作物生理_応用編

178
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栽培のための作物生理 応用編

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Page 1: 作物生理_応用編

t卵作物生理応用編

-

栽 培 の た め の

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作 物 生 理 / 訂 友 =, . . _ ・ - . . , - ・ 太 田 毎 こ

農ノ

.いj l

恰 べ 1

ト■

Page 2: 作物生理_応用編
Page 3: 作物生理_応用編

栽 培 の た め の

作 物 生 理岩 下 友 記

応 用 編・ 岡 正 太 田 敏 一 雄

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ・ ● ●● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

● ’ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●- - 一 一

農業図書株式会社

Page 4: 作物生理_応用編

ま え が き

作物の栽培 技 術 は , すべ て 作 物 生 理 の 研 究 を 土 台 と して 組 み 立 て

られているものです。技術そのものにだけ熟達しても,「なぜその

ようにするのか」という科学的根拠を理解していなければ,立地条

件や経営条件が変わったり,新しい作物を導入しようというときな

どは,応用がきかないのでたいへん困ることになり,とんでもない

失 敗 を す る こ と も あ り ま す。 じ っ く り と 自 分 の 栽 培 技 術 の 科 学 的 根

拠 を 見 な お して , 正 し い 理 解 の も と に 栽 培 を 進 め る こ と こそ が, 現

代農業者のとるべき態度であろうと思います。

そのような観点から,さきに,栽培者のための植物学ともいうべ

き,「作物生理・基礎編」を刊行しましたが,もちろん実際に作物

を生産してそれで生計をたてている農業者にとっては,これだけで

は不十分で,この基礎理論を,自分の立地条件・経営条件にあわせ

てどう取り入れていくかの「応用」が必要です。本書は,そのよう

な 意 味 で, 「 基 礎 編 」 の 理 論 を 実 際 場 面 に 展 開 して , 播 種 か ら 収 穫

貯蔵までの重要な技術について,「なぜそのようにするのか」,した

がってまた,条件の変化に応じて「どう対処していったらよいか」

という,技術の科学的根拠とその応用のしかたが,よくわかるよう

に述べたものでナ。

Page 5: 作物生理_応用編

現 代 科 学 の 水 準 に 基 づ いて , で き る だ け 高 い 内 容 を , で き る だ け

理 解 し や す い よ う に と 努 め ま し た 。 「 基 礎 編 」 と あ わ せ て 一 貫 して

ご購読いただけるならば,筆者らの意図するところは十分に達しえ

られるのではないかと考えております。

なお本書を編するにあたって,鹿児島県農業試験場のかたがたの

理 解 あ る ご 協 力 を い た だ き , ま た 多 くの か た が た の 業 績 を 引 用 さ せ

ていただきました。ここに記して深い感謝の意を表します。

昭和43年3月

鹿児島県農業試験場

太 田 敏 雄

岡 正

岩 下 友 記

Page 6: 作物生理_応用編

も く じ 1

応 用 編 も く じ

§ 1 . 発 芽 に つ い て の 生 理

I 休 眠 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 1

( 1 ) 種 子 の 休 眠 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 1

( 2 ) 塊 茎 ・ 球 根 ・ 樹 木 の 芽 の 休 眠 … … … … … … … … … … … … … … … … … 2

2 発

_1

(1)種子の

(2)塊茎・球根・樹木の芽の

I種子の充実度と苗素質との

3 種 子 の 発 芽 力 び : ) 鑑 別 法 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 1 0

§ 2 . 育 苗 に つ い て の 生 理

2 播 種 量 ( : 播 種 密 度 ) と 苗 素 質 と の 関 係 … … … … … … … … … … … … … … … 1 4

3 水 稲 の 苗 代 様 式 と 苗 素 質 と の 関 係 … … … … … … … … … … … … … … … … … 1 4

4 畑 作 物 に お け る 日 光 ・ 温 度 と 苗 素 質 と の 関 係 … … … … … … … … … … ・ … … 1 6

( 1 ) 水 稲 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 2 1

( 2 ) 畑 作 物 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 2 2

6 接 木 育 苗 の 台 木 と 接 穂 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 2 2

§ 3 . 苗 の 移 植 の 生 理

・・28

・・302植付の深さと

3 サ ツ マ イ モ の 移 植 時 の 葉 の 受 光 量 と 生 育 … … … … … … … … … … … … … … 3 2

§ 4 . 施 肥 に つ い て の 生 理

I 土 壌 条 件 と 施 肥 法 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 3 3

( 1 ) 土 壌 の 酸 性 度 ( P H ) と 各 種 栄 養 素 の 関 係 … … … … … … … … … … … 3 3

Page 7: 作物生理_応用編

(2)無機要素の桔抗と

(3)水田土壌と

2施肥法と作物

(1)施肥の

(1)濯が

(1)水

(2)

(4)永年作物園の土壌と

(2)肥料の形態と作物の

(4)施設園芸における

( 3 ) 各 種 要 素 の 施 用 と 生 育 … … … … … … … … … … 47

3 炭 酸 ガ ス 施 用 … … … … … … … … … … … … …

§ 5 . 濯 が い ・ 排 水 , 作 土 の 通 気 性 と 生 育

I 水 稲 の 濯 が い ・ 排 水 と 生 育 … … …

2 畑 作 物 の 漂 が い ・ 排 水 ・ 通 気 性 と 生 育 … … … … … … … … … … … … … … … 6 1

・・61

( 2 ) 湿 害 ・ 土 壌 通 気 性 と 生 育 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 6 8

§ 6 . 栽 植 密 度 に つ い て の 生 理

I栽植密度と作物の生育・収量との

2各種作物の栽植密度と

(3)果

(1)整枝・

§ 7 . 整 枝 ・ 剪 定 と 生 育 ・ 収 量

I 果 樹 類 の 整 枝 ・ ・・87

( 2 ) 摘 果 … … … …

2果菜類の整枝 ●●●●●●

91

94

Page 8: 作物生理_応用編

§ 8 . 寒 害 ・ 冷 害 ・ 凍 害 の 生 理

I 作 物 の 寒 害 ・ 冷 害 ・ 凍 害 の

(1)

(2)

(3)

も く じ 3

97

1012 各 種 作 物 の 寒 害 ・ 冷 害 ・ 凍 害 … … … … … , … ‥ , ・ , … … … … …

§ 9 . 作 物 と 生 長 調 節 物 質

I 休 眠 打 破 お よ び 発 芽 促 進 と 調 節 物 質 … … … … … … … … … … … … … … … … 1 0 8

( 1 ) 種 子 ‥ ‥

(2)塊茎・球根

2 生 長 ・ 分 化 と

4 結 実 ・ 肥 大 と

●●●●●● ● I ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ・ ・ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ・ I ● ● ● ● ● ● ● ・ ● ・ ● ● ● ● ・ ● ● ● ● ● ● ● ・ ● ● ● ● ・ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 108

(1)生長・分化

(2)生長・分化

3 花 芽 の 分 化 お よ び 開 花 促 進 と 調 節 物 質 ・ ・ , … … … … … … … … … … … … … 1 1 2

・・114

(1)結実・肥大の

(2)非ホルモン系

( 2 ) 結 実 ・ 肥 大 と 調 節 物 質 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 116

5 落 葉 ・ 落 花 ・ 落 果 と 調 節 物 質 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 1 1 8

(1)落葉・落花・落果

6‥環境抵抗性の増大と

(1)植物ホルモン系

・・118

・・121(2)落葉・落花・落果と調

7 除 草 剤 と 調 節 物 質 … … … … … … … … … 122

123

( 3 ) そ の 他 の 除 草 剤 … … … … … … … … … …

Page 9: 作物生理_応用編

一 一 一 一

§ 1 0 . 貯 蔵の生理

一 一 -

・・129

( 1 ) 温 度 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 1 3 0

( 2 ) 湿 度 … … … … … … … … … … … … … … … … ・ … … … … … … … … … … … … 1 3 1

(3)酸素・炭酸ガス・・・・・・・・丿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・丿・・・・・・133

( 4 ) 蒸 散 作 用 … … … … … … … … … … … … … … … … … - ・ ・ … … … … … … … … … … 1 3 4

( 5 ) ビ タ ミ ン C の 変 化 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 1 3 5

2 各 種 作 物 の

(3)

(2)

( 1 ) 野 菜 類 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 1 3 7

( 2 ) サ ツ マ イ モ の 貯 蔵 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 1 3 9

・・140

・・1423放射線照射と作物の

2 輪 作 と

§ 1 1 . 連 作 ・ 輪 作 と 生 育 の 関 係

l 連 作 と 連 作 障 害 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 1 4 3

・ ( 1 ) 畑 地 輪 作 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 1 5 1

・・151

3 土 壌 微 生 物 と 土 壌 の 熟 度 と の 関 係 … … … … … … … … … … … … … … … … 1 5 3

4 新 開 田 の ア カ ガ レ 病 … … … … … … … … … … … … … … … … ・ ・ … … ・ ・ ・ ・ ・ ・ - … … … 1 5 4

§ 1 2 . 砂 耕 ・ 篠 耕 ・ 水 耕

I 砂 耕 … … … … … … … … … … ・ ・ ・ … … … … … … … … … … … … … … … … … … 1 5 6

2 篠 耕 … … … … … … … … … ・ ・ ・ … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 1 5 8

3 水 耕 … … … … … ・ … … … … “ … “ … … … … … … … … … … … … … … … … … … 1 6 0

Page 10: 作物生理_応用編

応 用 編ノ

温 州 み か ん の 葉 の 裏 側 の 気 孔 温 州 み か ん の 葉 の 断 面

Page 11: 作物生理_応用編

I 休 眠

§1

§ 1 . 発 芽 に つ い て の 生 理 1

発 芽 に つ い て の 生 理

( 1 ) 種 子 の 休 眠

作 物 の 種 類 に よ って は , そ の 種 子 を 収 穫 して す ぐ , ま た 発 芽 に 好

適な環境条件のもとでまいても,発芽しないものがある。これは,

こ の 種 子 が 休 眠 して い る か らで あ る 。 こ れ ら の 種 子 も , 貯 蔵 して い

る間に,休眠が徐々に完了していき,発芽歩合がだんだんに高まっ

て,ある期間を経過してからまくと,ほとんど100%発芽するよう

になる。

10203040貯

60708090100110日数(種子齢)

俵 眠 期 問

第 1 図 は , タ カ ナ の

種 子 の 休 眠 が だ ん だ ん

完 了 して い って , 収 穫

日から約100日ころで

発芽歩合が100%近く

までになる経過を示し

たものである。

こ の よ う な 休 眠 の 期第1図タカナの後熟と発芽率との関係

間 は , 作 物 の 種 類 に よ って 異 な って い る 。 第 1 表 は , い く っ か の 作

物 に つ いて , 休 眠 が 終 わ る ま で の 期 間 ( 後 熟 に 要 す る 期 間 ) を 例 と

して あ げ た も の で あ る が, 同 一 作 物 で あ って も , 採 種 時 の 種 子 の 熟

度 , 収 穫 後 の 貯 蔵 の 条 件 な ど に よ って 大 い に 異 な ってくる 。 た と え

Page 12: 作物生理_応用編

ば,野菜類の種子では,完熟した栄第1表各種作物の後熟に要する期間(正常の室内貯蔵)

養のよい種子の休眠は深い。また,

どの作物でも,貯蔵中の温度が高い

ほど,またよく乾燥した種子ほど,

一 般 に 休 眠 の 期 間 は 短 い と い わ れて

いる。

このような休眠の起こる原因は,

種 子 を 構 成 して い る 組 織 や 器 官 の ど

こかに,発芽抑制物質と呼ばれる化。

学 物 質 が 存 在 して いて , そ の 作 用 で

発芽が抑えられているためであり,

種 類 期 間

ダ イ コ ン

カ ブノ ゝ ク サ イ

タ カ ナツ ケ ナ

キ ャ ベ ツ 類

チ シ ャ

ナ スゴ ボ ウ

ホ ウ レン ソ ウ

シ ュ ン ギ ク

シ ソ

タ デ

1~3ヵ月1ヵ月1ヵ月3ヵ月1ヵ月

1~3ヵ月3ヵ月6ヵ月12ヵ月1ヵ月3ヵ月4ヵ月5ヵ月

こ の 抑 制 物 質 が 変 化 して , 作 用 力 を 失 っ た 時 , 休 眠 が 終 わ っ た 状 態

になるものと考えられてyヽる。■-7¶■■ふ¶■■■■¶a・

( 2 ) 塊 根 ・ 球 根 ・ 樹 木 の 芽の休眠

休 眠 現 象 は , 種 子 だ け で は な く , パ レ イ シ ョ の 塊 茎 , チ ュ ー リ ッ

プ ・ ュ リ ・ スイセ ン ・ タ マ ネ ギ の 鱗 茎 , アイ リス ・ フ リ ー ジ ア ・ グ

ラ ジ オ ラス な どの 球 茎 , ウ ド な どの 草 木 の 芽 , ま た は 果 樹 の 芽 な ど

にもみられる。

球 根 類 の う ち , チ ュ ー リ ップ や スイセ ン は , 夏 季 は 外 観 上 は 休 眠

を す る が, 球 根 の 内 部 で は , 葉 や 花 芽 の 分 化 が す こ しず つ 続 いて い

る 。 し か し , いず れ に して も 上 記 の 球 根 類 は , 夏 季 の 高 温 の 時 期 を

経 過 し な い と , 秋 に な って も 順 調 に 生 育 で き な い し , そ の う え さ ら

に,冬季ある期間低温下で過さないと,春になっても開花しない。

自然界は,夏が過ぎ秋になるにしたがって,日長時間がだんだん

Page 13: 作物生理_応用編

§ 1 . 発 芽 に つ い て の 生 理 3

と 短 く なっていくが,このような短日条件下になると,樹木は休眠

芽を生ずる。樹木の芽の休眠には,体内の生理的な原因によるもの

と,外界の環境に原因するものとの二つがある。すなわち,たとえ

高温を与えたところで芽が動かない時期(この時期を自発的休眠期と

いう)と,体内生理的には芽は動く状態にあるが,外界の低温のた

め に 芽 が 生 長 せ ず, 外 観 上 は 休 眠 して い る よ う に 見 える 時 期 ( こ れ

を他発的休眠期という)とに分けることができる。自発的休眠の時期

は,果樹の種類によっていくらかちがいがあり,プドウ・モモ・ク

リ・カキなどでは9月下旬ころが休眠が最も深く,ナシは10月中旬,

リンゴは11月下旬ころが最も深いものと考えられる。そしてこれら

の体内生理的原因による休眠は,モモ・ナシ・カキ・クリ・サクラ

ンボ・スモモなどでは12月中~下旬から1月中旬に,ブドウでは1

月下旬から2月中~下旬に完了する。しかし,品種,芽の種類およ

び位置,樹令などによって異なり,一般には,花芽は葉芽よりも,

頂芽は側芽よりも,短枝上の芽は長枝上の芽よりも,古い枝の芽は

若い枝の芽よりも,それぞれ早く休眠を完了する。

このような休眠の起こる生理的機構については,まだ明らかでな

V≒。

芽 の休眠が終わるのには,寒さにあうことが必要であるが,その

理 由 と して , 冬 季 の 低 温 に よる 組 織 の 酸 性 度 の 価 の 増 加 , 脂 肪 の 分

解,アミノ酸と糖分の増加,酵素の作用の活性化などが考えられる

が, は っ き り し た こ と は わ か っ て い な い 。 低 温 に あ う こ と に よ っ

て , 芽 に 生 長 ホ ル モ ン と な る あ る 物 質 が 集 積 す る と も い わ れて い

る。

Page 14: 作物生理_応用編

- 一 一

ま た 寒冷にさらされることによって,蓄積でんぷんが糖化すると

いうことは,細胞液の中に糖分が多くなって細胞液濃度が高くなる

ことであり,寒さに対する抵抗性を増すことである。そして,その

糖 は , 休 眠 あ け 後 の 生 長 の 材 料 と な る と と も に , 細 胞 の 浸 透 圧 を 高ほ5が

め,根圧を増して萌芽を促すのであるともいわれている。

落 葉 果 樹 類 の 根 の 活 動 は , 地 上 部 と 関 連 は して い る が, 地 上 部 の

芽が生理的な休眠期でも,根は土中の温度さえ高ければ活動してい

る。根の活動開始の温度は,ウメ・モモでは4~5 ° C ,ナシ,リン

ゴで約7 °C,ブドウ・カキなどは約10~12 °Cであり,冬でも土中

の下層は10 ° C以下にはならないことが多いから,根は休眠せずに

活動しているわけである。冬の低温期に活動する根は,夏の終わり

から秋に発生した若い細胞からできている根群である。

2 発 芽

(1) 種 子 の 発 芽

〈 温 度 〉

種子の発芽には,各作物ごとに,また同一作物でも品種ごとに,

それぞれ特有の適当な温度があり,また発芽しうる最低および最高

の温度範囲がある。第2表から第5表までは,いろいろな作物の発

芽適温を示したものである。

発芽適温にしても,また発芽しうる最低・最高の温度範囲にしても,休眠性のある作物種子では,成熟期収穫直後から日数が経過するにつれて変わってい

くもので,一般に採種直後のころは適温の幅が狭く,その後休眠がとけるにし

たがって発芽適温の幅が広くなり,最低・最高温度の範囲も広くなっていく。

Page 15: 作物生理_応用編

§ 1 . 発 芽 に つ い て の 生 理 5

第2~5表にあげた作物のうち,休眠性の種子については,休眠を完了した後

の発芽適温を示してある。

第2表イネ科作物の発芽適温

作 物 名 追 温

水 陸 稲ア ワ

キ ビヒ エ

トウモロコシモ ロ コ シ

ソ ノ 々コ ム ギ

オ オ ム ギノ ヽ ダ カ ム ギ

エ ン バ ク

ラ イ ム ギ

3 2 ~ 3 5 ° C

3 1 ~ 3 3

3 3 ~ 3 4

3 1 ~ 3 6

34~38

31~37

30~34

25~26

25~26

23~25

23~25

25~26

ま た ,ナス・ミツバ・オーチャー

ドグラスなどいくっかの作物は,発

芽 に 際 して 変 温 を 要 求 ナ る 。 す な わ

ちこれらは,1日のうちに高温と低

温 の 温 度 変 化 が あ って は じ めて 十 分

な発芽をナる(この変温の要求度も種子

が新しいうちほど強い)。

また発芽にさいして光を要求する

作 物 , た と え ば タバ コ ・ ゴ ポ ウ ・ ペ

チ ュニ ア ・ シ ソ ・ ミ ツバ な ど 多 くの

ものは,明るいときと暗いときとでは,適温範囲あるいは発芽可能

の温度範囲が異なってくるといわれる。

キンギョソウは暗い所にまいたときは20°Cで最もよく発芽し,光を与えた

ばあいは25°Cがよいといわれている。

種まきには,以上に述べたような種子の休眠・発芽についての生

理的な特性をよく知って,発芽に最適な条件のもとで行なうことが

た い せ っで あ る が, な お 注 意 すべ き い くつ か の 事 が ら に つ いて , 次

に述べておこう。

ダイコンやブラシカ類(キャベツ・カブ・ノヽクサイ・タカナ・カ

ラシナなど)の発芽適温は20~30 °Cで,温度範囲は広いが,成熟

期直後はいずれも休眠性がある。

ゴボウ種子は,休眠性が深いので,種まきのときには注意しなけ

Page 16: 作物生理_応用編

ればならない。休眠打破には,水づけ,高温,光などが有効である

が, 実 際 的 で い ち ば ん 簡 単 な 方 法 は , 一 晩 水 に ひ た して か ら ま く 方

法である。

ニンジンの種子は,特に未熟なうちに収穫したものほど発芽しに

くい。休眠打破の方法としては,種子の除毛,水洗,光をあてるこ

となどが有効である。すでに述べたように,休眠の原因は,種子に

第3表野菜種子の最適および最低・最高発芽温度

種 類 最 追 温 度 最 低 温 度 最 高 温 度

ダ イ コ ン

ブ ラ シ カ 類 *’ チ シ ャ

ゴ ボ ウ

シ ュ ン ギ クニ ン ジ ン

ミ ツ パセ ル ジ ー

ネ ギ

タ マ ネ ギ. ニ ラ ・

ナ ス

ト マ ト

ト ウ ガ ラ シ

ウ ジ 類イ ン ゲ ンエ ン ド ウ

ソ ラ マ メホ ウ レ ン ソ ウ

フ ダ ン ソ ウ

シ ソ

1 5 ~ 3 0 ° C

15~30

15~20

2 0 ~ 3 0

15~20

15~30

15~20

15~20

15~25

15~25

15~20

15~30

20~30

20~30

20~30

20~30

1 5 ~ 2 5 .

15~25

15~20

15~25

15~20

4 ° C

0 ~ 4

10

0 ~ 4

0 ~ 4

0 ~ 4

0 ~ 4

10

10

10

15

10

0 ~ 4

0 ~ 4

0 ~ 4

0 ~ 4

35°C

35

30

35

30

33

2830

33

33

25

33

35

35

3535

33

33

30

3528

゛ブラシカ類ノヽクサイ・キャベツ・ナタネ・カプ・タカナ・カラシナなど

変 温 を 好 む 種 類 ナ ス ・ ミ ツ バ好 光 性 種 子 ゴ ポ ウ ・ ミ ツ バ ・ セ ノ レ リ ー ・ チ シ ャ ・ プ ラ シ カ 類 ・ シ ソ嫌 光 性 種 子 ウ ジ 類 ・ ダ イ コ ン ・ ニ ラ

Page 17: 作物生理_応用編

第4表 花

§ 1 . 発 芽 に つ い て の 生 理 7

き 種 子 の 発 芽 適 温

種 類 a 皿 j 種 類 適 温ノ ` ゝ ゲ イ ト ウ

キ ン ギ ョ ソ ウノ ベ ゴ ロ モ ギ ク

ア ス パ ラ ガ スエ ソ ギ , ク

ホ ウ セ ン カベ ゴ ニ ヤ

ヒ ナ ギ ク

キ ン セ ン カ

ト ウ ガ ラ シ ( 観 賞 用 )

カ ー ネ ー シ ョ ン

ケ イ ト ウ

ヤ グ ノ レ マ ギ ク

キ バ ナ ヤ グ ル マ’ コ ス モ ス

黄 色 コ ス モ スシ ク ラ メ ン

ダ リ ア

ジ ギ タ ジ スノ x ナ ビ シ ソ ウ

ノ ゝ ボ タ ン

フ リ ー ジ ア

ガ ー ベ ラ

カ ス ミ ソ ウ

ア サ ガ オ

30°C

20

15

15~30

20

25

20

20

25

2520

30

20

15

20

30

20

20

20

15

25

20

20

20

25

ュ ウ ガ オ

ア イ リ ス

カ ラ ン コ エュ リ 類

ロ ベ リ ヤ

マ ン ジ ュ ギ ク

マ ツ バ ギ ク

オ ジ ギ ソ ウ

オ シ ロ イ バ ナ

カ イ ガ ラ サ ル ビ アヮ ス レ ナ グ サ

サ ン シ キ ス ミ レペ チ ュ ニ ヤ

フ ロ ッ ク ス

ホ オ ズ キ

キ キ ョ ウ

マ ツ バ ポ タ ン

サ ル ビ ヤス ト ッ クヒ マ ヮ リ

ス イ ー ト ピ ー

ビ ジ ョ ザ ク ラヒ ャ ク ニ チ ソ ウ

マ リ ー ゴ ー ル ド

25°C

15~3020

20

20

20

20

30

25

20~30

20

20

20~30

15

20~30

20

20~30

20~30

20

2520

20

25

20

含 ま れている発芽抑制物質の作用によるものと考えられ,除毛する

とよく発芽ナるということは,除毛することによって,抑制物質が

少なくなるためと思われる。

ホウレンソウ種子は,低温下での発芽を好むので,25 ° C以上に

なると発芽が悪くなる。したがって高温時にまくときはニ最適温度

条件下で発芽させてからまくとよい。休眠期は約3か月であるが,

Page 18: 作物生理_応用編

第 5 表 牧 草 類 の 発 芽 適 温

種 類 適 温 種 類 適 温

チ モ シ ーオ ー チ ャ ー ド グ ラ ス

ケンタッキープノレーグラス

イ タ ジ ア ン ラ イ グ ラ スバ ー ミ ュ ダ グ ラ ス

ウ イ ー ピ ン グ ラ プ グ ラ ス

ダ リ ス グ ラ スバ ヒ ア グ ラ ス

テ オ シ ン ト

ソ ル ゴス ー ダ ン グ ラ ス

20~30°C

20~30

20~30

20~30

20~30

20~30

20~30

20~30

30

20~30

20~30

レ ッ ド ク ロ ー バ ー

ホ ワ イ ト ク ロ ー バ ー

ラ ジ ノ ク ロ ー バ ー

ク リ ム ソ ン ク ロ ー バ ーア ノ レ フ ア ル フ ア

ウ マ ゴ ヤ シレ ン ゲ ソ ウコ モ ン ペ ッ チ

カ ウ ピ ー

ル ー ピ ン ( 無 毒 )

ス イ ー ト ク ロ ー バ ー

20°C

20

20

20

20

15

20

20

25

20

20

その間に高温処理をすると,休眠を打破ナることができる。また,

種 子 が 吸 水 し す ぎ る と , 果 皮 部 が ふ く ら んで 胚 の 呼 吸 が 困 難 と な

り,発芽が悪くなるから注意する。

ナス 種 子 は , 変 温 し た ほ う が よ く 発 芽 す る の で, 温 床 に ま い た 場

合,昼と夜の温度差が大きくなるように管理するのがよい。また,

あ ま り 水 分 を 多 く 与 えす ぎ る と , 種 皮 が 吸 水 し , ふく ら み す ぎ て 胚

部への酸素の通過が悪くなり,発芽不良になるから,潅水量に注意

ナベきである。

ウリ類は,光のあたった状態では発芽しないので注意ナベきであ

る。

シソ種子の発芽適温は15~20 °Cで低く,休眠も深く,また赤シ

ソは青シソより深い。

〈 水 分 〉

種子の発芽にはある程度の水分が必要であるが,それぞれの作物

によって要求する水分の適量に相違がある。たとえば,ホウレンソ

Page 19: 作物生理_応用編

§1.発芽についての生理9

ウ・ナス・フダンソウ・ツルナなどのようなものは,多ナぎると発

芽不良になる。

〈 酸 素 〉一 般 に 酸 素 の 量 が 十 分 で あ れ ば 発 芽 は 順 調 で あ り , 炭 酸 ガ ス の 分

量 が 多 く な る に し た が って 発 芽 は 抑 制 さ れ る 。 イネ の よ う に 水 中 で

も発芽しうる作物は発芽時に要求ナる酸素量が少ないものである。

〈 光 〉

作物の種類によって,光のあるほうが発芽がよいもの,暗いほう

が発芽がよいもの,光とはまったく無関係に発芽ナるものなど,そ

れぞれちがいがある。好光性種子としては,ストック・プリムラ・

キンギョソウ・タバコ・ブラシカ類・チシャ・ゴボウ・ニンジン・

シュンギク・セルリー・ミツバ・シソなどがあり,嫌光性のものと

しては,シクラメン・ノヽゲイトウ・ノヽナビシソウ・ニゲラ・-ダイコ

ン ・ ナス ・ トマ ト ・ ト ウ ガ ラ シ, すべ ての ウ ジ 類 , ニラ ・ ネ ギ ・ タ

マネギなどがある。

(2)塊茎・球根・樹木の芽の発芽

バ レ イ シ ョ の 塊 茎 は , 秋 に 収 穫 して 貯 蔵 して お く と , そ の 間 に 休

眠性が消失し,翌春適当な温度条件になると,塊茎から発芽を始め

る 。 アイ リス ・ フ リ ー ジ ア ・ チ ュ ー リ ップ ・ スイセ ン ・ ュ リ な どの

い わ ゆ る 球 根 類 は , 一 般 に ま ず 球 根 が 高 温 に あ う こ と に よ って 休 眠

が破られ,出芽を始める。

このように球根類は,高温を経過して,芽の伸長が始まってからある期間低

温にあうことによって,初めて花芽の分化が起こるということになる。したが

ってこれらの花を秋から冬にかけて開花させるには,まず球根に高温を与えて

Page 20: 作物生理_応用編

10

休眠を打破したのち,球根冷蔵を行なって人工的に冬の低温を与えてから植え

つけ,発芽とともにしだいに外界温度を上昇させていくという方法をとってい

る。球根冷蔵の開始期,および冷蔵温度・冷蔵期間などは,各球根の種類によ

って,また同一種類でも品種によって,それぞれ異なっている。そして花芽の

分化は,球根のなかである程度茎葉が伸長してから,生長点が低温に感応して

起こるのである。

落葉果樹類では,生理的な休眠が終わると,その後外界の気温の

上昇とともに,芽が大きくなり始める(だいたい10 ° Cころから芽

がふくらみ始める)。だから,冬の日中暖かい日が続くと芽は太く

なってゆく。冬から早春の寒い時期は,外観的にはほとんど何の変

化もないようにみえる樹木の芽も,内部的には休眠からさめて,細

胞が分裂して新しい組織の分化が進行しているのであるが,初期の

このころの芽の活動に必要な養分は,芽のごく近くの枝の中の養分

によってまかなわれる。根や太い主幹や主枝の中の貯蔵養分は,こ

のようなごく初期の活動には使用されない。

樹木の休眠芽には花芽と葉芽がある。生長して花になる芽を花芽

といい,葉や茎になる芽を葉芽という。花芽は葉芽にくらべて太く

丸く,葉芽のほうが小さく細長くなっているので区別しやすい。し

かしモクレンのように,花芽と葉芽のまじった混芽もある。

3 種 子 の 発 芽 力 の 鑑 定 法

(1)テルル酸ソーダまたはセレン酸ソーダによる還元法

生きている胚は,呼吸をしているから還元力をもっている。した

がって,テルル酸ソーダまたはセレン酸ソーダを種子に与えると,

胚が生きていれば,薬品を還元して遊離のテルルあるいはセレンを

Page 21: 作物生理_応用編

§ 1 . 発 芽 に つ い て の 生 理 1 1

生 じ , テルル の 場 合 は 黒 色 に , セ レン の 場 合 は 赤 色 に 染 ま る が, 胚

が死んでいれば,還元力がないから染まらない。

( 2 ) テ ト ラ ソ リ ウム 法

生体細胞は,種子が生きていれば,2,3,5 -トリフェニール

テ ト ラ ソ ジ ウム ク ロ ラ イ ド ( 無 色 ) を 還 元 して , トジ フ ェ ニール

フオルマザン(カーミン赤)を生ずる。

( 3 ) X 線 に よる 鑑 別 法

種 子 を 吸 水 さ せ た 後 , 塩 化 バ リ ウム ・ 硝 酸 バ リ ウム な どの 造 影 剤

を 吸 収 さ せ て , こ れ を X 線 で 撮 影 す る 方 法 で あ る 。 生 き て い る 胚

は,これらの造影剤を吸収しないが,死んだ細胞(種子が死んでい

る と ) に は 造 影 剤 が 入 り 込 む の で, し た が って X 線 写 真 で 黒 くう つ

る。この方法は,設備さえあればいまのところ最も確実で,しかも

早くできる方法である。

( 4 ) ジペ レ リ ン と チ オ 尿 素 の 混 合 液 に よる 発 芽 検 定 法

収穫してから間もなくて,まだ休眠中の作物の発芽能力を検定し

ようとする場合に,ジベレリンを50Zy回(:仔か,zは100万分の1)に水

でうすめた液と,チオ尿素(チオウレア)を0.5%に水でうナめた

液の混合液を作り,ろ紙か脱紙綿などに滴下し,その上に種子をお

くと,休眠中のものでも発芽能力のあるものはよく発芽する。

この方法は,

① カ ビ が 生 え に く い 。

②25~30 ° C でも効果が著しいので,室温で十分に発芽検定が

できる。

③発芽が速いので,試験の締切り日数を短縮することができる。

Page 22: 作物生理_応用編

12

④ 休 眠 の 深 い 種 子 に は 効 果 が 著 し い し , 休 眠 して い な い 種 子 に

はなんら有害作用がない(普通の水分と同じである)。

⑤暗所でも効果が著しい(好光性種子に対し)。

⑥ 溶 液 の 量 が 多 す ぎ て も 変 化 が な い 。

⑦発芽した実生は,徒長しないのでっごうがよい。1

などの利点がある。

(5)PFA呈色判定法

こ れ は , ビール 麦 の 種 実 な どの 発 芽 能 力 を 調 べ る 方 法 で あ る 。 石

炭酸59,局法ホルマリン30cc,50%エタノール70ccの混合液を作

り,供試穀粒を十分にこの液に浸し,約1分間煮沸してから冷却ナ

る。穀皮が薬液を吸収して伸展してから,その着色の状態を,次の

ような基準に照らして観察し,発芽性能を判定ナる。

この方法は,収穫後穀粒の後熟を待たないで,休眠中に直ちに実

施できる。

P F A 呈 色 反 応 の 判 定 基 準

呈 色 状 態 原 因 判 定 発芽胞判定

1.呈色せず,胚芽は殻皮を透してわずかに黄色に見える

2.殻皮は褐色に呈色,基部~先端3.胚芽が褐色に呈色,上部~下部4.胚芽が灰褐色に呈色

正 常

微生物侵害脱 穀 術 撃微生物侵害

Page 23: 作物生理_応用編

§ 2 . 育 苗 に つ い て の 生 理 1 3

§ 2 . 育 苗 に つ いての 生 理

I 種 子 の 充 実 度 と 苗 素 質 と の 関 係

種 子 は , そ れ 自 体 の 組 織 や 器 官 の 一 部 に 養 分 を 貯 蔵 して お り ( 穀

類 の 胚 乳 と か マメ 類 の 子 葉 の 部 分 な ど ) , あ る 時 期 ま で はそ の 貯 蔵

養分を消化しながら生育をする。したがってこのような作物では,

よくみのった種子ほど初期生育がよいということになる。

第 6 表 も み の 大 小 と イ ネ 苗 の 生 育(播種後41日め調査)(香山氏)

試 験 区 別 浸種もみ100粒重 草 た け 葉 数 根 数 生 草 重

も ’ み 大 区も み 中 区も み 小 区も み 2 / 3 区

3.61g

3.50

3.25

2.63

13.8cm

11.4

10.8

9.2

5.1枚

4.8

4.8

4.2

11.0本

8.8

8.0

7.0

0.117g

0.089

0.083

0.055

玄 米 完 全 区玄 米 2 / 3 区玄 米 1 / 2 区玄 米 1 / 3 区

2.82

2.20

1.53

0.81

9.4

7.9

7.0

5.8

4.5

4.2

4.0

4.1

11.2

10.8

9.0

6.5

0.063

0.051

0.035

0.023

第 6 表 は ,水稲もみの大小とイネの生育との関係について調査し

たもので,大きいもみほど胚乳の部分,すなわち,養分を貯蔵して

い る 部 分 が 大 き い の で, 苗 の 生 育 が よ い こ とを 示 して い る 。 野 菜 類

では,仮植や定植作業のとき,生育不良の個体は捨て去るが,水稲

の場合は,選別せずにそのまま本田に移植されるので,健苗を育成

するうえで,種もみの選別には特に留意すべきである。

Page 24: 作物生理_応用編

14

2 播 種 量 ( 播 種 密 度 ) と 苗 素 質 と の 関 係

野 菜 類 や タバ コ な どの よ う に , 苗 が 大 き く な る と 仮 植 な どの 管 理

を して い る 作 物 は , 苗 床 で 苗 が 密 生 す る こ と が な く , 密 播 して も 苗

素質を悪化させるということはない。

しかし水稲では,播種密度が苗の生育に非常に関係が深く,草た

け ・ 苗 令 ・ 分 け っ 数 ・ 風 乾

苗50本の風乾重例

重 の いず れも , 単 位 面 積 当

りの播種量が少なくて薄ま

き に な る ほ ど す ぐ れ , 太 い

2合まき苗ができるし,また苗の生

4合まき長速度は,播種量が少ない

0 1 0 2 0 3 0 4 0 5 0 6 0 B

第2図播種量と苗の生育との関係(山田氏)水稲もみ5勺は約50g。1合は約100g。3.3m2にそれぞれ5勺,1合,2合,4合まいての試験である。

ほ ど 速 い 。 厚 ま き に な る ほ

どこの逆の現象が起こる。

厚 ま き す る と , 各 個 体 間 の

葉 が お 互 い に 繁 り あ ってくる の で, 光 の あ た ら な い よ う に な っ た 下

位の葉は光合成が衰え,また地上部全体に光が不足ナるから軟弱に

なり,同時に徒長する。

第2図は,水稲の播種量と苗の風乾重との関係を示したものであ

り,60日めの苗では,5勺まき(3.3m’当り約5ogまき)は4合まき

(3.3m’当り約400gまき)よりも風乾重が4倍以上になるというよう

な,大きな差を生じている。

3水稲の苗代様式と苗素質との関係

水稲の育苗法にはいろいろの様式があるが,畑苗代と水苗代に大

Page 25: 作物生理_応用編

§ 2 . 育 苗 に つ い て の 生 理 1 5

別 す る ことができる。これら両者の苗を比較すると,畑苗は水苗に

比べて窒素やでんぷんの含有量が多いが,水苗では窒素の含有量が

増加すると,でんぷんの含有量が減少するという関係があり,これ

らのちがいが,移植後の発根力すなわち活着において,畑苗がまさ

っている原因となっている。

畑 苗 は , 苗 の 質 も 硬

く,葉の表面からの水

分 の 蒸 散 も 少 な い の

で,植えいたみが少な

い。したがって,移植

後 の 初 期 は , 根 数 も 根

第7表畑苗と水苗の発根力(佐藤氏)

苗の種類 発根数 発根長 発根重 同 比 発根率

水 苗べ

畑 苗

本13.9

Cm

8.9

mg2.0 100

%2.4

16.6 12.0 14.9 136 24.5

(苗代EI数40日の苗についての調査)

の伸長も大きく,窒素の吸収量も多く,茎葉の生長が盛んである。

このように畑苗は,移植後の水田での窒素の吸収力が大きいので,

もし基肥としての窒素量が多いときは,窒素を吸収しすぎて,体内

のアンモニアや可溶態窒素(アミノ酸)の含量が多くなりやナく,

したがって組織も軟弱になるので,イモチ病iこlかかりやすくなる。

また畑苗は,水田に移植してからのち,生育の後期までケイ酸の

吸収がやや少なく,葉や穂くびの表皮細胞にたまるケイ酸量が少な

いので,表皮細胞のケイ質化が劣り,イモチ病菌が表皮から侵入し

やナくなり,イモチ病にかかりやすい形質となる。

一般に根から吸収されたケイ酸は,水に溶けた形で水といっしょに上昇し,

水は葉身や穂くぴの気孔から大気中に蒸散し,ケイ酸は葉身や穂くぴの表面の

表皮細胞にたまり,表皮細胞がケイ質化ナる。イモチ病菌は表皮から侵入する

から,表皮細胞にケイ酸が多くたまると,菌の侵入が困難となる。しかし畑苗

Page 26: 作物生理_応用編

16

は,水苗に比べてケイ酸の吸収がやや少ないうえ,葉の表面から蒸発する水分

が少なくて,体内でケイ酸が上昇移動する働きが劣るため,葉や穂くぴの表皮

細胞にたまるケイ酸量が少なくなる。

畑 苗 は 水 苗 にく ら べ て 旱 害 に 強 い が, こ れ は , 本 田 初 期 の 根 の 伸

長 が 盛 んで 根 が 土 中 深 く 入 る こ と と , 水 苗 よ り も 葉 の 水 分 蒸 散 量 が

少 な い こ と , ま た 細 胞 の 浸 透 圧 が 高 い , と い う よ う な , 耐 旱 的 な 形

質をもつようになっていることによる。

4 日 光 ・ 温 度 と 畑 作 物 の 苗 素 質

苗 床 で 苗 を そ だ て , そ の 苗 が あ る 程 度 生 育 して か ら 定 植 ナ る 果 菜

類・葉菜類・タバコ・サツマイモなどの作物は,定植時の苗素質が,

目的とナる収穫物の収量・品質に非常に密接な関係をもっている。

苗の質をよくナるためには,苗床における日光・温度などについ

第8表苗床環境を異にして養成したサツマイモ苗の性能(戸刈氏)

