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- 91 - 沖縄県立総合教育センター 離島長期研修員 第52集 研究集録 2012年9月 〈算数〉 数学的な思考力・表現力を高める指導の工夫 児童に「問い」を生起させ,共有し,追求し合う授業づくりをめざして(第4学年)宮古島市立鏡原小学校教諭 美和子 テーマ設定の理由 21世紀は,「知識基盤社会」の時代であるといわれ,学校教育においては,「確かな学力」,「豊かな心」, 「健やかな体」の調和を重視する「生きる力」を育むことがますます重要になっている。そのため,平成 20年に改訂された小学校学習指導要領の算数においては,算数的活動の一層の充実を図り,基礎的・基本 的な知識・技能を身につけ,それらを活用して課題を解決するために必要な,数学的な思考力・表現力を 高めていくことが重視されている。 しかし,平成19年度より実施されてきた全国学力・学習状況調査によると,沖縄県は計算の意味を理解 することや根拠となる事柄を明らかにして論理的に説明する「算数B記述式」が課題となっている。その ため,これまでも「問題解決」の授業を行い,身近な話題を用いた課題を提示したり,ペアやグループで 説明し合う場を設定したりして,数学的な思考力・表現力の育成に努力してきた。本校においても,「聴 いて・考えて・つなぐ授業づくり」を意識し,言語活動の一層の充実をめざした授業づくりに取り組んで いる。しかし,県の傾向と同様に思考力・表現力を問う記述式問題に課題が見られ,無回答も多いという 実態がある。その原因として,児童が「解いてみたい」,「なぜそうなるのかはっきりさせたい」など能動 的な態度を引き出す工夫が十分でなかったことや,筋道を立てて考えさせたり説明させたりする手立てが 不十分だったことが考えられる。そのため,児童が主体的に問題解決に取り組む意欲を高めるとともに, その過程の中で,見通しを持ち,筋道を立てて考えたり表現したりする力を高めるさらなる工夫が必要で ある。 児童一人一人が意欲的に問題解決に取り組めるようにするためには,教師から与えられた問題に対して, 追求の契機となる「問い」を児童の中に生起させることが大切と考える。「解き明かしたい」という追求 意欲を喚起できるような「問い」に子どもを出合わせることができれば,児童は能動的に動き出す。その 「問い」を学級全体で共有し,筋道を立てて考えたり表現し合ったりするような授業を目指したい。児童 が自分の思いを表現したくなる価値のある「問い」,解決したくてたまらなくなる切実な「問い」を引き 出す教材・問題提示・発問の工夫をすることができれば,児童は目的意識を持って主体的に取り組むこと ができるようになり,数学的な思考力・表現力を高めることができると考え,本テーマを設定した。 〈研究仮説〉 「1けたでわるわり算」,「2けたでわるわり算」の単元において,教材・問題提示・発問の工夫を行う ことにより,追求の契機となる「問い」を児童の中に生起させ,解決の見通しを持つなかで生じた児童の つぶやきを学級全体で共有し,追求の視点を焦点化することができれば,課題に目的意識をもって取り組 むことができ,数学的な思考力・表現力が高まるであろう。 研究内容 数学的な思考力・表現力を高めることについて (1) 数学的な思考力・表現力とは 小学校学習指導要領の改訂に伴い,児童に日常の事象について見通しを持ち筋道を立てて考え, 表現する能力を育てることが求められている。このことについて,「小学校指導要領解説算数編」(以 下「解説算数編」と表す)によると,「算数的活動を通して,数学的な考え方の基礎を身につけ, 論理的に考えたり,発展的・統合的に考えたりする。」とある。片桐重男(2007)は「数学的な考 え方は,それぞれの問題解決に必要な知識や技能に気づかせ,知識や技能を導き出す力である。」 とし,これを「数学的な態度」,「数学の方法に関する数学的な考え方」,「数学の内容に関係する数 学的な考え方」の三つのカテゴリーに分類した。その中で,「論理的な考え方」,「発展・統合的な 考え方」は「数学の方法に関係した数学的な考え方」に含まれる。中でも本実践で特に重視したい のは,帰納的な考え方,演繹的な考え方,類推的な考え方であり,これらの方法を使って未知の課

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沖縄県立総合教育センター 離島長期研修員 第52集 研究集録 2012年9月

