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第4章 日本の道路防災対策 4.1 日本の道路災害 日本は台風の常襲地帯に位置するとともに、地震、火山活動が非常に活発な自然条件下 にあり、様々な自然災害が発生しやすい環境下にある。従って道路災害の種類も多様であ り、災害対応に対する経験及びノウハウが豊富である。災害対応に際しては、道路管理者 が、事前通行規制の実施等の判断を含めて主導をとり、道路利用者の安全を図ることが必 要である。 4.1.1 日本の主要な道路災害 日本は、台風の常襲地帯に位置するとともに、地震、火山活動が非常に活発な太平洋プ レート境界である環太平洋地震帯・火山帯に位置しているため、毎年のように地震、台風、 豪雨、豪雪、土石流、地すべり、火山噴火などの数多くの自然災害に見舞われている。 日本の国土においては、隅々まで道路網が発達しており、上記災害が発生すると道路が 被災する場合も多く、道路災害の種類も実に多様である。 21

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第4章 日本の道路防災対策

4.1 日本の道路災害

日本は台風の常襲地帯に位置するとともに、地震、火山活動が非常に活発な自然条件下

にあり、様々な自然災害が発生しやすい環境下にある。従って道路災害の種類も多様であ

り、災害対応に対する経験及びノウハウが豊富である。災害対応に際しては、道路管理者

が、事前通行規制の実施等の判断を含めて主導をとり、道路利用者の安全を図ることが必

要である。

4.1.1 日本の主要な道路災害

日本は、台風の常襲地帯に位置するとともに、地震、火山活動が非常に活発な太平洋プ

レート境界である環太平洋地震帯・火山帯に位置しているため、毎年のように地震、台風、

豪雨、豪雪、土石流、地すべり、火山噴火などの数多くの自然災害に見舞われている。 日本の国土においては、隅々まで道路網が発達しており、上記災害が発生すると道路が

被災する場合も多く、道路災害の種類も実に多様である。

21

<落石・崩壊の事例>

◆◆国国道道 1111 号号鳴鳴門門落落石石災災害害((香香川川,,11999900 年年))

平平成成 22 年年 1100 月月 88 日日にに比比高高差差 6600mm ほほどど上上方方のの斜斜面面よよりり 11..4433tt のの岩岩塊塊がが落落下下しし、、落落石石防防止止

柵柵をを破破っってて道道路路にに到到達達しし、、通通行行中中のの観観光光ババススをを直直撃撃ししたた。。

落落下下経経路路

同同左左 拡拡大大 落落落落石石防防止止柵柵破破損損状状況況

落落下下岩岩塊塊

(出典 落下経路図:土と基礎 1991 写真提供:応用地質株式会社)

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<斜面崩壊の事例>

◆◆鹿鹿児児島島豪豪雨雨災災害害((11999933 年年)) 11999933 年年のの鹿鹿児児島島のの梅梅雨雨はは観観測測史史上上33位位のの降降水水量量をを記記録録しし、、梅梅雨雨末末期期かからら台台風風襲襲来来期期ににかか

けけてて県県内内各各地地でで土土砂砂災災害害がが頻頻発発ししたた。。ここののううちち、、77//3311~~88//22 ににかかけけてて鹿鹿児児島島県県中中部部地地域域をを襲襲

っったた雨雨はは総総雨雨量量 660000mmmm 以以上上、、最最大大時時間間雨雨量量 7700mmmm をを超超ええるる激激ししいい豪豪雨雨ととななっったた。。写写真真のの災災

害害事事例例はは 88//11 夜夜かからら 88//22 未未明明にに断断続続的的にに斜斜面面がが崩崩壊壊しし、、多多量量のの土土砂砂ががレレスストトラランン等等のの桜桜島島ササ

ーービビススエエリリアアのの施施設設にに流流入入ししたたももののででああるる。。

復復旧旧後後

災災害害直直後後

(出典:1993 年鹿児島豪雨災害,(社)土質工学

会,1995)

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<岩盤崩壊の事例>

◆◆国国道道 222299 号号第第 22 白白糸糸トトンンネネルル ((北北海海道道,,11999977 年年))

平平成成 99 年年 88 月月 2255 日日、、約約 2200,,000000mm33のの岩岩石石崩崩壊壊がが発発生生しし、、トトンンネネルル巻巻きき出出しし部部がが圧圧壊壊ししたた。。

崩崩土土のの最最大大到到達達距距離離はは約約 7700mmでで海海中中ままでで到到達達ししてていいるる。。人人的的被被害害はは生生じじてていいなないい。。崩崩壊壊発発

生生のの 33 日日後後ににはは、、残残存存ししてていいたた不不安安定定岩岩塊塊((約約 33,,880000mm33))がが二二次次崩崩落落をを起起ここししたた。。二二次次崩崩落落

にに至至るるままででのの経経過過ととししてて、、岩岩体体下下部部ででのの亀亀裂裂のの伸伸展展、、落落石石のの増増加加、、湧湧水水量量のの消消長長等等がが観観察察

さされれてていいるる。。

(出典:「土と基礎」,1997)

(出典:「斜面地質学」,日本応用地質学会,1999)

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<土石流の事例>

◆◆出出水水市市土土石石流流((鹿鹿児児島島,,11999977)) 11999977 年年 77 月月 1100 日日、、鹿鹿児児島島県県出出水水市市のの針針原原川川でで土土石石流流災災害害がが発発生生ししたた。。斜斜面面でで崩崩壊壊がが発発生生

しし、、斜斜面面おおよよびび針針原原川川をを土土石石流流がが流流下下、、下下流流のの針針原原地地区区のの集集落落がが被被災災しし 2211 名名がが亡亡くくななっったた

ほほかか、、家家屋屋やや道道路路がが被被害害をを受受けけたた。。流流下下ししたた土土石石流流のの体体積積はは約約 2200 万万mm33にに及及んんだだ。。

針針原原地地区区のの被被災災状状況況

((出出典典::斜斜面面地地質質学学,,日日本本応応用用地地質質学学会会,,11999999))

