現率は10.3%(87例/847例)、主な副作用は、頭痛(2.2%)、悪心(1.4%)、発熱(1.3%)などの体外循環療法に一般的に認められるものがほとんどでした(表1)。また、併用薬剤による副作用発現率に変化はなく
果をまとめました(図9)。当院では、基本的にステロイド大量静注にLCAPを上乗せする場合(20例)が多いのですが、IFXやTac、CyAに上乗せした症例(10例)もいます。このような強力な治療との併用でも、8割程度の症例でLCAPの効果が得られています。LCAPは重症例への追加オプションとしても有用と考えています。
最後に、今後のUC治療におけるLCAPの役割について考えてみたいと思います。今後、新たな治療薬としてナタリズマブやベドリズマブなどの接着因子阻害薬が登場してくる予定です。これらの治療薬は、リンパ球が腸に接着・浸潤する際に重要なα4あるいはα4β7と呼ばれるレセプターを阻害するもので、UCおよびクローン病(CD)に対する治療薬として日本でも治験が行われています。また、小腸特異的なレセプターであるCCR9を阻害するTraficet-ENという薬は、CDに有用な治療薬
として開発が進められています。 LCAPは、おそらくα4β7やCCR9を発現した腸型Tリンパ球も除去することが期待できますので、作用機序的には、接着因子阻害薬と同様の効果を発揮するのではないかと考えられます(図10)。特にCCR9を発現したTリンパ球の除去は、小腸型CDへの有効性を示唆するものですから、今後検討を進める必要があります。また、一部の接着因子阻害薬の重篤な副作用として、多発性白質脳症(PML)が問題になっていますが、LCAPではそのような副作用は報告されていませんので、安全性の面では接着因子阻害薬よりも安全に使用できることも期待できます。今後は、LCAPが腸に浸潤するTリンパ球にどのような影響を及ぼすのか、接着因子阻害薬と同等以上の役割を果たせるのか、詳しく調べていく必要があると考えています。
現状、重症や劇症の難治性UCに対しては、ステロイド大量静注療法から治療を始めますが、それでも難渋する症例に対しては、IFX、Tac、CyAなどの追加治療を選択することになります。しかし、その選択方法は明確化されていません。私は、ある治療薬を投与したが無効だったのですぐに他の治療薬に次々と移るような治療は、できるだけ避けるべきと考えています。そのような観点では、例えばTacで治療を始めたらTacで治療を完遂させるために、効果が不十分な際にはLCAPを上乗せするという方法も有用だと考えます(図11)。ただ、このような強力な免疫抑制療法を行っていることや、高齢発症のUC患者さんも増えていることなどを踏まえると、感染症の副作用発現には十分注意する必要があると考えています。
抗原提示細胞、マクロファージの活性化 神経ペプチド
活性酸素
アラキドン酸カスケード
好中球
神経
Sands, B. Gastro 118:S68, 2000 を改変
線維芽細胞
腸管粘膜 抗原 細菌、食事抗原
修復と再構築
炎症と傷害
炎症細胞の誘導と接着、侵入
炎症誘導サイトカインの産生
抗原認識やCD4+ Tリンパ球の活性化
活性化T細胞の抑制と制御性T細胞の産生
ICAM-1
血管内皮細胞
Th1 Th2
マクロファージ
活性化/病原性マクロファージ
活性化Tリンパ球
CD4+ Tリンパ球IL-2
IL-4
IFN-γ(-)(-)IL-10
IL-12IFN-γ
TNF-αIL-1β
潰瘍性大腸炎治療の現状潰瘍性大腸炎の発症メカニズムと治療ストラテジー
東京慈恵会医科大学 消化器・肝臓内科猿田 雅之 先生
演 者
潰瘍性大腸炎治療におけるLCAPの役割
LCAPの大規模な使用成績調査結果
安全性評価対象症例数
副作用発現症例数
副作用発現件数
副作用発現率(症例数ベース)
847例
87例
194件
10.3%
Y. Yokoyama, K. Matsuoka, T. Kobayashi et al., Journal of Crohn’s and Colitis 8; 981-991, 2014
表1 安全性-LCAP使用成績調査
全身障害および投与局所様態発熱返血時の返血部位症状悪寒
胃腸障害悪心腹痛
神経系障害頭痛
皮膚および皮下組織障害発疹
臨床検査血小板数減少血圧低下
呼吸器、胸郭および縦隔障害鼻閉呼吸困難
免疫系障害アナフィラキシー様ショック
1.3%(11)0.7%(6)0.6%(5)
1.4%(12)0.5%(4)
2.2%(19)
0.6%(5)
0.8%(7)0.6%(5)
0.7%(6)0.7%(6)
0.5%(4)
副作用名 発現率(症例数)
●副作用発現一覧(0.5%以上)
図1 炎症性腸疾患の発症メカニズム
100
80
60
40
20
0
各血球成分除去率の経時変化
時間(分)15 30 45 60
除去率(%)
顆粒球、単球
血小板
リンパ球
Qb=50mL/min, n=14参考文献 BIO Clinica 12(5): 339-342, 1997
安藤 朗, 他. IBD Research 1(4): 262-266, 2007
・LCAPの前後で、顆粒球、単球は、ほぼ100%、リンパ球と血小板は40~60%吸着される。
・安藤らの報告でも、リンパ球、単球、血小板のいずれもが除去される。
図2 セルソーバEXの各血球成分除去率の経時変化
成長因子など
(図5)、様々な治療薬と併用しやすいことも分かっています。 有効性評価対象623例における臨床的寛解(Lichtiger CAI≦4)率は68.9%、内視鏡所見のあった232例における粘膜治癒(Disease Activity Index; DAIの内視鏡サブスコア≦1)率は62.5%でした(図6)。この結果から、実臨床におけるLCAPの優れた有効性が確認されています。 一方、私が注目したいのは、この使用成績調査でLCAPは143例の症例でIFX、Tac、シクロスポリン(CyA)と併用されていたこと、また3割を超える症例がCAI 12以上の重症だったことです。これは実臨床では、重症の患者さんの治療の追加オプションとしてもLCAPが使用されている現状を反映したものと
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JDDW2014 サテライトシンポジウム 作用機序から考える潰瘍性大腸炎治療としてのLCAPの位置づけ
考えられます。そこで、この調査においてIFXとTac併用例の有効性と安全性をまとめました(図7)。IFXもしくはTacでも寛解導入できていない症例にLCAPを追加もしくは同時スタートすることで、50~75%の寛解導入率が得られています。一方、IFXやTacを併用した場合でも、LCAPの副作用発現率が増加することはなく、また感染症の副作用も認めませんでした。
当院で、重症例の追加オプションとしてLCAPを使用した症例を提示します(図8)。44歳女性、全大腸炎型、初発でしたが劇症に近い重症で、Tacにより寛解導入できたのですが、残念ながら8か月後に再燃してしまいました。そこでIFXを導入したのですが、内視鏡的にも臨床的にも改善がみられなかったため、2回目のIFX投与2週間後にLCAPを併用することにしました。すると、臨床症状は速やかに改善し、LCAP 7回目終了後の内視鏡像にも徐々に改善がみられました。この患者さんは、喜んで外来に戻り、LCAPを10回目まで完遂することができました。 しかし、粘膜治癒には至らなかったこともあり、2か月後に再燃し再入院しました。既に2回も強力な免疫抑制療法を行っていることから、患者さんには手術を勧めたのですが、患者さんの強い希望で再度LCAPによる治療を開始しました。すると、また速やかに症状が改善し、この患者さんは現在、5-ASAとIFXで寛解を維持しています。 ここ数年間で、当院においてLCAPを施行した43例の治療結
日本における潰瘍性大腸炎(UC)患者数は増加の一途をたどっており、近年では16万人に達しています。UCは残念ながら完治できない疾患ですが、様々な治療法の登場により、単に病勢をコントロールするだけではなく、臨床的寛解や粘膜治癒、さらに長期の寛解維持を達成できる状況になっています。 日本のUCの特徴の1つは、6割以上の方が軽症だということです。軽症の患者さんでは外来で5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤やステロイドを上手く使うことで、寛解導入を目指します。ステロイドは悪い面ばかりが強調されていますが、短期集中で上手く使えば良い薬だと考えています。残りの3割程度の中等
症から重症の患者さんや、ステロイドを上手く使っても寛解導入や寛解維持が難しいステロイド抵抗、ステロイド依存の患者さんなどに対しては、白血球除去療法(LCAP)、インフリキシマブ(IFX)などの抗TNF-α抗体製剤、タクロリムス(Tac)などの免疫調節薬が追加されることになります。
ここで、UCの発症メカニズムについて考えてみたいと思います(図1)。UCは主にリンパ球系の疾患であることがわかってきています。したがって、活性化したCD4陽性Tリンパ球などを制御することや、炎症を抑える役割を果たす制御性T細胞(Treg)の働きを是正することが重要です。一方、IFXなどは、マクロファージなどから産生されるTNF-αをピンポイントで抑えることで効果を発揮します。また今後話題になるものとして、リンパ球の接着因子を阻害する治療薬も開発されています。これは、炎症性腸疾患では、局所で炎症が惹起されると、あたかも炎に薪をくべるように、末
梢血中から顆粒球・単球などが接着・浸潤し炎症を増悪・持続させるため、その接着・浸潤を抑えて抗炎症作用を示す薬剤です。
LCAPは体外循環により末梢血中の白血球を除去することで、UCの炎症を抑える治療法です。特に注目すべきなのは、LCAPは顆粒球・単球だけでなく、リンパ球と血小板も除去できる点です(図2)。LCAPはTリンパ球系、マクロファージ系、好中球系など様々な部分に働きかけることで、総合的に病態改善に寄与していると考えられます。また、TNF-αの産生抑制や活性化血小板の除去などの抗炎症作用だけでなく、骨髄由来の筋線維芽細胞の誘導による粘膜修復作用なども報告されています(図3)。 LCAPにより白血球を除去してしまうと、感染症の懸念があるのではないかと心配されますが、実はLCAPを開始してから約30分後(血液処理量で1.5L付近)を起点にオーバーシュートという現象が起き、末梢血中の白血球は逆に増加することがわかっています(図4)。この時、ナイーブTリンパ球や骨髄由来の細胞も増加することが知られており、病態改善や粘膜治癒に寄与していると考えられています。 また昔から、UCは『腸管内におけるDIC(播種性血管内凝固症候群)』と例えられ、活性化した血小板が病態増悪に関与していると考えられています。実際、炎症の強い慢性化したUC症例では、血小板数が40~60×104/μLあるいはそれ以上の高値になることもあります。LCAPによる活性化血小板の除去は、こうした病態の是正にも関与していると考えられます。
では、LCAPが実際どのように使用されているのか、2010
年5月~2013年3月にかけて行われた大規模な使用成績調査の結果をご紹介します。全国116施設で847例のデータを集めた結果です。まず、LCAPの特長の1つである安全性についてですが、副作用発現率は10.3%(87例/847例)、主な副作用は、頭痛(2.2%)、悪心(1.4%)、発熱(1.3%)などの体外循環療法に一般的に認められるものがほとんどでした(表1)。また、併用薬剤による副作用発現率に変化はなく
当院でのLCAP使用症例:重症例の追加オプションとしても有用
果をまとめました(図9)。当院では、基本的にステロイド大量静注にLCAPを上乗せする場合(20例)が多いのですが、IFXやTac、CyAに上乗せした症例(10例)もいます。このような強力な治療との併用でも、8割程度の症例でLCAPの効果が得られています。LCAPは重症例への追加オプションとしても有用と考えています。
