⑤(小池神戸大学教授)公表用 平成24年度 成果報告書 ...acc v pm...

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48 2-3 モデル構築 (1)交通モデル 1)交通モデルの概要 交通モデルは、交通量発生モデル、目的地選択モデル、交通手段選択モデル、経路選択モデルの 4段階からなる。各段階のモデルは、旅客・貨物別、さらに旅客については距離帯別に構築する。 なお、旅客についてはさらに目的別(通勤・通学、私事、業務)にモデルを構築する。一方、貨 物については車種別(小型、普通)にモデルを構築する。 表 2-3 旅行目的・貨物車種の分類 本業務での分類 旅客 目的別(通勤・通学、私事、業務) 貨物 車種別(小型、普通) ①旅客 旅客については、距離帯を4区分し(「100km未満」「100km~300km」「300km~1,000km」「1,000km 以上」)、それらの区分ごとに交通手段選択において考慮される交通手段が異なる。 交通量発生モデルでは、目的地選択モデルで算出される各ゾーン(目的地)のアクセシビリティ 指標が反映される。また、目的地選択モデルでは、交通手段選択モデルで算出される各 OD のアク セシビリティ指標が反映される。なお、ここでのアクセシビリティ指標とは、ログサム変数を意 味する。 目的選択モデルと交通手段選択モデルに関しては、2段階ネスティッドロジットモデルとなって いる。なお、交通手段選択では、距離帯別に下記の選択肢を扱う。 表 2-4 距離帯別の交通手段(各区分で○の交通手段を扱う) 鉄道 バス 乗用車 航空 100km未満 100-300km 300-1,000km 1,000km以上 図 2-34 交通モデル(旅客 100km未満、100km~300km)

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Page 1: ⑤(小池神戸大学教授)公表用 平成24年度 成果報告書 ...ACC V Pm ij:i発の目的m別の目的地jの選択確率、Vm ij:目的m別のij間の効用 Sm j:目的m別の目的地jの集客力指標(目的地jの従業者数)

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2-3 モデル構築

(1)交通モデル

1)交通モデルの概要

交通モデルは、交通量発生モデル、目的地選択モデル、交通手段選択モデル、経路選択モデルの

4段階からなる。各段階のモデルは、旅客・貨物別、さらに旅客については距離帯別に構築する。

なお、旅客についてはさらに目的別(通勤・通学、私事、業務)にモデルを構築する。一方、貨

物については車種別(小型、普通)にモデルを構築する。

表 2-3 旅行目的・貨物車種の分類

本業務での分類

旅客 目的別(通勤・通学、私事、業務)

貨物 車種別(小型、普通)

①旅客

旅客については、距離帯を4区分し(「100km未満」「100km~300km」「300km~1,000km」「1,000km

以上」)、それらの区分ごとに交通手段選択において考慮される交通手段が異なる。

交通量発生モデルでは、目的地選択モデルで算出される各ゾーン(目的地)のアクセシビリティ

指標が反映される。また、目的地選択モデルでは、交通手段選択モデルで算出される各ODのアク

セシビリティ指標が反映される。なお、ここでのアクセシビリティ指標とは、ログサム変数を意

味する。

目的選択モデルと交通手段選択モデルに関しては、2段階ネスティッドロジットモデルとなって

いる。なお、交通手段選択では、距離帯別に下記の選択肢を扱う。

表 2-4 距離帯別の交通手段(各区分で○の交通手段を扱う)

鉄道 バス 乗用車 航空

100km未満 ○ ○ ○

100-300km ○ ○ ○

300-1,000km ○ ○ ○ ○

1,000km以上 ○ ○

図 2-34 交通モデル(旅客 100km未満、100km~300km)

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図 2-35 交通モデル(旅客 300km~1,000km)

図 2-36 交通モデル(旅客 1,000km以上)

②貨物

貨物については、距離帯を区分せず、また交通手段は自動車のみを考慮するため交通手段選択モ

デルを明示的に扱わない。

図 2-37 交通モデル(貨物)

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2)定式化

①旅客

i)交通量発生モデル

目的別のゾーン毎の発生交通量(トリップ数)は、1人(通勤・通学、私事では人口、業務で

は従業者数)当たり発生交通量を現況で固定とし、下式により求める。なお、式中のゾーン人口

またはゾーン従業者数は、土地利用モデルから出力される値を用いる。

_m mi i i outQ POP Q

(通勤・通学、私事)

_m mi i i outQ EMP Q

(業務)

Qmi:目的m別のゾーンiの発生交通量(トリップ数)

Qmi_out:目的m別のゾーンiの現況の人口または従業者1人当たり発生交通量(トリップ数)

POPi:ゾーンiの人口、EMPi:ゾーンiの従業者数

ii)目的地選択モデル

目的地選択の確率選択式(目的別)を下式の通りとする。式中のアクセシビリティ指標は、交

通手段選択モデルにおいて算出されるログサム変数である。

exp

exp

mijm

ij mij

j

VP

V

1 lnm m m m mij j ijV S ACC

ln expm m

ij ijkk

ACC V

Pmij:i発の目的m別の目的地jの選択確率、Vmij:目的m別のij間の効用

Smj:目的m別の目的地jの集客力指標(目的地jの従業者数)

ACCmij:目的m別のij間のアクセシビリティ指標、Vmijk:目的m別のij間の交通手段kの効用

θm1:目的m別の集客力指標のパラメータ

λm:目的m別のアクセシビリティ指標のパラメータ

iii)交通手段選択モデル

距離帯別に交通手段選択の確率選択式を下式の通りとする。自動車を交通手段として考慮する

1,000km以下では、自動車の効用関数に1人当たり乗用車保有台数を変数として明示的に組み込

む。

a)100km未満

exp

exp

mijkm

ijk mijk

k

VP

V

2 3 4m m c m m

ijc ij i cV t C

2 4m m b m

ijb ij bV t

2m m r

ijr ijV t

Pmijk:目的m別のij間の交通手段kの分担率、ただしk∈{c(乗用車),b(バス),r(鉄道)}

Vmijk:目的m別のij間の交通手段kの効用

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θm2:目的m別の一般化費用のパラメータ

θm3:目的m別の1人当たり自動車保有台数のパラメータ

θm4c:目的m別の乗用車の定数項、θm4b:目的m別のバスの定数項 Ci:ゾーンiの1人当たり乗用車保有台数(台/人)

tcij:ij間の乗用車の一般化費用(時間)、tbij:ij間のバスの一般化費用(時間)

trij:ij間の鉄道の一般化費用(時間)

b)100km~300km

100km未満の場合と同じ。

c)300km~1,000km

exp

exp

mijkm

ijk mijk

k

VP

V

2 4m m a m

ija ij aV t

2 3 4m m c m m

ijc ij i cV t C

2 4m m b m

ijb ij bV t

2m m r

ijr ijV t

Pmijk:目的m別のij間の交通手段kの分担率

ただしk∈{a(航空),c(乗用車),b(バス),r(鉄道)}

Vmijk:目的m別のij間の交通手段kの効用

θm2:目的m別の一般化費用のパラメータ

θm3:目的m別の1人当たり乗用車保有台数のパラメータ

θm4a:目的m別の航空の定数項、θm4c:目的m別の乗用車の定数項

θm4b:目的m別のバスの定数項 Ci:ゾーンiの1人当たり乗用車保有台数(台/人)

taij:ij間の航空の一般化費用(時間)、tcij:ij間の乗用車の一般化費用(時間)

tbij:ij間のバスの一般化費用(時間)、trij:ij間の鉄道の一般化費用(時間)

d)1,000km以上

exp

exp

mijkm

ijk mijk

k

VP

V

2 4m m a m

ija ij aV t

2m m r

ijr ijV t

Pmijk:目的m別のij間の交通手段kの分担率、ただしk∈{a(航空),r(鉄道)}

Vmijk:目的m別のij間の交通手段kの効用、θm2:目的m別の一般化費用のパラメータ

θm4a:目的m別の航空の定数項、taij:ij間の航空の一般化費用(時間)

trij:ij間の鉄道の一般化費用(時間)

iv)経路選択モデル

確率的利用者均衡配分を用いる。

②貨物

i)交通量発生モデル

車種別のゾーン毎の発生交通量(トリップ数)は、1人(従業者数)当たり発生交通量を現況

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で固定とし、下式により求める。なお、式中のゾーン従業者数は、土地利用モデルから出力され

る値を用いる。

_s si i i outQ EMP Q

Qsi:車種s別のゾーンiの発生交通量(トリップ数)

Qsi_out:車種s別のゾーンiの現況の従業者1人当たり発生交通量(トリップ数)

EMPi:ゾーンiの従業者数

ii)目的地選択モデル

距離帯別の目的地選択の確率選択式を下式の通りとする。

sij

expP

exp

sij

sij

j

V

V

sij 1 2V lns s s s

j jS t

Psij:i発の車種s別の目的地jの選択確率、Vsij:車種s別のij間の効用

Ssj:車種s別の目的地jの集客力指標(目的地jの従業者数)

θs1:車種s別の集客力指標のパラメータ、tsij:車種s別のij間の一般化費用(時間)