土土石石流流のの発発生生域域~~堆堆積積域域

((空空中中写写真真))

((出出典典::土土とと基基礎礎,,4455--1100((447777)),,11999977))

(出典:「土と基礎」,1997) (出典:「斜面地質学」,日本応用地質学会,1999)

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<地すべりの事例>

◆◆澄澄川川地地すすべべりり((秋秋田田,,11999977))

11999977 年年 55 月月 1100 日日にに秋秋田田県県のの澄澄川川温温泉泉でで約約 3355hhaa にに及及ぶぶ大大規規模模なな地地すすべべりりがが発発生生ししたた。。55月月 1100 日日のの午午前前 22 時時 3300 分分頃頃よよりり活活動動がが活活発発化化しし、、翌翌 1111 日日ににはは澄澄川川温温泉泉のの99棟棟がが全全壊壊すするるとと

とと もも にに 、、 土土 石石 流流 がが 発発 生生 しし てて 下下 流流 のの 温温 泉泉 やや 道道 路路 にに 被被 害害 をを 及及 ぼぼ しし たた 。。

(出典:「土と基礎、45-8(475)」,1997)

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4.1.2 道路災害対応の実例 道路防災対応の実例として、①一般国道 32 号(三好郡山城町西宇字大歩危)の道路防

災、②一般国道 32 号(大豊町大久保)土石流災害の2例について、その災害概要、現場

対応および行政対応を以下に示す。 ①一般国道 32 号(三好郡山城町西宇字大歩危)の道路防災 (出典:「四国の道路防災について考える 巻末資料」 四国地方整備局)

(1)災害概要 一般国道 32 号から 60~100m の岩壁斜

面で崩壊が発生し、崩壊岩塊は国道上の延

長 30m 間にわたり路面上に堆積した。岩塊

の重量は最大で 30t程度(4m×2m×1.5m)、崩壊土量は約 700m3 と推定される。

本災害時に、落石防護ネット,ストンガー

ド,張コンクリート擁壁,組立歩道等の施

設が破壊された。災害状況断面図を図 4.1

に示す。また、崩壊が発生した翌朝に崩壊

し残った箇所から小規模な落石が発生し、

国道まで達した。

災害時の降雨状況としては、前日に

46mm の降雨が見られたが、当日の降雨は 図 4.1 災害状況断面図 無かった。現場の状況は、崩壊箇所からの 湧水は認められず、崩壊箇所よりやや離れた沢状部に少量の湧水が認められた程度である。 地質的素因として、現地の近傍に大歩危背斜と呼ばれる褶曲背斜軸が分布し、それに伴

うテンションクラックが発達しやすい地質構造が存在することにあると考えられる。また、

崩壊した斜面の地質は、全体が砂質片岩であるため、片理面、へき開面及び横断節理面の

三種類の特徴的な分離面が発達し、これらの面を境にして岩塊になりやすい状況にあった。 今回の災害は、典型的な剥離型岩石崩壊と呼ばれるものであり、崩壊原因は、長期間の

降雨浸透や荷重等の作用によって表層部の割れ目の開口が進行し、転倒するような状態で

崩壊に至ったものと判断される。 (2)現場対応 災害現場は崩壊部に不安定化した浮石が多く分布し、引き続き崩落の可能性があるため、

応急対策として、これら浮石等の除去を行い、更に岩盤にスチールファイバー入りのモル

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タル吹付けを行い、斜面下の安全を確保した。その後、斜面及び路面の崩落岩塊の除去を

行い、仮設防護柵を2段(路面及び斜面)設置した上で車道路面及び歩道の復旧を行い、

片側交互通行を行った。この時点まで災害発生から約1ヶ月を要した。

その後、上部斜面対策、下部斜面対策及び路側防護対策を実施した。概略図を図 4.2 に

示す。 これら対策完了後に規制解除を行った。この時点で災害発生から約5ヶ月を要した。

図 4.2 落石防護擁壁構造図・上部斜面対策断面図

(3)行政対応 災害後直ちに前面通行止の処置を講じたが、災害後の現地状況を見て対策を検討した結

果、上部斜面には多くの亀裂があり、また不安定な岩塊が存在する等、極めて危険な状態

であり、復旧作業は人力を主とした作業になると判断され、仮復旧が完了して片側交互通

行により一般交通に解放できるようになるまで 50日程度必要であるという結論となった。 これを受け、行政側の対応として、(ⅰ)道路利用者、各関係機関等への周知、(ⅱ)通行止

施設および案内板等の充実、(ⅲ)地元観光業者への対応、(ⅳ)情報連絡体制の整備を行った。

以下にそれぞれについて示す。 (ⅰ)道路利用者、各関係機関等への周知 記者発表により、新聞・テレビ等による報道を依頼し、災害の規模,復旧の見込み等に

ついて道路利用者に対して広く周知を図った。さらに、警察,県,市町村等各関係機関に

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災害の規模、復旧の見込み等について説明するほか、道路利用者からの問合せの対応等に

ついての協力要請を行った。また当該地域が観光地のため、観光客等への対応として、一

般用チラシを作成し、通行止について周知徹底を図った。 (ⅱ)通行止および案内板等の充実 行楽シーズンであったため、特に一般車両の本地域への流入が多いことが考えられたた

め、図に示す情報版、道路案内板,ガードマンの配置を行い、適切な誘導を行った。ガー

ドマンには、一般車両に対する十分な説明を実施するように徹底がなされた。 (ⅲ)地元観光業者への対応 本地域は観光地であるため、被災地に近い観光関連事業者には個別に訪問し、事業説明

