ネットワーク外部性下での規格併存メカニズムの...

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中央大学商学部久保知一研究室第 3 期生卒業論文 1 ネットワーク外部性下での規格併存メカニズムの 実証分析 ―なぜ消費者は異なる規格を選ぶのか?新井佑弥 中央大学商学部久保知一研究室第 3 期生 E-mail: [email protected] 要約:かつて、ネットワーク外部性が働く製品は規格間で物理的フォーマットが異な ることや情報がアナログであったため、互換性の確保が困難であった。しかし、デジ タル化が急速に進行している近年では、ネットワーク外部性が働く製品においても後 から互換性を確保することが容易になった。このような現状があるにもかかわらず、 尚、規格間の競争は続いている。そのような状況の中、消費者がどのような要因を考 慮して規格選択をしているのかはいまだ不明瞭なままである。そこで本論では、消費 者がいかなる要因によって単一規格製品と互換規格製品の購買の意思決定をしている のかを明らかにすることを目的とする。 仮説構築にあたっては普及度とブランドへの信頼という概念を用いた。これはネッ トワーク外部性が働く製品において重要とされている製品の普及と、ある特定のブラ ンドに対する信頼が規格選択に影響を及ぼしているという考えのもとである。 分析の結果、普及度についてはその程度によって消費者の規格選択が異なってくる ことやネットワーク外部性が働く製品に関してはブランドへの信頼が規格選択に影響 を与えにくいことなどが明らかになった。このように本論は、消費者の規格選択の基 準を明らかにしたという点で、今後の研究に対して貢献度の高いものであったと言え る。 キーワード: ネットワーク外部性、デファクト・スタンダード、規格競争、普及度、 ブランドへの信頼、多変量分散分析 1. はじめに ベータマックス対 VHS 1 やウィンドウズ対マッキントッシュ 2 のように、ほぼ同一の機能を 1 ベータマックスと VHS の規格競争については山田 (2008) 参照のこと。 2 ウィンドウズとマッキントッシュの規格競争は山田 (2008) 参照のこと。

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Page 1: ネットワーク外部性下での規格併存メカニズムの 実証分析c-faculty.chuo-u.ac.jp/~tomokazu/zemi/works/3_arai.pdf · 2013-03-10 · ネットワーク外部性と、ネットワーク外部性に着目した規格競争の既存研究

中央大学商学部久保知一研究室第 3 期生卒業論文

1

ネットワーク外部性下での規格併存メカニズムの 実証分析

―なぜ消費者は異なる規格を選ぶのか?―

新井佑弥

中央大学商学部久保知一研究室第 3 期生

E-mail: [email protected]

要約:かつて、ネットワーク外部性が働く製品は規格間で物理的フォーマットが異な

ることや情報がアナログであったため、互換性の確保が困難であった。しかし、デジ

タル化が急速に進行している近年では、ネットワーク外部性が働く製品においても後

から互換性を確保することが容易になった。このような現状があるにもかかわらず、

尚、規格間の競争は続いている。そのような状況の中、消費者がどのような要因を考

慮して規格選択をしているのかはいまだ不明瞭なままである。そこで本論では、消費

者がいかなる要因によって単一規格製品と互換規格製品の購買の意思決定をしている

のかを明らかにすることを目的とする。

仮説構築にあたっては普及度とブランドへの信頼という概念を用いた。これはネッ

トワーク外部性が働く製品において重要とされている製品の普及と、ある特定のブラ

ンドに対する信頼が規格選択に影響を及ぼしているという考えのもとである。

分析の結果、普及度についてはその程度によって消費者の規格選択が異なってくる

ことやネットワーク外部性が働く製品に関してはブランドへの信頼が規格選択に影響

を与えにくいことなどが明らかになった。このように本論は、消費者の規格選択の基

準を明らかにしたという点で、今後の研究に対して貢献度の高いものであったと言え

る。

キーワード: ネットワーク外部性、デファクト・スタンダード、規格競争、普及度、

ブランドへの信頼、多変量分散分析

1. はじめに

ベータマックス対 VHS1やウィンドウズ対マッキントッシュ2のように、ほぼ同一の機能を

1 ベータマックスと VHS の規格競争については山田 (2008) 参照のこと。 2 ウィンドウズとマッキントッシュの規格競争は山田 (2008) 参照のこと。

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提供する製品間における競争は、過去現在を問わず容易に観察される現象である。このよう