θs2:車種s別の一般化費用のパラメータ

iii)経路選択モデル

確率的利用者均衡配分を用いる。

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3)パラメータ推定

パラメータ推定は、いずれも集計ロジットモデル用の最尤推定法を用いた。

①旅客

i)目的地選択モデル

目的別のパラメータ推定結果は下表の通りである。いずれの目的でも、ログサムパラメータは

[0, 1]の範囲であり、私事>通勤・通学>業務の順に大きくなった。

表 2-5 旅客の目的地選択モデルのパラメータ推定結果

通勤通学 私事 業務

パラメー

タ t値 パラメータ t値 パラメータ t値

集客力指標θ1 0.466 33.980 0.150 11.086 0.165 12.384

ログサムパラメータλ 0.691 39.475 0.701 58.806 0.335 49.568

尤度比 0.430 0.476 0.432

サンプル数 6666 6672 6667

ii)交通手段選択モデル

距離帯・目的別のパラメータ推定結果は下表のとおりである。なお、ここでのサンプル数は、

トリップの存在するODの数である。

乗用車が交通手段に含まれる1,000km以下では、いずれの距離帯・目的とも保有台数パラメー

タが正の値となり、自動車保有の進展が自動車利用の増加に寄与することが確認された。特に

100km未満でパラメータの値が大きく、比較的近距離の移動の際には自動車保有状況が自動車利

用のあり方に大きく影響を与えていることが示唆された。目的別では通勤・通学が最も値が大き

い。

モデルの尤度比は、300~1,000km の通勤・通学を除いて、一般的に妥当性を有する基準2とさ

れる0.2を超えた。300~1,000kmのような長距離の通勤・通学は特殊な交通行動であるため(サ

ンプル数も少ない)、今回のモデルでは尤度比が低くなったと考えられる。

表 2-6 旅客の100km未満の交通手段選択モデルのパラメータ推定結果

通勤通学 私事 業務

パラメー

タ t値

パラメー

タ t値 パラメータ t値

一般化費用θ2 -1.253 -153.715 -0.906 -72.240 -0.958 -74.137

保有台数θ3 9.205 318.189 6.069 175.754 4.401 133.649

乗用車の定数項θ4c -4.399 -328.937 -1.291 -82.033 -0.852 -56.367

バスの定数項θ4b -2.334 -364.798 -0.680 -84.880 -1.145 -130.792

サンプル数 594,969 423,341 351,479

尤度比 0.364 0.454 0.415

2 土木学会(1995)「非集計行動モデルの理論と実際」

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表 2-7 旅客の100~300kmの交通手段選択モデルのパラメータ推定結果

通勤通学 私事 業務

パラメータ t値 パラメータ t値 パラメータ t値

一般化費用θ2 -0.813 -142.66 -0.880 -144.983 -1.001 -211.609

保有台数θ3 0.212 0.119 0.503 13.181 2.004 51.347

乗用車の定数項θ4c -1.831 -53.605 0.304 15.420 -1.703 -87.703

バスの定数項θ4b -1.840 -153.212 -0.200 -23.376 -1.379 -203.233

サンプル数 93,814 191,399 246,677

尤度比 0.223 0.275 0.243

表 2-8 旅客の300~1,000kmの交通手段選択モデルのパラメータ推定結果

通勤通学 私事 業務

パラメータ t値 パラメータ t値 パラメー

タ t値

一般化費用θ2 -0.145 -29.460 -0.434 -151.418 -0.639 -150.663

保有台数θ3 3.205 19.517 3.350 59.411 4.120 47.666

航空の定数項θ4a -3 - -18.020 -66.561 -5.725 -124.201

乗用車の定数項θ4c -1.996 -23.289 -1.562 -57.062 -3.816 -88.153

バスの定数項θ4b -0.676 -35.790 -0.354 -37.723 -1.788 -150.183

サンプル数 20,046 155,302 235,078

尤度比 0.073 0.446 0.681

表 2-9 旅客の1,000km以上の交通手段選択モデルのパラメータ推定結果

通勤通学 私事 業務

パラメー

タ t値

パラメー

タ t値 パラメータ t値

一般化費用θ2 -4 - -0.249 -39.118 -0.271 -21.531

航空の定数項θ4a - - 0.899 17.491 1.637 19.442

サンプル数 - 81,059 44,222

尤度比 - 0.852 0.865

②貨物

i)目的地選択モデル

表 2-10 貨物の目的地選択モデルのパラメータ推定結果

小型貨物 普通貨物

パラメータ t値 パラメータ t値

集客力指標θ1 0.226 15.043 0.123 8.973

一般化費用λ -2.470 -65.730 -0.931 -54.083

尤度比 0.594 0.503

サンプル数 6,624 6,615

3 300-1,000km では、通勤通学は航空のトリップがないため、交通手段選択で航空を扱わない。 4 1,000km 以上では、通勤通学のトリップが存在しないため、通勤通学についてはモデル構築を行わない。

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(2)土地利用モデル

1)土地利用モデルの概要

土地利用モデルは、土地の需要と供給が合致する土地市場の均衡モデルである。均衡への調整は

価格(地代)を介して行われる。行動主体は家計、企業、地主の 3 主体であり、土地市場は住宅

地と業務地の2市場である。

家計は代表的1人であり、予算制約下で効用最大化問題を解くことで、1人当たりの面積(敷地

面積)が導出され、また、立地に関する効用最大化問題を解くことで、立地ゾーンが選択される。

そして、立地ゾーンにおける人口と敷地面積を乗じることで住宅地の需要量が算出される。一方、

企業も代表的 1 人の従業者であり、生産技術制約下で利潤最大化問題を解くことで 1 人当たりの

面積が導出され、家計と同様に立地ゾーンが選択される。そして、立地ゾーンにおける従業者数

と1人当たり面積を乗じることで業務地の需要量が算出される構造である。

地主は土地の価格に応じて住宅地と業務地の土地の供給量を決める。前述の家計と企業の土地需

要量と地主からの土地供給量が合致するところが均衡状態であり、変化が生じた際には均衡状態

に至るまで計算される。

家計の効用最大化行動

企業の利潤最大化行動

供給

需要

住宅地市場

供給

需要

業務地市場

不在地主の土地供給

業務地代 住宅地代

人口分布従業者

分布

敷地面積

敷地面積

市街化区域の設定固定資産税の減税

市街化区域の設定固定資産税の減税

ロードマップの施策 ロードマップの施策

図 2-38 土地利用モデルの構造

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2)定式化

①家計の行動モデル

i)財消費行動

家計の効用関数を対数線形にて特定化し、時間資源を含む総所得制約下の効用最大化問題とし

て家計の財消費行動モデルを定式化する。

max ln ln lnH H H Hi zi i xi i li iV z x l . .

i

H H H H H ci i i i i is t Z q x r l w q I

i:ゾーンを表す添え字

Zi:ゾーンiの一人当たり合成財消費量

xHi:ゾーンiの一人当たり私事トリップ消費量(トリップ数)

lHi:ゾーンiの一人当たり土地面積、qHi:ゾーンiの私事トリップ費用(円)

qCi:ゾーンiの通勤トリップ費用(円)、rHi:ゾーンiの住宅地地代

αZ、αHx、αH

l:支出配分パラメータ(αZ+αHx+αH

l=1)

Ii:ゾーンiの一人当たり所得、Vi:ゾーンiの(間接)効用関数

w:家計の賃金率(時間価値、円/時間)、Ω:一人当たり総利用可能時間(固定)

(1)式の効用最大化問題を解くことにより、土地消費量、間接効用関数が導出される。

HH lii iH

i

l Ir

 

ln ln lnH Hi i li i xi i iV I r q C

ln ln lnH H H Hi Zi Zi li li xi xiC

ここで、私事トリップ費用と通勤トリップ費用は、発生ベースの費用をトリップ数で重みづけ

した加重平均を用いて下式の通りとする。なお、算出時には手段別ODごとに交通モデルで設定

する距離帯別の利用可能交通手段(下表)のみ考慮する。

H Hij ijkH k

i ijH Hj ki ij

Q Qq wt

Q Q

C Cij ijkc k

i ijC Cj ki ij

Q Qq wt

Q Q

i:発ゾーンを表す添え字、j:着ゾーンを表す添え字、k:交通手段を表す添え字

qHi:ゾーンiの私事トリップ費用(円)、qci:ゾーンiの通勤トリップ費用(円)

tkij:ij間の手段kのゾーン間一般化費用(時間)、w:家計の賃金率(時間価値、円/時間)

Qi:i発の全OD、全手段のトリップ数(H:私事 C:通勤)

Qij:ij間の全手段のトリップ数(H:私事 C:通勤)

Qijk:ij間の交通手段kのトリップ数(H:私事 C:通勤)

表 2-11 距離帯別の利用可能交通手段

鉄道 バス 乗用車 航空

100km未満 ○ ○ ○

100-300km ○ ○ ○

300-1,000km ○ ○ ○ ○

1,000km以上 ○ ○

ii)立地行動

立地選択行動は、ロジットモデルにより下記の通り定式化する。これにより求まる立地選択確

率を総人口に乗じることで、ゾーン別の人口を算出する。

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57

i

Hii

H

Hii

HH

i VVP

expexp

T

Hii NPN

PHi:立地選択確率、Ni:各ゾーンの人口、NT:全国の総人口

θH:立地選択モデルのロジットパラメータ、Vi:効用水準(間接効用関数)

