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トヨタ紡織のPassionFocus移動空間という視点から次世代自動車の開発を支えるトヨタ紡織の取り組み
特集-1
世界各国で車に対する環境規制が強まるなか、自動車メーカー各社は、ハイブリッド車、電気自動車といった「次世代自動車」の 開発競争を繰り広げています。トヨタ紡織は、内装システムサプライヤーとして、内装品、フィルター・パワートレイン機器部品、繊維・外装品など取扱製品の性能向上に取り組むとともに、移動空間という独自の視点からトータルに、次世代自動車の開発を支える技術開発を進めています。こうした取り組みへの理解を広め、エンドユーザーとのコミュニケーションを図ることを目的に、将来の社会を担う学生の みなさんに、当社の猿投開発センター2号館へお越しいただきました*。*2011年6月7日
慶應義塾大学大学院 システムデザインマネジメント研究科システムデザインマネジメント専攻ヒューマンシステムデザイン研究室 修士1年
市川 愛さん
名古屋大学大学院 工学研究科 マテリアル理工学専攻 修士1年
澤 昂平さん
名城大学大学院 理工学研究科 電気電子工学専攻 修士1年
原田 久嗣さん
名古屋工業大学大学院 工学研究科 創成シミュレーション工学専攻 流体科学研究室 修士1年
小﨑 友裕さん 東京大学大学院 農学生命科学研究科 農学国際専攻国際植物材料科学研究室 博士2年
石井 美深さん
次世代自動車の開発に向けて、移動空間はどう変わっていくのか?
製品統括センター 車室空間企画室 室長
八百市 信一Shinichi Yaoichi
「新製品の企画を担当しています。マーケティング や調査を行って市場の 動向、ニーズをつかみ、 社内に情報を展開することで、各専門分野の技術開発をサポートしています」
八百市 次世代自動車というと、航続距離*はどこまで伸びるのか、燃料(エネルギー)を安定的に供給していくためにはどうしたらいいのか、といったことが話題になりますが、内装や車室についてはあまり話題にならないですね。みなさんもこれまでの車とほとんど変わらないと思われているかもしれません。そこで今日は、次世代自動車の開発に向けて、人が乗る移動空間はどのように変わっていかなければならないか、という観点から、私たちトヨタ紡織が取り組んでいる技術開発をご紹介したいと思います。 その前に、みなさんが取り組んでおられる研究分野と、このセミナーに参加された目的についてお聞かせください。石井 大学院では竹を物理化学的に利用するための開発を研究しています。自動車の内装とは関係のない研究をしていますが、次世代自動車に興味があるので参加しました。市川 私も農業が専攻なので、研究分野の関連性は薄いと思うのですが、ドライブが大好きなので参加しました。車というと、外観のデザインやスピードメーターといった運転席周りに興味がありますが、内装はほとんど気にしたことがないです。澤 ハイブリッドカーなどに使われるリチウムイオン電池の電解質部の固体化を研究しています。次世代自動車と内装にどんな関係があるのか興味があって参加しました。原田 次世代薄型ディスプレイの開発と素子開発に関する研究に取り組んでいます。僕も次世代自動車というと、ハイブリッドや燃料電池のことしか頭に浮かばなかったので、車室とエコがどうむすびつくのか、知りたくなって参加しました。
小﨑 流体力学の研究を行っています。車の燃費と乗り心地に特に興味があります。将来はメーカーの研究者になりたいと考えているので、研究者の方々のお話を聞かせていただければと思って参加しました。八百市 みなさん、それぞれに興味を持ってご参加されたようですね。それでは、次世代自動車の課題と、それに応えるトヨタ紡織の開発姿勢についてご説明いたします。 次世代自動車にとって一番の課題は「燃費」です。最初に申しましたように、次世代自動車、特に電気自動車は、エンジン車と比べるとまだ航続距離が伸びないわけですから、いかに少ないエネルギーで移動できるかがポイントになってきます。これに対して、一つひとつの部品を軽量化したり、車が受ける空気抵抗を軽くしたりすることで、同じ動力、同じエネルギーで、できるだけ多くの距離を走ることができるように努めています。 燃費の次に課題となるのが「快適性」です。電気自動車はエンジンの熱を利用したヒーターがないので、暖房を使うと、それだけエネルギーを消費してしまいます。できるだけ少ないエネルギーで快適さを保つために、断熱効果を高めたり、熱効率を高めたりする製品やシステムの開発に取り組んでいます。 このように、「燃費を上げながら、乗る人が快適な移動空間をつくる」ことが、次世代自動車の開発に向けた私たちの重要なテーマです。続きまして、このテーマに沿って行っている技術開発について、ご説明いたします。