〈算数〉

数学的な思考力・表現力を高める指導の工夫-児童に「問い」を生起させ,共有し,追求し合う授業づくりをめざして(第4学年)-

宮古島市立鏡原小学校教諭 平 良 美和子

Ⅰ テーマ設定の理由21世紀は,「知識基盤社会」の時代であるといわれ,学校教育においては,「確かな学力」,「豊かな心」,

「健やかな体」の調和を重視する「生きる力」を育むことがますます重要になっている。そのため,平成

20年に改訂された小学校学習指導要領の算数においては,算数的活動の一層の充実を図り,基礎的・基本

的な知識・技能を身につけ,それらを活用して課題を解決するために必要な,数学的な思考力・表現力を

高めていくことが重視されている。

しかし,平成19年度より実施されてきた全国学力・学習状況調査によると,沖縄県は計算の意味を理解

することや根拠となる事柄を明らかにして論理的に説明する「算数B記述式」が課題となっている。その

ため,これまでも「問題解決」の授業を行い,身近な話題を用いた課題を提示したり,ペアやグループで

説明し合う場を設定したりして,数学的な思考力・表現力の育成に努力してきた。本校においても,「聴

いて・考えて・つなぐ授業づくり」を意識し,言語活動の一層の充実をめざした授業づくりに取り組んで

いる。しかし,県の傾向と同様に思考力・表現力を問う記述式問題に課題が見られ,無回答も多いという

実態がある。その原因として,児童が「解いてみたい」,「なぜそうなるのかはっきりさせたい」など能動

的な態度を引き出す工夫が十分でなかったことや,筋道を立てて考えさせたり説明させたりする手立てが

不十分だったことが考えられる。そのため,児童が主体的に問題解決に取り組む意欲を高めるとともに,

その過程の中で,見通しを持ち,筋道を立てて考えたり表現したりする力を高めるさらなる工夫が必要で

ある。

児童一人一人が意欲的に問題解決に取り組めるようにするためには,教師から与えられた問題に対して,

追求の契機となる「問い」を児童の中に生起させることが大切と考える。「解き明かしたい」という追求

意欲を喚起できるような「問い」に子どもを出合わせることができれば,児童は能動的に動き出す。その

「問い」を学級全体で共有し,筋道を立てて考えたり表現し合ったりするような授業を目指したい。児童

が自分の思いを表現したくなる価値のある「問い」,解決したくてたまらなくなる切実な「問い」を引き

出す教材・問題提示・発問の工夫をすることができれば,児童は目的意識を持って主体的に取り組むこと

ができるようになり,数学的な思考力・表現力を高めることができると考え,本テーマを設定した。

〈研究仮説〉

「1けたでわるわり算」,「2けたでわるわり算」の単元において,教材・問題提示・発問の工夫を行う

ことにより,追求の契機となる「問い」を児童の中に生起させ,解決の見通しを持つなかで生じた児童の

つぶやきを学級全体で共有し,追求の視点を焦点化することができれば,課題に目的意識をもって取り組

むことができ,数学的な思考力・表現力が高まるであろう。

Ⅱ 研究内容1 数学的な思考力・表現力を高めることについて

(1) 数学的な思考力・表現力とは

小学校学習指導要領の改訂に伴い,児童に日常の事象について見通しを持ち筋道を立てて考え,

表現する能力を育てることが求められている。このことについて,「小学校指導要領解説算数編」(以

下「解説算数編」と表す)によると,「算数的活動を通して,数学的な考え方の基礎を身につけ,

論理的に考えたり,発展的・統合的に考えたりする。」とある。片桐重男(2007)は「数学的な考

え方は,それぞれの問題解決に必要な知識や技能に気づかせ,知識や技能を導き出す力である。」

とし,これを「数学的な態度」,「数学の方法に関する数学的な考え方」,「数学の内容に関係する数

学的な考え方」の三つのカテゴリーに分類した。その中で,「論理的な考え方」,「発展・統合的な

考え方」は「数学の方法に関係した数学的な考え方」に含まれる。中でも本実践で特に重視したい

のは,帰納的な考え方,演繹的な考え方,類推的な考え方であり,これらの方法を使って未知の課

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題の解決方法を推論し,議論を深めながら高次の解決策に至るような過程を児童に経験させること

が今後ますます重要になると考える。

(2) 数学的思考力を高める整数の除法の指導について

除法の計算のしかたについて,「解説算数編」では,「計算の手順を形式的に指導すると,児童に

とっては理解が困難となる。指導に当たっては,計算の各段階の意味を十分に理解できるようにす

る必要がある」と述べられている。これまでの計算指導では,正確な処理技能の習得のため「たて

る」,「かける」,「ひく」,「おろす」といったアルゴリズムを反復練習によって定着させることがあ

った。そのため,筆算の意味を考えさせる活動を十分に経験させることができず,答えを導き出す

ことができても,なぜそうなるのかを考え,説明することができなかったり,計算の手順が分から

なくなると,途中でやめてしまったりする児童が見られた。このような状況を改善するためには,

アルゴリズムの形式的な筆算の指導から,図1のように筆算をブロック操作しながら意味を理解さ

せ,見当をつけた商で計算がうまくいかない理由を説明させたり,児童それぞれの思考過程を説明

する活動を取り入れたりして,筋道を立てて考える力(論理的思考力)を高める指導をしていくこ

とが必要であると考える。

【これまでの指導】 【数学的な思考力を高める整数の除法の指導】

13 たてる 10 10 10 10 10 1 1 13十の位5÷4=1あまり1

4)52 かける ①まず,50を10の束5つと1が2つと考える。 4)52 1をたてる

4 ひ く そして10の束を4つに分ける。 4 次に,わる数×商

12 おろす 10 10 10 10 たてる 12 4×1=4

②余った12を1が12こと考えて4つに分ける。 十の位は5-4=1

1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 一の位の2をおろす12÷4=3

③すると,1つ分は,10 1 1 1 となり, 10+3=13

式で表すと,10+3=13

図1 論理的思考力を高める筆算指導

2 「問い」を生起させる授業づくり

(1) 「問い」のある授業とは

筋道を立てて考える力(論理的思考力)

を高めるためには,教師が一方的に知識・

技能を教え込むのではなく,児童に新しい

課題に興味・関心をもって出合わせ,児童

が目的意識を持って主体的に取り組むよう

にすることが大切である。そのため,問題

提示の後に教材の本質に迫るような発問を

することによって「解き明かしたい」,「はっ

きりさせたい」など児童の中に追求の契機

となる「問い」を生起させ,能動的にする

必要があると考える。尾崎正彦(2010)は,

「『問い』とは,課題の中に『どうすれば

いいのかな』,『なぜそうなるのかな』な

ど,自分の分からないところや課題とのズ

レ,乗り越えることができない点を見いだ

すことであり,受動的な子どもの学習態度

を能動的な態度へと転換できるのは,児童

に『問い』を持たせることである。」と述

べている。ここで言う「問い」とは,教師

の発問によって児童の中に「考えを表現し

たい」という意欲や解決してたまらないと

ういう課題意識,「こうすれば解けそうだ」という見通しなどのことで,児童が対象に主体的に働

きかけ,追求の契機を自分の中につくり出すことである。授業イメージを表すと,表1に示したよう

アルゴリズムを

唱えて覚えさせ

るだけの指導

意味を考えながら,図に表して理解する

「問い」を生起させる授業の進行例

教師:問題を提示する児童:問題を捉える

導 ○どんな場面か,分かっていること聞かれていることなどを考える

○問題から気がついたことをつぶやく教師:数学的な考え方につながるつぶやきをとら

入 えて板書し,問題意識を共有化する教師:「契機の問い」につながる発問をする児童:「問い」が発生する児童:自力解決する

○解決方法を考える○今もっている力で解いてみる○ノートにかきながら考える

展 児童:自力解決によって生まれた視点に気づく教師:「視点の問い」につながる発問をする児童:図や式,言葉などで表す教師:ペアやグループで話し合わせる児童:多様な考えにふれる

