6 わたしの地図活用 「西小タータン」が紡ぐ 地域...

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1 はじめに 本校のある西脇市は,兵庫県の中央部に位置し, 東経135度線と北緯35度線の交わる「日本のへ そ」として有名です。また,先染め綿織物である 播州織の一大産地であり,かつてはとても繁栄し, 今でも高い技術力を誇っています。 本校では地域教材として,社会科の4年の地域 学習,5年の産業学習で播州織にふれています。 それに加え,2018年度から6年の総合的な学習 の時間を中心に,地域の関連企業や市役所と連携 し,児童が地域の伝統的な産業を学ぶとともに, 実際に自分たちで播州織の製品を作成する取り組 みを実践しています。そこには,本校がめざして いる地域に根ざしたキャリア教育の視点を大切に していきたいとの思いがあります。 2 事前学習 「播州織」って? 本校の児童に「西脇市の有名なものは?」と質 問すると,ほぼ全員が「播州織!」と答えます。 しかし,続けて「播州織ってどのようなもの?」 とたずねても的を射た答えが返ってくることは少 ない状況でした。そこで,最初に児童と播州織に ついて確認する時間をもちました。はじめに児童 に『楽しく学ぶ小学生の地図帳』p.29~30で西 脇市をさがさせます。次に「自分たちが住んでい る西脇市の地理的特徴をあげてください。地図の 色に注目してごらん」と問いかけました。すると 「3本の川が合わさっている」 「山で平野が少ない」 などの答えが返ってきました。そこから播州織が 発展した理由を説明していきました。 西脇市は,加古川・杉原川・野間川という3本 の河川の合流点に位置し,良質な水を必要とする 先染め織物には最適な立地です。それとともに, 周辺を山が取り巻く環境にあり,近隣の市と比較 すると,農業に適した土地が少ないのも特徴です。 そのことも播州織が主要産業として発展してきた 地理的要因といわれています。 3 企画 「播州織未来プロジェクト」始動 播州織の特徴は,糸の染色,織布,加工の工程 が分業化され,多くの工場が連携して一つの製品 をつくり上げていることです。そして,それぞれ の工程が職人さんの長年の技術に支えられ,地域 が一つの大きな工場として播州織を生産してきま した。しかし,近年このような産業形態ゆえの後 継者不足が懸念されています。 この活動を進めるにあたって,かねてより交流 のあった関連企業の方々に相談したところ,経済 的な支援をも含めて快く引き受けていただくこと ができました。それは,児童が実際に播州織の製 作に携わることの意味を理解していただけたから だと考えています。 事前の打ち合わせで,ある関連企業の方が「子 供たちは播州織の将来を担う存在です。このプロ ジェクトを『播州織未来プロジェクト』と名づけ 「西小タータン」が紡ぐ 地域との絆 兵庫県西脇市立西脇小学校 校長 白川智喜 わたしの 地図活用 『楽しく学ぶ小学生の地図帳』 p.29 〜 30 図1 6 伝統のある校舎 販売のようす 6 2019

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Page 1: 6 わたしの地図活用 「西小タータン」が紡ぐ 地域 …...兵庫県西脇市立西脇小学校 校長 白川智喜 わたしの地図活用 図1 『楽しく学ぶ小学生の地図帳』p.29〜30

1 はじめに

本校のある西脇市は,兵庫県の中央部に位置し,

東経135度線と北緯35度線の交わる「日本のへ

そ」として有名です。また,先染め綿織物である

播州織の一大産地であり,かつてはとても繁栄し,

今でも高い技術力を誇っています。

本校では地域教材として,社会科の4年の地域

学習,5年の産業学習で播州織にふれています。

それに加え,2018年度から6年の総合的な学習

の時間を中心に,地域の関連企業や市役所と連携

し,児童が地域の伝統的な産業を学ぶとともに,

実際に自分たちで播州織の製品を作成する取り組

みを実践しています。そこには,本校がめざして

いる地域に根ざしたキャリア教育の視点を大切に

していきたいとの思いがあります。

2 事前学習 「播州織」って?

