研究開発型製薬企業の国際競争力と成長戦略 ·...

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研究開発型製薬企業の国際競争力と成長戦略 八木 崇(医薬産業政策研究所 主任研究員) 岩井 高士(医薬産業政策研究所 前主任研究員) 医薬産業政策研究所 リサーチペーパー・シリーズ No. 49 2010 3 月) 本リサーチペーパーは研究上の討論のために配布するものであり、著者の承諾なしに引用、 複写することを禁ずる。 本リサーチペーパーに記された意見や考えは著者の個人的なものであり、日本製薬工業協 会および医薬産業政策研究所の公式な見解ではない。 内容照会先: 八木 崇 日本製薬工業協会 医薬産業政策研究所 103-0023 東京都中央区日本橋本町 3-4-1 トリイ日本橋ビル 5F TEL03-5200-2681 FAX03-5200-2684 E-mail[email protected] URLhttp://www.jpma.or.jp/opir/

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研究開発型製薬企業の国際競争力と成長戦略

八木 崇(医薬産業政策研究所 主任研究員) 岩井 高士(医薬産業政策研究所 前主任研究員)

医薬産業政策研究所

リサーチペーパー・シリーズ

No. 49 (2010 年 3 月)

本リサーチペーパーは研究上の討論のために配布するものであり、著者の承諾なしに引用、

複写することを禁ずる。 本リサーチペーパーに記された意見や考えは著者の個人的なものであり、日本製薬工業協

会および医薬産業政策研究所の公式な見解ではない。 内容照会先: 八木 崇 日本製薬工業協会 医薬産業政策研究所 〒103-0023 東京都中央区日本橋本町 3-4-1 トリイ日本橋ビル 5F TEL:03-5200-2681 FAX:03-5200-2684 E-mail:[email protected] URL:http://www.jpma.or.jp/opir/

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エグゼクティブ・サマリー

日本の製薬産業が国民の健康や日本経済の発展に今後一層貢献していくためには、日本

が創薬活動の場として、また企業が海外企業に伍しうる高い国際競争力を有していること

が欠くことの出来ない条件になる。 本調査研究では、世界市場における売り上げや市場シェアなどを指標として、日米欧主

要製薬企業の国際競争力を比較した。また、プレゼンスを高めている欧州企業の成長戦略

を、医薬品の薬効領域および地域別の売上上位集中度および分散の観点から検証するとと

もに、日本の製薬企業に求められる国際競争力強化に向けた取り組みについて考察を加え

た。 1.市場シェアにみる国際競争力の比較 ・世界市場における売上伸長率およびシェアを日米欧主要製薬企業で比較した場合、欧州

企業が最も高い成長を遂げており、米国企業に勝るシェアを獲得している。一方、日本

企業は、売上シェアに大きな違いがみられず、上位企業に限っても世界市場でのシェア

は拡大していない。 ・日米欧主要製薬企業の売り上げを国・地域別にみると、米国企業は、全ての市場でシェ

アを低下させる一方、欧州企業は、先進国市場だけでなく、新興国市場が含まれる AAA市場のシェアを拡大させている。日本企業をみると、先進国市場ではややシェアが拡大

しているものの、日本を除くアジア市場でのプレゼンスは低下しているものと思われる。 ・薬効分類別に売上シェアをみると、診断薬を除き全ての分類においてシェアを低下させ

る米国企業とは対照的に、欧州企業は生活習慣病市場に代表されるマス・マーケットだ

けでなく、市場が拡大傾向にあるがん..

や自己免疫疾患などのスペシャリティ領域、市場

規模は小さいが競合の少ないニッチ領域の売上シェアを拡大させてきている。日本企業

については、生活習慣病市場に分類される「消化管・代謝」以外の領域においては、欧

米企業に比べると総じてシェアが低い。 ・低分子医薬品とバイオ医薬品に分けて売り上げをみると、欧米企業については 2007 年

の全売上に占めるバイオ医薬品の割合が 20%を超えており、世界売上上位 100 品目の売

上増加額に占める寄与率は、2003~2007 年では欧州企業が 5 割以上を占めている。日

本企業をみると、バイオ医薬品の割合は上昇しているものの、その割合は 2%に満たず、

寄与率はわずか 0.7%となっている。 ・低分子医薬品とバイオ医薬品の開発品目の割合の変化をみると、欧州企業については

2009 年には 3 割を超えるまでに至っている。日本企業については、バイオ医薬品の割

合が上昇しているものの、その割合は 1 割強と欧米企業に比べて相対的に低い。

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2.欧州企業にみる成長戦略 ・ 日米欧売上上位 10社の全売上に占めるトップ 10品目の売上比率(2003~2007年累計)

の推移をみると、欧州企業は日米企業に比べて 15%以上も低い。製品売上の上位集中度

でみても、欧州企業は日米企業に比べて低い水準を維持しており、一部製品への売上依

存度が低く、より多くの製品に売り上げが分散している傾向にある。 ・薬効レベルの売上構成の違いをみると、欧州企業は日米企業に比べてスペシャリティ領

域である抗腫瘍・免疫領域での売上比率が 14.7%と最も高く、また、比較的ニッチ領域

としての性格が強い喘息などの呼吸器系領域での売り上げも全体の 9.4%を占めており、

総じて専門性が高いスペシャリティ領域やニッチ市場とされる薬効領域にも重点が置か

れているものと考えられる。 ・地域別売上をみると、欧州企業は日米企業に比べてマザー・マーケットの売上比率およ

び地域別売上の上位集中度が低く、製品・薬効領域別のみならず、地域別でも売り上げ

が分散していることがわかる。 ・欧州企業にみられる新市場、新領域への進出などを特徴とした戦略は、製品集中度の低

下をもたらし、同時にコスト効率の低下にもつながっているとみられる。製品あたり売

上の伸びと研究開発費を除く売上高販売管理費比率を指標としてみた場合、売上高販売

管理費比率は低下しており、コスト面での競争力を高めていると推察される。 3.日本の研究開発型製薬企業の国際競争力強化に向けて ・ 日米欧の主要製薬企業の売り上げをみると、米国企業の規模の優位は変わらないものの、

近年、欧州製薬企業の世界市場におけるプレゼンスが高まっており、特徴として製品・

薬効レベルおよび地域レベルでの売上分散が相対的に進んでいることが挙げられる。 ・日本の製薬企業は、世界の医薬品市場の構造的変化への対応という面において、欧米企

業に比べて必ずしも優位な立場にはない。すなわち、(1)米国市場への収益依存度が相

対的に高く、主要なブロックバスターの米国における特許が今後 4年間で失効する、(2)新興国市場への進出が相対的に遅れている、(3)ベンチャー企業買収などにより、重要

性の高まるバイオ医薬品の導入を進めているものの、欧米企業に比べてこれら医薬品の

数及び売上高に占める割合ともに相対的に低い、などの課題に挑戦していく必要がある。 ・欧米主要製薬企業は、本稿で分析対象とした新薬事業に加え、成長が続く GE 医薬品市

場や、今後拡大が予想されるバイオシミラー医薬品市場への進出を目的とした企業買収

やアライアンスなどで積極的な展開をみせている。医薬品事業の多層化による競争力強

化の戦略である。 ・日本の製薬企業が今後も幅広く患者の必要とする医薬品を開発、供給し、国民の健康資

本の増進と成長への貢献をしていくためには、国際競争力強化のための戦略的投資や新

薬開発のリスクに耐えうる収益基盤を維持強化していくことが必要不可欠である。

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目 次 第 1 章 次世代リーディング産業としての製薬産業 ........................................................... 1

第 1 節 知識創造による高付加価値経済への転換と製薬産業 ......................................... 1 第 2 節 製薬産業の持つ可能性 ........................................................................................ 3

1. 新薬創出による健康資本増進 ................................................................................... 3 世界第 3 位のオリジン創出国日本 ............................................................................. 3 アンッメット・メディカル・ニーズと新薬承認数 .................................................... 4

2. 知識集約・高付加価値型産業としての特性 .............................................................. 5 積極的な研究開発投資 ............................................................................................... 5 研究開発資産と高い付加価値率 ................................................................................. 7

第 2 章 市場シェアにみる国際競争力の比較 ...................................................................... 9 1.世界市場における売上伸長率と市場シェア ................................................................ 9

日米企業を上回る伸びをみせる欧州企業 ................................................................... 9 世界市場でプレゼンスを高める欧州企業と停滞する日本企業 ................................ 10

2. 地域別売上シェア ................................................................................................... 11 拡大する新興国市場の構成比 .................................................................................. 11 AAA 市場でシェアを低下させる日本企業 ............................................................... 12

3. 薬効分類別シェア ................................................................................................... 13 成長著しい抗腫瘍・免疫領域市場 ........................................................................... 13 スペシャリティ領域やニッチ領域でシェアを伸ばす欧州企業 ................................ 14

4. バイオ医薬品 vs 低分子医薬品 ............................................................................... 16 存在感が高まるバイオ医薬品 .................................................................................. 16 欧米企業で高まるバイオ医薬品の位置付け ............................................................. 17

第 3 章 欧州企業にみる成長戦略 ...................................................................................... 20 1. 製品別売上の上位集中度 ........................................................................................ 20

売上上位製品への依存度が低い欧州企業 ................................................................. 21 2. 薬効別売上にみる日米欧企業の特色 ....................................................................... 22 米国企業:神経系・循環器領域など売上規模の大きな領域に強く依存 .................. 23 欧州企業:抗腫瘍・免疫領域などのスペシャリティ領域に重点 ............................. 24 日本企業:マス・マーケットの消化管・代謝領域に強く依存 ................................ 25 薬効領域別にみた欧州企業の売り上げの分散 ......................................................... 26

3. 地域別売上にみる上位集中度 ................................................................................. 27 地域別売上も分散化傾向にある欧州企業 ................................................................. 27 企業別にみた上位集中度 .......................................................................................... 28

4. 欧州企業にみられる企業戦略のコスト効率への影響 .............................................. 29 第 4 章 おわりに -日本の研究開発型製薬企業の国際競争力強化に向けて- .............. 30

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第 1 章 次世代リーディング産業としての製薬産業 第 1 節 知識創造による高付加価値経済への転換と製薬産業

近年、世界経済を取り巻く環境は急激に変化している。バイオ・情報・環境分野などに

飛躍的な技術革新がもたらされるとともに、新興国の経済成長による世界市場の一体化が

一層進む一方で、世界規模での金融危機や資源価格の不安定化、地球温暖化の進行といっ

た新たな重要課題に直面している。日本経済に目を転じると、その成長は多くの産業部門

における国際競争力低下と相俟って鈍化しており、さらに、高齢化と人口減少による労働

力不足が深刻化しつつある。 経済財政諮問会議の「構造変化と日本経済」専門調査会は、世界経済のダイナミズムの

中で日本経済が持続的成長を遂げるために、①多数の革新的企業が創出されるための制度

の国際的収斂(国際標準化)と開放的な「プラットホーム」づくり、②環境と両立する経

済の姿を実現するための知識創造イノベーション、③労働力人口減少の克服等のための健

康増進による安心基盤の構築、を柱とする高付加価値経済への転換を図るべきと提言して

いる1(図 1-1-1 )。

図 1-1-1 知識創造による高付加価値経済への転換の必要性

出所:「構造変化と日本経済」専門調査会報告を参考に作成。

1 経済財政諮問会議「構造変化と日本経済」専門調査会報告(平成 21 年 7 月 2 日)