τHi:間接効用関数に含まれていない要因

家計の土地需要量 DHiは、上で求めたゾーンの立地者数に 1 人当たり土地面積を乗じて以下の

ように表される。

iHi

Hi NlD

②企業の行動モデル

i)財生産行動

企業は代表的1人の従業者とし、土地(業務用地)、業務トリップを投入して、生産技術制約

の下で利潤が最大となるように生産を行っているものとし、生産関数をコブ・ダグラス型技術に

より特定化した。

,max

B Bi i

B B B B B Bi i i i i i

a xZ r a q x  

. ai xiB B B

i i i ist Z a x      ZiB:ゾーン iの一人当たり合成財生産量、aiB:ゾーン iの一人当たり業務用土地投入量 xBi:ゾーン iの一人当たり業務トリップ投入量、riB:ゾーン iの業務用地代 qiB:ゾーン iの旅客業務トリップ費用、ηi:ゾーン iの生産効率パラメータ βa,βb:配分パラメータ 上式を解くことにより、企業の生産要素需要である土地投入量(lBi)が以下のように求められ

る。

11 11 xi xi ai xiB

B i xii B

i ai i

raq

上式を生産関数に代入すると、利潤関数が下式のように導出される。

1111

ai xi ai xiB BB i ii ai xi

i ai xi

r q

ここで、業務トリップ費用は、家計と同様に、家計と同様、発生ベースのそれぞれの費用をト

リップ数で重みづけした加重平均を用いて、下記の通りとする。

B Bij ijkB k

i ijB Bj ki ij

Q Qq wt

Q Q

i:発ゾーンを表す添え字、j:着ゾーンを表す添え字、k:交通手段を表す添え字

qBi:ゾーンiの業務トリップ費用(円)、tkij:ij間の手段kのゾーン間一般化費用(時間)

w:家計の賃金率(時間価値、円/時間)、QBi:i発の全OD、全手段の業務目的トリップ数

Qij:ij間の全手段の業務目的トリップ数、Qijk:ij間の交通手段kの業務目的トリップ数

ii)立地選択

立地選択行動はロジットモデルにより下記の通り定式化する。これにより求まる立地選択確率

を総従業者数に乗じることで、ゾーン別の従業者数を算出する。

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58

i

Bii

B

Bii

BB

iPexp

exp

Tii EPE

PBi:立地選択確率、Ei:各ゾーンの立地従業者数、ET:総従業者数

θB:立地選択モデルのロジットパラメータ、Πi:効用水準(利潤関数)

τBi:利潤関数に含まれていない要因

企業の土地需要量 DBiは、上で求めたゾーンの立地者数に 1 人当たり土地面積を乗じて以下の

ように表される。

TBi

Bi ElD

③地主の行動モデル

不在地主は、家計及び企業に対して、それぞれ住宅地及び業務地を供給する。その際、地主の土

地供給関数は、利潤最大化問題を解くことで下記のように導かれる。

1H

H HOii iH

i

y Yr

1

BB BOii iB

i

y Yr

yiH:居住用土地供給、yiB:業務用土地供給、yiHO,yiBO:土地供給可能面積 σiH,σiB:パラメータ、rHi:住宅地代、rBi:業務地代

④均衡条件

土地市場均衡条件は以下のとおりである。

i)住宅地市場

n

Hi

Hi Dy

【住宅地市場での需給一致】 ii)人口

i Ti

N N 【総家計数制約】

iii)業務地市場

i

Bi

Bi Dy

【業務地市場での需給一致】 iv)従業者

Ti

i EE 【総従業者数制約】

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3)データセット

①立地主体のパラメータの設定

i)企業の行動モデル

企業の利潤最大化問題を解くことで、1人当たりの土地及び業務トリップの需要関数が導出さ

れる。生産関数はΣβ<1であり規模に関して収穫逓減の関数である。

ここでは観測されたゾーン内生産(Zi=GRP)は利潤最大化をもたらすZiが生産されて購入さ

れたと仮定し、キャリブレーションによってパラメータを設定する。キャリブレーションで設定

することでゾーン特有のパラメータがセットされることになる。

B BB a i ii i aB

i i

a ra Zr Z

  

B BB x i ii i xB

i i

x qx Zq Z

  

推定された生産関数のパラメータ(β)を用いて、ゾーン毎の生産関数の生産効率パラメータ

(ηi)を以下の式でキャリブレーションにより計測する。

11 a x a xB B

i ii B

i a x

r qZ

ii)家計の行動モデル

家計の効用最大化問題を解くことで、1人当たりの合成財、土地及び交通トリップの需要関数

が導出される。推定するパラメータはαであり、αHa、αH

x はキャリブレーションで設定され、

1次同次の仮定よりαHZが推定される。

H H HH Hai i ii i aiH

i i

a ra Ir I

 

H H HH Hxi i ii i xiH

i i

x qx Iq I

 

-H H HZi ai xi=1-    

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60

②立地選択モデルの推定(立地余剰の推定)

i)家計の立地余剰の推定

推定したパラメータを用いることで家計の間接効用関数を特定し、効用値が計測される。CUEモ

デルでは家計の間接効用関数(VHi)と住環境や地形的要因等のゾーン固有指標(eHi)から構成さ

れる「立地余剰(vHi)」に基づき立地選択確率が導出される。

本モデルでは以下の式を用いて、ゾーン固有指標(eHi)はキャリブレーションにより計測する。

Hi

Hi

Hi

i

Hi

H

Hi

HH

i eVvv

vP    exp

exp

ii)企業の立地余剰の推定

家計の立地選択と同様に、企業の利潤関数(ΠBi)と業務環境や地形的要因等のゾーン固有の指

標から構成される「立地余剰」に基づき立地選択確率が導出される。

本モデルでは家計と同様に、以下の式を用いて、ゾーン固有指標(eBi)はキャリブレーションに

より計測する。

Bi

Bi

Bi

i

Bi

B

Bi

BB

i eP    exp

exp

③地主の行動モデル

i)住宅地

住宅地のパラメータσHi は、下式よりもとめる。説明変数の宅地供給面積

Hiy 、宅地供給可能

面積HO

iY 、住宅地の地代(初期値)H

ir は実測値を用いる。

HiHO

i

HiH

i rYy1

ii)業務地

業務地のパラメータσBi は、下式よりもとめる。説明変数の宅地供給面積

Biy 、宅地供給可能

面積BO

iY 、地代(初期値)B

ir は実測値を用いる。

BiBO

i

BiB

i rYy1

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61

(3)経済モデル

1)経済モデルの概要

本研究で扱う経済モデルは、応用一般均衡モデルを空間的に拡張した、空間的応用一般均衡

(spatial computable general equilibrium, SCGE)モデルである5。以下のような仮定をおくモ

デル構造である。

I個に分割された国土空間を考える。(本分析ではI=2,342)

M 種類の財が存在し、各地域にそれぞれの財を生産する代表的企業がある。また、各地域に

は一つの代表的家計が存在する。

企業は、資本と労働を生産要素として生産を行う。

家計は、企業に生産要素を提供する。その対価として得られた所得を用いて、財を消費する。

生産要素市場は各地域で閉じている。一方、財市場はいずれの財も地域間で開放されている。

同種の財であっても、生産された地域が異なると、別種の財とみなされる。

財の消費には交通費用相当分の負担が必要であり、それは財の追加的消費として表現され、

またその分も企業により生産される。(Iceberg型費用の仮定)

全ての市場は完全競争的であり、長期的均衡状態にある。

図 2-39 経済モデルの構造

5 Brocker (1998)、上田編著(2010)等。

家計

企業

生産要素市場 財市場

需要

供給

供給

需要

家計

企業

生産要素市場財市場

供給

需要

需要

供給

地域1

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62

また、データベース構築で示した生産・分配・支出のメカニズムのイメージと、本モデルの中心

的概念である一般均衡とは、以下のように対応する。

生産要素市場における需給の一致。すなわち、家計による労働・資本の供給が、財生産企業

の需要と一致する。(下図①~④)

全ての財の需給の一致。すなわち、あらゆる財の需要が、供給と一致する。地域間交易(移

出入)の状況もこれにあわせて決定される。(下図⑤~⑧)

図 2-40 生産・分配・支出のメカニズムのイメージ(図 2-22再掲)

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63

2)定式化

以下のように変数を設定する。

財の種別を表すラベル 

地域を表すラベル財の着地(消費地)の 

地域を表すラベル財の発地(生産地)の 

:},,2,1{:},,2,1{

:},,2,1{

MmMmJjJj

IiIi

①企業の行動モデル

地域iに立地し財mを生産する企業は、自地域の労働と資本を用いて、下図に示すような生産構

造の生産技術を用いて財を生産する。

図 2-41 企業の生産技術

財生産に関する最適化問題は、以下のように付加価値1単位を生産することを制約とした、費用

最小化行動として定式化する。

1),(),(..

min,

mj

mj

mj

mj

mj

mj

mjj

mjjkl

klXklVAts

krlwmj

mj

ただし、 jw :労働賃金率、 jr :資本レント、mjl :労働投入量、

mjk :資本投入量 、 ),( m

jmj

mj klVA :

付加価値関数、 ),( mj

mj

mj klX :生産関数である。

付加価値関数は、労働と資本の規模に関して収穫一定を仮定したコブ・ダグラス型を仮定する。

mj

mj m

imi

mi

mj

mj

mi

mj

mj

mi klklXklVA 1),(),(

ただし、mi :効率パラメータ、 m

i :分配パラメータである。

上式の最適化問題を解くと、以下の様に付加価値1単位当たりの労働と資本の要素需要量が求ま

る。

mj

mj

mj

mj

mj

jmj

jmjj

mjm

kj

mj

jmj

jmjj

mjm

lj

rwr

D

rww

D

1

1

111

11

生産量 Xm

j (Pm

j)

労働 資本

付加価値

コブ・ダグラス型

lmj (w)

kmj

(r)

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64

②家計の行動モデル

地域jには自地域または他地域の財を消費する代表的家計が存在し、下図に示すような二段階か

らなるNested-CES型の効用関数を持つと仮定する。第一段階においては、合成財の代替関係をCES

型で表現し、第二段階においては、自地域の財・サービスと他地域の財・サービスの代替関係を

CES型で表現する。

図 2-42 家計の行動モデル

第一段階は、所得制約下での家計の効用最大化行動として定式化する。ここでは、地域間での所

得移転も所得制約式において考慮する。(地域間所得移転額は経済全体では合計がゼロとなる)

jjjjjMm

mj

mj

mjjj

fj

NXKrLwfPFts

ffUVmj

..

