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4.品質管理活動とTQM 以上が、T&Kの基本的な考え方である。この考え方の根底にあるものは「品 質管理」の考え方である。T&Kをより深く理解するためには、「品質管理」の 考え方の真髄に触れ、基盤とする必要がある。 この章では、 「品質管理」とは、全社的(総合的)品質管理活動・TQC(T QM) とは何か、私なりに今までの経験から引き出されたものをまとめておく。 TQMをこれから導入しようとしている企業のトップ、推進者に参考として戴 ければ幸いである。 4.1.品質管理・TQC・TQMの関係と歴史 最初に「品質管理活動」「日本的品質管理活動」「全社的品質管理活動:TQ C」「総合的品質管理活動:TQM」 の関係、つまり歴史的流れでの総称の変 遷について述べる。詳細は、以降の各項目で紹介するが、ここでは、大雑把な 流れを紹介しておく。 品質管理(QC:Quality Control )の考え方は、アメリカで始まった技術者 中心の「データを使い、論理的に説明する」統計的品質管理(SQC)からス タートした。日本における品質管理活動の始まりは、第二次世界大戦後、GH Q(総司令部)が日本の工業製品の品質向上のため、アメリカで行われていた 品質管理活動を日本でも取り入れたことからスタートしている。日本における 品質管理活動も、SQCからスタートしスタッフ中心の活動であり、当初の「品 質管理活動」は「統計的品質管理(SQC)活動」と言える。 その後、日本の企業で形を変えて「品質管理活動」は発展した。それは、S QCに加え、「問題解決」と「全員参加」の思想が加わり、「品質管理活動」を 全社的に認識して実践する、「日本的な品質管理活動」に変化した。さらに発展 し、「方針管理」と「機能別管理」が加わり、経営手法として確立され、「全社 的品質管理:TQC」になり、グローバル化に合わせ「総合的品質管理:TQ M」と呼称が変更されて行ったと言う、歴史を持つ。

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4.品質管理活動とTQM

以上が、T&Kの基本的な考え方である。この考え方の根底にあるものは「品

質管理」の考え方である。T&Kをより深く理解するためには、「品質管理」の

考え方の真髄に触れ、基盤とする必要がある。

この章では、「品質管理」とは、全社的(総合的)品質管理活動・TQC(T

QM)とは何か、私なりに今までの経験から引き出されたものをまとめておく。

TQMをこれから導入しようとしている企業のトップ、推進者に参考として戴

ければ幸いである。

4.1.品質管理・TQC・TQMの関係と歴史

最初に「品質管理活動」「日本的品質管理活動」「全社的品質管理活動:TQ

C」「総合的品質管理活動:TQM」の関係、つまり歴史的流れでの総称の変

遷について述べる。詳細は、以降の各項目で紹介するが、ここでは、大雑把な

流れを紹介しておく。

品質管理(QC:Quality Control)の考え方は、アメリカで始まった技術者

中心の「データを使い、論理的に説明する」統計的品質管理(SQC)からス

タートした。日本における品質管理活動の始まりは、第二次世界大戦後、GH

Q(総司令部)が日本の工業製品の品質向上のため、アメリカで行われていた

品質管理活動を日本でも取り入れたことからスタートしている。日本における

品質管理活動も、SQCからスタートしスタッフ中心の活動であり、当初の「品

質管理活動」は「統計的品質管理(SQC)活動」と言える。

その後、日本の企業で形を変えて「品質管理活動」は発展した。それは、S

QCに加え、「問題解決」と「全員参加」の思想が加わり、「品質管理活動」を

全社的に認識して実践する、「日本的な品質管理活動」に変化した。さらに発展

し、「方針管理」と「機能別管理」が加わり、経営手法として確立され、「全社

的品質管理:TQC」になり、グローバル化に合わせ「総合的品質管理:TQ

M」と呼称が変更されて行ったと言う、歴史を持つ。

4.2.品質管理活動

それでは、T&Kの基本となる、品質管理とは、TQMとはについて私なり

に整理してみる。品質管理を述べる時に、品質保証、TQC・TQM、方針管

理、機能別管理、全員参加、QCサークル、等々、色々なキーワードがある。

それらの位置関係を整理しておかないと、それらが目的なのか手段なのかがあ

やふやになり、品質管理活動全体の各自そして、組織内での定着が困難になる。

それらのキーワードについて解説する。ここで言う、「品質管理」とは、日本

で発展した「日本的な品質管理活動」の理念の中での言葉の定義である。

(1)品質管理(QC:Quality Control)とは

品質管理と言う時、具体的な仕組みや制度、そして手法を考え勝ちであるが、

品質管理と言う言葉そのものは仕組みや制度を意味しない。言ってみれば、各

自が仕事を進める上での「一般常識的」な考え方であり、「哲学」である。

①「品質:Quality」とは

ところで、品質管理で言う「品質:Quality」とはなんであろうか。それは

「品質」を「仕事をするための諸活動すべてを対象として捉えること」であり、

製品品質だけでなく、商品つまり、製品の持つ機能と捉え、それを生み出す「仕

事の質」、つまり仕事のアウトプットに関わる全てのものを品質として考え、「広

い意味の品質」として捉えることである。

例えば新聞の製品品質は、紙の厚さであり、外周寸法であり、印刷の濃さで

ある。しかし、新聞の商品価値、機能は情報の提供であると捉えると、記事の

内容が問題となる。そうなると、情報の質、情報を取り記事にする記者の質、

それを読者に分かり易く読ませる紙面の構成の質と情報を提供するための全て

の仕事の質が良くなければ良い新聞、質の高い新聞とは言わないのである。品

質とはお客様が求めるものを満足させる品質でなくてはならない。

②「管理:Control」とは

つぎに、品質管理で言う「管理:Control」とはなんであろうか。それは「P

DCA」のサイクルを廻すことである。

*やり方の標準や、仕事の目標、計画を決める:Plan(計画)

*標準通り、計画通りにやって見る:Do(実施)

*結果を調べ計画通り行っているか見る:Check(確認)

*もし異常があったらその原因を調べ、処置をとる:Act(処置)

の4ステップ、Plan(計画)・Do(実施)・Check(確認)・Act(処置)「PD

CA」の管理のサイクルを廻すことである。

野球の投手、コントロールの良い投手はこのPDCAのサイクルを廻してい

る。投手と捕手はサインを交わし、例えば、右高めのカーブと決める。投手は

走者が居るときはセットポジションから、腕の振り方、手の返し、ボールのリ

リースのタイミングはいつか、などの Plan(計画)を瞬時に頭で立てる。実際

にボールを投げ、Do(実施)する。投げたボールが右高めのカーブのストライ

クかボールか、腕の振り方、手の返し、ボールのリリースのタイミングは良か

ったか Check(確認)する。ストライクなら良いが、ボールなら腕の振り方、

手の返し、ボールのリリースのタイミングのどこが悪かったところに対して

Act(処置)し、次の投球に反映する。このPDCAのサイクルを繰り返す投

手はコントロールが良い投手と言われる。

一日の仕事で言えば、朝一日の仕事の計画を立て、その計画通りに仕事を実

施し、仕事の結果を確認し、計画通りで無ければ、その原因に対して処置し翌

日の計画に反映する、と言うPDCAを廻す。 ところで、品質管理での「管理:Control」を捉える時、Control の意味を「よ

りよい方向に向ける」と捉え、「管理」と言うより、品質「改善」と言った方が

適切かもしれない。「PDCA」のサイクルを繰り返し廻し、改善し、レベルア

ップを図ると言うことである。

以上のように、「品質管理」とは、「広い意味の品質を向上するためにPDC

Aのサイクルを廻すこと」である。つまり品質管理(QC)とは、この考え方

をトップ以下各自が、各部門が、全社が仕事を進める上の「哲学」と捉えるこ

とであり、言って見れば企業人の「一般常識」である。

(2)品質管理活動

この基本の考え「品質を向上するためにPDCAのサイクルを廻す」を仕事

の上で活用・実行するのが「品質管理活動」である。この「品質管理活動」に

下記の実施項目を加えたものが、これから述べる「日本的」な「品質管理活動」

である。

(3)品質管理活動の実施項目(アイテム)

