ネットワークの中立性

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ネネネネネネネネネネ ネネネネ ネネネネ ネ 40 ネ ISP ネネネ in ネネネネ Apr. 18, 2014 1

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ISPの集い@奄美大島(2014/4/18)で使用する資料です。

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Page 1: ネットワークの中立性

ネットワークの中立性九州大学 実積寿也

第 40 回 ISP の集い in  奄美大島 Apr. 18, 2014

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Page 2: ネットワークの中立性

「ネットワーク中立性」問題とは?

• ”Net neutrality (also network neutrality or Internet neutrality) is the principle that Internet service providers and governments should treat all data on the Internet equally, not discriminating or charging differentially by user, content, site, platform, application, type of attached equipment, and modes of communication.”   (Wikipedia)

• 最初に言い出したのは、コロンビア大学ロースクールの Tim Wu 教授

第 40 回 ISP の集い in  奄美大島 Apr. 18, 2014

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Page 3: ネットワークの中立性

以前は、 End-To-End Principle (あるいは End-To-End Arguments )と呼ばれていたもの

Lawrence LessigDirector of the Edmond J. Safra Center for Ethics at Harvard UniversityProfessor of Law at Harvard Law School.

Jerome H. SaltzerMIT

David P. ReedMIT

David D. ClarkMIT

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Page 4: ネットワークの中立性

近年の議論の背景1:メディアのリッチ化

出典: Noam (2008, p.28)  © 2008 COMMUNICATIONS & STRATEGIES, originally published in C&S special issue (Nov. 2008), reprinted with permission.

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Page 5: ネットワークの中立性

近年の議論の背景2:トラフィック爆発

2012 2013 2014 2015 2016 20170 

10,000 

20,000 

30,000 

40,000 

50,000 

60,000 

70,000 

80,000 

90,000 

Fixed Internet

Managed IP

Mobile data

PB per month

出典: Cisco Visual Networking Index: Forecast and Methodology, 2012–2017  より作成第 40 回 ISP の集い in  奄美大島 Apr. 18, 2014

5

5 年間で 2.6倍

(年 +21 %)

5 年間で 2.4倍

(年 +20 %)

5 年間で 12.6倍

(年 +66 %)

Page 6: ネットワークの中立性

近年の議論の背景3:固定ネット契約者数の伸びは低い

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012*

2013*

0

5

10

15

20

25

30

35

40Global ICT developments, 2001-2013

Individuals using the Internet

Active mobile-broadband subscriptions

Fixed (wired)-broadband subscriptions

Per

10

0 in

hab

itan

ts

Note: * EstimateSource:  ITU World Telecommunication /ICT Indicators database

出典: ITU Statistics (http://www.itu.int/ict/statistics) より作成第 40 回 ISP の集い in  奄美大島 Apr. 18, 2014

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年+14 %

年+39 %

年+26 %

Page 7: ネットワークの中立性

日本のケース

2005 2006 2007 2008 2009 2010 20111%

10%

100%

1000%

国内 ISP のバックボーン容量の拡大率トラフィック量の増加率

出典:情報通信データブック 2012 (情報通信総合研究所編 2011 )および総務省報道発表( http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban04_02000042.html )より作成第 40 回 ISP の集い in  奄美大島 Apr. 18, 2014

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Page 8: ネットワークの中立性

問題の兆候

2 4 6 8 10 12 140%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

Actual QoS

平均実効速度( Mbps )

表示速度と実効速度の比率(%)

日本( 2009 年11 月)日本( 2011 年 1

月)日本( 2012 年 3-4

月)

日本( 2013 年 3月)

米国( 2009年)

英国( 2010 年 5月)

豪州( 2008 年Q4 )

アイルランド( 2008 年)

注:測定方法や対象が一定ではないので国際比較については参考値である。出典: Akamai 、 Epitiro 、 FCC 資料等より作成

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ネットワーク中立性に関するさまざまな解釈

ネットワーク事業者( ISP) は、ネット上を流れるトラフィックに対して一切関与すべきではない。

ISP は、ネット上を流れるトラフィックに対して、ネットワーク機能の維持・管理の観点から以外は、一切関与すべきではない。

ISP は、コンテンツ市場における健全な競争を育成する観点から、コンテンツ市場に対し一切進出すべきではない。

ISP は、コンテンツ市場における健全な競争を育成する観点から、著作権保護のために積極的に介入すべきである。

ISP は、健全に競争が機能している前提条件が満たされるのであれば、ネット上のトラフィックを一定範囲内で制御することはかまわない。

ISP は、利用者の QoE を改善するためには、ネット上を流れるトラフィックに介入してもかまわない。

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インターネット政策声明( Internet Policy Statement )2005 年 8 月、「ブロードバンド普及を促進し,公共インターネットの開放性と相互接続性を維持・促進するため」の次に掲げる 4 原則 を採択

1. 消費者は自らが選択する合法的コンテンツにアクセスする権利を有する.