,,max 1

ただし、 jV :間接効用関数、 jU :直接効用関数、mjf :地域 j の家計の産業 m の財の消費合

成財、 jL :地域jの労働供給量、 jK :地域jの資本保有量、mjPF :地域j産業mの財の消費

合成財価格、 jNX :地域jの所得移転(ただし、 0Jj

jNX )である。

効用関数は、CES型により定式化する。

111

1

1 1

Mm

mj

mjj fU

ただし、 1:消費合成財に関する代替弾力性である。

上式の最適化問題を解くと、以下のように財mの消費合成財の需要量mjf が求まる。

Mm

mj

mj

jjjjjmj

mjm

jPF

NXKrLwPF

f11

1

1

次に、第二段階では、財mの購入先を扱うが、これは以下のように家計の費用最小化行動として

定式化する。

合成消費財

産業 1 産業 2 産業 M ・・・

消費財

地域 1 地域 2 地域 I・・・

・・・

CES型

fmj

(PFmj)

CES型

fmij(Pm

j)

効用Uj

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65

mIj

mj

mj

mj

mj

Ii

mij

miij

f

fffFfts

fPtm

ij

,,,..

)1(min

21

ただし、 ijt :輸送マージン率、 m

iP :地域i産業mの財の生産地価格、m

ijf :地域jの家計が

消費する地域i産業mの財消費量である。

ここで、家計の財種別iの消費合成財需要関数を以下のようにCES型により定式化する。

122

2

2 1

Ii

mij

mij

mj

mj ff

ただし、 mj :消費合成財換算パラメータ、

mij :財消費シェアパラメータ、 2 :消費財に関

する代替弾力性である。

上式の最適化問題を解くと、消費合成財1単位あたりの消費財需要量m

ijcf が求まる

22

2

)1(

)1(mj

mjm

jij

mij

mj

mijm

ij PFPtf

fcf

また、財種別jの消費合成財価格mjPF は、この最適化問題に付随するラグランジュ乗数の逆数

より以下のように求まる。

2221

1

1)1(1)(Rr

ri

rsrsim

j

ri

si

si PtPPFPF

③市場均衡条件

本モデルでは、企業の生産関数として規模に関して収穫一定を仮定しているため、企業は常に需

要に見合うだけの生産を行うことになる。したがって、常に以下の式が成立するように生産量を

決定する。

Jj

mijij

mi ftX )1(

よって、以下の生産要素市場の均衡条件のみが意味を持つ。

KrwDX

LrwDX

Mmjj

mkj

mj

jMm

jjmlj

mj

,

,

④便益の計測

政策評価の尺度である便益として、等価的偏差EVを用い、以下の通り定義する。なお、便益は

地域別に計測可能である。

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66

0

0100 )(

j

jjjijijj V

VVNXKrLwEV

ただし、0、1:それぞれ政策なし、政策ありを表す添字である。

3)パラメータ

本研究では、消費合成財に関する代替弾力性σ1を1.2、消費財に関する代替弾力性σ2を1.2

と設定している。

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67

(4)評価モデル

1)評価モデルの概要

以上に示した交通モデル、土地利用モデル、経済モデルでは、主に下表に示す指標を算出する。

表 2-12 交通・土地利用・経済モデルの主な算出可能指標

モデル 算出する指標

交通モデル

発生トリップ数、交通手段分担率、自動車台トリップ、

自動車平均旅行速度、自動車走行台時、自動車平均トリ

ップ長、自動車走行台キロ

土地利用モデル 人口・従業者分布、地代、1人当たり敷地面積

経済モデル 便益(等価変分)、地域総生産(GRP)、地域間交易(財

の移出入)

評価モデルでは、これらのアウトプットをもとに、さらにサブモデルを構築して、環境や社会経

済その他に関する多様な指標を出力する。今年度は、本モデルにおいて出力可能な指標について

検討を行った。なお、下記以外にも、可能な限り行政ニーズに対応し、例えば防災や行政コスト

の面からも評価できる指標のアウトプットの可能性については、次年度以降、引き続き検討を行

う。

2)評価指標

具体的な評価指標については、欧州の土地利用・交通モデル分析による環境政策評価の先行事例

である PROPOLIS6の内容を参考に、本研究のモデルで評価可能な指標を検討した。以下の表は、

PROPOLIS により評価される指標の一覧であり、大きく環境面、社会面、経済面の3つに分類され

る。さらに、各指標について、本研究で構築するモデルに基づく評価可能性を表中に示した。(表

中の評価可否は、○=可、△=一部可、×=不可を表す)

表 2-13 PROPOLISの評価指標と本研究での評価可能性1:環境面(出所:PROPOLIS (2004))

PROPOLISの評価指標 本研究での評価可能性

項目 指標 可否 備考

地球温暖化 CO2排出量(運輸部門) ○ 交通モデルの出力である交通量に排出原単位

を乗じて算出。 大気汚染 酸性汚染物質排出量 ○

揮発性有機化合物排出量 ○

資源消費

燃料消費量 ○ CO2排出量をガソリン等消費量に割り戻して

算出。

土地被覆 △ 土地利用モデルで人口・従業者数の移動は評価

可能。 新規建設需要 △

環境の質 緑地の減少 × 土地利用モデルでは緑地面積の増減を扱って

いない。 緑地の質 ×

6 Planning and Research of Policies for Land Use and Transportation for Increasing Urban Sustainability

(http://www.ltcon.fi/propolis/)

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68

表 2-14 PROPOLISの評価指標と本研究での評価可能性2:社会面(出所:同上)

PROPOLISの評価指標 本研究での評価可能性

項目 指標 可否 備考

健康

大気汚染微粒子への露出 ○ 交通モデルの出力である交通量をもとにゾー

ン別の大気汚染微粒子量/NO2量/騒音発生

量を算出。

NO2への露出 ○

騒音被害 ○

交通事故(死亡) ○ 交通モデルの出力である交通量に発生事故原

単位を乗じて算出。 交通事故(負傷) ○

公正

経済的便益の公正さ ○ 経済モデルの出力するゾーン別の便益をもと

に、その分散等を計測可能。

大気汚染微粒子への露出の公正さ ○ ゾーン別の大気汚染微粒子量/NO2量/騒音

発生量をもとに、その分散等を計測可能。 NO2への露出の公正さ ○

騒音被害の公正さ ○

人種差別 × ―

機会

居住水準 ○ 土地利用モデルによる人口移動に基づき、一人

当たり床面積を評価可能。

中心街の活力 △

経済モデルは市区町村単位のため、その内部の

経済状況を詳細に分析することはできない。

一方、交通モデル、土地利用モデルはより詳細

なゾーン分割であり、地域へのトリップや人

口・従業者数の集中等の評価は可能。 郊外部の活力 △

土地利用の生産性 ○ 経済モデルより地域総生産(GRP)を算出可能。

交通利便性

1人当たり移動所要時間 ○ 交通モデルで算出。

公共交通機関のサービスレベル △ 公共交通利用の一般化費用は、分析シナリオと

して設定。

中心街へのアクセス ○ 交通モデルでゾーン間所要時間、ゾーン別アク

セシビリティ(期待最小費用)を算出。 サービスへのアクセス ○

緑地へのアクセス ○

表 2-15 PROPOLISの評価指標と本研究での評価可能性3:経済面(出所:同上)