知識創造による高付加価値経済への転換

世界経済の劇的変化と新たな課題の出現

•世界市場の一体化とフラット化•飛躍的な技術革新•資源価格の不安定化•地球温暖化の進行

•世界市場の一体化とフラット化•飛躍的な技術革新•資源価格の不安定化•地球温暖化の進行

日本経済の位置づけの変化と今後の課題

•成長力の低下•産業競争力の相対的低下•高齢化・人口減少による労働人口の減少

•成長力の低下•産業競争力の相対的低下•高齢化・人口減少による労働人口の減少

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このような高付加価値経済への転換と健康社会の実現に向けて、知識集約度が高く、か

つ生命に関連する製薬産業が果たすべき役割は極めて大きいと考えられる。民主党への政

権交代後に閣議決定された「新成長戦略(基本方針)」においても、ライフ・イノベーショ

ン(医療・介護分野革新)の推進を担う医療・介護・健康関連産業は、日本経済の成長を

牽引する産業として位置付けられており、特に製薬産業には革新的新薬の創出が求められ

ている2。 図 1-1-2 に示すように、革新的新薬の創出はイノベーションによる知識創造そのもので

あり、ドラッグ・ラグの解消やアンメット・メディカル・ニーズの充足をもたらすことに

よって、新薬アクセスの改善を通じた国民・患者の健康資本増進に貢献する。また、革新

的新薬は高い経済的付加価値を生み出し、高付加価値経済の実現にも寄与するであろう。 しかしながら、製薬産業が健康および経済への貢献を持続的に果たしていくためには、

革新的新薬の絶え間ない創出を可能とする、産業としての高い国際競争力を有しているこ

とが条件となる。第 2 節では、製薬産業によるこれまでの健康および経済への貢献実績と、

製薬産業が次世代のリーディング産業となるに相応しいポテンシャルを有するか否かにつ

いて、①国内で承認された新薬におけるアンメット・メディカル・ニーズの充足度、②産

業の知識集約度と付加価値性、の各側面からみていく。

図 1-1-2 製薬産業としての国際競争力強化と健康および経済への貢献

2 「新成長戦略(基本方針)」(平成 21 年 12 月 30 日閣議決定)

経済的付加価値の増大

革新的新薬の創出

新薬アクセスの改善

産業の国際競争力向上

国民・患者による信頼と期待

高付加価値経済

知識創造

健康資本増進

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米国

イギリス

日本

スイス

ドイツ

フランス

スウェーデン

イスラエル

イタリア

その他

オリジン品目数

2005年 2006年 2007年 2008年

第 2 節 製薬産業の持つ可能性

製薬産業が国民の健康増進と高付加価値経済への転換をリードする産業として注目され

る背景には、健康および経済への貢献に対するこれまでの実績と次世代リーディング産業

としてのポテンシャルを兼ね備えていることがある。そこで、本節では、新薬創出力、知

識集約度および付加価値性から製薬産業の持つ可能性を概観する。 1. 新薬創出による健康資本増進

世界第 3 位のオリジン創出国日本 いうまでもなく製薬産業の最も重要な使命の 1 つは、革新的新薬の創出により患者・医

療に貢献することである。特に、日本オリジンの新薬創出は、治療の進歩をもたらすのみ

ならず、その創生プロセスを通じて我が国の生命科学および医学の発展に大きく寄与する、

まさに知識創造そのものといえる。図 1-2-1 は、2005~2008 年各年の世界売上上位 100品目を対象に、主要国別のオリジン新薬数3を比較したものである。日本のオリジン新薬数

は 11~12 品目と、米国、イギリスに次いで多い。日本は世界第 3 位の新薬創生国であり、

日本の製薬産業の知識創造性は国際的にみても高い水準にあるといえる4。

図 1-2-1 主要国別オリジン新薬数(2005~2008 年の世界売上上位各 100 品目)

注:創出国不明の品目および検査・診断薬(2008 年 1 品目、2007 年 4 品目、2006 年 5 品目、2005 年 5

品目)を除く(結果に大きな影響はない)。 出所:©2010 IMS Health. IMS World Review、IMS LifeCycle(IMS Health)、Pharmaprojects をもと

に作成(転写・複製禁止)。 3 ここでは、各新薬の特許における優先権主張国のうち、最も時期が早い国を当該新薬の創出国と定義している。 4 必ずしも企業国籍が日本でなくても、日本オリジンの新薬を創生している企業は、日本に根ざす製薬産業と考えられ

るため、ここでは、海外企業による日本オリジン新薬も含めた結果を日本の製薬産業の成果と捉えている。

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アンメット・メディカル・ニーズと新薬承認数 次に、治療満足度が低い疾患に対する新薬が日本でどのくらい承認されているかをみて

みよう。図 1-2-2 は、2006~2008 年に日本で承認された新薬数(海外オリジンを含む)

を疾患の治療満足度別に円の大きさと数値で示している。なお、図の横軸は各疾患の治療

に対する満足度、縦軸は各疾患の治療に対する薬剤の貢献度(60 疾患に対する医師を対象

とした 2005 年の調査結果)である5。治療満足度が低く、かつ、治療に対する薬剤の貢献

度が低い疾患に対して承認された新薬は 28 品目と全体の 38.4%に上っている。また、治

療の満足度が低いか、あるいは、薬剤の貢献度が低い疾患に対して承認された新薬を加え

ると全体の約 65%に及んでいる。さらに、2006~2008 年に承認された新薬をみると、本

調査の対象疾患(60 疾患)に含まれていない重症度・難治性が高い疾患6に対しても 20 品

目の新薬が承認されている。このように、製薬産業は、いわゆるアンメット・メディカル・

ニーズを満たす新薬を積極的に創出し、健康資本増進に貢献している。

図 1-2-2 治療満足度(2005 年)別にみた新薬の承認状況(2006~2008 年)

注:上記対象疾患に該当しない希少疾病などを対象とした新薬は含まれていない。 出所:政策研ニュース No.21「新薬の開発・上市と治療満足度の変化」、ヒューマン・サイエンス財団に

よる調査結果及び PMDA 公表資料をもとに作成。 5 ヒューマン・サイエンス財団による調査結果。 6 悪性胸膜中皮腫、非ホジキンリンパ腫、ムコ多糖症Ⅰ/Ⅱ型、ムコ多糖症Ⅳ型、多発性骨髄腫、電撃性紫斑病、ユー

イング肉腫ファミリー腫瘍、ファブリー病、腎細胞癌、再生不良性貧血、高フェニルアラニン血症、新生児の肺高血

圧を伴う低酸素呼吸不全、特発性肺線維症、骨端線閉鎖を伴わない SGA 性低身長症

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2

1

1

1

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1

1

1

2

11

111

1

1

1

1

1

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1

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1

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70%

80%

90%

100%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

消化性潰瘍

高血圧症

狭心症

結核

高脂血症痛風

子宮筋腫

胃癌

大腸癌

乳癌

前立腺癌

喘息

心筋梗塞

前立腺肥大症

緑内障

糖尿病

不整脈

心不全

てんかんアレルギー性鼻炎

機能性胃腸症

白血病

子宮癌

肝癌

うつ病

不安神経症

関節リウマチ

子宮内膜症

アトピー性皮膚炎

骨粗鬆症

慢性B型肝炎

パーキンソン病

慢性C型肝炎

MRSA

統合失調症

COPD

エイズ

炎症性腸疾患

脳梗塞ネフローゼIBS

SLE

過活動膀胱

慢性糸球体腎炎

乾癬

じょくそう

変形性関節症

脳出血

慢性腎不全

腹圧性尿失禁

睡眠時無呼吸症候群

糖尿病性網膜症

肺癌

加齢黄斑変性

アルツハイマー病

多発性硬化症

糖尿病性腎症

肝硬変

糖尿病性神

経障害

血管性痴呆

治療に対する薬剤の貢献度

治療の満足度

12品目(16.4%)

28品目(38.4%)

26品目(35.6%)

7品目(9.6%)

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2. 知識集約・高付加価値型産業としての特性

製薬産業は知識集約・高付加価値型産業の典型とされるが、その根拠の 1 つは売上高に

対する研究開発費比率および付加価値率が高いことにある。しかし、企業財務の視点から

みると、研究開発費は技術知識として資産化されることにより、付加価値を生み出す。そ

こで、本稿では、製造業全 16 業種・上場 777 社7の連結財務データ(業種集計値)による

研究開発費および研究開発資産の産業間比較を通じて、製薬産業の知識集約度と付加価値

性を明らかにする。なお、以下のデータは、全て GDP デフレータにより実質化してある。 積極的な研究開発投資 最初に、研究開発費支出8の現状を産業間で比較してみよう。2007 年度における製造業

全 16 業種の総研究開発費に占める「医薬品」のシェアは 13.1%で、「電気機器」の 43.6%、

「自動車」の 13.3%に次ぐ第 3 位である。しかしながら、図 1-2-3 に示すように、2007 年

度の研究開発費が特に多かった 6 業種における研究開発費の伸びを 2000 年度に対する伸

長指数で比べると、製薬産業の研究開発費は 2000 年度から 2.7 倍も伸びており、これら 6業種の中では最も高い水準であることがわかる。

図 1-2-3 主要産業における研究開発費の伸び

注:伸長指数は 2002 年度からの累積伸長率(実質ベース)。 出所:日経 NEEDS をもとに作成。

7 日経 NEEDS 業種中分類の全製造業種(「その他製造業」42 社は除く)を対象としている。各業種の企業数内訳は、

医薬品 21、食品 70、繊維 40、パルプ・紙 11、化学 112、石油 5、ゴム 16、窯業 33、鉄鋼 35、非鉄金属 63、機械

118、電気機器 158、造船 5、自動車 54、輸送用機器 7、精密機器 29 である。 8 本稿では、連結損益計算書の販売費・一般管理費に計上されている「開発費・試験研究費」を研究開発費としている。

機械 1.3

電気機器 1.5 化学 1.6

自動車 1.8

1.0

精密機器 2.2

医薬品 2.7

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

2.0

2.2

2.4

2.6

2.8

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007

研究

開発

費伸

長指

数(2

000年

度=

1)

(年度)

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また、製薬産業は売上高研究開発費比率が高いことで知られている。この売上高研究開