試験区形 質

標 準 区 遮光I区 遮光II区

採 苗 時 の 苗 生 体 重拝 披 苗 生 体 重挿 捨 苗 炭 水 化 物拝 植 苗 全 窒 崇拝 捨 苗 C / N 率拝 披 苗 乾 物 率塊 根 重大 い も 数小 い も お よ び 枝 根 数

14.2g

6.2g

21,0%

4.41%

4.75

14.1%

14.3g

1.0

4.3

10.5g

4.4g

15.6%

5.18%

3.01

11.4%

14.8g

1.2

3.3

7.7g

3.9g

10.3%

4.99%

2.06

9.0%

11.1g

0.7

0.9

標準区ガラス室内育苗。日射量は戸外の約1/2遮光I区ガラス室内で苗鉢を更にガラス箱に入れ,早朝のみ標準区より2°C

気温を低下させた。特に湿度が高い。遮光n区ョシズをかけてI区より日光量を少なくした。各区とも30日間処理,5~6節苗を供試

Page 27: 作物生理_応用編

§ 2 . 育 苗 に つ い て の 生 理 1 7

ての 管理が非常にだいじである。いかに施肥や潅水について十分に

管 理 を して も , 日 光 ・ 温 度 を 無 視 して は , 良 苗 を 育 成 す る こ と は で

きない。

第8表は,サツマイモの苗素質が塊根(いも)の収量に及ぼす影響

を調べた試験結果である。この成績をみてもわかるように,光の強

さを減らすと,苗の重さ,体内物質は減少し,水分は増加する傾向

にあって,苗は若い状態のままである。特に,炭水化物の減少が著

しく,C/N率が小さくなり,苗は不健全なものとなる。そしてこれ

らの苗を植えつけた場合,塊根重(いも重)は標準区・遮光I区は大

きく,光の弱い遮光n区は小さくなっている。大いもの個数も,同

じ傾向にある。塊根重・大いも数とも,遮光I区のほうが,標準区

よりやや大きくなっているが,これは,強光は老苗を作り(乾燥・

無 窒 素 も 老 苗 を 作 る ) , 肥 大 し や す い 根 が 多 く , 形 成 層 の 活 動 は 盛

んで あ る け れ ど も , 木 化 が 速 や か に 進 行 して , い っ た ん 塊 根 へ 発 達

し始めたものも,大いもにまで生長できないからである。いっぽう

幼苗は,肥大しやすい根が少なく,根の伸長速度ものろく,形成層

の 活 動 も お くれ る が, 木 化 は 進 ま ず, こ の 木 化 が 進 ま な い こ と が 大

いもの形成に有利であると考えられる。

ウリ類の花芽は,雌花になったり雄花になったりするが,この性

の発現は,日長・温度のような環境条件によって変わりやすい形質

で あ る 。 と く に キ ュ ウ リ や カ ボ チ ャ で は , 雌 花 ・ 雄 花 の で き か た

は,日長・温度と関係が深く,とりわけ生育初期のそれと大きな関

係がある。したがって,苗床時期の日長・温度の管理が非常にたい

せつなことになってくる。

Page 28: 作物生理_応用編

18

キュウリは低温によって雌花が多くできるようになるが,とくに

夜温の影響が大きい。雌花が多くできるようにするためには,昼間

は生育の適温で育て,夜温を13~15 °Cぐらいの低い温度にするの

が最適である。しかし10 ° C 以下に夜温が低下すると,かえって雌

花の分化を妨げるし,また,苗そのものの生育もおくれてしまう。

ま た キ ュウ リ の 多 くの 品 種 は , 苗 を 短 日 下 で 育 て る こ と に よ っ

て , 雌 花 が 多 く で き る よ う に な る 。 た と え ば , 春 き ゅ う り の 場 合

は,日長は8時間程度のときがよく,それ以上あまり日長を短くし

た短日処理下で育苗を続けると,苗の生育が不良になり,定植後も

生長抑制的な現象が続いて,生産が低下する。

育苗期の日長を15時間以上の長日にすると,雌花原基のそばにある雄花原基の発育が盛んとなって,雄花だけができてくる。また約7時間以下というごく

短い日長にすると,かんざし苗となって,雌花だけが集まる奇形苗ができる。

したがって,キュウリ床のコモかけ作業も,このような日長時間を考えて実施

ナベきである。

第 9 表 は , 育 苗 時 の 温 度 と 雌第9表半促成の節成性と収量(高知農試)

育苗温度主枝40節までの雌 花 着 生 率総 収 量(20株当) ‰栞

高 温中 温低 温

50.0%

54.4

72.5

61.9kg

63.2

53.1

33%

3221

供 試 品 種 : 新 埼 落播 種 期 : 高 温 区 1 月 2 8 日

中温区1月23日低 温 区 1 月 1 3 日

定植期:3月5日各区と11,本葉5~6枚育苗温度:(午前9時のの地温)高温区26~21 °C平均23.2 °C中 温 区 2 1 ~ 1 7 ° C 1 9 . 2 ° C低 温 区 1 6 ~ 1 0 ° C 1 3 . 2 ° C

花 着 生 率 と の 関 係 を 示 し た も の

であるが,低温区は主枝40節ま

で の 雌 花 着 生 率 が 高 く な って い

る。しかし,あまり下方から雌

花 が つ いて 節 成 に な る と , 果 実

を太らすだけの株の力がまだな

いから,せっかく着いた雌花の

発 育 が お くれ た り , ま た 下 方 の

果 実 に 養 分 が と ら れて , 上 方 の

Page 29: 作物生理_応用編

§ 2 . 育 苗 に つ い て の 生 理 1 9

雌 花 が し ぽ ん だ り , 発 育 不 良 の 変 形 果 に な っ た り す る 。 さ ら に , 側

枝 の 出 か た も 悪 く な り , 収 穫 中 期 に 収 量 を 多 く す る 側 枝 の 果 実 が 減

少 す る こ と に も な り か ね な い 。 こ の よ う な こ と も 十 分 注 意 して , 温

度管理をしなければならない。

以上のようなキュウリの育苗期間中の低温・短日処理は,本葉5

~6枚までの間に行なうが,定植後の栽培期間中の雌花の着生は,

ほとんどこのような処理の影響によっている。

カボチャもまた,育苗期の短日処理で雌花の着生が多くなる。

タバコの育苗でも,苗時期の日長・温度が将来の花芽の分化に関

係 が 深 く , た と え ば , ブ ラ イ ト エ ロ ー と い う 品 種 で は , 苗 床 に 仮 植

したころから日長・温度に感じ始め,苗床での日の長さが短く,低

温 が 続 く と , 苗 床 末 期 に す で に 花 芽 の 分 化 が 起 こ る 。 こ の よ う な 苗

を畑に定植すると,十分に経済的な生育ができないうちに早く生長

がとまり,花が咲いてしまう。

トマト苗で花芽の分化が起こるのは,展開葉2枚ぐらいの小さい

時期である。育苗期間を通して,苗の発育,花芽の分化発達と温度

との関係からみると,子葉展開後1~2週間は比較的高温にして苗

の発育を促進し,その後は昼温25°C前後,夜温は平均15~16°C(最

低12 °C)にして,健全な花芽を数多く着けさせるのがよい。

またトマトは,果菜類の中でも,生育と花芽の形成に特に光の影

響 を 強 くう ける そ 菜 で, 光 の 量 が 多 い ほ ど よ く , 日 長 時 間 も 長 め の

ほうがよい(明るい時間力116時間までは,長いほど生育にも花芽の

形成にも促進的に作用する)。

花 芽 の 発 育 に は , 展 開 葉 4 枚 ぐ ら い か ら あ と の 苗 床 の 温 度 ・ 光

Page 30: 作物生理_応用編

- /

20

線 ・ 養 分 な ど が影響し,環境が不良であれば,やがてっぽみや花が

落ちる。

ナスは,温度が高いほど(昼30 ° C,夜25 ° C程度)苗の発育は

初めから盛んで,草たけ高く雪昌三垂七多く,葉面積も大きく,茎葉

重 も 重 い 。 花 芽 の 発 達 も , 温 度 の 高 い ほ う が 早 い 。 し か し 夜 温 が 高

く30 °Cぐらいであると,草たけ低く,茎葉重軽く,軟弱になり,

花 芽 の 分 化 は 遅 く , 着 生 位 置 は 高 く , 花 は 小 さ く , 短 花 柱 花 の 出 現

が多く,落花が多く,初期収量は少ない。

光 と の 関 係 で は , 日 長 が 長 い ほ ど 生 育 は 盛 ん と な り , 花 芽 の 分 化

が 早 い 。 ま た 光 が 強 い ほ ど 苗 は 強 健 と な り , 生 育 は 進 み , 花 芽 の 分

化は早く,着花部位は低くなる。光を弱くすると,花の発育がわる

く,開花がおくれ,花は小型で落花も多い。

ピーマンは,発芽促進のためには高温を保つ必要があり,床温30

~33°Cとして発芽させ,その後は昼は27~28°C,夜は22~23°C

に保っのがよいが,育苗の後期には,落蓄・落花を避けるために,

昼は25~26°C,夜は18~20°Cぐらいとする。移植後活着を助長す

るためには,床温を25~28°Cくらいに保ち,活着したら,20°Cく

らいにナるのがよい。

日長については,現段階では人工的に長日処理をするよりも,自

然条件下で育てたほうが早く花芽がつき,早く開花し,早く成熟し,

花の数も果実の数も多く,着果率もまさるといわれている。

Page 31: 作物生理_応用編

§ 2 . 育 苗 に つ い て の 生 理 2 1

5 健 苗 育 成

( 1 ) 水 稲

水 稲 の 健 苗 を 育 成 す る に は , 生 育 の 初 期 か ら 根 が よ く 発 達 し , 窒

素をはじめ必要な養分を十分吸収できるようにすべきである。その

ためには,苗代の水分・養分・温度・通気性などについて,ゆきと

どいた管理が必要である。

窒素の吸収が十分であると,地上部の伸長が盛んとなり,光合成

も 盛 ん に な る の で , 体 内 の 炭 水 化 物 も 増 加 す る 。 そ して 結 果 的 に

は,苗の体内の炭水化物が多くなり,炭水化物と窒素の比(C/N率)

が 大 き く な る 。 こ の こ と は , 発 根 力 が す ぐ れて いて 移 植 後 の 活 着 が

良好となり,また組織が強くなって病虫害にも侵されない良い苗と

いうことを意味している。

反対に窒素の吸収量が少なく,C/N率があまり高くなると,苗が

老 化 し , 分 け っ 力 や 発 根 力 が 衰 え , 本 田 で の 活 着 や 初 期 生 育 が 劣

り,極端な場合は,苗のままで幼穂分化が始まることがある(苗で

幼穂分化を起こしたものを本田に移植すれば,不時出穂をする)。

( 2 ) 畑 作 物

畑作物の苗は,定植前のある期間を日光に十分あて,昼間はもち

ろん夜間も,支障のない限り被覆物や障子を除いて外気にあて,潅

水 を さ し ひ か え る 。 こう す る と , 生 長 が 鈍 り , 葉 は 小 型 で 厚 く な

リ,作物によっては,ろう質物が多くなったり,花青素がよく出た

りして,かたい感じのものになる。このような現象を硬化(ノヽ -ド

ニング)と呼んでいる。

硬 化 し た 苗 は , 定 植 し た と き に , 硬 化 し な い 苗 よ り も 植 えい た み

Page 32: 作物生理_応用編

一 一

22

が 少 ない。体内の生理的な変化としては,体内自由水の割合が減少

して結合水の割合が増し,でんぷんが減少して糖分やペントサンが

増加し,細胞の浸透圧が増大する。蒸散量は減少し,キャベツのよ

引こ耐寒性を増すものもある。

硬化苗が植えいたみの少ない理由は,主として,苗の体内に炭水化

物の蓄積量が多くなって発根がよく,蒸散量が少ないので,移植後

におこる水分の損失が少ないためであると考えられる。また,定植後

の低温や乾燥などの不良環境に対して抵抗力が強いためでもある。

硬化の程度は,野菜の種類,育苗中の条件,苗の取扱法などで変

わるのはもちろんであって,その程度が過ぎれば,苗の生育を遅ら

せ,定植後も,活着はよいけれども伸長を開始するまでに時間を要

し,結局発育や開花・結実をおくらせて不利になる。

トマトの良苗作りを例にあげると,本葉3枚のころから夜間の気

温を下げておくと,苗が充実し,花の質がよくなり,花のそろいも

よくなる。具体的にいえば,本葉が3枚出たあとは,夜温の最低温

度は12~13 °Cくらいにし,本葉5枚ころから本格的な夜冷を行な

うのである。夜冷の温度は9~10 ° Cくらいを最低限度とし,決し

て5 ° C以下には下げないように注意ナる。昼間は約26 ° Cぐらいの

適温を保つようにする。

6 接 木 育 苗 の 台 木 と 接 穂

現在栽培されている果樹類は,遺伝的にみると遺伝子の構成がき

わめて雑であり,自家授粉または同一品種間の交配によってできた

種子をまいても,親と同一形質の新個体ができないような遺伝子構

Page 33: 作物生理_応用編

§ 2 . 育 苗 に つ い て の 生 理 2 3

成 に な って い る か ら , 結 実 し た 種 子 を ま いて 同 一 品 種 を 増 殖 して い

くことはできない。したがって,もっぱら,接木・挿木などの栄養

繁殖によって,その優良な遺伝形質を維持している。

接木によって繁殖する場合,台木に何を使うかによって,特殊の

風土に対する適応性や病虫害に対ナる抵抗性が異なるだけでなく,

樹勢や果実の形質などに及ぼす影響も異なってくる。

これは,台木の種類がちがえば土壌中における根群分布の深さが

異 な る か ら , と い う た め ば か り で な く , 生 理 的 に も , 養 水 分 の 吸 収

力が異なるので,接穂の生長にさまざまな変化を生ずるのである。

〈カンキツの接木〉

カンキツ類は種類がたくさんあり,また台木の種類も多く,台木

と接穂との親和性も複雑な関係にある。カンキツ類の台木と接他の

親和性の程度は,接着部の異常肥大現象を観察すれば判定できる。

す な わ ち , 台 木 と 接

穂 が 完 全 な 親 和 性 を 示

すときは,第3図の1

(中央)のように,接

着 部 が な め ら かで, 幹

の直径も同じくらいの

太 さ に 育 って ゆ き , 生

理 機 能 や 生 長 が, 両 者

り昌けまー

2 1 3

第3図カンキツの台木と接穂の間の親和関係

うまく均衡が保たれている。

このような高い親和性を示す組み合わせは,小根占台に早生温州

を接ぐ,黄金柑台に早生温州を接ぐ,夏撥台に温州ミカンを接ぐ,

Page 34: 作物生理_応用編

24

ヤ マ ミ カ ン 台 に 日 向 夏 を 接 ぐ 。 ズ 台 に 日 向 夏 を 接 ぐ , な ど の 場 合

である。

第3図の2(左端)のような形態になると,台が倭化し短命とな

る。第3図の3(右端)のような形も,穂の部分の燧化によって短

命 と な る 。 カ ラ タ チ 台 に 温 州 ミ カ ン を 接 穂 し た と き や, 夏 役 に 早 生

温州をついだときなどは,この3のような傾向がみられる。

台 木 が 接 穂 の 生 育 に 及 ぼ す 影 響 と して は , 次 の よ う な こ と が 認 め

られている。すなわち,カラタチ台に接いだ温州ミカンは,接木後

早 く 結 果 年 令 に 達 し , 豊 産 で, 果 実 は 果 皮 が 薄 く な め ら かで, 浮 皮

も少なく,色が濃く,熟期が早く,他の台木に接いだものより品質

がすぐれている。同じ温州ミカンをュズ台に接いだ場合は,樹勢は

旺盛であるが,果実は一般に浮皮になりやすく,結果数が少ないと

きは着色がおくれたり,糖分が少なく,酸味が強く,淡白な風味に

なるなど,品質のよくない場合もある。一般に温州ミカンの台木と

しては,最初カラタチで始め,やがて樹勢が弱まる前にュズなどの

根接をナる方法がとられている。

〈プドウの接木〉

接 穂 と 親 和 性 の あ る 多 くの 種 類 の 台 木 が あ って , そ れ ぞ れ 特 性 を

もっており,接穂は同一ものでも,台木のちがいによって接穂の生

育 に 差 が で き る 。 イ プ リ ッ トフ ラ ン や セ ン トジョ ー ジ な ど 喬 木 性 台

を使用したものは,樹の伸長力が非常に強いために,他の台木を使

用した樹と同様に管理していれば,ややもナると栄養生長しすぎて,

花芽の分化充実が不全に終わり,果穂が小さかったり,花振いを起

こしたりしやすい。また成熟期には,玉張り不十分,着色不良,糖

Page 35: 作物生理_応用編

§ 2 . 育 苗 に つ い て の 生 理 2 5

度不足などを起こしやすい。

逆 に グ ロ ワ ール の よ う な 倭 化 性 台 を 用 い れ ば , 樹 の 拡 が り は 比 較

的 小 さ く て , 生 殖 生 長 が 活 発 で あ り , 花 芽 の 分 化 充 実 が よ く , 果 実

も早熟となり,糖度も良好であるが,全体の収量はやや少なくなる

傾向がある。

また台木の種類によって,土壌の乾湿に対する抵抗力にも差があ

り,過乾・過湿のときは,台木の耐旱・対湿性の強さによって個々

の樹の生育が変わってくる。したがって,同一園には同一種類の台

木によって育成した,同じブドウ品種を栽培するほうが,管理上っ

ごうがよい。

〈リンゴの接木〉

リンゴの台木にはマルバカイドウ・ミツバカイドウなどが使われ

ているが,近年腰性化台木の研究が進められている。

〈ナシの接木〉

日本ナシの台木としては,主として栽培ナシの実生が用いられる

が,そのほかに半野生樹のヤマナシが用いられる。ヤマナシは根群

が 多 く , 耐 水 性 は 強 い が, 耐 単 性 は 弱 く , フ ラ ン 病 に 対 す る 抵 抗 性

は相当強い。日本ナシ・西洋ナシ・中国ナシのいずれとも親和性が

強 い 。 マメ ナ シ は , 日 本 ナ シ ・ 中 国 ナ シ に 対 して は , 西 洋 ナ シ に 対

す る ほ どの 親 和 性 が な い 。 ホ ク シ マメ ナ シ は , 西 洋 ナ シ と の 親 和 性

は良好で,日本ナシ・中国ナシに対しても,マメナシよりは親和性

が 強 い 。 マルメ ロ は , 西 洋 ナ シ の 台 木 と して 古 く か ら 利 用 さ れ , 台

木専用の多数の品種がある。なお西洋ナシには,マノレメロ台と親和

性の強い品種と,不親和性の品種とがある。

Page 36: 作物生理_応用編

26

〈モモの接木〉

モ モ の 台 木 と して は , 野 生 種 ま た は 栽 培 種 の 実 生 か ら 得 ら れ た も

のを用いる。モモ台の苗木は根群が太いため,養分・水分の吸収力

が 盛 んで, 乾 燥 に よ く 耐 え , や せ 地 で も よ く 繁 茂 し , 樹 の 寿 命 が 長

く,結果力も他の台木に比べて高い。ヤマモモ台は,耐旱性・耐寒

性ともに強く,モモとの接着良好であるが,耐湿性は弱い。

〈カキの接木〉

カ キ の 台 木 と して は , 栽 培 カ キ の 実 生 に よる も の や, マメ ガ キ が

使 わ れて い る 。 栽 培 カ キ の 実 生 を 台 木 に し た も の は , 深 根 性 で, 直

根が深く土中にはいり,養水分をよく吸収するので,乾燥に耐え,-

しかも耐水性が強い。しかし耐寒性がやや弱い。

栽 培 カ キ の 種 子 か ら 台 木 を 育 て る と き , 自 家 授 粉 に よ って で き た

種子をまいて育成した台木は,一般に生育不良で,個体間が不揃い

となりやすいが,富有や次郎などのように雌花だけをつける品種の

他家授粉によってできた種子から育てた苗木は,生育・伸長のよい

台木となる。

マメガキ台は,渋ガキの大部分と接木親和性をもっているけれど

も,甘ガキの富有・次郎などとは親和性を欠いている。マメガキ台

は,高温・乾燥に対する抵抗性が弱い。

〈ウリ類の接木〉

近年ウリ類のうちキュウリやスイカなどでは,低温伸長性をよく

したりツノレワレ病を防いだりする目的で,接木が行なわれている。

キュウリの台木としては,カボチャの新土佐,フィシオフオリア

(黒種子カボチャ),白菊座などが使用されている。新土佐・フィシ

Page 37: 作物生理_応用編

§ 2 . 育 苗 に つ い て の 生 理 2 7

オフオリア台の苗は低温伸長性もすぐれおり,白菊座台の苗はツノレ

ガレ病の回避に有効である。

キュウリは,接木栽培すると,果型が乱れやナい傾向がある。な

かでも太く短い形のものや,肩部の大きい割に柱頭部;う1細いもの,

さらにこれらの中間的な果型を示すものが多く認められる。特に前

期の収穫果に不正常果が多い。

スイ カ で は 。 ウ ガ オ や カ ボ チ ャ が 台 木 と して 利 用 さ れ る 。 ュウ

ガオ台は,吸肥性は大きいが寒さ1こ弱い。カボチャ台は,初期生育

がすぐれ,低温伸長性がュウガオ台よりまさっているが,ツルボケ

を起こしやすい。カボチャ台の場合,品種によって接木不親和性の

ものがある。たとえばカボチャの「新土佐」という品種を台木とす

る場合,スイカの品種によって,よく接着するものと,接着せずに

生育しないものとがある。マクワウリは,白菊座台とは親和力がわりあいにあるので,一般

に多く利用されている。

Page 38: 作物生理_応用編

28

§ 3 . 苗 の 移 植 の 生 理

I 植 え い た み と 生 育

苗を移植する場合は,苗を土中から掘り取るのであるから,根の一部が切られることになる。そのため移植後,水分の吸収が十分で

きず地上部がしおれたり,あるいは養分の吸収ができずに生育が一

時停止する。

移 植 の 際 の 植 えい た み の 程 度 は , 作 物 に よ って 差 異 が あ り , 回 復

に多くの日数がかかるもの,あるいは回復できずに枯死しやナいも

のなどもある。植えいたみの少ない作物ほど新根群の発生が速く,

したがって養分・水分の吸収も,早くから順調に回復する傾向があ

る。植えいたみの程度の軽重を,根の組織についてみると,植えい

たみの少ない作物は,根の再生力が強く,根の表面の木栓化がおそ

711 WII0 0 

茎葉重(タ)

3 71014日移植後日数

総根長(こ

移植後日数一 根 の 完 全 な も の

ー -… - - - 3Qs{こ切ったものー ・ - ・ - ・ 一 根 元 か ら 全 部 切 っ た も の

第 4 図 水 稲 苗 の 断 根 と 活 着 と の 関 係

( 北 海 道 農 試 星 野 氏 )

い が, 植 えい た み の ひ ど い 作

物 は , 苗 を 掘 り 取 る と き に 切

断 さ れ た 根 群 の , 新 根 の 再 生

力 が 弱 い の で, 養 分 ・ 水 分 の

吸収活動を速やかに始めるこ

とができにくいものと思われ

る。また野菜類の根の組織で

は,植えいたみのひどいもの

は,根の木栓化が早く起こり,

したがって再生力に乏しくな

Page 39: 作物生理_応用編

§ 3 . 苗 の 移 植 の 生 理 2 9

ると考えられる。

植 えい た み の 程 度は,苗令にも関係しておリ, 幼苗ほど植えいた

みが少ないが,これは根の切断の割合が少ないことと,幼苗ほど根の

再生力が強いことによるものと考えられる。このよぅなことから,

移植に弱いマメ類などでも,幼植物のときなら移植ができる。

水稲では,苗取りのとき,できるだけ断根しないよぅにして取っ

た苗がよく,根を切ると植えいたみが多く,活着がおくれ生育が劣

る。第4図は,水稲苗の断根と活着との関係を示したものである。

最近は,植えいたみのひどい作物について,移植時の断根防止の

た め , 紙 袋 ( ペーパー ポ ッ ト ) ・ 素 焼 鉢 な ど で 育 苗 を す る 方 法 も 行

なわれている。

ニ ン ジ ン。 ゴ ボ ウ ・ ダイ コ ン な どの よ う に , 直 根 が 肥 大 す る 野 菜

類は,まず直根が土中深く伸長してから,肥大を始めるもので,も

し生育の途中に移植をナれば,この肥大する直根を切りやすい。直

根 が 切 れ る と , 側 根 が 直 根 に か わ ぅ て 伸 長 す る が, 側 根 は 枝 分 か れ

したり,曲がったりしやすく,また長くて太いものにならない。生

育 の 進 ん だ 段 階 に あ る も の ほ ど , 移 植 に よ って 分 岐 根 が 発 生 し や す

Vへ,

第10表は,ダイコ

ンの移植によって分

岐 根 が い か に 多 く 発

生するかを調査した

第10表ダイコンの移植が岐根率に及ぼす影響(藤井氏)

品 種 名 区 別 直根本数岐根本数 岐 根 率

時無ダイコン 直まき移 植

191

05

2125.55%

100.00

練馬ダイコン 直まき移 植

188

31

17

1668.29

84.26

も の で あ り , 移 植 す る と ほ と ん ど 分 岐 根 に な る こ と を 示 し て い る 。

エ ン ド ウ ・ ソ ラ マ メ ・ イ ン グ ン な ど の 豆 類 , マ ク ワ ウ リ ・ シ ロ ウ

Page 40: 作物生理_応用編

W = 一 一 一 一 一

30

リ・スイカ・ノヽクサイなどは,移植すると活着が悪く,したがって

その後の生育が不良となる作物である。

果 樹 類 で は , カ キ が と く に 植 えい た み し や す く , 苗 木 の 定 植 や 若

樹 の 移 植 後 の 枝 の 生 育 は き わ め て 不 良 で , 植 付 後 2 ~ 3 年 も た っ

て,ようやく正常の伸長らしいようすを取りもどすことも少なくな

い。このように植えいたみがひどいのは,台木である実生カキが,

細 根 が 少 な く , そ の う え 新 根 発 生 能 力 が 弱 い こ と , あ る い は 掘 り 上

げ・運搬などで根が損傷されやすく,また乾燥に弱いこと,発根に

要する温度が比較的高く,植付後発根までに40~50日を要するこ

と,などが原因である。だから,植付後発根までの間の管理が不適

当であれば,植えいたみはいっそうひどくなる。移植後は水を十分

やったほうが活着がよいことになる。

カ キ の 根 が, 特 に 他 の 果 樹 類 の 根 よ り 損 傷 を う け や す い の は , 簡

部 繊 維 が 著 し く 少 な い こ と , 導 管 部 ・ 箇 管 部 と も に 他 の 果 樹 よ り 木

化程度が低いこと,などにもよる。

2 植 付 の 深 さ と 生 育

苗の移植の際,深植えしすぎると生育が不良になる。深植えナる

と,根部が土中深く埋められたようなかっこうになり,根の活動や

新根発生のために必要な温度・酸素などが十分でない場合が多い。

また,本来地上部であるべき茎葉が土中に埋まるので,新しい枝葉

の発生・伸長が阻害されるし,さらに苗の葉が埋れると,光合成が

できず,体内炭水化物の不足のため衰弱ナる。

逆 に , 極 端 な 浅 植 え は , 根 が 土 の 表 面 近 く に あ って , 水 分 不 足 を

Page 41: 作物生理_応用編

§ 3 . 苗 の 移 植 の 生 理 3 1

起こしやナいし,またころぴやすく,地上部が不安定である。

寒冷地の水田稲作では,苗が深く植えられたか,浅く植えられた

かが,初期の生育だけでなく,収量にまで影響することが多い。本

葉第1葉が必ず地面上に出ているように植えるのがよい。深植えす

ると,下位分けつが生じないで,分けっ節が上にあがる。そのため

に活着が遅れるばかりでなく,下位の節からの強勢の分けつが減っ

て く る 。 極 端 な と き 浅 植 深 植

は,第5図右のよう

に,地中節間が伸長

し,二段根が生じ,

地 表 の 浅 い 節 位 か

ら,改めて分けっを

始め,根を発生し,

生 育 が 中 断 さ れて 遅

れる。また分けつが

まちまちとなり,出

穂時の穂揃いが悪く

なる。

第5図水稲苗の浅植えと深植えとの差異浅植えは下位節からの強勢分けっがみられる。深植えは二段根が生じ,地ぎわの節位から分けつが始まっている。

水稲の分けっは,分けっを生ずる節の付近の温度が30~32 °Cぐ

らいのとき,最も芽を多く出す。したがって,寒冷地や西南暖地の

早 期 栽 培 で は , 浅 植 え して , 日 中 温 度 の 上 昇 と と も に , 分 け っ を 生

ず る 節 の 付 近 も 高 温 に な る よ う に す る の が よ い 。 こ の 意 味 で, 本 葉

第1葉の節が地表面上にあるように植えるのがよいのである,

Page 42: 作物生理_応用編

32

3 サ ツ マイ モ の 移 植 時 の 葉 の 受 光 量 と 生 育

サツマイモの苗を移植する場合,苗についている葉がよく受光で

きるように植えるかどうかは,その後の生育に大きな影響があり,

移植時の受光面積(苗についている葉の数)が少なくなると,その

影響で発根数,いもの数,いも重が減少する。

第 n 表 は , 5 節 苗 で い ろ い ろ な 節 位 の 葉 を 摘 除 して 移 植 し た 場 合

に,また第12表は,9節苗の葉を前半部摘除・後半部摘除・全葉摘

除した場合に,それぞれ生育にどのようなちがいを生ずるかを調べ

た も の で あ る が, いず れも 葉 を 除 い た も の ほ ど 生 育 ・ 収 量 と も に 劣

っている。 ’ こ れは,生育初期の同化物質が多いか,少ないかが,そ

の後の生長に非常に影響することを示ナものである。

第11表受光面積とサツマイモの生長との関係(伊東・土屋氏)

各 節 位 の観 葉 の 有 無 イ モ 個 数 イ モ 重 地 上部重I I I Ⅲ Ⅳ V l n Ⅲ Ⅳ V 計○ ○ ○ ○ ○○ × ○ × ○○ × × ○ ○○ × × × ×

1.01.71.31.00.25.2

1.11.11.11.10.24.6

0.81.31.31.20.45.0

0.10.51.01.10.33.0

23.9g

12.3

14.3

n.8

207.2g

196.2

175.0

129.3

(注) ○印は親葉有 ×印は親葉欠

第12表受光面積とサツマイモの生長との関係(伊東・土屋氏)

区 別 つ る 重 つ る 長 さ 側づる重 同 長 さ イ モ 数 イ モ 重

標準(無摘葉)区前半部摘葉区後半部摘葉区全 葉 摘 葉 区

12.25g

12.00

11.95

8.05

41.40cm

40.65

37.50

39.40

3.3g

4.3

3.7

3.0

n.7c唵

15.6

16.3

11.9

9.1

8.4

7.7

2.6

437.2g

437.2

389.0

103.5

Page 43: 作物生理_応用編

§ 4 . 施 肥 に つ い て の 生 理 3 3

§ 4 . 施 肥 に つ い て の 生 理

I 土 壌 条 件 と 施 肥 法

(1)土壌の酸性度(PH)と各種栄養素の関係

土に含まれている各種の成分は,土が酸性になったり,アルカリ

性になったりすることによって,それぞれ溶けやすくなったり,溶

けにくくなったりする。第6図は,土の酸性度と,各種養分の溶解

度との関係を示したものである。

酸性の土では,水に溶出するアルミニウムや鉄が多くなり,これ

らがりん酸と結合して水に不溶性の物質となる。このようなことか

ら,酸性の土壌では,作物の肥料として施したりん酸の肥効が落ち

第 6 図 土 の 酸 性 度 ( P H ) と 養 分 の 溶 解 性

Page 44: 作物生理_応用編

-

34

て くる 。 と く に 火 山 灰 土 で は , アル ミニ ウム を 多 く 含 んで い る の

で,この傾向が著しい。

このほか酸性土では,土中の石灰や苦土などの塩基分が流亡して

しまうので,これらが欠乏すると同時に,モリブデン・ほう素など

の欠乏も起こりやすくなる。石灰が流亡して,土中に欠乏してくる

と,硝酸態窒素が土壌に吸収されにくくなるということもある。(酸

性の土では,土の中のアンモニアを吸着する力が弱まり,そのため

施した肥料中のアンモニアが流亡して,ききめが落ちるノ。また,土

が酸性になると,土中の有機物を分解する土壌微生物の活動が衰え

るので,堆肥の分解がにぷり,肥効が現われにくくなる。土壌微生

物の活動は,酸性度6.5~8.0の範囲が最も盛んなのである。

りん酸は,酸性度6.5以下になると溶解度が小さくなるが,これ

は酸性度6.5以下では,鉄やアルミニウムの溶解度が増加し,これ

がりん酸と結合して,水に溶けにくくなるためである。りん酸はま

た,酸性度7.5~8.5のアルカリ性の範囲でも溶解度が減ずるが,

これは,炭酸石灰が土に多すぎるために起こる。8.5以上になると,

再び溶解性を増してくる。しかし,酸性度8.5ともなると,土のア

ルカリ性そのものが作物の生育に不適であったり,他の多くの微量

要素が不溶解性になったりして,作物の根の活力がなくなり,生育

不良になる。

畑地では,酸性が強いほど,施されたりん酸は鉄やアルミニウム

と化合し,利用されないようになる。だから酸性の強い土では,多

量のりん酸を施さないと作物に吸収される量は少ない。酸性の強い

畑では,りん酸を施す前に石灰を施して,土の酸性度を中性の状態

Page 45: 作物生理_応用編

§ 4 . 施 肥 に つ い て の 生 理 3 5

に 改 良する必要がある。しかし酸性を中和するため石灰を施しすぎ

て,上がアルカリ性になると,作物に必要な銅・亜鉛・マンガン・

鉄などが溶けにくくなり,したがって微量要素欠乏を生じやすい。

酸性の上では,苦土(マグネシウム)も欠乏しているのが普通で

ある。また鉄やマンガンは溶解性が増し,作物に吸収されやすい形

になる。マンガンの溶解性が増すことは,作物にマンガン過剰症を

起こさせることになり,ミカンの酸性土壌園での異常落葉なども,

その例と考えられている。

銅は,土壌に石灰などが施用されて,土の酸性度がアルカリ性に

なると溶けにくくなる。亜鉛は,土の酸性度が6~7のときに,溶

解度が低下する。したがって,過分の石灰の施用も,亜鉛欠乏を起こ

させることがある。また,りん酸をミカン園などに多量に施すと,亜

鉛とりん酸が土中で結合し,水に不溶性の化合物となる。日本では

ミカン園にりん酸を多量に施して亜鉛欠乏が発生することがある。

モリブデンは,酸性土壌では,りん酸と同じように,鉄やアルミ

ニウムによって固定され,作物に吸収されにくい不溶性化合物にな

る。そのためモリブデンを欠乏土壌に施用するときは,りん酸と併

用するようにすればよい。土壌に石灰を施すと,モリブデンの溶解

性が増してくる。

ほう素は,酸性土壌では溶脱されやすく,したがって酸性土壌ほ

どほう素施用の効果が現われる。

以上は,各種栄養分について,土壌の酸性度がどのようなときに

作物に利用され,またはされにくい形になるかを述べたものである

が,作物自体のかわからすれば,それぞれ種類によって生育に適当

Page 46: 作物生理_応用編

〃 ミ ご ‾

36

な酸性度の範囲が異なっている。第13表は野菜類についてその例を

示したものである。作物の作付にあたっては,土の酸性度と作物生

育の関係をよく考え,作物の生育にあった土にするか,土の酸性度

にあった作物を栽培するようにすることが望ましい。

第13表各種野菜の生育に適当な酸性度(PH)の範囲(THOMPSON氏)

PH6.0~6.7 PH5.5~6.7 PH52.~6.7 PH4.8~5.4

ア ス パ ラ ガ ス

テ ン サ イ

ラ イ マ メ ( 塑 性 )ノ ベ ナ ヤ サ イ

メロン(カンクノレープ)ノ 々 - ス ニ ッ プ

ホ ウ レ ン ソ ウ

イ ン ゲ ン ( 芙 用 )