PROPOLISの評価指標 本研究での評価可能性

項目 指標 可否 備考

交通の便益

/費用

投資費用 × 投資はモデル化していない。

利用者の便益 ○ 走行時間短縮便益を算出可能。

交通機関運営者の便益 △ 主体として運営者を考慮していないが、運賃収

入等は算出可能。

政府の便益 △ 主体として政府を考慮しないが、一部税収等は

算出可能。

交通事故の外部費用 ○

上記で算出した発生事故/汚染物質排出量/

CO2排出量/騒音発生量をもとに評価可能。

汚染物質排出の外部費用 ○

温室効果ガス排出の外部費用 ○

騒音発生の外部費用 ○

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69

(5)結論

1)まとめ

本研究では、交通・土地利用・経済を統合した政策評価モデルの構築を目指しているが、ここで

は各モデルの構築(定式化の整備)を行った。また、各モデルの出力値をもとに多様な指標を評

価可能であり、そのような評価モデルについても検討を行った。

前節のデータベース構築と合わせると、モデルの基本構造の確立およびそのために必要なデータ

整備については今年度の目標を達成しており、次年度以降の実際にモデルを用いた分析、政策評

価につなげていく。

2)今後の課題

次年度以降、より精緻なアウトプットを得られるよう下記の観点からモデルを改良することを検

討している。

①交通モデルにおける貨物の手段分担の考慮

交通モデルにおいて、旅客は手段分担を考慮しているが、貨物については考慮していない。その

ため、運輸部門の低炭素化のために重要である貨物のモーダルシフト施策等は、モーダルシフト

の割合をモデルの外生変数として与えるしかなく、価格メカニズム等を考慮した評価とはなって

いない。貨物の自動車以外の交通手段に関しては、データベース構築上の課題もあるが、あわせ

て貨物の手段分担モデルを構築する必要がある。

②経済データにおける中間財の考慮

現在の経済モデルは中間財を考慮した形にはなっておらず、より精緻な分析のためには、現実の

産業構造を反映して中間財を考慮したモデルとするよう改善の余地がある。データベース構築の

課題としても述べたように、これに伴い、中間財の需要と供給を表す物流のデータを、モデルの

ゾーン単位で整備する必要があるが、現在の市区町村単位では困難な可能性もあり、モデルのゾ

ーン単位を粗くする可能性も含めて、検討していく必要がある。

③評価モデルの充実

評価モデルで出力可能な指標として、今年度はPROPOLIS の事例をもとに検討したが、これら以

外にも、可能な限り行政ニーズに対応し、例えば防災や行政コストの面からも評価できる指標の

アウトプットの可能性については、次年度以降、引き続き検討を行う。

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70

2-4 分析1:交通モデルを用いた道路走行課税の影響試算

(1)概要

本節では、交通モデルを用いて、道路走行課税を想定して道路利用の交通費用を全国一律に増加さ

せた場合の地域別の影響を試算する。

また、政策的な観点からは、この結果をもとに、地域別の運輸部門CO2削減割当てを検討する際

の一つの考え方を提示する。削減割当てに関しては、確立された方法はなく、様々な可能性が考え

られるが、ここでは、国全体の削減目標を最も効率的に達成するような削減割当てについて検討を

行う。また、実際に得られた分析結果に基づいて、地域特性に応じてどのような特徴が見られるか

を議論する。

(2)分析の背景

わが国全体のCO2排出削減目標に関しては、具体的にどの主体がどれだけの削減責任を負うべき

かは明確にされていない。地方自治体単位で立案、実施される削減計画は、必ずしも国全体の削減

目標との整合性は確保されておらず、わが国全体としての目標達成のためには、地域別の削減目標

に関して目安となる数値、すなわち「削減割当て」を設ける必要があると考えられる7。

地域別の削減割当ての実施に際して、最も困難となることの一つが、実際に各地域に割り当てる削

減量の決定方法である。例えば、最も単純には、全ての地域に一律の削減率を割当てとして課すこ

とが考えられる。しかし、この場合には、それまで削減努力をしてきた地域にとってはさらに追加

的な削減の負担は重くなり、一方で削減の余地が依然大きい地域にとっては比較的容易に目標が達

成できるなど、地域の負担感に差が生じる可能性がある。

人口1人当たりの排出量をもとに、例えばこの値を全国一律にすることを目指すなどの案も考えら

れる。次ページの図は、都市規模別の1人当たりCO2排出量(旅客自動車由来)を示しており、地

方部と都心部では1人当たりCO2排出量に2倍以上の開きがあることが分かる。このことから、地

方部の方が、削減ポテンシャルが大きいのではないかとも思われるが、一方で地方部では代替交通

手段が未熟であり、追加的な排出削減はむしろ都心部よりも困難である可能性もある。削減割当て

の決定に際しては、現状の排出量の多さだけでなく、排出削減の可能性や負担の程度とのバランス

にも配慮すべきだろう。

国全体の目標達成の実効力を高めるためには削減割当てを設定することの意義は大きく、このよう

な困難を克服し、そのための妥当な方法論を確立する必要がある。

7 海外では、部門別の削減目標を明記した英国の炭素削減計画(Carbon Budget)や、都市圏別の削減割当てを明記した米国カリ

フォルニア州のSB375(気候保護法)等の事例がある。

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71

全国平均1.01

<人口による区分>

I:100万人以上

II:区分Iの市区町村の通勤圏

III:50~100万人

IV:20~50万人

V:5~20万人

VI:5万人未満

図 2-43 都市規模別の1人当たりCO2排出量(旅客)

出所)平成23年度土地利用・交通SWG(環境省)資料

(3)分析の考え方

前述の全地域一律の削減率により生じる地域の負担感の差は、経済学的には、限界排出削減費用(追

加的な1単位のCO2排出削減に要する費用)が地域によって異なることによる。また、この場合に

は、国全体として同じ削減量を達成するのに、より効率的に(=少ない費用で)行う方法が存在す

る。(限界排出削減費用に地域差がある場合、追加的な排出削減は、より限界排出削減費用の小さ

い地域で行う方が効率的である)

本分析では、国全体の削減目標を最も効率的な方法で達成するような、すなわち全ての地域の限界

排出削減費用を一定にするような削減割当てを検討する。ただし、ここで問題となるのが、運輸部

門のCO2削減のための対策・施策は、交通インフラ整備から都市構造の集約化まで多種多様であり、

それらの可能性を全て考慮した排出削減費用を扱うのが事実上不可能なことである。

そこで、ここでは交通インフラや都市構造は現状のまま変わらないものとして、自動車利用の交通

費用(一般化費用)を増加させた場合に、自動車の交通需要の減少に伴う機会費用を排出削減費用

として定義し、限界排出削減費用を一定にする削減割当てを考える。単位排出量当たりの自動車利

用の交通費用を一律に増加させた場合8、各主体は自らの限界排出削減費用が新たな自動車利用の価

格(単位排出量当たり)と等しくなるまで自動車利用を減少させる。このとき、必然的に全ての主

体の限界排出削減費用は等しくなり、また国全体のCO2排出削減費用が最小化されている(交通費

用の増加分はいわゆるピグー税に相当する)。したがって、このときの国全体のCO2排出削減率が

x%だとすると、x%のCO2排出削減のためには、いま各主体が削減した分だけ、それぞれ排出量を

減らすことが最も効率的だと言える。これを地域別に集計した際の各地域の削減量を、国レベルで

x%削減を達成するための地域別割当てと考える。

例として、AとBの2主体からなる社会を考える。下図は、各主体の(自動車からの)CO2排出

8 具体的な手段としてはガソリンへの課税等が考えられる。

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72

による限界便益曲線を示している。主体Aに着目すると、現状の自動車利用の価格 p のもとでは、

OABに相当するCO2 を排出している。交通費用が増加した際、新たな価格 p’のもとでは、OAAま

でCO2排出を減少させる。このときの減少幅ABが主体AのCO2削減量であり、その削減費用は、

これにより失われた便益、すなわち四角形ABCDである。同様に主体Bの削減量は EFとなり、し

たがって、AB+EFが社会全体の削減量となる。上記の議論は、社会全体の削減目標がAB+EFである

とき、主体AとBの削減割当てを、それぞれAB、EFとすべきだと考えていることになる。

CO2排出量(=自動車走行量に比例)

価格 価格主体Aの限界便益曲線(=限界排出削減費用曲線)

現状の価格p

交通費用加算後の価格p’

CO2排出量

自動車利用の交通費用の増加

主体Bの限界便益曲線(=限界排出削減費用曲線)

+社会全体のCO2排出削減量 =

A B

C

D

OA OB E F

G

H

図 2-44 交通費用加算時のCO2排出削減

限界便益曲線(=限界排出削減費用曲線)は主体ごとに異なり、CO2排出削減のしやすさの違い

を表している。曲線の傾きが急であるほど、1単位の排出削減に要する費用が大きいことを意味す

る。例えば、公共交通など他の交通手段への転換が比較的しやすい場合や、目的地選択の候補が多

くより近距離の移動への切り替えが可能な場合には、追加的な排出削減は比較的容易であり、曲線

の傾きは緩くなる。一般に個々の限界便益曲線を知ることはできないが、この考え方の利点は、削

減割当ての検討者(政府等)が、それらを知らなくても、個々人が主体的に行動した結果、上記の

効率的な削減が達成できる点にある。

本分析では、この考え方を応用して、交通モデルにおいて自動車利用の交通費用を一律に加算した

際の各地域のCO2排出削減量を求め、その値をこのときの全国の総排出削減量を達成するための地

域別割当てとする考え方を提示する。イメージとしては下図のように、交通費用加算により地域別

のCO2排出削減量が求まる。限界排出削減費用は地域によって異なるため、結果として得られる削

減量も地域別に異なるが、これを地域別の削減割当てとする考え方である。(なお、全国の総排出

削減量はモデル実行の結果判明するため、所与の削減目標のための削減割当ての検討は、探索的に

行うしかない)

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73

北海道 東北 関東 ・・・・・

現状の排出量

各市町村の一人当りCO2排出量(運輸部門)

交通費用加算後の排出量

図 2-45 交通費用加算時の地域別のCO2排出削減量のイメージ

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74

(4)分析方法

全ての自動車利用の交通費用を単位距離当たり一律に増加させて、交通モデルを実行し、全国およ

び各地域のCO2削減量を計測する。

ここでは、全国一律に走行距離 1km 当たり 150 円相当の交通費用が加算されるものとして、自動

車利用の交通費用を更新して、モデルを実行する(以下、この設定条件を「交通費用加算」という)。

仮に燃費 10km/Lの自動車であれば、ガソリン1L当たり 1,500 円の加算であり、現状の約 11 倍程

度の価格となることを想定している。

モデル上は、各ODの道路利用の一般化費用を、交通費用加算を考慮した値に更新する(時間価値

を 3,000円/時として時間に換算)。道路利用の一般化費用は車種(乗用車、小型貨物、普通貨物)

