atp+ampふき取り検査を用いた消化管内視鏡の洗...

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1 第 76 回日本消化器内視鏡技師学会ランチョンセミナーより ATP+AMP ふき取り検査を用いた消化管内視鏡の洗浄効果の確認 本稿は、5 月14 日に大阪市北区の大阪国際会議場(グラ ンキューブ大阪)で開催された第 76 回日本消化器内視鏡技 師学会のランチョンセミナー において、キッコーマンバイオ ケミファ㈱企画開発部の佐藤昇良氏が ATP + AMP ふき取 り検査の特徴などについて解説した講演内容の要旨である。 別資料には同セミナーで発表された、内視鏡室における ATP + AMP ふき取り検査の活用事例が収載されているのでそち らも合わせてご参照いただきたい。(*ジョンソン・エンド・ジョ ンソン㈱とキッコーマンバイオケミファ㈱の共催) による一次洗浄(用手洗浄)後の内視鏡が本当にきれいに なったか?」ということを、どのように確認しているでしょうか。 見た目がきれいになっているからといって、本当の意味で「き れいになっている」とは断言できません。また、目視で確認 できない部分(例えば内視鏡のチャンネル内など)は、どの ように確認しているでしょうか。「洗った」「拭いた」というこ とと、「洗えた」「拭けた」ということは、必ずしもイコールで はありません。何らかの方法で、「洗えた」「拭けた」という ことを確認する必要があります。そこで役に立つのが「ATP + AMP ふき取り検査」です。 (2)ATP + AMP 測定により洗い残しがわかる ATP(アデノシン三リン酸、図1)および AMP(アデノシ ン一リン酸、ATP が分解されて生成される化学物質)は、生 体に必ず含まれる物質です。そのため、使用後の内視鏡に セミナー会場では多くの関係者が聴講した キッコーマンバイオケミファ(株)の佐藤昇良氏 ATP + AMP ふき取り検査で 簡便・迅速・高感度な清浄度確認が可能 佐藤 昇良 氏 キッコーマンバイオケミファ㈱企画開発部1 ATP + AMP ふき取り検査の概要 (1)「洗浄した」=「洗浄できた」ではない 私の講演では、「ATP + AMP ふき取り検査がどのような検 査方法か?」という基礎的な内容から、「実際に消化器内視 鏡の清浄度確認にどのように活用できるか?」という応用的 な内容までを説明します。 「ATP + AMP ふき取り検査」を一言で説明すると、「簡便・ 迅速な洗浄度・清浄度の検査法」です。つまり、「本来きれ いであるべき物(あるいは場所)」が「本当にきれいかどう かを、誰でも、どこでも、簡単に、かつ迅速(約 10 秒)で 検査できる、非常に便利な検査法」ということです。 医療機関における感染事故を防止する上で、「洗浄」や「清 拭」はきわめて重要な作業です。医療関係者は誰もが、手 指衛生については「院内感染対策はまず手洗いから」と意識 しているでしょう。また、環境衛生では「高頻度接触表面の 衛生管理が重要」、再使用医療機器の洗浄では「滅菌を確 実に行うためには洗浄を十分に行うことが最重要課題」といっ たことも意識しているでしょうし、病院での食事に関わる作業 者であれば「手指や調理器具などの衛生管理は、食中毒事 故を防止するためにきわめて重要」と意識しています。 では、消化管内視鏡の洗浄を担当する関係者は、「手洗い

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Page 1: ATP+AMPふき取り検査を用いた消化管内視鏡の洗 …...ATP+AMPふき取り検査を用いた消化管内視鏡の洗浄効果の確認 本稿は、5月14 日に大阪市北区の大阪国際会議場(グラ

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第 76回日本消化器内視鏡技師学会ランチョンセミナーより

