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616.831:612.822.3

エアー ド氏法 による各種脳疾 患の脳波 に関す る研究

(本 論文の要旨は第3回 ・第4回 日本脳波学会並

第13回 日本脳神経外科学会において発表し.)

第1編

エ ア ー ド氏 法に よ る癲癇 患 者 の 脳 波に 関 す る研 究

岡山大学医学部第1(陣 内)外 科敎室(指 導:陣 内教授)

副 手  稲 垣 節

〔昭和31年9月5日 受稿〕

目 次

第1章  緒 言

第2章 癲癇 患者に現われる異常脳波所見

について

第1節  緒言並に文献

第2節  検査方法並に検査対象

第3節  記録の判定並に検査成績

第4節  小 括

第3章  脳波による焦点側 と誘発痙攣始発

側 との関係

第1節  緒 言

第2節  検査方法及び検査対象

第3節  検査成績

第4節  小 括

第4章  脳波による焦点側 と誘発痙攣向反

側運動の方向との関係

第1節  緒 言

第2節  検査方法及び検査対象

第3節  検査成績

第4節  小 括

第5章  脳波による焦点側 と気脳室像との

関係

第1節  緒 言

第2節  検査方法及び検査対象

第3節  検査成績

第4節 小 括

第6章 綜合判定による焦点側と個々の検

査成績 との比較

第1節  緒 言

第2節  検査方法

第3節  検査成績

第4節  小 括

第7章  皮質別除術後におけ る焦点の移動

と痙攣発作の消長 との関係

第1節  緒 言

第2節  検査方法及び検査対象

第3節  検査成績

第4節  小 括

第8章  総括並に考按

第9章  結  論

第1章  緒 言

H. Berger1)に よつて脳 の活動電流がは じめ

て頭皮上 よ り誘導記録 され,脳 波な る語が使

用 されたのは1924年 であるが,当 時は臨床方

面えの応用 とは,は るかなるへだた りがあつ

た.し か しその後Gibbs1)2)に よ り癲癇 発作

時の脳波が異常所見を呈す ることが明かに さ

れ,次 でCibbs, Lennox1)2)等 に よ りそ の臨

床 的 に発 作 の な い期 間に お いて も異常 脳 波 所

見 を得 る こ とがわ か り,脳 波 の癲癇 診断 に 対

す る価 値 が 認 め られ るにい た つ た.

しか し この痙 攣 発 作間歇 期 に おけ る異 常 波

の 出 現 率,す なわ ち 脳 波 の みに よ る癲癇 診

断 の可 能性 に つ い ては, Gollaは42.5%2)

Gibbs and Gibbs2)は 軽度 の 異常 を 加え て70

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1598  稲 垣 節

%に 異常 を認め,教 室 の奥村3は44%の数 字

をあげている.勿 論癲癇 の診断にあた り,脳

波のみが 万能の ものではな く,他 の臨床的な

諸検査,病 歴等全 体的の把握か ら診断を下す

べ きことは当然である.

しか しまた癲癇 の中の各型の区別,薬 物治

療 の効果判宅,焦 点 の発見等,脳 波が最 有力

の地位を 占める分野 もす くな くない.こ の場

合前述の ごと く異常脳波検出率の割 合の低率

な ことは非常 な弱点 となる ものであ り,そ の

ために諸家2)4)5)によ り陣々の脳波賦活法が と

られている現状であ るが この賦活法に よつて

も異常検 出率の画期的向上はのぞめず,わ ず

かに"異 常波の検出に効がある",と いわれ

る程度である.そ の上普 通に 使用される賦 活

法(カ ルヂアゾール静注)で は,そ の強度 を

たかめ ることに より正常人において も異常所

見を呈す る可能性 のあるこ とより,ど の程度

以下の賦活に よるものを異常 とす るかについ

てはい まだ定説を見ない現状である.こ れら

の要素 を考慮の上教室の奥村6)は 約70%の 検

出率をあげているが,こ れが同法の大略の限

度 と考え られ る.

元来,脳 波には双極,単 極誘導の2法 があ

りそれぞれに利点 もあ るが,従 来は主 として

単極誘導が臨床上に使用 されていた.

この単極誘導においては,軽 度の異常 しか

ない場合には見逃が されることが多 く,こ と

に脳波にはすでに知 られるごと く個人差が相

当見 られ るものであ り1),軽 度の異常の判定

にあたつては対照 とす るものをいかに とるか

に よつてその異常 の発見率に大きな差が生 じ

て くる.対 照 としてはその 被 検 者 の正 常 時

(病 前)の 脳波を とるこ とが もつ とも良いわ

けであるが,こ れは不可能な ことである.し

か し同一人の左右の 大脳半球の活動電 流は正

常人ではきわめて良 く一致 している といわれ

る1).

しか らば我々が 脳波の正常,異 常を判定す

る場合,も し病変が一側のみの もの とすれば

その対側を対照 とす ることに より従来の判定

の成績を は るかに向上 せ しめ ることが可能 と

なつて くる と考えられる.

癲癇は古来 よ りしられてい る疾患であるに

かかわ らず,現 在の ところその原因 も不明で

あ り,治 療法について も決定的な ものがない

状態である.

内科的治療については しば ら くお くとして

外科的療法のみに関 しては過去において,腰

椎穿 刺,空 気注入,減 圧開頭術,朕 胝体穿刺,

上頸 部交感神経節切除術,頸 動脈結紮 術,頸

動脈毬別出術,膵 頭部切除術上皮小体移植法,

副腎別出術,前 頭葉切除術等枚挙に遑 のない

ほ ど多 くの方 法が行われて きたが,い ずれも

必ず しも満足すべ き成績をあげ るに至つてい

ない.

しか しなが らPenfield(1940)7)一 派に よ

り癲癇 の焦点(Focus)の なる慨念が確立 され,

この一派に よる焦点 切除は ようや くその本質

にふれ,癲癇 に対する外 科的治療は一新紀元

を呈 し,脳波 または 皮質波に よる焦点発見に

大なる価値が認め られ るにいたつた.し か し

不幸な ことに前述のご とくすべての癲癇 にこ

の焦点が証明で きるわけではな く,や がては

痙攣伝導路の発見及びその遮断が新たなる見

地 よ りとりあげ られん としつつある.

この痙攣伝導路の遮断については,わ が国

において林教授一門に よる痙攣伝導路の提唱

に端 を発 し,大 脳皮質前運動領及び運動領切

除8)9)10)12)13)14),レンズ核切截術11),黒 質切

截術11)等がなされているが,こ の場合にも焦

点の慨念を拡大 した意味における病側の決定

とい うことが重要 となつて くるのである.

このような見地か ら,私 は癲癇 患者に外科

的治療を加える可能性 の決定には脳波の誘導

方式 として焦点発見,病 側決定に重 点をおい

た. Aird氏 法による双極同時誘導法式15)を使

用する方が有利である と考え,本 研究におい

てはすべて本方法を用いて癲癇 患者の前運動

領域皮質別除前後の脳波 を とり,そ の診断的

価値及び皮質剔 除の治療効果を検討すること

とした.す なわちまず第1に 真性癲癇 及び症

候性癲癇 患者 の術前の脳波を記録 し,本 誘導

注に よつて焦点 を決定 し,次 で これによつて

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決定 された病側 と誘発痙攣始発側,向 反側運

動の方向及び気脳室像 に より決定 された病側

とを夫 々比較 し,さ らに これ らに よる綜合判

定成績 と個 々の検査法に よる成績 とを比較検

討 した.最 後に前運動領皮質別除前後におけ

る脳波上 より見た る焦点の移動につ き検 し,

皮質別除の痙 攣発作 に及ぼす治療的効果 との

関係につき調べる こと芝 した.

