第25回世界ガス会議 - jogmec石油・天然ガス資源情報 ......2012.9 l.46 n.5 70...

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67 石油・天然ガスレビュー エッセー 第25回世界ガス会議 ー 参加報告 ー JX 日鉱日石リサーチ エネルギー経済調査部 坂本 茂樹 JOGMEC 石油調査部 大貫 憲二 じめに 2012年6月、マレーシアで第25回 世界ガス会議(World Gas Conference) が開催された。世界ガス会議は 3 年に 1 度開催されるガス産業の国際会議で あり、2 0 0 3 年には東京で開催された。 主催者である世界ガス連盟(IGU: International Gas Union)内に設置さ れている技術委員会が、技術や世界の 動向について調査した成果を報告す る。また、ガス産業を代表する企業の 経営幹部による基調講演等を通じ、最 新動向を得る貴重な機会でもある。 基調講演や委員会報告等では、天然 ガスは埋蔵量が豊富で環境への負荷が 小さいなどの特徴から、今後高い需要 増加が見込まれる、とする見解が多数 を占めた。今後は生産者と消費者、政 府部門がより密に情報交換すること で、環境対応やガス消費の高度化に努 めるべきである、とするトーンが強 かった。 一方、近年高騰を続ける石油価格の 影響で石油価格にリンクした契約が主 流であるガス価格も上昇しており、本 件について高価格を維持したい生産者 側と、石油価格リンクはリーズナブル でないとして価格抑制圧力をかけたい 消費者側との間で、現状を顕著に表す 議論も展開された。 以上を踏まえ、世界ガス会議の参加 報告を以下にまとめる。 1. 世界ガス会議と IGU (1)世界ガス会議とは 世界ガス会議は IGUが主催し、3 年 に 1 度開催される、天然ガス産業の国 際会議である。会議では、世界中のガ ス産業関係者が一堂に会し、ガス業界 の現状や将来の展望について、グロー バルな、あるいは地域的な観点から研 究結果を報告するとともに、地域ごと の価格差問題等、その時の重要な課題 について活発な議論を行う場でもあ る。基調講演ではメジャー等上流事業 者(探鉱・生産企業)や中・下流事業者 (輸送事業者・都市ガス事業者)の経営 幹部による講演が行われ、業界の現状 や今後を知るうえで貴重な機会を提供 している。 (2) IGU の役割 世界ガス会議を主催するIGUは、 1931年に設立された世界のガス産業 を代表する非営利組織であり、世界の ガス産業の技術的・経済的な進歩を促 すことを目的としてきた。また、国際 的に機能するよう、国連(UN)や国際 エネルギー機関(IEA)、世界銀行、国 際エネルギーフォーラムのような、他 の国際組織と協力関係を持っている。 IGU は現在、 78カ国、 116のメンバー から成り、その内訳は78カ国の各国 代表組織(各国のガス協会や国営企業、 政府機関)とメジャー企業等38の企業 である。IGU メンバーで、世界のガス 市場の95%を取り扱い、本部はノル ウェーのオスロにある。 以下に、 IGU の組織構成を示す(図1)。 IGU は 組 織 内 に「 技 術 委 員 会 」 (Technical Committee)を設置し、天 然ガスバリューチェーンの全てを網羅 した研究プログラムの検討を行ってい る。メンバー組織・企業は専門家を作 図1 IGU組織図 出所:IGU General Presentation IGU Council IGU Management Team President, Vice President, Immediate Past President, CC Chairman, CC Vice Chairman, Secretary General IGU Secretariat Secretary General Director Webmaster Coordination Committee Chairman President Executive Committee Vice President Vice Chairman Secretary Immediate Past President Programme Committees Working Committees Task Forces

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Page 1: 第25回世界ガス会議 - JOGMEC石油・天然ガス資源情報 ......2012.9 l.46 N.5 70 エッセー JOGMEC K Y M C 3. 会議と主要な議論 (1)開催日程 第25回世界ガス会議は、2012年6

67 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

K Y M C

 エッセー

第25回世界ガス会議 ー 参加報告 ー

JX 日鉱日石リサーチエネルギー経済調査部 坂本 茂樹JOGMEC 石油調査部 大貫 憲二

はじめに

 2012年6月、マレーシアで第25回世界ガス会議(World Gas Conference)が開催された。世界ガス会議は3年に1度開催されるガス産業の国際会議であり、2003年には東京で開催された。主催者である世界ガス連盟(IGU:International Gas Union)内に設置されている技術委員会が、技術や世界の動向について調査した成果を報告する。また、ガス産業を代表する企業の経営幹部による基調講演等を通じ、最新動向を得る貴重な機会でもある。 基調講演や委員会報告等では、天然ガスは埋蔵量が豊富で環境への負荷が小さいなどの特徴から、今後高い需要増加が見込まれる、とする見解が多数を占めた。今後は生産者と消費者、政府部門がより密に情報交換することで、環境対応やガス消費の高度化に努めるべきである、とするトーンが強かった。 一方、近年高騰を続ける石油価格の影響で石油価格にリンクした契約が主流であるガス価格も上昇しており、本件について高価格を維持したい生産者側と、石油価格リンクはリーズナブルでないとして価格抑制圧力をかけたい消費者側との間で、現状を顕著に表す議論も展開された。 以上を踏まえ、世界ガス会議の参加報告を以下にまとめる。

1. 世界ガス会議とIGU

(1)世界ガス会議とは

 世界ガス会議はIGUが主催し、3年

に1度開催される、天然ガス産業の国際会議である。会議では、世界中のガス産業関係者が一堂に会し、ガス業界の現状や将来の展望について、グローバルな、あるいは地域的な観点から研究結果を報告するとともに、地域ごとの価格差問題等、その時の重要な課題について活発な議論を行う場でもある。基調講演ではメジャー等上流事業者(探鉱・生産企業)や中・下流事業者