で共通とする。

cij ij ijt t t

tij’:交通費用加算を考慮した道路利用の一般化費用(時間)

tij:道路利用の一般化費用(現況)

tcij:ij間の交通費用加算分(時間)

なお、地域別のCO2排出量は、ゾーン間のCO2 排出量を発トリップベースで集計する。すなわち、

トリップのCO2排出は全て出発地のゾーンに帰着するものとする。ゾーン間のCO2排出量(旅客

は目的別、貨物は車種別)は、下式により推計する9。

2ij ij ij ijCO d l f v

CO2ij:ゾーンij間のCO2排出量

dij:ゾーンij間の台トリップ

lij:ゾーンij間の距離

vij:ゾーンij間の速度(距離を所要時間で割ることで算出)

f(vij):ゾーンij間の速度別CO2排出係数(車種別に設定)

9 ゾーン間の距離と所要時間は、土地利用・交通モデル(全国版)で構築した道路ネットワークでの交通量配分結果に基づく。

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75

(5)分析結果および考察

1)全国のCO2排出削減

わが国全体では、交通費用加算により、自動車からのCO2排出量は現況から約41%減少する(全

車種合計)。また、自動車走行台キロは現況から約 38%減少する。なお、車種別では旅客(乗用

車)よりも貨物で減少率が大きい。

表 2-16 自動車からのCO2排出量(万トン-CO2/年)

乗用車 小型貨物 普通貨物 全車種

現況(2005年) 12,956 2,716 6,146 21,818

交通費用加算時 9,037 1,415 2,372 12,823

現況からの変化量 -3,919 -1,301 -3,774 -8,994

現況からの変化率 -30.3% -47.9% -61.4% -41.2%

注)ゾーン内々はゾーン内外と同様のCO2削減率とした。 出所:日本の温室効果ガス排出量の算定結果(環境省、2011年4月)

表 2-17 自動車走行台キロ(億台キロ/年)

乗用車 小型貨物 普通貨物 全車種

現況(2005年) 5,201 1,218 1,203 7,622

交通費用加算時 3,679 611 435 4,725

現況からの変化量 -1,522 -607 -768 -2,897

現況からの変化率 -29.3% -49.8% -63.8% -38.0%

注)ゾーン内々はゾーン内外と同様の走行台キロ変化率とした。 出所:陸運統計要覧(国土交通省)

CO2削減には、主にトリップ数の減少およびトリップ長の短縮が寄与するが、特に後者の影響が

大きい。

-41.2%

-38.0%-36.2%

-5.3%

-34.5%

-2.9%

-45%

-40%

-35%

-30%

-25%

-20%

-15%

-10%

-5%

0%

CO2 台キロ 台時 台トリップ 平均

トリップ長

平均

旅行速度

現況

から

の変

化率

(%

図 2-46 交通費用加算時のCO2排出量と関係指標の現況からの変化率(自動車・全車種)

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76

車種別に見ると、旅客(乗用車)よりも貨物で減少率が大きいが、これは貨物の平均トリップ長

の減少が大きく寄与している。自動車から他手段への転換を示す台トリップの減少は、旅客で

7.4%である(貨物では手段分担を考慮していないため増減は無し)。平均旅行速度は、旅客で上

昇、貨物で減少となった。交通費用加算時の旅行速度には、混雑緩和による上昇要因とトリップ

長の減少による減少要因があるが、旅客では前者の影響が上回り、貨物では後者の影響の方が大

きく出たと考えられる。

-30.3% -29.3%-31.2%

-7.4%

-23.6%

2.7%

-47.9%-49.8%

-44.0%

0.0%

-49.8%

-10.4%

-61.4%-63.8%

-54.1%

0.0%

-63.8%

-21.2%

-70%

-60%

-50%

-40%

-30%

-20%

-10%

0%

10%

CO2 台キロ 台時 台トリ 平均

トリップ長

平均

旅行速度

現況

から

の変

化率

(%

乗用車 小型貨物 普通貨物

図 2-47 交通費用加算時のCO2排出量と関係指標の現況からの変化率(自動車・車種別)

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77

2)市区町村別のCO2排出削減

以下、交通費用加算時の市区町村別のCO2削減量、人口1人当たりCO2削減量、および削減率を

図示する。

まず、次の図は市区町村別の削減量を示したものである。全国の CO2 排出削減率は約 41%であ

るから、仮に全国の削減目標がこの値のときには、最も効率的な削減を達成するという考え方の

もとでは、下図に示される削減量が各市区町村の削減割当てとなる。

図 2-48 交通費用加算時のCO2排出削減量(全車種)

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78

人口1人当たりのCO2削減量は、概ね都心部よりも地方部で大きい傾向がある。

図 2-49 交通費用加算時の人口1人当たりCO2排出削減量(全車種)

-0.2 ~ 0

-0.4 ~ -0.2

-0.8 ~ -0.4

-1.0 ~ -0.8

-1.5 ~ -1.0

~ -1.5

凡例(トンーCO2/人・年)

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79

CO2 削減率は、多くの市区町村では30~50%程度となるが、地方部の一部の市区町村ではそれ

よりも小さくなる。これらの地域では、自動車からの転換や目的地の代替が困難であり、交通費

用が加算されても自動車が比較的利用され続けると考えられる。

図 2-50 交通費用加算時のCO2排出削減率(全車種)

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80

3)都市類型別の傾向

市区町村別の分析結果をもとに、都市類型別の傾向について分析する。なお、ここで都市類型と

は、市区町村の人口等をもとに、Ⅰ…人口 100 万人以上、Ⅱ…Ⅰの都市の通勤圏、Ⅲ…人口 50~

100万人、Ⅳ…人口20~50万人、Ⅴ…人口5~20万人、Ⅵ…人口5万人未満の6つに分類したも

のを指す(以下の図中の番号に対応)。以下の議論では、おおよそ、番号が大きくなるにしたが

って都心部から地方部へ移ると考える。

下図は、現況の1人当たりCO2排出量(全車種)を都市類型別に集計し、横軸に累積人口を取っ

たグラフである。1人当たり CO2 排出量は、都心部よりも地方部で大きい傾向があることが分か

る。グラフの面積は総排出量を示しており、総量に関しても地方部で大きい。

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000

一人

当た

りCO

2排出

量(

tーCO

2/人

・年

累積人口(万人)

0.95

1.37

1.701.81

1.94

2.21

III

III IV V VI

図 2-51 現況の都市類型別1人当たりCO2排出量(全車種)

次に、交通費用加算時の1人当たりCO2排出量を都市類型別に集計して図示したものが図 2-52

である。また、これをもとに、現況の排出量から交通費用加算時の排出量を差し引き、削減量を

求めたのが図 2-53である。

交通費用加算時のCO2排出削減量は、もともと排出量が大きい地方部で大きくなるが、削減率で

見ると、逆に都心部の方がやや大きい傾向がある。これは、都心部の方が公共交通をはじめとし

た代替交通手段が整備されており、自動車以外の交通手段への転換が比較的容易であるためと考

えられる。したがって、削減割当ての全体的な傾向としては、削減量では地方部の方が大きいが、

削減率では都心部で大きい、ということになる。

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81

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000

一人

当た

りCO

2排出

量(

tーCO

2/人

・年

累積人口(万人)

0.52

0.810.97 1.06

1.141.34

III III IV V VI

図 2-52 交通費用加算時の都市類型別1人当たりCO2排出量(全車種)

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000

一人

当た

りCO

2排出

削減

量(

tーCO

2/人

・年

累積人口(万人)

0.43(△45.6%)

0.55(△40.6%)

0.73(△42.9%)

0.75(△41.2%) 0.79

(△40.9%)

0.87(△39.2%)

I IIIII IV V VI

図 2-53 交通費用加算時の都市類型別1人当たりCO2排出削減量と削減率(全車種)