第2章 癩癌患者に あらわれ る

異常磯波所見について

第1節 緒言並に文献

癩綱患者における異常脳波の所見 としでは

次のご ときものがあげ られている.

(1)大 発作型:発 作時においては電極 の

固定困難,筋 動作電流 の混入等 に より脳波の

誘導が非常 に困難であ るが,発 作直前におい

ては誘導可能であ り,こ の際には速い周波数

をもつた極めて大 きい振 巾の 波が 現われ る2).

(2)小 発作型 ・ 大 きい振 巾を持つた緩徐 ヲ

な波 が現わ れ,い わ ゆ るSpike and domeと

いい棘 波 と徐 波 とが1秒 間 に3つ 位 の割 合で

起つ て くる もの であ る.こ の場 合 多 くは すべ

ての誘導 に現 われ る2).

(3)変 型小 発作 型=こ れ は3サ イ クルに

き まつ てお らず,多 くは それ よ りも遅 い不 規 し

則 な周期 を もつ てい る波 で,各 チャ ネル に平

均に現わ れ る よ うな こ とは な く,あ る ものに

は強 く,あ る ものに は弱 く表 わ れ る とい うよ

うな具合 で あつ て,大 抵脳 の器 質的 の疾 患 の

時 に起 る もの とされ てい る2).

(4)精 神運 動 発 作型 ・'徐 波 の上 に速 波 の

重なつた 波が 現わ れ る.ま た ・Temboral lobe

epilepsyな どといわれているように主 として「側頭葉前部に棘波が出て くる

.そ の棘波は一

つずつ独立に不規則にあ らわれて他に及んで

いない特徴がある.

(5) ヂヤ ックソソ氏癩澗:,こ の場合,ど

ちらかの半球に棘波焦点がある ときには,大

抵脳波では両方の対応する・箇所に棘波が出て

くる杢ので あ り5).こ の場 合 どぢ らが 焦 点で

あるか とい うことが どうして も判 らないのが

エアー ド氏法に よる各種脳疾患の脳波に関す る研究  1599

普通である.こ の際左右のいずれが焦点であ

るかをきめ ることは脳波を判読す る上に非常

に厄介な問題になつてい る.し か しまた焦点

側にだけ棘波が見 られ ることもある16).し か

し以上の事はいずれ も経験的に述べ られた も

のであ り,こ れ等の発生に関する電気生理学

的な明確な証明は未 だ与えられていない.

癲癇 痙 攣の発現が脳細胞の新陳代謝 の何 ら

かの異常 に よるとい うことには異論を見出 さ

れないが,こ の新陳代謝の異常 と直接結びつ

いた脳波所見 としては 普通 棘 波(Spike)と

呼ばれる持続 時間の短い正常 よ りは るかに高

電圧の波型が一般 に承認 されているにすぎな

い.

しか しなが らわれわれが癲癇 とよぶその病

変の本態 と直接の関係がない とする徐波,基

本浪(α 波)の 周期めかた より,振 巾の過高,

過低 もそれが脳細胞の代謝 の正常でない こと

を示 してお り疾患の存在を推定する間接的根

拠 となる こともまた一般に認め られ るところ

である.よ つて本編では異常所見 として,棘

波以外に徐波,基 本波の周期のかたよ り,振

巾の変化を もとりあげ るこ と とした の で あ

る.

第2節 検 査方 法並に検査 対象

記録装置:脳 波記録装置は東大生研式6

チャネル,並 に三栄測器製作所の 日本脳波学

会の規格に台致する8チ ャ ネル,イン ク書記

録装置を用いた.誘 導は双極多極同時誘導法

を用いた.

電極 双極多極誘導,並 に単極誘導に使

用 した電極には普 通の皮下注射に使用 される

1/4皮 下針を使 用 し,こ れを アルコール で 消

毒 しその尖端が ようや く皮下組織に達す る程

度に刺入 して使用 した.単 極誘導の さいの不

活性導子は これに食塩含有糊を附 して耳朶を

は さんで固定 した.各 電極の抵抗は直流で10

~20KΩ の間に安定 した.

誘導方法:図(1)に 示す ごとく頭部の左

右対称に各9ヶ の点を定め,各 側において左

右別 々に これ ら9点 のあ らゆ る組合 せ を有す

る脳波 を誘導記録 した.す なわち1側 におい

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1600  稲 垣 節

て36,両 側において72誘 導 を記録 し,お のお

の左右対称 のものを比較することと した.

図(1)  私 の使用せ る記録様式

EEG analyzed report

L.  R

1  2  frontal

3  4  precentral

5  6  parietal

7  8 occipital

9  10  ear  lobe

11  12  anterior tem

poral

13  14  posterior tem

poral

15  16 low frontal

17  18  post central

1-3  3-5  5-9  7-15  11-17

1-5  3-7  5-11  7-17  13-15

1-7  3-9  5-13  9-11  13-17

1-9  3-11  5-15  9-13  15-17

1-11  3-13  5-17  9-15

1-13  3-15  7-9  9-17

1-15  3-17  7-11  11-13

1-17  5-7 7-13  11-15

被検者(患 者)の 状態:歩 行可能なるも

のは坐位で,不 能 なるものは輸送車のまま遮

蔽室内に搬入 して記録 を行つた.な お被検者

は全身の緊張 を とるように命 じ,最 も楽な姿

勢をとらしめ,室 内は 日光の直射光線を避け

た準暗室状態 とし閉眼 のも とに 記 録 を行つ

た.

検査 対象:真 性癲癇37例,症 候性癲癇11

例 である.こ の両者 の区別はすべて開頭所見

に より器質的病変を見出 した ものを症候性癲

癇 とし,し か らざるものを真性癲癇 とした.

図(2) は棘波の1例

図(3) は小発作型の1例

図(4) は変型小発作型の1例

図(2)

図(5)  は精神運動発作型の1例

図(3)

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エアー ド氏法による各種脳 疾患の脳波に関す る研究 1601

図(4)

図(5)

第3節  記録の判定並に検査成 績

記録 の判定は各 々対称的に誘導記録 した左

右の脳波を個々に比較 し,前 節に述 べた異常

脳波所見 より下記の如 くして判定 し,変 化大た

なる側で図上の両極間 を線で結び これ らの線

の密集 している位置よ り病巣を決定す ること

とした.

(1) 棘波:こ れが何れ の側に多 く認め ら

れるか,ま たその 棘 波 の振 巾(電 圧)が 何

れが大であ るかを検 し,そ の変化の大な る方

を病側 と決定 し,そ の側にspの印 を附けた.

(2) 徐波 左 右の何れが,よ りおそい徐

波を呈 しているか,ま た何れの側に多 く出現

しているか,そ の振 巾が何れが大 きいかを検

し,そ の変化大なる方 を病側 と決定 した.

この場合1-3が2-4よ り徐波の変化が大

なれば,1-3△>2-4と 記載す る.ま たその

変化の差が著明であ るときは1-3△≫2-4と

記載する.

(3) 基本 波(α 波):同 じα波 と呼 ばれ る

ものの うち で も,そ の 振 巾が 過低,或 いは 過

高 であ るか 等 に よ り抑 圧 現象 か,ま た 興奮 状

態 で あ るか を 判定 しそ の著明 な る例 を病 側 と

決 定 した.こ の際Gibbs and Gibbsに よ り提

唱 され てい るF1,F2と 称 せ られ る波 を も含

め て判 定す る こ と とした.△ を欠 ぐ〉,≫ の

印 は この α波 の 変化 を示す.

