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Post on 11-Jun-2020

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哲学史における自由 哲学・思想の基礎02

担当:熊坂 元大

•近代社会では、個人が自由を享受することが当然のことと考えられており、いわば社会の基盤を構成する重要な一要素に

•同時に私たちの周りでは、自由と自由の衝突や個人の自由と全体の福祉との衝突が頻繁に起きている

•ここでいう近代とは、時代的な区分ではない

•哲学・思想辞典(岩波書店)では、暴力の国家への集中、均一的な税制の貫徹、官僚制の確立、政治の職業化、民主主義の拡大と貫徹、個人主義と人権思想の拡大などが、その特徴として挙げられている

•宗教や伝統的権威の地位低下→

世俗的な社会・人間中心主義の社会

•自由が前提とされているはずなのに、私たちは自分の自由が制限されていることもあれば、逆に自由を要求する個人や集団を「他者や全体のことを考えないエゴイスト」と見なすこともある

•良い自由と悪い自由があるのか?

•そもそもなぜ自由が前提されるのか?

自由について考えるうえで

•西洋哲学の歴史を振り返ることは重要

•なぜなら、今日私たちが論じるような自由の概念も、明治期に西洋から輸入されたもの

•ちなみに哲学という訳語が定着する以前は、『性理学』や『希哲学』と訳されていた

•哲学発祥の地が古代ギリシャ(希臘)なので、まずはその時代を振り返る

余談ですが

•馴染みのないヨーロッパの概念を日本語に翻訳するというのは、かなり大変

•カント哲学の用語に「超越論的純粋理性」というものがあるが、初期の邦訳では「卓絶極微純然霊知」だったり

古代アテネの自由

哲学が誕生した古代ギリシャ

•なかでもアテネは、ソクラテス・プラトン・アリストテレスといった著名な哲学者を輩出した都市国家

•また民主政であり、市民にはさまざまな権利が認められ、アテネの発展と共に自由を謳歌

古代アテネの自由と近代的自由の違いは?

哲学が誕生した古代ギリシャ

•なかでもアテネは、ソクラテス・プラトン・アリストテレスといった著名な哲学者を輩出した都市国家

•また民主政であり、市民にはさまざまな権利が認められ、アテネの発展と共に自由を謳歌

古代アテネの自由と近代的自由の違いは?

1)自由人と奴隷の区別

哲学が誕生した古代ギリシャ

•なかでもアテネは、ソクラテス・プラトン・アリストテレスといった著名な哲学者を輩出した都市国家

•また民主政であり、市民にはさまざまな権利が認められ、アテネの発展と共に自由を謳歌

古代アテネの自由と近代的自由の違いは?

1)自由人と奴隷の区別

2)個人の自由と共同体の序列

ソクラテスの紹介 •市場などで市民と問答を行う

•著作なし

•妻クサンティッペは悪妻の代名詞

•自身を「最も賢い人物」とする神託を、「無知の知」ゆえのものだと解釈

ソクラテスの紹介

•対話において、相手のロゴスを通じて、知識を生み出させる(産婆術とも)。 •自分自身が妊娠するわけではない •困難な出産を助ける/流産させる

•知恵者とされる人物のもとへ赴き、人間にとって最も重要と思われる真・善・美といった事柄について尋ね、相手の主張を内在的に破綻させる

•市民の怒りを招いたことで死刑に

ソクラテスの罪状と弁明

•不正を行い、また無益なことに従事する

•悪事をまげて善事となし、かつ他人にもこれらの事を教授する

•青年を腐敗せしめかつ国家の信ずる神々を信ぜずして他の新しき神霊を信ずる

•こうした事実はないと否定したうえで、自らの対話活動を正当化

どのように?

古代アテネの自由

•ソクラテスは、対話活動を「個人の自由」の名のもとに正当化していない

•ソクラテスの弁明は、神の権威と共同体の利益を根拠としている(共同体・宗教的権威>個人の自由)

•これはソクラテス個人の特殊な考えではなく、当時の基本的な考え方

『アンティゴネー』、歴史家(ヘロドトス)

政治家(ペリクレス)etc.