ATP+AMPふき取り検査を用いた消化管内視鏡の洗浄効果の確認

本稿は、5 月14 日に大阪市北区の大阪国際会議場(グラ

ンキューブ大阪)で開催された第 76 回日本消化器内視鏡技

師学会のランチョンセミナー*において、キッコーマンバイオ

ケミファ㈱企画開発部の佐藤昇良氏が ATP + AMP ふき取

り検査の特徴などについて解説した講演内容の要旨である。

別資料には同セミナーで発表された、内視鏡室における ATP

+ AMP ふき取り検査の活用事例が収載されているのでそち

らも合わせてご参照いただきたい。(*ジョンソン・エンド・ジョ

ンソン㈱とキッコーマンバイオケミファ㈱の共催)

による一次洗浄(用手洗浄)後の内視鏡が本当にきれいに

なったか?」ということを、どのように確認しているでしょうか。

見た目がきれいになっているからといって、本当の意味で「き

れいになっている」とは断言できません。また、目視で確認

できない部分(例えば内視鏡のチャンネル内など)は、どの

ように確認しているでしょうか。「洗った」「拭いた」というこ

とと、「洗えた」「拭けた」ということは、必ずしもイコールで

はありません。何らかの方法で、「洗えた」「拭けた」という

ことを確認する必要があります。そこで役に立つのが「ATP

+ AMP ふき取り検査」です。

(2)ATP + AMP測定により洗い残しがわかる

ATP(アデノシン三リン酸、図1)および AMP(アデノシ

ン一リン酸、ATP が分解されて生成される化学物質)は、生

体に必ず含まれる物質です。そのため、使用後の内視鏡に

セミナー会場では多くの関係者が聴講した

キッコーマンバイオケミファ(株)の佐藤昇良氏

ATP + AMPふき取り検査で簡便・迅速・高感度な清浄度確認が可能

佐藤 昇良 氏(キッコーマンバイオケミファ㈱企画開発部)

