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ヒルベルト空間と自己共 役作用素 本章においては ヒルベルト空間の自己共役作用素とそのスペク トル分解について考察する 主要な問題はシュレーディンガー作用素が自己共役作用素である ことの証明とそのスペクトル分解定理である 本章においては 一般な形での説明を行う ヒルベルト空間 本節においてはヒルベルト空間の定義とその基本性質について考 察する ヒルベルト空間は有限次元ユークリッド空間の一般化である 般に無限次元のヒルベルト空間を考える まず 一般の複素ベクトル空間の定義を与える 定義 空でない集合 複素ベクトル空間であるとは の任意の二つの元 に対し の和 が定義されて となり また の任意の元 と任意の複素数 に対し スカラー積 が定義されて となり この二つの演算に関 して 次の条件 が成り立つことであると定義する とすると

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Page 1: 第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 - Pikara › yoshifumi › MFNSP › MFNSP-5.pdf第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 本章においてはヒルベルト空間の自己共役作用素とそのスペク

第 章 ヒルベルト空間と自己共

役作用素

本章においては ヒルベルト空間の自己共役作用素とそのスペク

トル分解について考察する

主要な問題はシュレーディンガー作用素が自己共役作用素である

ことの証明とそのスペクトル分解定理である

本章においては 一般な形での説明を行う

 ヒルベルト空間

本節においてはヒルベルト空間の定義とその基本性質について考

察する

ヒルベルト空間は有限次元ユークリッド空間の一般化である 一

般に無限次元のヒルベルト空間を考える

まず 一般の複素ベクトル空間の定義を与える

定義  空でない集合 が複素ベクトル空間であるとは

の任意の二つの元 に対し と の和 が定義されて

となり また の任意の元 と任意の複素数 に対し

スカラー積 が定義されて となり この二つの演算に関

して 次の条件 が成り立つことであると定義する

とすると

Page 2: 第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 - Pikara › yoshifumi › MFNSP › MFNSP-5.pdf第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 本章においてはヒルベルト空間の自己共役作用素とそのスペク

 

 

 ある元 が存在して 任意の元 に対して

が成り立つ 元 を零ベクトルであるという

 任意の元 に対して ある元 が存在して

が成り立つ このとき 元 を の負元といって と

表す

 

 

 

 

このとき の元をベクトルといい の元をスカラーという

複素ベクトル空間の基本性質などの詳細に関しては 伊東著「線

形代数学」 「線形代数学の基礎」を参照してもらいたい

定義   は複素ベクトル空間であるとする このとき

が内積空間であるとは の任意の二つの元 に対し 複素数

が定義されていて 次の条件 を満たすことであると

定義する

とすると

 

Page 3: 第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 - Pikara › yoshifumi › MFNSP › MFNSP-5.pdf第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 本章においてはヒルベルト空間の自己共役作用素とそのスペク

 

 

  特に となるのは のときに限る

が内積空間であるとき 任意の に対し

とおくと は のノルムである

すなわち 次の定理が成り立つ

定理   は内積空間であるとし 上のように記号 を定

義すると 次の が成り立つ

とすると

  特に となるのは のときに限る

 

 

したがって はノルム に関してノルム空間であることがわ

かる

定理  定理 の記号を用いる このとき 内積とノルム

に関して次の が成り立つ とすると

  シュワルツの不等式

 

