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第2章 地震防災訓練(図上型訓練) 実施要領

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第2章 地震防災訓練(図上型訓練)

実施要領

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第2章 地震防災訓練(図上型訓練)実施要領

【地震防災訓練(図上型訓練)の目次構成】 本地震防災訓練(図上型訓練)実施要領モデル(以下、「実施要領」という。)

は、以下に示す目次構成による。

1.地震防災訓練(図上型訓練)をどのように始めるとよいか

(1)本実施要領作成の目的・背景

(2)本実施要領をどのように読むとよいか(活用方法、記述方法等)

(3)図上型訓練にはどのようなものがあるか

(4)図上型訓練ではどのような点に留意すべきか

2.状況予測型図上訓練(イメージトレーニング方式の図上訓練)

(1)訓練の概要

(2)事前に訓練をどのように準備するとよいか

(3)訓練をどのように実施するとよいか

(4)訓練結果をどのように評価・検証するとよいか

3.災害図上訓練DIG(災害想像力ゲーム)

構成等は、2に準じる。 4.図上シミュレーション訓練(ロールプレイング方式の図上訓練)

構成等は、2に準じる。

参考資料

参考資料1 主な訓練手法別の実施事例

参考資料2 状況付与シナリオ(「想定」シナリオ)の例

参考資料3 評価・検証用素材(ツール)の例

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1.地震防災訓練(図上型訓練)

をどのように始めるとよいか

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1.地震防災訓練(図上型訓練)をどのように始めるとよいか

【市町村長が陥りがちな状況】 突然の地震等の発生、各所で起こる建物倒壊、火災、土砂崩れ、道路崩

壊、通信途絶等の事態に遭遇・・・このような状況下で市町村長は、次の

ように、一刻を争う災害対策上の意思決定を迫られる。

① 職員の招集と初動体制の確立・・・・体制を整え、情報収集(参集途上も)

② 救出・救助、避難指示・避難勧告(災害危険の程度に応じて)

③ 被害状況に応じ応援要請、緊急消防援助隊や自衛隊災害派遣要請・・・・

市町村長が即座の意思決定を的確に行うことができなかった場合、マン

パワーや防災施設を有効活用できず、応急対策に立ち遅れ、気付いたとき

にはきわめて深刻な状況に陥る恐れがある。

このことから、首長のリーダーシップの重要性が浮き彫りに・・・

○ 首長の防災上の権限・役割とリーダーシップとは

市町村長は災害対応にあたって第一次的な防災対応をすべき機関の長で

あることから、避難勧告権限や消防機関への出動命令などの権限を有する。

また都道府県知事においては、都道府県警察等への指示や従事命令等の権

限を有する。このように首長のもつ権限とその役割は非常に重大である。

地震災害時には、冒頭に例示した初動対応以外でも、住民や報道機関を

前にして対策方針を説明したり、職員の先頭に立って救援活動を陣頭指揮

するなど、首長のリーダーシップの重要性は益々クローズアップされる。

○ 図上型訓練の重要性

しかしながら、防災訓練や研修等による平常時の取り組みを経ずに地震

災害時の緊急対応を実施するのは極めて困難である。そのため、地域防災

計画や各種マニュアルをいつでも活用できるよう、防災訓練等を通じて内

容に習熟するとともに、その実効性を検証しておく必要がある。

特に、市町村における防災の課題の抽出には、災害状況を柔軟に設定で

きる図上型訓練が有効であることから、首長を対象としたトップマネージ

メントによる図上訓練に参加したり、自ら図上型訓練を実施することで権

限や責務を確認し、首長としてのリーダーシップを育むことが望まれる。

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(1)本実施要領作成の目的・背景

本地震防災訓練(図上型訓練)実施要領モデルを作成した目的とその背景

は以下のとおりである。 地震防災訓練は、実技・実働訓練に比重が置かれたものは多いが、対応機

関のマネジメントに係るものは少ない現状にあると言われている。このため、

総合的な危機管理能力の向上を意図した図上型訓練(意思決定訓練)の実施

を推進し、大規模地震に対応する体制の充実を図るため、図上型訓練の企画

に係るノウハウや知見等をとりまとめ、より実践的・効果的な訓練の実施を

推進できるよう、地震防災訓練(図上型訓練)の実施要領のモデルを作成し

た。 なお、今年度作成した地震防災訓練(図上型訓練)実施要領は、人口10

万人以上の区・市を対象とする。

(2)本実施要領をどのように読むとよいか(活用方法、記述方法等)