1 ATP + AMPふき取り検査の概要

(1)「洗浄した」=「洗浄できた」ではない

私の講演では、「ATP + AMP ふき取り検査がどのような検

査方法か?」という基礎的な内容から、「実際に消化器内視

鏡の清浄度確認にどのように活用できるか?」という応用的

な内容までを説明します。

「ATP + AMP ふき取り検査」を一言で説明すると、「簡便・

迅速な洗浄度・清浄度の検査法」です。つまり、「本来きれ

いであるべき物(あるいは場所)」が「本当にきれいかどう

かを、誰でも、どこでも、簡単に、かつ迅速(約 10 秒)で

検査できる、非常に便利な検査法」ということです。

医療機関における感染事故を防止する上で、「洗浄」や「清

拭」はきわめて重要な作業です。医療関係者は誰もが、手

指衛生については「院内感染対策はまず手洗いから」と意識

しているでしょう。また、環境衛生では「高頻度接触表面の

衛生管理が重要」、再使用医療機器の洗浄では「滅菌を確

実に行うためには洗浄を十分に行うことが最重要課題」といっ

たことも意識しているでしょうし、病院での食事に関わる作業

者であれば「手指や調理器具などの衛生管理は、食中毒事

故を防止するためにきわめて重要」と意識しています。

では、消化管内視鏡の洗浄を担当する関係者は、「手洗い

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付着する汚れ(消化液、分泌液、血液、唾液、排せつ物、

微生物、組織片など)にも、必ず ATP・AMP は含まれて

います。一方、清浄な水(例えば水道水など)には ATP・

AMP は含まれません。

ATP + AMP ふき取り検査とは、簡潔にいうと「検査箇所

の表面に存在する洗い残しや汚れを綿棒でふき取り、その洗

い残し・汚れに含まれる ATPと AMP の量を『汚染物の指標』

として測定する検査法」です。内視鏡がきちんと洗浄されれ

ば、汚れが落ちます。汚れが落ちれば、ATP・AMP 量は減

ります。つまり、図2にイラストで表現したように「ATP +

AMP 量を測定すれば、きちんと洗浄できたかどうかがわかる」

ということです。

医療分野では、すでに 2004 年に日本医科器械学会(現・

日本医療機器学会)が作成した「鋼製小物の洗浄ガイドライ

ン 2004」において、ATP ふき取り検査法が収載されています。

その後も、同学会では「洗浄評価判定ガイドライン 2012」「医

療現場における滅菌保証のガイドライン 2015」に ATP ふき

図 1 ATP(アデノシン三リン酸)と AMP(アデノシン一リン酸)の化学構造

取り検査を収載しています(詳細は後述)。ちなみに、食品

衛生分野では「食品衛生検査指針(微生物編)」の 2004 年版・

2015 年版に ATP ふき取り検査が収載されています。

(3)検査法の原理

当社では、1993 年に「ルミテスター」というATPふき取り

検査の装置、および「ルシパック」という試薬の販売を開始

しました。装置および試薬は改良を加えており、2014 年か

らは最新の測定装置「ルミテスター PD-30」(写真1)の販売

を開始しています。

ATP 量の測定には「ルシフェラーゼ・ルシフェリン反応」

という酵素反応が用いられています。これは、ホタルのしっ

ぽが光る現象と同じです。ATP がルシフェラーゼと反応する

と、(ATP は)AMP に分解され、発光します(図3)。当社

の試薬には、このルシフェラーゼが含まれており、「ルミテス

ター」では ATPとルシフェラーゼが反応した際に生じる光の

強さを測定しています(当社では、1980 年代に遺伝子組換

え大腸菌によりルシフェラーゼを工業的に大量生産できるシ

ステムを確立しました)。

また、当社は、AMP から ATP を再合成する PPDK(pyruvate

orthophosphate dikinase)という酵素を利用して、(ATP 量

だけでなく)AMP 量も測定する技術を開発しました(図3)。

「ルミテスター PD-30」では、この技術を応用することで、

ATP + AMP の量を測定することができるのです。

(4)ATPとAMPの両方を測定する意味

では、ATP だけでなく AMP も測定することに、どのよう

な意味があるのでしょうか。表1は渡部らが発表した内容※を

一部改変したものですが、内視鏡チャンネル内に付着した汚

染物に含まれる ATP + AMP 量は、ATP 量より多いことが示

されています。

清浄度を検査する際には、汚染指標となる物質の量が多

い方がよいことは言うまでもありません。表1からは、「ATP

+ AMP 量で清浄度をチェックした方が、(ATP 量のみを

AMP(ATPの分解物) ATP

図 2 洗い残しや汚れが多いと、ATP+AMP ふき取り検査の測定値は高くなる。きちんと洗浄すると、測定値は低くなる

写真 1 ATP 検 査 で 用 い るハンディタイプの 測 定 装 置

「PD–30」 および 試 薬「 ル シ パック Pen」(キッコーマンバイオケミファ(株)製)

図 3 ATP+AMP ふき取り検査の測定原理

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チェックするより)高感度かつ確実に清浄度をチェックできる」