キ ャ ベ ツセ ル ジ ー

キ ュ ウ リ

タ マ ネ ギエ ン ド ウ

ニ ン ジ ン

ラ イ マ メ ( 大 粒 )ノ ヽ ツ カ ダ イ コ ン

ス イ ー ト コ ー ン

サ ツ マ イ モ

ト マ ト

カ ブ

バ レ イ シ ョ

( 2 ) 無 機 要 素 の 桔 抗 と 相 助

作物が無機養分を吸収ナる場合,たとえば,カリ分が多量にある

と,苦土の吸収が妨げられて苦土欠乏が現われることがあるし,り

ん酸が多いとモリブデンの吸収がよくなるなどの現象がみられる。

このように,作物が無機養分を吸収する際に,ある無機要素は他の

無機要素の吸収を抑える作用(措抗作用)があり,ある無機要素は,

他の無機要素の吸収をよくするという働き(相助作用)がある。

桔 抗 の 例 と して は , 石 灰 は 亜 鉛 ・ 鉄 ・ 苦 土 ・ ほ う 素 な どの 吸 収 を

妨げ,カリは石灰・苦土,銅はマンガン,窒素はカリ,亜鉛は鉄,

マンガンはモリブデン,鉄はマンガン・モリブデン,りんは銅・亜

鉛,鉄はりん,りんは鉄,塩素はりんの吸収を,それぞれ抑える。

相助を示すものとしては,りんの存在はモリブデンの吸収をよく

Page 47: 作物生理_応用編

§ 4 . 施 肥 に つ い て の 生 理 3 7

し,りんと苦土は互いに吸収を助け,カリは鉄の吸収をよくし,ケ

イ酸と苦土は互いに吸収をよくしあう。このようなことから,水稲

では苦土肥料を施すとケイ酸の吸収が増加する。

桔 抗 作 用 の 例

銅 →

窒 素 →

亜 鉛 → 鉄

マ ン ガ ン → モ リ ブ デ ン

マ ン ガ ン 鉄

カ リ

→{マン ガ ン

モ リ ブ デ ン

り ん

太字の元素が存在すると,対応する元素の吸収が妨げられることを示す。鉄とりんは相互に払抗作用がある。

相 助 作 用 の 例

( 3 ) 水 田 土 壌 と 施 肥

水田の土壌は精粗さまざまな粒子からできている。最もあらい粒

子を砂(直径2~0.02mm),最も細かい粒子を粘土(0.002mm以下),

その中間の大きさをシルト(0.02~0.002mm)と呼んでいる。

粘土分が多い土を埴土,砂の多い土を砂土,この中間の状態にあ

るものを壌土という。埴土は粘りけが強く,養分の保持力は強いが,

耕しにくく,透水性が不良である。砂土は養分の保持力は少ないが,

透水性は高い。壌土は粘りけも適当であるし,また砂のような感じ

もする。以上のほか,実際の水田では,埴土と壌土の中間を埴壌土,

砂土と壌土の中間を砂壌土として,土性を5つに分けている。

砂 土 一 砂 壌 土 一 壌 土 一 埴 壌 土 一 埴 土

Page 48: 作物生理_応用編

r ″ ‾

38

土の色は,表層ほど黒色がかっているが,この黒色は,いろいろ

な程度に分解しつつある有機物(腐植という)を含むからである。

水田に潅水して湛水状態にしておくと,土壌が還元状態になり,

土中の鉄は水に溶けやすい2価鉄(第1鉄)となって,土壌中を水

とともに移動する。排水して通気がよくなり酸化状態になると,水

に溶けにくい3価鉄(第2鉄)となって沈澱する。マンガン・もほぼ

鉄と同じような動きかたをする。

湛水状態の水田に施されたりん酸は,第1鉄と結合するが,この

第1鉄は水に溶けやすい。

硝酸は一般に土に吸着されにくく,水といっしょに流亡する。だ

から水田に窒素肥料を施すとき,硝酸態の窒素を施すと,水とともに

流れ去って水稲が利用する割合が少なくなる。またアンモニア態で

施しても,1~2週間も潅水せずに畑状態でおくと,硝酸態に変わ

り,湛水したときに水とともに流失するおそれがある。

生ワラや未熟の堆肥などを水田に施用し,すぐ湛水して稲を植え

ると,これらの有機物が水田の土の中で腐っていく過程で,土中の

酸素を多く消費する。ところが水田では酸素が少ないので,鉄・硫

酸・マンガンなどの酸化的化合物のもつ酸素がこれに利用され,還

元されて硫化水素・2価鉄(Fe)2価マンガン(μ[n]・有機酸の

ようなものができ,これらが根の養分吸収を阻害し,あるいは根ぐ

されの原因になる。レングであれば,水田にすき込んだ場合でも,

ただちに分解が起こって,水稲に吸収されるアンモニアを出すが,

稲ワラの場合は,ワラ自体に含まれる窒素量が少ないので,土中の

微生物によって分解される際,初めは土中のアンモニアを奪ってし

Page 49: 作物生理_応用編

§ 4 . 施 肥 に つ い て の 生 理 3 9

だ いに腐敗してゆき,あとになってから分解してアンモニアを放出

ナるようになる。ヮラに硫安・石灰窒素などを加えて堆積し,腐敗

してから水田に施すと,このようなことにならない。

泥炭層からできている水田は,有機物の含有量が相当に多く,

強酸性のことが多いから,中性または塩基性肥料がよく,そして窒

素・りん酸・カリの3要素をいちように施す。この場合,暖地を除

き,基肥重点で施す。またケイ酸施用の効果が高い。泥炭土壌は有

機物の含量がきわめて多く,この有機物は分解しにくい性質のもの

で,水稲の養分源となりにくいから,堆廐肥の施用効果が大きい。

そしてこのような水田では,客土や排水の効果も大きい。

年間いつも湛水しているような排水不良田では,通気性が悪いた

めに土壌中の鉄の大部分が二価鉄に還元され,そのため土が青緑色

になっている。このような土壌をグライ土壌と呼んで,水稲の生育

には極めて悪い状態である。

グライ層のできている土壌は,土の還元性示強いから,硫酸根肥

料を施すと,還元されて硫化水素を発生するので,根ぐされを起こ

し,稲の秋落ちの原因となる。また強還元により土中にある有害な

有機酸や硫化水素が蓄積し,それによって,根の養分吸収が悪くな

る。したがって,このような水田には,無硫酸根肥料を用いるとと

もに,ケイ酸や苦土を施用するとか,カリの増施を心がけるように

する。施した肥料分が溶脱することは少ないから,基肥重点の施用

がよい。未熟な堆廐肥を施用すると,土の還元をいっそう強くする

から,完熟したものを用いる。堆廐肥の施用効果は一般に低い。

グライ層を形成する水田土壌は,一般に地温が低いので,田植後

Page 50: 作物生理_応用編

40

初期の生育は不良で,後期には土中の窒素を多く吸収しすぎて,稲

が窒素過剰になりやすい。

水田の作土中の鉄やマンガン等の塩基が下層に溶脱し,このため

作 土 中 に 塩 基 が 欠 乏 し , 鉄 欠 乏 に よる 「 根 腐 れ 」 現 象 が 発 現 し , 秋

落現象を呈する水田を老朽化水田と呼ぶ。老朽化水田では,秋落ち

を軽くするために無硫酸根肥料を施用し,暖地ではとくに窒素の追

肥,ケイ酸・苦土の施用,堆肥の施用が必要であり,優良な粘土や

山土などの客土,含鉄資材の施用,などの効果が大きい。

黒色火山灰からなる水田では,りん酸の多施用,ケイ酸や苦土の

施用が効果がある。

(4)永年作物園の土壌と施肥

同一土地に長い年月にわたり生育をしている果樹類・茶などの永

年作物は,園地の土壌条件,施肥技術などによって生育を大きく左

右される。作物が健全な姿で順調に生育を続けるためには,根の生

育をよくすることが必要である。根の生育をよくするための土壌管

理としては,根群が十分生育伸長できるだけ有効土層を深くするこ

と,地下末位を低くなるようにして根の湿害を防ぐこと,排水およ

び土中の通気性をよくすること,土中の土粒の間隙を適度に保つこ

と,酸性度を適正にすること,などがたいせっである。

当初は土壌条件が同じような園であっても,長い年月の間の土壌

管理・肥培管理が適当でないと,だんだん土性・土質が悪くなり,

果樹の生育そのものが悪くなるばかりか,たとえばミカンの異常落

葉 , 茶 の 黄 化 や 立 枯 れ 現 象 , リ ン ゴ の 粗 皮 病 な ど の 現 象 が 現 わ れ

る。このような生理病にかかった樹木の根をみると,健全樹のもの

Page 51: 作物生理_応用編

よりも分布が浅くなっている。

第7図は,ミカン園の浅耕・

深耕,さらに深耕に施肥を併用

した区の根群発育の状況をくら

べたものである。

Aの浅耕区は異常落葉を起こ

した樹で,根の分布をみると表

層近くに大部分が分布して浅く

(深さ15cm付近が多い),Bの深耕

区の根群は30cm付近が多く,

Cの深耕と施肥を併用した区は

さらに根群の発達がよい。この

土 10

20の深

さ(`)

§ 4 . 施 肥 に つ い て の 生 理 4 1

細 根 量 ( 新 鮮 重 y )1 0 2 0 3 0 タ

に潔;ia,;乙;;な 勺第7図ミカンの土壌管理による細根群の新生

(奥地進氏)A.浅根で異常落葉した樹B.深耕区C.深耕に施肥を併用

試験での施肥は,樹冠外周直下に直径60cm,深さ50cmのタコツ

ボを1樹あたり5か所掘り,1か所に炭カル1.5kg,溶性りん肥

1.0kg,微量要素10gを施用し,また6~11月の間,毎月1回,0.03

%のモリブデン酸アンモン液を葉面散布したものである。

このように,単に樹周を深耕して物理性を改善するだけでなく,

同時に,適切な施肥をすることが重要である。

耕 土 の 浅 い 園 や, 土 が 老 化 してそ の た め に 根 が 老 化 し た 園 で の 深

耕・中耕などは,秋11月中には終わるようにする。なぜならば,中

耕・深耕のとき傷っいた根のカルス発生(癒傷組織発生)は,年内の

温度の高い時期でないとよくできないし,また12月以降寒くなって

傷 っ い た 根 は , 冬 の 間 はそ の ま ま で, 春 温 度 が 高 く な って か ら カ ル

スができてくるので,新根発生がおくれて,4~5月の初期生長に

Page 52: 作物生理_応用編

一 一

42

まにあわないからである。

2 施 肥 法 と 作 物 の 生 育

( 1 ) 施 肥 め 位 置 と 生 育

作 物 に 肥 料 を 施 す 場 合 , 吸 収 活 動 の 盛 ん な 根 群 の 多 く 分 布 して い

る場所に施すのが最も合理的である。

一般に果樹類では,・地上部の枝のひろがり(樹冠)と,根群の水

平的な分布との間には密接な関係があり,ふっう,枝がひろがるに

っれて,根も広くのびてゆく。とくに養分の吸収の盛んな細根類は

樹冠の外周直下に最も多く分布している。このようなことから,肥

料は,地中のいずれの位置の根にも吸収されるように施すのがよい

ことになる。

樹園における施肥法としては,第14表のリンゴの施肥法をみる

と,全園施肥は,輪状施肥に比べて,根の総本数も,養分の吸収に

関係ある細根数も多く,1樹当りの果数,1果平均重のいずれもま

さっている。・第14表施肥法がリンゴ(国光,26年生)の果実収量に及ぼす影響(須佐氏)

区 別 1樹当り個数 1樹当り総重量 1果の平均重

全 園 散 布 区

輪 状 施 肥 区

254ヤ100)

214(87)

kg36.5(100)

28.7(78)

g149(100)

134(90)

()内の数字は全園散布区と輪状区との比率

40年生の富有カキ成木の根の活力分布の調査(農研渋谷氏)によ

れば,カキは30~60Cm,の深さに活力根が最も多く分布しておJり,

Page 53: 作物生理_応用編

§ 4 . 施 肥 に つ い て の 生 理 4 3

数量的にみると,地表面から深さ30cmまでの層の4倍量が30~60

cmの深さの層にあって,深さ60~90cmの層にもなお養分吸収をナ

る活力根が分布している。

施肥の深さは,樹の根群の分布の深さ,肥料の種類,施肥の時期

な ど に よ って ち が う が, 基 肥 で は 深 層 施 肥 を して も , 追 肥 で は 比 較

的 浅 く 施 す の が よ い 。 そ の 理 由 は , 休 眠 期 に は 土 を 掘 り かえ して 多

少 根 を 損 傷 して も , そ の 影 響 は 著 し く は な い が, 生 長 期 間 中 は 少 し

でも根を傷つけると吸水が衰えるので,地上部に悪影響があるから

である。

果樹では根群の大部分は地表下30~40cmぐらいまでの間に分布

していて,施した肥料のうち,りん酸は表層土壌に吸収されてしま

い,根の分布している下層に達するのが少ないから,根の分布して

いる土中深く施す必要がある。静岡県かんきつ試験場で20年生の杉

山 系 温 州 ミ カ ン 樹 を 用 いて , り ん 酸 肥 料 の 吸 収 に つ いて , 輪 状 施 肥

と全面施肥の場合とを比較調査した結果では,全面施肥区が輪状施

肥区の2.2倍量のりん吸収をしている。

施肥にあたっては,各要素が適量ずつの割合で混和されたものが

よいが,モモで三要素の部分施肥をした試験によると,窒素を部分

的に施用した場合は,全面散布にくらべて,木の生育は劣り,とく

に窒素を施さない側の新梢の伸びが不良となった。根群も,窒素を

与えない側の分布が少なくなるが,そのかわり窒素を施した部分に

は,補償的に細根が増加するので,全体としては根量が半減ナるこ

とはない。葉や細根中の窒素の含有量は低下し,カジの含量が増す

傾向がある。葉,細根の窒素の含有量は,施さない側は少なくなる。

Page 54: 作物生理_応用編

44

リん酸は部分的に施しても,全面的に施した場合と生育差はほと

んどないカ乳葉や細根中のりん酸の含量は低下し,細根では施さな

い部分で特に低い。しかし新梢葉では,窒素の場合のように,施さ

ない側でとくに低いということはない。カリについてもほぽりん酸

と同じ傾向と思われるということが,結果としていわれている。

植 物 の 根 は , 肥 料 分 の あ る 所 に 向 か っての び て 行 く 性 質 を も って

いる。したがって,水稲の苗代のようなものでは,床土を深く耕し

て肥料を混入すると,苗の根が床中深く伸長して,苗取りがしにく

くなるから,肥料は床の表層面3~6cmの層に混入するのがよい。

あまり浅ければ,肥料が水に溶けたとき濃厚液となって,種もみの

発芽を害する。

サ ツ マイ モ は , い も の 肥 大 発 育 が 盛 ん に な る こ ろ か ら , い も 根

(将来塊根になる根)の細根が深層に分散し,生育後期まで盛んに

養 分 を 吸 収 す る 。 し た が って 深 層 施 肥 が よ い 。 サ ツ マイ モ の 深 層 施

肥の方法としては,やせた畑では地下30~40cmの深層に窒素・り

ん酸・カリの三要素を入れるとよいし,肥培管理のよい肥沃な畑地

では同じく30~40cmの深層に,三要素ならびに三要素中の一つで

あるカリを増量して加えるとよい。カリが十分あると,イモ体内で

のでんぷんの合成,転流が円滑になるからである。

( 2 ) 肥 料 の 形 態 と 作 物 の 生 育

施 肥 に あ た って は , 作 土 の 土 性 ・ 土 質 , 作 物 の 種 類 , 生 育 の 時 期

な ど に よ って , 施 ナ 肥 料 の 形 態 を ち がえる ほ う が, 生 育 に よ い 影 響

を与えることがある。たとえば,酸性の強い畑では,過りん酸石灰

中のりん酸は,鉄やアノレミニウムと結合して,作物に吸収されにく

Page 55: 作物生理_応用編

§ 4 . 施 肥 に つ い て の 生 理 4 5

く なるが,溶性りん肥を施すと,これは水には溶けないでクエン酸

に溶けるから作土中で鉄・アルミニウム・石灰などと化合して作物

に利用されなくなるということがない。溶りんと作物の根が接触す

ると,溶りん中のりん酸と結合していた苦土・石灰が,根の表面に

ある水素と直接おきかえられる。そこで溶りん中のりん酸が離れて

根に吸収されやナくなるのである。

同じ窒素にしても,硝酸態窒素(N03 -N)を好む作物と,アン

モニア態窒素(NH4-N)を好む作物がある。水苗代では,初期は

とくにアンモニア態窒素を与えないと生育が非常に悪い。

第15表はいくっかめ野菜について,硝酸態窒素とアンモニア態窒

素の割合をちがえて生育の差をみたものであり,一般に畑作物は硝

酸態窒素が多いほうが生育がよいが,アンモニア態窒素が1割ぐら

い混入しているのが最も良好である。

第15表硝酸態窒素(N03-N)とアンモニア態窒素(NH4-N)の割合と野菜の生育(岩田氏ら)

野 菜 名施 用 し た N 0 3 - N と N H 4 - N の 混 合 比

10:0 9 : 1 7 : 3 5 : 5 3一一7 1 : 9 O:10

ト マ ト 茎 葉 重インゲン(jl又量)カブ(地上部重)ホウレンソウ(/Oキャベツ(葉重)タマネギ(地上鄭重)

120.4g

l07.5

33.0

10.9

157.9

30.8

117.6g

108.2

38.7

8.6

182.2

30.9

116.2g

97.7

36.7

8.4

162.1

30.1

107.7g

85.4

29.5

8.6

145.6

28.2

72.0g

35.0

22.0

7.1

76.1

22.2

41.5g

7.0

13.9

4.0

36.1

12.4

21.2

8.0

5.5

1.5

19.9

4.0

(砂耕栽培試験による生育の比較)

畑では作物にアンモニア態窒素(硫安など)を与えても,土中で

硝酸化成作用が行なわれて,硝酸態窒素に変わるので,実際の施肥

Page 56: 作物生理_応用編

4 6 , =

には硫安などを与えてもさしつかえはない。

<各種の化学肥料と作物・土壌との関係>

硫安肥料成分は窒素で,速効性で肥効が高い。強い生理的酸性を示

し,多量の硫酸を含んでいる。したがって多量連用すれば,硫酸の過剰集積に

よる有害作用も出る。硫酸は,排水不良田や有機物の多い水田では,8月の高

温期には還元されて硫化水素となり,稲に根ぐされを起こし,根の活力を弱め

る。また硫酸が土中tこ集積することは,土の酸性が強くなることになり,作物

の生育に悪い影響も出る。

尿素生理的`には中性の肥料で,有機性の窒素を含む。肥効の持続1性も

ある。

塩安土中での硝酸化成抑制があるため,硝酸の初期生成が尿素の1/3,

硫安の1/,程度となり,水田では湛水が少し遅れても肥効が劣らない。塩安は塩

素を多く含んでいるが,塩素は極めて溶脱されやすい成分であるから,土中に

集積されないといわれているが,土中の塩基物と化合して,その塩基を著しく

溶脱する。したがって苦土・鉄・マンガン・カリなどの塩類の欠乏を起こすと

思われる。また土を酸性化するので,石灰の併用が望ましい。酸性をきらう作

物には施用しないほうがよい。

石灰窒素石灰窒素はアルカリ性の窒素肥料で,連用しても土壌を悪化さ

せない。その主成分はシアナミド態で,そのままでは作物に有害であるから,I

作物に直接ふれないよ引こ,土とよく混合して施すようにすれば,害がなくて

土中微生物による分解も順調に進む。

硝安アンモニアと硝酸の結合した生理的にも中性の肥料で,連用して

も害がない。しかし水田では,硝安の硝酸態窒素の部分が流亡および脱窒しや

すい。また畑地では濃度障害を起こしやすいので,根の付近にやらないように

ナる。過りん酸石灰水溶性で速効のあるりん酸が主成分である。寒地ではとく

に,このような水溶性りん酸でないと初期の吸収が行なわれがたい。過りん酸

Page 57: 作物生理_応用編

§ 4 . 施 肥 に つ い て の 生 理 4 7

石 灰 は , 化 学 的 に は 強 酸 性 の 肥 料 で あ る の で, 種 子 に 直 接 ふ れ な い よ 引 こ 施

す。

溶 性 り ん 肥 ・ B M 溶 り ん り ん 酸 の 形 が ク エ ン 酸 に 溶 け る よ う に な っ て い

るもので,ほかに石灰・苦土・ケイ酸,その他の微量要素を含んだアルカリ性

の肥料であるから,連用しても土を悪化させることがない。したがって火山灰

土・酸性土・開拓地・泥炭地・微量要素欠乏土壌などにはとくによい。作物の

根の近くに施すほうか肥効が高く,接触しても害はない。寒地では過りん酸と

併用するのがよい。

硫酸加里・塩化加里硫安・塩安と同様,強い生理的yls2性肥料であり,そ

れぞれ加里分のほかに硫酸・塩酸を含んでいるので,この作用により作物に苦

土欠乏があらわれている耕地もあるから注意すべきである。

( 3 ) 各 種 要 素 の 施 用 と 生 育

ア 。 作 物 の 養 分 吸 収 量

作 物 は , そ の 種 類 に よ り , ま た 生 育 の 時 期 に よ り , 吸 収 ナ る 要 素

量 に 差 異 が あ る 。

野 菜 類 で し ら べ た も の で は , 窒 素 吸 収 量 の 多 い も の は ト マ ト ・ ノ ヽ

ク サ イ ・ レ タ ス ・ キ ュ ウ リ ・ キ ャ ベ ツ な ど で , 吸 収 量 の 少 な い も の

は タ マ ネ ギ ・ イ チ ゴ ・ ダ イ コ ン な ど , 中 間 の も の は ナ ス ・ ピ ー マ ン

な ど で あ る 。

り ん 酸 吸 収 量 の 多 い 野 菜 は ノ ヽ ク サ イ ・ キ ュ ウ リ ・ ト マ ト ・ , キ ャ ベ

ツ , 吸 収 量 の 少 な v ヽ も の は タ マ ネ ギ ・ ピ ー マ ン ・ ナ ス ・ レ タ ス , 中

間 の も の は ダ イ コ ン ・ イ チ ゴ な ど で あ る 。

カ リ の 吸 収 量 の 多 い 野 菜 は ト マ ト ・ レ タ ス ・ キ ュ ウ リ ・ ナ ス , 少

な い 野 菜 は タ マ ネ ギ ・ イ チ ゴ ・ ダ イ コ ン , 中 間 の も の は キ ャ ベ ツ ・

ノヽヽクサイ・ピーマンなどである。

Page 58: 作物生理_応用編

48

第16表は,野菜類の養分吸収量を調査したものである。一般に窒

素 ・ り ん 酸 ・ カ リ の 吸 収 の 多 い 野 菜 は , 石 灰 ・ 苦 土 の 吸 収 も 多 い 傾

向がある。トマト・キュウリ・ノヽクサイ・キャベツなどは,三要素

の吸収の多い野菜であるといわれている。

またマメ科牧草はりん酸・カリの吸収量が多い作物であり,相当

多く施すのがよい。

第16表野菜の養分の吸収量(単位:kg/a)(農林省農試徳永氏)

種 類 作 物 の期待収量 窒 素 りん酸 カ リ 石 灰 苦 土

キャベツ(秋まき)/ ダ ( 春 ま き )

ノ ` ・ ク サ イ

ダ イ コ ン

タ マ ネ ギ

ト マ ト

ナ ス

600~700

250~320

700~800

500~600

600~700

700~900

250~300

2.0~3.0

0.9~1.9

2.8~3.7

1.5~2.9

0.8~1.7

2.1~2.8

0.8~1.2

0.3~0.7

0.4~0.5

0.6~0.9

0.5~0.9

0.3~0.6

0.6~1.0

0.2~0.4

2.4~3.0

1.5~2.4

2.7~3.1

2.0~3.1

1.0~1.8

2.6~3.4

0.8~1.8

0.6~1.4

0.9~1.4

0.8~1.4

0.9~1.8

0.3~0.4

-

0.3~0.9

0.3~0.5

0.2~0.4

0.3~0.6

0.3~0.7

0.1~0.2

-

0.2~0.3

イ。 施 肥 の 量 と 生 育

作 物 に 肥 料 を 施 す 場 合 , 生 育 の 各 時 期 ご と に , 作 物 が 要 求 す る 栄

養 素 を , 必 要 量 だ け 補 給 して や る よ う な 施 肥 法 が 最 も 望 ま し い 方 法

である。不足すると生育不良を起こし,過剰の場合もまた,とりか

えしのっかない生育障害または生育過剰を起こすことがある。

化学肥料の過剰害としては,最も直接的なものは,肥料が水にと

けて土中の水の塩類濃度が高まり,作物が水分を吸収できなくなる

濃度障害である。また,石灰窒素のように,接触して作物体を殺す

ものもある。

各要素中では,とくに窒素の過剰の害がもっとも一般的である。

症 状 と して は , ① 地 上 部 に 比 して 根 量 が 少 な い , ② 体 内 に ア ミ ノ 酸

Page 59: 作物生理_応用編

§ 4 . 施 肥 に つ い て の 生 理 4 9

な ど が集積し,代謝異状となる。③低温・高温・日照不足・強風な

ど気象的不良環境による被害が大きい,④成熟が遅延する,⑤倒伏

し や す い , ⑥ 病 害 虫 の 被 害 が 大 き く な る , ⑦ 旱 ば つ の 被 害 が 大 き

い , ⑧ 収 穫 物 の 品 質 が 低 下 す る , ⑨ か ん き つ 類 で は 異 常 落 葉 が あ

る,などの現象を生ずる。

イネ 科 牧 草 で は , 窒 素 の 要 求 度 が き わ めて 大 き く , そ れ だ け 施 肥

の効果が大きい。基肥の窒素量が少ないと,一番草から欠乏症が出

る。その後窒素の追肥をしないと,根が地表面に発達して,土壌有

機物が可給態窒素に分解する働きが不良となるため,例外なく窒素

欠乏症がでる。イネ科牧草の窒素欠乏症状では,葉色が黄化し,茎

が細く葉身の幅が狭く,生育が遅々として進まない。この症状は,

生育最盛期の刈取後,およびりん酸・カリその他の養分だけ十分に

施した場合,いっそう助長されやすい。

ウ。 微 量 要 素 と 生 育

作物の生育に必要とする多くの要素のうち1っでも欠乏すると,

生育が不良になるとともに,その要素欠乏特有の特殊な生理的生育

障害の症状が現われる。窒素・リん酸・カリの三要素については一

般 的 に 留 意 さ れて い る の で, 欠 乏 す る こ と は ほ と ん ど な い し , ま た

不 足 して も わ り あ い に 気 づ き や す い が, そ の 他 の 微 量 要 素 に つ いて

は,ややもすると土壌中に十分存在するかどうかということが忘れ

ら れ が ち で あ る し , 過 不 足 の 判 断 も 困 難 な も の が あ っ た り ナ る の

で,常に作物の生育をみながら,それらの過不足について注意する

ことが必要である。

ここでは,作物栽培において最も不足による障害の出やナい微量

Page 60: 作物生理_応用編

50

要 素 の 欠 乏 症 に つ い て , の べ る こ と に す る 。 ・ I

石灰(カルシウムCa)は茎葉に多く含まれ,子実や果実などには少なく,

また作物体内では移動しにくい。だから,生育中はたえず根から必要量だけ吸

収されていなければならない。最近トマト・レタス・タマネギ・ノヽクサイなど

で石灰欠乏症が発見されている。作物の石灰欠乏は,作物体に吸収されうる有

効態の石灰が土中に不足していることにもよるが,他の肥料成分,たとえば窒

素やカリの過施用が,作物体における石灰欠乏症の発生を促しているものとも

考えられている。

トマトのしりぐされ病,セルリーの心ぐされ病,ノヽクサイ・キャベツ・タマ

ネギの心ぐされ病などは,いずれも石灰欠乏症である。

苦 土 ( マグ ネ シ ウム M g ) 酸 性 の 土 で は , 石 灰 だ け で な く , 苦 土 も 欠 乏 し

ているとみてだいたいまちがいがない。苦土が欠乏すると,下葉の古い葉から

枯れてくる。これは,新しい葉ができるとき,古い葉の苦土が新しい葉に移動

するからであり,この点,鉄や石灰と異なっている。

ブドウ・ミカン・リンゴなどに,雨の多い年,不足による症状がでがちであ

る。対策としては,苦土石灰・水酸化マグネシウム・硫酸マグネシウムなどを

施用する。?容性りん肥の施用もよい。カリ肥料を多用すると,苦土の吸収が妨

げられるので,カリの多施用の時には注意すべきである。

マンガン(Mn)マンガンは,酸性の土,あるいは土中に空気の欠乏しやす

い環境では溶解性が増し,作物に吸収されやすい形になる。強酸性土壌では,

マンガン過剰症が発生する傾向もある。土壌の酸性を改良するために石灰を多

用しすぎて,土がアルカリ性になると不溶性になり,欠乏症が出る。

リンゴでは,マンガン欠乏症状は,新梢の先端の葉から順次発生するので,

苦土欠乏と区別できる。

マンガンの欠乏対策としては,土の酸性度を高める,改良資材の施用,塩化

マンガンや硫酸マンガンの葉面散布・土壌散布などがある。分解しにくい腐植

質を多く含む土は,マンガン欠乏を起こしやすい。

Page 61: 作物生理_応用編

§ 4 . 施 肥 に つ い て の 生 理 5 1

鉄(Fe)マンガン同様酸性の土,あるいは空気の欠乏しやすい環境では,

溶解性がまして作物に吸収されやすい形となる。

鉄の不足に対しては,硫酸鉄を葉面散布するのが有効であるが,この場合,

鉄は植物体内を移動しにくいので,均一に散布し,しかも数回散布するほうが

効果がある。

銅(Cu)銅は土に石灰などが施用されて,土がアルカリ性になると溶けに

くくなる。銅欠乏の耕地には,10アール当り硫酸銅4kgぐらいを施ナ。

リンゴ・ウメ・モモなどでは,銅が欠乏すると若枝の樹皮に褐色のゴム状の

物質を含んだ水ぶくれができ,そこからゴムのような物質がでてくる。これは

硫酸銅溶液を葉面散布するとなおる。

銅の欠乏は,腐植の多い泥炭地の作物に出やすく,エンバク・野菜類・てん

さいなどでは,銅欠乏症を開墾地病ともいっている。

亜鉛(Zn)わが国では亜鉛の欠乏症は果樹類に出やすい。症状としては,

リンゴ・ナシ・モモ・ブドウなどの落葉果樹に発生して葉が小形になる小葉病

といわれるもの,ミカンの小葉病型の斑葉病などである。

ミカン園にりん酸を大量に施すと,亜鉛とりん酸は土壌中で結合し,水に不

溶性の物質になる。石灰の施用も亜鉛欠乏症を起こさせることがある。土中の

酸性度が6~7になると亜鉛の溶解度が低下する。

ダイズ・イングン・トウモロコシ・ホップ・ブドウなどは,亜鉛の吸収力が

弱く,欠乏症にかかりやすい。イネ・エンドウ・アスパラガス・カラシ・ニン

ジンなどは亜鉛の吸収力が強く,ジャガイモ・トマト・タマネギ・アルファル

ファ・てんさい・レッドクローバーは中程度である。

亜鉛欠乏の対策としては,硫酸亜鉛の葉面散布がよい。葉面に散布された亜

鉛は,他の部分へ移行するが,その速度は比較的おそい。土壌施用の場合は,

10アール当たり2k11程度硫酸亜鉛を施用するとよい。

モリブデン(Mo)モリブデンは酸性土では鉄やアルミニウムによって固定

され,不溶性になるので,作物に吸収されにくい。また作土に石灰を施すと,

Page 62: 作物生理_応用編

52

モリブデンの溶解性がましてくる。

モリブデンが欠乏すると,ミカン類は黄斑病になる。また作物の葉がコップ

のようになるとか,生育がとまる琲生症状などがある。モリブデンは,溶性り

ん肥・堆肥中にも含まれている。欠乏土壌に施すときは,りん酸と併用すると

施肥効果が大きい。

ほう素(B)ほう素が欠乏すると,ナタネの不稔,ダイコンの心ぐされと

か,ブドウではエピと呼んでいる症状が出て,実止りが悪く,無核小粒果がで

きる。リンゴでは果実の一部がコルク化する。ミカンでは幼果の果皮に褐色の

斑点ができ,果心部にゴムを生じ,早期落果が多くなる。ほう素は,体内では

移動しにくいので,生育中は根からたえず吸収されていなければならない。

欠乏症には,ほう砂を作土に施用するのがよい。

( 4)施設園芸における施肥

ビニールハウス内やガラス室内は,外界と環境条件が異なってい

るので,作物を植える土壌条件も異なっている。施された肥料は外

界ほどは流亡がないし,また室内は乾燥しやすく,下層にあった水

溶性の肥料が毛管現象によって水とともに地表に上がってくるし,

他面栽培は集約的であるので,肥料の施用量が多いなどの理由で,

や や もす る と 土 中 の 肥 料 濃 度 が 濃 く な ってくる こ と が あ る 。 し た が

って,何年も連作を続けているノヽウスやガラス室では,非常に塩類濃

度が高まってくる。このような塩類濃度の上昇は,作物の水分・養

分の吸収を不良にするばかりでなく,施された肥料の土壌中での形

態の変化にも影響して,作物に生理障害を発生させる。

塩類の濃度障害は,作物の種類や生育の時期によってあらわれか

たが異なっているが,種類別にみると,イチゴ・レタス・カブ・イ

ングン・ミツバなどが弱く,ナス・トマト・キュウリなどこれにつ

Page 63: 作物生理_応用編

§ 4 . 施 肥 に つ い て の 生 理 5 3

ぎ,ノヽクサイ・キャベツなどは強く,コマツナ・シュンギクは最も

強 い 。 ま た 生 育 時 期 別 に み る と , 発 芽 時 の 幼 植 物 が も っ と も 濃 度 障

害をうけやすい。

塩類の濃度障害を起こした作物は,葉は小さく,節間は短く,果

実 は 小 さ い 。 キ ュウ ジ で は 果 の 先 が と が り , トマ ト ・ ピーマ ン は 小

果となる。白い根は赤茶けてしまい,ひどいときは枯れる。昼間日

照が強くて高温になるにしたがってしおれ,夕方になると回復する

いわゆる「ねむり病」となる。

塩 類 の 集 積 の 多 い 場 合 は , 湛 水 して の ち 排 水 す れ ば 除 去 で き る

が,そのほか,天地返し,深耕,良質の堆肥の施用などによって除

くことができる。

施 設 内 に お ける トマ ト や レ タ ス に は , 石 灰 欠 乏 が で や す い 。 こ れ

は塩類濃度が高すぎる場合や,アンモニア態窒素やカリが多すぎる

場合に起こりやすく,また高温乾燥とか過湿になる場合などに起こ

りやすい。したがって,ノヽウス内の気温を急激に上昇させたり,土

壌水分を急に変化させないようにすることがたいせっである。

油粕や尿素などアンモニア態肥料が多量に施用されて塩類濃度が

高 い と き や, り ん 酸 の 不 足 , 土 の 酸 性 度 が 中 性 か ら アルカ リ 性 に な

っている状態のときなどは,土中に亜硝酸がたまり,これがある期

間続いて体内に吸収されると,若い葉は黄化現象を起こし,トマト

果実では「すじぐされ」が発生する。亜硝酸の量が多くなってくる

と,根が障害をうけ,変色する。

油粕など土に施すと,分解してまずアンモニア態窒素になり,つ

いで亜硝酸になり,さらに硝酸へと変化してから作物の根に吸収さ

Page 64: 作物生理_応用編

54

れるが,この過程において,土がアルカリ性のときは,アンモニア

ガスがノヽウス内に発生し,作物の葉から侵入して害を与える。尿素

も同様である。

また,土の中に亜硝酸が集積しているときに,土が硝酸で酸性に

なると,室中に亜硝酸ガスが発散して害を与える。

アンモニアガス・亜硝酸ガスの発生は,施肥量,肥料の種類,土

壌の種類や酸性度,水分および温度などによっても異なるが,要す

るに施肥量が多いと起こる。

3 炭 酸 ガ ス 施 用

最近ノヽウスやトンネル栽培あるいは苗代などで,生育をよくする

ために炭酸ガスが利用されている。自然の状態では大気中の炭酸ガ

スの濃度は約0.03%で,この状態のもとで同化作用が行なわれてい

るが,光や濃度の条件がよければ0.1から0.5%の範囲内では,炭

酸ガス濃度が高いほど同化作用は盛んとなリ,生育もすすむ。ガラ

ス室・ノヽウス・トンネル内などでは,炭酸ガスの濃度は,夜間は作

物の呼吸などによって0.04%ぐらいまで高くなるが,日が出て光合

成が始まると,急速に低下し,ノヽウス内の作物がよく繁茂している

ときは,換気をよくしても0.01%以下となることもある。このよう

なとき,炭酸ガスを補給し,0.1~0.15%まで高くしてやると,生

育の促進がみられる。

第17表と第18表は,炭酸ガス施用効果の成績であるが,水稲では苗

床で第1本葉展開のころから施用し始め,毎朝日の出のころに処理

するが,ノヽウス野菜では,炭酸ガスの濃度は標準の3~5倍にする。

Page 65: 作物生理_応用編

§ 4 . 施 肥 に つ い て の 生 理 5 5

第17表野菜に対するC02ガス施用効果

(1)トマト処理後37日め(福岡園試近藤氏ら)

地上部

生体重草たけ

展開

葉数第 1花房位

根 郎生体重

乾 物 重 開花日

月 日地上郎 根 部

対 照 区

C02施用区

g26.6

38.7

㎝42.9

52.2

枚7.4

8.0

9.0

7.8

g5.54

5.97

g2.32

3.80

g0.47

0.53

2.23

2.21

(2)ピーマン処理後37日め

地上部

生体重草たけ

展開

葉数

第 1

花房位根 部生体重

乾 物 重 開花日

月 日地上部 地下部

対 照 区

C02施用区

g5.4

6.6

Cm18.9

20.4

枚9.9

10.7

9.1

10.3

g3.79

4.87

g0.65

0.80

g0.33

0.41

2.28

2.27

品 種 名 ト マ ト 福 寿 2 号 ピ ー マ ン 緑 王播 種 日 1 2 月 2 5 日 1 2 月 1 2 日定 植 日 2 月 2 2 日 2 月 2 2 日

C02処理:1月6日~3月12日まで64日間。育苗期から定植後まで毎日

午前6~7時までの問に大気中濃度の3倍量を施用

第18表水稲ビニール折衷苗代の炭酸ガス施用効果

(長野県1111試原村冷害試験地田島氏)

調査月日 試 験 区 名 草たけ 茎 数 本葉数 根 数地上部20個体

生体重 乾物重5月20日

(聯)

C0 2 無 施 用 区″ 発 生 量 5 倍 区

////10//

13.3CⅢ

14.8

15.0

1.9本

2.0

2.1

4.7葉

4.8

4.9

11.6本

12.4

12.6

3.80g

4.30

4.90

0.80g

1.00

1.20

5月30日

原 幻

C 0 2 無 施 用 区

//発生量5倍区////10//

18.3

20.1

21.3

2.7

2.9

3.0

5.7

5.9

6.0

22.9

26.8

27.2

10.50

11.50

12.20

2.00

2.25

2.50

Page 66: 作物生理_応用編

56

チューリップやアマリリスの促成においても,炭酸ガスを施用す

ると,開花の促進がみられる。たとえばチューリップでは,12月10

日ころ,地上に第1葉が出始めたものから,炭酸ガス施用区と対照

区に分けて試験した結果,処理区は対照区より16~30日生育がすす

み,1月19日開花した。アマリリスでは対照区より10日ほど早く開

花し,花径は大きく,草姿はまっすぐに長く伸長した。この試験で

は,炭酸ガスは毎朝,大気中の標準濃度より4~5倍(0.12~0.15

%)になるように施した。

炭酸ガスを施用すると,植物体が体内に十分炭水化物を含有する

ことができ,したがって体内の各組織を充実させる。特に根系の発

達が著しいので,育苗および栄養繁殖の挿木にも利用できるものと

思われる。

Page 67: 作物生理_応用編

§5.濯がい・排水,作土の通気性と生育57

§ 5 .水田の濯がい・排水,作土の通気性と生育

I水稲の濯がい・排水と生育

水稲の生育を順調にし,収量を高めるためには,水は欠くことの

できない生理的に重要な要素である。

稲に対する水の役割は,

① 稲 の 植 物 体 と して の 生 命 を 保 つ た め に 必 要 な 水 分 で , こ れ が

不足すれば,生育不良または枯死にいたる。

② 生 育 中 の 稲 を と り ま く 環 境 要 素 中 の エ 因 子 と し て 稲 に 作 用

し,その生育に影響を与える。

の2つが考えられる。旱ばつによって水不足のため生育がゆがめら

れ る の は ① で あ り , 水 田 の 水 の 土 中 へ の 浸 透 や 中 干 し の た め の 排 水

によっておこる水田土壌内の理化学的な変化と,それが生育におよ

ぼす影響などは②に含まれる。

水 稲 が 生 育 の た め に 要 求 す る 水 量 は , 生 育 時 期 に よ ってそ れ ぞ れ

ちがっており,穂ばらみ期・出穂期が最大となり,出穂期を中心と

する1ヵ月間に,生育全期間に吸収する全水量の約60%を吸収ナ

る。また環境的には,日射の強さ,気温・湿度,風の強さ(風速)

などによって葉身からの蒸散量が変わるので,吸水量も変化する。

かりに1アール当り60kgの玄米を生産するとき,この場合の要水量を300,

もみすり歩合82%,もみ/わら比を1,水分含有率12%で計算すれば,1アール当り稲自体の水は26トンであり,1アールの水田では水深26cmぐらいの

水量である。(60kg-;-0.82×0.1;り《300=2(い00kg≒26t)

Page 68: 作物生理_応用編

6 8 ’ ニ ’

