第1章 計画の概要 - city.ota.tokyo.jp ·...

22
1 第1章 計画の概要

Upload: others

Post on 20-Sep-2019

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

1

第1章 計画の概要

2

1 計画策定の趣旨

(1)配偶者暴力とは

配偶者暴力は、犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害です。

配偶者からの暴力は、外部からその発見が困難な家庭内において行われるため、潜在化

しやすく、しかも加害者に罪の意識が薄いという傾向にあります。このため、周囲も気付

かないうちに暴力がエスカレートし、被害が深刻化しやすいという特性があります。

被害者は、多くの場合女性であり、経済的自立が困難である女性に対して配偶者が暴力

を加えることは、個人の尊厳を傷つけるだけではなく、男女共同参画社会の実現を妨げる

ものです。

また、配偶者暴力は、配偶者間にとどまらず周囲の者に及ぶ場合があり、特に同居する

子どもへの影響は深刻です。「児童虐待の防止等に関する法律」(以下、「児童虐待防止法」

という。)においては、子どもが直接暴力を受けていない場合でも、家庭内で配偶者暴力を

目撃するなど、児童に著しい心理的外傷を与える言動も児童虐待に当たるとされています。

これらを含めた児童虐待は、子どもの人権を著しく侵害し、その心身の発達及び人格の形

成に重大な影響を与えるものです。

さらに、配偶者暴力を背景とする犯罪の発生など、近隣、地域にも影響を及ぼし、健全

な地域社会の維持を阻害するものともなります。

このような暴力を根絶するために、あらゆる対策に力を尽くす必要があります。

(2)計画の目的

平成 13 年に制定された「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(平

成 13 年法律第 31 号)。以下、「「配偶者暴力防止法」という。」は、平成 19 年7月に一

部改正され、国の基本方針に即し、都道府県の基本計画を勘案して、区市町村が基本計画

を策定するよう努めなければならないとされました。

さらに、平成 26 年6月に一部改正され、生活の本拠を共にする交際(婚姻関係におけ

る共同生活に類する共同生活を営んでいないものを除く。)をする関係にある相手からの暴

力及び被害者についても、法の適用対象とすることになりました。

区は、平成 23 年4月から5か年を計画期間とする「第6期大田区男女共同参画推進プ

ラン」を策定し、「配偶者暴力対策基本計画策定の検討」を重点事業の一つとして位置付け

ました。また、こうした流れを受け、区の実情を踏まえ、被害者の実態に即した実効性の

ある計画を策定することとしました。

3

計画では、暴力の未然防止と早期発見のための体制づくりをはじめとして、被害者の保

護から自立に至る包括的かつ継続的な支援のための総合的な施策を示しています。区は、

今後これらの施策を東京都や他区市町村、関係機関、民間団体等との連携のもと着実に展

開し、暴力のない社会の実現を目指します。

2 計画の性格

○ この計画は、配偶者暴力防止法第2条の3第3項の規定に基づき、国の示す配偶者か

らの暴力の防止及び被害者の保護のための施策に関する基本的な方針に即し、かつ、東

京都が定める「東京都配偶者暴力対策基本計画」を勘案して策定する基本的な計画です。

○ この計画は、「おおた未来プラン 10年(後期)」を踏まえ、「第6期大田区男女共同参

画推進プラン」及び関連する各分野の部門別計画と整合性を保ちつつ、区における配偶

者からの暴力の防止及び被害者保護等のための施策を体系的に示すものです。

○ 計画策定にあたっては、「大田区配偶者暴力の防止及び被害者保護等のための計画策定

委員会」で検討を進めるとともに、パブリックコメントによる区民からの意見を反映し

たものです。

○ 区は、東京都や近隣区、関係機関等とも相互に連携・協力して、計画で示した施策を

推進していきます。

3 計画の期間

この計画の期間は、平成 27年度から平成 32年度までの 6年間とします。

ただし、平成 28年度から平成 32年度までを計画期間として策定を予定している「(仮

称)第7期大田区男女共同参画推進プラン」において本計画を包含する予定ですが、その

際に計画の構成等を整理いたします。

4

用語について

≪配偶者≫

配偶者暴力防止法が定めている「配偶者」には、婚姻の届出をしていない、いわゆる「事

実婚」の場合や、離婚後(事実上離婚したと同様の事情にあることを含みます。)も引き続

き暴力を受ける場合も含みます。また、生活の本拠を共にする交際相手も「配偶者」に含

みます。

なお、暴力の未然防止のための取り組みや意識啓発など、法律の根拠を必要としない様々

な施策については、配偶者以外の恋人などの親密な間柄にあるパートナーも含め、対応を

進めていきます。

≪配偶者暴力≫

「身体的暴力」…殴る、蹴る、髪を引っ張る、首をしめる、腕をねじる、引きずり回す、物

を投げつける など

「精神的暴力」…大声でどなる、実家や友人と付き合うのを制限したり電話・メールや手紙

等を細かくチェックしたりする、何を言っても無視して口をきかない、人前

でバカにしたり命令するような口調でものを言ったりする、大切にしている

物を壊したり捨てたりする、生活費を渡さない など

「性的暴力」……見たくないのにポルノビデオやポルノ雑誌等を見せる、嫌がっているのに

性行為を強要する、中絶を強要する、避妊に協力しない など

≪DV(ドメスティック・バイオレンス)≫

