アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

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Page 1: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

「文明と戦争」(上)アザー・ガット原題 War in Human Civilization - Azar Gat

尖閣諸島問題を発端に、日中関係が悪化している今読むべき本

アゴラ読書塾 2012 年 9 月 21 日伊賀野 康生

Page 2: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

2. 著者 (Azar Gat) について• 経歴

– 1959 年 イスラエル ハイファ生まれ ( 53 歳)– イスラエル ハイファ大学(学位)

→ テルアビブ大学(修士)→ 英 オックスフォード大学(博士)

– 米 エール大学等で教鞭を執る– 現在 テルアビブ大学 教授

• http://socsci.tau.ac.il/sec-dip/index.php/people/gat-azar-prof

• 軍事史、戦争・戦略分野の新進気鋭の研究家• 動物行動学、進化論から政治学まで幅広い分野

をカバー

Page 3: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

3. この本の主題

• 「戦争の謎」– なぜ、戦闘を行うのか?– 戦闘は人類の本来的なものか?– それとも後天的なものか?– 人類の歴史で戦闘は、いつ発生したのか?– 「戦争」とは「人類」にとって、何か?

• 戦争/戦闘– 人類の致死的、かつ、破壊的な活動

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4. 本の構成• 3 部、 17 章で構成

– 上下巻– 約 1000 ページにおよ

ぶ大著

• このレポートでは、主に上巻の内容を解説する

• 第一部– 過去 200 万年間の戦争

• 原始社会における戦争

• 第二部– 農業、文明、戦争

• 農耕社会と国家の出現時における戦争

• 第三部– 近代性 (Modanity)

• 近代、産業革命における戦争

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5. 戦争は人間の本性か?

• 人間は生まれ持って戦争する生物なのか?– 人間の行動は 2 つの影響を受けている

• 生物としての「ハードウェア」• 文化等の「ソフトウェア」

– 「人間の自然状態」が分かれば良い– 約 200 万年の人類の歴史を考える

• 古典的論争( 17~18 世紀)– 「ホッブズ」と「ルソー」

Page 6: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

6. ホッブズとルソー• Thomas Hobbes

– 1588-1679– イングランドの哲学者– 著書 「リヴァイアサン」

• 人間の自然状態は戦争状態戦争状態– 「万人の万人に対する闘争」

• 国家の形成によって平和になった

• Jean-Jacques Rousseau– 1712-1778– フランスの哲学者– 著書 「人間不平等起源説」

• 先住民は分散して生活し、同調的な性格で平和平和に生きていた

• 戦争は文明によって発明された

Page 7: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

7. 人類の歴史

• 200 万年のうち、 99.5% は「狩猟採集生活」– Homo eretus : 200 万年前

• 道具/火の使用、意思伝達

– Homo sapiense : 50 万年前– Homo sapiens sapiens : 10 万年前

• 農耕社会が始まる : 1 万年前

0% 20% 40% 60% 80% 100%

人類の歴史

狩猟採集社会 農耕社会

11 メートルの内、メートルの内、わずかわずか 5mm5mm

Page 8: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

8. 殺人するのは人間だけか?• 殺人 = 同種間での暴力/殺傷• ロバート・オードリー 「アフリカの起源」 ( 1961 )

– 人は特別– 他の動物は同種を殺したりしない

• コンラート・ローレンツ「攻撃 – 悪の自然誌」 ( 1966 )– 草食動物も同種間で戦う– でも、殺さない– 原因は「資源」と「メス」 (それらが確保できれば、それ以上攻撃しな

い)

• ジェーン・グッドールによるタンザニアでのフィールド研究( 1960年代中頃)– チンパンジーは肉を欲しがり、同種を殺す(メスも子供も)– 嫉妬深く、争いを好み、殺害し、戦う

• 他の動物世界でも同種間の殺害は一般的– 動物の死因の最も多い原因の一つ

Page 9: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

9. 動物一般の同種間の殺害• 人間以外の動物でも、同種間の殺害は高い確率

で行われている– ライオン、オオカミ、ハイエナ、ヒヒ、ネズミ、サ

ル、ゴリラ、鳥類– 原因 : 餌食、パートナー、その他(縄張り)

• むしろ、他の動物に比べて同種間の殺害は、人間の方が少ないぐらい

• 一方で、ピグミー・チンパンジーやボノボは– 自由な性交、ほとんど暴力を伴わない牧歌的生活

• 「自然状態」の人間はどうか?