  三角形の中線定理

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定義  内積空間 がヒルベルト空間であるとは 内積に

よって定義されたノルムによって定義された距離空間として完備で

あることと定義する

同様に 実ベクトル空間に内積を定義することによって 実ヒル

ベルト空間を定義することができる この場合はスカラーとして実

数を考えるという違いがある

以後 本書においては特別のことわりのない限り複素ヒルベルト

空間を考える

が内積空間であるとき の部分空間 の任意の二つの元

を の元として定義された を の内積と考えることによっ

て は内積空間になる

このとき 次の定理が成り立つ

定理  ヒルベルト空間 の部分空間 が の内積を制

限することによって定義された内積に関してヒルベルト空間になる

ための必要十分条件は が の閉部分空間であることである

ヒルベルト空間 の空でない部分集合 に対して 部分集合

任意の元 に対し

であると定義する このとき 次の定理が成り立つ

定理  上の記号を用いるとき は の閉部分空間で

ある

ヒルベルト空間 の閉部分空間 に対し を の直交補空

間であると定義する

このとき が成り立つ

定理  ヒルベルト空間 の閉部分空間を とするとき

任意の元 は

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と一意に表される

系  定理 の記号を用いるとき 関係式

が成り立つ

 線形作用素

本節においてはヒルベルト空間の線形作用素の基本性質について

考察する

本節の内容の詳細に関しては 吉田 第 章を参照してもらい

たい

定義   と は二つのヒルベルト空間であるとする

の部分空間 の各元 に の元 を対応させる写像を と表す こ

のとき と表す 写像 が線形写像であるとは 任意

と任意の に対し であるとき 条件

が成り立つことであると定義する ここで

をそれぞれ の定義域 値域であるという

さらに 線形写像 が連続であるとは であって 条件

ならば

が成り立つことであると定義する

Page 6: 第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 - Pikara › yoshifumi › MFNSP › MFNSP-5.pdf第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 本章においてはヒルベルト空間の自己共役作用素とそのスペク

定義  定義 の記号を用いる から への二つの線

形写像 と に対し 和 とスカラー倍 を次の条

件 によって定義する

 

 

定理  定義 の記号を用いる 線形写像

が連続であるための必要条件は ある正の定数 が存在して

条件

が成り立つことである

定理 の条件が成り立つとき となるように線

形写像 の定義を修正できるから このときには条件

である場合を考えればよい

今後 ヒルベルト空間の線形写像 について考えるときには 特

にことわりない限り であると仮定しておく

定義   がヒルベルト空間 からヒルベルト空間 への

連続線形写像であるとする このとき を関係式

によって定義し これを のノルムという

系   は定義 と同じとする.このとき 等式

が成り立つ

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定理   と は二つのヒルベルト空間であるとし は

から への線形作用素であるとする このとき が から

の上への 対 写像であるための必要十分条件は 線形写像

が存在して 関係式

を満たすことである このとき 線形写像 は の逆写

像であるといい と表す

定理  線形作用素 が連続な逆写像 をも

つための必要十分条件は ある定数 が存在して 条件式

が成り立つことである

のとき 線形写像 を線形変換という 線形写

像あるいは線形変換を線形作用素ということがある

定義   をヒルベルト空間であるとし は の閉部分

空間であるとする このとき の任意の元 は

と一意に表される ここで から への線形変換 を関係式

によって定義する の元 を の への射影といい

と表す 線形変換 を 上の射影作用素という

系  定義 の記号を用いる このとき が成

り立つ さらに 次の が成り立つ

Page 8: 第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 - Pikara › yoshifumi › MFNSP › MFNSP-5.pdf第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 本章においてはヒルベルト空間の自己共役作用素とそのスペク

  が成り立つことと であることは同値で

ある

  が成り立つことと であることは同値で

ある

  に対し 等式

が成り立つ

定理  定義 の記号を用いる このとき 射影作用素

は線形作用素であって 次の を満たす

  ここで は の恒等変換を表す

  冪等性 ここで に対し は関係式

によって定義される線形作用素であると定義する

  対称性  

 自己共役作用素

本節においては ヒルベルト空間の自己共役作用素について考察

する 本節の内容の詳細に関しては 吉田 第 章を参照しても

らいたい

本節においては ヒルベルト空間 の線形作用素で 条件

と を満たすものを考えるので このことに関しては

いちいち注意しない

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 積空間 グラフと共役作用素

定義   はヒルベルト空間であるとし は の内積

を表す このとき 直積 を関係式

によって定義する ここで は の二つの元 と の順序付け

られた対を表す においてベクトルの和 スカラー倍と内積

を次の によって定義する

  1

 

 