(輸送事業者・都市ガス事業者)の経営幹部による講演が行われ、業界の現状や今後を知るうえで貴重な機会を提供している。

(2)IGUの役割

 世界ガス会議を主催する IGUは、1931年に設立された世界のガス産業を代表する非営利組織であり、世界の

ガス産業の技術的・経済的な進歩を促すことを目的としてきた。また、国際的に機能するよう、国連(UN)や国際エネルギー機関(IEA)、世界銀行、国際エネルギーフォーラムのような、他の国際組織と協力関係を持っている。 IGUは現在、78カ国、116のメンバーから成り、その内訳は78カ国の各国代表組織(各国のガス協会や国営企業、政府機関)とメジャー企業等38の企業である。IGUメンバーで、世界のガス市場の95%を取り扱い、本部はノルウェーのオスロにある。 以下に、IGUの組織構成を示す(図1)。 IGUは 組 織 内 に「 技 術 委 員 会 」

(Technical Committee)を設置し、天然ガスバリューチェーンの全てを網羅した研究プログラムの検討を行っている。メンバー組織・企業は専門家を作

図1 IGU組織図

出所:IGU General Presentation

IGU Council

IGU Management TeamPresident, Vice President,Immediate Past President,CC Chairman, CC Vice Chairman,Secretary General

IGU SecretariatSecretary GeneralDirectorWebmaster

Coordination CommitteeChairman

President

Executive Committee

Vice President

Vice Chairman

Secretary

ImmediatePast President

Programme Committees Working Committees Task Forces

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エッセー

JOGMEC

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業委員会に送り、その数は800名に上る。作業委員会での3年間の調査・検討結果は、世界ガス会議において報告される。 表1に見るように、IGUは、技術委員会を通じそれぞれの課題に対する調査・検討を行い、その取りまとめや提言を行っている。日本からも、一般社団法人日本ガス協会を中心に都市ガス企業員等多くの方々が、委員会の委員として報告を行っていた。また、当(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構

(JOGMEC)からも、ガス市場委員会(PGCC)のアジア・太平洋地域リーダーとして委員会に参加し、調査結果の報告を行った。 委員会の議題は天然ガス・LNGの開発から輸送、供給と、上流事業から中流・下流事業まで幅広くカバーしている。近年、天然ガスに対する関心、

期待が、その親環境性とアジア地域での需要の増加見通しによって世界的に高まっていることから、天然ガスの需要予測やマーケットに関する議論が活発に行われていた。 また、表1から分かるとおり、技術委員会での検討項目は多岐にわたり、上流事業よりも中・下流事業の比率が非常に高い。これはIGUの設立経緯とも関係するが、安全に安定的にガスを供給するために、さまざまな技術や概念をまとめていく必要があったことが大きく関係していると思われる。これはまた、昨年(2011年12月)、カタールで開催された世界石油会議で、かなりの割合で上流事業を重点とした議論がなされたのとは非常に対照的であった。

2. 開催地と会場について

(1) 開催地:マレーシア・クアラルン

プールについて

 第25回世界ガス会議は、マレーシアの首都クアラルンプールで開催された。マレーシアは、日本(成田)から飛行機で7時間の距離にある。赤道に近いため、会議が開催された6月時点で気温は30 ℃以上と非常に高かった。また、湿度も高く、日本の真夏のような、蒸し暑さを感じた。 マレーシアの人口は2010年時点で約2,840万人、クアラルンプールの人口は約165万人である。市内は人や車が行き交う、非常に活気あふれた街であった。朝の通勤時間帯、昼の買い物風景、夜の屋台、いずれも多くの人でにぎわっていた。 街でなにより目立つのは、今回の会議の主催者であるマレーシア国営の石油・ガス企業Petronasが保有するペトロナスタワーである。以前、写真では見たことがあったが、実物を見るとその印象は想像以上に強いものであった。また、市内には数多くのショッピングモールが点在し、買い物を楽しむ人々、あるいは涼みに来る人々であふれていた。南国の強い日差しもあって、明るい街という印象を受けた。

(2)開催会場について

 会場は市の中心地にあり、その威容が印象深いペトロナスタワーの近くのクアラルンプール・コンベンションセンター(KLCC)。主要なホテルが近くに数多くあること、また、LRT(Light Rail Transit:市内を走る交通システムで、クアラルンプールではゴムタイヤ式の自動案内軌条式が走行)の駅やショッピングモールと直結していることから、非常に利便性の高い場所であった。また、コンベンションセンターは、清掃が行き届き、また真新しく、国際会議の開催にふさわしいもので

表1 技術委員会の構成

出所:25th world gas conference final programme

WORKING COMMITTEE:作業委員会

 

WOC1:Exploration & Production(探鉱&生産)

WOC2:Storage(貯蔵)

WOC3:Transmission(輸送)

WOC4:Distribution(配送)

WOC5:Utilization(利用)

PROGRAMME COMMITTEE:プログラム委員会

PGCA:Sustainability(持続可能性)

PGCB:Strategy(戦略)

PGCC:Gas Market(ガス市場)

PGCD:Liquefied Natural Gas(LNG)(液化天然ガス)

PGCE:Marketing(マーケティング)

TASK FORCE:タスクフォース

TF1:Building Strategic Human Capital(戦略的な人的資本の構築)

TF2:Nurturing the Future Generations(将来の世代の育成)

TF3:Geopolitics & Natural Gas(地政学と天然ガス)

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第25回世界ガス会議 -参加報告-

JOGMEC

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あった。 コンベンションセンターには、講演セッション向けの二つの大ホール、小規模会議用の会議室のほか、エキシビションホールが設置されている。同ホールは会議の展示会場として、期間中、上流・中流・下流企業やサービス企業、コンサルタントなど数多くの企業が出展し、220のブースが設営され、情報を発信していた。

写1 会場外観とペトロナスタワー

写3 会場(正面玄関)