開 教師:全体で考えを交流させる。授業をファシリテートし,児童と対話しながらそれぞれの考えをつないで思考を深めさせる。

児童:より高次の考えを持つ教師:「価値付けの問い」につながる発問をする児童:本時の思考や学習内容を整理する

ま教師:授業の価値付けをする

と児童:本時の学習について筋道を立てて表現する

表1 「問い」を生起させる授業の進行例

式に表し意味を理解する

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に児童一人一人が主体的に取り組める教材・問題提示・発問の教材研究をし,授業の導入段階で「前

に習ったことを使えば解けそうだ」,「どの考えが使えるかな」などの発送を引き出すような「契機

の問い」につながる発問をする。次に,発問に対する児童のつぶやきを教師が児童と対話しながら

つなぎ,更なる追求の「視点となる問い」に整理する。そして,その「問い」を全体で共有化し,

討議しながら解決していく。さらに,「価値付けの問い」につながる発問を行うことができれば,

演繹的な考え方や類推的な考え方等を用いながら筋道を立てて考えたり,表現したりする力を高め

ることができると考える。

(2) 「問い」の共有化について

児童に「問い」を生起させた後,次に重要になるのが教師と児童,児童同士の関わり合いである。

「契機の問い」を生起させる場面では,児童の「問い」が集約されておらず,学級の思考の方向が

定まっていない。そこで,教師が意図的に児童の思考活動に関わり,児童のつぶやきをつないで思

考を焦点化し,学級全体で課題解決を図っていくことができるようにする。また,児童の思考を深

めるための学習形態として,ペア,グループ,全体のどちらがよいかを判断し,児童同士の関わり

合いの場を設定していく。ここで大切になるのが教師のコーディネート力である。児童の多様な気

づきを収束させ,1つの方向へと思考を導き,よりよい方法へと高める必要がある。このとき,教

師は思考力・表現力の育成につながる考え方を取り上げ,同じ考えと結びつけたり,対立する考え

と比べたりしながら,より高次の解決策へと高めていくようにする。さらに,教師には,予想外の

児童の反応に対しても対応できる深い教材解釈とゆとりのある計画性が求められる。

(3) 児童に「問い」を生起させる教材研究(教材・問題提示・発問の工夫)について

細水保宏(2011)は,教師に必要な授業力を『授業観』,『教材研究する力』,『学習指導する力』

『人間性』の4つとしている。教師がどのような子どもに育てたいか,どのような授業をしたいか

という授業観を構築した上で教材研究をする。教材研究をする際に大切なことは,教材の内容の本

質をとらえることである。この本質をとらえることが,「契機の問い」や「視点となる問い」を導

き出す根本になると考える。学習指導力とは,どのような学習形態でどのように授業を進めていく

かという学習指導法を築いていくことであり,人間性とは授業の中で身振りや手振り笑顔などを用

いて児童を引きつけたり,児童のよいところを褒めたりして児童を認めていく態度のことと捉える。

このような授業力観を土台にした上で,児童に「契機の問い」や「視点となる問い」を生起させ

るために,教材の内容の本質をいかにとらえさせるかを考える。田中博史(2011)は,「『問い』を

持たせるためには,教師の仕掛けが必要不可欠であり,その仕掛けのポイントを3つに絞ると,子

どもたちに問いのきっかけを与える教材,子どもたちの問いを引き出す問題提示,子どもたちの問

いを膨らませる発問である」と述べている。教師は,授業を進行し,本時の学習の内容を児童に教

えるその裏で,どのような考え方やものの見方を身につけるかというところまで,意図して授業づ

くりをしていくことが大切である。そのためには,教材理解,そして児童理解が必要不可欠になる。

児童を生き生きと能動的にする

ためには,目の前にいる児童に

合わせ,必要に応じて教科書の

数値を変えたり,問題提示の方

法を工夫したりして,提示する

のにふさわしい形に直すことも

必要である。教材,問題提示,

発問の教材研究の視点について

は,表2の通りとする。

(4) 教材研究の実際(80÷20から84÷21,175÷35へとつなぐ教材研究)

「2けたでわるわり算」,第1時で80÷20を指導する場合,まず等分除で指導するか包含除で指

導するかを考える。筆算指導のはじめに大切になることは,およその数で仮商を立てることである。

そこで,既習と同じように8÷2として計算できることに気づかせるために包含除の考え方で導入

する。このとき,「契機の問い」につながる発問を「わられる数もわる数も2けたになったとき,

どう計算するのかな」とする。児童は「習ったかたちに直せないかな」,「8÷2として考えられな

いかな」,などの「問い」をもつだろうと予想しておく。

第1時の指導をふまえて,第2時では84÷21を指導する。この場合の筆算は等分除でも包含除で

表2 教材・問題提示・発問の教材研究の視点

教○授業のスタートでだれもが手を出せる教材であること。

材○児童の多様な考えが生まれるオープンな教材であること。○連続的に問いを生むことのできる教材であること。

○条件不足,条件過多,矛盾した情報を知らせものであること。問○児童に不公平さや不平等さを感じさせるものであること。

題○友達の考えとのズレ,予想とのズレ,感覚とのズレ,既習とのズ

提レなどを生かすことのできるものであること。示

○難解のあるものであること。発 ○児童が考えたことを問う発問であること。

問 ○児童の思考を整理し,揺さぶる発問であること。

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も説明できるが,175

÷35のような(3位数)