それでは、どのようなことを実行すれば品質管理活動を実行しているといえ

るのかを考える。つまり品質管理活動の実施項目(アイテム)は何かを考える。

それは3つある。

①SQC・統計手法を活用する

近代的な品質管理(Quality Control)は、アメリカのベル研究所シューハー

ト博士が創案した「管理図」という形で、多量生産の品質を管理する、統計的

品質管理としてスタートした。その意味で、品質管理活動の実施項目(アイテ

ム)の大きな一つは、SQCつまり、統計手法を活用することである。QC7

つ道具、新QC7つ道具、実験計画法、多変量解析法、信頼性管理などデータ

解析による論理的な手法の駆使が品質管理活動の大きな柱である。

統計手法の詳細は他の著書に譲るが、QC7つ道具、新QC7つ道具の各項

目を紹介しておく。

*QC7つ道具 ・パレート図 ・特性要因図

・層別

・ヒストグラム

・散布図

・チェックシート

・管理図、グラフ

*新QC7つ道具 ・親和図

・連関図

・統計図

・マトリックス図

・マトリックスデータ解析

・アローダイヤグラム

・PDPC

QC手法、統計手法を、従業員全員が正確に使いこなすためには、そのため

のQC教育は欠かせない。

②問題解決の手順を活用し改善する

2つ目のアイテムが、問題を論理的に解決するための「手順・ステップの活

用」である。その一つに「QCストーリー」がある。このQCストーリーを活

用して仕事を改善することが品質管理活動では大切である。ところでQCスト

ーリーの基本は、「管理」と言う言葉で代表される「PDCA」を廻すことがあ

る。 「QCストーリー」とは次のステップが一般的である。

①はじめに

②工程の概要

③テーマの選定理由

④現状の把握

⑤目標の設定 ③~⑩のステップが

⑥活動計画の作成 「問題解決の手順」

⑦要因の解析

⑧対策の検討と実施

⑨効果の確認

⑩標準化と管理の定着

⑪反省と今後の計画

<すぐわかる問題解決法:細谷克也著より>

最近はこのQCストーリーに「問題解決型」と「課題達成型」更に「施策実

行型」の3つがある。詳細は、「すぐわかる問題解決法:細谷克也著」を参照さ

れたい。

*「問題解決の手順」の課題と対応

QCストーリーの原型は「PDCA」の4ステップである。その4ステップ

を報告のために11ステップ(10ステップと言う人もいる)にしたものが、

「QCストーリー」である。この「QCストーリー」を改善活動に使うために

8ステップにしたものが「問題解決の手順」である。「QCストーリー」と「問

題解決の手順」は違うと厳密に使い分ける人もいるが、定義の問題である。よ

うするに「PDCA」の4ステップでは粗すぎるので、8ステップにして、改

善活動に使いやすくしたと考えれば良い。 この「QCストーリー」は石川県にある㈱小松製作所(略称:コマツ)粟津

工場で考え出されたもので、1964年に「現場とQC(現:QCサークル)」

誌と「品質管理」誌に発表された。その時提案されたのは次のステップである。

①取り上げた理由または目的

②工程の概要

③現状の把握

④工程の解析

⑤対策

⑥結果と効果

⑦標準化

⑧今後の計画

<QCサークル運営の円滑化を図るための手引書

:㈱小松製作所・粟津工場編による>

1980年半ば、この「QCストーリー」の10ステップの各ステップを3

~5段階の手順に細分化し、更に様々なポイントが付け加えられるようになっ

た。この手順に従えば、製造部門の特に品質問題はスムーズに解決出来た。し

かし、例えば現状の把握のステップで、品質問題で言う「悪さ加減の摘出」と

言う言葉に従うと、「より良い品質」にしたい場合この「QCストーリー」は使

い勝手が悪くなる。そのような理由が積み重なって、テーマの内容や、部門に

より手順の項目を違えた「課題達成型」や「施策実行型」が考え出された。 テーマに取り上げ、解決しなければならない問題や課題により、その手順が

様々に用意され、それを使い分けなければならなくなり、そのための教育も必

要になった。元々は4ステップであり8ステップであったものが、更に細分化

され、手順の言葉の定義が行われ、逆に使い勝手を悪くしているのは何か本末

転倒のような気がする。4ステップなり8ステップに留め、言葉の定義を出来

るだけ拡げれば、テーマの内容や使う部門により、各ステップで必要のないも

のは省き、詳細に手順を踏まなければならない場合はその様にすれば良いと思

う。基本は8ステップのストーリーで、その8ステップを基本に、テーマに合

わせてステップに濃淡を付け、10テーマあれば、応用が10ストーリーあっ

て良い。 確かに、活動を始めたばかりの人には細分化は「みちしるべ」となり、「基本」

であり、細分化したことでの「功」の部分もある。細分化を全て否定するもの

ではないが、要は、「基本」は「基本」とし「応用」が大切だと言うことである。

「QCストーリー」のステップ通り、手順通り、ポイント通りにやらないと

評価しない、などの硬直した推進の仕方はやるべきでない、と言うことである。

そのような推進側の論理を押しつけると、活動する側は、その「道具」を使わ

なくなる。

③全員参加

3つ目が、「全員参加」である。品質管理の考え方は仕事をする上での哲学で

あるから、全部門、全従業員がその考え方を実践する必要がある。つまり、ト

ップから職場第一線の従業員まで「品質管理」の考え方を身に付け、仕事の中

で実践することが求められる。

トップや部課長は会社や職場の進むべき方向を明確にし、全員に提示するの

が仕事であり、摺り合わせをし、実行し、フォローし、チェックすると言うP

DCAを廻すのが役割である。また、判断し、マネジメントする時にPDCA

のサイクルが廻る。 技術者、スタッフは企画・計画、改善が仕事であり、仕事の質の向上のため

に絶えずPDCAのサイクルを廻している。個人で廻す場合もあり、チームと

して廻す場合もある。

職場第一線活動、特にライン部門の技能者の品質管理活動の一手段として「Q

Cサークル活動」がある。技能者はQCサークルのメンバーとして、改善と言

うPDCAを廻す。ライン部門の活動であるため、改善活動による成果と同時

に、グループ活動による職場の人間関係の構築、メンバー個人の成長も目的と

してある。QCサークル活動については、後で詳しくのべる。

最近はライン部門の技能者以外にもQCサークル活動が普及しており、名称

を変えて推進している企業もある。しかし、ライン部門以外の職場第一線活動

の方法をいかに体系付けて、制度化するかは企業の持つ歴史・背景により違う。 この全員参加の考えを実践する時、トップや部課長など役員・管理職が品質

管理活動をどう位置付けて、各自の職務を遂行するかの工夫が必要である。こ

の工夫をおろそかにすると、QCサークルのみが「QC」をやらされていると

感じ、「全員参加」の考えが崩れる。なぜなら、QCサークル活動は仕組みや制

度が確立されており、報告や発表の義務がある。しかし、QCサークル以外の

階層の品質管理活動には目に見える仕組みや制度のしばりがないからである。

以上3項目を実践するのが、「日本的な品質管理活動」である。

(3)品質管理活動はなぜやるか

品質管理活動はなぜやるのか。品質管理活動の目的は何なのかを明確にすれ

ば良い。品質管理活動の目的は「品質保証」である。品質保証をスムースに進

めるための一つの大きな手段が「品質管理活動」であろう。品質保証を上手く