* 船舶や航空機が搭載した1回の燃料によって航行を続けることのできる距離。 電気自動車の登場によって車にも使われるようになった。
次世代自動車とはガソリンなどの化石燃料の 使用を大幅に減らしたハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車、燃料電池自動車、低公害ディーゼル車などのこと。
016特 集
八百市 電気自動車の暖房には、家庭と同じような エアコンのシステムが使用されています。暖房には大きな電力を使いますので、断熱効果を高めるために、温まった 空気を外に出さない内装品の開発に取り組んでいます。 特に、表面積の大きい内装品ほど熱損失への影響が大きいことから、ドアトリム、天井、カーペット材などを対象に、住宅の壁などに用いられている断熱の考え方に自動車特有の考え方を付与して、断熱効果を高める研究を進めています。石井 住宅の技術を車の内装に使うという発想が
おもしろいですね。車も家も人がいる空間としては同じなんですね。
少ない電力で冷暖房化する技術
空気抵抗を抑える技術八百市 走行中の空気抵抗を減らすことは車の燃費向上に有効です。高速走行時は特に効果があります。空気抵抗を少なくする方法の一つが、車の投影面積を 小さくする、つまり全高を低くすることです。全高を下げると移動空間は狭くなりますので、快適性を保ちながら、全高を低くするために、ヒップポイントを低く設定し、シートを薄くつくる技術課題に取り組んでいます。
八百市 日本では、約80%の人が通常1人で車を運転していると言われています。1人にもかかわらず、移動空間全体をカバーする空調では、ムダが多く、動力以外に多くの電力を消費してしまいます。そこで、シートから運転者の身体に対して、熱を出したり、風を送ったりすることで、体感温度を適正化し、少ない電力で快適さを保つ技術を研究しています。澤 このシートは冷暖房共用ですか?赤池 もちろん、1台のシートに冷房・暖房両方の機能を
持たせています。ただし、夏と冬では背反することがあるため、それを克服する開発もあわせて進めています。
ヘッドクリアランス(頭上の空間)ヒップポイント
ヒールポイント
全高
【課題】 ヘッドクリアランス(頭上の空間)の減少
【対応策】 ①ヒップポイントの高さを下げるためにクッションの薄型化 ②ヒールポイントの高さを下げるためにカーペットの薄型化
空気抵抗の軽減 全高をより低く
省エネルギーと快適な移動空間を両立するトヨタ紡織の技術
先行開発部 第2開発室
赤池 文敏Fumitoshi Akaike
「次世代の安全シートや 省電力の内装品など、 時代の少し先を行く製品の開発を担当しています」
空気抵抗低減の研究から生まれた薄型天井スピーカー 空気抵抗を下げるもう一つの取り組みとして、ドアにあるスピーカーを天井に移動して全幅(車の幅)を小さくしつつ広い移動空間を確保する研究を進めていましたが、さらにヘッドクリアランス(頭上の空間)を確保するために、スピーカーの薄型化にも取り組みました。その結果、運転者の耳に近い位置で、ロードノイズの少ない クリア な 音 を 再現する、薄型天井スピーカーを開発しました。
断熱天井
断熱ドアトリム
断熱カーペット
熱損出低減シート
冷風温風もしくは熱
人のまわりのみ冷暖房
エアコン動力低減のため「車室内全体空調」 「人のまわりのみ冷暖房」
薄型天井スピーカーの試作品を体感する
断熱効果を高める技術
017017
八百市 トヨタ紡織は、ケナフなどの植物を内装品の材料に使うことで、製品のライフサイクルにおけるCO₂を削減するカーボンニュートラルの実現を目指しています。
ケナフの種子開発からプレボード生産まで ケナフは、成育が早く、CO₂の吸収能力が高い(スギの7倍以上)一年草です。私たちは、この利点に着目し、10年前から、ケナフの栽培に適した気候のインドネシア
