カナダの天然ガス開発と lng事業の動向...29石油・天然ガスレビュー jogmec k...

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29 石油・天然ガスレビュー アナリシス カナダの天然ガス開発と LNG 事業の動向 ―LNG 市場競争で巻き返しを図るカナダ― カナダ西岸における LNG輸出が脚光を浴び始めて数年が経過した。その勢いは増しこそすれ、衰え る気配はない。 しかし、カナダは、オイルサンドや天然ガスといった膨大な地下資源に恵まれているとはいえ、その 輸出先は巨大な市場を有する隣国米国に限定されているため、ほんの数年前まで、そのエネルギー大国 としての存在感は北米大陸以外ではほとんどなかった。シェールガス革命の余波により、カナダ西部ブ リティッシュコロンビア(BC)州においても、非在来型ガス開発が急速に進展し、そのエネルギー供給 ポテンシャルは更に高まっているが、シェールガス革命による米国自らの需給構造の変化により、米国 市場におけるカナダの存在感および必要性は年々薄まっているという皮肉な状況に陥っている(図1)。 こうした状況下、カナダでは、米国市場一辺倒からの脱却と新たなエネルギー輸出先市場としてアジ アへの期待が高まり、海外からの開発投資促進と輸出先としてのアジア市場獲得が、ここ数年における 連邦政府 / 各州政府の重要な政策課題ともなっている。 これらの動きと軌を一にして、日本や中国をはじめとするアジア各国からの上流アセットに対する巨 額な投資案件も増加の一途をたどっており、その先の輸出手段としての LNG 計画の増加が冒頭の状況 につながっているとも言えよう。 その一方で、現時点では、米国市場向け以外の輸出手段、すなわち、LNGプラントは一カ所も存在 しておらず、パイプライン建設を含め全て今後数年にFIDを迎える段階に過ぎず、世界的な天然ガス 開発競争のなかでは、周回遅れ気味でもある。しかし、遅れて登場したカナダが演じる役回り次第によっ て、世界の天然ガス市場の需給構造が、LNG 価格のあり方を含め、変わり得る可能性も秘めている。 今後の世界の天然ガス市 場において、これまで以上 に重要な位置を占めること が予想されるカナダである が、同国特有の、政治的/ 経済的立ち位置、先住民問 題や連邦/州政府間関係、 環境問題や労働力不足がプ ロジェクトにもたらすイン パクトがどのようなものか を理解しておくことは、そ の可能性を把握するために も意味がある。本稿は、カ ナダを取り巻くこのような 現状と課題について、まと めたものである。 じめに JOGMEC バンクーバー事務所 所長 辻本 圭助 30 25 20 15 10 5 0 -5 2010 Projections History 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 U.S. dry gas trillion cubic feet per year Year Consumption Domestic supply Net imports 米国ガス需給見通し 図1 出所:Natural Resources Canada

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29 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

K Y M C

アナリシス

カナダの天然ガス開発とLNG 事業の動向―LNG 市場競争で巻き返しを図るカナダ―

 カナダ西岸におけるLNG輸出が脚光を浴び始めて数年が経過した。その勢いは増しこそすれ、衰える気配はない。 しかし、カナダは、オイルサンドや天然ガスといった膨大な地下資源に恵まれているとはいえ、その輸出先は巨大な市場を有する隣国米国に限定されているため、ほんの数年前まで、そのエネルギー大国としての存在感は北米大陸以外ではほとんどなかった。シェールガス革命の余波により、カナダ西部ブリティッシュコロンビア(BC)州においても、非在来型ガス開発が急速に進展し、そのエネルギー供給ポテンシャルは更に高まっているが、シェールガス革命による米国自らの需給構造の変化により、米国市場におけるカナダの存在感および必要性は年々薄まっているという皮肉な状況に陥っている(図1)。 こうした状況下、カナダでは、米国市場一辺倒からの脱却と新たなエネルギー輸出先市場としてアジアへの期待が高まり、海外からの開発投資促進と輸出先としてのアジア市場獲得が、ここ数年における連邦政府/各州政府の重要な政策課題ともなっている。 これらの動きと軌を一にして、日本や中国をはじめとするアジア各国からの上流アセットに対する巨額な投資案件も増加の一途をたどっており、その先の輸出手段としてのLNG計画の増加が冒頭の状況につながっているとも言えよう。 その一方で、現時点では、米国市場向け以外の輸出手段、すなわち、LNGプラントは一カ所も存在しておらず、パイプライン建設を含め全て今後数年にFIDを迎える段階に過ぎず、世界的な天然ガス開発競争のなかでは、周回遅れ気味でもある。しかし、遅れて登場したカナダが演じる役回り次第によって、世界の天然ガス市場の需給構造が、LNG価格のあり方を含め、変わり得る可能性も秘めている。 今後の世界の天然ガス市場において、これまで以上に重要な位置を占めることが予想されるカナダであるが、同国特有の、政治的/経済的立ち位置、先住民問題や連邦/州政府間関係、環境問題や労働力不足がプロジェクトにもたらすインパクトがどのようなものかを理解しておくことは、その可能性を把握するためにも意味がある。本稿は、カナダを取り巻くこのような現状と課題について、まとめたものである。

はじめに

JOGMEC バンクーバー事務所 所長 辻本 圭助

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2010 ProjectionsHistory

1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035

U.S. dry gastrillion cubic feet per year

Year

Consumption

Domestic supply

Net imports

米国ガス需給見通し図1

出所:Natural Resources Canada

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(1)輸出に大きく依存するカナダ経済

 カナダの人口は3,457万人と日本の約1/4に過ぎないが、その国土はわが国の26.4倍と広大であり、1人あたり名目GDPベースで見ると4万5,560US$とわが国とほぼ同等のレベルにある。そのカナダ経済は、総輸出額がGDPに占める割合は約29%と、日本の約15%や米国の約8%に比して、より輸出に依存している。更に、輸出産品のうち鉱物性生産品が全体の約30 %を占める等、資源輸出が経済全体を支えているといっても過言ではない。また、産業構造上、今後とも、輸出依存型経済からの脱却は困難とも言える。その上、1994年のNAFTA成立以降、対米依存度が大きく上昇しており、2010年における総輸出額に占める対米輸出額の割合は約73%、総輸入額に占める対米輸入額は約51 %に達している。こうした米国経済への過度の依存に対する懸念の高まりを受け、市場の多様性の確保は現政権にとっての大きな課題となっている*1。

(2)アジア重視への政策転換と資源開発促進策

 現連邦政府与党であるカナダ保守党は、2003年にカナダ進歩保守党とカナダ同盟が合同して結党された(初代党首はハーパー現首相)。2006年に政権を獲得した後、順調に議席を伸ばし、2011年選挙では過半数の安定的多数を確保するに至った。中道右派/保守主義である同党は、その政権初期、産業界からの中国貿易拡大に対する要望を受けつつも中国の人権問題を批判し続け、「人権問題を犠牲にしてまで中国との貿易関係を発展させる意向はない」とのコメントも発表する等、中国とは緊張関係にあった。 この状況を一変させたのが、2011年11月以降に顕在化したKeystone XLパイプライン問題である。アルバータ州のオイルサンド起源合成油を米国市場に供給する目的で計画された同パイプラインは、米国内環境保護団体からの強い反対運動や民主党/共和党間の論争とも相まって、大統領選挙の争点となるのを避けるためか、同選挙後の2013年以降まで認可の判断を凍結されるという事態に陥った。これらの米国の対応に関し、強烈な不

満を示したのが、アルバータ州のエネルギー産業をその政治的バックボーンとするハーパー首相である*2。 こうした背景事情の下、その政策変化は、すぐに目に見える形で現れた。2012年2月、ハーパー首相は、資源エネルギー産業のCEOらを中心とする30名超の産業ミッション団とともに2回目の中国公式訪問を行い、中国からカナダに対する投資促進を主眼とする外交政策を展開*3。また、2012年9月には、1994年以来長らく進展しなかった両国間の「自由貿易投資協定」の政府間テキスト合意までこぎ着けた。2009年の第1回目の公式訪問が政府関係者を中心に数名であったのとは非常に対照的であった。  加 え て、2012 年 3 月 に は「 責 任 あ る 資 源 開 発 」

(Responsible Resources Development)という環境許認可プロセス改革を含む一連の政策体系を発表。その主眼は、鉱物/石油/天然ガス/オイルサンドといった資源開発に対する海外からの投資を拡大し、新たな輸出先市場として(米国ではなく)アジアを確保することにある。天然ガス/LNG輸出は、こうした一連のアジア重視/資源開発促進策の象徴でもある。

(3)開発と環境のバランス

 連邦政府は「責任ある資源開発」政策を具現化すべく、2012年4月に環境許認可プロセス等の効率化を目指すBill C-38法案を提出し、同年6月に原案どおり可決した。同法は、環境影響評価法や漁業法等、70もの関連法を一括で改正するオムニバス法であり、その総数は452頁にも上った。同法の眼目は、審査プロセスにおける事業者の予見可能性を高めることであり、「One Project One Review」を謳

うた

い文句に、連邦と州の二重審査の排除、各種審査プロセスの簡素化および最長24カ月の審査期限の設定等をその骨格としている。結果、連邦政府各省庁による審査対象は重要案件のみに絞り込まれ、その他の大部分は州に委ねることとなった。産業界からの高い評価と裏腹に、環境保護団体や野党である新民主党からの反発は非常に強く、「開発と環境のバランス」が連邦レベルでの新たな与野党間対立の火種ともなっている。

1. カナダの立ち位置と連邦政府の動向

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(1)非在来型ガスのポテンシャル

 現在、カナダは年産6.4Tcfを生産する世界第3位のガス生産国である*4。なお、いわゆる非在来 型 ガ ス に 関 し て は、 カ ナ ダ 西 部 に あ るMontney Play Trend、Horn River Basin、Cordova EmbaymentおよびLiard Basin(以上は主としてBC州)と、Colorado Group(アルバータ州)がその開発の中心となっている(図2)。 2011年4月に米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)が発表したレポート*5においては、非在来型ガスのカナダ西部全体における可採埋蔵量*6を355Tcf、BC州内4エリアにおける可採埋蔵量を294Tcf、また、前者の原始埋蔵量*7

を1,326Tcf、後者の原始埋蔵量を918Tcfと見積もっている。ほぼ時を同じくして2011年5月にBC州Ministry of Energy and Mines*8と連邦National Energy Board(NEB)が共同で発表したレポート*9は、BC州内Horn Riverに特化したものであるが、カナダ国内のシェールガス埋蔵量を連邦と州政府が公式に発表した最初のものとされており、同エリアの可採埋蔵量*10として78Tcfを見込んでいる。また、Canadian Society for Unconventional Resources(CSUR)は在来型ガスを含めたカナダ全体の埋蔵量を

2. カナダ西部における天然ガス開発状況

1.EIA "An Initial Shale Gas Resources: Outside the United States (2011)"

2. BC Energy and Mines & National Energy Board "Ultimate Potential for Unconventional Natural Gas in BC's Horn River Basin (2011)"

3. Canadian Society for Uncoventional Resources (CSUR) "CSUR Report(2010)"(注 1)

4. National Energy Board "Energy Brief

(2009)"(注 2)

5. BC Energy and Mines "Natural Gas in BC (2012)"

Risked Gas in Place

Technically Recoverable Resources

Gas in Place

Ultimate Potential for Marketable Natural Gas

Gas in PlaceMarketable resources for Shale Gas

Published estimate of Natural gas

Gas in Place

Montney (BC) 222 69 - - - 77 to 166 80 to 700 -

HornRiver (BC) 488 165 448 78 500 61 to 96 144 to 600+ -

Cordova Embayment

(BC)83 29 - - 200 - - -

Liard Basin (BC) 125 31 - - - - - -

Colorado Group (AB) 408 61 - - 100 - >100 -

カナダ西部合計 1326 355 448 78 800 128 to 343 224 to 1400 -

うち BC 州内 918 294 448 78 700 - - 1200+

表1 カナダ西部における非在来型ガスの埋蔵量(Tcf)

(注 1)CSUR は、在来型ガスを含めたカナダ全体の埋蔵量として 700 ~ 1,300Tcf と見積もっている。(注 2)各種公表データを取りまとめたものであり、NEB が新たに作成した数値ではない。出所:各種公表資料を基に筆者作成

Shale Gas Play in BC図2

出所: BC Ministry of Energy and Mines(現 Ministry of Energy, Mines and Nartural Gas)