このとき はヒルベルト空間になる を積空間という

ことがある

定義   はヒルベルト空間 の線形作用素であるとする

このとき の部分集合

を のグラフという

系  定義 の記号を用いる このとき は

の部分空間である

定義   と はヒルベルト空間 の二つ線形作用素であ

るとする このとき が の拡張であるとは 次の条件 が

成り立つことであると定義する

 

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このとき と表す

系  定義 の記号を用いる このとき である

ことと が成り立つことは同値である

定理   はヒルベルト空間であるとする の部分

空間 が のある線形作用素のグラフであるための必要十分条件

は ならば となることである

定義   はヒルベルト空間であるとする このとき

上定義された線形作用素

を の歪交換子という

定理   はヒルベルト空間であるとする を の線形

作用素であるとするとき が のある線形作用素のグラ

フであるための必要十分条件は が において稠密であるこ

とである すなわち 条件 が成り立つことである ここ

で は の閉包を表す

系  定理 の記号を用いる であるならば

の線形作用素 が存在して

が成り立つ

定義  定理 と系 の記号を用いる このとき

の線形作用素 は の共役作用素であると定義する

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系  定義 の記号を用いる に対し

であることと 等式

が成り立つことは同値である

系 より が の共役作用素であるという条件は

に対し 等式

が成り立つことと同値である

定理   ならば

が成り立つ ただし 一般に

は の線形作用素 の零集合を表す

 閉作用素

定義  ヒルベルト空間 の線形作用素 が閉作用素であ

るとは が の閉部分空間であることと定義する

系  ヒルベルト空間 の線形作用素 が閉作用素である

ための必要十分条件は 条件

ならば かつ

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が成り立つことである

定理  ヒルベルト空間 の線形作用素 で な

らば は閉作用素である 特に このとき は連続線形作用素で

ある

定理  ヒルベルト空間 の線形作用素 で

が成り立つならば は閉作用素である

定理  ヒルベルト空間 の線形作用素 で

が成り立つとき が閉作用素となる拡張をもつための必要十分条

件は

が存在することである このことは が成り立つことを

意味する

定理  ヒルベルト空間 の線形作用素 で

であるとき が閉作用素であるための必要十分条件は が

成り立つことである

定理  ヒルベルト空間 の連続線形作用素 に対し

も の連続線形作用素で 等式

が成り立つ

 自己共役作用素

定義  ヒルベルト空間 の線形作用素 が対称であると

は 共役作用素 が存在し が成り立つことであると定義

する

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したがって ヒルベルト空間 の対称線形作用素 は条件

を満たす

定理  ヒルベルト空間 の線形作用素 が対称であれば

もまた対称である

定義  ヒルベルト空間 の線形作用素 が自己共役であ

るとは 条件 が成り立つことであると定義する

ヒルベルト空間 の自己共役作用素は閉作用素である。

定理  ヒルベルト空間 の対称作用素 が 条件

を満たすならば は連続線形作用素である また 連続線形対称

作用素は自己共役である

定理  ヒルベルト空間 の連続線形作用素 に対し 等式

が成り立つ

定理  ヒルベルト空間 の自己共役作用素 が逆作用素

をもてば もまた自己共役である

 ユニタリ作用素

定義  ヒルベルト空間 の線形作用素 が等距離作用素

であるとは において等距離条件

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が成り立つことであると定義する

特に の線形作用素 がユニタリ作用素であるとは が等距

離作用素であって 条件

が成り立つことであると定義する

定理  ヒルベルト空間 の線形作用素 がユニタリ作用

素であるための必要十分条件は

が成り立つことである

 スペクトル分解定理

 直交測度

本項においては直交測度の定義とその基本性質について考察する

詳細については 伊東 第1章を参照してもらいたい

まず 直交測度の定義を与える

定義   はヒルベルト空間であるとする は

上のルベーグ測度空間であるとする このとき に値をもつ 上

の集合関数 が 上の直交測度であるとは 次

の条件 が成り立つことであると定義する

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  の集合の可算列 がどの二つも互いに素である

ならば

に対し 等式

が成り立つ ここで 右辺の級数は の強収束の意味で収束

していると考えている

  に対し

が成り立つ ここで 左辺の は の内積を表す

系  定義 の記号を用いるとき 次の が成り

立つ

  で ならば が成り

立つ

  に対し 等式

が成り立つ ここで 右辺の は のノルムを表す

いま ルベーグ測度空間 上の直交測度 が与

えられているとするとき に対し 直交測度 に関

