ディジタルホログラフィーの解像度解析 -...
Post on 18-Apr-2020
2 Views
Preview:
TRANSCRIPT
ディジタルホログラフィーの解像度解析
光工学研究室 和賀 秀平
2006年 3月 1日
Abstract
ディジタルホログラフィーにおいて,再生に使用可能なホログラムデータを取得するための条件と計算機による数値計算で得られる再生像の空間分解能 (解像度)を与える理論式を導出した.また,その条件での実験により,導出した理論条件式の検証を行なった.
1 はじめにディジタル・ホログラフィーは,通常のホログラフィーで使われる写真乾板・フィルムの代わりに CCD カメラなどの 2 次元イメージセンサを使ってホログラムをディジタル量としてコンピュータに記録し,数値計算により像再生を行なう技術である [1].CCD カメラは,写真乾板と比べ解像度が一桁以上低い.また,再生像も計算機によって得られるため,空間的にサンプリングされた離散点の情報しか与えない.したがって,ホログラムが記録される時点でそれが十分に像再生に耐えるものであるか,また再生像の空間分解能 (解像度) が再生物体の認識に十分に耐えるものとなるのかを吟味する必要がある.ここでは,再生に使用可能なホログラムデータを取得するための条件式と計算機による数値計算で得られる再生像の空間分解能 (解像度)を与える理論式を導出した.また,その条件での実験により,導出した理論条件式の検証を行なった.
2 理論解析2.1 ホログラム記録配置による制限
Fig.1は,想定したインライン・フレネル・ディジタルホログラムの記録配置である.この配置で,ホログラム干渉縞が最も細かくなるのは,Fig. 1 のように,物体の端から出た物体光波が CCD カメラの光電面の一番端のピクセルで参照光と干渉する場合である.この場合の干渉縞間隔を dmin とする.これをピクセルサイズ px, 総ピクセル数 Nx の CCD カメラでエリアシング誤差なくサンプリング検出するためには,標本化定理より以下の条件を満足していなければならない.
1px
≥ 1dmin
=2 sin(θmax/2)
λ(1)
θmax を,物体の大きさ Dx, CCDカメラのチップサイズLx = pxNx および物体と CCDカメラ間の距離 z の関数で表し,小角近似で書き換えると,条件式として次式が得られる.
z ≥ zmin =px
λ(Dx + Lx) (2)
この条件式を満たさない配置で記録されたホログラムでは,高い空間周波数の情報が失われ,再生像は物体の形状情報を反映した正しい像とはならないことを意味する.
z
CCD
Dx
px
Lx =
Px Nx
θmax
λ
Fig. 1 インライン・フレネルホログラムの記録配置
2.2 像再生アルゴリズムによる制限
2.2.1 コンボリューション法コンボリューション法は,フレネル回折積分をホログラ
ムデータとフレネル回折の自由空間伝播カーネルとの畳み込み積分と見做して,それぞれのフーリエ変換の積を逆フーリエ変換することで再生像を得る方法である.この場合,数値的には離散フーリエ変換 (DCT) を 2 回施すことになる.これより,元のディジタルホログラムデータでの隣り合うデータ点の間隔 (ホログラム記録時に使用したCCD カメラのピクセル間隔) を px とすると,再生像のデータ間隔 ∆xは
∆x = px (3)
となり,再生像の空間分解能はホログラム記録の際に使用した CCD カメラのピクセル間隔 px と同一となる.
2.2.2 フーリエ変換法フーリエ変換法は,フレネル回折積分をホログラムデー
タと 2 次位相関数との積のフーリエ変換と見做し,1 回の DCT で再生像を得る方法である.この場合のフーリエ変換は,空間周波数領域 x/λz への変換であるため,再生像は 1/λz によりスケーリングされたものになる.また,フーリエ変換した結果のデータの空間周波数分解能∆x/λz は,ホログラムデータのデータ幅 Nxpx (N はCCD カメラの総ピクセル数) の逆数で規定される [2].したがって,再生像の空間分解能 ∆xR は
∆x =λz
Nxpx(4)
となる.この式は,空間分解能の高い (∆x の小さい) 再生
1
Fig. 2 物体の大きさ Dx の変化に対する達成可能な再生像空間分解能 ∆xmin の変化.