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10. 狩猟採集民は戦ったのか?• 20 世紀初頭は「ルソー派」(人は平和)が支配的であった

– 国家形成以前の社会は平和で、戦争は後の文化的な発明

• ローレンス・キリー「文明以前の戦争 – 平和的野蛮の神話」 ( 1996 年)– 新石器時代(農耕・畜産が始まる)に戦争が存在した

• それ以前の更新(洪積)世( 200 万年前 ~1 万年前)はどうか?– 考古学による証明には限界がある

– 現存する狩猟採集民はどうか?

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11. 現存する(した)狩猟採集民

• 1960 年代に調査・分析が進んだ– 中央カナダ 北極エスキモー

• 拡散して住んでいるが、いさかいや殺人が起きていた

– グリーンランド、アラスカ沿岸のエスキモー• 好戦的

– その他平和とされる部族も、過去の戦闘の証拠が見つかった

• 狩猟への依存度が高いほど、戦争の頻度は高まる

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12. 調査された狩猟採集民

• 調査された単純狩猟採集民– 戦闘を行い、死傷者が出た証拠がある– しかし、(調査等のための)外部の影響を受けた可能性がある

• 汚染されたサンプル

– 狩猟採集民には、文字による記録がなく「 Nativeな」状態が分からない

• 農耕民、牧畜民の影響をほとんど受けていない純粋な狩猟採集民を観察する必要がある

Page 13: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

13. 現存した「純粋な」狩猟採集民

• オーストラリア大陸のアボリジニ– 1788 年にヨーロッパ人が入植– それ以前は、農耕民、牧畜民は存在しなかった

– 30 万人の狩猟採集民がいた– 400~700 の地域集団– 各集団には 500~600 人の構成員– それぞれの縄張りが存在

• ルソー派の言う「広大な共有地」はない– 特定の土地に縛られた遊牧民

• その他、「タスマニア先住民」など

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14. アボリジニの実地調査• M. J. メギット

– 19 世紀中盤以降– ワルビリ族 (オーストラリア中部の砂漠地帯)– 人口密度 : 90 平方キロメートル辺り一人

• ちなみに、山手線の内側の面積は 63 平方キロメートル– 他の部族への侵入

• スポーツとしての狩りと女性拉致を兼ねた急襲• 双方に死者

• などなど• 彼らの殺人率は、戦争のある近代社会よりも高い

– 3000 人のうち、 100~200 人が殺された

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15. 農業の始まりと戦争

• 農業の始まりによって変わったもの(複合狩猟採集民の誕生)–定住生活–食料貯蔵–所有物–高い人口密度– 社会の階層化

–複合狩猟採集社会にも戦争はあったのか?

Page 16: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

16. 複合採集民族と戦闘

• 洞窟・岩盤芸術に戦闘が描かれている– 約 1 万年前– フランス、スペイン、ドイツ、オーストラリ

ア、北米–弓を用いた戦闘

• 人口密度の高低に関わらず、戦争は起こっている

• 定住によって戦闘の痕跡が残りやすくなった

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17. 複合採集民族の研究• 北アメリカ大陸北西沿岸部• 西洋人の入植は 18 世紀後半• インディアンやエスキモーが居住• 人口密度

– 1 平方マイル( 2.5 平方キロメートル)辺り 3~5 人– 比較的高い

• 凄惨な戦争が絶えず起きていた– 資源の獲得競争 (資源が豊富でも、人も増える)– 社会階層が発展– 境界線をめぐる争い– 女性の獲得– ひけらかしの消費の出現

