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IEEJ:2011 年 1 月掲載 - 1 - アジアの石油流通の現状及び価格形成メカニズム調査 ―エグゼクティブサマリー― 前川 忠 * 河村 道智 ** 要旨 アジアの石油製品需要は中国、インドなどを中心に増加が顕著で、 2015 年には 2,990 b/d 2009 年に比し て約 390 b/d15%)増加する見通しである。 一方、供給は、2008 年までは需要に見合って精製能力が増強されてきたものの、2009 年に中国、インドで大 幅な設備増強が行われ、精製能力は 2,800 b/d と、需要規模を約 200 b/d 上回った。更に、 2015 年には中国 330 b/d、インドで 120 b/d の大幅な増強が行われる結果、アジア全体で 3,250 b/d になり、需要規模 を約 260 b/d 上回る見通しで、設備の余剰問題が顕在化する。 わが国の石油精製業は、①過剰設備の処理による本格的な需給適正化に向けた取り組み、②特性を生かした製 品貿易の推進、③国際競争力の強化、が重要な課題となっている。 アジア主要国の価格体系は、日本、韓国等自由市場の下で価格形成が行われている国と中国、台湾、インド等、 価格統制が行われている国に大別できる。価格統制が行われている国も製品貿易の拡大を通して自由化の方向に 進んでいくことから、今後の動向を注視することが必要である。 石油需給と価格は密接な関係にあり、わが国石油産業は今後、設備能力の削減による本格的な需給調整と公正・ 透明な競争環境の整備により、価格形成の阻害要因を排除し、価格指標と製品価格との連動性をより高め、原油 コストの回収が可能となる「新価格体系」を再構築することが求められている。 1. アジア主要国の石油産業の概要 1-1 シンガポール石油市場の特徴 シンガポールは、ニューヨーク、ヒューストン、北西 ヨーロッパとともに世界でも有数の活発な石油取引市場 が形成されており、アジア、オセアニアでの石油製品貿 易では、シンガポールスポット市場の MOPS 1 が指標価 格として広く用いられている。 シンガポールでは流動性の高いスポット市場が形成 されているが、その要因は 3 つある。 ① 地理的条件 地理的にも欧州と北東アジアの中継点であり、古く から貿易港として栄え、バンカーオイルなどの需要も 多く、取引きに歴史がある。 ② 税制優遇措置 石油製品、石油化学製品等の国際貿易に携わる会社 本報告は,平成 21 年度資源エネルギー庁受託事業「アジアの石油流通の現状及び価格形成メカニズム調査」を基に要約、一部修 正を行ったものである。 * ( ) 日本エネルギー経済研究所 石油情報センター研究理事 ** ( ) 日本エネルギー経済研究所 石油情報センター調査役 1 Mean of Platts Singapore McGraw-Hill 社のエネルギー情報部門であるPlatts が評価する日刊価格情報。 Platts はエネルギー(特 に石油)価格情報に関する世界における第1人者として評価が高い。 1-1 シンガポールにおける独立系貯蔵施設 タンク容量の推移 (出所)FACTS

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Page 1: ―エグゼクティブサマリー―eneken.ieej.or.jp/data/3599.pdfCPC 59.6% 09年7月現在 1,246千b/d SINOPEC 55.5% CNPC 36.7% CNOOC 7.8% 09年7月現在 8,286千b/d 表1-2 石油企業別給油所数

IEEJ:2011 年 1 月掲載

- 1 -

アジアの石油流通の現状及び価格形成メカニズム調査◆

―エグゼクティブサマリー―

前川 忠* 河村 道智**

要旨

アジアの石油製品需要は中国、インドなどを中心に増加が顕著で、2015年には2,990万b/dと2009年に比し

て約390万b/d(15%)増加する見通しである。 一方、供給は、2008年までは需要に見合って精製能力が増強されてきたものの、2009年に中国、インドで大

幅な設備増強が行われ、精製能力は2,800万b/dと、需要規模を約200万b/d上回った。更に、2015年には中国

で 330 万b/d、インドで120 万 b/d の大幅な増強が行われる結果、アジア全体で3,250 万 b/d になり、需要規模

を約260万b/d上回る見通しで、設備の余剰問題が顕在化する。 わが国の石油精製業は、①過剰設備の処理による本格的な需給適正化に向けた取り組み、②特性を生かした製

品貿易の推進、③国際競争力の強化、が重要な課題となっている。 アジア主要国の価格体系は、日本、韓国等自由市場の下で価格形成が行われている国と中国、台湾、インド等、

価格統制が行われている国に大別できる。価格統制が行われている国も製品貿易の拡大を通して自由化の方向に

進んでいくことから、今後の動向を注視することが必要である。 石油需給と価格は密接な関係にあり、わが国石油産業は今後、設備能力の削減による本格的な需給調整と公正・

透明な競争環境の整備により、価格形成の阻害要因を排除し、価格指標と製品価格との連動性をより高め、原油

コストの回収が可能となる「新価格体系」を再構築することが求められている。

1. アジア主要国の石油産業の概要

1-1 シンガポール石油市場の特徴

シンガポールは、ニューヨーク、ヒューストン、北西

ヨーロッパとともに世界でも有数の活発な石油取引市場

が形成されており、アジア、オセアニアでの石油製品貿

易では、シンガポールスポット市場の MOPS1が指標価

格として広く用いられている。 シンガポールでは流動性の高いスポット市場が形成

されているが、その要因は3つある。 ① 地理的条件

地理的にも欧州と北東アジアの中継点であり、古く

から貿易港として栄え、バンカーオイルなどの需要も

多く、取引きに歴史がある。 ② 税制優遇措置

石油製品、石油化学製品等の国際貿易に携わる会社

◆ 本報告は,平成21 年度資源エネルギー庁受託事業「アジアの石油流通の現状及び価格形成メカニズム調査」を基に要約、一部修

正を行ったものである。 * (財)日本エネルギー経済研究所 石油情報センター研究理事 ** (財)日本エネルギー経済研究所 石油情報センター調査役 1 Mean of Platts Singapore McGraw-Hill社のエネルギー情報部門であるPlattsが評価する日刊価格情報。Plattsはエネルギー(特

に石油)価格情報に関する世界における第1人者として評価が高い。

図1-1 シンガポールにおける独立系貯蔵施設

タンク容量の推移

(出所)FACTS

Page 2: ―エグゼクティブサマリー―eneken.ieej.or.jp/data/3599.pdfCPC 59.6% 09年7月現在 1,246千b/d SINOPEC 55.5% CNPC 36.7% CNOOC 7.8% 09年7月現在 8,286千b/d 表1-2 石油企業別給油所数