図(6)  は真性癲癇 の1例 の脳波を示す.

図(7)  は症候性癲癇 の1例 の脳波を示す.

検査 成 績 を示 す と,第1表,第2表 の ご と

くで あ る.

〔1〕 真 性 癲 癇

す な わ ち本 症37例 中右側 と決 定 された もの

20例,左 側 と決定 され た もの16例,左 右差 の

決 定 不能 の もの1例 で あ り,こ の1例 は精 神

運 動 発 作の患 者 で両 側 に 等 し く認 め られ てい

る.

(A) 右側 と判 定 され た20例 中,前 頭-前

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1602 稲 垣 節

図(6)  真癲 性癇(大 ○)

術 前

左前頭-側 頭-頭 頂に

焦点を認む

1-3△≫  5-9△ ≫

1-5△>  5-11△ ≫

1-7△>  5-15△ ≫

1-9△> 7-9△>

1-11△ ≫  7-11△>

1-13△ ≫  7-13△ ≫

1-15△>  7-15△ ≫

1-17△ ≫  7-17>

3-5>  9-11△>

3-9△ ≫  11-13>

3-11△ ≫  11-15△ ≫

3-13△ ≫  11-17>

3-15△ ≫  13-15△ ≫

5-7△>  15-17△ ≫

術 後

左前頭に焦点を認む

1-3Q>

1-5△>

3-5p>

1-13p>

1-llQ>

11」一15△>

3-15 >

1-15 >

1s-i70>

150μV (6) 2

(6) 3

(6)4

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エアー ド氏法に よる各種脳疾患の脳波 に関す る研究 1603

(6) 5

(6) 6

(6) 7

(6) 8

(6) 9

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1604  稲 垣 節

(6) 10

(6) 11

(6) 12

(6) 13

6) 14

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エアー ド氏法に よる各種 脳疾患の脳波に関す る研究  1605

(6)15 術 後

I 50μV 1sec

図(6) 16

図(6) 17

図(6) 18

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1606  稲 垣 節

図(6) 19

図(6) 20

図(6) 21

図(6) 22

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エアー ド氏法に よる各種脳疾患の脳波に関す る研究 1607

図(6) 23

図(7)1 症 候 性癲癇(伊 ○)

術 前

11-9△ ≫

開頭所見

分野4の 部に骨と硬脳

膜の強固なる癒着あり

脳表面は分野4の 部は

白黄色に溷濁 し瘢痕形

成強 し.

術 後

異常波を全く

見ない.

11 (anterior temp)の

部 に 病 巣 が あ る と 思 わ

れ る

I 50μV 1sec

(7)

(7) 3

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1608  稲 垣 節

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エアー ド氏 法に よる各種脳疾患 の脳波 に関する研究  1609

(7) 4

(7) 5

(7) 6

(7) 7

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1610 稲 垣 節

運動領部に焦点あ りと判定 された もの1例,

前 頭 一 側 頭 部 に焦 点あ りと判定 された もの

2例,前 側頭一側頭部に焦点あ りと判定 され

た もの1例,側 頭部に焦点 あ りと判定 された

もの15例,側 頭一頭頂部に焦点 あ りと判定 さ

れた もめ1例 である.

(7) 8

(7) 9

(術 後)

第1表  真 性 癲 癇

第2表  症 候 性 癲 癇

(B) 左側 と判定 されだ16例 中,前 頭一側

頭部に焦点あ りと判定 された もの1例,前 運

動領一頭頂部に焦点あ りと判定 された もの1

例,側 頭 部に焦点 あ りと判定 された もの11例,

頭頂部に焦点あ りと判定 された もの3例 であ

る.

(C) 両側の前側頭部に焦点あ りと判定さ

れた ものは1例 であ る.

〔2〕 症候性癲癇

本症11例 中,右 側 と判定 された もの7例,

左側 と判定 された もの4例 である.判 定不能

の ものはなかつた.

(A) 右側 と判定 された7例 中,前 頭一側

頭部に焦点あ りと判定 された もの1例,前 側

頭部に焦点あ りと判定 された もの1例,前 運

動領に焦点あ りと判定 された もの2例,前 頭

一側頭一頭頂部に焦点あ りと判定 されたもの

1例,側 頭部に焦点あ りと判定された もの2

例である.

(B) 左側 と判定 された4例 中,前 側頭一

前運動領部に焦点あ りと判定 された もの1例,

前側頭部に焦点 あ りと判定 された もの1例,

側頭部に焦点あ りと判定 された もの1例,前

運動領部に焦点 あ りと判定 されたもの1例 で

ある.ま た これ らの癲癇患者の脳波を異常波

別に分類する と次のご とくである.

〔1〕 真性癲 癇

第3表 のごと く37例 の真性癲癇患者の うち,

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エアー ド氏法に よる各種 脳疾患の脳波に関す る研究 1611

棘波,棘 波 と徐波 に よ る ものが12例,徐 波 に

よるものが9例,精 神運 動 発 作波 に よ る もの

1例, α波 の高 低 に よる ものが15例 で あ る.

第3表  脳波の分類(真 性癲癇)

〔2〕 症候性癲癇

第4表 の如 く本症11例 中,棘 波,棘 波 と徐

波によるものが4例,徐 波に よるもの5例,

α波の高低に よる ものが2例 であ る.

第4表  脳波の分類(症 候性癲癇)

第4節  小 括

以上の成績を見 るに真性癲癇においては左,

右 とも側頭部に焦点を有す るものが断然多 く,

全体の72%を 占めてい る.

症候性癲癇では症例少 きためか,各 部ほぼ

同数であつた.し か して真性,症 候性癲癇い

ずれの場合に も後頭部に焦点 を有する ものは

1例 もみ られなかつた.

次で,こ れを脳波の異常 の種類 よ り見れば,

真性癲癇においては, α波の高低に よる もの

が最 も多 く,次 で棘波,棘 波並びに徐波に よ

る もの,次 に,徐 波に よるものが之に次ぎ精

神運動発作波を示す ものは1例 の み で あ つ

た.

症候性癲癇においては,徐 波に よる ものが

もつ とも多 く,棘 波,棘 波並びに徐波に よる

ものが之に次ぎα波の高低に よるものはわず

か2例 であつた.

第3章 脳 波に よる焦点側 と誘

発痙攣始発側 との関係

第1節  緒 言

癲癇痙 攣誘発法には頸動脈圧迫法,ア ドレ

ナ リン注射法,強 制呼 吸法,水 分蓄積法,頭

部通電法,カ ルヂアゾール注射法等がある.

これ らの うち,頭 部通電法,カ ル ヂアゾー

ル注射法以外は随時痙 攣を起 しうる とは限 ら

ず,ま た頭部通電法は陣内教授 も述べている

ごとく17),痙 攣閾値を選ぶ ことがむつか しく

通常真の癲癇痙攣に先立つていわゆる電気強

直が起 るので始発側を観察するためには適 当

な 方法ではない.こ の点,カ ルヂア ゾールの

静脈内注射法は随時痙攣を誘発する ことがで

きて観察に便利であ る.

Langeluddeke18), Scnonmehl19)等 もカル ヂ

ア ゾール静脈内注射法に よる痙 攣誘発を試 み

てお り,最 近では教室の川真田20)が本法に よ

る癲癇患者の誘発痙攣を行 い,そ の詳細につ

いて発表 している.し たがつて私 も癲癇患者

について本法を行い,そ の誘発痙攣始発側 に

よる推定焦点側 と脳波に よる焦点側 とにつ い

て比較検討 してみた.

