平成30年度 地熱井掘削監督者養成講座 掘削技術概...

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1 平成30年度 地熱井掘削監督者養成講座 掘削技術概論 平成30年12月17日 エスケイエンジニアリング株式会社 武村 貢

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平成30年度

地熱井掘削監督者養成講座

掘削技術概論

平成30年12月17日

エスケイエンジニアリング株式会社

武村貢

掘削技術者のタスク(最重要 2項目)

• ビットタイプ、ビット荷重と回転数(RPM)の選択• ビット寿命の判断⇒ビットダメージに起因する

重大トラブル発生の回避• 掘進編成(BHAやドリルストリング)の選択

• ケーシングセット深度の決定• ケーシング管種・接続の選択• セメンチングの遂行と結果(層間導通の有無、補修セ

メンチングの要否)の判断

1.坑井の目的を達成できるケーシング計画、セメンチング計画の策定と作業遂行

2.ビットを上手に使い坑井を効率的に掘り進める

目次

1 ロータリー掘削の原理

2 ロータリー掘削で使用されるドリルビット

• ビットの種類-ローラーコーンビットのIADCコード

• ビット交換のタイミング(ベアリングのReliability Curve、単位掘削費)

3 ケーシング計画-設計手順(石油天然ガス井の手法)

• 地層圧と地層破壊圧、坑内圧力とのバランス

• ケーシングセット深度の決定

• サーフェスケーシングの役割と噴出防止装置

• 想定する負荷・設計係数と管種の選択

3

目次

4.セメンチング

• ケーシングセメンチングの概要

• セメントのケミストリーと水和反応

• セメントの種類(APIセメント、地熱井用セメント)

• 計画策定の流れとセメントスラリー試験

• セメントボンディングの評価(CBL、LOT手法を用いたシューボンド評価)

5.傾斜掘り

• 傾斜掘り計画の策定、TAD(Torque&Drag)

• 方位基準の北(TN,GN,MN)

• ステアリング編成での方位・傾斜コントロール

• ロータリー編成での傾斜コントロール

4

1.ロータリー掘削の原理

➢様々なタイプのビットに回転と荷重をかけることによって岩石を破壊して掘る

➢ビットはドリルパイプをネジでつないで坑内へ降ろす。地上でドリルパイプを回し、ビットを回転させる。

➢ ドリルカラーによりビットに荷重を与える

➢ドリルパイプの中へポンプした流体(泥水)を通して、掘り屑を地上まで回収する

泥水の循環方向

ドリルパイプ

ビット

ドリルカラー

5

坑口装置および

噴出防止装置(BOP)

陸上掘削リグのイメージ

坑口装置はセラーと呼ばれるピットを造成し地表面より下に一部収納されることもあるが、噴出防止装置(BOP)は地表部に配置する。⇒BOPスタックを収納可能なサブストラクチャー高さが必要6

掘削深度に合わせて、適当な能力を持つリグを選定

坑井仕上げ方法(油・ガス井の場合)

1) 2) 3)

1) 裸坑仕上げ×仕上対象選択 ×砂の崩壊・流入

インターミディエートケーシング(or ライナー)

プロダクションチュービング

プロダクションパッカー

ライナーハンガー(パッカー付き)

プロダクションライナー

セメント

パーフォレーション(ガンパー)孔

掘削泥水

スロッテッドライナー

2) スロッテッドライナー仕上げ×仕上対象選択 △砂の崩壊・流入

3)パーフォレーション仕上げ○仕上対象選択 △砂の崩壊・流入

地熱井ではチュービング、パッカーレスでの1)2)の仕上げ方式が多い

8

岩石の硬さは様々(砂や粘土~火山岩、深成岩)

刃先の材質も様々(鋼鉄、タングステンカーバイト、ダイヤモンド、PDC)

外径 44インチ(≒112cm)~3インチ(≒8cm) (1インチ = 2.54cm)

ツース・ビット インサート・ビット ダイヤモンド・ビット PDC・ビット

【ローラーコーンビット】 【フィックスドカッタービット】

2.ロータリー掘削で使用されるドリルビット

ローラーコーンビットのIADC分類3番目の数字:ベアリングタイプ/ゲージ補強の有無(1~7)