「DV」と略されることが多く、「配偶者や恋人などの親密な関係にある、又はあった人

からふるわれる暴力」という意味で使われます。ドメステッィク・バイオレンスを直訳す

ると、「家庭内の暴力」となり、親やその他の親族が子どもに対してふるう暴力や高齢者に

対する暴力など、家庭内でふるわれる暴力を含めて使用される場合もあります。このため、

本計画では、基本的に「配偶者暴力」と表記します。

なお、「ストーカー行為等の規制等に関する法律」(平成 12 年号外法律第 81 号)に規

定するストーカー行為のうち、配偶者暴力の一類型として把握できる行為については、本

計画の対象とします。

5

≪デートDV≫

結婚していない恋人間の暴力、特に若い世代で親密な関係にある相手からの、身体的・

精神的・経済的・性的暴力を指しています。

≪配偶者暴力相談支援センター≫

配偶者暴力防止法により、配偶者暴力の被害者を保護するため、相談・一時保護や自立

生活促進のための就労・住宅等による情報提供等の支援を行う機関。東京都では、東京ウ

ィメンズプラザと東京都女性相談センターが配偶者暴力相談支援センター機能を担ってい

ます。

≪保護命令≫

配偶者暴力防止法が定める、被害者の生命または身体にさらに危害が加えられることを

防止するための制度です。被害者が裁判所に申し立てを行うことにより、裁判所は暴力を

ふるったとされる配偶者から言い分を聴き、申し立ての内容を審理します。保護命令には、

暴力をふるった者に対し、被害者につきまとったり、住居、勤務先などの近くを徘徊した

りすることを禁止する「接近禁止命令」(6か月間)と、加害者に対して家から出ていくよ

う命令する「退去命令」(2か月間)があります。

≪一時保護≫

暴力から逃れ、家を出た被害者や子どもたちの安全を確保するため緊急に保護すること

が必要であると認められる場合等に、被害者本人の申請に基づく緊急の避難場所として、

一時保護があります。

6

7

第2章 配偶者暴力をめぐる現状

8

1 国における配偶者暴力の現状

(1) 配偶者暴力相談支援センターへの相談件数

平成 25 年 6 月、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(平成 13

年法律第 31 号)が改正され、法律の題名も「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保

護等に関する法律」(以下、「配偶者暴力防止法」という。)に改められました。

配偶者暴力相談支援センターの数は毎年度増加しており、平成 26 年 3 月現在、全国

238か所(うち区市町村が設置する施設は 65か所)が配偶者暴力相談支援センターと

して、相談、カウンセリング、被害者やその同伴家族の一時保護、各種情報提供等を行

っています。なお、東京特別区で設置している区は、現在 7 区となっていますが、設置

を検討している区もあるなど、状況は変化しているところです。

25年度に全国の配偶者暴力相談支援センターに寄せられた相談件数は99,961件で、

毎年度増加しています。

【図表1 配偶者暴力相談支援センターへの相談件数】

(備考)内閣府「男女共同参画白書」より

9

(2)警察に寄せられた配偶者からの暴力に関する相談等対応件数

平成 25年中の警察における配偶者からの暴力事案認知件数は 49,533件で、法施行

後最多となっています。なお、配偶者からの暴力事案における検挙件数は 4,405 件で、

刑法等の適用による検挙が 4,300件、保護命令違反による検挙が 110件となっていま

す。

【図表 警察に寄せられた配偶者からの暴力に関する相談等対応件数】

(備考)内閣府「男女共同参画白書」より

10

(3)配偶者暴力相談支援センターへの相談における加害者との関係

加害者との関係では、配偶者からの暴力が 86.9%を占め、離婚済みの相手からの暴力

は 12.5%、生活の本拠を共にする(またはした)相手からの暴力は 0.6%となっていま

す。このうち、配偶者については、婚姻届出の有無により、また生活の本拠を共にする

(またはした)相手については交際相手と元交際相手に分けらます。

【図表 配偶者暴力相談支援センターへの相談における加害者との関係】

(備考)内閣府男女共同参画局より

11

2 東京都における配偶者暴力の現状

(1)配偶者暴力についての相談件数の推移

東京都で受付けている配偶者暴力についての相談件数は、増減もありますが、全体と

して増加傾向にあります。特に、区市町村における相談件数が増加しており、16年度の

13,134件から 24年度には 26,547件と約 2倍となっています。

【図表 都における配偶者暴力についての相談件数の推移】

(備考)東京都調べ

12

(2)暴力の内容

平成 24年度の、東京都ウィメンズプラザにおける配偶者暴力の相談件数 5,224件に

ついて、暴力の内容は精神的暴力が最も多く、次に身体的暴力が続いています。

【図表 東京ウィメンズプラザにおける配偶者暴力の相談の内容】

(備考)東京ウィメンズプラザ調べ

(3)警視庁における保護命令の発出件数

警視総監宛てに通知された保護命令として、退去命令単独で発出される例は少なく、

接近禁止命令とともに発出される例が多くなっています。

【図表 警視庁における保護命令の発出件数】

20年度 21 22 23 24 25

接近禁止・退去命令 43(29) 36(31) 20(14) 13(13) 19(18) 14(12)

接近禁止 105(69) 100(87) 95(88) 69(63) 66(63) 71(64)