IEEJ:2011 年 1 月掲載

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は、法人税に 10%又は 5%の軽減税率が

適用されている。 ③ 豊富な貯蔵能力

2009 年末時点で、シンガポールには

6 つの独立した貯蔵会社があり、石油及

び石油化学製品合わせて約 800 万 kl の貯油能力を有している。ターミナルの機

能としては、ブレイクバルク(小分け)、

ブレンディング(品質調整)、バンカリン

グ等が挙げられる。 シンガポールはアジアの石油製品の

流通の中心地としてその役割を果たし

ており、多くのメジャーは、アジア太平

洋地区の供給拠点として位置づけてい

る。一方、精製能力は、現在、Exxonmobil、Shell、SRC の民間企業 3 社で 135.7 万

b/dを有している。

1-2 韓国の石油産業

韓国の石油会社は、「SK Energy」、「GS- Caltex」、「Hyundai Oilbank」、「S-Oil」の

4 社体制で、販売は、これら 4 社以外に輸

出入業者、LP ガス輸入業者、電力会社、

石油化学会社等がある。4 社の販売シェア

は3/4と寡占状態となっており、特に、SK Energy、GS-Caltex の販売シェアは高く、

それぞれ29.3%、25.1%となっている。

図1-4 韓国における国内石油需要と精製能力の推移

(出所)KNOC

-

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08

千BD

国内需要 精製能力

場 所 ジュロン島 ブコム島 ジュロン島

1,357

製油所

能力(千b/d) 605 462 290

ExxonMobilRefining &

Supply Co., Ltd.

Shell EasternPetroleum (pte.)

Ltd.

SingaporeRefining Co.Private Ltd.

合計

表1-1 シンガポールの精製能力

(出所)RIM情報開発

図1-2 石油精製能力シェア(09年)(千b/d、%)

SK Energy, 1,115,39.1%

S-Oil, 390, 13.7%

Hyundai Oilbank,580, 20.3%

GS-Caltex, 770,27.0%

SK Energy, 29.3%

GS-Caltex, 25.1%Hyundai Oilbank,11.9%

S-Oil, 10.6%

輸入業者, 0.5%

その他, 22.6%

図1-3 石油販売シェア(09年)(%)

(出所)KNOC

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IEEJ:2011 年 1 月掲載

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石油需要の急増に伴い、石油精製能力も1997 年には259.8 万b/d まで拡大された。しかし、1997 年のアジ

ア経済危機により、製品需要も軽油、ガソリンを中心に大きく減少し、今日まで需給ギャップは解消されていな

い。韓国の製油所や港湾設備は輸出向けの設計となっている。

1-3 中国の石油産業

(1) 1998年2月、中国政府は、中国石油産業についてCNPC(中国天然ガス石油集団公司)、SINOPEC(中国

石油化工集団公司)の統合再編を行った。 これは、国営企業の効率化の推進を通じて、中国の石油産業の成長・収益安定化を図ること、複数企業によ

る競争体制を確立し、市場原理・メカニズムを導入することで石油産業の活性化を促進すること、国際メジ

ャー並みの総合的石油企業を創設し、国際競争力を高めることが目的であった。こうして CNPC と

SINOPECが上流・下流事業を垂直的に統合する2大企業体制に編成された。 (2) CNOOC は、世界的な上流の収益力上昇とともに上流部門に限定されていた役割からその行動範囲を拡張

し、精製事業の次には、石油卸売・小売事業への参入をも着実に進めてきた。現在、上海、広東で石油卸売・

小売事業を展開している。 (3) 3大石油グループの統括地域はおおよそ以下の通りであるが、最近では相互参入しているところもある。

図1-5 原油・石油製品流通フロー

(出所)石油情報センター作成

統括地域

CNPC:中国東北、北西部

SINOPEC : 中国西南、南東部

CNOOC :広東、上海の一部

東北及び西(含む四川) 沿海含む東南部 海上

CNPC SINOPEC CNOOC

油 田 油 田

独立系 油田

製油所 製油所独立系 製油所

自社製油所

「専項供応部分」(軍隊、鉄道、航空)は別系列

輸出

輸出

輸出 輸入

石油卸公司 石油卸公司

石油販売公司

多様な形態のSS(含む独立系)

ユーザー

UNIPECCHINA OIL

省クラス

石油販売公司

多様な形態のSS(含む独立系)

多様な形態のSS(含む独立系)

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IEEJ:2011 年 1 月掲載

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フォルモサ40.4%

CPC59.6%

09年7月現在1,246千b/d

SINOPEC55.5%

CNPC36.7%

CNOOC7.8%

09年7月現在8,286千b/d

表1-2 石油企業別給油所数

(出所)石油情報センター作成

図1-6 国営石油企業の石油精製能力シェア

(出所)RIM情報開発

1-4 台湾の石油企業

(1) 台湾は国営石油会社であるCPC(中国石油公司)が長期的に石油産業を独占してきたが、石油化学を本業と

するフォルモサ(Formosa)グループが新たな石油化学コンプレックスを建設、合わせて製油所も建設して、

2000年以降、 FPCCブランドとして新規参入した。 (2) 2001年の規制緩和を受け、ExxonMobilが輸入・販売事業に参入したが、2003年には撤退し、以来CPCと

FPCC2社の寡占体制となっている。 (3) CPCは高雄(Kaohsiung)、桃園(Taoyuan)、大林(Talin)の3つの製油所を有し、総精製能力は742千

b/dである。高雄製油所は1950年代初、15千b/dの能力から稼動を開始し、3つの製油所の中では最も歴史

が古い。現在のトッパー能力は 240 千 b/d で、精製設備に隣接して多様な石油化学 Complex がある。大林

製油所は1996年に建設され、350千b/dのトッパー能力を有する。桃園製油所は1976年に建設され、187千b/dのトッパー能力を有する。

(4) フォルモサ社は雲林県/麦寮(MaiLiao)に3基のトッパー計504千b/dを有している。分解能力の保有割合

がCPCを上回っているのが特徴で、ボトムレスの製油所を目指している。

図1-7 石油精製能力シェア

(出所)RIM情報開発

CNPC SINOPEC その他 合計 うち、外資系

17,000 28,000 40,000 85,000 3,00009年末

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IEEJ:2011 年 1 月掲載

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その他PSUs1.6%

BPCL19.7%

HPCL17.8%

民間14.9%

IOCL46.0%

1-5 インドの石油産業

(1) インドの国営石油会社は、上流2グループ、下流4グループで構成されている。 (2) 上流も下流も国営石油会社が支配的な地位を占めているが、民間企業も、1999年にReliance がJamnagar、

Essar Oil Ltdも2007年に石油精製業に参入した。Relianceは2009年には580千b/dの輸出専用Jamnagar第二製油所を運転開始した。Essar Oil Ltdも2007年にVandinar製油所を稼動させ石油精製業に参入した。