第2節  検査方法及び検査対象

痙攣の誘発には10%カ ルヂア ゾール液を用

い,最 初1.0ccを 静脈内に急速に注射 し,15

秒後に次の1.0ccを 注射 しさらに15秒 後に次

の1.0ccを 注射 して3分 間経過 を観察 し,痙

攣を起 さなければまた これを繰返 した.痙 攣

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1612 稲 垣 節

の観察は川真田 と同様 の方法を とり6名 の観

察者に よ り何れの肢に始発するかを観察 した.

検査対象は真性癲癇37例,症 候性癲癇11例 合

計48例 で ある.

第3節  検査成績

〔1〕 真性癲癇

(A) 本症37例 中誘発痙攣を観 察 し得た も

のは27例 である.残 りの10例 は痙攣の始発側

決 定不能の もの,ま たは実施 しなかつた もの

であ る.

(B) 27例 中右側 より始発 した ものが14例,

左側 よ り始発 した ものが13例 であ る.

(C) 痙攣誘発に より右側か ら始発 し,左

側脳に病変あ りと推定 され る14例 中,脳 波的

に も左側 と判定 された ものが8例 で56.4%,

右側 と判定 された ものが6例 で43.6%,判 定

不能 の ものはなかつた.

(D) 左側 よ り始発し 右側脳に病変あ りと

推定 され る13例 中,脳 波的に も右側 と判定 さ

れた ものが10例 で76.9%,左 側 と判定 された

ものが3例 で28.1%で ある.判 定不能の もの

はなかつた.

(E) 始発側の決定不能であつた ものは脳

波的には左側3名,右 側6名 と判定 されてい

る.

(F) 以 上(C) (D)を 綜 合 す るに,本 症

の66.6%に お い て脳 波に よる焦 点 側 と一致 す

る.

〔2〕 症候性癲癇

(A) 本症11例 中誘発痙攣 を観察 し得た も

のは9例 である.残 りの2例 は実施 しなかつ

た ものである.

(B) 9例 中左 側より始発 した ものが5例,

右側 よ り始発 した ものが4例 であ り,始 発側

の決定 不能であつた ものは1例 もない.

(C) 痙攣誘発によ り右側から始 発 し左側

脳に病変あ りと推定 され る4例 中,脳 波的に

も左側 と判定 された ものが3例 で75%で ある.

右側 と判定 された もの1例 で25%で ある.

(D) 左側 より始発 し右側脳に病変あ りと

推定 され る5例 中脳波的に も右側 と判定 され

た ものが5例 で100%で ある.

(E) 以上(C) (D)を 綜合す ると, 88.8

%に おいて誘発痙 攣始発側に よる推定焦点側

と脳波に よる焦点側 とが一致す る.

第4節  小 括

本誘導法に よる脳波所見か ら決定 した病側

判定成績 とカル ヂアゾール注射法に よる誘発

痙攣始発 側か らの病側判定 とを比較す ると,

真性癲癇ではその66.6%に おいて一致するに

すぎないが,焦 点明瞭な る症候性癲癇におい

てはよ く一致 してお り,不 一致の症例は1例

のみにて88.8%に おいて一致 している.

第4章 脳 波による焦点側と誘発痙攣

向反側運動の方向との関係

第1節  緒 言

癲癇痙攣に際 して表われ る向反側運動に関

し,教 室の川真田20)はカルヂア ゾール静脈内

注射に よつて向反側運動に関与す る分野,す

なわ ち 向反野(adversive field)の 神経細胞

が刺戟 され ると,左 右何れか のより過敏な側

の神経細胞が興奮 し,そ の反対側に向 う向反

側運動が起 るとい う考 えか ら,こ れを もつて

癲癇の焦点側推定が可能で あ る と述 べてい

る.

私は この向反側運動の方向に よる推定焦点

側 と脳波に よる判定焦点側 とについて比較検

討 してみた.

第2節  検査方 法 及び検査対象

前章に述べた と全 く同様の方法で痙攣を誘

発 し,そ の際現われ る向反側運動の方向を頭

部,眼 球,躯 幹の3ヶ 所につ いて観察 し,と

くにその前間代期におけ る方向を目標 とした.

(そ の理由については川真田20)の 論文を参照

せ られ た い).検 査 対象 は真 性癲 癇37例,症

候 性癲癇11例,台 計48例 で あ る.

第3節  検査成績

〔1〕 真性癲癇

(A) 本症37例 中向反側運動を観察 し得た

ものは26例 である.

(B) 26例 中右に向いた ものが9例,左 に

向いた ものが13例,ど ち らに も偏 しなかつた

ものが4例 である.

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エアー ド氏法 に よる各種脳 疾患 の脳波に関す る研究 1613

(C) 右に向き左側 脳に病変あ りと推定 さ

れ る9例 中,脳波的 に も左側 と判定 された も

のが6例 で66.6%,右 側 と判定 された ものが

3例 で33.3%,判 定不能であつた ものはなか

つた.

(D) 左に向 き右側脳に病変あ りと推定 さ

れ る13例 中,脳 波的に も右側 と判定 された も

のが10例 で76.9%,左 側 と判定 された ものが

3例 で23.1%,判 定不能であつた ものはなつ

た.

(E) どち らに も偏 しなかつた4例 中脳波

的に右側 と判定 された ものが3例,左 側 と判

定 された ものが1例 で,判 定不能の ものはな

かつた.

(F) 以上(C) (D)を 綜合す ると本症の

84.6%に おいて向反側運動の方向が決定で き

た.そ してそれに よる推定焦点側は72.7%に

おいて脳波による焦点側 と一致する.

〔2〕 症候性癲癇

(A) 本症11例 中,向 反側運動を観察 しえ

たものは9例 である.

(B) 9例 中,右 に 向 いた ものが4例,左

に向いた ものが3例,ど ち らに も偏 しな かつ

た ものが2例 で あ る.

(C) 右に向 き左側脳に病変あ りと推定 さ

れる4例 中,脳 波的に も左側 と判定 された も

のが1例 で25%,右 と判定 された ものが3例

で75%で ある.

(D) 左に向 き右側脳に病変あ りと推定 さ

れる3例 中,脳 波的に も右側 と判定 された も

のが3例 で100%で あ る.

(E) どちらに も偏 しなかつた2例 は脳波

的には左側 と判定 されてい る.

(F) 以上(C) (D)を 綜合す るに本症の

77.7%に おいて向反側運動の方向が決定でき

た.そ してそれに よる推定焦点側は57.1%に

おいて脳波に よる焦点側 と一致す る.

第4節  小 括

脳波的に決定された病側判定成績 と誘発痙

攣時にみられ る向反側運動 の方向か らみた病

側判定 とを比較す る と,真 性癲癇 で は そ の

72.7%に 一致 してお り,始 発側の場合 よ りや

や高率である.し か し症候性癲癇 では57.1%

になつているが,こ れは全体の症例数が少い

のに,奇 異なる症例が混つ てい るため とお も

われ る.

第5章 脳 波による焦点側と気脳室像

との関係

第1節  緒 言

癲癇患者 について脳室像の拡大に よ り病変

の存在側を推定 しうる場合が屡々 ある ことは

周知の事実である.浅 野22)はた とえ内脳水腫

を認めて も,両 側 同様である場合には一応真

性癲癇を考え るが,形,大 きさに不 同がある

場合には症候性癲癇を考え るべ きである とい

つてい る.し か し教室の川真田20)は症候性癲

癇に も気脳室像に著 変のない ものがあること

か ら推 して癲癇の真性,症 候性 を鑑別す る上

において脳室撮影は補助的手段 としての意義

は あ るが 確定的 な ものでは ない と述 べ て い

る.