ア 本実施要領の活用方法

本実施要領の効果的な活用方法は、次のとおりである。 a 訓練目的・テーマに応じた訓練方式選定の指標(手引き) 訓練目的やテーマ等に応じた適切な訓練方式を選定する手引書として

の利用。 b 図上型訓練の進め方のノウハウの解説書

図上型訓練の事前準備、当日のスムーズな実施、結果評価を支援でき

るような訓練ノウハウの解説書としての利用。 c 状況付与シナリオ、訓練評価・検証用素材等の事例集(参考資料)

当該区・市の地域特性や防災上の課題に応じた、よりリアリティのある

図上型訓練とするため、他区・市の状況付与(設定)シナリオ、訓練評

価・検証用素材(ツール)の事例集(参考資料)としての利用。

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イ 本実施要領の記述方法

本実施要領は、冒頭の目次に従って、以下のように構成し、記述した。

【地震防災訓練(図上型訓練)実施要領の基本構成と記述内容】

1.「地震防災訓練(図上型訓練)をどのように始めるとよいか

図上型訓練の概要・特徴をフローや比較表をまじえて解説した導入部

2.~4.訓練手法別解説

参考資料

訓練の実施事例、シナリオ、評価・検証ツール(当該市町村の活用に便宜)

② 当該市町村に適合した図上型訓練を選択し、実施する

・状況予測型訓練(イメージトレーニング方式) 最小限の条件のもとで参加者に状況予測と意思決定を求める ・災害図上訓練DIG(災害想像力ゲーム方式) 当該地域の地図を活用した訓練で課題の発見・共有を図る ・図上シミュレーション(ロールプレイング方式) 特定条件下の付与シナリオへの参加者の対応を繰り返し、展開

① 図上型訓練を企画・準備する

・訓練目的、習得目標の明確化・具体化 ・企画者・進行管理者・参加者の役割分担、会場等確保 ・訓練要綱、訓練想定の災害(被害)、状況付与シナリオ等の資料作成

③ 図上型訓練の結果を評価・検証する

・評価・検証素材(チェックリスト、アンケート等)により評価 市町村の防災体制の弱点・課題を把握、防災上の責務を自覚 ・状況付与シナリオを改善、経験を蓄積し図上訓練を活性化

手法ごとの詳細解説。概ね以下のような構成で記述した。

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ウ 用語の統一 実施要領で一般的に解説するときは、以下に示す統一された用語による。

但し、各訓練手法ごとに定義や呼称があることから、2.から4.におけ

る解説では、極力それぞれの呼称を尊重して用いものとする。 【用語の例】

○ 図上型訓練/図上訓練 地図上での訓練を指して図上訓練ということも多いが、ここでは、

広義の意思決定訓練を指して「図上型訓練」という呼称を用いる。なお、

各手法ごとに個別に解説する場合は「図上訓練」という呼称を用いる。 ○ 図上シミュレーション訓練/ロールプレイング訓練 訓練の現場では、様々な呼称や定義がなされているが、本実施要領で

は、これらを総称して「図上シミュレーション訓練(ロールプレイング

方式の図上訓練)」という呼称を用いる。

○ 状況付与票(カード)/条件設定票(カード) 状況付与手段として、電話、無線、庁内放送、FAX 等を使用するこ

とで臨場感を醸し出す場合もあるが、図上型訓練においては、「状況付

与票」を使い、意思決定を促すことが多い。いずれも同じものを指すが、

本実施要領では、「状況付与票(カード)」という呼称を用いる。 ○ 状況付与シナリオ/条件設定シナリオ/災害想定シナリオ 「状況付与票(カード)」等に記載された付与情報(付与事項)の内