写2 活気あふれるクアラルンプール市内

写4 エキシビション会場の様子

出所:筆者撮影

出所:筆者撮影

出所:筆者撮影

出所:筆者撮影

図2 会場(Kuala Lumpur Convention Center)の概略図

出所:25th world gas conference final programme

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エッセー

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3. 会議と主要な議論

(1)開催日程

 第25回世界ガス会議は、2012年6月4 ~ 8日の5日間の日程で開催された。最終的に、90カ国から5,300人あまりが参加し、世界ガス会議としては過去最多の出席者数であった。

(2) 世界ガス会議の構成とプログラム

 世界ガス会議は、表2の構成で行われた。 以下に、各部門の会議内容をまとめる。

①基調講演(Keynote Session)  こ の セ ッ シ ョ ン で は、IOC

(International Oil Company)やNOC(National Oil Company)、ユーティリティー企業等、ガス業界の中核を成す企業の経営幹部による講演が行われた。期間中、各日の午前および午後の最初のセッションとして開催され、計7回開催、14名が講演を行った。講演者は表3のとおりである。

②戦略パネル(Strategic Panel) 上流・中流・下流企業や、開発サービス企業の経営幹部、エネルギーコンサルタントの専門家がガス業界の関心の高い問題・課題について議論を行うセッションであり、十のパネルセッションが行われた。テーマは表4のとおりである。

③ 委 員 会 セ ッ シ ョ ン(Committee Session)

 IGU内に設置された技術委員会(作業委員会、プログラム委員会)の3年間の検討結果を委員自らが報告するとともに、各委員から企業動向(主に出身企業の動向)を踏まえた最新のトピックスを紹介するセッションである。委員によるトピックス紹介は、出身企業のアピールを兼ねつつも、現在

表2 世界ガス会議の構成

① Keynote Session:基調講演

② Strategic Panel:戦略パネル

Committee Session:委員会セッション

1)Working Committee(WOC):作業委員会

2)Programme Committee(PGC):プログラム委員会

④ Expert Forum:専門家フォーラム

⑤ Task Force:タスクフォース

表3 基調講演(Keynote Session)講演者

出所:25th world gas conference final programme

日時 Speaker Title

6月5日AM

Peter Voser CEO, Royal Dutch Shell

Rex W.Tillerson Chairman & CEO, ExxonMobil

6月5日PM

Alexander Medvedev Deputy Chairman of Management CommitteeOAO, Gazprom

Paul van Gelder Chairman of the Executive Board & CEOGasunie

6月6日AM

George Kirkland Vice Chairman & Executive Vice President,Upstream & Gas, Chevron

Hamad Rashid Al Mohannadi Managing Director, RasGas

6月6日PM

R.Priyono Chairman of Executive Agency for UpstreamOil & Gas Bussiness Activities, BPMIGAS

Eldar Saetre Executive Vice President Marketing,Processing & Renewable Energy, Statoil

6月7日AM

Mitsunori Torihara 日本ガス協会 会長

Prabhat Singh Marketing Director, GAIL

6月7日PM

Zhou Jiping President, CNPC& Vice Chairman & President, PetroChina

Lawrence Borgard Chairman, AMERICAN GAS ASSOCIATION& President & COO, Integrys Energy Group

6月8日AM

Christophe de Margerie Chairman & CEO, Total

Jean-Marie Dauger Executive Vice President, GdF-Suez

出所:25th world gas conference final programme

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71 石油・天然ガスレビュー

第25回世界ガス会議 -参加報告-

JOGMEC

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進行中のプロジェクトについての紹介等もあり、興味深い発表であった。作業委員会から14件、プログラム委員会から14件の報告があり、合計28件の報告が行われた。(技術委員会の構成:表1)

④専門家フォーラム(Expert Forum) 技術委員会で設定されたテーマに対し、テーマに即した知見を持つ専門家

(メンバー組織の技術員等)が発表を行うセッションである。③は技術委員会で継続的に検討を行ったものであるのに対し、④はIGUによるテーマ募集の選考を通過し、準備されたものである。期間中、合計16件のフォーラムが開催された。

⑤タスクフォース(Task Force) ガス産業界が抱える課題について、特別委員会として検討されたものであり、三つのTask Force(表5)が開催された。

⑥その他 ①~⑤に加え、ガス業界の若手がテーマに沿って自ら検討・発表を行う

「YOUTH PROGRAMME」や、③の技術委員会でより専門的な内容について、専門家自らが特設会場でプレゼンテーションを行う「INTERACTIVE EXPERT SHOWCASE」も開催された。

(3)会議の主な議論(トピックス)

 基調講演をはじめとする各セッションにおける、主要な発表や議論について、以下にまとめる。

○開会式

 6 月 5 日 に 開 会 式 が 開 催 さ れ、Petronas社長が講演を行った。その際、マレーシアの半島部(西マレーシア)で運 用 開 始 さ れ た、 同 国 初 の FSRU

(Floating Storage, Regasification & Loading Unit:浮体式貯蔵再ガス化ユ

ニット)方式によるLNG輸入・再ガス化基地の運用開始に関する発表のほか、東マレーシア・ボルネオ島サバ州沖合でFLNG事業(LNG-FPSO:浮体式LNG生産・貯蔵・積込設備)をFID

(Final Investment Decision:最終投資決定)した、という発表を行い、会議が華々しく始まった。 なお、本FLNGは2015年の運用開始が見込まれている。Royal Dutch ShellがFIDを行ったオーストラリア沖合のPrelude LNGプロジェクトの開始年(2017年)よりも早く運用が開始される見込みとなり、世界初のFLNG事業になると思われる(液化能力:120万トン/年)。