進めるための「考え方」「仕組み」「手法」を総合的にまとめあげた理論体系が

「品質管理」である。

現在、「もの」を企画研究設計し、製造し、販売する企業は「品質保証」を企

業活動での大きな存在として位置づけており、それを支える「品質管理」の考

え方は経営の有用な手段の一つと考えられている。

勿論、企業の目的は社会貢献であり、従業員満足であり、利益である。その

目的のための手段の第一が「品質保証」であり、品質保証を支える考え方が「品

質管理」である。

(4)品質保証とはなにか

それでは「品質保証」とは何か。石川馨は、品質保証とは「消費者が安心し

て、満足して買うことができ、それを使用して安心感、満足感をもち、しかも

長く使用することができるという品質を保証すること」と定義している。企業

である以上、自社の商品の品質保証は消費者に対する義務であろう。

また、品質保証の目的は「消費者・お客様」「従業員」「企業」それぞれが利

益を得ることであり、どれか一方が損をしても品質保証は成り立たない。最近

はこの3に加え「地球環境」のことを考えなくてはならない。

つまり、企業にとり、品質保証は経営の一つの大きな柱である。特に「新商

品の開発」をスムーズに進めるために大変有効な手段である。よって企業は品

質保証のための仕組み作りを常に進めている。

品質保証についてもう少し具体的に述べてみるが、品質保証を説明するだけ

で一冊の本が出来るほどの内容である。よって、本書はその概要を述べ詳しく

は他の著書を参考とされたい。

品質保証を説明するには、品質保証のたどった歴史を見ると理解し易い。 *第1世代の品質保証:検査を重点とした品質保証

「消費者が安心して、満足して買うことができ、それを使用して安心感、満

足感をもち、しかも長く使用することができるという品質を保証すること」で

あるから、お客様に不良品を渡さないことが大前提としてある。それを実現す

る手っ取り早い方法として、検査を強化し、不良を外に出さないと言う考え方

である。品質管理「QC」が統計的品質管理からスタートしたことからも分か

るように、統計的抜き取り検査などの検査方法から発達した。しかし、不良品

を検査で発見しても、不良品が少な内は良いが、検査があるのだからと、製造

ラインで手を抜けば、スクラップの山が出来、手直しのための工数が増えるだ

けである。最低限の品質保証の姿である。

*第2世代の品質保証:工程管理を重視した品質保証

次のステップの品質保証は、「品質は製造工程で作り込め」と言う考え方であ

る。製造工程を良く管理し、全製品を良品にしてしまおうと言う考え方である。

設備を良くし、冶具工具を最適なものにし、技能者の腕を上げ、欠陥のない購

買品を投入すれば、組立ラインからは欠陥品は出ない。そのためには、購買か

ら生産技術、保全、製造、組立のトップから技能者まで、全員が品質保証に参

加しなければならない。狭い意味の「もの作り」では、有効な考え方であり、

現在も製造部門の品質保証の基本である。

*第3世代の品質保証:商品企画、設計を重視した品質保証

製造工程でいくら良いものを作っても、設計そのものの寸法が間違っていた

り、材料の選定が間違っていたりしたら、お客様に良い商品は提供出来ない。

つまり、商品企画、設計の段階から品質保証しようと言う考え方である。近年

話題の「リコール」の原因となっている70%は設計責任と言われている。そ

の考え方は、「新商品の開発」で大変有効な考え方である。市場を良く調査し、

新商品の企画からスタートする。企画をもとに、基本技術、新技術を研究し、

開発し、新商品に織り込み、設計する。その新製品を試作し試験をする。その

結果が良ければ、量産準備に入る。新たな生産技術を開発し、製造ラインに導

入したり、新しい作業標準を整え、技能者教育を実施したり、量産のための事

前準備をする。量産準備の段階で、量産時に予想される不具合を徹底的に洗い

出し事前に改善を施す。販売部門は、新商品のための販売ツールやサービスツ

ールを準備し販売とサービスに備える。量産が実施され、販売されたら、市場

に出た商品の市場での評判を調査する。不具合の情報を集める。市場の情報を

設計部門や製造部門にフィードバックする。また、企画段階、設計段階、試作

段階、量産準備段階、販売段階の各ステップで各段階の評価基準を設けて評価

する。このように全社、全部門、全員で、市場から始まり市場までの全行程で

品質保証をおこなうのが、究極の品質保証である。企業はこの品質保証体制を

作り上げるための努力に、エネルギーを惜しまない。

以上が「品質保証」の考え方であり、「品質管理」を実施する目的である。

4.3 全社的(総合的)品質管理活動・TQC(TQM)

アメリカで始まった技術者中心の「データを使い、論理的に説明する」統計

的品質管理(SQC)からスタートした品質管理活動は、日本に導入され、日

本の企業で形を変えて発展した。それは、前述したアイテムを全社的に認識し

て品質管理活動を実践する日本的な「品質管理活動」であり、さらに発展し、

経営手法として確立された、「全社的(総合的)品質管理(TQC・TQM)」

である。

ところで、ここで、言葉の説明をしておく。TQC(Total Quality Control):「全社的品質管理」と、TQM(Total Quality Management):「総合的品質管

理」の関係である。

アメリカで生まれたQCは、日本において発展を遂げ「日本的な品質管理」

となり、さらに経営のレベルまで展開され集大成され、TQC(Total Quality Control):「全社的品質管理」と称されるまでになった。しかし、TQCが日本

にとどまらず、世界的な経営手法として位置づけられた時、Control という英

語の意味が狭いため、品質管理の日本語の「管理」をカバー出来なくなり、管

理の広い意味を表す Management がより適切な表現であるということになっ

た。そこで、国際的にも普遍的に通用させるということで、1994年にTQ

C:「全社的品質管理」からTQM:「総合的品質管理」に、(財)日本科学技術

連盟は呼称変更した。 TQMへの呼称変更にあわせ、内容も現状を踏まえ変革する必要から、TQ

Mが充実しなければならない要素技術として以下が挙げられた。 (1)経営戦略の方針管理への統合

(2)マーケティング技術の新製品開発システムへの有機的統合

(3)新製品開発におけるQCDの総合管理

(4)グローバル社会おける品質保証

(5)品質に関わる国際動向との整合・融合・統合

(6)最新の情報技術を活用した品質・技術情報システムの構築

(7)工程解析・工程管理のための新SQC 等々 <TQM宣言: (財 )日本科学技術連盟 TQM委員会編 より>

以上がTQCとTQMの関係であるが、時代に合わせて、グローバルや情報

技術などのキーワードが加わっているが、基本となる考え方は同じである。そ

こで、誤解を恐れず、大雑把に言えば、前述した日本的な品質管理活動の3ア

イテム「SQC・統計手法を活用する」「問題解決の手順を活用し改善する」「全

員参加」に、「方針管理」と「機能別管理」を加えたものが、TQM(TQC)

であろう。

それでは、次に、その「方針管理」と「機能別管理」について述べる。

以降、本書では、総合的品質管理活動:TQMを使うが、時期的な背景があ

る場合はTQCも使う。

(1)TQMの実施項目(追加2項目)