で、種子開発から内装基材となるプレボードの生産までを一貫して行っています。最近の製品では、トヨタのヴィッツやラクティスに向けたケナフ製デッキボードを開発しました。
石井 ケナフ以外の植物の利用は考えていないのでしょうか?市岡 ケナフは優れた材料ですが、ほかの植物についても利用を検討しています。内装品の材料にケナフを利用したのは、繊維強度が高く、製品が軽量化できること、また短期間で成長するため安定確保しやすいことが決め手となりました。現在それぞれの地域に適した植物の研究も進めており、地産地消を考慮したケナフ以外の植物の活用にも取り組んでいます。
部品の軽量化八百市 エンジン周りの部品やシート骨格の材質、構造を見直すことで軽量化を図り、燃費の向上に貢献しています。野村 インテークマニホールド(エンジン内部に空気を送る部品)や、エンジンのヘッドカバーなど、高耐熱性が求められる部品に、アルミの代替として樹脂を使うことによって、大幅な軽量化を図りました。鬼頭 自動車シートの骨格の一部に、強い剛性を持ちながら成型に耐えうるしなやかさを備えた高張力鋼板(ハイテン材)を使用し、骨格構造、部品形状を見直すことで、従来に比べ-14%の1.8kgの軽量化を図りました。
澤 軽量化によるデメリットはないのですか?八百市 軽量化によるデメリットはありません。車全体を軽くすることはもちろんですが、重心から上の部分とオーバーハング部分(図の斜線部分)に配置された製品を重点的に軽量化することで、走行安定性の向上と燃費の向上を両立しています。
第1シート設計部 第11シート設計室
鬼頭 秀和Hidekazu Kito
「プリウス以降のフロントシートの中にある標準骨格の設計を担当しています」
第3FPT技術部 第32FPT室
野村 卓司Takeshi Nomua
「インテークマニホールドやエンジンヘッドカバー などエンジン周りの部品の設計を担当しています」
シート(新世代シート骨格、ハイテン材、マグネシウムフレーム、小型リクライナー、ネットシートなど)
重心
ドアトリム
天井
エンジンヘッドカバー
インテークマニホールド
パッケージトレイ
軽量化の考え方
ケナフを用いた内装品
バイオ技術開発部 材料開発室
市岡 史高Fumitaka Ichioka
「トヨタ紡織オリジナルの植物由来材料を開発しています」
植物材料の利用
プリウスに採用された新世代シート「TB-NF110」
018特 集
八百市 トヨタ紡織は、さまざまなシミュレーション試験を行い、そのデータを使って試作品をつくり、実機評価を行い、次の設計につなげていくサイクルを繰り返すことによって性能の向上に取り組んでいます。それではこれから、試験・評価の施設をご紹介します。
スレッド試験志賀 車が衝突した際、シートがどのように変形するか、人間(ダミー人形)がどれほどダメージを受けるのかを評価する設備です。単純にシートの変形を抑えるだけでは人間へのダメージが大きい場合もあるため、どの部位を強くし、どの部位を変形させるのが最適かなどの検証を行っています。
市川 衝突試験で損傷したダミー人形を供養されていると聞きました。愛情を持って研究開発に取り組まれていることが伝わってきました。
乗り心地評価試験八百市 道路やテストコースで車を走らせたときの振動などを再現する機械です。人が実際に座ることで、数値化が難しい快適性をさまざまなシートで評価しています。
ベンチマーク室八百市 世界中の内装品メーカーの製品や、技術に関する情報を集約・分析した「データセンター」です。社員は誰でも利用することができ、最新の情報にふれ、共有することで、効率的な技術開発に役立てていきます。
基礎研究所河合 盛進Sung-Jin Kawai
「バイオ科学の領域が専門です。微生物を用いた研究や、バイオプラスチックの開発を担当しています」
実験部 シート機能実験室 シート強度実験グループ
志賀 大輔Daisuke Shiga
「開発したシートや試作段階のシートの性能を試験で評価しています。試験の結果、不具合が出た場合は、改善策を設計部署と一緒に考え、性能を高めていく作業を行います」
スレッド試験
ベンチマーク室
乗り心地評価試験
試験・評価のサイクルで、繰り返し性能の向上を目指す