÷(2位数)の筆算で

は等分除でないと説明

できなくなるので,児

童が次時で戸惑わない

ように「10円玉は21人

には分けられないので

1円玉にしてから分け

る」という等分除の考

えに移行する。このと

き,児童は一の位に4

や1があることに難し

さを感じる。そこで「契

機の問い」として「84

÷21の4や1がいくら

だったら計算できるか

な」と発問する。する

と,児童の中に「昨日

と同じようにしたらで

きるかも」,「何十÷何

十だったらできるかも」

という「問い」が生ま

れる。このように,教

材の本質にせまる教材

研究をし,児童にどの

ような「問い」を生起

させるかを考え,そし

て,その「問い」を予

想した上で発問をえて

いくということになる。

実際の指導では,教師

が児童はどのような

「問い」を持つのか,

できるだけ多く予想で

きることが授業の流れ

をつくる鍵となる(図

2)。 図2 「問い」を生起させるための教材研究例

3 思考力・表現力を高めるノートの活用

児童の中に「問い」が生起したとき,とっさに出るつぶやきはまだ日常言語であることが多く,数

学的表現を用いて説明するために思考を整理し,言葉を洗練する場が必要になる。そこで,ノートを

「思考の基地」と考え,思考過程や自分の考えの根拠などが残るよう工夫する。算数科においては,

数学的表現を用いて思考したり,理解したり,説明したりする言語活動が重視されている。その数学

的表現とは,記号的表現や図的表現など,算数固有の表現を用いることである。説明の場面では,言

葉に加えて,情景図や数字・演算記号などの式を用いることで相手に伝わりやすくなる。児童には,

図や式を使うよさを積極的に体験させるとともに,聞き手を意識させることで,数学的表現を用いて

表現したり,説明したりする力を高めさせたい。また,自分はどのような過程を踏んで考えようとし

ているか,解決の過程でどのようなことで困っているのかをかくようにすることで,考えを整理する

ことができ,見通しをもち,筋道を立てて考えやすくなる。関わり合いの場で,自分の考えがかかれ

たノートを活用すれば,他者との交流の中で思考を深めていくことができると考える。

【2けたでわるわり算 第1時 80÷20を指導する場面 】

ねらい:何十でわる計算のしかたを考え,2位数でわる除法の意味を理解させる。

等分除で指導する場面 問題:80円を20人で分けるとしたら,1人分はいくらかな。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 15 16 17 18 19 201312 14

①①①①

①①①①

①①①①

①①①①

①①①①

①①①①

①①①①

①①①①

①①①①

①①①①

①①①①

①①①①

①①①①

①①①①

①①①①

①①①①

①①①①

①①①①

①①①①

①①①①

包含除で指導する場面 問題:80円を20円ずつ分けたら,何人に配れるかな。

10 10

10

10 10 10 10 10

10 10 10 101010

10

1010円玉は分けられないので,1円玉にしてから分ける

教師の意図

※「契機の問い」の発問:わる数とわられる数も2けたになったとき,どう計算すればいいのかな。

予想される児童の「問い」:8÷2と同じように考えられるかな。習ったかたちになおせないかな。

※「視点の問い」の発問:10円玉で考えてみよう。

予想される児童の「問い」:10円玉8枚を20円ずつわけると4人にわけられる。商が8÷2と同じかも

この問題を解く際は,商の「どこに」「何が」立つかが考える視点となる。そこで仮商を引き出すことが容易な含除の考えで導入する。「80÷20も既習事項を使えば解けるかも」と気づかせたいので

【2けたでわるわり算 第2時 84÷21を指導する場面 】ねらい:何十でわる計算のしかたを考え,2位数でわる除法の意味を理解させる。

等分除で指導する場面 問題:84円を21人で分けるとしたら,1人分はいくらかな。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 15 16 17 18 19 201312 14

包含除で指導する場面 問題:84円を21円ずつ分けたら,何人に配れるかな。

10 10

10

10 10 10 10 10

10 10 10 101010

10

10 10円玉は分けられないので,1円玉にしてから分ける

1 1 1 1

21

1 111

84÷21を10円玉8枚と1円玉4枚持っていて,それを21人に分けると考えると,10円玉を1円にくずして,1円玉84枚を21人に配るという考えが必要になる。この場合,1人分はいくらという等分除の考えで解決することになるため,包含除から等分除へ考え方を進展させる必要が出てくる。また,筆算で計算すると(3位数)÷(2位数)だと等分除でないと成り立たない。次の(3位数)÷(2位数)で児童が戸惑わないように「等分除」で導入する。本時の指導では,1の位が4や1になって戸惑うために84や21がいくらだったら解けるかと発問し,「80÷20」なら仮商へと導き出すことに気づかせた上で,等分除による解決を指導する。

※「契機の問い」の発問:84÷21の4と1がいくらだったら計算できるかな。

予想される児童の「問い」:80÷20だったらできるかも。昨日と同じようにしたらできるかも。

※「視点の問い」の発問:筆算でするとどうなるかな。

教師の意図

予想される児童の「問い」:およその数でやると4になるかも。昨日と一緒くらいの答えになるかも。

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Ⅲ 指導の実際1 単元名 「1けたでわるわり算」「2けたでわるわり算」

