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(OECDの建物(通称:シャトー)) ―― は租税委員会直属の部会等を、‐‐‐は非加盟国を 交えたフォーラム等を示す (OECD会議場ビル) (OECD会議場ビルの廊下) 国際部員が見た OECD の税務事情 国際部委員 望月文夫 11 OECD 租税委員会 経済協力開発機構(OECD)とOECD租税委員会 はじめに-OECD加盟も50周年 今年(2014年)は、東京オリンピック、東海道新 幹線開通から50年という節目の年だったが、1964年 4月28日に日本が経済協力 開 発 機 構(以 下、 「OECD」という。)に加盟したことで先進国の仲 間入りを果たしたことも特筆すべきである。今年の 5月、日本加盟50周年を記 念 し て、安 倍 首 相 が OECD閣僚理事会で基調講演を行ったことを覚え ている読者もおられると思う。 さて、OECDは1961年に発足したパリに本部を 置く国際機関の一つである。加盟国は、欧州を中心 に米国や日本など先進国ばかり34か国となってい る。いくつかある委員会の中で、国際課税に関して 包括的に取り扱う租税委員会を有している。 OECD租税委員会とは 国税庁のウェブサイトによると、OECD租税委 員会の概要は次のように記載されている。 1.OECDは、租税委員会(CFA:Committee on Fiscal Affairs)を 中 心 に、OECDモ デ ル租税条約、OECD移転価格ガイドライン等 の国際協調が重要な分野における国際的に共通 の課税ルールを整備するとともに、各国の有す る知見や経験の共有化を図っています。 2.租税委員会では、租税政策及び税務行政上 の様々な課題について検討部会が組織され、各 国税務当局の専門家同士による意見交換が行わ れており、国税庁はこうした租税委員会の活動 に積極的に参加しています。 これを見ると、OECD租税委員会は国際課税を 中心としてはいるものの、租税政策と税務行政の両 方について各国税務当局の利害調整を行っているこ とがわかる。 OECD租税委員会の組織 OECD租税委員会の組織は、次のようになって いる。 OECD租税委員会の組織の特徴は、租税委員会 本会合の下にある直属の部会だけでなく、非加盟国 を交えたフォーラムを設置していることである。 最近、新興国・開発途上国のプレゼンスが増した ことにより、租税の分野においては加盟国内の議論 だけでなく、新興国・途上国を交えた議論を行うこ とにより、特に、国際税務の分野において、OECD は幅広い影響力を行使しようとしている。このよう な動きは今後ますます加速していくことになる。 日本の財務省・国税庁は、租税委員会本会合など の会議に参加している他、事務局に複数の職員を出 向させており、積極的に参加している。 OECD租税委員会のこれまでの成果 1.国際的二重課税の排除 OECDは50年以上の間、経済成長の促進と雇用 の創出に繋がることから、国際的二重課税の撤廃を 主要な目標としてきた。そのため、モデル租税条約 を策定し外国税額控除などの他、配当・利子・使用 料等の源泉所得税の税率の軽減・免除を規定してい る。 2.適切な課税権の確保 また、各国の適切な課税権の確保のため、移転価 格ガイドラインを策定することで、各国の移転価格 税制の調整を図っている他、タックス・ヘイブンか ら租税情報を入手するための租税情報交換協定モデ ルを策定している。 3.各国の税務当局間の協力体制の構築 税務長官会議を開催することにより、各国の税務 行政の知見と経験を共有することとしている。 OECD租税委員会の議事進行プロセス OECD租税委員会は、モデル租税条約や移転価 格ガイドラインなどを改訂する際、草案を公開し世 界各国有識者からコメントを取るなど以下のような プロセスで進められる。 草案や新しい草案、最終案は加盟国代表の意見を 尊重した上で事務局が作成する。草案へのコメント は、専門家であれば誰でも行うことができる。また、 公開討論会はインターネットで配信され、日本から も見ることができる場合もある。この他、BEPSな どの重要課題については、事務局が進行状況につい て動画を配信している。 OECD租税委員会と日本の国際課税 制度の関係 OECD租税委員会は、租税条約と租税情報交換 協定のモデル条約を策定してきている。特に、モデ ル租税条約は数年に一度、最新の経済状況等を踏ま えた上でアップデートされている。このほか、移転 価格ガイドライン、情報交換に関する国際標準など も適宜改訂している。 ここで特筆すべきことは、OECDの成果が全加 盟国の総意を原則としていることである。そこで、 日本では時期が若干ずれる場合もあるものの、 OECD租税委員会の議論に基づく税制改正等を行 ってきている。別の言い方をすれば、OECDの議 論を把握しておくことで、将来の日本の国際課税制 度を予測することが可能になる。 最近の主なトピック 1. 「税源浸食と利益移転(BEPS)」行動計画 OECD租税委員会は、G20の 指 示 に よ り2012年 より通称:BEPSプロジェクトを進めている。これ は、アップル、スターバックスなどの多国籍企業に よる税源浸食と利益移転(BEPS)により、どの国 でも課税されない利益が多額になってきたからであ る。OECDはこれまで企業の経済活動を税制面か ら支援するために国際的二重課税の排除を行ってき たが、多国籍企業はこれを逆手に取って「国際的二 重非課税」を実現したことになる。 そこで、OECDはG20の 指 示 の 下、合 計15の 行 動計画を策定して2014年9月に7つの項目について 報告書を公表した。今後も残りの行動計画について 議論を重ねて、2015年12月までにはすべての報告を 終えることにしている。 2.情報交換の国際標準 現在、富裕層への所得税・相続税の課税を行うた め、富裕層の金融情報を関係国の税務当局に報告す るシステムを構築中である。今後数年以内には、富 裕層が外国金融機関に有する500万円相当以上の資 産情報を、富裕層の居住地国の税務当局に集積でき るようなシステムを構築する予定である。 東京にもあるOECD OECDの本部はパリにあるが、東京都千代田区 内幸町には「OECD東京センター」があり、OECD の出版物の閲覧ができる。また、各種の広報活動も 行っている。 2014年〔平成 26 年〕 1 2月 1 日〔月曜日〕 〔第三種郵便物認可〕 Volume No.695【12