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82

(6)結論

1)まとめ

本分析では、交通モデルにおいて、道路走行課税等を想定して自動車利用の交通費用を一律に増

加させ、これによる自動車利用の減少に伴う各地域の CO2 削減量が、国全体の削減量を最も効率

的に達成するものであるという考え方のもと、地域別のCO2(運輸部門)削減割当ての可能性を検

討した。

本分析の設定条件のもとでは、全国の CO2 削減率は約 41%となった。その際の市区町村別の削

減量は、図 2-48 に図示した通りである。したがって、仮に全国の削減目標が 41%であるとき、

最も効率的な削減目標の達成のためには、これらの値を各市区町村の削減割当てとすべきだとい

うことになる。

わが国では、削減割当ては実施されておらず、そもそもそのための方法論も確立されていない。

ここで示した分析の考え方や結果が、実効性のあるCO2削減の一助となれば幸いである。

2)今後の課題

ただし、今回示した分析はいくつかの簡略化された前提に基づいており、より精緻な削減割当て

を求める余地が残ると考えられる。以下、具体的な課題を何点か述べるが、これらは次年度以降

の研究において対応を検討する。

①貨物の交通手段分担の考慮

モデル構築の課題としても述べたように、現在の交通モデルでは、貨物に関しては、自動車以外

の交通手段を考慮しておらず、交通手段分担を扱っていない。今回の分析では、旅客よりも貨物

で CO2 削減量が大きくなったが、これは、貨物は交通手段の転換ができないため、目的地を変更

して大幅に移動距離を削減したことが主な要因と考えられる。これに対して、貨物についても交

通手段分担モデルを構築し、モーダルシフトを内生的に扱えるようになれば、異なる結果が得ら

れる可能性もある。本分析は地域別の削減割当ての検討への応用を目指しており、地域別の削減

負担の実態を反映して、できる限り精緻な分析を行うことが重要である。

②排出量当たりの交通費用加算

本分析では、交通費用加算として、走行距離当たり一律に費用を増加させた。一方、分析の考え

方で述べたような社会全体の削減費用の最小化のためには、厳密には排出量当たり一定の費用増

加が必要である。車種別では、一般に旅客(乗用車)よりも貨物自動車の方が走行距離当たりの

CO2排出量は大きく、そのため現在の設定では、旅客に相対的に過剰な負担を強いている可能性が

ある。また、本分析の排出係数は旅行速度を反映してものとなっており、一般に地方部よりも混

雑している都心部を走行する移動の方が距離当たりの排出量は多くなる。そのため、現在の設定

では、地方部に過剰な負担を強いる結果となる可能性がある。理論と整合するよう改良を検討す

る余地がある。

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83

2-5 分析2:経済モデルを用いた東日本大震災の影響試算

(1)概要

経済モデルを用いて、構築したモデルとデータベースの挙動を確認する目的で、東日本大震災の地

域経済への影響を分析する。再生可能エネルギー導入等、本格的な環境政策の経済評価は次年度以

降に行う。

(2)分析方法

本分析では、東日本大震災の被災地のうち、岩手県・宮城県・福島県・茨城県の4県において企業

の財生産における生産効率が低下したものと考えて、これによる影響を分析する。モデルにおける

生産効率パラメータの低下は、各県の内陸・沿岸別の推定資本ストック被害率10をそのまま生産効率

パラメータの低下率として用いることで表現する。下表に各県の内陸・沿岸別の生産効率パラメー

タ低下率を示す。

表 2-18 モデルにおける震災の影響の設定

生産効率パラメータ低下率

岩手県 内陸部 2.9%

沿岸部 47.3%

宮城県 内陸部 5.1%

沿岸部 21.1%

福島県 内陸部 3.7%

沿岸部 11.7%

茨城県 内陸部 2.1%

沿岸部 6.8%

10 日本政策投資銀行(2011)

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84

(3)分析結果

震災時の地域別の便益(EV)を市区町村別に求めた。結果は下図の通りであり、被災地を中心に

大きく負の便益が出ている。

図 2-54 震災時の便益(単位:百万円)

-16,000

-14,000

-12,000

-10,000

-8,000

-6,000

-4,000

-2,000

0

2,000

北海道

青森県

岩手県

宮城県

秋田県

山形県

福島県

茨城県

栃木県

群馬県

埼玉県

千葉県

東京都

神奈川県

新潟県

富山県

石川県

福井県

山梨県

長野県

岐阜県

静岡県

愛知県

三重県

滋賀県

京都府

大阪府

兵庫県

奈良県

和歌山県

鳥取県

島根県

岡山県

広島県

山口県

徳島県

香川県

愛媛県

高知県

福岡県

佐賀県

長崎県

熊本県

大分県

宮崎県

鹿児島県

沖縄県

便益

(10

0万円

図 2-55 震災時の便益(単位:百万円)

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85

次の図は、地域別の人口1人当たり便益(EV)である。被災地の特に沿岸部に被害が大きいこと

が分かる。

図 2-56 震災時の人口1人当たり便益(単位:万円/人)

-20

-15

-10

-5

0

5

北海道

青森県

岩手県

宮城県

秋田県

山形県

福島県

茨城県

栃木県

群馬県

埼玉県

千葉県

東京都

神奈川県

新潟県

富山県

石川県

福井県

山梨県

長野県

岐阜県

静岡県

愛知県

三重県

滋賀県

京都府

大阪府

兵庫県

奈良県

和歌山県

鳥取県

島根県

岡山県

広島県

山口県

徳島県

香川県

愛媛県

高知県

福岡県

佐賀県

長崎県

熊本県

大分県

宮崎県

鹿児島県

沖縄県

人口

当た

り便

益(万

円/

人)

図 2-57 震災時の人口1人当たり便益(単位:万円/人)

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86

(4)結論

1)まとめ

本分析では、今年度研究で構築したデータベースと経済モデルを用いて、東日本大震災の影響分

析を行った。結果、市区町村レベルで詳細にアウトプットを出すことが可能なモデルであること

を検証した。影響分析では、モデルにおいて被災地の企業の生産効率パラメータを一定程度低下

させた結果、被災地を中心に大きく負の便益が出ることが示された。

今後、評価施策を再生可能エネルギー導入等とすることで、様々な環境政策の評価への応用も可

能であり、次年度以降の具体的な政策評価につながるモデルが確立された。

2)今後の課題

モデル構築の課題としても述べたが、本分析では、中間財を考慮していない。より精緻な分析の

ためには中間財を考慮したモデルとする必要があり、次年度研究では、このためのモデルの改良

および必要なデータ整備に取り組む。

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87

2-6 要因分析手法の検討

(1)概要

地方公共団体が温暖化対策を検討する際に、自らの地域の特性とCO2排出の因果関係を把握し、

それをふまえたうえで効果的な対策・施策を選定できるよう、交通、土地利用、経済等の多様な面

からCO2排出の要因分析を行う手法について検討する。

次年度以降の研究では、要因分析の簡便化、普及促進のためのシステム・ツール化を図るが、今年

度はそのための仕様(要因分析の必要項目)の検討を行った。

(2)検討の背景

地方公共団体が実行計画策定等において温暖化対策を検討する際には、地域特性に応じた効果的な

対策を実施することが重要である。そのためには、まず地域特性を把握し、CO2排出との因果関係

を理解しなければならない。特に本研究が対象とする民生部門及び運輸部門のCO2排出には、直接

的にはエネルギー消費や交通のあり方によるが、さらにそれらは企業や家計の立地、交通基盤の整

備状況、その他様々な要因に依存する。

このような要因分析の必要性は大きいにも関わらず、それらを網羅的に分析するには膨大なデータ

の収集や加工を必要とすることもあり、その方法は必ずしも確立されていない。本研究では、自治

体の計画策定支援の観点から、要因分析手法の確立を目指す。

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88

(3)要因分析手法

要因分析の簡便化と普及促進のため、3カ年の研究において最終的にはシステム・ツール化を目指

すが、今年度研究ではそのための仕様(要因分析の必要項目)の検討を行った。要因分析を大きく

交通面、土地利用面、経済面の3つに分けて、下記の通り検討した。

1)交通面の要因分析

①交通量の分布

都市の居住者や従業者がどこからどこへ、どの程度移動しているのかをOD表により空間的に把

握する。自動車交通量の多さや移動距離の長さは、CO2 排出の増加に直結する。OD 表の作成は、

自動車に関しては、道路交通センサス起終点調査を用いる。他の交通手段については、都市圏パ

ーソントリップ調査実施都市であれば、そのま用いることができるが、そのようなデータが無い

場合には、別途推計を行う。

相模原市:65歳未満(平日)

図 2-58 交通量の分布(相模原市・65歳未満・平日)

②交通ネットワーク

交通量分布は、当然ながら道路、鉄道、バス等の交通ネットワークに依存する。道路網が郊外部

まで広く整備されていたり、公共交通網が未熟な場合には、自動車がよく利用され、移動距離も

長くなるため、CO2排出量が大きくなる要因となる。

図 2-59 道路ネットワーク(高知市)

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89

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105km

図 2-60 公共交通ネットワーク(高知市)

③交通量の内訳

交通手段分担率を把握する他、セグメント別に有効な対策を実施するために、交通量をさらに細

かく見ていく。例えば、旅客は移動目的別、貨物は車種や品目別に内訳を把握する。

10.1%

5.5%

2.5%

2.9%

35.7%

45.2%

52.8%

52.9%

20.7%

18.7%

29.7%

30.2%

33.5%

30.6%

14.9%

14.0%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

柏市

青梅市

徳島市

高知市

公共交通 自動車 二輪 徒歩

図 2-61 交通手段分担率(柏市・青梅市・徳島市・高知市の比較)

0.2%

0.1%

2.4%

9.1%

11.6%

7.7%

7.5%

2.2%

4.3%

2.5%

5.8%

2.0%

40.9%

62.6%

27.3%

13.9%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

小型自家用

普通自家用

通学 私事(経済活動無し) 通勤 私事(買物) 私事(観光・レジャー) 私事(その他) 業務 帰宅 図 2-62旅客自動車台トリップの車種別・移動目的別内訳(全国)

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90

6.3%1.8%

5.0%2.8%

0.9%1.5%

1.5%5.4% 12.3% 0.7% 11.7% 35.2% 14.8%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

6.5%1.5%

2.8%1.7%

0.7%1.6%

1.1%4.7% 10.4% 0.9% 8.2% 53.6% 6.1%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

台トリップ

台キロ

空車(旅客利用)

6.9%2.3%

5.6%2.9%

1.2%1.8%

1.6%6.4% 13.4% 1.0% 14.7% 27.2% 15.2%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

CO2排出量

農林水産品 鉱産品 金属・金属製品 機械 窯業・土石製品 石油・石油製品 化学工業品 軽工業品 雑工業品 廃棄物 空車(貨物運搬) 空車(旅客利用) 不明

図 2-63 貨物自動車の台トリップ・台キロ・CO2排出量の品目別内訳(全国)