①方針管理

品質管理を経営の手段として位置付けるためには、トップが旗を振り、方針

を出し、各部門で方針を方策に展開し、最後にその方策の実施状況のチェック

と目標の達成度合いを「QC(社長)診断」で確認するという、一年・半期単

位で全社的にPDCAを廻すのが「方針管理」である。

この方針管理が「総合的品質管理(TQM)」の重要なアイテムである。方針

の展開は企業であるかぎり、必ず実施されているが、TQMを実施する時、T

QMの名の元に方針管理を実施するか否かで趣が大きく違う。トップがTQM

を実施すると「宣言」することが必要になる。

その手順について概要を述べる

方針管理とは、「経営方針に基づき、長 (中 )期経営計画や短期経営方針を定め、

それらを効率的に達成するために、企業組織全体の協力のもとに行われる活動」

と「TQC用語辞典」にある。だいたい次の手順で進められる。

*会社の長期方針・長期目標の策定

最初に長期方針案を策定するため、経済環境、競合他社動向など外部要因や、

業務診断や役員会などからの内部要因についての情報収集と解析を行う。その

中から会社の問題点、課題を洗い出し、「長期方針」を設定する。同時に市場戦

略や商品戦略を考え、「長期方針」と共に各部門へ展開する。

*会社の年度方針・年度目標の策定

年度方針を策定するため、ここ1~2年の経済環境など外部要因や、業務診

断や役員会などからの内部要因についての情報収集と解析する。長期方針を織

り込み、年度の重点方策と目標値を設定する。重点方策と目標値を機能別に整

理し、全体調整して、「年度社長方針」を策定する。年度社長方針を策定した背

景や方策の詳細の真意と共に、各部門へ「年度社長方針」を展開する。

*各事業部への方針の展開と、各事業部の方針と活動計画の立案

各部門は「会社長期方針」を念頭に、「年度社長方針」を受け、事業部・部門

の問題課題を織り込み、「事業部・部門方針」を策定する。さらに、具体的重点

方策を決め、年間で実行するための「活動計画書」を作成する。さらに、部・

課へ方針と重点方策を展開し、部・課は具体策と活動計画書を作成する。

*日常活動の実施

活動計画書に基づき日常活動が実行される。日常活動の結果は部門の会議体

でチェックされる。そこでは、実績を把握し、目標との差異を解析し、差があ

る場合は対策を立案、実行し、必要な是正処置が徹底される。

*活動結果の評価とフィードバック

各部門の組織、機能が、経営の基本方針にそって運営されているかチェック

し、社長方針の実施状況を把握し、評価し、合わせて診断側と下位部門相互の

コミュニケーションをはかるため、診断を行う。

以上が方針管理の考え方と手順である。要は、会社全体が同じ方向を向いて、

同じ目標に向かって進むことであり、部門によりバラバラに走らないようにす

る仕組みである。

②機能別管理

企業には組織や部門を縦糸とすると、その部門を横断的に見る色々な機能が

ある。「品質保証」「原価管理」「生産量管理(納期管理)」はその代表的な機能

であり、これらの機能は各部門がそれぞれ持っている。部門々々で各機能を管

理すると、部分最適を追求し、全体最適にならない嫌いがある。その部門を越

え、各機能が全体最適になるように管理するのか「機能別管理」である。機能

別委員会を設置したり、部門横断のプロジェクトを編成したりし、全体最適に

なるように工夫されている。

日本の企業はタテ社会と言われているように、縦の上下関係のつながりは強

いが、横の関係は、命令系統が無く、人事面でもつながりが少ない。この弊害

を無くす仕組みが「機能別管理」である。部門の上下関係を縦糸とし、機能別

を横糸として、面で組織の運営を図る仕組みである。

以上の通り、品質管理の3アイテムに「方針管理」と「機能別管理」を加え

たのが「総合的品質管理(TQM)」といえる。

(2)「総合的品質管理(TQM)」での全員参加

「総合的品質管理(TQM)」を実施する時、単に全社で「品質管理活動」を

実施する時の全員参加と意味合いが微妙に違ってくる。

「品質管理活動」では、全員が品質管理の考え方で仕事を実施しておれば良

く、極端に狭い意味で「品質管理活動」を捉えれば、「QCサークル活動」を第

一線のラインとスタッフを対象に活動させ、「QCサークル活動」を基盤に、管

理職以上は「QCサークル活動」を指導支援することで「品質管理活動」に参

加し、これをもって「全員参加」と称しても良い。更に言えば、全員が自分の

守備範囲でPDCAを廻せば良い。 しかし、「総合的品質管理(TQM)」を標榜する時はトップ以下、第一線ま

でそれぞれの使命・役割と成果に関し、有機的な連携が求められる。

「トップ」は中長期のビジョンを示し、年度方針を示達し、会社経営のため

の全社管理システム等を企画・構築すべく、短期計画を立案することが求めら

れる。更に方針の達成状況をチェック・フォローするための「社長(QC)診

断」を実施する必要がある。

「部課長」は示達された方針を受け、自部門に適合した方策に展開して伝達し、

部門、機能の管理システムを企画して実行させるという、マネジメントでPD

CAを廻す力が要求される。

「スタッフ」は部門の長から展開、指示された新たな管理システムなどにつ

いて、プロジェクト活動などを通じて構築するとともに、現在稼働しているシ

ステムや生産ラインの維持向上・改善のための活動が求められる。

「ライン第一線」は日常の生産活動・販売活動を実施すると共に、QCサー

クル活動などを通じて、新たに稼働するシステムや生産ラインの設備・冶具の

改善、仕事のやり方の、現場への適合と改善が求められる。

以上のように、会社のビジョン達成のために全員がベクトルを合わせるため

各自の役割を認識して、全部門・全員が全社的規模でPDCAを廻し、目標を

達成するのが「総合的品質管理(TQM)」活動における「全員参加」であろう。

言って見れば、「方針管理」で、各自の役割を果たすことが、TQMでの全員参

加である。

4.4 QCサークル活動

QCサークル活動は、「総合的品質管理(TQM)」活動において、特別な意

味をもっている。それはTQMにおいて、最も様々な仕組みや制度を有してい

るからにほかならない。それ故、QCサークル活動と品質管理活動、TQMを

混同し、同じものと誤解することがしばしば起こる。

例えば、QCサークル活動を実践している人が、QCサークル活動のことを

QC、QCと言い、「私はQCサークル活動をやっています。」と言うかわりに

「私はQCをやっています。」と言う。この場合、品質管理の考え方を実行して

いると言う意味で使う場合は良いが、大抵の場合、この「QCをやっています。」

もっと言えば「QCは形式的だ」などで使う「QC」の意味は、会合を開く、

報告書を書く、発表をするなど、「QCサークル活動の仕組み」を「QC」と言

っている場合が多い。「QCサークル活動の仕組み」と「QCの考え方」の、次

元の違うものをゴッチャにしている例である。