Page 18: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

18. (単純+複合)狩猟採集民

• 狩猟採集民は、多彩な種族が相互に全域で戦闘を行なっていた– 人口密度には関係がない

• 戦闘での死が主要な死因

• 資源やパートナー(女性)、もしくは、それから派生する様々な原因で戦っていた

Page 19: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

19. 結論 (1)今日なお幅を利かせるルソー派の見解に反し、

戦闘は最近の発明ではない戦闘は最近の発明ではないP.47

戦争は最近になって現れた文化上の「発明」ではなく、人間にとって「自然な」ものとは断言できないまでも、「不自然」であると言い切ることもできない

P.61

Page 20: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

20. 戦闘は先天的なものか?

• 戦争は「文化的な発明」ではない。• では、なぜ、人間は戦うのか?

–先天的なものか?

• 攻撃性は、極めて危険な戦術的技能として先天的なものであり、かつ、選択的なものである。( P.68 )

Page 21: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

21. 進化論と戦争• 進化論

– 最も生存/生殖能力が高いものが数を増やし、生存/生殖の資質を向上させた

• 生存に必要な資源による獲得競争が発生• 獲得競争の直接的手段として、競争や紛争は、生存競争における有効な技術であった

• 生殖に関しては、同一の生物種での競争が激しい• ただし、本気で戦うと、自分が死ぬ可能性がある• 血縁を守るために、利他的な自己犠牲として戦う

事が考えられる

Page 22: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

22. 血縁と文化

• 守るべき血縁の識別として、文化が使われる

• 自民族中心主義– ブラジルとベネズエラの国境付近に住む狩猟民族

• ヤノマミ族– 自部族を指す「ヤノマミ = 人類」– 他部族を指す「ナバ = 人間に満たないもの」

• 人類の歴史の大部分で形成された集団– 小規模な血縁集団

Page 23: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

23. 集団と人類の進化

• 地域集団はホモ・サピエンス・サピエンスの登場以後–地域集団は、家族集団(血縁集団)よりも強力であった

– ホモ・サピエンス・サピエンス以前の人類• ネアンデルタール人• 血縁集団しか持てなかったのでは?• これにより、ネアンデルタール人は滅んだ

Page 24: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

24. 宗教と戦争

• 宗教– ホモ・サピエンス・サピエンスの進化した

「ソフトウェア」における「バグ」「寄生虫」「ウィルス」

• 人は、宗教に莫大な投資をしてきた• 言語、宗教、芸術、地域集団の形成が相

まってホモ・サピエンス・サピエンスの戦争における優位性をもたらした

Page 25: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

25. 戦争の動機

• 戦闘によって得られる報酬とは何か?–女性 (性行動への欲求)

• 直接的な、生存行動とは異なる (子殺しの実態)

– 狩猟のための縄張り• 狩猟採集民が肉を獲得するために戦った• 草は奪わない(栄養価の密度が低く、効率が悪

い)

–水• 生存に直接必要

Page 26: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

26. 生殖と競争• メス

– 一度の受胎を最大限に活用するため、優秀なオスを選ぶ必要がある

• オス– 理屈では、残せる子供の数は無限– オスの性的性交を阻害するのは他のオスとの競合のみ

• 人間は、生来、一夫一婦制ではない– 経済力に応じて、多くの妻と子供を持つことができた– (倫理における性的な不貞を論じているわけではない)– 3 人以上の妻を持てたのは既婚男性の 10~15%程度

(アボリジニ)• 成功する男性

– 優れた供給者で、腕力があり、社会的に目端が効き、大きな家族の出身

Page 27: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

27. 一夫多妻制• 女性の希少価値を高める• 男性間の競争を激化させる• さらに

– 狩猟に依存している社会では女児殺しが頻繁にみられる– エスキモー

• 幼児期の男女比率 = 150 : 100– アボリジニ、ヤノマミ等の他の多くの民族で見られる

• NHK スペシャル 「ヤノマミ 奥アマゾン 原初の森に生きる」– http://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2012035560SA000/