な現象は規格競争と呼ばれ、山田 (1993) によれば、「ほぼ同一の機能を提供する製品に関し

て、基本的規格が異なる製品が存在する場合に行われる企業間競争」と定義される規格競争

は 2008 年に決着のついた次世代 DVD レコーダーの例から分かるように、現在においても重

要なトピックの 1 つである。規格競争を経て事実上の標準規格となった製品は一般的にデフ

ァクト・スタンダードと呼ばれる。これは「標準化機関の承認の有無にかかわらず、市場競

争の結果、事実上市場の大勢を占めるようになった規格」(山田, 1993) と定義される。デフ

ァクト・スタンダードが決まる市場では、小さな差が拡大し逆転不可能な差となって、シェ

アで劣る企業が撤退に追い込まれる。弱者はますます弱くなり、強者はますます強くなる市

場、いわゆる「勝者の総取り市場 (winner-take-all market) 」となっている (Shapiro & Varian,

1999)。このようにデファクト・スタンダードをとることが大きな利益に結びつくことから、

今日までにさまざまな規格競争が行われてきた3。

しかしながら、デジタル化が進展した今日ではすべての情報が 0 と 1 だけでやりとりされ

るため、異なる規格間においても、後から互換性をとることが容易になってきている (山田,

2008)。このことはメモリーカードがアダプターを介することで互換が可能になっているこ

とや、DVD-RAM、DVD-RW、DVD-R の 3 方式で記録・再生が可能になった「DVD マルチ」

と呼ばれる規格が策定されていることなどからも明らかである。しかしながら、依然として

規格競争は発生し続けている。

一般的に、規格が絡まない普通の製品の場合には、機能的に優れた製品を開発し、それを

なるべく早期に市場に投入し、他社の模倣を防ぎながら市場を支配することが優れた戦略で

あると言われてきた (Ghemawat, 1986)。しかし規格が絡む製品の場合には、この考え方がそ

のまま当てはまらない場合が多い。その理由は規格が絡む製品では、「ネットワーク外部性

(network externalities) 」と呼ばれる性質があるために、どれだけ多くのユーザーが自分と同

じ規格を使用しているかが重要になってくるからである (山田, 2008)。ここで、ネットワー

ク外部性は「互換性のある財を購入するほかの消費者の数につれて、財を利用する消費者の

便益が向上すること」(Katz & Shapiro, 1986b) や「同一規格の財を消費する人数が増えれば

増える程、当該財の個々の消費者の便益が増す現象」(岡田, 1992) と定義されている。ネッ

トワーク外部性が働く財について、Economides (1996) は、「それらの財に固有な特徴は補完

性であり、それを達成するのが互換性である」と指摘している。つまり、ネットワーク外部

性が重要となる 1 つのケースは、製品間の互換性が製品選択において重要となる場合である。

では、先に述べたように互換性の確保が容易になってきているという事実があるにもかかわ

3 これまでに行われてきた、主な規格競争の例は山田 (2008) に詳しい。

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―なぜ消費者は異なる規格を選ぶのか?―

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らず、どうして規格競争は発生し続け、単一規格製品を志向する消費者と複数互換規格製品

を志向する消費者に分かれるのかという疑問が残る。そこで、本論ではネットワーク外部性

が働く製品市場における、「単一規格製品」と「複数互換規格製品」の需要を規定する要因

の差を比較し、実証することで、消費者がどのような条件を基準にして、購買する製品を選

択しているかを明らかにすることを目的とする。

本論は以下のように構成される。まず、第 2 節において既存研究のレビューを行う。ここ

では、規格競争においてネットワーク外部性という特徴に重点をおいた研究のレビューと消

費者のブランドへの信頼に関する研究についてレビューを行う。つづく第 3 節では、既存研

究をもとに単一規格製品と複数互換規格製品の需要規定要因の差に影響を与えていると考

えられる要因を導出し、仮説を提唱する。第 4 節では、前節で提唱した仮説の経験的妥当性

をテストするための、調査設計について説明する。第 5 節では、収集したデータを用いて分

析を行う。本論では 2 元配置の多変量分散分析を用いて分析を行った。 終節である第 6 節

では、本論によって得られた知見を述べるとともに、本論の限界に触れ今後の課題について

まとめる。

2. 既存研究のレビュー

本節では、ネットワーク外部性とそれに着目した規格競争研究とブランドへの信頼に関す

る研究のレビューを行う。先に述べたように、本論ではネットワーク外部性の働く製品を研

究の対象としていること、さらに、規格競争においてネットワーク外部性という性質自体が

重要な意味を持っていることから、この性質に着目した研究を考察することは意義のあるこ

とと思われる。また、従来の規格競争研究ではあまり重要視されてこなかった、ブランド・

コミットメントと消費者のブランドへの信頼をレビューし、消費者の規格選択におけるブラ

ンド・コミットメントとの関係を考察したい。

2-1. ネットワーク外部性と、ネットワーク外部性に着目した規格競争の既存研究

ネットワーク外部性という用語は、もともと電気通信分野の研究4で使われてきた用語で

4例えば、Rohlfs (1974) や Oren and Smith (1981) などが挙げられる。Rohlfs (1974) は、消費者は、通

信したい相手が多く属するネットワークに加入したいため、自分の判断だけでは加入先を選択せず、

自分の需要が他人の状況に依存しているという「需要の相互依存性」について指摘している。また、

Oren and Smith (1981) は、サービス開設に必要な臨界加入者数と、どこまで加入者が増えるか、加入

者集合の拡張基準の双方を決定する経済学的モデルを開発した。そのモデルの需要側において、存在

するすべての利用主体と通信可能なときの通信量である「総潜在通信量」、およびそのうち実際に通

信可能な通信量である「実現可能潜在通信量」が、加入者ごとに異なると仮定され、それらは他に誰

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あるため、ネットワークという言葉が使われている (Katz & Shapiro, 1986b)。ここでの「外

部性」とは、元々経済学で使われてきた用語であり、市場取引の結果が、取引の当事者以外

の第三者に影響を与えることを言う。すなわち、本人の関係ない所で、そのネットワークへ

の加入者が増えるだけで、本人にプラスの影響を与えるという意味で、「ネットワーク外部

性」と呼ばれている (山田, 2008)。

ネットワーク外部性に関して、Katz and Shapiro (1985) は、その範囲をかなり広くとらえ、

「他の人が買っているから自分も買う」といった心理的なバンドワゴン効果 (bandwagon

effect)5 や、マーケット・シェアが高品質の代理変数であるとみなされる場合も含めている。

このように考えると、さまざまな製品分野においてネットワーク外部性が働いていると言え

るが、重要なのはその程度である。ネットワーク外部性が働く財として、そのもっとも典型

的な例は、通信や交通ネットワークといったネットワーク財や、補完的な関係にある複数の

財6を組み合わせて消費するシステム財である (新宅, 許斐, & 柴田, 2000)。

こうしたネットワーク外部性を取り上げた代表的な研究が Katz and Shapiro (1985) である。

彼らは、ネットワーク効果には「直接的効果 (direct effects) 」と「間接的効果 (indirect effects) 」

があると述べている。直接的効果とは、ユーザー数の増加自体が、財から得られる便益を増

加させる効果であり、例えば、「電話は加入者が多いほど、話をすることのできる相手が増

える」というような効果である。一方、間接的効果とは、当該財の補完財の多様化や価格低

下が、間接的にユーザーの便益を増加させる効果であり、「あるゲーム機に対応するソフト

が多いほど、よりユーザーが楽しめる」というような効果のことである。

ネットワーク外部性は、ユーザーの行動や規格の選択に、様々な影響を与えている (山田,

2008)。これまで、ネットワーク外部性が働く財においては「他のユーザーが製品を購入し

ているから自分も買う」という購買行動が見られることを指摘してきた。しかしながら、通

常の場合、ユーザーが得られる情報は完全ではないため、他のユーザーの購買意向を予測し

ながら行動しなくてはならない。このようなユーザーの行動に着目したのが、Farrell and

Saloner (1985, 1986) である。彼らは、情報の不確実性の影響によって、新製品への買い替え

が望ましいにもかかわらず、旧製品に固執して買い控えてしまう行動を「過剰慣性 (excess

inertia) 」と呼び、逆に旧製品の方が優れているにもかかわらず、皆が新製品に乗り換えて

が加入しているかに依存して決定されるとしている。 5 バンドワゴン効果とは、Leibenstein (1950) によって提唱された効果であり、需要の存在がさらなる