発費比率を研究開発投資余力に対する研究開発費支出の度合いと売上高に対する研究開発

投資余力の程度に分解し、各産業の位置付けをみたものが図 1-2-4 である9。製薬産業は研

究開発投資余力が相対的に最も大きいが、投資余力に対する研究開発費比率も同様に最も

高い。他の産業では、「精密機器」や「電気機器」などが投資余力を上回る研究開発費支出

を行っている一方で、「自動車」や「鉄鋼」、「輸送機器」などでは、投資余力をやや下回る

支出水準に留まっている。製薬産業は相対的に高い研究開発投資余力を有しており、その

余力を積極的に研究開発投資に向けていることがわかる。

図 1-2-4 研究開発投資余力に対する研究開発費支出

注:2003~2007 年度の産業別平均(実質ベース)。 出所:日経 NEEDS をもとに作成。 このように、製薬産業の研究開発費は、支出規模こそ他の産業を凌駕するほどではない

ものの、その伸長率では他産業を大きく引き離しており、しかも売上成長以上の伸びをみ

せている。また、製薬産業は、投資余力に応じた研究開発費支出を行っており、研究開発

投資に極めて積極的な産業であることが理解できる。 9 研究開発費/売上高={研究開発費/(営業利益+研究開発費+減価償却費)【研究開発投資余力に対する研究開発

費支出の度合い】}×{(営業利益+研究開発費+減価償却費)/売上高【売上高に対する研究開発投資余力の程度】}

食品 1.0

繊維 2.6

パルプ・紙 0.9

化学 3.7

医薬品 14.0

石油 0.2

ゴム 3.0

窯業 2.0

鉄鋼 1.0

非鉄金属 1.7 機械 2.6

電気機器 5.6

造船 1.4

自動車 3.8

輸送用機器 1.7

精密機器 5.2

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45

研究

開発

費/

(営

業利

益+研

究開

発費

+減価

償却

費)

(%

(営業利益+研究開発費+減価償却費)/売上高 (%)

円のサイズと数値:売上高研究開発費比率 (%)

【売上高に対する研究開発投資余力の程度】

【研

究開

発投

資余

力に

対す

る研

究開

発費

支出

の度

合い

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研究開発資産と高い付加価値率 冒頭で述べたように、研究開発費は技術知識として資産化されて初めて付加価値の増大

をもたらす。つまり、研究開発資産は、産業の知識集約度および付加価値性を決定づける

要素といえるため、各産業の研究開発費から研究開発資産を推計し10、その水準を労働時

間あたりの研究開発資産額(以下、労働の知識装備率)と総資産に研究開発資産を加えた

総額に占める研究開発資産の比率(以下、研究開発資産比率)という指標から比べてみる11。 図 1-2-5 は、労働の知識装備率と研究開発資産比率を産業別に算出した結果である。「医

薬品」における労働の知識装備率および研究開発資産比率は他産業の水準を大きく上回っ

ており、製薬産業が極めて知識集約度の高い産業であることが示されている。

図 1-2-5 労働の知識装備率(労働時間あたり研究開発資産)と研究開発資産比率

注:2003~2007 年度の産業別平均(実質ベース)。 出所:毎月勤労統計調査(厚生労働省)、日経 NEEDS をもとに作成。 10 各産業の研究開発資産は、恒久棚卸法(Perpetual Inventory Method)に基づく次の式で算出した。

当期研究開発資産=懐妊ラグ-1 期前の研究開発費+前期研究開発資産 ×(1-陳腐化率) 「懐妊ラグ」とは、支出された研究開発費が市場からの収益をもたらす技術知識として資産化するまでの期間を指し、

「陳腐化率」とは、資産化した技術知識が 1 年で何%陳腐化するかを表すものである。今回の推計では、UFJ 総合

研究所「平成 16 年度産業技術調査 研究開発促進税制の経済波及効果に係る調査 報告書」(平成 17 年 3 月)および

経済企画庁(現内閣府)経済研究所編集「経済分析第 103 号 研究開発と技術進歩の経済分析」(昭和 61 年 9 月)に

基づく業種別の陳腐化率と懐妊ラグを用いることにする。但し、「医薬品」の陳腐化率については、新薬上市から後

発品上市までの平均的な期間である約 13 年を特許残存期間とし、これの逆数とした。主要な産業の陳腐化率および

懐妊ラグは、電気機器 12.5%・3 年、自動車 16.7%・4 年、化学 10.0%・3 年、機械 33.3%・3 年、精密機器 18.2%、

3 年、医薬品 8.0%、5 年などである。 また、推計期間初年度の研究開発資産(ベンチマーク・ストック)については、以下の方法で求めた。

初年度の研究開発資産(ベンチマーク・ストック)=初年度の研究開発費/(初年度から 5 年間の研究開発費平

均伸長率+陳腐化率) 11 研究開発資産比率、研究開発資産比率の指標を用いることにより、産業の規模の違いをコントロールした上で、各

産業の研究開発資産について比較することができる。

0

5

10

15

20

25

30

35

0

5

10

15

20

25

30

医薬品

化学

電気機器

精密機器

窯業

非鉄金属

ゴム

造船

パルプ・紙

自動車

食品

鉄鋼

機械

輸送用機器

繊維

石油

(千円/時間)

労働時間あたり研究開発資産

研究開発資産/(総資産+研究開発資産)

(%)

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では、このような製薬産業の高い知識集約性は、高付加価値をもたらしているのだろう

か。図 1-2-6 は、各産業における研究開発資産比率と付加価値額の対売上高比率(以下、

付加価値率)との関係を示している(2003~2007 年度平均)12。研究開発資産比率と付加

価値率との相関は強く(相関係数 0.60)、研究開発資産比率の高い産業ほど付加価値率も

高い関係がみられる。製薬産業の研究開発資産比率と付加価値率は、ともに産業間で最も

高い水準にあり、製薬産業における高い知識集約性は高付加価値の創出に結びついている

といえる。

図 1-2-6 研究開発資産比率と付加価値率との関係

注:2003~2007 年度の産業別平均(実質ベース)。 出所:日経 NEEDS をもとに作成。 以上のように、製薬産業は他産業との比較でみても知識集約度および付加価値性が極め

て高く、まさに知識集約・高付加価値産業である。わが国が知識創造による高付加価値経

済を実現し、健康資本を増進していく上で、重要な役割を担う産業と位置付けてよいであ

ろう。 12 付加価値額(連結ベース)の算出は、「企業活動基本調査」(経済産業省)で定義されている以下の式に基づいてい

る。 付加価値額=営業利益+現金給与総額+賃借料+減価償却費+租税公課

食品

繊維 パルプ・紙

化学

医薬品

石油

ゴム

窯業

鉄鋼 非鉄金属機械

電気機器

造船

自動車

輸送用機器

精密機器

r = 0.60

0

5

10

15

20

25

30

35

40

0 5 10 15 20 25 30 35 40

付加価値率(%)

研究開発資産/(総資産+研究開発資産) (%)

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第 2 章 市場シェアにみる国際競争力の比較 知識創造・高付加価値経済への構造転換が必要とされる日本経済にとって、知識集約型

産業である製薬産業の国際競争力強化は、そのための重要な政策課題の一つである。本章

では、日本の製薬産業の位置付けを明らかにするために、日本、米国、欧州それぞれを企

業国籍とする主要製薬企業間の世界市場における売上伸長率や市場シェアなどを指標とし

て、各企業の国際競争力を比較する。 1.世界市場における売上伸長率と市場シェア

日米企業を上回る伸びをみせる欧州企業

最初に、世界市場における売上伸長率と市場シェアを日米欧主要製薬企業で比較してみ

よう。 まず、図 2-1 左図は 2003~2007 年各年の世界売上上位 100 位以内にランクしている企

業(以下、世界売上上位 100 位以内企業)を日米欧企業に分けると同時に、同右図は更に

対象を絞り込み、日米欧企業の各売上上位 10 社13に分けて、対 2003 年の売上伸長率の推

移を示している。日米欧企業のいずれも売り上げを伸ばしており、特に欧州企業の伸びは、

世界売上上位 100 位以内企業および売上上位 10 社のいずれの場合においても 150%以上

(2007 年)と最も高い成長を遂げている。米国企業をみると、世界売上上位 100 位以内

企業では 129.7%と欧州企業に次いで伸びが大きいのに対し、上位 10 社では 122.1%と欧

州企業および日本企業を下回っている(いずれも 2007 年)。米国企業の場合、トップ企業

の伸びが鈍化している一方で、準大手・中堅企業が産業全体の成長を牽引していると解釈

できる。日本企業の場合は、世界売上上位 100 位以内企業では 119.0%とその伸びは最も

低いが、上位 10社に限ってみると 131.7%と米国企業上位 10社を上回って成長しており、

米国企業とは対照的である(いずれも 2007 年)。欧米企業に比べて大手企業と準大手・中

堅企業との成長力格差が大きいことに起因しているとみられる。

13 米国企業は、Pfizer、Johnson & Johnson、Merck & Co.、Abbott、Eli Lilly、Amgen、Wyeth、Bristol-Myers Squibb、

Schering Plough、Forest(2003~2004 年)、Baxter(2005~2006 年)、Mylan(2007 年)。欧州企業は、

GlaxoSmithKline、Novartis、Sanofi-Aventis(旧 Aventis、旧 Sanofi-Synthelabo 含む)、AstraZeneca、Roche(Genentech、中外含む)、Bayer(旧 Schering AG 含む)、Boehringer Ingelheim、Novo Nordisk、Merck KGaA、

Akzo Nobel(2003 年)、Servier(2004~2007 年)。日本企業は、武田、エーザイ、第一三共(旧三共、旧第一含

む)、アステラス(旧藤沢、旧山之内含む)、大塚、田辺三菱(旧三菱ウェル、旧田辺含む)、大日本住友(旧住友、

旧大日本含む)、塩野義、小野、興和。

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10

129.7%

100.0%

150.6%

119.0%

100%

105%

110%

115%

120%

125%

130%

135%

140%

145%

150%

155%

2003 2004 2005 2006 2007

売上伸長率(対2003年)

世界売上上位100米国企業 世界売上上位100欧州企業

世界売上上位100日本企業

100.0%

122.1%

150.7%

131.7%

100%

105%

110%

115%

120%

125%

130%

135%

140%

145%

150%

155%

2003 2004 2005 2006 2007

売上伸長率(対2003年)

米国企業上位10社 欧州企業上位10社 日本企業上位10社

図 2-1 日米欧主要企業の売上伸長率推移(対 2003 年)

世界売上上位 100 位以内日米欧企業 日米欧企業各売上上位 10 社

出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。

世界市場でプレゼンスを高める欧州企業と停滞する日本企業 世界市場における売上シェアの推移をみると、世界売上上位 100 位以内日米欧企業と日

米欧企業各売上上位 10 社のいずれの比較においても、2005 年までは米国企業の世界シェ

アが最も高かった(図 2-2)。しかしながら、2007 年時点における世界売上上位 100 位以

内企業では欧州企業 37.4%、米国企業 36.7%、上位 10 社では欧州企業 30.8%、米国企業

29.9%と、いずれをみても欧州企業が米国企業に勝るシェアを獲得している。 一方、日本企業については、世界売上上位 100 位以内企業と上位 10 社のシェアに大き