このように、QCサークル活動は「品質管理活動」さらに「総合的品質管理

(TQM)」活動で、大変重要なアイテムの一つなので、ここに詳しく述べる。

その、QCサークルを語る場合、その誕生からひも解くのが一番良い。

(1)QCサークル活動の歴史

QCサークルの歴史について述べるが、QCサークル本部編纂の「QCサー

クルの基本」に詳しく記載されているので、ここでは、その概略について参考

のため振り返る程度に留める。

*QCサークルの誕生以前

QCサークルのベースになる考えは、当然「品質管理・QC」である。日本

における品質管理の始まりは、第二次世界大戦後、GHQ(総司令部)が日本

の工業製品、特に通信機器の質の悪さに業を煮やし、アメリカで行われていた

品質管理を日本でも取り入れることを決めたことからスタートしている。19

50年デミング博士、1954年ジュラン博士の2人の品質管理の権威者の講

習会がきっかけとなり、日本の企業は品質管理を導入するようになった。当初

はSQCからスタートしスタッフ中心の活動であったが、経営への展開を図る

と共に、製造現場での品質を向上させるため、製造現場ではQC教育の導入を

図った。その一つとして、1960年「品質管理」誌の10周年記念特集号「現

場で働く人々とQC」が出版され、それがもとになり、第一線職場でも「気や

すく読んで勉強出来る雑誌が欲しい」との要望から雑誌「現場とQC」誌(現

QCサークル誌)が創刊された。

*QCサークルの誕生

この雑誌「現場とQC」で、現場でQCを勉強し、実践するためのグループ

の結成が呼びかけられ、それを「QCサークル」と名付けた。

その当時、製造業の製造現場でQCを勉強するため「職場検討会」「職場懇談

会」のようなものがすでにあったが、これらの組織が集約され、「QCサークル」

が結成されて行った。雑誌でサークル結成を呼びかけとともに、1962年Q

Cサークル本部を創設、本部登録制度を作り、その普及と組織づくりを始めた。

同年5月、本部登録第一号サークルが誕生している。それ以降、本部の下部組

織として支部・地区が組織化され、「QCサークル綱領」「運営の基本」が制定

され、全国の様々な企業でQCサークル活動が導入されて行った。そしてその

交流の場として、本部・支部・地区で「QCサークル発表大会」が開催され、

企業の業種や規模を越えた結びつきが日本中でなされるようになった。

誕生当初のQCサークルは、従来「ものを作る」ことだけが業績評価の対象

であったライン技能者にとり、本来スタッフが行っていた改善業務をグループ

で実行し、その改善成果を別の形で評価されると言う、今までにない「画期的」

な手段であったことから、QCサークル活動は技能者に受け入れられた。その

ため、企業側は「QC教育」を行い、発表させ、評価する場を設けるなど、全

国的な企業公認の仕組みをつくりあげたことが出来のが、全国的な規模で広が

っていった理由であろう。

*QCサークル活動の変化

1962年、製造業の製造部門からスタートしたQCサークル活動は、19

70年代に製造業の「事務部門」「販売部門」「サービス部門」に広がった。2

度のオイルショックを経験した日本の企業は1980年代、「品質」と「コスト」

のトレードオフと、新商品開発を目指し、様々な業種の企業がTQCを導入し

た。それに合わせ、TQCの1アイテムであるQCサークル活動も導入された。

その結果、QCサークル活動の対象部門は製造部門に加え間接部門など全部門

に広がり、対象業種も2次産業から3次産業へと拡大して行った。1990年

代に入り、バブルが崩壊すると、3次産業のQCサークル活動からの撤退の結

果、製造業中心の活動へと戻って行ったが、産業構造の変化から、製造部門が

海外へ移転し、技術部門の比率が大きくなったこと、企業が小集団活動により

大きな成果を求めるようになった結果、QCサークル活動、小集団活動の対象

者が技能者に加え技術者へと拡大して行った。

(2)QCサークル活動の概念

以上のような歴史をもったQCサークルであるが、その概念について少し述

べておく。QCサークルの本質は本部編纂の「QCサークルの基本」にある「基

本理念」にある通りであるが、現在では下記の通りに解釈出来る。 *個の能力の向上

QCの考え方・手法の勉強を通して合理的なものの見方と科学的な手法・問

題解決法を身につける

*活力に満ちた職場作り

実務について様々な知識・経験をもった仲間が十分な話し合いを通してチー

ムワーク・信頼を醸成する

*顧客満足の向上・社会への貢献・自己実現

職場にある問題の解決を通して組織・社会に貢献する

<2003年、QCサークル本部提唱のe-QCCより>

(3)QCサークルの通念

ところで、製造業の製造現場から始まった誕生当初のQCサークルは、次の

ことが通念としてあった。

*継続性

QCサークルの継続が基本、プロジェクト的な融合離散型のグループは主旨

から外れる

*自主性

サークルの編成時は、企業から一定の縛りを要求されるが、テーマ選定と運

営は自主的に行われる

*製造部門ライン技能者の活動

サークル誕生当初は製造ラインでの活動、そのため、ライン技能者の活動で

あり、スタッフ・技術者は別の仕組みのQC活動を行う

しかし、この通念は、現在の経済環境を反映し変化しており、「継続性」は、

サークルの継続から、改善活動の継続に考えがひろがり、テーマの「自主性」

はより企業への寄与がもとめられ、方針から展開されるようになり、「製造部門

技能者の活動」は全部門、全職位階層へと広がっている。

(6)QCサークル活動の目的と役割

全国的な規模で広がっていったQCサークルは、各企業の中で、本部編纂の

「QCサークルの基本」にある「基本理念」に則り活動しているが、企業内で

の目的と役割は、「グループによる改善活動」にある。

冶工具の改善、設備の改善、製品の改善、仕事のやり方の改善、技能・技術

の改善、仕事の仕組みの改善、品質管理活動の進め方の改善、QCサークル活

動の運営の改善など、自社の商品の品質向上のための、ありとあらゆる改善が

QCサークル活動でテーマとして取り上げられ、取り組まれる。

その改善活動を通じて、結果として、個の能力が向上し、活力に満ちた職場

が作られ、企業や社会に貢献出来、自己実現が出来るわけである。

それでは、どのようなサークルが最高レベルといわれるのかは、全国で行わ

れている「QCサークル発表大会」の発表内容を見れば分かる。

(7)最高レベルのQCサークル

全国規模で行われている発表大会には、主に業務を改善した内容を発表する

「改善事例大会」と、サークル活動を継続し、サークルのレベルをどのように

向上させたかを発表する「運営事例大会(選抜大会)」の2種類ある。その全日

本選抜大会は当年度の「最優秀」のサークルが発表するが、どのようなことを

すれば「最優秀」のサークルなのかのイメージを下記に示す。 *自職場で扱っている商品の質の向上を目指す(目的)