本校の児童に「西脇市の有名なものは?」と質

問すると,ほぼ全員が「播州織!」と答えます。

しかし,続けて「播州織ってどのようなもの?」

とたずねても的を射た答えが返ってくることは少

ない状況でした。そこで,最初に児童と播州織に

ついて確認する時間をもちました。はじめに児童

に『楽しく学ぶ小学生の地図帳』p.29~30で西

脇市をさがさせます。次に「自分たちが住んでい

る西脇市の地理的特徴をあげてください。地図の

色に注目してごらん」と問いかけました。すると

「3本の川が合わさっている」「山で平野が少ない」

などの答えが返ってきました。そこから播州織が

発展した理由を説明していきました。

西脇市は,加古川・杉原川・野間川という3本

の河川の合流点に位置し,良質な水を必要とする

先染め織物には最適な立地です。それとともに,

周辺を山が取り巻く環境にあり,近隣の市と比較

すると,農業に適した土地が少ないのも特徴です。

そのことも播州織が主要産業として発展してきた

地理的要因といわれています。

3 企画 「播州織未来プロジェクト」始動

 播州織の特徴は,糸の染色,織布,加工の工程

が分業化され,多くの工場が連携して一つの製品

をつくり上げていることです。そして,それぞれ

の工程が職人さんの長年の技術に支えられ,地域

が一つの大きな工場として播州織を生産してきま

した。しかし,近年このような産業形態ゆえの後

継者不足が懸念されています。

 この活動を進めるにあたって,かねてより交流

のあった関連企業の方々に相談したところ,経済

的な支援をも含めて快く引き受けていただくこと

ができました。それは,児童が実際に播州織の製

作に携わることの意味を理解していただけたから

だと考えています。

 事前の打ち合わせで,ある関連企業の方が「子

供たちは播州織の将来を担う存在です。このプロ

ジェクトを『播州織未来プロジェクト』と名づけ

「西小タータン」が紡ぐ地域との絆●兵庫県西脇市立西脇小学校 校長 白川智喜

わたしの 地 図 活 用

『楽しく学ぶ小学生の地図帳』 p.29 〜30図1

6年

伝統のある校舎

販売のようす

6 2019 ②

Page 2: 6 わたしの地図活用 「西小タータン」が紡ぐ 地域 …...兵庫県西脇市立西脇小学校 校長 白川智喜 わたしの地図活用 図1 『楽しく学ぶ小学生の地図帳』p.29〜30

ましょう!」と提案されました。みんなの思いが

一つになり,笑顔があふれた瞬間でした。

4 活動 「西小タータン」完成!

 まず,本校の近くにある播州織の製造工程を一

貫して行っている工場を見学した後,関連企業の

方から播州織の歴史や現状,くわしい製造工程に

ついて話を聞きました。次に,デザイナーの方か

ら播州織の特徴や魅力について話を聞き,実際に

生地をデザインする際のポイントを教えていただ

きました。そのなかで「デザインとは,その製品

を使う人のことを考えて行わなくてはいけないの

です」という言葉が印象に残っています。

 そして,児童一人ひとりが播州織のデザインを

作成しました。デザインした生地でランチョンマ

ットをつくることを前提に,全体的なイメージや

色合いを考え,自分らしいデザインをつくってい

きました。すべての作品の中から,学級コンペ,

学年コンペを経て,代表のデザインを選出しまし

た。「西脇小学校のみんなの笑顔として黄色,輝

く太陽としてオレンジ,そして雨にぬれた校庭を

イメージして水色を使った」と代表デザインに選

ばれた児童はプレゼンで話していました。

 そのデザインを,デザイナーの方に播州織のパ

ターンとして作成していただき,それを元にそれ

ぞれの職人さんが,染色,織布,加工し,ついに

オリジナルの播州織が完成しました。

 実際の播州織の生地を目にした児童は大喜びで

す。自分たちが考えたアイデアが,実際の製品と

して目の前にある。ものづくりのすばらしさをつ

くづく感じました。また,西脇小学校の児童がつ

くった生地を「西小タータン」と名づけ,播州織

の一つのブランドとして位置づけていこうという

アイデアも児童の意欲をより高めました。

 いよいよ自分たちの力でのランチョンマットの

製作です。できあがった生地を児童自らが採寸,

裁断,縫製し仕上げていきました。学校支援ボラ

ンティアの方々や本校の教職員の力も借りながら,

心を込めてミシンがけやアイロンがけをする児童,

生地を宝物のように扱っていた児童の姿が印象的

でした。そして自分たちの製作したものが,実際

に商品として店頭に並ぶという責任感をひしひし

と感じていました。

 また,商品としての価値を高める方法を考え,

オリジナルスタンプを押し,商品説明を作成し,

ていねいにラッピングして完成させました。

 「西小タータン」のランチョンマットは,参観

日に来校された保護者に販売するとともに,地域

の播州織販売施設や道の駅の協力を得て,西脇小

学校オリジナル商品として現在でも販売を行って

います。

5 はばたけ「西小タータン」

 この活動を通して,児童はよりいっそう自分の

ふるさとに誇りをもつようになったと実感してい

ます。そして,自らが播州織製品の製作に携わっ

た経験が,児童のキャリア形成につながっていく

ことを願っています。

 そのようななか,本年度の6年生も「西小ター

タン2019」の実践をスタートさせました。本年

度は,播州織に携わっている方々の生き方から多

くのことを学び,それを「西小タータン」に活か

していきたいと考えています。また,高等学校な

どほかの校種との連携やクラウドファンディング

など,よりいっそうの広がりをめざしていきたい

と考えています。

裁断 完成品 商品説明とオリジナルスタンプ

授業のなかの地図活用

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