古代アテネの自由

•どれだけ個人が自由を謳歌していたとしても、共同体は必要に応じて、個人の自由を好きに制限できた

古代アテネの自由

•どれだけ個人が自由を謳歌していたとしても、共同体は必要に応じて、個人の自由を好きに制限できた

•現代社会も同じ?

古代アテネの自由

•どれだけ個人が自由を謳歌していたとしても、共同体は必要に応じて、個人の自由を好きに制限できた

•現代社会も同じ?

•古代アテネでは、個人を非難することは容易だったが、アテネを非難することは稀

•現代は国家や政府を非難することは極めて容易で、個人は法によって保護されている

古代アテネの自由

•古代アテネで自由が評価されるのは、それが共同体の繁栄(軍事的成功)をもたらしたと考えられたから

•独裁制時代のアテネは他のポリスから抜きんでた存在ではなかったが、民主制になって覇権をにぎる

•自由はアテネの偉大さの原因として正当化されるのであって、個人の権利の為ではない

•自由で平等な個人という考えは、近代の産物で、その最初期の思想家がホッブズ(ただし自由よりは権威より)

ホッブズの思想における自由

ホッブズの紹介 •自称「恐怖との双生児」

•極めてラディカルな唯物論者

•ラディカルの語源は「根」

•そこから派生して「根本的」「過激」という意味に

•ホッブズ思想は、どちらの意味でもラディカル

『リヴァイアサン』

•ホッブズの最も有名な著作

•このなかでホッブズは自由意思を否定(唯物論的・機械論的な人間観と国家観)

•自由を持つ諸個人が生み出す自然状態から、いかに国家が成立し正当化されるかを論じる

ホッブズの意志の自由についての考え

•ホッブズにとって、自由とは「外的障害の欠如」のこと

•全ての出来事には原因があり必然的

•しかし私たちはその一部を自由だと評し、その他を自由ではないという

•両者の違いは原因が行為主体の中にあるか否か

•人間は意志の通りに行為する自由を持てる

•しかし意志の自由はない、意志にも原因があるから

ホッブズの意志の自由についての考え

•人は自分が何をしたいか、すべきか熟慮する

•熟慮してた結果は必然的なもの

•熟慮(deliberation)とは自由(liberty)を否定(de-)すること

•ホッブズは、人間も感覚や欲求によって動く機械やボールのようなものとして理解

•自由な意志とは、丸い四角のごとき無意味な言葉

ホッブズの描く自然状態

•既存の社会や国家を前提せず、人間がどのように振る舞うか考えてみる(思考実験)

•社会や国家がないので、決まり事も罰則もない

•誰もが意志の通りに行為する自由がある

•これが自然状態における自由

•ただしホッブズは(本書では)、自然状態の人々に自己保存の権利があるとは言わない

ホッブズの描く自然状態

•権利があるということは、したりしなかったりする自由を持つということ

•ホッブズの理解では、人は必然的に生命を保存しようとする(選択の余地はない)

•自然状態で人は自己保存の欲求、生命を失う恐怖に駆られ、身を守るためにあらゆることを行う

•そして人はその権利(=自然権)を有する

ホッブズの描く自然状態

•自然状態では「万人の万人に対する闘争」が、常に存在する

•誰かが有力になれば、それだけ危険が増すので、皆が他者の繁栄を妨害

•そうした不安定な状況では、知識の蓄積もできず、文化も発展せず、継続的な暴力と死の危険にさらされることに

•自由があるはずなのに、自由を実現できない

ホッブズの描く自然状態

•死への恐怖、快適な生活への意欲が、人々に協定を結ばせ、人造の強力な保護者を作り出す

•国家(リヴァイサン)の誕生

•してはいけないこと(must not~)は増えたが、できないこと(can not~)が減る

•王権神授説のように神に頼ることなく、国家成立を論じたことで、無神論者として攻撃されることに

ホッブズが描き出す人間像・自然状態・国家成立への道筋に納得する/しない?

ホッブズの社会契約

•同意によるものであれ、征服によるものであれ、人々が国家の一員になるとき、自然権のほとんどを放棄する

•ただし自然権、自然的自由の全てを放棄するわけではないし、放棄することはできない

•なぜ?