最初の数字1~3:スチールツースビット4~8:インサートビット

最初の2つの数字数字が大きいほど硬質岩用

1, 3~5:ローラーベアリング

6, 7:ジャーナルべリング

例 IADC 215437

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近隣坑井のビット記録がある場合、違うメーカーのビットでもIADCコードがわかれば地層の硬さをおおよそ推定することが可能⇒それを元にビット計画を策定可能。

-10-

ベアリングの種類

- ローラーベアリング(ノンシールド)

- シールドローラーベアリング

- シールドジャーナルベアリング

シールドフリクションベアリング=ジャーナルべアリング

ベアリングシール

- エラストマーシール

ゴム製Oリング(200℃を超すと炭化⇒泥水循環で冷却が必要)

- メタルシール

回転接触部が金属同士なので耐久性が高い

11

シールがダメになると、ベアリングの劣化が急速に進む

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W(ビット荷重)vs R(掘進率m/hr) N(ロータリーRPM)vs R(掘進率m/hr)

岩石を破壊するにはある程度のビット荷重が必要、硬質岩程aの荷重が大きくなる

ロータリースピードが小さく、カッティングス除去が適切に行なわれている領域ではRPMと掘進率が比例する

硬質岩をより速く掘進するためには、ある程度大きなWOBを掛けて、ロータリースピードを高くする必要がある。 WOBが小さ過ぎると低ROPしか得られない。

但し、高硬質岩をより速く掘進するためには、ある程硬質度大きなWOBを掛けて、ロータリ

硬質硬質岩をより速く掘進するためには、ある程度大きなWOBを掛けて、ロータリースピードを高くする必要がある。 但し、高WOB、高RPMはビット磨耗を早めるのも事実。

ビット交換の判断(ベアリングライフ統計データの利用)

累計回転数(krev)

ベアリングの健全な割合

• ベアリングの

Reliabilty Curve(右)

はあくまで参考データ⇒個々のビットの出来、不出来、

坑内状況や岩質の差で同型式ビットでも寿命は大きく異なる

• ビットトルクの異常

• 掘進率の低下

⇒地質・坑内状況の変化?

⇒ビットダメージ?

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統計データを過信して、まだ大丈夫だろうと掘進していると、こんなことになることもある

コーンを遺留すると掘進継続の大きな支障となる

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ビット交換のタイミング判断は管理者の腕の見せ所

リスク / コスト

ビット交換の判断(単位掘削費 ¥/mを使用する例)

単位掘削費[¥/m]=(ビット[¥]+リグ[¥/h] x (揚降管時間+掘進時間)[hr])÷ビットの掘進長[m]

ビットの掘進長[m]

単位掘削費[¥

/m]

単位掘削費が上昇し始めたらビット交換

適用にあたっては、以下のような考察が必要• 掘進率の変化は地層の変化によるも

のかどうか• 次のビットで掘る長さ(セクション

TDやコアリング深度までの距離、予定使用ビット数)

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演習:単位掘削費(Cost/m)計算

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Bit Cost: 700,000 円 Cost /m =((700,000+200,000x(20+累計掘進時間))/掘進長Rig Cost:200,000 円/時間Trip時間:20 時間

演習:掘削費(Cost/m)計算

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Bit Cost: 700,000 円 Cost /m =((700,000+200,000x(20+累計掘進時間))/掘進長Rig Cost:200,000 円/時間Trip時間:20 時間

ビット写真ー使用前後の例

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チップがほとんど残ってなくても、掘進率があまり低下しないこともあるので注意が必要。

ビットの摩耗の評価

http://www.oilfieldtrash.com/custom/php/files/1252680108dull_grading_tri.pdfhttp://www.oilfieldtrash.com/custom/php/files/1252679918dull_grading_dia.pdf

以下のウェブサイトでHughes社の写真付き解説を入手可能

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歯の減り具合を一番外側の歯列とそれ以外に分けて8段階評価、主たる摩耗ダメージの特徴と場所、ベアリングシールが健全か否か、ゲージ摩耗、その他の摩耗、揚管した理由を記載