な違いはみられず、2007 年ではその水準はほぼ同様である(6.7%と 6.1%)。また、世界

売上上位 100 位以内企業では 2003 年の 8.1%をピークに下降傾向が続いており、上位 10社では概ね 6%台で停滞している。これは、日本企業の世界シェアの大部分がごく少数の

大手企業によって形成され、その水準もまたこれらの企業に大きく依存していることを意

味している。上位企業に限っても世界市場での売上シェアは拡大しておらず、グローバル

な競争力を有する日本企業が、絶対数でも欧米企業に比べて少ないことを示している。

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11

35.1% 33.9%31.7%

30.7% 29.9%29.3% 29.3% 30.4%

30.9% 30.8%

6.6% 6.8% 6.7% 6.3% 6.1%

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

45%

2003 2004 2005 2006 2007

世界市場シェア

米国企業上位10社 欧州企業上位10社 日本企業上位10社

40.6% 40.4%38.4%

37.2% 36.7%35.7% 35.1%36.6%

37.5% 37.4%

8.1% 7.9% 7.8% 7.2% 6.7%

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

45%

2003 2004 2005 2006 2007

世界市場シェア

世界売上上位100米国企業 世界売上上位100欧州企業

世界売上上位100日本企業

図 2-2 日米欧主要企業の世界シェア推移

世界売上上位 100 位以内日米欧企業 日米欧企業各売上上位 10 社

出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。 2. 地域別売上シェア

拡大する新興国市場の構成比

世界市場における国・地域別の市場構成比の変化をみているのが、図 2-3 である。2003年と 2008 年のいずれにおいても、米国、日本、フランス、ドイツ、イギリスの順で先進 5か国の市場構成比が高いが、米国市場は 44%から 38%、日本市場は 12%から 10%へと低

下しており、欧州 3 か国の市場はいずれも 2003 年の水準と変わっていない。対照的に、

イギリス・フランス・ドイツを除くその他欧州と日本を除く AAA(アジア・アフリカ・オ

セアニア)はそれぞれ 14%から 17%、10%から 13%へと、ともに市場構成比が 3%上昇し

ており、新興国市場が先進国市場を上回って伸長していることが読み取れる。 これらを企業の視点からみると、市場規模の大きい米国市場などでの売上シェアが依然

として重要であることはいうまでもないが、成長著しい東欧市場やアジア市場などの新興

国市場でのプレゼンス拡大もまた、今後、国際競争力を強化・維持していく上で欠かせな

い要素の一つになっていると考えられる。

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12

米国44%

日本12%

フランス5%

ドイツ5%

イギリス3%

その他欧州14%

AAA(日本除く)

10%

南米5%

その他2%

米国38%

日本10%フランス

5%

ドイツ5%

イギリス3%

その他欧州17%

AAA(日本除く)

13%

南米6%

その他2%

図 2-3 世界市場における地域別市場構成比 2003 年 2008 年

注:AAA は日本を除くアジア・アフリカ・オセアニア。 出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。 AAA 市場でシェアを低下させる日本企業 世界売上上位 100 位以内の日米欧各企業の地域別シェアを 2003 年と 2007 年との対比

でみているのが、図 2-4 である。米国企業は、母国市場が含まれる北米市場を含め全ての

市場でシェアを低下させる一方、欧州企業は、北米・欧州などの先進国市場だけでなく、

成長著しいアジアなどの新興国市場が含まれる AAA 市場(日本を含むアジア・アフリカ・

オセアニア)でのシェアを拡大させている。 日本企業に目を転じると、北米・欧州などでの先進国市場ではややシェアが拡大してい

るものの、母国市場を含む AAA 市場ではシェアが縮小している。AAA 市場全体の約 43%が日本市場であり、日本市場の 60%以上のシェアを日本企業(世界売上上位 100 位以内の

企業以外も含む)が有していることを考えると、日本企業の AAA 市場でのシェアは、そ

の大部分が日本市場でのシェアによるものであり、日本を除くアジア市場でのプレゼンス

は低下しているものと推察される。

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13

57.9 52.4

29.5 28.516.5 16.3

31.2 25.7

31.933.1

51.5 52.7

22.9 24.8

38.435.6

3.54.6

1.6 1.8

30.4 20.9

0.4

0.5

6.7 9.9 17.4 17.0

30.2 38.0

30.0 38.2

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

2003年 2007年 2003年 2007年 2003年 2007年 2003年 2007年

北米市場 欧州市場 AAA市場 南米市場

企業国籍別シェア

世界売上上位100米国企業 世界売上上位100欧州企業

世界売上上位100日本企業 その他企業

図 2-4 世界各地域における日米欧企業シェア

注:AAA は日本を含むアジア・アフリカ・オセアニア。 出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。 3. 薬効分類別シェア

成長著しい抗腫瘍・免疫領域市場 視点を変えて、日米欧主要製薬企業の競争力を薬効分類別に比べてみよう。 まず、世界市場における薬効分類別の市場構成比を 2003 年と 2008 年の比較で示してい

るのが、図 2-5 である。両年ともに、「神経系」、「循環器系」、「消化管・代謝」、「抗感染症」

の順で市場規模が大きいことに変化はないが、「神経系」は 16.5%から 16.7%へと 0.2 ポイ

ントの微増、「循環器系」は 16.4%から 14.2%へと 2.2 ポイント減、「消化管・代謝」も 13.4%から 12.9%へと 0.5 ポイント減とやや停滞している。逆に、構成比の伸びが最も大きい薬

効領域は「抗腫瘍・免疫」で、2003 年の 7.3%から 2008 年には 10.4%へと 3.1 ポイント

も伸長している。 これらから、市場を薬効分類別にみた場合、その構成比は依然高いものの、伸びに陰り

が見え始めている「循環器系」、「消化管・代謝」などの薬効領域への依存度が高い企業よ

りも、「抗腫瘍・免疫」などの市場成長が大きい薬効領域に注力している企業の方が、高い

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14

N  神経系

16.5%

C  循環器系

16.4%

A  消化管・代謝13.4%

J  抗感染症

11.4%

R  呼吸器系

7.8%

L  抗腫瘍・免疫

7.3%

B  血液・造血器官5.9%

M  筋・骨格

5.8%

G  生殖器・

性ホルモン

4.7%

D  皮膚科

2.8%

T  診断薬2.0% S  感覚器

1.8%

H  全身ホルモン

1.6%その他

2.6%

N  神経系

16.7%

C  循環器系

14.2%

A  消化管・代謝

12.9%

J  抗感染症

11.1%

L  抗腫瘍・免疫

10.4%

R  呼吸器系

7.6%

B  血液・造血器官

5.9%

M  筋・骨格

5.5%

G  生殖器・

性ホルモン

4.6%

D  皮膚科

2.6%

S  感覚器

2.1%T  診断薬

1.8%

H  全身ホルモン

1.6% その他

3.0%

売上伸長を実現する可能性が大きいといえる。

図 2-5 世界市場における薬効分類別市場構成比

2003 年 2008 年

出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。 スペシャリティ領域やニッチ領域でシェアを伸ばす欧州企業 そこで、主要な 14 薬効領域(ATC 大分類)ごとに、各薬効上位 30 位以内にランクイ

ンする日米欧各企業の売上シェア(2003 年および 2007 年)を比較したのが、図 2-6 であ

る。米国企業は、2003 年には「血液・造血器官」、「循環器系」、「生殖器・性ホルモン」、

「筋・骨格」、「呼吸器系」などでのシェアが特に高かったが、2007 年には診断薬を除き全

ての分類においてシェアが低下しており、特に「呼吸器系」(47%から 26%へと 21 ポイン

ト減)、「生殖器・性ホルモン」(52%から 44%へと 8%減)、「循環器系」(46%から 38%へ

と 8 ポイント減)での下落が大きい。これとは対照的に、欧州企業は 2003 年に既に 43%のトップシェアを獲得していた「抗腫瘍・免疫」のシェアが 2007 年には 50%へと更に拡

大しているほか、「呼吸器系」で 28%から 49%へ 21 ポイント増、「循環器系」でも 28%か

ら 34%へ 6ポイント増となるなど、米国企業からシェアを奪うかたちとなっている。また、

市場規模が小さい「感覚器」領域におけるシェアも 2003 年の 31%から 2007 年には 43%へと 12 ポイント拡大している。このように、近年の欧州企業の高成長は、生活習慣病市

場に代表されるマス・マーケットだけでなく、市場が拡大傾向にあるがん..

や自己免疫疾患

などのスペシャリティ領域14や、市場規模は小さいが競合の少ないニッチ領域に主力品を

14 一般的に、主に専門医による高度な治療技術が必要とされ、またアンメット・メディカル・ニーズが

高い疾患領域を指す。

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15

投入し、売り上げを伸ばしていることに起因しているといえる。一方、日本企業について

は、生活習慣病に分類される「消化管・代謝」領域の売上シェアは 2003 年および 2007年のいずれも 10%を超えているものの、その他の領域においてはいずれも日本企業の売上

シェアの平均を下回っている。

図 2-6 各薬効分類における日米欧企業シェア

注:日米欧各企業は各薬効トップ 30 以内の企業。 出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。

19 18

5246 46

38

26 24

5244 44 41 38 37 38

34

5349 48

43

1911

47

26

41 39 39 42

4038

2733

28

34

3333

31

35 3638

3229

43 5019

21

30

29

42

43

28

49

3143 45

431312

7 55

6

32

45

52

5

4

8 5

66

3

53 1

154

9 828

32

13 16 20 22

38 41

13 17 15

19 25

30

11 11

21 25 18

23

39 45

22 24

13 14 7 7

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

2003

2007

2003

2007

2003

2007

2003

2007

2003

2007

2003

2007

2003

2007

2003

2007

2003

2007

2003

2007

2003

2007

2003

2007

2003

2007

2003

2007

A消化管

・代謝

B血液・造

血器官

C循環器系

D皮膚科

G生殖器・性

ホルモン

H全身ホ

ルモン

J抗感染症

L抗腫瘍

・免疫

M筋・骨格

N神経系

P寄生虫

R呼吸器系

S感覚器

T診断薬

薬効内売上シェア

薬効別トップ30米国企業 薬効別トップ30欧州企業 薬効別トップ30日本企業 その他企業

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16

4. バイオ医薬品 vs 低分子医薬品

存在感が高まるバイオ医薬品

次に、近年、特に市場が拡大傾向にあるがん..