①基調講演 上流事業者から下流事業者までさまざまな企業の経営幹部が集い、彼らが現状考えていることを直接聞くことができる、貴重な機会であった。 今回、上流事業者・天然ガス供給者からは、Royal Dutch Shell、ExxonMobil、Gazprom、Chevron、RasGas(カタール)、Total、BPMIGAS(インドネシア)、Statoil(ノルウェー)の経営幹部らが、中・下流企業からは、日本ガス協会、CNPC(中国石油天然気集団公司)、GAIL(インド)、Gasunie(オランダ)、AMERICAN GAS ASSOCIATION、GdF-Suezの経営幹部らが講演を行った。一見すると、上流事業者からの発表が若干多いだけのように見えるが、GdF-Suezは近年、上流事業への取り組みや、LNGのポートフォリオ取引で上流事業者的な動きを見せており、基調講演では上流事業者のプレゼンスが高い印象を受けた。 基調講演では、ガスは埋蔵量が豊富で環境への負荷が小さいなどの特徴から高い需要増加が見込まれるが、今後は生産者と消費者、政府部門がより密に情報交換することで環境対応やガス消費の高度化に努めるべきだ、との

表4 戦略パネル(Strategic Panel)のテーマ

表5 タスクフォースのテーマ

出所:25th world gas conference final programme

出所:25th world gas conference final programme

SP1 天然ガスの将来:能力(タレント)に対する競争に勝利する

SP2 若手ラウンドテーブルフォーラム(業界の人材育成)

SP3 天然ガス市場開発における地政学の影響

SP4 非在来型ガス:ゲームチェンジャーか、それとも世界的なバブルか

SP5 LNGの将来

SP6 天然ガスに対するケース

SP7 天然ガス自動車:持続可能性と機会

SP8 イノベーションと新技術:ガスビジネスを増大させる要因

SP9 天然ガスと再生可能エネルギーのパートナーシップ(親和性)

SP10 持続可能な将来:信頼性があり、獲得可能なエネルギー源としてのガス

TF1 戦略的な人的資本の構築

TF2 将来の世代の育成

TF3 地政学と天然ガス

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トーンが強かった。 一方、今回の基調講演において上流事業者・天然ガス供給者側の主義・主張と、中・下流事業者・天然ガス消費者側の主義・主張が明確に異なっている点が印象的であった。通常であれば、グローバル経済が持続可能に成長するためにガス産業界は何をなすべきか、が主要な話題となり、経済成長とともに増大する需要に生産が間に合うよう、油ガス田の探鉱や開発に費用をかけ、その開発を可能とする新規技術の開発・人材育成に今から手を付けていかなければならない、というのが主要な議論であった。この議論では天然ガス・LNG価格に関する議論はあまり見られず、供給者側にとっても消費者側にとっても、安定供給が重要なテーマであった。 しかし、2009年の前回大会終了後、

(価格上昇自体は2005年頃から始まっているが)高騰する原油価格にリンク

したガス価格の高騰(ヨーロッパでは軽油や重油等の石油製品価格にリンクし、アジアでは日本の原油価格にリンク)に伴い、長期契約・原油価格リンクの天然ガス・LNG価格が高騰し、

ガス供給事業や発電事業に大きな影響を与え始めており、今回の大会では、現状の高価格で利益性の高い価格体系の維持を望む上流事業者・供給者側と、天然ガス・LNG価格の低下に向けて

図3 世界ガス会議プログラム

出所:25th world gas conference final programme

NOTES AND REFERENCES :KA: KeynoteAdd ressLA: LuncheonAddress

SP: Strategic PanelCS: Committee Session

EF: Expert ForumWOC:Working Committee

PGC: Programme CommitteeTF: Task Force

LEGENDS: Strategic Panel sPGCA

PGCBPGCC

PGCDPGCE

WOC1WOC2

WOC3WOC4

WOC5 Social Functio ns/Special Session s

Task Force

KL CONVENTION CENTR ELEVEL 4 LEVEL 3

MANDARIN ORIENTAL

Room Name Plenary Hall Plenary Theatre 408/9 403/4 410 406/7 302/3 306 304/5 EMERALDMONDAY 4 J UNE 201 214:30 - 17:00 Opening Ceremony17:00 - 18:30 Exhibition Opening20:00 - 22:30 WelcomeGala DinnerTUESDAY 5 J UNE 2012 - THEME: FOUNDATION FOR GROWTH

08:30 - 09:15 KA1: Royal Dutch ShellKA2: Exxon Mobil Corporation

09:15 - 09:45 Co eeBreak

CS7.1: PGCB CS9.1: PGCD EF5.A: WOC5 CS8.2: PGCC CS4.1: WOC4 CS1.1: WOC1 CS:TF109:45 - 11:45 Worldgas supply, demand &trade Enhance LNGfacilities compatibility How to integrate renewable powerin the Natural gas marketsin NorthAmerica: Gas distribution safety management systems Natural gasexploration & production Building strategichuman capitalnatural gas grid what’s next?12:00 - 13:30 LA1: International Energy Agency (Sapphire Room, Mandarin Oriental)

13:45 - 14:30 KA3: OAO GazpromKA4: Gasunie

14:30 - 16:00 SP2: Youth roundtable forum: SP1: The future of natural gas:winning the race for talent

16:00 - 16:30 Co eeBreak

16:30 - 18:30 CS7.2: PGCB CS: TF2 EF6.A: PGCA CS5.1: WOC5 CS8.1: PGCC EF4.A: WOC4 CS2.1: WOC2 CS3.1: WOC3Whole sale gas priceformation Nurturing the futuregenerations The role of natural gas in thedesign of Industrial utilisation:technologies for Asia: gas market no.1? Safetymanagement, smartmetering & Underground Gas Storage(UGS) Strategic gas transmission infrastructure

a hydricity model efficiently stimulating gas demand unaccounted for gas: a technical perspective projects for new gas markets projectsWEDNESDAY 6 JUNE 2012 - THEME: SECUR ING GAS SUPP LY