2 単元目標

整数の除法について理解を深め,その計算が確実にできるようにし,それを適切に用いる能力を身

につけさせる。

3 単元の目標と評価規準

関心・意欲・態度 数学的な考え方 技 能 知識・理解

○桁数の多い整数の計 ○桁数の多い整数の計 ○除数が2位数で被除 ○除数が2位数で被除数が2位数や3

算について考える際 算の仕方を既習の基 数が2位数や3位数 位数の場合の除法の計算が基本的な

目 に,既習の基本的な 本的な計算の意味や の場合の除法の計算 計算を基にしてできることを理解し

計算の意味や計算の 計算の仕方などを基 が確実にできる。 ている。

標 仕方などを活用し, にして,具体的操作 ○除数が2位数で被除数が2位数や3

自ら問題を解決しよ や図,言葉,式など 位数の場合の除法の筆算の仕方につ

うとしている。 を用いて考えている いて理解している。

○桁数の多い整数の計 ○桁数の多い整数の計 ○除数が2位数で被除 ○除数が2位数で被除数が2位数や3

算について考える際 算の仕方を既習の基 数が2位数や3位数 位数の場合の除法の計算が基本的な

に,既習の計算の意 本的な計算の意味や の場合の筆算ができ 計算を基にしてできることを理解し

味や計算の仕方など 計算の仕方などを基 る。 ている。

を活用しようとして にして,図,言葉, ○除数が2位数で被除数が2位数や3

いる。 式などを用いてかく 位数の場合の除法の筆算の仕方につ

ことができる。 いて理解している。

4 単元指導計画

(1) 1けたでわるわり算

時○ねらい 発問・教材のねらい ◇「問い」を生起させるための発問

身につけさせたい力◆問 題 (教師の意図) ◆予想される児童の「問い」

○除法の場面を式に表し,計 ○被除数÷除数=商 ◇何が分かれば,計算できるかな。 ○除法の意味を理解

算のしかたを理解する。 は商×除数=被除 ◆わられる数÷わる数=商だからわ し立式できる。

1 問題提示(条件不足) 数の関係が成り立 られる数かな。 ○確かめの仕方を理

◆チョコレートを9こずつ分 つことを気づかせ ◇仲間分けしてきまりは見るかな。 解できる。

けます。1人分は何こかな。 る。 ◆みんな商×わる数=わられる数に

なっているかも。

○(2位数)÷(1位数)の ○42÷3の計算のし ◇これまで学習したことを使って答え ○(2位数)÷(1

計算のしかたを考えること かたを既習事項を が出せるかな。 位数)の計算を図,

2ができる。 もとに考えれば解 ◆昨日と同じ方法が使えるかな。 言葉,式で考えるこ

問題提示(条件不足) 決できることを気 ◆これまでに習ったかけ算九九を利 とができる。

◆あめ玉を3人で分けたら1 づかせる。 用して,わられる数を分けてでき

人分は何こになりますか。 ないかな。

○(3位数)÷(1位数)の ○被除数が3位数に ◇数が多くなって分けることが面倒な ○除法の計算のしか

計算のしかたを考えること なった場合,反具 き,どんな計算が使えるかな。 たと筆算とを結び

3ができる。 体物操作や暗算な ◆わり算も筆算ってあるのかな。 つけて,筆算の計算

問題提示(面倒) どでは時間がかか ◇たし算,ひき算,かけ算の筆算と比 手順を考えること

◆132このひまわりの種を6 るということに気 べてみよう。 ができる。

このプランターにまくとき づかせ,筆算の必 ◆一の位からじゃないのかな。

1つは何こになりますか。 要性を感じさせる

4 教師が除法の筆算のしかたや筆算の意味を説明し,習得を図る。○除法の筆算のしか

たを知る。

○(2位数)÷(1位数)の ○筆算を形式的に覚 ◇商は何の位に立つのかな。 ○商に0が立つ場合

5計算のしかたを考える。 えるのではなく意 ◆十の位は分けられるかな。 の意味を説明でき

◆68÷4の計算のしかたを考 味を考えさせる。 ◇答えは 3 でいいのかな。 る。

えよう。 ○商に0をかくこと 3)92

◆92÷3の筆算をしよう。 を気づかせる。 ◆3×3=9になってしまう。一の

位に0がないとおかしいかも。

おおむね満足できる

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○(3位数)÷(1位数)で, ○百の位に商が立た ◇100の束を分けるにはどうしたらいい ○十の位から商が立商が2位数になる場合の筆 ないことに気づか かな。 つことを説明でき算のしかたを考える。 せる。 ◆(2位数)÷(1位数)のように その筆算ができる。教材(多様な考え) ○(3位数)÷(2 考えればできるかも。 ○筆算を確実にでき

6◆2□□÷3の商を考えよう 位数)の筆算を身 ◆百の束が分けられないときは,十 るようにする。につけさせる。 の束にして考えればいいかな。

◇隣の人がすきな数字を入れても計算できるかな。◆これまで学習したことを使えばできそうだ。

7習得を図る時間とし,グループで練習問題を解き,教え合って確実に習得できるようにする。○筆算を確実にできるようにする。

○乗法になる場合と除法にな ○文章問題のどこに ◇なぜ,かけ算なのかな。なぜわり算 ○文章問題で問われ

8 る場面を理解する。 着目すれば計算が なのかな。 ていることを考え◆文章問題を解こう。 できるかを考えさ ◆全部とかみんなではかけ算だよね。 ることができる。

せる。 ◆1つ分だからわり算かな。(2) 2けたでわるわり算

○ねらい 発問・教材のねらい ◇「問い」を生起させるための発問身につけさせたい力時 ◆問 題 (教師の意図) ◆予想される児童の「問い」

○何十÷何十を既習事項を使 ○80÷20を8÷2で ◇わられる数もわる数も2けたになっ ○80÷20を8÷2のって求めることができる。 計算しても商は変 たとき,どう計算できるかな。 答えを具体的操作問題提示(既習とのズレ) わらないことに気 ◆8÷2と同じになるかも。 や図・式を使って

1◆80円で20円のあめ玉は何個 づかせる。 ◆商×わる数=わられる数の方法で 導き出すことがで買えますか。 できないかな。 きる。

◇10円玉で考えてみよう◆10円玉8枚を2枚ずつ分けると4つになる。8÷2と同じ商かな。

○(2位数)÷(2位数)の ○(2位数)÷(2位 発問(解決の見通し) ○およその数で計算筆算のしかたを考えること 数)も既習事項(お ◇84÷21の4と1がいくらだったら計 できることを理解