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700 ~ 1,300Tcfと、BC州政府は各種の発表のなかで同州内における非在来型ガスの原始埋蔵量を1,200Tcf以上と、見積もっている(表1)。 実際のところ、カナダ西部における非在来型ガスの原始埋蔵量・可採埋蔵量に関し、関係各機関が数値を発表してきたのはここ数年のことであり、その数値にもかなりの差が見られるが、これらの数値から読み取れるのは、「現時点でのカナダ西部における非在来型ガスの原始埋蔵量は少なくとも1,000Tcf程度、可採埋蔵量としては300Tcf程度」くらいが当たらずとも遠からず、といったところではないであろうか。なお、BC州政府は、1,200Tcfの埋蔵量のうち、技術的に3割が回収できるとして、仮に州内生産量が倍増したとしても、今後、100年間程度の生産が可能と発表しており、その供給ポテンシャルは非常に高いと言えよう。 なお、ここで重要な点は、2010年時点において「カナダ国内のガス消費量は生産分の約30%に過ぎない」という事実である。特に、BC州では州内生産ガスの約15%しか州内消費しておらず、開発生産が進むと、国内/州内消費率は更に低下することになる。このように、カナダでは、米国と異なり、自国民向けのエネルギー供給問題が政治的論点となることはほぼあり得ない。また、NEBによる「LNG輸出ライセンス出許可」は、その最大の要件が

「カナダ国内市場への供給に問題がないこと」となっていることからも、輸出許可についての懸念の声はほとんど上がっていない*11。

(2)地理的/地政学的なメリット

 カナダ西部からのLNG輸出基地として、現在想定されているのはBC州西岸中部に位置するKitimat港(プライベート)およびPrince Rupert港(パブリック)である。こ

こでは、LNGタンカー輸出の観点から数点整理する。 まず、最初に重要視すべき点は、タンカー輸送日数である。輸送コストに直ちに跳ね返る輸送日数に関し、世界各地から日本市場(横浜)までの日数を比較すると、中東ドバイが約22日、豪州シドニーが約15日、米国メキシコ湾が約20日であるのに対し、上記両港からは約10日であり、航路日数的には非常に有利な地理関係にある。また、両港ともに、不凍港でハリケーンの襲来もないことから年間を通して稼働が行われている。また太平洋の荒波を直接受けない波静かな入江内の高深度港でもあることから、(パナマ運河を航行する際の制限であるPanamaxの8万重量トンをはるかに超える)30万重量トン級のULCC級タンカーの接岸も十分可能とされている等、そのキャパシティは大きい。両港周辺の年間平均気温は約7度(冬季氷点下1.5 ~夏季16℃)であるため、LNGプラントのオペレーションにおける液化エネルギー効率の観点からは、高温な他地域に比して有利であるとの評もある。 加えて、カナダ西岸からのLNG輸送ルートは、「政治的に安定し、将来にわたって供給途絶リスクが想定されない供給国から、中国沿岸を通らずに日本市場に到達する唯一のルート」であることも特記しておきたい。これらの地理的/地政学的なメリットは、他航路/他地域に比して特筆すべき点であるとも言えよう。 なお、2013年3月19日、オリバー連邦天然資源大臣は、連邦政府としては、現在プライベートポートであるKitimat港をパブリックポート化することを目指している旨コメントした。連邦政府の意図は、パブリックポート化することによって、今後激増が予想される同港でのタンカー運航の適切化を図るものとしているが、現在、同港を保有しているRio TintやKitimat市は唐突な発表に困惑している状況にある。

Kitimat 港遠景写1 Prince Rupert 港遠景写2

出所: District of Kitmat 出所: Prince Rupert Port Authority

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カナダの天然ガス開発とLNG事業の動向 -LNG市場競争で巻き返しを図るカナダ-

(3)進行中のLNGプロジェクト

 2013年3月現在、BC州西岸で検討されているLNGプラントの計画総数は、公表ベースで8件、総投資額は約270億C$(判明分のみ。以下同様)に達している。また、パイプライン敷

設せつ

計画も、各LNG計画に併せて検討され、新設または拡充されるパイプライン計画総数は公表ベースで5件、総投資額は約170億C$となっており、LNGおよびパイプライン合わせた総投資額は、2010年代末までの今後数年間で、約540億C$もの巨額に積み上がっている。これらの各種計画に関し、LNGプラント/パイプライン/上流アセットの関係をまとめたものを表2に、またBC州西岸パイプラインルートマップを図3に示す。 これら計画における特徴/留意点について、筆者なりに

簡単に整理したい。まず、許認可の面で最も進展していると見られているのが、Apacheが主導する①Kitimat LNGである。将来的には1,000万トン・LNG/年の生産力を想定する本プロジェクトは、連邦と州の環境アセスメント認可をそれぞれ2008年、2009年に取得、また、米国以外向けの初の輸出許可案件としてNEBの輸出許可を2011年10月に取得済みである。一方で、従来需要家との契約確保に苦しんでいるとの報道が絶えない等、マーケティングに難ありとの印象が強かったが、2012年12月に(従来のパートナーであるEncanaとEOGに代わり)電撃的にメジャーのChevronが50/50で本プロジェクトに参加することが発表された。これにより資金力およびマーケティングの問題を解決し得るとの報道もなされている。

表2 カナダ西岸における LNG プラント等の投資計画の状況

プロジェクト名 関係企業 概要 その他

① Kitimat LNG (KLNG) Apache (50%)Chevron Canada (50%)

< 旧体制 >Kitimat LNG Partners JV 構成会社:Apache (40%)EOG Resources (30%)Encana (30%)

・投資規模:45 億 C$・建設予定地:Kitimat 港(Private)・規模:当初 500 万トン ・LNG/ 年(7 億 cf/d) (将来は 1,000 万トンまで拡張予定)・Two-train Project・2013/1 時点:FEED 段階、生産開始:2015 → 2016 年見込み・環境アセスメント認可済み(BC 州:2009/1, 連邦:2008/12)・National Energy Board(NEB)の輸出許可取得(2011/10) (1,000 万トン ・LNG、20 年間)・2013/1/23、連邦政府は先住民居留区における同プラント建設許可を承認(これをもって所要の全ての許可取得済)。

※ 2012/12/24、Chevron が EOG およびEncana の持ち分を買収(両社は撤退)。Apacheと Chevron は LNG/ パイプライン / 上流アセット全てにおいて 50/50 の JV を設立。※ LNG Plant OP :Chevron※ KOGAS がオフテイク契約(2009/6)(20 年間 220 億 C$)。

Pacific Trail Pipeline (PTP) (KLNG 専用 Pipeline)

Apache (50%)Chevron Canada (50%)

< 旧体制 >Pacific Trail Pipelines Limited PartnershipJV 構成会社: Kitimat LNG Partners

(50% )Pacific Northern Gas Ltd. (PNG)(50%)

・投資規模:12.85 億 C$(既存の PNG Pipelineに併設)・総延長 463km(Kitimat – Summit Lake 間)・Summit Lake は既存の Spectra Energy Transmission Pipeline との結節点(Spectra Energy Transmission Pipeline:BC 州 2 大ガス生産地であるHorn River、 Montney を Vancouverに直結)・キャパシティ:10 億 cf/d・パイプライン口径:42”・BC 州環境アセスメント認可済み(2008)・供用開始:2016 年がめど

※ Pipeline OP:Chevron

上流アセット・Liard Basin・Horn River

Apache (50%)Chevron Canada (50%)

・総面積 64 万 4,000 エーカー・埋蔵量:50Tcf 超・Chevron は、Liard Basin 権益の 50%をApache から、Horn River 権益の 50%を旧Kitimat LNG Partners から取得(Apache 売却分は 550MC$)。

※上流 OP:Apache

② Douglas Channel LNG(BC LNG)

Douglas Channel Energy Partnership

JV 構成会社:Texas company (50%)Haisla Nation (50%)

・投資規模:4 億 C$+ α・建設予定地:Kitimat 港(Private)・規模:当初 90 万トン ・LNG/ 年(1.25 億 cf/d)(将来は 180 万トンまで拡張予定)・FID&FEED:2013 年前半、生産開始:2015年前半見込み・環境アセスメント認可済み(BC 州:2008)・NEB の輸出許可取得済み(2012/2)(20 年間)・45MW 級ガス発電プラント追加建設のためCAPEX 増大見込み

(BC 州は LNG Plant は自家発で電力を賄うとの新ルールを制定)

※ 2013/1/22、Golar LNG Ltd と LNG Partners LLC は、BC LNG から 700 万トンの Off Take 契約を発表。※ LNG タンカー OP:Golar※小型バージ型の LNG 基地でフィードガスおよびパイプラインは他社依存であるので、コスト的に不利との評あり。※先住民 Haisla 自らが出資参画。※ Kitimat LNG に次ぐ 2 番目の輸出許可案件。

パイプライン 保有せず ・既存の Pacific Northern Gas(PNG) Pipeline、新設の Pacific Trail Pipeline の一部を利用予定

上流アセット 保有せず ・既存の Pacific Northern Gas(PNG) Pipeline、新設の Pacific Trail Pipeline の一部を利用予定

(次頁に続く)

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 JV構成パートナーの実力からして最も確実視されているのが、Shell主導で三菱商事/KOGAS/PetroChinaが参画する③LNG Canadaである。その規模は当初1,200万トン・LNG/年、将来的には倍増の2,400万トン・LNG/年、

併せて輸送キャパシティ 17億cf/dもの巨大な専用パイプライン(Coastal GasLink Pipeline)もTransCanadaが受託した旨発表されている。上流アセットはJV各社でそれぞれ確保する模様であり、上流投資を含めると、カナダ西

※ OP: Operator出所:各種報道資料を基に筆者作成

③ LNG Canada LNG Canada

JV 構成会社:Shell (40%)三菱商事(20%)KOGAS (20%)PetroChina (20%)

・投資規模:120 億 C$・建設予定地:Kitimat 港(Private)・規模:1,200 万トン ・LNG/ 年(20 億 cf/d) (将来的には 2,400 万トンまで拡張予定)・Two-train Project・FID:2015 年、生産開始:2010 年代末・環境アセスメント認可未定・NEB の輸出許可取得(2013/2) (2,400 万トン ・LNG、25 年間)

※ LNG Canada 参加 4 社の取り組みは、①原料ガス供給、②ガスパイプライン輸送、③ LNG プラント、④ LNG 引き取りまでの全体を視野。※ LNG Plant OP :LNG Canada

Coastal GasLink Pipeline(LNG Canada 専用Pipeline)

TransCanada ・投資規模:40 億 C$・建設開始:2015 年夏をめど・総延長 700km 見込み(Kitimat – Dawson Creek〈Montney〉間)・詳細ルート未定(Montney Basin, Horn River, Cordova の三つのガス生産地と LNG 基地までを直結)・キャパシティ:17 億 cf/d・パイプライン口径:48 ”・環境アセスメント認可申請は 2014 初頭・供用開始:2019 年をめど

※ 2013/1/9、Trans Canada は既存の NOVA Gas Transmission System(BC 州北東部)の能力増強(15 億 C$)を発表。※ TransCanada は、同パイプラインおよび自社オペレート Hub 等を用いたガス輸送サービスに関し、2012 年末まで open season(結果不明)。※ Pipeline OP:TransCanada

上流アセット JV 構成会社 ・JV 構成 4 社がそれぞれの保有上流権益 / アセットを活用見込み

※上流 OP:JV 各社

④ Pacific Northwest LNG Progress Energy Canada(Petronas) 90%

JAPEX 10%

・投資規模:90 ~ 110 億 C$・建設予定地:Prince Rupert 港(Public) Lelu Island・規模:1,200 万トン ・LNG/ 年 (将来的には 1,800 万トンまで増強可の見込み)・FID:2014 年末、生産開始:2018 年末・環境アセスメント認可:2013/2・NEB 輸出許可申請時期は未定

※ 2012/12/7、連邦政府は Petronas によるProgress Energy Canada 買収(60 億 C$)を許可。※ LNG Plant OP:Progress Energy※ 2013/3、JAPEX が 10%権益を取得することを発表。

Prince Rupert Gas Transmission Project

Trans Canada ・投資規模:50 億 C$・総延長:750km 見込み(Prince Rupert-North Montney 間) (NOVA Inventory Transfer Trading Hub に直結)・キャパシティ:20 億 cf/d (36 億 cf/d まで増強可)・パイプライン口径:42”~ 48”・供用開始:2018 年後半見込み

※ 2013/1/9 に発表。※ Pipeline OP:TransCanada

上流アセット・BC 州 Northwest Montney

Progress Energy Canada ・生産中(AECO 市場に販売中) ※ 2013/1/9 に発表。※ Pipeline OP:TransCanada