ということがわかります。

2 内視鏡の清浄度評価への活用

(1)内視鏡の予備洗浄の重要性

使用後の内視鏡を自動洗浄・消毒装置にかける前に、手

洗いによる予備洗浄を行うことが重要です。さまざまな公的

な文書の中に、この予備洗浄の重要性と、予備洗浄の効果

確認(洗浄後の清浄度確認)を行うことの重要性が謳われて

います。

例えば、日本消化器内視鏡技師会は 2015 年3月、十二

指腸内視鏡による多剤耐性腸内細菌科細菌(Carbapenem-

Resistant Enterobacteriaceae;CRE)の伝播に関する注意

喚起文書を発行しました。その中では、①軟性内視鏡の清

浄度の評価指数として ATP などを測定してください、②年1

回は無作為に抽出した内視鏡機器、処置具について表面や

鉗子チャンネルなどから一般細菌の培養検査を行いましょう

── などの記載が見られます。

また、日本医療機器学会の「洗浄評価判定ガイドライン

2012」には、「第Ⅰ部・洗浄評価判定方法」の「1.洗浄の

重要性」の項で「確実に滅菌を保証するためには、洗浄によっ

て付着物を可能な限り、分解、除去することが重要である」

と述べるとともに、洗浄評価の指標物質の一つとして ATP を

挙げています。同学会の「医療現場における滅菌保証のガイ

ドライン 2015」でも、洗浄評価の方法の一つとして ATP 測

定を挙げています。

「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2015」では、

「4. 内視鏡洗浄・消毒装置のバリデーションおよび日常管

理」のうち、4.1.5 項(洗浄・消毒条件の設定)において「予

備洗浄を行わずに、大量の汚れが内視鏡に付いたまま AER

(自動内視鏡洗浄・消毒装置)で処理すると、十分な洗浄

と消毒が行われない恐れがある」といった記載も見られます。

(2)洗浄作業の「履歴管理」の重要性

また、「4. 内視鏡洗浄・消毒装置のバリデーションおよび

日常管理」の 4.1.7 項(日常のモニタリングと管理)では、

「洗浄・消毒作業が適切に実施されたかを確認し、記録する」

「各工程が適切に完了したかを確認し、記録に残すなどの方

法で工程管理を適切に行うことが重要となる」と、洗浄作業

の「履歴管理」の重要性についても指摘しています。

「消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践

ガイド改訂版(2013 年)」では、「確実な消毒効果を得るた

めにはスコープ外表面、付属品および吸引・鉗子チャンネル

を高い清浄度を保って洗浄する必要がある。そのためには、

各施設における現行の洗浄方法による清浄度をチェックして、

より効果的な洗浄を行う」「年月日、時刻、患者氏名、内視

鏡番号、担当者氏名、内視鏡自動洗浄・消毒装置番号、消

毒薬濃度や内視鏡自動洗浄・消毒装置の運転状況などを記

録、保管することが望ましい。記録は手書きノート運用でも

よいが、専用市販ソフトの活用が便利である。履歴管理を行

うことで不測事態への確実な対応が可能になる」と、予備洗

浄と洗浄履歴の管理に関する記載が見られます。

ATP + AMP ふき取り検査を活用することで、内視鏡の清

浄度評価が「誰でも、どこでも、簡単に、かつ高感度に」実

施できます。そして、検査結果は数値で表示されるので、履

歴管理もしやすいです。

(3)検査箇所と検査方法

鉗子チャンネル入口、送気・送水チャンネル、吸引チャンネル、

先端部など、ふき取りやすい箇所は写真2の左側のように

「ルシパック Pen」でふき取ってください。

「ルシパック Pen」では綿棒が太すぎるもしくは届かないよ

うな箇所(例えばチャンネル内部など)については写真2の

右側のように、40㎝の長軸綿棒「ルシパック LS」(綿球部の

直径は 2.8㎜と 3.2㎜の2種類)も用意しています。

リンス液サンプル ATP + AMP ATP のみ (ATP + AMP)÷(ATP のみ)

上部消化器内視鏡

A 66.190 1.816 36,5B 164.831 16.794 9,8C 28.242 4.767 5,9D 10.845 5.733 1,9E 10.008 886 11,3

平均 13.1

下部消化器内視鏡

F 3.841 786 4,9G 13.651 495 27,6H 6.388 345 18,5I 20.827 3.630 5,7J 4.243 32 134,7

平均 38.3

表 1 洗浄前の内視鏡鉗子チャンネルのリンス液の測定

※ 渡 部 ら、 感 染 制 御、Vol.6、No.3、P.237-244 より抜粋(一部改変)

