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秋田大学麻酔科研修マニュアル 第2版 2009 年改訂

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秋田大学麻酔科研修マニュアル

第 2 版 2009 年改訂

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発行元:麻酔科 2版 2/62

目次

1. 麻酔科研修心得・週間スケジュール p.3

2. 術前回診から術後回診まで 6

3. 術前リスクの評価 15

4. 全身麻酔29

5. 輸液・輸血36

6. 筋弛緩薬38

7. 脊髄クモ膜下麻酔39

8. 硬膜外麻酔42

9. 小児麻酔44

10. 心大血管手術の麻酔47

11. 開胸手術(肺外科・食道全摘)の麻酔51

12. 帝王切開の麻酔 53

13. 脳神経外科の麻酔 55

14. TURの麻酔 56

15. 腎移植の申し合わせ 57

16. 術後鎮痛58

17. CPR(心肺蘇生)59

18. 局麻薬のアレルギーと言われたことのある人に対して60

19. 悪性高熱症61

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発行元:麻酔科 2版 3/62

1.麻酔科研修心得・週間スケジュール

研修の心得

麻酔科での研修は、ただの見学ではなく実際の患者さんに対する医療行為で

す。手技から薬剤の投与までオーベンの指示のもと、ある程度自分の判断でや

ってもらうことになります。自分のミスが重大な結果を招き得るということを

十分に自覚してください。研修医による薬剤投与ミスが実際に起きています。#

法的には研修医も責任を問われます。(医師賠償保険に必ず加入すること。)

緊張感と患者さんに対する常識的な配慮......

を忘れずに行動してください。

#薬剤投与の指示の際、例えば5mg を「5ミリ…」と省略することがあり

ます。麻酔科医が5ml を「5ミリ…」と言うことはまずありませんが、指示が適切でない場合には、聞き直して確認してください。

*麻薬の処理等に印鑑が必要なことがあるので、手術室受付に自分の印鑑を

預けておいてください。

『注意事項』 (麻酔科では個人に決まったオーベンはつかず、担当症例毎に変わります。)

・ 前日にオーベンと協議の上、徹底した麻酔計画をたて、準備する。 ・ 合併症のある場合等、成書による予習をきちんと行う。 ・ 初めて行う手技に関してはその旨をオーベンに伝え指示を受ける。

・ 全ての手技は合併症を伴うことを認識し、予習・準備・練習を怠らない。 ・ 準備等分からないことはオーベンやスタッフに質問し確認する。 (研修医同志で話し合って解決することは厳禁!)

・ 術中の麻酔管理においても、少しでも疑問や不安が生じた場合にはすぐにオ

ーベンに報告・連絡・相談すること。自分で最終判断をしない! ・ オーベンからの指示は復唱するよう習慣づける。

・ 薬剤の取り扱いには十分に注意し、常に確認を怠らない。 ・ 麻酔カートの上は整理・整頓を徹底する。 ・ 術者から何らかの要請があった場合も、自分で勝手に判断せず

..........、まず速やか

にオーベンに伝える。

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発行元:麻酔科 2版 4/62

・ 他の人の導入は積極的に手伝い、昼食やラウンド交代も時間があれば行う。 (その際、その症例のオーベンの了解を得て行う。) ・ ラウンド等で手術室を離れる時は、必ず

..インチャージか当直に伝える。

・ 朝のカンファランスに遅刻しない。 ・ 医療行為におけるインシデント、ニアミス等には、リスクマネジャーへ報告

し、インシデントレポートに記載する。

研修目標

(1) 外科治療をチーム医療の一環としてとらえその中における麻酔科医の役

割を理解する。

(2) 生命維持に必要な生理学的反応に対する手術侵襲、麻酔薬、各種薬物の

影響を理解する。

研修到達目標

(1) 全身麻酔、硬膜外麻酔、脊髄クモ膜下麻酔の症例を適切に管理することが

できる。(準備を含む)

(2) 末梢静脈ライン、観血的動脈ラインを確保することができる。

(3) 各種のモニターの基本構造を理解し、適切に使用出来る。

(4) 麻酔症例の問題点・麻酔方法の選択に関し、簡潔・的確な症例提示が出

来る。

「研修内容」

・ 手技は、事前によく予習しておくこと。

・ 失敗した場合は、オーベンの指示を仰ぎ、再度試みるか交代する。

・ 研修医による施行回数は原則的に 1回とする。

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発行元:麻酔科 2版 5/62

(1)末梢静脈ライン(PeripheralIntravenousCatheter)

(P.12 参照)

(2)気管挿管(TrachealIntubation)

・ ブロンコキャス、意識下気管挿管は不可とする。

(3)硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔

(P.36~参照)

・ 腰部のみ可とする。胸部と頚部は見学のみ。

・ 口腔外科ローテータは、介助のみとする。

(4)動脈ライン(ArterialLine)

・全身麻酔下で可とする。

(5)中心静脈ライン(CentralVenousCatheter)

・ 大腿静脈は可、内頚静脈は不可とする。

・ 口腔外科ローテータは、介助のみとする。

(6)肺動脈ライン(Swan-GanzCatheter)

・不可。力量によって手伝いは可とする。

*当直帯緊急手術

それぞれの力量に応じて判断するが、指導より患者の安全が第一で

あることを前提として判断する。

「一般的注意」

(1)スケジュール

・ 8:00~ (月・水曜日は 7:45~)

カンファレンス ;抄読会および当日症例呈示

・ 8:45~

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発行元:麻酔科 2版 6/62

患者入室

・ 担当している症例の終了後、控室のパソコンの麻酔台帳に入力する。

・ 翌日の症例の術前回診を行い、必ずオーベンもしくは他の麻酔科ス

タッフと協議し麻酔計画をたてる。

・ 前日の症例の術後回診を行う。

(2)注意事項

・ 担当麻酔症例は、術前診察から術中麻酔管理、術後回診まで責任を

もって麻酔管理を行う。

・ 麻酔の準備(麻酔器のセットアップ、薬剤、モニター類)はカンフ

ァレンス前に済ませる。

・ 「麻酔の準備」、「薬剤の準備」の項を参照し術前チェックリストを

チェックしサインする。

・ 患者入室後、末梢静脈および硬膜外麻酔の穿刺等、全ての手技は必

ずオーベンと共に行う。

・ 麻薬の取扱に充分注意する! 終了時には、空アンプル、未使用ア

ンプル及び使いかけ残量を確認し、IN 量を入力し麻薬処方箋へ正確

に記入する。自分が室内にいない時には、麻薬をカート上に放置せ

ず必ず携帯する。

・ 予定麻酔法のチェック、術中・術後の合併症のチェックを忘れない

こと。

・ 手術室外にでる場合は、短時間であっても必ずインチャージ(5:15

以降は当直医)にことわる。

2.術前回診から術後回診まで

「術前回診」

(1)目的、注意事項

・ 患者の疾患、合併症、身体情報を把握する。

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発行元:麻酔科 2版 7/62

・ 視診、聴診を行う。

・ 神経障害がある場合には、注意深く問診等を行い、カルテの記載を

確認し術前評価表に正確に記載する(主治医が把握していない場合

もある)。

・ 手術術式を把握する。術式、術中体位等で不明の点がある場合には、

直接、術者に説明を求めること。

・ 術前、術中、術後の患者管理方法をオーベンと相談の上、計画を立

てる。

・ 医師-患者の信頼関係を結ぶ。

・ 全身麻酔歴があれば、その時の様子をよく問診する。当院で行った

場合は麻酔チャートを印刷しておく。

・ 麻酔方法、それによる合併症を患者に説明し承諾して貰う(説明書、

同意書へのサイン;未成年では保護者のサインが必要)。

・ 歯科医師が医科の麻酔症例を担当する場合は、他の研修医に同席し

てもらい自身が歯科医であることを患者に伝える。

・ 歯科医師は歯科麻酔を20症例経験してから医科の麻酔を行う(ガ

イドライン参照)。

・ 前投薬内容、経口摂取、手術室への入室時間について麻酔前指示書

に入力し自分の名前を記入し、病棟の担当看護師に渡す。この際に

は直接手渡しとし、口頭で説明しながら.........