⑤ LNG(名称未定) BG Group ・投資規模:不明・建設予定地:Prince Rupert 港(Public)(Prince Rupert Port Authority 保有地)・FID:2015 見込み・Two-train Project・規模:1,300 万~ 1,400 万トン ・LNG/ 年 (将来的には 2,000 万トンまで増強可の見込み)

※ Prince Rupert Port Authority が BG Group との F/S 開始を公式に表明。※ LNG Plant OP :BG

Spectra Energy and BG Group Natural Gas Transportation System

Spectra Energy Corp ・投資規模:60 億~ 80 億 C$・建設開始:2015 年見込み・総延長 850km(Prince Rupert – Northeast BC)

(Southwest of Fort St. John にある Spectra Energy system station2 にも接続予定)・キャパシティ:42 億 cf/d・パイプライン口径:48”・供用開始:2019 年をめど

※ 2012/9/10 に発表。※本プロジェクトは Spectra と BG で 50/50。※ BG は自社専用と発表したものの、Spectra は他社供給の余地ありとのコメント※ Pipleline OP:Spectra Energy

上流アセット 未定 ・新聞等による BG の上流パートナー候補は以下のとおりNexen (CNOOC)、Suncor、TalismanPainted Pony Petroleum、Tourmaline Oil、Trilogy Energy、Peyto Exploration & Development、ARC Resources

※ BG は特に CNOOC と検討中との指摘あり。

⑥ LNG(名称未定) Nexen(CNOOC)INPEX日揮

・詳細不明 ※ INPEX& 日揮による Nexen 権益投資(7 億C$)(2011/11)に伴う一連の投資案件。※ LNG プラントの F/S には正式合意。

⑦ LNG(名称未定) Alta Gas出光興産

※ Alta Gas は、既存の PNG Pipeline を有するPacific Northern Gas Ltd の親会社。

Pacific Northern Gas (PNG) Pipeline 拡充

同上 ※ PNG Pipeline は 2005 年の Methanex 社メタノールプラント閉鎖以降未使用状態。※ BC LNG にも供給予定。

上流アセット 未定

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カナダの天然ガス開発とLNG事業の動向 -LNG市場競争で巻き返しを図るカナダ-

岸プロジェクトのなかで規模的にも金額的にも最も中心的な位置付けとなっていくことが予想される。 これらの先行者に対し、今現在、最もアグレッシブに動いているのが、Petronasが主導する④Pacific North West LNGである。Progress Energyの買収に端を発した本案件は、2012年12月の連邦政府による買収許可後、2013年1月には投資総額50億C$に上る専用パイプライン(Prince Rupert Gas Transmission Pipeline) をTransCanadaが受託した旨発表、将来的には1800万トン・LNG/年の規模を想定しているとも言われている。なお、つい先日の2013年3月には、石油資源開発(JAPEX)がPetronas(Progress)保有のシェールガス鉱区および本LNGプロジェクトの10%権益、同権益相当のオフテイク

10%分を取得することが発表された。JAPEXはカナダ西岸LNGプラント事業としては、三菱商事、国際石油開発帝石(INPEX)、出光興産に続く日本勢第4番目のプレーヤーとして登場したことになる。 多数報道されているものの、未

いま

だ詳細が正式に明らかになっていないのが、⑤ BG主導のLNG計画である。LNGプラントの投資規模は未だ明らかになっていないが、その規模は将来的には2,000万トン・LNG/年との報道もある。本案件専用のパイプラインとしては投資規模60億~ 80 億C$でSpectra Energyが受託した旨発表され、Prince Rupert Port AuthorityがBGとのLNGプラントに係るFS開始を発表する等、具体的な計画が進展していることは間違いない。一方、本案件では上流アセットの存

KITIMAT

PRINCERUPERT

GRASSYPOINT

Spectra Energy and BG GroupNatural Gas Transportation System

Prince Rupert gasTransmission Project

Pacific Trail Pipeline

Coastal Gaslink Pipeline

BC 州沿岸パイプラインルート図図3

出所: British Columbia 州政府提供の地図を基に JOGMEC 作成

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JOGMEC

K Y M C

アナリシス

在も明らかになっておらず、BGは精力的に上流パートナーを探しているとの噂

うわさ

は絶えない。 ⑥NexenとINPEX、日揮が関係するLNG計画に関しては、2011年11月にBC州北東部Horn River等のJV開発に3社が合意した際、併せてLNGに関するFS実施について合意している。今後、FSの進展を踏まえつつ、多様な可能性の下で検討が進んでいくものと予想される。 他案件に比して非常にユニークな取り組みとも言えるのが、⑦Alta Gasと出光興産のJVである。現時点では、アジア向けLNG輸出に関するJVを設立し、共同でFSを実施するという段階なので詳細はこれからであるが、発表されているベースでは、LNGに加え、両社がそれぞれの母国市場で強みを持つLPGに関しても同様に取り組むという内容になっていることが特徴的である。また、Alta GasはBC州西岸に到達する唯一の既存天然ガスパイプラインであるPacific Northern Gas Pipelineを現有していることが大きな強みであり*12、他のパイプライン案件が今後直面せざるを得ない先住民との交渉においても(既存であるが故に)ハードルがかなり低いとも言えよう。 ある意味で非常に興味深いのが、②Douglas Channel LNGである。許認可プロセスの観点からは先頭を走っているプロジェクトの一つであるが、本プロジェクトは、

(Kitimat周辺の先住民部族であるHaisla Nation自らが50/50で参画しているという特徴を持ち、その投資規模は約4億C$、洋上バージ型のLNGプラント、生産規模は最終的には180万トン・LNG/年、パイプラインと上流アセットは他社に依存している。このように、規模の面では他案件に大きく見劣りするが、2013年1月にはLNG輸送で名高いGolar LNGが全量のオフテイク契約を結び、大いに話題となった。本プロジェクトに対する評価は千差万別であるが、その小規模故の足の速さとBC州にとっても象徴的であるという位置付けから、目が離せない案件でもある。 上記LNGプロジェクトの建設コストに関し、カナダ以外で建設または稼働中のLNGプラントと比較したものを図4に示す*13。カナダの4案件は、LNGトンあたり1,000~ 2,000US$の範囲にあるので、豪州案件に比してかなりのコスト競争力を有していることが見える。しかし、労働力不足/コスト増といった不安要因も既に指摘されており(後述)、軒並み建設費が増大した豪州案件と同じ道をたどるのか否かは、プロジェクトの成否を決める分水嶺とも言えよう。 2013年4月、BC州西岸におけるLNGプロジェクトは更なる拡大の様相を呈してきた。同月10日、BC州政府は、

Construction Costs for LNG Projects図4

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

4,500

US

$/to

nnes

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ctio

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Sabine P

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USA)

Kitimat

LNG (C

anad

a)

*LNG C

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LNG (C

anad

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Angola LN

G (Angola)

Donggi Senoro (In

donesia

)

SakhalinⅡ (R

ussia)

*BC LN

G (Can

ada)

PLNG (P

NG)

Prelude (A

us)

Gorgon (Aus)

Pluto (Aus)

Wheatstone(Aus)

Ichthy

s (Aus)

(注 1)(生産規模)/(投資規模)で計算(注 2)1US$=1.02C$(2013/3/27 のレート)で換算(注 3)IEA 資料中 East Africa LNG については 1,500 ~ 2,500US$ と幅を持ったデータとなっている。出所:IEA 資料を基に筆者作成(*印は追加記載したもの)

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37 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

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カナダの天然ガス開発とLNG事業の動向 -LNG市場競争で巻き返しを図るカナダ-

Prince Rupertの 北 40kmに 位 置 する 公 有 地(Crown Land)であるGrassy PointにおけるLNGプラントおよびターミナルのプロジェクトに係る公募に関し、(1)Nexen

(カナダ)(共同提案者:CNOOC、INPEX、日揮)、(2)Woodside Petroleum (豪州)、(3)SK E&S(韓国)、(4)Imperial(カナダ)(共同提案者:ExxonMobil Canada)の4社の応募を正式に認めたと発表した*14。今後の絞り込みを経て、BC州政府は最終落札者を決定することになるが、その決定時期、プロジェクト数、その形態(単独、複数、JV)等については現時点では明らかになっていない。 なお、Grassy Pointエリアには町や港もなく、フィッシングキャンプがあるだけの文字どおりのグリーンフィールドであるので、他の2エリアに比してインフラ面で見劣りするのは否めない。とはいえ、BC州政府発表資料の題名

「International interest remains high in LNG」に正に示されているように、メジャー級企業系含めカナダ西岸におけるLNGへの投資意欲はまだ衰えていないようだ。加えて、Prince Rupertの北140kmに位置するKitsaultにおいても、LNGプロジェクトの検討が地元企業を中心に開始されており、BC州西岸の狭い地域内の4エリアでLNGプロジェクトの検討が進む事態となっている。 ここで、これらのBC州西部LNGプロジェクトが世界市場に与える影響を簡単に考察する。これらのプロジェクトが順調に推移するとなると、2010年代末には、公表および報道ベースでLNG供給量としては7,380万トン・LNG/年、パイプラインのキャパシティとしては105億cf/dもの巨大な供給力が出現する(Grassy Point LNGが実現すると更に増加)。これは、2010年の日本のLNG輸入量とほぼ同レベル、世界全体の輸入量の約1/3に相当する。仮に2020年の世界全体の輸入量を3億3,000万トン・LNG/年と想定すると、その時点での約22%を賄える規模でもある*15。 上述のプロジェクトの多くのFIDは2014年、あるいは2015年に予定されており、このまま計画どおりに進展するのか、まだ予断を許さない部分もあるが、これらの(カナダ国内と米国市場で消費されることがない)LNGはほぼ全量がアジア向けになることが予想されるので、今後の長期・短期契約における価格交渉の観点からも、世界のLNG市場に大きなインパクトを与える存在となることだけは間違いない。

(4)もう一つの動き:オイルサンドパイプラインの状況

 カナダにおけるオイルサンド生産は、現在の200万b/dから2020年には330万b/dまで増加すると言われているが、その増加分のアジア市場への輸出を見越して、現在、ア

ルバータ州からBC州西岸まで到達する二つのパイプラインプロジェクトが計画されている。 BC州西岸向けのあらゆるパイプライン計画のうち、最も世間の耳目を集めているのが、Enbridgeが主導するNorthern Gateway Pipeline Project(NGPP)*16である。この総額55億C$のプロジェクトは、現在、連邦環境評価局とNEBの合同パネルが審査中であるが、本プロジェクトはカナダ国内でも論議を呼ぶものとなっている。連邦政府/アルバータ州政府からは強いサポートが表明されているものの、環境保護団体、先住民部族や一般市民(特にBC州内)からは強い反対を受けており、世論の現状から見る限りでは、その先行きにはかなり暗雲が立ち込めている。特に、2013年5月で大きく躍進すると見られているBC州野党の新民主党は、明確に反対のスタンスを表明している。 なお、NGPPの最終到達地であるKitimatでは、NGPPで運ばれてくるオイルサンド/ビチューメンを活用する石油製油所新設計画も上がっているが、NGPP自体の趨

すうせい

勢も見えていない状況下、不透明感はぬぐいきれない。 NGPPの陰であまり注目されていないのが、Kinder Morganが主導するTrans Mountain Pipeline拡張計画*17

である。この投資規模50億C$のプロジェクトは、その大部分を既存のTrans Mountain Pipelineに併設するためか、今のところ、激しい反対運動は表面化していないとはいえ、同計画のBC州西岸の最終到達地であるバンクーバー周辺では、タンカー事故等による観光業への悪影響を懸念する声もある。 総じて言えば、オイルサンドパイプライン敷設を取り巻く状況は極めて厳しい。(オイルサンド産地である)アルバータ州の政府/企業/一般市民/マスコミは、オイルサンドのアジア市場への輸出は、同州経済にとって不可欠であるというスタンスであるのに対し、BC州政府/一般市民/マスコミ/先住民部族は、一様にネガティブだと言ってよい。加えて各州の政治状況も絡み、オイルサンドをめぐる状況は、天然ガスと異なり、政治イシューともなっている。 なお、これらのパイプライン計画とは別に、新たな動きも始まっている。カナダ2大鉄道の一つであるCNは、既存鉄道を使ったアルバータ州からKitimatまでのオイルサンド輸送計画を公表。同社によれば、(パイプラインと異なり)希釈剤の輸送が不要、交渉半年後には輸送開始可、

(大部分は単線であるが、サイディングと呼ばれる引き込み線を手当てすれば)パイプライン並みのキャパシティは提供可能といったメリットを有しているとのことであり、これらの事実はパイプラインに代わる手段としての可能性を示している。

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アナリシス

3. アジア各国からの旺盛な投資

 カナダ連邦/各州政府の積極的な海外投資呼び込みの動きとも相まってアジア各国からの投資は拡大する一方であり、リーマンショック後の2009年以降、アジア各国からのカナダ西岸の石油/天然ガス関連分野に対する投資案件は約30、総投資額は約620億C$にも上る。以下に各国ごとの投資状況を概観する。

(1)日本

 BC州内のシェールガス案件を中心に、8プロジェクトに合計81億5,000万C$を投資。日系企業同士のJVによる投資が多いのも特徴である。とりわけ、三菱商事の動向は、その投資金額と事業領域の広がりから、カナダ国内でも大きな存在感がある。また、2012年後半までは、

出所:各種公表資料を基に筆者作成

表3 カナダにおける非在来型エネルギー関連投資状況(日系企業関連)

会社名 投資案件 権益内容等 相手企業 状況・スケジュール その他

三菱商事【2012/5/16】

LNG 基地BC 州中西部Kitimat 港周辺

JV出資比率 20%出資額 24 億 C$

LNG Canada JV 構成会社:  Shell   三菱  KOGAS   PetroChina

③ LNG Canada 参照 ※総投資額 120 億 C$ うち Shell 40%    三菱 20%    KOGAS 20%    PetroChina 20%

豊田通商< 契約主体 >Toyota Tsusho Wheatland Inc.