小泉23)は真性癲癇の10%に おいて気 脳室像

に非対称性 を認 め,平 尾24)は 症候性癲癇 の

46.2%に おいて非対称性を認あている.

私は本章において気脳室像の左右差による

推定焦点側 と脳波による焦点側 とについて比

較検討 してみた.

第2節  検査方法及び検査対象

脳室像を うるためには腰椎穿刺 または直接

脳室穿刺に よつて空気 を注入 し,前 後左右の

四方向か らレン トゲン撮影を行い,主 として

側脳室の像に重点を置 き観察 した.

検査対象は真性癲癇患者37例,症 候性癲癇

患者11例,合 計48例 である.

第3節  検査成績

〔1〕 真性癲癇

(A) 本症37例 中明瞭 な前角像をえた もの

は29例 である.

(B) 29例 中,右 側に脳室の拡大 を認めた

ものが16例,左 側に拡大を認 めた ものが11例,

両側 とも正常像であるか,ま たは同程度 の拡

大 を認め,左 右差のない もの2例 である.

(C) 右側に拡大 を認めた16例 中,脳 波的

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1614 稲 垣 節

に も右 側 ど判定 され た ものが14例 で87.5%,

左 側 と判 定 され た もの が1例 で6.25%,両 側

と判定 され た ものが1例 で6.25%で あ る.

(D) 左 側に拡大 を認 めた11例 中,脳 波的

に も左 側と判定 された ものが11例 で100%,

判定不能の ものはなかつた.

(E) 左右差を認 めない2例 中,脳 波的に

右側 と判定 された ものが1例,左 側 と判定 さ

れた ものが1例,脳 波に よ り判定不能の もの

はなか つた.

(F) 以上(C) (D)を 綜合 す ると本症の

92.6%に おいて脳波に よる判定側 と一致する.

〔2〕 症候性癲癇

(A) 本症11例 中明瞭な前角像をえた もの

は8例 である.

(B) 8例 中,右 側に拡大を認めた もの6

例,左 側に拡大 を認めた ものが2例,左 右差

の決定不能な ものはなかつた.

(C) 右 側に拡 たを認めた6例 中,脳 波的

に も右側 と判定 された ものが6例 で100%,

判定不能の ものはなかつた.

(D) 左側に異常 を認めた2例 はいずれ も

脳波的に も左 側と判定 されている.

(E) 左右差の認め難 い ものはなかつたが

残 り3例 においては気脳室像を明瞭に うるこ

とができなかつた.

(F) 以上(C) (D)を 綜合 す る と, 72.7

%に お い て 気 脳室 像 に左 右差 が 認 め られ,そ

の病 側 は100%に お いて 脳波 に よる判定 と一

致 す る.

第4節  小 括

脳波的に決定 された病側判定成績 と気脳室

像に よる病側 とを比較す ると,真 性癲癇 では

92.6%に,症 候性癲癇では100%に 一致 して

お りきわめて高度の一致率を示 している.

第6章  綜合焦点側と個々の検査

成績との比較

第1節  緒 言

前章 までには,個 々の検査成績 による推定

焦点側 と,脳 波に よる判定焦点側 との関係に

ついて述べたのであるが,本 章においては さ

らに進んで各例について脳波的所見,誘 発痙

攣始発側な らびに向反側運動の方向,及 び気

脳室像所見を綜合検討 して綜合判定焦点側を

決定 し,そ してその綜合判定焦点側 と個々の

検査成績に よる推定焦点側 とにつ いて比較観

察 し,そ れ らの各々何%に おいて綜合判定焦

点側 と一致す るかを検討 した.

第2節  検査方法

綜合判定法 としては,上 記の各検査成績を

1点 宛 として計算 し,そ の多 い方の側を焦点

側 と決定 した.検 査が4つ であるために2:2

の場合は判定不能 とした.

第3節  検査成績

〔1〕 脳波に よる焦点側 と綜合判定による

焦点側 との関係(第5表).

第5表  脳 波

(A) 真性癲癇

本 症33例 中綜 合 判定 焦 点 側 と一 致す る もの

が30例(87.8%),反 対 な る ものが1例,判

定 不 能 な る もの が2例 で あ る.

(B) 症候性癲癇

本症9例 中綜合判定焦点側 と一致するもの

が9例(100%),反 対な るもの,判 定不能な

るものはなかつた.

(C) 真 性,症 候性 癲癇 を合 せ綜合 判定焦

点 側 と一 致 せ る ものは42例 中39例(92.9%)

で あ る.

〔2〕 気脳室像に よる焦点側 と綜合判定焦

点側 との関係(第6表).

(A) 真性癲癇

本症29例中 綜合判定焦点側 と一致するもの

が24例(82.7%),反 対なる ものは1例 もな

かつた.推 定不能 なるもの5例 である.

(B) 症候性癲癇

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エアー ド氏法に よる各種 脳疾患 の脳波に関す る研究 1615

本症8例 中綜合 判定焦点側 と一致す るものが

8例(100%),推 定不能な もの,反 対なる も

のはなかつた.

(C) 真性,症 候性癲癇 をあわせ,綜 合判

定焦点 側と一致 せ る もの は37例 中, 32例

(86.5%)で ある.

第6表  気 脳 室 像

〔3〕 誘発 攣始 発 側 に よる焦点 側 と綜 合 判

定焦 点 側 との関 係(第7表).

(A) 真 性癲 癇

本症27例 中,綜 合判 定 焦点 側 と一 致 す る も

のが18例(66.6%),反 対 な る ものが5例

(18.5%),推 定 不 能 な る ものが4例 で あ る.

(B) 症候 性 癩癇

本症9例 中,綜 合 判定 焦点 側 と一 致 す る も

のが8例(88.8%),反 対 な る ものが1例,

推定不 能 な る もの は1例 もな い.

(C) 真性,症 候 性癲癇 を あわ せ て綜 合 判

定 焦点側 と一致 せ る も の は36例 中,26例

(72.2%)で あ る.

第7表  誘発痙攣開始側

〔4〕 誘発痙攣向反側運動の方向による焦

点側 と綜合判定焦点側 との関係(第

8表).

(A) 真性癲癇

本症26例 中綜合判定焦点側 と一致する もの

が16例(61.5%),反 対なる もの4例,推 定

不 能 な る ものが6例 で あ る.

(B) 症 候 性 癲癇

本 症9例 中,綜 合判 定 焦 点側 と一 致 す る も

のが4例(44.4%),反 対 な る ものが3例,推

定 不 能 な る ものが2例 で あ る.

(C) 真 性,症 候 性癲癇 を あわ せ,綜 合 判定

焦 点 側 と一 致 せ る もの は35例 中, 20例(57.1

%)で あ る.

第8表  誘発痙攣向反側運動

第4節  小 括

個 々の検査 成績 とこれ らを綜合 して判定 し

た成績 とを比 較して,ど の成績が もつ ともよ

く一致するかを調べた結果,本 誘導法に よる

脳波的所見が92.9%に て最高位 を占め,次 で

気脳室像に よるものが82.5%に て第2位,次

で誘発痙攣始発側に よる ものが, 72.2%で 第

3位 で,誘 発痙攣向反側運動の方向に よるも

のが57.1%で もつ とも悪 い成績であつた.

真性癲癇 と症候性癲癇 とを比較すると,向

反側運動の方向に よる場合を除き,い ずれ も

症 候 性癲癇 の場 合 に よく一致 し,脳 波に よ

る もの と,気 脳室像に よるもの とはいずれ も

100%に おいて一致 した.

