物理 特殊相対論の基礎理解 1 古典的相対論 力学の最初の部分は … ·...

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物理 特殊相対論の基礎理解 1 古典的相対論 力学の最初の部分は、運動の理解と、その数学的表現である。そこでは、力の内容には入らず に変位、速度、加速度などを扱う。通常は、座標変換など古典的相対論ともいえる部分を、自明 のこととして扱うが、特殊相対論への移行を考えると、ここで自明として扱わず、相対論の考え 方を経験しておくことのも大きな意義があると考える。 () 空間と時間 土地の面積計算や道路の計画や敷設の実際的必要から測地術が生まれ、それが幾何学に発展し た。幾何学ジオメトリの語源は“地の測定”ということである。 昼夜の繰り返し、月の満ち欠け、四季の移り変わりなどの観察から天文学が発展した。 これらが空間、時間の概念の基礎になった。 ここで、時間、空間の概念は自明のものではない。地表面を平面とみなしたことに留意が必要。 () 長さと時間の単位 原子レベルの現象を利用する前は、パリにあるメートル原器の長さが1メートルであった。時 間については1日は24時間、1時間は60分、1分は60秒で構成されるとした。 19世紀、フランス政府は、赤道から北極点までの距離の1000万分の1を長さの単位とす るとし、実際に測定を行って、「メートル原器」をつくった。地球の円周が約4万kmというのは ここに起源がある。 長さがAm、時間がB秒とは、それぞれ単位量のA倍、B倍ということである。 () 座標系 運動を表現するには、場所と時刻の指定が必要である。 時刻は、一つの原点を指定し、そこからの時間で示す。 () 慣性系 コペルニクスの地動説、ケプラーの楕円軌道を経て、17世紀前半、ガリレオによって慣性系 と相対性の概念が定式化された。 慣性系=そこにおいて慣性の法則が成立する系。等速度運動をする物体は慣性系である。 慣性の法則=力を受けていない物体は等速直線運動をする 宇宙空間において、外力を受けていない、かつ、回転をしていない系を慣性系と考えることが できる。ニュートンは宇宙に絶対的な慣性系を考えた。絶対時間、絶対空間があるとした。すべ ての運動はそこを基準にすることができるとした。しかし、その後の宇宙の認識の発展によりこ の絶対的な静止している系の存在は否定された。 地球は自転、回転している。太陽系も銀河系という大規模な回転の中にある。地球上では、近 似的に慣性系を置くことができるが。 力をまったく受けずに宇宙空間に存在しているロケットは慣性系である。他の物体から、重力 や電気的な力を受けていない、物質を放出することによる加速もない、物質と衝突することによ る減速もないという状態である。これを慣性飛行という。この条件が保たれる限り、この運動は 続く。 米国が発射したボイジャーという宇宙船はすでに数十年間、慣性飛行を続けている。すでに冥 王星より外側にある。 慣性系Aに対して速度Uで運動する慣性系Bがある。AにおいてVで運動する物体をBで静止 している観測者から見ると、速度はV-Uである。また、BにおいてWで運動する物体は、 A