2 ができる。 よその数)を使え 算できるかな。 する。◆84円のおつりを21人で分け ば計算できること ◆昨日と同じように80÷20だったら, ○どこに商が立つの

本 るとしたら1人分はいくら を気づかせる。 計算できるかも。 か考えることがで時 ですか。 4 きる。① ◇なぜ21)84ではだめなの。

◆十の位だと40円ずつになってしまうから,一のくらいに立つかも。

○仮商が大きすぎた場合の修 ○仮商が大きかった 発問(解決の見通し) ○仮商が合わなかっ正の仕方を考えることがで 場合,商を大きく 3 た場合,商を小さくきる。 したり小さくした ◇33)96 でいいかな。 したり大きくした

◆96÷33の筆算のしかたを考 りして計算するこ ◆9÷3=3とこれまでの仮商だと りして求めることえよう。 とを気づかせる。 わられる数が大きくなるぞ。 ができる。

3 ◇仮商が大きくなった場合どうしたらいいかな。◆(2位数)÷(1位数)に習ったように立てた数を小さくする方法でできるかな。

○(3位数)÷(2位数)の計 ○(3位数)÷(2位 発問(解決の見通し) ○(3位数)÷(2位4 算のしかたを考えることが 数)の筆算で商が ◇商はどこに立つかな。 数)の商はどこに

できる。 どこに何が立つか ◆百の束は分けられるかな。十の束 何が立つかを考え本◆170÷34の筆算の仕方を考 と思考を焦点化し は分けられるかな。 る。時 えよう。 既習事項で計算で ◇商は何が立つかな。 ○(3位数)÷(2位② きることに気づか ◆仮商をたてる考えが使えないかな。 数)の筆算ができ

せる。 ◇324÷36の計算もできるかな。 る。○(3位数)÷(2位数)の ○既習事項を使って 発問(解決の見通し) ○既習事項を基に筆

5筆算ができる。 筆算ができること ◇何と何が分かれば筆算できるかな。 算することができ

◆322÷14の筆算を考えよう に気づかせる。 ◆これまでと同じ方法で「どこに」「何 る。を」が分かれば解決できるかも。

○商に0が立つ筆算の仕方を ○活用を基に習得が 教材(難解問題) ○(3位数)÷(2位考えることができる。 図り,筆算の仕方 ◇9136÷13の筆算はどうするのかな。 数)の筆算を確実

6◆607÷56の計算のしかたを を身につける。 ◆4けたになってもこれまでの方法 にできる。考えよう。 を使えばでできるかな。

7習得を図る時間とし,グループで練習問題を解き,教え合って確実に習得できるようにする。○筆算を確実にできるようにする。

○除法では,被除数と除数に ○教科書の□に数字 発問(解決の見通し) ○被除数と除数に同

8同数をかけても,被除数と を入れることで, ◇どんな関係がかくれているのかな。 じ数をかけても商除数を同じ数でわっても商 わり算やかけ算の ◆商がみんな同じだ。わられる数, は変わらないことは変わらないことを理解す 仕組みに気づかせ わる数はどうかな。 を理解する。る。 る。

- 97 -

5 本時②の展開(2けたでわるわり算:第4時)段 ◎教師の働きかけ階

学習活動と教師の発問 予想されるの児童の反応【 】評価の観点

1.問題把握問題提示:170÷34の筆算をしようT:今までとのちがいは? C:3桁になった。 ◎(3位数)になったことで,児童が難しさを

導 問 T:筆算ってどうやってやる C:どこに,立てる,かける, 感じると思われるので,「これまで習ったこい のかな。 ひく,おろす とを使えば解決できる」ことに気づかせるよを C:仮の商をたてる。 うにする。も C:3けたになったからむず

入 つ かしそう。 ◎思考を焦点化するため,「筆算を考えよう」T:今まで習ったことをつか ではなく,「商はどこに立つか考えよう」に

ってできないかな。 する。「契機の問い」の発問:商はどこに立つかを考えよう。

2.自力解決①T:商が何の位に立つか考え C:百の位,十の位は34に分 ◎商を何の位に立てるかが児童の迷うところで

てなぜ,そこに立つのか けられないから1の位に ある。なぜ,一の位に立つのかの理由を考えかいてみよう。 立つ。 させるようにする。

C:1は34より小さい,17も34より小さい,170ならできるから,一の位に立つ。

C:何が立つか分からない。3.相互交流① ◎考えがまとまっていない児童がヒントがもらT:隣の人に説明してみよ えるように,できた児童から説明するように

う。 する。◎説明を入れることで,筆算の意味を考え,何の位に立つのかの考えを整理できるようにする。

展 問 T:どこから,立つのかな。 C:1の位い 4.自力解決②の 「視点となる問い」の発問:商は何が立つかを考えよう。 ◎およその数(仮商)で求められることを確認共 する。有 T:どうすればよかったかな C:かりの商を立てた

開 化 T:何が立つかを書いて,な C:170÷30と見て,17÷3ぜその商が立つか吹き出 =5あまり2だから,5しに書いてみよう。 を立てる。

5.相互交流②T:隣の人に説明してみよう C:前と同じようにすればでT:284÷71もできるかな。 きる。T:みんなできるようになっ C:教えてもらっていいです まだ商が求められない児童に集まってきて

たかな。 か。 教え合っている様子

「価値付けの問い」の発問:324÷36の計算もできるかな ◎仮商が10で戸惑う児童がいる場合は仮商が大T:仮商が大きかったときは C:仮の商が10だよ。 きいときはどうするかを確認する。

どうするかな。 C:1小さくする。 【考】(3位数)÷(2位数)=(1位数)のT:10の時はどうするのかな C:9にする。 商の立て方を考えることができたか。T:みんなできるようになっ C:教えてもらっていいです 【技】(3位数)÷(2位数)で,仮商が10に