容を指す場合が多い。その内容は時系列表で、状況付与スケジュールと

しても示される。起点としての地震の発生に始まり、各種被害の拡大プ

ロセス、住民の避難動向等の事象を含む。本実施要領では、「状況付与

シナリオ」という呼称を用いる。

○ 進行管理者(コントローラー)、訓練参加者(プレイヤー) 図上型訓練の推進役は、進行管理者、統制班又はコントローラーと称

し、参加者は、訓練参加者、演習部又はプレイヤーと称することが多い。

進行役には、運営担当スタッフを含む場合もある。本実施要領では、そ

れぞれ「進行管理者」、「訓練参加者」という呼称を用いる。

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① 防災資機材・機器の取扱や活動手順への習熟を目的に実際の動きを

模擬する「実技・実働訓練」

② 状況の予測や判断,活動方針の決定等の意思決定能力向上を目的に

行われる「図上型訓練」(「意思決定訓練」ともいう。)

(3)図上型訓練にはどのようなものがあるか

防災訓練の目的は、訓練そのものではなく、あくまで職員の防災対応能

力の向上であることから、実効性のある訓練をいかに行えるかが必要とな

る。ここで、習得しようとする技能別にみると、地震防災訓練は大きく次

の2つに分類できる。

現状における市町村の地震防災訓練は、①の実技・実働訓練に比重が置

かれたものが多く、冒頭で述べた災害発生時の「危機管理」能力の向上・

習得を意図した図上型訓練については、その企画に係るノウハウや知見の

不足から、実施事例は一部に限られ、今後予想される大規模地震に対応す

るには不十分な状況にある。 図上型訓練の重要性についての認識が浸透し、近年、国、都道府県にお

いて多数実施されるようになってきたが、それでも市町村にまで十分に普

及しているとは言い難い。市町村は、以下に示す様々なタイプの防災訓練

を企画・準備することにより、実践的・効果的な防災訓練を実施していく

ことが求められる。

市町村の訓練担当者が、当該市町村の地勢状況や特性、訓練目的(訓練

で解明したい課題)等に応じて最も適していると思われる訓練方式を選択

する際の参考となるよう、図上型訓練の種類を示す。個別の訓練方式の詳

細内容や実施事例については、後述の2.~4.を参照されたい。 なお、ここでは、市町村が多大な手間や費用をかけることなく簡便に企

画・準備し、実施できる図上型訓練であることを基準に、以下の訓練方式

に区分して、その概要・特徴、訓練フローを解説するものとした。

・ 状況予測型図上訓練(イメージトレーニング方式の図上訓練) ・・・・・・・・ ア

・ 災害図上訓練DIG(災害想像力ゲーム) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ イ

・ 図上シミュレーション訓練(ロールプレイング方式の図上訓練)・・・・・・ ウ

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ア 状況予測型図上訓練(イメージトレーニング方式の図上訓練)

《概要・特徴》

・ ごく簡単な災害の「想定」以外に「状況付与」は不要又は最小限でよい

・ 参加者が予想した「状況」をシナリオとして意思決定と役割行動を促す

・ そのため、他の方式の図上型訓練に比して簡便さ・主体性確保に勝る

・ 評価・検証素材により市町村の防災上の課題を容易に把握できる

状況予測型図上訓練は、「状況創出型図上訓練」又は「イメージトレー

ニング方式の図上訓練」ともいう。必要最小限の付与データから適当な

経過時間ごとの具体的な災害状況等を訓練参加者自身に予想させ、それ

をシナリオ代わり(前提)にしたときにどのような意思決定と役割行動

が求められるかを答えさせる形式の訓練である。 平成 15 年度から消防大学校における研修や市町村長等トップセミナー

に取り入れられるほか、都道府県・市町村での採用が始まっている。

これまでの災害時においては、情報不足下で意思決定及び状況予測が

困難であったことが多いことから、このような能力の向上に適し、かつ

主体性を維持して実施できる訓練である。当該市町村における防災上の

課題を把握したいとき、まず最初に手掛けるのが適当な手法といえよう。 また、事前に多大な準備時間をかけなくとも容易に実施できることから、

「企画・準備に膨大な時間を有する」、「訓練の内容がそのとき提示され

たシナリオに左右されがちである」などの他の方式の図上訓練における

問題点を解決する図上型訓練としても位置づけられる。

危機管理セミナーにおける状況予測型訓練(トップマネージメントコース)

ア 状況予測型図上訓練(イメージトレーニング方式の図上訓練)

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② 訓練実施 (進行管理者・運営担当)

③ 評価・検証 (進行管理者・運営担当)