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物理 特殊相対論の基礎理解

1 古典的相対論

力学の最初の部分は、運動の理解と、その数学的表現である。そこでは、力の内容には入らず

に変位、速度、加速度などを扱う。通常は、座標変換など古典的相対論ともいえる部分を、自明

のこととして扱うが、特殊相対論への移行を考えると、ここで自明として扱わず、相対論の考え

方を経験しておくことのも大きな意義があると考える。

(1) 空間と時間

土地の面積計算や道路の計画や敷設の実際的必要から測地術が生まれ、それが幾何学に発展し

た。幾何学ジオメトリの語源は“地の測定”ということである。

昼夜の繰り返し、月の満ち欠け、四季の移り変わりなどの観察から天文学が発展した。

これらが空間、時間の概念の基礎になった。

ここで、時間、空間の概念は自明のものではない。地表面を平面とみなしたことに留意が必要。

(2) 長さと時間の単位

原子レベルの現象を利用する前は、パリにあるメートル原器の長さが1メートルであった。時

間については1日は24時間、1時間は60分、1分は60秒で構成されるとした。

19世紀、フランス政府は、赤道から北極点までの距離の1000万分の1を長さの単位とす

るとし、実際に測定を行って、「メートル原器」をつくった。地球の円周が約4万kmというのは

ここに起源がある。

長さがAm、時間がB秒とは、それぞれ単位量のA倍、B倍ということである。

(3) 座標系

運動を表現するには、場所と時刻の指定が必要である。

時刻は、一つの原点を指定し、そこからの時間で示す。

(4) 慣性系

コペルニクスの地動説、ケプラーの楕円軌道を経て、17世紀前半、ガリレオによって慣性系

と相対性の概念が定式化された。

慣性系=そこにおいて慣性の法則が成立する系。等速度運動をする物体は慣性系である。

慣性の法則=力を受けていない物体は等速直線運動をする

宇宙空間において、外力を受けていない、かつ、回転をしていない系を慣性系と考えることが

できる。ニュートンは宇宙に絶対的な慣性系を考えた。絶対時間、絶対空間があるとした。すべ

ての運動はそこを基準にすることができるとした。しかし、その後の宇宙の認識の発展によりこ

の絶対的な静止している系の存在は否定された。

地球は自転、回転している。太陽系も銀河系という大規模な回転の中にある。地球上では、近

似的に慣性系を置くことができるが。

力をまったく受けずに宇宙空間に存在しているロケットは慣性系である。他の物体から、重力

や電気的な力を受けていない、物質を放出することによる加速もない、物質と衝突することによ

る減速もないという状態である。これを慣性飛行という。この条件が保たれる限り、この運動は

続く。

米国が発射したボイジャーという宇宙船はすでに数十年間、慣性飛行を続けている。すでに冥

王星より外側にある。

慣性系Aに対して速度Uで運動する慣性系Bがある。AにおいてVで運動する物体をBで静止

している観測者から見ると、速度はV-Uである。また、BにおいてWで運動する物体は、A に

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おいて静止している観測者から見るとW+Uである。

10m/s で走る車の中で前方に10m/s に投げられたボールは、外から見ると20m/s である。

これと並行して20m/s で走る車からは静止しているように見える。

(5) 古典的相対性原理は、慣性系では慣性の法則が成り立つ、言い換えれば、ニュートンの法

則が成り立つ、これですべてである。

2 ミンコフスキーの4次元空間

(1) 物体の位置は空間座標(x、y、z)と時刻tという4つの数値によって決定される。

3次元空間で描いた場合、時刻の変化は別に示さねばならない。これは不便である。

(x1,y1,z1) (x2,y2,z2) (x3,y3,z3)

t=t1 t=t2 t=t3

(2) ミンコフスキーは4次元のxyzt空間を考え、これを「世界」と名付けた。

物体がある時刻にある位置にあるということは、ある世界点にあるということ。

世界の中で運動する物体は世界線を描くことを示した。たとえば次の2つのケース。

物体の座標がx=0,y=0,z=10t

世界線は直線である。

運動は等速直線運動。

y座標を省略

同じくz=5t2

世界線は曲線である。

運動は加速度運動。

y座標を省略

これは、単に座標を拡張したに止まらず、極めて重大な意義をもっていた。

(3) ガリレオ変換

系Sと系S’ を考える。系S ’は系Sをx軸正方向に

x0平行移動したものである。

系Sにおける物体Pの位置ベクトルrは t t’

r=(x,y,z) y y’

系S’における同じ物体Pの位置ベクトルr ’は x、x’

r’=(x’,y’,z’)

x0はつぎのようである。 P

x0=(x0,0,0)

図からわかるように

r=x0+r’ r’=r-x0 z座標を省略

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この場合、系S ’がx軸正方向に一定の速度v0で運動しているとしよう。

v0=(v0x,0,0)