需要を引き起こす効果を意味する。これは、彼が消費者間相互依存型選好を定式化する際に消費者間

相互依存を需要の外部効果として取り扱ったものである。詳しくは Leibenstein (1950) 、小野 (2001) を参照のこと。 6 例えば、コンピュータの「ハード」と「ソフト」のような関係にある財のことである。

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ネットワーク外部性下での規格併存メカニズムの実証分析

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しまう行動を「過剰転移 (excess momentum) 」と呼んだ。この研究によって、ネットワーク

外部性が働く製品が購買される際に起こりうる特殊性が示された。企業は自社の規格が主流

になるというプレ・アナウンスメントを様々な方法を用いてユーザーや補完財のメーカーな

どに行っていく必要があることが示唆された。

また、規格の選択について、Katz and Shapiro (1986a) は企業側の選択に関しては、ユーザ

ーにとって互換性がある方が望ましい場合においても、互換性をもたせるために費用がかか

りすぎる際には、企業は独自規格を採用することを示している7。一方で、ユーザー側の規

格選択に関しては、Farrell and Saloner (1985) は、不完全情報下では、パレート劣位な規格が

業界標準となる可能性を示し、標準の形成が必ずしも望ましいこととは限らないと述べてい

る。また、同様に Katz and Shapiro (1992) も、劣った規格が優れた規格を下してデファクト・

スタンダードになる可能性を示している。

以上の研究を考察してみると、ネットワーク外部性が働く製品市場においては、企業側に

とっても、ユーザー側にとっても、その製品がどれだけ普及しているかということが非常に

重要な要素となってくることと、個々の製品の性能が評価されにくい状況があることが示唆

されるであろう。

2-2. ブランド・コミットメント概念とブランドへの信頼概念のつながり

コミットメント (commitment) の概念は信頼 (trust)8 概念とともに、リレーションシッ

プ・マーケティングの分野で鍵となる媒介変数 (key mediating variable) として位置づけられ、

多くの研究者の関心を集めてきた (Morgan & Hunt, 1994)。リレーションシップ・マーケティ

ングとは、顧客との間に「リレーションシップ」と呼ばれる好ましい関係を構築することに

よって、長期志向的で友好な交換関係を実現しようとするものであり (久保田, 2008)、1990

年代に盛んに議論され大きな発展を遂げてきた研究領域である (青木, 2004)。このように、

コミットメントの既存研究は組織や特定の交換相手を想定したリレーションシップ・コミッ

トメント9の研究が多く (井上, 2003)、リレーションシップに対するコミットメントとブラン

7 例えば、VHS とベータマックスが市場で全面競争になる事態を察知した旧通産省 (現経済産業省) が、日本ビクターにベータの採用を迫ったが、多大なスイッチング・コストがかかるという点から、

この提案を拒絶したという例がある。詳しくは佐藤 (1999) を参照のこと。 8 Morgan & Hunt (1994) によれば信頼とは「交換パートナーのことを、高潔で頼りうる存在であると

確信すること」と定義される。 9 Morgan & Hunt (1994) によれば、リレーションシップ・コミットメントとは「ある交換パートナー

が、もう一方のパートナーとの間で現在進行中のリレーションシップを維持することが、そのために

大限の努力を払うことを正当化するほどに重要であると信じていること」と定義される。

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ドという特定の対象に対するコミットメントである、「ブランド・コミットメント」は別の