記載ミス(特に入室時間)

のないことを確認する。

・ 日勤帯では可能であれば、患者が手術室まで来るように病棟に連絡

をして、手術室受付の応接室にて麻酔説明をして同意書にサインを

頂く。

(2)術前絶飲食の指示

・ 成人では午後 21 時より絶食。(服薬を除く)

・ 午後入室や乳幼児の場合は、オーベンと協議する。

・ 術前8時間以内に経口摂取を行った患者は入室を延期するか、Full

Stomachとして扱う。

(3)麻酔前投薬

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発行元:麻酔科 2版 8/62

・入室 90 分前(具体的に時刻を明記):

①鎮静薬:ジアゼパム 2~5mg経口投与など

手術術式、年齢、体重、全身状態により調整する

②H2ブロッカー:ラニチジン150mg経口投与

ラフチジン10mg経口投与など

・ 原則として鎮静薬を投与しない患者;意識状態低下、帝王切開

術等の妊娠患者、その他緊急手術患者。

・ 鎮静薬を減らす患者:65 才以上の高齢者、気道に問題のある患者、

心不全患者。

・ ORSYS のパソコンで、患者の画面から、術前指示と麻酔準備を入力

して、指示書を印刷して、病棟看護師に渡す。

・ 術前に必要なもの:説明書、同意書、指示書、麻薬処方箋(フェン

タニル、アルチバなど)、前投薬のオーダー

・ 薬剤の入力は、夕方 5 時 15 分以降は、時間外のオーダーで、入力

後に薬剤部(6404)へ電話する。

*長期に亘って服薬している薬物はどうするか?

①ステロイド薬、βブロッカーは継続する。

(Withdrawal や Rebound 状態をさける)

②気管支喘息、狭心症の薬は、必要量を投与する。

③ACE-阻害薬・アンギオテンシン受容体拮抗薬は、原則的に中止する。

④経口糖尿病薬は当日朝中止する。

(4)症例の提示(Presentation)は簡潔に!

① 診療科、患者名、性、年齢、身長、体重

② 診断名、術式、体位

③ 現病歴(簡潔に)

④ 麻酔管理上の問題となる合併症(高血圧、糖尿病、気管支喘息、虚

血性心疾患、気管挿管困難等)

⑤ 既往歴(問題なければ省略)、全麻歴

⑥ 検査データ、心電図、胸部レントゲン写真(問題あるとき)

⑦ 麻酔プラン

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発行元:麻酔科 2版 9/62

・ 硬膜外麻酔(穿刺部位)

・ 導入薬、筋弛緩薬、挿管方法

例;「チオペンタール 250mg、フェンタニル 100μgで導入し、ロクロ

ニウム 50mg で筋弛緩を得て 8mm のらせんチューブを経鼻挿管し

ます。」

・ 麻酔維持方法

・ ライン類(A-line、中心静脈ライン、末梢静脈ライン 1本など)

「麻酔の準備」-成人の場合(小児に関しては「小児麻酔」参照)-

・ あらかじめ指導医師と相談し、準備を行う。

・ 下記に従って準備し、麻酔準備点検表にサインする。症例毎に行う。

・ 局所麻酔のみの場合も速やかに全身麻酔へ移行できるよう準備する

1. 麻酔器の点検 ① 麻酔器の準備

□ 麻酔器、モニターのコンセント、電源を入れる

□ 麻酔回路を組み立てる

② 補助ボンベ (月 1 回 ME が行う) □ 補助ボンベ(酸素)開き圧が 1000 kPa 以上である

□ 酸素が 5 L/min で流れることを確認後、酸素ボンベを閉じる

③ 中央配管 □ 中央配管のホースアセンブリ(酸素、亜酸化窒素、圧縮空気)と配管末端

子を正しく接続する

□ 漏れがない

□ ガス供給圧が十分である

(酸素:約 400 kPa、亜酸化窒素・圧縮空気:約 370 kPa)

□ 酸素を 5 L/min 流し、呼吸回路の先端が無臭である

□ 次に亜酸化窒素の流量計のノブを開く、浮子の動きが滑らかである

□ 酸素のノブを閉める、亜酸化窒素の流量もゼロになる(確認後、亜酸化窒

素のノブも閉める)

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発行元:麻酔科 2版 10/62

④ 気化器 □ 気化器の内容量が十分である

⑤ 二酸化炭素吸着装置 □ 二酸化炭素吸着装置内の吸収薬の色、量、一様につまっていることを目視

確認する

⑥ 患者回路 □ 呼吸回路を閉鎖して酸素を 5-10 L/min 流し、回路内圧が少なくても 10 秒

間 30 cmH2O に保たれる

□ バックを加圧、高圧アラームが作動するのを確認、酸素の流量計を閉じる

□ APL 弁を開く、回路内圧が低下する

□ 酸素フラッシュを行う、流量は十分である

□ 人工呼吸器を使用時と同様な状態にしてスイッチを入れる、テスト肺が適

切に動く

□ 呼気弁と吸気弁が適切に動いている

□ テスト肺をはずす、低圧アラームが作動する

* ベンチレータの使い方に習熟しておくこと

1. 麻酔器具点検

□ 吸引装置(接続、吸引圧、延長チューブは十分手元に届くか確かめる)

□ サクションチューブ

□ 喉頭鏡(明るさ、サイズ)

□ 気管チューブ、ラリンジアルマスク

(滅菌水中でカフ漏れを確認し、空気を抜いておく)

□ スタイレット、経口・経鼻エアウェイ(各種サイズ)、聴診器、バイト

ブロック

□ キシロカインスプレー(4%キシロカイン:外用)

2.薬品点検(必ず、手洗い・手指消毒した後、調剤する)

□ 使用薬剤については、指導医師と相談し、準備する緊急薬品

□ よく使用する薬剤については下記の「薬物の準備」参照

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発行元:麻酔科 2版 11/62

3. モニター点検

□ 血圧計(適正なカフ幅のものを用意する)

□心電図

□ パルスオキシメータ

□ カプノメータ:サンプリングチューブと呼吸回路を接続する

圧ラインセット(1~3 連トランスデューサー)の準備

① ヘパリン入り生食(生食 500ml+ヘパリン 1000 単位)を作成する

② ヘパリン入り生食を加圧バックに装着する

③ 圧ラインをヘパリン入り生食に接続する

④ 加圧バックを圧力計で 300mmHg または 40kPa になるように加圧

*小児の場合は 100~150mmHg または 15~20kPa

⑤ フラッシュデバイスを操作し、回路の気泡を完全に除去する

⑥ コードを接続する(ゼロ校正は患者に接続した時点でおこなう)