民間石油会社は輸出志向型で、国営石油会社が国内供給責任を負っているが、今後は輸出を増加させる計画

もある。RelianceのJamnagar第二製油所は、ガソリンを米国、軽油を欧州へ輸出することに積極的で、ア

ジアへの輸出は、今のところ限定的となっている。 (3) 09 年 7 月現在の精製能力は、ONGC/22.2 万 b/d、 IOCL/120.0 万 b/d、 BPCL/39.0 万 b/d、 HPCL/26.0

万b/d、 OIL6.0万b/d、Reliance/123.2万b/d、 Essar/21.0万b/dで、合計357.4万b/dとなっている。 インドは、今後の設備拡張により、近い将来、アジアにおいて日本を抜き、中国に次いで第2の精製能力を

保有する国となる見通しである。

図1-8 インド政府と国営石油会社との関連

(出所)各社HPより

図1-9 2008年度の石油会社別販売シェア

(出所)Petroleum Planning & Analysis Cell

IOCL ONGC

OIL BPCL HPCL

下流会社 上流会社

上流・下流会社

インド政府

74.14%

4.45%

78.43% 54.9% 51.0%

2.23%

2.23%

78.9%

7.69%

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IEEJ:2011 年 1 月掲載

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2. アジアにおける石油需給の現状と見通し

2-1 石油需給の現状と見通し

アジアの需要増加は顕著で、今後も増加傾向が続き、2015年には対世界比32.5%になると見込まれている。 アジアの中では、日本が減少傾向にあるものの、中国、インドは大幅に増加し、全体では09年の2,600万b/d

から2015年には2,990万b/dと約390万b/d、15%増となる見込みである。

図2-1 世界/アジアの石油需要

(注)バンカーは1980-2008年がその他区分に、2015年が各地域に区分 (出所)IEA

一方、供給は、08 年までは需要にミートして精製能力が増強されてきたが、09 年に中国、インドにおいて大

幅な設備増強があり、精製能力は2,800万b/dと需要規模(2,600万b/d)に比して200万b/d上回っている。域

外への輸出の減少が大きく、稼働率の引き下げで対処しているが、根本的な解消には至っていない。精製能力は

09年の2,800万b/dから、2015年には中国(+330万b/d)、インド(+120万b/d)が大幅増加し、アジア全体

では約450万b/d増加して3,250万b/dと需要規模(2,990万b/d)を約260万b/d上回る見通しで、設備の余剰

問題が顕在化しつつある。

表2-1 アジアの石油需要の推移 単位:千b/d、%

(出所)IEA等

10.5

19.423.2

29.9

20.8

22.922.8

22.923.4

17.817.6

19.1

1.9

4.5

6.4

8.9

3.4

4.5

5.3

7.2

1.2

2.2

2.9

3.8

3.6

5.2

6.5

0.1

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

90.0

100.0

1980 2000 2008 2015

百万b/d

アジア・太平洋 北米 欧州 中東 中南米 アフリカ その他

64.8

76.5

84.7

91.9

石油需要 精製能力 石油需要 精製能力 石油需要 精製能力 石油需要 精製能力

日本 4,370 4,895 3,592 4,295 82.2 87.7 ▲ 778 ▲ 600

シンガポール 976 1,305 1,280 1,415 131.1 108.4 304 110

中国 8,400 9,669 11,630 12,922 138.5 133.6 3,230 3,253

韓国 2,180 2,679 2,200 2,729 100.9 101.9 20 50

台湾 936 1,246 1,040 1,292 111.1 103.7 104 46

インド 2,908 3,574 3,810 4,814 131.0 134.7 902 1,240

アジア計 26,000 28,042 29,900 32,468 115.0 115.8 3,900 4,426

2009年 2015年 伸び率 増減

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IEEJ:2011 年 1 月掲載

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図2-2 アジアの石油需要と精製能力の推移

(出所)BP等

また、09~2012年にかけて、中国、インドを中心にコーカーやRFCC等の重質油分解設備の新設により製油

所の高度化が進む中で、アジア地域のガソリと灯油(含むジェット)及び軽油の輸出ポジションがますます強ま

り、国際間の競争も激化することが予想される。

図2-3 アジアにおける二次装置の増強計画の推移

(出所)IEA

こうした環境変化の中で、シンガポールの製品別マージンも大きく変化してきた。金融危機前は、中国のオリ

ンピックや四川大地震の復興等の要因も重なり中間留分のマージンは 40 ドル/バレルを超える局面もあったが、

金融危機を契機に、需要減退と在庫調整といった一時的要因に加え、2009年にはインド、中国等の設備の新設、

拡張という構造的要因により、マージンは10ドルを下回り、その後も低迷が続いている。2010年に入りようや

く 10 ドルを超える状況になったが、主要国での減産の影響も大きく、今後予断を許さない状況が続くとみられ

る。

2,990万b/d

3,250万b/d

-

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 15

千BD

国内需要 精製能力

千b/d

487

297214

295

462

250

95

535

107318

314

353

220

40

0

200

400

600

800

1000

1200

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

中国 その他アジア

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IEEJ:2011 年 1 月掲載

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図2-4 シンガポール先物クラックマージンの推移

(出所)IEA

中国の需給状況はアジアの需給、価格に大きく影響を与える。中国の輸出入動向は、市場関係者から注目を集

めているが、金融危機前後で傾向が大きく変わり、最近は製油所の拡張と設備の高度化でガソリン、軽油は輸出

超過が続き、2009年のアジアのマージン低迷にも繋がっている。2010年になって各国の景気対策の影響もあり、

マージンは回復傾向にある。

図2-5 ガソリンの輸出入とシンガポールマージンの推移

(出所)中国海関統計他

-40.0

-30.0

-20.0

-10.0

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.020

02/1

/2

2002

/4/2

2002

/7/2

2002

/10

/2

2003

/1/2

2003

/4/2

2003

/7/2

2003

/10

/2

2004

/1/2

2004

/4/2

2004

/7/2

2004

/10

/2

2005

/1/2

2005

/4/2

2005

/7/2

2005

/10

/2

2006

/1/2

2006

/4/2

2006

/7/2

2006

/10

/2

2007

/1/2

2007

/4/2

2007

/7/2

2007

/10

/2

2008

/1/2

2008

/4/2

2008

/7/2

2008

/10

/2

2009

/1/2

2009

/4/2

2009

/7/2

2009

/10

/2

2010

/1/2

2010

/4/2

2010

/7/2

2010

/10

/2

ドル/バレル

ナフサ Mogas 95 ジェット/ケロシン ガスオイル バンカー

-1,200,000

-700,000

-200,000

300,000

800,000

1,300,000

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2,010

-20.00

-15.00

-10.00

-5.00

0.00

5.00

10.00

15.00

20.00

25.00

30.00

35.00

40.00

輸入 輸出 シンガポールナフサマージン

輸出量MT シンガポールマージン$/B

ナフサシンガポールマージン(右軸)