稲 へ の 潅 水を中止して旱ばつ状態にした場合,断水の時期によっ

て , 収 量 構 成 要 素 に お よ ぽ す 影 響 が 異 な ってくる 。 減 収 に 最 も 関 係

が大きいのは,穂ばらみ期から出穂,開花期の断水であり,この時

の水不足は子実の稔実を非常に悪くする。次は移植活着期である。

ただし,これらは水田の土中水分が極端に少なくなった時のことで

あり,もともと稲は,自体に吸収利用できる有効な水分が土中にあ

りさえすれば,湛水しておく必要はなく,むしろ冷水田,強還元田な

どでは,湛水はしないことによって,稲の生育のための土の化学的

環境がよくなり(稲の生育を阻害ナる要因がなくなり),増収し,

また水の節約にもなる。

以 下 , 水 稲 移 植 栽 培 に お ける 生 育 時 期 別 の 稲 と 水 と の 関 係 を 述 べ

ることとする。

〈本田初期〉

田植直後の活着時は,稲体自身が水分欠乏に弱いので,この時期

に水分が不足すると活着不良となり,それによる生育のおくれによ

って(とくに北日本の水田ではこのことによって),穂数または1

穂もみ数が減少する。寒地では,水田に湛水するばかりでなく,で

きるだけ深水にして稲からの蒸散をおさえ,移植のさいの断根によ

る吸水低下の影響を防ぐとともに,水温上昇による保温にっとめな

ければならない。

〈分けつ期〉

この時期は,稲は水分不足に対する抵抗力の大きい時期であり,

利用できる有効な水分さえ土に含まれているならば。無湛水でよい

時期である。分けっ期間のこのような節水栽培は,土の悪変化によ

Page 69: 作物生理_応用編

§ 5 . 濯 が い ・ 排 水 , 作 土 の 通 気 性 と 生 育 5 9

る根のいたみがなく,地上部の過剰栄養生長が節水によって押さえ

られるという利点もある。このような効果は,とくに暖地の稲作に

おいて著しい。分けっ期は,水温が稲に強い影響をもっておリ,水

温の昼夜間の較差が大きいと,茎数の増加,有効茎歩合の向上によ

る穂数の増加などに都合がよい。

〈有効分けつ期の中干し〉

田植え以後そのまま中干しせず湛水状態のままにおくと,窒素分

の多い水田では,過剰窒素吸収によって無効分けつが多くなリ,ま

た有効茎は下部節間が伸び,稗が徒長して倒れやすくなる。また水

温・地温が上昇ナるにしたがい,水田土壌内での土中微生物の働き

もしだいに活発になり,それに伴って土中の酸素が消費され,土の

還元状態が強まってくる。ある程度の還元は,酸化鉄の還元による

りん酸の有効化とか,マンガン・鉄・ケイ酸などが吸収されやナい

形になるとか,アンモニアの生成およびその安定な存在など,有利

なこともあ石が,強還元のときは,硫化水素(鉄不足の秋落田)・有

機酸(未熟な堆廐肥の多施用)など,根にとって有害なものが発生

し,カリ・ケイ酸・りん酸の吸収がとくに阻害される。

暖地では,強い中干しは,有効分けっ期から幼穂形成期の期間に

行なわれるが,この時期が,稲の水分不足に対する抵抗性のもっと

も強い時期である。

肥沃な水田では,土壌を常時湛水に保つと,最高分けっ期以降に

生育量の比較的大きい茎でも,枯れて無効分けっ化するが,有効分

けっ期に中干しを始めると,その後発生する茎(無効化する茎)は

大きくならないので,それだけ生育にむだがなくなることとなる。

Page 70: 作物生理_応用編

60

つまり,中干しによって過剰分けつの発生がおさえられるし,また

稲の葉が直立型となり,以後成熟期までの稲体の受光態勢がよくな

り,光もよくあたるようになるので,光合成が高まり,炭水化物の

体内蓄積量が多くなり,茎の下部の節間は短くつまり,稗長は短く,

丈夫になる。

中干しは,稲の繁茂に対しては抑制的に作用するものである。

〈幼穂形成期以降〉

この時期から後は稲は水を多く要求する。とくに穂ばらみ期から

出穂期にかけて,水の要求量は最大となる。この時期は,生理的に

も外界の影響を敏感に受ける時期であって,水分の不足は,もみ数

の減少,花粉形成,開花,やくの裂開および花粉発芽の不良などを

生じ,受精障害により稔実が悪くなるなどのため,減収の原因とな

る。しかしこの時期も,水分が十分あればよいのであって,深く湛

水する必要はない。間断潅水によって常時土中に水が十分あるよう

にして,同時に土壌が酸化状態に保たれ,根が常に健全であるよう

な管理も一つの方法である。

〈出穂期以降〉

登熟の初期は,まだ水分吸収量は多い。登熟期の水は,光合成お

よびその転流に影響するので,この時期の水分不足は,不完全粒数

を多くする。

〈水田の透水と稲の生育〉

水田で潅がい水が土の表面を横に流れ去らずに,常にある量ずつ

縦に土中に浸透していくことは,土壌に酸素が常に供給されること

にもなるので,土壌中の有機物の分解を促進するという点などでは

Page 71: 作物生理_応用編

§5.濯がい・排水,作土の通気性と生育61

有 利 であるが,一面では地力を消耗させることにもなる。したがっ

て,客土・深耕・堆肥増施など,地力を増強する対策がこれに伴っ

てとられる必要がある。また透水することによって,土壌中にでき

た遊離の炭酸ガス(C02)・硫化水素(I-ミ12S)・有機酸などは,水とと

もに流れ去るので,根の健全性を保っのにつごうがよい。透水区は

停滞水区にくらべて,根の先端の表皮細胞のうち,根毛を形成して

いる細胞数の割合が高く,根毛長が長く,またその寿命も長いとい

うことが明らかにされている。

〈水田の排水〉

水田の排水効果については,中干しの効果としても記述したが,

水田全般についての効果を要約すると,次のようである。

① 土 壌 中 へ の 酸 素 の 供 給 が 増 し , 土 の 異 常 還 元 を 防 ぐ。

② 水 稲 の 根 に 害 を お よ ぼ す 有 害 物 質 が で き る の を 防 ぎ , ま た 排

水のときの浸透水によってこれを除去する。

③ 稲 作 期 間 以 外 の と き 乾 田 化 して い る の で , 稲 作 時 に は 浸 透 性

のよい土壌構造になる。

④ 有 機 物 の 分 解 が 盛 ん に な り , 有 機 態 の 窒 素 も , 稲 が よ く 吸 収

できる形に変わる。

2 畑 作 物 の 濯 が い ・ 排 水 ・ 通 気 性 と 生 育

( 1 ) 濯 が い と 生 育 lかこ5

わが国の畑の土は,貯水能力の少ないものが多く,とくに花圈岩れき

土 壌 や 繍 の 多 い 地 帯 で は , 土 壌 の 貯 水 能 力 が き わ めて 低 い 。 わ が 国

の年間降雨量は,畑作物の水分要求量からみると,必ずしも不足し

Page 72: 作物生理_応用編

一 一 一 一一 一 一 一

62

ているとはいえないが,一般には7~8月は降雨量は少なく,丿とく

に雨の降らない日が何日も続くような天候も多く,その季節は蒸発

量も多く,しかも作物からみると最も生育の盛んな時期で,作物体

から大気中に蒸散する水分量も大きいため,旱ばつにかヽかりやナい

のである。したがって,これらの時期には畑地潅がいの効果が大き

V≒,

畑 地 潅 が い の 効 果 と して は

① 土 壌 水 分 が 安 定 す る の で , 遺 伝 的 に 耐 旱 性 を そ な えて い な い

作 物 で も 栽 培 可 能 で, 耐 旱 性 は 少 な く て も , 品 質 が よ く , 経 済

効果の高い作物の導入ができる。

② 適 期 植 え っ け が 可 能 で あ る 。

③ 施 肥 の 合 理 化 が し や ナ い 。

④ 寒 冷 地 で は 地 温 の 上 昇 が は か ら れ る 。

⑤ 土 中 に 苦 土 ・ 石 灰 ・ ケイ 酸 な ど が 増 加 し , 可 溶 性 アル ミ ニ ウ

ムが減少ナる。つまり土壌の酸性度の中和などによる地力の増

強に役だっ。

⑥ 除 草 剤 が 使 い や す く な る 。

⑦ 土 壌 微 生 物 の 活 動 が 活 発 に な り , 土 中 の 有 機 物 の 分 解 が 促 進

される。

など,多くのことがあげられる。

第19表は,黒色火山灰土の畑で,早期陸稲・サツマイモ・ダイズ

について,潅がい区と無潅水区の養分吸収量のちがいを調査したも

のであるが,潅水区の養分吸収,したがって生育がよいことが示さ

れている。

Page 73: 作物生理_応用編

§5.濯がい・排水,作土の通気性と生育63

第19表湿潤濯がいによる夏作物の養分吸収量の対無潅がい水区比率

(昭和34~36年,鹿児島農試鹿屋支場黒色火山灰土)

吸収成分よ 二 N P205 Cao Mgo SiO2

早 期 陸 稲サ ツ マ イ モダ イ ズ

107%

107

110

112%

114112

109%

120

123

113%.

120

1n

121%

〈野菜の濯がい栽培〉

野 菜 類 は 植 物 分 類 学 上 か ら み る と , 広 い 範 囲 に わ たる 植 物 群 を 含

んでおり,また同一種でも作期や栽培法が異なることもあるので,

生育時の消費水量もまちまちである。しかし一般的に共通している

ことは,野菜類は柔軟・多汁質なものが多く,イネ科の作物よりも

栽 植 密 度 が 疎 ( ま ば ら ) で, 1 個 体 あ た り の 蒸 散 量 は 多 く , ま た 夏

作野菜の要水量は大きく,冬作野菜の要水量は小さい,ということ

である。

第20表は,野菜類の要水量を調査した成績であるが,夏作野菜の

第20表野菜の要水量(農林省東海近畿農試古村氏ら)

作 物 名 要水量| 作 物 名 . 要 水 量

根 菜サ ト イ モ

シ ョ ウ ガニ ン ジ ン

バ レ イ シ ョ

果 菜ピ ー マ ン

ナ ス

ト マ ト

イ ン ゲ ンカ ボ チ ャ

486g

998297~614

167~650

625

423

350

444~773686~719

ス イ カ

茎 葉 栗レ タ ス ( 春 )セノレリー(秋)

キ ャ ベ ツ ( 秋 )■ ノ x ク サ イ

サ ン ト ウ サ イノ ヽ ヽ ナ ヤ サイ

タ マ ネ ギキ ャ ベ ツ

577g

183

463

196

329

473

581235

398

Page 74: 作物生理_応用編

64

中ではショウガ・ピーマン・ウリ類が大きく,秋冬作の野菜では,

ノヽナヤサイ・セルリーなどが要求度が高い。

蒸 散 量 は 同 じ で あ って も , 乾 物 生 産 量 の 少 な い 作 物 で は , 要 水 量

は大きいということになる。また同じ潅がい水量であっても,生育

時 期 に よ って 野 菜 類 に 与 える 影 響 は 異 な る の で, 野 菜 類 の 消 費 水 量

を要水量だけで考えることは不十分である。

野 菜 類 で は と く に , あ る 時 期 の 水 分 不 足 は 生 育 を 多 少 遅 ら せる 程

度 で あ る が, あ る 時 期 の 水 分 不 足 は と り かえ し の っ か な い 障 害 を 招

くことにもなるので,生育時期別にどのように水を消費するかを明

らかにしておくことがだいじである。一般に野菜の生育の最盛期は,果菜類では果実の肥大開始期,茎

葉菜類では繁茂・結球期で,この時期に全期間の消費水量の70~80

%を消費ナるものと思われる。だから潅がいも,このような生育相

にあわせて水量を考えるべきである。たとえば,サトイモは消費水

量の多い作物であり,イモの肥大分化期には特に要求量(消費量)

が多いので,この時期の潅水効果が大きい。

浅根性のタマネギ・キャペツ・チシャ・ショウガなどは,深根性

の トマ ト ・ カ ボ チ ャ ・ ア ス パ ラ ガ ス ・ ダイ コ ン な ど よ り 潅 が い 効 果

が大きい。またダイコン・ノヽクサイあるいは夏まきニンジンなどの

発芽期の潅水は,発芽のそろいをよくする。

果 菜 類 に 対 す る 潅 水 で は , 土 壌 水 分 の 急 激 な 変 化 や, 過 剰 潅 が い

は,裂果や病害を増加させるし,収穫後のいたみが速い。したがっ

て果菜類では,水のかけすぎをしないような注意が必要である。

Page 75: 作物生理_応用編

§ 5 . 濯 が い ・ 作土の通気性と生育65

〈果樹の濯がい〉

果樹に対する潅がい効果としては,第1に果実の大きさの増大,

形 状 の 変 化 が あ げら れ , ネ ーブル ・ 温 州 ミ カ ン ・ 富 有 ガ キ ・ 和 ナ シ

・ブドウなどで報告がされている。これは結局は,品質が向上した

ことになる。第2は成熟期の促進で,リンゴ・モモ・カキ・和ナシ

・ブドウなどについて報告されている。温州ミカンでは,夏の間に

1樹当り360Z,3回潅水したものは,無潅水のものに比べて約10日

間着色が早くなっている。ナシの二十世紀では,果皮をきれいにナ

る効果がある。

なお果樹類の生理的な耐乾性については,次のようである。

①モモは耐乾性が強く,湿害1こ弱い。

② ブ ド ウ は 耐 乾 性 強 く , 乾 燥 地 に よ く 育 ち , 耐 湿 性 も 強 い が,

過湿の直後に高温乾燥すると,日焼病など生理障害がある。

③ リ ン ゴ は 耐 乾 性 は 弱 い 。

④ ナ シ ・ カ キ は と も に 耐 乾 性 は 極 め て 弱 い 。 し か し カ キ は 深 根

性であるから,幼樹のときだけ乾燥に注意しておけば,成木に

なれば根が深く入るのでよい。

⑤ カ ン キ ツ 類 は 耐 乾 性 は 割 合 強 い の で あ る が , 葉 面 蒸 散 量 は 相

当に多く,そのため土壌水分を失う速度が速いから,夏季の乾

燥時,土壌水分が少なくなる時は潅がいの効果が大きい。

⑥ イ チ ジ ク は 生 理 的 に は 耐 乾 性 が 強 い が , 浅 根 性 で , 葉 が 大 き

く蒸散量が大きいことのために,旱ばつの害を受けやナい。

〈牧草の液がい〉

牧 草 の 潅 が い 効 果 に つ いて は , 他 の 作 物 に 対 す る 潅 水 と や や 内 容

Page 76: 作物生理_応用編

- 一 一 - 一 一 - 一 一

6 6 ∧ ・

が異なり,現在では,多量の水を掛流して,その肥培効果と保温効

果によって土地の生産力を高めるという目的が主であるとされてい

るが,保温効果の少ない暖地でも,肥培効果が高いと思われる。た

とえば愛知県でのある試験によると,冬中潅がいしただけで,無潅

水区の690kgに対して,潅水区は2,(500kgと,約3.8倍ぐらいの収

穫があったことが示されている。

〈ダイズの濯がい〉

ダイズの根の吸水量は,地上部の茎葉の生長にっれ増加するが,

他の子実を収穫する作物と違っているのは,開花始めから約2か月

間という長い間にわたり,吸水量の多い期間が続くことである。そ

してこの期間に全吸水量の約80%以上を吸収する。この2か月間は,

子実生産上からは最もだいじな時期であり,旱ぱつの被害を受けや

すい。したがって分岐期ないし開花始め以後の潅水の効果が大きい。

〈陸稲・畑作水稲の濯がい〉

イネの畑栽培の場合,水不足が生育・収量におよぽナ影響を生育

時期別にみると,分けっ期の旱ばつは穂数を少なくし,幼穂形成期

の水不足は1穂のもみ数の減少を,減数分裂期から出穂期では1穂

の稔実粒数の減少(稔実歩合の低下)をきたし,乳熟期の不足は千

粒重を軽くする。このうちで旱ばつ害の最も大きく発生するのは,

穂ばらみ期,とくに減数分裂期(出穂前10~15日ころ)および出穂

開花期で,ついで登熟期のうちの乳熟期である。とくに減数分裂期

や幼穂形成期は,外見上はしおれていないような程度でも,その時

の外界とのいろいろな関係などによっては著しい稔実障害を起こす

こともあるくらい弱い時期である。

Page 77: 作物生理_応用編

§5.濯がい・排水,作土の通気性と生育67

第8図は,陸稲の生育時期別の吸水量を測定したものであるが,

吸水量は水稲の場合と同様,穂ばらみ期前後は非常に多く,この時

期の水不足は生理的な被害を大きくすることがわかる。

第21表は,潅がい時

期と収量との関係の試

験成績であり,種まき

から収穫期まで十分に

水を与えた区が最も多

収で,ついで幼穂形成

期から穂ばらみ期まで

の潅水区が多収であ

1,000

800

0 8

開花期

10 11 12月

(注)玄米1石は;i J150kg

陸稲は,旱ばつになると栄養生長が停滞して,新しく出てくる葉は葉身は短

く,葉幅は広く,倭性型になり,内部的には水の欠乏に耐えるように変化し,一種の硬化現象がみられる。したがって,このように水分不足に耐えられるよ

うな形態に変化した個体ほど,またこのように変化しやすい品種ほど,耐旱性

が強いということになる。しかしあまりにも鴬性化したものは,収量も減少す

るので,栽培上からみると好ましくない。

試 験 区10アーノレ当り玄米収量

容 積 比 率

A 全 期 濯 が い 区B穂ぱらみ出穂期区濯がいC幼穂形成期から穂ばらみ出穂期濯がい区D 無 濯 が い 区

1.858石

1.542

1.771

1.272

146%

121

139

100

第8図陸稲の生育時期別吸水量(玉井氏)

り,この時期の水の必要性を十分に証明している。

第21表陸稲の濯がい時期と収量(海野氏)

f04り`

水量(咄)

Page 78: 作物生理_応用編

68

畑作水稲の一生涯の吸水経過は,陸稲と同様であり,したがって

潅がいの時期・水量なども,陸稲の成績を参考にして行なえばよい。

発 芽 を と く に 斉 一 に 速 く して , 初 期 の 生 育 を よ く ナ る た め に , 発

芽期に潅がいをすることもだいじなことであり,30mm程度の潅水

量で,無潅水区より20%も発芽がよくなった試験成績もある。そし

てこの場合,地表を十分しめらす散水潅がいがよいということにな

っている。

〈サツマイモの濯水〉

サツマイモのいも根(塊根)の好適水分は70~75%くらいである

といわれ,20%程度にまで水分が少なくなると,塊根ができない

と考えられている。植付後25~60日の間の旱ばつが最も収量に影響

するので,この時期の潅水が効果が大きい。イネやダイズでは,あ

る時期に吸水量が増大し,しかもその時期の水不足はとりかえしの

つかない被害を与えるが,サツマイモではこういうことはない。

( 2 ) 湿 害 ・ 土 壌 通 気 性 と 生 育

排水が不良で水が停滞すると,作物には湿害が出る。ひとくちに

湿害といっても,その内容は非常に多くの事がらを含んでおり,ま

だよくわかっていないこともある。湿害といえば,一般には土中の

水分が過剰になると起こると考えられがちであるが,必ずしも水分

が多量でなくても湿害が起こることがある。すなわち,土壌の孔隙

量 が 小 さ い 時 は , 少 量 の 水 分 で も 湿 害 を 起 こ す。 こ の こ と は , 湿 害

は土壌の水分過剰によって起こるということよりは,水分の増加に

伴って土壌中の空気量ないしは酸素量が不足ナるために起こるとい

うことを意味している。土中の酸素が不足すると,根の呼吸作用が

Page 79: 作物生理_応用編

§5.濯がい・排水,作土の通気性と生育69

害 され,その結果として無機養分および水分の吸収が順調に行なわ

れ な く な り , ま た 土 壌 中 へ の 酸 素 の 供 給 が 不 十 分 で あ る た め , 土 壌

中に化学的な変化,すなわち土壌の酸化還元電位の低下,亜酸化鉄

(:Fe‥)・炭酸ガス(C02)・硫化水素(lこ12S)・有機酸の生成などが起

こり,それらが根の活力を衰えさせる。

土壌中の空気の成分は,大気の成分と似てはいるが,生育しつつあ

る植物の根と多数の土壌微生物が,土壌空気から酸素を吸収して炭

酸ガスを排出するから,通常土壌空気は,大気にくらべて炭酸ガス

の 割 合 が 多 く , 酸 素 量 は 少 な い 。 そ して 時 と して は , 炭 酸 ガ ス の 含

有量が大気中の10~1,000倍(0.3~30%)になることもあるといわ

れて い る が, 普 通 の 畑 土 壌 で は , 植 物 に 害 と な る ほ ど 炭 酸 ガ ス の 含

有量が高まることはまれである。しかし過湿の土では,有機物の分

解は多数の土壌微生物によって行なわれ,酸素があれば分解は盛ん

であるから,結果として炭酸ガス濃度が高まってくる。

第22表土壌水分と土壌空気中の酸素濃度

土壌水分(容水量%) 80 60 40 20

酸 素 量 ( % ) 16.8 18.2 19.2 19.0

第22表は,土壌水分と土壌空気中の酸素濃度との関係を調査した

ものであり,水分含量が多くなると酸素含量が少なくなる。また土

壌中の孔隙が30~35%以上あれば,普通の作物では湿害は避けるこ

とができるといわれている。

冬 か ら 春 さ き は , ま だ 地 温 が 低 く , 5 ° C 前 後 で あ リ, 微 生 物 の

活動がおさえられているため,このころのムギ類などの湿害は,主

として呼吸障害によるものと思われている。

Page 80: 作物生理_応用編

70

このように,畑作物の生育は,空気量とか酸素供給量の不足によ

って阻害されるのであるから,たとえ水の中に畑作物の根があった

としても,その水分中に多量の酸素が溶存したり,あるいは酸素を

含んだ水が絶えず交換補給されているならば,いわゆる湿害なるも

のはなく,良好な生育をするということになる。このことについて

は,水耕栽培においても証明されている。

炭酸ガスの根に対する有害作用については,根の細胞の細胞膜の

透過性を変化させて吸収作用を抑制するとか,炭酸ガスがあると原

形質および原形質膜が物理的に変化して透過性を減じ,そのために

皮層を通じて木部への水の移動を妨げる力が増すことになる,など

と考えられている。

mm0170160150140130H0100

一株当りの積算根長

●1●

9002468101214161820222426283032

空 気 量 ( % )

第9図エンバクの根の伸長と空気量空気量が15%以下になると急に伸長が悪くなる。

作 物 は , 土 壌 中 の 空 気

量 な い し酸素の供給量に

よって,根の伸長,さら

に地上部の生育も影響を

うける。

第 9 図 は 一 例 と して エ

ンバク の 根 の 伸 長 と 空 気

量との関係を示したもの

であるが,空気量が15%

以下になると,急に伸長が悪くなっている。

このように,根の伸長や地上部の生育が,空気ないし酸素の供給

量によって影響される程度は,作物の種類によって差があり,また

同じ作物でも生育の時期,によってちがいがある。作物の種類別にみ

Page 81: 作物生理_応用編

§5.濯がい・排水,作土の通気性と生育71

ると,トマト・エンドウ・トウモロコシなどは根系め発育に多量の

酸 素 を 必 要 と し , ダイ ズ な ど こ れ に っ ぎ, 稲 や ソパ は 酸 素 の 供 給 が

少なくても良好な生育をナるといわれている。また,ダイコン・キ

ャベツ・ノ`ヽクサイ・エンドウ・トマト・キュウリ・ニンジン・パレ

イショなどは通気の効果が大きく,ネギがこれにっぎ,ソラマメ・

タマネギ・イチゴ・ナス・トウガラシは通気不良状態に耐え,ミツ

パ・サトイモは通気が悪くても十分生育ナる。牧草のイタリアンラ

イグ ラス は , 土 壌 中 の 空 気 量 が 少 な く て も 生 育 抑 制 が み ら れず, む

しろ生育のよいこともある。

第23表と第24表は,いくっかの野菜類とパレイショについて,土壌中の通

気性の良し悪し(すなわち酸素量が十分であるか不足しているか)と生育との関

係を調査したものである。ダイコンなどの根菜類とか,バレイショ・サツマイモなど収穫物が土中にあるような作物は,とくに土中に酸素が十分にあること

第23表野菜の生育におよほす通気の影響(位田氏)(単位:g)

イ チ ゴ ソラマメ

エ ンドウ

ダイコ ン

タマネギ ネ ギ キャ

ベツ ナス ト ウガラシ

サ ツ マイ モ トマト

通気区標準区酸 素制限区

179.4

178j3

170.7

213.4

242.2

294.5

50.4

33.6

9.9

235.7

56.7

46.5

218.9

212.4

197.6

183.2

173.7

126.8

170.7

104.6

87.8

37.41

42.0

38.5

46.2

44.’3

52.8

26.5

23.9

23.1

105.5

67.5

27.6

第24表土壌空気中の酸素含量とパレイショの生育・収量(菅原氏)

区 別土中空気の組成

草 た け 茎 葉 重 塊 茎 重02 C02

第 1 区2345

19.35%

17.24

15.91

15.58

10.55

0.34%

1.15

1.78

3.21

6.31

59.5C唵

60.0

58.4

57.3

39.2

191.3g

172.5

142.6

150.4

106.0

498.2g

412.5

354.0

336.8

178.6

Page 82: 作物生理_応用編

72

が必要であるとされている。

サツマイモの土中通気性と,いも根の肥大との関係についての試験によれば,

イモの細根(養分吸収根)が分布する部分の土壌の通気性(酸素の供給)だけ

をよくしても,いも根(塊根)が分布する部分の通気が悪いとイモの肥大は悪いし,それと反対に,いも根の分布する部分の通気だけをよくして細根の分布

する部分の通気を悪い状態においても,同様にイモの肥大は悪い。とにかく温

度・日照・水分など,いかに好条件においても,通気性が悪いと,地上部のツルはのびるが塊根は肥大しない。

果樹類では,モモは土中酸素の欠乏に弱く,ブドウ・カキは強い。

このように,作物の種類によって湿害に対する反応のしかたがち

がうのは,作物体内の通気組織・生理機能のちがいによるものであ

る 。 た と え ば , イネ ・ イグ サ ・ ミ ツバ ・ ノ ヽ ス な ど は , 酸 素 が 地 上

(水面上)の茎葉を通して根に補給されやすいような組織ができて

いるが,一般の畑作物では,このような構造になっていなくて,根

の必要とする酸素は土中からとるようにできている。土中の酸素が

不 足 してくる と , 根 の 細 胞 の 壊 死 お よ び 木 化 が 促 進 さ れ , 根 の 伸 長

が衰退するが,同時に吸水力および窒素・りん酸・カリ・石灰・苦

土などの養分吸収力が衰える。

湿害を防止するには,まず排水を完全にすることである。排水を

すると,次のような効果がある。

① 土 壌 の 空 気 量 が 増 し , 通 気 が 良 好 と な っ て , 作 物 の 根 へ の 酸

素の供給が円滑となる。

② 土 壌 中 の 好 気 性 微 生 物 の 活 動 が 良 好 と な り , ま た 還 元 有 害 物

質が酸化されるとともに,有機物の分解,硝酸化成などが促進

される。

Page 83: 作物生理_応用編

§ 5 . 膠 が い ・ 排 水 , 作 土 の 通 気 性 と 生 育 7 3-

③ 地 温 が 上 昇 し , 寒 冷 地 で は 発 芽 , 初 期 生 育 が 良 好 に な る 。

④ 以 上 の こ と か ら 作 物 の 根 の 活 力 が 盛 ん に な り , 呼 吸 作 用 や 水

分・養分の吸収が盛んとなって,増収および品質の向上につな

がるし,根は深くのびて耐単性は強くなる。

また作土の通気性をよくナるということから考えると,通気性を

よくして土中に酸素が十分に入り込むようにするには,排水をよく

ナることのほかに,地下水位を下げる,作土の中耕・耕起作業をす

る,良質の有機物を施してよく土と混和する,客土をする,などが

考えられる。

地下水位が高かったり,土が粘土質で排水不良で水が多いという

ことだけでは,根に対ナる湿害は決定的なものではないが,結局そ

の結果として,土中の酸素不足が根に悪影響をおよぽすことになる。

土を耕起ナると,土は耕起前より盛り上がってくるが,このことは,

そ れ だ け 空 気 が 土 の 中 に 多 く 入 り こ んでふく ら ん だ こ と に な り , 作

物 の 生 育 に よ い 影 響 を 与 えて い る こ と に な る 。 よ く 腐 熟 し た 堆 肥 の

よ う な 有 機 物 も , そ れ 自 身 の 肥 料 と しての 効 果 以 外 に , 土 の 保 水 性

や通気性を大きくするという,非常にたいせつな物理的な働きをも

っている。客土もやはり,このような土の物理性をよくすることに

役立つものである。

また粘土質の作土に野菜を作るときは,高うねにしたり,排水溝

を掘ったり,堆肥や粗い砂を加えて通気性をよくすることなどがた

いせつである。サツマイモのように,土中に酸素が十分なければ増

収しない作物は,うねたて栽培をすることもまた意義あることであ

る。

Page 84: 作物生理_応用編

一 一 一 一 一 一 - 一 一

74

土壌の通気は,地温の日変化とも関係がある。一般に,地表近く

の地温の1日の較差は,気温の較差よりも大きく,昼間の地温が上

昇すると,土壌中の空気は膨脹して大気中に追い出され,夜になる

と土壌が冷却し,それとともに空気を土の中に吸い込む。これを土

壌呼吸といい,1日の地温の較差が大きいほど,つまり昼は温度が

高 く , 夜 は 冷 え る ほ ど , 土 壌 呼 吸 の 量 は 大 き い 。 こ の よ う な 現 象

は,土壌の通気性がもともと良好な土地ほど大きい。

土壌呼吸量の大きいほど,作物の根に対する酸素の供給が良好だ

ということになる。

Page 85: 作物生理_応用編

§ 6 . 栽 植 密 度 に つ い て の 生 理 7 5

§ 6 . 栽 植 密 度 に つ いての 生 理

1 栽 植 密 度 と 作 物 の 生 育 ・ 収 量 と の 関 係

作物の単位面積当りの収量は,単位面積当りの株数と1株当りの

収量とによってきまる。すなわち

1アール当り収量=(1株当り収量)×(1アール当り植付株数)

となる。

またアール当り(または単位面積当り)の植付株数(栽植密度)

は,株間とうね幅とによって決定されるが,株間とうね幅をそれぞ

れ ど れ だ け に す る か は , 植 えつ ける 作 物 が 果 樹 の よ う な 大 き な 永 年

作物であるか,稲やムギのような穀類であるか,それとも野菜であ

るかなど,作物の種類によって,当然大きなちがいがあるし,さら

に細かくいえば,栽培方法・栽培目的,耕地の肥沃度,品種など,

あ ら ゆ る こ と が ら を 総 合 して 考 え た 結 果 に よ っ て き め る べ き で あ

る。

要ナるに作物生理的にみると,作物が順調に生育の過程をたどっ

ていきながら,しかも収益をより大きくナるような,それぞれ適正

な間隔であることが望ましい。

作 物 の 単 位 面 積 当 り の 栽 植 密 度 を だ ん だ ん 増 加 さ せ て い く と , 株

数 が あ る 限 界 以 上 を 越 えて 多 く な る に し た が い , い ろ い ろ な 悪 条 件

が 積 み 重 な って き て , かえ って 収 量 は 減 退 の 方 向 に 傾 く よ う な 生 育

経過をたどるようになる。

悪 条 件 の う ち 最 も 大 き い も の は , 1 株 当 り の 地 上 部 に お ける 葉 や

Page 86: 作物生理_応用編

一 一 一 一 一 一

76

茎の受光量と,地下部における土中栄養分の吸収量の減少である。

第25表は,数種の作物について光飽和点のちがいを調査したもの

であるが,作物が,昼間,葉で光合成を営み,炭水化物の生産量を

最高にするには,この光飽和点に近い強さの光が必要である。しか,

し,単位面積当りの植付株数が多くなると(あるいは窒素肥料のき

きすぎで地上部茎葉が繁茂しすぎると),葉が上下にかさなりあっ

たような状態になり,下葉や内部の枝・葉ほど太陽の光のあたる量

が少なくなり,したがって光合成による炭水化物量が少なくなるの

で,結果的には体内炭水化物が不足になり,根・茎・葉など全体の

生 育 不 良 の 一 大 原 因 と な る 。 作 物 体 へ の 日 光 不 足 は , 同 時 に 作 物 体

を軟弱徒長させて倒伏させることもあるし,果樹類・果菜類では花

芽のできが悪かったり,できた果実が落果したりする。株数が多く

なれば,土中の栄養分もそれだけ多く吸収されるので,密植区にな

るほど早く土中の養分が不足してくるし,関連して成熟期が早まり,

収穫物となる部分は小さく,収量は低下するということもある。

そのほか,密植区ほど株間の通風は悪くなり,病菌・害虫も繁殖

第25表作物による光飽和点のち飢ヽしやすくなる。

作 物 名 部位 飽 和 点 の 光 度(単位キlりレフクス)

水 稲コ ム ギ

ダ イ コ ンバ レ イ シ ョ

キ ュ ウ リ

ト マ ト

タ バ コ

イ ン ゲ ン

葉栗-

葉栗葉栗-

50~60

52

69

30

60

3724~40

30

作物体の1日の受光量は,畦の方向と

季節によっても大きな差がある。冬季は

東西畦,夏季は南北畦がよい。冬至ころげし

は東西畦の受光量が大きく,夏至ころは

南北畦の受光量が大きい。春分・秋分こ

ろは南北畦が大きい。したがって,冬作

物はだいたい東西畦,夏作物は南北畦が

よいということになる。

Page 87: 作物生理_応用編

§6.栽植密度についての生理77

2 各 種 作 物 の 栽 植 密 度 と 生 育

( 1 ) 水 稲

水 稲 栽 培 に お いて は , 1 m 2 当 り の 穂 数 を ふや し , 1 穂 当 り の 着

粒数を多くし,さらに1穂当りの良質玄米の数をより多くすること

が,結果的には単位面積当りの収量を多くすることになる。

1m2当りの穂数を多くするためには,栽植株数や1株当りの有

効 茎 数 を ふや さ な け れ ば な ら な い が, 茎 数 を あ る 限 界 以 上 に 多 く す

ることは,生育の後半期になって稲の各個体ごとの葉にあたる日光

量が減少し,したがって光合成量が少なくなるという悪条件が強く

なってくる。

第10図は,本田における栽植

密 度 を かえて , 炭 素 同 化 作 用 が

どのように変化していくかを,

移 植 時 か ち 登 熟 期 に か け て 調 査

したものである。この図でみる

と,生育初期は密植区の1m2当

りの同化量が大きいが生育後期

には逆に密植区ほど同化量が少

くなっている。生育初期に密植

区ほど同化量が大きいのは,密

植であるために疎植区よりも1

m2当りの茎葉数が多くなって

おり,しかしまだ茎葉が小さい

ので,株間同士で互いに日光を

P2 合13カ。。第10図栽植密度をかえた場合の個体群光合成

能力の変化(農研村田氏ら1597)品種農林29号A…密植15×15cmB・‥準密植18×18cmC…標準22.3×22.3cmD…疎植30×30cm

穂ばらみ期から以後は密植区ほど光合成能力が低下していく。個体群光合成能力は,水田1m2当り1時間のC02変化量をg単位で測定した。

Page 88: 作物生理_応用編

78

-

さえぎりあうことがなく,したがって1m2当りの同化量の総計が疎

第26表栽植密度を変えた場合の同化・呼吸比の変化(村田氏)

栽植密度 光合成(8万ノレツクス)

呼 吸(30°C) m

A 密 植(15×15cm)

5.42 1.21 4.5

B 準 密 植(18×18cm)

5.77 1.21 4.7

C 標 準 植(22.3×22.3cm)

6.34 0.97 6.5

D 疎 植(30×30(n)

6.52 0.96 6.7

❻当り穂数

8004

404550 -・5560精玄米重~(4/4)-

第11図穂数と収量との関係(品種マンジョウ)(北陸農試中山,江口氏)

種子を厚まきすることにより,穂数は増加しても収量は少なくなっている。1.2は5月7一日まぎ-3.4仕6月8.jョまき1.3が400gまき2.4が700gまき

第 2 7 表 直 ま き 栽 培 に お け る 1 ア ー ル 当 り 播

種 量 と 収 量 ( 北 陸 農 試 中 山 氏 ら )(品種マンリョウ)

区番号 播種日 霖皇 精玄米重

1 5月7日 400g 59.8kg

2 700g 55.5

36月8日・

400g 50.1

4 700g ’48.1

植区より大きいのである。

し か し だ ん だ ん 稲 体 が 大

き く な ってくる と , 密 植 区

は , 株 同 士 の 葉 の 重 な り あ

い , 影 の さ し あ い な ど , 悪

影響の及ぼしあい(受光にお

ける競合関係)が生じ,炭水

化物の同化量が低下してく

る し , 地 下 部 で は 土 中 養 分

の奪いあい(養分吸収の競合)

が 生 じ て , 密 植 区 ほ ど 生 育

後期の養分不足がひどくな

り,そのための生育不良に

よって同化量が不足する。

この2つの悪条件の重なり

により,密植区の同化量は

ますまナ少なくなるわけで

ある。

第26表は,第10図と同じ

試 験 区 で 光 合 成 と 呼 吸 と の

関 係 を 生 育 後 期 に 調 査 し た

ものであるが,密植区は,

葉が繁りあって単位面積当

Page 89: 作物生理_応用編

§6.栽植密度についての生理79

りの光合成量は少ないのに,葉の数は多く,したがって呼吸総量は

多くなっている。このような状態は,炭水化物の同化量は少ないの

に,呼吸による炭水化物の消費量は逆に多いという,作物栽培では

全く不利な形である。

第11図と第27表とは,直まき栽培で1アール当り400g・700gの種

子をまいて,生育・収量を調査したものであるが,播種量が多いと

(密植すると),生育の途中で1m2当りの茎数は非常に多くなるが,

有効茎とならず枯死するものが多く,また穂数やもみ数は多くても,

充実した良い玄米は少なく,結局厚まきのため,地下部では後期養

分不足,地上部では過繁茂による同化作用の低下,葉の枯死,日光

不足による茎の軟弱化などの生理的な障害のため,収量が減少した

ものである。

株間が22.3×22.3cmの正方形植の場合に,葉にあたる日射量を

調査した結果によると,止葉で外光の約70%,次の葉は1/2以下,

3番めの葉は1/4にも足りない光をうけている。したがって,密植多

肥にして茎葉が繁茂した場合,当然これよりさらに低下するといわ

れている。

このような過繁茂による受光条件の悪化は,地上部の炭水化物の

不 足 と な る の み な らず, 根 の 吸 水 力 な どの 機 能 を 低 下 さ せる 。 吸 水

力 の 低 下 は , 茎 葉 の 水 分 不 足 を も た ら す。 地 上 部 の 光 合 成 の 低 下

は,ただちに根量とか根の糖濃度の低下をもたらすが,このような

ことからして,炭水化物生産量の低下は,まず根をぎせいにナるも

のであると考えられている。

植物の繁茂度の指標として葉面積指数(LAI)という表示法がある。これは,

Page 90: 作物生理_応用編

一 一 一 一 一 一

80

単位面積上にある葉=同化(光合成)器官の面積をあらわすものである。・水稲の生育に伴う葉面積指数の変化をみると,出穂期のころ最高になり,登

熟期には減少する。水稲の最大葉面積指数は,だいたい3~5程度で,6以上となるものはまれである。

最近,光合成を盛んにし,その結果収量を多くする一つの方法として,稲の

受光態勢のことが論議されているが,これは光合成能力のある葉に,できるだ

け日光が多くあたるようにすることであり,そのためには,稲の形を上位の3

葉が直立するようにすること,また上位葉になるにしたがって葉身長が少しずつ短くなるようにすること,などが含まれている。

( 2 ) 畑 作 物

根菜類・葉菜類のうちには,発芽から幼苗期にかけて密植状態の

ほ う が 発 育 が 早 く , 生 育 旺 盛 で 育 ち が 順 調 な も の が あ る 。 ダイ コ ン

やノヽクサイで点播の粒数を変えて試験したものでは匹隣の多いほ

うが結果がよかったという報告もある。なお多粒点播は,初期生育

をよくナるためだけでなく,後日間引作業によって良い形質の個体

だけを残すのに都合がよいから,という意味もある。

このように,発芽時から幼植物時代は密植状態がよいのは,この

時 期 は ま だ 葉 の 表 皮 の キ チン 質 や 気 孔 の 分 化 が 十 分 に 行 な わ れて な

いので,密植することによって日射をかばい,湿度を高めあって,

この時期の日射による局部的な空気湿度の減少による乾燥害をまぬ

がれるからである。したがって間引の時期も,作物の種類や栽培の

時期により異なる。ノヽツカダイコンやカブは,比較的早く間引しな

いと,その後の根の肥大や収量に影響ナる。ニンジン・セルリー・

ネギ・タマネギは,ややおくれぎみに間引ナる。これは,これらの

作物は日射の強い乾天時にまかれるし,また幼植物の葉面積が小さ

Page 91: 作物生理_応用編

§6.栽植密度についての生理81

いことも関係している。キュウリ・トマトなど育苗するものでは,

ふつ う , 条 播 で な る べ く あ ら め に ま か れ る が, こ の 場 合 は , 温 床 あ

るいは冷床で日射も加減できるし,床内湿度もっねに適湿となるよ

引こ管理できるからである。

レタスの試験では,土壌中の亜硝酸(N02)が有機質肥料(尿素

を含めて)の施用直後から1週間にわたり高まり,吸収害が現われ

や す い が, 1 粒 ま き よ り も 多 粒 点 播 の ほ う が, 亜 硝 酸 の 吸 収 が 分 散

され,1個体当りには少量となるので,この吸収害が軽減されると

いうことも明らかにされている。

セルリーは,葉がひどく重なるような25cm株間ぐらいの密植を

すると,草たけや第1節が長くなり,いわゆる徒長ぎみとなる。気

温が高く多湿で,日光が十分あたらないと軟弱徒長になるわけで,

株 が 小 さ く 葉 柄 も 太 ら な い が, 早 く 心 葉 が 立 ち あ が って 収 穫 期 が 早

まる。このことは,葉数にもよく現われ,密植して株間の狭いもの

ほど葉数が少ない。密植すると早くから心葉が立ちあがり,早生に

なるため,同時収穫を行なうと品質的にはナでに過熟で,「ス」入

りが早く現われるし,葉色も劣る。株間が広いと,横にひろがり,葉

数が多く,草たけは密植のものよりやや短いが,葉柄が太く「ス」

入りもおそい。

トマトは,密植して株間をせまくすると,苗は草たけばかり伸び

て,肥厚せず,葉の展開と葉面積の増大が劣り,軟弱に育ち,花芽

の 分 化 は 遅 れ , 着 花 節 位 は あ が り , 着 花 数 も 少 な く , 花 芽 は 少 な

く,その発達も遅い。株間が広いほど,花芽の発育がよく,その数

も多くなる。

Page 92: 作物生理_応用編

82

第28表 トマトの開花結実におよほす株間の影響

第 1 花 房 第 2 花 房※分

化期

着花節位

着花

※開花

※収

一季望g

量g

※開

※収

-

|g

量g

30cm 25.0 10.7 6.8 62.6 113.0 5.5 102 561.0 6.472.6 117.5 5.4 115 621.0

60 20.6 10.1 8.3 57.0 110.0 6.0 1U 666.0 8.8 67.0 115.0 6.0 110 660.0

90 13.5 9.5 9.8 50.4 105.0 7.8 127 990.0 10.6 58.0 109.5 8.0 131 1,048.0

※は子葉展開後の日数で表示した

第28表は,トマトの苗の株間とその後の生育との関係を調査した

ものである。密植区ほど収量が少ないことを示している。

トマトはノヽウス内における抑制・促成栽培が盛んに行なわれてい

るが,施設内における果菜類の栽培では,栽植密度と収量との関係

がとくにいろいろと調査されている。

第29表は,ノヽウス内でトマトを密植し,整枝をして収量の変化を

第29表トマト密植,整枝による収量の変化(宮崎農試岡迫氏ら)