最後に、今後のUC治療におけるLCAPの役割について考えてみたいと思います。今後、新たな治療薬としてナタリズマブやベドリズマブなどの接着因子阻害薬が登場してくる予定です。これらの治療薬は、リンパ球が腸に接着・浸潤する際に重要なα4あるいはα4β7と呼ばれるレセプターを阻害するもので、UCおよびクローン病(CD)に対する治療薬として日本でも治験が行われています。また、小腸特異的なレセプターであるCCR9を阻害するTraficet-ENという薬は、CDに有用な治療薬
として開発が進められています。 LCAPは、おそらくα4β7やCCR9を発現した腸型Tリンパ球も除去することが期待できますので、作用機序的には、接着因子阻害薬と同様の効果を発揮するのではないかと考えられます(図10)。特にCCR9を発現したTリンパ球の除去は、小腸型CDへの有効性を示唆するものですから、今後検討を進める必要があります。また、一部の接着因子阻害薬の重篤な副作用として、多発性白質脳症(PML)が問題になっていますが、LCAPではそのような副作用は報告されていませんので、安全性の面では接着因子阻害薬よりも安全に使用できることも期待できます。今後は、LCAPが腸に浸潤するTリンパ球にどのような影響を及ぼすのか、接着因子阻害薬と同等以上の役割を果たせるのか、詳しく調べていく必要があると考えています。
現状、重症や劇症の難治性UCに対しては、ステロイド大量静注療法から治療を始めますが、それでも難渋する症例に対しては、IFX、Tac、CyAなどの追加治療を選択することになります。しかし、その選択方法は明確化されていません。私は、ある治療薬を投与したが無効だったのですぐに他の治療薬に次々と移るような治療は、できるだけ避けるべきと考えています。そのような観点では、例えばTacで治療を始めたらTacで治療を完遂させるために、効果が不十分な際にはLCAPを上乗せするという方法も有用だと考えます(図11)。ただ、このような強力な免疫抑制療法を行っていることや、高齢発症のUC患者さんも増えていることなどを踏まえると、感染症の副作用発現には十分注意する必要があると考えています。
(有意差なし vs, 「なし or 5-ASA」:Fisherの正確確率検定)
Y. Yokoyama, K. Matsuoka, T. Kobayashi et al., Journal of Crohn’s and Colitis 8; 981-991, 2014
副作用発現率
0
10
20
30(%)
12.2%(23/188)
なし or5-ASA
9.4%(51/540)
ステロイド
8.6% (24/278)
AZA/6MP
8.2% (4/49)
IFX
12.5% (13/104)
Tac
22.2% (2/9)
CyA
図5 併用薬剤別の副作用発現率-LCAP使用成績調査
44歳 女性: 全大腸炎型、Tac導入8ヵ月後に再燃
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
00 3 6 9 11 13 16 19 23 26 28 30 33 37 40 44 47 51 66 94(日)
16
14
12
10
8
6
4
2
0
WBC
Alb CRP
便回数
IFX IFX IFX
Tac 8 mg/day5-ASA 3.6 g/dayLCAP 2 times / week
Tac9.8ng/mL
入院
猿田先生 ご提供スライド
図8 重症難治例に対するLCAP併用例
IFX1回+LCAP前
IFX3回+LCAP7回後
IFX6回+2回目のLCAP 5回終了後
0
20
40
60
80
100
0
8
6
4
2
10
14
12
16
0
20
40
60
80
100
臨床的改善率および寛解率 粘膜治癒率(内視鏡所見のある232例)Lichtiger CAIスコアの推移
73.8%(460/623) 68.9%
(429/623)
19.8%(46/232)
62.5%(145/232)
(%) (%)
LCAP開始前臨床的寛解(CAI≦4)
粘膜治癒(EI≦1)
粘膜治癒(EI=0)
臨床的改善(ΔCAI50%以上低下)
LCAP終了2週後(Wilcoxonの符号付順位検定)
p<0.001
10.3±3.1
3.4±3.2
図6 有効性-LCAP使用成績調査
CAIスコア
Y. Yokoyama, K. Matsuoka, T. Kobayashi et al., Journal of Crohn’s and Colitis 8; 981-991, 2014
旭化成メディカル株式会社 社内集計
(Wilcoxonの符号付順位検定)
LCAP終了2週後
10.5±3.9
11.1±3.4
4.4±4.3
4.4±4.0
1.IFX→LCAP 上乗せ:14例
使用状況 臨床的寛解率(CAI≦4)
粘膜治癒率(EI≦1)
副作用発現率
14.3%(2/14)
インフリキシマブ
75.0%(9/12)
83.3%(5/6)
2.同時スタート:2例
0%(0/2)
インフリキシマブ
50.0%(1/2)
内視鏡所見なし
1.Tac→LCAP 上乗せ:36例
使用状況 臨床的寛解率(CAI≦4)
粘膜治癒率(EI≦1)
副作用発現率
16.7%(6/36)
タクロリムス
57.6%(19/33)
2.同時スタート:14例
14.3%(2/14)
タクロリムス
69.2%(9/13)
58.3%(7/12)
83.3%(5/6)
LCAP開始前
LCAP終了2週後LCAP開始前
16
02468101214
16
02468101214
p<0.001
(n=14)
p<0.001
(n=46)
図7 IFX,Tac併用例-LCAP使用成績調査
CAIスコア
CAIスコア
L L L L L
L L L L L
L L L L L
L L L L L
(図5)、様々な治療薬と併用しやすいことも分かっています。 有効性評価対象623例における臨床的寛解(Lichtiger CAI≦4)率は68.9%、内視鏡所見のあった232例における粘膜治癒(Disease Activity Index; DAIの内視鏡サブスコア≦1)率は62.5%でした(図6)。この結果から、実臨床におけるLCAPの優れた有効性が確認されています。 一方、私が注目したいのは、この使用成績調査でLCAPは143例の症例でIFX、Tac、シクロスポリン(CyA)と併用されていたこと、また3割を超える症例がCAI 12以上の重症だったことです。これは実臨床では、重症の患者さんの治療の追加オプションとしてもLCAPが使用されている現状を反映したものと
04 05
JDDW2014 サテライトシンポジウム 作用機序から考える潰瘍性大腸炎治療としてのLCAPの位置づけ
考えられます。そこで、この調査においてIFXとTac併用例の有効性と安全性をまとめました(図7)。IFXもしくはTacでも寛解導入できていない症例にLCAPを追加もしくは同時スタートすることで、50~75%の寛解導入率が得られています。一方、IFXやTacを併用した場合でも、LCAPの副作用発現率が増加することはなく、また感染症の副作用も認めませんでした。
当院で、重症例の追加オプションとしてLCAPを使用した症例を提示します(図8)。44歳女性、全大腸炎型、初発でしたが劇症に近い重症で、Tacにより寛解導入できたのですが、残念ながら8か月後に再燃してしまいました。そこでIFXを導入したのですが、内視鏡的にも臨床的にも改善がみられなかったため、2回目のIFX投与2週間後にLCAPを併用することにしました。すると、臨床症状は速やかに改善し、LCAP 7回目終了後の内視鏡像にも徐々に改善がみられました。この患者さんは、喜んで外来に戻り、LCAPを10回目まで完遂することができました。 しかし、粘膜治癒には至らなかったこともあり、2か月後に再燃し再入院しました。既に2回も強力な免疫抑制療法を行っていることから、患者さんには手術を勧めたのですが、患者さんの強い希望で再度LCAPによる治療を開始しました。すると、また速やかに症状が改善し、この患者さんは現在、5-ASAとIFXで寛解を維持しています。 ここ数年間で、当院においてLCAPを施行した43例の治療結
日本における潰瘍性大腸炎(UC)患者数は増加の一途をたどっており、近年では16万人に達しています。UCは残念ながら完治できない疾患ですが、様々な治療法の登場により、単に病勢をコントロールするだけではなく、臨床的寛解や粘膜治癒、さらに長期の寛解維持を達成できる状況になっています。 日本のUCの特徴の1つは、6割以上の方が軽症だということです。軽症の患者さんでは外来で5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤やステロイドを上手く使うことで、寛解導入を目指します。ステロイドは悪い面ばかりが強調されていますが、短期集中で上手く使えば良い薬だと考えています。残りの3割程度の中等
症から重症の患者さんや、ステロイドを上手く使っても寛解導入や寛解維持が難しいステロイド抵抗、ステロイド依存の患者さんなどに対しては、白血球除去療法(LCAP)、インフリキシマブ(IFX)などの抗TNF-α抗体製剤、タクロリムス(Tac)などの免疫調節薬が追加されることになります。
ここで、UCの発症メカニズムについて考えてみたいと思います(図1)。UCは主にリンパ球系の疾患であることがわかってきています。したがって、活性化したCD4陽性Tリンパ球などを制御することや、炎症を抑える役割を果たす制御性T細胞(Treg)の働きを是正することが重要です。一方、IFXなどは、マクロファージなどから産生されるTNF-αをピンポイントで抑えることで効果を発揮します。また今後話題になるものとして、リンパ球の接着因子を阻害する治療薬も開発されています。これは、炎症性腸疾患では、局所で炎症が惹起されると、あたかも炎に薪をくべるように、末
梢血中から顆粒球・単球などが接着・浸潤し炎症を増悪・持続させるため、その接着・浸潤を抑えて抗炎症作用を示す薬剤です。
LCAPは体外循環により末梢血中の白血球を除去することで、UCの炎症を抑える治療法です。特に注目すべきなのは、LCAPは顆粒球・単球だけでなく、リンパ球と血小板も除去できる点です(図2)。LCAPはTリンパ球系、マクロファージ系、好中球系など様々な部分に働きかけることで、総合的に病態改善に寄与していると考えられます。また、TNF-αの産生抑制や活性化血小板の除去などの抗炎症作用だけでなく、骨髄由来の筋線維芽細胞の誘導による粘膜修復作用なども報告されています(図3)。 LCAPにより白血球を除去してしまうと、感染症の懸念があるのではないかと心配されますが、実はLCAPを開始してから約30分後(血液処理量で1.5L付近)を起点にオーバーシュートという現象が起き、末梢血中の白血球は逆に増加することがわかっています(図4)。この時、ナイーブTリンパ球や骨髄由来の細胞も増加することが知られており、病態改善や粘膜治癒に寄与していると考えられています。 また昔から、UCは『腸管内におけるDIC(播種性血管内凝固症候群)』と例えられ、活性化した血小板が病態増悪に関与していると考えられています。実際、炎症の強い慢性化したUC症例では、血小板数が40~60×104/μLあるいはそれ以上の高値になることもあります。LCAPによる活性化血小板の除去は、こうした病態の是正にも関与していると考えられます。
では、LCAPが実際どのように使用されているのか、2010
年5月~2013年3月にかけて行われた大規模な使用成績調査の結果をご紹介します。全国116施設で847例のデータを集めた結果です。まず、LCAPの特長の1つである安全性についてですが、副作用発現率は10.3%(87例/847例)、主な副作用は、頭痛(2.2%)、悪心(1.4%)、発熱(1.3%)などの体外循環療法に一般的に認められるものがほとんどでした(表1)。また、併用薬剤による副作用発現率に変化はなく
当院でのLCAP使用症例:重症例の追加オプションとしても有用