(豊田通商 100%子会社)【2012/4/20】

CBMAlberta 州西南部Horseshoe Canyon

Equity Investment権益 32.5%投資額 6 億 C$

Encana Corporation 生産中:1.2 億 cf/d1.4 億 cf/d(将来)

※ JBIC から 1.6 億 US$ の融資

三菱商事< 契約主体 >Cutbank Dawson Gas Resources Ltd.

(三菱 100%子会社)【2012/2/17】

シェールガスBC 州東中央部Cutbank Ridge、Montney Basin

JV権益:40%投資額:29 億 C$

Encana Corporation< 契約主体 >Cutbank RidgePartnership

開発中生産量:30 億 cf/d

JOGMEC による債務保証案件※ JBIC から 6.5 億 C$ の融資

国際石油開発帝石日揮< 契約主体 >INPEX Gas British Columbia Ltd.

【2011/11/29】

シェールガスBC 州北東部Horn River、 Cordova、Liard の 3 エリア

JV権益:40%

Nexen Inc.(CNOOC)

開発中(一部生産中)規模拡大:12.5 億 cf/d

(原油換算 20 万 boe/d)

JOGMEC による出資案件※ JBIC から 1.8 億 US$ の融資※ INPEX 初のシェールガス事業※ LNG基地のFS実施も合意(サ

イト未定)

三菱商事中部電力東京ガス大阪ガスJOGMECKOGAS< 契約主体 >Cordova Gas Resources Ltd.

(出資比率:三菱 30%、KO-GAS5%、ほかそれぞれ 3.75%)

【2011/5/9】

シェールガスBC 州北東部Cordova Basin

JV権益:50%

(CordovaGas Resources)投資額:4.5 億 C$

Penn West Exploration 開発中生産開始時期:2014 年

(2014 年時点で 5 億 cf/d)

JOGMEC による出資・債務保証案件※ JBIC から 2.5 億 C$ の融資

石油資源開発< 契約主体 >Japan Canada Oil Sands Ltd. (JACOS)

【2012/12/14】

オイルサンドAB 州 Hangingstone

JV権益:75%投資額:11 億 C$

Nexen Inc. (CNOOC) 生産開始時期:2016 年前半生産量:2 万 b/d

(将来的には 3 万 b/d)

※ Bitumen はパイプライン経由で米国市場に販売

※ 2012/11、AB 州の開発許可を取得

※ JAPEX は本件を契機にオイルサンド事業を基幹事業化すると発表

出光興産【2012/1/28】

シェールガスLPG

JV権益:50%投資額:未公表LNG と LPG 輸出に関する包括的なパートナーシップ

Alta Gas ⑧ LNG 参照 ※ LPG も JV の対象になっていることが特徴(両社ともに自国市場内で LPG 小売業も実施)

石油資源開発< 契約主体 >JAPEX Montney Ltd.

【2013/3/4】

シェールガスBC 州 North MontneyLNGBC 州 Prince Rupert

JV権益:10%

(上流〈ガス鉱区〉、中流〈LNG 事業〉、Off take の一体プロジェクト)

Petronas 開発中④ LNG 参照

JOGMEC による出資案件

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39 石油・天然ガスレビュー

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カナダの天然ガス開発とLNG事業の動向 -LNG市場競争で巻き返しを図るカナダ-

一部を除き、上流のガス権益案件への投資が目立っていたが、既に参入表明していた三菱商事とINPEXに加え、2013年1月以降、出光興産とJAPEXが相次いで当地企業とのLNGを含むJVに合意する等、下流のLNGプラントへの投資案件も拡大している(表3)。

(2)中国

 Sinopec、CNOOC、PetroChinaの3大国営石油会社に加え、中国投資公社(CIC)の4社で、11プロジェクトに合計約385億C$を投資*18。オイルサンド系への投資が多いほか、1件あたりの投資規模も極めて大きく、完全

出所:各種報道資料を基に筆者作成

表4 カナダにおける非在来型エネルギー関連投資状況(中国系企業関連)

会社名 投資案件 権益内容等 相手企業 状況・スケジュール その他

China Petroleum &Chemical Corp. (Sinopec Group)

(China)【2011/10】

石油 / 天然ガスAB 州と BC 州内

Acquisition権益:100%投資額:22 億 C$

Daylight Energy Ltd. 生産中 ※ シェールガス生産技術獲得が狙いとの評あり

※ 2012/2 にカナダ投資法(ICA)の承認取得

【2011/1】 パイプラインNorthern Gateway Pipe-line Project(NGPP)

Farm-in投資額:0.1 億 C$

Enbridge 許認可プロセス中 ※ NGPP に対してサポートを公に表明している民間企業はSinopec のみ

【2010/4】 オイルサンドAB 州 Fort McMurrayNorthern Lights Project

Equity Investment権益 9.03%投資額 46.5 億 US$

(ConocoPhillips 保有分全てを買収)

Syncrude Canada Ltd.JV 構成会社: Canadian Oil Sand Imperial Oil Suncor Energy Murphy Oil Nexen Mocal (日鉱日石)

生産中:35 万 b/d(カナダ全体の 13%相当)

※ Conoco Phillips 社の 2 年間100 億 US$ 分資産売却リストラ計画の一環

China Offshore Oil Company (CNOOC)

(China)【2012/7】

石油 / 天然ガス / オイルサンドNorth America、 NorthSea、 Gulf of Mexico、 Water off Nigeria

Acquisition権益:100%投資額:195 億 US$

(うち 151 億 US$ が株取得費用)

Nexen Inc. 左記の世界各国におけるアセットで生産中

※ 2012/12/7、カナダ連邦政府は CNOOC による Nexen買収を許可

※ 2013/2/12、米連邦政府はNexen 保有メキシコ湾資産に係る CNOOC による買収を許可

【2011/6】 オイルサンドAB 州 Kinosis、 Leismer、 Cottonwood

Acquisition権益:100%投資額:21 億 US$

Opti Canada Inc.左記 3 アセット以外に、Long Lake Project の 35%を保有(残りは Nexen)

開発中 ※ Opti は資金繰り悪化で倒産。Opti 開発技術(Bottom of the Barrel)と SAGD ノウハウ獲得が狙いとの評あり

China Investment Corp.

(CIC)(China)【2010/3】

オイルサンドAB 州北部Peace River Area

JV権益:45%投資額 8.17 億 C$

(Penn West 55%保有)

Penn West Energy Trust(Penn West 子会社)

開発中 ※ CIC の FDI 総額は 1,100 億US$(2010 年)

【2010/3】 Equity Investment発行済み株式:5%投資額:4.35 億 C$

Penn West Exploration

PetroChina(China)【2012/5】

LNG 基地BC 州中西部Kitimat 港周辺

JV出資比率 20%出資額 24 億 C$

LNG Canada JV 構成会社: Shell 三菱商事  KOGAS PetroChina

FID:2015 年生産開始 2010 年代末

※総投資額 120 億 C$ うち Shell 40%   三菱 20%   KOGAS 20%   PetroChina 20%

【2009/9】 オイルサンドAB 州 AthabascaDover and MacKay River Project埋蔵量:70 億~ 100 億 b

JV権益:60%投資額:19 億 C$

Athabasca Oil Sands Corp.JV 構成会社: Shell Chevron Marathon

生産開始:2014 年(Dover、 MacKay とも)規模:  3.5 万 b/d(MacKay

River 分当初) 30 万~ 50 万 b/d(将来)

※ PetroChina にとってオイルサンド事業のノウハウ取得が目的との報道あり

※ ICA の承認取得済み

【2011/12】 オイルサンドAB 州 AthabascaMacKay River Project

Acquisition権益:40%

(上記分と合わせMacKay は 100%)投資額:6.8 億 C$

【2012/10】 パイプラインAB 州 Grand Rapid Pipe-line(Fort McMurray 北西部と Edmonton/Heartland間の全長 500km)

JV出資比率 50%出資額 15 億 C$

Grand Rapids Pipeline Limited PartnershipJV 構成会社: TransCanada Corp. Phoenix Energy Holding Ltd.

使用開始:2017 年初頭規模: Bitumen 90 万 b/d Diluents 33 万 b/d許認可:2013 年見込み

※ 中国勢初の大規模カナダパイプライン投資

※ 同社保有のオイルサンドアセット輸送を念頭に

【2012/12】 天然ガス、コンデンセートAB 州 Duvernay

JV出資比率:49.9%投資額:21.8 億 C$

Encana 開発中(一部生産中) ※ 今後 4 年間で 40 億 C$ 規模の開発投資を予定

※ CNOOC-Nexen 承認後に発表されたが、50%未満故、ICA 承認不要と報道

※ 2010 年、両社は 54 億 C$投資案件を破談(後の三菱案件)

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JOGMEC

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アナリシス

買収を図る案件も多い。一方で、同国企業同士(または他国と組んで行う)JV案件はほとんどないことも特徴的である。オイルサンド系への投資が多い背景には、SAGDといった最新技術の取得が最大の目的であると言われている。

 なお、中国からの投資に関し、CICは元カナダ貿易大臣をアドバイザーとする等カナダ国内有力者との関係を深め、かつ、投資交渉やその後のマネジメントもカナダ国内コンサル主導で進めるという方針も鮮明となっているが、これは、CNOOCが米Unocalの買収を米国議会

会社名 投資案件 権益内容等 相手企業 状況・スケジュール その他

KOGAS【2012/5】

LNG 基地BC 州中西部Kitimat 港周辺

JV出資比率 20%出資額 24 億 C$

LNG CanadaJV 構成会社: Shell、三菱商事、  KOGAS、PetroChina

FID:2015 年生産開始 2010 年代末

※総投資額 120 億 C$

【2012/5】 シェールガスBC 州北東部Cordova Basin

JV権益:5% 投資額:0.45 億 C$

Penn West ExplorationJV 構成会社: 三菱商事、中部電力、 東京ガス、大阪ガス JOGMEC、KOGAS

開発中

生産開始時期:2014 年(2014 年時点で 5 億 cf/d)

※総投資額 75 億 C$

【2010/3】 シェールガスBC 州 Montney and

Horn River Plays埋蔵量:500 億 cf

Farm-in権益:50%投資額:5.65 億 C$

(今後 5 年間総計で 11 億C$ 投資見込み)

Encana 開発中生産開始:2017 年規模:不明

※ 左記案件は同社の同地保有アセットの 20%分

【2009/6】 LNG Off TakeKitimat LNG

Off Take生産分の 40% ・20 年間契約総額:220 億 C$

(想定)

Kitimat LNG 開発中生産開始:2015 年見込み

※ その後、続報がなく現状は不明

KOREA National Oil Corp.

【2010/12】

石油 / 天然ガス Acquisition権益:100%投資額:5.25 億 C$

Hunt Oil Company 生産中

KOREA Investment Corp.

