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68Plant Science Seminar 次世代シーケンサーで探る植物分化 細胞から幹細胞へのリプログラミング 倉田 哲也 博士 奈良先端科学技術大学院大学 日時 8月18日(水) 16:00〜 場所 北大理学部5号館813号室 (8階大学院演習室) 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 2005年を皮切りに登場した様々なタイプの次世代シーケンサーは、生命科学 研究において革新的な変革をもたらしつつある。次世代シーケンサーの特徴としては、それま でのサンガー法に基づくシーケンスに対して、個々の断片の解読長は短いものの、圧倒的に大 量の配列情報を産生する点にある。その配列情報産出スペックは、一度のシーケンスランによ 20億リードからなる200Gbに達しており、今後もさらに増加することが予想されている。この 技術革新が著しい次世代シーケンサーで一体何ができるのであろうか?一つは配列解読ベー スの利用法であり、ゲノム未解読生物種のde novoシーケンスや一塩基多型(SNP)やゲノム 再編成の検出である。最近のトピックとして、パンダゲノムが次世代シーケンサーを利用してde novoに解読されたのは、このような利用法の典型であろう。また、次世代シーケンサーは定量 的な計測機器としての側面もある 特定の生物サンプルで発現している全mRNAsmall 的な計測機器としての側面もある特定の生物サンプルで発現している全mRNAsmall RNAの配列情報を取得し、個々の遺伝子の定量的発現解析を行うものである。これは次世代 シーケンサーから出力される配列断片が大量であるが故に可能な技術である。私たちは、この ような優れた次世代シーケンサーの特性を利用して、植物が持つ高い分化全能性の分子基盤 のシステムレベルを目指した研究を行った。 ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)の分化葉細胞は傷処理後、光条件下で培養する だけの簡便な処理で、原糸体の頂端幹細胞へとリプログラムされる。このステップでは、外生 のオーキシン、サイトカイニン等の植物ホルモンは不要である。リプログラミング過程では、大 規模なトランスクリプトームの再編成がおこることが想定されたので、全ゲノム遺伝子を対象に したmRNAのデジタル遺伝子発現解析(DGE)、small RNA-seqを行い、転写プロファイルを取 得した。また、遺伝子発現に対して影響を持つクロマチン状態を調べる目的で、ヌクレオソーム を構成しているヒストンの修飾変化をクロマチン免疫沈降-超並列シーケンス法(ChIP-seq)を 用いて解析した。また、DGEおよびヒストン-ChIP-seqデータから抽出した135種類の転写因子 について、独自に開発したアグロバクテリアを介したコケ形質転換系を利用した高速機能スク リーニングにより、リプログラミングに影響する複数の転写因子を見いだした。本講演では、こ れらの統合解析から見えてきた結果について議論したく考えている。 北大内で植物科学を研究している(特に)若い人たちの交流促進の場を提供するためのセ ミナーです。倉田哲也 特任准教授は,基生研より現所属に異動しました。今回は,次世代 Plant Science Seminar について シークエンサーを用いた最新の研究内容についてお話いただく予定です。 連絡先: 山本興太朗 メール:[email protected] 内線:2739

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Page 1: 68 Plant Science Seminar...第68回Plant Science Seminar 次世代シーケンサーで探る植物分化 細胞から幹細胞へのリプログラミング 倉田 哲也 博士 奈良先端科学技術大学院大学

第68回 Plant Science Seminar

次世代シーケンサーで探る植物分化細胞から幹細胞へのリプログラミング

倉田 哲也 博士奈良先端科学技術大学院大学

日時 : 8月18日(水) 16:00〜場所 : 北大理学部5号館813号室

(8階大学院演習室)

奈良先端科学技術大学院大学・バイオサイエンス研究科

2005年を皮切りに登場した様々なタイプの次世代シーケンサーは、生命科学

研究において革新的な変革をもたらしつつある。次世代シーケンサーの特徴としては、それまでのサンガー法に基づくシーケンスに対して、個々の断片の解読長は短いものの、圧倒的に大量の配列情報を産生する点にある。その配列情報産出スペックは、一度のシーケンスランにより20億リードからなる200Gbに達しており、今後もさらに増加することが予想されている。この

技術革新が著しい次世代シーケンサーで一体何ができるのであろうか?一つは配列解読ベースの利用法であり、ゲノム未解読生物種のde novoシーケンスや一塩基多型(SNP)やゲノム再編成の検出である。最近のトピックとして、パンダゲノムが次世代シーケンサーを利用してde novoに解読されたのは、このような利用法の典型であろう。また、次世代シーケンサーは定量的な計測機器としての側面もある 特定の生物サンプルで発現している全mRNAやsmall的な計測機器としての側面もある。特定の生物サンプルで発現している全mRNAやsmall RNAの配列情報を取得し、個々の遺伝子の定量的発現解析を行うものである。これは次世代

シーケンサーから出力される配列断片が大量であるが故に可能な技術である。私たちは、このような優れた次世代シーケンサーの特性を利用して、植物が持つ高い分化全能性の分子基盤のシステムレベルを目指した研究を行った。

ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)の分化葉細胞は傷処理後、光条件下で培養する

だけの簡便な処理で、原糸体の頂端幹細胞へとリプログラムされる。このステップでは、外生のオーキシン、サイトカイニン等の植物ホルモンは不要である。リプログラミング過程では、大規模なトランスクリプトームの再編成がおこることが想定されたので、全ゲノム遺伝子を対象にしたmRNAのデジタル遺伝子発現解析(DGE)、small RNA-seqを行い、転写プロファイルを取

得した。また、遺伝子発現に対して影響を持つクロマチン状態を調べる目的で、ヌクレオソームを構成しているヒストンの修飾変化をクロマチン免疫沈降-超並列シーケンス法(ChIP-seq)を用いて解析した。また、DGEおよびヒストン-ChIP-seqデータから抽出した135種類の転写因子

について、独自に開発したアグロバクテリアを介したコケ形質転換系を利用した高速機能スクリーニングにより、リプログラミングに影響する複数の転写因子を見いだした。本講演では、これらの統合解析から見えてきた結果について議論したく考えている。

北大内で植物科学を研究している(特に)若い人たちの交流促進の場を提供するためのセミナーです。倉田哲也 特任准教授は,基生研より現所属に異動しました。今回は,次世代

Plant Science Seminar について

シークエンサーを用いた最新の研究内容についてお話いただく予定です。連絡先: 山本興太朗 メール:[email protected] 内線:2739