-20-

ゲージ落ち

測定間隙x2/3がゲージ落ち

硬質岩掘削時は、ビット交換後の迫込み防止のため、正確なゲージ落ち測定が重要。

ビットを上から見たオフセット

コーンにオフセットがある場合、ゲージとゲージ列の歯が接触する位置は○で囲んだ位置にずれる。コーンを回転させ一番高い歯を接触させて計測する。

I

➢計画深度までに到達するには何層もの地層を掘り抜くが、地層の条件(性状)や地層圧がそれぞれ異なる。

➢「ケーシング」と呼ばれるパイプを降下し、地層とケーシング間にセメントを充填し、既に掘り抜いた区間を保護すると同時に、これから掘ろうとする区間と干渉しないように遮断する。

地熱生産井の場合、低温の帯水層(フラクチャー)を遮断することが重要。

【ケーシングパイプ (Casing Pipe)】3.ケーシング計画

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ケーシング設計手順(石油天然ガス井の例)

1.地層圧、地層破壊圧を推定する。➢地層圧、地層破壊圧とは?

2.ケーシングセット深度を決定する。これにより、ケーシングの段数と径が決まる。

3.想定される荷重(負荷)に基づき、ケーシングの管種を決定する。

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地層圧

(Pore Pressure, Formation Pressure)

地層の孔隙中に存在する流体の圧力

地層破壊圧

(Formation Fracture Pressure)

地層にき裂を生じさせる圧力

以下リークオフテスト(ポンプ量 vs 圧力)模式図

【地層圧と地層破壊圧】

泥水柱圧0.1 x 1.20 x 2000 = 240 ksc地層圧等価泥水比重(EMW: Equivalent Mud Weight)に換算

EMW= = 1.10 (SG)

リークオフ圧等価泥水比重に換算

EMW= = 1.65(SG)

TVD:2,000m

MW:1.20SG

地層圧: 220ksc

LOP: 90 ksc

220_____ 0.1 x 2000

240+90____ 0.1 x 2000

圧力の単位:以下kgf/cm2 をkscと表記

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地層圧力 < 坑内圧力 < 地層破壊圧

⇒ 坑内安定

坑内圧力 < 地層圧力

⇒ キックの発生

坑内圧力 > 地層破壊圧力

⇒ 逸泥の発生

【地層圧・地層破壊圧と坑内圧力のバランス】

坑内圧力は、静水圧(静的)と動的な流体圧力を併せて考慮する

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出典:石油開発時報 No.150 最新の坑井掘削技術(その3)

ケーシングセット深度の決定(地層圧と地層破壊圧による決定、模式図)

12-1/4”坑最終泥水比重

8-1/2”坑最終泥水比重

サーフェスケーシング最初に噴出防止装置を設置するケーシング

25

26

⚫ 坑口装置・噴出防止装置のベース(基礎)となる

⇒貯留層が出現する前にセットし

地表付近の軟弱層を隠す。

⚫ 地熱井では逸泥が発生し圧力が低下すると、地層内流体が蒸気化し噴出する可能性があるので、確実に水を補給し冷却できる環境でない場合には、地層温度が100℃に達する前にサーフェスケーシングをセットし、BOPやマスターバルブを設置し、その下に掘り込むべき。

サーフェスケーシングの役割

地熱井( 噴出防止装置-マスターバルブ使用例)

マスターバルブ裸坑仕上げやスロッテドライナー仕上げで掘削後にマスターバルブを設置すると蒸気噴出のリスクが高い場合は、あらかじめマスターバルブをBOPの下に設置してから掘進を行う。