・最初は「当たり前品質(不良低減)」のレベルで、必要不可欠のレベル

・魅力的品質のレベルを目指して成果を出す ・設計へ提案して、よりよい品質のために図面変更、源流で品質を折り込む

*商品の質の向上を目指し、技術、技能のレベルを、その時代の最良にする工

夫をする

・旋盤技能検定1級などを目指し、訓練工房で技能のレベルアップを図る ・新技術を勉強し、取り入れて、設備・冶具・工具を改善する

*技能レベル向上のための、仕組みを考える

・技能を継続的に向上するため、技能オリンピックなどを定期的に開催する

・自サークルのレベルアップのための計画書を作成する

・新技術を習得するため、スタッフを交えた定期勉強会の仕組を作る ・他部門との連携を図る

*仕事の質の向上のため、QC的な物の考え方を活用し、そのレベルを向上し

ている

・問題解決の手順の工夫、QCストーリーの工夫をする

・より高度なQC手法、実験計画法、多変量解析法を活用する

・解析手法の創造、なぜなぜ解析などの提案

*QC的考え方を向上させるために、QCサークルの運営の工夫をしている

・テーマ選定の工夫、テーマバンク・テーマバンク利子の活用などの提案

・QC手法の習得星取り表、横綱を目指せ、ITの活用などの提案

上記のことを有機的に絡み合わせて活動しているサークルが「最高レベル」

のサークルである。しかし、このような「最高レベル」のサークルは全国何十

万サークルの内の極々一握りのサークルであり、あくまで理想のサークルであ

る。

(4)QCサークル活動、推進の仕組みと制度

QCサークル活動が企業の中で、重要な位置を占め、誕生から40年以上の

永きに渡り活動出来たのは、各企業がQCサークルのために、様々な仕組みや

制度を整えたからに他ならない。つまり、各企業がQCサークル活動を「総合

的品質管理(TQC・TQM)」の重要なアイテムの一つとして位置付け、それ

なりの人と時間のエネルギーを注いだからであろう。

それでは、各企業が整えた色々な仕組みや制度の代表的なものを紹介する。

*サークルの登録制度

QCサークルは職場単位で結成される。製造現場であれば、班単位で編成さ

れる場合が多い。概ね6~8名で1サークルが編成されるのが良いとされる。

サークルが結成されるのは、企業がサークルを導入した場合や、職場に組織換

えがあった場合に、サークルは新たに編成される。

サークルが結成されたら、登録する。QCサークルを推進している企業は「Q

Cサークル登録制度」を整えている。サークル名、リーダー名、サークルメン

バー名、結成の動機、所属などを一定の書式の登録簿に記入し、所属部門の長

を経由して、事業所や企業の推進事務局へその登録簿を提出し登録する。登録

は、企業内だけでなく、全国組織であるQCサークル本部へも登録する。

サークルを登録すると言うことは、名乗りを挙げることであり、サークルメ

ンバーの結束につながる。また、関係者からサークルの運営面での協力が得ら

れる。

*テーマの登録制度

QCサークルの結成が終わったら、改善活動が始まる。ムリ・ムダ・ムラな

ど、身の回りの問題や課題、上司方針やクレームなど職場の課題や問題、等々、

サークルで解決すべきテーマを選定し、所属部門の長を経由して、事業所や企

業の推進事務局へそのテーマを登録する。同時に概略の活動計画を提出する。

この登録により、上司やスタッフから改善活動に対する技術的、コスト的な支

援をもらうことが出来る。 *QCサークル会合、会合結果の報告の仕組み

QCサークルの改善活動は節目、節目の会合により活動が進む。会合により、

メンバー全員の連帯意識が高まる、役割や、やるべきことを決め確認する、全

員で知恵を出し合う、情報を共有する、などが出来る。会合の結果は記録に残

し、会合記録を上司に提出し、上司に会合内容についてコメントをもらう。こ

のような記録の上司や事務局とのやり取りの仕組みを確立しておくことで、上

司とのコミュニケーションが図られる。

*改善活動を進めるための道具立て

QCサークル活動の大きな目的の一つが改善活動である。改善活動を進める

時、「QCストーリー(問題解決の手順)」に則り進めると、スムーズに行く。

また、QC手法などの必要な手法を習得することも大切である。これらの手順

や手法などの道具を取りそろえ、教育をするなど、いつでも使えるようにする

ことも、仕組みの一つである。

*活動結果の報告の仕組み

1つの改善活動が完了したら、その内容を記録に留める必要がある。活動報

告書は、サークルの財産になるとともに、関係部門でも活用出来、情報共有の

手段となる。活動報告書を上司、事務局へ提出することで、コメントをもらう

ことが出来、上司とのコミュニケーションが図られる。報告書の様式や、提出

の仕組みが、次の改善活動のレベルアップにつながる。

*発表

改善活動が完了したら、記録し報告することと合わせ、発表大会で発表する

ことが大切である。発表することで、関係者に情報を提供すると同時に、関係

者から様々な意見をもらうことができる。そして、次の改善活動のレベルアッ

プにつながる。以上の役割を持つ、QCサークル発表大会の開催の仕組みを整

えることは大切なことである。

*評価・表彰

QCサークル活動の対象者の多くは、ラインの技能者である。従来「ものを

作る」ことだけが業績評価の対象であったライン技能者にとり、改善業務をグ

ループで実行し、その改善成果を評価されると言うこと大変重要なことである。

改善活動を適切の評価し、表彰する方法として、発表大会での評価表彰がある。

発表を聞き、一定の評価基準でしかるべき評価員で評価し、表彰する仕組みが

QCサークル活動を推進する上で大変大きな役割を持っている。

評価し、表彰する仕組みとして、発表大会以外にも色々と考えられる。改善

活動報告書に基づき評価表彰する。日常活動でのレベル向上の度合いを点数化

し評価表彰する。ただし、評価表彰は大変デリケートな問題も含んでいるので、

各企業は部門、職位階層などの人事制度の実情にあわせて整備している。

*QCサークル診断

半期もしくは1年間の節目で、QCサークルのレベルが向上したのか、活動

を進める上で何か問題は無いか、などを上司がサークル毎にチェックする制度

に「QCサークル診断」がある。上司との面談により上司とのコミュニケーシ

ョンが図られ、サークルは運営上の問題が明確になり、その問題を上司と共に

解決出来る。QCサークル活動は、サークルの継続が前提になっているので、

サークルは運営上の問題の解決で、次年度でのサークルのレベル向上を図るこ

とが出来る。そして、前述した「最高レベルのQCサークル」に近づくことが

出来る。 *教育

各社はQCサークル向けに様々なQC教育コースを準備している。新入社員

向け、中堅社員向け、リーダー向け、様々な手法教育がある。また、QCサー

クル活動を導入しようとする企業は、導入初期、集中的にQC教育を実施する。

社内で教育出来ない場合は、QCサークル本部や地区でQCコースや研修会が

準備されている。

*活動状況の把握

QCサークルの推進事務局は、サークルの活動状況を把握し、問題がある場

合はそれに対応する役割を担っている。例えば、サークルが技術的な問題など

で改善活動が停滞している場合、関連部門との連携や調整役をする。また、節