果をまとめました(図9)。当院では、基本的にステロイド大量静注にLCAPを上乗せする場合(20例)が多いのですが、IFXやTac、CyAに上乗せした症例(10例)もいます。このような強力な治療との併用でも、8割程度の症例でLCAPの効果が得られています。LCAPは重症例への追加オプションとしても有用と考えています。
最後に、今後のUC治療におけるLCAPの役割について考えてみたいと思います。今後、新たな治療薬としてナタリズマブやベドリズマブなどの接着因子阻害薬が登場してくる予定です。これらの治療薬は、リンパ球が腸に接着・浸潤する際に重要なα4あるいはα4β7と呼ばれるレセプターを阻害するもので、UCおよびクローン病(CD)に対する治療薬として日本でも治験が行われています。また、小腸特異的なレセプターであるCCR9を阻害するTraficet-ENという薬は、CDに有用な治療薬
として開発が進められています。 LCAPは、おそらくα4β7やCCR9を発現した腸型Tリンパ球も除去することが期待できますので、作用機序的には、接着因子阻害薬と同様の効果を発揮するのではないかと考えられます(図10)。特にCCR9を発現したTリンパ球の除去は、小腸型CDへの有効性を示唆するものですから、今後検討を進める必要があります。また、一部の接着因子阻害薬の重篤な副作用として、多発性白質脳症(PML)が問題になっていますが、LCAPではそのような副作用は報告されていませんので、安全性の面では接着因子阻害薬よりも安全に使用できることも期待できます。今後は、LCAPが腸に浸潤するTリンパ球にどのような影響を及ぼすのか、接着因子阻害薬と同等以上の役割を果たせるのか、詳しく調べていく必要があると考えています。
現状、重症や劇症の難治性UCに対しては、ステロイド大量静注療法から治療を始めますが、それでも難渋する症例に対しては、IFX、Tac、CyAなどの追加治療を選択することになります。しかし、その選択方法は明確化されていません。私は、ある治療薬を投与したが無効だったのですぐに他の治療薬に次々と移るような治療は、できるだけ避けるべきと考えています。そのような観点では、例えばTacで治療を始めたらTacで治療を完遂させるために、効果が不十分な際にはLCAPを上乗せするという方法も有用だと考えます(図11)。ただ、このような強力な免疫抑制療法を行っていることや、高齢発症のUC患者さんも増えていることなどを踏まえると、感染症の副作用発現には十分注意する必要があると考えています。
(有意差なし vs, 「なし or 5-ASA」:Fisherの正確確率検定)
Y. Yokoyama, K. Matsuoka, T. Kobayashi et al., Journal of Crohn’s and Colitis 8; 981-991, 2014
副作用発現率
0
10
20
30(%)
12.2%(23/188)
なし or5-ASA
9.4%(51/540)
ステロイド
8.6% (24/278)
AZA/6MP
8.2% (4/49)
IFX
12.5% (13/104)
Tac
22.2% (2/9)
CyA
図5 併用薬剤別の副作用発現率-LCAP使用成績調査
44歳 女性: 全大腸炎型、Tac導入8ヵ月後に再燃
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
00 3 6 9 11 13 16 19 23 26 28 30 33 37 40 44 47 51 66 94(日)
16
14
12
10
8
6
4
2
0
WBC
Alb CRP
便回数
IFX IFX IFX
Tac 8 mg/day5-ASA 3.6 g/dayLCAP 2 times / week
Tac9.8ng/mL
入院
猿田先生 ご提供スライド
図8 重症難治例に対するLCAP併用例
IFX1回+LCAP前
IFX3回+LCAP7回後
IFX6回+2回目のLCAP 5回終了後
0
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20
40
60
80
100
臨床的改善率および寛解率 粘膜治癒率(内視鏡所見のある232例)Lichtiger CAIスコアの推移
73.8%(460/623) 68.9%
(429/623)
19.8%(46/232)
62.5%(145/232)
(%) (%)
LCAP開始前臨床的寛解(CAI≦4)
粘膜治癒(EI≦1)
粘膜治癒(EI=0)
臨床的改善(ΔCAI50%以上低下)
LCAP終了2週後(Wilcoxonの符号付順位検定)
p<0.001
10.3±3.1
3.4±3.2
図6 有効性-LCAP使用成績調査
CAIスコア
Y. Yokoyama, K. Matsuoka, T. Kobayashi et al., Journal of Crohn’s and Colitis 8; 981-991, 2014
旭化成メディカル株式会社 社内集計
(Wilcoxonの符号付順位検定)
LCAP終了2週後
10.5±3.9
11.1±3.4
4.4±4.3
4.4±4.0
1.IFX→LCAP 上乗せ:14例
使用状況 臨床的寛解率(CAI≦4)
粘膜治癒率(EI≦1)
副作用発現率
14.3%(2/14)
インフリキシマブ
75.0%(9/12)
83.3%(5/6)
2.同時スタート:2例
0%(0/2)
インフリキシマブ
50.0%(1/2)
内視鏡所見なし
1.Tac→LCAP 上乗せ:36例
使用状況 臨床的寛解率(CAI≦4)
粘膜治癒率(EI≦1)
副作用発現率
16.7%(6/36)
タクロリムス
57.6%(19/33)
2.同時スタート:14例
14.3%(2/14)
タクロリムス
69.2%(9/13)
58.3%(7/12)
83.3%(5/6)
LCAP開始前
LCAP終了2週後LCAP開始前
16
02468101214
16
02468101214
p<0.001
(n=14)
p<0.001
(n=46)
図7 IFX,Tac併用例-LCAP使用成績調査
CAIスコア
CAIスコア
L L L L L
L L L L L
L L L L L
L L L L L
(図5)、様々な治療薬と併用しやすいことも分かっています。 有効性評価対象623例における臨床的寛解(Lichtiger CAI≦4)率は68.9%、内視鏡所見のあった232例における粘膜治癒(Disease Activity Index; DAIの内視鏡サブスコア≦1)率は62.5%でした(図6)。この結果から、実臨床におけるLCAPの優れた有効性が確認されています。 一方、私が注目したいのは、この使用成績調査でLCAPは143例の症例でIFX、Tac、シクロスポリン(CyA)と併用されていたこと、また3割を超える症例がCAI 12以上の重症だったことです。これは実臨床では、重症の患者さんの治療の追加オプションとしてもLCAPが使用されている現状を反映したものと
図1 LCAP前後におけるIL-1β刺激によるIL-8産生量の変化
非常に強くNF-κBが活性化されていましたが、LCAP治療後ではNF-κBの活性化が抑えられているのがわかりました。つまり、NF-κBの下流にある炎症を司る何千という遺伝子の活性化が非常に効率よく抑制されていることが示されました。
次に、我々は一度に1万以上の遺伝子の動きを調べることができるDNAチップを利用して、LCAP治療前後の遺伝子の変化を詳しく解析しました(表1)。治療後に発現が減少した遺伝子は、白血球を炎症の場に効率よく誘導してくるIL-1、IL-6、TNF-αなどの炎症性サイトカイン、ケモカインやケモカインレ
セプター、T細胞を活性化させるCD83のような分子でした。つまり、炎症を起こす遺伝子が非常にたくさん抑制されているのがわかりました。一方、発現が増加した遺伝子は、TGF-β、IL -10などの抗炎症性サイトカイン、抗酸化作用を持ったThioredoxin、Selenoprotein、抗菌活性を持ったDefensinなどが観察されました。UCのような慢性炎症の場で、炎症を抑制する遺伝子群が誘導されていることがわかりました。
LCAPはリンパ球を吸着除去しますが、そのリンパ球の中で特にT細胞に注目して詳しく調べました。T細胞にはヘルパーT
LCAPについて作用機序からUC治療の位置付けを考えるというテーマですので、我々がこれまでに解明してきたLCAPの作用機序についてお話ししていきます。 LCAPは、顆粒球や単球だけでなくリンパ球、血小板も除去するという特徴を持っています。我々は、LCAP治療前と治療終了時に脱血側で採血し、血液中の単核球を分離しました。この単核球分画はリンパ球と単球から成り立っています。この単核球分画をインターロイキン-1β(IL-1β)と24時間培養した時に産生されるIL-8を調べました(図1)。IL-8は好中球を活性化して炎症を引き起こすサイトカインです。LCAP治療前には大量のIL-8
が出てきていますが、LCAP治療後には有意にIL-8産生が下がっています。LCAP2回目においても同じようにIL-8産生が低下していました。また、生物製剤の標的となっているTNF-αで単核球を刺激した時のIL -8産生も同様に抑制されました(図2)。 ここで、効果が認められた症例と認められなかった症例を比べると、前者ではLCAP治療前後でIL-8の産生量が大きく変化していることがわかり、LCAPの治療効果の予測因子のひとつになる可能性が示されました(図3)。
IL-1βやTNF-αのような炎症性サイトカインによる炎症のシグナルは、NF-κBという転写因子を活性化することによって何千という遺伝子を発現させ、炎症を誘導することがわかっています。LCAPが、このNF-κBを抑制するか調べました(図4)。その結果、LCAP治療前に脱血側から採血して分離した単核球では
LCAPは炎症性サイトカイン産生能を低下させる
滋賀医科大学 消化器内科安藤 朗 先生
(Th)細胞、エフェクターT細胞および制御性T(Treg)細胞が存在することが知られています。Th細胞は、当初Th1とTh2の2種類が知られていましたが、10年ぐらい前にTh17が発見されました。Th1はIL-2やインターフェロンγ、Th2はIL-4やIL-10、Th17はIL-17というサイトカインを、それぞれ産生することで区別されます。これらのT細胞サブセットに対してLCAPの効果を調べました。LCAPの治療前後に採血した末梢血液から単核球を分離して解析しました。UCではTh1とTh2ではTh1優位となっていますが、LCAP治療後にはTh1/Th2比が低下しました(図5)。さらに、治療後にはIL-17産生が低下しました(図省略)。また、UCの病態に関与していると考えられているエフェクターT細胞が治療後には減少し(図6)、一方、炎症抑制に関与するTreg細胞の割合は増加していることがわかりました(図7)。T細胞を中心としたリンパ球に対する効果をまとめると、LCAPは効率的に末梢血からUCの炎症に関与するT細胞を除去し、炎症を
抑制するTreg細胞の比率を高めます。つまり、全体的なレスポンスとして、LCAPは炎症を抑え込むような方向に誘導していることがわかります。
次にリンパ球と共にLCAPの特徴として吸着除去される血小板について解析しました。血小板と炎症性腸疾患についてはいくつか報告がありますが、昔からよく言われていることは、炎症性腸疾患では高率に静脈血栓症を合併し、その理由は血小板機能の亢進、異常によると報告されています。我々は、血小板の活性化を調べるために血小板凝集能を測定しました。血小板凝集能の測定は、血小板浮遊液に光をあてることで調べます。血小板が凝集していない時に光をあてると血小板が浮遊してい
100
50
0LCAP前 LCAP後
初回
**
N.S.
LCAP前 LCAP後第2回目
**
IL-1β-induced IL-8(ng/106 cells)
A Andoh et al. J Gastroenterol, 39 : 1150-1157, 2004改変
IL-1β
IL-8
リンパ球 単球
24時間培養
75
25
0
50
LCAP前 LCAP後初回
**
N.S.