概念として区別されている (青木, 2004)。しかしながら、久保田 (2008) はこのリレーショ

ンシップ・コミットメントとブランド・コミットメントという二つの概念に対して「知識構

造に対するのめり込み」という本質的意味において共通していると指摘しており、両者の概

念はそれぞれ深く関係しているものと考えられる。

ここまでで、コミットメント概念が既存研究においてどのように扱われてきたかについて

述べてきた。そこで、ここからは特定のブランドに対するコミットメント、すなわちブラン

ド・コミットメントについて詳細に見ていきたい。まず、ブランド・コミットメントとは「情

動的あるいは心理的な愛着を経た上での態度」であり、ある特定の対象物に向けられる関与

(対象特定的関与) であり、「ブランド選好とブランド・ロイヤルティ10のより強い状態」で

ある (Aaker, 1991; Keller, 1998; 青木 2004)。Aaker (1991) によれば、ブランド・ロイヤルテ

ィを 5 つの水準に区分した場合、 上位の水準はブランドに対してコミットしている買い手

顧客である11。このように、ブランド・コミットメントが存在する場合にはブランド・ロイ

ヤルティの存在も予想されるが、逆は必ずしも成立しない。何故ならば、ブランド・ロイヤ

ルティは、単に購買努力を削減し意思決定の単純化を図ろうとする消費者のニーズを反映し

ている場合もあるからである。したがって、選好するブランドが品切れしているような場合、

ブランドに対して単に行動上ロイヤルなだけの消費者は、代替的ブランドにスイッチするこ

とがあるが、ブランドに対してコミットしている消費者はスイッチしないことが予想される

のである (青木, 2004)。

このように、ブランド・コミットメントは、消費者のブランド選択行動を説明する上での

重要な変数として、この種の研究において、常に関心を持たれてきた (Warrington & Shim,

2000)。では、このようなブランド・コミットメントはどのように醸成されるのであろうか。

先に述べたように、ブランド・コミットメントはブランド・ロイヤルティの上位概念として

位置づけられている (Aaker, 1991)。その上で、これらにつながる概念として、Chaudhuri and

Holbrook (2001) はブランドへの信頼 (brand trust) を挙げている。このブランドへの信頼は

Delgado, Munuera, and Yagüe (2003) による定義によれば「ブランドへの信頼性とブランドの

趣旨に対する確信された期待」とされている。信頼されたブランドは、よりしばしば購買さ

れるはずであり、より高い程度の態度面での忠誠心を喚起するのである (Chaudhuri &

10 ブランド・ロイヤルティについては多くの既存研究があり、その定義も様々である (e.g. Dick & Basu, 1994; Oliver, 1999; 小野, 2002; 恩蔵, 1995) が、例えば、小野 (2002) は「単一ブランドもしくは

ブランド選択に対する顧客の認知的、能動的、そして行動的なコミットメント」と定義している。 11 Aaker (1991) では、ブランド・ロイヤルティの水準を 5 つに区分する「ロイヤルティのピラミッド」

が提唱されている。詳しくは Aaker (1991) を参照のこと。

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Holbrook, 2001)。

ここで本論の趣旨である、規格選択における需要規定要因の差という点に立ち返ってみた

い。「信頼」という考え方が重要になってくるのは、製品やサービスの交換に対して不確実

性すなわちリスクが伴う場合である。例えば、消費者自身が選択した規格について、将来的

に利用範囲が拡大しない可能性を孕んでいるというような場合があろう。その際に、消費者

のある特定のブランドに対して持つ信頼はそのブランドの製品が持つ不確実性を低減させ

る効果を持つと考えられるのである。このようなことから、ブランドへの信頼はブランド・

コミットメントに達しないまでも、消費者が規格選択を行う際には重要な役割を果たすもの

であると考えられるのである。

3. 仮説の提唱

本節では、前節で行った既存研究のレビューをもとに、ネットワーク外部性が働く製品に

おける単一規格製品と複数互換規格製品における需要規定要因の差について、考えられる要

因を導出するとともに独自の仮説を提唱する。

3-1. 製品普及度と規格選択の関係に関する仮説

これまでに述べてきたように、ネットワーク外部性が働く財には、「他の人が買っている

から自分も買う」というような購買行動様式が成り立つと考えられている (Katz & Shapiro,

1985)。このようなバンドワゴン効果の考え方を援用し、秋本・今井・鈴木・谷澤・浜岡・

古橋 (2008) は普及度という概念を提唱している。秋本 他 (2008) によれば普及度とは「周

囲の人間がその財を使用している程度」と定義される。普及度概念は比較的新しいものであ

るが、この概念を用いた研究においてはいずれも実証に成功している (e.g. 秋本 他, 2008;

新井・森田・中川・武井, 2009)。ここで本論においては、ネットワーク外部性が働く製品を

調査の対象としている。これらの製品はデファクト・スタンダードが決まるような財である

ため、普及度の差が拡大するとやがて逆転不可能になってしまう性質を持っていると言える。

そのため本論において、普及度概念は考慮すべき重要な概念であると考えられる。

ここで改めて、普及度が規格選択にどのような関わりを持っているかについて見ていきた

い。先に述べたように Economides (1996) は、ネットワーク外部性が働く財について「それ

らの財に固有な特徴は補完性であり、それを達成するのが互換性である」と指摘している。

このことから通常、消費者は単一規格と互換規格ならば互換規格を志向するものと考えられ

る。これは競合する単一規格製品のうちのどちらがデファクト・スタンダードを獲得したと

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しても、互換規格を選択していれば、規格が使えなくなるというリスクを排除できるからで

あると考えられる。このような互換規格への志向の源泉には消費者が想定されるリスクを回

避しようとする意図があると考えられる。ここで、このような不確実性にたいして消費者が

抱くリスクを Bauer (1967) は「知覚リスク (perceived risk) 」と呼び、これを「一連の購買

行動に伴う不確実性および購買者の結果に関する購買者の主観的評価に関するリスク」と定

義している。この定義に照らして考えてみると、デファクト・スタンダードが決定しやすい

財の場合、通常、単一規格製品に対する知覚リスクは高くなり、複数互換規格製品に対する

知覚リスクは低くなるであろう。しかし、これらの財はその普及度が高いことが購買に対す

る知覚リスクを低減させ、態度 (attitude)12 を高めるという特徴も同時に持っていると考え

られる。したがって、これらのことから以下の 2 つ仮説を提唱する。

仮説 1:単一規格製品の普及度が高い際には、単一規格製品に対する態度の方が複数互換規

格製品の態度よりも高くなり、また、単一規格製品の普及度が低い際には、複数互換規格製

品に対する態度の方が単一規格製品の態度よりも高くなるという交互作用が存在する。

仮説 1 を図示すると以下の図 1 のようになる。

図 1 仮説 1 モデル

12 態度 (attitude) は、消費者行動論においてもっとも基本的な中心概念のひとつとして取り扱われて

きた概念である (田中, 2008)。態度に関してはさまざまな定義づけがなされてきたが、例えば、Fishbein and Ajzen (1975) によれば、「所与の対象について好意的あるいは非好意的に一貫して反応する学習さ

れた先有傾向 (predisposition) 」と定義される。

態度のレベル

需要する規格の種類

単一規格

製品

複数互換規格

製品

普及度 (高)

普及度 (低)

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仮説 2:単一規格製品の普及度が高い際には、単一規格製品に対する知覚リスクの方が複数