第7章  皮質剔 除術後 に お け る焦 点 の

移動 と痙攣発作の消長 との関係

第1節  緒 言

癲癇の焦点 に 関 して, Robert S. Schwab4)

は癲癇 の焦点は両側にある こともあ り,ま た

一側か ら他側へ移動す ることもある と述べ て

いる.

陣内教授25)は下肢か ら始 ま り全身に波及す

るジヤ ックソン型痙攣 を示す癲癇 患者 に対 し,

右側皮質運動領(分 野4)を 顔面野を除きそ

Page 20: 616.831:612.822.3 エアード氏法による各種脳疾患の脳波に ...ousar.lib.okayama-u.ac.jp/.../68_1597.pdfGibbs and Gibbs2)は 軽度の異常を加えて70 1598 稲 垣

1616 稲 垣 節

の大部分を剔除 した ところ,術 後に起つた発

作は顔面左斗部に軽度の痙攣を来す のみで,

四肢の痙攣は消失 した ことを経験 し,こ の際

の焦点の移 動について次の ごとく推論 してい

る.

すなわち,こ の際 もし皮質運動領(分 野4)

の下肢野に焦点があつたので あればその剔除

に よつ て術後痙攣は全 く起 らぬ筈であ る.し

か しこの場合には下肢にあつた焦点が術後残

存 した顔面野に移動 したのであるか ら,こ の

場合真の焦点は分野6或 はその他の領野に存

在 し,た だ分野4中 で下肢野の神経細胞が最

も過敏 な状態にあつたために,こ こに投 射さ

れ て下肢か ら始発 していたのであつて,こ れ

が剔除 されたので今度は残存皮質た る顔面野

に投射 され てここから起 るようになつた もの

と考え ざるをえない とのべてい る.

また教室の川真田20)は癲癇患者に一側皮質

運 動領の分野4,ま た分野6を 剔除 し,術 後

脳浮腫が去つた とお もわれ る3週 間後にカル

ヂアゾール痙攣誘発を試み,術 前,術 後の始

発側の変動を検 した結果,真 性癲 癇において

は約半数 において,症 候性癲癇においてはほ

とん どすべてが術後反射側から始発す るよう

になつた ことを認め,な お術後誘発痙攣を起

しに くくなることをのべ ている.ま た彼は術

後に粒け る自然発作 を観察 し,脳 浮腫が まだ

存在 していると思われる術後2週 間以内に起

つた ものは同側か ら起る ものがほ とんどで,

術後相当 日数経過 した痙攣では始発側が反対

になつた ものが多いことを認めている.し た

がつて私は この皮質運動領剔除前後の焦点 の

移動 とい う問題を脳波の上から検 してみたい

と考えて,前 述の報告に鑑み脳浮腫の消退 し

た と思われ る時期に再 び脳波を と り,は た し

て術前にみられた焦点が消失或は移動 してい

るか否か,ま た,こ れ らの症例においてはた

して術 後の自然発作が減少乃至消失 してい る

かを検せん と企てた.

第2節  検査方法及び検査対象

脳波の記録は前章に述べたと全 く同様の方

法で脳浮腫の消退 したとお もわれる手術後約

3週 間をへ て行つた,痙 攣の消長をみ るには

すべて遠 隔成績 に従つた.す なわち術後4ヶ

月乃至1年 以上を経 過 した ものについて調査

し,回 答のあつた ものの みを対象 とした.全

く発作 なきものを全治,痙 攣発作はあるがそ

の回数,程 度が術前 に比 し確かに改善されて

効果 の認 められた ものを軽快 とした,ま た焦

点 の移動については,反 対側に移動 したもの

を(〓),同 側の他の領野に移動 した ものを

(+),僅 かに移動 しているが大体 隣接部にす

ぎぬ ものを(±),全 く移動 していないものを

(-)と した.

Krause26)は 術後5年 以上たたねば治癒と決

定 を しては ならぬ といい, Muskensは10年

といつている.渡 辺27)の統計に よれば,術 後

5年 未満の群 と5年 以上 の群 との比較におい

て治癒,軽 快 ともに後者に少 くなつているこ

と等の点から長期の観察が必要と考え られ,

私が4ヶ 月乃至1年 の観察を もつて確実な見

透 しをつけるのは無理な点 もあると思 うが,

これは致 し方ないことで,こ れで も手術効果

の大体の様相は 判定できるもの と思 う.

大脳皮質前運動領の剔除は次のごとく行つ

た.す なわち各種の検査に よ り手術側を決定

して開頭 し,電 気刺戟28)29)に対応し てあらわ

れ る単運動を目標 として運動領分野4を 決定

し,そ の部分を避けでその前方,分 野6と 思

われる部分を約3×3cm大,深 さ1cm剔 除し

た.

第3節  検査成績

各手 術患者につ き遠隔成績を調査 し,そ の

回答 あつた ものについて皮質剔除後における

焦点 の移動 と痙攣発作の予後 とについて観察

した.

〔A〕 真 性癲癇

真性癲癇患者30例 の成績を示す と第9表 の

ごと くである.

(1) まず転帰別 に分 類 してみ ると,第11

表の ごと く,治 癒6例,軽 快8例,不 変14例,

悪化2例 であるが,こ の表で と くに目立つこ

とは術後脳波 の焦点が前頭部に移動 した10例

はすべて治癒,軽 快 の中に含 まれていること

Page 21: 616.831:612.822.3 エアード氏法による各種脳疾患の脳波に ...ousar.lib.okayama-u.ac.jp/.../68_1597.pdfGibbs and Gibbs2)は 軽度の異常を加えて70 1598 稲 垣

エアー ド氏法に よる各種脳疾患 の脳波 に関す る研究 1617

である.し か して,治 癒 の6例 中には焦点 の

移動を見ないものは1例 もな く,軽 快8例 中

に僅かに1例 を見るのみである.

〔A〕 第9表  真 性 癲 癇

〔B〕 第10表  症 候 性 癲 癇

これに反 し,焦 点の移動を認めない5例 中

4例 は不変例中に含 まれ,術 後の焦点をみて

も術後なお側頭部に焦点の残つているものの

みであ る.ま た術前,側 頭部 に,あつた ものが

術後同側 のPrecentralに 移動 した もの4例

はすべ て不変であつた.

(2) 次に,術 後の脳波焦点の部位別 にわ

けてみると,前 頭 部に焦点の移動 した10例 中

には焦点の移動せぬ ものは1例 もな く,治 癒

Page 22: 616.831:612.822.3 エアード氏法による各種脳疾患の脳波に ...ousar.lib.okayama-u.ac.jp/.../68_1597.pdfGibbs and Gibbs2)は 軽度の異常を加えて70 1598 稲 垣

1618 稲 垣 節

5例,軽 快5例 であつた.術 後側頭部に焦点

の存す る6例 はいずれ も不変例で,う ち4例

は焦点の移動せぬ ものであつた.

第11表  真性癲癇 の焦点の移動と転帰の関係

(3) 焦点の移動を中心 として分類 してみ

る と,術 後反対側に移動 した ものは8例,同

側 の他 の部位に移動 した もの13例,僅 かに隣

接部に移動 した もの4例,全 く移動せぬ もの

5例 であつた.

(4) 焦点の移動 と転帰 との間の関係を見

るに,前 述のごと く全 く移動の認め られない

5例 の うち4例 は不変例であ る.し か しなが

ら術後焦点が反対側に移動 した8例 中に も不

変例が5例 も含 まれているので,こ の間の関

係は さほど著明な もの とはいえない.ま た,

この焦点 の移動 と術前,術 後 の焦点部位 との

間に も一定の関係は認め られ なかつた.