LCAP前 LCAP後第2回目
**
TNF-α-induced IL-8(ng/106 cells)
A Andoh et al. J Gastroenterol, 39 : 1150-1157, 2004改変
TNF-α
IL-8
リンパ球 単球
24時間培養
有効例無効例
有効例無効例
るため光が通りません。ところが血小板が凝集し大きな凝集塊になると、下にどんどん落ちてきて、光が通るようになります。つまり、光の透過率を測定することで血小板が凝集したかどうかを判定できます。 健常人の血小板を3種類の刺激剤で刺激したところ低い濃度では凝集が全く認められませんが、濃度が高くなると凝集してくることがわかります(図8)。一方、UC患者から調製した血小板ではエピネフリンの低い濃度の刺激でも強く凝集が起こっています。同じくADPでも健常人では起こらない低濃度で凝集が認められました。しかし、LCAP治療後にUC患者から調製した血小板では健常人の反応性と同じ程度に血小板凝集能が改善され
LCAPは炎症性サイトカイン産生に関与する細胞内シグナルを低下させる
ていることが示されました(図9)。 血小板の機能はいろいろな方法で見ることができます。血小板由来のマイクロパーティクル(PDMP)という血小板の断片ですが、非常に強い血小板凝集能活性化作用をもっています。LCAP治療前後で、このPDMPの変化について検討しました(図10)。その結果、LCAP治療後にPDMPを有意に低下させていることがわかりました。 血小板の観点からも、LCAPは血小板数減少のみでなく血小板機能の抑制を介して抗炎症作用を発揮していることがわかりました。
LCAPはリンパ球、単球、血小板や顆粒球の数的な変化をも
たらしているだけではなく、これら血球成分の機能亢進を改善してUCの治療効果を発揮しています。さらに、各血球成分の活性化状態を把握することがLCAPの治療効果を予想するバイオマーカーになる可能性も示されました。
0706
図2 LCAP前後におけるTNF-α刺激によるIL-8産生量の変化
演 者
JDDW2014 サテライトシンポジウム 作用機序から考える潰瘍性大腸炎治療としてのLCAPの位置づけ
考えられます。そこで、この調査においてIFXとTac併用例の有効性と安全性をまとめました(図7)。IFXもしくはTacでも寛解導入できていない症例にLCAPを追加もしくは同時スタートすることで、50~75%の寛解導入率が得られています。一方、IFXやTacを併用した場合でも、LCAPの副作用発現率が増加することはなく、また感染症の副作用も認めませんでした。
当院で、重症例の追加オプションとしてLCAPを使用した症例を提示します(図8)。44歳女性、全大腸炎型、初発でしたが劇症に近い重症で、Tacにより寛解導入できたのですが、残念ながら8か月後に再燃してしまいました。そこでIFXを導入したのですが、内視鏡的にも臨床的にも改善がみられなかったため、2回目のIFX投与2週間後にLCAPを併用することにしました。すると、臨床症状は速やかに改善し、LCAP 7回目終了後の内視鏡像にも徐々に改善がみられました。この患者さんは、喜んで外来に戻り、LCAPを10回目まで完遂することができました。 しかし、粘膜治癒には至らなかったこともあり、2か月後に再燃し再入院しました。既に2回も強力な免疫抑制療法を行っていることから、患者さんには手術を勧めたのですが、患者さんの強い希望で再度LCAPによる治療を開始しました。すると、また速やかに症状が改善し、この患者さんは現在、5-ASAとIFXで寛解を維持しています。 ここ数年間で、当院においてLCAPを施行した43例の治療結
日本における潰瘍性大腸炎(UC)患者数は増加の一途をたどっており、近年では16万人に達しています。UCは残念ながら完治できない疾患ですが、様々な治療法の登場により、単に病勢をコントロールするだけではなく、臨床的寛解や粘膜治癒、さらに長期の寛解維持を達成できる状況になっています。 日本のUCの特徴の1つは、6割以上の方が軽症だということです。軽症の患者さんでは外来で5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤やステロイドを上手く使うことで、寛解導入を目指します。ステロイドは悪い面ばかりが強調されていますが、短期集中で上手く使えば良い薬だと考えています。残りの3割程度の中等
症から重症の患者さんや、ステロイドを上手く使っても寛解導入や寛解維持が難しいステロイド抵抗、ステロイド依存の患者さんなどに対しては、白血球除去療法(LCAP)、インフリキシマブ(IFX)などの抗TNF-α抗体製剤、タクロリムス(Tac)などの免疫調節薬が追加されることになります。
ここで、UCの発症メカニズムについて考えてみたいと思います(図1)。UCは主にリンパ球系の疾患であることがわかってきています。したがって、活性化したCD4陽性Tリンパ球などを制御することや、炎症を抑える役割を果たす制御性T細胞(Treg)の働きを是正することが重要です。一方、IFXなどは、マクロファージなどから産生されるTNF-αをピンポイントで抑えることで効果を発揮します。また今後話題になるものとして、リンパ球の接着因子を阻害する治療薬も開発されています。これは、炎症性腸疾患では、局所で炎症が惹起されると、あたかも炎に薪をくべるように、末
梢血中から顆粒球・単球などが接着・浸潤し炎症を増悪・持続させるため、その接着・浸潤を抑えて抗炎症作用を示す薬剤です。
LCAPは体外循環により末梢血中の白血球を除去することで、UCの炎症を抑える治療法です。特に注目すべきなのは、LCAPは顆粒球・単球だけでなく、リンパ球と血小板も除去できる点です(図2)。LCAPはTリンパ球系、マクロファージ系、好中球系など様々な部分に働きかけることで、総合的に病態改善に寄与していると考えられます。また、TNF-αの産生抑制や活性化血小板の除去などの抗炎症作用だけでなく、骨髄由来の筋線維芽細胞の誘導による粘膜修復作用なども報告されています(図3)。 LCAPにより白血球を除去してしまうと、感染症の懸念があるのではないかと心配されますが、実はLCAPを開始してから約30分後(血液処理量で1.5L付近)を起点にオーバーシュートという現象が起き、末梢血中の白血球は逆に増加することがわかっています(図4)。この時、ナイーブTリンパ球や骨髄由来の細胞も増加することが知られており、病態改善や粘膜治癒に寄与していると考えられています。 また昔から、UCは『腸管内におけるDIC(播種性血管内凝固症候群)』と例えられ、活性化した血小板が病態増悪に関与していると考えられています。実際、炎症の強い慢性化したUC症例では、血小板数が40~60×104/μLあるいはそれ以上の高値になることもあります。LCAPによる活性化血小板の除去は、こうした病態の是正にも関与していると考えられます。
では、LCAPが実際どのように使用されているのか、2010
年5月~2013年3月にかけて行われた大規模な使用成績調査の結果をご紹介します。全国116施設で847例のデータを集めた結果です。まず、LCAPの特長の1つである安全性についてですが、副作用発現率は10.3%(87例/847例)、主な副作用は、頭痛(2.2%)、悪心(1.4%)、発熱(1.3%)などの体外循環療法に一般的に認められるものがほとんどでした(表1)。また、併用薬剤による副作用発現率に変化はなく
果をまとめました(図9)。当院では、基本的にステロイド大量静注にLCAPを上乗せする場合(20例)が多いのですが、IFXやTac、CyAに上乗せした症例(10例)もいます。このような強力な治療との併用でも、8割程度の症例でLCAPの効果が得られています。LCAPは重症例への追加オプションとしても有用と考えています。
最後に、今後のUC治療におけるLCAPの役割について考えてみたいと思います。今後、新たな治療薬としてナタリズマブやベドリズマブなどの接着因子阻害薬が登場してくる予定です。これらの治療薬は、リンパ球が腸に接着・浸潤する際に重要なα4あるいはα4β7と呼ばれるレセプターを阻害するもので、UCおよびクローン病(CD)に対する治療薬として日本でも治験が行われています。また、小腸特異的なレセプターであるCCR9を阻害するTraficet-ENという薬は、CDに有用な治療薬
として開発が進められています。 LCAPは、おそらくα4β7やCCR9を発現した腸型Tリンパ球も除去することが期待できますので、作用機序的には、接着因子阻害薬と同様の効果を発揮するのではないかと考えられます(図10)。特にCCR9を発現したTリンパ球の除去は、小腸型CDへの有効性を示唆するものですから、今後検討を進める必要があります。また、一部の接着因子阻害薬の重篤な副作用として、多発性白質脳症(PML)が問題になっていますが、LCAPではそのような副作用は報告されていませんので、安全性の面では接着因子阻害薬よりも安全に使用できることも期待できます。今後は、LCAPが腸に浸潤するTリンパ球にどのような影響を及ぼすのか、接着因子阻害薬と同等以上の役割を果たせるのか、詳しく調べていく必要があると考えています。
現状、重症や劇症の難治性UCに対しては、ステロイド大量静注療法から治療を始めますが、それでも難渋する症例に対しては、IFX、Tac、CyAなどの追加治療を選択することになります。しかし、その選択方法は明確化されていません。私は、ある治療薬を投与したが無効だったのですぐに他の治療薬に次々と移るような治療は、できるだけ避けるべきと考えています。そのような観点では、例えばTacで治療を始めたらTacで治療を完遂させるために、効果が不十分な際にはLCAPを上乗せするという方法も有用だと考えます(図11)。ただ、このような強力な免疫抑制療法を行っていることや、高齢発症のUC患者さんも増えていることなどを踏まえると、感染症の副作用発現には十分注意する必要があると考えています。
図11 重症、劇症UCの治療ストラテジー(案)
シクロスポリン静注
タクロリムス
インフリキシマブ / アダリムマブ
寛解維持不能
重症
不応劇症 ステロイド離脱
ステロイド離脱
不応
アザチオプリン
ステロイド静注
猿田先生 ご提供スライド 猿田先生 ご提供スライド
まとめ : 治療を複雑化させないために
図10 LCAP治療の未来は?位置づけは?
おそらくはクローン病にも有効なのでは?CCR9陽性リンパ球は、小腸型クローン病において重要な役割を担っている。その他α4(β7)陽性リンパ球もやはりクローン病治療の重要なターゲットとなる
おそらくは接着因子阻害薬よりも安全なのでは?現在では、安全面で、明らかに接着因子阻害薬よりもLCAPの方が有用か・・・
おそらくは接着因子阻害薬よりも有用なのでは?LCAPは循環するリンパ球の除去と、サイトカインプロファイルの改善作用があるので、より有効?
LCAPの未来を考える
猿田先生 ご提供スライド
0
5
15
25
20
10
30
複数回施行:5例
(例)
強力な治療に併用で8例/10例の改善(80%)
3
3
112
12
111
3
17
ステロイド大量
ステロイド中等量
IFX Tac CyA AZA 外来軽症
有効
1
3
0
0 0 00
一部有効
無効
図9 当院でのLCAP併用例の有効性
L
L
L
L
6-メルカプトプリン
U C
(図5)、様々な治療薬と併用しやすいことも分かっています。 有効性評価対象623例における臨床的寛解(Lichtiger CAI≦4)率は68.9%、内視鏡所見のあった232例における粘膜治癒(Disease Activity Index; DAIの内視鏡サブスコア≦1)率は62.5%でした(図6)。この結果から、実臨床におけるLCAPの優れた有効性が確認されています。 一方、私が注目したいのは、この使用成績調査でLCAPは143例の症例でIFX、Tac、シクロスポリン(CyA)と併用されていたこと、また3割を超える症例がCAI 12以上の重症だったことです。これは実臨床では、重症の患者さんの治療の追加オプションとしてもLCAPが使用されている現状を反映したものと
図1 LCAP前後におけるIL-1β刺激によるIL-8産生量の変化
非常に強くNF-κBが活性化されていましたが、LCAP治療後ではNF-κBの活性化が抑えられているのがわかりました。つまり、NF-κBの下流にある炎症を司る何千という遺伝子の活性化が非常に効率よく抑制されていることが示されました。
次に、我々は一度に1万以上の遺伝子の動きを調べることができるDNAチップを利用して、LCAP治療前後の遺伝子の変化を詳しく解析しました(表1)。治療後に発現が減少した遺伝子は、白血球を炎症の場に効率よく誘導してくるIL-1、IL-6、TNF-αなどの炎症性サイトカイン、ケモカインやケモカインレ
セプター、T細胞を活性化させるCD83のような分子でした。つまり、炎症を起こす遺伝子が非常にたくさん抑制されているのがわかりました。一方、発現が増加した遺伝子は、TGF-β、IL -10などの抗炎症性サイトカイン、抗酸化作用を持ったThioredoxin、Selenoprotein、抗菌活性を持ったDefensinなどが観察されました。UCのような慢性炎症の場で、炎症を抑制する遺伝子群が誘導されていることがわかりました。
LCAPはリンパ球を吸着除去しますが、そのリンパ球の中で特にT細胞に注目して詳しく調べました。T細胞にはヘルパーT
LCAPについて作用機序からUC治療の位置付けを考えるというテーマですので、我々がこれまでに解明してきたLCAPの作用機序についてお話ししていきます。 LCAPは、顆粒球や単球だけでなくリンパ球、血小板も除去するという特徴を持っています。我々は、LCAP治療前と治療終了時に脱血側で採血し、血液中の単核球を分離しました。この単核球分画はリンパ球と単球から成り立っています。この単核球分画をインターロイキン-1β(IL-1β)と24時間培養した時に産生されるIL-8を調べました(図1)。IL-8は好中球を活性化して炎症を引き起こすサイトカインです。LCAP治療前には大量のIL-8
が出てきていますが、LCAP治療後には有意にIL-8産生が下がっています。LCAP2回目においても同じようにIL-8産生が低下していました。また、生物製剤の標的となっているTNF-αで単核球を刺激した時のIL -8産生も同様に抑制されました(図2)。 ここで、効果が認められた症例と認められなかった症例を比べると、前者ではLCAP治療前後でIL-8の産生量が大きく変化していることがわかり、LCAPの治療効果の予測因子のひとつになる可能性が示されました(図3)。
IL-1βやTNF-αのような炎症性サイトカインによる炎症のシグナルは、NF-κBという転写因子を活性化することによって何千という遺伝子を発現させ、炎症を誘導することがわかっています。LCAPが、このNF-κBを抑制するか調べました(図4)。その結果、LCAP治療前に脱血側から採血して分離した単核球では
LCAPは炎症性サイトカイン産生能を低下させる
滋賀医科大学 消化器内科安藤 朗 先生
(Th)細胞、エフェクターT細胞および制御性T(Treg)細胞が存在することが知られています。Th細胞は、当初Th1とTh2の2種類が知られていましたが、10年ぐらい前にTh17が発見されました。Th1はIL-2やインターフェロンγ、Th2はIL-4やIL-10、Th17はIL-17というサイトカインを、それぞれ産生することで区別されます。これらのT細胞サブセットに対してLCAPの効果を調べました。LCAPの治療前後に採血した末梢血液から単核球を分離して解析しました。UCではTh1とTh2ではTh1優位となっていますが、LCAP治療後にはTh1/Th2比が低下しました(図5)。さらに、治療後にはIL-17産生が低下しました(図省略)。また、UCの病態に関与していると考えられているエフェクターT細胞が治療後には減少し(図6)、一方、炎症抑制に関与するTreg細胞の割合は増加していることがわかりました(図7)。T細胞を中心としたリンパ球に対する効果をまとめると、LCAPは効率的に末梢血からUCの炎症に関与するT細胞を除去し、炎症を
抑制するTreg細胞の比率を高めます。つまり、全体的なレスポンスとして、LCAPは炎症を抑え込むような方向に誘導していることがわかります。
次にリンパ球と共にLCAPの特徴として吸着除去される血小板について解析しました。血小板と炎症性腸疾患についてはいくつか報告がありますが、昔からよく言われていることは、炎症性腸疾患では高率に静脈血栓症を合併し、その理由は血小板機能の亢進、異常によると報告されています。我々は、血小板の活性化を調べるために血小板凝集能を測定しました。血小板凝集能の測定は、血小板浮遊液に光をあてることで調べます。血小板が凝集していない時に光をあてると血小板が浮遊してい
100
50
0LCAP前 LCAP後
初回
**
N.S.