や自己免疫疾患などのスペシャリティ領域

で注目を集めているバイオ医薬品にフォーカスして、日米欧主要製薬企業の競争力をみて

みる。 世界売上上位 100 品目を対象に、低分子医薬品とワクチンを含めたバイオ医薬品の売上

構成比および上位 100 品目の売上高の変化を 1999 年、2003 年および 2007 年の対比でみ

たのが、図 2-7 である。バイオ医薬品の売上構成比は、1999 年の 6.3%から、2007 年には

22.7%と 16.4 ポイント増加している。また、売上増加額の変化および増加額に占める割合

を低分子医薬品とバイオ医薬品に分けて示したのが、図 2-8 である。増加額合計に占める

バイオ医薬品の寄与率は 1999~2003 年の 15%から、2003~2007 年には 55%を超えるま

でに至っている。 2006 年前後から相次いだブロックバスターの特許失効により低分子医薬品の売上増加

額が大幅に減少する一方、バイオ医薬品の売り上げが増加しており、バイオ医薬品の位置

付けが高まってきている。

図 2-7 世界売上上位 100 品目における

バイオ医薬品と低分子医薬品の構成比

図 2-8 世界売上上位 100 品目の

売上増加額の内訳

出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。

6.3% 10.3%22.7%

93.7%89.7%

77.3%1,024

1,775

2,449

0

600

1,200

1,800

2,400

3,000

0%

20%

40%

60%

80%

100%

1999 2003 2007

低分子医薬品 バイオ医薬品 売上上位100品目売上高(右目盛)

(1億ドル)

15.7%

55.2%

84.3%

44.8%751 

674 

200 

400 

600 

800 

1,000 

0%

20%

40%

60%

80%

100%

1999‐2003 2003‐2007

低分子医薬品 バイオ医薬品 売上高増加額合計(右目盛)

(1億ドル)

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17

欧米企業で高まるバイオ医薬品の位置付け 世界売上上位 100 品目を、日米欧企業に分けて 1999 年、2003 年および 2007 年の対比

でみたのが、図 2-9 である。2007 年でみると、欧米企業については全売上に占めるバイオ

医薬品の割合が 20%を超えている。バイオベンチャーの買収やアライアンスなどにより、

バイオ医薬品の開発を積極的に行ってきた成果といえる。特に欧州企業は、2003 年の 3.1%から 2007 年には 21.0%と 17.9 ポイント上昇させており、全売上に占めるバイオ医薬品の

割合および金額は依然として米国企業の方が優っているものの、その伸びは際立っている。

一方、日本企業をみると、バイオ医薬品の割合は 2003 年の 0.2%から 2007 年には上昇し

ているものの、その割合は 2%に満たない。特に、近年売り上げが急激に拡大している抗

体医薬品など売上上位にランクインしているバイオ医薬品やワクチンにおいては、売上高

および割合ともに欧米企業との差は大きい。

図 2-9 世界売上上位 100 品目の日米欧企業の内訳

出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。

図 2-10 は、売り上げの伸びに注目して、世界売上上位 100 品目の売上増加額に占める

日米欧企業の寄与率を低分子医薬品とバイオ医薬品に分けて、1999~2003 年と 2003~2007 年の対比でみている。バイオ医薬品をみると 1999~2003 年では、売上増加額全体の

9 割近くを米国企業が占めているのに対し、2003~2007 年では、5 割以上が欧州企業の売

上増加によるものである。また、低分子医薬品では、欧州企業の売上増加寄与率は 1999~2003 年の 34.1%から 2003~2007 年には 79.1%へ 45 ポイント上昇しているのに対し、

9.6  15.0 26.8 

0.2  3.1 21.0 

9.1 0.2  1.8 

90.4  85.0  73.2 99.8  96.9  79.0  90.9  99.8  98.2 

619

1,090

1,267

349

582

996

51 95 156

0

500

1,000

1,500

0%

20%

40%

60%

80%

100%

1999 2003 2007 1999 2003 2007 1999 2003 2007

米国企業 欧州企業 日本企業

低分子医薬品 バイオ医薬品 上位100品目の日米欧企業別売上合計額(右目盛)

(1億ドル)

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18

‐3.8%7.7% 0.7%

20.6%14.9%

34.1% 51.6%

79.1%

88.9% 58.2%47.7%

0.3%

117

631

369283

‐200

0

200

400

600

800

1,000

‐20%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

バイオ医薬品 低分子医薬品 バイオ医薬品 低分子医薬品

1999‐2003 2003‐2007

米国企業 欧州企業 日本企業 売上高増加額合計(右目盛)

(1億ドル)

米国企業の増加寄与率は 58.2%からわずか 0.3%にまで低下している。2006 年前後から相

次いだブロックバスターの特許失効の売り上げへの影響がとりわけ米国企業に強く出てい

るといえる。一方、日本企業をみると、低分子医薬品の寄与率は 1999~2003 年の 7.7%から 2003~2007 年には 20.6%と 12.9 ポイント上昇している。しかし、バイオ医薬品では

マイナス 3.8%からプラスに転じたものの寄与率はわずか 0.7%に留まっており、低分子医

薬品への依存度が依然として大きいことがわかる。

図 2-10 世界売上上位 100 品目の売上高増加額および日米欧企業の寄与率

出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。

日米欧企業の低分子医薬品とバイオ医薬品に対する最近の取り組みをみるために、2008

年の日米欧各売上上位 10 社15の開発品目の割合の変化を 1999 年と 2009 年の対比でみた

のが、図 2-11 である。欧米企業では、全開発品目に占めるバイオ医薬品の割合が 1999 年

時点で既に 2 割を超えており、特に欧州企業については 2009 年には 3 割を超えるまでに

至っている。抗体医薬品など新たなバイオ医薬品の販売でバイオ医薬品の急激な売り上げ

の伸びをみせる欧州企業が、開発品目でみても先行する立場にあることがわかる。一方、

日本企業についてみると、1999 年に比べて 2009 年では、バイオベンチャーの買収やアラ

イアンスなどによりバイオ医薬品の割合が上昇しているものの、その割合は 1 割強と欧米

企業に比べて相対的に低い。日米欧企業いずれも 1999 年からの 10 年間で開発品目数は 2 15 米国企業は、Pfizer、Johnson & Johnson、Merck & Co.、Abbott、Eli Lilly、Amgen、Wyeth、Bristol-Myers Squibb、

Schering Plough、Gilead Sciences。欧州企業は、GlaxoSmithKline、Novartis、Sanofi-Aventis(1999年は旧Aventis、旧 Sanofi-Synthelabo を除外)、AstraZeneca、Roche(1999 年は Genentech、中外を除外)、Bayer(1999 年は旧

Schering AG を除外)、Boehringer Ingelheim、Novo Nordisk、Merck KGaA、Servier。日本企業は、武田、第一

三共(1999 年は旧第一を除外)、エーザイ、大塚、アステラス(1999 年は旧藤沢を除外)、田辺三菱(旧田辺を除

外)、塩野義、大日本住友(1999 年は旧住友を除外)、協和キリン(1999 年は旧キリンを除外)、小野。

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19

倍前後増加しているが、2009 年でみると、欧米企業の開発品目数は、日本企業の 238 に

対し、米国企業 513、欧州企業 584 といずれも 2 倍以上あり、開発品目数でみるとその差

はさらに大きい。

図 2-11 日米欧企業の開発品目の内訳

注:フェーズⅠ~フェーズⅢ及び“Clinical Trial”に分類される開発品目を対象にしている。 出所:Pharmaprojects をもとに作成。

21.9% 24.0% 23.9%32.2%

4.5%13.0%

78.1% 76.0% 76.1%67.8%

95.5%87.0%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

1999n=274

2009n=513

1999n=280

2009n=584

1999n=133

2009n=238

米国企業上位10社 欧州企業上位10社 日本企業上位10社

低分子医薬品 バイオ医薬品

各開発品の割合(%)

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20

第 3 章 欧州企業にみる成長戦略 これまでみてきたように、世界市場における売り上げや市場シェアをみると、近年、欧

州企業がプレゼンスを高めてきている。地域別の売り上げをみると、母国市場の欧州市場

や米国及び日本などの先進国市場だけでなく、アジアなど成長著しい新興国市場でのシェ

アを拡大させるなど、売上地域を分散させつつ、それぞれの地域でのシェアを拡大してい

る。また、薬効分類別にみても、生活習慣病市場に代表されるマス・マーケットだけでな

く、市場が拡大傾向にありバイオ医薬品の重要性が高まるがん..

や自己免疫疾患などのスペ

シャリティ領域に加え、市場規模は小さいが競合が少ないニッチ領域での売り上げを伸ば

すなど、薬効分類別にみても売上製品の分散がみられる。 そこで、第 3 章では、世界市場における欧州企業のプレゼンス拡大の背景を、売上製品

の上位集中度および分散の観点から、日米主要製薬企業と比較してみよう。以下では、日

米欧主要企業の競争力を、世界の医療用医薬品市場(診断・検査薬含む)における売上伸

長率およびシェアに加え、製品・薬効領域および地域別売上構成の違いなどを指標として

みてみよう。 1. 製品別売上の上位集中度

製薬産業の国際競争力の現状を世界の医薬品市場におけるシェアを指標としてみた場合、

ブロックバスターの存在が企業の競争力に大きく影響していることがわかる。しかしなが

ら、近年では、ブロックバスターのターゲットである生活習慣病市場に代表されるマス・

マーケットの伸びが鈍化している。今後、これらブロックバスターの特許が相次いで失効

することを考慮すると、これまでのように、ブロックバスターを成長ドライバーとして市

場シェアの拡大を図ることが難しくなってくる。 そこで、最初に、ブロックバスターを含む売上上位製品への依存度を日米欧主要製薬企

業でみていくことにする。

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売上上位製品への依存度が低い欧州企業 図 3-1 は、2003~2007 年それぞれの日米欧企業各売上上位 10 社16における 2007 年の

売上伸長率(対 2003 年)の内訳をブロックバスター(年間 10 億ドル以上売上製品)とそ

れ以外の製品との比率で示したものである。米国企業では全売上の伸びの 95.3%、日本企

業では 86.4%をブロックバスターの成長に依存しているのに対し、欧州企業ではこれが

71.8%と最も小さく、逆に、全売上の伸びの 28.2%がブロックバスター以外の製品の成長

によるものとなっている。

図 3-1 2007 年売上伸長率内訳(対 2003 年)

出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。 市場シェアが拡大しており、かつブロックバスター以外の製品の売上伸長が大きい欧州

企業では、売り上げが主要製品に偏らず分散化していると思われる。そこで、これら日米

欧企業各売上上位 10 社における全売上に占めるトップ 10 品目の売上比率(2003~2007年累計)と製品売上の上位集中度(ハーフィンダール指数17)の推移をみてみる(図 3-2)。米国企業と日本企業ではトップ 10 品目の売上比率が 70%を超えているのに対し、欧州企