像を得るためには,1) 波長 λ の小さい光源を使ってホログラムを記録する,2) チップサイズ Nxpx の大きい CCDカメラを使ってホログラムを記録する,3) 物体–CCD カメラ間の距離 z を小さくしてホログラムを記録する必要があることを意味している.1), 2) に関しては,ホログラム記録に使用する機材で決まる因子であり,改良の余地はない.一方 3) はホログラムの記録配置で z を小さくすることで対処可能である.しかし条件式 (2) の通り,z にはホログラムを正しく記録するための最小値 zmin が存在する.その z に関する条件を使用すると,フーリエ変換法で再生した場合の空間分解能の条件式は
∆x ≥ px +Dx
Nx(5)
となり,記録時に使用した CCD カメラの分解能 (px) よりも必ず低下することを意味している.
Fig.2 は,今回の検証実験で使用した CCD カメラを対象として計算した達成可能な再生像の最小空間分解能∆xmin の物体サイズ Dx 依存性を調べた結果である.この図から,大きさが 6[mm] 程度の物体のホログラムからフーリエ変換法で再生した像の空間分解能は約 11.5[µm]で,使用した CCD カメラの空間分解能の約 0.6 倍に低下することが分かる.この場合の再生像で見える物体の細かな構造は,標本化定理より 2∆xmin = 23[µm] 程度であり,これよりも細かな構造は再生像として得ることはできない.
3 実験および結果理論解析で導出した条件式 (2)を確かめるために,ディ
ジタルホログラム記録実験を行なった.物体は直径 Dx =3.1[mm] のメタクリル樹脂棒,CCD カメラはピクセルサイズ px = py = 6.8[µm], 画素数 Nx×Ny = 1280× 1000の Fuji Film, HC-2500,照射光には波長 λ = 632.8nm のHe-Ne レーザーからの平行光を用いた.この場合,エリアシング誤差の無いホログラム干渉縞を記録できる,物体–CCDカメラの最小距離 zmin は,式 (2) から 126.8[mm]となる.
Fig.3(a), (b) は,それぞれ z = 500[mm] と z =60[mm] で記録したホログラムである.白枠で囲まれたものはそれぞれのホログラムの左端の領域を拡大して表示したものである.z が小さい程形成されるホログラム干渉縞
が細かくなる様子が見て取れる.また,(a) z = 500[mm]の場合には CCD の端まできれいに干渉縞が分解して記録されているのに対し,(b) z = 60[mm] の場合には,左側に向かう程縞間隔が狭くなるため,この CCD カメラでは正確に分解検出できなくなっている.この結果は,導出した条件式 (2) が正しいことを表わす一例である.発表においては,物体サイズ Dx が異なる場合のホログラム干渉縞の強度分布を詳細に解析した結果も示す.
(a) z = 500[mm]
(b) z = 60[mm]Fig. 3 記録されたディジタルホログラム.
3.1 まとめディジタルホログラフィーにおいて再生に使用可能なホ
ログラムデータを取得するための条件式 [式 (2)]と,再生像の空間分解能の式 [式 (5)]を光の干渉の理論,サンプリング定理,光の回折理論,および離散フーリエ変換の理論から導いた.また,実験で有効なホログラムを取得するための条件式の正当性を検証した.
外部研究発表[1] 和賀 秀平 他:「ディジタルホログラフィーの解像度解析 I: ホログラム記録配置による制限」, 第 2回日本光学会北海道支部学術講演会 (2006年 1月 12日, 札幌).
[2] 和賀 秀平 他:「ディジタルホログラフィーの解像度解析 II: 像再生アルゴリズムによる制限」, 第 2 回日本光学会北海道支部学術講演会 (2006年 1月 12日, 札幌).
References
[1] U. Schnars and W. Jueptner, Digital Holography,(Springer, 2004).
[2] 谷田貝豊彦著:『光とフーリエ変換』(朝倉書店, 1992),pp. 57–60, pp. 72–75.
2
top related