08:30 - 09:15 KA5: Chevron CorporationKA6: RasGas CompanyLimited

09:15 - 09:45 Co eeBreak

09:45 - 11:45CS7.3: PGCB EF9.A: PGCD CS10.1: PGCE CS5.3: WOC5

EF1.A: WOC1

CS8.3: PGCC CS4.2: WOC4 CS2.2: WOC2 EF3.A: WOC3Corporate strategy& regulation LNGoperationalchallenges Energising the image of gas Natural gas vehicles (NGV): the solution

Exploration & production challenges:

European natural gas at a crossroads: Smart metering system s: OptimisingUGS capacitie s: Construction of pipelines inextreme fora low carbon society

finding the “Big Elephants”vs.

where to go from here? characteristics,technologies, costs challenges for operators & clients conditions - challenges &solutions

e ective development

12:00 - 13:30 LA2: FACTS Global Energy (Sapphire, Mandarin Oriental)

13:45 - 14:30 KA7: PT Pertamina (PERSERO)KA8: Statoil ASA

14:30 - 16:00 SP3: Impact of geopolitics on SP4: Unconventional gas: a game SP5: The futureof LNG naturalgas marketdevelopment changer or a globalbubble?16:00 - 16:30 Co eeBreak

16:30 - 18:30 EF7.A: PGCB CS9.2: PGCD EF8.A: PGCC EF4.B: WOC4 CS2.3: WOC2 CS3.3: WOC3Regulatory issues &business cases Penetrate newmarketsfor LNG Open markets,security of supply & security Safetymanagement, smart metering & Competencies & innovative technologies Securing sufficientexpertise tooperate gas

of demand unaccounted for gas: a management for efficient UGS transmission systems safely &adequatelyperspectiveTHURS DAY 7 J UNE 2012 - THEME: ENHANCING GAS DEMAND

08:30 - 09:15 KA9: The Japan Gas AssociationKA10: GAIL (India) Limited

09:15 - 09:45 Co ee Break

09:45 - 11:45

EF7.B: PGCB

CS9.3: PGCD EF 10.A: PGCE EF5.B: WOC5 CS1.2: WOC1 CS4.3: WOC4 CS3.2: WOC3 CS TF3

Prospects&challenges for gas trade

Enhanceefficiency in the LNGvalue chain Renew your energies! Gas quality changes,impact &remedies Current& future exploration & production Unaccounted for gas: identification, Integrity of gas transmission systems & Geopolitics & natural gasgas developments measurement, calculation & management environmental footprint reduction

12:00 - 13:30 LA3: Speaker tobe determined (Sapphire, Mandarin Oriental)

13:45 - 14:30 KA11: CNPC KA12: American GasAssociation

14:30 - 16:00 SP6: Thecase for naturalgas SP7: Natural gas vehicles - SP8: Innovation & newtechnology:sustainability & opportunity the key toincrease thegas business

16:00 - 16:30 Co ee Break

16:30 - 18:30 EF9.B: PGCDEF6.B : PGCA & EF2.A: WOC2 CS5.2: WOC5 EF8.B: PGCC EF1.B: WOC1 EF3.B : WOC3 CS 10.2 : PGCE

New LNGmarketdevelopmentsCO2 capture,transport &sequestration: Domestic & commercial utilisation: Perspectives for regional gas market De-risking& de-stranding gasresources Pipeline integrity& the humanchallenge New ways inmarketing strategies ‒ technologies involved& project developments gas innovationroadmap for the development bestpractices leadingto successto increase gas industry sustainability new sustainablemarketdemand

FR IDAY 8 J UNE 2012 - THEME: A SUSTAINABLE FUTUR E

08:30 - 09:15 KA13: TOTALKA14: GDF SUEZ

09:15 - 09:45 Co ee Break

09:45 - 11:45 SP9: Gas &renewablespartnership SP10: Specialpanelfrom theWorld Petroleum Council (WPC)

12:00 - 13:30 LA4: IHSCambridge EnergyResearch Associates (IHS CERA) (Sapphire, Mandarin Oriental)

14:30 - 16:00 Special Session: Triennial WorkProgramme 2012 - 2015

16:00 - 16:30 Co ee Break16:30 - 18:30 Closing Ceremony19:00 - 22:30 Farewell Party

the magic in the young generation

CS6.2: PGCAGreenhouse gas(GHG) emission

reduction e orts

CS6.1: PGCAIntegrating renewablegases into the

natural gas industry

写5 基調講演(日本ガス協会・鳥原光憲会長)

出所:筆者撮影

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73 石油・天然ガスレビュー

第25回世界ガス会議 -参加報告-

JOGMEC

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圧力をかけたい中・下流事業者・消費者側との姿勢の違いが鮮明であった。

②戦略パネル<SP5:LNGの将来> Qatargas、ExxonMobi l、Royal Dutch Shell、東京ガス、Excelerate Energyの経営幹部らによるパネルで、各社の展望の後、議論が展開された。上流事業者らは、将来のLNG需要の伸 び は 大 き く、 特 に Royal Dutch Shellは2030年には現状の約2倍になる、と見ている。また、天然ガスはピークシェービング用の燃料ではなく、ベース燃料としての役割を果たすと考えており、陸上・海上の輸送燃料としての役割も期待されている。しかし、各市場(アジア・北米・欧州)では需要と供給がバランスするものの、タイトな市場が続くと見ている。また、LNGは供給チェーンでのコスト圧力や価格の不安定性が懸念され、持続可能な開発を行うために技術開発や技術革新とともに、石油価格リンクの価格設定や長期契約が必要、と語っていた。 これに対し、下流事業者(ユーティリティー企業)の東京ガスは、ユーラシア大陸の天然ガス市場は将来、拡大し、北米のシェールガスLNGの輸入によってシェールガス革命のインパクトを受けるであろう、とし、三つのキー要素として、①競争の激化②供給ポテンシャルの増加③スマートな使用、を挙げていた。 また、Excelerate Energyは、今日のLNG産業の不確実性(コスト増やプロジェクト遅延リスク等)に対し、それは単純な問題であるとし、彼らが推進するFLNGは素早く動くことができ、コストが低く融通性があり、最も大きなチャンスに直面している、と語っていた。また、天然ガス産業は顧客に利益をもたらすべきであり、パイプラインやLNGだけでなく液化産業等にも競争原理を導入する必要があ