LCAP前 LCAP後第2回目
**
IL-1β-induced IL-8(ng/106 cells)
A Andoh et al. J Gastroenterol, 39 : 1150-1157, 2004改変
IL-1β
IL-8
リンパ球 単球
24時間培養
75
25
0
50
LCAP前 LCAP後初回
**
N.S.
LCAP前 LCAP後第2回目
**
TNF-α-induced IL-8(ng/106 cells)
A Andoh et al. J Gastroenterol, 39 : 1150-1157, 2004改変
TNF-α
IL-8
リンパ球 単球
24時間培養
有効例無効例
有効例無効例
るため光が通りません。ところが血小板が凝集し大きな凝集塊になると、下にどんどん落ちてきて、光が通るようになります。つまり、光の透過率を測定することで血小板が凝集したかどうかを判定できます。 健常人の血小板を3種類の刺激剤で刺激したところ低い濃度では凝集が全く認められませんが、濃度が高くなると凝集してくることがわかります(図8)。一方、UC患者から調製した血小板ではエピネフリンの低い濃度の刺激でも強く凝集が起こっています。同じくADPでも健常人では起こらない低濃度で凝集が認められました。しかし、LCAP治療後にUC患者から調製した血小板では健常人の反応性と同じ程度に血小板凝集能が改善され
LCAPは炎症性サイトカイン産生に関与する細胞内シグナルを低下させる
ていることが示されました(図9)。 血小板の機能はいろいろな方法で見ることができます。血小板由来のマイクロパーティクル(PDMP)という血小板の断片ですが、非常に強い血小板凝集能活性化作用をもっています。LCAP治療前後で、このPDMPの変化について検討しました(図10)。その結果、LCAP治療後にPDMPを有意に低下させていることがわかりました。 血小板の観点からも、LCAPは血小板数減少のみでなく血小板機能の抑制を介して抗炎症作用を発揮していることがわかりました。
LCAPはリンパ球、単球、血小板や顆粒球の数的な変化をも
たらしているだけではなく、これら血球成分の機能亢進を改善してUCの治療効果を発揮しています。さらに、各血球成分の活性化状態を把握することがLCAPの治療効果を予想するバイオマーカーになる可能性も示されました。
0706
図2 LCAP前後におけるTNF-α刺激によるIL-8産生量の変化
演 者
JDDW2014 サテライトシンポジウム 作用機序から考える潰瘍性大腸炎治療としてのLCAPの位置づけ
考えられます。そこで、この調査においてIFXとTac併用例の有効性と安全性をまとめました(図7)。IFXもしくはTacでも寛解導入できていない症例にLCAPを追加もしくは同時スタートすることで、50~75%の寛解導入率が得られています。一方、IFXやTacを併用した場合でも、LCAPの副作用発現率が増加することはなく、また感染症の副作用も認めませんでした。
当院で、重症例の追加オプションとしてLCAPを使用した症例を提示します(図8)。44歳女性、全大腸炎型、初発でしたが劇症に近い重症で、Tacにより寛解導入できたのですが、残念ながら8か月後に再燃してしまいました。そこでIFXを導入したのですが、内視鏡的にも臨床的にも改善がみられなかったため、2回目のIFX投与2週間後にLCAPを併用することにしました。すると、臨床症状は速やかに改善し、LCAP 7回目終了後の内視鏡像にも徐々に改善がみられました。この患者さんは、喜んで外来に戻り、LCAPを10回目まで完遂することができました。 しかし、粘膜治癒には至らなかったこともあり、2か月後に再燃し再入院しました。既に2回も強力な免疫抑制療法を行っていることから、患者さんには手術を勧めたのですが、患者さんの強い希望で再度LCAPによる治療を開始しました。すると、また速やかに症状が改善し、この患者さんは現在、5-ASAとIFXで寛解を維持しています。 ここ数年間で、当院においてLCAPを施行した43例の治療結
日本における潰瘍性大腸炎(UC)患者数は増加の一途をたどっており、近年では16万人に達しています。UCは残念ながら完治できない疾患ですが、様々な治療法の登場により、単に病勢をコントロールするだけではなく、臨床的寛解や粘膜治癒、さらに長期の寛解維持を達成できる状況になっています。 日本のUCの特徴の1つは、6割以上の方が軽症だということです。軽症の患者さんでは外来で5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤やステロイドを上手く使うことで、寛解導入を目指します。ステロイドは悪い面ばかりが強調されていますが、短期集中で上手く使えば良い薬だと考えています。残りの3割程度の中等
症から重症の患者さんや、ステロイドを上手く使っても寛解導入や寛解維持が難しいステロイド抵抗、ステロイド依存の患者さんなどに対しては、白血球除去療法(LCAP)、インフリキシマブ(IFX)などの抗TNF-α抗体製剤、タクロリムス(Tac)などの免疫調節薬が追加されることになります。
ここで、UCの発症メカニズムについて考えてみたいと思います(図1)。UCは主にリンパ球系の疾患であることがわかってきています。したがって、活性化したCD4陽性Tリンパ球などを制御することや、炎症を抑える役割を果たす制御性T細胞(Treg)の働きを是正することが重要です。一方、IFXなどは、マクロファージなどから産生されるTNF-αをピンポイントで抑えることで効果を発揮します。また今後話題になるものとして、リンパ球の接着因子を阻害する治療薬も開発されています。これは、炎症性腸疾患では、局所で炎症が惹起されると、あたかも炎に薪をくべるように、末
梢血中から顆粒球・単球などが接着・浸潤し炎症を増悪・持続させるため、その接着・浸潤を抑えて抗炎症作用を示す薬剤です。
LCAPは体外循環により末梢血中の白血球を除去することで、UCの炎症を抑える治療法です。特に注目すべきなのは、LCAPは顆粒球・単球だけでなく、リンパ球と血小板も除去できる点です(図2)。LCAPはTリンパ球系、マクロファージ系、好中球系など様々な部分に働きかけることで、総合的に病態改善に寄与していると考えられます。また、TNF-αの産生抑制や活性化血小板の除去などの抗炎症作用だけでなく、骨髄由来の筋線維芽細胞の誘導による粘膜修復作用なども報告されています(図3)。 LCAPにより白血球を除去してしまうと、感染症の懸念があるのではないかと心配されますが、実はLCAPを開始してから約30分後(血液処理量で1.5L付近)を起点にオーバーシュートという現象が起き、末梢血中の白血球は逆に増加することがわかっています(図4)。この時、ナイーブTリンパ球や骨髄由来の細胞も増加することが知られており、病態改善や粘膜治癒に寄与していると考えられています。 また昔から、UCは『腸管内におけるDIC(播種性血管内凝固症候群)』と例えられ、活性化した血小板が病態増悪に関与していると考えられています。実際、炎症の強い慢性化したUC症例では、血小板数が40~60×104/μLあるいはそれ以上の高値になることもあります。LCAPによる活性化血小板の除去は、こうした病態の是正にも関与していると考えられます。
では、LCAPが実際どのように使用されているのか、2010
年5月~2013年3月にかけて行われた大規模な使用成績調査の結果をご紹介します。全国116施設で847例のデータを集めた結果です。まず、LCAPの特長の1つである安全性についてですが、副作用発現率は10.3%(87例/847例)、主な副作用は、頭痛(2.2%)、悪心(1.4%)、発熱(1.3%)などの体外循環療法に一般的に認められるものがほとんどでした(表1)。また、併用薬剤による副作用発現率に変化はなく
果をまとめました(図9)。当院では、基本的にステロイド大量静注にLCAPを上乗せする場合(20例)が多いのですが、IFXやTac、CyAに上乗せした症例(10例)もいます。このような強力な治療との併用でも、8割程度の症例でLCAPの効果が得られています。LCAPは重症例への追加オプションとしても有用と考えています。
最後に、今後のUC治療におけるLCAPの役割について考えてみたいと思います。今後、新たな治療薬としてナタリズマブやベドリズマブなどの接着因子阻害薬が登場してくる予定です。これらの治療薬は、リンパ球が腸に接着・浸潤する際に重要なα4あるいはα4β7と呼ばれるレセプターを阻害するもので、UCおよびクローン病(CD)に対する治療薬として日本でも治験が行われています。また、小腸特異的なレセプターであるCCR9を阻害するTraficet-ENという薬は、CDに有用な治療薬
として開発が進められています。 LCAPは、おそらくα4β7やCCR9を発現した腸型Tリンパ球も除去することが期待できますので、作用機序的には、接着因子阻害薬と同様の効果を発揮するのではないかと考えられます(図10)。特にCCR9を発現したTリンパ球の除去は、小腸型CDへの有効性を示唆するものですから、今後検討を進める必要があります。また、一部の接着因子阻害薬の重篤な副作用として、多発性白質脳症(PML)が問題になっていますが、LCAPではそのような副作用は報告されていませんので、安全性の面では接着因子阻害薬よりも安全に使用できることも期待できます。今後は、LCAPが腸に浸潤するTリンパ球にどのような影響を及ぼすのか、接着因子阻害薬と同等以上の役割を果たせるのか、詳しく調べていく必要があると考えています。
現状、重症や劇症の難治性UCに対しては、ステロイド大量静注療法から治療を始めますが、それでも難渋する症例に対しては、IFX、Tac、CyAなどの追加治療を選択することになります。しかし、その選択方法は明確化されていません。私は、ある治療薬を投与したが無効だったのですぐに他の治療薬に次々と移るような治療は、できるだけ避けるべきと考えています。そのような観点では、例えばTacで治療を始めたらTacで治療を完遂させるために、効果が不十分な際にはLCAPを上乗せするという方法も有用だと考えます(図11)。ただ、このような強力な免疫抑制療法を行っていることや、高齢発症のUC患者さんも増えていることなどを踏まえると、感染症の副作用発現には十分注意する必要があると考えています。
図11 重症、劇症UCの治療ストラテジー(案)
シクロスポリン静注
タクロリムス
インフリキシマブ / アダリムマブ
寛解維持不能
重症
不応劇症 ステロイド離脱
ステロイド離脱
不応
アザチオプリン
ステロイド静注
猿田先生 ご提供スライド 猿田先生 ご提供スライド
まとめ : 治療を複雑化させないために
図10 LCAP治療の未来は?位置づけは?
おそらくはクローン病にも有効なのでは?CCR9陽性リンパ球は、小腸型クローン病において重要な役割を担っている。その他α4(β7)陽性リンパ球もやはりクローン病治療の重要なターゲットとなる
おそらくは接着因子阻害薬よりも安全なのでは?現在では、安全面で、明らかに接着因子阻害薬よりもLCAPの方が有用か・・・
おそらくは接着因子阻害薬よりも有用なのでは?LCAPは循環するリンパ球の除去と、サイトカインプロファイルの改善作用があるので、より有効?