を実施し、長期間にわたる全面通行止めの処置に対する理解および協力を求めた。 (ⅳ)情報連絡体制

本災害の通行規制の問合せに対して、親切丁寧な回答をするため、関連工事事務所に情

報連絡担当職員を配置し、24時間体制による情報連絡体制の充実を図った。

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図 4.3 通行止施設設置図

30

②一般国道 32 号(大豊町大久保)土石流災害 (出典:「四国の道路防災について考える 巻末資料」 四国地方整備局)

(1) 災害概要

図 4.4 土石流災害概念図

一般国道 32 号上部の約

250mの箇所より山腹崩壊が

発生し、町道の欠壊を含む土

砂が流出し、国道を直撃する

大規模な土石流災害が発生し

た。台風の集中豪雨による災

害発生の危険から災害直前に

道路パトロールを実施した際

に、道路に流出する土砂に異

常を感じたため、直ちに車両

通行止の処置をとっていた。 土石流が国道に流出した

規模は約 350m3であったが、国道の山側沢部に不安定な土砂が 10,000m3~15,000 m3程

度堆積しており、降雨の比較的多い時期であったことから、応急復旧後も断続的な通行規

制を余儀なくされた。 災害は山腹崩壊土砂(15,000 m3)が、渓流を堰き止める形で堆積したために発生したもの

で、残存土砂には表流水の越流形跡が認められなかったことから、崩壊した不安定土砂に

渓流の表流水と雨水が浸透し、堆積土砂の下部が湿潤状態になったために浮力が作用し、

土石流化したものと考えられた。(図 4.4 参照) 被災地は、御荷鉾構造線近傍に位置し、三波川帯の泥質片岩(風化しやすい)が広く分

布している大規模な地すべり地帯となっている。本災害は、その風化しやすい泥質片岩の

粘土分などの細粒分を多く含む崩壊土が泥質片岩の岩盤上部に厚く分布し、それが集中豪

雨により土石流となったものと考えられる。 (2) 現場対応 災害発生後、国道に流出した土砂を取り除き、約 25 時間後には応急復旧は完了したが、

国道上部の斜面に不安定土砂が残存しており、降雨の多い時期でもあったために、24 時間

監視体制のもとで応急対策を実施した。実施した応急対策は、 (ⅰ)渓流の表流水迂回路排水路 (ⅱ)町道山側の仮設防護柵 (ⅲ)不安定土砂の流出防止工 (ⅳ)国道山側の仮設防護柵

31

(ⅴ)国道川側の地山補強 (ⅵ)土石流検知線の設置 である。各種対策工の設置位置を図 4.5 及び図 4.6 に示す。

図 4.5 応急対策工事断面図

32

図 4.6 大久保地区災害復旧平面図 (3) 行政対応 通行規制の検討と今後の災害復旧工事の検討を行うため学識経験者および専門家を含む

委員会を設立した。 委員会の結果を受けて、現場の監視については、応急対策工事と恒久対策工事の進捗状

況に合わせた形で行うものとし、災害発生から復旧工事完了までの工程を5段階にわけて

実施した。 また監視体制としては、現地と事務所の連携をはかるため、に示すようなフローチャー

トを作成し、それに従って実施した。

33

図 4.7 事前通行規制体制組織

34

図 4.8 事前通行規制体制組織 また、記者発表は、災害発生から6日後(監視体制等の方向付けが出来た日)に今後の

規制方向の説明を行った。その約5ヶ月後に片側通行規制解除の報告を行っている。

35

4.2 道路防災の基本的な体系

日本では、“道路管理”という概念について、災害時の危機管理及び防災管理に対して災

害が発生した際のみの特別な管理実施という捉え方はしておらず、通常時からの“道路管

理”の概念の中に危機管理・防災対策が組み込まれている。

図 4.9 に日本の道路管理の流れの中に位置付けられる危機管理・防災対策の位置付けを

示した。

全体道路ネットワーク

の管理

課題解決のための

政策・計画

政策・計画の実施

・トータルコストを考慮した道路整備

計画

・災害危険箇所を避けるルート計

・道路ネットワーク整備

危機管理・防災対策防災点検、防災対策工施工、

事前通行規制、管理体制強化、点検を主体とした道路維持管理の体系化、災害危険箇所の管

・計画手法、管理手法の整備・技術基準の策定

政 策

・現況・課題の分析、整備方針の決定、代替案検討・整備計画の策定

計 画

・計画説明、事業説明・関係者調整、用地取得(都市計画決定手続き,環境アセスメント手続き)