2. 消費者は法の執行の要請に服しつつ,自らが選択するアプリケーションやサービスを利用する権利を有する.

3. 消費者はネットワークに損傷を与えないのであれば,自らが選択する合法的端末装置を接続する権利を有する.

4. 消費者はネットワーク事業者,アプリケーションサービス事象者,コンテンツ事業者の間の競争を享受する権利を有する.

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Page 11: ネットワークの中立性

FCC 命令( 2008 年 8 月 1 日)

2008 年末までに現行の差別的ネットワーク管理をとりやめて「プロトコル差別を行わないネットワーク管理( protocol-agnostic network management )」を採用すること,さらに 30 日以内に以下の 3 項目を達成することを命じた .

1. 現行のネットワーク管理方法を FCC に開示すること

2. 新管理方法に移行するプロセスを示した遵守計画を提出すること

3. 新たなネットワーク管理方法を顧客と FCC に開示すること

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Page 12: ネットワークの中立性

Comcast社の対応

• Comcast社は,この命令に服し, 2008 年 9 月 19 日,要求資料を FCC 提出• 新たなネットワーク管理方法は, P2P を利用した通信トラフィックを選択して通信阻害を行っていたこれまでのプロトコル選択的な管理手法とは異なり,データ通信を大量に利用している利用者の通信トラフィックを混雑が生じている時間帯のみ非優先取扱いの処理を行うことで,混雑回避を目指すというもの

• これにより, P2P の差別的取扱いに関する Comcast 事件は一応の終結

• 一方で,インターネット政策声明自体には法的強制力がないことを指摘し, 2008 年 9 月 4 日,本命令の効力についてコロンビア特別区巡回控訴裁判所に提訴

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Comcast判決( 2010 年 4 月 6 日)

• FCC は先のインターネット政策声明および通信法の諸条文を根拠として、通信法第 4条 i 項の付帯的管轄権の行使として当該命令の有効性を主張したが、裁判所は、付帯的管轄権を発動できるための法的権限をFCC に与えた具体的条項が十分に論証されていないことを理由に、 2010 年 4 月 6 日、命令の有効性を否定。

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Page 14: ネットワークの中立性

敗訴直後の FCC の対応

• 2010 年 5 月 6 日,ブロードバンドサービスを FCC の規制権限がより明確な「電気通信サービス」(通信法第Ⅱ編)に再分類し,規制の運用においてはその大部分の適用を差し控えるという「第三の道」構想を新たに提案。

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Open Internet Order (2010/12/21)

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オープンインターネット命令( 2010 年 12 月 21 日)固定ブロードバンド接続サービス

fixed broadband Internet access service

移動ブロードバンド接続サービスmobile broadband Internet access

service

サービスの定義

主に固定位置に存在する利用者に対して移動しない機器を用いたサービス提供.固定無線ブロードバンドや固定衛星ブロードバンドサービスを含む.

主としてモバイル機器を用いたサービス提供.スマートフォンを用いたサービスを含む.

透明性の確保Transparency

サービス提供事業者は,消費者が十分な情報の下でサービスの選択ができ,さらに端末事業者がインターネット機器を開発・販売・保守できるよう,ネットワーク管理方法や実効品質,取引条件に係る情報を開示しなくてはならない.

利用拒否の禁止Anti blocking

サービス提供事業者は,合理的ネットワーク管理の名の下に,適法なコンテンツ,アプリケーション,サービスの利用,あるいはネットワークに障害を及ぼさない端末の接続を拒否してはならない.

サービス提供事業者は,合理的ネットワーク管理の名の下に,適法なウェヴサイトへのアクセスを拒否してはならない.また,同様に,自身の音声・ビデオサービスと競合するアプリケーションの利用を拒否してはならない.