退去命令 0 0 0 1 1 0

(備考)警視庁調べ

「援助の措置」は、平成 24年中 1,671件(25年中は 1,510件)で、「被害防止の

13

教示」が 604件、「行方不明者届の不受理措置」が 447件、「住所等を知られないよう

にするための住民基本台帳の閲覧制限」が 399件でした(複数計上)。

※( )は、平成20年に法改正された「電話等を禁止する命令等」が併せて発令された件数を

内数として表示

(4)相談者の性別

平成 24年度中の相談者の性別は、女性が 98%を占めており、男性は 2%となってい

ます。

【図表 警視庁における配偶者暴力の相談者の性別】

(備考)警視庁調べ

14

(5)相談者の年齢

相談者の年齢は、「30~39 歳(36%)」と最も多く、「40~49 歳(29%)」、「20

~29歳(16%)」と続いています。

【図表 警視庁における配偶者暴力の相談者の年齢】

(備考)警視庁調べ

15

3 大田区における配偶者暴力の現状

(1)配偶者暴力の相談件数の内訳と推移

大田区における相談件数の内訳として、各年度とも生活福祉課(4か所)の合計が最

も多くなっています。保健所については、24年度から地域健康課(4か所)の件数を統

計に加えたため、23年度と比較して増加が目立っています。

【図表 大田区における配偶者暴力の相談件数の内訳】

16

(2)デート DV(交際相手からの暴力)の相談件数

生活福祉課、保健所及び男女平等推進センターにおけるデート DV(交際相手からの

暴力)の相談件数は、25年度に大きく増加しました。

【図表 デート DVの相談件数】

17

(3)配偶者暴力における緊急一時保護件数

区内にある緊急一時保護先として、生活保護施設、民間シェルター及びホテル等の民

間宿泊施設に入所した件数は、22年度が最も多くなっていますが、25年度はそれに続

いています(なお、公的シェルターへの入所件数は除外しています)。

【図表 配偶者暴力における緊急一時保護件数】

18

4 「人権に関する意識調査」の結果

大田区では、平成 25年 10月に、大田区在住の満 18歳以上の男女 2,000人を対象とし

て、人権問題に対する認識や考え方、人権侵害の存在や状況、人権問題解決のための政策及

び環境整備の認知度などを把握するために、「人権に関する意識調査」を実施しました。その

中のドメスティック・バイオレンスに係る調査結果を抜粋します。

(1)ドメスティック・バイオレンス(DV)を受けた経験

『DV:ドメスティック・バイオレンス』を受けた経験があるか聞いたところ、「何

度もあった」と「1、2度あった」を合わせた『受けた経験がある』は、“大声でどな

られる”が1割半ばで最も高く、次いで“何を言っても無視され続ける”と続いていま

す。

n=917

(ア)命の危険を感じるくらいの暴力   を受ける

4.0

(イ)医師の治療が必要となる程度の   暴行を受ける

2.7

(ウ)医師の治療が必要とならない   程度の暴行を受ける

6.1

(エ)嫌がっているのに性的な行為を   強要される

7.4

(オ)見たくないのに、ポルノビデオや   ポルノ雑誌を見せられる

2.1

(カ)避妊に協力しない 7.5

(キ)何を言っても無視され続ける 10.0

(ク)交友関係や携帯電話、郵便物を   細かく監視される

5.1

(ケ)「誰のおかげで生活できるんだ」   「かいしょうなし」と言われる

8.7

(コ)大声でどなられる 15.9

(サ)生活費を渡さない 5.2

受けた

 経験がある』

2.1

5.8

2.5

1.1

2.8

3.1

0.0

2.1

1.3

0.5

0.8

3.1

10.1

6.2

4.0

7.2

4.4

2.1

5.3

4.8

2.2

3.2

88.9

78.0

85.1

88.7

83.5

86.2

91.6

86.2

87.4

90.8

90.1

6.0

6.1

6.2

6.2

6.4

6.4

6.3

6.4