目々々では全サークルの状況を把握し、部門の長に情報をフィードバックし、

問題があれば、部門の長に対応を促す。把握する内容は、全サークル数、人数、

テーマ解決件数、会合回数、発表回数、各サークルのテーマの進捗状況などで

ある。近年はこれらの情報はITを活用し、全社に公開している企業もある。

*推進組織

QCサークル活動は全社活動の一部と位置づけ、全社的に展開している企業

が大半である。その場合、トップ(社長)を長に、QCサークル推進委員会を

組織し推進することが多い。そこで、全社のQCサークルの方針が示達され、

全社に展開される。その委員会の事務局が、全社推進事務局となる。全社の推

進委員会の下部組織として、事業所・部門単位の推進委員会が組織され、事業

所・部門の事務局が設置される。事業所・部門の推進事務局は全社推進事務局

が統括し、推進の実務を担当する。例えば、活動状況の把握、そして、QCサ

ークル大会などを実施する。以上代表的な推進組織を挙げたが、各社様々な推

進組織を持ち、その名称や役割も様々である。

*指導支援の制度

支援者として、各サークルの直属の上司やスタッフがその役割を担う。改善

活動での技術的、コスト的な支援はもちろん、会合開催の配慮、運営上の問題

の解決を図る役割も担う。また、QCサークル診断を実施するのも直属の上司

の役割である。

以上にように、見事なまでに仕組みや制度が整備されている。しかし、これ

らのQCサークル活動の仕組みや制度も、QCサークルに改善活動を気持ちよ

く実践してもらうための手段である。この仕組みや制度の実行が目的化し、本

来持つ「職場第1線の改善活動」と言う目的を見失う場合が少なからずある。

推進する側はよくよく配慮する必要がある。

以上のことを踏まえ、現在の経済環境を見据え、QCサークル活動の課題と、

その対応を考えて見る。

(5)QCサークル活動の課題と対応

QCサークル活動の歴史でも述べたように、1990年代に入り、バブルが

崩壊すると、3次産業のQCサークル活動からの撤退の結果、製造業中心の活

動へと戻って行ったが、産業構造の変化から、製造部門が海外へ移転し、技術

部門の比率が大きくなったこと、企業がQCサークル活動により大きな成果を

求めるようになった結果、QCサークル活動の対象者が技能者に加え技術者へ

と拡大し、その名称もQCサークルだけでは包含出来ず、小集団活動と大きな

範囲で呼ぶに至った。とは言え、その数は限られている。

つまり、近年、病院や役所など新規の業種の参入はあるものの、小売業、銀

行など多くの従業員を抱える3次産業からQCサークル活動が撤退し、製造業

もライン技能者の減少でQCサークルの絶対数は激減している。本部登録の新

規登録数を見ても、ピークの1/10に減少している。

しかし、物事を評価する時、時代と場所を考慮する必要がある。往々にして、

今の時代に合わないからと、過去の実績を否定してしまう場合がある。また、

ある企業では使えないものでも、別の企業では大変有用であると言うこともあ

る。 QCサークル活動も同じ事が言える。製造業の製造部門からスタートしたQ

Cサークル活動は40年が経過し、様々な部門や様々な業種にひろがり、数多

くの企業が導入した。そして80年代の経済成長を品質と言う面から下から支

えた功績は非常に大きいものがある。この実績を否定する人はいないであろう。

現在、QCサークル活動を実施する企業、サークルの絶対数は15年前をピ

ークに下落の一途をたどっている。だからと言ってQCサークル活動がその役

割を終えたのかと言うとそうではない。スタート当初の製造業の製造部門では

未だにその輝きを失っていない。

しかし、製造業の製造部門以外でQCサークル活動が定着しなかったのは、

理由があるはずである。その理由を明確にすれば、職場第一線での小集団活動

は、QCサークルの考え方を基本に、より広がりを見せた活動に変化していけ

るはずである。

製造業の製造部門以外でQCサークル活動が定着しなかった理由について考

えてみよう。ある意味でQCサークル活動の「限界」なのかも知れない。

QCサークルが抱えている課題、言い換えると限界をブレークスルーするた

めには、小集団活動が色々な部門や職位階層に広がりを見せると言うことに、

どう対応するかであろう。その方法のキーワードは「フレキシビリティー」と

「カスタマイズ」であろう。つまり様々な考えを許容する姿勢であろう。今ま

でのやり方も、これからのやり方も全て許容し、否定しないことである。その

中から新しいものが生まれて来る。

*発表大会、評価の課題と対応

QCサークル活動が形骸化したと言われる理由の一つに、発表大会があると

言われている。発表大会の機能は大きく2つある。一つは、改善内容の水平展

開である。もう一つはモラールアップである。モラールアップの手段として、

発表するだけでなく、評価表彰し、更に、競争原理をある面でQCサークル活

動では使って来た。この発表大会と言う手段の功罪を考える時も、時代と場所

を考慮する必要がある。

たしかに「発表」と言う形以外で仕事を評価してもらえる技術者には発表大

会での競争原理より情報の共有化を優先すべきである。しかし、技能者は本来

の仕事でない改善活動を評価してもらうにはQCサークル活動が必要であり、

発表大会が必要である。ただし、技能者といえ、競争原理だけの発表大会では

問題もある。競争原理が働けば、1番になるために必要のない工夫、しなくて

も良い工夫をする人が、サークル員以外で出る。1番になるためには人数×時

間が必要になる。その人数と時間がサークルのためになるかどうかは関係者の

価値観の問題である。そのためにも発表大会以外に、サークル活動を正当に評

価し表彰する仕組みを工夫する必要がある。

部門・業種の広がり、職位・階層の広がりを見せる今後の小集団活動では、

それぞれに合わせた評価表彰の仕組み、そして発表大会そのものの仕組みを考

え直す必要がある。

今後、小集団活動が色々な部門や職位階層に広がりを見せる中での「発表大

会」「報告の場」では、報告された内容が他の職場で役に立つか、が重要になる。

近年、特に小集団活動に企業への寄与が要求されていることを考えると、成果

の水平展開、知識の共有が大切になる。そのことから、報告された内容が他の

職場で役に立つか、が重要になる。

QCサークル発表では、問題解決の手順に則り、その手順に寸分の抜けのな

い、綺麗な発表が評価されるきらいがあった。小集団活動の導入初期では、問

題解決の手順を普及するためにも、「基本に忠実」に手順に則ることが重要にな

るが、一定期間を過ぎれば違う対応が必要である。この「基本に忠実」と言う

問題は、特に、部門や職位階層の広がりの中では注意する必要がある。この基

本が部門や職位階層により様々に変化するからである。この変化を認めるとと

もに、この違いに対応して行かなければならない。例えば、「発表大会」「報告

の場」では、この違い毎の「会場」を設けてはどうであろうか。部門毎の会場、

職位階層毎の会場、テーマ毎の会場など、きめ細かな会場設定の工夫が必要に

なろう。

次に、各会場での評価表彰の方法が問題になる。評価するのか、評価しない

のか、評価する場合絶対評価(評価項目を決め点数化してレベルを評価する)