業では 57.8%と 15%以上も低い(同図左)。製品売上の上位集中度でみても、欧州企業は

米国および日本企業に比べて低い水準を維持している(同図右)。これらから、欧州企業は

16 米国企業は、Pfizer、Johnson & Johnson、Merck & Co.、Abbott、Eli Lilly、Amgen、Wyeth、Bristol-Myers Squibb、

Schering Plough、Forest(2003~2004 年)、Baxter(2005~2006 年)、Mylan(2007 年)。欧州企業は、

GlaxoSmithKline、Novartis、Sanofi-Aventis(旧 Aventis、旧 Sanofi-Synthelabo 含む)、AstraZeneca、Roche(Genentech、中外含む)、Bayer(旧 Schering AG 含む)、Boehringer Ingelheim、Novo Nordisk、Merck KGaA、

Akzo Nobel(2003 年)、Servier(2004~2007 年)。日本企業は、武田、エーザイ、第一三共(旧三共、旧第一含

む)、アステラス(旧藤沢、旧山之内含む)、大塚、田辺三菱(旧三菱ウェル、旧田辺含む)、大日本住友(旧住友、

旧大日本含む)、塩野義、小野、興和。 17 各企業の企業内製品別売上シェアの 2 乗和。この値が大きくなるほど、その企業における特定製品の売り上げへの

依存度が強いことを示す。ここでは、データの制約上、日米欧製薬企業上位 10 社の売上トップ 10 品目(合計 100品目)を対象として、各々の全売上(10 社合計の売り上げ)に占めるシェアの 2 乗和から算出。

95.3%

71.8%86.4%

4.7%

28.2%13.6%

+22.1% +50.7% +31.7%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

米国企業上位10社 欧州企業上位10社 日本企業上位10社

売上伸長率内訳(対2003年)

10億ドル未満製品売上 10億ドル以上製品売上

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1.33% 1.38% 1.40% 1.38%1.22%

0.59% 0.60% 0.63% 0.70% 0.71%

1.60% 1.64%1.79%

2.17%

2.44%

0.00%

0.50%

1.00%

1.50%

2.00%

2.50%

3.00%

2003 2004 2005 2006 2007

米国企業上位10社 欧州企業上位10社 日本企業上位10社

製品売上の上位集中度(ハーフィンダール指数)

73.2%57.8%

73.8%

26.8%42.2%

26.2%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

米国企業上位10社 欧州企業上位10社 日本企業上位10社

売上比率(2003~2007年累計)

売上トップ10品目以外 売上トップ10品目

米国企業および日本企業に比べて、一部製品への売上依存度が低く、より多くの製品に売

り上げが分散している傾向にあることがわかる。また、トップ 10 品目売上比率では、米

国企業と日本企業との間に大きな差はみられないが、製品売上の上位集中度では 2005 年

以降、日本企業が大きく上回っている。これは、日本企業の製品別売上がトップ 10 製品

の中でも更に上位に集中している可能性があることを示している。

図 3-2 トップ 10 品目売上比率と製品売上の上位集中度

トップ 10 品目売上比率(2003~2007 年累計) 製品売上の上位集中度推移 出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。 2. 薬効別売上にみる日米欧企業の特色

次に、薬効レベルの売上構成の違いを日米欧主要企業それぞれについてみてみよう。図

3-3~図 3-5 は、各薬効領域(ATC 大分類)における企業別売上の上位集中度(ハーフィ

ンダール指数18)を縦軸に、2007 年の市場規模を横軸にとり、2007 年の日米欧企業各売

上上位 10 社19における薬効領域別の売上構成比を円の大きさで表したものである。グラフ

の右下(相対的に市場規模が大きく競合度が高い)ほどマス・マーケットとしての性格が

強く、グラフの左上(相対的に市場規模が小さく競合度が低い)ほどニッチ市場としての

性格が強いと解釈できる。なお、世界市場を対象としているため、各薬効領域のポジショ

ニングは全てのグラフで同一である。

18 各企業の企業内薬効別売上シェアを 2 乗和したもので、この値が大きいほど特定薬効への売上集中度が高い。ここ

では、日米欧製薬企業上位 10 社、計 30 社の売り上げを対象として、薬効領域ごとに各市場に占める売上シェアを

求め、その 2 乗和から算出。 19 米国企業は、Pfizer、Johnson & Johnson、Merck & Co.、Abbott、Eli Lilly、Amgen、Wyeth、Bristol-Myers Squibb、

Schering Plough、Mylan。欧州企業は、GlaxoSmithKline、Novartis、Sanofi-Aventis、AstraZeneca、Roche(Genentech、中外含む)、Bayer、Boehringer Ingelheim、Novo Nordisk、Merck KGaA、Servier。日本企業は、

武田、エーザイ、第一三共、アステラス、大塚、田辺三菱、大日本住友、塩野義、小野、興和。

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米国企業:神経系・循環器領域など売上規模の大きな領域に強く依存 まず、図 3-3 の米国企業上位 10 社についてみると、売上規模の大きな図の右部分に位

置する神経系、循環器系および抗感染症領域での売り上げの全体に占める割合が高く、そ

れぞれ 16.8%、16.6%、9.5%となっている。これに対し、相対的に市場規模が小さく競合

度が低い抗腫瘍・免疫領域での売上比率は 8.2%、喘息などの呼吸器系領域では 4.8%と低

い水準に留まっている。この結果は、米国主要企業の成長戦略が神経系領域や循環器系領

域といった売上規模の大きな領域をターゲットとしたブロックバスターの開発・販売に注

力してきたことを表しているといえる。

図 3-3 米国企業売上上位 10 社の薬効別売上構成比(2007 年)

注 1:点線は各指標の最大値と最小値の平均(静注用溶液市場およびその他市場を除く)を表す。

注 2:企業別売上の上位集中度はハーフィンダール指数。

出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。

A 消化管・代謝, 4.5%

C 循環器系, 16.6%

D 皮膚科, 0.2%

G 生殖器・性ホルモン, 4.7%

H 全身ホルモン, 1.1%

J 抗感染症, 9.5%

L 抗腫瘍・免疫, 8.2%

M 筋・骨格, 7.2%

N 神経系, 16.8%

R 呼吸器系, 4.8%

S 感覚器, 1.3%

T 診断薬, 1.6%

V その他, 1.1%

B 血液・造血器官, 8.3%

0%

1%

2%

3%

4%

5%

6%

7%

8%

9%

10%

11%

12%

0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 80,000 90,000 100,000 110,000 120,000 130,000

2007年市場上位集中度(ハーフィンダール指数)

2007年市場規模(百万ドル)

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欧州企業:抗腫瘍・免疫領域などのスペシャリティ領域に重点 次に、図 3-4 の欧州企業売上上位 10 社では、スペシャリティ領域である抗腫瘍・免疫

領域での売上比率が 14.7%と最も高く、循環器系の 11.6%、消化管・代謝系の 10.4%、神

経系の 10.2%を大きく上回っている。また、比較的ニッチ領域としての性格が強い喘息な

どの呼吸器系領域での売り上げも全体の 9.4%を占め、米国企業と後述する日本企業を凌い

でいる。さらに、診断薬市場での売上比率が 2.0%と、特に日本企業に比べて高い。このこ

とは、将来、診断と治療との融合による個別化医療の実現を目指す上で大きな強みになる

と思われる。このように、欧州主要企業では、総じて専門性が高いスペシャリティ領域や

ニッチ市場とされる薬効領域にも重点が置かれており、市場ターゲットを分散させる成長

戦略が日米企業に先行して採られてきたと解釈できる。

図 3-4 欧州企業売上上位 10 社の薬効別売上構成比(2007 年) 注 1:点線は各指標の最大値と最小値の平均(静注用溶液市場およびその他市場を除く)を表す。 注 2:企業別売上の上位集中度はハーフィンダール指数。 出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。

A 消化管・代謝, 10.4%

C 循環器系, 11.6%

D 皮膚科, 0.0%

G 生殖器・性ホルモン, 2.7%

H 全身ホルモン, 0.7%

J 抗感染症, 8.9%

L 抗腫瘍・免疫, 14.7%

M 筋・骨格, 1.9%

N 神経系, 10.2%

R 呼吸器系, 9.4%

S 感覚器, 0.4%

T 診断薬, 2.0%

V その他, 0.0%

B 血液・造血器官, 5.5%

0%

1%

2%

3%

4%

5%

6%

7%

8%

9%

10%

11%

12%

0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 80,000 90,000 100,000 110,000 120,000 130,000

2007年市場上位集中度(ハーフィンダール指数)

2007年市場規模(百万ドル)

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日本企業:マス・マーケットの消化管・代謝領域に強く依存 一方、図 3-5 に示す日本企業売上上位 10 社の売上比率をみると、生活習慣病に分類さ

れる消化管・代謝系領域が 27.4%と著しく高くなっており、神経系の 15.9 %と循環器系の

14.7%が続いている。逆に、抗腫瘍・免疫領域での売り上げは全体の 1.5%に過ぎず、欧米

企業との差が大きい。日本の主要企業は、マス・マーケットをターゲットとする限られた

製品の開発・販売に資源を集中してきたため、一部の薬効領域への売上依存度が著しく高

まったと推察される。

図 3-5 日本企業売上上位 10 社の薬効別売上構成比(2007 年)

注 1:点線は各指標の最大値と最小値の平均(静注用溶液市場およびその他市場を除く)を表す。 注 2:企業別売上の上位集中度はハーフィンダール指数。 出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。

A 消化管・代謝, 27.4%

C 循環器系, 14.7%

D 皮膚科, 0.6%

G 生殖器・性ホルモン, 3.0%H 全身ホルモン,

0.1% J 抗感染症, 5.8%

K 静注用溶液, 1.6%

L 抗腫瘍・免疫, 1.5%

M 筋・骨格, 1.9%

N 神経系, 15.9%

R 呼吸器系, 1.6%

S 感覚器, 0.1%

T 診断薬, 0.9%

V その他, 0.7%

B 血液・造血器官, 4.2%

0%

1%

2%

3%

4%

5%

6%

7%

8%

9%

10%

11%

12%

0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 80,000 90,000 100,000 110,000 120,000 130,000

2007年市場上位集中度(ハーフィンダール指数)

2007年市場規模(百万ドル)

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26

薬効領域別にみた欧州企業の売り上げの分散 日米欧主要企業における薬効領域別売上の集中度の違いをより明らかにするため、これ

ら日米欧企業各 10 社の売上上位 38 薬効(ATC 中分類)について、全売上に占める各薬

効の売上比率を売り上げが多い順に累積したグラフでみているのが、図 3-6 である。米国

企業は上位 38 薬効で全売上の 85.6%を占めるが、欧州企業は 77.5%に留まっている。米

国企業では限られた薬効領域の大型製品に売り上げが集中しているのに対し、欧州企業で

は多様な薬効領域に分散していることが読み取れる。一方、日本企業では、上位 13 薬効

で全売上の 70.7%を占めるに至っており、一部の薬効領域への売上依存度が極めて高くな

っている。

図 3-6 売上上位 38 薬効の累積売上比率(2007 年) 出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