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(4)清浄度の指標は何が最適か

では、消化器内視鏡の清浄度指標として何がよいでしょ

うか。当社では、キッコーマン総合病院(千葉県野田市、

久 保 田 芳 郎 院 長、129 床 ) にお いて、ATP + AMP 法

(「 ルミテスター PD–30」 で 測 定 )、タン パク質 検 出 法

(Bradford 法)、微生物検出法(TSA 培地)の3種類に

ついて評価を行いました。

ふき取り箇所は内視鏡のチャンネル内部です。先端部から

長軸綿棒を挿入し、1往復ふき取りました。サンプリングの

タイミングは、①ベッドサイド洗浄前(つまり内視鏡検査直

後)、②ベッドサイド洗浄+用手洗浄後(つまりブラッシング

後)、そして③自動洗浄後 ── の3種類です。

① 上部消化器内視鏡の場合

図4は、上部消化器内視鏡における ATP + AMP 量と生

菌数の関係です。生菌数が多い検体は、ATP + AMP 量も多

いという傾向が見られています。しかしながら、ベッドサイド

洗浄前(内視鏡を使用した直後)であるにも関わらず、しか

も ATP + AMP ふき取り検査では高い RLU 値※であるにも関

わらず、生菌数測定では「不検出」という検体も見られます。

この結果からは「生菌数測定だけでは、菌以外の汚れを見

逃してしまう可能性がある」ということがいえます。

図5は、上部消化器内視鏡における ATP + AMP 量とタン

パク量の関係です。ベッドサイド洗浄前の検体のタンパク量

を見ると、洗浄前であるにも関わらず、しかも ATP + AMP

ふき取り検査では高い RLU 値であるにも関わらず、すでに検

出限界に近い測定値になっている検体が見られます。

以上の結果から、「微生物やタンパク量を清浄度判定の指

標に用いると、洗浄不十分な状態を見逃してしまう可能性が

ある」ということがいえると思います。

② 下部消化器内視鏡の場合

下部消化器内視鏡についても同様の実験を行いました

(図6〜7)。図4〜5と同様、「生菌数が多い検体では、ATP

+ AMP 量も多い」という傾向が見られました(生菌数が多

いにも関わらず ATP + AMP 量が低い検体は見られません)。

また、タンパク質検出法よりも、ATP + AMP ふき取り検査

の方が高感度という結果が得られました。※ RLU=Relative Light Unit(ATP ふき取り検査に用いる特有の単位)※ 上部消化器内視鏡に関する詳細は第 88 回日本医療機器学会大会(2013年 6 月 7 日)、下部消化器内視鏡に関する詳細は第 90 回日本医療機器学会大会(2015 年 5 月 30 日)にて発表した。

(5)基準値設定の考え方

当社では、内視鏡の ATP + AMPふき取り検査の基準値と

して「100RLU 以下」を推奨しています。

写真3は、ステンレス板に血液を塗布して、それを顕微鏡

で観察したものと、ATP + AMP ふき取り検査で測定した際

の RLU 値です。血液を塗布した状態では、肉眼でも血液が

観察でき、ATP + AMP ふき取り検査は測定器の上限値(99

-1

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RLU

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0.1

ATP+AMP量(RLU)

タンパク量(μg

n=22×3

図 4 上部消化器内視鏡における ATP+AMP 量と生菌数の関係 図 5 上部消化器内視鏡における ATP+AMP 量とタンパク量の関係

図 4 鉗子チャンネル入口などは短い綿棒(左写真)、短い綿棒では太すぎたり、もしくは届かないような箇所(例えばチャンネル内部など)は長い綿棒でふき取る

※発光量は、通常の検査方法で測定した時の発光量に換算して表示※発光量(ATP+AMP 量): 検出限界(73.5RLU)以下は検出限界の 1/2(36.7RLU)として表示

※発光量は、通常の検査方法で測定した時の発光量に換算して表示※ ATP+AMP 量 : 検出限界(73.5RLU)以下は検出限界の 1/2(36.7RLU)として表示

※タンパク量 : 検出限界(0.653 μ g)以下は検出限界の 1/2(0.326 μ g)として表示

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ATP+AMP量(RLU)

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100,000

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生菌数(   

CFU

不検出

n=22×3

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万 9999RLU)を示しました。これを少しだけ洗うと(写真3