にするのか、相対評価(順位を決める)にするのかを、発表会の目的に合わせ

て設定する必要がある。また、評価表彰する場合、その「評価基準」は、部門

や職位階層毎に設定する必要がある。

更に、「発表大会」で評価するのか、「報告の場」を別の形で設けるのか、「発

表」「報告」以外の方法で評価表彰するのかも考えなくてはならない。例えば、

日常活動でのレベルアップを点数化し、評価表彰する方法もある。

いずれにしても、評価表彰の仕組みは大変デリケートな問題を含んでいるの

で、全部門、全職位階層が納得するものを構築することが肝要である

*部門、職位階層の課題と対応

QCサークルは、製造業の製造部門のライン技能者からスタートしたと言う

背景を持っている。そのため、様々な仕組みが製造業の製造部門のライン技能

者に合わせたものになっている。今後、小集団活動を部門、職位階層を越えて

広がりを持たせようとすると、新たな仕組みを部門、職位階層に合わせてカス

タマイズする必要がある。カスタマイズを認めないと、合わない所から、「形式

的だ」「形骸化している」と言われる。

従来のQCサークル活動では、カスタマイズがあまり認められなかった。そ

のことが、部門・業種の広がり、職位・階層の広がりにブレーキを掛けた原因

の一つであろう。

この課題に関しては、「フレキシビリティー」に考え、各々「カスタマイズ」

を認めることに尽きるであろう。特に、一律の仕組みや制度にせずに、部門や

職位階層別に仕組みを構築するくらいのきめ細かさと寛容さが必要であろう。

QCサークル活動は製造部門の活動と言われて来たが、製造部門の中にも、

生産ラインの技能者もいれば、企画改善業務の技術スタッフもいる。このよう

に、今後小集団活動を幅広い部門や職位階層で実施して行く時は、部門と職位

階層をマトリックス的に捉えて、仕組みや制度を層別して設定して行く必要が

あろう。各企業は、自社の組織、人事制度などを良く考慮し、どのような仕組

みにするかを熟慮に熟慮を重ねて推進して戴きたい。

*用いる手法の課題と対応

全社の品質管理活動の一環として推進されているQCサークルが主に用いる

手法はQC手法である。「QC7つ道具」を基本としたSQC手法が中心にあり、

問題解決を目指したQCストーリーがその基本にある。事務販売サービス部門

用に「新QC7つ道具」が提唱され、管理、技術部門用に「課題達成型QCス

トーリー」が工夫されたと言え、「新QC7つ道具」や「課題達成型QCストー

リー」が提唱された当時、これらがなかなか受け入れられなかったと言う歴史

もある。QCサークル活動は、ややもすると、QC手法が使われているか?、

QCストーリーに則っているか?、で評価された。ぴよぴよサークルにとって

はこれらの「基本」は大事であるが、ベテランサークルもこの「基本」を強要

され、「応用」が評価されない場面が多くあった。部門や職位階層が広がっても

この「基本」が押しつけられ、形式的、形骸化が指摘されてきた。

今後、さらに小集団活動が色々な部門や職位階層に広がって行くと、QC手

法以外の手法をどんどん取り入れる寛容さが必要であろう。

つまり、ここでの「フレキシビリティー」と「カスタマイズ」は、今後提案

される手法・手順を全て認めることであろう。過去に、「新QC7つ道具」や「課

題達成型QCストーリー」が提唱された当時、これらがなかなか受け入れられ

なかったと言う歴史を反省し、QC手法以外の手法をどんどん取り入れる寛容

さが必要であろう。

*QCサークルと言う名称

小集団活動が色々な部門や職位階層に広がって行くと、QCサークルと言う

名称が問題となる。QCサークルと言う名称から来るイメージは、前述した通

りの歴史からくる概念を抱えており、どうしても固定化される。新たな部門や

職位階層が小集団活動を導入するとき、この固定化された概念と一致すれば良

いが、しない場合は「QCサークル」という概念を企業独自に定義し直すか、

別の名称、「企業独自」の名称を付ける必要に迫られる。

もう一つの考え方として、逆に「QCサークル」は従来の概念のまま使い、

QCサークル用の対象部門や職位階層を固定しまう方法もある。例えば製造部

門は「QCサークル」、技術部門は「タスクフォース」、管理部門は「○○活動」

と名称を別々にすると言う方法である。また、全体の小集団活動を「コミュニ

ティ活動」などとし、製造部門だけは「QCサークル」を残し、「コミュニティ

活動」と言う全体に、包含する方法もある。

いずれにしても、全部の小集団活動を「QCサークル」と言う名称にするこ

とは無理があり、ある意味でQCサークルの限界の一つであろう。

この限界の対応としては、QCサークルと言う名称は特にこだわる必要が無

いであろう。「こだわらない」とは、QCサークルと言う名称をやめると言う意

味ではない。使っても良いし、使わなくても良いと言うことである。例えば、

製造部門は「QCサークル」、他の部門は別の名称にするなど、フレキシブルに

考えれば良い。 いずれにしても、全部の小集団活動を一律に「QCサークル」と言う名称に

することには無理があると言うことであろう。

(6)今後のQCサークル活動、小集団活動

今後、QCサークル活動や小集団活動は、様々な業種や部門や職位階層に広

がって行くと思われる。その活動の名称はどのようになるかは分からないが、

QCサークル活動を包含した、広い意味の「コミュニティ活動」へ発展すると

思われる。その萌芽は「(evolution)e-QCC:進化したQCサークル活動」

と称して、QCサークル本部より提唱されている。さらに、各企業の中では、

更に進化を続けている。

また、欧米では「コミュニティ・オブ・プラクティス」と称して、日本のQ

Cサークル活動を徹底的に研究した結果の、小集団活動が提唱されている。こ

のように、知識や情報を共有し、仕事の質を向上する活動は永遠に続くことで

あろう。

以上、QCサークル活動について、多くのページを割いて紹介したのは、Q

Cサークル活動は「品質管理活動」さらに「総合的品質管理(TQM)」活動で、

大変重要なアイテムの一つだからである。しかし、QCサークル活動は、「総合

的品質管理(TQM)」の1手段である「全員参加」の、そのまた1手段の活動

であるにすぎない。何度も言うが、「QCサークル活動」と「総合的品質管理(T

QM)」は同列ではない。そのことを「総合的品質管理(TQM)」や「QCサ

ークル活動」を今後導入しようとする企業のトップ、また、今後、「総合的品質

管理(TQM)」や「QCサークル活動」の推進役を任命された推進者はよくよ

くこのことを勉強して戴きたい。その原理・原則を認識しないと、活動を実際

に実践する人達は誤解の連鎖を起こし、ひいては、「総合的品質管理(TQM)」

も「QCサークル活動」もその企業に定着しないし、今後の小集団活動の発展

にも寄与出来ない。

4.5 日本の品質管理賞(デミング賞・日本品質管理賞) 「総合的品質管理(TQM)」を実践している企業がそのレベルを第三者的に

評価してもらう賞が日本で設定されている。それが、デミング賞・日本品質管

理賞である。また、近年、小規模企業向けに「日本品質奨励賞・TQM奨励賞」

が創設された。それらの概要を紹介する。

(1)デミング賞

「総合的品質管理(TQM)」を実践している企業がそのレベルを第三者的に

評価してもらうのが、「デミング賞」である。

つまり、企業が品質保証活動を進めるに当たり、企業に合った独自の品質保

証の仕組みを作り、その仕組みを作る過程で、その仕組みを維持管理する過程

で、その仕組みを改訂・改善する過程で品質管理の考え方を実践した上で、企

業独自の仕組みや手法を作り出したかどうかを評価するのがデミング賞の審査

である。デミング賞の中で、企業向けに設定されたものが、「デミング賞実施賞」

である。同賞は、TQMを実施して顕著な業績の向上が認められる企業または

事業部に対して授与される年度賞である。公・私企業、業種、規模の大小、国

内・海外を問わず応募できる。 (2)日本品質管理賞

「日本品質管理賞」は、デミング賞実施賞を受賞した後、受賞年度を含め 3年以上、企業環境の変化の中で「TQM」を継続して重点的に実施し、着実か

つ効果的に企業目的を達成しつつある企業または事業部に対して年度賞として

授与される。審査項目はデミング賞実施賞と同じである

(3)日本品質奨励賞 TQM奨励賞

日本品質奨励賞「TQM奨励賞」は品質の改善が着実に進展しており、さら

にその継続と活動範囲の拡大が図られれば、企業の業績は向上し、デミング賞

実施賞の受賞のレベルに至ると思われる組織の品質マネジメント・システムを

積極的に表彰し、今後の一層の発展を促す動機を提供することを目的とするも

のである。

「TQM奨励賞」は、小規模企業にとり、品質管理の考え方を体得するため

に大変良い制度である。本著書の読者で、中小規模企業は、是非挑戦して戴き

たい。

4.6 最近提唱された、経営のための手法

近年、「総合的品質管理(TQM)」以外にも、様々な経営のための手法が提

唱されている。思いつくまま挙げて見ると下記のようなものがある。

・「ISO9000」

・「TPM」

・「リエンジニアリング」

・「ナレッジ・マネジメント(ITの活用による情報共有)」

・「シックス・シグマ」

・「サプライチェーン・マネジメント[CSM](ネット+カンバン方式)」

・「コミュニティ・オブ・プラクティス」

<品質賞>

・「マルコム・ホルドリッジ賞」 ・「日本経営品質賞」

以上の経営手法は、大半が欧米で提唱され、日本でも紹介され、広まってい

る経営手法である。その内容を見ると、「総合的品質管理(TQM)」を研究し

つくし、手段の一部を取り出し、その一部を充実し独立させたもの、「総合的品

質管理(TQM)」に他の手段を付け加え充実しものと、語弊はあろうが、大雑

把にそう言えるであろう。その意味で、欧米に於いて「総合的品質管理(TQ

M)」の考え方が馴染まない部分の修正がなされ、近年の経済環境への適合が図

られ、新技術での補強がなされていることを考えると、大変参考となる。

ただ、新たな経営手法を日本で導入し、実践している人の中には、品質管理

活動やTQMの神髄を知らずに品質管理活動やTQMを「古い」「欠陥品」とい

う人がいる。それは違う。品質管理活動やTQMをキチントやった企業では、

この新しい経営の手法・手段もスムーズに導入出来ている。品質管理活動やT

QMの実践経験のない企業、おざなりに実施した企業では、新たな経営手法の

導入に手間取って、頓挫した企業も散見される。また、TQMから新たな経営

手法へと転換した企業がTQMに回帰する現象も見受けられる。つまり品質管

理の考え方は「基本」であり「ベース」でありけっして「古い」ものでない。

日本において、これらの新しい経営の手法を導入する企業は、欧米で提案した

人達とおなじように、「品質管理」や「総合的品質管理(TQM)」を徹底的に

研究して欲しい。

また、「総合的品質管理(TQM)」を普及拡大して来た人や、現在推進して

いる人は、これらの新しい経営手法を、単に品質管理の焼き直しと、批判する

べきでない。批判せず新しい手段を研究し、品質管理活動の幅を広げるととも

に、更に良いものにし、企業が導入すべき手法手段の選択肢を増やす努力をす

る必要がある。「総合的品質管理(TQM)」も、新たな経営手法も、普及する

のが目的でなく、企業を発展させるのが目的であるのだから。