LCAPの未来を考える
猿田先生 ご提供スライド
0
5
15
25
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10
30
複数回施行:5例
(例)
強力な治療に併用で8例/10例の改善(80%)
3
3
112
12
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3
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ステロイド大量
ステロイド中等量
IFX Tac CyA AZA 外来軽症
有効
1
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一部有効
無効
図9 当院でのLCAP併用例の有効性
L
L
L
L
6-メルカプトプリン
U C
(図5)、様々な治療薬と併用しやすいことも分かっています。 有効性評価対象623例における臨床的寛解(Lichtiger CAI≦4)率は68.9%、内視鏡所見のあった232例における粘膜治癒(Disease Activity Index; DAIの内視鏡サブスコア≦1)率は62.5%でした(図6)。この結果から、実臨床におけるLCAPの優れた有効性が確認されています。 一方、私が注目したいのは、この使用成績調査でLCAPは143例の症例でIFX、Tac、シクロスポリン(CyA)と併用されていたこと、また3割を超える症例がCAI 12以上の重症だったことです。これは実臨床では、重症の患者さんの治療の追加オプションとしてもLCAPが使用されている現状を反映したものと
図6 LCAP前後におけるリンパ球サブセットの変化(2)
図5 LCAP前後におけるリンパ球サブセットの変化(1)
図3 有効例と無効例におけるLCAP前後のサイトカイン産生量の差の比較
非常に強くNF-κBが活性化されていましたが、LCAP治療後ではNF-κBの活性化が抑えられているのがわかりました。つまり、NF-κBの下流にある炎症を司る何千という遺伝子の活性化が非常に効率よく抑制されていることが示されました。
次に、我々は一度に1万以上の遺伝子の動きを調べることができるDNAチップを利用して、LCAP治療前後の遺伝子の変化を詳しく解析しました(表1)。治療後に発現が減少した遺伝子は、白血球を炎症の場に効率よく誘導してくるIL-1、IL-6、TNF-αなどの炎症性サイトカイン、ケモカインやケモカインレ
セプター、T細胞を活性化させるCD83のような分子でした。つまり、炎症を起こす遺伝子が非常にたくさん抑制されているのがわかりました。一方、発現が増加した遺伝子は、TGF-β、IL -10などの抗炎症性サイトカイン、抗酸化作用を持ったThioredoxin、Selenoprotein、抗菌活性を持ったDefensinなどが観察されました。UCのような慢性炎症の場で、炎症を抑制する遺伝子群が誘導されていることがわかりました。
LCAPはリンパ球を吸着除去しますが、そのリンパ球の中で特にT細胞に注目して詳しく調べました。T細胞にはヘルパーT
LCAPについて作用機序からUC治療の位置付けを考えるというテーマですので、我々がこれまでに解明してきたLCAPの作用機序についてお話ししていきます。 LCAPは、顆粒球や単球だけでなくリンパ球、血小板も除去するという特徴を持っています。我々は、LCAP治療前と治療終了時に脱血側で採血し、血液中の単核球を分離しました。この単核球分画はリンパ球と単球から成り立っています。この単核球分画をインターロイキン-1β(IL-1β)と24時間培養した時に産生されるIL-8を調べました(図1)。IL-8は好中球を活性化して炎症を引き起こすサイトカインです。LCAP治療前には大量のIL-8
が出てきていますが、LCAP治療後には有意にIL-8産生が下がっています。LCAP2回目においても同じようにIL-8産生が低下していました。また、生物製剤の標的となっているTNF-αで単核球を刺激した時のIL -8産生も同様に抑制されました(図2)。 ここで、効果が認められた症例と認められなかった症例を比べると、前者ではLCAP治療前後でIL-8の産生量が大きく変化していることがわかり、LCAPの治療効果の予測因子のひとつになる可能性が示されました(図3)。
IL-1βやTNF-αのような炎症性サイトカインによる炎症のシグナルは、NF-κBという転写因子を活性化することによって何千という遺伝子を発現させ、炎症を誘導することがわかっています。LCAPが、このNF-κBを抑制するか調べました(図4)。その結果、LCAP治療前に脱血側から採血して分離した単核球では
LCAPは炎症に関与する種々の遺伝子群に働き炎症を制御する
(Th)細胞、エフェクターT細胞および制御性T(Treg)細胞が存在することが知られています。Th細胞は、当初Th1とTh2の2種類が知られていましたが、10年ぐらい前にTh17が発見されました。Th1はIL-2やインターフェロンγ、Th2はIL-4やIL-10、Th17はIL-17というサイトカインを、それぞれ産生することで区別されます。これらのT細胞サブセットに対してLCAPの効果を調べました。LCAPの治療前後に採血した末梢血液から単核球を分離して解析しました。UCではTh1とTh2ではTh1優位となっていますが、LCAP治療後にはTh1/Th2比が低下しました(図5)。さらに、治療後にはIL-17産生が低下しました(図省略)。また、UCの病態に関与していると考えられているエフェクターT細胞が治療後には減少し(図6)、一方、炎症抑制に関与するTreg細胞の割合は増加していることがわかりました(図7)。T細胞を中心としたリンパ球に対する効果をまとめると、LCAPは効率的に末梢血からUCの炎症に関与するT細胞を除去し、炎症を
抑制するTreg細胞の比率を高めます。つまり、全体的なレスポンスとして、LCAPは炎症を抑え込むような方向に誘導していることがわかります。
次にリンパ球と共にLCAPの特徴として吸着除去される血小板について解析しました。血小板と炎症性腸疾患についてはいくつか報告がありますが、昔からよく言われていることは、炎症性腸疾患では高率に静脈血栓症を合併し、その理由は血小板機能の亢進、異常によると報告されています。我々は、血小板の活性化を調べるために血小板凝集能を測定しました。血小板凝集能の測定は、血小板浮遊液に光をあてることで調べます。血小板が凝集していない時に光をあてると血小板が浮遊してい
LCAPは種々のT細胞サブセットに働き炎症を制御する
A Andoh et al. J Gastroenterol, 39 : 1150-1157, 2004改変
図4 LCAPによるNF-κB活性化の抑制
A Andoh et al. J Gastroenterol, 39 : 1150-1157, 2004改変
(A) (B)
相対吸光度(%)
**
前IL-1β刺激 TNF-α刺激
後
100
50
0
**
前 後
ΔIL-1β-induced IL-8(ng)
(A) N.S.
有効例 無効例
40
20
0
ΔIL-1β-induced IL-6(ng)
(C) N.S.
有効例 無効例
20
10
0
ΔTNF-α-induced IL-8(ng)
(B)
*
有効例 無効例
40
20
0ΔTNF-α-induced IL-6(ng)
(D)
*
有効例 無効例
800
400
0
るため光が通りません。ところが血小板が凝集し大きな凝集塊になると、下にどんどん落ちてきて、光が通るようになります。つまり、光の透過率を測定することで血小板が凝集したかどうかを判定できます。 健常人の血小板を3種類の刺激剤で刺激したところ低い濃度では凝集が全く認められませんが、濃度が高くなると凝集してくることがわかります(図8)。一方、UC患者から調製した血小板ではエピネフリンの低い濃度の刺激でも強く凝集が起こっています。同じくADPでも健常人では起こらない低濃度で凝集が認められました。しかし、LCAP治療後にUC患者から調製した血小板では健常人の反応性と同じ程度に血小板凝集能が改善され
LCAPはUCで亢進した血小板機能を抑制する
A Andoh et al. Ther Apher Dial, 9(3): 270-276, 2005改変
A Andoh et al. Ther Apher Dial, 9(3): 270-276, 2005改変
Th1
Th2
LCAP
Th2
Th1
ていることが示されました(図9)。 血小板の機能はいろいろな方法で見ることができます。血小板由来のマイクロパーティクル(PDMP)という血小板の断片ですが、非常に強い血小板凝集能活性化作用をもっています。LCAP治療前後で、このPDMPの変化について検討しました(図10)。その結果、LCAP治療後にPDMPを有意に低下させていることがわかりました。 血小板の観点からも、LCAPは血小板数減少のみでなく血小板機能の抑制を介して抗炎症作用を発揮していることがわかりました。
Y Yagi et al. Ther Apher Dial, 11(5): 331-336, 2007
表1 LCAP前後の遺伝子発現
1. 炎症性サイトカイン (IL-1α, IL-1β, IL-6, TNF-α, IFN-γ)
2. ケモカイン (CCL2, CCL4, CCL7, CCL20, CXCL7, CXCL1, CXCL2, CXCL3など)
3. ケモカインレセプター (CCR1, CCR2, CCR5, CXCR1, CXCR6)
4. IL-1R, IRAK, TRAF5
5. CD83, CD86
6. PPAR-γ, c-Jun
7. HSP-70
8. IL-2R
1. 抗炎症性サイトカイン
2. SOCS, IL-4R, IL-10R
3. STAT3, 5A, JAK-1, JAK-2
4. Thioredoxin, Selenoprotein
5. Defensin α4
6. MAPキナーゼ群 (MAPK14, MAP4K1, MAPK9, MAPKAPK-2など)
7. FK506 binding protein
減少 増加
LCAPはリンパ球、単球、血小板や顆粒球の数的な変化をも
たらしているだけではなく、これら血球成分の機能亢進を改善してUCの治療効果を発揮しています。さらに、各血球成分の活性化状態を把握することがLCAPの治療効果を予想するバイオマーカーになる可能性も示されました。
08 09
LCAP前
LCAP後
LCAP前
非標識プロープ
抗p50抗体
抗p65抗体
1 2 3 4 5 6
50
25
0Pre Post
*Th1/Th2
有効例無効例手術例
1,000
500
0Pre Post
**CD4+T cells
有効例無効例手術例
(cells/μL) (cells/μL)500
250
0Pre Post
**CD45RO+ CD4+ T cells
有効例無効例手術例
JDDW2014 サテライトシンポジウム 作用機序から考える潰瘍性大腸炎治療としてのLCAPの位置づけ
図6 LCAP前後におけるリンパ球サブセットの変化(2)
図5 LCAP前後におけるリンパ球サブセットの変化(1)
図3 有効例と無効例におけるLCAP前後のサイトカイン産生量の差の比較
非常に強くNF-κBが活性化されていましたが、LCAP治療後ではNF-κBの活性化が抑えられているのがわかりました。つまり、NF-κBの下流にある炎症を司る何千という遺伝子の活性化が非常に効率よく抑制されていることが示されました。
次に、我々は一度に1万以上の遺伝子の動きを調べることができるDNAチップを利用して、LCAP治療前後の遺伝子の変化を詳しく解析しました(表1)。治療後に発現が減少した遺伝子は、白血球を炎症の場に効率よく誘導してくるIL-1、IL-6、TNF-αなどの炎症性サイトカイン、ケモカインやケモカインレ
セプター、T細胞を活性化させるCD83のような分子でした。つまり、炎症を起こす遺伝子が非常にたくさん抑制されているのがわかりました。一方、発現が増加した遺伝子は、TGF-β、IL -10などの抗炎症性サイトカイン、抗酸化作用を持ったThioredoxin、Selenoprotein、抗菌活性を持ったDefensinなどが観察されました。UCのような慢性炎症の場で、炎症を抑制する遺伝子群が誘導されていることがわかりました。
LCAPはリンパ球を吸着除去しますが、そのリンパ球の中で特にT細胞に注目して詳しく調べました。T細胞にはヘルパーT
LCAPについて作用機序からUC治療の位置付けを考えるというテーマですので、我々がこれまでに解明してきたLCAPの作用機序についてお話ししていきます。 LCAPは、顆粒球や単球だけでなくリンパ球、血小板も除去するという特徴を持っています。我々は、LCAP治療前と治療終了時に脱血側で採血し、血液中の単核球を分離しました。この単核球分画はリンパ球と単球から成り立っています。この単核球分画をインターロイキン-1β(IL-1β)と24時間培養した時に産生されるIL-8を調べました(図1)。IL-8は好中球を活性化して炎症を引き起こすサイトカインです。LCAP治療前には大量のIL-8
が出てきていますが、LCAP治療後には有意にIL-8産生が下がっています。LCAP2回目においても同じようにIL-8産生が低下していました。また、生物製剤の標的となっているTNF-αで単核球を刺激した時のIL -8産生も同様に抑制されました(図2)。 ここで、効果が認められた症例と認められなかった症例を比べると、前者ではLCAP治療前後でIL-8の産生量が大きく変化していることがわかり、LCAPの治療効果の予測因子のひとつになる可能性が示されました(図3)。
IL-1βやTNF-αのような炎症性サイトカインによる炎症のシグナルは、NF-κBという転写因子を活性化することによって何千という遺伝子を発現させ、炎症を誘導することがわかっています。LCAPが、このNF-κBを抑制するか調べました(図4)。その結果、LCAP治療前に脱血側から採血して分離した単核球では
LCAPは炎症に関与する種々の遺伝子群に働き炎症を制御する
(Th)細胞、エフェクターT細胞および制御性T(Treg)細胞が存在することが知られています。Th細胞は、当初Th1とTh2の2種類が知られていましたが、10年ぐらい前にTh17が発見されました。Th1はIL-2やインターフェロンγ、Th2はIL-4やIL-10、Th17はIL-17というサイトカインを、それぞれ産生することで区別されます。これらのT細胞サブセットに対してLCAPの効果を調べました。LCAPの治療前後に採血した末梢血液から単核球を分離して解析しました。UCではTh1とTh2ではTh1優位となっていますが、LCAP治療後にはTh1/Th2比が低下しました(図5)。さらに、治療後にはIL-17産生が低下しました(図省略)。また、UCの病態に関与していると考えられているエフェクターT細胞が治療後には減少し(図6)、一方、炎症抑制に関与するTreg細胞の割合は増加していることがわかりました(図7)。T細胞を中心としたリンパ球に対する効果をまとめると、LCAPは効率的に末梢血からUCの炎症に関与するT細胞を除去し、炎症を
抑制するTreg細胞の比率を高めます。つまり、全体的なレスポンスとして、LCAPは炎症を抑え込むような方向に誘導していることがわかります。
次にリンパ球と共にLCAPの特徴として吸着除去される血小板について解析しました。血小板と炎症性腸疾患についてはいくつか報告がありますが、昔からよく言われていることは、炎症性腸疾患では高率に静脈血栓症を合併し、その理由は血小板機能の亢進、異常によると報告されています。我々は、血小板の活性化を調べるために血小板凝集能を測定しました。血小板凝集能の測定は、血小板浮遊液に光をあてることで調べます。血小板が凝集していない時に光をあてると血小板が浮遊してい
LCAPは種々のT細胞サブセットに働き炎症を制御する
A Andoh et al. J Gastroenterol, 39 : 1150-1157, 2004改変
図4 LCAPによるNF-κB活性化の抑制
A Andoh et al. J Gastroenterol, 39 : 1150-1157, 2004改変
(A) (B)
相対吸光度(%)
**
前IL-1β刺激 TNF-α刺激
後
100
50
0
**
前 後
ΔIL-1β-induced IL-8(ng)
(A) N.S.