図1.1状況予測型図上訓練(イメージトレーニング方式)のフロー

① 事前準備・企画 (訓練企画者・進行管理者)

(運営担当) (訓練参加者)

* 不要の場合あり

(訓練参加者)

(訓練参加者)

訓 練 要 綱 作 成

最小限の状況付与シナリオ作成*

会場設営

地図・ホワイトボード準備*

マニュアル読み込みなど事前準備

検討会用資料選定、コピー、配布

直前説明(訓練方法等)

対応記入票 回収

対応記入票へ記入

グループ分け、配席

資料配付(事前配布分)

「想定」票及び対応記入票配布・提示

「想定」票の作成 事前説明会への出席*

経過時間区分別に参加者発表

評価・検証(全体総括)

評価・検証用資料途中配布

会場確保

訓練目的、方法明確化

発表内容を素材に評価・検証

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イ 災害図上訓練DIG(Disaster Imagination Game、災害想像力ゲーム)

《概要・特徴》

・ 当該地域の「地図」さえ用意すれば始められる簡易な図上型訓練

・ 従来の訓練より簡便さに勝り、目的に応じステップアップが可能

・ 参加者が議論に参加することで、気付いた地域の防災力等を共有できる

・ 最小限の状況付与により、対策指針より地域の課題を把握するのに適す

災害図上訓練DIGは、自主防災組織やボランティア団体と共同するこ

とにより容易に実施できる図上型訓練手法であり、近年、市町村職員を対

象にした図上型訓練としても活用されている。

対象となる災害や参加者の立場・役割に応じて様々な訓練形式がとられ

るが、どのような場合でも、地図を使い、これに透明なビニールシートを

かぶせて油性ペン、付箋紙などを使い書き込みながら、参加者全員で議論

する点で共通する。このことにより地域の防災力や災害への強さの程度を

把握し、災害対応上の課題についての理解を深めていくことができる。

この訓練もアと同様、従来の図上訓練方式の有する問題点・課題を解決

する図上型型訓練として位置づけられる。

災害図上訓練 DIG(ディグ)風景(各務原市) ボードへの書き込み

イ 災害図上訓練DIG(Disaster Imagination Game、災害想像力ゲーム)

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② 訓練実施 (進行管理者・運営担当)

③ 評価・検証 (進行管理者・運営担当・訓練参加者)

図1.2 災害図上訓練DIG(災害想像力ゲーム)のフロー

① 事前準備・企画 (訓練企画者・進行管理者=進行役)

(運営担当=スタッフ) (訓練参加者=プレイヤー)

(進行管理者・運営担当) (訓練参加者)

中級編

応用編

テ ー マ の 決 定

参加者等の見積

配布資料作成

会場設営

地図・小道具類手配

参加者等確定

グループごとの発見内容の記載・整理

オリエンテーション (グループ分け、イメージ共有)

基本地図(自然条件、町の 構造)の作成を指導、助言

対象地震、被害想定資料整理

参加者呼びかけ

発見内容の発表・討論

反省会(評価・検証)

スタッフの役割分担確認

会場手配

起り得る被害書き込み

人的・物的防災資源記入 ・・・ 初級編

実践イメージトレーニング

参加者顔合わせ

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ウ 図上シミュレーション訓練(ロールプレイング方式の図上訓練)

《概要・特徴》

・ 状況付与票などのシナリオに基づく意思決定、役割行動の検証に適す

・ 最も普及している方式であり、経験の蓄積が豊富な図上型訓練

・ 訓練目的・課題設定如何で、様々な内容の訓練にステップアップ可能

・ 多人数(機関)に跨る訓練も可能だが、準備・実施に労力とノウハウ要す

図上シミュレーション訓練は、「ロールプレイング方式の図上訓練」とも

言われる。災害時の特定の状況下で予想される状況等を記述したシナリオ

(状況付与票等による)を、進行管理者から訓練参加者へ付与し、それに対

し訓練参加者が行うべき意思決定・役割行動を回答する(連絡票等による)

ことにより訓練を進行させる形式の図上型訓練である。 これまでに地方公共団体で実施されている図上型訓練の中で最も普及し

ている方式であり、テーマによっては複数の組織に跨る大規模な訓練も実施

できる。一方、状況付与票の作成や訓練参加者が多数に及んだときの訓練の

準備・運営にノウハウを要する。

被災地からの情報を集約し、地図やホワイトボードに集約する市町村職員

ロールプレイング訓練実施時に県庁に設置

したコントローラー部(岐阜県危機管理室)