中心静脈カニュレーションを行う場合の圧ラインの選択(2連または3

トランスデューサー)は、指導医師に相談し、準備を進する。

*薬物の準備

商品名 一般名 希釈・溶解方法

ラボナール thiopental 300mg/12ml・蒸留水

プロポフォール注丸石 propofol 原 液

マスキュラックス vecuronium 10mg/10ml・蒸留水

エスラックス rocuronium 原 液

エフェドリン ephedrine 40mg/8ml・生食

アトロピン atropine 原 液

フェンタニル fentanyl 原 液

アルチバ remifentanil 1V(20mg)/20ml・生食

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発行元:麻酔科 2版 12/62

* 薬物は、麻酔カート、器材室前の薬品庫(黒鍵)、管理薬品庫、麻薬金庫と

それぞれ所在や取り扱いが異なるので注意する。特に麻薬!

* 薬物を引き出しから取り出す時、シリンジに吸う時、アンプルを捨てる時

の3回薬物を確認する。

* 薬物は 1剤ずつ準備し、薬物シールを貼り、濃度を明記する。

* 使用した薬のアンプルは、麻酔カート上の空アンプル入れにまとめていれ

ておき、症例毎、手術終了後に責任を持って赤い容器に捨てる。

* ロクロニウム・ベクロニウムは、使用時に所定の用紙に記載する。

* ミダゾラム、サクシニルコリン等の管理薬品は鍵を持っている人と一緒

に出し入れし、数を確認・記載する。

* 麻酔カートの引き出し奥の救急薬品の箱(紫)の薬剤は、必ずオーベン

の指示のもとに調整・使用する。

* 麻薬をカートの上に置いたままその場を離れないこと。

* アルチバは生食20ml に 1 バイアルを溶解した後、エクステンションチ

ューブ(X-1)を接続し、シリンジポンプを使用して投与する。

廃棄物の処理 ゴミは正しく捨てましょう!

・ 針捨てボックス‥‥注射針、アンプル、メスなど鋭利なもの

抗がん剤入りボトル

・ 感染性廃棄物専用段ボール箱‥‥血液・体液が付着したもの

ガラス類(バイアル、薬液ビンなど)

輸液セット(針は切り離し、針捨てボックスに)

・ 青色プラスチック袋‥‥非感染性廃棄物

(空輸液ボトル、可燃物など)

「患者入室」

(1)リカバリーにて

・ 患者に担当麻酔医であることを告げ(マスクをとって挨拶する)、

自分で名前を言ってもらう。

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発行元:麻酔科 2版 13/62

・ カルテとネームバンドと麻酔申込書で名前と I.D のチェックを行

う。

(2)手術室にて

・ 入室後モニター画面にて再度患者確認を行う(主治医、看護師とと

もにタイムアウトを行う)。

・ 移動の際は、常に患者の頭の位置に立ち、安全に気を配る。

・ モニターを開始し、心電図、血圧計、パルスオキシメータを装着し、

心電図波形の表示を確認、記録用紙に記録する。

① 末梢静脈確保

・ 原則的に左手(非利き手側)手背静脈より、なるべく 20G 以上の

静脈カニューラを挿入する。

・ 穿刺に用いた針は確実に安全に処理する。

* 静脈穿刺のガイドライン

注射や採血の際に動脈や静脈を穿刺した時に、その周囲の神経を損傷するこ

とがある。多くは数日から数週間で軽快するが、数%に神経因性疼痛が生じるこ

とがある。重篤化すると不可逆性の疼痛や麻痺が生じることがある。

注射や採血が原因で本症が発症した場合には、法的に責任が問われることが

ある。

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発行元:麻酔科 2版 14/62

〈注射や採血時の注意事項〉

・「しびれたりしたら教えてください。」などと声をかけてから針を刺す。

・同じ箇所に何度も針を刺さない(血腫形成による神経圧迫防止)。

・針を深く刺さない(前腕皮神経は皮静脈より深部にある)。

・異常な痛み(放散痛、強い痛み)やしびれが出たら直ちに針を抜く。

② 気管挿管 (P.29 参照)

・ 数回見学の後オーベンの指示のもとに行う。

・ 気管挿管が適切に行われたかどうかは、胸郭の動き、両肺野の聴診、

EtCO2(カプノグラフ)の波形で判定する。

・ 必ずオーベンが直視下にチューブの位置、深さを確認する。

(5) 麻酔記録

・ 各種イベント、投与薬物を麻酔チャートに入力する。

・ 気管挿管、抜管、硬膜外麻酔の情報は、正確に記録する。

・ 術中のイベントや合併症は随時記録する。

(6) 退室まで

・ 患者を手術室から退室させる際には、オーベンと共に、循環動態、

呼吸状態、覚醒状態の評価を行う。

・ 麻酔記録に、必要事項をすべて記載し、誤りや漏れの無いことを確

認する。

・ 麻薬の実施入力をして箱を携帯する。

・ 麻酔器の流量計はすべて閉じる。

(7) 退室後

・ 回復室にて患者の状態を再確認し、主治医に引き継ぐ。

・ 回復室から退室するまで患者の観察を怠らないこと。

・ 麻薬施用表を印刷し、アンプルの数を担当の看護師と確認の上、金

庫へ返納する。

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発行元:麻酔科 2版 15/62

・ 使用薬剤、麻薬のアンプル等、問題無いことを十分確認した後、カ

ート上の麻薬以外の空アンプルを赤い針入れに捨てる。

・ 麻酔器や周辺の掃除をする。(特に血液の付着がないように)

・ 次の症例がある場合、枕、聴診器等、直接患者の皮膚に触れるもの

をアルコールにて消毒する。

・ 麻酔申し込みの用紙等患者の個人情報の記載のあるものは、シュレ

ッダーを用い注意して処理する。絶対に放置しておかない。

・ 麻酔台帳に入力する。偶発症が起きた場合はオーベンと共に入力す

る。

「術後回診」

・ 麻酔担当症例の術後回診を、手術翌日に行う。翌日に行けない場合

も早めに行く。

・ ORSYS のパソコンで担当した患者を開き、術後回診の項目へ、入力

を行い、印刷をして、受付にある各病棟のファイルに入れる。

・ 術後患者が鎮痛や呼吸管理等の麻酔科的管理を必要とする場合に

は、オーベンと協議の上行う。

・ 術後患者に麻酔と関係のあると思われる合併症が発生した場合に

は、速やかに担当のオーベンもしくは麻酔科スタッフに報告し、対

策を講じること。問題が解決するまで適宜、回診・経過観察する。

・ 術後の神経損傷の有無については、特によく問診すること。

3.術前リスクの評価

*それぞれの合併症に対する術前評価は各項・テキストを参照すること。

「ASAPhysicalStatus」

Class1. Anormal,healthyperson.

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発行元:麻酔科 2版 16/62

健康な患者

Class2. Apatientwithamildsystemicdisease.