輸入量MT

Page 9: ―エグゼクティブサマリー―eneken.ieej.or.jp/data/3599.pdfCPC 59.6% 09年7月現在 1,246千b/d SINOPEC 55.5% CNPC 36.7% CNOOC 7.8% 09年7月現在 8,286千b/d 表1-2 石油企業別給油所数

IEEJ:2011 年 1 月掲載

- 9 -

図2-6 軽油の輸出入とシンガポールマージンの推移

(出所)中国海関統計他

2-2 アジアの製品貿易見通し

アジア・太平洋地域における主要国の今後の製品別ネット輸出入は、ガソリン、軽油は中国、インド、韓国か

らの輸出が増加し、重油はシンガポールの輸入が増加する見通しとなっている。日本は、ガソリン、重油は現状

とほぼ変わらず、ネットでバランスしているが、近年増加傾向で推移してきた軽油の輸出は、2015年には半減す

ると予測されている。

図2-7 ガソリンネット輸出入見通し

(出所)各種資料より作成

-200

-100

0

100

200

300

400

オーストラリア

中国

インド

インドネシア

日本

マレーシア

シンガポール

韓国

台湾

その他

千BD

2006年 2009年 2015年

輸出

輸入

<現状>

純輸出国

インド、中国、韓国、シンガポール、台湾

純輸入国

インドネシア、マレーシア、豪州

<2015年>

中国、インド、韓国、台湾で輸出が増大、

一方輸入は、豪州、インドネシアで増大が

見込まれるものの輸出の増大を域内だけで

は補えない。

-1,200,000

-1,000,000

-800,000

-600,000

-400,000

-200,000

0

200,000

400,000

600,000

800,000

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

11月

12月

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

11月

12月

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

11月

12月

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

11月

12月

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月

11月

12月

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月

2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2,010

-20.00

-15.00

-10.00

-5.00

0.00

5.00

10.00

15.00

20.00

25.00

30.00

35.00

40.00

輸入 輸出 シンガポールマージン 軽油

輸出量MT シンガポールマージン$/B

軽油シンガポールマージン(右軸)

輸入量MT

Page 10: ―エグゼクティブサマリー―eneken.ieej.or.jp/data/3599.pdfCPC 59.6% 09年7月現在 1,246千b/d SINOPEC 55.5% CNPC 36.7% CNOOC 7.8% 09年7月現在 8,286千b/d 表1-2 石油企業別給油所数

IEEJ:2011 年 1 月掲載

- 10 -

図2-8 軽油ネット輸出入見通し

(出所)各種資料より作成

図2-9 重油ネット輸出入見通し

(出所)各種資料より作成

-500

-400

-300

-200

-100

0

100

200

300

400

500

オーストラリア

中国

インド

インドネシア

日本

マレーシア

シンガポール

韓国

台湾

その他

千BD

2006年 2009年 2015年

輸出

輸入

<現状>

純輸出国

韓国、インド、シンガポール、台湾、日本、

中国

純輸入国

<2015年>

中国の輸出が飛躍的に伸長。インド、韓国、

台湾も輸出が増大、日本は半減。一方輸入

は、全て減少の見込み。域外へ輸出が増大

する。

-800

-700

-600

-500

-400

-300

-200

-100

0

100

200

オーストラリア

中国

インド

インドネシア

日本

マレーシア

シンガポール

韓国

台湾

その他

千BD

2006年 2009年 2015年

輸出

輸入

<現状>

全体的に純輸入ポジション。シンガポール、中

国が大きなウェートを占める。シンガポールの

旺盛なバンカーオイルの需要増加による。

<2015年>

中国の輸入は減少が見込まれるが、シンガポー

ルで増大が見込まれる。

Page 11: ―エグゼクティブサマリー―eneken.ieej.or.jp/data/3599.pdfCPC 59.6% 09年7月現在 1,246千b/d SINOPEC 55.5% CNPC 36.7% CNOOC 7.8% 09年7月現在 8,286千b/d 表1-2 石油企業別給油所数

IEEJ:2011 年 1 月掲載

- 11 -

2-3 石油需給にかかわるわが国石油産業の課題

わが国の石油精製業は、需要減退、輸出環境の悪化、マージンの低下等の構造的な環境変化に直面している。

これらの環境変化に対応するため、下記の①~③の取り組みを着実に推進することが重要で、アジア主要国の需

給状況や流通政策を見定め、国内の需給適正化を図るとともに、中長期的視点に立った石油製品の安定供給と健

全なサプライチェーンを構築していくことが緊要な課題と言える。 ① 過剰設備の処理による本格的な需給適正化に向けた取り組み ② 日本の特性(環境対応面での品質上の優位性等)を活かした製品貿易 ③ 国際競争力の強化

図2-10 日本の地域別軽油輸出の推移

(出所)資源エネルギー統計より作成

表2-2 最近の設備能力削減計画

(出所)各社HP等

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年 平成18年 平成19年 平成20年 平成21年

千kl/年

韓国

中国

シンガポール

その他アジア

北米

オセアニア

その他

トッパー能力削減

(千BD)

新日本石油㈱ 富山 60 2009.5

コスモ石油㈱ 千葉 20 2010.2

コスモ石油㈱ 四日市 50 2010.2

コスモ石油㈱ 坂出 30 2010.2

JX日鉱日石エネルギー㈱ 大分 24 2010.5

JX日鉱日石エネルギー㈱ 鹿島 21 2010.5

JX日鉱日石エネルギー㈱ 根岸 70 2010.5

JX日鉱日石エネルギー㈱ 水島 110 2010.6

JX日鉱日石エネルギー㈱ 大阪 115 ※  2010.10

昭和シェル石油㈱ 扇町 120 2011.9

出光興産㈱ 未定 100   2013-2014

JX日鉱日石エネルギー㈱ 未定 200 ~2014

合計 920

※CNPC合弁(輸出製油所化)

会社名 製油所 時期

Page 12: ―エグゼクティブサマリー―eneken.ieej.or.jp/data/3599.pdfCPC 59.6% 09年7月現在 1,246千b/d SINOPEC 55.5% CNPC 36.7% CNOOC 7.8% 09年7月現在 8,286千b/d 表1-2 石油企業別給油所数

