史料の編纂と歴史情報の共有公開用
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1編纂と文化ー『竹取物語』の「不審本文」1
車持皇子・蓬莱玉枝の偽造
(鍛冶工を集めて、隠れ家を
造り、垣根を厳重にして)皇
子も同じ所に籠り給ひて、知
らせ給ひたる限り十六そを、
かみに(て)竈突をあけて玉
の枝を作り給ふ。
従来「知る(領知する)十六の所
(そ)を」と解釈。しかし、それ
では意味が通らない。
私見「知る限りの十六所拝みて
(読点不要、校訂「に」→
「て」。変体仮名は酷似)」
「くど=
竈突(鋳物細工の炉の
煙抜)」。天に祈るのは煙を上
げる。
十六所祈祷の初見史料。
伊勢神宮を中心とした朝廷の祈
祷体制=
平安時代の神道の成立
『文化と編纂』講演会「史料の編纂と歴史情報の共有」於函館、 20101123保立道久
『竹取物語』の不審本文2
車持皇子の嘘話・蓬莱島到着の場面
(遙かに見えた島につき、浜辺にでてき
た天人のような女と問答して、この島が
蓬莱島であることを知ったが)、この女、
『かく宣ふは誰ぞ』と問ふ。『我名はう
かんるり』と云ひて、ふと山の中に入り
ぬ。
従来「女が『貴方は誰』と聞き、続いて「私
(天女)は宝冠瑠璃」と名乗って、(天女
が)山の中に入った」。すべて主語は天女と
解釈。
私見。“うかんるり”とは若翁(わかんどおり
の音便表記。。皇子の古語。『隋書倭国伝』
がもっとも古い。「女が『貴方は誰』と聞く
ので、「俺は皇子だ」と名乗ってすぐに山に
入った(そして蓬莱の枝をとったとホラを吹
いた)。
九世紀の皇子が「若翁」と名乗ったこと
を示す唯一の史料。
そう名乗っ
て外国製品を持っ
てくる。
9世紀の活発な貿易、
「
唐物
」
貿易を反映。
北海道からも熊・海獣の毛皮・おそらく昆布
『
竹取物語
』
は、
皇子は「
謀・心支度
」
ある存在とする。
貴族は「
富
」(
阿倍氏
)「
武
威
」(
大伴氏
)「
官
」(
石上氏
)
などという区別。
皇子を国家指導者として位置づ
ける皇親政治の考え方の反映。
『竹取物語』の不審本文3
天皇とかぐや姫の惜別
「(月の使者がかぐや姫を連れ帰ったのち、かぐや姫
が天皇に残した不死の薬とそれにつけた天皇への手紙
をもって、蔵人頭が天皇の許に報告にきて)藥の壺に
御文そへて參らす(中略)。これをきかせ給ひて、
あふことも涙にうかぶわが身には
死なぬ薬も何にかはせむ
かの奉る不死の藥に(の)、又(文)壺具して、御
使に賜はす。(中略)(富士山山頂で)御文、不死の
藥の壺ならべて、火をつけて燃やすべきよし仰せ給ふ。
従来は一般に「不死の薬に、くわえて壺も一緒に、
富士山にそれらをもっていく使者に渡した」と解釈。
これではおかしいので、「又」は「文」の誤写とし、
さらに語順を変更し、「不死の薬の壺に、天皇の
「文」を添えて」という解釈もある。
私見。ここにでてくる「文」はすべてかぐや姫から
天皇への「文」。「又」は「文」の誤写。変体仮名
の類似によって「に→
の」と校訂し、「不死の薬の
文」は「かぐや姫が不死の薬に添えた文」であると
解釈し、それに「壺を具して(添えて)」と解釈。
天皇は和歌は読んだが、手紙は出さなかった。そし
て、「かの(かぐや姫)奉る文」も焼いてしまった。
神話との訣別=
物語の成立
天界への権利の記憶は維持するが、俗界の王と
して止まるという諦念と威厳→→
。物語の成立
編纂と文化 一字の理解が神道史・王権論・神話=物語論の基本に関わってくる。編纂とはそういう問題である。それによって歴史観察の定点ー神話の時代の終わり9世紀を設定する。
「編纂」は、「文化」の基礎をつちかう。学術の基礎。事実確認。歴史学では「考証」という作業。典拠史料の確認。自然科学でいえば「実験」にあたる。
「熟慮」にどのような場合も共通する、基礎リサーチ。市民をふくめた様々な参加。研究のフロンティアではないが、研究の必須条件。
2活字編纂の実際ー私の従事する『大日本古文書』を例に