軽度の全身疾患をもつ患者

(コントロールされた高血圧症、糖尿病)

Class3. Apatientwithaseveresystemicdiseasethatlimits

activitybutisnotincapacitating.

日常生活を制限する程度の全身疾患をもつが、運動不可能では

ない患者

Class4. Apatientwithanincapacitatingsystemicdiseasethatis

aconstantthreattolife.

日常生活を大きく制限する全身疾患があり、常に生命の維持が

脅かされている患者

Class5. Amoribundpatientwhoisnotexpectedtosurvive24hr

withorwithoutsurgery.

手術の有無にかかわらず、24時間の生存が危ぶまれる患者

Class6.Braindiedpatient.

脳死患者

Emergency(E)Apatientinoneoftheprecedingclasseswhoisundergoing

surgeryasanemergency.TheletterEiswrittennextto

thenumericalclassification.

緊急手術患者

*記載する際には「2E」の如く数字の後ろに Eをつける

「内科的合併症のある患者」

(1)呼吸器疾患合併患者の麻酔

① 気管支喘息患者の麻酔

1)術前評価

・ 聴診所見(wheezing)

・ 発作の季節、程度、治療

(救急で受診したことがあるか、挿管されたことがあるか)

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発行元:麻酔科 2版 17/62

・ 最終発作の時期、薬の内服状況

・ 血液ガス、呼吸機能検査の結果

・ 生活、運動制限の有無

2)麻酔方法

・ β1刺激薬、アミノフィリン、ステロイドは継続する。

・ 吸入薬は手術室に持参してもらう。

・ 可能なら局所・伝達麻酔法を選択する。

・ 気管支拡張作用のある薬物を中心に使用する。

(揮発性吸入麻酔薬、ケタミン、プロポフォールなど)

・気管支収縮を誘発する薬物は避ける。

(β遮断薬など)

・ 絶対に浅麻酔状態で気道に刺激を加えてはならない!

・ 挿管までに揮発性吸入麻酔薬で十分に麻酔を深くしておく。

(深麻酔下で抜管することもある)

・ Wheezing、気道内圧の上昇などに常に注意をはらうこと。

3)治療

・ 麻酔を深くする;揮発性吸入麻酔薬は強力な気管支拡張薬である。

・ アミノフィリン;5mg/kg/30min 静注後、0.5-1.0mg/kg/hr で持

続静注。

・ ソルコーテフ;100-250mg 静注(8時間ごと)

・ ボスミン(緊急時):0.2-0.3ml 皮下注

② 肺機能障害患者の麻酔

*分類

閉塞性疾患:肺気腫、慢性気管支炎など

拘束性疾患:肺線維症、肺切除後、胸水、側彎症、肥満など

1)術前評価

・ 咳、痰、呼吸困難、Hugh-Johnes 分類

・ 喫煙歴:6 週間以上の禁煙は術後肺合併症の頻度を低下させる。

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発行元:麻酔科 2版 18/62

・ 聴診所見、胸部 X線写真

・ 血液ガス、呼吸機能検査の結果をチェック

2)麻酔方法

・ アミノフィリン、ステロイドは継続する。

・ 可能なら局所麻酔法を選択する。

・ 呼吸抑制を起こさないように鎮静と酸素投与は慎重に行う。

・ 適切な換気設定

*閉塞性疾患:大きな 1回換気量、少ない呼吸回数

(呼気時間を長く)

*拘束性疾患:少ない 1回換気量、呼吸回数を多く

(気道内圧を高くしない)

・ 気道の保護が重要!

・ 定期的に吸引を行い、無気肺の防止につとめる。

・ ブラのある場合は笑気の使用は禁忌とし気道内圧を上昇させない。

・ 聴診所見、SpO2、ETCO2、気道内圧の変化に常に注意を払う。

・ 定期的に血液ガス分析を行う。

・ 完全な麻酔覚醒と筋力回復をまってから抜管する。

・ 術後鎮痛(硬膜外麻酔など)が必要である。

(2) 循環器疾患合併患者の麻酔

① 高血圧症合併患者の麻酔

1)術前評価

・ 血圧がコントロールされているか。

(コントロールの不十分な高血圧患者は、ASA3 に分類される)

・ 内服薬をチェック。

・ 臓器合併症(心臓、腎臓、肝臓、脳)

・ 脳梗塞の既往の有無、あれば神経障害の有無。

・ 2 次性高血圧の可能性を常に留意する。

2)前投薬

・ 血圧の薬は原則として当日の朝も内服させる。

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発行元:麻酔科 2版 19/62

・ ACE阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬は原則として中止する。

3)モニター

・ 高血圧のみでは観血的動脈圧モニターの適用とはならない。

・ 著しい血圧の変動が予測されるとき(患者側要因・術式)に適応と

なる。

4)麻酔中

・ 適切な血圧を得るために、血管作動薬は必要に応じて投与する。

・ 高血圧患者は脳血流の自動調節ラインが右にシフトしているので、

血圧を下げ過ぎない!

・覚醒時の循環変動は見逃されやすいので注意!

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発行元:麻酔科 2版 20/62

(@sysdate@systime 作成) 問診日: 年 月 日

主 治 医 :

@usersection

@username

ID: @patientid

検査前・手術前 リスク評価チェ

ックシート 1.循環器内科受診時に、頼診券とともに提出してくだ

さい。

2.あるいは、各科におけるリスク評価、説明時の確

認、

術後管理目標設定の補助にご利用ください

患者氏名: @patientname ( @patientagey

ear 歳 )

@patientsexn

●冠危険因子に関する基本情報 ① 高血圧 (有 ・ 無) ⑥その他の特記事項 (心血管疾患の既往など) ② 糖尿病 (有 ・ 無) 例)閉塞性動脈硬化症、脳梗塞、大動脈瘤、肥大型

心筋症 ③ 高脂血症 (有 ・ 無) ④ 喫煙 (有 ・ 無) ( 本 年間) ⑤ 心臓病家族歴 (有 ・ 無) ( ) 【1.周術期の心血管リスク(心筋梗塞、心不全、死亡)を増加する臨床予測因子】

●チェック1: 有無のいずれかに○して下さい。

1.高度のリスク(心筋梗塞、心不全、死亡)予測因子

(有 ・ 無) ① 最近の心筋梗塞(8日‐30日)、あるいは急性心筋梗塞(7日以内) (有 ・ 無) ② 不安定狭心症 1)最近、発症した狭心症症状 2)徐々に、頻度、持続時間、強さが悪化してきている狭心症状 3)安静時にも生じる狭心症状 4)日常生活が著しく制限、あるいは不快な症状なしに身体活動ができない狭心症状 (有 ・ 無) ③ 日常活動が低下している安定狭心症(運動耐用能が予測できないため) (有 ・ 無) ④コントロールされていない心不全 (有 ・ 無) ⑤ 重症不整脈 1)高度房室ブロック 2)心室頻拍 3)基礎疾患のある心室性期外収縮 4)心拍数がコントロールされていない上室性不整脈(心房細動など) (有 ・ 無) ⑥ 重症弁膜症 大動脈弁狭窄など 2.中等度のリスク(心筋梗塞、心不全、死亡)予測因子