IEEJ:2011 年 1 月掲載

- 12 -

3. アジアにおける価格形成の現状と課題

3-1 アジアにおける価格形成

アジア主要国の価格体系は、石油・石油産業の自由化、国際化の流れの中で形成されてきた。日本、韓国、シ

ンガポールでは、政府による価格介入がなく、自由市場の下で形成され、シンガポールマーケット/MOPS の影

響を直接・間接的に受けている。 一方、中国、台湾、インドでは、国営石油企業が供給体制を支配する中で、補助金制度も含め、統制価格を通

じて政府による価格介入が行われている。しかし、価格統制が行われている国々も今後大きく自由化の方向に進

んでいくことから、中国やインドを中心とした価格統制下にある国々の今後の動向を注視することが必要である。

表3-1 アジア主要国における価格制度の概要

(出所)各種資料より作成

3-2 自由化市場における価格形成

3-2-1 シンガポール

シンガポールでは、①地理的優位性、②充実したターミナル、③優遇税制等により 1970 年代より活発なトレ

ーディングが行われ、アジアにおけるスポット取引の中心地として、ニューヨーク、ヒューストン、ロッテルダ

ムとともに世界有数の市場を形成している。 プラッツは、公平で透明な価格評価システムを追求し、「プラッツウインドウ」と呼ばれるシステムを導入した。 「プラッツウインドウ」 は、1992年~93年にシンガポールで最初に導入された後、2003年欧州、2007年米

国で相次いで導入された。取引の場を市場参加者に提供し、石油製品の評価にMarket On Close(MOC)評価

プロセスを導入している。

石油会社

(精製と輸入)

①08年10月以降、順次新価格体系へ移行 国内市場における価格形成などに関する国の規 石油製品市場での取引 TOCOM ①新価格体系の一部修正 民間19社

09年7月以降本格化 制は存在しない。 価格(先物、スポット)C-COM ②2010年5月、TOCOM/軽油の再上場 (元売10社、精製9社)

②週決め、市場連動、油種別、先決め

①07年7月以降、MOPSリンク/日決め 国内市場における価格形成などに関する国の規 シンガポール製品価格 検討中 政府は、08年、原油価格の急騰を受け、輸入 民間精製・元売4社

②理論的な製品価格は「MOPS+α+Tax」で    制は存在しない。 MOPS(Mean of Platts 関税の引き下げなど暫定的な価格抑制策を

算出 する(「α」にはフレート、マージンを含む)石油製品の消費に対する恒久的な補助金制度 in Singapore) 実施したが、国内石油市場は完全に自由化さ

は導入されていない。 れたまま

①環境面や安全面出の規制を除けば、石油製品 ①国内市場における価格形成などに関する国の SGX ・民間精製・元売3社

の国内市場に関する規制はなく、自由に参入できる規制は存在しない。 (重油のみ) ・独立系の油槽所会社

②価格統制も一切ない。 ②シンガポールに拠点を置いて貿易を行う企業 (輸入ターミナル)6社

に対し、「税制優遇措置」(GTP)がある。

①09年1月以降、ガソリン、自動車用軽油、 ①価格統制による国営石油会社の損失に対し 原油価格 北京 価格改定サイクルを現状の22営業日から 国営3社と多数の

ジェット燃料などの石油製品の小売価格を統制 て補助金を支給。但し、補助金の支給を受ける 経済指標 上海 15日に短縮し、基準となる原油変動幅を4 小規模民間製油所

②原油3油種の変動等を勘案して政府が改定 のはSINOPECのみ。 (重油のみ)%から3%に縮める等の見直しの動きも出て

③根拠法規は「石油製品価格管理弁法」 ②輸入関税の引き下げ/引き上げ いる。

①1993~98年まで、ガソリンと自動車用軽油 ①原油価格が騰勢を強めた2005年以降ガソリン、原油価格(WTI) なし ①国営CPCの赤字の増大を理由に、08年5 国営1社と民間1社

に対して価格統制(上限価格制)を実施 自動車用軽油など、小売価格の統制を目的とした 月に「Action Plan for Stabilizing Current

②2000年に石油製品市場を自由化⇒価格統制 減税(物品税の減額)の実施 Prices」を導入⇒石油製品の小売価格を統制

制度を廃止、但し、緊急時における政府の市場 ②輸入関税の引き下げ 価格から国際市場における原油水準価格に

介入、05年から頻繁に発動 あわせる方針に転換した。

③08年5月以降、原油価格リンク方式 ②08年6月以降、ガソリン、自動車用軽油は

⇒条件付き価格自由化 段階的に上昇/下落している。

シンガポール製品価格 MCX ①国際市況にリンクした市場原理の導入を検討国営5社と民間2社

Mechanism)」の下で統制、民生需要の多い灯油及びLPGの小売価格の統制は現在も続く。 MOPS(Mean of Platts MCDEX ②ガソリン、軽油に対する価格規制撤廃の動き

②ガソリン及び自動車用軽油の小売価格を統制する制度は廃止されたものの、国営石油会社が in Singapore)

85%以上の市場シェアを握るため、両製品の小売価格は事実上統制されている状況

市場原理

が、民生用燃料としての灯油、LPGについては新たな価格統制制度が施行されている。統制価格

④国営石油会社の損失を「Under-Recovery」として計上することで石油製品の小売価格を低

位固定している。

⑤政府は石油会社に支給する補助金及び石油会社のUnder-Recoveryを補填する財源の確

⑥政府は07年度以降、物品税の減額により小売価格を圧縮している。

保を目的として、「石油債券」を発行している。

統制価格

補助金制度の有無/概要

日本 市場原理

対象国 国の介入 価格制度の概要 先物市場価格改定の指標

台湾

インド

最近の動向

統制価格(指標価格

制度)

市場原理

中国

韓国

①2002年3月末までガソリン及び自動車用軽油の小売価格は「APM(Administered Pricing

③ガソリン及び自動車用軽油は、「制度に基づく価格統制」から「事実上の価格統制」に移行した

シンガポール

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IEEJ:2011 年 1 月掲載

- 13 -

3-2-2 韓国

① 韓国は、1980年代後半以降の市場改革・自由化政策の中で、1997年にはガソリン、灯油、軽油、重油の国

内販売価格の自由化が実施された。02年以降、「MOPSリンク」による価格フォーミュラが導入され、その後、

同フォーミュラ月次改定から週次改定を経て、2007年以降は「日決めによる改定方式」へと移行した。

図3-1 韓国大手石油会社のMOPSリンクによる価格形成

(出所)石油情報センター作成

② 韓国政府は、李明博政権発足後、原油価格の高騰問題に対処して、08年4月以降、輸入関税の引き下げ、水

平取引(系列外の取引)の解禁、大型スーパーのSS併設の承認等、一連の暫定的な「価格抑制策/競争促進策」

を実施した。その後、原油価格は急落したが、一連の措置は見直されることなく継続されている。 これらの措置により、価格競争を通じて消費者にメリットをもたらしたが、一部の販売業者は収益を悪化させる

こととなった。価格抑制策の中でも大きなインパクトを与えたのが「大型スーパーの併設SSの承認」である。 大型スーパー併設SSは、「SKとE-マート」、「GS Caltexとホームプラス」、「S-Oilとロッテマート」の組み