時刻0において、双方の原点が一致していたとすれば、時刻tにおける物体Pの位置ベクト

ルr’は

r’=r-x0 より、 r’=r-v0・t

とすればS’での速度v’は、r’を時刻tで微分すればよい。

dr’

dt=

dr

dt−v

0 従って v’=v-v0

これが1(4)で述べた相対速度についての公式の根拠である。

(4) ミンコフスキー空間におけるガリレオ変換 t

上で述べた変換をミンコフスキー空間でみるとどうなるか。 t’

慣性系Sをxt平面で、慣性系S ’をx’t’平面で表す。 P(x,t)

t v0xt t’

P(x’,t’)

x’=x-v0xtという関係を満たすのであるから x’ x’

xt平面とx’t’平面との関係は右図のようになる。

x’t’平面は斜交座標系になる。

3次元空間でのガリレイ変換では、1つの事象を、異なる慣性系において観測した場合、空

間座標は異なるが、時間の経過は同一である。これは、時間を絶対的なものとしてとらえてい

るからである。ミンコフスキー空間でも、1つの事象はただ一つの世界点であり、その時刻は

世界点の、t座標で示される。しかし、上図にみられるように、他の慣性系ではt ’となり、時

間の経過が異なっている。すなわち、ミンコフスキー空間では、時間も相対的なものとして扱

うべきものとなる。その取り扱いをローレンツ変換といい、後述する。

ガリレイ変換では時間は絶対的なものである。従って、宇宙のどこにおいてもガリレイ変換

が成立するためには、力は有限の速度で伝わるものではない。従って、ニュートン力学では、

力は無限大の速さで伝わる、ということが前提である。

3 光波の弾性理論

古典的な発想では波動の伝播には媒質が必要である。光速が有限であることが知られたので

この波動は近接的な作用を起こしながら進行すると考えられた。従って、弾性的なエーテルと

いう媒質の概念が導入された。

4 特殊相対性理論

(1) 古典相対論では説明ができない電磁気学

特殊相対論の理論基礎は2つの原理である。

その一つは相対性原理である。

ガリレオの言う相対性、古典的相対性原理とは、どの慣性系でも慣性の法則が成立する、とい

うことである。特殊相対論では、どの慣性系でもすべての物理法則が成立する、とする。これが

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アインシュタインの相対性原理である。

このように述べると、では、「慣性の法則」と「すべての物理法則」にいかなる概念の差がある

のか、という疑問がわく。その答えは電磁気学の中のファラデー法則やローレンツ力にある。電

荷とともに運動する慣性系で力が観測される、という問題である。これは、別のところで解明す

る予定である。

もう一つの原理は、最も大きな点は、光速度が一定不変だということである。光源の速度、観

測者の速度に無関係ということである。また、光速を超える速度をもつ粒子や波動はないという

ことである。

以下、慣性飛行をしているロケットを考える。

(2) 光速度不変とはどのような状態か

宇宙灯台から光が出ている。このとき、ロケットが宇宙灯台に近づく。

考え方1 相対性原理により、ロケットが静止し、宇宙灯台が近づくと見ても同じである。光

源はある速度で動きながら光を発するが、光速は光源速度に無関係なので、地上、真空での光速

と完全に一致する。重力の影響は一般相対性理論において考察する。

ロケットが宇宙灯台から遠ざかるとき

考え方2 ロケットが静止し、宇宙灯台が遠ざかる、とみても同じである。

光速は光源の速度に無関係だから。

ロケットは自分が速度vで宇宙灯台に近づくと見ることもできそうだが、速度物差しの力学的

な、言い換えれば、時計とものさしを使っての測定はこれは簡単ではない。三角測量やドップラ

ー効果を使えば可能だが、これは、議論の結果を使っていることになるので、採用しない・

以上を前提にして、以下の議論をする。

慣性系 P と慣性系 Q とは、あらゆる物理法則について同等である。かつ、光速度はすべての慣

性系において等しい。とすると、速さの異なる P と Q が並行するとき次のようなことが起きる。

P の中央から前後に向かった光。

P にいる観測者はそれが同時に前後に到着するのをみる。

しかし、Q にいる観測者は、P において、後部に先に到着するのを知る。なぜなら、後部は