(有 ・ 無) ① 軽症狭心症(日常生活では生じない、または日常生活がやや制限される狭心症状) (有 ・ 無) ② (病歴または異常 Q波で認めた)心筋梗塞の既往 (有 ・ 無) ③ コントロールされた心不全、心不全の既往 (有 ・ 無) ④ 糖尿病(特にインスリン療法中) (有 ・ 無) ⑤ 腎不全(腎機能障害) 3.軽度のリスク(心筋梗塞、心不全、死亡)予測因子

(有 ・ 無) ① 高齢者(70歳以上、ただし活動性も加味) (有 ・ 無) ② 心電図異常(左室肥大、左脚ブロック、ST-T異常 他) (有 ・ 無) ③ 洞調律以外の調律(心房細動) (有 ・ 無) ④ 身体機能の低下(2~3Mets 以下) ※2ページ チェック 2-1 を参照 (有 ・ 無) ⑤ 脳卒中の既往 (有 ・ 無) ⑥ コントロールされていない高血圧 **参考:抗凝固薬(ワーファリン)、抗血小板薬(アスピリン、パナルジン、プラビックス、プレタールなど)について 心源性血栓塞栓症のハイリスク群 (数日のワーファリ 抗血小板薬(アスピリン、パナルジン等)中止により急

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発行元:麻酔科 2版 21/62

ン中止に伴う塞栓症のリスクが1%より高いことが予想

されるもの) (1)人工弁(特に 機械弁) (2)心房細動例のうち 特に1)脳梗塞、TIA、塞栓症の既往 2)僧帽弁狭窄 3)高血圧 4)糖尿病 5)冠動脈疾患 6)うっ血性心不全 7)高齢者 (3)脳梗塞など血栓塞栓症の既往歴

性冠動脈症候群を発症するリスクが高い例 (1)経皮的冠動脈形成術PCI(ステント留置含む)後、

数ヶ月(6々月)以内のもの (特に、薬剤溶出性ステント(DES)の場合は、1年経過 していても血栓閉塞のリスクがあることを説

明) (2)不安定狭心症、急性心筋梗塞 (3)冠動脈バイパス術後 (グラフトの状況による)(特

に早期)

※ 2 ページ目に続く

(@sysdate@systime 作成)

ID: @patientid 検査前・手術前 リスク評価チェックシート(2ページ目)

患者氏名: @patientname ( @patientageyear

歳) @patientsexn

【2.現在の日常活動能力(Mets)】

●チェック2‐1:下記の質問事項で症状なくできる日常活動の上限付近の番号に○してください (複数可能) 質問事項(下記2‐2の症状の自覚なく、可能です

か?) 能力指数 リスク予測、運動負荷などについて

(1) なわとび、各種スポーツ競技ができる 8 Mets以上 (2) 水泳ができる (3) 300m以上のジョギングができる

7~8 Mets

(4) テニス(シングルス)あるいは卓球ができる

(5) 雪かきができる

(6) 平地を200mで急ぎ足ができる

6~7 Mets

(7) 軽い農作業ができる 5~7 Mets

(8) 健康な人と同じ速度で2階まで上れる 5~6 Mets

一般に日常活動能力が、症

状なく十分保たれている人

の各種検査・手術時リスクは

高くはない。 (ただし、それ以上の負荷(BP、HRの変動など)がかかった場合は、こ

の限りではないので、予期せぬリス

クは十分ムンテラを) ダブルマスターレベルの 負荷可能の指標 (6~7 Mets) シングルマスターレベルの 負荷可能の指標 (5~6 Mets)

(9) お風呂に入れる、テニス(ダブルス) 4~5 Mets (10) 庭いじり草むしりができる、 4 Mets (11) 健康人と同じ速度(4km/h)で200m歩ける (12) ラジオ体操できる、布団を敷ける (13) シャワーをあびれる、釣り (14) ぞうきんがけ、ゆっくり歩行(3Km/h)

3~4 Mets

(15) ゆっくり自転車に乗れる、調理ができる (16) 炊事、洗濯ができる、盆栽ができる

2~3 Mets

運動負荷禁忌例 (日常活動が保たれていても 下記が疑われる時、負荷は禁忌で

す。) 1.不安定狭心症例 2.急性心筋梗塞例 3.大動脈弁狭窄例 (胸骨右縁第2肋間に最強の収縮期雑

音) 4.コントロールされていない心不全 5.危険な不整脈

(17) 着替えが一人でできる、乗り物に座って乗る (18) トイレが一人で楽にできる、編物

2 Mets

(19) 食事、洗面ができる 1.6 Mets (20) 横になっていると楽 (21) 夜、楽に眠れる 1 Mets以下

一般に日常活動能力が 低下している人の リスク予測・評価は困難 むしろ、ハイリスクに準じて 十分なムンテラが必要

●チェック2‐2: 有無に○してください。

注意すべき日常活動中の症状

① 労作時など30秒以上続く胸部苦痛等 (有 ・ 無) ③ 激しい動悸 (有 ・ 無)

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発行元:麻酔科 2版 22/62

② 労作時や夜間の呼吸困難感 (有 ・ 無) ④ 眼前暗黒感(めまい)、失神 (有 ・ 無)

【3.予想される手術侵襲】 (予測される出血量、体液バランスの変動も考慮)

●チェック3: 予定手術・検査の番号を○で囲んでください。

高リスク (報告されている心臓リスク(心筋梗塞、心不全、死亡)が、しばしば5%以上であることは説明し

てください)

(1) 緊急大手術(特に高齢者) (2) 大動脈および他の大血管手術 (3) 末梢血管手術 (4) 大量の体液移動あるいは失血を伴う長時間手術 中等度リスク (報告されている心臓リスク(心筋梗塞、心不全、死亡)が一般に5%未満はあることは説明

してください)

(1) 腹腔内手術、胸腔内手術、骨盤内手術 (2) 頭頚部手術 (3) 頚動脈内膜剥離術 (4) 整形外科手術 (5) 前立腺手術 低リスク (報告されている心臓リスク(心筋梗塞、心不全、死亡)が、一般に1%未満はあることは、説明し

てください)

(1) 内視鏡手術 (2) 体表手術 (3) 白内障手術 (4) 乳房手術 (5) そ の 他 の 手 術 ・ 検 査

( )

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発行元:麻酔科 2版 23/62

*循環器科への紹介のガイドライン

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発行元:麻酔科 2版 24/62

② 心疾患患者の麻酔

1)術前評価

・ 病歴をしっかり聞くこと!