互換規格製品に対する知覚リスクよりも低くなり、また、単一規格製品の普及度が低い際に

は、複数互換規格製品に対する知覚リスクの方が単一規格製品に対する知覚リスクよりも低

くなるという交互作用が存在する。

仮説 2 を図示すると以下の図 2 のようになる。

図 2 仮説 2 モデル

3-2. ブランドへの信頼と規格選択の関係に関する仮説

ここからは、ブランドへの信頼に関しての仮説を提唱する。本論では、ここまでネットワ

ーク外部性が持つ特徴に依拠し仮説を提唱してきた。しかし、これだけではまだ単一規格製

品と複数互換規格製品における需要規定要因の差を表現しきれてはいないであろう。通常、

規格競争を繰り広げるのは他社製品に対してであり、それぞれの企業は自社ブランドと他社

ブランドを戦わせているのである。この際、消費者は普及度とは別に、それまでの購買・使

用経験からある企業の特定のブランドに対して信頼を抱いている場合があるであろう。既存

研究から、このように特定のブランドに対して信頼を抱いている場合には、そのブランドの

製品に対する態度が高くなり、更に信頼がその製品に対する知覚リスクを引き下げることが

示されている。ネットワーク外部性が働く製品に関して、消費者が普及度を重視するのは、

自分が購買した製品が将来にわたって使用出来なくなってしまうという知覚リスクに起因

知覚リスクのレベル

需要する規格の種類

単一規格

製品

複数互換規格

製品

普及度 (高)

普及度 (低)

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するものであると考えられる。これは消費者がある特定のブランドに対して信頼を持ってい

る場合、普及度の低さに起因する知覚リスクを抑制すると考えられる。このため、単一規格

製品の普及度がたとえ低くても、ブランドに対する信頼を持っていることでブランドへの信

頼が高い場合には、消費者は単一規格製品に対して抱く知覚リスクは低くなり、態度は高く

なるものと考えられる。以上のことから、本論では、このブランドへの信頼概念を考慮に入

れ、以下の 2 つの仮説を追加する。

仮説 3:単一規格製品の普及度が低くても、ブランドへの信頼が高い際には、単一規格製品

に対する態度の方が複数互換規格製品に対する態度よりも高くなり、また、単一規格製品の

普及度が低く、ブランドへの信頼が低い際には、複数互換規格製品に対する態度の方が単一

規格製品に対する態度よりも高くなるという交互作用が存在する。

仮説 3 を図示すると以下の図 3 のようになる。

図 3 仮説 3 モデル

態度のレベル

需要する規格の種類

単一規格

製品

複数互換規格

製品

ブランドへの信頼 (高)

ブランドへの信頼 (低)

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―なぜ消費者は異なる規格を選ぶのか?―

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仮説 4:単一規格製品のブランドへの信頼が高い際には、単一規格製品に対する知覚リスク

の方が複数互換規格製品に対する知覚リスクよりも低くなり、また、単一規格製品のブラン

ドへの信頼が低い際には、複数互換規格製品に対する知覚リスクの方が単一規格製品に対す

る知覚リスクよりも低くなるという交互作用が存在する。

仮説 4 を図示すると以下の図表 4 のようになる。

図 4 仮説 4 モデル

4. 調査方法

本論では、先に導出した仮説の経験的妥当性を吟味するために、質問票調査を行う。その

際、対象財に関しては、ネットワーク外部性が働く製品であり、現在も市場競争が行われて

いる製品であるという 2 点の条件に留意し、任天堂「DS13」とソニー・コンピュータエンタ

テイメント「PSP14」を単一規格製品として採用した。また、調査対象には、サンプルの確

保容易性と対象財の使用経験がある人が多いと思われることから、都内私立大学の大学生を

選択した。測定尺度15の作成にあたっては、「態度」は Fishbein and Ajzen (1975) を、「知覚リ

スク」については Pae and Hyun (2002) を参考にして開発し、「ブランドへの信頼」は測定尺

13 質問票作成にあたり、株式会社ソニー・コンピュータエンタテイメントのウェブサイト (http://www.scei.co.jp/) を参照した。 14質問票作成にあたり、任天堂株式会社のウェブサイト (http://www.nintendo.co.jp/) を参照した。 15 測定尺度に関しては、リカート法 5 点尺度を用いた。具体的な質問項目は巻末の付録を参照のこと。

知覚リスクのレベル

需要する規格の種類

単一規格

製品

複数互換規格

製品

ブランドへの信頼 (高)

ブランドへの信頼 (低)

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新井佑弥

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度を離散変数にする必要があったため、Chaudhuri and Holbrook (2001) を参考にして独自に

作成した。

本調査を行う前に、プリテスト16を行い、質問文のさらなる検討を行った。その際、本論

における調査は場面想定法を用いたため、回答者によりイメージしてもらいやすくするため、

対象財に関するデータや想定してもらう状況を質問票上に図として掲載した。

今回の調査は、大学生を対象としているが、その中でも特定の授業を受けている学生に対

する大規模サンプリングは行わず、学内の様々な場所で無作為的に声をかけ個別の協力を依

頼する形式で行われた。このようにすることで、サンプルが極端に偏らないように努めた。

このような内容で調査を行ったところ、回答数 200、有効回答数 196 (有効回答率 98%) を得

た。

5. 分析結果

本論の目的は単一規格製品と複数互換規格製品における需要規定要因の差を導き出すこ

とにある。このことから、分析方法については、平均値の差を見る分散分析が適切であると

判断した。また、今回の調査においては、「態度」と「知覚リスク」という 2 つの従属変数

が導き出されている。今回のように従属変数が複数ある際には、多変量分散分析という技法

を用いると、個別の分散分析を複数回行う場合とは異なり、従属変数間の相関性を考慮した

分析になる。以上より、本論においては分析方法として多変量分散分析を採用することとし

た。

分析に際しては、図 1~4 に示された仮説モデルを、統計ソフト SPSS Inc PASW Statistics 18

を用いて多変量分散分析によって経験的にテストした。

まず、仮説 1、2 については従属変数を「態度」、「知覚リスク」とし、分類変数を「需要

する規格の種類」と「普及度」とした二元配置の分析 (n=196) を行った。その際の分析結

果は以下の表 1、表 2 のとおりである。

16 プリテストに際しては、仮説 1、2 は n=36、仮説 3、4 は n=28 で行った。

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―なぜ消費者は異なる規格を選ぶのか?―

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表 1 分散分析表 (1)