する の積分

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の定義を与える

これを 段階に分けて行う

  が の単関数のとき

このとき は の可算直和分割

に対し

と表されているとする このとき 直交測度 に関する の積分を

関係式

の右辺の和であるとして定義する ここで 右辺の級数は のノル

ムの意味における収束を表す

このとき この積分のノルムは

によって与えられる

  が の一般の関数のとき

仮定によって の単関数の列 で において と

なるものが存在する このとき 直交測度 に関する の積分を 関

係式

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によって定義する ここで 右辺の極限は における収束を意味す

る この極限は に 収束する単関数列 の選び方に依らず

の元として一意に定まる この元を の積分であると定義する

この積分のノルムは

によって与えられる

 スペクトル測度

本項においてはスペクトル測度の定義とその基本性質について考

察する

まず 次の定義を与える

定義   はヒルベルト空間であるとし 上の射影作用素

の空間を とし は 上の可測空間であるとする の

集合の 代数 は のボル集合族 を含むとする このとき

上の射影作用素に値をとる 上の集合関数 が与え

られているとする このとき の射影作用素の系

がスペクトル測度であるとは 次の条件 が成り立つことで

あると定義する

  に対し

が成り立つ

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  の集合の可算列 がどの二つも互いに素である

とき

に対し

が成り立つ ここで 右辺の級数は強収束の意味で収束すると

する

  が成り立つ

本書においては 上の集合のつくる 代数 は常にボル集合族

を含むとする

定義 において 上の集合関数 がスペク

トル測度であるということもある このとき の台というのは

となる最大の開集合 の補集合 のことであると定

義する の台をスペクトルということがある

の代りに 一つの に対し 集合 上の可測空間

において定義されたスペクトル測度を考えることもできる

定理   はヒルベルト空間であるとし 上の可測空間

上のスペクトル測度 が与えられているとする の任意

の元 を一つとって固定する このとき に値をもつ 上の集

合関数 を 関係式

 

によって定義する

いま

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とおくとき は完全加法的正値測度空間になる

このとき は 上の直交測度で 次の条件 が

成り立つ

  の集合の可算列 がどの二つも互いに素である

ならば

に対し 等式

が成り立つ ここで 右辺の級数は の強収束の意味で収束

していることを表す

  に対し

が成り立つ ここで 左辺の は の内積を表す

 

系  定理 の記号を用いるとき 次の が成り

立つ

  で ならば が成

り立つ

  に対し 等式

が成り立つ

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いま 定理 のような完全加法的正値測度空間 上

の直交測度 が与えられているとする このとき

に対し 直交測度 に関する の積分

が定義できる これを

と表し の によるスペクトル積分であると定義する

の定義域 は

によって与えられ の定義は

によって与えられる この は稠密な定義域をもつ 上の閉作

用素である これを

と表す 対応 は作用素解析の公式を満たす

すなわち 次の定理が成り立つ

定理  上の記号を用いる このとき 次の が成り

立つ

  が成り立つ

さらに に対し

が成り立つ ここで とおいた

Page 21: 第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 - Pikara › yoshifumi › MFNSP › MFNSP-5.pdf第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 本章においてはヒルベルト空間の自己共役作用素とそのスペク

  ならば

が成り立つ

 任意の に対し

が成り立つ

  に対し

が成り立つ また に対し

が成り立つ

  に対し であることと

であることは同値である このとき

が成り立つ

  がいたるところ有限ならば は正規作用素になり

が成り立つ

特に が実数値関数ならば は自己共役である

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が の台の上で有界ならば の定義域は を

満たし 上の有界作用素になる 特に であって 等式

によって定義される 上の線形作用素 は自己共役である

自己共役作用素のスペクトル分解の問題は この逆に 上の自己

共役作用素 に対し ただ一つのスペクトル測度

が存在して のスペクトル分解

が成り立つかという問題である これについては本節の以下の項に

おいて考察する

定理   上の可測空間 においてスペクトル測度

が与えられているとする このとき

とおいて 上の射影作用素の族 を定義す

る このとき は単位の分解になる すなわ

ち 次の条件 が成り立つ

 

