第3章 宮城県の山・平野・川・海の課題 県内全域 ·...

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第3章 宮城県の山・平野・川・海の課題 40 県内では豊かな自然を守り育み,持続的に利活用するための取組が様々な組織により行わ れていますが,その一方で様々な課題も抱えています。本章では,県内の自然環境や人と自 然の関わりについての課題を県内全域のほか山,平野,川,海の 4 つの地域に分けて,その 背景とともに整理しました。 (1)野生生物が住む良好な自然環境の減少 (市街化が進み,農地や森林が減少) 昭和 47 年から平成 25 年までの土地利用の推移を見ると,最も面積が減少したのが農地 406 km 2 の減少(昭和 47 年比で 24%減),次いで森林が 173 km 2 の減少(同 4%減)と なっています。逆に,宅地は 178 km 2 (同 70%増),道路は 124 km 2 (同 64%増)増加し, 半世紀の間に都市的な土地利用が進みました。 宮城県における過去 50 年間の土地利用の推移 出典:宮城県震災復興・企画部(平成 25 年)宮城県社会経済白書 平成 24 年度版 (絶滅のおそれのある生きものの増加) 本県ではこれまでに鳥類 370 1 ,植物 3,365 2 など多くの生きものが確認されてい ます。平成 8 年度から平成 12 年度にかけて,希少野生動植物保護対策事業として県内に生 息・生育する動植物の分布状況を調査し,絶滅のおそれのある動植物(絶滅危惧Ⅰ類及び絶 滅危惧Ⅱ類に選定された種など)の状況を平成 13 年に「宮城県の希少な野生動植物-宮城 県レッドデータブック-」として発表しました。その後,平成 25 年に見直しが行われ, 605 第3章 宮城県の山・平野・川・海の課題 背景 課題 県内全域 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 昭和 47 その他 宅地 道路 水面・河川・水路 原野等 森林 農地 平成 25

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Page 1: 第3章 宮城県の山・平野・川・海の課題 県内全域 · 宮城県における過去50年間の土地利用の推移 出典:宮城県震災復興・企画部(平成25年)宮城県社会経済白書

第3章 宮城県の山・平野・川・海の課題

40

県内では豊かな自然を守り育み,持続的に利活用するための取組が様々な組織により行わ

れていますが,その一方で様々な課題も抱えています。本章では,県内の自然環境や人と自

然の関わりについての課題を県内全域のほか山,平野,川,海の 4 つの地域に分けて,その

背景とともに整理しました。

(1)野生生物が住む良好な自然環境の減少

(市街化が進み,農地や森林が減少)

昭和 47 年から平成 25 年までの土地利用の推移を見ると,最も面積が減少したのが農地

で 406 km2の減少(昭和 47 年比で 24%減),次いで森林が 173 km2の減少(同 4%減)と

なっています。逆に,宅地は 178 km2(同 70%増),道路は 124 km2(同 64%増)増加し,

半世紀の間に都市的な土地利用が進みました。

宮城県における過去 50年間の土地利用の推移

出典:宮城県震災復興・企画部(平成 25年)宮城県社会経済白書 平成 24年度版

(絶滅のおそれのある生きものの増加)

本県ではこれまでに鳥類 370 種※1,植物 3,365 種※2など多くの生きものが確認されてい

ます。平成 8 年度から平成 12 年度にかけて,希少野生動植物保護対策事業として県内に生

息・生育する動植物の分布状況を調査し,絶滅のおそれのある動植物(絶滅危惧Ⅰ類及び絶

滅危惧Ⅱ類に選定された種など)の状況を平成 13 年に「宮城県の希少な野生動植物-宮城

県レッドデータブック-」として発表しました。その後,平成 25 年に見直しが行われ,605

第3章 宮城県の山・平野・川・海の課題

背景

課題

県内全域

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

昭和 47年

その他

宅地

道路

水面・河川・水路

原野等

森林

農地

平成 25 年

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第3章 宮城県の山・平野・川・海の課題

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種※1が記載されました。植物では新たに 77 種が絶滅のおそれのある種として選定されま

した(植物も含めて平成 25 年に公表した宮城県レッドリスト全体では新たに 130 種が掲

載されました)。このほか,昆虫類では,種ごとに蓄積したデータや知見に基づいて絶滅の

危険性の程度を示す区分の再評価を行ったほか,新たに 23 種を絶滅のおそれのある種に

選定しました。津波の影響による海岸地域の無脊椎動物類や淡水産貝類,海浜植物等の減

少もありますが,震災以前から続く開発による生息・生育環境の縮小や消失によって,本

県の野生生物は依然として厳しい状況に置かれていると言えます。レッドリストは今後,

東日本大震災後の環境変化を踏まえた見直しが行われる予定です。

※1 宮城県(平成 25年)「宮城県の希少な野生動植物-宮城県レッドリスト-」

※2 宮城植物の会(平成 12年)宮城県植物目録 2000

(外来生物の分布拡大)