前方に向かって進んでいるからである。

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(3) 特殊相対論の導く結論

① 速度が 0 でない系の中では時間の進み方が遅くなる。 他の系

他の系に対して。

② 同じく、系は長さが縮む。ローレンツ収縮。

他の系に対して。

③ 同じく質量が増大する。

静止している状態より。

いずれも、われわれの日常経験ではその影響は0とみなせる。

GPSなど宇宙レベルでは効果が出てくる。

これらは光速不変から導かれたものである。以下に説明する。

(4) エーテルの仮定、と、その否定

① 光は波である。

波であれば、実体的な媒質があるだろう、というのが

一般的に考えられた。

そこで、宇宙空間にぎっしりと詰め込まれた弾性体を仮定した。これがエーテル。

このエーテルは、光には関係するが、通常の、質量をもつ物体には無関係としなければならな

かった。そうしなければ、たとえば、天体の運行に影響する。

天体は、エーテルに衝突して進むのだから、速度が遅くなるはずだが、そういう証拠は見つか

らなかった。それゆえ、エーテルは、光の波には媒質となるが、物質は素通りする、ということ

になる。かなり無理のある仮定であった。

② 最終決着 マイケルソンとモーリーの実験

エーテルが存在し、それが静止しているなら、進行している地球はエーテルの中を進む。これ

を相対的にみると、地球にエーテルが進んでくる、ぶつかってくると見ることができる。

そうすると、そのエーテルの流れによって、光の見かけの速さが変わってくる。

エーテルの流れに平行な光は

向かい風の中を進む音波のようになるので遅くなる。

エーテルの流れに直交する光は

流れの影響を受けない。

実験室では、1本のビームを半透明の鏡によって直交する

2本に分け、これを鏡で反射させ、干渉させて干渉縞をみる。

しかし、この実験で、直交する光はまったく時間のずれを示さなかった。

すなわち、エーテルの流れは検出されなかったのである。

これ以後、エーテルの存在は否定された。

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5 同時性の不一致

時間の進み方が遅くなる、という結論。その前に、同時性、というものをまとめておく。

3の(2)で、宇宙船の中央から発射された光。

宇宙船の中では、前後に同時に到着するが、外での観測者にとっては、前方には遅れて届くと

観測される。

つまり、宇宙船内では同時と観測される現象が、宇宙船外では同時ではない。これを「同時性

の不一致」という。

一般的にいえば、異なる速度の観測者は、異なる時間をもっているといえる。

6 時間の進み方は遅くなる

速度vで進んでいる物体の1秒は、速度0の物体に B

おける1秒より長い。これを導く。光時計という装置

を使う。光が片道を通過する時間が1秒である。

静止している観測者A。

その前を速度vの観測者 B が進む。

Aで1秒たったとき、すなわち光が片道を通過し終わったとき、 A

Bでは、まだ、光は片道を終わっていない。なぜか。速度vで移動

しているために、光路が長くなっているのである。ガリレオ原理な

らば、光の速さが速くなって、つじつまが合うのだが、光速度不変

なのでそうはいかない。

Bで1秒たったとき、Aでは1秒以上がたっている。

すなわち、Aからみると、Bでの1秒はAでの1秒より長いことになる。

ということは、時間の進み方が遅いのである。

これを数式で求めよう。B内の観測者が1秒経過をみたときに、その時間が、AからはT秒と

して観測されるとする。ただし、この1秒は現実の1秒ではなく、仮想的な1秒である。

cT

vT

この1秒間の距離で直角三角形をつくる。光速をcとする。

高さは1秒間の光の走行距離で c×1

底辺は、Aからみて、Bがこの間に移動した距離である v×T

斜辺は、Aからみて、この間に光の走った距離である c×T

三平方の定理より (vT)2+c2=(cT)2

T2=

c2

c2−v

2 β=

c とおけば、T=

√1−β2

もし、光速の99%で進むと、Bでの1秒はAでの7秒になる。

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7 相手からみても全く同じである-矛盾する?