有効例 無効例
40
20
0
ΔIL-1β-induced IL-6(ng)
(C) N.S.
有効例 無効例
20
10
0
ΔTNF-α-induced IL-8(ng)
(B)
*
有効例 無効例
40
20
0
ΔTNF-α-induced IL-6(ng)
(D)
*
有効例 無効例
800
400
0
るため光が通りません。ところが血小板が凝集し大きな凝集塊になると、下にどんどん落ちてきて、光が通るようになります。つまり、光の透過率を測定することで血小板が凝集したかどうかを判定できます。 健常人の血小板を3種類の刺激剤で刺激したところ低い濃度では凝集が全く認められませんが、濃度が高くなると凝集してくることがわかります(図8)。一方、UC患者から調製した血小板ではエピネフリンの低い濃度の刺激でも強く凝集が起こっています。同じくADPでも健常人では起こらない低濃度で凝集が認められました。しかし、LCAP治療後にUC患者から調製した血小板では健常人の反応性と同じ程度に血小板凝集能が改善され
LCAPはUCで亢進した血小板機能を抑制する
A Andoh et al. Ther Apher Dial, 9(3): 270-276, 2005改変
A Andoh et al. Ther Apher Dial, 9(3): 270-276, 2005改変
Th1
Th2
LCAP
Th2
Th1
ていることが示されました(図9)。 血小板の機能はいろいろな方法で見ることができます。血小板由来のマイクロパーティクル(PDMP)という血小板の断片ですが、非常に強い血小板凝集能活性化作用をもっています。LCAP治療前後で、このPDMPの変化について検討しました(図10)。その結果、LCAP治療後にPDMPを有意に低下させていることがわかりました。 血小板の観点からも、LCAPは血小板数減少のみでなく血小板機能の抑制を介して抗炎症作用を発揮していることがわかりました。
Y Yagi et al. Ther Apher Dial, 11(5): 331-336, 2007
表1 LCAP前後の遺伝子発現
1. 炎症性サイトカイン (IL-1α, IL-1β, IL-6, TNF-α, IFN-γ)
2. ケモカイン (CCL2, CCL4, CCL7, CCL20, CXCL7, CXCL1, CXCL2, CXCL3など)
3. ケモカインレセプター (CCR1, CCR2, CCR5, CXCR1, CXCR6)
4. IL-1R, IRAK, TRAF5
5. CD83, CD86
6. PPAR-γ, c-Jun
7. HSP-70
8. IL-2R
1. 抗炎症性サイトカイン
2. SOCS, IL-4R, IL-10R
3. STAT3, 5A, JAK-1, JAK-2
4. Thioredoxin, Selenoprotein
5. Defensin α4
6. MAPキナーゼ群 (MAPK14, MAP4K1, MAPK9, MAPKAPK-2など)
7. FK506 binding protein
減少 増加
LCAPはリンパ球、単球、血小板や顆粒球の数的な変化をも
たらしているだけではなく、これら血球成分の機能亢進を改善してUCの治療効果を発揮しています。さらに、各血球成分の活性化状態を把握することがLCAPの治療効果を予想するバイオマーカーになる可能性も示されました。
08 09
LCAP前
LCAP後
LCAP前
非標識プロープ
抗p50抗体
抗p65抗体
1 2 3 4 5 6
50
25
0Pre Post
*Th1/Th2
有効例無効例手術例
1,000
500
0Pre Post
**CD4+T cells
有効例無効例手術例
(cells/μL) (cells/μL)500
250
0Pre Post
**CD45RO+ CD4+ T cells
有効例無効例手術例
JDDW2014 サテライトシンポジウム 作用機序から考える潰瘍性大腸炎治療としてのLCAPの位置づけ
図10 LCAP前後における血小板PDMPレベルの変化
図7 LCAP前後におけるリンパ球サブセットの変化(3)
非常に強くNF-κBが活性化されていましたが、LCAP治療後ではNF-κBの活性化が抑えられているのがわかりました。つまり、NF-κBの下流にある炎症を司る何千という遺伝子の活性化が非常に効率よく抑制されていることが示されました。
次に、我々は一度に1万以上の遺伝子の動きを調べることができるDNAチップを利用して、LCAP治療前後の遺伝子の変化を詳しく解析しました(表1)。治療後に発現が減少した遺伝子は、白血球を炎症の場に効率よく誘導してくるIL-1、IL-6、TNF-αなどの炎症性サイトカイン、ケモカインやケモカインレ
セプター、T細胞を活性化させるCD83のような分子でした。つまり、炎症を起こす遺伝子が非常にたくさん抑制されているのがわかりました。一方、発現が増加した遺伝子は、TGF-β、IL -10などの抗炎症性サイトカイン、抗酸化作用を持ったThioredoxin、Selenoprotein、抗菌活性を持ったDefensinなどが観察されました。UCのような慢性炎症の場で、炎症を抑制する遺伝子群が誘導されていることがわかりました。
LCAPはリンパ球を吸着除去しますが、そのリンパ球の中で特にT細胞に注目して詳しく調べました。T細胞にはヘルパーT
LCAPについて作用機序からUC治療の位置付けを考えるというテーマですので、我々がこれまでに解明してきたLCAPの作用機序についてお話ししていきます。 LCAPは、顆粒球や単球だけでなくリンパ球、血小板も除去するという特徴を持っています。我々は、LCAP治療前と治療終了時に脱血側で採血し、血液中の単核球を分離しました。この単核球分画はリンパ球と単球から成り立っています。この単核球分画をインターロイキン-1β(IL-1β)と24時間培養した時に産生されるIL-8を調べました(図1)。IL-8は好中球を活性化して炎症を引き起こすサイトカインです。LCAP治療前には大量のIL-8
が出てきていますが、LCAP治療後には有意にIL-8産生が下がっています。LCAP2回目においても同じようにIL-8産生が低下していました。また、生物製剤の標的となっているTNF-αで単核球を刺激した時のIL -8産生も同様に抑制されました(図2)。 ここで、効果が認められた症例と認められなかった症例を比べると、前者ではLCAP治療前後でIL-8の産生量が大きく変化していることがわかり、LCAPの治療効果の予測因子のひとつになる可能性が示されました(図3)。
IL-1βやTNF-αのような炎症性サイトカインによる炎症のシグナルは、NF-κBという転写因子を活性化することによって何千という遺伝子を発現させ、炎症を誘導することがわかっています。LCAPが、このNF-κBを抑制するか調べました(図4)。その結果、LCAP治療前に脱血側から採血して分離した単核球では
(Th)細胞、エフェクターT細胞および制御性T(Treg)細胞が存在することが知られています。Th細胞は、当初Th1とTh2の2種類が知られていましたが、10年ぐらい前にTh17が発見されました。Th1はIL-2やインターフェロンγ、Th2はIL-4やIL-10、Th17はIL-17というサイトカインを、それぞれ産生することで区別されます。これらのT細胞サブセットに対してLCAPの効果を調べました。LCAPの治療前後に採血した末梢血液から単核球を分離して解析しました。UCではTh1とTh2ではTh1優位となっていますが、LCAP治療後にはTh1/Th2比が低下しました(図5)。さらに、治療後にはIL-17産生が低下しました(図省略)。また、UCの病態に関与していると考えられているエフェクターT細胞が治療後には減少し(図6)、一方、炎症抑制に関与するTreg細胞の割合は増加していることがわかりました(図7)。T細胞を中心としたリンパ球に対する効果をまとめると、LCAPは効率的に末梢血からUCの炎症に関与するT細胞を除去し、炎症を
抑制するTreg細胞の比率を高めます。つまり、全体的なレスポンスとして、LCAPは炎症を抑え込むような方向に誘導していることがわかります。
次にリンパ球と共にLCAPの特徴として吸着除去される血小板について解析しました。血小板と炎症性腸疾患についてはいくつか報告がありますが、昔からよく言われていることは、炎症性腸疾患では高率に静脈血栓症を合併し、その理由は血小板機能の亢進、異常によると報告されています。我々は、血小板の活性化を調べるために血小板凝集能を測定しました。血小板凝集能の測定は、血小板浮遊液に光をあてることで調べます。血小板が凝集していない時に光をあてると血小板が浮遊してい
Y Yagi et al. J Gastroenterol, 41 : 540-546, 2006改変
Y Yagi et al. J Gastroenterol, 41 : 540-546, 2006改変
るため光が通りません。ところが血小板が凝集し大きな凝集塊になると、下にどんどん落ちてきて、光が通るようになります。つまり、光の透過率を測定することで血小板が凝集したかどうかを判定できます。 健常人の血小板を3種類の刺激剤で刺激したところ低い濃度では凝集が全く認められませんが、濃度が高くなると凝集してくることがわかります(図8)。一方、UC患者から調製した血小板ではエピネフリンの低い濃度の刺激でも強く凝集が起こっています。同じくADPでも健常人では起こらない低濃度で凝集が認められました。しかし、LCAP治療後にUC患者から調製した血小板では健常人の反応性と同じ程度に血小板凝集能が改善され
A Andoh et al. Ther Apher Dial, 9(3): 270-276, 2005改変
ていることが示されました(図9)。 血小板の機能はいろいろな方法で見ることができます。血小板由来のマイクロパーティクル(PDMP)という血小板の断片ですが、非常に強い血小板凝集能活性化作用をもっています。LCAP治療前後で、このPDMPの変化について検討しました(図10)。その結果、LCAP治療後にPDMPを有意に低下させていることがわかりました。 血小板の観点からも、LCAPは血小板数減少のみでなく血小板機能の抑制を介して抗炎症作用を発揮していることがわかりました。
LCAPはリンパ球、単球、血小板や顆粒球の数的な変化をも
たらしているだけではなく、これら血球成分の機能亢進を改善してUCの治療効果を発揮しています。さらに、各血球成分の活性化状態を把握することがLCAPの治療効果を予想するバイオマーカーになる可能性も示されました。
10 11
100
75
25
125
50
0健常人 Pre
LCAP
Post
***
PDMP(U/mL)
Y Yagi et al. J Gastroenterol, 41 : 540-546, 2006改変
図8 健常人とUC患者の血小板凝集能の比較
正常
UC(active)
凝集率
ADP
100(%)
80
60
40
20
00 5 (min)
CollagenEpinephrine
100(%)
80
60
40
20
00 5 (min)
100(%)
80
60
40
20
00 5 (min)
2.0μg/mL0.2μg/mL0.1μg/mL
2.0μg/mL0.5μg/mL
3.0μM1.0μM
0.2μg/mL
凝集率
100(%)
80
60
40
20
00 5 (min)
100(%)
80
60
40
20
00 5 (min)
100(%)
80
60
40
20
00 5 (min)
2.0μg/mL0.2μg/mL0.1μg/mL
2.0μg/mL0.5μg/mL
3.0μM1.0μM
0.2μg/mL
図9 LCAP前後における血小板凝集能の変化
症例1LCAP前
凝集率
ADP
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
Collagen
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
2.0μg/mLEpinephrine
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
0.2μg/mL0.1μg/mL
2.0μg/mL0.5μg/mL
3.0μM1.0μM
0.2μg/mL
LCAP後
凝集率
ADP
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
Collagen
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
2.0μg/mLEpinephrine
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
0.2μg/mL0.1μg/mL
2.0μg/mL0.5μg/mL
3.0μM1.0μM
0.2μg/mL
症例2LCAP前
凝集率
ADP
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
Collagen
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
2.0μg/mLEpinephrine
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
0.2μg/mL0.1μg/mL
2.0μg/mL0.5μg/mL
3.0μM1.0μM