開発等による土地の造成や植樹の際の土砂に混じっての移動,放流時の混入,飼育個体の

野外への放棄・逃げ出しなどの人為的な要因によって自然の生息地外に入り込んだオオクチ

バスやアメリカザリガニ,ウシガエル,セイタカアワダチソウ,アレチウリ等の外来生物が

分布を拡大しつつあります。地域の生態系に大きな影響を及ぼす外来生物として,国の外来

生物法に基づいて「特定外来生物」に指定されているオオクチバス,ブルーギル,ウシガエ

ル等はほぼ全県に分布していると見られます。また沿岸部では近年,アサリなどの二枚貝を

捕食するサキグロタマツメタが分布を拡大しています。旺盛な繁殖力から個体数を増やした

これらの外来生物によって,在来の生きものが捕食され,生息地を追われることによる個体

数の減少など,深刻な生態系への影響が懸念されています。

これまでに本県で確認された外来生物の例

哺乳類 アライグマ

鳥類 ガビチョウ

両生類 ウシガエル

魚類 ブルーギル,コクチバス,オオクチバス

爬虫類 アカミミガメ

甲殻類 アメリカザリガニ

植物 セイタカアワダチソウ,オオブタクサ,アレチウリ,オオフサモ,

オオハンゴンソウ,ハリエンジュ

貝類 サキグロタマツメタ

※下線は外来生物法において特定外来生物に指定された外来生物

出典:「環境省東北地方環境事務所(平成 25年)東北地方の外来生物」をもとに作成

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第3章 宮城県の山・平野・川・海の課題

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(再生可能エネルギーの施設整備に伴う環境への影響)

平成 23 年の東日本大震災を契機に,エネルギーの持続的な利用への関心が高まり,再生

可能エネルギー(太陽光や風力,水力,バイオマス,地熱等)の検討・導入が各地域で進め

られています。エネルギーの持続的利用の観点から見ると,自然への影響がより小さい再生

可能エネルギーの利用の推進が期待されますが,その一方で,大規模な施設の整備に伴う環

境への影響(風車の設置による野鳥の衝突‘バードストライク’の発生,メガソーラー設備

の設置による森林など緑地の減少,草地等における日照環境の変化,それらに伴う生態系へ

の影響等)が懸念されており,慎重な対応が求められます。

堰などで閉じられた沼やため池などの閉鎖的な水辺では,ブルーギ

ルなどの外来生物が入り込むと,メダカやタナゴ類,エビ類などの在

来の生きものが捕食によって姿を消してしまう可能性があります。

※ 写真は登米市内の農業用のため池

県内に設置された大規模な太陽光発電施設

固定価格買取制度の影響もあり,東日本大震災以降に,県内では,

太陽光発電のほか,風力や小水力,バイオマスなど様々な再生可能

エネルギーの検討・導入が進んでいますが,地域の生態系や景観へ

の影響,発電や維持管理のコストなども含めて,長期的な視点から

見て持続的なものになっているか,慎重に見極める必要もありま

す。

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第3章 宮城県の山・平野・川・海の課題

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(2)生物多様性に関する情報の周知・共有

(自然環境に関する情報の発信)

本県では様々な組織による環境保全の取組が各地で行われています。また,近年では自然

再生や野生鳥獣対策等,同じテーマや目的の下で,複数の地域や組織が参画し,課題の解決

に向けた連携を図る場として,協議会等のネットワーク組織を立ち上げて活動するケースが

増えています。ネットワーク組織では,成功事例,課題解決に向けた対応策,あるいは関連

する情報の共有が図られています。それらの情報等の多くは,ウェブサイトや広報誌,講演

会等の様々な媒体や機会を通じて発信されますが,情報の発信頻度や整理の仕方などが様々

に異なっています。

(生物多様性に関する認知度)

平成 22 年に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第 10 回締約国会議(生物多様

性 COP10)を契機に,国内では生物多様性の考え方が普及されるようになりましたが,生

物多様性という言葉の指している範囲や内容が非常に多岐にわたることもあり,一般にはま

だ十分に浸透していないと言えます。平成 24 年に環境省が実施した「環境問題に対する世

論調査」においても,本県を含む東北 6 県において,「生物多様性という言葉を聞いたこと

もない」との回答が約 50%にのぼりました。

■参考■ 平成 24 年度 環境問題に対する世論調査(環境省)における東北 6 県の

「生物多様性」という言葉に対する認知度

背景

〔設問〕あなたは「生物多様性」の言葉の意味を知っていますか?