不当な差別の禁止Anti

discrimination

サービス提供事業者は,適法なネットワークトラフィックの伝送について不当な差別を行ってはならない.合理的ネットワークの管理は不当な差別には該当しない.

  規定なし.(ただし,このことが一般的なオープンインターネット原則に反して行為を認容するものではないことは別途明記.)

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今回の訴え

• Verizon と MetroPCS は規則が公になるや否や,その有効性を否認する訴えをコロンビア特別区巡回控訴裁判所に提起

• 2011 年 1 月 20 日に提起された最初の訴えに関しては,新規則が官報に掲載される前であったために却下.その後,同年 9 月 23 日の官報掲載を待ち,再度訴えが提起

• MetroPCS からの同種の訴えも提起された結果,併合審理の決定がなされた.

• Verizon は,プロバイダによるネットワーク管理は合衆国憲法修正第 1 条に根拠を持つ表現の自由によって保護されているとも主張。

• 2013 年 3 月に MetroPCS が訴訟を取り下げたため、 Verizon の単独訴訟に

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Open Internet Order判決( 2014 年 1 月 14 日)

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Page 19: ネットワークの中立性

判決概要

• Open Internet Orderそのものが政策として適切か否かではなく、当該命令が FCC の権限内のものであるか否かのみを検討対象として下されたもの

• 1996 年電気通信法 706 条に基づきブロードバンド事業者(プロバイダ)に一定の命令を発する FCC の権限は認めた。

• FCC はブロードバンド普及の目的であれば、 706 条を根拠としてプロバイダに規制を及ぼすことができる

• オープンインターネット命令のうち、 anti-discrimination義務(以下、公平義務)と anti-blocking義務(同、接続義務)についてはその有効性を否定。

• disclosure義務(同、開示義務)の有効性を否定しなかった。

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FCC にとっての意味

• 本判決をうけて米国のメディアでは「 FCC がネットワーク中立性問題において再び敗れた」という基調での報道が数多く観察された。

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Page 21: ネットワークの中立性

FCC は行動の自由を得た。

• Comcast判決により、 FCC は、プロバイダに対して規制を行う根拠を法的に確立できないという状況に一旦は陥った。その状況を基準として判断すると、1996 年電気通信法 706 条を権限行使の根拠とする FCC のロジックを否定しなかった今回の判決は、 FCC にとって待望の結果。

• ブロードバンドの全米への普及は今日の FCC の政策の一丁目一番地

• 議会からの自由• 本判決は FCC が議会の立法的措置を待つまでもなく、既存の通信法の規制のみに基づいてブロードバンド事業に規制権限を及ぼせることを明らかにした。

• 民主党と共和党間の対立で機能不全に陥る状況が散見される今日の米国の政治状況の下で、ネットワーク中立性政策をはじめとするブロードバンド政策全般を安定的かつ継続的に執行できるだけの基礎を得たことになる。

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今回の判決の評価

• 本判決が明確にしたもの1. FCC がブロードバンド事業に管轄権を有する根拠を容認したこと2. その根拠がこれまでのブロードバンド政策と軌を一にしているこ

と3. 開示義務についてはその有効性を否定しなかったこと4. 接続義務だけであれば有効と判示される可能性が高いこと

• さらに、公平義務をあきらめても命令の効力にほとんど差は生じない。

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米国以外でも注目

オランダフランス

チリ

韓国

イギリス EU

OECD

Neelie KroesEuropean Commissioner for the Digital Agenda第 40 回 ISP の集い in  奄美大島 Apr. 18, 2014

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Page 24: ネットワークの中立性

経済学的観点から問題を整理すると… ..

• 経済理論的に見た場合、ネットワーク中立性問題はネットワークの容量制約がもたらしたトラフィック混雑を克服して資源の最適配分を回復する問題

• 派生する論点はいずれも、容量制約の存在自体、あるいは、希少な容量を支配することによって隣接市場などを支配する力を得たプレイヤーへの懸念から派生

• 「インターネット利用の急増によるネットワーク上のトラフィック混雑」と、「ネットワークを掌握し、それにより顕著な市場支配力( SMP )を持つ事業者による隣接市場での反競争的行為」の 2 つの要素に分割して、議論を行うことが適当

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Page 25: ネットワークの中立性

つまり、

トラフィック混雑の制御

最適なネットワーク容量の確保

垂直統合型プロバイダによる市場支配力の行使

短期的施策

長期的施策

ダイナミックなネット環境において,効率性と公平性をどう確保するか?