【2010/11】

オイルサンド Equity Investment権益:不明投資額:1 億 C$

Osum Oil Sand Corp. 開発中

STX Energy【2010/6】

天然ガスBC 州北東部Maxhamish gas field

Acquisition権益:100%投資額:1.52 億 C$

Encana 生産中:2,050 万 cf/d    2,700 万 cf/d(将来)

※ 今後の開発 / 生産を直接STX が実施予定

※ STX と Encana は天然ガスにおける包括的協力に合意

会社名 投資案件 権益内容等 相手企業 状況・スケジュール その他

Petronas(Malaysia)【2012/6】

シェールガスBC 州北部Montney Basin

Acquisition権益:100%投資額:60 億 C$

Progress Energy Resources Corp.

生産中 ※ 2012/12/7、連邦政府はPetronas による Progress Energy Canada 買収を許可

※ LNG プラントとパイプラインも検討中

PTT Exploration and Production

(Thailand)【2010/11】

オイルサンドAB 州北部Kai Kos Dehseh Oil Sand Project

Equity Investment権益:40%投資額:22.8 億 US$

Statoil CanadaStat Oil Canada Holdings

開発中

Oil & Natural Gas Corp.Oil India Ltd.Indian Oil Corp.

(India)【2012/9】

オイルサンドAB 州北部

Acquisition権益:100%投資額:不明

ConocoPhillips ※ アナリスト評価では約 50 億C$ 相当

※ ConocoPhillips は以下の Oil Sand 権益最大 50%を売却中との報道あり

  (Surmont、Thornbury、Clyden Saleski、 Crow Lake、McMillan Lake)

ExxonMobil Canada(Canada) 【2013/2】

シェールガス、石油BC 州中東部Montney Shale PlayInga areaAB 州中西部Duvernay Shale PlayGrand Cache

Acquisition権益:100%投資額:31.4 億 C$

Celtic Exploration Ltd. 生産中:天然ガス:7,200 万 cf/d石油:4,000 b/d

※新会社名:Alberta Ltd.※ 今次取引は ExxonMobil の子

会社 Imperial Oil を通さずに直接実施

※ 2013/2/20、加連邦政府はExxonMobil による Celtic 買収を許可

出所:各種報道資料を基に筆者作成

出所:各種報道資料を基に筆者作成

表6 カナダにおける非在来型エネルギー関連投資状況(マレーシアその他)

表5 カナダにおける非在来型エネルギー関連投資状況(韓国系企業関連)

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41 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

K Y M C

カナダの天然ガス開発とLNG事業の動向 -LNG市場競争で巻き返しを図るカナダ-

の反対により断念せざるを得なかった2005年の出来事を教訓にしているとも言われている(表4)。 また、2012年7月には、CNOOCによるNexenの完全買収(総額195億US$)が発表され、カナダ国内でも大いに物議を醸した。最終的に、カナダにおける海外からの直接投資政策の変更までもたらした本事案については、連邦政府の政策変遷とともに後述する。

(3)韓国

 4社で7プロジェクトに合計約38億C$を投資。特にKOGASは、シェールガス案件への積極的な投資が目立つ。投資内容や当地で開催された各種会議でのKOGASの発表ぶりからは、自国市場への安定的供給源の確保と供給先多様化が目的との背景が見て取れ、また世界第2位のLNG輸入者としての立場からか、カナダ産LNGが低廉な価格でなければ、世界LNG市場で競争力はないと明言しているのは興味深い(表5)。

(4)マレーシア等その他

 Petronasは、Progress買収に60億C$、LNGとパイプラインで約150億C$、総計で約210億C$規模を投入することとなり、単純計算では、物議を醸したCNOOCによるNexen買収の金額を超えた額に達しており、単独の社による一連のカナダ向け海外直接投資としては最大

規模の資金を投入しつつある。また、同社はマレーシア内のLNGプラントとともに、カナダでのLNGプラントで世界のLNG市場への展開を図る旨のコメントを発表、世界的なLNG Producer/Exporterとしての性格を最も強く打ち出している点が、他のアジア各国企業との際だった違いである。 ほかにもタイPTTとインドOil Indiaなどがアルバータ州のオイルサンドに大規模投資する等アジア企業の投資は活発であるが、これまでアジア系の陰に隠れていた感もあったメジャー系の動きも目立ってきた。ShellやChevronがLNGに参入しているのは上述のとおりであるが、2013年2月にはExxonMobilがカナダ子会社を通して、Celtic Exploration社を完全買収した。PetronasによるProgress買収にあたり、Unknown Bitterの出現によって買収額が当初より5億C$跳ね上がったが、この際の買収ライバルの名前として度々新聞で報道されたのがExxonMobilである(表6)。

 アジア系企業の動向に関し、各国別に特徴をまとめると上記のとおりであるが、これまでのトレンドを見ると、今後少なくとも数年は、アジア系のみならずメジャー系を含めカナダへの投資が進展していくのは想像に難くない。

 2013年年明け以降、若干価格が上昇傾向にある北米ガ ス 価 格 で は あ る が、 こ こ 数 年 続 い た 2 ~ 3US$/MMbtuの価格では、カナダ国内の多くのガス事業者のマージナルコスト以下とも言われている。また、カナダの指標であるAECO価格は、米国のHH価格に比して数十セント下回る価格で取引されており、米国内ガス事業者に比して更に不利な状況下にある。2012年中頃以降、このままでは新規開発どころか生産維持すら危うく、各社はサバイバルモードに突入しているといった報道もしばしば散見されるようになった*19。 BC州内の二つの有望ガス田(MontneyとHorn River)においてガス開発を進めている企業と開発井数の関係を見ると、大手数社を除き、開発井数も少なく、体力、資金規模ともに比較的弱い中小事業者が主体となっているのが特徴である。

 事実、3.で述べた大規模投資案件が発表されても、投資を受けた側のカナダ企業の株価が上昇することはほとんどなく、ガス価格市況が改善されない限り、各社のキャッシュフロー改善にまではつながらないと株式市場は観測しているとも言えよう。基礎体力のあるEncana、 Penn West、Talismanといった企業は、JVによる資金確保によって対応しているとはいえ、新聞報道等によると、中堅中小クラスである Painted Pony Petroleum、Tourmaline Oil、Trilogy Energy、Peyto Exploration & Development、Arc Resources等の身売りの可能性がしばしば言及されている。カナダのガス事業者にとって、生産ガスを北米市場に売却するしかマネタイズの手段がない今後、少なくとも数年間はその企業存続自体を懸けて、海外からの投資に依存せざるを得ない傾向が続くであろう。

4. 厳しい市況下にあるカナダ独立系ガス事業者

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422013.5 Vol.47 No.3

JOGMEC

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アナリシス

Montney Play Region におけるシェールガスの開発状況図5

出所:BC Ministry of Energy and Mines

0 50 100 150 200 250 300

Number of Wells Drilled

5599999910101212141417171717191922222424

313146464747

8686111111

176176186186

284284EnCana CorporationArc Resources Ltd.Shell Canada Ltd.

Murphy Oil Company Ltd.Progress Energy Ltd.

Canadian Natural Resources Ltd.Talisman Energy Inc.

Terra Energy Corp.Crew Energy Inc.

Tourmaline Oil Corp.Baytex Energy Ltd.

Huron Energy CorporationConocophillips Canada Resources Corp.

Suncor Energy Inc.Monterey Exploration Ltd.

BP Canada Energy CompanyCanbiam Energy Inc.

Devon Canada CorporationAduro Resources Ltd.

Bonavista Petroleum Ltd.

Top 20 operators Targeting the Montney and Doig Zones in the Montney Play Region (Since 2003)

0 10 20 30 40 50 60 70 80

111111111111111111223333334444

10101010

22222727

31313535

63636868Apache Canada Ltd.

EnCana CorporationEOG Resources Canada Inc.

Nexen Inc.Imperial Oil Resources Ltd.Devon Canada Corporation

SMR Oil & Gas Ltd.Quicksilver Resources Canada Inc.

Conocophillips Canada Resources Corp.Storm Gas Resources Corp.

Taqa North Ltd.Ramshorn Canada Ltd.

Husky Oil Operations Ltd.Hunt Oil Company of Canada Inc.

Parmount Resources Ltd.Bonavista Petroleum Ltd.

Suncore Energy Inc.Pengrouwth Corporation

Dolomite Energy Inc.Petrobakken Energy Ltd.

Canadian Costal Resources Ltd.Petrobank Energy and Resources Ltd.

Storm Resources Ltd.

Wella Driled Targeting Shale Gas Zones in the Horn River Basin (2003 to September 2011)

Horn River Basin におけるシェールガスの開発状況図6

出所:BC Ministry of Energy and Mines

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43 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

K Y M C

カナダの天然ガス開発とLNG事業の動向 -LNG市場競争で巻き返しを図るカナダ-

 2012年2月、SinopecによるDaylight Energyの買収(22億C$)が、「カナダ投資法」(Investment Canada Act)に基づく連邦産業省の承認を得て以来、連邦政府による海外直接投資促進政策と相まって、投資制限的な措置は当面採られないのではないかとも言われていた。しかし、2012年7月に発表されたカナダ史上最高額の海外直接投資案件となったCNOOCによるNexen買収事案は、このとおりにはいかなかった。195億US$にも上る巨額な投資は、TVや一般紙でも大きく取り上げられ、外資に開放された市場カナダの堅持と更なる海外直接投資の必要性、カナダ資産が外資に支配されることに対する脅威論、アジア各国特に中国との距離感といったさまざまな要因とのバランスの狭間で、連邦与野党、各州政府、産業界、一般市民含めてのおよそ半年に及ぶ論議を巻き起こした。最終的には、単に同事案を承認するか否かの問題にとどまらず、連邦政府による海外直接投資政策の変更にまで至る結果となったが、ここでは、一連の動向について、カナダ投資法の歴史も繙

ひもと

きつつ整理する。

(1)カナダ投資法の歴史的背景

  カ ナ ダ に お け る 海 外 直 接 投 資(Foreign Direct Investment。以下「FDI」という)に係る規制は、1974年に施行された「海外投資審査法」(Foreign Investment Review Act)にまでさかのぼる。同法は、国内市場をFDIから保護しこれを抑制する観点から、一定規模以上のFDI案件に関しては、「significant benefit to Canada」があることが許可の条件であった。 このように、その当初は極めて投資制限的な目的の下で始まったFDI政策であったが、1980年代後半以降の投資自由化のうねりを受け、1985年に「カナダ投資法」としてその装いを新たにした。「カナダ投資法」は、カナダの経済発展のため、むしろFDIを促進するという目的に大きく転換した。同法では、FDI案件に対し、投資規模に応じて、

「Notification」または「Application for Review」が必要とされる。後者のレビュープロセスでは、申請に基づき連邦産業省による許認可が行われるが、そのメルクマールも「net benefit to Canada」の有無となり、「海外投資審査法」に比して、そのハードルは大いに下がったと評されている。 2009年の改正において、レビュープロセスに該当するか否かの閾

いき

値ち

は、非OECD諸国からのFDIで500万C$超、OECD諸国からのFDIで3億3,000万C$超に、更に緩和されるとともに*20、一部のセンシティブ産業に対する「National

Security Test」が新たに設けられた。レビュープロセスでは、カナダ経済に与える影響、カナダ人の参画度、生産性/効率性/技術革新性、カナダ国内の市場独占度、カナダ産業/経済/文化政策との整合性、世界市場での競争力度、といった六つの要素に基づき、産業大臣が申請書提出後45日以内に判断することとされている。 なお、カナダ投資法に基づくレビュープロセスで、これまでFDIが認められなかった案件は、2008年1月の米国宇宙産業企業Alliant TechsystemsによるカナダMacDonald Dettwiler & Associates(MDA)買収案件と、2010年10月の 豪 州 資 源 企 業 BHP Billitonに よ る カ ナ ダ Potash Corporation of Saskatchewan(SK)買収案件の2件のみである。前者の場合、MDA社がカナダ最大の宇宙産業関係企業であり衛星の運営等政府から多額の業務を受けていたこと、スペースシャトルの船外マニピュレータで有名な「カナダアーム」の開発企業であったこと等から*21、また、後者の場合、Potash(カリウム)が食糧安全保障上の戦略的資源であること、地元SK州の象徴的企業が外国企業に買収される嫌悪感からの大反対運動があったこと等、が申請却下の背景とも指摘されている。いずれの場合も上述の6要素が原因というよりも、マスコミを含めた反対運動が政府の判断に大きな影響を与えたとも言われており、「net benefit to Canada」という言葉の曖昧さが解決されないまま、2012年のCNOOC事案へと舞台はつながっていく。