ソース 従属変数 タイプⅢ

平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率

モデル 態度 4874.755a 4 1218.689 1197.697 .000

知覚リスク 3103.296b 4 775.824 886.703 .000

規格の種類 態度 .163 1 .163 .160 .689

知覚リスク 11.225 1 11.225 12.829 .000

普及度 態度 .192 1 .192 .188 .665

知覚リスク 11.452 1 11.452 13.088 .000

規格の種類

×普及度

態度 109.661 1 109.661 107.772 .000

知覚リスク 205.272 1 205.272 234.610 .000

誤差 態度 394.800 388 1.018

知覚リスク 339.482 388 .875

総和 態度 5269.556 392

知覚リスク 3442.778 392

a:R2=.925 (調整済み R2=.924)

b:R2=.901 (調整済み R2=.900)

表 2 分類変数の平均値 (1)

従属変数

分類変数の組合せ

態度 知覚リスク

平均値 平均値

単一規格×普及度低 3.000 3.772

単一規格×普及度高 4.013 1.982

互換規格×普及度低 4.017 1.986

互換規格×普及度高 2.914 3.091

単一規格 3.507 2.878

互換規格 3.466 2.539

普及度低 3.509 2.879

普及度高 3.464 2.537

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分析の結果、仮説 1、2 はそれぞれ支持された (表 1、2 参照)。仮説 1 に関して、単一規格

製品の普及度が高い際には単一規格製品に対する態度が高くなり、単一規格製品の普及度が

低い際には複数互換規格製品に対する態度が高くなるという交互作用の存在が示され、統計

的にも有意差が確認された ( F=107.772、p=<0.01)。なお、この結果を図示すると以下の図 5

のようになる。

図 5 分析結果 (仮説 1)

また、仮説 2 に関して、単一規格製品の普及度が高い際には単一規格製品に対する知覚リ

スクが低くなり、単一規格製品の普及度が低い際には複数互換規格製品に対する知覚リスク

が低くなるという交互作用の存在が示され、統計的にも有意差が確認された ( F=234.610、

p<0.010)。なお、結果を図示すると以下の図 6 のようになる。

態度のレベル

需要する規格の種類

単一規格

製品

複数互換規格

製品

普及度 (高)

普及度 (低)

3.000

4.017

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―なぜ消費者は異なる規格を選ぶのか?―

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図 6 分析結果 (仮説 2)

次に、仮説 3、4 については従属変数を「態度」、「知覚リスク」とし、分類変数を「需要

する規格の種類」と「ブランドへの信頼」とした二元配置の分析 (n=112) を行った。なお、

「ブランドへの信頼」という観測変数に関しては、DS や PSP の使用経験がある人を対象と

しているため、上記のサンプルサイズとなっている。これらの仮説に関する分析結果は以下

の表 3、表 4 のとおりである。

知覚リスクのレベル

需要する規格の種類

単一規格

製品

複数互換規格

製品

普及度 (高)

普及度 (低) 3.772

1.982

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表 3 分散分析表 (2)

ソース 従属変数 タイプⅢ

平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率

モデル 態度 1437.842a 4 359.460 421.252 .000

知覚リスク 983.224b 4 245.806 311.918 .000

規格の種類 態度 27.774 1 27.774 32.548 .000

知覚リスク 79.575 1 79.575 32.548 .000

ブランド

への信頼

態度 .000 1 .000 .000 .984

知覚リスク 7.195 1 7.195 9.130 .003

規格の種類

×ブランド

への信頼

態度 .254 1 .254 .298 .586

知覚リスク 1.996 1 1.996 2.532 .114

誤差 態度 92.158 108 .853

知覚リスク 85.109 108 .788

総和 態度 1530.000 112

知覚リスク 1068.333 112

a:R2=.940 (調整済み R2=.938)

b:R2=.920 (調整済み R2=.917)

表 4 分類変数の平均値 (2)

従属変数

分類変数の組合せ

態度 知覚リスク

平均値 平均値

単一規格×ブランドへの信頼低 3.099 3.272

単一規格×ブランドへの信頼高 3.000 4.046

互換規格×ブランドへの信頼低 4.000 1.852

互換規格×ブランドへの信頼高 4.092 2.092

単一規格 3.049 3.659

互換規格 4.046 1.972

ブランドへの信頼低 3.549 2.562

ブランドへの信頼高 3.546 3.069

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―なぜ消費者は異なる規格を選ぶのか?―

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分析の結果、仮説 3、4 はそれぞれ棄却された (表 3、4 参照)。仮説 3 に関しては、それぞ

れ単一規格製品の普及度が低いという前提の下では、ブランドへの信頼が高い際には、単一

規格製品に対する態度が高くなり、ブランドへの信頼が低い際には複数互換規格製品に対す

る態度が高くなるという交互作用の存在は示されなかった (F=0.298、p>0.100)。一方で、普

及度が低いという前提条件の下では、需要する規格の種類に関してのみ主効果が認められた

(F=32.548、p<0.010)。このことから、ネットワーク外部性が働く製品に関しては単一規格製

品の普及度が低いという事実は規格選択の態度に対して大きな影響を与えることが示唆さ

れた。なお、結果を図示すると以下の図 7 のようになる。

図 7 分析結果 (仮説 3)

また、仮説 4 に関しても、それぞれ単一規格製品の普及度が低いという前提の下では、ブ

ランドへの信頼が高い際には、単一規格製品に対する知覚リスクが低くなり、ブランドへの

信頼が低い際には複数互換規格製品に対する知覚リスクが低くなるという交互作用の存在

は示されなかった (F=2.532、p>0.100)。しかし、規格の種類に関して主効果が認められた

(F=100.977、p<0.010)。このことから、ネットワーク外部性が働く製品に関しては、単一規

格製品の普及度が低いという事実は規格選択における知覚リスクに対して非常に重大な影

響を与えることが示唆された。これと同時に、ブランドへの信頼に関しても主効果が認めら

れた。このことから、ネットワーク外部性が働く製品に関しては、単一規格製品の普及度が

態度のレベル

需要する規格の種類

単一規格

製品

複数互換規格

製品

ブランドへの信頼 (高)