る、と語った。 その後の質疑応答では、上流事業者らと下流事業者・新規参入企業との間で白熱した議論がなされた。北米LNGの輸出に関しては、価格に対する協議を引き起こすので、インパクトがあるであろう、とする下流事業者に対し、上流事業者側は、北米LNG輸出の影響は限定的であり、価格にそれほど影響しない、との論調であった。また、上述LNG産業の不確実性から

原油リンクの安定した、高価なLNG価格体系を維持したい上流事業者側に対し、下流事業者側は現状のガス価格は高すぎてリーズナブルではなく、原油リンクから離れるべきであると主張し、新規参入者は新たに業界に参入するには、新たなアイデアとイノベーションが大事であり、技術でさまざまな可能性を生み出す、とし、北米シェールガスLNGの輸出も強く働きかけていく、と述べるなど積極的な姿勢を表

写7 戦略パネルの様子(SP5)

出所:筆者撮影

写6 基調講演(Royal Dutch Shell CEO・Voser氏)

出所:筆者撮影

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明していた。 本パネルは、現在ガス産業界が置かれている、生産者側(上流事業者側)と消費者側(下流事業者側)の意見の相違が顕著に表れた白熱したセッションであった。実際のビジネスの現場では、下流事業者・新規参入者側は、価格面での厳しい交渉下にさらされていると思われる。現状、高騰する原油価格の影響で、北東アジアのLNG価格やヨーロッパの長期契約パイプラインガスの価格が高騰しており、今後もこのような議論が、価格交渉の場で活発になされていくのでは、と思われた。

<SP9:天然ガスと再生可能エネルギーのパートナーシップ> E.ON Ruhrgas(ドイツ)、世界銀行、Enel(イタリア)、GasTerra(オランダ)、欧州風力エネルギー協会と、欧州勢による議論が進められた。 天然ガスと再生可能エネルギーは競合者なのか、互いに協力者なのかとの問いに対し、欧州では、天然ガスは再生可能エネルギーを統合するもの、と見ている。持続可能なエネルギーミックスにとって、ガスはよいパートナーである。一方、再生可能エネルギーは間かん

歇けつ

的な生産形態(夜間や荒天時は太陽光発電は行われないし、風がやめば風力発電は発電できなくなる)であり、高効率な天然ガス火力発電であるCCGT(コンバインドサイクルガスタービン)は、再生可能エネルギーの間歇性を補完できるが、ガス価格が高騰すればガス火力発電は行われず、再生可能エネルギーの間歇性を補完できるものがなくなることから、再生可能エネルギーの成長とガスの成長はガス価格に対しとても敏感であるとしている。 天然ガスと再生可能エネルギーの高い親和性の例として三つのケースが紹介された。a.�太 陽 光 と 天 然 ガ ス( ス ペ イ ン:

Selvia Solar Cooling Plant)

 太陽光で水を加熱し蒸気をつくり、冷凍機を動かし、冷凍パワーをつくるプラントb.�バイオガスとバイオメタン(ロシア:

Moscow Biogas Plant) 浄水場の排水で藻類を培養、バイオメタンを取り出し、既存ネットワークに送出c. 電力から天然ガスへの転換(ドイツ:

Falkenhagen Electrolysis) 風力発電の電力を使用し水を電気分解、水素を製造。これに二酸化炭素

(CO2)を加えてメタン化を行い、既存のガスネットワークへ送出。CO2 は、バイオガス製造時のCO2を利用

③委員会セッション 既述のように、IGU内には技術委員会があり、五つの作業委員会(WOC1~ 5) と 五 つ の プ ロ グ ラ ム 委 員 会

(PGC-A ~ E)から成る(詳細は「1.世界ガス会議とは」参照)。そのなかではテーマが更に細分化されており(例えば、PGCC:ガス市場委員会であれば、そのなかに更に欧州市場グループ、アジア太平洋市場グループがある)、それぞれの小グループが3年間の調査・検討結果を発表した。また、委員の所属企業動向等を踏まえた追加プレゼンテーション等が行われた。

<PGCB:Strategy(戦略委員会)>○�COMMITTEE�SESSION�7.1:世界

のガス供給、需要と貿易

a. 世界的な貿易パターンと展望 ・ 2025年に、1次エネルギー消費

量の25%を天然ガスが占める。 ・ ガスの需要は2030年までに4兆

7,000億m3(約165TCF)に達する。また、天然ガス需要は、2010年から2030年にかけて年1.9%の割合で伸びる。

 ・地域的なガス需要における要点 ・ 2030年における主要なガス使用

国は、現状と同様、北米とCISで

ある ・ アジア、アフリカ、中東において、

ガス需要が急速に伸びるb.世界のエネルギー需要 ・ 1次エネルギー消費量は、2010

年の1万2,500Mtoeから、2030年には30%増の1万6,500Mtoeに増加する(Mtoe:百万トン=石油換算)

 ・ 電力は、2010年の2万1,000TWhから、60%増の 3 万 4,000TWhに増加する。

○�COMMITTEE�SESSION�7.2:卸売

ガス価格フォーメーション

 卸売ガス価格フォーメーションに関する調査報告では、特にヨーロッパにおいてガス対ガスの競争傾向が見られ、原油指標から離れる傾向がある。また、原油はほとんどの市場でガスに対し競合する燃料として減退し続けており、いくつかの国では発電燃料としてほとんど姿を消してしまった。 ある委員は、本委員会のパネルとして行った発表および質疑のなかで、ガス価格のうちのいくつかはスポット市場(ハブ価格)とリンクしてきており、15 ~ 20年の長期契約の環境は変わってきている、と発言していた。また、米国ではガス価格は毎年見直され、ヨーロッパでも3年に1度見直されている。価格交渉はタイムリーベースであり、2009年にはヨーロッパで多くの企業が価格再交渉を行っている、恐らく価格が変わらないと思っていること が よ く な い こ と で あ り、“Wake Up”と語っていた。