– 更に女性の希少性を高める• 男の婚期を遅くする事で帳尻を合わせた

– 多くの男が暴力や事故が死ぬ

Page 28: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

28. 男は獣か?• 戦闘は男と結びついてきた• 体力 : 男 > 女• 脳科学

– 男性:空間把握、数学能力– 女性:空間記憶、言語能力、対人における心的状態の把握

• 男は乱暴– テストステロン– 同性間での殺人

• 男対男は、全体の 92%~100%

• 男と女は違うもの– 北欧では女性の 80% が働いているが、男女比が同じ職業に従

事する女性は全体の 10%だけ

Page 29: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

29. 戦争の動機 Part2• 戦闘の動機として二次的な原因もある

• 支配 (順序、地位、特権、名誉)– 資源を多く獲得できる– 実態に関わらず、他からどう見え

るか• 復讐 (排除と抑制)

– しっぺ返し - 直感的欲望– 囚人のジレンマ – 裏切る事が合理

的• 終わりのない戦い、悪循環• 終わらせる方法

– 双方で和解を受け入れる– 第三者の助け

• 安全保障– よそ者への警戒 → 相手も警戒 →

軍備競争– このような悪循環を断ち切る方法

• 友好的訪問と儀礼的な饗応

• 食人– 幾つかの事例はあるが、あまり広

まらなかった– 理由

• 同種の動物を捕食するのは危険– 限られた事例の理由

• 敗者に対する優越感• 遊び、冒険、加虐嗜好、恍惚

– 遊戯は全ての哺乳類の特徴– 戦いの準備としての遊び– 「自己顕示」や「無目的」は例外

的な動機

Page 30: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

30. どのように戦ったか?• 自己に有利な場合にのみ戦う• 敵に止めを刺す事に固執しない

– 反撃にあって深刻な怪我を負うリスク• 同種での殺害

– 生殖や餌のために弱い競争相手を殺す• 無防備な子供やひな• 奇襲攻撃

• 未開の戦争– 本当にやる場合 : 夜の奇襲– 争いを終わらせたい場合 : 形式的な戦争ごっこ

Page 31: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

31. 国家と戦争• 国家形成によって、戦闘による死亡率を下げた?• 暴力による死亡率

– 狩猟採集社会 (未開社会)• 15% (男性の 25% )

– 第二次ポエニ戦争 ( BC218 - 202 )• 成人男性の 17%

– フランスの戦死者• 17 世紀 : 1.1% 、 18 世紀 : 2.7% 、 19 世紀 : 3%

– アメリカ南北戦争• 1.3%

– 第一次世界大戦 (仏+独)• 3% (成人男性の 15% )

– 第二次世界大戦• ソ連 : 15% 、ドイツ : 5%

• 平均で考えると、未開社会より国家形成後の方が死亡率が低い

Page 32: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

32. まとめ

• 人間は、他の動物と同じように、同種間で殺し合ってきた

• 原因は、資源(食べ物や生殖)の獲得に関する競争 (欠乏)

• 政府が存在しない状態では、更に多くの暴力が蔓延– 【アラブの春、イラク、アフガニスタン】

• 戦闘そのものよりも、起きるかもしれないという危険性が人類に影響を与えてきた

• 競争と紛争は自己増殖し、双方に被害をもたらす

Page 33: アザー・ガット「文明と戦争」を読んで

33. 戦闘とは

• 個体数の増加に伴って生じる激化した競争で、比較優位を占めるために人々や他の生物がとる戦略

• ある種が生き残った理由は、生存に勝ち抜いたからという理由以外には、何の理由もない–機能主義への批判

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34. 第二部以降

• 人間の戦闘の歴史において、遺伝(本能としての好戦嗜好)と文化の相互作用を見ていく

• 戦闘によって、人間にもたらされたものは何か?