2)土地利用面の要因分析

①人口・従業者の分布

人口や従業者の分布は、移動の目的地選択等に影響を与えるため、これらを把握することは重要

である。また、その集中・分散の程度は、都市構造の集約化がどの程度なされているかを示し、

コンパクト化関連施策の検討のための基礎情報ともなる。さらに、都市計画の状況と照らし合わ

せて、目指すべき都市構造と都市計画の整合を担保することも重要である。

0 105㎞

図 2-64 人口密度(徳島市)

②建物用途・建て方

人口や従業者の分布だけでなく、実際にどのような建物が利用されているかは、エネルギーの効

率的利用の観点から重要な情報となる。工場の排熱等は熱エネルギーの供給源となり得るし、一

方で需要側では、例えば戸建よりも集合住宅の方が需要が集中するため効率的にエネルギーを活

用できる可能性がある。このような地域の未利用熱等の供給と需要の空間的な分布を把握し、効

果的なCO2排出削減施策の検討につなげる。

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91

0 1 2 3 4 50.5km

凡例

郊外

河川・湖沼

町丁目

エネルギー消費量(TJ/年)

0 - 5

6 - 10

11 - 25

26 - 50

51 - 100

101 - 250

251 - 500

501 - 1,000

図 2-65 民生(家庭)部門エネルギー需要分布(徳島市)

76.7TJ

53.6TJ

54.3TJ

80.8TJ

226.2TJ

226.2TJ

0 1 2 3 4 50.5km

凡例

郊外

河川・湖沼

町丁目

エネルギー供給量(TJ/年)

0 - 5

6 - 10

11 - 15

16 - 25

26 - 50

51 -

図 2-66 工場排熱供給ポテンシャルの分布(徳島市)

3)経済面の要因分析

都市の経済構造からも、いくつかの観点から要因分析を行うことが可能である。例えば、中心市

街地と郊外のどちらが発展しているかは、人々の目的地選択に影響を与え、自動車からの CO2 排

出量の要因となる。あるいは、産業構造によって、物流の経路が異なるため、これも主に貨物自

動車からの CO2 排出を左右し得る。また、同じ製造業でも、工場からの排熱等は産業によって大

きく異なるため、未利用熱のポテンシャルの把握にも役立つと考えられる。

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92

柏市 青梅市 徳島市 高知市

人口等

人口(2005年) 380,963人 142,354人 267,833人 348,990人

DID人口密度(2005年) 87.58人/ha 62.74人/ha 51.82人/ha 63.58人/ha

人口密度(2005年) 33.09人/ha 13.76人/ha 14.37人/ha 11.32人/ha

都市化度(DID人口/総人口)

0.89 0.77 0.71 0.81

歴史 町の成立ち東京の衛星都市

(明治以前は寒村)宿場町 城下町 城下町

産業

商業

従業者数(2009年) 146,518人 57,236人 149,713人 164,984人

就業人口構成(2010年)第1次産業 1.2%第2次産業 17.1%第3次産業 74.0%

第1次産業 1.0%第2次産業 28.5%第3次産業 66.6%

第1次産業 3.7%第2次産業 18.5%第3次産業 72.1%

第1次産業 3.1%第2次産業 15.2%第3次産業 76.9%

製造品出荷額上位3業種(2010年)

電気機械器具 19.6%

食料品 14.9%

飲料・たばこ・飼料 11.9%

電子部品・デバイス 73.5%

電気機械器具 23.2%

輸送用機械器具 10.5%

化学工業 73.5%

食料品 4.5%

飲料・たばこ・飼料 4.0%

食料品 20.6%

輸送用機械器具 17.9%

鉄鋼業 13.5%

小売業年間販売額

(2007年)(2004年比)4,671.4億円(+6.5%) 1,130.9億円(-3.6%) 3,0178億円(-1.1%) 3,979.4億円(-2.6%)

図 2-67 経済面の要因分析の例

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93

(4)結論

1)まとめ

以上、CO2排出要因分析手法を大きく交通面、土地利用面、経済面の3つに分けて、下記の通り

検討し、アウトプットの例とともに示した。

地方自治体が地域特性に応じた効果的な温暖化対策を実施するためには、まず要因分析をふまえ

て地域特性と CO2 排出の因果関係を把握することの意義は大きく、このような分析手法の確立と

普及が必要である。本研究では、3カ年で最終的にはシステム・ツール化を目指すが、今年度研

究ではそのための仕様(要因分析の必要項目)の検討を行った。

2)今後の課題

次年度以降の課題としては、下記の通りである。

①汎用的な手法の整備

全国の地方自治体が利用可能な手法を確立するため、利用可能なデータに基づく分析手法が必要

となる。各種統計データ等の利用可能性を整理し、下記のシステム・ツール上で利用可能な、汎

用的な手法の確立を目指す。

②システム・ツール化に向けて

分析手法が確立されたとしても、それには膨大なデータの収集・加工等が不可欠であり、各自治

体の担当者が個別に行うには負担が大きい。そのため、可能な限り自動化し、最終的には統一的

なフォーマットでのアウトプットを出せるようなシステム・ツール化を目指す。

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94

2-7 結論

(1)平成24年度の成果のまとめ

ここまで、今年度研究における実施内容の詳細を記したが、その成果の概略は下記の通りである。

1)データベース構築

本研究が主眼とする詳細な地域別のモデル分析に必要なデータは、既存の統計ではカバーできず、

独自に整備する必要があり、今年度はこれらのデータベースの構築を行った。必然的に膨大な量

のデータの収集・加工が必要であったため、本年度研究においては、作業ベースでは、このデー

タベース構築のウェイトがかなり大きいものであった。

一旦データベースが整備されれば、モデル分析による様々な政策評価が可能であり、次年度以降

の研究の土台は確立されたという認識である。また、このデータベース構築は、将来、地方自治

体が温暖化対策を策定する際の活用も意図しており、可能な限り汎用的な形で整備されている。

地方自治体の科学的な計画策定の一助となることを目指したものである。

2)モデル構築

各モデルについては、それぞれすでに実績があるモデルをベースとしているが、評価対象の政策

や、あるいは今回新たに整備するデータベースとの整合性等により、モデル構造を改良する必要

があったため、本研究で構築するモデルの構造(用いる方法論や定式化)について検討し、整理

した。結果、モデルの基本構造はこれで確立されたという認識であり、次年度以降の具体的な分

析、政策評価につなげていく。

3)モデル分析

構築したモデルをもとに様々な環境政策評価を行うことが3カ年での本研究全体の目的である

が、今年度は上記のデータベース構築およびモデル構築が主な内容であったため、モデルを用い

た分析としては、実際的な政策評価の段階ではなく、あくまでモデルの挙動を確認することを主

眼として、いくつかの簡単な分析を行った。具体的には、交通モデルを用いた道路走行課税の影

響試算、及び経済モデルを用いた東日本大震災の影響の試算を行った。

4)要因分析手法の検討

上記のモデル構築・分析の作業とは別に、将来、地方自治体が本研究の成果を用いて自地域の温

暖化対策を計画する際に必要となる、CO2排出の要因分析手法について検討を行った。これは、次

年度以降のシステム・ツール化を目指しており、今年度はそのために必要となる項目について検

討した。

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95

(2)平成25年度以降の研究に向けて

今年度研究の成果をふまえて、次年度以降に取り組む項目は以下の通りである。

1)個別モデルの改良

個別モデルの基本構造については、今年度で概ね確立されたという認識ではあるが、より精緻な

分析を可能とするため、次年度以降も引き続き問題点を随時、改良していく。具体的には、経済

モデルにおいては中間財の考慮、交通モデルにおいては貨物の交通手段分担の考慮等について検

討する。あわせて、必要なデータベース整備に取り組む(東日本大震災等により地域構造が変化

している可能性も考慮)。

また、評価モデルについては、より多様な指標の評価可能性について検討する。さらに、経済モ

デルに関して、地域構造が断続的に変化する状況も扱うため、一般均衡モデルのみならず、不均

衡状態を扱う理論モデルの可能性についても検討を行う。

2)統合モデルによるシミュレーション

今年度分析では個別モデルを用いたシミュレーションを行った。次年度以降は、各モデルを統合

し、総合的な評価を行うための土台を確立する。交通・土地利用・経済を整合的に評価すること

を可能とするのが、本研究の最も特徴的な点の一つである。

3)具体的な政策評価のための準備

上記の統合モデルを用いたシミュレーション分析により、最終年度までに、わが国全体の CO2

排出量の予測に加えて、都市構造のコンパクト化施策、あるいは再生可能エネルギー導入等の評

価を行い、地域別に詳細なアウトプットを得ることを目指す。

4)要因分析手法のシステム・ツール化

今年度検討した要因分析手法をもとに、地方自治体への普及促進の観点から、そのシステム・ツ

ール化を図る。これは可能な限り要因分析のプロセスを自動化したものであり、将来の自治体の

温暖化計画策定に役立てることを目指す。

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3.参考文献

上田孝行編著(2010),“Excelで学ぶ地域・都市経済分析,” コロナ社.

経済産業省(2005),“地域経済構造分析の手引き”

日本政策投資銀行(2011), 東日本大震災資本ストック被害金額推計

J. Brocker (1998), “Operational spatial computable general equilibrium modeling,” The

Annals of Regional Science, 32(3), 367-387.

PROPOLIS (2004), PROPOLIS final report

(http://www.ltcon.fi/propolis/propolis_final_report.pdf)