<PGCC:Gas�Market(ガス市場)>○�COMMITTEE�SESSION�8.3:国境

におけるヨーロッパの天然ガス

 三つの小グループ(C3.1:成長のポテンシャル/ C3.2:価格と規制/ C3.3供給セキュリティー)がそれぞれのテーマに基づき検討を行い、報告した。

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第25回世界ガス会議 -参加報告-

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a.C3.1:成長のポテンシャル ・ LNG市場におけるアメリカの非

在来型ガスのインパクトは、他の市場でも役割を演じ始めている。

 ・ ヨーロッパにおいて、発電向けのガス需要は将来のガスの成長の鍵を握るであろう。

 ・ 既存の世界的なガス/ LNG価格メカニズムは、短期的には続くであろう。グリーン政策(環境政策)と非在来型ガスの開発が、見直しの圧力源となるであろう。

 ・ ヨーロッパの供給価格契約が変化し始めており、原油リンクからスポットマーケットへのシフトが見られる。

 ・ ヨーロッパの天然ガス消費量は不確実性が大きいが、想定される伸びのほとんどは発電部門の消費量が鍵を握っている。

b.C3.2:価格と規制 ・ 欧州の価格の95%は、ハブ価格、

もしくは原油指標である。ハブ価格は2009年に28%を占め、2005年よりも15%増加している。

 ・ ヨーロッパは、“原油指標のみ”の市場から、ハブ価格環境がより大きな役割を演じる、ハイブリッド市場(原油指標とハブ価格の混合市場)に移行していると見られる。

 ・ BAFA(ドイツの輸入価格で原油価格に支配)とNBPはどう動くのか、という問いについて、2008年まではほぼ同様の動きを示していたが、2008年中頃から異なる動きとなっている。需要側の要因としては、2008年の景気後退以降の需要低下が要因として考えられ、供給側の要因としては、より多くのLNGを購入したこと、また、米国のシェールガス革命の影響でLNGの入手が可能となったことが考えられる。この結果、スポット価格が原油指標価格以下に落ち、ファンダメンタルズに影響した。

 ・ 規制としては、EUの政策である「単一ガス市場」に基づいている。EUの第3エネルギーパッケージは着実に進んでいる。

 ・ ヨーロッパ中で、インターコネクションの拡張が進行している。市場が実際につながることで、価格パターンもリンクしてくる。

c.C3.3:供給セキュリティー

 ・ 供給セキュリティーにおいては、供給源の多様性が重要であり、ヨーロッパにとってLNGの重要性が増している。

 ・ また、同様の観点から、天然ガス地下貯蔵の役割も重要性を持っている(サプライヤーからのガス供給中断時もガスの供給が可能/国内生産量の減退に対応/季節間の

出所:筆者撮影

出所:筆者撮影

写8 委員会セッション(PGCC)の様子(右から2人目 JOGMEC・坂本)

写9 委員会セッション(PGCD)の様子

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スイングに対応/新たな需要パターンに対応)。

 ・ 確実性を確保するために、供給者と消費者間の協力が不可欠である

<PGCD:Liquefied�Natural�Gas:LNG(液化天然ガス)> LNGの利用が世界的に広がるなか、LNG液化基地・受入基地と船舶の設備整合性に関する推奨事項を継続的に検 討 し、 ま と め て い る。 ま た、 新LNG市場の開発として、FSRU(浮体式貯蔵再ガス化ユニット)の導入やFLNG(浮体式天然ガス液化ユニット)、北米のLNG輸出、北極圏開発、自動車・船舶用燃料等のニッチな小売LNG等について、最新動向が紹介された。○�COMMITTEE�SESSION�9.2:LNG

の新市場への浸透

 ・ EDF( フ ラ ン ス 電 力 ) のDunkerque LNG受入基地建設

   北西ヨーロッパへの新たなLNGの入り口であり、フランス-ベルギーの輸送システムに直結し、ドイツ・オランダ・英国へもガスのデリバリーが可能である(EDFグループのガス戦略)。また、隣接する原子力発電所の温排水を利用しLNGを気化させることで、ゼロガス基地(ガスを使用しない基地。通常、欧州の基地で使用する気化器〈サブマージド型〉は、LNGを気化するために水を加熱する際、その熱源としてガスを使用)を目指す。

○�EXPERT�FORUM�9.B:新LNG市場の開発(FLNGと北極圏)

 ・ 北 極 圏 LNG産 業 の 開 発(JSC Gazprom:ロシア)

   ロシアの北極圏大陸棚(洋上)のハイドロカーボンは、80%がガスである。気象・海象の問題から、掘削リグ等、設備設置には10月

から12月がコンディションがよい。

 ・ Floating LNGに対するオペレーターのアプローチ(Total)

   ジェネリックデザインとして、フランスのTechnipとともに検討を実施した(350万トン/年)。二つの 液 化 プ ロ セ ス(DMR / CO2

Precooled N2 Expansion)で比較検討を実施した結果、N2 ExpansionがDMRよりリスクが低いことを確認し、TotalはN2 サイクルを採用した。また、積み込み設備やFLNG上の設備配置は、安全、シンプルで、オペレーションのしやすさが重要である。

④タスクフォース<TF3:地政学と天然ガス> 本タスクフォースは、天然ガス資源の開発における経済ファクターと政治ファクターの間の相互作用を理解し調査するために行われ、各地域の専門家による地域ペーパーがまとめられた。 3年間の調査により、以下の主な発見が挙げられている。a.�地政学において、天然ガスの重要