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BOPのパッキンユニットの耐温

CAMERON BOP耐温データ

-1~121℃1~104℃

Hydril AnnularBOP耐温データ

Packing Unit Type

・Natural Rubber-35~107℃

・Nitril Rubber-7~88℃

・Neoprene Rubber-35~77℃

1気圧以上では水の温度は100℃を超えるので、速やかにキルウェルを行う必要あり。

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ケーシング径/坑径の決定

最終坑径を決め、上に向かって順に決定

⚫生産量大⇒坑径、ケーシング径を大きく

⚫最終坑径を8-1/2”とし、コンティンジェンシーとして6”坑掘削の選択肢を持たせる計画が石油ガス開発では一般的

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設計荷重 想定する負荷の種類

➢内圧と圧潰:内圧と外圧の差圧を負荷とする内圧負荷で想定する状況⚫ ドライガスシャットイン⚫ キック(坑内侵入流体)の排出⚫ チュービングトップリーク

圧潰負荷で想定する状況⚫ 逸泥⚫ セメンチング⚫ ドリルステムテスト⚫ 生産時全量逸泥

➢引張り(圧縮):軸方向の引張り荷重を負荷とする。

✓曲げ負荷も引張りの一部と考える。30

内圧と圧潰の負荷に耐えるケーシングを選択すれば、引張り負荷が問題となるケースはほとんどない

基本的な考え方

➢各ケーシングが遭遇する最悪状況での負荷を計算し、それに十分耐えうる管種を決定論的に選択する。

➢ケーシング強度はカタログ値を用いる。

➢内圧、圧潰、引張りはそれぞれ独立に考える(一軸設計)。

➢ただし、引張りが作用したときの圧潰耐力の減少のみ考慮する(二軸補正)。

CSG外側からの圧潰負荷

CSG内側からの内圧負荷

CSGの重さおよび曲げ

による縦方向の引張負荷

(曲げによって伸ばされる側は引張り負荷が掛かる)

31

一軸設計と二軸補正

引張り圧縮

圧潰

内圧

軸力が作用することによる圧潰耐力の減少を考慮

引張耐力の30%の引張りが掛かると圧潰耐力は80%に低下

30

80

(使用限界-安全率考慮)

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3軸強度

内圧負荷の例(ドライガスシャットイン)

TVD:3,000m

地層圧:475 ksc

坑内がすべてガスで置換された場合にケーシングに作用する負荷は?

左の例では、ガス比重を0.30SGとした場合、地表では385kscの内圧負荷が作用する。

385 ksc

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内圧設計ードライガスシャットイン(イメージ)

•内圧からケーシングの外側にある流体の水頭圧を差し引いたものが、内圧負荷となる。

深度

圧力

CSG外側の流体の圧力

CSG内側の流体の圧力ドライガスシャットイン

設計内圧負荷

選択するケーシングの内圧強度

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圧潰負荷の例(逸泥)

逸泥が生じ、坑内泥水の水頭が低下。

左の例で、垂直深度2,000mまで水頭が下がり、アニュラス部の泥水比重が1.50sgとすると、同深度で、300kscのCSG圧潰負荷が作用する。

TVD:2,000m300 ksc

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圧潰設計-逸泥(イメージ)

•ケーシングの外側にある流体の水頭圧から、内側の圧力を差し引いたものが、圧潰負荷となる。

深度

圧力

CSG外側の流体の圧力

CSG内側の流体の圧力逸泥発生時

圧潰負荷

選択するケーシングの圧潰強度

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ケーシングの管種

・ケーシンググレード材質により分類、主なものは以下の通り

J-55, K-55, N-80, L-80, C-90, P-110, Q-125・重量

API規格の呼び重量がつけられている・寸法長さ:R-1(6m), R-2(9m), R-3(12m)があるドリフト径:内通し可能な長さ30.5/15.2cmの円筒の外径

・ネジ(コネクション)API規格ではLTC, STC, BTCがあり、この他にプレミアムコネクションがあるLTC / STC: 丸山ネジで1インチあたり8つの山が切ってあるBTC: 角ネジで1インチあたり5つの山が切ってあるプレミアムコネクション:シール性に優れており、大きなテンション・内圧・ベンディングに耐えることができ、カップリングのSSC(硫化物応力腐食割れ)の原因となるHoop Stressが小さい

肉厚・材質・継ぎ手など個々の坑井条件に適するものを選択して使用する。37

2重管間隙にトラップされた水の温度膨張による圧潰

• 水の体積膨張率(1x10-3/℃ @約20ksc)

20℃ 50℃ 100℃ 120℃ 150℃ 175℃ 200℃

0.207 0.457 0.751 0.856 1.030 1.190 1.387

• 水の体積弾性係数:約2000~2400MPa(圧力200ksc・温度100℃程度までの範囲)

• 温度上昇による圧力上昇試算50℃⇒120℃

体積膨張率を0.66x10-3(1/℃;荷重平均)

体積弾性係数を2000MPaと仮定すると、

ΔP=体積膨張率xΔTx体積弾性係数

=0.66x10-3x70x 2000MPa

=92.4MPa≒940ksc

温度が50⇒120℃に増加すると圧潰負荷が940ksc増加する

13-3/8”&9-5/8”CSG

38

9-5/8”CSG 強度(圧潰vs内圧) 赤字:高圧潰グレード

高圧潰グレードの肉厚CSGでも圧潰強度は最大で800+ksc程度。トラップされた泥水の温度が50⇒120℃に上昇し圧潰負荷が940ksc増加すると破壊する。

圧潰強度[ksc]