6.5

6.4

6.0

0% 20% 40% 60% 80% 100%何度もあった 1、2度あった まったくない 無回答

(%)

19

(2)ドメスティック・バイオレンスの相談状況 『DV:ドメスティック・バイオレンス』を受けた経験がある方に、誰かに打ち明け

たり、相談したか聞いたところ、「相談した」は3割半ばとなっています。「相談した

かったが、しなかった」は1割を超え、「相談しようとは思わなかった」が5割近くと

なっています。

DVを受けた経験がある人で、相談したと答えた人の割合は増加しましたが、相談し

たくてもできない人の割合もまた、増加しています。さらにどこへも相談するつもりが

ないと答えた人は依然として5割近くと高い割合となっているため、今後も啓発が必要

です。

性別でみると、「相談した」は女性が男性より 22.0ポイント高くなっています。一

方、「相談しようとは思わなかった」は男性が女性より 20.0ポイント高くなっていま

す。

平成25年度 (246)

平成18年度 (216)

平成13年度 (303) 27.1

29.2

35.0

11.9

7.9

11.8

56.4

56.5

48.0

4.6

6.5

5.3

0% 20% 40% 60% 80% 100%

相談した 相談したかったが、しなかった

相談しようとは思わなかった 無回答

(%)

全  体 (246)

女  性 (175)

男  性 ( 61)

性別

19.7

41.7

35.0

14.8

10.3

11.8

62.3

42.3

48.0

3.3

5.7

5.3

0% 20% 40% 60% 80% 100%

相談した 相談したかったが、しなかった

相談しようとは思わなかった 無回答

(%)

20

(3)「配偶者暴力防止法」の認知度

『配偶者暴力防止法』を知っているか聞いたところ、「法律があることだけは知って

いる」が4割半ばで最も高く、これに「およその内容も知っている」を合わせた『知っ

ている』は5割半ばとなっています。一方、「知らない」は3割を超えています。

※この設問は平成 18年度から新設された設問。

平成25年度 (917) 55.7

平成18年度 (854) 59.2

知っ

ている』

11.1

9.4

48.1

46.3

31.5

32.2

9.3

12.1

0% 20% 40% 60% 80% 100%

およその内容も知っている 法律があることだけは知っている

知らない 無回答

(%)

21

第3章 計画の基本目標と施策の体系

22

1 計画の基本目標

配偶者からの暴力は、犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害です。暴力を未然に

防ぐためには、暴力防止に向けた普及啓発、早期発見が重要となります。そして、暴

力を受けた被害者の支援にあたっては、相談から保護、自立まで、被害者一人ひとり

の状況に応じた総合的な支援を行うことが求められています。また、配偶者暴力の防

止に向けては、被害の未然防止や被害を潜在化させないことのほか、被害者を保護し

暴力からの解放を図ることが重要であると考えます。

計画では、区における具体的施策を展開するにあたり、これらのことを踏まえ、分

野別に 7つの基本目標を定めました。この基本目標は、配偶者暴力対策に関わるこれ

までの区の取り組みや、配偶者暴力の実態、今後の方向性などを整理したうえで、国

の基本方針及び都の基本計画との整合性を図り設定しました。

区は、この基本目標の達成に向け、具体的な施策を展開していきます。

配偶者暴力の防止及び被害者保護等のための基本目標 説明頁

基本目標1 未然防止と早期発見 25頁

基本目標2 相談の充実 29頁

基本目標3 被害者の安全な保護 32頁

基本目標4 被害者の自立支援 35頁

基本目標5 被害者ニーズに対応できる人材の育成 38頁

基本目標6 被害者支援に向けた関係機関との連携 39頁

基本目標7 区の体制整備 41頁