(2)CNOOC事案

 その投資金額の巨大さ故、関連業界内では大いに話題になったCNOOC事案ではあったが、連邦天然資源省オリバー大臣、アルバータ州レッドフォード首相は直ちに歓迎のコメントを発表する等、カナダ国内でもその当初はむしろ好意的な報道ぶりが目立っていた。金額に驚きこそすれ、一般市民にとってみれば「Nexen Who?」との見出しが新聞に出るくらいなじみのない会社であり、天然ガス価格低迷等の事業環境悪化に苦しむ同社と株主にとってみれば、61%のプレミアム付きでの買収提案は渡りに船の状態でもあった。買収にあたってCNOOCもカナダ国内で受け入れやすい今後の方針(例:CNOOC自体がトロント証券取引所に上場、CNOOC海外統括本社をカルガリーに設立、Nexen従業員および開発中の案件はそのまま継続等)を準備しており、上述の2件のFDI拒否案件のような市民レベルからの反対の必然性とも言うべき要素はなかったのである。 ところが、その後、連邦野党の新民主党や環境保護団体

5. 海外直接投資政策の変化(CNOOC事案がもたらした論争)

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JOGMEC

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アナリシス

の反対などから状況は変化していく。当初の反対理由は、「環境に負担の大きいオイルサンド開発の推進につながる」という天然資源開発と環境をめぐる対立であったが、その後、中国固有の問題が急速にマスコミの注目を集めていくことになる。すなわち、ハーパー政権の中国傾倒への批判、国家が支配する「State Owned Enterprise」(SOE)であるCNOOCに対する懸念、カナダの市場が開放されているのに対し中国市場の開放が不十分であるという「Reciprocity」の問題である。 連邦政府の対応はその後大きく遅れる。標準処理期間の45日を更に30日間以上延長し、2012年12月にやっと出された結論は「承認」であった*22。

(3)FDI政策の変化とその影響

 最終的に承認されたものの、本事案は1企業による買収問題という範

はん

疇ちゅう

にとどまらず、FDI政策に多少の変化をもたらした。一言でいえば、「FDIは引き続き促進するが、SOEによる投資はその限りではない」ということである。 変化の第一はSOEの定義である。本事案以降に改正されたSOEガイドラインにおいては*23、従前の「enterprise that is owned or controlled directly or indirectly by a foreign government」から「enterprise that is owned, controlled or influenced directly or indirectly」と、その定義が明らかに拡大されている。加えて、SOEによる投資に際しては、社外取締役としてカナダ人を指名、経営層にカナダ人を起用、カナダの証券取引所に上場といったことも考慮すべき事項として、同ガイドラインで言及されている。また、レビュープロセス該当閾値(投資金額)は、OECD諸国FDIの場合10億C$にまで徐々に緩和される予定であるところ、SOEに関しては、今後とも従前の3億3,000万C$のままとされ、更に、オイルサンド分野における投資に関し、SOEによる買収等投資先企業に対する支配的な投資に関しては、今後これを例外的にしか認めないとの方針も打ち出

された。 これらの内容は、いずれもいわゆる法改正事項としてではなく、(法的拘束力がない)ガイドラインまたは政府のスタンス表明という形で行われているが、連邦政府による強い意思表明であることは間違いない。連邦政府としては、「加中自由貿易投資協定」により中国市場でのReciprocityを確保するとともに、カナダ市場としてはその開放性は引き続き堅持しつつも、(通常の市場原理を超えた活動を行う可能性もある)SOEに対しての制限手段を手当てした、とも言える。また、これまでの経緯からすると、連邦政府にとっては、アジアからのFDIは必要であるとはいえ、カナダ企業を支配下に置くような買収型FDIは好ましくなく、カナダ人によるマネジメントと独立性を残しつつ企業としても存続するJV型の投資が望ましいとの意思も垣間見られる*24。買収型を指向せず、JVを基本とする日系企業の振る舞いは、カナダにとって、ある意味で理想の相手でもある。 なお、オイルサンドと異なり、天然ガス分野では、SOEに対する連邦政府のメッセージは出ていない。これは、オイルサンド分野では、少数の企業に活動が収

しゅうれん

斂しつつあり寡占化の恐れもあるなか、巨大資本を有するSOEからの影響が危

き ぐ

惧されたのに対し、天然ガス分野ではその恐れがなかったことと、世界第3位の埋蔵量を誇るオイルサンドが外国企業に支配されていくことは国策上も好ましくなかった故と指摘されている。 留意すべき点としては、元々は政治的体制を異にする国のSOEに対する懸念から始まったこれらの措置に関し、拡大されたSOEの定義には、わが国のINPEXおよびJAPEXが該当し得る可能性がある、という点である。未だ不明瞭な点も多く、具体的運用として何が問題視されるのか今後次第の面も多いが、SOEに該当する場合には、通常の民間企業とは明らかに取り扱いが異なる可能性があることは理解しておくべきである。

6. BC州における投資環境の実情

 2011年3月、BC自由党のクラーク氏がBC州首相の座に就いてから、BC州は、総合的な政策方針パッケージである

「The BC Jobs Plan」を直ちに発表する等、資源開発をその経済活性の核とする各種の政策を矢継ぎ早に打ち出してきた。そのなかでも天然ガス開発は最も中心に据えられており、2012年には「Natural Gas Strategy」と「Liquefied

Natural Gas Strategy」を相次いで発表、クラーク首相曰いわ

く「Once in a lifetime」のチャンスであるとして、州政府全体として天然ガスビジネスを総力を挙げて支援する方向性を明確にした*25。これら戦略では、市場の多様性確保の観点からのアジアとの連携、LNGを含む天然ガス開発投資の促進、魅力的なロイヤルティー制度の追求、規制制度の合理

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45 石油・天然ガスレビュー

JOGMEC

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カナダの天然ガス開発とLNG事業の動向 -LNG市場競争で巻き返しを図るカナダ-

化等を掲げ、併せて、雇用の拡大、環境保護*26と先住民との協力関係を追求するとしている。 また、民間企業投資を促進/サポートすべく、新たにMinistry of Jobs, Tourism and Ski l led Training内 に 設 立 さ れ た の が Major Investment Office(MIO)である。MIOでは、投資拡大による雇用促進を目的に、主として、大型投資を検討している民間企業に対して、許認可等プロセスにおける各種支援、ワンストップ窓口としてのBC州関係機関との連絡調整をその主要任務としている。なお、2012年5月、BC州とJOGMECは天然ガス分野における包括的な協力を謳った相互協力合意書を締結(表7)、MIOは本件に係るBC州政府側のカウンターパートでもある。 ここで、カナダにおけるJOGMECの取り組みについて、簡単に概説する。表3に示したと

おり、日系企業のカナダ投資案件に対して、資産買収出資や債務保証による金融支援を積極的に行っているところであるが、これら以外にも、投資先として有望なカナダとは

◆ GTL 技術、製品およびサービスを含む非在来型ガスの有効利用に係る情報交換

◆非在来型ガスのマーケットポテンシャルに係る検討

◆非在来型ガスに関連したプロジェクト / 協力を具体化する機会の発掘

◆交流とネットワーク構築のための機会創出

出所:JOGMEC

表7 天然ガス開発 / ビジネスに関する相互協力合意書における協力内容

資源分野における連邦と州の役割分担図7

出所:Natural Resources Canada

BC 州クラーク首相と JOGMEC 河野理事長による MOU 締結(2012 年 5 月 16 日)写3

出所:JOGMEC

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多様な技術協力も実施している。上述のBC州との相互協力合意書におけるGTL等に関する協力に加え、カナダ天然資源省傘下の連邦研究機関であるCanmetENERGYとは、2012年からアルバータ州エドモントンにおいて、重質油原油の新しいアップグレーディング技術である超臨界水を利用した改質技術(SCWC)のパイロットプラント実証試験を日系企業の協力を得て実施中である。また、2013年からはBC州Montneyにおいて、シェール層から採取したサンプルの岩石物性の測定や地震探鉱データを用いた評価技術の確立をEncanaおよび日系企業の協力を得て実施する等、JOGMECの技術力を活かした資源国カナダとの関係強化も近年大きく進展している。 これまでカナダにおけるエネルギー関連投資の中心はアルバータ州であったが、天然ガス/パイプライン/LNGといった一連の投資は、今後BC州が中心になってくると見られているところ、BC州における投資環境の実情と今後の見通しについて、幾つかの観点から整理しておく。

(1)ロイヤルティー

 連邦政府と州政府の権能は、カナダ憲法において規定されており、大ざっぱに言えば、外交、防衛、通商貿易、通貨/税制、航路や沿岸等海洋関係、漁業、パイプライン等州を跨

また

ぐ問題は連邦が、それ以外の事項は州政府が扱うとされており、基本的に州政府の権能は非常に強い*27。資源開発そのものに係る許認可も基本は州レベルで行われているが、BC州の場合、天然ガス等の開発が行われる土地のほぼ全部が同州政府の公有地(Crown Land)であり*28、民間保有地が大部分の米国とはその様相が大きく異なる(図7)。公有地の地下資源を開発することによって発生した利益については、州政府が州民を代表して徴収するロイヤルティー制度が設けられている。 BC州における天然ガスロイヤルティー制度は、生産量、ロイヤルティーレート、ガス価格ファクターと各種のインセンティブ措置から構成されている(図8)。 そのロイヤルティーレートは、ガス価格によって変動し、

Marketable gas Production (after liquids

and impurities are extracted

Reference Price (greater of Producer

Price or Posted Minimum Price)

PCOS and royalty programs that imply a

deduction (or “credit” )

Depends on “base” and any rate reductions

from programs (low productivity, marginal,

ultramarginal)

R$=( Volume × Royalty Rate × Price ) - Deductions

Price sensitive area

Royalty Rates for Base 15, Base 12 and Base 930.0

27.025.0

20.0

15.0

10.0

5.0

0.0

Roy

alty

Rat

e (%

)

$0.27

$0.27

$0.53

$0.53

$0.80

$0.80

$1.06

$1.06

$1.33

$1.33

$1.59

$1.59

$1.86

$1.86

$2.12

$2.12

$2.39

$2.39

$2.65

$2.65

$2.86

$2.86

$2.16

$2.16

$3.16

$3.16

$3.45

$3.45

$3.71

$3.71

$3.98

$3.98

$4.25

$4.25

$4.51

$4.51

$4.78

$4.78

$5.04

$5.04

$5.31

$5.31

$5.57

$5.57

$5.84

$5.84

$6.10

$6.10

$6.37

$6.37

$6.63

$6.63

$6.90

$6.90

$7.16

$7.16

$7.43

$7.43

Producer Price or Posted Minimum Price, whatever is higher -$/GJBase 15 Base 12 Base 9

Select price=$50/thousand m3=$1.33/GJ

Base 15 maxes upat 23.7% at a priceof $10/GJ

BC 州ロイヤルティー制度図8

ロイヤルティーレート変動カーブ図9

出所:BC Major Investment Office

出所:BC Major Investment Office

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カナダの天然ガス開発とLNG事業の動向 -LNG市場競争で巻き返しを図るカナダ-

更に生産開始5年以内のガス井には低減レートが適用される等かなりフレキシブルとなっている(図9)。加えて、各種インセンティブ措置(Targeted Royalty Program)として、年間を通した開発を促進するための Summer Royalty Program、高深度シェール層の開発促進のためのDeep Royalty Credit Program等も設けられている(図10)。 非常に充実したBC州の天然ガス関連ロイヤルティー制度等は、IHS CERAが2011年10月に発表したレポート

「Comparative Assessment of the Federal Oil and Gas

Fiscal System」においても、世界各国での調査対象の29制度中、総合評価で第1位の評価を勝ち取っている等、税制面から見た投資環境としては、非常に競争力が高いと言えよう(図11)。 同じカナダ西部に位置するアルバータ州の状況について、天然ガス以外の要素も含め、BC州と比較した結果は表8のとおりである。 上述のCERAレポートにおいても、アルバータ州の石油に係るロイヤルティー制度等は29制度中17位、オイルサン

Composite Index - Global Rating and Ranking

Venezuela heavy oilU.S. Alaska onshore

Russia onshoreCanada (Alberta) oil sands

Venezuela conventional gasKazakhstan offshoreU.S. Texas onshore

Angola offshoreLibya onshore

U.S. GOM shelfBrazil offshore

U.S. GOM deepwaterCanada (Alberta) conventional oil

China offshoreU.S. Wyoming gas

U.S. Loisiana onshore gasAustralia (Queensland) coalbed gas

Germany onshoreColombia onshoreMalaysia offshore

India offshoreAlgeria onshore

United Kingdom offshoreAustralia offshore

Indonesia conventional gas offshoreIndonesia coalbed gas

Norway offshorePoland onshore

Canada (British Columbia)