調 整

・発注・監督・検査

施 工

現況・課題の把握分析国土・地域の課題

道路ネットワークの課題

社会資本の課題

施設管理施設の機能の維持・確保占用等許認可、監督処分

地元住民からの苦情・要望への対

管  理

図 4.9 道路管理の流れ

36

4.3 道路防災の基本的考え方

4.3.1 道路管理者の役割

道路防災に際しての道路管理者の基本的な役割は、主に災害対応のための事前対策と事

後対策に分類される。事前対策としては、災害予防としての防災対策工の施工、情報伝達

系統の整備、危機管理マニュアルの整備、事前通行規制の実施等がある。事後対策として

は、道路交通が遮断された場合、迅速な道路機能回復のための復旧作業を通じた交通機能

の回復、被害拡大防止のための応急対策工施工等の応急復旧作業、再度の災害発生による

被害を防止し、継続的な道路機能の維持を図ることを目的とした本復旧等が主たる役割で

ある。

道路防災対策は、行政側の中でも特に道路管理者が主体的に実施しなければならない。

その理由は、道路の改築、維持、修繕等を適切に行い、道路が道路として通常備えるべき

安全性の確保に対しての責任が道路管理者に課されているという理由による。よって、災

害復旧等の道路防災対策も道路管理者の責任範囲にある。

<事前対策>

① 災害予防 4.3.2 項

・防災対策工の施工 4.3.2(1)項

・危機管理マニュアルの整備 4.3.2(2)項

② 事前通行規制 4.3.3 項 <事後対策> ① 災害復旧 4.3.4 項 ・応急復旧 4.3.4(1)項 ・本復旧 4.3.4(2)項

37

4.3.2 災害予防

災害による影響を最小限に喰い止めるには、事前に充分な災害予防対策を講じることが

重要である。

(1)防災対策工の施工 災害を予防するために最も効果を発揮する防災対策の一つが対策工の施工である。施設

整備に際しては、危険箇所(災害発生の恐れのある箇所)を点検等により十分把握し、危

険度、道路の重要度等を勘案しつつ緊急性の高いところから順次、計画的に所要の防災対

策工を施工し、道路の防災性の向上に努めることが重要である。 本技術移転ガイドブックで主に対象とする斜面災害の発生が予想される地点に対しては、

そのタイプにより、落石防護柵、落石防護網等の設置、ロックシェッドの設置等(詳細は、

4.4.4 項参照)により、災害の発生に対し事前の対策を講じている。

(2)危機管理マニュアルの整備

災害の発生を予測して、普段から危機管理対応のためのマニュアルを整備しておくこと

が、災害発生に際して迅速な対応に有効である。危機管理マニュアルであらかじめ決めて

おくべき項目を以下に示す。

①情報収集連絡の体制(連絡系統図など)

②組織体制(総括責任者、班長、班編成、情報連絡・広報、資材・機材の調達、

現場対応(調査、応急復旧)他機関との調整等) ③応援体制

④機器・資材の保管及び調達先

⑤通信手段(無線、電話、FAX等)

⑥その他(あらかじめ準備可能なこと)

38

4.3.3 事前通行規制

自然条件が厳しい日本では、道路を常に良好な状態に保持し、交通の安全を確保するこ

とは非常に困難である。そこで異常気象時において道路の通行が危険であると判断される

場合には、災害発生による人的被害を防止するために事前の通行規制を実施している。

日本では、以下に示す道路法により、道路管理者が異常気象時に通行を禁止し、又は制

限することができると定められている。

(通行の禁止又は制限) 第四十六条 道路管理者は、左の各号の位置に掲げる場合においては、道路の構造を保

全し、または交通の危険を防止するため、区管を定めて、道路の通行を禁止し、又は制

限することができる。 一 道路の破損、欠壊その他の事由に因り交通が危険であると認められる場合 ニ 道路に関する工事のためやむを得ないと認められる場合

(参考:道路法抜粋)

異常気象時において道路の通行が危険であると認められた場合には、あらかじめ通行規

制に関する基準を定め、規制する区間を指定し、災害発生による人的被害を防止するため

に事前の通行規制を実施している。 事前通行規制の実施に際して、道路管理者の担うべき役割としては、異常気象時通行規

制区間の指定、道路通行規制基準の作成、道路通行規制の実施及び解除等が挙げられる。

39

4.3.4 災害復旧

災害復旧には、応急的に短期間で復旧対策を実施し、災害発生箇所の監視を強化しなが

ら(或いは本格的な復旧工事を実施しながら)通行止めを解除する応急復旧と詳細な調査・

設計に基づき所要の防災対策を実施する本復旧とがある。

災害が発生した場合には、円滑な交通を確保するため、迅速かつ適切に所要の復旧対策

を実施して、できるだけ早期に通行止めを解除することが望ましい。長期間にわたる通行

止めは、通勤・通学、買い物等の日常生活はもとより、医療施設へのアクセス阻害等、周

辺地域住民の社会生活に多大な影響を及ぼすこととなる。

(1)応急復旧

応急復旧とは、災害が発生し道路交通に支障が生じた場合には、速やかに通行の禁止・

制限等による通行規制を行うと同時に、道路利用者、周辺住民への情報提供を行い、更に

通行の妨げとなる障害物(土砂、岩塊等)の除去、破損した道路施設の補修を通じて早急

に道路機能回復のための手段を講じることである。また二次災害の発生が考えられる場合

には、その発生を防止するための対策工の応急施工の実施も応急復旧の一環として位置付

けられる。 (2)本復旧

本復旧とは、応急復旧後、再度の災害発生を防止し、継続した道路機能の維持を図るこ

とを目的として、詳細な調査及び対策工の設計に基づいた現状の対策工の補修並びに強化、

また新たな対策工施工等を実施することである。 災害による道路等の公共的施設等の被害については、国の直轄又は補助による災害復旧

関係事業を迅速かつ的確に実施するよう法令により定められている。また、被災者に対し

ては補償や資金の融資等を行い、被災箇所の復旧に際しては、「災害」と認められた場合、

「公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法」として国庫から補助金が交付されるしくみと

なっている。(参照:図 4.16 P54)

40

4.4 道路防災対策

本項では、道路防災対策を実施する上で留意すべき点、また防災対策に際しての具体的

手段について、道路の計画段階と管理段階で考慮されるべき点に分類して述べる。

4.4.1 道路計画段階における道路防災対策

(1)防災を考慮した道路整備計画

道路整備計画の段階では、道路の防災という観点からも検討することが重要である。

ルート選定等に際しては、以下の点に配慮することが重要である。 ・トータルコスト(建設・維持管理コスト) ・災害発生による社会経済の損失 ・安全で安心できる暮らしの確保

・災害危険箇所(コントロールポイント)を避けるルート選定の例

図 4.10 には、災害危険箇所が実存する山間部におけるルートの比較案を示した。

A都市

B都市

ルートA案

斜面崩壊に対する対策工の設置

地すべり地

斜面崩壊地

ルートC案

ルートB案

対策工

※矢印の向きは地すべり又は崩壊の方向

斜面崩壊に対する対策工の設置

地すべりに対する対策工の設置

地すべりに対する対策工の設置

斜面崩壊に対する対策工の設置

図 4.10 災害危険箇所を避けるルート選定の例

41

ルートA案:最短ルート案 ルートB案:ルート調整と防災対策工の併用により、大規模な迂回を避けるルート案 ルートC案:災害危険箇所を完全に迂回するルート案

表 4.1 道路事業費の比較

比較案 ルート延長 ルート上の災害危険箇所

維持管理コスト

(危険箇所の延長・規模)