・ 投薬内容の確認。

・ 生活、運動制限の有無の確認。

・ 狭心症、うっ血性心不全、不整脈、心筋梗塞、心雑音の有無をチェ

ックする。

・ 胸部 X線写真で心拡大、肺水腫、胸水の有無をみる。

・ 心電図上虚血性変化が認められた場合は、負荷心電図、Holter 心

電図や心エコーの検査を追加する。

2)前投薬

・心血管に関する薬は基本的にはすべて続ける

(開心術は開心術の麻酔の項を参照)

・ 糖尿病薬は糖尿病患者の麻酔に準じる。

・ 抗血小板薬のうち、アスピリン、パナルジン、ジピリダモールは

10 日から 14 日前に、遅くとも手術 1 週間前には中止し出血時間を

検査する。

・ 非常に神経質で、不安により狭心痛が誘発される患者は、鎮静薬を

多めに投与する。

3)モニターとライン

・ 必要なら肺動脈カテーテル(Swan-GanzCatheter)を挿入する。

・ 経食道エコーは心筋虚血、心機能のよいモニターである。

・ カテコラミンの投与が予想される場合は中心静脈ラインを確保し

ておく。(主治医と協議する)

・ 症例によっては、導入前に観血的動脈圧ラインを確保し、循環動態

をモニターする。

4)麻酔管理

・ 動脈血酸素飽和度、冠血流の維持をこころがける。

・ 血圧、心拍数の大きな変動を避ける。(特に気管挿管時)

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発行元:麻酔科 2版 25/62

・ 過換気を避ける。

・ 冠攣縮性狭心症の患者では、過換気、アルカローシス、血清 Ca2+

上昇、血清 Mg2+低下、Ach 放出、副交感神経刺激で冠攣縮が誘発さ

れることに留意する。

・ 適切な血管拡張薬や、カテコラミンなどの薬物を用いて、循環動態

の維持につとめる。

・ 術後の疼痛対策をしっかり行い、血圧の上昇を防ぐ。

・ 術後 3日目に最も心筋梗塞が多いことを留意し、必要であれば術後

も酸素、冠血管拡張薬の投与を行う。

③不整脈患者の麻酔

1)術前評価

・ 基礎疾患の有無、心疾患、内服薬をチェックする。

・ 不整脈の種類 ;上室性、非上室性

・ 心室性不整脈の場合、5 個/分以上であるか、連発しているか、多

源性か、RonT か、ShortRun の有無をチェック。

(これらは治療を要する)

・服薬中の薬は原則的に継続する。

・必要ならホルター心電図の依頼や循環器科受診を検討する。

2)モニターとライン

・観血的動脈圧ラインを入れ、必要なら中心静脈ラインを検討する。

・房室Block,洞停止はペースメーカーを用意しておく。

*心房細動の患者では、血栓がとんで肺塞栓、脳塞栓を起こす可能性がある。

術前に経食道心エコーにて左房内血栓の有無を確認することが望ましい。

④ 房室ブロックの患者について

・ 1 度のブロックは麻酔上のリスクとはならない

・ 2 度のブロックのうち MobitzⅠ型は、通常治療不要であり、アトロ

ピン等に反応するが、MobitzII 型はアトロピンは無効なことが多

く、ペーシングが必要である。

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発行元:麻酔科 2版 26/62

・ 3 度のブロック患者で失神発作、心筋虚血、心不全を伴う場合、予

定手術前にペースメーカーが必要である

・ 完全右脚ブロックに左軸偏軸を伴う場合、左冠動脈前下行枝の支配

を受ける左脚前枝も何らかの障害を受けている可能性が高い。完全

ブロックに移行する危険に備えペースメーカーの準備をしておく。

・ 左脚ブロックは、何らかの心疾患を合併している場合が多い。

⑤ペースメーカ装着者について

・ ペースメーカの型、デマンドの種類を確認する。

・ 自己心拍数を確認する。

・ 緊急時のために経皮的ペースメーカを部屋に準備しておく。

(3)糖尿病患者の麻酔

1)術前評価

・ 糖尿病歴何年か?

・ 治療歴

(食事療法、経口糖尿病薬、インスリン)

・ コントロールは良好か?

・ 3 大合併症の有無

1.糖尿病性腎症 ;蛋白尿・β2ミクログロブリン

2.自律神経障害 ;起立性低血圧、無症候性心筋梗塞、残尿、失禁等

3.糖尿病性網膜症;これがきていると腎障害もあることが多い

*自律神経障害のある患者では、上位の交感神経がブロックされると、血圧の

維持が困難になり、心停止にいたることもあるので、硬膜外麻酔や脊椎麻酔の

際には注意が必要である。また、体位変換や陽圧換気で、血圧が急激に低下す

ることがあるので注意を要する。

*心疾患や自律神経障害のある患者では、必要に応じて観血的動脈圧ラインを

確保する。

2)術前管理

・ 経口糖尿病薬は、手術当日朝は投与しない。

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発行元:麻酔科 2版 27/62

・ 午後のケースでは、朝6時と昼頃、最低2回血糖を検査してもらう。

3)手術中の管理

・ 手術中は 1~2時間ごとに血糖を check する

・ 血糖は 100~200mg/dl でコントロールする

・ 血糖が 250mg/dl 以上になったら治療を開始する

(感染対策の面からは 200mg/dl 以下が望ましい)

・ NIDDMやインスリン依存性のIDDMの患者では尿中ケトン体も調べ、

必要に応じてインスリンとグルコースの補充を行う.

・ 低血糖には 50%グルコースを 10~20ml 投与する。

(術中は、血糖 80mg/dl 以上にしておく。)

・ インスリンは速攻型を静注で行う。

・ 静注 30 分後に血糖を検査する。

・ インスリン投与量(静注)

250~300mg/dl インスリン 6単位

300~350mg/dl インスリン 8単位

350~400mg/dl インスリン 12 単位

400 以上 持続投与でコントロール

*妊婦の血糖コントロールについては成書を参照すること。

参考

『 N.Y.H.A.分類 』

Class1.身体的活動を制限する必要のないもの。日常生活では症状の出な

いもの。

Class2.身体的活動を軽度ないし中等度に制限しなければならないもの。

安静時には症状が出ないが、普通の身体活動で、疲れ、動悸、息

切れ、狭心痛を起こすもの。

Class3.身体的活動が著明に制限されているもの。安静には何の愁訴もな

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発行元:麻酔科 2版 28/62

いが、日常生活において普通以下のの身体活動の程度でも疲れ、

動悸、息切れ、狭心痛を起こすもの。

Class4.軽い身体的活動の程度で必ず愁訴を生じる患者。安静にしていて

も心不全の症状や狭心痛があり、少しでも安静をはずし軽い身体

活動を行うと、愁訴が増強するもの。

『 術後心臓合併症を起こす危険因子(Goldman) 』

1.病歴:

1)70 歳以上の高齢者

2)術前 6ヶ月以内の心筋梗塞の病歴

2.身体所見:

1)拡張期性奔馬調律

2)頚静脈の怒張

3.心電図:

1)洞調律でない、または PAC

2)1 分間 5個以上の PVC

4.一般状態:

1)PO2<60mmHgorPCO2>50mmHg

2)K+<3.0mmHgorHCO3+<20mEq/L

3)BUN>50mg/dlorCr>3.0mg/dl

4)AbnormalSGOT,慢性肝疾患の所見、長期臥床

5.手術:

1)開腹手術、開胸手術、または大動脈の手術

2)緊急手術

*『術前の胸部X線写真において肺結核を疑わせる所見があった場合』

・ 全例で術前に喀痰の結核菌検査を塗抹と培養をセットにして行う。

・ 塗抹検査で排菌が否定されてから手術となる。

・ 結核菌以外の非定型抗酸菌が疑われる場合は DNA 検査(PCR)。

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発行元:麻酔科 2版 29/62

4.全身麻酔

「準備」

・麻酔器、薬物、モニター等全身麻酔に必要なものを「麻酔準備」に

従って準備する。

・患者入室前に自分の準備を再三にわたりチェックする。

「酸素化・脱窒素」

・ 患者に軽くマスクをあて、酸素 6L/minを流し吸入させる。これによ

り、機能的残気量(FRC)に相当する部分の空気を高濃度酸素に置換し、

気管挿管時の無呼吸に耐えうる。

「麻酔導入」

(1)急速導入法(RapidInduction)