  ここで

は強収束の意味の右側極限を表す

  ここで 極限は強収束の意

味の収束をあらわす

Page 23: 第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 - Pikara › yoshifumi › MFNSP › MFNSP-5.pdf第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 本章においてはヒルベルト空間の自己共役作用素とそのスペク

定理 において 上の射影作用素の族

が単位の分解であるということは の恒等作用素 の分解である

ことを意味する

定理 の逆が成り立つ

定理   上の射影作用素の族 が単

位の分解であるとする すなわち 定理 の条件 が成り

立っているとする このとき ある 上の可測空間 におい

てスペクトル測度 が存在して 関係式

が成り立つ

定理 の証明は次の二つの定理を用いて行うことができる

定理   はヒルベルト空間であるとし の射影作用素の

族 は単位の分解であるとする このとき

任意の に対し の関数 の実部と虚部は共に右

連続な有界変動関数である

定理   はヒルベルト空間であるとし の射影作用素の

族 は単位の分解であるとする

このとき 任意の に対し 上の 測度空間

が存在して 次の が成り立つ

  に対し

が成り立つ

  に対し

が成り立つ

Page 24: 第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 - Pikara › yoshifumi › MFNSP › MFNSP-5.pdf第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 本章においてはヒルベルト空間の自己共役作用素とそのスペク

定理 の 測度を に対し

と表すと は 上の射影作用素である したがって 空間

上のスペクトル測度 が存在して 定理 が成り立

つことがわかる

このとき 上の 可測関数 に対し 積分

を定義できる この積分の定義の極限は強収束の意味で考える こ

の 積分を

と表す このとき 次の定理が成り立つ

定理   はヒルベルト空間であるとし の射影作用素の

族 は単位の分解であるとする 関数 は

上の複素数値可測関数であるとする このとき に対して

積分の意味で 次の は同値である

  が存在する

 

  は 上の連続

線形汎関数である

Page 25: 第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 - Pikara › yoshifumi › MFNSP › MFNSP-5.pdf第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 本章においてはヒルベルト空間の自己共役作用素とそのスペク

ここで 定理 の 積分について説明する

に対し の関数

および

はいずれも右連続な有界変動関数であるから 対応する 測度空

間が存在する したがって それぞれの 測度空間上の可測関数

に対して 積分が定義される

このような 積分の意味で定理 の が成り立つと

いうことである

したがって 上の可測空間 において定義されたスペク

トル測度 の存在と の単位の分解

の存在が同値であって スペクトル測度 によるスペクト

ル積分

と単位の分解 を用いた 積分

は同じものであることがわかる

定理   はヒルベルト空間であるとし

は の単位の分解であるとする 実数値連続関数 に対し

とおくと を定義域とする の自己共役作用素 が存

在して に対し 関係式

Page 26: 第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 - Pikara › yoshifumi › MFNSP › MFNSP-5.pdf第 章 ヒルベルト空間と自己共 役作用素 本章においてはヒルベルト空間の自己共役作用素とそのスペク