「洗浄後①」)、汚れは肉眼で確認でき、RLU 値も非常に高い

値を示しました(2万 1881RLU)。さらに、肉眼で洗い残し

が確認できなくなるまで洗浄したところ(写真3「洗浄後②」)、

顕微鏡では確認できましたが、RLU 値はかなり低くなりまし

た(375RLU)。さらに、顕微鏡でも確認できなくなるまで洗

浄したところ(写真3「洗浄後③」)、RLU 値は非常に低くなり

ました(35RLU)。これらの結果から、「100RLU まで測定値

を下げるような洗浄を行えば、顕微鏡でも汚れを確認できな

くなる」といえます。

ちなみに、図8はさまざまな 環 境をふき取って、ATP

+ AMP 量と細菌数を測定した結果です。この図からも、

「100RLU 以下の測定ポイントでは、一般生菌数の出現率が

低い」という傾向が見られます。

ただし、100RLU とは、あくまでも「推奨基準値」です。

必ずしも「100RLU が絶対的な基準値」という意味ではあ

りません。まずは、各施設で現状の RLU 値を把握してみて

ください。はじめは「現状よりも少し高めの値」を基準値に

するところからスタートすればよいでしょう。しかし、何度か

ATP + AMP ふき取り検査を行い、スタッフの洗浄に対する

意識が高まったり、洗浄方法の見直しを行うことで、測定値

は徐々に下がってきます。そのような改善活動を重ねて、「最

終的には 100RLU を目指す」というアプローチがよいと思い

ます。

(6)最後に

確実な消毒を行うために、洗浄は非常に重要な作業です。

洗浄不足に起因するトラブルを未然に防ぐための有効なツー

ルとして ATP + AMP ふき取り検査を役立てていただきたい

と思います。

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ATP+AMP量(RLU)

生菌数(   

CFU

不検出

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100,000

1,000,000

0.1

10,000,000

ATP+AMP量(RLU)

タンパク量(μg

n=23×3

※発光量は、通常の検査方法で測定した時の発光量に換算して表示※発光量(ATP+AMP 量): 検出限界(13.5RLU)以下は検出限界の 1/2(6.75RLU)として表示

※発光量は、通常の検査方法で測定した時の発光量に換算して表示※発光量(ATP+AMP 量): 検出限界(13.5RLU)以下は検出限界の 1/2(6.75RLU)として表示

※タンパク質量 : 検出限界(0.858 μ g)以下は検出限界の 1/2(0.429 μ g)として表示

図 6 下部消化器内視鏡における ATP+AMP 量と生菌数の関係 図 7 下部消化器内視鏡における ATP+AMP 量とタンパク量の関係

ATP+AMP量(RLU)

非検出

生菌数(   

CFU

一般

写真 3 基準値について : ステンレス板に血液を塗布した場合の顕微鏡写真と ATP+AMP ふき取り検査の測定値

図 8 ATP+AMP 量と細菌数の関係(環境検査)

[発行元]

TEL03-5521-5490 FAX03-5521-5498Email: [email protected]

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月刊HACCP 2016 年 7月号 94 ~ 104 頁より抜粋

月刊 HACCP 別刷り(ATP ふき取り検査活用事例)一覧

カテゴリー No タイトル 演者

月刊HACCP

発行月

保健所 (行政)