一般 防災 通常管理コスト

長所 短所

Aルート 最短 長い・大規模 小 大 小 走行時間短縮一般及び通常管理コスト

防災コスト大

Bルート 短い 短い・小規模 中 小 中 A,Cルートの中間 A,Cルートの中

Cルート 長い ゼロ 大 ゼロ 大 防災コストゼロ 建設コスト大走行時間最大

一般コスト:建設コストのうち、防災対策工に係るコストを除いたコスト防災コスト:防災対策工に係るコスト維持管理コスト:通常(災害復旧を除く)のメンテナンスコスト(維持・補修・点検等)

注)上表は、延長、ルート上の災害危険箇所以外の条件(河川の有無等の地理的条件、平均縦断勾配等の幾何構造等)は、各ルートとも同程度と想定している

留意事項・ルート選定に際しては、トータルコストの比較に加え、既存道路や集落、主要施設(公共施設、商業施設)の配置状況等を踏まえアクセス性、ネットワーク性も考慮して、総合的な判断が必要となる

建設コスト 特 徴

<参考>

過去の災害発生の形跡は地形にその痕跡を残している場合が多く、地形判読に依り地す

べりや斜面崩壊の発生可能性が予想できる箇所の推定がある程度可能である。図 4.11 に地

形地質を主体とした予備調査のフローを示した。 空中写真判読を実施により、斜面変動地形(崩壊地形・崩壊跡地形、地すべり地形、土

石流堆積地形等)、斜面変動関連地形(線状模様、断層地形、傾斜変換線、崖錐地形、露岩

地形、集水地形、大規模崩壊、地すべり前兆地形等)の判読が可能となり、ルート選定時

に留意すべき地形情報を得ることができる。

42

既存資料の収集 ○基礎調査報告書 ○文化財等

○地質図、地盤図、土地利用図、土地条件図等

○空中写真、災害覆歴資料、法規制

○地形図(1/25,000~1/5,000)

空中写真判読 斜面変動地形   斜面変動関連地形

○地すべり地形  ○集水地形 ○クラック地形

○崩壊地形    ○断層地形 ○開析前線地形

○土石流堆等   ○露岩地形 ○崖錐地形等

現地踏査 ○微地形、地質・土質・地質構造

○湧水、ガリー等の水文条件、植生条件

○既設構造物の種類と変状等

予備調査結果の整理 ○既存資料の解析

○空中写真判読および現地踏査成果の整理

問題箇所の抽出と評価 ○災害危険箇所(地すべり、崩壊、土石流等)の評価

○大規模土工箇所の評価

対策の概略検討

↑ 予備調査

本調査計画の立案

本調査

○基礎資料の整理

○地形図(1/2,500~1/1,000)

○現地踏査

概 

略 

設 

計 

(比 

較 

設 

計 

路線選定

予備設計

↓ 本調査

危険箇所のボーリング調査等

図 4.11 地形地質を主体とした予備調査のフロー

(出典:「道路土工 のり面・斜面安定工指針」 日本道路協会)

43

(2)道路ネットワーク整備の重要性

災害発生時に備え、迂回ルートを確保することにより地域の物流の遮断による影響を最

小限度に喰い止めることが可能となる。日本では迂回路の確保のために広域的な幹線道路

のネットワーク整備を推進している。

道路ネットワーク整備の充実は、災害発生時の道路交通遮断による地域の社会経済活動

への影響を軽減することとなる。特に医療機関へのアクセス性が確保・改善されることは、

国民の安全で安心できる暮らしを支えることにつながる。

(出典:国土交通省資料 平成 14 年度の主な施策)

図 4.12 安全で安心できる暮らしを支える道路整備計画

44

開通前(60 分)

開通後(30 分)

開通前(70 分)

開通後(30 分)

開通前(40 分)

開通後(20 分)

(出典:平成 13 年度国土交通白書) 図 4.13 道路整備による緊急輸送時の時間短縮効果

図 4.13 には道路整備による緊急輸送時の時間短縮効果の実例を示した。本例は、道

路ネットワークの整備により、救急自動車の市町村間の移動時間短縮が実現し、重傷患

者等搬送の効率化が、道路整備によりもたらされた効果を示したものである。

45

4.4.2 道路管理段階における道路防災対策

日本における道路の維持管理の一般的な流れは以下のとおり

日本における維持管理の一般的な流れを図 4.14 に示した。 本技術移転のためのガイド

ブックでは、図の(1)~(3)について記載した。 (1)防災点検 (2)事前通行規制 (3)防災対策工の設計・施工

防災業務の計画検討

防 災 点 検

異  常  時平  常  時

日常・定期点検

対応必要

応急対策

防災管理体制

臨時点検

通行規制

防災対策工の設計・施工

記    録

対策必要

詳細調査

災害発生

事前通行規制(降雨量が規制

値を超えた場合)

(1)

(2)

(3)道路情報提供(路面状況等)

図 4.14 道路管理全体の流れ

46

(1)防災点検

日本では防災点検による危険箇所の把握、防災カルテによる監視の強化を実施している。

既存の道路に対して効果的な防災対策を進めるためには、災害発生に対する危険箇所の

把握がまず必要である。以下に、平成8年度及び9年度で実施された道路防災総点検の調

査フローを示す。

1)点検項目 点検箇所の

スクリーニング

地域特性の把握

安定度調査の実施

防災カルテの作成

日本では防災点検に際しての項目を「落石・崩壊」、「岩 石崩壊」、「地すべり」、「雪崩」、「土石流」、「盛土」、「擁壁」、 「橋梁基礎の洗掘」、「地吹雪」に分類し、それぞれについて 点検を実施している。