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(OECDの建物(通称:シャトー))

―― は租税委員会直属の部会等を、‐‐‐は非加盟国を交えたフォーラム等を示す

(OECD会議場ビル)

(OECD会議場ビルの廊下)

国際部員が見たOECDの税務事情 国際部委員 望月文夫第11回 OECD

租税委員会

経済協力開発機構(OECD)とOECD租税委員会

はじめに-OECD加盟も50周年

今年(2014年)は、東京オリンピック、東海道新幹線開通から50年という節目の年だったが、1964年4月28日に日本が経済協力開発機構(以下、「OECD」という。)に加盟したことで先進国の仲間入りを果たしたことも特筆すべきである。今年の5月、日本加盟50周年を記念して、安倍首相がOECD閣僚理事会で基調講演を行ったことを覚えている読者もおられると思う。さて、OECDは1961年に発足したパリに本部を置く国際機関の一つである。加盟国は、欧州を中心に米国や日本など先進国ばかり34か国となっている。いくつかある委員会の中で、国際課税に関して包括的に取り扱う租税委員会を有している。

Ⅰ OECD租税委員会とは

国税庁のウェブサイトによると、OECD租税委員会の概要は次のように記載されている。

1.OECDは、租税委員会(CFA:Committeeon Fiscal Affairs)を中心に、OECDモデル租税条約、OECD移転価格ガイドライン等の国際協調が重要な分野における国際的に共通の課税ルールを整備するとともに、各国の有する知見や経験の共有化を図っています。2.租税委員会では、租税政策及び税務行政上の様々な課題について検討部会が組織され、各国税務当局の専門家同士による意見交換が行われており、国税庁はこうした租税委員会の活動に積極的に参加しています。