1 2 3 4 5 6 7 8 9 1011121314151617181920212223242526272829303132333435363738

累積売上比率

ATC2薬効分類(各売上上位順38薬効)

米国企業10社 欧州企業10社 日本企業10社

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27

68.1%62.2%

47.0% 43.6%

25.1%34.1%

20.4%24.2% 34.7% 37.2%

6.5%

8.8%

8.6% 10.0% 14.1% 14.5%

68.1%56.6%

2.9% 3.7% 4.2% 4.7% 0.3% 0.4%

51.3%45.7%

36.3% 35.2%

53.1%

44.5%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

2003 2007 2003 2007 2003 2007

米国企業上位10社 欧州企業上位10社 日本企業上位10社

売上上位集中度(ハーフィンダール指数)

地域別売上シェア

北米市場 欧州市場 AAA市場 南米市場 上位集中度

3. 地域別売上にみる上位集中度

地域別売上も分散化傾向にある欧州企業 世界市場での売上シェアを高めている欧州主要企業では、薬効領域別でも売り上げの分

散化が進んでいる。しかし、多様な薬効領域に売り上げが分散するということは、市場規

模が小さいニッチ市場への依存度が相対的に高まることを意味するため、製品を多くの地

域でグローバルに展開しなくては世界規模で市場シェアを拡大するには至らない。そこで、

ここでは、欧州主要企業の売り上げの地域的な広がりをみるために、日米欧主要企業の地

域別売上を比較してみる。 図 3-7 は、同じく 2007 年の日米欧企業各売上上位 10 社における地域別売上構成比とそ

の上位集中度(ハーフィンダール指数)である。米国企業および日本企業では、マザー・

マーケットの売上比率がそれぞれ 62.2%および 56.6%と高く、地域別売上の上位集中度も

0.45 前後となっている。逆に、欧州企業では、欧州市場の売り上げが占める割合は 37.2%と小さく、地域別売上の上位集中度も約 0.35 と日米企業に比べて 0.1 ほど低い。欧州企業

では、製品・薬効領域別のみならず、地域別でも売り上げが分散していることがわかる。

図 3-7 地域別売上の構成比と上位集中度

注 1:地域別売上の上位集中度はハーフィンダール指数。 注 2:AAA はアジア・アフリカ・オセアニアの略。 出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。

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28

0.0%

5.0%

10.0%

15.0%

20.0%

25.0%

30.0%

20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0% 90.0% 100.0%

製品別売上の上位集中度(ハーフィンダール指数)

地域別売上の上位集中度(ハーフィンダール指数)

米国企業上位10社 欧州企業上位10社 日本企業上位10社

欧州企業の分布

米国企業の分布

企業別にみた上位集中度 これまで、日米欧主要製薬企業を企業国籍別にグループとして比較してきたが、最後に

これらを企業単位でみてみよう。 実際に、地域別売上の上位集中度(ハーフィンダール指数)と全売上に占める主要製品

(売上トップ 10 品目)の売上比率との関係を企業単位でみたのが、図 3-8 である。欧州

企業をみると、10 社中 9 社で地域別売上の上位集中度が概ね 40%以下に留まっているが、

米国企業で 40%以下に入る企業は 10 社中 4 社であり、欧州企業の方が地域別の売り上げ

が分散している企業が多いことがわかる。製品別売上をみても、欧州企業の方が相対的に

上位集中度が低く、地域及び売り上げいずれにおいても分散が進んでいるといえる。 一方、日本企業の場合は、10 社中 5 社で地域別売上の上位集中度が約 50%以下である

が、うち 2 社は、製品別売上の上位集中度の高さが際立っている。更に注目される点は、

売上上位 10 社中 5 社で地域別売上の上位集中度がほぼ 100%となっていることである。こ

れら企業の場合、その売り上げの殆どは日本国内での売り上げであり、売上上位 5 社とそ

の他 5 社では大きな相違がみられる。売上地域の分散がほとんどない 5 社にとって、とり

わけ海外進出は今後の大きな課題であろう。

図 3-8 製品別売上および地域別売上の上位集中度の関係(2005~2007 年平均)

注:製品別および地域別売上の上位集中度はハーフィンダール指数。 出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。

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1.08  1.10  1.13 1.22 

1.11 1.24 

1.35 1.49 

1.09 1.17  1.16 

1.23 

31.7%32.0% 31.9%

31.4%

33.0% 32.7%

32.1%

30.7%

32.7% 32.5%

32.9%33.8%

24%

26%

28%

30%

32%

34%

0.0 

0.4 

0.8 

1.2 

1.6 

2.0 

2.4 

2004 2005 2006 2007

主要製品一品目あたり売上(米国上位企業) 主要製品一品目あたり売上(欧州上位企業)

主要製品一品目あたり売上(日本上位企業) 販管費比率(米国上位企業)

販管費比率(欧州上位企業) 販管費比率(日本上位企業)

主要製品あたり売上伸長指数

販管費比率(研究開発費除く)

4. 欧州企業にみられる企業戦略のコスト効率への影響

欧州企業にみられる新市場、新領域への進出などを特徴とした戦略は、製品集中度の低

下をもたらし、同時にコスト効率の低下につながる。そこで、ここでは研究開発費を除く

売上高販売管理費比率(以下、販管費比率)をコスト効率の指標として、コスト効率の面

から日米欧主要製薬企業を比較してみよう。 主要製品一品目あたり売上の伸びと販管費比率との関係を日米欧企業間で比べてみたの

が、図 3-9 である。2004~2007 年各年における日米欧各売上上位 10 社のうち、非上場企

業を除く日本企業 9 社、米国企業 10 社、欧州企業 9 社について売上トップ 10 品目一品目

あたりの売上伸長指数(2003 年=1)と販管費比率の推移を表している。 日米欧企業の主要製品一品目あたり売上は、いずれも累積で 1.2~1.5 倍増加しているが、

日本企業の販管費比率は上昇傾向にあり、米国企業では概ね横ばいであるのに対し、欧州

企業では低下し続けている。欧州企業の製品・薬効領域別売上と地域別売上の分散化を特

徴とする戦略と販管費比率との因果関係を直接的に示すものではないが、2004 年からみる

と販管費比率は低下しており、製品集中度の低下の中でコスト面での競争力を高めている

ものと推察される。

図 3-9 日米欧主要企業の主要製品一品目あたり売上と販管費比率の推移

注 1:主要製品は各社売上トップ 10 品目を対象。 注 2:主要製品あたり売上伸長指数は、2003 年の売り上げを 1 としたときの累積伸び率。 注 3:販管費比率は、研究開発費を除いた比率で示している。 出所:Thomson ONE Banker、©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。

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30

第4章 おわりに -日本の研究開発型製薬企業の国際競争力強化に向けて- 先進国経済の低迷と成長エンジンとしての新興国の台頭など、日本経済を取り巻く環境

は大きく変化し、また国内においても人口の減少と人口構成の少子高齢化に代表される社

会的環境の変化は著しい。この新しい時代環境の中で日本経済が持続的成長を遂げていく

ためには、経済を知識創造・高付加価値経済へ転換させていくと同時に、「安心・安全の社

会」実現に向けた健康資本の増進を図っていくことが必要不可欠になっている。 日本の製薬産業は、こうした時代環境の変化の中で極めて重要な位置を占めている。日

本企業オリジンの新薬数でみると世界第三位の創薬国であり、これまでも治療満足度の低

い、いわゆるアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患領域の新薬創出を通じて健康資

本の増進に努めてきた。また、これまで示してきたように、他産業との比較でみても知識

集約度や付加価値生産性が極めて高く、代表的な知識集約・高付加価値型産業の一つであ

る。しかしながら、市場や産業のグローバル化が進展し、企業間の革新的新薬の創出競争

が激化する中で、日本の製薬産業が国民の健康や日本経済の発展に今後一層貢献していく

ためには、日本に根付く産業として高い国際競争力を有していることが欠くことの出来な

い条件になる。 世界の医薬品市場もまた、構造的な変化の中にある。これまで医薬品市場の成長を牽引

してきた先進国市場の伸びが鈍化する一方、中国、インドなどの新興国市場の伸びが著し

い。また、先進国市場、新興国市場のいずれにあっても、ブロックバスターが数多く含ま

れる生活習慣病市場に代表されるマス・マーケットの伸びが停滞する中で、がん..

や自己免

疫疾患などのスペシャリティ領域が大きく伸長し、なかでもバイオ医薬品の重要性が高ま

ってきている。先進国市場を中心に低分子医薬品のブロックバスターを展開してきたビジ

ネスモデルから、患者の特定のニーズに応える新薬や技術の開発を軸とするビジネスモデ

ルへの転換の成否が企業の競争力を決める重要な要素となっているといえる。 このような環境変化の中にあって、日米欧の主要製薬企業の売り上げをみると、米国企

業の規模の優位は変わらないものの、近年では、欧州製薬企業の世界市場におけるプレゼ

ンスが高まっている。これまで企業の成長を支えてきた低分子医薬品に加え、新たな創薬

技術に基づくバイオ医薬品の研究基盤およびパイプラインの強化、個別化医療の実現に向

けた診断技術の活用など、市場規模は大きくないが競合が相対的に少ない薬効領域や、専

門性が高く細分化された薬効市場をターゲットとした新薬開発にいち早く取り組み、製

品・薬効レベルおよび地域レベルでの売上分散を図ってきたことがその背景にあると推察

される。 日本の主要製薬企業は、国内医薬品市場の成長が鈍化する中、1990 年から 2000 年初め

にかけてブロックバスターを米国を中心に世界の先進国市場へ投入し、成長を遂げてきた。

日本オリジンのブロックバスターは、1997 年には 5 品目、売上合計約 73 億ドルに過ぎな

かったが、2008 年には 20 品目、売上合計で約 430 億ドルへと品目数で 4 倍、売り上げで

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31

は 6 倍近く増加している(表 4-1)。しかしながら、市場全体でみると、5 億ドル以上売り

上げのある医薬品は、1997年の 61品目から 2008年には 202品目と大幅に増加しており、

ブロックバスターの数を指標としてみても、世界市場における日本企業の相対的な位置付

けが大きく向上したとは言い難い。また、これらブロックバスターの売り上げは米国を中

心に一部の先進国市場に集中しており、成長著しい新興国市場への展開が遅れているため、

今後、米国などで相次ぐ特許失効により売り上げが急激に減少することが予想されている。

さらに、医薬品の研究開発力を、同じ作用機序の医薬品のうち最初に発明された医薬品の

数(図 4-1)や新薬承認数(図 4-2)を指標としてみても、欧米企業に比べて国際競争力は

必ずしも高い水準にあるとはいえず、バイオ医薬品を含め、近年、その差は拡大する傾向

がみられる。このように、日本の製薬企業は、世界の医薬品市場の構造的変化への対応と

いう面において、欧米企業に比べて必ずしも優位な立場にはない。すなわち、(1)米国市

場への収益依存度が相対的に高く、主要なブロックバスターの米国における特許が今後 4年間で失効する、(2)新興国市場への進出が相対的に遅れている、(3)ベンチャー企業買

収などにより、重要性の高まるバイオ医薬品の導入を進めているものの、欧米企業に比べ

てこれら医薬品の数及び売上高に占める割合ともに相対的に低い、などの課題に挑戦して

いく必要がある。 企業の成長戦略という意味で欧州企業が先行して進めてきたブロックバスター依存の成

長戦略からの脱却は、これまでのところ売上伸長率や市場シェアを指標としてみる国際競

争力の強化という意味で相応の成果を上げている(図 4-3)。日米の製薬企業もまた、がん..