2)点検箇所のスクリーニング 道路施設毎の安定度調査及びその後の対策の検討を円滑に 行うため、道路施設毎に現地を確認して、「点検箇所の抽出基 準」に基づいて点検箇所を抽出する。

<道路防災総点検フロー> <参考例>「落石・崩壊」点検箇所の抽出基準 下記のいずれかの①~④に中で一つ以上に該当する箇所。 ①高さ 15m 以上ののり面・自然斜面、または勾配 45°以上の自然斜面 ②表層に浮石、転石が存在する箇所 ③崩壊性の土質、岩質、構造の箇所 ④既設対策工が老朽化している、または対策工の効果を点検する必要がある箇所 なお、ロックシェッド等が設置されていても、当該施設上部ののり面・自然斜面が、上

記①~④に一つでも該当すれば、落石・崩壊の点検対象とする。 「落石・崩壊」以外の点検箇所についての抽出基準は、巻末資料-2.参照。 3)地域特性の把握 点検を合理的かつ円滑に実施するため、スクリーニングで抽出された点検箇所について、

過年度点検記録、被災履歴記録、地形図、空中写真等関係資料を収集し、安定度調査へ向

けた資料を整理する。対象箇所に関する地形、地質、過去の災害履歴等に関するデータの

蓄積は効果的な対策工の検討に必要な資料である。

47

4)安定度調査の実施 抽出された点検箇所について、「道路防災総点検要領」((財)道路保全センター監修)

に基づいた安定度調査を実施する。安定度調査に際しては、点検箇所の抽出基準毎に合わ

せて作成された「安定度調査表」、「箇所別記録表」を使用し、調査結果を記入・整理する。 (※1) 5)防災カルテの作成 防災カルテは、道路防災総点検の点検(安定度調査)結果で、「対策が必要と判断される

と評価された箇所で対策工までに日数を要する箇所」または、斜面等の管理に際して「防

災カルテを作成し対応する」と評価された箇所に関して着目すべき事項を記録するもので

ある。継続的な点検、監視が必要と判断された斜面について、その経時変化を記録するた

め、着目すべき変状、点検時期・頻度、想定される災害形態、変状が出たときに対応等に

ついて点検者の所見が記載されるような様式となっている。防災カルテにより、監視の強

化を行っている。 (※1)

※1 「安定度調査表」、「箇所別記録表」及び「防災カルテ」の様式は、巻末資料-5. 参照

48

(2)事前通行規制

a)異常気象時通行規制区間の指定

道路及びその周辺の状況(道路の構造、地形、地質、過去の被害の程度、路線としての

重要性など)により、異常気象時において被害が発生する可能性が高い箇所を含む区間を

異常気象時通行規制区間として指定する。

b)道路通行規制基準の作成

規制区間ごとの道路およびその周辺の状況、気象の状況(降雨量、積雪、風速、震度等)

を基準(※2)として、異常気象時において未然に事故を防止できるように定める。

c)道路通行規制の実施及び解除

道路通行規制の実施は道路通行規制基準に基づいて行い、通行止めにあたっては、道路

管理者が現地にて通行規制の対象、区間、期間、及び理由を明示し、規制区間を所管する

道路管理者が規制を実施する。通行規制の解除は、通行のための安全確認(※3)後、速やか

に解除する。

※2 一般的に規制の基準として連続雨量法を用いている

連続雨量法:降雨開始時を降雨量累積の開始として、2時間又は3時間の連続無降雨(注 1)

で累積雨量を 0mm に戻す雨量の算出方法

注 1)時間雨量が 0mm~2mm の降雨量

※3 一定期間の無降雨(注 2)があって、かつパトロール等による現地の安全確認

注 2)2時間または3時間の無降雨状態が続く場合

49

0

20

40

60

80

100

120

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26

時間(h)

時間

降雨

量(m

m)

降雨量(mm)

規制開始:11日午前1時

規制解除:11日午前7時

積算雨量(mm)

0

100

200

300

400

500

600

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26

時間(h)

連続

降雨

量(m

m)

累計雨量(mm)

事前通行規制開始積算雨量(

連続雨

降雨停止

事前通行規制解除

事前通行規制開始

○月10日

午後7時

事前通行規制 降雨開始からの経過時間(h)

連続雨量(mm)

300mmの場合)規制基準:300mm

※通行規制解除は、2時間または3時間の連続無降雨かつ現地の安全確認(安全パトロール等)後に解

除する。

図 4.15 事前通行規制の概念

図4.15は、規制基準300mmかつ無降雨2時間で規制解除を行う事前通行規制の例である。

○月10日午後7時の降雨開始後、連続雨量が 300mmに達した11日午前1時に規制開

始、無降雨が2時間経過した午前7時に、通行のための安全確認後、通行規制が解除され

る。

巻末資料に、日本における過去の道路災害発生件数と道路通行止めによる規制発令回数

を示した。

50

(3)防災対策工の設計・施工

防災点検により把握した災害危険箇所に対し、危険度、道路の重要度等を勘案しつつ緊

急性の高いところから順次、計画的に所要の防災対策工を施工し、道路の防災性の向上に

努めている。

日本では、道路防災に関連する道路施設整備のための設計指針として、下記に示す各指

針が整備されている。斜面対策工法の概要は 4.4.4 項に示す。 設計指針の基本事項: 道路防災に関する技術移転項目の中で、設計指針に関する移転の中心は道路土 工に関する安定性を確保するためののり面勾配などとする。参考資料は下記の 通り。 ・道路土工指針(日本道路協会) 土質調査指針、のり面工・斜面安定工指針、軟弱地盤対策工指針、排水工指針、 擁壁工指針 ・落石対策便覧(日本道路協会 発行)