これを見ると、OECD租税委員会は国際課税を中心としてはいるものの、租税政策と税務行政の両方について各国税務当局の利害調整を行っていることがわかる。

Ⅱ OECD租税委員会の組織

OECD租税委員会の組織は、次のようになっている。OECD租税委員会の組織の特徴は、租税委員会本会合の下にある直属の部会だけでなく、非加盟国を交えたフォーラムを設置していることである。最近、新興国・開発途上国のプレゼンスが増したことにより、租税の分野においては加盟国内の議論だけでなく、新興国・途上国を交えた議論を行うことにより、特に、国際税務の分野において、OECDは幅広い影響力を行使しようとしている。このような動きは今後ますます加速していくことになる。

日本の財務省・国税庁は、租税委員会本会合などの会議に参加している他、事務局に複数の職員を出向させており、積極的に参加している。

Ⅲ OECD租税委員会のこれまでの成果

1.国際的二重課税の排除OECDは50年以上の間、経済成長の促進と雇用の創出に繋がることから、国際的二重課税の撤廃を主要な目標としてきた。そのため、モデル租税条約を策定し外国税額控除などの他、配当・利子・使用料等の源泉所得税の税率の軽減・免除を規定している。2.適切な課税権の確保また、各国の適切な課税権の確保のため、移転価

格ガイドラインを策定することで、各国の移転価格税制の調整を図っている他、タックス・ヘイブンから租税情報を入手するための租税情報交換協定モデルを策定している。3.各国の税務当局間の協力体制の構築税務長官会議を開催することにより、各国の税務

行政の知見と経験を共有することとしている。

Ⅳ OECD租税委員会の議事進行プロセス

OECD租税委員会は、モデル租税条約や移転価格ガイドラインなどを改訂する際、草案を公開し世界各国有識者からコメントを取るなど以下のようなプロセスで進められる。

草案や新しい草案、最終案は加盟国代表の意見を尊重した上で事務局が作成する。草案へのコメントは、専門家であれば誰でも行うことができる。また、公開討論会はインターネットで配信され、日本からも見ることができる場合もある。この他、BEPSなどの重要課題については、事務局が進行状況について動画を配信している。

Ⅴ OECD租税委員会と日本の国際課税制度の関係

OECD租税委員会は、租税条約と租税情報交換協定のモデル条約を策定してきている。特に、モデル租税条約は数年に一度、最新の経済状況等を踏まえた上でアップデートされている。このほか、移転価格ガイドライン、情報交換に関する国際標準なども適宜改訂している。

ここで特筆すべきことは、OECDの成果が全加盟国の総意を原則としていることである。そこで、日本では時期が若干ずれる場合もあるものの、OECD租税委員会の議論に基づく税制改正等を行ってきている。別の言い方をすれば、OECDの議論を把握しておくことで、将来の日本の国際課税制度を予測することが可能になる。

Ⅵ 最近の主なトピック

1.「税源浸食と利益移転(BEPS)」行動計画OECD租税委員会は、G20の指示により2012年

より通称:BEPSプロジェクトを進めている。これは、アップル、スターバックスなどの多国籍企業による税源浸食と利益移転(BEPS)により、どの国でも課税されない利益が多額になってきたからである。OECDはこれまで企業の経済活動を税制面から支援するために国際的二重課税の排除を行ってきたが、多国籍企業はこれを逆手に取って「国際的二重非課税」を実現したことになる。そこで、OECDはG20の指示の下、合計15の行

動計画を策定して2014年9月に7つの項目について報告書を公表した。今後も残りの行動計画について議論を重ねて、2015年12月までにはすべての報告を終えることにしている。2.情報交換の国際標準現在、富裕層への所得税・相続税の課税を行うた

め、富裕層の金融情報を関係国の税務当局に報告するシステムを構築中である。今後数年以内には、富裕層が外国金融機関に有する500万円相当以上の資産情報を、富裕層の居住地国の税務当局に集積できるようなシステムを構築する予定である。

Ⅶ 東京にもあるOECD

OECDの本部はパリにあるが、東京都千代田区内幸町には「OECD東京センター」があり、OECDの出版物の閲覧ができる。また、各種の広報活動も行っている。

2014年〔平成26年〕12月1日〔月曜日〕 東 京 税 理 士 界 〔第三種郵便物認可〕 Volume No.695【12】