内圧強度

[ksc

]

39

ケーシングの設計係数(例)

負荷の種類 設計係数

内圧 1.10

圧潰 1.10

引張り(CSG) 1.75

引張り(TBG) 1.60

-40-

材料選択に留意が必要な腐食環境(石油ガス開発におけるガイドライン)

腐食環境 分圧炭酸ガス腐食

API Spec. 6A

7psi 以上

応力腐食割れNACE MR0175

H2S

0.05psi以上

-41-

地熱井の噴気試験でH2S、CO2、Cl等を含む高腐食環境が確認された場合、ステンレスケーシングの選択も含めパイプメーカーへの相談を推奨

高圧ガス層

遮水性の確保 Ppore < Pfrac

Ppore Pfrac

高圧ガス層

遮水性の確保不能 Pfrac < Ppore

Pfrac Ppore

遮水性遮水不完全

ガス比重勾配

4.セメンチングケーシングセメンチングの目的ー地層間の導通遮断

42

ケーシングを降下してもセメンチングで裸坑とケーシングの間隙(アニュラス)を遮断できなければ安全に次のセクションを掘削できない

スペーサー

② ④

① スペーサー送入、ボトムプラグ投下、セメントスラリー送入② ボトムプラグがフロートカラーに到達、ボトムプラグからセメントスラリー排出開始③ 計画量のセメントスラリーが送入し終わったらトッププラグを投下、泥水で後押し④ トッププラグがボトムプラグに到達し、圧力が上がりセメンチング終了

※セメントで遮断したい層が複数ある場合、複数回に分けてセメンチングを行うことを「ステージセメンチング」という。地熱井のステージセメンチングは2重管間隙に液体がトラップされないようセメンターの位置、セメント量に注意が必要。

ケーシング

泥水

ボトムプラグ

地層

セメント

ステージセメンチング③

トッププラグ

ケーシングセメンチング模式図

43

44

セメンチングに使用する坑内機器(例)

スクラッチャーセントラライザー

逆止弁

フロートカラー

フロートシュー

セメントバスケット

バイパスプラグ

シャットオフプラグ

ステージセメンター

オープニングプラグ

クロージングプラグ

出典:Halliburton

セメントのケミストリー

•セメントの化学組成• (C3A) Tricalcium aluminate

• CaO とAl2O3の化合物

• 早期の圧縮強度発現

• 硫酸に対し解けやすい。

• (C3S) Tricalcium silicate

• CaO to SiO2の化合物

• セメントの主要構成物

• (C2S) Dicalcium silicate

• CaO とSiO2の化合物

• 最終強度に影響

• (C4AF) Tetracalcium aluminoferrite

• CaO, Al2O3とFe2O3の化合物

• 圧縮強度に影響

他:石膏、石灰、酸化マグネシウム、アルカリ硫酸塩

出典:Dowell SchlumbergerCementing Technology

45

セメントの水和反応

•C3Aと石膏が水と反応して化合物ETTRINGITEを生ずる

ファイバー状のETTRINGITEの増加は粘性を増加

•C3Sは水和してCSH皮膜を生成

CSH=Calcium Silicate Hydrates

珪酸カルシウム水和物

CSH生成時初期の発熱反応

•水和が進み水酸化カルシウムが生成=2度目の放熱反応のピークからセメントがセットし始める

養生温度が高いと早く硬化する

出典:Dowell SchlumbergerCementing Technology

46

セメントの組成

典型的なAPIセメント等の組成%

クラス

AB

C(早期圧縮強度)

EG

中庸熱ポルトランド(太平洋)

5347

58265043

2432

16543036

8(+)5(-)

8253

812

8121213

C3S C2S C3A C4AF

日本国内で使用されるのは:

⚫ クラスA(ポルトランドセメント)