基礎研究への取り組み河合 基礎研究所では、地球環境や社会的責任、人間というキーワードから内装部品や移動空間を捉え、サイエンスの領域まで踏み込んだ独創的な要素技術開発に取り組んでいます。 高分子材料、人間科学、バイオ科学、エネルギー変換材料という4つの研究領域のなかから、最近の主な取り組みを紹介します。
優良植物の作出 CO₂の吸収量が多く、環境変化に 強い優良植物をつくるために、バイオ
テクノロジーで植物の特性を改質する研究に取り組んでいます。
静電気発電材料の開発 静電気を動力源とした発電を目指し、異種材料の接触・分離による電子の流れを発電に利用する研究に取り組んでいます。
静電気LED発電装置
019019
セミナーに参加して学生のみなさんに、セミナーの印象や感想、セミナーを通じて学ばれたことをお聞きしました。
車の内装とひと口でいっても、さまざまな分野の知識が必要だということを実感しました。特に、断熱に住宅の技術を応用していることに、研究開発の奥深さを感じました。私も、他分野の発想を取り入れた研究に取り組んでいきたいと思いました。
私は、薄型天井スピーカーに一番感激しました。あのスピーカーの車に乗ってみたいです。そのほかの製品でも、専門的な高い技術をお持ちで、縁の下の力持ちといいますか、見えないところでこんなにも努力されている人たちがいらっしゃることを実感しました。
車にはよく乗るのですが、1台のシートをつくるために、何千回 も耐久評価をやって、さらに世界中のメーカーの製品を集めて分析しているんですね。モノづくりの大変さを知って、本当に驚きました。
電気自動車の暖房について、空間を制御してコントロール するという発想がすごいと思いました。また、車全体のバランスを考えて軽量化していると聞いて、思っていた以上に進んでいるなと感じました。
製品をつくる段階からCO₂の削減を考え、さらに軽量化してユーザーが車を運転する段階でも燃費の向上を図り、環境への配慮を考えていることに感心しました。排気以外の分野についての環境対策にも興味が出てきました。
市川 愛さんMegumi Ichikawa
内装システムサプライヤーとして、トータルな移動空間を創造する
次世代自動車の開発に向けた当社の取り組みについて、世代を越えて有意義なお話をさせていただき、出席者一同、大変感謝しております。 トヨタ紡織は、個々の技術開発や品質向上に取り組むのはもちろん、内装システムサプライヤーとしてトータルな視点から、自動車に求められる3つの基本性能である「環境」「安全」「快適」に応える移動空間の開発に取り組んでいます。 次世代自動車に向けた技術開発は、まだ研究中のものが多く、今回のセミナーでは、すべてをご紹介
できませんでしたが、当社の技術開発に対する想い や 、取り組 み の ポイントについては、ご理解いただけたのではないでしょうか。 今度とも、こうした機会を設け、お客さまとの交流を通じて、ご期待にお応えできるよう研究開発に邁進していきます。 八百市 信一
トヨタ紡織グループの技術開発は、「研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし(豊田綱領)」という基本的精神に基づき、推進しています。 日本で行った先端研究、先行開発(5年から10年先の開発)をベースに、各地域統括会社のR&Dでは、その地域のニーズに即した製品開発を行っています。 私たちが考えるモノづくりは、技術、開発、生産技術、製造が一体となったものであり、お客さまの近くで一体化した取り組みを行うことで、世界中のお客さまの期待に応えていきたいと思います。
トヨタ紡織グループの技術開発体制
石井 美深さんMiyuki Ishii
小﨑 友裕さんTomohiro Kozaki
原田 久嗣さんHisashi Harada
澤 昂平さんKouhei Sawa
欧州・アフリカ地域R&Dトヨタ紡織ヨーロッパ
北中南米地域R&Dトヨタ紡織アメリカ
中国地域R&D豊田紡織(中国)
トヨタ紡織
地域のニーズに即した製品開発
地域のニーズに即した製品開発
アジア・オセアニア地域R&Dトヨタ紡織アジア 開発拠点
先端研究、先行開発
020特 集
「学ぶ側」から「教える側」に成長するまで特集-2
ここに登場するのはトヨタ紡織南アフリカ(以下TBSA)の3人の青年です。TBSA立ち上げ当初、日本から来た支援スタッフにモノづくりを基礎から学んでいた彼らが、今度は「教える人 になる」ための研修を受け、見事に成長するまでの歩みを ご紹介します。