1 食品取り扱い施設における自主管理の推進 名古屋市中村保健所 青木 誠 氏 -

2 保健所における ATP ふき取り検査の活用事例 札幌市保健所 片岡 郁夫 氏 2014.1

3 菓子製造施設におけるアレルギー対策として ATP 検査を活用 大阪府和泉保健所 衛生課 奥村 真也 氏 2014.4

4 ATP ふき取り検査とノロウイルス対策 東京都港区みなと保健所 生活衛生課 塚嵜 大輔氏 2014.5

5 日本食品衛生協会が推奨する「衛生的な手洗い」の普及・啓発活動 (公社)日本食品衛生協会 主任 中村 紀子 氏 2014.9

6 食物アレルゲン管理のポイントと ATP + AMP ふき取り検査の活用 東京都西多摩保健所 生活環境安全課 村上 展通 氏 2016.4

給食

1 ATP ふき取り検査を活用した調理厨房の衛生管理 日清医療食品 ㈱ 蒲生 健一郎 氏 2013.9

2 学校給食の調理現場における ATP 検査を活用した衛生管理 女子栄養大学 教授 金田 雅代 先生岐阜県学校給食会 栗山 愛子 氏 2013.10

3調理現場における衛生管理のポイントとATP 検査を用いた効果的な衛生指導の実例 相模女子大学 教授 金井 美惠子 先生 2013.11

4 病院給食の衛生管理と院内感染対策 東京都立多摩総合医療センター 2014.7

5 管理栄養士の養成における ATP ふき取り検査の効果的活用 実践女子大学 生活科学部 准教授 木川 眞美 先生 2014.10

6 学校給食センター運営の要は衛生管理 東海食膳協業組合 理事 今川 将宏 氏 2015.8

外食

1 多店舗化への第一歩。リスクを増やさない衛生管理 NPO 法人 衛生検査推進協会 理事長 前田 佳則 氏 2013.4

2 なるほど !! と言われる衛生コンサルティングにルシパックが大活躍 ㈱ くらし科学研究所 村中 亨 氏 2013.8

3 回転寿司チェーンにおける衛生管理と衛生監査 ㈱ あきんどスシロー 品質管理室 課長 多田 幸代 氏 2014.12

工場

1 ATP 測定を活用した洗浄実践ポイントの把握と清浄度改善 白菊酒造 ㈱ 門脇 洋平 氏 -

2 ATP 測定による簡易・迅速な製品検査の導入事例 守山乳業 ㈱ 蓜島 義隆 氏 2013.8

3 髙島屋における品質管理と ATP ふき取り検査の活用事例 ㈱ 高島屋 土橋 恵美 氏 2013.12

4 ATP ふき取り検査による豆乳製造ラインの衛生管理 キッコーマンソイフーズ ㈱ 茨城工場 矢沼 由香 2014.6

5 ATP 拭き取り検査を活用した衛生管理指導と洗浄・殺菌操作の改善事例 三重大学大学院教授 福崎 智司 先生 2014.8

6 辛子明太子工場における衛生管理  ㈱ ふくや 品質保証課 渡部 朗子 氏 2015.1

7 ライフコーポレーションにおける ATP ふき取り検査の役割 ㈱ ライフコーポレーション 野々村 明 氏 2015.5

8 徹底した品質管理・衛生管理で《本場のドイツビール》を広める! ㈱ 銀河高原ビール 2016.3

医療

1 ノロウイルス対策と感染管理ベストプラクティス 防衛医科大学校 防衛医学研究センター 教授 加來 浩器 先生 2014.2

2 感染管理の基本は適切な手指衛生から 日本歯科大学東京短期大学 2014.2

3 環境衛生管理の検証における ATP 検査の効果的な活用事例 馬見塚デンタルクリニック 2014.2

4 消化器内視鏡の感染管理における ATP ふき取り検査の活用事例 大阪医科大学附属病院 消化器内視鏡センター 2015.11

5 ATP+AMP ふき取り検査を用いた消化管内視鏡の洗浄効果の確認 医療法人財団河北総合病院 谷道 清隆 氏医療法人社団誠馨会・セコメディック病院 折笠 亜矢子氏 ほか

2016.7

6 ATP+AMP ふき取り検査を用いた感染管理対策と手術用機材の洗浄評価 淀川キリスト病院 感染対策課 吉村 真弓 氏 2016.8

その他

1 ATP 測定を利用した迅速衛生検査 キッコーマンバイオケミファ ㈱ 本間 茂 2014.3

2 理容業における衛生管理の徹底と ATP ふき取り検査 滋賀県理容生活衛生同業組合 常任理事 小菅 利裕 氏 2015.9

3 高齢者施設における感染症・食中毒予防対策 横浜市福祉サービス協会 常務理事 桐ヶ谷 成昭 氏 2015.12

以下続刊

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