が成り立つ さらに

が成り立つ

特に なるとき 関係式

が成り立つ あるいは 略式に表して 関係式

が成り立つ これを自己共役作用素 のスペクトル分解であると定

義する

定理  定理 と同じ仮定のもとで

ならば

が成り立つ 特に が有界作用素であれば に対し

が成り立つ ここで は関係式

によって帰納的に定義する

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定理   ならば

によってユニタリ作用素 が定義できる

 ケーリー変換

定理   はヒルベルト空間であるとし が 上の対称

閉作用素であるとすると 次の が成り立つ

  をグラフとする等距離

閉作用素 が存在する

  が成り立つ したがって 特に

が成り立つ

  ならば

が成り立つ

定義  定理 の記号を用いるとき を の

ケーリー変換であると定義する

定理   は等距離閉作用素で 条件 を満

たすとする このとき 対称閉作用素 が一つ しかもただ一つ存

在して は のケーリー変換になる すなわち となる

系   はヒルベルト空間であるとし と はそれぞれ

の対称閉作用素 のケーリー変換であるとする このとき

が の真の拡張である すなわち であるた

めの必要十分条件は が の真の拡張であることである

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 ノイマンのスペクトル分解定理

定理   はヒルベルト空間であるとする の対称閉作

用素 が自己共役であるならば のケーリー変換 はユニタ

リーである

定理   はヒルベルト空間であるとする 対称閉作用素

のケーリー変換 がユニタリーならば は自己共役であって

ある単位の分解 によってスペクトル分解さ

れる さらに のスペクトル分解はただ一通りに定まる

以上をまとめて 次のノイマンのスペクトル分解定理を得る

定理 ノイマンのスペクトル分解定理   はヒルベルト

空間であるとする 対称作用素 は対称閉拡張 をもつ 対称

閉作用素 がスペクトル分解をもつための必要十分条件は が自

己共役であることである この条件は のケーリー変換がユニタ

リーであることと同値である

次のスペクトル分解の例を考える

例  掛け算作用素   とし の単位の

分解 を 関係式

のとき

のとき

によって定義すると

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が成り立つ したがって 掛け算作用素 のスペクトル分解

が成り立つ

例  作用素  ただし であるとする ここで

は定数を表す であるとする プランシュ

レルの定理によって

とおくと はユニタリー かつ

が成り立つ 例 の単位の分解 を用

いて

とおくと 射影作用素の族 も の単位の分

解になる

さらに

であると仮定すると 積分記号と微分演算の順序交換ができて

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ゆえに

が成り立つ

ゆえに 自己共役作用素

とおくと

のとき

が成り立つ このとき に対して

のとき

のとき

とおくと

であって 強収束の意味で

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が成り立つ

自己共役作用素 が閉作用素であるから

において として

が成り立つ ゆえに は の拡張になっている すなわち

が成り立つ

したがって また

が成り立つ ゆえに

がなりたつ したがって

が成り立つ

スペクトル分解の可能性 すなわち 自己共役性の判定について

次の諸定理が有用である

定理   であるような対称作用素 は自己共

役である

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定理   は となる閉線形作用素であるとす

ると と は自己共役である

系   が自己共役ならば も自己共役である

例   において と

は自己共役である

定理   あるいは とする

このとき 対称閉作用素 は実数値関数を実数値関数に写像する

さらに のとき であるならば は自己

共役な拡張をもつ

 一般展開定理

はヒルベルト空間であるとし は 上の自己共役作用素で

あるとする いま のスペクトル分解を

と表す ここで の射影作用素の族 は

の単位の分解であるとする

このとき 強収束の意味で

が成り立つから 任意の に対して 強収束の意味で 等式

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が成り立つ この関係式を「自己共役作用素 のスペクトル分解に

よる の展開」であるという

このとき 次の定理が成り立つ

定理   はヒルベルト空間であるとし は 上の自己

共役作用素であるとする は のスペクトルであるとすると

き のレゾルべントを

と表す の射影作用素の族 は の単位

の分解であるとすると 次の関係式が成り立つ

が成り立つ は における右側極限を表し 強収束の意味で考

える

証明  のレゾルベントに対するスペクトル分解によって

に対し 等式

が成り立つ したがって 定理の等式の右辺の式を と表すと

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が成り立つ

このとき の極限を考えて 等式

が成り立つ ここで はヘビサイドの関数で 関係式

のとき

のとき

によって定義されている したがって 等式

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が成り立つ は任意であるから 等式

が成り立つことが証明された

したがって 次の一般展開定理を得る

定理 一般展開定理  定理 の記号を用いる このと

き に対して 強収束の意味で等式

が成り立つ

証明 強収束の意味において

が成り立つから 定理 より のときの極限を

考えることにより定理の結論が従う