合わせで、2010年8月末現在、10ヵ所新設された。ハイパーSSの進出により周辺既存SSは大きな打撃を受

け、販売量は▲25~40%下落した。一部の地方自治体は、地元の零細・小規模の独立系 SS の売上や利益を保

護するために、ハイパーSS の新設申請に際し出店調整を行っている。また、価格抑制策の一環として、先物

市場の創設についても検討されてきたが、結論は出ていない。

表3-2 価格抑制策の概要

1997年1月 2002年 2004年2月 2007年7月

製品価格連動(Monthly) 製品価格連動(Weekly) 製品価格連動(Daily)

石油価格自由化

・製品価格基準Pricing ・製品価格基準Pricing ・製品価格基準Pricing

・公式:MOPS+運賃+保険料+関税 ・公式:MOPS+運賃+保険料+関税 ・公式:MOPS+関税+市場Premium    +市場Premium(輸入価格基準)     +市場Premium(輸入価格基準)     (MOPSベースだが輸出価格基準)

・毎月1日付け(Monthly) ・週毎に価格を公表(Weekly) ・前日のMOPSを反映(Daily)(注)市場プレミアムは品質(S分、オクタン値)格差、運賃、ブランド料、需給要因などを勘案して決定する。

原油価格連動(石油会社原価基準)

・自由化前価格フォーミュラを使用

・公式:原油価格+付随費用+精製費用等

・毎月1日付け(Monthly)

(出所)各種資料から取りまとめ

措置の名称 2008年2月以前 規制緩和策 実施時期

①輸入関税の引下げ 石油製品関税 3% 1% 2008.4.1②輸入業者の備蓄義務及び登録資格国内販売量の40日分 国内販売量の30日分 2008.5③輸入業者の登録資格要件の緩和 国内販売量の60日分又は1万kl 国内販売量の45日分又は7,500kl 2008.11

垂直取引のみ、水平取引は禁止 代理店間、SS間、一般販売所間の

(石油元売間のバーター取引は容認済み)水平取引を容認

①商標表示制度の見直し 系列取引(複数サインポール制は容認) 無印、PBの容認 2008.9.1

小売価格の公開制度はあり インターネットでサイト開設、サイトへの

(KNOCによるモニター価格) 価格登録を義務付け⇒毎日公表

承認(当面、SK-Eマート、GS-ホームプラ

ス、S-オイルーロッテで提携)

2009.5.1

創設に向けて検討中先物市場の創設

①水平取引の解禁

検討中

2008.11.1

2008.4.15

②石油会社別卸価格(代理店・SS別)の公表

2009.5.1

②大型スーパーのSS併設の承認 実績なし

石油製品先物市場は存在しない

③石油製品価格公開制度の見直し

石油会社別卸価格の公表は行っていない。

石油会社別卸価格の公表を行う

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IEEJ:2011 年 1 月掲載

- 14 -

販売店への

参照期間 適用期間 通知日

今週金曜日 今週土曜日

~翌週木曜日 ~翌週金曜日

直近実勢 今週土曜日

(木曜日まで) ~翌週金曜日

陸上RIM

みなしCIF

内外の製品市況

原油価格等

内外の製品市況

原油価格等

スポット市場

SS店頭市況

価格改定元売会社 実施時期 価格指標

6月

4~9月

7月

6月

JX日鉱日石エネルギー

コスモ石油

出光興産

昭和シェル

JX日鉱日石エネルギー

陸上RIM

同上

同上

同上

翌週金曜日

同上

今週金曜日

今週金曜日

今週金曜日

EM

10月陸上RIM、原油価格国内の製品市場動向

今週木曜日同上

同上

設定せず

設定せず

ー97年

3-2-3 日本

2008年10月に導入された新価格体系は、価格指標としてTOCOMとRIMを使用している。新価格体系導入

後、卸価格・小売価格の格差縮小等、一定の成果を収めてきたが、09 年以降は深刻な経済危機の影響を受けて、

石油製品の需要後退が止まらない状況が続いている。このような需給環境を反映して、国内製品相場は原油相場

見合いまで変動(上昇)せず、十分なコスト回収レベルに達していない。精製マージンの悪化に輸出収益の落ち

込みも加わり、元売会社の収益状況は厳しさを増しており、実質的には赤字経営を強いられている。元売会社の

一部はこのような状況を打開するため、2010年に入り、設備廃棄等による需給環境の改善を図るとともに、適正

マージンを確保するため、新価格体系の一部修正(ブランド料の引上げ)等を行った。

図3-2 新価格体系の見直し/イメージ

(出所)各種資料から取りまとめ

図3-3 新価格体系の元売別見直し/概要

(出所)各種資料から取りまとめ

3-3 価格統制下における価格形成

3-3-1 中国

① 統制価格の決定方法は数次に亘って変更されてきたが、原則的には国際市場における石油製品価格や原油価

格とリンクする方法が採用されてきた。09年1月から原油価格に連動した新価格制度が導入された。新価格制

度は、国際原油価格との連動性を強化することにより石油精製企業の利益を確保することが狙いとなっている

が、価格の具体的な改定(改定幅、改定時期)は政府が決定するなど、政府の管理的色彩が強い。 本制度は、原油価格の水準によって精製マージンが3段階に変動することとなっており、原油価格「80ドル」

を軸にして、80 ドルを下回る場合、国営石油会社は精製マージンが確保されるが、80 ドルを上回る場合、精

元売各社による見直しへ

製油所出荷価格 スポット価格を参照

(+)

+販売関連コスト等

①フレート(転送運賃等)②ブランド料

(-)

-各種

インセンティブ等

数量格差等(特約店別、SS別、卸)

卸(仕切)価格

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IEEJ:2011 年 1 月掲載

- 15 -

製マージンが圧縮される仕組みとなっている。 09年は8回に亘り価格改定が行われたが、11月の改定以降、原油価格の変動にも関わらず、2010年4月まで

改定が行われていない。2010 年 4 月の価格改定後、国営石油会社は価格改定の基本方式(連続する 22 日間、

国際原油価格が4%以上変動する場合)を例えば、「15 日間・3%以上」にするなど、設定期間の短縮、変動率

の縮小を要望している。

図3-4 ガソリンにおける小売価格と卸売価格との相関イメージ

(出所)各種資料から取りまとめ

② 税制改革の概要

中国政府は 2008 年末に実施した価格算定方式の改革の一環として、石油製品に付加する消費税額を 2009年 1 月 1 日に大幅に引上げた。(中国の消費税はわが国のガソリン税、軽油引取税に相当し、また、増値税/付加価値税はわが国の消費税に相当する。)この結果、ガソリン、ナフサの消費税額は1㍑当たり0.8元引き上げ、