抑制栽j?孔早期収穫,品種福寿2号,播種日8月10日定植日9月5日ノヽ ウス栽培(収量3.3m2当りg)畦幅90cm

株 間 摘 心3.3m2当り 11月末日まで 12月末日まで 1月末日まで

株数 花房数 収 量 比 率 収 量 比 率 収 量 比 率Cm

40

3030

2020

5花房5443

12

12

18

18

45

60

48

72

54

g3,047

3,846

3,841

3,491

3,946

%100

126.2

126.2

U4.6

129.5

g15,272

15,951

17,248

18,144

19,035

%100

104.4

n2.9

118.8

124.6

g22,580

22,702

23,276

27,867

23,797

%100

100.51103.1

123.1

102.7

Page 93: 作物生理_応用編

§6.栽植密度についての生理83

みたものであり,第30表は,株間の相違による段位別収量と1果重

を調査したものである。第29表に示すように,抑制栽培によって早

期収穫を目標とする場合は,密植することによって収量を上げるこ

とができる。

しかし株間を狭くすることは,作物間の競合を強め,収量や品質

を悪くする場合が多く,うね幅を小さくナると,作物間の競合を強め

るだけでなく,病気が多発したり,また管理のための作業をしにくく

したりナるので,結局,過密植は収量の減少をまねくことになる。

第30表では,株間が狭くなるにしたがい1株当りの収量は少なく

なっているが,これは着果数が減少したのではなく,果実が小さく

なったのである。このことは,定植時にはすでに花芽の分化はかな

り進んでいて,果実の肥大は定植後の環境に左右されることが少な

く,株間の大小の影響が大きく現われることを明瞭に示ナものであ

る。しかし10アール当りの総収量で計算すると,密植区のほうが多

くなっている。

密 植 して 葉 が か さ な り あ ってくる と , 下 方 の 葉 ほ ど 光 線 不 足 に よ

第30表株間の相違による段位別収量と1果重(竹原化成西氏1955)(品種大型福寿)

匹 よ株間段 別 へ

収 量 ( g ) 1 果 重 ( g )

20cm 30cm 40cm 20ca 30cm 40cm

1 段

2 / /

3 Z /

4 / /

5 / /

501408

485

565

678

546674

693

750

844

719

736

950737

815

137.6

138.4

145.6

136.8

139.3

151.5

168.5

167.5

163.1

173.4

165.2

170.0

180.4

197.1

165.2

合 計 2,739 3,507 3,956

Page 94: 作物生理_応用編

84

って同化作用は衰える。またトマトの果実は光がよくあたるほどよ

く肥大するが,密植すれば果実にあたる光の量が少なくなり,肥大

不良となる。したがって密植により収量を高めようとする場合は,

各個体の葉や果実がどの程度の光を受けるか,地上部が十分生育し

たとき,どの程度受光の競合が生ずるかを十分考慮して,株間・う

ね間を決め,また摘心などを行なって調整すべきである。

ピーマンは,光線の不足がとくに生育・収量に影響する作物であ

る。第31表は,人為的な日照制限によって生育を不良にしたもので

あ る が, 密 植 して 受 光 量 が 不 足 し た 場 合 も , 日 照 制 限 と 同 様 な 結 果

が予想される。

第31表ピーマンの生育・着果に対する光の影響(門田氏1962)

(光度とピーマン1株当りの収量品種:三重系)(対照区の照度:晴天時5万ルックス)

光 度 地上部生体重地下部生体重 開 花 数 着 花 率 落 果 率

対照区100% 157.7g 17.1g 8 6 個 72.1% 27.9%

制限区50% 121.5 14.3 71 63.4 36.6

μ 2 0 % 108.5 7.5 68 51.5 48.5

第32表はダイズの密植害の試験例である。この表では,一定限度

までは,栽植密度を増すほど地上部の諸部分の生長量が増大してい

る。しかし1株当りでみると,個体の生長量が減少し,茎が細くな

り , 主 茎 の 節 数 が 減 少 し , 最 上 葉 の 展 開 す る 時 期 が お そ く な る な

ど,発育抑制現象を呈している。ダイズでは,特に日射量の不足に

より節間伸長が起こり,個体の草たけが高くなり,倒伏しやすくな

る,,

Page 95: 作物生理_応用編

§6.栽植密度についての生理85

密植で節間が伸長するのは,節位に日光があたらないためにオーキシンの濃

度が高くなり,節間伸長のための細胞分裂がさかんになることによる。日光が

あたればオーキシンが分解し,その濃度がうすくなり,伸長のための細胞分裂

は抑制される。

第32表栽植密度とダイズの生育(桔梗ケ原杉山氏ら1963)(品種名:シロメュタカ播種期:5月30日開花期:8月3~4日)

栽植密度 アーノレ当り栽 槙 本 数 茎 長 主茎節欲 平均節間長 最 現 業

展 開 期 粒茎比 倒伏C m c m80×20

80×15

80×10

8 0 × 5

60×2060×15

60×10

6 0 × 540×20

40×15

40×10

4 0 × 5

本625

833

1,2502,500

8331,111

1,667

3,333

1,250

1,667

2,500

5,000

Cm66

69

77

89

64

68

77

91

66

75

82

94

本17.4

17.2

17.5

16.4

17.1

17.0

16.9

15.8

16.9

17.1

16.7

15.3

C唵3.8

4.0

4.4

5.4

3.7

4.0

4.6

5.8

3.9

4.4

4.9

6.1

月 日8.16

8.18

8.21

8.25

8.17

8.20

8.20

8.24

8.19

8.20

8.22

8.29

2.0

1.8

1.6

1.3

2.0

1.8

1.5

1.2

1.7

1.5

1.4

1.0

-

-

-

-

( 3 ) 果 樹

果 樹 類 で も 密 植 に よ って 植 物 体 へ の 光 量 が 不 足 す る と , 同 化 作 用

が低下し,そのため植物体の生長,とくに根群の生長が劣り,更に

遮光が極端になると,ついに枯死するにいたる。また花芽の形成は

不良となり,たとえ開花結実しても,炭水化物の不足のために落果

するものが多く,収穫果の果形は小型で,糖分の含有量も劣る。

第33表は,カキの密植と間伐後の収量を比較したものであるが,

Page 96: 作物生理_応用編

86

第33表密植カキ園の間伐による収量の増加(玉置氏1952)

よ ~ で 間 伐 前 間 伐 後

10アータレ当り株数 60本 30本

10アーノレ当回心 1,719,000枚 2,271,000枚

10アーノレ当り収量 231貫(=:=866kg) 688貫(=:=2,580kg)

※ 大 果 歩 合 49.5% 69.5%

※大果とは60匁(約225g)以上のもの間伐前株間2.5間×2間(=4.5mx3.6m)

密植区は明らかに障害が生じていたものと推測される。

ミカン園では開園当初は密植して結果させ,数年たって株間の受

光・養分吸収などに競合が生じ,収量が減少する傾向が生ずるよう

になったとき,適正密度に間伐する方法もとられている。

Page 97: 作物生理_応用編

§ 7 . 整 枝 ・ 剪 定 と 生 育 ・ 収 量 8 7

§ 7 . 整 枝 ・ 剪 定 と 生 育 ・ 収 量

果樹や果 菜 は , 果 実 を 収 穫 の 目 的 物 と して い る 。 し た が って , 枝

葉のみが生長繁茂することなく,上質の果実が,とくに果樹類の場合

は毎年連続して多量に結実するように,管理しなければならない。

管理のうち,施肥はもちろん重要な事がらの:Lっであるが,地上部

の大きさに応じて,また栽培の目標にそって,樹体の栄養生長と生

殖生長との間に,適当なっりあいが保たれるような地上部の管理を

行なうことも,欠くことのできない重要な事がらである。

生 理 的 に み た 整 枝 ・ 剪 定 の 最 大 の 目 的 は , で き る だ け 多 数 の 葉

が,より多くの日光に照らされ,そして,より多くの光合成が営ま

れるように,地上部の形をととのえることである。

l 果 樹 類 の 整 枝 ・ 剪 定

( 1 ) 整 枝 ・ 剪 定

果樹類の整枝・剪定にあたっては,まず樹園内にむだな空間がな

いように,平面的でなく立体的に枝の配置をし(枝をのばし),そ

れらの枝によく日光のあたる葉が十分にっくようにすると同時に,

結実中の果実にも日光がよくあたるように考え,落葉果樹にあって

は,早く葉を出させて,葉が光にあたる期間ができるだけ長期にな

るようにナる。また樹体内に貯蔵している養分をいかに早く芽に移

行させて,葉を伸長させるかを考えることがたいせっである。

剪 定 に あ た って は , で き る だ け 若 い , 葉 芽 を 多 くも っ た 枝 を 残 ナ

Page 98: 作物生理_応用編

88

剪定(弱剪定)をすることが,それだけ結局は光合成によって作っ

た養分を果実の生産に結びつけることになる。春になると,樹木は

枝 に 貯 蔵 して い た 養 分 を 消 費 して 新 し い 葉 な ど を 作 る 。 そ の た め に

貯 蔵 養 分 は ほ と ん ど 消 費 さ れ る が, 新 し く 伸 長 し た 葉 が 光 合 成 を 営

み,その同化養分で樹体内の必要な養分かまかなわれていき,さら

に果実内への養分の蓄積,すなわち果実の肥大が進む。もし枝梢を

強く切りつめる剪定(強剪定)を行なった場合は,枝梢内の貯蔵養

分 を そ れ だ け 減 少 さ せ , ま た 葉 と な る 芽 が 少 な く な る の で, 結 局 光

合 成 を 営 む 葉 数 が 少 な い と い う こ と に な り , 樹 体 の 炭 水 化 物 の 合 成

量は減少し,果実の発育態勢に入ることがおくれる。またこのよう

な地上部の炭水化物の量的な不足は,根の生長をも不良にする。根

の発育不良は,地上部の発育に必要な養分吸収量が少なくなること

につながっており,地上部の生育が悪くなるという関係が生ずる。

ま た 強 剪 定 は , 地 上 部 の 葉 数 の 減 少 一 炭 水 化 物 の 生 産 量 の 減 少

となり,体内の〔炭水化物/窒素比率〕の不っりあいのため,栄養

生長が盛んとなり,生殖生長が衰えることになる。剪定を強くする

と,生長作用を促進するので,発芽がよくなるようにみえるが,こ

れは剪定によって生長点の数が少なくなり,残りの生長点への栄養

分 の 供 給 が 多 く な る た め で , 残 っ て い る 少 数 の 新 芽 の 伸 長 は よ い

が,樹全体の発育は,剪定の程度が強ければ強いほど阻害される。

果樹では剪定の目的の1っは,残された芽に貯蔵養分をうまく配

分するということであるから,木の生理からみた剪定の適期という

ものがある。枝内の貯蔵養分の各芽への集中的な移行は,生理的な

休眠(自発休眠)が終わると始まる。したがって,その時期までに

Page 99: 作物生理_応用編

§7.整枝・剪定と生育・収量89

剪 定 が 終 わ らず, 暖 か い 日 が 続 く と , 剪 定 して 捨 て ら れ る 芽 に 貯 蔵

養分が移行し,その分だけはむだになる。樹勢の弱い樹では,この

ような損失が夏の間の生育に影響する。したがって剪定は,芽の活

動が始まる以前に終わるようにすべきである。

ミカンの剪定の適期は,樹液が動き出してからがよく,2月下旬

から4月のごく初めまでがよい。剪定後に寒波がくると,未剪定の

樹に比較して寒害を受ける程度がひどい。したがって, - 5 ° C 以 下

の低温のおそれがなくなったころが適期である。

また養分は,まっすぐ上に向かって多量に移行する性質があるの

で(これを養分の直上性という),横向きの枝や下垂した枝は,まっ

すぐに立っている枝ほど発芽も新梢の伸長もよくないし,枝があま

第34表剪定の程度,葉のでき上がりの早晩と収量との関係(鳥取,二十世紀)

1 樹 当 り 葉 数 の 動 き

果実数1果当

葉 数

平 均

果 重

300g

果実当葉 数

10a当

収 量

開花後日数 30日 60日 90日

月・日 5月7日 6月6日 7月6日

A 最も弱剪定 25,653

(71)

34,855

(97)

35,801

(100)1諸 枚

28g

290 29枚t

6~6.5

B 弱 剪 定 18,096

(74)

22,740

(92)

24,606

(100)909 27 286 28

30

5~5.5

C 弱 剪 定 14,050

(34)

18,035

(90)

19,867

(100)640 31 314

D 強 剪 定 14,452

(54)

21,720

(81)

26,602

(100)・818 ’33 -258 38 3~3.2

E 最も強剪定 8,938

(42)

17,999

(81)

22,177

(100)446 50 248 61 2~2.2

()内は葉数完成時の7月6日を100とした比率。開花4月5~10日,収穫9月2日。

Page 100: 作物生理_応用編

- ‥ -

90

り にも屈曲していたり,細かったりすることも養分の移行が悪くな

り,各末端の小さな枝へ均等に養分が配分されなくなるということ

があるので,このようなことがらを考慮して整枝すべきである。

第34表は,ナシの二十世紀で剪定の程度と葉のでき上がりの早晩

が,収量にどのような影響をもたらナかを調査したものであるが,

強剪定をすることが収量をいかに減少させるかがうかがわれる。

樹 の 栄 養 生 長 と 辿 殖 と は , お 互 い に 相 反 し た 関 係 に あ って , 生 長

が盛んになると花芽の着きが悪くなり,反対に生長が悪くなると花

芽の着きがよくなる。したがって,枝や葉の多く発生する樹は花の

着きが悪く,花の着きのよい樹は枝葉の発生が悪い。

また枝葉の発育のよい樹は,秋の花芽の分化がよく,したがって

翌年の開花数が多く,結実量の多かった樹は,秋の花芽の分化数は

少なく,したがって翌年は枝葉の発生がよくなる,という関係があ

り,同一の場所で同じ年にこの2つの作用を併立させることはむず

かしいことである。剪定を行なうときは,相反するこれら2つの作

用を,栽培の目的にあわせて,うまく調和がとれるように考えねば

ならない。

花芽を形成している短枝

第12図は,リンゴ紅玉の1果

当りの葉数と,その枝に秋にで

きた花芽の数とを調査したもの

で あ る が, 1 果 実 当 り の 葉 数 が

多いほど,すなわち果実の数が

少 な く て 葉 の 数 が 多 い ほ ど , そ第12図リンゴ紅玉の1果当り葉数と花芽

形成との関係(Ha11・r.5心lglle・1933)の年の秋には花芽が多く分化す

Page 101: 作物生理_応用編

§ 7 . 整 枝 ・ 剪 定 と 生 育 ・ 収 量 9 1

る こ とを 示している。この図で実線は,枝に環状剥皮をして,葉で

で き た 炭 水 化 物 が 他 の 部 分 に 移 動 し にくい よ う に して , そ の 枝 の 炭

水化物の含有量を多くしたものであるが(すなわち葉の数を多くし

て,炭水化物の生成量が多くなったのと同じような状態),このよ

うに内部の生理的な状態が変化することが,花芽の形成を促すこと

になる。この逆の状態,すなわち果実の数が多くて葉の数が少ない

と , 葉 で で き た 炭 水 化 物 は , 秋 ま で 果 実 の ほ う へ 常 に 移 行 して お

り,枝に蓄積されることなく,炭水化物含有量と窒素分の含有比率

(C/N率)が小となり,花芽の分化は少ないものと思われる。

花芽の分化とC/N率との関係については,単純なものではなく,花芽形成ホ

ルモンという未知の物質の生成との関係もあり,複雑でまだよくわかっていな

いが,とにかく炭水化物の量が多くなることが,花芽を多く分化する1つの大

きな要因である。

( 2 ) 摘 果

果 樹 類 は , 毎 年 樹 勢 に 応 じ た 数 量 の 果 実 を 着 ける と い う 調 節 能 力

を樹自身がもっていないために,その樹の大きさに応じて毎年平均

した収量を上げるように管理をしてやらなければならない。自然放

任またはそれに近い管理をすれば,隔年結果(豊作年と不作年が1

年おきに交互にある状態)が起こる。成り年には果実が成りすぎて

樹勢が弱まるので,翌年は不作になる。しかし,できるだけ早期に

摘花・摘果をほどよく行ない,今年結実した実を大きくするための

葉と,翌年も実をつけるように樹勢を維持する葉とを併存させるよ

うな管理をすれば,隔年結果は防ぐことができる。

果実では1果当りの葉の数が一定数になるまでは,葉数の増加に

Page 102: 作物生理_応用編

92

伴い,果重は増し,着色はよく,糖分含量は大となるし,またある

限度までは果実の熟期も早くなる。果実1個を大きくする最低限の

葉数は,リンゴで30~40枚,西洋ナシ20~30枚,日本ナシ10~15枚,

カキ15~20枚,温州ミカン15~20枚,ネーブzレオレンジで60枚くら

いである。

結 実 数 が 多 す ぎ る こ と は , 強 剪 定 と 同 じ こ と に な り , 葉 に よる 同

化養分(炭水化物)の根への供給を減らすことになるので,根とく

に細根を弱らせ,このことが養分吸収力を減退させることになり,

地上部の樹勢が衰えることになる。また果実1個当りの葉数が多く

て,果実の肥大があまり盛んになると,かえって果実の品質を低下

させるような障害を起こすこともある(モモの核割れ,カキのヘタバナ

レなどの障害)。

ミカンは,着果数が多すぎると1果当りの葉数が少なくなり,そ

れに応じて炭水化物の供給量が少なくなり,糖や酸の含有量が少な

く,淡白な風味となり,果皮は薄く浮皮ぎみになりやナい。また反

対 に , 着 葉 数 の 割 に 着 果 が 少 な い 場 合 は , 酸 よ り 糖 の 減 り か た が 多

いので,酸味の強い果実となる。糖の減りかたが多いのは,1果当

りの葉数が多いので,葉と果実のっりあいがくずれ,夏秋枝が多く

発生し,そのほうへ同化養分が消費されるので,果実に炭水化物の一種である糖分が蓄積されないものと思われる。果皮は厚くなり,

着色不良で厚皮ブクになりやすい。

次ページの第35表は,摘果して1樹当りのミカンの数を調節する

ことによって,果実の品質が向上することを示した成績である。

隔年結果を防ぎ,良質の果実を毎年安定して収穫するためには,

Page 103: 作物生理_応用編

§ 7 . 整 枝 ・ 剪 定 と 生 育 ・ 収 量 9 3

第35表温州みかんの摘果による果実の品質の向上(岩崎氏)

処 理 別1 果

平均重果肉歩合

果肉に対する

果 汁 歩 合

果汁100g中のg量(%)甘味率

全 糖 還元糖 遊離酸

摘 果 区

対 照 区

g96

94

%77

77

%76

71

9.881

9.843

3.510

3.536

1.145

1.270

8.64%

7.70

第 3 6 表 温 州 み か ん の 摘 果 と 次 年 の 結 果

当年の収量 次年の収量 2か年の合計

実 数 比 率 実 数 比 率 実 数 比 率

摘 果

無 摘 果

個946

1,228

%77

100

個1,520

776

%196

100

個2,466

2,006

123%

100

摘 果

無 摘 果

88.1kg

94.2

94

100

kg111.8

61.0

183

100

kg199.9

155.2

129

100

摘 花 ・摘果を行なうことがよ

い。第13図と第36表は,とも

に温州ミカンを摘果すること

に よ って , 隔 年 結 果 と い う 不

安定な現象をなくし,収量の

安定化としかも多収をうるよ

うになったことを示したもの

である。

20015010050

一樹当収量(4)

03 3 3 4 3 5 3 6 3 7 3 8 3 9 年

第13図温州ミカンの摘果・無摘果樹の各年の収量の変化(愛媛農試)

摘果区は葉25枚当り1果の割合に摘果

Page 104: 作物生理_応用編

- 一 一

94

2 果 菜 類 の 整 枝

トマトやウリ類などの茎の先端,すなわち頂芽の部分を摘みとる

摘心や,側芽を除去ナる摘芽などを整枝といっている。

摘心や摘芽をすることは,地上部の新しく伸長分化すべき茎・葉・

花 の で き る の を 抑 制 す る こ と に な る か ら , 吸 収 さ れ た 養 分 はそ れ だ

け今までにできている枝葉にいきわたり,栄養状態がよくなってく

る。だから整枝をすると,残った部分の葉の大きさは増し,色が濃

くなり,厚さも厚くなってくる。そして花芽の発育もよく,開花・

結実もよくなる。

第37表は,トマトの整枝が,残された花房の開花・結実におよぽ

す 影 響 に つ いて 調 査 し た も の で あ る が, 摘 心 す る こ と に よ って , 開

花・結実が増加している。

第37表トマトの整枝が残された花房の開花・結実におよほす影響(EDMOND氏)

摘心区(39本平均) 放任区(20本平均)

花 数 結 果 数 止り歩合 花 数 結 果 数 止り歩合

第 1 花 房第 2 花 房第 3 花 房第 4 花 房

6.1

6.4

6.2

6.4

5.6

5.7

4.6

4.7

91.8%

88.4

73.9

73.3

5.3

5.3

4.5

4.7

3.3

2.9

2.3

1.7

63.1%

54.7

51.4

49.4

第38表シロウリの整枝法が収量および1果平均重におよほす影響(1本当り)(杉山・西氏)

区 別 収 穫 果 数 収 穫 果 重 1果平均重

放 任 区 12.5士0.75個 6,176土448g 496g

4 本 整 枝 区 9.5士0.37 4,144士115 439

2 本 整 枝 区 7.5土0.24 2,837±89 405

Page 105: 作物生理_応用編

第38表と第14図は,シロウ必

リについて整枝の影響を調べ

た も の で あ る が, こ の 試 験 を 6 0

みると,最初のころは整枝区

の収量が多いが,あとでは放

任区が最も多くなっている。

これは,整枝区は,整枝によ

って残された部分の栄養状態

がよくなるので,その部分の

開花数・結実数は増加し,早

くから多くの収量を上げるこ

とができるが,しかし整枝を

§ 7 . 整 枝 ・ 剪 定 と 生 育 ・ 収 量 9 5

子づる4本整枝区

子づる2本整枝区

27日1日5日10日1.5日20日25日31日

第14図整枝法を異にしたシロウリの各区の収量累計曲線(13本合計)(杉山・百氏)

放任区:全く整枝を行なわず放任したもの4本整枝区:親づるを4節で摘心。4本の子づる

を8節で1箇心し,孫づるは3節で摘心

してあるので,新しく枝葉を2本!’‘゛゛i9で?昌鸞1昌;;;J2゛2本

出して開花・結実をしていく各区の栽植距離:180cmx120cm

ことができないのに対し,放任区は,新しい枝葉をどんどん出しな

がら開花・結実していくから,やがて整枝区を抜いて結局収量その

ものが多いことになるのである。

1株の占める地上部の空間的な容積に余裕があって,生育期間も

長 期 間 に す れ ば , 自 由 に 放 任 して 生 育 さ せ た も の の ほ う が, 整 枝 区

よりもまさっているといえる。

しかし,果菜類のノヽウス内での抑制あるいは促成栽培における実

情は,整枝して密植栽培を行なうという栽培法がとられている。こ

れ ら は , 密 植 し た か ら こそ 整 枝 ナ る 必 要 が 生 じ た と も い える も の で

ある。

Page 106: 作物生理_応用編

96

第39表は,トマトの早期収量を上げるために整枝と密植とを組み

合わせた試験の結果を示したものである。密植して整枝し,10アー

ル当りの植付本数をふやした区が,7月20日までの果数・収量とも

に多くなっている。

ノ第39表栽植密度および整枝法とトマトの収量(石黒氏)

栽核距離 整枝法10アーノレ

当 り 株 数

10アーノレ当り収量 1 果

平均重g

7月20日までの収量

果 数 重 量 ㎏ 果 数 重量kg

30

45

60

45

60

1本整枝1本整枝1本整枝2本整枝2本整枝

4,400

2,830

2,160

2,830

2,160

46,000

31,200

23,400

38,460

22,870

6,662

4,810

3,559

5,692

4,304

144

154

152

148

144

18,700

12,000

10,200

12,220

8,010

3,142

2,229

1,760

2,126

1,336

(株間は各区とも30cm)

マクワウリ・シロウリ・メロンなどは,一般的な性質として親づ

るにはなかなか雌花が着かず,たとえ開花しても結果せずに落ちて

しまう。子づるはその第1節に雌花を着ける性質があり,第2番花

はかなり先のほうに着く。孫づるはその第工節に雌花が着き,第2

節にも着くことが多いが,その先はあまり着かない。このような結

果習性にあったように整枝をする。たとえばマクワウリ・シロウリ

などでは,親づるを数節で摘心し,3~4本の子づるを出し,これ

も4~5節から7~8節で摘心して早く孫づるを伸長させ,その第

1節に着く雌花を結実させるような整枝法をとるなどである。

パレイショは,1つの種いもから数本の芽が伸びてくることが多

いが,芽を若いうちに切り取って1~3本ぐらいに制限すると,い

もの着生個数は,放任区よりも少なくなるが,大いもの割合が多く

なる。これは,芽かきをすれば,いも数・総重量は少なくなるけれ

Page 107: 作物生理_応用編

§ 8 . 寒 害 ・ 冷 害 ・ 凍 害 の 生 理 9 7

ど も,残された茎は,競合する茎が少なくなるので,栄養がよくな

り,よく繁茂し,いももよく肥大するのである。このようないもの

芽かきは,早いほどよい。

§ 8 . 寒 害 ・ 冷 害 ・ 凍 害 の 生 理

I 作 物 の 寒 害 ・ 冷 害 ・ 凍 害 の 生 理

広い意味での寒害とは,気温が低下することによって起こる作物

のいろいろな生育障害であり,したがってそれらの中には,寒風害

とか,冷害とか,凍害と呼ばれるものが含まれている。

(広い意味の冷害という言葉も,その中には寒害・凍害を含めていることも

ある。)

低温強風という気象条件下では,強風のため葉からの蒸散作用に

よって外界に放出される水分量は多いのに,いっぽう低温のために

作物の根の水分吸収力は衰えており,したがって水分吸収量は少な

いという不均衡が生じ,作物は一種の水分欠乏状態となり,葉先が

枯死したりするような,乾燥害を受けることになる。また強風はな

くても,寒い時期の極端な乾燥も,作物の水分不足という症状を呈

する。このような現象を一般には寒害といっている。

気温や地温が作物の生育適温以下になると,生育の速度がにぷく

なり,茎葉の伸長が悪かったり,開花が遅れたり,稔実障害が発生

したり,成熟を十分完了ナることができなかったりする。このよう

な状態を,作物栽培においては一般に冷害と呼んでいる。東北・北

海道の夏作物が夏季低温のため生育がおくれ,秋に完全に成熟しな

Page 108: 作物生理_応用編

98

いとか,水稲の花粉のできる減数分裂期に14~15 °C以下の最低温

度が数日続くために正常な花粉ができず,不稔実もみになるとか,

サツマイモが5 ° Cぐらいで1か月以上もたつと腐りやすくなるなど

は,一般にいう冷害である。

凍害とは,広い意味の寒害・冷害のうち,特に組織内に結氷が起

こり,作物体またはその一部の組織が凍死すること,いわゆる凍害

をうけることをさしている。作物体は,組織内に氷ができないよう

な方法でO ° C 以下の過冷状態にするならば,凍害は発生しない。

凍害というのは,結局,組織内に氷が生ずることが原因となって細

胞が死んでしまうことによって起こるものである。

作物体内における氷のできかたには2つの状態がある。1っは細

胞内の水液が凍る細胞内結氷,他の1っは細胞と細胞の間隙に含ま

れている水液が結氷する細胞外結氷である。

細胞内結氷の場合は,原形質が破壊されるので細胞そのものが死

んでしまう。(このようなときは,実際にはほとんどの場合,細胞外結氷も

同時に起こっている。)

細胞外結氷の場合は,細胞間隙で氷ができるとき,細胞内の原形

質中の水分が細胞外に移動し,原形質そのものが水分不足の状態に

なって死んでしまう。さらに,細胞外結氷が起こっているときに気

温 が 上 昇 し , こ の 結 氷 が と ける と き に 原 形 質 を 破 壊 して 細 胞 が 死

ぬ。これは,細胞と細胞との間にできていた氷が急にとけて水とな

るが,その水が原形質膜を透過して細胞の中に入っていくことがで

きず(原形質が吸水しえず),細胞膜と原形質との間に水がたまり,

細胞膜と原形質が引き離されたような姿になり,原形質は生活機能

Page 109: 作物生理_応用編

§8.寒害・冷害・凍害の生理99

を失って死ぬのである。畑の凍害は,ほとんどこのような形で起こ

っているものと考えられている。つまり,日あたりのよい場所にあ

る作物は,霜の強い朝,日が照って急に作物体の温度が上昇すると,

組 織 内 の 氷 が 急 に と ける こ と に な る の で, こ の よ う な 型 の 凍 害 が 起

こるものと思われる。実際,日あたりの悪い場所の作物よりも,日

あたりのよい場所の作物のほうが凍害を受けている。

このように凍害は,細胞の結氷によって起こるものであるが,作

物 自 体 か ら み る と , 耐 凍 性 の 強 い 時 期 と 弱 い 時 期 と が あ り , こ の 差

は細胞自体の種々の性質にかなりはっきりと現われている。耐凍性

の大きくなっている時には,一般に細胞の水に対する透過性が著し

く増している。このことは,細胞外に結氷が起こるのにはっごうの

よい条件であって,細胞表面に氷ができた場合,細胞内からの水の

供 給 が 十 分 行 な わ れ る こ と に な る の で, 温 度 低 下 に 伴 って 外 面 の 氷

は ど ん ど ん 大 き く な り う る 。 ま た 細 胞 内 原 形 質 の 水 和 の 度 合 に も 差

が現われてくる。耐凍性になっている細胞の原形質は,水和度が大

きく,そのため脱水されても硬くなりにくい。この反対であれば,

脱水に対して抵抗性が弱く,しかも凝固しやすく,かつ柔軟性を欠

いて い る の で, 原 形 質 が も と ど お り に な る と き に 機 械 的 な 障 害 を 受

けやすい。

耐 凍 性 の 強 い 時 期 に は , 細 胞 の 浸 透 濃 度 は 高 く な って い る 。 一 般

に越冬する植物は,秋になると浸透濃度は増大する傾向があるが,

その増大の程度は,耐凍性の強い植物ほど大きい。この浸透濃度の

増 大 は , 主 と して 薦 糖 濃 度 が 増 し た た めで あ る 。 だ か ら , 耐 凍 性 の

強さと細胞内の涯糖濃度とは,平行的に変化している。

Page 110: 作物生理_応用編

100

温室内などで育てた苗の耐凍性を強くナるには,作物にふれさせ

る 空 気 の 温 度 が O ° C 以 下 に な ら な い 限 界 内 で, な る べ く 低 温 に 短

時間くりかえしさらすとよい。20~25 °Cぐらいで育てた苗を,15

~10 ° C の 低 温 に さらしても効果はあり,また5 ° C ぐ ら い な らな

お よ い 。 し か し 最 も 急 速 に 耐 凍 性 を 増 す の は O ° C に 近 い 低 温 で あ

る。それより高い温度では,耐凍度の増大に長日数を要する。この

ような耐冷性の強化をハードニングといっている。

ネ ギ ・ ホ ウ レン ソ ウ ・ ア カ ビー ト な ど は 耐 凍 性 が 強 い が, こ れ ら

の作物の細胞の凍結様式は細胞外凍結であり,他の植物でも凍害の

発生しない強いものは,冬の間,細胞外凍結を起こしているものと

思われる。

このような凍結による生理的細胞の死滅についての機構には,ま

だよくわからない事がらもある。

低温条件下では生育伸長が悪くなるが,水耕栽培で培養液中にビタミンBIを

加えておくと,低温における生育減退が50%ぐらい軽減される。このようなこ

とから,低温で生育抑制が起こるのは,植物体内におけるビタミンBIのような

物質の生産が,他の物質よりも早く阻害されるか,または破壊されるものと考えられる。ビタミンBIは,好気呼吸系における助酵素の一部をなす物質である。

別名サイアミンThiamineと呼ばれている。

作物の新しく生長した部分や花の分化期は,寒害をとくに受けや

すい。凍害を防ぐには,植物の芽・葉・茎などの細胞内,あるいは

細胞と細胞との間隙などにある水分をできるだけ少ない状態にする

とよい。観葉植物など冬季室内に置くときは,毎日給水せず,むしろ

枯 れ な い 程 度 にや や 不 足 の よ う な 状 態 に して お く こ と が, 凍 害 防 止

上有効である。また細胞内の細胞液濃度を濃厚にするほど耐凍性が

Page 111: 作物生理_応用編

§ 8 . 寒 害 ・ 冷 害 ・ 凍 害 の 生 理 1 p 1-

増 す こ と に なるので,このような管理をするのがよい。秋にまいた

コムギが冬になって耐凍性を増すのは,秋のうちに光合成によって

作 っ た でん ぷ ん を 冬 に 糖 類 に 還 元 して , 茎 葉 の 細 胞 内 の 糖 分 含 量 を

増大するよう,生理的に調節しているのである。

2各種作物の寒害・冷害・凍害

( 1 ) 野 菜 類

第40表は,野菜類の生育の好適温度を示したもので

あるが,果菜類は一般に高

温を,根菜類は低温を好む

傾向があり,この適温より

も気温が低いと生育遅延が

起こる。サツマイモ・サト

イモ・ショウガなどは,好

高 温 性 の 野 菜 で あ り , 低 温

に 長 い 間 さ ら す と 腐 敗 す

る。これは一種の冷害であ

る。第41表は,サツマイモ

をある期間低温下に置いた

後の腐敗について調べたも

のである。

第 4 0 表 野 菜 類 の 生 育 適 温

作 物 名 追 温 度

ダ イ コ ンノ ` ・ ク サ イ

ホ ウ レ ン ソ ウセ ル ジ ー

ト マ トス イ カバ レ イ シ ョ

ニ ン ジ ン

レ タ ス

タ マ ネ ギ

(貝塚早生)ピ ー マ ン

カ ボ チ ャゴ ボ ウ

キ ャ ベ ツエ ン ド ウ

キ ュ ウ ジ

15~20°C

生 育 期 2 0 ° C

結 球 期 1 5 ° C15~2C)oC

15~2015~25

25~30

生 育 期 2 1 ° Cいも形成期18~19 °C

18~21°C

15~20°C

結 球 期 1 5 ° C12時間以上日長

25~30°C

20~25°C

20~25°C

21~15°C

10~20oC20~25°C

こ の調査では,0 ° C 近くの低温にあわせると1か月ぐらいで3分

の2ぐらい腐敗している。サツマイモは約10 ° C 以下になると冷害

Page 112: 作物生理_応用編

102

を 起 こ す と い わ れ て い る 。

第 4 1 表 サ ツ マ イ モ の 冷 害(低温にある期間あわせた後の腐敗歩合)(:LAMITZEN氏)

貯蔵期間 9.5°C 4.5°C 0.1°C

5日

10

15

20

29

40

60

70

O%

7073

100

100

O%0376787100100

,第42表・第43表は,ともに野菜の凍結温度を調査したものである

が,作物によりいくぶんの差がみられる。凍ってしまった野菜は,

柔 軟 性 が な く な って , 機 械 的 に 折 れや す く な る の で あ る が, た い せ

つなことは,凍った結果,凍害が発生するかどうかということであ

る。ホウレンソウやネギのように,凍結して相当低温にまでなって

も,氷がとけたあとに凍死が認められないものもあるが,ほとんど

の野菜は細胞が死に,組織がくずれ,間もなく腐敗を始める。

第42表各種野菜の凍結温度(ROSE氏ら)

種 類 平 均 最 低 最剛 種 類 平 均 最 低 最 高

サ ヤ イ ン ゲ ンキ ャ ベ ツニ ン ジ ン

ノ ヽ ナ ヤ サ イ

ス イ ー ト コ ー ン

ナ ス

チ シ ャ

゜C

-1.00

-0.36

-1.08

-0.89

-1.36

-0.71

-0.36

゜C

-1.04

- 0.42

-1.15

-0.96

-1.49

-0.81

-0.43

゜C

-0.86

-0.29

-1.03

-0.82

-1.24

-0.58

-0.28

タ マ ネ ギ

グ ジ ーン ピースバ レ イ シ ョ

サ ツ マ イ モ

ト マ トカ ブ

゜C

-0.91

-0.91

-1.59

-1.59

-0.7C

-0.75

o C

-1.03

-1.04

- 1.42

- 1.73

- 0.80

- 0.82

゜ C

-0.78

- 0.78

-1.77

-1.46

-0.59

- 0.68

(華氏を摂氏に換算した数値である)

Page 113: 作物生理_応用編

§ 8 . 寒 害 ・ 冷 害 ・ 凍 害 の 生 理 1 0 3~

第 4 3 表 根 菜 類 の 凍 結 温 度 ( 杉 山 ・ 渡 辺 氏 )

作 物 名 凍結温度の範囲 平 均サ ト イ モ ( 土 重 )

/ / ( 赤 名 )ダ イ コ ン ( 練 馬 )カ ブ ( 演 京 時 無 )ゴ ボ ウ ( 滝 野 川 )バ レ イ シ ョ ( 男 爵 )ニ ン ジ ン ( 三 寸 )

サ ツ マ イ モ ( 農 林 1 号 )μ ( 沖 縄 1 0 0 号 )