@日本の歴史史料の膨大な存在。東アジアの中で随一。@解読の困難。字種が無数。漢字と仮名の同時存在。毛筆の字体が多様。@編纂者は「崩し字」をよむ職能者。何よりも文字を読む作業。経験的な能力と訓練に支えられた器用仕事・手技。
1900年より編纂開始『大日本古文書、家わけ』135冊(2010年3月発刊ずみ)。武家文書 (島津・益田・毛利など)寺院文書(高野山・東大寺・大徳寺)
①文字復元、翻字、筆跡、朱、抹消形態の復元、校訂注の付与、②文脈復元、読点付与、③内容解釈、文書名付与、標出、説明注(地名人名など)、④「物」としての形態、料紙、付箋、接続関係など、⑤文字配列指定、改行、排列、本紙、裏紙、封紙、包紙、表裏、端裏、見返、位置指定、⑥図版、写真指定活字出版は、出版期限、訂正機会の少なさなどの諸条件の中で最善の努力を行うことを強制する。少なくとも当面は必須のもの。
『大日本古文書』を例に
『真珠庵文書』⑦913-3
3編纂の電算化の試み ①編纂の電算化の諸条件 (イ )自治体史など史料集の増大ーー 編纂+αが必要。 (ロ ) 印画紙の生産終了ーーーー史料蒐集のデジタル化 (ロ ) 活版印 刷から電算写植ーー電算データを利用
②「夢」ー編纂の本質と編纂研究の構造 電算化を前提に編纂過程を見直す。テキストの内容と背景を知り尽し、それを正確に表記するために。
(1)典拠史料集合を作りだし、管理する作業。 (2)関係知識を獲得、発 見、補充、管理する作業。 (3) 上 記の典拠史料集合と歴史知識を集団的に交流・ 蓄積する作業。
編纂の本質。史料それ自身とその相互関係内部の諸脈略の復元自体に自己限定する「現象学」。歴史研究のフロンティアとはことなり、史料の向こう側に存在する歴史 的社会の復元を意識しない。
③編纂の電算化の諸成果
( イ ) 目録情報の整備 史料編纂所図書部。 貴 重書・ 複本などを所蔵する特殊図書館。 図書業務の電算化 「史料所蔵目録」(ライブラリーデータベース)
ライブラリアンによる史料管理とインターネット公開
( ロ )史料蒐集のデジタル化(進行中) 印画紙の生産終了→史料写真データのデジタル化。 大 量史料の写真データ集積の条件を獲得 (とくに戦国時代 以降)
( ハ )通時代的なテキストデータの充実(1)編年総合史料 『大日本史料』(編年史料)の Fulltext化の開始
(2)編年古文書史料 活字化された 8~14世紀の古文書・古日 記の基本部分のデータ化の完成 『正倉院文書』(奈良時代)、竹 内理三氏編『 平安遺文』・『 鎌倉遺文』『大日本古文書家わけ』(135冊のうち93冊Fulltext化完了)、(3)古記録(古日記)史料『大日本古 記録』(平安鎌倉の古日記)など。
(4) 近世・ 維新史料のデータ化の進展
編纂の電算化を突き動かしたのは、編纂の正確性と速度を増そうという職能意思。これに抵抗することはできなかった。確実な成果。
4知識ベースの構築へーー検索行為の蓄積 ①知識ベースの要求の諸条件
( イ )研究=検索行為の繰返し。 皆が同じことをしている。
( ロ ) 各機関で増加するデータベースの統合 ライブラリ・アー カイヴを含め、
→知識として蓄積しよう。複数の史料に現れてくる「ヒト ・ コト ・モノ」を集成。
(データベースから知識ベースに)。 ( ハ ) 膨大な史料にもとづく研究の 複雑化
研究の現状が社会の側にみえなくなっている。大量の論文。全体の俯瞰が困難化。
研究者自 身にも、ライブラリ・アー カイヴズからもみえなくなっている。
研究の進展の管理。
5知識共有の NETWORK アカデミー・ライブラリ・アーカイヴズ
知識ベース構築を基礎とした職能的協同。 ヒト・コト・モノについての総合知識をネットワークで蓄積し、公開していく枠組
『 箱館奉行所史料』 ー日本近代初の国際貿易港 箱館奉行文書(北海道道立文書館) 杉浦梅潭・箱館奉行日記(国文学研究史料館) 小野正雄・稲垣敏子編 1991年、みずうみ書房 『函館市史』