1.0元、軽油の消費税額は1㍑当たり0.7元引き上げ、0.8元となった。

3-3-2 台湾

台湾には、国営石油会社 1 社と民間石油会社 1 社しかなく、国営石油会社/CPC を通じて価格統制が容易であ

ること、また、実態的に卸売業者が存在しないので、流通段階の価格指標としては石油精製/元売会社がSSに販

売する価格と SS が消費者に販売する小売価格のみが存在しているため、卸価格の変動が小売価格にそのまま反

映されやすくなっている。 台湾における価格形成は、「統制」、「事実上の統制」、「条件付自由化」というプロセスを経て行なわれてきたが、

徐々に自由化の方向に向かっている。 1993年にガソリン・軽油の値上げ幅を制限する上限価格制が導入されたが、2000年には石油業法による石油

製品市場の自由化を契機に上限価格制は廃止された。但し、「緊急時における政府の市場介入」の規定を受けて、

政府は 05 年以降、原油価格の騰勢を背景に、平常時においても頻繁に価格介入するなど事実上の統制を継続し

た。更に、2008年5月、「Action Plan for Stabilizing Current Prices」の新政策を導入し、石油製品価格を国際

市場における原油価格水準にリンクする方針に転換した。これは、条件付の自由化で、国営石油会社であるCPCと政府が価格上昇分の40%を負担している。すなわち政府は20%に相当する石油製品に対する消費税の引き下げ

によって、CPC は価格上昇分の 20%に相当するコスト削減によって実施するもので、 2008 年 8 月以降は段階

格差400元/㌧ 格差300元/㌧

原油コスト 精製 精製マージン 卸売マージン 小売マージン(変動性有) (変動性有) (変動性有)

精製コスト

7,210 元/㌧ 7,610 元/㌧ 7,710 元/㌧ 8,010 元/㌧

小売上限価格

 軍等・国家備蓄等向け価格=指標価格

小売上限価格を上回らない範囲で小売業者が売値を決定可能

小売上限価格との格差が300元以内にならない範囲で値決め可能

小売上限価格との格差が400元以内にならない範囲で値決め可能

 精製業者上限価格 卸売上限価格

地区別に固定値で公表小売上限価格と

の格差値を規定

9/2時点での北京市90号ガソリン価格

小売上限価格▲300元/㌧

小売上限価格▲400元/㌧

固定値で公表

小売上限価格(イメージ)=国際原油価格+国内精製コスト+税金+合理的な流通コスト+適正利潤

Page 16: ―エグゼクティブサマリー―eneken.ieej.or.jp/data/3599.pdfCPC 59.6% 09年7月現在 1,246千b/d SINOPEC 55.5% CNPC 36.7% CNOOC 7.8% 09年7月現在 8,286千b/d 表1-2 石油企業別給油所数

IEEJ:2011 年 1 月掲載

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的に引き下げが行われた。このような価格統制により、CPCは慢性的な赤字経営を強いられ、国家財政の悪化を

招く等の弊害が出ている。

3-3-3 インド

インドにおける価格形成は、「統制」、「統制の段階的廃止」、「統制の廃止/事実上の統制」へと移行してきた。

1976年~2002年3月、APM(Administered Pricing Mechanism)という制度の下で、国内の石油製品価格は

統制されてきた。その後、需要の増加に伴い、供給体制の拡充が必要となり、2002 年 4 月以降、石油製品の大

半の輸入が自由化された。これに伴い、APM 制度による価格統制は廃止された。 ただ、民生用燃料の LPG と

灯油の価格統制は続いた。 ガソリンやディーゼルの価格については、APM の廃止に伴い、制度上自由化されたが、約 85%のシェアを占

める国営石油会社に対し、政府の諮問委員会であるPetroleum Planning Analysis Cell により、原油価格や製品

価格の動向を踏まえて必要に応じて価格改訂の勧告があり、政府が自治体政府等と協議し、価格を決定してきた。 その後の国際価格の上昇により、統制価格は原油コストや精製コスト、経費の合計を下回る水準となった。こ

の損失は、政府(石油債券)、上流会社、国営石油会社で負担してきたが、国営石油販売会社の回収不足は、2008年には持続不可能な水準に達した。

2010 年に入り、インド政府は、6 月 25 日、ガソリンの統制価格を廃止し、原則自由化する方針を定めた。自

由化が実現すれば、統制価格の維持のため石油精製会社などに給付する補助金交付がなくなり、政府の財政赤字

も縮小することが期待できる。これらの自由化に向けた動きは 2010 年 2 月の「インド政府報告書」の提言に沿

ったものである。

図3-5 インド政府報告書(2010.2)

(出所)Petroleum Planning & Analysis Cell

3-3-4 アジア市場価格の国内市場価格への影響

アジアの市場価格が国内市場価格へ与える影響について、日本へ輸入した際の輸入価格を IPP(輸入等価価格

Import Parity Price)とし、日本から輸出した際の正味手取り価格をEPP(輸出等価価格Export Parity Price)として国内スポット価格との比較を行った。 具体的には

IPP= MOPS+品質プレミアム+海上フレート+保険料・港湾費+石油石炭税・製品関税+商社マージン・ 備蓄コスト等 EPP=MOPS+品質プレミアム+石油石炭税メリット-(海上フレート+保険料・港湾費+商社マージン)

で示すことができる。 石油会社はEPP(輸出等価価格)より自国の卸指標価格が安ければ、輸出に積極的になるが、自国の卸指標価

(a) 明確な公式に基づく石油製品の価格設定方式は、長期的に存立可能な国際競争力のある国内石油産業の確立に

貢献するものではない。

(b) 現在の国内原油需要の4分の3以上が輸入で充当され、今後さらに増えると予想されるので、石油製品の国内

消費者価格はますます国際石油市場の動きに連動すべきである。

(c) 政府による場当り的な価格固定システムは、短期的には国内価格が安定した外観を呈するかもしれないが、国

内の需給状況、石油会社の競争力、政府の財政健全性において深刻な長期的不安を引き起こす可能性がある。

(d) 石油製品に対する現実的で持続可能な価格設定システムは、安定した長期的な経済成長のためには必須であ

る。同様に、財政的に強力で国際競争力のある石油産業は、国家のエネルギー安全保障を強化する基盤をなす。

従って、石油会社が市場の競争原理に基づいて価格を設定することが重要であり、政府は、市場で価格を設定

する石油会社の自由に影響を与えない方法で、補助金を貧困層など特定の消費者に与える必要がある。

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IEEJ:2011 年 1 月掲載

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格が IPP(輸入等価価格)より高ければ、トレーダー等によって積極的に輸入品が入り、国内卸価格に影響を与

える。つまり、国内スポット価格は、アジア市況の影響を強く受けると考えられる。

図3-6 MOPS価格と国内スポット(RIM海上)価格、先物(TOCOM)価格の関係

(出所)石油情報センター作成

軽油とガソリンの2009年4月から2010年10月初旬の実績データに基づくMOPSから算定した IPP、EPP

(軽油のみ)と国内スポット価格との推移を図 3-7、図 3-8に示し検証を試みた。 2010年の5月~8月の間は、国内石油各社が減産基調の中、猛暑の影響もあり、国内スポット価格が、IPPよ