この現象。相対性原理からは、Bが静止していて、Aが速度-vで進んでいるとみてもよいの

である。そうすると、Bからみて、Aの時間の進み方が遅いのである。

しかし、これは、全く、同じことを言っているのか。

Bで1秒たったとき、Bが同時にAの時計をみると、それは1秒より前を指しているとみる。

Aは、Bで1秒がたったとき、Aからみて同時にAの時計をみると、それは1秒を超えた数字

を指している。Aの同時と、Bの同時が違うのである。これは一致できないのである。これは、

両方とも正しいことをいっているのである。

8 合成速度=速度の加算

(1) 古典論では u

外の観測者からみて、速度vの系。

その系において、その系に対し、速度uの物体。 v

これを外の観測者がみると、速度は

u+v

となる。

相対論的現象において、これが成立するならば、

秒速20万kmの系の上で、その系に対し

秒速20万kmの物体は

秒速40万kmになる。

相対論ではこれはあり得ないので、この水準の現象に対しては別の式が持ち出される。

(2) 相対論的には次の式である。

相対速度=(v+u) (1+v×u

c2

⁄ )

20万の上の20万は27.7万になる。以上の議論を次項で数学的に行う。

9 ローレンツ収縮

(1) ローレンツ変換

電磁気学の、諸原理が成立するような座標変換、ひとことで言えばマクスウェル方程式を不変

に保つような座標変換はローレンツ変換である。

前述した、S’がSに対しx方向に速度vであるような場合のローレンツ変換の変換式は

x′=

x−vt

√1−β2 、y’=y、z’=z、t

′=

√1−β2(−

c2x+t)

ここで、ローレンツ変換を再定義する。ローレンツ変換は原点と世界点の距離

x2+y

2+z

2−c

2t

を不変にする変換である。これを用いて、次のようにして上の変換式を導出する。

原点から光が真空中に発散されて球面波として伝播する。この波面の式は、3次元座標で

x2+y

2+z

2=c

2t

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時刻tにおいて、この関係を満たす(x,y,z)が同一の波面をつくる。これを、ミンコフス

キー空間における世界点とし、互いに相対運動する2つの座標系S、S ’において、1つの波面

を他の系で記述するときの変換式を求めればよい。

座標系は S(xyzt)、S’(x’y’z’t’)、S’はSからみて、x方向に速度vで動く。

光が出た世界点は、SでもS ’でも原点(0,0,0,0)であるとする。どちらの座標系でも波

面をつくるから

x2+y

2+z

2=c

2t

2 x

′2+y

′2+z

′2=c

2t

′2

y、zについては同一となるはずだから、

x2+c

2t

2=x

′2+c

2t

′2

ここで、xとx ’の関係は、ガリレイ変換であれば当然 x’=x-vt であるが、相対性原

理によって、Sが-vで動く、と記述するときに、異なる時刻t ’を使うことになる。従って、

x=x’+vt’と記述する。すると、t=t ’ となって、ガリレイ変換と一致する。

ここは、前述の斜交座標の見方から考えると、(=)ではなく、比例関係にあるとみるべきであ

る。従って、 x’=k(x-vt)、x=k(x’+vt’)

x、x’、t、t’について、3個の関係式を見いだしたので、いずれか1つについての恒等式

をつくりうる。それによって、kをvの関数として求めうる。

具体的にいうと、 この2個の式から t’をxとtの関数として求め、x ’とt’を元の式に

代入する。そこから次式を得る。

k=1

√1−β2

これが、変換式の係数となる。

(2) ローレンツ収縮

観測者に対して、速度vで運動している物体(空間でもよい)の長さLは、その物体が静止して

いたときの長さをL0 とすると次の式で表される。 S S’

L =L0√1 − β2 x、x’