ウ 図上シミュレーション訓練(ロールプレイング方式の図上訓練)

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図1.3 図上シミュレーション訓練(ロールプレイング方式)のフロー

① 事前準備・企画 (訓練企画者・進行管理者・運営担当)

② 訓練実施 (進行管理者・運営担当)

(進行管理者・運営担当) (訓練参加者)

③ 評価・検証 (進行管理者・運営担当)

(訓練参加者)

訓 練 目 標 の 設 定

訓練課題・内容などの設定

状況付与の設定

状況付与票の作成

会場準備

被害および状況の想定

小道具・地図などの準備 司会・進行管理の準備

作戦会議

状況付与

オリエンテーション

応急対策・対応のシミュレーション

総括・講評(全体討議・とりまとめ)

グループごとの評価・検証開始指示

グループ別報告

グループ内評価

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表1.1は、前述ア~ウの手法別に図上型訓練の概要・特徴等を整理し

たものである。訓練担当者においては、訓練の準備に要する人員・体制、

時間、資料・設備・資機材等も大きな関心事であることを考慮し、これ

らの項目についても比較検討の指標に加えて整理した。

表1.1 図上型訓練の概要・特徴等(訓練方式選択の指標として-その1)

状況予測型図上訓練 (イメージトレーニング方式)

災害図上訓練DIG (災害想像力ゲーム)

図上シミュレーション訓練 (ロールプレイング方式)

特徴・効

最小限の条件設定のもと

訓練参加者自身に状況を

予測させ、意思決定を促

す訓練。容易に実施でき、

かつ参加者に主体性を持

たせられる。

当該地域の地図を用意す

れば手軽に実施できる。

自主防災組織、ボランテ

ィア等と行政が共同で実

施することで、全体とし

ての防災力の向上を図る

ことができる。

特定の状況下での対応を

状況付与票と情報交換に

基づき意思決定能力を習

得する訓練。ただし、資

料作成など事前準備に労

力とノウハウを要す。

最も適し

た訓練の

内容等

当該市町村職員が地震時

にどのような状況におか

れるかを予想させたり、

状況付与の制約を受けず

防災上の問題点・課題を

把握するのに適する。

地図を活用することで地

域の防災上の問題点・課

題を具体的・視覚的に把

握するのに適する。

訓練目的・テーマを絞っ

て様々な状況付与を行う

ことで、複数の部局、関

係機関が連携した防災対

策の意思決定や役割行動

を検証するのに適する。

訓練スタ

ッフの人

数、体制

少ない (概ね、当該市町村の人

員で対応可能。評価・検

証に外部の専門家の協力

を得ると効果が上がる場

合もある。)

少ない (初級・中級・応用編等 メニューにより異なる。

地図作成のノウハウを有

する専門家の協力を得る

と効果が上がる場合があ

る。)

比較的多い (参加機関の数・規模・ メニューにより異なる。

規模が大きくなる場合、

専門機関への委託が必要

になる場合もある)

準備に要

する時間

少ない (条件付与を追加する場

合、図上シミュレーショ

ン訓練方式に近づく)

少ない (中級・応用編にステッ

プアップする時は資料作

成等に時間を要す)

比較的多い (選択する規模・ メニューによる)

準備すべ

き資料・

設備・資

機材等

少ない (会場のほか、必要資料・

機材等は最小限ですむ)

少ない (会場及び地図は必須。

訓練の効果を上げるた

め、各種ツールを要す)

比較的多い (メニューによるが、参加

組織数・人数に応じた会

場、地図、状況付与票・

連絡票、その他の資料・

機材・ツールを要す。)

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表1.1 図上型訓練の目的と特性(訓練方式選択の指標として-その2) 状況予測型図上訓練

(イメージトレーニング方式)

災害図上訓練DIG (災害想像力ゲーム)

図上シミュレーション訓練 (ロールプレイング方式)

事前準備

事項

1 訓練計画の作成

2 会場、施設・設備・資

機材等の確保

3 関係者への事前説明

4 資料作成

(「想定」票、対応記入票、

評価・検証シート)