たかな。 か。 なりそうな筆算のしかたを修正して計算ができたか。

ま解6.考えをまとめる。 C:3けたの筆算も「どこに」◎桁数が増えても,既習と同じように計算でき

と決T:3けた÷2けたで大切な と「何を」が分かれば筆 たことを認める。

め ことをまとめてみよう。 算できる。

6 仮説の検証

教材・問題提示・発問を工夫し,児童に「問い」を生起させる授業づくりを通して,目的意識を持っ

て主体的に取り組み,数学的な思考力・表現力を高めることができたかを,実践記録,発表の様子,

児童のノート分析,学習感想,アンケート調査結果から分析・考察する。

(1) 教材・問題提示・発問の工夫から児童に「問い」を生起させる指導の実際について

教材の内容の本質をとらえる教材研究をし,その教材・問題提示・発問の工夫から児童に「問

い」を生起できたかどうか,分析・考察する。

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①1けたでわるわり算の指導の実際と考察◆問題提示◇発問 発問に対する児童の反応 ○考察 ■改善策

◆□÷9で問題を作ろう ○全体の数が分かればいい。 ○つぶやきが多く, 問題提示は(カードの準備) ○わり算はわられる数÷わる数=商という式にな 良かったと感じた。主体的に

◇何が分かれば計算できるか る。 カードも仲間分けしていた。1 な。 ○18÷9=2 36÷9=4 など 商×わる数=わられる数とい◇仲間分けしてきまりが見え みんな商×わる数=わられる数になっている。 うつぶやきを拾えることはでてくるかな。 などの発言があった。 きたが,全員の共有化の部分

に課題が残った。◆ □÷3で先生と勝負。 ○30÷3=10,60÷3=20は簡単に説明できた。 ○具体的操作で答えを求めたり◇(30,60,42)の順に数字 42÷3は「かけ算九九にないからできない」と 図にかいて求めたりしていた

2 を出す。 言っていたが,発問から「分けて考えればいい」 が,「分ければいい」という◇今まで習ったことは使えな 30÷3=10,12÷3=4,10+4=14と答えて つぶやきから,「問い」が深いかな。 いる児童もいた。 まっていった。

◆132このひまわりの種を6こ ○前時の学習から,「分けて考えればいい」という ○ねらいに迫る教材を準備するのプランターにまくとき, 意見が多かったが,わり算の筆算を知っている ことができず,児童の思考を1つ分は何こになりますか。 児童から,「筆算」というつぶやきがあった。 焦点化することが出来なかっ

◇数が大きくなって分けるの ○ひまわりの種を分けることに時間がかかった。 た。めんどくさいとき,どんな ○筆算は,「百の位から計算する」というまではい ○前時とのつながりがなく,(2計算が使えるかな。 ったが,筆算の理解までには至らなかった。 位数)÷(1位数)の筆算も

3◇たし算,ひき算,かけ算と 指導していない状況で(3位どこが違うのかな。 数)をもってきたことは, 児

童理解が不十分であった。【改善策】■「問い」に視点を持たせる。

ひまわりの種を6つに ブロック操作で1つ ■操作活動と筆算の手順が一致分けている様子 分を求めた様子 するような指導にする。

◆68÷4の計算のしかたを考 ○「商が3だと3×3=9だから違う。」「92円を3 ○説明する場面では,主体的に

5えよう。 人で分けたら30円はいく」などとつぶやきがあ 取り組んでいたのが, 数のイ

3 り,「0の位に数字がないのはおかしい」などペ メージを持たせる発問の方が◆ 3)92 アで説明していた。 さらによかったのではないか◇答えは3でいいのかな。◆文章問題 ○「全体」ではとか「みんなでいくつか」という ○思考がはっきりしていて,児

6 ◇なぜ,かけ算かな。なぜわり 問いかけの時はかけ算で「1つ分」とか「分け 童は問題にすんなり入ってい算かな。 たら」というときにはわり算という声があった。 くことができたのではないか②2けたでわるわり算の指導の実際と考察◆問題提示・◇発問 発問に対する児童の反応 考 察

◆80円で20円のあめ玉はいく ○8÷2だったらできるというつぶやきがあった。○80÷20を具体物を使ったり,つ買えるかな。 ○いくつ買えるかを半具体物 を操作したり,図や 絵にかいたりして解決しよう

◇2けた÷2けたはどう計算 式を使って解決していた。 とする姿が見られた。できるかな。 ○「80÷20=4,10円玉で考えると答えが出せる

◇10円玉で考えてみよう。 とまとめでかいている児童が多かった。

◆84÷21の計算のしかたを考 ○「80÷20なら昨日やったからできるよ」という ○およその数(仮の商)で4とえよう。 つぶやきがあった。 できている児童が多かったが

◇いくらなら,計算できるかな 十の位の商に4をかいている◇なぜ,これじゃだめなのかな ○84÷21を80÷20という 児童がほとんどで,対立する

2 4 およその数で考えるこ 手立てが不十分であった。21 )84 とができた。しかし, ○児童理解が不十分だった。

4 【改善策】本 21)84 ■まず,「どこに」商を立てる時 と商を十の位に立てている子がほとんどで,数 か,視点をしぼることが必要① のイメージがわかない児童がほとんどだった。 である。

■「問い」を焦点化する。■見当をつけさせる。(まず,見通しを持たせる。)

◆96÷33の筆算のしかたを考 ○既習事項を思い出しながら,「数を1小さくする」○1けたでわるわり算でもやっえよう。 「ひけないから,商を小さくする」と言い,すぐ ていたので,ほとんどの児童

3 に計算する児童も多かった。しかし,2小さくす が「商を小さくする」とつぶ3 ◇33)96 でいいかな。 る問題になると個人差があった。 やいていた。「なぜ」にも,◇仮商が大きくなった場合ど すんなり答えていた。既習がうしたらいいかな。 生かされていた。