り高く推移している。タイムラグはあるもののEPP(グラフ紺帯の下限)と IPP(グラフ紺帯の上限)の中に概

ね納まっている。国内スポット価格は、下限が EPP、上限が IPP となり、アジアの市場価格の影響を強く受け

ながら変動していることがわかる。また、ガソリンと軽油について、シンガポール価格との日々のデータを用い

て相関分析を行ったところ、輸出入の多い軽油の方が相関性は高いことも確認された。

図3-7 軽油の IPP、EPPと国内スポット(RIM海上)価格の推移

▲ ▲ ▲ + + + + + + +韓国

豪州

商社マー

ジン

シンガポー

ル価格

品質プレミアム

輸入フレー

保険料・港湾費

備蓄コスト

商社マー

ジン

輸出パリティー

理論上この範囲内

で価格形成される

国内スポッ

ト価格

先物価格

輸出フレー

保険料・港湾費

品質プレミアム

石油石炭税

メリッ

輸入パリティー

石油石炭税

製品関税

MOPS

IPP

EPP

RIM海上

TOCOM

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40.0

45.0

50.0

55.0

60.0

65.0

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4/2

2

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6

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3

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1

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5

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7/2

9

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6

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9

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7

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4

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12/

2

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2/1

6

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2/3

0

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1/1

3

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1/2

7

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2/1

0

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3/1

0

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1

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5

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8

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2

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円/L

IPP-EPP RIM海上(東京)

減産、定修、猛暑需要の影響

RIM海上IPP(上限)

EPP(下限)

35.0

40.0

45.0

50.0

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60.0

65.0

70.0

2009/

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2

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/7/

1

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5

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9

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2

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6

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9

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3

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7

2009/1

0/2

1

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1/1

8

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12/

2

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2/3

0

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5

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2

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8

2010/

9/2

2

2010/

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円/L

IPP-EPP RIM海上(東京)

減産、定修、猛暑需要の影響

RIM海上IPP(上限)

EPP(下限)

(出所)石油情報センター作成

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IEEJ:2011 年 1 月掲載

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図 3-8 ガソリンの IPPと国内スポット(RIM海上)価格の推移

(出所)石油情報センター作成

3-3-5 今後の動向

アジアにおける価格形成は各国独自の政策の下で進められてきたが、今後、製品貿易の拡大を背景に、MOPSを通じて相互に影響することが予想され、その度合いは価格統制下にある国々の規制緩和、国際化の進展ととも

に強まるものと思われる。 最近では、中国、インド、台湾等の政府による価格介入のある国でも、石油会社のコスト割れ部分を補填して

きた補助金制度が、膨大な財政支出を伴い、国の財政圧迫を招くなどの弊害が出ている。このことから、統制価

格の算定基準を改定したり、統制価格の変更頻度を高めるなど、自由化(国際価格)に向けて動きつつあり、今

後の動向を注視する必要がある。

3-4 石油価格形成にかかわるわが国石油産業の課題

3-4-1 価格形成における阻害要因の排除

石油需給と価格は密接な関係にあり、収益性のある価格形成には需給動向が鍵を握っている。 わが国の石油産業は、予想以上の需要減退に直面し、減産等により対応してきたが、一時的な需給調整に止ま

り、大きな効果は出ていない。今後は設備能力の削減による本格的な需給調整と公正・透明な競争環境の整備に

より、価格形成の阻害要因を排除し、価格指標と製品価格との連動性をより高め、原油コストの回収が可能とな

る「新価格体系」を再構築することが重要である。

3-4-2 新価格体系の見直し

上記の阻害要因の排除を前提に、「サプライチェーン維持」のため、「ブランド料の引上げ」等を主に「新価格

体系」を再構築することが喫緊の課題となっている。

35.0

40.0

45.0

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円/L

RIM海上(東京) IPP

RIM海上IPP

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40.0

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55.0

60.0

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70.0

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RIM海上(東京) IPP

RIM海上IPP

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IEEJ:2011 年 1 月掲載

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4. アジアの石油流通/トピックス

今回の現地調査では、石油流通における動き(トピックス)として、次の3点が挙げられる。

4-1 韓国/北東アジアオイルハブ構想

韓国政府は国家目標の一環として、「北東アジアオイルハブ構想」を韓国二大コンビナートである Yousu と

Urusanで計画している。 「北東アジアオイルハブ構想」は、2008 年 8 月の「国家エネルギー基本計画」の中で韓国石油会社の優位な

競争力を利用して韓国と日本、中国、台湾など北東アジア域内や北米への物流拠点とし、石油製品の輸出の拡大

とトレーディングの活性化を目的に計画された。北東アジアの輸出拠点としてシンガポールをモデルとしたマー

ケットを形成するのが狙いとなっている。最終的には4,000万バレル(640万kl)程度の貯油規模を想定してお

り、アジアの石油需要回復とともに、今後の動向が注目されている。

図4-1 北東アジアオイルハブ構想

(出所)KNOC資料

4-2 韓国/ハイパー(大型スーパー併設SS)の解禁

韓国政府は、「価格抑制策」の一環と

して、08 年 11 月、大型スーパーの SS併設を承認した。 燃料油 1,500KL/月販売するハイパー

SSで、周辺SSよりも70~100ウォン/ℓ安の価格設定と清潔で明るいイメージの

店舗設計に加え、計量機ホースの一部を

透明にして品質状態をドライバーに見せ

る等の工夫をしている。若い世代を中心

とした経済的に廉価を好む層をターゲッ

トに成功して販売量を伸ばしている。 現在、大型スーパー併設 SS は、「SK

とE-マート」、「GS Caltexとホームプラ

ス」、「S-Oil とロッテマート」の組み合

わせで、2010年8月末現在10ヵ所とな

っており、今後の動向が注目される。

図4-2 Eマート併設セルフSS

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4-3 中国/コンビニ併設店の増加

中国のSS の実態は不確定要素が多いが、09 年末現在、85,000 ヵ所あり、そのうち 2 大国営石油会社で 53%(販売量ベースでは70%超)を占めている。SS保有数は自動車保有台数の伸びとともに、増加傾向にある。 主力のガソリン販売が増加傾向にあることから、SS の多角化については今後の経営戦略となるが、最近、都

心部を中心にコンビニ(便利店/米、飲料水等の販売)併設SSの増加が顕著となっている。また、洗車サービス

のSSやセルフSSも見られるようになった。 ロケーションに優れた24時間営業の大型SSでは月間2,500kl販売するセルフSSも出ている(図4-4は広州

郊外の独立系SS)。

図4-3 広州コンビニ(便利店)併設SS 図4-4 広州大型セルフSS

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