βはv/cであり、相対論の重要ファクターである。

この変換式を次のようにして導く。

x方向にvで動くS ’において、x’軸上に長さL0の棒を置く。棒の両端のS ’における座標は

x’=0、x’=L0 である。これをSからみた場合の座標を x1 、x2 とすると変換式は次

のようになる。

0=x

1−vt

√1−β2 、 L

0=

x2−vt

√1−β2

従って、Sでは、x1 、x2 は次のようになる。

x1=vt 、x

2=L

0√1 − β2 +vt、Sで観測する棒の長さは x2-x1 であるから

従って、 L =L0√1 − β2

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運動する物体を静止している系でみた場合、あるいは、

静止している物体を運動する系からみた場合、物体は運動方向に縮んで見える。

これを、ローレンツの収縮 という。

(3) 速度の合成

前述した、速度uの系で、速度vで動く物体を、静止系でみた相対速度の式、

相対速度=(v+u) (1+v×u

c2

⁄ )

を導く。

特殊相対論では 速度のある系は速度0の系より時間の進みが遅い。

特殊相対論によれば、vで運動する系における1秒は静止している系ではT秒となる。

たとえば、光速の80%で慣性飛行している宇宙船を、これに対して静止している惑星からみ

てみよう。

β

1-β2

10 もう一度戻ってみる

vで運動する系におけるt秒は、それに対して静止している系においては T 秒である。

その関係は

たとえば光速の80%で進む物体 そこにおける1秒は静止系からは1.67秒

逆に静止系で1秒経っても、物体内では0.6秒である。

たとえば光速の99%で進む物体 そこにおける1秒は静止系からは7秒である。

逆に静止系で1秒経っても、物体内では0.14秒である。

ここで、光の向きではなく、物体の運動の向きが問題。

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11 時間の遅れをローレンツ収縮でとらえる

相対的に運動する物体では時間がゆっくり進む。

これをローレンツ収縮でみる。

地球から1.3光年のところにいる宇宙船が光速の80%速度で地球に近づく場合を考える。

地球の何年後に宇宙船は着くだろうか。

地球からみると

宇宙船からみると

運動している物体は収縮する。

宇宙船は収縮する。

相対的に見て、宇宙船が静止し、空間の方が動いているとしたら

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宇宙船粒子の例

寿命の短い粒子が地表に到達できるのは

12 光速に近づくと質量が増大する

たとえば、電子を加速することができる。

真空中で、電子に電圧をかけると、電子はプラス側に向かって加速される。

たとえばエネルギー量 Eを与えて 、光速の86.6%まで加速できるとする。

これにさらに同じエネルギー量Eを与える。すると86.6%分増えるのではなくて、

7.7%分しか加速されない。

さらにEを与えても2.5%分増加。光速に無限に近づくだけである。

これは、電子の質量が増えているからである。

では、質量とは何か

それは、物体の動かしにくさである。

ニュートンの運動方程式が成立している。

同じ力をかけても、質量が2倍であれば、加速度は半分である。

もし、同じ力をかけて加速度が半分であれば、質量が2倍であるとすればよい。

この両方を満たす説明は次のとおりである。

エネルギーが質量に変わったということ。

① 上の電子の加速の場合、エネルギーは質量の増加分にもなったということである。

②逆に、質量はエネルギーに変わることができる。

核分裂、核融合のエネルギーが好例である。

結局、質量とエネルギーとは同じものである。

それゆえ、質量エネルギー公式が導かれるわけである。

E=mc2

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13 一般相対性理論序論

特殊相対論 電磁気学と光について

一般相対論 重力について

14 万有引力の法則の限界

1919年 光が太陽のそばを通るとき、経路が曲げられていることがわかった。

「万有引力の法則」は、ひょっとして近似的なものか?

15 等価原理

(1) 加速度運動をする系

等速度運動をする系では

光速度よりはるかに小さければガリレオ変換、

光速度に近くなれば特殊相対論

でとらえることができる。

しかし、加速度運動をする系の上では、運動はどうなるか?