最適容量をどのように決めるか?必要資金をどう確保するか?

低い参入障壁

特殊なビジネス慣行

自然独占性

高い参入障壁

隣接市場への参入・関与

ネットワーク事業者の市場支配力の行使をどのように規律付けるか?

隣接市場への参入は効率性基準を満たすことができるか?反競争的な市場支配力レバレッジをどう抑制するか?

「インターネット利用の急増によるネットワーク上のトラフィック混雑」(要素A)への対処

「ネットワークを支配するSMPによる隣接市場での反競争的行為」(要素B)への対処

プロバイダ

ネットワーク事業者

利用者

コンテンツ事業者

アプリケーション事業者

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トラフィック混雑への対処

• 短期• 既存容量の有効活用のために適切なイ

ンセンティブを利用者に与えることが必要

• 混雑料金• smart market

• 長期• 最適なネットワーク容量の決定• 必要な投資資金の継続的確保

トラフィック混雑の制御

最適なネットワーク容量の確保

垂直統合型プロバイダによる市場支配力の行使

短期的施策

長期的施策

ダイナミックなネット環境において,効率性と公平性をどう確保するか?

最適容量をどのように決めるか?必要資金をどう確保するか?

低い参入障壁

特殊なビジネス慣行

自然独占性

高い参入障壁

隣接市場への参入・関与

ネットワーク事業者の市場支配力の行使をどのように規律付けるか?

隣接市場への参入は効率性基準を満たすことができるか?反競争的な市場支配力レバレッジをどう抑制するか?

「インターネット利用の急増によるネットワーク上のトラフィック混雑」(要素A)への対処

「ネットワークを支配するSMPによる隣接市場での反競争的行為」(要素B)への対処

プロバイダ

ネットワーク事業者

利用者

コンテンツ事業者

アプリケーション事業者

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Page 27: ネットワークの中立性

SMP 事業者による反競争的行為への対処

• プロバイダ単独では市場支配力の獲得・行使は困難

• 問題となるのは、ボトルネックを支配する事業者がその優越的地位を利用してプロバイダ市場に参入しているケース

• ネットワーク事業者が垂直統合等を通じて隣接市場支配を試みることを一律に禁止することには問題が多い。

• 『補完財効率性の内部化』( Internalizing Complementary Efficiencies: ICE )

トラフィック混雑の制御

最適なネットワーク容量の確保

垂直統合型プロバイダによる市場支配力の行使

短期的施策

長期的施策

ダイナミックなネット環境において,効率性と公平性をどう確保するか?

最適容量をどのように決めるか?必要資金をどう確保するか?

低い参入障壁

特殊なビジネス慣行

自然独占性

高い参入障壁

隣接市場への参入・関与

ネットワーク事業者の市場支配力の行使をどのように規律付けるか?

隣接市場への参入は効率性基準を満たすことができるか?反競争的な市場支配力レバレッジをどう抑制するか?

「インターネット利用の急増によるネットワーク上のトラフィック混雑」(要素A)への対処

「ネットワークを支配するSMPによる隣接市場での反競争的行為」(要素B)への対処

プロバイダ

ネットワーク事業者

利用者

コンテンツ事業者

アプリケーション事業者

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Page 28: ネットワークの中立性

日本政府のアプローチ

• NTT東西に対する各種規制や電気通信事業法に基づく接続規制が機能し、ブロードバンドプロバイダ市場の競争性が確保されてきたと認識されていたため、反競争的行為の抑制はネットワーク中立性の中心課題としては認識されてはいなかった。

• 市場支配的事業者への対処についてはこれまでの規制を維持することで十分という認識

• 「次世代ネットワーク」( NGN )の出現に対応し、従来の規制に必要最小限の修正を加えることが論議されたにとどまる。

• ネットワーク中立性規制の具体的運用面においても、ブロードバンド市場の競争にその解決を委ね、規制庁による直接の介入は差し控えるという姿勢が採用

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電気通信事業法

日本電信電話株式会社等に関する法律

Page 29: ネットワークの中立性

ブロードバンド産業の構造

アクセス回線卸売り業者

プロバイダ(ISP)