51

4.4.3 その他

(1)道路整備計画の中での道路防災事業の位置付け

日本では、道路整備の長期計画は国土交通省が昭和29年度から「道路整備5箇年計画」

を策定し、これまで第11次計画が完了し、本年度(平成14年度)は第12次計画の最

終年度にあたっている。日本の道路政策は、これまで各道路整備5箇年計画の中で各分野

の重点施策が示されてきた。 近年、事業目的と社会的な効果を十分に確認しながら投資を判断する時代へ移行してお

り、道路防災対策にあたっても、これまで全国で蓄積してきた膨大なデータと災害対応の

経験から培ったノウハウを、今後の災害対応の際に如何に効果的かつ迅速に活かせるかが、

重要な視点となっている。

(2)法整備

日本では、道路整備を規律している法令は道路法を中心として多数あり、大別して基本

的に道路の管理に関する法例、道路の整備促進のための法令、有料道路に関する法例、道

路財源関係の法令、それ以外に関する法例に分類される。 道路防災事業に関係する法令としては、道路法などの道路に関するものに加え、以下の

ものが挙げられる。災害発生の際には、迅速な現場復旧とその後の本復旧について、現地

作業が円滑に行われるための補助金の拠出に関しての優先制度等の取り決めが必要である。 <災害対策の総括> 1)法 案 名:「災害対策基本法」 制定年次:昭和36年11月15日制定 内 容:昭和34年の伊勢湾台風を契機として、総合的かつ計画的な防災行政体制 を整備することを目的として昭和36年に制定。主な内容は以下の通り。

1.防災責任の明確化 2.防災体制 3.防災計画 4.災害予防 5.災害応急対策 6.災害復旧対策 7.財政措置 8.災害緊急事態

52

<災害予防関係> 2)法 案 名:「砂防法」 制定年次:明治30年3月30日 内 容:主として渓流とそれに連なる斜面からの土砂の生産、流出が治水上悪影響 を及ぼすときに、それらを防除することを目的としたもの。砂防指定地に おいて道路建設を際の行為の許認可について定めたもの。 3)法 案 名:「地すべり等防止法」 制定年次:昭和33年3月31日 内 容:地すべり及びぼた山の崩壊による被害を除去または軽減するため、その崩 壊防止を行うことを目的としたもの。地すべり防止区域内において道路建 設を行う際の行為の許認可について定めたもの。 4)法 案 名:「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」 制定年次:昭和44年7月1日 内 容:急傾斜地(傾斜度 30 度以上である土地)の崩壊による災害から国民の生 命、財産を保護するため、行為の制限、崩壊防止工事の施工、崩壊に対す る警戒避難態勢を整備することを目的としたもの。急傾斜崩壊防止区域内 において道路建設を行う際の許認可について定めたもの。 5)法 案 名:「森林法」 制定年次:昭和26年8月1日 内 容:森林の保続培養と森林生産力の増進を図り、国土の保全と国民経済の発展 に資することを目的としたもの。法律の中で土砂流出の防備や土砂崩壊の 防備等、土砂災害防止のための必要があるときは森林を保安林として指定 している。これらの保安林地区内では一定の行為が制限されており、道路 建設により森林として機能を失う箇所については指定の解除が必要として いる。 <災害復旧・復興関係> 6)法 案 名:「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」 制定年次:昭和37年9月6日 内 容:この法律は、災害対策基本法に規定する著しく激甚である災害が発生した 場合における国の地方公共団体に対する特別の財政援助又は被災者に対す

53

る特別の助成措置について規定したもの。 7)法 案 名:「公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法」 制定年次:昭和26年3月31日 内 容:この法律は、公共土木施設の災害復旧事業費について、地方公共団体の財 政力に適応するように国の負担を定め、災害の速やかな復旧を図り、公共 の福祉の確保を目的としたもの。

(3)予算システム 災害発生時の予算執行システムについて、地方公共団体から国への補助金拠出に関する

申請手続きの流れを以下に示す。

国内閣 土 市総理 交 町大臣 通 村

中 省央防災会議

都道府県指定市

災 害 報 告

単価歩係協議

単価歩係同意

国庫負担申請

査 定 実 施

事業費決定通知

国庫負担率算定報

国庫負担率決定通

災 害 報 告

単価歩係協議

単価歩係同意

国庫負担申請

査 定 実 施

事業費決定通知

国庫負担率決定通

(経由)

(検 査 立 会)

災害状況連絡

方法の協議

査定方針単価の決定及び査定

災害状況

(経由)

(経由)

(経由)

(出典:平成14年版「災害手帳」(社)全日本建設技術協会編を一部加工)

図 4.16 災害発生から国庫負担率決定までの手続き

54

図4.17には、公共土木施設の災害による被害額を国の直轄事業箇所と補助箇所別に、 災害発生箇所数と共に示した。

(出典:国土交通省河川局防災課災害対策室HP資料)

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

45,000

50,000

H9 H10 H11 H12 H13 H14

0

100,000,000

200,000,000

300,000,000

400,000,000

500,000,000

600,000,000

直轄金額

補助金額

直轄箇所数

補助箇所数

注)平成14年は3月現在

図 4.17 過去5カ年公共土木施設被害報告額

55

4.4.4 防災対策工法の概要

本項(56P~90P)は、(社)日本道路協会発行の道路土工指針「のり面工・斜面安定工

指針」を参考とした。

4.3.6 項における現場対策工写真の出典について 写真-11,14,15 富山県土木部HPより

写真-19,20,21,23,26 ライト工業㈱HPより 他は 応用地質㈱提供 (1)岩盤斜面対策 岩盤斜面において考えられる災害としては、落石、斜面崩壊、岩盤崩落等が挙げられる

が、ここでは最も災害発生の頻度が高い落石対策について述べる。 1-1.落石対策の基本的考え方

<落石対策の目的> ・道路利用者ならびに道路施設を落石などによる災害から守ること <基本的考え方> ・落石予防工と落石防護工の併用により、防護策を講じる 落石予防工 : 落石発生が予測される斜面内の浮石・転石を除去したり、斜面に固定する工法