性が増しているb.�地政学は、世界的というより地域

的になってきているc. LNGよりもパイプラインのほうが、

政治的であるd.�海域ルートの重要性が増しているe.�IGUと国際機関、輸入者の間により

よい協力関係ができている 地域別の特徴は、次のとおりである。

・EU-CIS 多くの旧ソ連諸国で資源ナショナリズムが台頭し、ロシアへのガス依存脱却に向いている。 また、EUは第3エネルギーパッケージの実施によって、規制枠組みを強化しており、ロシアにとって深刻な問題となっている。ロシアはパイプライン

を通じ、約20カ国に天然ガスを送っているが、輸送インフラの所有の考え方の変更を迫られている。ロシア側にとって、ヨーロッパはガス需要を拡大するのに難しい地域である。

・MENA(中東北アフリカ) 世界の炭化水素埋蔵量の 45%がMENA地域にある。一方、MENA地域には、多くの政治的課題がある(リビア、シリア、イエメンほか)。 また、今後、産ガス国の国内エネルギー需要が増えると予測される。

・Asia-Pacific エネルギーセキュリティーの観点から、次の二つの視点が重要である。a.LNG輸入b.米国のシェールガス輸出 米国からのLNG輸出に際し、米国のDOEとFERCの承認が必要である。韓国を含むFTA締結国への輸出は承認されているが、非FTA締結国への輸出は、まだ一つ(Sabine Pass)を除き未承認である。米国のLNG輸出地域承認が、地政学の新たなテーマとなっている。

 また、質疑応答では以下が話題に挙げられた。

・世界のシェールガス開発についてa.アルゼンチン 国内で重要な発見があったが、開発政策がまだ策定されていない。米国のシェールガス開発は、利益性を上げる上で南米にとっても重要。地域はシェールガス開発を、価格を下げる要素としてとても歓迎しており、シェールガスがこの地域でゲームチェンジャーとなり得るであろう。b.ヨーロッパ 2010年のEIAのシェールガスレポートでは、ポーランドのシェールガス埋蔵量ポテンシャルが高く、高いガス価

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格を下げる可能性がある、と言われた。しかし、域内での知見が少なく、また、いくつかの国(フランス、ブルガリア)は環境運動グループ等の反対により、水圧破砕技術の使用を禁止した。ヨーロッパは人口密集地が多く、開発は難しく、ゲームチェンジャーとしては期待できず、2020年において価格への影響をあまり与えていないと思われる。c.中東 サウジアラビアでは、シェールガスの開発が難しいと思われる(在来型資源の埋蔵量が大きいため)。 加えて、中東地域の今後のガス需要についても議論がなされた。サウジアラビアは大ガス田を自国消費に回すようになると見られ、アブダビはガス輸入の可能性がある。地域におけるガス輸送システムの統合は限定的と思われる。これはロシアと同様、消費地が遠いためで、パイプライン敷

設せつ

も限定的になると思われる。

・ガスパイプラインについてa.�トルクメニスタン~アフガニスタン

~インド~パキスタンパイプライン 最も興味のあるプロジェクトである。しかし、地政学的に見て困難なことが多く、特にアフガニスタン等は警備上の問題で厳しい。パキスタンはガス価格の議論がされておらず、また、パキスタンとインドの政治的な関係も難しいであろう。b.カスピ海諸国のガス開発 ロシア・イランがパイプラインを敷設し、他の国々がそれを利用しているのが歴史的な状況である。そのため、パイプラインの新たな開発が始まれば、この状況に風穴が開く。地域での合意は可能であろう。

おわりに 今回、初めて世界ガス会議に参加したが、まず印象的だったのは、本会議を主催するIGUが天然ガスバリューチェーン全体の課題について、技術委員会を通じて真

しん

摯し

に調査・研究を行い、成果を報告・共有するというよいサイクルを実行していることであった。また、世界中のガス産業の組織、企業が

IGUに人材・知見を出し合うという良好な協力関係を保っていることも、印象的であった。全産業において共通のことであるが、ガス産業は特に、上流

(探鉱・開発)から中流(輸送)、下流(消費)に至るまで、全ての部門において安全性が強く求められており、こうした協力関係が今後とも続くことが望まれる。 一方で、3年周期で行われる本会議での報告は、まとめに要する期間等を考慮すると半年前位までのトレンドとなり、最新動向を若干ではあれ、反映しにくい状況にあるのではと思われた

(生産者と消費者との間の価格交渉や北米LNG輸出等)。これは、メンバーが世界中で(各所属企業で)活躍しており、技術委員会の開催頻度は6カ月に1度とのことなので、やむを得ないことであるのかもしれない。次回2015年の第26回世界ガス会議(フランス・パリ)での調査報告や議論に期待したい、と強く感じた。

執筆者紹介

大貫 憲二(おおぬき けんじ)早稲田大学大学院修了。東京ガス株式会社入社後、主にLNG受入基地の操業技術、操業管理等に従事。2011年7月より現職。趣味は温泉巡り。かつて1日に6湯巡ったこともあったが、温泉巡りが思った以上にハードであると分かり、現在は一つの温泉をゆっくり楽しむことにしている。

坂本 茂樹(さかもと しげき)長野県生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。当時のテーマは低開発経済の開発論。日本石油(株)(現・JX日鉱日石エネルギー〈株〉)入社。 1991年から日本石油開発(株)で海外の石油ガス上流資産管理・新規案件発掘業務に従事。 2004年10月からJOGMEC 石油企画調査部 上席研究員。主要担当は、アジア太平洋地域の石油ガス開発状況・プロジェクト調査、世界ガス・LNG事業状況調査。2010~2012年期、今回の第25回世界ガス会議(マレーシア・クアラルンプール開催)の準備を行う世界ガス協会ガス市場委員会の東アジア・グループリーダー。2012年7月からJX日鉱日石リサーチ勤務。エリア・スタディーに興味を持っている(主に旧大陸)。余暇は、週末の競技ボート練習、読書(歴史物・中国武侠小説)。