ミッションは本物を学ぶこと 2011年1月17日、雪が降り積もった中部国際空港に 南アフリカから3人の青年がやってきました。エルビス・ナイドゥー、ウィリアム・ムキーゼ、ボンゲーニ・ワンダです。TBSAで働く 彼らは、トヨタ紡織技能育成センターへの第1期派遣研修生として、これからはじまる3カ月間の研修に大きな期待と情熱を抱いていました。思うことはただひとつ。トヨタ紡織の高い技術、技能、知識、すべてを身につけることでした。
教えてもらい、学ぶ側にいた3人 3人の成長の物語は、6年前にさかのぼります。 トヨタ紡織には、世界各地域で新規に工場や生産ラインを立ち上げる際に、製造準備とともに現地採用スタッフに技術・技能を教える専門部署があります。2005年7月に設立されたTBSAでも、翌年4月の操業開始を目指して15人の日本人スタッフが立ち上げを支援していました。 「私たちには、生産ラインのハード面の整備とともに、現地 スタッフにモノづくりを教えるという使命があります」と語るのは、当時TBSAへ飛んだ新製品進行管理部生産推進室の本田室長。「世界各地域の生産拠点では、現地スタッフの育成が大切です。現地で
採用した人たちにトヨタ紡織のモノづくりの基本を教え、仕事の手順や必要な技術・技能を操業開始までに身につけてもらわなければいけません」 「民族、言葉も多様で、前職もさまざまな現地のスタッフに、日本のモノづくりを教えることは簡単ではありません。まずはコミュニケーションを深めるために、一緒に食事をしたり、慣れない言葉でジョークを言ったりもしました。でも仕事を身につけようと、みな真剣に取り組んでくれましたね」と、当時の様子を語ってくれたのは柴田担当員です。 今回登場する3人も、日本人スタッフから真剣、親切に教えて もらえたことを今でも忘れられないといいます。
「教える」側に立たなければならないから TBSA発足から5年を経て、エルビスはシートフレーム溶接、ウィリアムはシート組立、ボンゲーニはドアトリム組立のチームリーダーとして活躍するまでになっていました。しかし会社のさらなる発展のためには、自分たちが現地メンバーを育て、もっと高い技能を伝承しなければならない段階になったと考えるようになっていました。そんなとき技能育成センター への派遣、技能伝承研修のチャンスがあることを知り、3人は迷わず手をあげ選ばれたのです。 「誇りに思うと同時に、真のプロフェッショナルになれると 思い、うれしくなった」「夢が現実になった」「光栄です。信じられなかった」、それが彼らの第一声でした。
グローバルに事業を展開するには、高い品質の製品をいつでもどこでも確実にお客さまにお届けできるネットワーク体制と、 それを支える高い技術・技能を備えた人材が必要です。トヨタ紡織グループでは、モノづくりをしっかり実践できる人を育てると ともに、学ぶ側にいた人を高度なトレーナーとして育成する取り組みを世界各地域で進めています。
TBSAはトヨタ紡織にとってアフリカ地域ではじめての生産拠点。南アフリカトヨタ自動車(TSAM)が 自社で生産していたシート、ドアトリムを移管する形でスタートしています。 製造現場での一番の特徴は、順立て生産です。TSAMの生産ラインと同期し、同じ順序・同じ量で 内装品を製造し、つくったものから順に納入して います。完成品在庫を持たないので緊張感が高く、常に張り詰めた空気が漂っています。でも社員は みんなで力を合わせ、いつも明るく元気に働いてくれて
います。平均年齢も若く、学ぶ意欲が高いのもTBSAの特長です。 3人が育成したメンバーが成長し、次にはその彼らがまた別の仲間を育成していくという“人材育成のサイクル”ができるものと信じています。
【トヨタ紡織南アフリカ】学ぶ意欲が高く、底抜けに明るいローカルスタッフたちとともに
社長松島 義臣 <トヨタ紡織南アフリカ 概要>
TOYOTA BOSHOKU SOUTH AFRICA (PTY) LTD.南アフリカ共和国 クワズルナタール州(ダーバン市近郊)2005年7月設立/2006年4月生産開始シート、ドアトリムなどを生産/従業員数 約630名
新製品進行管理部生産推進室 室長本田 宏人
新製品進行管理部生産推進室 担当員柴田 昇
021021