〔B〕 症候性癲癇

症候性癲癇 患者5例 の成績を示せば第10表

のごと くで,こ の場合最 後の1例 をのぞ き開

頭に より発見 された病巣を除去す ると同時に

分野6を も別除 した.こ の うち3例 は全 く術

後脳波的に も焦点を認めず,こ の3例 では術

後一度の 痙攣発作 もな く治癒 してい る.

術前 と同一部位 に焦点が残つ ている他の2

例では軽快 と不変であつた.

〔皮質別除術後における異常脳波 の分類〕

真性癲癇 では,術 後において棘波お よび棘

波 と徐波に よるものが6.8%で あ り,徐 波の

みに よる ものが46.6%, α波に よるものが同

じ く46.6%で あ る(第12表).こ れを術前の

成績第3表 と比較す ると一般 に皮質剔 除術に

より棘波が減少 してお り,脳 波所見が改善さ

れ ている とい うことがで きよう.

第12表  真性癲癇 患者の術後脳波分類

症候性癲癇 においては,徐 波に よるもの20

%, α波に よるもの80%で あ り(第13表),

これを第4表 の術前 と比較すると棘波,徐 波

ともに少 な くなつてお り脳波所見が改善され

て い る こ とがわ か る.

第13表 症候性癲癇患者の術後脳波分類

第4節  小 括

本章にお け る検査成績 の うち,顕 著なこと

Page 23: 616.831:612.822.3 エアード氏法による各種脳疾患の脳波に ...ousar.lib.okayama-u.ac.jp/.../68_1597.pdfGibbs and Gibbs2)は 軽度の異常を加えて70 1598 稲 垣

エアー ド氏法に よる各種脳疾患の脳波に関す る研究 1619

のみを総括す ると,真 性癲癇 において術後脳

波の焦点が前頭部 に移動 した ものは至つ て予

後が よ くすべて治癒 または軽快 してお り,す

べて焦点の移動を認めた ものである.こ れに

反 して術後 も焦点の移動 しない ものはすべ て

側頭部に焦点を有する もので不変例が大部分

を占めてい る.ま た,術 前側頭部にあつた焦

点が術後同側のPrecentralに 移 動 した もの

はすべて不変であつた.ま た焦点の移動を示

さぬ ものは大部分不変例であ るが,し かし全

般的にいえば焦点 の移動 と転帰 との間には大

した関係がな く,ま た これ と術前,術 後の焦

点部位 との間に も特別の関係はみられなかつ

た.

症候性癲癇 においては術後脳波で全 く焦点

を認めえな くなつた ものはすべて術後全 く発

作が消失 している.

また皮質剔除術後の脳波所見を術 前のそれ

と比較 してみるに,真 性癲癇 では,一 般に術

後では棘波が減少 してお り,ま た症候性癲癇

では棘波,徐 波 ともに少 くなつてお り,術 後

の脳波所見は何れ も改善 されてい る.

第8章  総括並に考按

私は,真 性癲癇 患者37例,症 候性癲癇 患者

11例,合 計48例 に つ きAird氏 法に よる双極

多極同時誘導方式を もちいて,左 右対称部位

の脳波 を比較することによ り,焦 点 を決定 し,

次でこれに よつて決定 された病側 と誘発痙攣

始発側,向 反側運動の方向,及 び気脳室像の

変化に より決定 された病側 とをそれぞれ比較

し,き らに,こ れ らに よる綜合判定成績 と個

々の検査法に よる成績 とを比較 して,本 法の

診断的価値を検討 した.な お最 後に前運動領

皮質剔除前後におけ る脳波の焦点 の移動を検

し,こ れ と皮質剔除の治療的効果 との関係に

ついて検査 した.

まず,癲癇 患者にみられた異常脳波所見に

つ いてみ るに,真 性癲癇 に お いては ,棘 波,

棘波 並びに 徐波 に よる もの32.4%,徐 波 に よ

る もの24.3%,精 神 運 動発 作 波に よ る も の

3.3%, α波 の高 低(振 巾)に よ る もの40%

であ り, α波の高低によるものが最 も多 く,

次で棘波並に徐波,棘 波に よる もの,徐 波に

よるものの順であ る.そ して左右 とも側頭部

に焦点を有す るものが きわめて多 く,左 右を

あわせて全体 の72%を 占めてい る.こ の事実

は長期にわた り発作を繰返 した真性癲癇 患者

では側頭葉 と くにア ンモ ン角部におけ る血管

の変化が とくに顕著に現われ るとい う事実に

よ く一致 してい る.

次に,症 候性癲癇 においては徐波に よるも

のが45.4%で 最 も多 く,次 で棘波並に徐波に

よる ものが36.3%で 之に次ぎ, α波の高低に

よる ものは18.3%で もつ とも少い.

しか して真性,症 候性を通 じ後頭部に焦点

を有する ものは1例 も見られなかつた.

次に,本 法に よる焦点側 と各種の検査方法

による焦点側 とを比較 してみ よう.

まず,誘 発痙攣始発側に よる成績 との比 較

についてみ ると,真 性癲癇 ではその66.6%に

おいて一致す るにすぎないが,焦 点の明瞭 な

症候性癲癇 では88.8%に おいて一致 してい る.

次に向 反側 運 動の方向 との比較においては,

真 性癲癇 ではその72.7%に 一致 してい るが,

よ りよく一致すべ き症候性癲癇 においてはわ

ずかに57.1%し か一致 しなかつた.こ れは症

候性癲癇 の症例数が少 いのに,奇 異なる症例

が 混 つ て いたため とお もわれる.す なわち,

普通一致すべ き痙攣始発側 と向反側運動 との

方向 とが一致せず,い わゆ る矛盾性向反側運

動30)を示 した症例が 含まれていたためであろ

う.

教室の川真田20)は 痙攣 始 発側よりも向反側

運動 の方向り方が焦点側の判定には有 意義で

ある とのべて いるが,私 の検査成績では真性

癲 癇では然 りであるが,症 候性癲癇 では逆に

なつてい る.こ れは前述の理 由に もとず くも

のであ るとお もわれる.

次に気脳室像に よる焦点側判定成績 と比較

してみ ると,こ れは脳波 に よる焦点側 と非常

に よ く一致 した成績 を示 してい る.す なわち,

真性癲癇 では92.6%に,症 候性癲癇 では100

%に 一致 している.

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1620 稲 垣 節

これは真性癲癇 におけ る誘発痙攣の始発側

や向反側運動の方向にはかな り動揺があ り,

また観察の誤診 もまた絶無 とはいいがたいの

に反 し,気 脳室像はか な り客観的に正確に把

握 し うるからであろ う.

次 に,こ れら4つ の検査方法を綜合判定 し

てえられた焦点側 と個 々の検査成績 との一致

度につ いて比較検討 してみ るに,真 性,症 候性

の場合をあわせて,本 法に よる脳波所見で判

定 した ものが92.9%に 一致 し最良の成績を あ

げ てお り,次 で気脳室像に よるものが86.5%,

次で誘発痙攣始発側に よるものが72.2%,向

反側運動の方向に よるものが57.1%で もつ と

もも低率で あつた.真 性癲癇 と症候性癲癇 と

では,一 般 に症 候 性癲癇 の場 合に よく一致

し,脳 波に よるもの,気 脳室像に よるもので

は いずれ も100%に 一致 した.

この事実は一般に真性癲癇 では強弱の差は

あれ両側に病巣が存在することが十分考えら

れ るか らであ る.