・ チオペンタール(4~6mg/kg)をゆっくり静脈内投与(喘息の既往

があればプロポフォールやケタミンなど)。入眠し、睫毛反射が消

失、自発呼吸が減弱ないし消失したら、気道を確保しマスク換気を

行う。患者が必要充分に換気されていることを視診、聴診、呼気ガ

スモニター等により確認する。

・ 吸入麻酔薬等の投与を開始する。

・ ロクロニウム(0.6~0.9mg/kg)等の筋弛緩薬を投与し、十分な筋

弛緩が得られた後、気管内挿管に移る。

・ 「がま口法」でしっかり開口し、右手で保持したまま左手で喉頭鏡

を持ち、舌の右側からブレードを挿入する(舌や上唇を巻き込まな

い)。舌の中央に沿って喉頭蓋を確認し、さらに進めて挙上し、声

門を展開する。4%リドカインを気管内にスプレーした後、挿管す

る。チューブはカフの上縁が声帯を 2~3cm 越えたところ(チュ

ーブの黒い線が見えなくなるところ)で止め、切歯の位置での長さ

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発行元:麻酔科 2版 30/62

を確認する。

・ カフに必要最小限(20cmH2O の気道内圧でリークの生じない程度)

の空気を入れ、換気を行いながら、両肺野を聴診し左右差、Wheezing

のないことを確認する。

・ 脈拍、血圧をみながら吸入麻酔薬の濃度を調節する。

・ チューブを絆創膏で固定し、バイトブロックを挿入

・ 調節呼吸を開始する。胸郭の動き、呼吸器のベローズの動き、カプ

ノグラフの波形を確認し次の作業に移る。

・ 必要により経鼻胃管、食道内聴診器、各種体温計、を挿入留置する。

*導入時の注意点

・ 換気が充分であることを、常に確認する。

・ 心電図、心拍数、血圧の確認を怠らないこと。

・ 挿管時、喉頭展開の後は声門部から目を離さない

・ 介助者は、患者の右口角部を引っ張り麻酔医の視野を確保する。も

し、十分に声門が観察できなければ、輪状軟骨を圧迫する。

* 挿管困難が予想される場合

以下に示すようなリスクのある患者の場合、あらかじめオーベンと十分協

議し、必要な準備をすること

1)首の短い患者

2)舌の大きい患者

3)口腔の小さい、下顎の発達していない患者

(例;Pierre-Robinsyndrome)

4)首の伸展の制限されている患者

5)気道に変形のある患者

(喉頭腫瘍、気管腫瘍、頭頚部手術々後、気切後など)

6)大きなまたは不安定な前歯や門歯

(2)迅速導入法(RapidSequenceInduction または CrashInduction)

適応: 誤嚥を生ずる可能性のある患者

FullStomach、妊婦、急性腹症

方法: ・胃内容の吸引

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発行元:麻酔科 2版 31/62

・ Precuralization:成人ベクロニウム 0.01mg/kg を投与。

・ 十分に酸素を前投与する(100%酸素を 7呼吸以上)

・ チオペンタール 4~7mg/kg 静注し自発呼吸が消失したら、介助者

がクリコイド・プレッシャーを行う。

・ サクシニルコリン 2~3 mg/kg 静注する。

・ 陽圧換気はしない。

・ 下顎の筋弛緩が得られたらすぐに気管挿管を行ない、カフに十分量

の空気を入れ、カプノグラフの波形で換気できることをを確認して

から、クリコイド・プレッシャーを解除する。

(3)覚醒下気管挿管(AwakeTrachealIntubation)

適応: 新生児、挿管困難症、頚椎症、関節リウマチの環軸椎亜脱臼、Full

Stomach、ショック患者

方法: ・鎮静状態を得る(フェンタニルなど)

・ 気道の表面麻酔(咽頭、喉頭、気管、鼻腔)

・ 直接喉頭鏡で観察し、可能なら挿管。

・ 不可能なら経鼻挿管(ファイバー・スコープのガイド下)を選択す

る。

・ 喉咽頭に十分 4%リドカインスプレーを行う。

・ 気管内に甲状輪状膜を穿刺して 23G 針とシリンジを用い、4%リ

ドカインスプレーを噴霧する(成人で約 2ml)。

・ フェニレフリンまたはエピネフリン、リドカインゼリーを含むイソ

ジン液を浸した綿棒でチューブの挿入方向を確認し、同時に鼻腔の

清掃も行う。(消毒および出血予防)

・ ファイバーをチューブに通し、挿管操作にはいる。

・ 気管内に挿管されたらすぐにカフを膨ませ、流入した血液や分泌物

を吸引する。

・ 聴診により、両肺が換気されていることを確認した後、導入薬を投

与する。

*成功の秘訣:患者の理解と協力、十分な鎮痛、気道反射の抑制、頭の位置

(4)緩徐導入(SlowInduction)

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発行元:麻酔科 2版 32/62

適応: 乳幼児、気管支喘息患者の一部

方法: ・酸素 2L/min、笑気 4L/min で導入開始。

・ 2~3 呼吸ごとにセボフルラン濃度を 0.5%ずつ増加させる。

・ 静脈路を確保したのち、筋弛緩薬を投与し気管内挿管する。

(5)ケタミンの筋注・静注

適応: 気管支喘息患者、乳幼児

・ 導入後、吸入麻酔薬で充分麻酔深度を深くしてから挿管する。

・ ケタミンは気道分泌物を増やすことに注意する。

「全身麻酔中の一般的注意」

・ 麻酔維持中は適正な気道確保、呼吸、循環、麻酔深度、筋弛緩状態

を保つこと

・ 各種モニターを利用するとともに、視診、触診、聴診を怠らないこ

と。

・ 口腔内の手術、気道内の手術は気道のトラブルが多いので充分注意

すること。

・ 側臥位・腹臥位の手術では気管内チューブのトラブルは致命的であ

る。

・ 体位変換時の血圧低下に注意すること。

(体位変換は必ずオーベンと共に行う)

「覚醒と抜管」

(1)麻酔の覚醒および筋弛緩の回復

・ 通常、手術終了時に覚醒、抜管し帰室できるよう麻酔管理を行う。

・ 筋弛緩薬使用時は、筋弛緩が必要でなくなった時点で投与を中止し、

筋力の回復を確認しリバースを行う。

(筋弛緩モニターにより TOF で 1/4(T1)以上を確認)

・術後呼吸器合併症、意識障害等の評価を行い、リスクが高いとき

は抜管せず術後も呼吸・循環の管理を継続する。

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発行元:麻酔科 2版 33/62

・ 開頭術後、網膜剥離の手術、気管支喘息患者などでは抜管してから

覚醒させることもある。

(2)麻酔の覚醒及び筋弛緩の回復の評価

・ 麻酔の覚醒及び筋弛緩の回復の評価を行う。

(下記 PARScoreを参照)