- 0 . 8 2 ~ - 0 . 5 7 ° C

- 0 . 7 7 ~ - 0 . 6 1

- 1 . 1 0 ~ - 0 . 7 7

- 1 . 0 1 ~ - 0 . 7 2

- 1 . 4 9 ~ - 0 . 9 1

- 1 . 2 2 ~ - 1 . 0 7

- 1 . 4 0 ~ - 0 . 9 1

- 1 . 6 2 ~ - 1 . 3 5

- 1 . 6 5 ~ - 1 . 3 3

- 0 . 6 5 ° C

- 0.68

- 0.89

- 0.89

- 1 . n

- 1.19

- 1.20

- 1.43

- 1.47

( 2 ) 果 樹 類

落葉果樹類では,夏から秋にかけて合成された炭水化物は,枝梢

や 根 の 中 に 貯 蔵 さ れて , 翌 春 の 発 芽 直 後 の 新 梢 の 生 長 や 開 花 結 実 後

の幼果の生長に利用されるしくみになっている。したがって,冬季

における貯蔵炭水化物の多少は,翌春の根や枝梢・果実の生長と密

接な関係があるが,さらに冬季の寒害抵抗性に大きな関係をもって

いる。とくに冬季の気温が - 20 ° C ぐらい以下まで寒くなる地方で

は,果樹の芽が凍害のため枯死することがある。このような場合,

体内の貯蔵養分,特に糖分含量が少ないと,それが細胞の浸透圧に

関 係 して 凍 死 す る 危 険 率 が 高 い 。 光 合 成 を 盛 ん に 行 な って 貯 蔵 養 分

を作るはたらきをナる健全葉が,夏から秋にかけて少なければ,そ

れだけ寒害抵抗性が弱いということになる。

春先の開花期になると,幼芽や花器の耐寒性は急激に低下ナるた

め,この時期に低温にあうと大きな被害を生ずる。落葉果樹・クワ

な どの 晩 霜 害 は こ れで あ る 。 っ ぼ み の 時 ま で は 寒 さ に 強 く て も , 開

花すると急激に弱くなり,胚珠が被害を受けることがある。

Page 114: 作物生理_応用編

104

寒害の限界は,つぽみではモモー3~-5 °C,ナシー2~-4 °C,

リンゴー3~-5 °Cで,開花ナるとモモー1~-4 °C,ナシー1.5~

2.0°C,リンゴー1.5~-2.0°Cが限界温度である。

常緑果樹の低温障害のおもなものはミカンとビワである。ミカン

類 で は , 早 生 温 州 が 低 温 抵 お t 性 は 最 も 強 く , 普 通 温 州 が こ れ に っひゆ5がなっ

ぎ,夏ミカンはやや強く,日向夏・ノヽッサク・ネーブルオレンジな

どはやや弱い。そしてレモン・ブンクンは最も弱い。また果実は枝

葉 にく ら べ て 低 温 に 弱 い の で, 果 実 が な って い る 状 態 で 越 冬 す る 種

類のミカン類は,寒害抵抗性が弱いといえる。

樹体そのものの低温に対する抵抗性は,いろいろな要因で変化す

るので,厳密な温度を決定するのは困難であるが,ブンタン類・レ

モンは - 3 ° C に な るとかなりの寒害をうける。ネーブルオレンジは

- 5 ° C になると相当に落葉する。温州ミカンはこれより強く, - 5 °

C でも短時間であれば被害をうけない。また夏ミカンの果実は - 5 °

Cで凍結する。

しかしミカン園の寒害は,このような低温障害だけではなく,し

ばしば寒風害がからんでいる。寒風を受けると,葉面からの蒸散は

増 加 す る が, 根 か ら の 吸 水 が そ れ に 伴 わず, 急 激 な 水 分 不 足 を 起 こ

す も の と 考 え ら れ る 。 低 温 に よる 凍 結 害 で は , 葉 は 褐 変 枯 死 して 枝

に つ い た ま ま で あ る が, 寒 風 害 に よる も の は , 葉 柄 を 残 して 葉 身 だ

けが淡緑色になって落葉するのが特徴である。

ミカン類の経済的にみた生育適温の年平均気温限界は,早生温州

15°C,普通温州・ネーブルオレンジ・ノヽッサク・イョカンは15.5°

C,夏ミカン・日向夏・福原オレンジは16 °C,ポンカン17 °Cとな

Page 115: 作物生理_応用編

§ 8 . 寒 害 ・ 冷 害 ・ 凍 害 の 生 理 1 0 5

って い る 。同一種でも,樹勢の強いものほど寒さに対する抵抗性が

強く,被害を受けても回復が早い。夏から秋にかけて炭水化物の含

量 が 多 く な る よ う な 生 育 を し た も の ほ ど , 耐 寒 性 が 強 く な っ て い

る。また結実数が多すぎると落葉が多く,樹体が枯死ナるものが多

い。果実の収穫前に施肥によって樹勢を強くすることは,冬季の寒

害 を 防 ぐ こ と に 大 い に 役 立 っ て い る 。 ま た 台 木 の 関 係 で は 。 ズ 台

がキコク台のものより耐寒性が強いといわれている。

同じ平均気温を示す土地でも,最低気温は,局地の地形・地物の

影響をうけることが多い。一般に,くぼ地や傾斜地では高いところ

のものは被害が少なく,低地のものの被害は多い。これは,冷気は

重いので,低地に流れこんできて,たまるためである。

ビワは,枝葉の耐寒性は大きいが,花器は低温に弱い。ビワは冬

の間に開花するので,花や幼果が寒害を受けやすい。っぼみは - 7 °

C ぐ ら い ま で は 耐 え ら れ る が, 幼 果 は - 3 ° C で 寒 害 を う け, 花 は

- 5 ° C ぐ らいで被害をうける。しかしビワの開花期間は長くて,あ

る時期に低温にあっても,耐寒性の強い状態にあるっぼみが残って

いれば,減収することはあまりない。

果 樹 類 全 般 的 な も の と して , 降 雪 の 害 が あ る が, 果 樹 の 枝 が 雪 の

中 に 埋 れ た 場 合 は , 雪 の 沈 降 と と も に 枝 折 れ を し , 枝 の 分 か れ め

(分岐点)で裂開が起こる。また長期間の積雪では,雪どけの水が

土中に滞水することがあり,根に生理障害を起こすことがある。し

たがって降雪前に剪定をし,雪の中に埋れる枝の量を少なくすると

か,排水が良好になるようにしておくことがたいせっである。

Page 116: 作物生理_応用編

- - - ‥ -

106

’ ( 3 ) 飼 料 作 物

一般に冬によく伸びる植物は寒害に弱く,冬の寒さに強い作物は

寒 い 期 間 生 長 を 停 滞 ぎ み に して 新 し い 枝 葉 を 作 ら な い 。 エ ンパ ク を

暖地で秋早くまくと,やがて節間伸長を始め,しかも冬でも伸びる

性質をもっている。このような性質は,早く収量をあげるためには

っ ご う の よ い こ と で あ る が , 同 時 に 寒 さ に 対 して は 弱 い こ と に な

る。とくに摘み刈りして,あとにのびた若い二番芽は,柔らかくて

寒 害 を 受 け や ナ い 。 こ れ は 地 上 部 を 刈 り 取 る こ と が, 地 上 部 の 被 覆

物を取り去るようなもので,寒さが急に直接根もとにあたるという

理由にもよるが,それにもまして,作物体内の成分が関係している

ものと思われる。すなわち,地上部を刈り取ったので,炭水化物を

合成する葉がなくなり,体内に炭水化物の含有量が少なくなり,ま

た茎・根にあった炭水化物は新しい茎葉の再生に使用されるので,

極 端 な 炭 水 化 物 不 足 と な って , 細 胞 が き わ めて 寒 さ に 弱 い よ う な 状

態になっている。だから高刈りをして,少しでも地上部茎葉を残し

て お く こ と が, 炭 水 化 物 の で き る 部 分 を 残 す こ と に な り , 寒 害 防 止

に有効である。

牧 草 類 は , 降 雪 地 帯 で は 雪 の 下 敷 き の 状 態 に な る が, 雪 が 地 表 に

積もった場合,だいたい10cm内外の積雪下では1~10%の光量し

かなく,30cm以上も積もると,ほとんど陽光を透射しなくなる。

しかし積雪下の温度は,積雪50cm以上でO~1 °Cぐらいで,比較

的高い。そのため雪をかぷった作物は,光合成が停止し,気温は割

と高く呼吸作用は相当盛んなため,体内の炭水化物が消耗され,衰

弱して生育障害が生ずる。湿度も高いので,湿害も加わってくる。

Page 117: 作物生理_応用編

§ 8 . 寒 害 ・ 冷 害 ・ 凍 害 の 生 理 1 0 7

北陸農試の試験では,イタリアンライグラスは,根雪の日数80~

90日以上になると被害面積が50%を越え,収量が激減した。しかし

排水の良好な場所では被害が少なかった。この試験では,オーチャードグラスは比較的被害が少なく,また四倍体のイタリアンライグ

ラスは耐寒性が大きかった。

太平洋側は,冬は雪が少ないことがかえって地温を低下させる。

そしてまた,土の乾燥もひどく,寒さのために土は凍り,牧草が枯

死することもある。地表の霜柱と同じものが地中に層をなして形成

され(霜柱氷層という),このため根が分断されて枯死する。とくに

マメ科牧草の幼植物は,直根が切断されて大きな被害をうける。根

が十分に地中に発達していると,土が凍っても霜柱氷層ができるこ

とはない。適期にまき,よく管理して寒くなる前に十分生長した,で

きのよい牧草地では,このようなことはない。

雪の下に長い間埋もれていると,雪腐病菌の侵入をうけてムギ類なども枯死

する。積雪下の害は,窒素肥料を多くやったものも被害が大きく,あまり早く

まきすぎたものも被害が大きい。年内に地上部を刈り取った場合も被害が大き

い。積雪下の気温は,初冬まだ地表面が凍結しないうちに雪が降り,そのまま

根雪となった場合は,地温は比較的高いまま保護され,そのため積雪初期には

地表温は割合高い。12月末ころから地表温はO°Cと-1°Cの間にあって,

気温の1・ヽかんにかかわらずー定であり,1日中の変化はほとんどない。地下10cm地温も,12月中はなお2~1°Cであるが,のちしだいに低くなり,1°C

とO°Cの間となり,雪どけ前まてほぽー定で,雪どけとともに急に上昇す

る。このように,気温の低下とともに積雪の厚さを増す場合は,気温が-10°

C以下に下がっても,地表温はO°Cから-1°Cの間に,10cm地温は1°CからO°Cの間にあって,積雪下に生育している作物は,積雪によって外気温

の低下にもとづく寒害からむしろ保護されているともいえる。

Page 118: 作物生理_応用編

108

§9.作物と生長調節物質

近年,大規模な穀類の栽培から集約的な施設園芸,果樹栽培にい

たるまで,あらゆる作物栽培において,休眠打破・発芽促進・生長

促進または抑制,開花の促進,結実を良好にすること,成熟期を早

めること,落葉落果の促進あるいは防止,生育中の不良環境に対す

る抵抗性の増大,耕地雑草の発生や生育の抑制あるいは殺草など,

生育のあらゆる段階の分野にわたって,植物調節物質と総称される

植物性ホルモンや非植物性ホルモンの化学物質が使用され,栽培を

有利にするのに非常に役立ち始めており,また各国において,さら

に効果のある新しいこれら物質が,っぎっぎと合成されて実用化さ

れっつある。生長調節物質を使って作物をわれわれの望む方向に育

てていこうとする研究分野は,まナます開けていきつつあるのが現

在の姿である。

l 休 眠 打 破 お よ び 発 芽 促 進 と 調 節 物 質

( 1 ) 種 子

休眠中の種子をジベレリン処理ナると,休眠が打破されて発芽ナ

るようになる。レタス・ミツバ・ブラシカ類・ナスなどは,ジベレ

リン処理の効果が著しい。いままで,休眠打破のためにナフタレン

酢酸やインドール酢酸などの植物生長ホルモンとか,チオ尿素や硝

酸塩などの物質がいろいろ試験されてきたが,まだジベレリン以外

に実用的に有効な物質は見出されていない。

種子の休眠打破の方法としては,ジベレリンのような化学物質で処理するこ

Page 119: 作物生理_応用編

§9.作物と生長調節物質109

と以外に,物理的な方法として,休眠種子を高温で処理して抑制物質を不活性

にするとか,水漬けして抑制物質を流し去る方法がある。

発 芽 を 促 進 す る た め の 薬 剤 と して も ま た , ジベ レ リ ン が 多 くの 作

物 で 使 用 さ れて い る 。 ジベ レ リ ン は た ん に 発 芽 を 促 進 す る だ け で な

く,発芽のとき光や低温を要求する種類の種子でも,ジベレリン処

理をすれば,光や低温条件を与えなくても発芽が促進されるという

効果がある。レタス・タバコ・モモ・ワタ・ルーサン・トウモロコ

シ ・ エ ンバク ・ オ ク ラ ・ ラ ッ カ セイ ・ シ ソ ・ ブ ラ シ カ 類 ・ グ ロ キ シ

ニ ア ・ プ リムラ ・ カ ラ ン コ エ ・ ニゲ ラ な どの 発 芽 に , 処 理 の 効 果 が

著しいことが認められている。また,水稲・オオムギ・コムギ・zヽ

ダカムギなどでも効果があるという試験成績もある。

チオ尿素はレタス。ゴボウ・ダイコン・ブラシカ類・シュンギク

な どの 発 芽 促 進 に 有 効 で あ り , 最 近 は ジベ レ リ ン と チ オ 尿 素 の 混 合

液 が, 非 常 に 有 効 な 発 芽 促 進 剤 と して 使 用 さ れて い る 。 こ の 混 合 液

で処理すると,休眠中の種子の休眠打破と発芽促進の効果が同時に

あらわれ,また発芽に変温とか光を要求する種子には,その条件を

与 え な く て も よ く 発 芽 し , ジベ レ リ ン あ る い は チ オ 尿 素 を そ れ ぞ れ

単一で使用する場合よりも処理の効果が大きく出るなど,有利なこ

とが多い。硝酸カリもまた発芽促進の作用があり,ダイコン・トマ

ト・ニンジン・ナス・ブラシカ類では効果がある。

( 2 ) 塊 茎 ・ 球 根 ・ 樹 木 の 芽

塊茎・球根・樹木の芽の休眠打破には,ジベレリン・チオ尿素・

エチレンクロールヒドリンなどが有効である。ジベレリンはバレイ

ショ,ウドの芽,樹木の芽(モモ・ボタンなど),アネモネの地下茎

Page 120: 作物生理_応用編

110

の芽などに有効であり,チオ尿素はパレイショに,エチレンクロー

ル ヒ ド リ ン は バ レ イ シ ョ , グ ラ ジ オ ラス , ウ ド の 芽 , 樹 木 の 芽 の 休

眠を打破するのに有効に作用する。

チューリップ・グラジオラス・ュリ・スイセン・アイリス・フリージア,ウ

ドの芽,樹木の芽などには,化学薬品による休眠打破以外に,一般に実用的な

方法として,低温処理による休眠打破や開花促進法がとられている。とくに花

き類の球根は,開花促進のための花芽分化促進をも含めて,低温処理が行なわ

れているが,厳密にいえば,これら球根に対する低温処理は休眠打破ではなく

て,高温によってすでに休眠は終わっている球根に,低温処理をして花芽の分

化を促進するということになる。

塊 茎 ・ 球 根 ・ 樹 木 の 芽 は , 休 眠 が 終 わ り さ えす れ ば , そ の 後 は 環

境条件をよくしてやれば出芽・伸長は順調であるので,現在のとこ

ろ,実用的な立場から,これ以上の化学物質の使用は特になされて

VヽなVヽ。

2 生 長 ・ 分 化 と 調 節 物 質

( 1 ) 生 長 ・ 分 化 の 促 進

生 長 促 進 の た め の 物 質 と して , ジベ レ リ ン が 使 用 さ れて い る 。 た

とえば,ノヽウス栽培のフキの伸長促進のためには,草たけ10~20cm

3~4葉期に濃度25Zび凹(1j少zとは100万分の1)を散布することに

より,葉柄の伸長が早まり,さらに収穫期が早くなり,品質もよく

なったという報告もある。マツタケ科のエノキタケにジベレリンを

散布すると,生長が1週間早くなり,収量も30~60%増大する。

ま た ミ ツバ や ホ ウ レン ソ ウ の 生 長 促 進 な ど , ジベ レ リ ン は お も に 植

物の茎の部分のような器官の伸長に著しい促進作用がある。

Page 121: 作物生理_応用編

§9.作物と生長調節物質n1

ジベ レ リ ン は , こ の よ う な 作 用 の ほ か , コ ン ニ ャ ク の 生 子 の 増 殖

にも有効である。コンニャクの開花期,すなわち小葉が完全に展開

した日から5日以内の時期にジベレリン5~1()Zび凹溶液を,1株当

り2年生では25cc,3年生では50ccくらい葉に散布すると,生子

の数が自然区の2倍ぐらいに増加するという試験成績もある。

ジベレリン以外の物質としては,オーキシンと総称されているも

ののうちベーターインドール酪酸(IBA),アルファーナフタレン酢

酸(NAA)などは発根促進作用があり,挿木をするときなどこれら

の溶液に浸流してから挿木をすると,よく発根し活着がよい。細胞

分 裂 を 促 進 す る 物 質 と して カ イネチン と い う 物 質 が あ る が, こ れ に

近い化学物質にサイトカイニンというものがあり,このサイトカイ

ニンとオーキシンとの量の比の多少によって,根や芽の伸びが変わ

ってくる。すなわち,オーキシンの濃度比が高い場合は根の生長が,

サイ トカ イニ ン の 濃 度 比 が 高 い 場 合 は 芽 の 伸 長 が, 中 間 の 濃 度 の 場

合 は カ ルス 形 成 が, そ れ ぞ れ 盛 ん と な る 。 こ の よ う な 作 用 は , 組 織

培 養 に よる 植 物 の 栄 養 繁 殖 や, 葉 挿 しで の 不 定 芽 の 形 成 の 促 進 に 利

用することができる。

( 2 ) 生 長 ・ 分 化 の 抑 制

茎 の 伸 長 に 対 して は 抑 制 作 用 が あ る が, 葉 や 花 な どの 形 成 に は あ

ま り 影 響 を 与 え な い と い う 物 質 が あ る 。 倭 化 剤 と 呼 ば れ る 物 質 群

で,アモー1618・ホスフオン・CCC・Bナインなどがこれである。

とくにBナインは,園芸作物などでは実用的なものとして使用され

っ つ あ り , 葉 面 散 布 に よ って , 鉢 物 の 伸 長 抑 制 , 果 菜 類 の 徒 長 防 止

などに効果がある。これらの物質は,ジベレリンとの桔抗作用によ

Page 122: 作物生理_応用編

112

って,体内でのオーキシン生産を低下させ,伸長を抑制するものと

思われる。すなわち,植物体内でのジベレリンの生成を抑えるよう

に , 体 内 の 代 謝 を かえる 作 用 を も っ た 代 謝 阻 害 物 質 と 考 え ら れて い

る。

タバコの側芽発生防止のためにはマレイン酸ヒドラジッド(MH)

が 利 用 さ れて い る が, こ れ は 直 接 的 生 長 阻 害 の 作 用 を も っ た も の で

あ り , B ナ イ ン な ど と は 異 な っ て い る 。 マ レ イ ン 酸 ヒ ド ラ ジ ッ ド

は,節間を短くすることがあるが,また葉身の展開を阻害したり,

頂端分裂組織の機能が阻害されて頂芽優勢が破られ,さらに濃度を

高くしたものでは,すべての生長部分が阻害されてしまう。したがっ

て,マレイン酸は抑制ではなくて阻害物質というべき物質である。

オーキシンも,高濃度で処理ナると生長を抑制するが,同時に茎葉

や花器にまで奇形がでるので,Bナインなどとは作用性が異なって

いる。

3 花 芽 の 分 化 お よ び 開 花 促 進 と 調 節 物 質

花 芽 の 分 化 の た め に 低 温 を 必 要 と す る 種 類 の 作 物 に 対 して , 低 温

に あ わ せ る か わ り に ジベ レ リ ン 処 理 を ナ る と , 花 芽 の 分 化 を 起 こ

し,またその植物がさらに花芽の分化・開花のため長日をも必要と

するものであれば,ジベレリンの効果は長日条件下では非常に著し

く現われる。しかしすでに低温を経過した植物は,長日条件下でな

くてもジベレリン処理の効果が大きい。また,もともと低温中の生

育を経過しなくても長日条件でさえあれば花芽の分化が起こり開花

するような植物は,ジベレリン処理をすると長日条件下でなくても

Page 123: 作物生理_応用編

§9.作物と生長調節物質113

花芽分化が起こり開花する。

次のようなものは,自然条件下では花芽分化は起こらないが,ジ

ベレリン処理をすると花芽分化が起こる。

①低温を要求する2年生作物

キャベツ・ルタバガ・ニンジン・英国ディジー。パンジー

②長日1年生作物ノヽクサイ・チシャ・ダイコン・ホウレンソウ・ペチュニヤ

ジ・ヽ゛レリンはまた,スギ科やヒノキ科の針葉樹の花芽分化に著し

い効果がある。スギは,ふっう10年以上の樹令になって初めて開花

結実する(早いものは3~4年で開花する)ものであるが,スギの

まきつけ当年生苗の頂芽にジベレリン(濃度50m召匹)をぬると,開

花 が み ら れ る 。 ま た , 水 耕 1 年 生 苗 の 水 耕 液 に ジベ レ リ ン を 加 える

処理をした結果でも開花がみられた。

シクラメンは,9月上~中旬にジベレリン1~5か77z液を1回,

生長点に散布ナれば,開花が非常に早くなる。

またコンニャクは,普通は1年生イモ・2年生イモには花はつか

ず, 一 般 に 4 年 生 イ モ , 早 い も の で 3 年 生 イ モ に 花 が 咲 くの に , ジ

ベレリン処理をすると,2年生イモ・1年生イモとも開花する。

チューリップでは,花芽形成促進のために低温処理を行なってい

る が, あ る 程 度 低 温 処 理 の 期 間 を 短 く して , そ れ に ジベ レ リ ン 処 理

を加えてやるといっそう効果がある。市販のジベレリン液剤の濃度

・100かz7zのものを,6~10cm伸びたチューリップの葉の間に,水が

たまるようなかたちにためてやるとよい。

パインアップルの花芽の形成には,ナフクレン酢酸や2,4 -Dが

Page 124: 作物生理_応用編

114

有効であるが,これは,ナフタレン酢酸や2,4 -Dが,パインアッ

プルのオーキシンの一種であるインドール酢酸の体内含有量を低下

させることによって,開花を促進しているのである。ノヽワイでは,

開 花 調 節 剤 と して , ベ ー タ ー ヒ ド ロ キ シ ヒ ド ラ ジ ン が き わ め て 有

効 で あ る と して , 利 用 さ れて い る 。 こ の 物 質 は , そ れ 自 体 は オ ー キ

シンとは関係のない物質であるが,体内でインドーフレ酢酸の量の調

節 を して い る イ ン ド ール 酢 酸 分 解 酵 素 に 間 接 的 に 作 用 して , イ ン ドー ル 酢 酸 の 分 解 を 促 進 す る こ と に よ り イ ン ド ー ル 酢 酸 量 を 低 下 さ

せ,開花を誘起するものである。この場合,開花を予定する時期の

約40日前に,0.12%水溶液として,株の中央に散布する。

4 結 実 ・ 肥 大 と 調 節 物 質

( 1 ) 結 実 ・ 肥 大 の 生 理

自然界で果実が正常な肥大生長をするには,まず花粉の受精が完

全 に 行 な わ れ , 種 子 が で き な け れ ば な ら な い 。 不 受 精 の 胚 は く ず れらくきよ5

さり,このような不受精胚が多いと落果・落莱の原因となる。よく

受精し完全な形の種子が多くできるほど,大きな果実ができる。ト

マトの果重と種子数とは,正の高い相関関係がある。イチゴで調査たく

した結果によると,花托上の種子数の多いほど果重が重く,受粉さ

れた種子の付近の花托は肥大生長するが,受粉しない種子の周辺は

肥大せず,一部分が受粉ナると奇形果ができる。

果 菜 類 で も イ チゴ と 同 様 で あ り , 種 子 の 形 成 が 部 分 的 に 不 完 全 だ

と,完全種子のある側の果肉は十分に発達し,不完全種子の部分は

発育が悪ぐ,ゆがんだ形の果実ができる。

Page 125: 作物生理_応用編

§9.作物と生長調節物質115

果実の肥大生長に種子の存在が必要なのは,果肉の肥大のために

必要なオーキシンが,種子によって作り出されているからである。

受精後種子の発育につれてオーキシン含量はしだいに増加ナる。

しかし,種子ができなくても果実が肥大生長することがあり,こ

のような現象を単為結果といっている。単為結果には,受粉しない

で 果 実 が 発 育 す る も の と , 受 粉 は 行 な わ れ る が 受 精 は 行 な わ れ な

い,しかし果実は発育をする,というものとがある。

トマト・ナス・トウガラシ・キュウリなどは,受粉しないで単為

結果をするが,キュウリ以外はいずれも小粒果実にしか生長せず,

実 用 性 は な い 。 キ ュウ リ は , 品 種 に よ って 差 は あ る が, 一 般 に 単 為

結果能力が強く,促成・半促成栽培では,ノヽウス内などで単為結果

する。ナスは,早い時期の花は単為結果しないが,おそい時期のも

のになると単為結果しやすい。

受 粉 して も 受 精 は し な い が, 花 粉 そ の も の が 刺 激 と な り , 果 実 が

肥大生長を始めるものもある。たとえばナスの雌花にペチュニアの

花粉,トマトの雌花にナスの花粉,トウガラシの雌花にホオズキ・

タバコ・ペチュニアの花粉,キュウリの雌花にカボチャ・マクワウ

リ・ヒルガオの花粉,カボチャの雌花にヒルガオの花粉をかけてや

るとよい。

受 粉 に よ っ て 単 為 結 果 が 起 こ る の は , 花 粉 が 雌 花 の 柱 頭 に 付 着

し , 花 粉 管 を 伸 長 さ せ る と 同 時 に , 花 粉 内 容 物 が 出 て 子 房 を 刺 激

し,子房の発育が開始されるものと思われ,またこの花粉からの浸

出物にはオーキシンが含まれていて,このオーキシンの作用によっ

て肥大するということがわかってきた。

Page 126: 作物生理_応用編

116

( 2 ) 結 実 ・ 肥 大 と 調 節 物 質

ジベレリン溶液でブドウのデラウェア種を処理すると,果実は種

子ができず(種子なしブドウ),しかも熟期が半月から1月くらい

早くなる。

第44表プドウ(デラウェフ種)のジペレリン処理の効果(岸氏)

処 理 果 無 処 理 果

果 房 重果 房 長果 粒 の 大 き さ粒 数有核果粒の混入歩合糖 分 含 量収 穫 日

142g

13cm

1.3g

126個

0.8%

18.4%

7月28日~8月11日

134g

12C唵

1.6g

88個

100%

18.8%

8 月 1 6 日 ~ 9 月 7 日

第44表は,デラウェアのジベレリン処理の効果を調査したもので

あるが,処理区はほとんど種子なしになっている。この処理では,

ジベレリンM)O弩1岩頭融を作り,満開予定日の:LO~20日前にブドウの

果房をこの液に浸漬する。このような処理で種子なしブドウができ

ることになるが,このままでは果粒の肥大生長が思わしくないので,

満開後10日めころ,再び前と同じ濃度で処理し,肥大促進を行なっ

ている。

第45表ネーブルオレンジのジペレリン処理効果(西浦氏)

樹 容 積 1 m 2 当 り処 理 の 方 法

ジ ベ レ リ ン1500蜷匹散布

真 澄 の 花 粉に よ る 受 粉 自然放任無処理

結 果 数

収 量1 果 平 均 重

9.8個

1.70㎏

174g

6.8個

1.24㎏

193g

7.5個

1.06㎏

200g

Page 127: 作物生理_応用編

§9.作物と生長調節物質117

ブドウではこのほかに,マスカットベーリーAが同じようなやり

方で熟期も2~3週間早くなるが,この品種の処理は,生育好適地

帯だけに地域を限定してやっている。

第45表はワシントンネーブルの開花期(5月上旬)や幼果期にジ

ベレリンを散布ナると実がよくとまり,増収することを示した調査

結 果 で あ る 。 こ の 場 合 , 夏 ダイダイ の 花 粉 を 受 粉 して や って も 結 実

はよいが,ジベレリン処理のほうがいっそう効果がある。(日本では

ネーブルは,開花期から幼果期にかけてのころが梅雨期で,雨天・曇天が多く

日照不良のため,生理的落果が多くて収量も少ない。)

リンゴ・カキ・洋ナシ・アンズ・モモ・ビワなども,ジベレリン

処理をすると単為結果をするが,果実が小さすぎるとか,散布労力

が多くかかりすぎるとかなどで,実用性にとぼしい。

ジベレリンのほか,オーキシンの一種であるベーターインドール

酢酸(IAA)・ベーターインドール酪酸(IBA)・アルファーナフタ

レン酢酸(NAA)などが,単為結果の誘発に効果がある。

トマトの単為結果のためにはオーキシンが極めて有効であり,オ

ーキシンのうち主としてフェノキシ酢酸誘導体が使用されている。

トマトではこのほか,2,4-Dも結果誘起のために使用されている。

またナスでの2,4-D,カボチャでのNAAも有効である。

トマトの処理法としては,霧吹きで花房全体にかかるように噴霧

する。時期はトマトの花房の3~4花が開いたときがよい。ナスは

花が開いたときと,つぼみのとき行なう方法とがある。つぽみのと

きに処理するときは,まだ柱頭が出ていないので,っぼみの先をつ

まんで開かせ,柱頭に十分ホルモン剤がつくように,できるだけ奥

Page 128: 作物生理_応用編

118

まで入れてやる。

ホルモン剤を使ったあと,ノヽウスやトンネルはできるだけ閉めて

おくことがよい。閉めておけば,処理した薬がかわかないので,濃

度 が 高 く な らず, 奇 形 果 も 少 な く , 薬 の き き め も 長 つ づ き す る 。 し

かし,ノヽウス内での処理作業は,午後3時ころからあとにするのが

よい。午前中処理をしてノヽウス内を閉め切っておくと,昼間温度が

上昇しすぎて過高温のため落果が多くなる。

5 落 葉 ・ 落 花 ・ 落 果 と 調 節 物 質

(1)落葉・落花・落果の生理

葉は古くなったり,病虫害などでいためつけられると落葉するの

は,葉の中に含まれているオーキシンの含有量が少なくなるので,

葉柄が植物体から離脱するためであるということが明らかにされて

きた。実際,若い葉と落葉前の古い葉とを比較すると,若い葉のほ

うがオーキシンの含量が多い。葉のオーキシン含量と落葉までの日

数との間1こは,ほぼ一定の関係があり,葉が老化していくにしたがい

葉身中のオーキシンの含有量は少なくなっていく。葉身を切り捨て

て葉柄だけを残しておき,この切りロにオーキシンの一種であるべ

一ターインドール酢酸(:IAA)やアルファーナフタレン酢酸(NAA)

を加えると,葉身が存在する時と同様に,葉柄が離脱せずに着いて

いる。

ま た 酸 素 が 欠 乏 し た り , 呼 吸 作 用 が 阻 害 さ れて い る よ う な と き

は,離脱が起こらないが,空気中の酸素分圧が20%以上になると離

脱が促進され,40%では非常に離脱が進むといわれている。これ

Page 129: 作物生理_応用編

§9.作物と生長調節物質119

は , 空気中の酸素量が多くなると,IAAが葉身内で不活性化する

(すなわちIAAの含有量が低下ナるのと同じこととな ‘ る)ことに

よると思われる。

温度と落葉(離脱)との関係をみると,低温では速度がおそく,温

度 の 上 昇 と と も に 高 ま る け れ ど も , あ ま り 高 温 に な る と 再 び 低 下 す

る。またあまり急に水分が欠乏することも離脱を促し,また秋にな

ると離脱するようになるが,これらの原因は,おそらく葉のオーキ

シンの含有量の低下と関係あるものと思われる。窒素・石灰・いお

う・亜鉛・苦土欠乏などのときも離脱が起こるが,これは葉のオー

キシンの減少にこれら要素の欠乏が関係しているものと思われる。

要するに葉が離脱するには,葉柄の基部の茎と接着している所に,

細 胞 分 裂 が 起 こ って , 離 層 と い う も の が 形 成 さ れ , こ こ か ら 葉 が 離

れて落ちる。

ところが最近,このように葉が落ちるのは,アブサイシンHとい

う落葉・落果ホルモンができ,この働きによるものであるともいわ

れている。

(アブサイシンHは,落果しやすいワタの幼果から抽出された落葉促進物質である。)

結局オーキシンが多ければ落葉が起こらず,アプサイシンIIが多

くなり,オーキシン含量が少なくなると,離層ができて葉が落ちる

ということになるものと考えられる。またこの離層の形成について

も,葉が落ちやすいようにできるのではなくて,落ちたあとの傷口

を保護するために離層ができるのだという人もいる。

落果にもオーキシンが密接に関係しており,果実内のオーキシン

Page 130: 作物生理_応用編

120

は 果 実 の 中 の 種 子 で 生 産 さ れて い る 。 リ ン ゴ で 調 べ た も の に よ る

と,リンゴの生理的な落果の周期はオーキシンの生成の消長と一致

しており,果実内のオーキシンの生成が盛んになると落果は少なく

なるが,その生成量が少なくなると落果が多くなる。種子の含有量

の1粒でも多い果実のほうが,種子量の少ない果実よりも落果しに

くいのは,種子で生成されるオーキシンの量が多いからである。

つ ぼ み や 花 の 離 脱 に つ いて も , 要 す る に オ ー キ シ ン の 生 成 ・ 含 有

量との関係によるものである。

つぼみ・花・果実の離脱とアブサイシンHとの関係については,まだ調査さ

れた成績がないので記述しなかった。ジベレジンがバレイショの休眠を破る作

用があるのに対し,アブサイシンは休眠を延長させる。またカキやリンゴを,

収穫に便利なように,適当な時期に落果させる。

( 2 ) 落 葉 ・ 落 花 ・ 落 果 と 調 節 物 質

オーキシン含有量が落葉・落花・落果に関係があることが明らか

になった現在では,これらの防止のためには人為的にオーキシンの

含有量をふしてやればよいことになる。

10

落 果 防 止 の た め に は , と く に

種 子 の 少 な い こ と に よ って 落 果

がひどくなるような果実には,

? 告 7 ; 尽 / 人 為 的 ゛ あ 6 種 o 植 物 7 1 ` タ ジ シ.,ノ’2451’r’20PPmを幼果期に散布すれば効果的で. . ノ / あ る .