すなわち,以 上の成績から,本 誘導法に よ

る脳波所見は癲癇 の焦点側判定に対 して もつ

ともも有 力な指針 とな りうるもので,そ の診

断的価値 の大なることが明か となつた.

最後に,私 は皮質別除後における焦点の移

動 と痙攣発作の消長 との関係につ いて検 した

が,そ の結果,真 性癲癇 においては,術 後脳

波 の焦点が前頭部に移動 した ものは きまつて

予後が良好で,す べて治癒 または軽快 してお

り,こ れ らは脳波的に も全例に焦点の移動を

認めている.こ れに反 して焦点の移動 しない

ものはすべて術 後 も側頭部に焦点が残つてい

る もので,不 変例が大部分であつた.

また,た とえ移動 して も術前側頭部にあつ

た ものが術後同側のPrecentralに 移動 した も

のはすべて不変例であつた.ま た焦点の移動

を示さ ぬ ものは大部分手術の効果 も不良で不

変例が大 部分であるが,し か し,全 般的にい

えば焦点の移動 と転帰 との間には大 した密接

な関係はない.

要するに,全 般的にみて術 後脳波に よる焦

点 の移動は治療効 果の上か らも重要な もので

あ るが,し か し古い真性癲癇 では病変が瀰 漫

性に拡がつ てお り,両 側 ともに侵 されている

場合が多いので,た とえ術後焦点が反対側に

移動 して も痙攣は なお消失せず,成 績不変の

ものがかな り存することが理解 できる.

ところが,之 に反 し,症 候性癲癇 では病巣

が限局 しているためか,病 巣除去と同時に術

後脳波で焦点を発見 しえな くなつた ものが多

く,か か る症例では臨床的に も術後全 く痙攣

発作 も消失 してい る.し か して症候性癲癇 で

は術後焦点の移動を みた ものは1例 もない.

これに反 して真性癲癇 では焦点の消失をみた

ものは1例 もな く,術 後前頭部に焦点の移動

した ものが予後が良好なのである.

このことか ら考える と,真 性癲癇 では前述

の如 く病変が瀰 漫性 となつ ていて,全 皮質が

痙 攣準備状態にあるため,た とえ焦点を剔除

して も消失す ることな く,前 頭部に移動する

ものであ るが,症 候性癲癇 では病巣が限局 し,

他の皮質は全 く痙攣準備状態にないために容

易に焦点の消失が みられ るもの とお もわれる.

以上の研究に よりAird氏 法による脳波検

査は癲癇 患者におけ る焦点の決定並に治療効

果の判定 に非常に有力な指針 とな りうること

を実証することができた と信ずる.

第9章  結 論

私は癲癇 患者48例 を対象 としエアー ド氏法

を もちいて術前術後の脳波を と り,こ れによ

つ て焦点を決定 し,そ の診断的価値について

他 の検査法に よる焦点側 と比較検討 し,さ ら

に前運動領皮質別除術前後の脳波の焦点の移

動を しらべ,こ れ と皮質別除の治療的効果と

の関係 について検討 した.そ して次の結論を

得た.

(1) 本法に よる真性癲癇 の焦点は側頭部

に最 も多 く,左 右あわせれば全体の72%で あ

る.

(2) 脳波に よる焦点側 と誘発痙攣始発側

に よる焦点側 との一致度は真性癲癇 では66.6

%,症 候性癲癇 では88.8%で あつた.

(3) 脳波による焦点側 と向反側運動の方

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エアー ド氏法に よる各種脳疾患 の脳波に関す る研究 1621

向による焦点側 との一致度 は真 性癲癇 で は

72.7%,症 候性癲癇 では57.1%で あつた.

(4) 脳波による焦点側 と気脳室 像に よる

焦点側 との一致度は真性癲癇 では92.6%,症

候性癲癇 では100%で あつた.

(5) 脳波に よる判定焦点側は真性癲癇 で

は87.8%,症 候性癲癇 では100%,両 老をあ

わす ると92.9%に おいて綜合判定焦点側 と一

致 した.

(6) 綜合判定焦点側に対す る各種検査成

績による推定焦点側の一 致度は,脳 波(92.9

%),気 脳室像(86.5%),誘 発 痙 攣 始 発 側

(72.2%),向 反側運動(57.1%)の 順に大であ

り,こ れは真性癲癇 で も症候性癲癇 で も同様

であつた.し か して一般に症候性癲癇 の方が

一致度が高率であつた.

(7) 術後脳波焦点の移動 と痙攣消失 との

関係をみるに,真 性癲癇 において術後前頭部

に焦点 の移動を認めた ものは予後良好で,痙

攣の軽快 または消失を見ている.こ れに反 し

焦点 の移動を認めぬ もの,ま た焦点 の移動 は

あつ て も術前側頭部にあつた焦点が術後同側

の運動領に移動 した ものでは不良である.

(8) 症候 性癲癇 では術後脳波に よる焦点

の消失を認める ものが多 く,か か るものはす

べて痙攣の消失をみてい る.

(9) 本法に よる脳波検査法は癲癇 の焦点

判定,治 療効果の判定に 対 して有 力な指針 と

な り得 るものである.

稿を終るに臨み,終 始御懇篤なる御指導と御校閲

を賜つた,恩 師陣内教授に衷心より感謝の意を表す.

又種々御助言を賜つた敎室の沼本博士並びに奥村君

に深謝する.

(文献は第3編 において一括記載する為に本編に

おいては省略する.)

Ist Department of Surgery Okayama University Medical School

(Director: Prof. D. Jinnai)

An Electroencephalographic Study on Various Diseases

by Aird's Method.

Part Ⅰ. Electroencephalography in epilepsy by Aird's method

By

Takashi Inagaki

Fourty and eight cases of epileptjcs were studied electroencephalographjcally by Aird's

method before and after the operation and their foci were determined. The foci were com

pared with those of other methods and they were investigated before and after the operation. The results were as follows:

(1) The focus of idiopathic epilepsy in this method was mostly in temporal region, and reached 72.% of all cases (total of both sides).

(2) The electroencephalographic focus was on the same side of the focus determined by

provocation of the convulsion to 66.6% in idiopalhic epilepsy and 88.8% in symptomatic epilepsy.

(3) The side of electroencephalographic focus was on the same side of the focus determined by adversive movement to 72.7% in idiopathic epilepsy and 57.1% in symptomatic epilepsy.

(4) The side of the electroencephalographic focus was on the same side of the focus determined by pneumoencephalography to 92.6% in idiopathic epilepsy and to 100% in symp

tomatic epilepsy.

(5) The side of the electroenccphalographic focus was on the same side of the determined

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1622  稲 垣 節

focus to 87.8% in idiopathic epilepsy to 100% in symptomatic epilepsy and totally 92.9%,

(6) The side of the presumed focus by each examination was on the same side of the

synthetically dete正 ・nlined focug in the order ofρleclroencephalography (92.9%), pneumoence.l

phalography (86.5%), initial side of provocated convulsion (72.2%), adversive movement

(57.1%). The order was evaluated to be similar in idiopathic as well as symptomatic epilep

sy, but generally the grade of their coincidency was higher than symptomatic epilepsy.

(7) The epileptics, who showed a displacement, of focus to the frontal lobe after operation, took. a good course and the convulsion decreased or dispersed. On the contrary, those,

in whom no traveling of the focus or the into the motor area of the same side was seen,

usually took an unfavourable course of the convulsive seizure.

(8) Most of the symptomatic epilepsy showed no focus in the electroencephalogram afterthe operation, and accordingly no more convulsion.

(9) This method is able to be a good indicator for determination of epileptic focus and

judgement of the effect of therapy.