※ 全国の 20歳以上の男女 3,000人を無作為抽出し,個別面接形式で 1,912人の回答を回収。全国

平均は,内容を知っている(17%),内容は知らないが,聞いたことがある(34%),聞いたこと

もない(49%)。

※ 四捨五入しているため,合計値は 100%にならない。

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第3章 宮城県の山・平野・川・海の課題

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(県内の自然環境に関する情報や取組を網羅する受け皿づくり)

本県で現在行われている自然環境に関する取組は,対象とするテーマや取組の範囲等が非

常に細分化しており,複数の分野や地域を横断する形で網羅的に情報を拾い出すことが難し

い状況にあります。膨大で多岐にわたる情報を一元化することは多くの時間と労力等を必要

とする作業ですが,情報を共有し,必要に応じて検索・取出しができるデータベースのよう

な受け皿の整備の必要性が高まっています。

(子ども達が自然に触れ・親しむ機会の提供)

子どもの成長過程において身近な自然は,遊びや様々な自然体験を通じて自然の美しさな

どを感じる豊かな感性を磨く貴重な場ですが,家庭や学校において日常的に触れ親しむ機会

が少なく,子ども達にとって自然が身近な存在とは言えない状況にあります。

(生物多様性に関する情報の整理・発信)

ニホンジカやツキノワグマ等の野生動物や外来生物の分布など,全県的な対応が必要とさ

れる課題に関する情報について,情報の収集は行われているものの,その収集方法や整理の

仕方が組織によって異なるために,関係する組織が現状や問題点をうまく共有できずにいる

ケースもあると考えられます。膨大な情報を共有するための情報整理の在り方(地図化やグ

ラフ化等による可視化等)が課題となっています。

課題

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第3章 宮城県の山・平野・川・海の課題

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(1)担い手の減少により放置される農地や森林の増加

(人口の減少に伴う農業や林業などの担い手の高齢化と減少)

本県は国の総人口の約 2%に相当する 232 万 9,439 人(平成 26 年 1 月現在)の人口を有

していますが,昭和 55 年以降の人口の推移を見ると,平成 15 年をピークに減少傾向にあ

ります。また,総人口に占める 65 歳以上の割合(高齢化率)は年々増加しており,平成 23

年現在で約 22%となっています。

平成 15 年に厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が発表した市区町村別の将来人

口推計によると,平成 42 年には県内の全市町村で,65 歳以上が総人口に占める割合が 20%

以上になるとの予測が出ています。さらに,この割合が 30%を超えるいわゆる「限界集落」

(市区町村単独で自治機能の維持が困難な集落)が今後増加する自治体が増えると予測され

ています。しかし,この人口推計は東日本大震災以前に行われたことから,予測数値は変化

している可能性があります。

出典:国立社会保障・人口問題研究所(平成 25年 3月) 「日本の地域別将来推計」

山 平野

背景

65歳以上の人口割合の高い市町村の推移(推計)

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第3章 宮城県の山・平野・川・海の課題

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産業別労働人口は,第一次産業が 53,460 人(全体の約 5%),第二次産業が 230,990 人(同

22%),第三次産業が 658,080 人(同 71%)です。第一次産業は,農業 43,650 人,林業 1,450

人,水産業 8,360 人です。農林水産業は本県の基幹産業の一つですが,農業及び漁業の従事

者が過去 30 年間で 3 分の 1 以下に減少するなど,少子高齢化や,農林水産業を巡る厳しい

経済情勢の影響等により,農業及び水産業の従事者は過去 30年間で3分の1以下に減少し,

担い手の安定確保が課題となっています(平成 22 年国勢調査)。

(里山の良好な自然環境の縮小)

県土の約 6 割を占める森林と,約 2 割を占める農地は,本県の土地利用を考える上で重

要な空間ですが,農家や林家の高齢化や減少とともに,十分に維持管理が行き届かない森林

や農地が増加しつつあります。かつて,水田・畑・平野部の近くにある丘陵は,農産物や林

産物を得る場(里山)として,人為的な管理の下で持続的に利用されてきました。適度に人

の手が入ることで,下草が生えた明るい雑木林や所々に点在する草地,ため池や小川,湧水

などの多様な環境が生まれ,様々な生きものが定着して里山の生態系が形成されました。し

かし,昭和 30 年代以降の高度経済成長期を境に,石炭や石油等をエネルギー源とする機械

化の急速な進展や,貿易の自由化によって木材等の安価な外国製品が大量に輸入されるよう

になったことにより,里山の生活の場・生産の場としての機能が急速に失われていきました。

また,都市部への人口や産業の集中,さらには少子高齢化等の社会情勢の変化もあって,こ

れまで里山を支えてきた農家や林家等の担い手が減少したことで,土地が荒れ,里山特有の

多様な環境が失われつつあります。

(耕作放棄地や放置森林の増加による野生動物の行動圏の拡大)