落石防護工 : 斜面から転落あるいは落下してくる落石を、道路際あるいは道路上に設置した

施設で防護する工法

①落石対策の計画に際しての留意点 落石対策の計画にあたっては、落石発生の予測の困難さ、また対策工によって完全に落

石による災害を完全に防止しきれない場合もあることを留意し、路線の性格や予想される

落石の規模、落石の発生確率、被災の頻度やその状況を考慮して、対策工を講じると共に、

通行規制等の手段も活用し、道路交通の安全に努めることが重要である。 ②落石対策の基本的考え方 落石対策の基本的考え方を以下に示す。 ⅰ)落石斜面の過去の調査結果の活用 ⅱ)施設対策は発生源対策である落石予防工が効果的であるが、現地の状況を考慮する ⅲ)各工種における機能面での限界を考慮する ⅳ)複数の工種の併用がより大きな効果を発揮することの理解 以上を踏まえ、設計に際しては、浮石の安定性、落石の規模、落下経路、運動形態など

を推定し、必要箇所に有効な工法を選定することが必要である。

56

1-2.落石対策工法の選定

①落石対策工選定 施設の施工により落石から道路構造物を防護する工法を落石対策工と称する。実際の設

計においては、前述のように落石防護工と落石予防工の併用が望ましい。具体的に、落石

予防工の代表的な工法としては、切土工、浮石・転石の除去工法がある。また落石防護工

は、発生した落石防護工による被害を軽減する機能を有した対策工法である。 落石対策工の選定に際して最も基本的な事は、対象斜面のどこから、どのような形態・

規模の落石防護工が発生し、それがどのような運動形態で下方に移動するかを想定し、そ

れらに対してどこでどのような受け止め方をするかについて判断を行うことである。 落石対策工の効果としては、 1)発生の原因となる風化浸食を防止する。 2)落石の発生を止める。 3)落石エネルギーを吸収する。 4)落下方向を変えて道路施設にとって無害な箇所へ導く。 5)衝撃に抵抗して落石運動を止める。 対策工の選定に際しては、各種対策工の機能、耐久性、施工性、経済性、維持管理上の

問題をよく検討して、現地の道路状況、斜面状況に最適な工種とその組み合わせを選択す

る必要がある。この場合、対策工の施工箇所の地盤などの設計・施工条件が付随する。対

策工の基礎地盤については、特に地下水や切土に伴う緩み、風化などで地盤の劣化が明ら

かな場合は、落石の衝撃に抵抗するタイプの落石対策工は望ましくない。また、実施の設

計に際しては、施工時の資機材の搬入の容易性、施工の難易性を十分良く検討し、確実に

施工できる対策工を選定する必要がある。 以下に、日本にける落石対策工選定のためのフローチャートを示す。

57

落石対策工の選定フロー図 ~指針P237~

図 4.18 落石対策工の選定のフローチャート

(出典:「のり面工・斜面安定工指針」 (社)日本道路協会)

58

1-3.落石対策工法 ①落石予防工の工種 落石の危険性のある浮石・転石を現地点で抑える発生源対策。落石予防工のみで完全に

落石を阻止することは困難な場合もあり、落石防護工との併用で採用することが望ましい。 図 4.19 に落石予防工の種類と予防効果についての関係を示す。

<工  種>

切 土 工

浮石・転石除去工

根固め工

ワイヤーロープ掛工

ロックボルト工

排水工

吹付工

張   工

のり枠工

網 柵 工

アンカー工 斜面崩壊による落石を防ぐ

落石を除去または整理する

凍結融解、乾燥繰り返し、温度変化などの風化作用による落石を防ぐ

<予 防 効 果>

発生源で落石を抑止する

図 4.19 落石予防工の種類と効果

(出典:「のり面工・斜面安定工指針」 (社)日本道路協会) ⅰ)切土工 落石予防工としての切土は、既存ののり面

や道路に近接して発達している斜面中に分布

する落石の危険性のある浮石・転石を切土ま

たは小割りすることにより除去し、のり面や

斜面の安定を図るために実施する工法。 ⅱ)浮石・転石除去工 斜面やのり面上に分布している浮石を直接

除去する工法である。施工条件が悪い場合が

多く、小転石や小割した岩石を崩落の恐れが

ないように石積みして整理することも場合に

より必要。 ⅲ)根固め工 斜面上の浮石・転石のうち、容易に除去で 写真-1. 根固め工

59

きない大きさの浮石・転石などの基部を固める工法。比較的規模の小さな施工法から鉄筋

コンクリート、H 鋼などの支柱によって抑える大規模な工法まである。 コンクリートにより、浮石・転石の基部や周囲を固め、斜面上に固定させる工法や、斜

面上で周囲に分布する小さな浮石・転石で石積工を造り、これより浮石や転石の基部を固

める工法。周辺の浮石整理としても効果がある。 ⅳ)ワイヤーロープ掛工 浮石や転石が活動や転落しないように

格子状にしたワイヤーロープや数本のロ

ープなどを用いて直接浮石などの基部を

覆ったり、掛けたりして斜面上に固定さ

せる工法。浮石や転石が巨大で容易に移

動、小割りできない場合などに採用する

工法。永久的な構造物でないため仮説構

造物として取り扱うことが望ましいとさ

れている。 写真-2. ワイヤーロープ掛工 ⅴ)ロックボルト工 斜面上にある大きな浮石・転石をボーリング機械などによって貫通し、この中にロック

ボルトを挿入し基岩まで打ち込み定着する工法。

定着後には、孔にモルタルを注入し、ボルトを締

めて石を基岩に固着させる。 ⅵ)吹付工 斜面に湧水が少なく、当面崩壊の危険性はない

が、浮石や風化しやすい岩、風化して剥離するお

それのある岩などのコンクリートやモルタルを斜

面に吹付ける工法。 写真-3. 吹付工(覆式ネット併用)

60