/ し . . . . - ・ - s ゛ ” ゛

か S 〆 S

9月10日 20日 25日 第15図は,リンゴの後期落果第15図リンゴの後期落果に対するホルモン剤散

布の防止効果(長野農試)(品種=紅玉)に対ナるホルモン剤散布の効果

Page 131: 作物生理_応用編

§9.作物と生長調節物質121

成 績 で あ る 。 リ ン ゴ で は オ ー キ シ ン の 一 種 で あ る ナ フ タ レン 酢 酸 や

2・4・5T,2・4・5TPが使用されている。

夏 ダイダイ ・ 日 向 夏 な ど で は , 越 冬 中 に 落 果 す る の を 防 止 す る た

め,日向夏では11~12月,夏ダイダイでは12~2月に,20~:1.0()かa

の2,4 -D,2・4・5Tを散布ナる。外国ではレモン・グレープ

フルーツ・ネーブルオレンジなどの後期落果防止に,2,4 -Dの8

~16Zび回液を散布している。

このほか,リンゴの摘花にオーキシンの一種NAAを使用してい

る。NAAはオーキシンであるから離脱をおさえるが,花では花粉

の花粉管生長,あるいは胚の生長をおさえる作用がある。このこと

は,花の受精を妨げることになり,または受精した胚がだめになる

ことになるので,結局この花はやがて離脱(落果)していくことに

な る 。 リ ン ゴ の 落 花 促 進 剤 と して は , N A A の ほ か に 殺 ダニ 剤 で あ

るDN斉IJ(ドルマント)や,殺菌剤の石灰イオウ合剤とか,殺虫剤N

MC(ビゼン)が使用されている。

6 環 境 抵 抗 性 の 増 大 と 調 節 物 質

最近米国でデセニル(デセニルサクシニックアシッド)という薬剤

が合成された。これは,細胞液の浸透圧を高めるいっぽう,気孔を

閉鎖させて蒸散を抑制するので,作物の耐旱性・耐寒性などが強ま

る。もともとタバコを早春に畑に定植する場合の降霜害防止用とし

て作り出されたのであるが,ダイズ苗の試験では,無処理のものは

-5 ° Cで全部凍死したのに,,デセニルの溶液に3日間浸漬した苗は

-5 °Cでは全部生き残り,-10 °Cでも45%生き残ったという結果

Page 132: 作物生理_応用編

1 2 2 ’ … …

が で て い る 。 フ ゾ

カイニンは,たんぱく質の分解をおさえ,組織の老化を防ぐ作用

があるので,野菜の鮮度を保っのに利用される。切花の保存には,

カイニンのほか,リターダント(Bナインなど一群の抑制剤のこと)も

有効である。カイニン・リターダントは,。ともに耐寒性・耐旱性を

まし,またカイニンは薬害耐性もますといわれている。

7 除 草 剤 と 生 長 調 節 物 質

除 草 剤 は , 作 物 に は 薬 害 を 与 え る こ と な く 雑 草 だ け は 殺 す と い

う,極めて特殊な選択性のある薬剤である。しかし,作物も雑草も

植物であるから,共通または類似の形質をもっており,ある特定の

作物のみにはまったく無害で,しかも周囲にある雑草には効果的な

薬害を与えるというような除草剤は,まだできていない。したがっ

て あ る 作 物 に 薬 害 を 与 えず 雑 草 だ け を 殺 すと い う 作 用 は , あ る 限 定

された条件下で除草剤を使用した時のことである。

作 物 の 発 育 の 時 期 が ち が っ た り , 苗 が 軟 弱 で あ っ た り , 環 境 条 件

が不適当であったりすると,作物そのものも薬害をうけ,個体が完

全 に 枯 死 し た り , 組 織 , 器 官 の 一 部 が 枯 れ た り , あ る い は 生 育 ・ 伸

長が一時的に停滞したりすることもしばしば起こりうる。

ハまた一般に除草剤と名づけている薬剤も,その成分のちがい(薬

剤の化学構造式的なちがい)によって植物に対する作用性がちがって

いる。したがって,除草剤の使用にあたっては,対象雑草と作物の

種類,いかなる発育段階の時期が作物には害が少なく,雑草に対し

ては殺草効果が大きいか,環境条件と薬剤の効果,薬害のでかたな

Page 133: 作物生理_応用編

§9.作物と生長調節物質123

どについての十分な知識が必要である。

( 1 ) 植 物 ホ ル モ ン 系 除 草 剤

フェノキシ系のものとして2,4-D(2,4-ジクロロフェノキシ酢

酸),MCP(2-メチルクロロフェノキシ酢酸),MCPCA(2-メチル4-

クロロフェノキシアセトオルソクロロアニライド)などがある。

2,4 -Dは,茎葉・根などから吸収され,植物体内を速やかに移

行 し , 植 物 に 害 作 用 を 与 える 。 茎 葉 に 散 布 し た 場 合 に は , 〔 広 葉 植

物 〉 イネ 科 植 物 〕 と い う 選 択 的 殺 草 作 用 が あ る 。 2 , 4 - D は , 分

裂 組 織 の 細 胞 分 裂 を 盛 ん に し , 葉 緑 素 の 形 成 阻 害 や 呼 吸 作 用 の 異 常

増 進 な ど に よ って , 植 物 体 の 成 分 を 変 化 さ せ て , 植 物 体 内 の 生 理 的

均衡を破り,遂には植物体を枯死させる。

2,4 - Dは,水田の広葉1年生雑草に対して効力が大きいが,

イネ 科 植 物 に 対 して も , 生 育 初 期 に は 奇 形 発 現 作 用 が 大 き い 。 作 用

力は高温時に大きく,15 ° C 以下では小さい。また水稲に対して薬

害の危険性が大きく,とくに低温で生育した水稲は,生育が遅れる

ので薬害が大きい。畑作物に対しても薬害が大きいので,実用化さ

れていない。

MCPも,作用は2,4 -Dに似ている。作用力は2,4 -Dより

大 きいが,その後の回復が速く,また奇形発現作用が大きい。土壌

中の効力持続期間は2,4-Dより長く,夏季で約40日間である。

MCPCAは,〔<広葉植物〉イネ科植物〕の選択殺草性があるが,

広葉植物に対する作用もMCPなどより著しく小さい。茎葉処理の

場合は作用力がきわめて小さいが,土壌処理の作用力は大きく,と

くに湛水条件下で大きい。水田の水が少なくて畑状態のときは作用

Page 134: 作物生理_応用編

124

力が小さい。

( 2 ) 非 ホ ル モ ン 系 除 草 剤

カーバメート系のものとしてC1-IPC(イソプロピールN-((3-

クロロフェニ川)カーパーメート),脂肪酸系のDPA(2,2-ジクロロ

プロピオン酸),ニトリル系のDBN(2,6-ジクロロベンソニトリ

ル),トリアジン系のCAT(2-クロロー4,6-ビス((エチルアミノ))

-S-ドリアジン),プロメトリン別名ゲザガード(2-メチルメルカプ

トー4,6-ビス((イソプロピルアミノ))-S-トリアジン),酸アミド系の

DCPA(3,4-ジクロロプロピオンアニライト),フェノール系のPCP,

ジフエニルエーテル系のNIP(2,4-ジクロロフエニールー4一二トロ

フエニールエーテル,CNP別名MO(2,4,6-トリクロロフエニー

ルー4-ニトロフェニールエーテル)などがある。

CHPCは,茎葉に付着してもほとんど作用がないが,移行型で,

根から吸収されると,細胞分裂や呼吸を阻害して,根の生長するの

を抑制し,きわめて強い作用を現わす。作用がひどいときには生長

点が奇形になる。土壌中での効力の持続期間は,低温のときはきわ

めて長いが,高温度のときはきわめて短い(高温時に効力期間が短い

のは気化するためと思われる)。砂質土壌では,土壌中での移動性が大

きい。土壌処理の除草効果は,低温時にはきわめて大きく,またタ

デ類に効果が大きい。

DPAは,茎葉に散布した場合でも速やかに吸収されて植物体内に

移 行 して 害 作 用 を 現 わす が, 根 か ら 吸 収 さ れ た 場 合 は さ ら に 強 い 害

作 用 を 現 わす。 処 理 後 は 葉 が 暗 色 に な り , 生 長 が 止 ま り , 遂 に は 枯

死するが,このようなききめはゆっくりと発現される。1年生およ

Page 135: 作物生理_応用編

§9.作物と生長調節物質125

ぴ 多 年 生 の イネ科の植物にきわめて作用力が強く,広葉植物にはあ

まりききめがない。土壌中での移動性が大きい。

DBNも移行型で,茎葉からの吸収による作用は小さいが,根から

吸 収 さ れて 強 い 作 用 を 現 わ ナ。 吸 収 は 溶 液 だ け で な く , 蒸 気 も 吸 収

される。この薬剤に侵された植物はもろくなるという特徴がある。

土壌とよく混合したり,水田に湛水したときの条件下で効果が大き

い の で, 水 稲 作 に お ける 湛 水 し た 状 態 で の 生 育 期 の 土 壌 処 理 , ム ギ

の播種後ないし生育期の土壌処理によい。

CATも移行型の除草剤であり,茎葉処理の作用は小さく,主とし

て根からの吸収によって害作用をおよぼす。土壌に施用した場合の

除草効果はきわめて大きく,作用は遅効性であるので,ききめがで

るのはおそい。

陸稲・ムギ・トウモロコシ・ダイズ・ラッカセイ・サツマイモ・

ナタネ・タマネギなどの畑の夏作・冬作,および樹園地・森林苗圃

な ど の 播 種 後 な い し 生 育 期 の 土 壌 処 理 に , 広 い 適 用 性 を も っ て い

る。

DCPAは,付着することによって害を与える接触型の除草剤で,

茎 葉 に 散 布 し た 場 合 , イネ 属 に は 作 用 が 小 さ い が, そ の 他 の イネ 科

植物や多くの広葉植物に作用が大きい。土壌中では速やかに分解し

不活性化するので,根から吸収されて作用を及ぼすということはき

わめて少なく,したがって土壌処理効果は小さい。

ノビエ・メヒシバ・アカザなど多くの1年生雑草の幼苗期のもの

には除草効果が大きいが,生育が進むと効果が小さく,またツュク

サ・スベリヒュには効果があまりない。処理前後の土壌水分が高い

Page 136: 作物生理_応用編

126

条 件 下 で は , ノ ビ エ に 対 ナ る 除 草 効 果 が 劣 る よ う で あ る 。 こ め 薬

のヒエ類に対する致死作用は,光合成の阻害よりも,ヒエの細胞の

原形質に対する直接の害作用によるものであり,その有害作用は,

ヒエとイネの間に大きな差がある。なおパラチオン剤・DEP剤・

NAC剤などの混用とか,または10日以内の併用は,水稲に著しい

薬害がある。

PCPも接触によって害を及ぼすもので,茎葉に散布すると強い害

作用が急速に出てくる。PCPは植物細胞内のミトコンドリアのエネ

ルギー代謝の働きに作用するもので,吸収を非常に盛んにし,蓄積

エネルギー源となる物質を消費させるが,アデノシン三りん酸の介

在 す る エ ネ ル ギ ー の 他 へ の 伝 達 と い う 正 常 な 営 み を 乱 す 作 用 が あ

る。

ウキクサやアオミドロなどには特効的な効果がある。土壌処理の

除草効果は大きいが,メヒシバ・スズメノテッポウなどのイネ科雑

草にはやや小さい。しかし水田のノビエには土壌処理の効果がきわ

めて大きい。

(人畜には,パラチオンほどではないが,かなり毒性があり,魚類には猛毒で

ある)

プロメトリン(ゲザガード)は,非ホルモン型の移行性除草剤で,

主として根から吸収され速やかに地上部に移行し,葉の先端とか葉

縁に集積される。そして光合成作用を阻害することによって害作用

を与えるが,これと別の代謝反応をも同時に阻害しているものと思

われる。土壌処理の作用力はきわめて大きく,残効期間も長い。

NIPは接触によって害作用を現わすもので,地上部に散布すると

Page 137: 作物生理_応用編

§9.作物と生長調節物質127

広葉性植物よりもイネ科植物に対して作用が大きい。土壌処理でも

イネ科に作用が大きく,ニンジン・ダイズ・ラッカセイなどには小

さい。

土壌処理の場合,発芽後間もない幼芽に接触すると浸透移行し,

幼芽が伸長出芽後光線を受けると,接触害として殺草力を現わす。

殺草力は一般に貯蔵養分の乏しい植物・幼芽に対して強い。作用力

は気温の高低によってあまり左右されないし,土壌中での移動性も

あまりなく,作物に対ナる安全性は高く,土壌中での効力持続期間

は長い。

CNP(MO)も付着によって害作用のあるもので,イネ科に効力が

ある。種子殺草力が強く,雑草の発芽前から発芽始期の処理できわ

めて効果がある。しかし発芽後の幼雑草に対してはあまり効果がな

<除草剤の作用型・化学構造名による分類>

作 用 型 化学構造名 除 草 剤 名

植 物 ホ ル モ ン 型 フ ェ ノ キ シ 系2,4-D

MCP

M C P C A

非ホノレモン型移行性

カーバメイト系脂 訪 酸 系ニトリノレ系トリアジン系

酸 ア ミ ド 系

CI-IPC

DPA

DBN

CAT

プロメトリン(ゲザガード)

D C P A

非ホノレモン型接触性

フ ェ ノ ー ル 系

ジ フ ェ ニ ル

エ ー テ ル 系

PCP

NIPCNP(MO)

無機化合物(接丿独性) 塩素酸ソーダ(クサトーノレ)

Page 138: 作物生理_応用編

・128

い。ノビエに対する殺草力は,水深によって異なっており,深水に

すると効果が大きい。高温のときが殺草力が強く,土壌中での移動

性は小さく,水田の水の深さにはあまり効力は関係しない。

(3)その他の除草剤

塩 素 酸 ソ ー ダ ( ク サ ト ール ) 接 触 型 の 除 草 剤 で , 茎 葉 に 付 着 す

ると強い酸化力で細胞を破壊し,速やかに効力を現わす。いずれの

植物に対しても害作用があり,地下茎の深い多年生イネ科雑草(ネ

げ サ 類 ) に も き わ めて 有 効 で あ る が, こ れ は 土 壌 中 で の 移 動 性 が 大

きく,雨水によって土中深くまで浸透するためである。土壌中での

効力持続期間は,乾燥条件下ではきわめて長いけれども,わが国の

,気象条件下では1~2か月程度である。

Page 139: 作物生理_応用編

§ 1 0 . 貯 蔵 の 生 理 1 2 9

§ 1 0 . 貯 蔵 の 生 理

l 貯 蔵 の 生 理

収穫した作物を新鮮な状態で長期間保存するには,作物体の成分

ができるだけ消耗しないようにすればよいのであるが,そのために

は,作物の貯蔵中の呼吸作用を,生理的に障害の生じない範囲で,

極力おさえてやればよい。

作物体の呼吸度は,体内における生理活動が活発で,エネルギー

の消耗の多いときは増進され,生理活動がゆるやかな状態のときは

低 下 ナ る 。 す な わ ち , 組 織 が ど ん ど ん 生 長 し つ つ あ る よ う な 部 分

は , エ ネ ル ギ ー を 多 く 必 要 と す る の で, 呼 吸 が 盛 んで あ り , そ れ だ

け蓄積している養分の消耗が多いことになる。このことは,パレイ

ショやタマネギが休眠状態(生育がほとんど停止している状態)に

あ る と き は 呼 吸 は き わ めて 小 さ い が, 休 眠 が 破 れて 発 芽 を 始 め る 時

期 に な る と 呼 吸 が 増 大 してくる こ と や, 生 長 の 極 めて 盛 ん な 葉 菜 類

は,成熟した果実などとくらべて,著しく呼吸が盛んであることに

よってもうかがい知られる。

園芸作物の収穫後における呼吸作用は,いろいろな環境要因によ

って影響され,変化するが,要するに呼吸は,収穫直後が最も盛ん

であり,日がたっにっれて大部分のものがしだいに減少していく。

次ページの第16図は,各種野菜類の収穫後における呼吸量の変化を

調査したものである。

作物がどの程度の呼吸作用を行なっているかは,単位時間に単位量の生体に

Page 140: 作物生理_応用編

130

よって吸収される酸素または放出される炭酸ガスの,重量か容量で表示してい

るが,果実や野菜では,その1kgが1時間に排出する炭酸ガス量(単位はmg)

で表わしている。

2〔X〕

150

n W1。8

50

30

20

10

0 2 4 6 8 1 0 1 2 1 4 日貯 蔵 日 数 ( 1 0 ° C 貯 蔵 )

0 1 0 2 0 3 0 4 0 5 0 日

第16図収穫後における各種野菜の呼吸量の変化(Pliltenius,1942)(CO2mg/kg/hは,野菜1kgが1時間当り呼吸によって排出するCO2の量)

収穫してから追熟をするような果実や果菜では,追熟に伴って,

いったん呼吸が上昇し,のち減少していくというような経過をたど

っている。

要 す る に 作 物 体 の 呼 吸 作 用 の 上 昇 ・ 低 下 に は , 作 物 体 内 の 生 理 作

用 と 外 界 の 諸 条 件 と が 関 係 して い る が, 外 界 の 諸 条 件 と して は , 温

度・湿度・酸素量・炭酸ガス量などが,とりわけ密接な関係をもっ

ている。

( 1 ) 温 度

は温度である。温度と作物体の生活作用との間には,温度が10 ° C

上昇すると,作物体内での生化学的な反応の速度が約2~3倍早く

Page 141: 作物生理_応用編

§ 1 0 . 貯 蔵 の 生 理 1 3 1

なるという関係がある。逆にもし10 ° C低下した場合は,いままで

の1/2~1/3になる。また温度が10°C以下の低温状態になったとき

は,急に呼吸量が少なくなる。このようなことから,野菜が凍らな

い範囲内で,できるだけ低温にナることは,作物体内における呼吸

作用=生化学的な諸反応をおさえ,また同時に野菜類の品質を悪化

させる微生物の繁殖・加害をおさえて,作物を長く貯蔵のできる状

態におくことになる。

しかしサツマイモ・ショウガ・メロン・キュウリ・トマト・バナ

ナ・パパイヤなどの高温性の野菜・果物は,ある限界以下の低温に

一定期間おくと,凍らなくても低温障害をうけて腐敗しやすくなる。

ま た 果 物 ・ 野 菜 な ど で, 凍 ら な い 程 度 の O ° C に 近 い 低 温 に 貯 蔵

しておいたのち常温にもどすと,急に以前よりも呼吸が盛んになる

ものがある。バナナ・バレイショなどのでんぷん質のものにとくに

著しくみられる。その理由として,冷蔵中にでんぷんの分解によっ

てできた糖が体内に蓄積されており,これが大量に呼吸作用の材料

(基質)として提供されるようなかたちになるからであると説明し

ている人もいる。

大部分の果菜は,温度を10°C以下の低温にすれば急激に呼吸量は少なくなるが,その呼吸量の変化の程度が,0°C近くの低温状態ではまた非常に激しく

なっているということが明らかにされている。したがって,このような範囲の

低温下の貯蔵では,変質・消耗がはやくなるということも考えられる。

( 2 ) 湿 度

貯 蔵 中 の 外 界 の 湿 度 は , 温 度 に く ら べ て 二 次 的 な 要 素 で は あ る

が,やはりしおれ(萎凋)・ちぢみ(萎縮)・病害の発生などに大

Page 142: 作物生理_応用編

132

き な 関 係 を も っ て い る 。 こ一 般 的 に は , 湿 度 が 高 く て 湿 潤 状 態 で あ る ほ ど 呼 吸 が 盛 ん と な

り,ほんの少し乾燥ぎみの湿度のときは,湿潤状態のときよりも呼

吸 作 用 は 低 い 。 し か し こ れ は 作 物 の 種 類 に よ って も 異 な る の で, 温

度の場合のようにいちがいにはいえない。

ミカン類は湿度が高くなって過湿になる場合,それに伴って呼吸

作 用 も だ ん だ ん 増 大 して い く 。 そ してと く に 過 湿 で あ る と , 果 皮 部

の生活作用が盛んとなり,果汁が早く消失され,浮皮果(ブク果)と

なる。したがってミカン類は,貯蔵する前に軽く風乾するのがよい。

ノヽクサイ・ホウレンソウのような葉菜類の試験では,とりたての

ものと,わずかに乾燥させたものとでは,後者のほうが呼吸量が少

なくなっている。したがって葉菜類の輸送や貯蔵の場合は,少しば

かり乾燥ぎみにしたほうがよいという結論が出されている。

タマネギは,休眠が破れる時期から萌芽期にかけて,40~50%

の低湿度にしたほうが,呼吸作用がおさえられ,発芽もかなり延期

される。

若 取 り し た ナス や キ ュウ リ も , 過 湿 状 態 の ほ う が 呼 吸 は 盛 んで あ

る。しかしサツマイモのように,湿度が高まると逆に呼吸作用の弱

まるものもある。

一般的に野菜類は,とくに低湿度で空気がかわいた状態になって

くると蒸散が盛んになり,葉菜類はしおれやすく,根菜類・果菜類

は水分の損失が多いと表面にしわ(皺)ができる。湿度が高いと,

このようなことは少ないが,いっぽうでは病害の危害が増し,また

腐敗もひどくなる。

Page 143: 作物生理_応用編

§ 1 0 . 貯 蔵 の 生 理 1 3 3~

(3)酸素・炭酸ガス野菜類は,貯蔵期間中(とにかく細胞が死にいたるまで)絶えず

呼吸作用を続けているが,これら呼吸に際して消費される体内の成

分としては,糖が最も一般的である。糖の消費の生化学的反応は次

のようである。

C6H1206+602=6C02+6H20+678Cal糖 酸 素 炭 酸 ガ ス 水 熱 量 ( エ ネ ル ギ ー )

この酸素は,外界から体内に取り入れられ,呼吸の結果,炭酸ガ

スが外界空中に放出されることになる。

空気中にはふつう21%の酸素が含まれているが,貯蔵中に周囲

の空気中の酸素が呼吸によって消費されてだんだん少なくなってい

き , あ る 限 界 以 下 に 酸 素 が 不 足 してくる と , 作 物 は い わ ゆ る 無 気 呼

吸(分子間呼吸)を行なって,ついに障害を起こす。

酸素不足による障害についての実験によれば,温度20 ° C ではホ

ウレンソウやサヤイングンは酸素約1%,アスパラガスは2.5%,

エンドウやニンジンは4%以下になると害がでるようになるが,こ

れらの限界よりもやや酸素が多いときは,作物の呼吸量は正常なと

きの半分程度になるが,なんら害をうけずに貯蔵されるといわれて

いる。しかしこのようなことは,収穫時の熟度,収穫後の日数,貯

蔵 温 度 な ど に よ って 変 化 ナ る も の で あ る か ら , 決 定 的 な 断 定 は む ず

かしい。

逆に空気中の酸素が多くなった場合は,野菜類の呼吸は増大し,

成熟は急速に進行するけれども,組織も同時に害される。

Page 144: 作物生理_応用編

134

炭酸ガスは,その量が多いか少ないかということが,野菜類の呼

吸作用に大きな影響力をもっており,貯蔵性と密接な関係がある。

大気中にはふつう0.03%含まれているが,濃度が高くなると呼吸量

は急速に減少していき,さらに含有量が増加すると,生体内で無気

呼吸をするようになる。したがって炭酸ガス過剰は,生理障害を起

こし,品質を悪くする。炭酸ガス過剰の障害は,酸素不足の与える

障害よりも迅速でひどいといわれている。

しかし空気中にある程度の濃度の炭酸ガスがあるということは,

呼吸が適当におさえられて,そのため野菜類の体成分の消耗を少な

くし,貯蔵期間を長くすることに役立っている。

炭酸ガスを多量に含んだ空気,たとえば炭酸ガス12%,酸素25%

の人工空気中で果実類の呼吸を測定した実験では,ふつうの大気中

よりも呼吸作用が低下していることが認められた。このように,あ

る程度炭酸ガス濃度を高め,植物体の生活作用をおさえた状態にな

ることにより,切り花を長持ちさせようとすることも試みられてい

る。

( 4 ) 蒸 散 作 用

収穫後の野菜類の体内からの蒸散作用は,品質維持の点から非常

にたいせっなことである。蒸散量が多いと,しおれとか重量減少な

どで品質は悪化する。

野菜類の蒸散は,気孔から行なわれるものと,表皮のクチクラか

ら行なわれるものとの2つの方法がある。

蒸散量は,外界的な条件としては,温度と湿度の多少によって,

Page 145: 作物生理_応用編

§ 1 0 . 貯 蔵 の 生 理 1 3 5

も っ とも左右される。すなわち温度が高いほど,湿度が低いほど促

進される。また野菜類の種類別にみると,葉菜類が蒸散作用が盛ん

であり,また葉菜類でも軟弱なものほど蒸散量が多く,したがって

しおれやナいということになる。

低 温 は 蒸 散 作 用 を も 抑 制 す る の で, 貯 蔵 上 重 要 で あ る 。 し か し 温

度と蒸散量との関係は,野菜の種類によって異なっている。温度の

低下にっれて蒸散量も急速に低下ナるものは,パレイショ・サツマ

イモ・タマネギ・カボチャ・スイカ・キャベツ・ニンジンなどであ

り,温度が低くなるにっれてやや低下するものには,カブ・ノヽツカ

ダイコン・ノヽナヤサイ・レタス・トマト・メロン・エンドウなどが

ある。温度の高低にあまりかかわりなく,とにかく蒸散作用の激し

い も の と して は , セ ル リ ー ・ ア ス パ ラ ガ ス ・ ナス ・ キ ュウ リ ・ イ チ

ゴ・ホウレンソウなどがあり,これらのものは,冷蔵してもしおれ

やすいので,貯蔵するときは,蒸散を防ぐ措置をすべきである。

( 5 ) ビタ ミ ン C の 変 化

貯蔵中最も変化しやすい成分は,ビタミンCであるとされている。

第46表収穫後におけるビタミンCの減少状態(総ビタミンCmmliμ00g)(管原氏)

種 類 収 穫 当 時 室 温 1 週 間 2 ~ 3 ° C 2 週 間

ホ ウ レ ン ソ ウ

チ シ ャツ ル ナ

ノ ヽ ヽ ナ ヤ サイ

キ ャ ベ ツコ モ チ カ ン ラ ン

ノ ` ゝ ク サ イ

コ マ ツ ナ

196.6

18.6

48.5

105.0

110.8

95.2

75.6

115.6

98.7

5.4

21.5

48.6

72.5

40.6

46.8

57.3

131.5

9.5

16.4

102.5

105.3

81.5

64.0

88.6

Page 146: 作物生理_応用編

136

第46表は,収穫後におけるビタミンCの減少状態を調査したもの

である。

ビタミンCは組織中の酸化酵素などの作用によって破壊される。

これによるビタミンCの減少と外界条件との関係は,温度が高いほ

ど,炭酸ガスの濃度が極度に高いほど,Cの損失が大きい。また収

穫後の日数との関係では,普通の環境であれば,収穫後2~3日の

間 で は あ ま り 減 少 し な い 。 葉 菜 類 は 収 穫 時 は ビタ ミ ン C の 含 有 量 は

多いが,貯蔵中の損失もまた大きく,根菜類のCの減少はゆるやか

である。ピーマンは貯蔵温度や貯蔵日数のわりに損失が少ないとい

われている。

2 各 種 作 物 の 貯 蔵

最近,園芸作物を生産地から遠距離の消費地にできるだけ新鮮な

状態で輸送し販売するコールドチェーン(生鮮食料品低温流通機構)

に つ いての 関 心 が 高 ま り , そ れ に 伴 って 作 物 の C A 貯 蔵 ( 環 境 気 体

調節冷蔵法(srltronedatomosphere)の研究が盛んになってきた。

園 芸 作 物 の 貯 蔵 の 要 点 は , 温 度 を 低 く す る , 酸 素 を 減 ら ナ, 炭 酸

ガスをふやナの3つの要素を,それぞれの作物の鮮度維持に最も適

合するように組み合わせることである。

作 物 は , 収 穫 して か ら も ま だ 生 き て いて 呼 吸 を して い る が, 収 穫

すればもはや栄養分の供給はなくなるにもかかわらず,呼吸によっ

て貯蔵栄養分はどんどん消耗されるという生理現象のために,内容

物は消耗し,細胞は老化し,水分は減少し,香りもなくなり,味は

悪くなり,遂に食べられなくなる。このような生活現象を防止する

Page 147: 作物生理_応用編

§ 10.貯蔵の生理137

のが貯蔵である。

第47表は,各種野菜類の貯蔵に好適な温度・湿度および貯蔵可能

期 間 に つ いて 調 査 し た も の で あ る が, 酸 素 ・ 炭 酸 ガ ス に つ いて は 自

然状態のままで実施したものである。

第47表各種野菜類の貯蔵に好適な温度・湿度および貯蔵可能期間

(PLATEMUS氏ら)

種 類 温 度 □ 最 長貯蔵期間 種 類 温 度 □ 最 長

貯蔵期間アスパラガス

ラ イ マ メ

サ ヤイ ン ゲ ンテ ン サ イコ モ チ カ ン ラ ン

カ ン ラ ンニ ン ジ ン

ノ ヽ ナ ヤ サイ

セ ル リ ー

キ ュ ウ ジ

ナ ス

ブ ロ ツ コ リ ー

゜C

4.4

0~4.4

0~4.4

0~4.4

0~4.4

%95~98

90~95

90~98

90~95

95~98

90~98

90~95

90~95

90~98

95~98

90~95

95~98

1週間

2~3週間

12日

4~5か月

2か月

5か月

6か月30~40日

3~5か月

4~5か月

3~4週間

10日

チ シ ャメロン(未熟)メロン(完熟)タ マ ネ ギグ リ ン ピースト ウ ガ ラ シカ ボ チ ャノ レ タ バ ガセイョウカボチャスイートコーントマト(緑色)トマト(成熟)

゜C

10

0-0.56~0

4.4

0~4.4

4.4

10~15.6

4.4

%95~98

80~90

80~90

80~95

95~98

95~98

50~70

90~95

50~70

90~98

95~98

95~98

3~4週間

2週間

1か月

5か月

2週間

40日

2~3か月

3~4か月

5か月

3~4週間

1か月10日

( 1 ) 野 菜 類

〈 葉 菜 類 〉

葉菜類は,収穫した部分が栄養器官で,水分含量は90%以上もあ

る の で, 収 穫 して か ら も 条 件 さ え よ け れ ば 生 長 を 続 ける 。 た と え ば

ノヽクサイやセルリーなどは中心部が伸長するが,このような生長は

すべ て 貯 蔵 養 分 が 消 費 さ れ る こ と に よ って 行 な わ れて い る 。 そ して

消費される養分としては,外葉に貯えられたものから消費されるの

で,外葉のいたみがひどい。このような生長に関係する最も大きな

Page 148: 作物生理_応用編

138

外界要因は温度であり,温度が高いほどよく伸長する。

葉 菜 類 は 呼 吸 も 非 常 に 盛 んで あ り , 同 時 に 蒸 散 も 盛 んで あ る の

で,変質の速度が速い。また同じ葉菜類でも,結球性のキャベツと

か結球白菜などは,他の葉菜類と非常に異なり,呼吸量も少なく,

蒸散量も少なく,長く貯蔵しうる。

〈 根 菜 類 〉

ダイコン・ニンジン。ゴボウ・サトイモなどは,収穫後,新しい

葉を出したり,あるいは土中に埋めておくと新根を出したりするが,

このような生長は,根の中の貯蔵養分の消費によっている。またこ

の生長は,高温ほど促進される。ただしパレイショやタマネギなど

のように休眠性のあるものは,収穫後ある期間は,どのように温度

や水分などの環境をよくしてやっても発芽しない。

根 菜 類 の 呼 吸 量 は , 生 育 の 初 期 に 大 き く , 成 熟 す る に っ れて し だ

い に 小 さ く な る 。 し た が って , 収 穫 期 に は 呼 吸 量 は 生 育 初 期 ほ ど 大

きくはない。またタマネギは,貯蔵中に多湿の場合に腐敗が多くな

るが,サトイモ・ニンジンなどは,湿度が飽和状態の土中でよく貯

蔵できる。

〈 果 菜 類 〉

果 菜 類 で も 収 穫 後 の 生 理 的 成 熟 現 象 は 続 いて い る の で, 熟 度 が 進

行すると,トマト・メロンなどでは果肉が軟化し,しだいに過熟の

状 態 と な って い く 。 軟 化 は 主 と して ペ ク チン の 可 溶 化 に よ って 起 こ

るのであり,果実の軟化の場合と同じ現象である。実エンドウやス

イー ト コ ーン で は , 糖 分 が し だ い に でん ぷ ん 化 して い くの で, 甘 味

がなくなり,食味が悪化する。イチゴやトマトは,収穫後の追熟に

Page 149: 作物生理_応用編

§ 10.貯蔵の生理139

伴 って酸が減少するが,これは呼吸するとき呼吸基質(エネルギー

源)としておもに果実内の有機酸が使用されるからであり,高温の

ときほど減酸が早い。いっぽう収穫後の含糖量の変化は少なく,酸

のみが減少ナるので,甘みが強くなる傾向がある。

低温貯蔵の場合,キュウリは13 ° C以上の温度であれば,貯蔵日

数とともに呼吸量がしだいに減少するけれども,10 ° C以下では,

低 温 に よる 障 害 の 発 生 に 伴 って 一 時 呼 吸 が 上 昇 し , 障 害 が 進 んで 組

織が死ぬようになると急速に呼吸が減少する。

湿度との関係では,とくにカボチャが多湿で腐敗が多くなる。

〈 そ の 他 〉

タケノコ・アスパラガスなど,若い柔らかい茎を食用とするもの

では,収穫後日がたっにっれて組織が老化し,木化した組織がしだ

いに発達し,固くなる。そしてこれらの変化も,温度が高いほど進

行が速い。

( 2 ) サ ツ マイ モ の 貯 蔵

サツマイモは,掘り取ってすぐ,温度32 ° C,湿度95%程度の

室内に数日間おくと,掘取のときできた傷の部分や,イモの表皮の

下にコノレク層ができる。このような処理をキュアリング処理と呼んで

いるが,キュアリング処理をしたあとは,冬の期間中温度13 °C,

湿度85%程度のところにおくと,品質の悪化を防ぐことができる。

キュアジング処理をすると,黒斑病・軟腐病などの病気にも侵され

にくく,したがって腐敗もしないという利点がある。

第48表は,キュアリング処理と貯蔵後の黒斑病との関係を調査し

た成績である。キュリアング処理によってコノレク層ができたかどう

Page 150: 作物生理_応用編

140

か は , イ モ の 表 皮 を , 顕 微 鏡 で 2 0 0 ~ 3 0 0 倍 に 拡 大 し て 検 査 し て み

れ ば よ い 。第48表サツマイモのキュアリングと貯蔵後の黒斑病との関係

処 理 法 貯 蔵 方 法 貯蔵後の発病率 イモの重量減少歩合

1 . キ ュ ア リ ン グ

2 . キ ュ ア リ ン グ

3 . 無 処 理

4 . 無 処 理

地上電熟貯蔵庫処理後地下穴貯蔵地上電熱貯蔵庫地 下 穴 貯 蔵

1%6184100

1%3911

サツマイモは貯蔵温度が13~15 °Cではほぽ一定した呼吸をし,

呼吸量も少ない。温度が10 ° C以下になると呼吸が異常に上昇し,

低温障害をうける。サツマイモやパレイショは,低温貯蔵をナると

でん ぷ ん が 分 解 さ れて 糖 が 増 加 す る が, こ れ は , 高 温 下 で は , デ ン

プンフオスフオラーゼという酵素の活動が阻害されているので,で

んぷんの分解が起こらないが,低温になると,阻害物質が除かれる

ので,フオスフオラーゼの活動が盛んとなり,でんぷんを糖に分解

する生化学反応が盛んになるからである。晩秋に軒先にイモをつる

しておいてから焼イモにすると甘味が多いのも,このような理由に

よる。また,地上部に霜害を受けるほど寒くなるまで畑におくと,

イモの呼吸量は増大し,いままでにできたでんぷんがまた糖に逆も

どりして,でんぷん含量は低下する。このようになってから掘り取

ったイモは,貯蔵に適さない。

( 3 ) 果 樹 類

果 実 の も っ と も 進 ん だ 貯 蔵 法 と して , C A 貯 蔵 ( 環 境 気 体 調 節 冷

蔵法)がある。CA貯蔵の原理は,果実の呼吸をできるだけ少量に

お さ えて , 現 状 維 持 の 休 眠 状 態 に す る こ と で あ る か ら , 酸 素 の 量 を

Page 151: 作物生理_応用編

§ 1 0 . 貯 蔵 の 生 理 1 4 1

少なくし,炭酸ガスの量をある程度多くしてやるとよい。

リンゴについて,貯蔵期間中の温度・酸素・炭酸ガスなどをそれ

ぞ れ 変 えて 調 査 し た 結 果 に よる と , 0 ° C の と き の 呼 吸 量 にく ら べ

て,4.4°Cでは2倍,10°Cでは4倍,21.8°Cでは8倍の呼吸作用

がある。このことから,0 ° Cに8日間おいたものと21 ° Cに1日お

いたものとで,リンゴの果肉の品質の変化は同じであるといえる。

空気中に21%ある酸素を3%ぐらいに下げ,空気中の炭酸ガスを

3%ぐらいまで多くした中にリンゴを冷蔵すると,呼吸作用はおさ

えられ,水分の蒸散も少なくなり,新鮮な状態で長期間貯蔵できた

という報告がある。また酸素2%,炭酸ガス25%,温度O °C,関係

湿度90%以上で5か月以上を目標にした貯蔵も研究されている。

イチゴでは酸素10%,炭酸ガス10%,温度1 °Cがよいという。

カキは長期貯蔵が困難である。収穫後の追熟によって肉質が軟化

して い き , 熟 柿 の 状 態 に な ってくる と , 果 肉 の 組 織 は 溶 解 して 形 が

くずれてくる。このような肉質の軟化という生理現象は,CA貯蔵

によっていくぶんおさえることは可能ではあるが,まだ研究中であ

る。適度の厚さのポリ袋に入れ,わずかな量の酸素が外界から袋を

通 して 供 給 さ れ る よ う な 状 態 で あ れ ば , 長 期 間 保 存 で き る と い う 試

験成績もある。またカキは,炭酸ガスに非常に強く,富有ガキを,

温度O °C,酸素5%,炭酸ガス5~10%で4か月間貯蔵したが,い

たみのでたのは5~7%であったという試験結果もある。

ナシは二十世紀や菊水では炭酸ガス3%以下,酸素10~15%がよ

いという試験結果もあるが,同じ和ナシでも,二十世紀と晩三吉と

で は , 二 十 世 紀 の ほ う が 呼 吸 作 用 が 盛 んで あ る か ら , C A 貯 蔵 の 条

Page 152: 作物生理_応用編

142

件も異なるとされている。

ミカンの長期貯蔵については現在研究中であるが,温度2~5 ° C

湿度80~85%にして,室内の換気をよくするとよいという試験成績

もある。

3 放 射 線 照 射 と 作 物 の 貯 蔵

近 年 , 貯 蔵 す る 作 物 の 前 処 理 と して , ガ ン マー 線 を 照 射 す る 方 法

が研究され,一部は実用化されつつある。

たとえばバレイショは収穫直後の休眠期に7,000~12,000レント

ゲンのガンマー線を照射すると,常温・常湿下でも8~12か月間は

十分発芽をおさえることができる。タマネギは3,000~5,000レント

ゲンの低線量照射で8~10か月完全に発芽を防止できる(大阪府立大

農学部・緒方教授)とされている。また照射後の体内成分の変化をみ

て も , 糖 分 ・ ビタ ミ ン C ・ 芳 香 ・ 風 味 な ど よ く 保 持 で き る の で, ガ

ンマー線照射によって食品としての価値が低下することはないと考

えられている。ガンマー線を照射して発芽が防止されるのは,芽の

生長点の組織を構成する細胞が破壊されるためである。

パレイショは,発芽抑制には低温ほどよいが,貯蔵温度が低いほ

ど貯蔵中に糖分含有量が増加し,調理・加工上っごうが悪くなる。

しかしガンマー線照射をすると常温で保存できるので,でんぷんの

糖 化 が 進 ま ず, つ ご う が よ い と も 考 え ら れて い る 。 し か し , ガ ン マー線照射でも,いくぶん糖がふえるともいわれる。バレイショを処

理 を し た 場 合 に つ いて は , 体 内 でん ぷ ん が 質 的 な 変 化 を し な い か ど

う か , 量 的 な 変 化 が ど の よ う に な る か な ど , ま だ 明 ら か に さ れて

Page 153: 作物生理_応用編

§11.連作・輪作と生育の関係143

いない点もある。

米・ムギなどの長期貯蔵の場合も,ガンマー線を照射ナれば,病

菌・害虫・害虫卵などすべて死滅し,長期貯蔵が可能である。

(ただしガンマー線を照射すると胚もいためられるので,種子としては不適と

なる)

§11.連作・輪作と生育の関係

I 連 作 と 連 作 障 害

同一の畑に同じ作物を毎年連続して植えつけることを連作といっ

て い る が, こ の よ う な 連 作 に は , 大 別 して , 同 一 の 畑 に 1 つ の 作 物

だけを1年に1作(すなわち一毛作)ナるのを続けるのと,冬作物

と夏作物というような組み合わせで,二毛作をしながら同一作物を

繰り返して毎年続けて作付するような型との2つがある。

このような連作において,陸稲・ラッカセイ・キビ・トウモロコ

シ ・ ダイ ズ ・ ナ ク ネ ・ エ ン ド ウ ・ ナス ・ トマ ト ・ スイ カ な ど は , 連

作 を 続 け る と , 連 作 年 数 の 少 な い 時 代 は , 生 育 の 後 期 に 生 育 障 害

(生理病とか特定の病害)が発生するが,連作年数が多くなってくる

と,しだいに障害の出かたが大きくなり,生育の初めから分けっ・

分枝数などが少なくなって,草たけの伸びも悪く,稔実不良とか,

結実種子の発芽不良などを起こすまでに影響することがあり,収量

は少なくなり,さらにもし病害などが多発すれば,収量はごく少な

くなることもある。

第17図は,青森県農業試験場で,トウモロコシ・バレイショ・コ

Page 154: 作物生理_応用編

4.00

90

n07g)Rり

20幄

24 6 8 1 0 1 2 1 4 1 6 1 8 2 眸

第17図連作害が出始めてからの減収傾向の推定線(青森|畿試藤坂1梵験地平坦冷涼畑の作付体系試験成績)

ム ギ・ヒエ・ナタネについ

て,連作障害が出始めてか

らの減収傾向の推定線を示

したものであるが,この試

験 結 果 に よ れ ば , 「 連 作 を

すると,始めてから3~4

年間のうちは収量は年ごと

に減少していくが,4~5

年 め 以 降 は だ い た い あ る 量

におちついて一定になる作

物がある。このようになる理由はよくわからないが,とにかく連作

障害がひどくなって,何年か後には収量が皆無になるということは

考えられない」といっている。

連作障害の出かたは,各作物によってそれぞれ異なっているが,

また同一作物であっても,対象とする作物の前作の種類とか,施肥

量の多少,耕地そのものの肥沃度など諸条件のちがいによって,障

害 の 程 度 が 異 な ってくる 。 一 般 的 に は , 施 肥 量 を 少 な く す る と 連 作

害の出かたがひどくなるといわれている。

このような連作障害の起こる原因については,現在まだ不明の事

がらも多いが,作物の種類によりいくぶんの相違もあって,すべて

の作物の連作障害が,みな同一の原因に由来しているということで

はない。

た と え ば 北 海 道 の 十 勝 地 方 の ダイ ズ で は , 畑 の ダイ ズ シス ト セ ン

チュウの多少とダイズの連作害の多少とは密接な関係があり,この

Page 155: 作物生理_応用編

§11.連作・輪作と生育の関係145

線 虫の増加するのをおさえるのに役立つような作物を組み合わせて

輪作をすると,障害の発生が軽くなる。畑作陸稲の連作では,発芽

後2週間めころから乾物重は少なく,根の細根が少なく,老朽根が

多くなる傾向がある。そしてその後の生育も悪く,草たけは低く,

茎数は少なく,根の伸びは悪く,穂は小さく,軽い穂が多くなり,

玄米は小粒となる。第49表は,古い試験ではあるが,陸稲の連作区

と,陸稲とサツマイモの輪作区とを比較した成績で,陸稲のみの連

作区の平均収量は,サツマイモとの輪作区の83%となっている。

第 4 9 表 陸 稲 の 連 作 に よ る 収 量 の 変 化

(茨城農試,昭和5~9年)