放置された森林や農地は,イノシシやツキノワグマ,ニホンジカ,ニホンザル等が生息地

として利用する可能性が指摘されており,放置された森林や農地が今後も増加することで,

野生動物が人里に近づきやすい環境がさらに増え,農作物や人の被害が増加することが懸念

されています。特に,ニホンジカについては樹皮や草花,ササ等の植物への捕食圧が強く,

森林の下草が根こそぎ捕食されることで,植生の基盤となる表土の流出が懸念されています。

課題

出典:総務省「国勢調査報告」をもとに作成

県内の産業別人口(15歳以上)

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第3章 宮城県の山・平野・川・海の課題

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近年,人里近くでのニホンジカやイノシシ等の野生動物の目撃事例が増加する傾向にあり

ますが,これは,狩猟者の高齢化と減少によって狩猟による捕獲圧が低下したことや,野生

動物の肉から放射性物質が検出されたことによる狩猟者の意欲減退も一因と考えられます。

(放置森林の増加による土砂災害の危険性)

植林された人工林が放置されることで,木々がうっそうと生い茂り,下草がほとんど生え

ない「土砂流失を引き起こしやすい環境」が増えることが懸念されています。また,伐採収

穫後に再造林されずに放置されると,適切な更新が行われず,林地の荒廃を招くことがあり

ます。このような放置森林の増加は,不法投棄の温床になったり,降雨に伴う土砂流失によ

る災害の誘発にもつながるおそれがあります。

(2)良好な湿地環境の減少

(干拓や開発による湿地環境の減少)

今から約 6,000 年前の地球規模の温暖化によって海面が上昇した際(縄文海進)に,本県の

平野部に広大な湿地ができたと言われています。江戸時代に入ると,現在の栗原市周辺等を中

心に湿地が水田として干拓され,国内でも有数の穀倉地帯として栄えました。明治時代以降も

干拓や開墾が進み,多くの沼や湿地が姿を消していきました。平成 12 年に国土地理院が発表

した湖沼湿原調査により,本県では,明治時代以降の 100 年間で約 9 割の湿地が消失したこ

とが分かりました。湿地は生態系の中でも特に多様性が高いとされているだけに,湿地環境の

激減が本県の生物多様性に及ぼした影響は小さくありません。

本県における湿地面積の推移

背景

61.67k㎡

4.83k㎡

0.00

10.00

20.00

30.00

40.00

50.00

60.00

70.00

明治・大正時代 現在

(単位:k ㎡)

100 年間で湿地は

約9割が減少

※ 明治・大正時代の湿地面積は,明治 19年~大正

13年,「現在」の湿地面積は昭和 50年~平成 9年

の間に作成された 5万分の 1の地形図に記入され

た湿地記号の範囲を機械で読み取った面積。

出典:国土地理院(平成 12年)湖沼湿原調査

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第3章 宮城県の山・平野・川・海の課題

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(ウイルス感染拡大の危険性が高い環境下にある渡り鳥)

本県は,国内でも有数のガン類やカモ類等の渡り鳥の飛来地となっていますが,開発等に

よって湿地が減少し,少数の湿地に多くの渡り鳥が集中する状態が続いています。環境省が

実施しているガンカモ類の調査によると,本県はガン類とハクチョウ類の国内最大の飛来地

(都道府県別)となっており,ガン類の約 83%(約 153,000 羽),ハクチョウ類の約 30%

(約 21,000 羽)が飛来しています。特にマガンについては,国内に飛来する個体の約 9 割

(約 15 万羽)が集中する過密な状態にあるため,ウイルス等による感染症の急速な拡大が

懸念されています。

課題

国内のガン類の飛来割合

(都道府県別,平成 25年度)

国内のマガンの飛来割合

(都道府県別,平成 25年度)

出典:第 44回ガンカモ類の生息調査報告書(平成 25年度)

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第3章 宮城県の山・平野・川・海の課題

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水環境の悪化

(市街地の拡大や河川流域の人口増加による環境負荷の増大)

