多系統萎縮症における告知と治療選択
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背景;多系統萎縮症(MSA)の突然死
• 多系統萎縮症(MSA)に合併する睡眠呼吸障害や
突然死に対し,持続的陽圧換気療法(CPAP)や
気管切開術が行われる.
• しかし突然死はこれらの治療で完全に防止すること
は困難であることから,気管切開下陽圧換気療法
(TPPV)が検討される.
(Shimohata T et al. J Neurol. 255:1483-5, 2008)
認知機能障害と告知・治療の自己決定
• 一方,MSAでは近年,認知機能障害を合併することが
明らかになってきた.
• 自験例では,認知機能障害と睡眠時無呼吸症候群や
起立性低血圧の重症度に相関はなく,認知機能障害
はMSA自体に伴う症候であると考えられる.
(Kawamura et al. Mov Disord. 2010;25:2891-2)
• しかし,認知機能障害が告知や治療の自己決定に
どのような影響を与えているかに関しては不明.
目 的
• 突然死のリスクがある神経難病の患者さんに対する告知や治療の自己決定についてはほとんど議論されて来なかった.
• 本研究では,MSAの治療の選択に関して,今後,議論すべき,臨床倫理的問題を明らかにすることを目的とした.
• 対象はGilman分類の probable MSA で,CPAPを
導入した連続症例とした.
• CPAP導入時の認知機能,CPAP断念後の治療選択
の状況,認知症合併例の治療選択について後方
視的に検討した.
• 以上を踏まえ,MSAにおける臨床倫理的問題を
検討した.
方 法
• 症例 29名(男:女=14:15)
• 発症年齢 57.8±8.5歳
• MMSEはCPAP導入時,18/29名で施行
• MMSE平均 26.1 (22~30)
• 24点以下 6名(33%)であった.
結果:CPAP導入時に認知機能障害を合併しうる
• 誤嚥の反復・排痰困難 (8名)
• 本人の拒否 (4名)
• 日中の呼吸不全 (4名)
• CPAP装着による呼吸増悪 (2名)
• 頻尿による装着困難 (1名)
• 睡眠中の突然死 (4名)
• 食物による窒息死 (1名)
• 自殺 (1名)
中止
死亡
CPAP中止の原因はさまざまである
❶ 気切なし37.5±8.5ヶ月
❷ 気切のみ29.4±6.1ヶ月
❸人工呼吸器(TPPV)
51.8±18.3ヶ月
生存率
月
CPAP中止後の生存期間
人工呼吸器装着は生存期間を延長する
ではTPPVを導入すれば良い?
考察:結果のまとめ
1. 認知機能障害はCPAP導入時には生じうるため,
同時期からの告知や治療の自己決定の可否の
評価が必要.
2. 今後,将来の認知症への進行を危惧して,TPPV
装着を差し控える症例が出てくる可能性がある.
考察:結果のまとめ
3. MSAは経過中,突然死や認知症を来しうる
疾患であることから,どの時点で,どの程度の
告知が必要か今後の議論が必要である.
4. 将来の認知症の合併に備えて,MSAでも
advance directive(事前指示)の検討が必要.
患者・家族に大きな不安をもたらす内容であることから
画一的に伝えるのではなく,危険性が高い症例(※)を
中心に,年齢,経過,性格などを考慮して,症例ごとに
検討したうえで告知することが望ましい.
※ 自律神経障害や睡眠呼吸障害・上気道閉塞が
高度な症例
突然死告知に対する倫理的スタンス(私見)
Tada et al. Arch Neurol 2007Lalich et al. Laryngoscope 2014Low et al. Lancet Neurol 2015
結 語
1. 以下の臨床倫理的問題についての議論が,
今後必要である.
① 突然死リスクの告知をいかに行うか
② 認知症合併リスクの告知をいかに行うか
③ TPPVの選択をいかにサポートするか
2. MSAの治療に関して,自己決定能力の評価と
advance directive について検討が必要である