Final Index Score0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50 4.00 4.50

Gov Take

Pl

IRR

Progressivity/Regresivity

Revenue Risk

Type of Change

Applicability of Change

Degree of Change

Frequency of Change

Government Perspective

Investor Perspective

Global Rating and Ranking 図11

出所:IHS CERA「Comparative Assessment of the Federal Oil and Gas Fiscal System」より抜粋

What was the challenge?B.C. drilling activity very concentrated during winter monthes, when ground frozen

Western Canada sedimentary basin deepens towards the West

New, conventional wells with lower productivity

Tight gas development

Coalbed gas potential development challenges

“White spaces” and areas with limited infrastructure (roads/pipes) available

Huge potential in new, remote, unconventional resources

What was the solution?Summer Royalty Credit Program

Deep Royalty Credit Program

Marginal Royalty Program

Ultra-marginal (tight gas) Royalty Program

Coalbed Methane Royalty Program

Infrastructure Royalty Credit Program

Net Profit Royalty Program

BC Targeted Royalty Program図10

出所:BC Major Investment Office

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JOGMEC

K Y M C

アナリシス

ドの順位は26位とかなり見劣りする。また、天然ガスのロイヤルティーに関しても、2009年以降ロイヤルティー制度の見直しを進めているものの、BC州に比較するとかなり高率となっている。直近では、天然ガス価格の低迷により同州政府の財政もかなり悪化しているとも伝えられており、投資環境の改善と州財政健全化の狭間で苦しい状況にあるとも言えよう。 なお、BC州政府は2013年2月、LNG税導入を打ち出した。やや唐突感のあるこのLNG税の詳細は未だ明らかでないが、その歳入規模は五つのLNGプラントから今後30年間で総額1,300億~ 2,600億C$と試算されており、単純計算で1プラントあたり約9億~ 18億C$もの負担が発生することとなる*29。LNG税の使途としては、将来に向けたファンド設立、州税の低減等が説明されてはいるが、2013年5

月に行われる州議会選挙対策としての様相もあり、実際に導入されるかどうか、2013年3月時点では明確になっていない。しかし、LNG税構想の公表は、資源税導入というパンドラの箱を開けたとも言え、LNGに係る将来のコスト要因となる可能性を孕

はら

んでいる。 また、アルバータ州政府は2013年4月、現行の炭素税の税率を大幅に引き上げる案を公表した。同じく唐突感が否めない炭素税増税案の背景は、環境負荷増大の観点から反発が強い米国でのオイルサンド反対運動への一つの回答として、政府部内で導入が検討されたものと言われている。すなわち、アルバータ州としてはオイルサンド開発のみを促進するのではなく、このような地球温暖化対策を講ずることによって「Social License」を得ようとしているのである。1バレルあたりのCO2発生量を40%減、または排出CO21ト

Energy Type British ColumbiaAlberta

Pre-Oct. 2007 Oct. 2007-March 2010 Post March 2010

Natural Gas 0-27% 5-30% 5-50% 5-36%

Conventional Oil 0-24% 0-35% 0-50% 0-40%

Oil Sands N/A Pre-payout: 1% of gross revenue

Pre-payout: 1% of gross revenue

Pre-payout: 1-9% of gross revenue

Post-payout: > of 1% of gross revenue or 25% of net revenue

Post-payout: > of 1-9% of gross revenue or 25-40% of net revenue

Post-payout: > of 1-9% of gross revenue or 25-40% of net revenue

Effective Date(mm/dd/yyyy)

Gas: 6/1/1998Oil: 1/1/2000 7/1/1997 1/1/2009 1/1/2011

ロイヤルティーに関する BC 州と AB 州の比較(いずれも新規生産井が基準)表8

(注) AB 州では、生産井単位の売上総額が当該井にかかる初期開発コストを下回っている期間を Pre-payout として、上回って以降の期間をPost-payout と規定している。

出所:Heenan Blaikie Consulting

天然ガス関連規制に係る連邦と州の役割分担図12

出所:Natural Resources Canada

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49 石油・天然ガスレビュー

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カナダの天然ガス開発とLNG事業の動向 -LNG市場競争で巻き返しを図るカナダ-

ンあ た り の 課 税 額 を 40C$と す る 内 容 か ら「40-40 Proposal」とも称される本案は、ほぼオイルサンドを狙い撃ちにしたもので、同業界からの反発が非常に強く、実際に導入されるか否かは、上記BC州のLNG税と同様、現時点では見えていない*30。

(2)各種許認可

 BC州内でガス開発、LNGプラントやパイプラインを建設するにあたっては、州、市町村、連邦政府によるさまざまな許認可等を取得する必要がある。天然ガス関連規制に係る連邦と州の役割分担を図12に、想定される各種許認可

ProjectDescription

Determinationthat Project is

Reviewable(Section 10

Order)

Scope andProcess for

ReviewDetermined(Section 11

Order)

ApplicationInformation

Require-ments

ApplicationPrepared

andSubmitted

ApplicationReview

AssessmentReport

ProjectDecision by

Ministers

FurtherAssessment

Required

CertificateRefused-

Project CannotProceed

PublicComment

Period

Pre-Application Stage(no timeline)

Working Group Review

FIRST NATION CONSULTATION

(30 days) Application Review Stage(180 days)

Decision(45 days)

PublicComment

Period

Approved

Not Approved

CertificateIssued--Project

Authorized toProceed toPermitting

Stage

Monitoring,compliance,

andenforcement

ApplicationEvaluated

forComplete-

ness

BC 州における環境アセスメントプロセス図13出所:MIO

法令名等 許認可内容等

州レベル

Heritage Conservation Act Inspector ReviewTemporary Occupation of Crown Land

Land Act License of OccupationRight of Way

Forest Act Road Use PermitMaster License to Cut

Oil and Gas Activities Act (BC OGC)

Drilling and Prodcution RegulationPipleline RegulationEnvironmental RegulationConstruction and Notification Regulation

Water ActShort Term Use of WaterChanges and About a StreamPermits over Crown Land

Envriomental Management Act Air and Waste Discharge permit

Environmantal Assessment Office EAO Approval

Ministry of Transportation Road Construction Approval etc.

First Nation Consultation Impact Benefit Agreement

BC Hydro Agreement Power Usage

CN Rail Agreement Use of Rail

市町村レベル Local Government Taxation, Rezoning, Construction Permit

連邦レベル National Energy Board ActCanadian Envrionmental Assessment Act

Export LicenseEnvrionmental Assessment

想定される各種許認可表9

(注)BC OGC が関与する部分はハイライト出所:各種資料を基に筆者作成

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等を表9に示す。 BC州における環境アセスメントプロセスは、図13の流れに沿って進められており、正式申請前の段階でどこまで多様なステークホルダーと調整を進めておけるかが、正式申請後のプロセスに大きく影響してくる。また、上述のように、環境アセスメントプロセスにおいて連邦と州の二重審査は回避される方向となっており、BC州と連邦政府との間でMOUを結ぶ等調整が進んでいるが、実際にはまだ試行錯誤の段階で、州/連邦ともに手探りで協調している段階のようである*31。 また、今後のLNG建設等の許認可においては、BC Oil and Gas Commission(BC OGC)の果たす役割が非常に大きくなると見込まれるが、BC OGCではLNG建設向けの基準導入を計画中であり、操業上のルール(leak detection, audits and matters related to process efficiencies)を含め、2013年秋には素案を公表、2014年には新ルールの適用を目指している。なお、BC OGCの体制は約200名規模

であるが、当然ながらこれまでLNGプラントの審査を行った実績はなく、申請が集中した際の処理能力に関し、懸念の声も上がっている。

(3)先住民問題

 First NationまたはAboriginal Peopleと称される先住民は、カナダ全体で約600部族、人口は約120万人とカナダ総人口の約4%を占める。そのうち、BC州内には約200部族、約20万人が在住、32の言語が使用されている。カナダでは、その建国初期、植民地政府と先住民との間で土地使用の権利等を定めた条約(Treaty1~11)が各地で締結されており、その憲法においても先住民に対する「先住民としての権利

(Aboriginal Right)」*32が規定されている(図14)。 一方で、BC州の半分以上の地域では先住民との間で条約が結ばれていない。このことは、資源開発を行う上で、条約がその大部分をカバーしているアルバータ州と大きな違いとなっている。すなわち、BC州で実際に開発を行う際

カナダにおける先住民との条約締結図図14

出所:BC Ministry of Aboriginal Relations and Reconciliation

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には、Crown Land上であったとしても、当該エリアで「先住民としての権利」を主張する先住民との個別の交渉が不可欠となっている。また、2004年の連邦最高裁判決における判決(州政府は、〈条約等による権利確定があろうとなかろうと〉先住民に対してコンサルテーションを行う法的義務を負う)は先住民問題におけるマイルストーンであり、このコンサルテーション義務はBC州Ministry of Aboriginal Relation and Reconciliationの主要任務ともなっている*33。 天然ガス開発等を行う民間事業者に対しては、この法的義務は課されていないものの、「先住民としての権利」に基づき裁判を提起し得る権原が先方にある以上、事実上の義務としてのコンサルテーションは不可欠である。先住民とのコンサルテーションにおいては、最終的に「Impact Benefit Agreement

(IBA)」を締結する場合がほとんどであるが、通常、IBAには双方に守秘義務が課せられるため、その個別について詳細が明らかになることはほぼない。IBAに含まれる内容は多岐にわたるが、単なる金銭的補償にとどまらず、近年では当該プロジェクトとの持続的な共生関係を目指した内容(プロジェクトにおける直接/間接雇用、先住民会社からの給食/輸送等各種サービスの提供、技能習得のための教育機会提供、学校や文化施設の提供、環境や伝統的文化保護のための措置等)が含まれることが多いと言われている。 伝統と歴史に裏付けられた誇り高い先住民との交渉においては、金銭交渉以前に、何よりも相手を理解し尊重することが第一であることを専門家は指摘する*34。また、プロジェクト周辺ビジネスを幅広く展開する先住民部族も増えており、ビジネスパートナーとしての位置付けも持ちつつある。なお、ノースウェスト準州からアルバータ州北部に至るMackenzie Valley Pipeline計画は多くのメジャーがJV参加しているが、そのなかで先住民持ち株会社は、Imperial Oilの持ち分(34.4%)に次ぐ33.3%である等大規模プロジェクトにおける先住民のプレゼンスは(われわれの想像以上に)非常に高い*35。 われわれ日本人のみならずカナダ人にとってもなじみの薄い分野ではあるが、双方の相互理解とメリットのため、IBAに係るコンセプトを透明化していこうとの動きも始まりつつある。ブリティッシュコロンビア

大 教 授 が 中 心 と な っ て 取 り ま と め た「IBA Communication Toolkit」は、元々マイニング分野での活用を前提に検討されたものであるが、その内容は天然ガス開発にもほぼそのまま適用することができるものとなっている*36。 カナダにおいて、資源関連プロジェクトを推進するにあたっては、当該地域から受け入れてもらうためのいわゆるSocial Licenseが(法令許認可とは別に)不可欠である。先住民との対話はこの一環でもあるが、IBAでどのようなことが必要となってくるかを理解しておくことは、プロジェクト遂行に係るunknown factorを相手先のJV企業任せにしないためにも重要であろう。

(4)労働問題等コスト要因

 今後、車で1時間半圏内のBC州西岸の狭いエリアで複数の巨大なプロジェクトが一気に進展することになるが、LNG建設における過去の歴史のなかで、これほどの集中したエリアで同時のタイミングで行われることは、世界でも初の経験に近く、多くの困難に直面することが予想される。その最たるものが、労働力不足問 題 で あ る。BC州 政 府 が 2013 年 2 月 に 発 表 し た2013/14予算書によれば*37、LNGプラント等建設期間における労働力需要は、ピーク時に7万5,000人超、平均3万9,400人/年、プラント稼働後の労働力需要は、関連産業を含め平均7万5,200人/年に上ると想定している(図15)。なお、上記労働力需要の検討に際し、BC州政府は、建設時において、プロジェクトが直接的に雇用する場合の1人あたり人件費を14万200C$/年、

90

80

70

60

50

40

30

20

10

02013 2015 2017 2019 2021 2023 2025-

2033

Average Annual Full TimeEquivalents (Thousands)

Year

OperatingPhase75,200

AverageAnnualJobs

9-YearCapital

ConstructionPhase39,400

AverageAnnual Jobs

Employment Forecast - Construction and Operating Phases

LNG 建設等に係る労働力需要見通し図15

出所:Budget and Fiscal Plan 2013/14 – 2015/16 (Ministry of Finance 2013/2/19)