ホッブズの社会契約

•同意によるものであれ、征服によるものであれ、人々が国家の一員になるとき、自然権のほとんどを放棄する

•ただし自然権、自然的自由の全てを放棄するわけではないし、放棄することはできない

•なぜ?

•人の行為の根本的動機は自己保存だから

ホッブズの社会契約

•それゆえ国家の命令といえども、自らの身を危険に晒すような命令を、拒否する権利を個人は有する(徴兵拒否、刑罰への抵抗など)

•ただし、当人や重大な利害を共有する数人の人々以外は、国家の命令に従い他の人々を国家に従わせる義務があるので、国家の主権は安定的に保たれる

•その他の自由は法の沈黙に依存

ロックの思想における自由

ジョン・ロックの紹介 •近代認識論とイギリス経験論の先駆者

•心を「タブラ・ラサ(白板)」にたとえ、一切の観念は経験に由来すると考えた

•政治哲学の分野では、フィルマーらの王権神授説に反対、のちの市民革命の理論を提供

フィルマーの主張 •人は生まれながら自由という思想は誤り(人は生まれた時から親に従う)

•王権は神がアダムに与えた権利に由来

•自由主義は放縦を許し社会を不安定にする

•社会契約の動機がない

•王の権力を弱め法王の復権をもくろむ神学者の陰謀

• Two Treatises of Government(『統治論/市民政府二論』)の第一論文は、フィルマーへの批判

•整合性のある自由主義を提示し、自由主義が安定した社会の土台となることを主張

•そのための基本となる考えは

1)人間は理性に従って行動する

2)人間は神の被造物として平等

•理性すなわちロゴス

•人間(神の被造物)がもつ知的能力であると同時に、世界に存在する普遍的法則

•人が社会のなかでどう生きるべきかという事柄、すなわち道徳は、生まれながら持っているものではなく(タブラ・ラサ)、理性を通じて発見されるものだからこそ普遍性を持つ

•神が王に権利を与えたという主張は、理性にもとづく合理的な批判に応答できない

ホッブズとの比較

•ホッブズ(だけではない)は、基本的に人の意志を欲求と同一視

•ロックは欲求の充足が善であることを認めつつも、人は手当り次第に欲求を満たそうとするのではないと指摘

•人が満たすのは、各自が持つ幸福の概念と一致する欲望

•人は第一に幸福を追求する

ホッブズとの比較

•欲望について検討し、決定・行動することは、自由を終わらせるのではなく、自由の目的・行使

•法は個人の欲望を制限するものではなく、より善い生活へと人々を向かわせるもの

ホッブズとの比較

•ロックの考える自然状態は、ホッブズほど殺伐とはしていないが、それでもやはり不安定

•社会契約によって、自身や他者の保護、違反者の処罰を政府に任せることで、安定した社会に

•経済的自由は損なわれるが、政治的幸福を見出す

※リバタリアニズムとの微妙な関係

ロックと信仰

•ロックの考える社会契約では、人は自己保存に関わる自由・権利を政府に譲渡するだけ

•精神的な自由(とくにロックの時代に問題だったのは信仰)は個人のもとにとどまる

•とはいえ、ロックの政治哲学において一神教的信仰は不可欠な要素の一つ

「無神論者は政治社会の構成員になれない」

マークシートを使用した小テスト

問1ソクラテスの対話方法は何と称されるか

1)散歩術

2)腹話術

3)超話術

4)産婆術

問2 古代アテネで自由が評価された理由は

1)共同体の繁栄をもたらしたから

2)人間は自由で平等な存在と考えられていたから

3)他国と異なる文化だから

4)守護神アテネが自由を愛する神だったから

問3 ホッブズの自由の定義は?

1)国家に完全に服従すること

2)外的障害がないこと

3)万人の万人に対する闘争

4)丸い四角

問4 ホッブズが考える社会契約成立について正しいものはどれか

1)神への信仰が社会契約を成立させる

2)社会契約を結んだ後で国家に逆らうことはできない

3)人は国王に強制されて初めて社会契約に同意する

4)安全への欲求が社会契約を成立させる

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