第二次世界大戦後から高度経済成長期を経て現在に至るまで,仙台市などの都市部では人

口や産業の集中が進み,それとともに市街地が拡大していきました。人口の増加とともに家

庭や事業所などから排出される排水量が増加し,河川への負荷は大きなものとなっています。

(適正な水質の維持)

水質汚濁防止法に基づき実施している公共用水域常時監視の平成25年度における類型

指定水域の水質結果では,59 水域中,58 水域で環境基準を達成しています。その一方で湖

沼の水質は,12 水域中,環境基準を達成したのは 1 水域にとどまっており,効果的な水質

改善の取組が求められています。

背景

課題

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第3章 宮城県の山・平野・川・海の課題

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(1)東日本大震災の復興事業における環境変化

(地震と津波による環境変化)

東日本大震災の地震に伴う地殻変動により,沿岸部は最大で 1m前後の地盤沈下があった

ほか,津波の浸食によって海岸線が内陸方向へ後退し,砂浜や海岸林が消失するなど,自然

環境そのものが大きく変化した地域が見られます。その一方で,津波が引いた後の窪地に新

たに大小の湿地や干潟が出現したり,津波によってかく乱された土砂に含まれていた希少種

の植物の種子が発芽して群落を形成している例や希少な砂浜性の昆虫がこの4年間で再生

若しくは生態系が新しく成立した例も見られます。

沿岸部では,魚類やトンボ類をはじめ,湿地性の植物のほか,砂浜特有の植物や昆虫類等

が流出・消失しました。震災から4年が経過し,以前の環境が回復し,生きものが戻ってき

た箇所も多く見られますが,河口部のヨシ原等に生息していた希少種のヒヌマイトトンボな

どのように,津波によって生息環境ごと失われ,いまだに生息が確認されていない種も見ら

れます。

(震災復興事業による環境変化)

東日本大震災で甚大な被害を受けた県内の 20 市町において震災復興計画が策定され,県

が策定した震災復興計画との整合性を図りながら,復興事業が進められています。地震によ

り地盤沈下した土地の嵩上げに必要な土砂を確保するために,内陸の山地が切り開かれるな

ど,内陸部でも大きく地形が変化した箇所が見られます。また,土砂に混じって外来種の植

物の種子が拡散されるなどの影響が懸念されています。さらに,沿岸部や市街地の緑化に樹

種や草本が持ち込まれる場合,本来その地域に生育していた種(在来種)の存在が考慮され

東日本大震災の津波により流出したヨシ原

(北上川河口)

東日本大震災の津波により,北上川河口域に広

がっていた広大なヨシ原(写真左側の赤線内),

やその周辺に生息・生育した生きものが流出し

ました。

出典:国土交通省北上川下流河川事務所資料

課題

背景

震災前 震災後

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第3章 宮城県の山・平野・川・海の課題

51

ないこともあることから,外来種と在来種との交雑が起きる可能性が指摘されています。

加えて在来種の樹木や草本であっても,一種類の植物が大量に持ち込まれることによる生

物多様性の低下についても懸念されています。

沿岸部では,津波・高潮対策のための防潮堤や海岸防災林の基盤盛土などの整備が計画・

実施されています。大規模な津波を想定した海岸施設が整備されることで,海浜性の昆虫や

植物が生息・生育する環境の縮小・消滅や,沿岸の海洋から内陸にかけての自然のつながり

が分断されることが懸念されています。一部の地域では、砂浜や沿岸部の自然環境に配慮し

て,防潮堤や沿岸部の道路の線形を内陸側に引く(セットバック)などを検討している事例

もあります。

宮城県では,河川・海岸堤防の復旧に当たり,自然環境への配慮を行うため「環境アドバ

イザー制度」を創設しました。具体の取組は各地区の特徴に応じた動植物への配慮事項につ

いて,各分野の専門家・学識者より助言・指導を受けながら,自然環境と共存した復旧工事

を進めるものです。また,海岸林の再生には,林野庁で設置した「東日本大震災に係る海岸

防災林の再生に関する検討会」の提言を踏まえながら復旧を進めており,特に被災規模が大

きい仙台湾沿岸の海岸防災林の再生に当たっては,有識者の意見を聞く委員会を設け,貴重

な自然は残すなど防災機能確保と生物多様性保全との調整を図りながら進めています。

震災復興事業が行われている地域

(平成 25年現在)

出典:宮城県(平成 25年 10月)「復興の進捗状況」

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第3章 宮城県の山・平野・川・海の課題

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太平洋岸で整備が進む堤防工事

仙台市内(平成 26年 5月)

出典:国土交通省仙台河川国道事務所

仙台湾沿岸における堤防工事箇所

出典:国土交通省東北地方整備局資料