ブランドへの信頼 (低)

3.000

4.092

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低いときにはブランドへの信頼が知覚リスクに影響を及ぼすことが示唆された。なお、結果

を図示すると以下の図 8 のようになる。

図 8 分析結果 (仮説 4)

6. 本論の知見と今後の課題

近年、情報のデジタル化が急速に進展し、すべての情報が 0 と 1 でやりとりされるように

なってきている。この影響によってネットワーク外部性が働く製品市場においても後からの

互換性を確保することが容易になった。このような状況下においては、企業は自社の発売す

る製品が市場で支持を得られるようにするために、消費者がどのように購買する規格を選択

しているのかについて把握していなければならない。本論の目的は、消費者の需要する規格

に関して、どのような要因を基準にして選択しているのかを明らかすることであった。

本論では、規格選択に関連してくるであろう要因として、普及度概念とブランドへの信頼

概念を挙げ、実証を試みた。普及度概念については秋本他 (2008) によって初めて用いられ

た概念で比較的新しく、まだ研究蓄積の少ない概念であった。また、ブランドへの信頼概念

はデファクト・スタンダードやネットワーク外部性といったテーマにおいては考慮されてい

ない概念であった。これらの 2 つの概念を消費者の規格選択に影響を与える要因とし、更に

それらの程度によって選択する規格が異なってくることを提唱した点に本論のオリジナリ

ティがあると言えよう。

分析の結果、普及度の高さと規格選択の態度・知覚リスクに関しては明らかな交互作用が

認められた。しかしながら、ブランドへの信頼の高さと規格選択の態度・知覚リスクに関し

低 1.852

知覚リスクのレベル

需要する規格の種類

単一規格

製品

複数互換規格

製品

ブランドへの信頼 (高)

ブランドへの信頼 (低) 4.046

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―なぜ消費者は異なる規格を選ぶのか?―

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ては交互作用が認められず、主効果のみが認められる結果となった。これらのことから、元

来デファクト・スタンダードが決まりやすいと言われてきた、ネットワーク外部性が働く製

品に関しては、ある特定の単一規格製品の普及度が高い場合には、消費者はその単一規格製

品を需要することが改めて示され、既存研究の知見を更に頑強なものとしたと言えるであろ

う。同時に本論においては、普及しているという事実自体が知覚リスクを低減させる効果も

示された。また、ブランドへの信頼の高さに関しては結果的に態度・知覚リスクともに主効

果のみが認められたことから、たとえ、ある特定のブランドに対して消費者が信頼を抱いて

いたとしても、ネットワーク外部性が働く製品に関しては普及度の高さが規格選択において

は優先されることが示された。この結果からは企業がネットワーク外部性の働くような製品

を販売する際には、様々なマーケティング手段によって当該製品を購買する消費者を早期に

獲得し、普及度を高めることが消費者のブランドへの信頼を築くことに優先されるべきとい

う実務的含意を主張するに値するものであろう。

本論においては上記のような知見と同時に、以下のような限界が存在する。まず、第 1 に

規格競争の時間軸に関する視点の欠如である。近年の規格競争においては、技術革新のスピ

ードが益々速くなり、ある規格で劣勢となった陣営は、その規格で逆転を図るのではなく、

直ちに次世代の規格を開発して世代間規格競争で逆襲をしかけてくる (山田, 2008)。しかし

ながら、その戦略の有効性は定かではない。なぜならば、Farrell and Saloner (1985, 1986) が

指摘するように、ネットワーク外部性が働く製品においては、情報の不確実性の影響によっ

て、新製品への買い替えが望ましいにもかかわらず、旧製品に固執して買い控えてしまった

り、逆に旧製品の方が優れているにもかかわらず、皆が新製品に乗り換えてしまう行動をと

ることがあるためである。このようにネットワーク外部性の働く製品に関しては、世代間に

おける消費者の行動も明確になっていないのが現状である。ところが、本論では同一世代の

規格競争を対象にしていたため、次世代規格との競争という時間軸が欠如している。そのた

め今後の研究では世代間規格競争を考慮した需要規定要因について研究をしていく余地が

あるものと考えられる。第 2 に、調査対象を大学生に限定している点である。大学生のよう

な便宜サンプルは、サンプル数の確保容易性という点では優れているが、清水 (2006) が指

摘しているように、消費者の代表性という意味では学生をサンプルとして得られた結果には

疑問が残る。このような理由から、研究をより一般性の高いものとするためには、調査対象

を拡張していかなければならないと考えられる。第 2 に、消費者が規格選択を規定する要因

として本論に挙げられている以外の要因を考慮している可能性がある点である。本論におい

ては、普及度とブランドへの信頼という概念を分類変数として挙げたが、他の分類変数にお

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いても、その程度によって消費者が規格の選択に関する態度や知覚リスクを変化させている

要因があるであろう。このような他の要因を考慮しなければ、消費者のネットワーク外部性

が働く製品における単一規格製品と複数互換規格の需要規定要因の差を十分に説明しきれ

ているとは言えないであろう。以上のような限界が存在しているものの、本論はネットワー

ク外部性が働く製品における、単一規格製品と複数互換規格製品の需要規定要因の差の解明

をこれまであまり用いられて来なかった概念を用いて試みた研究として、先駆的な役割を果

たすものと考えられる。

(記) 本論の執筆に際し、中央大学商学部久保知一先生には貴重なご助言を賜った。この場

を借りて深い感謝の意を表したい。

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―なぜ消費者は異なる規格を選ぶのか?―

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山田英夫 (2008)『デファクト・スタンダードの競争戦略』(第 2 版). 白桃書房.