さらに高い技術を身につける喜び 「技能育成センターでは、プログラムすべてにおいて、私たちがきちんと理解して、習得できたか確認できるまで次のステップに進まないという方針が貫かれていました。生産現場で起こりうるあらゆることについて、技術的なことや理論的なことまで徹底的に教えてもらえるので、帰国したらすぐに高いレベルのトレーナーとして教えることができると最初から感じましたね」とエルビス。彼らの期待通り、研修は順調に進むかのように思えました。しかし3人の情熱や技能育成センター側の万全の準備にもかかわらず、思わぬトラブルが起きてしまいました。 「せっかく南アフリカから来たのに、彼らの熱意が感じられない。こちらが懸命に話しているのに、うつむいて目を合わせようとしないのです」と語る技能育成センター技能伝承室の深川室長。「これでは成功するはずがないと考え、じっくりと話し合いました。ところが私たちと目を合わすことは、それが失礼な態度だと思っていたというのです」 想像もできなかった文化の違い、習慣の違い。技能育成 センターのトレーナーたちはこの経験をきっかけに南アフリカの青年たちとの距離を急速に縮めることができ、研修が大きく進みはじめました。 「トレーナーとの信頼関係ができてからは、確実にスキルアップできました。同時にTBSAの技術レベルをもっと高めていく必要性を痛感しました。TBSAに戻って早速、マニュアルの見える化と実践訓練など、 興味深く学んだことに メンバーとともに取り組み、作業者が働きやすい環境をつくるためのカイゼン活動を展開しています」と
ウィリアム。 「3ヶ月の研修で自信がついたとともにやる気が出て、技能育成センターと同じような訓練を実現するために、TBSAに溶接訓練用エリアを設けました。今後は自分がトレーナーとして技術を伝えていきます」とエルビス。 「ネジ締め作業という簡単なことにも正しい方法があることを学びました。TBSAではスーパーバイザーとして、将来のリーダーを育てるため、生産性向上、品質向上、 安全性向上を目標としたプログラムの作成や、メンバーの多能工化に取り組んでいます」とボンゲーニも意気込みを語ってくれました。 3人を見守り続けた技能育成センターの深川室長は、「彼らも私たちも、各自の能力を高めようと必死で、互いの文化の違いを理解しつつ、いい経験を積むことができたと思います」。現在、技能育成センターではこの事例をさらに発展させていくため、世界各地域のコア人材養成プログラムも準備しています。
工場長も予想しなかった期待以上の成長ぶり 「彼らは南アフリカに帰国後、すぐに研修の成果を発揮してくれました。その成長ぶりは予想以上で、特にリーダーとしての意識の変化は期待以上でした。日本語や英語ではなく、現地のズールー語を使う スタッフ同士で技術や技能を伝承し人材
育成ができるのが理想です。彼らがよりよいスーパーバイザーになれるようこれからも指導教育していきます」 稲谷工場長の期待はさらに大きくなりました。
2011年2月、技能育成センターが新設されました。トヨタ紡織のモノづくりの技能と精神を、世界各地域のトヨタ紡織グループにくまなく伝承する生産管理部の「技能伝承」と、グローバル人材開発部に所属していた「人材育成」の機能を集約するためです。技能育成センターの設立により、モノづくりの技能と精神を、現地現物で学ぶことができるとともに、それをきちんと伝承していくための計画的な仕組みづくりを可能にしました。 安全、品質、原価を極める人材を、世界中の生産現場で育成するために、大きな使命を担っています。
【技能育成センター】世界のどこの国、どの工場でも、トヨタ紡織のモノづくりを実現
技能育成室 室長山本 雅章
技能伝承室 室長深川 吉晴
〈技能育成センター 施設概要〉研修棟(地上8階)と実習棟(地上3階)からなり、技能教育に必要な設備が集約された施設。2009年度に開校したトヨタ紡織学園も当センターへ移転。研修棟にはモーター制御実習室・材料実習室といった専門教室などがあり、実習棟にはNC・旋盤・フライス盤など幅広い機械とともに、将来的には模擬生産ラインも備える予定。
ボンゲーニ・ワンダ(左)Mbongeni Wanda
ウィリアム・ムキーゼ(右)William Mkhize
エルビス・ナイドゥー(左)Elvis Naidu
トヨタ紡織南アフリカ工場長稲谷 正則
022特 集