サービスベースの

競争事業者

設備ベースの競争事業者NTT東西

既存事業者が提供するネットワーク設備に対するアクセス

ISP

電気通信会社

サービスベースの

競争事業者

ISP

ケーブルテレビ会社

ISP

米国日本

物理的なネットワーク設備

ブロードバンドアクセス回線

インターネット接続サービス

第 40 回 ISP の集い in  奄美大島 Apr. 18, 2014

78.6%

49.1%

29.1%

13.5%

5.8%

3.8%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

Estimated market share

NTT group Power company Cables

Other telcos Municipalities Others

BB access line wholesale market

BB access market

BB ISP market

NTT Group

Powercos

Other telcos

Cablecos

Others

Municipalities

Estimated market share in Japan

Source: Created on the basis of MIC (2008), FCC (2008a, 2008b), and Noam (2009)Note 1: ISP shares in the US are based on revenues in 2006 (Noam, 2009), which include satellite Internet; the shares

in other markets are based on the FCC’s line count and include fixed lines only.Note 2: RBOCs stand for Regional Bell Operating Companies, telcos for telecommunications companies, powercos for power

companies, and cablecos for cable companies.

43.6%

36.7%

36.3%

53.9%

53.9%

44.2%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

Estimated market share

RBOC Cables Others

Estimated market share in the US

RBOCs Cablecos

Others

物理的なネットワーク設備

ブロードバンドアクセス回線

インターネット接続サービス

29

Page 30: ネットワークの中立性

日本政府は要素 A に集中できた

• プロバイダによる恣意的な帯域制御を回避するための客観的な基準が必要

• 「帯域制御に係る必要最小限の運用基準に関するルールを構築し、当該運用基準を踏まえて、各プロバイダ等が帯域制御の具体的な運用方針を自らの判断で設定・実施するという 2段階のアプローチ」

• 日本インターネットプロバイダー協会等は、 2008 年 5 月に「帯域制御の運用基準に関するガイドライン」をまとめた

トラフィック混雑の制御

最適なネットワーク容量の確保

垂直統合型プロバイダによる市場支配力の行使

短期的施策

長期的施策

ダイナミックなネット環境において,効率性と公平性をどう確保するか?

最適容量をどのように決めるか?必要資金をどう確保するか?

低い参入障壁

特殊なビジネス慣行

自然独占性

高い参入障壁

隣接市場への参入・関与

ネットワーク事業者の市場支配力の行使をどのように規律付けるか?

隣接市場への参入は効率性基準を満たすことができるか?反競争的な市場支配力レバレッジをどう抑制するか?

「インターネット利用の急増によるネットワーク上のトラフィック混雑」(要素A)への対処

「ネットワークを支配するSMPによる隣接市場での反競争的行為」(要素B)への対処

プロバイダ

ネットワーク事業者

利用者

コンテンツ事業者

アプリケーション事業者

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Page 31: ネットワークの中立性

第 40 回 ISP の集い in  奄美大島 Apr. 18, 2014

31

Page 32: ネットワークの中立性

帯域制御ガイドラインの欠点

• 制度的・形式的欠陥1. 各プロバイダの遵守状況をチェックする監査メカニズムを内包していないこと2. ガイドラインに違反したプロバイダに対してペナルティを与えるシステムを持

たないこと3. 違反状況を改善するメカニズムを構築していないこと

• 自主規制としての正統性の欠如• ガイドライン作成の段階で利用者の意見が反映されていないため、策定された自主的ルールの正統性には民主主義の観点からの不備がある。

本ガイドラインは、裁判例や行政機関による法令の適用関係に関する解釈をまとめたものではなく、あくまでも事業者としての行動の指針として、事業者団体が自主的に策定するものである。したがって、本ガイドラインは、法的効力を有するものではなく、これを遵守するか否かについては、個々の事業者の判断に任される。しかしながら、帯域制御に係る要件が本ガイドラインによって整理・公表されることにより、今後、電気通信事業者が本ガイドラインに従って制御を実施した場合には、形式的には「通信の秘密」を侵害する態様で帯域制御が行われた場合でも、正当業務行為として違法性が阻却されるとの判断がなされることが期待される。( pp.2-3 )