例 地球上の運動

① 遠心力

② コリオリの力

例 急加速、急減速する乗り物の中

例 自由落下するエレベーターの中

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(2) 慣性力という考え

16 万有引力の法則とは

17世紀にニュートンが定式化した。

距離が離れている物体が、真空の中を力を及ぼす。

運動していても、その影響は考えないが。

ならば、変化は無限大の速度で伝わるのか。

17 観測された事実は?

(1) 水星の周回軌道の計算からのズレ

(2) 太陽のそばを通る光が曲げられる=重力レンズ

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18 等価原理から導かれるもの

(1) 地球上で落下する箱の中を考える

落ちていくエレベーター、墜落する航空機など

重力加速度で落ちているが、箱の中はすべて同じ条件なので、慣性系として問題ない。

地球を周回している宇宙船内はまさにこれである。

「無重力状態と言うがただしくは無重量状態である。」というが、どちらも同じことである。

広大な宇宙空間にある場合と同じである。

そこでは、すべての物理法則は成り立つ。

「光は直進する」も、どこでも成立する。

(2) では、自由落下する箱の中の光は?

もちろん直進する。中の人からみれば間違いなく直進。

しかし、これを外の静止している観測者からみると、

箱が加速しているから、光も放物線で落ちてくる。

光も重力で引かれている!

(3) 次に、宇宙空間で加速している箱を考える。

加速する宇宙船がよい。

中で、横に発射された光はどう進むか。

静止観測者から見ると等速度運動である。

しかし、箱の中の人から見ると、放物運動をする。

人が加速するのに対し、光は残っているからである。

これを、加速する箱、ではなく、静止していて、代わりに、慣性力が働いている

と置き換えて考えると、

慣性力が光を引っ張った、といえる

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つまり、光は力によって引かれるのか?

というより、空間の曲がりに沿って行く、という方がよいか。

19 しかし、重力と慣性力はやはり異なる

大きな天体がつくる重力

加速度運動をする系の中で設定した慣性力

等価ではあるが、次のように異なる。

加速する宇宙船・・・この中では慣性力がはたらいている

この中で2物体を落とす。(横に離れた位置から)

2物体は平行に落ちていく。

静止系からみれば2物体はそこに静止している

わけである。

たてに離れた位置から落とす。

2物体の上下の距離は変わらない。

地球に落下する箱の中・・・地球中心からの重力がはたらくが、

慣性力によってうち消されている。

この中で2物体を落とす。

静止系から見れば2物体は地球中心に向かって落ちていく。

箱の中ではそこに静止している。

しかし、2物体は少しづつ近づいていく。

たてに離れた位置に置く。

2物体の上下の距離は広がっていく。

下にある物体の方がはたらく重力が強い、

従って、加速度も大きいので。

このように、重力の影響は完全には消えない。

では、重力の影響をどうとらえればよいか・・・

20 質量は空間を曲げる

そうすると、重力を考えるのでなく、これは、質量が影響を及ぼすと考えるべきである。

すなわち、質量が空間を曲げているということである。

そのために、物体の進行方向が曲がるということがおきる。

たとえば、地球表面のような球面上を考える。

球面上では、平行な2本の直線も交わることがある。

では、光が重力によって曲がるとは?

これは、質量によって、空間が曲がる。

そのために光の進路が曲がる、ということである。

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21 では、重力とは何か

質量があれば、近くの空間が曲がる。

そこに他の物体があれば近づくのである。

惑星の公転などは?

ブラックホールは?

重力波は?

質量ある物体の運動は空間の曲がりを変動させ、空間はそれを伝える。

その速さは光速であろう。

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22 光の圧力

金属の鏡に振動数fの光が垂直に入射し、完全に反射する。

時間tの間に鏡に当たる全エネルギーをWとする。

光子が鏡に与える力を計算する。

23 重力によって時間の流れが遅くなる

重力で曲がったとき

光の部分によって、走る距離が異なる

しかし、近い場所からみると高速に変化はない。

遠くにいる観測者からみると

光は場所によって違うように見える

とすると、距離が短いほうでは光速が遅くなったいうことになる。

すなわち、重力の強いところでは時間の流れが遅くなる。