5 直前準備

1 テーマの決定

2 人数把握

3 会場手配、参加呼かけ

4 地図、配付資料、小道

具類の用意

5 スタッフ役割分担確認

6 会場設営

7 受付準備

1 訓練目標、課題設定

2 会場、施設・設備・資

機材等の確保

3 関係者への事前説明

4 資料作成

(災害・被害条件設定、

状況付与票・連絡票等)

5 直前準備

訓練当日

の実施事

1 資料配布

2 訓練説明-オリエンテーション

(スケジュール、訓練の特徴、

進め方、検討会の方法)

3 訓練開始、進行

・想定票配布

・対応記入票への記入

・対応記入票の回収

・検討会用資料作成準備

1 オリエンテーション

(DIGの解説、ルール説明、

アイスブレーキング、VTR活用)

2 DIG実施

・基本地図(自然条件)、

(町の構造)の作成

・人的物的防災資源記載

・起こり得る被害記載

[ランクに応じ、メニュー選択]

1 オリエンテーション

(役割分担、時間設定、

フェーズ、進行ルール等説明)

2 作戦会議

3 シミュレーション実施・展開

・開始(付与票配布)

・読み上げ(災害覚知)

・対応検討、発表

・連絡票で問い合わせ

・統制班(=進行管理者)

の確認行動

評価・検

証事項

1 参加者発表、意見交換、

質疑等

対応記入票への記載内

容の発表、質疑応答、

「想定」におけるポイント

確認を、経過時間ごとに

繰り返す

2 全体的な評価・検証

評価用素材を用いた評

価・検証(アドバイザー

による講評を加える場

合もある)

1 参加グループ毎の発見

内容の記載、整理

2 発見内容の発表・討論

(参加者で共有)

1 グループ内の評価

グループごとに、対応

内容を確認、自己評価

(参加者が広域の場合

と単独の場合で評価項

目等が異なる)