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まとめ

 最後に、カナダと日本の関係を全く別の角度から考察す る。 バ ン ク ー バ ー に 本 拠 地 を 置 く Asia Pacific Foundation of Canadaが2012年に発表したカナダ人の意識調査では*40、好印象を抱く人の割合が、中国に対して12%、韓国に対して17%であるのに対し、日本に

対しては34 %とアジアのなかで突出して高い。また、悪印象を抱く人の割合は、中国に対して29%、韓国に対して22%であるのに対し、日本に対しては10%と米国と同等レベルになっている(図16)。 歴史的文化的背景から、欧州や豪州の評価が高いのは

プロジェクトへのサービス提供といった間接的雇用の場合の人件費を5万4,100C$/年として、また、オペレーション時における前者の人件費を12万7,200C$/年、後者の人件費を6万8400C$とそれぞれ見込んでいる*38。 労働力不足への対応として、BC州政府は、外国人技能労働者への迅速なビザ発給制度である「BC Provincial Nominee Program」を連邦政府と共同で手当てするとともに、各種の技能教育プログラムを設けているが*39、そもそもこれだけの労働力は、人口1万人にも満たないKitimatとPrince Rupert周辺には存在しないため、これらの方策のみでは、技能労働者/単純労働者の絶対数不足の解決にはならないとの指摘もある。豪州と異なり、いざとなれば地続きの北米全域から労働者を集めやすいとはいえ、現時点でも、アルバータ州のオイルサンド関連業界の人件費高騰(例えばトラック運転手で

年収10万ドル等)が話題となっているが、BC州内での労働力の絶対的不足とこれに伴う人件費高騰は、今後、プラント建設費の増大等に跳ね返ってくる可能性が高い。なお、LNG Canadaプロジェクトにおいては、現在同じKitimat内で一足先に建設が進行中のRio Tintのアルミニウム精錬工場建設チームをその労働キャンプごと活用すると見られ、早くも一部では数年後の労働力確保に向けた取り組みが始まっている。 伝統的に労働組合が強いカナダであるが、2013年5月のBC州議会選挙で躍進が伝えられている中道左派・社会民主主義のBC 新民主党は、労働組合をその支持基盤としている。選挙後の動きは未だ見えないが、今後BC州内で労働問題(労働力不足、若年層就職支援策、技能労働者育成、労働者保護等)は政治的にもより一層クローズアップされていくであろう。

カナダ人の意識調査図16出所:Asia Pacific Foundation of Canada

2010

64%

51%

43%

36%

28%

13%

12%

11%

9%

2011

63%

50%

43%

37%

27%

12%

12%

11%

10%

2010

3%

5%

9%

9%

10%

24%

23%

20%

31%

2011

3%

5%

10%

9%

11%

24%

23%

20%

29%

Australia

Great Britain/UK

United States

France

Japan

South Korea

India

Southeast Asia

China

COLD/UNFAVOURABLE RATING(% of 1-3 on a 10-point scale)

WARM/FAVOURABLE RATING(% of 8-10 on a 10-point scale)

3% 68%

57%

47%

41%

34%

17%

14%

14%

12%

5%

10%

10%

22%

24%

18%

29%

8%

Base: All respondents (n=2903 in 2010, 2926 in 2011, 3129 in 2012)Q1: Please rate your feelings towards some countries or regions, with ten meaning a very warm, favourable feeling,

zero meaning a very cold, unfavourable feeling, and five meaning not particularly warm or cold. You can use anynumber from zero to ten: the higher the number the more favourable your feelings are toward that country.

Canadians Express Cool Feelings towards Asia

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当然として、カナダから見て日本はアジアで最も親近感を抱いている国であるのは間違いない。 BC州は環境意識が高いことを誇りとする州である。本稿ではあまり語らなかったが、シェールガス開発に伴う環境問題として、フラッキングや地震誘発がちらほら一般紙レベルでも話題になりつつある。何らかの新たなルールが必要となった場合、(炭素税導入に見られるように)カナダ国内ではBC州がその先頭を走る可能性も高い*41。その際、日本の環境対応等先端技術が当地でも役立つこともあろう。 2011年3月の東日本大震災以来、新たなエネルギーの確保が大きな課題となっている今、日本としては、当面の現実的な解として天然ガスに頼らざるを得ない。同

じタイミングで、国を挙げて天然ガス開発を経済の活性化にすべく取り組んでいるカナダとの関係は、日本にとって極めて重要である。カナダの一番の視線の先に、膨大な市場が見込まれる中国が見えていることは想像に難くないが、カナダと日本は文化や経済面でお互いに補完し得るパートナーでもあり、同じ経済的価値観を共有できる国同士として、更なる連携を模索すべき時期に来ているのではなかろうか。天然ガス開発を通じた関係が、両国間の更なる連携の基盤となることを期待したい。

 本稿の作成にあたっては、元駐日カナダ大使のJoseph Caron氏ならびにHeenan Blaikie Consultingから多くの有益な示唆を頂いた。ここに記して感謝したい。

*1: 各種数値は、2010年のカナダ統計局発表データやJETRO発表資料等から引用。*2: 2012/7/23付Forbes紙:

http://www.forbes.com/sites/nathanvardi/2012/07/23/cnoocs-nexen-deal-shows-how-obama-pushed-canada-toward-china/

*3: この産業ミッションに同行したCEOに対し、カナダ連邦政府が旅費まで支出したことが2013年1月に判明。今回ハーパー首相が産業界の重鎮を中国に連れて行くことをいかに重要視したかの証左でもあるが、そのいき過ぎた厚遇ぶりに対し、野党や市民団体から批判も浴びている。

*4: 「U.S. Energy Information Administration」 (EIA 2011)*5: 「World Shale Gas Resources: An Initial Shale Gas Resources: Outside the United States」 (EIA 2011/4)*6: 同レポート中では「Technically Recoverable Resources」と表現。具体的な定義については原文を参照されたい

(以下同様)。*7: 同レポート中では「Risked Gas in Place」と表現。*8: 当時。現在はMinistry of Energy, Mines and Natural Gasに名称変更されている。*9: 「Ultimate Potential for Unconventional Natural Gas in Northern British Columbia's Horn River Basin」 (BC

Ministry of Energy and Mines, National Energy Board 2011/4 )*10: 同レポート中では「Ultimate Potential for Marketable」と表現。*11: NEB Act. S.118では、“On an application for a license to export oil or gas, the Board shall satisfy itself that

the quantity of oil or gas to be exported does not exceed the surplus remaining after due allowance has been made for the reasonably foreseeable requirements for use in Canada, having regard to the trends in the discovery of oil or gas in Canada” と規定されている。

*12: 同パイプラインは、元々、KitimatにあるMethanex社のメタノールプラント向けのものであったが、2005年に同プラントが閉鎖されて以来、未使用状態となっているもの。なお、同プラント跡地に建つのは、Shell主導のLNG CanadaのLNGプラントである。

*13: 「Developing a Natural Gas Trading Hub in Asia」 (IEA 2013)のデータを基に、各種公開データから得られた数値を追加。

*14: 「International interest remains high in Liquefied Natural Gas」(Ministry of Energy, Mines and Natural Gas 2013/4/10)

*15: 「天然ガスリファレンスブック2012」(JOGMEC)。なお、2020年の世界全体のLNG輸入量は、低需要ケースと高需要ケースの中間値とした。

*16: NGPPは、KitimatとEdmontonを結ぶ1,172km×2、Bitumenを52万5,000b/d、希釈剤condensateを19万3,000b/d

<注・解説>

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アナリシス

のキャパシティとなっている。*17: Trans Mountain Pipeline 拡張計画は、BC州西岸下部にあるBurnabyとEdmontonを結ぶ総延長950km、拡

張後は75万b/dのキャパシティとなっている。*18: 便宜上、1US$=1C$として換算。*19: 2012/5/18付バンクーバーサン紙:

http://www.vancouversun.com/business/Natural+producers+survival+mode/6643082/story.html*20: 2009年改正前、カナダ投資法上のレビュープロセスを受けた案件は1,548件。そのうち、投資が認められなかっ

た案件はゼロであったことも、条件が緩和された理由とされている。*21: ちなみに「Canada Arm」は、スペースシャトルがニュースに出る度に必ず映るものであり、カナダ人にとって、

同国の宇宙産業における存在感を示すiconとしての意味を持つとのことである。*22: CNOOC事案の影響を直接に受けたのがPetronasである。CNOOCの前にカナダ投資法のレビュープロセスに

入っていたPetronas案件は、CNOOOC事案前に合否を出すのを連邦政府が躊ちゅう

躇ちょ

したせいか、いったんは申請したものの却下される事態となったが、CNOOC事案が承認された2012年12月7日同日に、本件も承認されている。

*23: 「Guidelines – Investment by State Owned Enterprises – Net benefit assessment」*24: ハーパー首相は個別事案そのものに対するコメントを避けているものの、「カナダがビジネスにオープンであ

ることは、カナダという国が外国政府に売りに出されている意味ではない」とコメントしている。*25: 「BC Natural Gas Strategy」および「BC LNG Strategy」の入手先:

http://www.gov.bc.ca/ener/natural_gas_strategy.html*26: BC州は、元々環境保護に土地柄熱心であり、米国カナダを含めた北米各州のうち、初めて税制中立型の炭素

税の有効性を示した州であると謳っている。*27: 「Division of Constitutional Powers」(Natural Resources Canada)*28: アルバータ州の場合、約80%が同州政府の公有地となっており、残りの約20%はカナダ連邦政府が国立公園

として保有/管理している。*29: 「Factsheet Liquefied Natural Gas Tax Revenue」 (BC Ministry of Finance Feb.12, 2013)*30: 現行の制度では、1バレルあたり12%削減または排出CO21トンあたり12C$の課税。なお、アルバータ州政

府は、「Tax」とは言わず「Levy as a price on carbon」と称している。 2013/4/9付The Globe and Mail紙: http://www.theglobeandmail.com/report-on-business/industry-news/energy-and-resources/alberta-industry-face-wide-gap-on-carbon-tax/article10911280/

*31: 「B.C. and Canada take next step in One Project, One Environmental Assessments」(2013/3/15)*32: Aboriginal Rightとしては、先住民の伝統的な活動として土地利用に係る漁業権や狩猟権等があるが、これらは、

それぞれの土地、部族、活動ごとにさまざまであるとされている。*33: 「Updated Procedures for Meeting with Legal Obligations When Consulting First Nations」 (Province of

British Columbia 2010/4)ほか*34: 先住民出身で米国ハーバード大卒、現在コンサルタントである知人の弁によれば、現在、先住民との交渉が難

航しているオイルサンドパイプライン計画(Northern Gateway Pipeline Project)の最大の失敗は、当初Enbridge社が(アルバータ州の作法によって)金銭的な交渉しかしなかったため、BC州内の先住民の不興を買い信頼を失った故とのことである。 また、先住民との対話における六つの原則として、「Be Respectful」「Engage Early and Often」「Be Open and Transparent」「Act with Honor」「Listen」「Be Willing to Adapt if You Can」が挙げられている。

*35: 同プロジェクトは、現状の天然ガス価格がプロジェクト計画時(2004年)の価格を大きく下回っていることから、事実上、休止状態にある。

*36: IBA Communication Toolkitの入手先: http://www.ibacommunitytoolkit.ca/index.html

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*37: 「Budget and Fiscal Plan 2013/14 – 2015/16」 (Ministry of Finance 2013/2/19)*38: 「Employment Impact Review」(Ministry of Energy, Mines and Natural Gas 2013/2)*39: 技能教育プログラムとしては、BC Resource Training Organizationが進めている「Targeted Skilled Shortage

Program」や「Employment Skills Access Program」等がある。*40: 「2012 National Opinion Poll: Canadian Views on Asia」 (Asia Pacific Foundation Asia )*41: BC新民主党でエネルギー問題を担当するJohn Horgan議員と面談した際、天然ガス開発に関し、新民主党と

しては、モラトリアムを求めるようなことはしないが、サイエンスベースでの必要なルールはきちんと導入していくスタンスである、と発言。

執筆者紹介

辻本 圭助(つじもと けいすけ)ふるさと:大分県大分市(大学入学前まで九州を出ることなく過ごす)。学  歴:京都大学工学部資源工学科卒業、同大学院資源工学専攻修了。職  歴:1992(平成 4)年通商産業省(当時)入省。同省改組後の経済産業省においては、リサイクル政策、

化学物質管理政策、電気自動車等の次世代自動車の普及戦略等を担当。2011 年 7 月より現職。