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新井佑弥

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携帯ゲーム機に関する調査 中 央 大 学 商 学 部 4 年

久 保 知 一 研 究 室

新 井 佑 弥

○ごあいさつ

現在、私は卒業論文で携帯ゲーム機について研究しています。この度、調査のご協力をお

願いしたく、以下のようなアンケートを作成いたしました。

みなさまから頂戴いたしました回答結果はコンピュータで統計的に処理され、個人情報は

保護されます。また、学術研究以外の目的で今回のデータが使用されることはなく、研究終

了後、回収したアンケートは速やかに処分いたします。お手数ではありますが、趣旨をご理

解の上、ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

○調査概要

今回は、携帯ゲーム機の中でも特に「ニンテンドーDS® (以下 DS)」と「PSP® (プレイステ

ーション・ポータブル。以下 PSP) 」並びにそれらのシリーズ製品について質問させていた

だきます。これらの製品はその販売台数が増えるにつれて、対応するゲームソフトや本体ケ

ースの種類が豊富になっていったり、様々な人と接続して遊ぶことができるようになります。

それぞれの初期に発売された製品は以下のようになっております。

製品名: ニンテンドーDS® 発売メーカー:任天堂 発売日:2004 年 12 月 2 日 希望小売価格:15,000 円 (税込) 対応ソフト:ニンテンドーDS 専用ソフト ゲームボーイアドバンス専用ソフト

製品名: PSP® (プレイステーション・ポータブル) メーカー:ソニー・コンピュータエンタテイメント 発売日:2004 年 12 月 12 日 希望小売価格:19,800 円 (税込 20,790 円) 対応ソフト:UMD

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ネットワーク外部性下での規格併存メカニズムの実証分析

―なぜ消費者は異なる規格を選ぶのか?―

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○上記の内容を踏まえ、以下の質問についてあてはまる箇所に○印を記入してください。

DS を使うことがある方はこのページの下の質問にもお答えください。DS を使わない方はこ

のページの下の質問は飛ばして、次のページの質問にお答えください。

○DS を使うことがある方に質問いたします。以下の質問に対し (はい/いいえ) のいずれか

に丸をつけてください。

0101. 私は任天堂が新製品のゲーム機を発売したら購入するだろう。はい / いいえ

※上記の新製品とは全く新しいタイプのゲーム機という意味です。

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新井佑弥

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○ここからは、以下に記すような条件を踏まえた上ですべての方がお答えください。DS に

ついて、現在持っている方はこれから初めて購入すると仮定した上でお答えください。

0201. 私は DS だけを購入することに対して心配になってしまう。 5-4-3-2-1

0202. 私が DS だけを持つことによって得られる満足は小さくなると思う。 5-4-3-2-1

0203. 将来 DS を使う人が増えなければ、私も DS だけを使うということはないだろう。 5-4-3-2-1

0204. 私はゲーム機 X を購入することに対して心配になってしまう。 5-4-3-2-1

0205. 私がゲーム機 X を持つことによって得られる満足は小さくなると思う。 5-4-3-2-1

0206. 将来的に DS を使う人が増えなければ、私もゲーム機 X を使わないだろう。 5-4-3-2-1

0301. DS を使うことは私にとって望ましい。 5-4-3-2-1

0302. 私は DS に対して好意的だ。 5-4-3-2-1

0303. DS は私のニーズを満たしてくれる。 5-4-3-2-1

0304. ゲーム機 X を使うことは私にとって望ましい。 5-4-3-2-1

0305. ゲーム機 X に対して私は好意的だ。 5-4-3-2-1

0306. ゲーム機 X は私のニーズを満たしてくれる。 5-4-3-2-1

※このページの設問は DS と PSP の普及がまだ進んでいないことと、ゲ

ーム機 X は互換性が有ることを踏まえてお答え下さい。

元々プレイできるゲームソフトには両者とも互換性がない上に、まだ両者とも普及が進

んでいません。そこで、今度新たに C 社が DS 用ソフトと PSP 用ソフト (UMD) の両方

が遊べるゲーム機 X を価格 27,500 円で発売することになったと仮定してください。

+ =

15,000 円 20,790 円

5 ― 4 ― 3 ― 2 ― 1 とてもそう思う 全くそう思わない

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ネットワーク外部性下での規格併存メカニズムの実証分析

―なぜ消費者は異なる規格を選ぶのか?―

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○ここからは、以下に記すような条件を踏まえた上ですべての方がお答えください。DS に

ついて現在持っている方はこれから初めて購入すると仮定した上でお答えください。

0401. 私は携帯ゲーム機として DS だけを購入することに対して心配になってしまう。 5-4-3-2-1

0402. 私が DS だけを持つことによって得られる満足は小さくなる。 5-4-3-2-1

0403. 私は DS だけを使うということはないだろう。 5-4-3-2-1

0404. 私は携帯ゲーム機としてゲーム機 X を購入することに対して心配になってしまう。 5-4-3-2-1

0405. 私がゲーム機 X を持つことによって得られる満足は小さくなる。 5-4-3-2-1

0406. 私はゲーム機 X を使わないだろう。 5-4-3-2-1

0501. DS を使うことは私にとって望ましい。 5-4-3-2-1

0502. 私は DS に対して好意的だ。 5-4-3-2-1

0503. DS は私のニーズを満たしてくれる。 5-4-3-2-1

0504. ゲーム機 X を使うことは自分にとって望ましい。 5-4-3-2-1

0505. ゲーム機 X に対して好意的だ。 5-4-3-2-1

0506. ゲーム機 X は私のニーズを満たしてくれる。 5-4-3-2-1

元々プレイできるゲームソフトに互換性の無かった両者に対して、今度新たに C 社が

DS 用ソフトと PSP 用ソフト (UMD) の両方が遊べるゲーム機 X を価格 27,500 円で発

売することになりました。更に、それぞれの製品の発売開始から一定の期間がすぎま

した。携帯ゲーム機の現在のシェアは単一規格の製品だけで見ると (つまり、ゲーム機

X を除くと) DS が約 8 割のシェアを持っているのに対して PSP は約 2 割のシェアに留

まっているという状況になっています。

+ =

15,000 円 20,790 円

20%

80%

単 一 規 格シェ ア