温度:76℃まで

⚫ クラスG

温度:93℃まで

⚫ 地熱井用セメント

クラスGで対応できない高温環境◼ 地熱井セメント(GWC)-宇部三菱

◼ TTバインダータイプS-太平洋/テルナイト

47

地熱井用セメントについて•セメントは常温下では水和反応の進行に伴い強度増加

•但し、230F(110℃)に達すると数週間強度増加、その後減衰。

•高温下における強度減衰の要因

・化学反応:CSH=ケイ酸カルシウム水和物が多孔質のAlpha-Dicalcium

Silicate Hydrate(珪酸二カルシウム(2CaO/SiO2))に変化

•脱水

シリカフラワー(高温安定剤)を30 ~ 40%(BWOC)添加すると

• Alpha-Dicalcium Silicate Hydrateの生成を防止

•その代わり、Xonotliteを生成。(高強度、低空隙率)

GWC:クラスGセメントにシリカフラワーを35%配合

TTバインダー:中庸熱セメントにシリカフラワーを30-40%配合

*添加剤濃度はBWOC(by weight of cement)で表されることが多い48

初期スラリーデザイン 推定データ

マッドロギング

地層圧力地層破壊強度

ラボテスト

コンピューターデザインセントラライザースペーシング

スラリー量スペーサーデザイン

ポンプレート

ワイヤラインロギング/LWD坑底温度坑内容量地層圧力

坑内方位傾斜

セメンチングジョブ

セメンチング計画策定の流れ

地層とCSGの間隙をセメントで置換するには、セントラライザーでスタンドオフを確保したり、スペーサーを用いたり工夫が必要。リターン泥水のハンドリングも課題。

温度上昇によるケーシングの伸び:ΔL=12x10-6 x L x ΔT[℃]

地熱井では温度変化によるケーシングの伸縮をセメントで抑制するのが一般的。2重管区間に泥水がトラップされないようなセメンチング区間の設定が重要。

49

セメントスラリー試験

• 要求される特性と試験

• シックニングタイム

(例:40Bc,50Bc,70Bc)

セメントが流動性を失うまでの時間

• 粘性

• プラスチックヴィスコシチー(PV)

• イールドポイント(YP)

• 比重

• 脱水

• 差圧1000psi,30分間の脱水量

• 遊離水

• 圧縮強度

影響する要因

• セメントの種類

• 水比

• 添加剤

• 温度

• 圧力

• 水の性質

50

セメンチングのスラリーデザイン

セメンチング区間、アニュラス間隙容量⇒スラリー量

地層圧のコントロール ⇒スラリー比重

地層温度、高圧ガス層等の有無 ⇒スラリー種類

必要なスラリー量をミキシングし、坑内に送る時間(ポンピング時間)を

計算、その間セメントが流動性を保つようThickening Time(TT)を調整す

る。TT試験の40Bcに達する時間が、ポンピング時間より大きい(最低でも

+1時間)ようにスラリーを調整する。ポンピングを途中で中断した場合

には、ラボ試験のTTより早くスラリーは流動性を失うので注意が必要。

実際にミキシングに使用する溶解水を用い、事前にラボ試験を行っておく

ことが重要。

51

Thickening Time(TT)ラボ試験例

• 青色ラインがコンシステンシー(Bc)の経時変化

• 想定する地下の温度、圧力条件下でパドルに掛る抵抗を測定。

40Bcに達する時間をポンプ可能な時間(TT)とするのが一般的。

温度はTTに大きな影響を与えるので、地下の循環温度の設定が非常に重要。

TT:4:29(40Bc)

圧力(psi)

スラリー温度(℉)

コンシステンシー(Bc)

52

ボンディング評価7”LinerCBL(Cement Bond Log)の例

生産層上層

生産層下層

アンプリチュードの低い数m区間にアイソレーションを期待し仕上げ⇒排泥時にパーフォレーション孔から8.6KL(パッカー下泥水量の約8倍)の泥水を回収=ビハインドCSGの泥水が流入

PKR

PKR

53

傾斜井でチャネリングがある場合等、CBLによるアイソレーションの有無の判断は難しい場合がある。層間の遮断が特に重要な場合は、より精度の高いセメント評価ログやコミュニケーションテスト実施の検討が必要。