2 総括・講評

全体討議、とりまとめ

その他

図上型訓練をとにかく始

めたい場合、最初に実施

することで、課題の発見

に役立つ。この方式の訓

練を行ってから、他の方

式の訓練を行うとよりそ

れぞれの訓練の効果が上

がる。

地域住民、ボランティア

等と行政が共同で実施す

ることで、相互に共有す

べき防災上の課題を見出

すのに適する。広範囲な

地域に及ぶ場合、対応が

困難な場合がある。

当該地域にとって蓋然性

あるシナリオとしたり、

時間フェーズに対応した

きめ細かな状況付与を行

うのにノウハウの蓄積と

労力・体制を必要とする。

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【参考】訓練の種類と特徴

当該市町村が具体的に図上型訓練を準備・運営するには、以下に模式的に

示すように、各手法ごとの特質・特徴等の相違を理解しておく必要がある。 図の横軸は、「防災担当者の知識・能力(の習熟度)」の程度、縦軸は、図

上型訓練にかける「費用・労力(人員・時間含む)」の程度を示す。

担当者の習熟度が低く、訓練に費用・労力をかけられず簡易な訓練を志向

する場合、「災害時の想像力を養う」ことに重点を置いた「状況予測型訓練(イ

メージトレーニング方式の図上訓練)」や「災害図上訓練DIG」が選択肢となる。 ここで、「状況予測型訓練(イメージトレーニング方式の図上訓練)」は、他の手法

と異なり、付与情報に制約されない訓練を少ない費用・労力と習熟度のもと

で実施でき、当該市町村の防災の課題をくまなく把握するのに適する。また、

「災害図上訓練DIG」は、地図を利用した防災力の把握作業を図上型訓練

に発展させた点に特徴があり、簡易な図上型訓練といわれている。

一方、担当者の習熟度が高く、費用・労力がかかる緻密な図上型訓練を志

向する場合、「災害時の対応力を鍛える」ことに重点を置いた「図上シミュレ

ーション訓練(ロールプレイング方式の図上訓練)」が選択肢となる。この手法は、

経験と労力を必要とするが、事前に状況付与を綿密に設定するほど、設定し

たシナリオ条件に対応した意思決定能力と対応力を鍛えられ、応急計画や防

災施策の見直しに反映するための詳細な資料を得ることも可能となる。

このように、図上型訓練は当該市町村の目的・ニーズにかなった手法で始

め、訓練の習熟度に応じて段階的にステップアップしていくことが望ましい。

低 ← 防災担当者としての知識・能力 → 高

緻密

シミュレーション型

DIG

状況予測型

災害時の対応力を 鍛える訓練

災害時の想像力を養う訓練

費用・労力

簡単

ビギナー エキスパート

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(4)図上型訓練ではどのような点に留意すべきか

図上型訓練を効果的に実施するための共通的な留意事項を以下に示す。 ア 失敗が多数見られる訓練こそ成功であると考える

図上型訓練を行う際、様々な対応上の失敗や問題が生じることを懸念

するあまり、当たりさわりのない訓練を準備しがちであるが、むしろ、

結果として失敗や問題点が多数発見されず、次に繋がる課題が把握でき

ないような図上訓練は失敗であると考えるべきである。

イ リアリティを確保する

図上型訓練では、実際の役割とは異なる役割を訓練参加者に付すこ

とがある。この場合、全くの仮想の地域や役割を付すことは、特別な

目的や条件の場合を除き避けるべきである。 なぜなら、図上型訓練は擬似的な災害環境下で実際の災害時に役立

つ意思決定や状況判断等を求めるものである。その意思決定等の現実

性、有効性を高めるためには、訓練参加者の現在の役割や自らの居住

する地域をベースに回答させるのが最良であるからである。

ウ 職務代行を経験させること

地震災害時には、上司が出張等で不在といった事態が往々にして生

じる。そのような事態に的確に対応するには、現職での役割だけでな

く、上司の役割を代行することが定められている職員にその役割を繰

り返し体験させることにより、より実践的な意思決定能力等を養成す

ることが重要である。

エ 訓練の目的を絞り、運営体制を適性に

初めて図上型訓練を行う場合、複数の課や関係機関相互の意思決定、

役割をすり合わせるため、多大な調整や確認作業を要する場面が生じる。 図上型訓練の本来の長所は、実働訓練に比して「準備が容易(よって

何度でもできる)」というものである。この長所を生かすためには、「訓

練のテーマや対象を絞る」(例えば、本部設置や避難対応初動対応に絞

ったり、防災主管課のみ対象とするなど)、「訓練規模を縮小する」、

「訓練を企画・運営する組織を肥大化させない」などが必要である。

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また、どのような訓練を行い、どのような能力を養成したいかによ

り訓練のスタイルや進め方が異なる。例えば、首長や幹部を対象にする

図上型訓練としたい場合はトップの意思決定に主眼を置く訓練となり、

職員を対象にする場合は実務レベルの意思決定と対応に主眼を置くな

ど、訓練のポイントが変わる。職員の場合も、一般職員を対象にする場

合と防災担当課職員を対象にする場合とで訓練のレベルが異なる。

オ 当初は課題発見を、そののち実践的な技能習得を 訓練は災害事象の進展速度に照応させた時間管理を行いながら進め

るのが本来のあり方であるが、初めて図上型訓練を行う場合は、予想以

上に時間を要する場面が多々生じる。 そのようなときは、時間管理を厳密に行おうとは考えずに可能な限り

課題の発見に努め、課題発見を目的とした図上型訓練を何度か繰り返し

た(基本的な課題が解決された)後に、厳密な時間管理のもとで実践的

な技能を習得する訓練に移行するのが適当である。

カ 訓練における時間設定(タイムスパン)を柔軟に行う

図上型訓練の時間は、訓練目的に応じて設定すればよい。実時間でな

く倍速~数倍速の時間経過を設定したり、状況によっては特定の時間帯

を割愛することも可能である。ただし、このような訓練上の時間設定を

どのように設定しているかを、共通の掲示用ボード等で時刻表示をする

などの方法で、進行管理者や参加者の間に十分に周知・徹底しておくこ

と。

キ 評価・検証にあてる時間を確保する

図上型訓練のシナリオ等の資料作成の準備に要する時間の多さに比

し、評価・検証(反省会や意見交換、講評等)のための資料作成等に充て

られている時間が少ないケースが多い。訓練当日の評価・検証に割り当

てられる時間配分についても同様である。評価・検証の効果を考えると

現状の数倍の時間が充てられてもよいように思われる。