包含除の考えを図に表し,

解決している児童ノート

- 99 -

◆170÷34の計算のしかたを考 ○「どこに」「何を」と言った発問から,思考が焦 ○児童が考えることを絞り, そ

えよう。 点化され, ペアでの話し合いが主体的が行われ れについて話し合わせること

◇ 商はどこにたつか考えよう ていた。また,活用問題を準備し,それを解くこ で主体的に取り組む姿も見ら

◇ 商は何がたつか考えよう。 とによって, 児童の「分かった」,「できた」と れた。また,活用問題に取り

いう声が聞こえるようになった。 組ませることで,解決したか

4 ら次ができるという意欲の高

まりも見られた。分からない

児童 へはサポートして教え

本 合いを行った。児童を信じ,

時 認めることの大切さを実感し

② た。

◆607÷56の計算を考えよう。 ○グループで教え合いながら,問題を解いていっ ○児童が「解決したい」という

◇9136÷13の計算もできるか た。特に難解の問題はグループが「解きたい」 気持ちをもって取り組み,グ

な。 という気持ちをもって取り組む姿が見られた。 ループでの教え合いもとても

6積極的であった。難解の問題

の時に分からない児童が質問

したり,分かっている子が丁

寧に教えたりと,学び合う姿

が見られた。

以上のことから,児童に「問い」を生起させるには,児童に基礎的・基本的事項が定着している

こと,既習事項を理解しているかの児童理解をした上で前時の学習とのつながりを持たせること,

発問を焦点化すること,単元によって発問を連続させる必要があるなど大切であることが分かっ

た。教材研究の重要性を改めて実感する結果となった。

(2) 教材・問題提示・発問の工夫から「問い」を生起させ,目的意識をもって,主体的に取り組む児

童の育成について

整数の除法を説明する問題において,無回答率が検証前の

28%に対して,検証後は0%となり,自ら解決に向けて取り

組む児童が増加した(図3)。また,商をスムーズに立てるこ

とができなかった児童が,ノート上で何度も挑戦する様子が

見られた(図4)。これは「解決したい」という児童の気持ち

が強まっていると考える。さらに,ペアで説明し合う学習活 図3 説明する問題の無回答率

動においては,自分の考えを相手に伝えるたに図や式,言葉

を使って説明する様子(写真1)や分からない児童へみんな

が集まって教えている様子(写真2)が見られた。分からな

いところを教えてもらうことや分からない友だちに,自主的

に教えに行くという姿は児童が「問い」を持ち,主体的に取

り組む姿と捉える。

写真1 ペアで説明する児童の様子 写真2 教え合う児童の様子 図4 何度も挑戦する児童のノート

(3) 児童に「問い」を生起させる授業づくりによって,数学的な思考力・表現力を高める指導について

整数の除法を説明する問題を評価規準に沿って評価すると,検証前は正答率が21%であったのに

筆算の意味を

考えながら,

式で表してい

る児童ノート

0%

50%

検証前検証後

28%0%

無回答率

- 100 -

対して検証後は75%と,54ポイント増加している(図

5)。さらに,検証前,説明を図や絵のみで表現して

いた児童がほとんどであったが,検証後は式や言葉を

使って表現する児童が28名中18名,図,式,言葉を用

いて説明することができるようになった児童が3名見ら

れた(図6)。次に,児童がどのようにノートに考えを

整理しているかを分析すると,筆算の意味を考えなが 図5 児童の説明の正答率

ら図を用いて説明したり(図7),式を用いて説明す

る児童(図8)が増加した。これは,筆算を形式的に

覚えるのではなく,筋道を立てて論理的に思考する児

童が増えていると捉えることができる。また,「先生

の発問から進んで考えるようになりましたか」という

アンケートの設問では,検証前「よく考えた」が39%

であったのに対し,検証後は78%となり39ポイントの

増加が見られた(図9)。これは,教師が「問い」を 図6 児童の表現方法

生起させる意図を持って発問したことで,児童が「解

決したい」と主体的に考えたり,関わり合いから自他

の考えを比較したりして思考を深めていった結果だと

考える。

以上のことから,児童に「問い」を生起させ,共有

し,追求し合う授業づくりから数学的な思考力・表現

力を高めることができたと考える。 図7 図で説明する児童ノート

図8 式で説明する児童ノート

Ⅳ 成果と課題本研究では,「数学的な思考力・表現力を高める指導の工夫」をテーマに「問い」を持たせるための教

材・問題提示・発問の工夫をしながら実践研究を進めてきた。その成果と課題を以下にまとめる。

1 成果

(1) 教材・問題提示・発問の工夫をしたことで,「問い」を生起させることができ,図,式,言葉を

用いて筆算の意味を考えたり,ノートをもとにして説明したりする児童が増え,数学的な思考力・

表現力が高まった。

(2) 児童に「問い」を生起させる工夫により,解決に向けてノートにかいて考えたり,関わり合いの

場で積極的に教え合ったりして,主体的な態度を育むことにもつながった。

2 課題

児童に「問い」を生起させ,数学的な思考力・表現力を高めるためには,教師の指導技術の向上と

ともに,単元計画,単元理解,問題提示・教材・発問などの教材研究の仕方,児童理解の方法など,

追究が必要である。

〈主な参考文献〉

田中博史 2012 『算数研究で授業が 学校が変わる』 東洋館出版社

細水保宏 2011 『細水保宏の算数授業の作り方』 東洋館出版社

尾崎正彦 2010 『“ズレ”を生かす算数授業』 明治図書

図9 教師の発問から進んで考えたかの児童の変容

正答

21%

誤答

79%

検証前

0% 50% 100%

検証後

検証前

78

39

22

46

0

14

先生の質問から進んで考えるようになりましたか

よく考えた まあまあ考えた あまり考えなかった 考えなかった

75%

25%

検証後