0.2μg/mL
LCAP後
凝集率
ADP
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
Collagen
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
2.0μg/mLEpinephrine
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
0.2μg/mL0.1μg/mL
2.0μg/mL0.5μg/mL
3.0μM1.0μM
0.2μg/mL
(cells/μL)80
60
40
20
0Pre Post
*CD25+CD4+ T cells
20(×10-2)
10
0Pre Post
**Ratio(CD25+CD4+ / CD25-CD4+)
有効例無効例手術例
有効例無効例手術例
まとめ : LCAPは血球成分の機能亢進を改善する
JDDW2014 サテライトシンポジウム 作用機序から考える潰瘍性大腸炎治療としてのLCAPの位置づけ
図10 LCAP前後における血小板PDMPレベルの変化
図7 LCAP前後におけるリンパ球サブセットの変化(3)
非常に強くNF-κBが活性化されていましたが、LCAP治療後ではNF-κBの活性化が抑えられているのがわかりました。つまり、NF-κBの下流にある炎症を司る何千という遺伝子の活性化が非常に効率よく抑制されていることが示されました。
次に、我々は一度に1万以上の遺伝子の動きを調べることができるDNAチップを利用して、LCAP治療前後の遺伝子の変化を詳しく解析しました(表1)。治療後に発現が減少した遺伝子は、白血球を炎症の場に効率よく誘導してくるIL-1、IL-6、TNF-αなどの炎症性サイトカイン、ケモカインやケモカインレ
セプター、T細胞を活性化させるCD83のような分子でした。つまり、炎症を起こす遺伝子が非常にたくさん抑制されているのがわかりました。一方、発現が増加した遺伝子は、TGF-β、IL -10などの抗炎症性サイトカイン、抗酸化作用を持ったThioredoxin、Selenoprotein、抗菌活性を持ったDefensinなどが観察されました。UCのような慢性炎症の場で、炎症を抑制する遺伝子群が誘導されていることがわかりました。
LCAPはリンパ球を吸着除去しますが、そのリンパ球の中で特にT細胞に注目して詳しく調べました。T細胞にはヘルパーT
LCAPについて作用機序からUC治療の位置付けを考えるというテーマですので、我々がこれまでに解明してきたLCAPの作用機序についてお話ししていきます。 LCAPは、顆粒球や単球だけでなくリンパ球、血小板も除去するという特徴を持っています。我々は、LCAP治療前と治療終了時に脱血側で採血し、血液中の単核球を分離しました。この単核球分画はリンパ球と単球から成り立っています。この単核球分画をインターロイキン-1β(IL-1β)と24時間培養した時に産生されるIL-8を調べました(図1)。IL-8は好中球を活性化して炎症を引き起こすサイトカインです。LCAP治療前には大量のIL-8
が出てきていますが、LCAP治療後には有意にIL-8産生が下がっています。LCAP2回目においても同じようにIL-8産生が低下していました。また、生物製剤の標的となっているTNF-αで単核球を刺激した時のIL -8産生も同様に抑制されました(図2)。 ここで、効果が認められた症例と認められなかった症例を比べると、前者ではLCAP治療前後でIL-8の産生量が大きく変化していることがわかり、LCAPの治療効果の予測因子のひとつになる可能性が示されました(図3)。
IL-1βやTNF-αのような炎症性サイトカインによる炎症のシグナルは、NF-κBという転写因子を活性化することによって何千という遺伝子を発現させ、炎症を誘導することがわかっています。LCAPが、このNF-κBを抑制するか調べました(図4)。その結果、LCAP治療前に脱血側から採血して分離した単核球では
(Th)細胞、エフェクターT細胞および制御性T(Treg)細胞が存在することが知られています。Th細胞は、当初Th1とTh2の2種類が知られていましたが、10年ぐらい前にTh17が発見されました。Th1はIL-2やインターフェロンγ、Th2はIL-4やIL-10、Th17はIL-17というサイトカインを、それぞれ産生することで区別されます。これらのT細胞サブセットに対してLCAPの効果を調べました。LCAPの治療前後に採血した末梢血液から単核球を分離して解析しました。UCではTh1とTh2ではTh1優位となっていますが、LCAP治療後にはTh1/Th2比が低下しました(図5)。さらに、治療後にはIL-17産生が低下しました(図省略)。また、UCの病態に関与していると考えられているエフェクターT細胞が治療後には減少し(図6)、一方、炎症抑制に関与するTreg細胞の割合は増加していることがわかりました(図7)。T細胞を中心としたリンパ球に対する効果をまとめると、LCAPは効率的に末梢血からUCの炎症に関与するT細胞を除去し、炎症を
抑制するTreg細胞の比率を高めます。つまり、全体的なレスポンスとして、LCAPは炎症を抑え込むような方向に誘導していることがわかります。
次にリンパ球と共にLCAPの特徴として吸着除去される血小板について解析しました。血小板と炎症性腸疾患についてはいくつか報告がありますが、昔からよく言われていることは、炎症性腸疾患では高率に静脈血栓症を合併し、その理由は血小板機能の亢進、異常によると報告されています。我々は、血小板の活性化を調べるために血小板凝集能を測定しました。血小板凝集能の測定は、血小板浮遊液に光をあてることで調べます。血小板が凝集していない時に光をあてると血小板が浮遊してい
Y Yagi et al. J Gastroenterol, 41 : 540-546, 2006改変
Y Yagi et al. J Gastroenterol, 41 : 540-546, 2006改変
るため光が通りません。ところが血小板が凝集し大きな凝集塊になると、下にどんどん落ちてきて、光が通るようになります。つまり、光の透過率を測定することで血小板が凝集したかどうかを判定できます。 健常人の血小板を3種類の刺激剤で刺激したところ低い濃度では凝集が全く認められませんが、濃度が高くなると凝集してくることがわかります(図8)。一方、UC患者から調製した血小板ではエピネフリンの低い濃度の刺激でも強く凝集が起こっています。同じくADPでも健常人では起こらない低濃度で凝集が認められました。しかし、LCAP治療後にUC患者から調製した血小板では健常人の反応性と同じ程度に血小板凝集能が改善され
A Andoh et al. Ther Apher Dial, 9(3): 270-276, 2005改変
ていることが示されました(図9)。 血小板の機能はいろいろな方法で見ることができます。血小板由来のマイクロパーティクル(PDMP)という血小板の断片ですが、非常に強い血小板凝集能活性化作用をもっています。LCAP治療前後で、このPDMPの変化について検討しました(図10)。その結果、LCAP治療後にPDMPを有意に低下させていることがわかりました。 血小板の観点からも、LCAPは血小板数減少のみでなく血小板機能の抑制を介して抗炎症作用を発揮していることがわかりました。
LCAPはリンパ球、単球、血小板や顆粒球の数的な変化をも
たらしているだけではなく、これら血球成分の機能亢進を改善してUCの治療効果を発揮しています。さらに、各血球成分の活性化状態を把握することがLCAPの治療効果を予想するバイオマーカーになる可能性も示されました。
10 11
100
75
25
125
50
0健常人 Pre
LCAP
Post
***
PDMP(U/mL)
Y Yagi et al. J Gastroenterol, 41 : 540-546, 2006改変
図8 健常人とUC患者の血小板凝集能の比較
正常
UC(active)
凝集率
ADP
100(%)
80
60
40
20
00 5 (min)
CollagenEpinephrine
100(%)
80
60
40
20
00 5 (min)
100(%)
80
60
40
20
00 5 (min)
2.0μg/mL0.2μg/mL0.1μg/mL
2.0μg/mL0.5μg/mL
3.0μM1.0μM
0.2μg/mL
凝集率
100(%)
80
60
40
20
00 5 (min)
100(%)
80
60
40
20
00 5 (min)
100(%)
80
60
40
20
00 5 (min)
2.0μg/mL0.2μg/mL0.1μg/mL
2.0μg/mL0.5μg/mL
3.0μM1.0μM
0.2μg/mL
図9 LCAP前後における血小板凝集能の変化
症例1LCAP前
凝集率
ADP
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
Collagen
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
2.0μg/mLEpinephrine
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
0.2μg/mL0.1μg/mL
2.0μg/mL0.5μg/mL
3.0μM1.0μM
0.2μg/mL
LCAP後
凝集率
ADP
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
Collagen
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
2.0μg/mLEpinephrine
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
0.2μg/mL0.1μg/mL
2.0μg/mL0.5μg/mL
3.0μM1.0μM
0.2μg/mL
症例2LCAP前
凝集率
ADP
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
Collagen
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
2.0μg/mLEpinephrine
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
0.2μg/mL0.1μg/mL
2.0μg/mL0.5μg/mL
3.0μM1.0μM
0.2μg/mL
LCAP後
凝集率
ADP
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
Collagen
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
2.0μg/mLEpinephrine
100(%)
80
60
40
20
00 5(min)
0.2μg/mL0.1μg/mL
2.0μg/mL0.5μg/mL
3.0μM1.0μM
0.2μg/mL
(cells/μL)80
60
40
20
0Pre Post
*CD25+CD4+ T cells
20(×10-2)
10
0Pre Post
**Ratio(CD25+CD4+ / CD25-CD4+)
有効例無効例手術例
有効例無効例手術例
まとめ : LCAPは血球成分の機能亢進を改善する
JDDW2014 サテライトシンポジウム 作用機序から考える潰瘍性大腸炎治療としてのLCAPの位置づけ
No.2015.3-0210
JDDW2014 サテライトシンポジウム2014年10月24日(金)17:30ー19:00 第3会場
作用機序から考える潰瘍性大腸炎治療としての
LCAPの位置づけ
滋賀医科大学 消化器内科
安藤 朗 先生
演 者
兵庫医科大学 炎症性腸疾患学講座 外科部門
池内 浩基 先生
司 会
はじめに 白血球除去療法(LCAP)は、私の恩師である下山孝教授(当時)と、澤田康史先生が中心となって開発した潰瘍性大腸炎(UC)に対する新たな治療法であり、私にとっても思い入れの強い治療法です。本日は、作用機序から考える潰瘍性大腸炎治療としてのLCAPの位置づけと題して、東京慈恵会医科大学の猿田雅之先生、滋賀医科大学の安藤朗先生にご講演をいただきます。
本講演記録は2014年10月に神戸で開催された第56回日本消化器病学会大会におけるサテライトシンポジウムでの講演内容をもとに作成したものです。
お わりに LCAPの有効性は、以前から実臨床において多くの報告があったものの、その作用機序が良くわからないと言われてきました。ただ、今回の2人の先生の報告にもあるように、その機序も解明されようとしています。 最近、IBDに対する薬物治療の進歩は著しいものがあります。ただ、いずれの治療においてもその副作用を避けて通ることはできません。LCAPは術後の合併症に影響を与えないことが明らかとなっています。強力な薬物療法にLCAPを併用することによって、寛解に導くことができれば、患者さんにとっては非常に有益ですし、もし、緊急手術となった場合にも、その副作用を考慮する必要はありません。 日本から発信した治療法として、ますます進歩し、IBD患者さんのQOL向上に寄与することを願っています。
東京慈恵会医科大学 消化器・肝臓内科
猿田 雅之 先生
演 者
兵庫医科大学炎症性腸疾患学講座外科部門
池内 浩基 先生