や自己免疫疾患などのスペシャリティ領域の品目、技術の獲得を目的とした垂直統合型の

アライアンスなどの戦略的投資を積極的に進めてきている(図 4-4)。しかしながら、こう

した戦略は成功モデルの一つにすぎず、まだ成長戦略は変革期にあると見る方が適切であ

ろう。最近では、欧米の主要製薬企業は、本稿で分析対象とした新薬事業に加え、ブロッ

クバスターの特許失効や各国規制当局による医療費抑制策の強化などを背景に成長が続く

GE 医薬品市場や、特許失効や米国における承認制度の整備により今後拡大が予想される

バイオシミラー医薬品市場への進出を目的とした企業買収やアライアンスなどでも積極的

な展開をみせている。医薬品事業の多層化による競争力強化の戦略である。日本の製薬企

業が今後も幅広く患者の必要とする医薬品を開発、供給し、国民の健康資本の増進と成長

への貢献をしていくためには、新薬開発のリスクに耐えうる収益基盤を維持強化し(図

4-5)、国際競争力強化のための戦略的投資を活発化していくことが必要不可欠である。

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1997年 (百万ドル)

順位 製品 ATC分類 薬効分類名 オリジン企業 売上高

3 メバロチン C10A コレステロール及びトリグリセリド調節薬 三共 2,7488 ガスター A02B 抗潰瘍剤 山之内 1,708

15 リュープリン L02A 細胞増殖抑制ホルモン剤 武田 1,18129 タケプロン A02B 抗潰瘍剤 武田 85730 ヘルベッサー C08A カルシウム拮抗剤 田辺 848

5品目 7,342注:5億ドル以上の売上品目61品目中5品目

2008年 (百万ドル)

日本オリジン計

順位 製品 ATC分類 薬効分類名 オリジン企業 売上高

16 クレストール C10A コレステロール及びトリグリセリド調節薬 塩野義 4,10317 アクトス A10B 経口糖尿病薬 武田 4,06321 ブロプレス C09C アンジオテンシンⅡ阻害剤 武田 3,76926 アリセプト N07D アルツハイマー治療薬 エーザイ 3,43830 エビリファイ N05A 抗精神病薬 大塚 3,31231 タケプロン A02B 抗潰瘍剤 武田 3,24135 クラビット J01G フルオロキノロン抗菌剤 第一三共 2,85239 パリエット A02B 抗潰瘍剤 エーザイ 2,71441 ハルナール G04C 前立腺肥大症治療薬 アステラス 2,65049 オルメテック C09C アンジオテンシンⅡ阻害剤 第一三共 2,34258 リュープリン L02A 細胞増殖抑制ホルモン剤 武田 2,02561 プログラフ L04A 免疫抑制剤 アステラス 1,956105 メロペン J01P カルバペネム系抗菌剤 大日本住友 1,199138 クラリス G04B その他の泌尿器用薬 大正富山 885143 ベシケア J01D 過活動膀胱治療薬 アステラス 826146 モーラス M02A 抗リウマチ局所薬 久光 816153 メバロチン C10A コレステロール及びトリグリセリド調節薬 第一三共 795154 セボフレン N01A 全身吸入麻酔剤 丸石 787168 カンプト L01C ビンカアルカロイド ヤクルト 714190 ガスター A02B 抗潰瘍剤 アステラス 556

20品目 43,043注:5億ドル以上の売上品目202品目中20品目

日本オリジン計

表 4-1 日本企業の年間 5 億ドル以上売上製品

出所:Pharma Future No.227 (2009/6/20)、©2010 IMS Health.IMS LifeCycle をもとに作成(転写・複

製禁止)。

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33

0

5

10

15

20

25

1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

NCE数

米国企業 欧州企業 日本企業 その他企業

図 4-1 日米欧企業が創出した New Class の医薬品数の推移

注:各品目の特許の優先権主張年をその医薬品が創出された年の指標として示している。なお、本分析で

は世界のいずれかで販売されている品目を対象としている。優先権主張年が最近の医薬品は未だ発売

されていない可能性があるため、単純に 1990~2002 年の New Class の医薬品の創出が減少したと

はいえない。 出所:Pharmaprojects、米国特許商標庁、欧州特許庁のデータをもとに作成。

図 4-2 日米欧企業の NCE 数推移

注:NCE(New Chemical Entity);新規化合物。ある地域又は国において、以前に承認されたことがな

い化学物質。 出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。

14.0 21.0 37.0 31.5

54.0 44.0

41.0

19.0

13.0 14.0

32.0

4.5

2.0 4.0

1.0

4.0

83.0 83.0

111.0

59.0

0

20

40

60

80

100

120

1960-1969 1970-1979 1980-1989 1990-2002

(品目数)

米国企業 欧州企業 日本企業 その他企業

16.9%25.3%

33.3%

53.4%

65.1% 53.0% 36.9%

32.2%

15.7% 16.9% 28.8%7.6%

2.4% 4.8% 0.9% 6.8%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

1960-1969 1970-1979 1980-1989 1990-2002

米国企業 欧州企業 日本企業 その他企業

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米国

1.00

イギリス0.78

ドイツ

0.49

フランス0.47

日本

0.29 スイス

0.37

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2

市場の国際競争力

企業の国際競争力

市場競争力

重視型

企業競争力

重視型

市場競争力重視

両立型

企業競争力重視

両立型

図 4-3 企業・市場・創薬の「場」の国際競争力からみた主要国製薬産業のポジション

注 1:創薬の「場」、市場及び企業の国際競争力指標は、表 4-1 に示す評価指標を用いた。

注 2:円の大きさと数値は、創薬の「場」の国際競争力を示す。

注 3:両軸から伸びる直線は、市場の国際競争力と企業の国際競争力それぞれの 6 か国平均を表す。

注 4:各指標の項目別得点および合計得点は、項目間および指標間の比重が均等になるよう補正し、

かつ米国=1 のときの各国得点に換算。

出所:©2010 IMS Health. IMS World Review をもとに作成(転写・複製禁止)。

表 4-1 製薬産業としての国際競争力指標(創薬の「場」・市場・企業)

企業国籍別外国出願特許比率(1996~2005年累計)

企業国籍別オリジン新薬数(2003~2005年平均)

各国市場売上上位25品目の製

品シェア変動指数(ハーフィンダール指数2004~2007年中

央値)

世界売上上位100品目の世界

初上市からの平均年数の逆数(2004年・2007年平均)

世界売上上位100社企業国籍別売上伸長率(2005~2007年

平均)

市場伸長率(現地通貨ベース、2005~2007年平均)

発明人所在地別出願特許外国企業比率(1996~2005年累

計)

世界売上上位100社企業国籍別世界シェア(2005~2007年

平均)

市場シェア(対世界市場、2005~2007年平均)

世界上位100品目オリジン新薬数(2005~2007年平均)

企業の国際競争力指標市場の国際競争力指標創薬の「場」の国際競争力指標

企業国籍別外国出願特許比率(1996~2005年累計)

企業国籍別オリジン新薬数(2003~2005年平均)

各国市場売上上位25品目の製

品シェア変動指数(ハーフィンダール指数2004~2007年中

央値)

世界売上上位100品目の世界

初上市からの平均年数の逆数(2004年・2007年平均)

世界売上上位100社企業国籍別売上伸長率(2005~2007年

平均)

市場伸長率(現地通貨ベース、2005~2007年平均)

発明人所在地別出願特許外国企業比率(1996~2005年累

計)

世界売上上位100社企業国籍別世界シェア(2005~2007年

平均)

市場シェア(対世界市場、2005~2007年平均)

世界上位100品目オリジン新薬数(2005~2007年平均)

企業の国際競争力指標市場の国際競争力指標創薬の「場」の国際競争力指標

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35

32 

132 

55 

103 

5 19 

50 

100 

150 

2006‐2007

2008‐2009

2006‐2007

2008‐2009

2006‐2007

2008‐2009

米国企業上位10社 欧州企業上位10社 日本企業上位10社

(1億ドル)

27.0  28.3  25.3  23.8  23.9  26.0  18.4  14.5  20.3 22.2  22.0  21.6  22.6  23.4  22.6  22.7 

21.6  17.7 

30.8  29.7  31.5  31.9 31.4  30.5 

35.5  35.0  32.9  31.8 30.5  30.4  32.8  32.5  32.9  33.8  32.9  34.4 

13.2  13.6  14.1  15.6  15.2  14.6  13.3  17.1  13.2 13.9 

14.7  15.0 13.5  13.9  15.8  17.0  20.1  22.6 

5.9  6.3  6.5  6.7  6.7  6.6 6.5  7.4  7.3  7.3  7.7  7.8  3.8  3.8  3.7  3.6  3.9  6.4 

23.1  22.1  22.5  21.9  22.7  22.2  26.3  26.0  26.3  24.8  25.0  25.2  27.3  26.4  25.0  22.9  21.5 18.8 

100 

200 

300 

400 

500 

0%

20%

40%

60%

80%

100%

2003 2004 2005 2006 2007 2008 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2003 2004 2005 2006 2007 2008

売上営業利益率 その他販管費率 研究開発費率 償却費率 原価率 1社あたりの売上高

(1億ドル)

日本企業上位8社欧州企業上位8社米国企業上位10社

図 4-4 日米欧主要製薬企業の主な企業買収金額と創薬技術・医薬品導入費用(1 社あたり)

出所:各社ニュースリリース、SCRIP、Pharma Future などをもとに作成。

図 4-5 日米欧主要製薬企業の売上営業利益率およびコスト構造の変化

注:対象企業は、日米欧企業の 2008 年売上上位企業とした。米国企業は、Pfizer、Johnson & Johnson、Merck & Co.、Abbott、Eli Lilly、Amgen、Wyeth、Bristol-Myers Squibb、Schering Plough、Baxter。欧州企業は、GlaxoSmithKline、Novartis、Sanofi-Aventis、AstraZeneca、Roche、Bayer、Novo Nordisk、Merck KGaA。日本企業は、武田、アステラス、第一三共、エーザイ、田辺三菱、塩野義、

大日本住友、小野。 出所:Thomson ONE Banker をもとに作成。