昭 5 昭 6 昭 7 昭 8 昭 910アール当玄 米 収 量

(石)収 量 比

%睦 稲 睦 稲 陸 稲 睦 稲 睦 稲 1,366 84

陸 稲 サ ツ マイ モ 陸 稲 陸 稲 睦 稲 1,435 88

睦 稲 睦 稲 サツマイ モ 睦 稲 睦 稲 1,514 93

陸 稲 サ ツ マイ モ 睦 稲 サ ツ マイ モ 睦 稲 1,633 100

裏作は毎年オオムギ玄米1石は約150kg相当

このような陸稲連作害の主要な原因の1っとして,オカボシスト

センチュウの根に対する加害があるものと考えられている。したが

って,土壌線虫の薬品による殺虫とか,一時湛水し水田のようにし

て殺すというやりかたをすれば,被害を軽くすることができる。

ナスの連作害の原因の1つとしては,ネコブセンチュウの加害の

増大が,またトマトではネコブセンチュウとイチョウ病がある。オ

ランダエンドウの連作害としては,リソクトエア菌による根の障害

があり,この場合は立枯れ症状を現わす。エンドウの連作は,2~

Page 156: 作物生理_応用編

146

4年休閑すれば処女地と変わらないくらい育ちがよくなる畑もある

が,収量そのものはやはり劣る。エンドウの連作害に対しては,ク

ロ ール ピク リ ン と か オ ー ト ク レ ーフ な どの 薬 品 に よる 土 壌 消 毒 の 効

果がある。水田での作付なら,3~4年めに1回エンドウを植える

ような輪作をしておれば,90%以上の収量がえられるという報告も

ある。また石灰を多肥することによって連作できる畑もある。エン

ドウは土の酸性度が中性に近い状態が生育によく,酸性土壌では連

作障害が出やすい傾向がある。

また陸稲・ナタネ・ダイズなどは,良質の堆廐肥を十分施せば,

連 作 害 が い く ぶ ん か 軽 く な る と い わ れて い る が, こ れ は 堆 廐 肥 の 施

用によって,土の微生物学的な環境がよくなるためであると考えら

れる。

土の酸性度,微量要素の有無なども,連作障害と密接な関連があ

ると考えられているが,これらの相互作用と連作害の発現について

は不明のことが多い。また連作を続けていると,作物自体の根から

作り出される有害物質が土中に集積し,それが作物の生育を害する

のであるとの考え方もある。これについては,従来から忌地と呼ば

れて き た が, 有 害 物 質 そ れ 自 体 の 生 成 と か 存 在 に つ いて は , 現 段 階

では確認されていないので,原因の1つとすることには問題がある。

最近は施設園芸におけるノヽウス内の連作障害も問題になっている

が,このような栽培では施肥量が多いので,土中に塩類が集積し,

その濃度が高くなることにも原因しているといわれている。したが

って同一施肥量の場合,硫安にくらべて,硝安・尿素は塩類の濃度

が低く,塩安は高いので,硝安・尿素のような,塩類濃度の低い化学

Page 157: 作物生理_応用編

§11.連作・輪作と生育の関係147

肥 料 を施用するとよいし,また大量の水をかけて集積塩類を流し去

るのもよい。塩類の集積による害のほかに,土壌的な連作害もある

が,これに対しては,簡易移動ノヽウスの採用,土壌消毒,またはノヽ

ウス内の作土のとりかえ,季節的休閑,深耕施肥などや,扉耕・水

耕法の採用などの対策がある。

鹿児島県農業試験場鹿屋支場では,黒色火山灰畑地で多年にわたり,二毛連作により収量がどのように変わるかを明らかにしている。

( A ) 陸 稲 連 作( 1 ) 陸 稲 - コ ム ギ の 連 作 ( 2 ) 陸 稲 - ル ー ピ ン の 連 作

( 8 ) 陸 稲 - ナ タ ネ の 連 作 ( 4 ) 陸 稲 - ( 冬 ) 休 閑この試験では,(2)陸稲-ルーピン区と,(3)陸稲-ナタネ区の連作区が陸稲に好影響を

及ぼし,(1)のコムギとの連作区や(4)の冬季休閑区はいずれも陸稲の生育が悪い。ナタネとノレーピン作が陸稲作に好影響を与える理由としては,畑の有機物の残存割合が多く,とくにナタネでは土中からの養分の吸収量が少なく,跡地の養分残存量が多いため,ナタネリレーピン作あとの作土中には,全炭素・腐植が増加し,土中の窒素含量も多くなるからだといわれる。

陸稲の連作害の原因としては,土壌線虫・根グサレ線虫などの加害があり,それにフザリュウム菌などが侵入して被害を大きくし,またはネアブラムシ・トビムシ類の被害が加わるとさらに生育不良となる。移植栽培よりも直まき栽培で害が大きく,濯水量不足とか,麦間播種などによっていっそうひどくなる。また多肥のときや肥沃地での栽培では,少肥栽培や痩薄地での栽培よりも害が少ない。(4)の1年陸稲1作(一毛作)で冬は休閑区の連作は,収量低下が他区よりひどいが,この理由は,冬季休閑であるので,1年間当りの施肥量が少なく,したがって,耕土中の有機物量が少なく,地力は低下していくものと考えられる。

陸稲を連作する場合,裏作物にナタネとかルーピンのように土を肥沃にする作物を栽培ナることは,陸稲そのものの連作害を小さくするが,コムギのように養分吸収力の大きい裏作物を栽培すると,陸稲の連作害を助長する。

(B)(1)(8)

サ ツ マイ モ 連 作

サ ツ マ イ モ ー コ ム ギ の 連 作

サ ツ マ イ モ ー ナ タ ネ の 連 作

(2)

(4)

サ ツ マ イ モ ー ル ー ピ ン の 連 作

サ ツ マイ モ ー 、 ( 冬 ) 休 閑

Page 158: 作物生理_応用編

148

サツマイモは連作害の生じない畑作物である。二毛連作をしたほうがー毛連作より収量が多く,とくに(2)のルーピンとの二毛連作は収量が多い。(8)のナタネとの二毛連作がこれにつぎ,(1)のコムギとの二毛連作は,二毛連作としての効果がなかった。(2)のルーピンとの二毛連作が収量が多いのは,ルーピンを緑肥として施用することに

より,耕地の理化学性がよくなるからである。(8)のナタネとの連作区のサツマイモ収量が多いのは,ナタネによる残存有機物量が多く,作土がよく耕されているような状態(膨軟)であり,土中の空気や水分などの含有量が増し,塊根がよく肥大するからである。(4)のようにサツマイモだけの一毛作を連年繰り返していると,耕土がしまってきて,土中空気の流通が不良になることにより,塊根の肥大が生理的に抑制される。

(1)のように冬作にコムギを作る二毛連作は,作土中の養分(とくにカジなど)がコムギに多く吸収され,その影響がサツマイモにおよんで塊根の肥大が十分でなくなり,収量を少なくナるものと思われる。

(C)ラッカセイ( 1 ) ラ ッ カ セイーコ ム ギ の 連 作 ( 2 ) ラ ッ カ セイール ー ピ ン の 連 作( 8 ) ラ ッ カ セイー ナ タ ネ の 連 作 ( 4 ) ラ ッ カ セイー ( 冬 ) 休 閑ラッカセイは一毛,二毛の連作方式のいかんによらず,連作すると収量が明らかに低

下する。この試験では,(8)のナタネとの二毛作畑における減収度が最も少なく,ついで(2)のノレーピンであった。ナタネとの二毛連作区でラッカセイの障害が少ないのは,ナタネの養分吸収量が少なく,かつ畑の残存有機量が多く,土も柔らかくなるためと思われ

る。ノレーピンとの二毛連作も減収度合が少ないけれども,ルーピンはラッカセイとともに,りん酸および石灰の収奪量の大きい作物であって,土から同じような養分を多く吸収しあうので(競合関係にあるので),ラッカセイに対してはその点は不利であると思われる。このような二毛作では,施肥の内容についても十分考える必要がある。(1)のコムギとの二毛連作区のラッカセイは,総収量そのものは減少傾向がひどいが,

作土の酸性度を補正ナるためにコムギ作付のとき石灰を施用ナるので,この石灰がラッカセイの空哭の防止や,稔実障害の軽減に役立っている。(4)のラッカセイだけを1年1作する型の一毛連作では,急激な減収がみられるが,これは1年間当りの耕地への施肥量が他区より少なく,土地がやせるためと考えられる。いずれにしても,ラッカイセを連作すると,生育不良,収量の逓減,病害の発生など

が生ずる。

( D ) ダ イ ズ

(1)ダイズーコムギの連作(8)ダイズーナタネの連作

(2)

(4)

ダ イ ズ ー ル ー ピ ン の 連 作

ダ イ ズ ー ( 冬 ) 休 閑

Page 159: 作物生理_応用編

§11.連作・輪作と生育の関係149

この試験では,(2)のルーピンとの連作区のダイズ収量が最も多かった。これは緑肥ルーピンの施用の効果によるものであるが,とくに緑肥ルーピンに含まれているりん酸・

窒素・カジ・マンガンおよび石灰の肥効が大きいものと考えられる。(1)のコムギとの連作区のダイズも,ルーピン連作についで生育・収量がよかったが,

その理由は,毎年コムギ作に石灰が施されることにより,りん酸の肥効が高まったものと思われる。(8)のナタネとの二毛連作のダイズの生育がよいのは,ナタネの葱Sa存物が多くて,これ

が好影智竃皿よぽすものと考えられる。ダイズは,(4)のような1年1作の一毛連作を続けていると,しだいに収量が減少して

いくが,地力を増進ナるような他作物との二毛連作・三毛連作などをすれば,連作害に

よって生ずる収量の低下はあまり認められない。またダイズのみ1年1作の一毛連作については,埴壌土であれば連作害はないが,火山灰質・黒ボク土壌では連作による減収が大きいといわれ,ダイズの連作害の多少については,研究者の意見が一致していないが,土壌や栽培条件の相違によって,連作による収量の変化の差異が生ずるものと思わ

れる。

( E ) コ ム 半

( 1 ) コ ム ギ ー 陸 稲 の 連 作 ( 2 ) コ ム ギ ー サ ツ マ イ モ の 連 作

( 8 ) コ ム ギ ー ラ ッ カ セ イ の 連 作 ( 4 ) コ ム ギ ー ア ワ の 連 作

( 5 ) コ ム ギ ー ダ イ ズ ー ソ バ の 連 作

コ ム ギ と の 二 毛 連 作 で は , ラ ッ カ セ イ や ダイ ズ な ど の マメ 科 作 物 と の 連 作 が コ ム ギ に

好 影 響 を あ た え , つ いで ア ワ が よ い 。 コ ム ギ は も と も と 連 作 害 の ほ と ん ど な い 作 物 で あ

り,施肥とか夏作物との組み合わせが適当であれば,連作害を生じない。

( F ) ナ タ ネ

( 1 ) ナ タ ネ ー 陸 稲 の 連 作 ( 2 ) ナ タ ネ ー サ ツ マ イ モ の 連 作

( 8 ) ナ タ ネ ー ラ ッ カ セ イ の 連 作 ( 4 ) ナ タ ネ ー ア ワ の 連 作

( 5 ) ナ タ ネ ー ダ イ ズ ー ソ バ の 連 作

(6)のナタネーダイズーソパとの三毛連作区のナタネの収量が多く,ついで(4)のア

ワとの連作区がすぐれ,(2)のサツマイモ,(8)のラッカセイとの連作区は,陸稲との連作

区 よ り も 悪 か っ た 。 こ れ ら に つ いて は , 各 地 に お け る 成 績 は ま ち ま ち で は あ る が, い ず

れ に して も , ア ワ ・ ラ ッ カ セイ ・ ダイ ズ な ど は , ナ タ ネ に 対 して 好 影 響 を 与 える も の と

思われる。こ の 試 験 に お い て , ナ タ ネ ー ダイ ズー ソ バ の 連 作 区 の ナ タ ネ の 子 実 収 量 が 多 い の

は , 土 地 に 対 す る 1 年 間 当 り の 施 肥 量 が 多 い の と , ダイ ズ 作 に よ っ て 畑 に 残 る 有 機 物

Page 160: 作物生理_応用編

150

(茎葉,地下部)が多く,あとの窒素濃度が高いこと,また前作のソバは窒素吸収量が少ない作物であることなど,主として窒素的な効果によるものである。アワとの連作区のナタネの収量が多いのは,主として,窒素・カジの残存量が多いことによるものと思われる。ナタネは連作によって収量が低下する作物である。この試験においても,夏作物の種

類が何であっても,連作によってナタネの収量そのものは減少傾向がみられ,とくにラッカセイ・サツマイモなどのような,カリ成分の吸収競合の大きい夏作物との連作区が減収が大きい。連作害は3年めころから出始め,6~7年めからの収量低下がひどい。要ナるに輪作においては,養分吸収が競合関係にある作物を前後して続けて作付することはよくない。たとえば,サツマイモやラッカセイのあとにコムギを作るという作付

はよくない。連作害のない作物……コムギ・サツマイモ

連作害の大きい作物……陸稲・アワ・ラッカセイ連作害の出る作物……ナタネ・ノレーピン連作害が明確でない作物……ダイズ・ソバ

連作害の原因①土壌微生物関係の変化(根に寄生する病原体の増殖,密度が高くなる)②ある必須要素が特に欠乏することによる(養分の欠乏)③土壌の理化学性が悪くなる(土壌の酸性度の変化)④根の分泌する毒素の土中への蓄積(または有害物質の集積)

連作害の対策①水田のように水をかける。②堆廐肥を多く入れて微量要素を補給する。③土壌線虫を駆除する。ゴボウ・ニンジン・ダイコンなどの根菜類の連作害は,土壌線虫やウイノレスにもよる

のである。サトイモの連作害は,土壌酸性度,置換酸度の低下および上昇,ならびに置

換性石灰の減少による。二毛連作区における連作害は,養分吸収競合の大きい夏作物における連作区(ナタネ

ーサツマイモ,ナタネーラッカセイなど)や,夏作・冬作ともにイネ科作物の連作

区ではひどくなる。耕土の理化!1114生は,一毛作畑よりも二毛作畑がよくなる。

Page 161: 作物生理_応用編

§11.連作・輪作と生育の関係151

2 輪 作 と 生 育

( 1 ) 畑 地 輪 作

輪作の目的は,土壌の地力を高めることによって,作物の生産力

を増強し,雑草や作物の病害を駆除,あるいは抑制し,耕地として

のすぐれた特性を長期間保持することである。

したがって連作害の生ずる作物を連作しないこと,肥料吸収力の

強い作物を輪作のなかに多く入れないこと,ある特定の養分をとく

に多く吸収する作物をいくつか連続して栽培しないこと,などに留

意しなければならない。

陸 稲 - ナ タ ネ ー サ ツ マイ モ ール ー ピ ン

コムギーダイズー秋バレイショ

などのような型は良好な作付体系である。

肥 料 分 の 吸 収 力 が 強 く , 地 力 を 減 退 さ せる 作 物 と して は , 禾 穀 類

(ムギ・トウモロコシ・陸稲・アワ・モロコシ・エンバク・ソルガ

ムなど)があり,輪作のなかにこれらが多く繰り入れられることは,

好 ま し く な い 。 こ れ に 対 して マメ 科 作 物 は , 空 中 窒 素 の 固 定 利 用 を

するし,また,根が深根性で土中深くのびて養分の吸収をするので,

地力増進のために役立つ点が多い。根菜類のような作物の栽培は,

当然深耕をナるので,土の理化学性をよくすること,有機物をあと

に多く残すことなどにより,地力増進上有利である。

( 2 ) 田 畑 輪 換

田畑輪換をすると,次のような効果がある。

1 ) 収 量 が 増 加 す る 。 田 畑 輪 換 を 行 な う と , 畑 か ら 水 田 に も ど

した第1年めの水稲は,いままでの試験成績では,20~50%程度の

Page 162: 作物生理_応用編

152

増収となっている。この場合の収量は,土性,輪換畑年数,作付様

式,還元直前の作物の種類,水稲の施肥条件などによって異なって

いるが,有機物の集積の多い土壌ほど,輪換期間が長いほど,前作

物については深根性のものほど,また深耕を行なう作物ほど,水田

にかえして水稲を栽培した場合の水稲収量が多,い。そして水田にか

えしてから第2年,第3年となるにしたがい,従来の水田(連作田)

の収量に近づいてくる。

田畑輪換は,畑作物にとっても生育がよく,普通畑におけるより

も収量が多くなる作物が多い。

埼玉県荒川中部の田畑輪換試験成績によると,次のような結果がでている。(1)輪換効果の高い作物

禾穀類(コムギ・陸稲・スイートコーン)イモ類(サトイモ・パレイショ・サツマイモ)

葉菜類(ノヽクサイ・キャベツ・ネギ・ホウレンソウ)牧 草

(2)輪換効果の少しあるもの

果菜類(スイカ・メロン・カボチャなど。これらは収量は普通畑なみであったが,収穫期が早まった)

(8)輪換により減収した作物ラッカセイ・根菜類(長ダイコンでは,水田の床締めの圧密と鋤床層により,奇型根ができた)

輪 換 畑 の 収 量 が 高 い の は , 普 通 畑 に く ら べ て , 輪 換 田 の 土 壌 水 分

含 量 は 1 0 ~ 1 5 % 多 く な っ て お り , そ の た め 畑 特 有 の 病 害 発 生 が 少 な

い か ら で あ る 。

2 ) 雑 草 が 減 少 す る 。 田 畑 輪 換 を 行 な う と , 水 田 状 態 で 繁 茂 す

る 水 生 雑 草 は 畑 状 態 の 年 に お さ え ら れ , 畑 で 繁 茂 す る 畑 雑 草 類 は 水

田 に な っ た 時 お さ え ら れ る 。

Page 163: 作物生理_応用編

§U.連作・輪作と生育の関係153

3 ) 病 害 虫 が 減 少 す る 。 畑 と 水 田 の 交 代 で あ る た め , 病 害 虫 の

発生・増殖にはつごうが悪い環境が与えられたことになる。とくに

作土中に生息している土壌害虫とか線虫類は,湛水すると死滅する

ものと思われる。

4 ) 連 作 障 害 が さ け ら れ る 。 連 作 害 の 生 ず る ナ ス ・ ト マ ト ・

スイカ・マクワウリなどの果菜類には,とくに効果がある。

5 ) 土 の 理 化 学 性 が よ く な る 。 水 田 を 畑 に す る こ と に よ って ,

土壌の団粒構造がよくなり,凝で§11性は小さくなり(堅く固まらない

ようになり),透水性も大きくなり,土壌がかわきやすくなり,土中

の有機物の分解は進み,肥効が高まり,水田にかえしたとき,硫化

水素などの発生が少なく,根部の生育にきわめてよい状態となる。

3 土 壌 微 生 物 と 土 壌 の 熟 度 と の 関 係

わが国の原野は,酸性で生産力の低い不良地が多いが,耕起して

石 灰 や り ん 酸 な ど を 施 用 す る と , 生 産 力 は 高 ま り , ま た 開 こ ん 当 初

土壌中に多く生息していたカビ類の菌糸は少なくなり,生産力の高

い,いわゆる熟畑になっていく。土中の細菌類では,とくに硝化菌

の数が増加していき,熟畑化した畑ほど,カビ類よりも硝化菌のよ

うな細菌の数が多くなる。

もし熟畑に牧草類のようなものを植えて長い間耕起しないでおく

と,硝化菌・脱窒菌・アソトバクターなど,土中の窒素成分の代謝

に関係している細菌類が少なくなり,カビ類が多くなり,だんだん

と原野時代の土のようなすがたに帰ってしまう。したがって,熟畑

の状態を保っには,耕起をし,施肥をすることが必要である。

Page 164: 作物生理_応用編

154

一 一 一 一 一 一 一 一

4 新 開 田 の ア カ ガ レ 病

べ主として東北地方の新開田で発生し,稲の下葉に赤褐色の斑点が

出るのが特徴である。アカガレ病にかかると,稲は生育の初期から

生育不良となり,分けっよりも稗の伸長が抑制される傾向があり,

ときには株全体がすくんだようになることもある。

熟畑を水田化した開田よりも,針葉樹林・原野・牧草地などを開

田したところに多く発生するし,泥炭土や黒泥土のような有機物の

過 剰 に 集 積 し た 湿 田 , 緑 肥 類 を 多 くや り す ぎ た よ う な 水 田 に 激 発 す

る傾向がある。

このような新開の水田では,土壌中の養分としては,りん酸・カ

リ・苦土が少なく,窒素・石灰・マンガン・鉄・ケイ酸などは多い。

したがって,りん酸を多用することは効果があり,また中干し,水

管理の調節などによって,土壌中の有機物の分解を促進するように

すると,アカガレ病防止の効果があるといわれている。なお暖地の

湿田に発生するアカガレ病と異なり,カジの多用はあまり効果がな

1 r ヽ よ う , で あ る 。 ・ ィ

Page 165: 作物生理_応用編

§ 12.砂耕・謀耕・水耕155

§ 1 2 . 砂 耕 ・ 磯 耕 ・ 水 耕

植物は 地 中 に 根 を 張 って 生 育 して い る が, 土 の 植 物 に 対 す る 役 割

は,植物体の地上部をささえること,植物体に養分・水分を供給す

ること,根の呼吸に必要な酸素を土粒間を通して補給すること,さ

らに,ある種の植物の生育にとっては非常にだいじな微生物の供給

などである。

このように作物の生育のために必要不可欠な土の役割を,人為的

な方法によって取り替え,作物栽培を土耕よりさらに有利に発展さ

せたものが水耕栽培法であるといえる。現在水耕法といわれる栽培

法のなかには,細かく分類すると,砂耕・腺耕・水耕の3つの型が

含まれている。几

水耕法を成立させている要素のうち,生理的に最も重要なものは

培養液と酸素である。作物が根から体内に吸収している不可欠養分

が培養液中に欠けていたり,量が不足していたり,また多く溶解し

すぎて液の濃度が高すぎたり,酸性度(pH)がy駿性やアルカリ性の

いずれかになりすぎていたりすると,生育障害が現われるし,また

培養液中の酸素の不足も根に障害を与え,生育阻害を起こす重大な

原因/となる。

そのほか水耕法は,ビニールパウスやガラス室で行なわれること

が 多 い の で, 日 光 り 量 , 湿 度 √ 病 害 な ど も √ 作 物 の 生 育 を 左 右 す る

大きな要素である。

Page 166: 作物生理_応用編

156

1 砂 耕

砂 耕 は 土 耕 に 最 も 近 い 形 態 で あ る が, 無 土 壌 栽 培 の 1 つ の 方 式 で

ある。細砂を培地とする砂耕での利点としては,

① 空 気 の 透 通 が よ く , 根 の 発 育 が よ く , 生 育 に 徒 長 や 下 葉 の 枯

れ上がりが少ない。

② 砂 は 肥 料 分 の 吸 着 力 が 弱 く , う す い 液 肥 を 週 に 1 ~ 2 回 か け

流し法で施すので,塩類の砂への集積がなく,したがって濃度

障害の心配がない。そして砂のかわきぐあいによって,施肥と

施肥の間に潅水をするので,効果はいっそう高い。

③ 有 機 物 が 全 く 不 要 で あ り , 清 浄 野 菜 の 栽 培 に っ ご う が よ い 。

④ 雑 草 の 発 生 も き わ めて 少 量 で あ り , 中 耕 も し な いでよ い し ,

収穫ナるまで砂そのものに手を入れないでよい。

などである。

砂の層は5~10cmぐらいでよいと考えられている。砂土の地温

は砂層の深浅による影響をうけやすく,浅いほど日中は上がりやす

く,夜間は下がりやすい。昼夜の温度較差が大きいだけに,加温な

どの温度管理を施設内で行なう場合は,浅いほどやりやすく,また

管理が十分でないときは,ある程度深いほうがよいということにな

る。水分量からみると,砂層が浅いほど飽和に要する水分量は少な

くてすむが,水分はそれだけ砂中から速くなくなる。

また砂栽培では,酸性度(pH)がややアルカリ側に傾きやすい。

それでも鉄(Fe)や苦土(Mg)の欠乏症はでないが,これは,砂中の

環境がよく,根が若くて養分の吸収力が強いことによると考え,られ

ている。

Page 167: 作物生理_応用編

レ ぶ ヽ ゛じ 、 y 、 ヽ こ 、・ご、、ヽヽ、`、ヽ

謙抑ゝ・

●●●

t・.吠

§ 12.砂耕・牒耕・水耕157

三 子 冒 戸 製

① ① 乱 言 ま.・.&--.-j---●.■岬●.●|` - 一 排 出

排出

排出された液は再びタンクに集められて濯水に利用される。

第 1 8 図 砂 耕 と 篠 耕 の 模 式 図

砂耕栽培では,地上面から潅水した培養液や水が,よく浸透・排水するよう

な構造にしておかないと,砂中に滞水し湿害を起こし,通気がよいという最大

の長所が,かえって最大の欠点となることがあるので,十分な注意が必要であ

る。透水不良で滞水すると,細根は砂表面近く横に広がり,不規則に屈曲し,

生育は異常となる。このように表面近くに根が張ると,水不足のとき被害が出

やすい。

また砂耕では,培養液を作物の表面から散布するので,高温度で湿度の低い場

合は,茎葉にふりかけられた溶液はしばしば茎葉に付着してかわくので,濃度

が高くなって障害を与えることがある。したがって培養液を茎葉上から散布し

たら,あとから水を散布するのが安全である。

Page 168: 作物生理_応用編

158

2 磯 耕

床 に 敷 き つ め た 牒 ( 小 石 ) の 間 に 根 群 が 発 育 して い る の が 牒 耕 栽

培である。床の一端から培養液を流入すると,流入した液は下層か

ら上面に満ちていき,作物の賎部が完全に浸漬された状態になり,

一定時間後に排水口を開くと,培養液は沈下流失し,それにっれて

牒間隙内には表層部から空気が入っていき,根の呼吸作用に必要な

酸素が供給されるようになっている。

床の中に入れる牒の大きさは,床の底部の培養液の通路にあたる

付近には直径3~7cmのものを,床の中層付近には直径2~3cm

くらいのもの,上層には直径1~1.5cmぐらいの牒を敷きつめる。

上層部に直径5mm以下ぐらいの小さな石が多く混在すると,培養

液の流動・通気の程度が悪くなりがちであるから,小さすぎる石は

できるだけ除去するのがよい。

使用する牒が石灰質に由来するものであれば(石灰岩地方の石とか

海のサンゴ礁からできたもの),培養液中に石灰が溶出ナるから,石灰

質肥料を添加する必要はないが,このような石灰質扉は培養液をア

ルカリ性にしがちであるから,特に水溶性りん酸によって酸性度を

6.8以下にするような操作が必要である。日本の川などに一般的に

存在する非石灰質の牒では,このようなことはない。

牒は,培養液に長期間浸漬されるとくずれるようなものは使用す

べ き で な い し , 石 を 砕 いて 牒 に し 角 が 立 って い る も の も , 根 を 損 傷

することがあるのでよくない。火山の噴出物である軽石の腺は,表

面に多数の細孔があり,表面積が増大するので,培養液保持能力が

高 く な り , 作 物 根 部 の 生 長 に つ ご う が よ い と い わ れて い る が, ま た

Page 169: 作物生理_応用編

§ 12.砂耕・篠耕・水耕159

培養液の完全な流出・循環には不十分であるともいわれている。

腺耕栽培で最も重要な管理は,培養液の潅がい操作である。牒耕

における潅がいとは,培養液を流動させて牒層間を湿らし,ついで

その流失によって間隙への空気の侵入をはかるものである。潅・排

水 操 作 の 回 数 は , 作 物 の 生 育 の 程 度 や, 気 象 条 件 の 相 違 に よ って 変

わってくる。幼苗期で根群の量が少ない時は,潅がい回数は少なく

てよく,晴天続きで蒸発が盛んなときは,雨天時よりも回数を多く

すべきである。季節的にも同様である。回数は1日2~5回くらい,

滞水時間は10~20分程度である。回数が多くても害はあまりないが,

回数が少ないと作物の生育は不良となる。また潅水液の液面の高さ

は,作物の新生幼根部の約半分が培養液に浸漬されるぐらいまでに

するのがよい。潅水液量が多すぎると,トマトでは生理的根腐れを

ひき起こすことがある。

同一培養液を長期にわたり連続使用すれば,作物の選択吸収によ

って特定の要素の欠乏をきたし,要素欠乏症になることがある。ま

た培養液がアルカリ性になってりん酸や鉄などが沈でんし,要素欠

乏症が現われることもある。したがって,潅がい回数15~20回に一

度,培養液の検定をするのがよい。培養液中の養分要素は,日々そ

の成分が変化するのであるから,作物の生育期間中は常に補正が必

要であリ,また液は作物根部の分泌物や腐敗物,外部からのごみ・

薬 剤 な ど に よ って よ ご さ れ る の で, 液 そ の も の の 更 新 も 時 々 すべ き

である。

そのほか培養液の温度は,作物の生育に大きな影響をおよぼすの

で,各作物の好適温度に近くなるような操作が望ましい。

Page 170: 作物生理_応用編

- 一 一 一 一

最近,鹿児島県農業試験場園芸部で,「噴霧水耕栽培」という方法が

‘ く板考案され,県内各地で普及しつつあ

る(口絵および第19図参照)。この方

法は,今まで研究されていた水耕法

のもつ欠点を改善し,また水耕法の

利点を十分活用したものである。

この栽培法では,培養液を貯える

水槽の下半分に培養液を入れ,作物

の根群は水槽中に懸垂され,根群の

下部は水槽の培養液中に,上部は培

養液外に露出された状態にあり,こ

の露出した根部には,培養液が噴霧

されるような構造になっている。パ

イプには1~1.5m間隔にノズルがっけてあリ,根に向かって噴霧され

②③④

⑤⑥

厚さ1.5cm,幅10cm。長さ45~50cm。ポ リ エ チ レ ン ま た は 無 可 塑 塩 化 ビ ニ ー ル シート厚さ0.3mm,幅100cm。

ビーノズル。

硬質塩ビパイプ,普通13mm。

160

3 水 耕

水耕(狭義の水耕)とは,作物の根部が培養液をたたえた水槽の

中 に あ って , 各 種 養 分 を 吸 収 し , ま た 培 養 液 中 に 溶 存 して い る 酸 素

によって呼吸作用を営みながら,作物が生育をナるような栽培法で

ある。

水 耕 栽 培 に お いて は , 培 養 液 中 の 酸 素 量 が 不 足 し な い よ う に , 細

管を通じて,圧搾空気を液内の各所に均等に噴出させるようにくふ

うされたりしている。

水 耕 栽 培 は , 作 物 体 の 地 上 部 の 保 持 装 置 や 液 内 へ の 酸 素 補 給 操 作

など,いろいろ問題も残っていて,牒耕のように普及はしていない。

第19図噴霧水耕ベッドの構造と資材

(鹿児島農試宮路氏)①厚さ2cm,長さ180cm。

17cm間隔に,直径2.5cmの植穴をあける。

Page 171: 作物生理_応用編

§ 12.砂耕・礦耕・水耕161

水槽にもどり,再びポンプで揚水し,パイプヘと循環する。そしてこれが1日

中連続的にまたは数回反復されるようになっている。根の呼吸のために必要な

酸素は,この噴霧と培養液の流動によって十分補給される。

このような水耕栽培にあっては,1作するごとに根は完全に排除され,前作

物の影響がまったくなく,連作害は全然ないから,同一ノヽウスやガラス室内

で,年間休みなく連続栽培できるという利点がある。

水 耕 栽 培 で は , 培 養 液 ℃30の温度がすなわち地温と

なり,作物の生育に大き

な影響をもっているが,

果菜類の半促成栽培の行

なわれる春の調査による

と,常に外気温(ノヽウス

内気温)よりも液の水温

25

20

15

10

一月

一 最 高一 午 前 9 時 } 噴 霧 ホ 耕 培 妥 液 温- = ミ 4 最 低

12345612345612345612345612II

第20図

I I I Ⅳ V

噴霧水耕培地温の特性と地温との比較

(鹿児島農試宮路氏)

VI

が高く,生育に非常に好影響を及ぼしていた。このようなことも,噴霧水耕を

有利にする大きな原因である。ただし水温不足の場合は,水温を高める処置を

講ずる必要がある。

第50表は,半促成キュウリの収量についての噴霧水耕・篠耕・土耕の比較

調査を,第51表は噴霧時間と収量との比較試験を行なった成績である。第50

表で噴霧水耕12hとあるのは昼間12時間噴霧した区で,24hは終日連続噴霧し

た区である。第20図は鹿児島県農試内で噴霧水耕培地の温度(液温)と,近くの地中温とを比較したものであり,液温のほうが常に高いことを示している。

噴霧水耕は,現在キュウリとトマトについての栽培に利用されており,ひきつづき他の野菜や花きについての研究がされている。なお噴霧水耕は,腺耕に

比し,施設経費の安価なことも大きな特長といえよう。

Page 172: 作物生理_応用編

162

第50表半促成キュウリの収量(単位:本,g/株当り)(鹿児島農試宮路氏)

ブ 上 果 下 果 合 計 3.3m2当り 上 果歩 合 上 果

1 本平均重

上果数

標準比本数 重量 本数重量本数 重量 本数 重 量 本数重量

噴霧水耕12h//24h

牒 耕慣 行 土 耕

41.2

45.2

31.6

26.8

4,285

4,781

3,603

2,630

4.6

4.8

4.2

4.9

229

208

197

219

45.8

50.0

35.8

31.7

4,514

4,999

3,800

2,849

577

630

451

399

56,900

63,000

47,900

35,900

90

90

88

85

95

96

95

92

104

106

114

98

154

169

n8

100

注)①品種:久留米落合H型③播種:昭39.12.12③定植:昭40.1.27④収穫:昭40.2下~6下④施肥量(g/45株):KN034050,Ca(N03)2・4H204750,MgSO4・7H202000,NH4(H2P04)600,Seguestrene138,Fe250,H3B0315,ZnS04・7H201.1,MnS04・4H2010,CuS04・4H200.25,Na2MOO40.1⑥栽培:いずれも陽熱利用保温で加温なし

第 5 1 表 噴 霧 時 間 と 果 菜 の 収 鼠 ( 1 株 当 り ) ( 鹿 児 島 農 試 宮 路 氏 )< 半 促 成 キ ュウ リ の 収 量 >

プ 上 果 下 果 合 計 標 準 比 上果歩合 上 果

平均重本数 重量 本数 重量 本数 重量 営上果重 姦本数重量

3時間区6時間区12時間区24時間区諜耕(参考)

本38.6

38.9

40.6

41.5

37.5

g4,055

4,163

4,211

4,650

4,061

本3.1

3.3

4.1

2.5

2.6

g108

107

157

90

79

本41.7

42.2

44.7

44.0

40.1

g4,163

4,270

4,368

4,740

4,135

%93

94

98

100

90

%87

90

91

100

87

%88

90

92

100

87

%93

92

91

94

94

%97

97

96

98

98

g105

107

104

n2

108

注)品種:久留米落合H型,播種:昭40.12.13定植:昭41.1.27収穫:昭41.2中~6下栽培:無加温ノヽウス

< 暖 地 抑 制 トマ ト の 収 量 >

ノ 上 果 下 果 合 計 標 準 比 上果歩合 上 果

平均重個数 重量 個数 重量 個数 重量 営上果重 望個数重量

3時間区6時間区12時間区24時間区撞耕(参考)

個15.9

17.0

17.1

17.0

15.6

g2,562

2,564

2,568

2,595

2,558

個0.5

0.5

0.4

0.5

0.2

g19

1612

18

個16.4

17.5

17.5

17.5

15.8

g2,581

2,580

2,580

2,613

2,565

%94100

101

100

92

%99

99

99100

99

%99

9999

100

98

%97

97

9897

99

%99

99

10099

100

g166

151

150153

164

注)品種:東光播種:昭40.7.25定植:8.26収穫:10中~12下栽 培 : 3 段 果 房 摘 芯 , 無 加 温

Page 173: 作物生理_応用編

水耕栽培(砂耕・篠耕・水耕)の培養液とその組成

(液1ぶ中の各種塩類の量)

①Tottingham’ssolution

KN030.495gN472mg

KH2P041.768gP20s922mg

Ca(N03)22.362gK20842111gCa0808mg

MgS041°740gMg0581mg

気圧=2.50

⑧ 春 日 井 氏 A 液 水 稲 用

(NH4)S04188.7mgN40mg

Na2HP0440.0mgP20520mg

CaC127.9mgK2030mg

MgC1214.2mgCa04mg

K C 1 4 7 . 5 m g M g 0 6 m g

6%FeC130.6cc

MnC120.75mg

(1)木村氏液A

(NI-14)2S0424.1mgN17.9mg

(lミ4jj:二混j)K2S0463.6mgP20513.0mg

λ/lgS0443.9mgK2068.8mg

KN0355.4mgCa010.2mg

KH2P0424.8mgMg014.7mg

Ca(N03)229.9mg

F←citrateFe203として2~5mg

§ 12.砂耕・篠耕・水耕163

⑧Shive’ssolution

KH2P042.448g

Ca(N03)20.853g

MgS041.806g

Fe(P04)2くミ0.004g)

気圧=1.75

N146mg

P2051,278mg

K20847mg

Ca0292mg

Mg0603mg

④ 春 日 井 氏 B 液 畑 作 物 用

N H 4 N 0 3 5 7 . 5 m g N 4 0 m g

KCI

MgSO4

KH2P04

Ca(N03)2

6%FeC13

MnC12

43.0mgNH4-N10(No3-N30)

120.0mgP20520mg

38.3mgK2040mg

117.0mgCa040mg

2.5CC

0.4mg

⑥ 木 村 氏 液 B

(NH4)2S0448.2mgK2S04

MgS04

KN03

15.9mg

65.9mg

N 2 3 . 0 m g

(iミ4lt二混j)P20s13.0mg

18.5mgK2017.2mg

Ca(N03)z59.9mgCa020.5mg

K H 2 P 0 4 2 4 . 8 m g M g 0 2 2 . 1 m g

Fe-cjtrateFe203として2~5mg

Page 174: 作物生理_応用編

164

⑦ タ バ コ の 培 養 液 ( 高 橋 ・ 中 塚 氏 ) ⑧ リ ン ゴ の 培 養 液

NCa(N03)2,NH4N034~40mgCa(N03)2・4H20531mg

P 2 0 5 K H 2 P 0 4 2 ~ 2 0 m g K N O 3 2 1 7 m g

K K 2 S O 4 , K H 2 P 0 4 4 ~ 4 0 m g N H 4 N 0 3 2 0 m g

CaOCa(N03)2,CaC124~40mgKH2P0465mg

MgMg(N03)21~10mgMgSO4・7H20309mg

F←citrate

N100mg

P15mg

K102mg

Ca90mg

Mg30mg

Felmg

①~⑧までは代表的なものを例としてあげたものである。このほかにも,実験者によ

りそれぞれくふうされたものがいくつかある。

(本文終わり)

Page 175: 作物生理_応用編

( 著 者 名 )

でにフに・トゴ靉1謬訳石 田 寿 老 , 佐 藤 重 平

丘-一一

幸 治

丘 共 著

田 , 林 編

算JいW

理 一 郎

一瓢 藤

大 理 学 部

戸刈,

書ぐ

参 文 献

名)

験実

植 物 生 理 学 上 ・ 下

生 理 植 物 学

生 物 学 実 験 指 導 書

植 物 生 理 学 実 験

栽培者のための植物生理

標 準 生 物 学

植 物 解 剖 及 形 態 学

作物生理講座1~5巻

(発行所)

養 賢

産 業 図

大 原 出

増 進

波岩

産 業

店書

房房

書図

店書

倉 書

堂堂

Page 176: 作物生理_応用編

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Page 177: 作物生理_応用編

著 者 紹 介太 田 敏 雄●京都大学農学部卒●現職鹿児鳥県1甦業試験場園芸部長●住所鹿児島市上福元町55()o番地

岡 正●鹿児島大学農学部卒●現職鹿児島県lg1震試験場作物部畏●住所鹿児島市上福元町5500番地

岩 下 友 記●九州大学農学部卒●現職鹿児島県|甦探t試験場育種部長●住所鹿児島市鴨池町1541の26

認諾作物生11(:us) ¥700

昭和43年4月1日昭和521年3月1日

初版発行五版発行

敏友功

田下島

太岡岩加

著 者

発行者

雄正記一

発 行 所 農 業 図 書 株 式 会 社東京都千代田区猿楽町2-2-14

電話東京(294)8551(代)振 替 東 京 7 2 3 2

郵便番号101

東京都千代田区猿楽町2-2-14

印 刷 者 工 友 会 工 業 所東京都目黒区自由が丘1-3-9

Page 178: 作物生理_応用編

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