写真史料の所蔵ネットワーク ①Hawell Collection(Royal Asiatc Society)、 イギリス、デント商会(箱館)貿易商。ポルトガル領事 ②杉浦梅潭史料(国文学研究資料館) ③函館中央図書館・博物館の写真
北海道史の定点を作る
アカデミー・ ライブラリ・アー カイヴズ
研究の前提にネットワークで活動していた。目にはみえないけれども、そういうものが存在していた。それを最初から意識して活動する。コンピュータネットワークによって、そのネットワークを可視化・ 常在化。
アイヌ史にさかのぼるー榎森進「アイヌ民族の去就」(『北から見直す日本史』大和書房、2001年) 志海苔の銭甕ー38万枚の中国銭ー北海道の巨大な富の象徴 北海道ー縄文文化ー(弥生文化は展開せず)ー続縄文文化 7世 紀から13世紀
北海道の中 南部ーー擦文文化(アイヌ文化) オホーツク海 沿岸ーーオホーツク文化(ギリヤーク文化) 靺鞨文化、女真文化と密接な関係。
13/14 世紀 ーギリヤークとアイヌの人々の抗争 モンゴルとギリヤークの連合ーアイヌ民族との 戦争 アイヌのユーカラ、「英雄叙事詩」の背景をなす。 有名な 知里真志保氏の 仮説の新展開。
「日本」という国家 ①東アジア東端の「富」ーア イヌとの交 易 ②「緩衝地帯」としてのアイヌ民族ー 列島の平和、
北からの 侵入の阻止
ネットワークが知識体系を組替える
アカデミー・ ライブラリ・アー カイヴズ
「通史」と「史料」をめぐってライブラリーとアカデミーがどう連携するか。大量の自治体史
通史本文Fulltext
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リンク形成(典拠史料)
史料Fulltext
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教育=教材研究
蓄積
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アカデミー・ ライブラリ・アー カイヴズ最も発
展した
知的
ネッ
トワー
ク=
図書館(
県市
町村)
ネッ
トワー
クの
媒介者としての
重要
性。
博物館の位置
(歴史)
教育の位置
行政・電子自治体
6学術表現の将来 ①歴史関係学術書の将来 ( イ ) 概説普及書ーーBOOk増加 ( ロ ) 方 法論書ーーーBOOK 厳選 ( ハ ) 個人論文集ーーBOOK 消滅、デジタル化(論文
デジタル化の自動集約) ( ニ )史料集の将来ーーBOOK 厳選、デジタル化・高度化が基本。
50年経つと、写真・活字そのす べてがデジタル化される。知識化史料集の高度化によって史料集という 形態はなくなる。将来は論文を史料リンク付きでオープンにするのがよい。史料画像が重要になる。
学術表現の将来 ② 人文社会系学術生産のネットワーク化 発 見と活 動のみがあって先取 権のないアソシ
エーション。外 部脳の職能的共有。PCに全てが入っている。知識データから発 想のツールへ。
知的生産ネットワークブログの経験
データベース ・ 知識ベース
私的領域
結論・夢と熟慮の共有ー内面の豊かさへ 「古代。言われる論理」(弁論の論理)、「中世。書かれる論理」(瞑想の論理)、「近世。印刷される論理」(経験の論理)(中井正一「委員会の論理」)。 「書かれる論理」=「羊皮紙(経典・SCROLL)に書くこと」=「記憶」。世界宗教=瞑想は経典によって可能になった。 「印刷される論理」=「本・BOOK 」=「外部記憶の道具」。頁に分節。中国宋代の発明。経験と技術。 「 Computer の論理」=「データベースと network 」=「外部脳」。外部脳をもつことによって、心の内側を熟視する。新たな瞑想。新しいの内面の時代。 無意識的に作ってきたネットワークを、情報ツールによって
可視化し、意識的な活 動の前提とする。「連携」の時代。 コミュニティ(地縁・ 血縁)と専門性(アソシエーション)の時代へ
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