ボンディングの評価リークオフテスト手法を用いたシューボンド評価

リークオフポイントAまで加圧せず、圧力の立ち上がり勾配でシュー周りにセメントが在るか判断可能

54

ポンプレートを大きくしてもケーシング加圧テストラインより大きく勾配が傾いている場合は、大きなチャネルが存在する可能性が高い

チャネルなし

チャネルあり

55

ケーシング加圧テスト時のポンプ量と圧力でケーシング加圧テストラインを引いておいて、シューボンドテスト時のポンプ量と圧力をプロットして比較する。

5.傾斜掘り

キックオフポイント(KOP)

偏距

増角率(deg/30m, deg/100ft)

垂直深度TVD

沿角区間

増角区間

水平区間

垂直区間

増角区間

地上

地下

増角区間

Long Radius:2-6度/30m程度

Medium Radius:6-50度/30m程度まで

Short Radius:それ以上

傾斜掘り、水平掘りの用語

56

傾斜掘りプロファイルの例

57

タイプ2のSシェイプの坑井は、一般的にトルク&ドラグが大きくなる。

傾斜掘り計画の策定

◼ターゲットと坑口位置が決定したら、プロファイルを決定する。

◼ケーシング計画と整合させながら

KOP、増角率、減角率、沿角区間を設定する。

*増角区間は掘進率の良いところに設定

但し未固結の砂礫層はあまり好ましくない

*KOP、増角率、減角率、沿角区間の組み合わせを変えると

傾斜掘り計画は無数に作成可能

*大深度大偏距井の傾斜掘り計画にはシミュレーションソフトが必須

ターゲットは点でなく、範囲で設定すること⇒掘進中の不必要な方位・

傾斜の修正を回避することで屈曲(tortuosity)の少ない坑井を掘削する

ことが可能になる58

TAD(トルク&ドラッグ)シミュレーションソフト

ケーシングの設置深度・仕様、坑径、坑跡等の坑井ジオメトリやドリルストリング編成、ビット荷重・RPM・ポンプレート等のドリリングパラメーターの入力データに基づき、摩擦抵抗を計算し、

色々なオペレーション時のトルクやドラッグを計算し、種々の形式でグラフ出力してくれる。

バックリングやドリルストリングの疲労の計算も行ってくれる。

高傾斜井の計画策定に必須のツール

TAD(Torque & Drag)トルク&ドラッグはドリルストリングと坑壁との摩擦によって生じる。

引張りが大きくドグレグが大きいほどトルクとドラッグは大きくなる。

ドグレグ:

坑井の急激な曲がり

DLS(Dogleg Severity)

掘削長30m当たりの坑心変化角度で程度を表現する。

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大深度高傾斜井では浅部に大きなドグレグを作らないように注意

トルクグラフでのドリルストリングデザイン検証

締付けトルクの85%、余裕15%

上振れケースに対応できるよう高トルク用DPを準備

ある深度を掘進時、ボトムからサーフェースまでその深度のドリルストリングに掛っているトルクを表示したグラフ。ダウンホールメークアップはネジにダメージを与えるので、実際のトルクをモニターしながら締付けトルクに余裕があるよう編成を調整。

バックリングの検証

方位基準の北

⚫ Grid North(地図の北)

⚫ Magnetic North(磁北)

⚫ True North(真北)

磁北偏差 Magnetic Declination

磁北の真北からのズレ

グリッド偏角Grid Convergence

Grid Northの真北からのズレ

測定深度・傾斜・方位・測定データとともに、方位基準の北を記録しておくことが重要

MWDやシングルショットは磁北を基準に測定される。磁北は年が経つと変動する。隣接井との衝突の危惧がある場合は、北の基準や座標軸を確認し、必要であれば変換して、計画を策定する。

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傾斜測定に関係する誤差 傾斜測定結果には様々な要因による誤差が含まれる。

測定ポイント

計算上の坑跡

測定点における真の坑跡の存在範囲

測定深度、測定器と坑井のアラインメントのズレ、測定機器の精度により誤差が生じる。傾斜と方位でも精度に差がある。火成岩中の測定では磁気を帯びた鉱物を多く含むため、磁気干渉を受け方位測定の精度が低下することが多い。

⇒坑井が真に存在する範囲は左のような”不確定性楕円”で示すことができる。

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典型的なダウンホールモーター

ベント

スタビライザー

High Side

Low Side

TOOL FACEAngle

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傾斜・方位の測定方法-MWD(Measurement While Drilling)