第 40 回 ISP の集い in  奄美大島 Apr. 18, 2014

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Page 33: ネットワークの中立性

本問題に関していろいろ実証分析を行いました。

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33

Page 34: ネットワークの中立性

実証分析から得られた知見1

• トラフィック急増に対処するための投資資金を得る手法としてのプレミアムサービスの提供が支えうる期間は僅か数年

• 新しいビジネスモデルを早急に見出す必要がある

第 40 回 ISP の集い in  奄美大島 Apr. 18, 2014

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Page 35: ネットワークの中立性

35

実証分析から得られた知見2

• (特に短期の)解決策として重要なネットワーク管理について、現状では、固定系ブロードバンドについては過小な、移動系については過大な目標設定がなされている

• 実効品質に対するリテラシーの改善がトラフィック混雑問題の短期的改善に有効• 利用者教育がプロバイダの利潤最大化にも資する

• 日本のアプローチが前提としてきたプロバイダ市場の競争性は不十分• 競争が実質的に成立するのは、ネットワーク設備を自前でそろえているプロバイダ間のみ。

第 40 回 ISP の集い in  奄美大島 Apr. 18, 2014

Page 36: ネットワークの中立性

ということは、

• ネットワーク中立性問題の解決のためには利用者に適切なコスト負担を課すビジネスモデルを早急に導入する必要がある。

• 競争市場が成立している場合、ビジネスモデル導入をめぐる関係者の利害や必要なリテラシーの獲得は価格メカニズムを通じて調整され、パレート効率的資源配分が達成される。

• 現状では、当該市場は存在せず、近い将来に状況が改善することも期待薄。

第 40 回 ISP の集い in  奄美大島 Apr. 18, 2014

• 代替案として政府による最小限の関与。• 政策決定の歪みを防止するためには、利用者の合理的判断

を巻き込む工夫が必要

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Page 37: ネットワークの中立性

政府に求められる環境整備1: QoS情報の計測・開示

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情報開示による競争促進

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Page 38: ネットワークの中立性

政府に求められる環境整備2:消費者への情報提供

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http://dsm-publishing.com/images/internet-marketing-services1.jpg http://i.telegraph.co.uk/multimedia/archive/02220/wine1_2220880b.jpg

• 購入時の価値が時間とともに変化する。• 財の実力は補完財によって初めて発揮され、補完財の品質に大きく左右され

る。• 財の品質は十分に開示されているとはいえず、しかも素人にはいささか難解。• 財の品質に影響を与える要因は無数にあり、利用者や供給者によって完全に

コントロールすることは望みがたい。• 財の品質に問題があった場合に問題解決を一任できる主体は存在しないし、時には利用者自身が問題の原因である。

• 利用者や TPO に応じた「最適品質」が存在するが、具体的な特定は難しい。

38

Page 39: ネットワークの中立性

プロにはプロの、アマチュアにはアマチュアのサービスを

第 40 回 ISP の集い in  奄美大島 Apr. 18, 2014

39

Page 40: ネットワークの中立性

ネットワーク中立性は価値中立的な概念ではない

• ネットワーク中立性は、一定の中立性基準を採用するように政府の積極的関与を求める。

• ネットワーク中立性論者は、「アプリケーション間の公平な競争が確保されている状況」を将来にわたって維持していくため、政府が積極的な役割を果たすべきであると主張。社会経済活動におけるインターネットの役割が強まりつつある今日、一部プロバイダによるネット支配を許すべきではないと説明される場合もある。

• 競争中立性や技術中立性がプレイヤー間の自由な競争に資源配分の帰結を委ねるために政府の意思決定を制約することを志向したものであったのに対し、ネットワーク中立性が大きくその性質を異にする点。

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「中立的なネットワーク」が破壊するもの

• 特定利用者向けの高品質サービスの提供が規制されることで、①弱小ベンチャーにとって、資金力を有する既存ネット事業者への競争機会が喪失され、②高品質な回線確保を前提とするサービスが広く安価に普及する途が閉ざされる。

• zero-price rule ( ISP に対し直接の契約関係にはないコンテンツ事業者への課金を認めない)は、設備投資負担をネットワーク事業者のみに転嫁することでコンテンツ事業者を実質的に補助している仕組み

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Curse of Internet Extremists からの解放

• ネットワーク中立性原則の下では、勝者と敗者を分けるラインが市場競争ではなく、政策決定により描かれかねず、資源配分の効率性が担保されない。

• 市場メカニズムを活用すべき

• 一方、暫定的なネットワーク中立性ルールを政府が作成することは、あくまでも、輻輳問題への緊急避難

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• 目指すべきは、「ネットワーク中立性のルール化」ではなく、特定の中立性「基準」を恣意的に決定することを避けること、つまり、「『ネットワーク中立性』からの中立性」

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ネットワーク中立性九州大学 実積寿也

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