• マッドモーター上に接続したセンサーが傾斜・方位等を測定

• データは泥水を介した圧力パルス、あるいは電磁波を用いリアルタイムに地表伝送

• 方位・傾斜に加えて、地層評価データを伝送する技術もある -LWD (Logging While Drilling)

マッドモーター

MWD・LWD

ビット66

ダウンホールモーターを使った編成

L2 L1

a

ビット、ベント部、モーター上のスタビの配置でスライディングでの曲がり方がだいたい決まる。

ビット 67

定性的には・・・

➢ベント角を大きくするほど、角度変化傾向が大きくなる。

➢ L1、L2を短くするほど、角度変化傾向が大きくなる。

➢モーター上のスタビのサイズが小さいほど、角度変化傾向が大きくなる。

➢ただし、地層の影響は小さくないので、周辺坑井での実績を含めて予測することが重要。

⇒掘り進みたい方向にビットを指向しても、

地層のアップディップ側に曲がったりする。

68

17-1/2”坑スライディングの計算例WELLPLAN®(表記のないDCは9-5/8”OD)

0.75°

-2

-2

-2

-21.50°

0.75°

-2

-8

0.75°

-2

-2 8"

0.75°

-2

-2

0.75°

-2

-2

2,734

5,919

3,325

1,490

1,678

3,035

サイドフォース

マイナス数字はスタビの17-1/2”からのアンダーゲージ(x1/16”)

サイドフォースが大きいほど、大きく曲がる

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ウィージャボードを使ったTool Faceの向き設定方法

• 傾斜3度⇒5度に増角

• 20度方位転換を行う

場合

回答:TooL Faceを

ハイサイドから

45度に設置

下側目盛りに現在の傾斜角をとり、そこを中心に半径5(=方位転換後の傾斜角)で、方位転換角Δε20度の円弧を想定。円弧の終点βと中心ゼロを結んだ線が外周とぶつかるところの目盛がハイサイドからのTool Faceの設定位置。

同心円内の中心からβまでの長さ2.4が傾斜5度に増角した点との総角度変化を示す。70

総角度変化が6度以上では誤差が大きくなる

通常のロータリーBHAの傾斜掘りでの挙動

➢ スタビライザーの配置、掘削パラメータ等によって、ビットのサイドフォースを変化させある程度増角や減角をコントロールできる。

➢ BHAの(変形)挙動は「はり理論」の応用によって求められる。

➢ 地層の影響は無視できないほど大きい。

➢ 方位のコントロールは基本的にできない。

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WELLPLAN®での計算例

960

1,437

-199

-177

236

246

1 -1,083

-1,018

-604

5

7

2

8

4

9

6

3

UG

UG

8"DC

サイドフォース

17-1/2”坑、傾斜30°、WOB = 10ton

サイドフォース+が増角-が減角

-72-

UG

ロータリー掘進

沿角編成(基本)

➢ DCがなるべくたわまないようにスタビライザーを配置する。

➢ スタビライザーはフルゲージが基本。

➢ 沿角編成で減角が激しい場合、

ニアビットスタビの磨耗を疑ってみる。

9m長さのドリルカラー

スタビライザー

73

増角編成

➢ ニアスタビとNo.2スタビの間隔を広げると、増角編成となる。

➢ スタビライザーはフルゲージが基本。

➢ 増角編成であまり増角しない場合、

WOBが足りない、ニアビットスタビの

磨耗の可能性を疑ってみる。

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減角編成

➢ No.1スタビライザーをビットから離すと減角傾向となる。=ニアビットスタビライザーを外すと減角する。

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傾斜掘り成功の心得屈曲(tortuosity)が多いとトルク、ドラッグが大きくなる。計画坑跡にピッタリ沿

わせようと方位修正をし過ぎるのはトラブルの元。

フラクチャーの存在する位置の不確実性が大きいのに、坑跡の精度だけに拘るのはナンセンス。

◼方位傾斜の修正は、出来る限りゆるやかなドグレグで行なう。

(例外:石油ガス開発の水平井でターゲット層から外れた場合は、浅い深度から

サイドトラックした方が有効な場合もある)

◼傾斜掘りエンジニア(Directional Driller)の力量を早めに掴む。

出来ないDDに任せ放しにしておくと、必ずトラブルが発生する。

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終了

掘削技術に関する知識習得の一助になれば幸いです

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