・ 5 秒間頭を持ち上げることができるか。(TOF;70%に相当)

・ テタヌス 50Hz で 5 秒間減弱がない。

・ 深呼吸できるか。

・ バッキングするか(咳反射が保たれている)。

・ 舌突出が可能か(舌根沈下の予測)。

・ 開眼、握手の指示に従うかどうか。

・ 必要なら血液ガス測定を行う。

(自発呼吸で PaCO2が 50mmHg 以下ならば、抜管は可能である)

(3)抜管の手順

・ すぐに気道確保のできる用意(マスク、喉頭鏡、聴診器)をする。

・ 気管内、口腔内、胃内を充分に吸引する。

・ 気道内圧を 20cmH2O までバッグで加圧し、カフの空気を完全に抜

いて抜管する。

・ 口腔内分泌物を吸引し酸素投与する。

・ 両肺野の聴診を行い、異常のないことを確認する。

・ 舌根沈下がなく換気状態良好で、さらに全体に異常のないことを確

認してから退室を許可する。

*脊髄クモ膜下麻酔、硬膜外麻酔の回復の評価も行う。ブロック範囲が Th4

以上のとき心臓交感神経がブロックされているので、体位変換時などに低血圧、

徐脈を生ずる危険が高い。

『麻酔覚醒スコアー(PostanestheticRecoveryScore;PARScore)』

項目 点数

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発行元:麻酔科 2版 34/62

命令により活発に動く、頭部挙上可能(15 秒) 2

動きが弱い 1自発運動

動かない 0

深呼吸、あるいは泣く 2

気道が充分に確保されている 1呼吸

エアウェイの挿入が必要 0

術前と比較し変化が±20mmHg以内 2

±20~50mmHg 1血圧

±50mmHg以上 0

充分に覚醒している、呼名にすぐ反応する 2

痛みに反応し、防御反射がある 1意識

痛みに反応しない 0

血色良好 2

血色不良、蒼白、鳥肌様 1色

チアノーゼ 0

合計 /10 点

*退室の目安:8点以上

*『術中に結核菌の排菌が疑われた場合』

・術中の迅速診断で結核性病変が疑われた場合、年齢・病歴・胸部X線写真に

おいて肺結核が否定的な症例であっても同様の対処をする

①. ただちに N95 マスクを着用する(D室前のマスク置き場)

②. インチャージ、師長に電話連絡し、余計な人の出入りを避ける

③. 部屋のドアは閉める

④. 喀痰塗抹・培養検査を行う(容器は ICU)

⑤. 塗抹検査の結果がきてから退室する

⑥. 抜管時に咳をさせない(手袋・ビニールエプロンをつける)

⑦. 吸引後の感染ごみはビニール袋に密封し注意して捨てる

⑧. 抜管後は患者に外科用マスクを装着する

「全身麻酔管理時の必須モニター項目」

1) 心電図(ECG)

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発行元:麻酔科 2版 35/62

2) 血圧計(非観血)(BP)

3) 心拍数(HR)・脈拍数(PR)

4) パルスオキシメータ(SpO2)

5) 終末呼気二酸化炭素ガス濃度(EtCO2)

6) 中枢体温

7) 吸入酸素濃度(FiO2)

8) 気道内圧(AirWayPressure)

9) 体液バランス(In-Out)

(1)心電図モニタ̶

・ 何を見るためにどの誘導をモニタ̶すべきか?

・ 波形が観察しやすくリズムが最も見やすい誘導:通常はⅡ誘導

(心筋の虚血状態が最も見やすい誘導Ⅱ+V5)

・ 術野の邪魔にならない位置に電極を貼る。

(2)観血的動脈圧モニター

適応:重症患者、心・呼吸器疾患患者、開頭手術、低血圧麻酔、開心術、

開胸手術、大血管手術、くり返し採血の必要な患者、長時間手術で輸液管理の

重要な手術等

・ 留置後、ゼロ点設定をする。

・ 穿刺場所:橈骨動脈、足背動脈

・ 穿刺体位:手首を伸展位し固定する。

・ 穿刺針:小児-22~24G、大人-22G

・ 注意事項:凝固塊、空気を入れない、フラッシュは 3ml 以下

(3)中心静脈圧測定

・ 目的・適応:水分バランスの評価、心臓機能の評価、カテコラミ

ンの持続投与

・ 術後に経口栄養の出来ない症例

・ 経路:外頚静脈、内頚静脈、肘静脈、大腿静脈、(鎖骨下静脈)

*人工呼吸管理中の鎖骨下静脈穿刺は望ましくない。

合併症:動脈誤穿刺、出血、血腫、感染、気胸

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発行元:麻酔科 2版 36/62

(4)肺動脈圧測定(スワン-ガンツ・カテーテル)

・ 適応:心不全、ショック状態、心大血管手術、空気塞栓の可能性

のある手術

・ 経路:内頚静脈、大腿静脈

5.輸液、輸血

*患者の同意書を確認し、オーベンの指示のもとに行う

「輸液」

・ 術中の輸液は、脱水量・維持輸液量・補充輸液量に分けて考える。

・ 原則として術中の輸液内容は、重炭酸リンゲル液(ビカーボン)あ

るいは酢酸リンゲル液(V/F)とする。

・ 糖液の投与は、脳虚血をきたす可能性の高い症例では望ましくない。

・ 輸液量の目安 (例)

*体表の小手術:補充輸液量は極少量

*脳圧亢進の患者:維持輸液+2~3ml/kg/h

*開胸:6~8ml/kg/hr

*開腹手術:10ml/kg/hr

*整形外科、耳鼻科、代謝外科などの中程度の手術

:3~6ml/kg/h

・ 輸血を行わないときは出血量の 3倍を目安に重炭酸・酢酸・乳酸リ

ンゲル液を補液する。

・ 出血量の推測は報告だけではなく、術野の状況も考慮して行う。

・ 1ml/kg/h の尿量を保つように管理する。

・ 膠質液は、充分な輸液を行ってもなお不十分な時にオーベンと相談

し行う。

「タンパク製剤輸液」

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発行元:麻酔科 2版 37/62

・ 出血性ショック

・ 著しい栄養障害を伴ったショック

・ 低蛋白血症だけでは FFP または PPF の適応にはならない。

・ 腸閉塞など著しい腸管の浮腫

「濃厚赤血球」

・ 虚血性心疾患や心不全患者、開頭術では、Ht が 30%を割った場合、

考慮する。

・ 循環血液量の 20%以上の出血のある場合。

「FFP」

・ DIC

・ 肝障害などの凝固系の異常

・ 循環血液量の 50%以上の出血のある場合。

『 血液製剤の使用指針 』

術中投与に関して

① 全身状態良好な患者で、循環血液量の 15~20%の喪失

→細胞外液系輸液薬を出血量の 2~3倍投与する

② 循環血液量の 20~50%の出血

→細胞外系輸液薬と共に赤血球濃厚液を投与する

膠質浸透圧を保持する必要があれば、人工膠質液を投与

③ 循環血液量の 50~100%の出血

→細胞外系輸液薬と赤血球濃厚液に加え、適宜等張アルブミン製

剤を投与する

④ 循環血液量以上の出血(24 時間以内に 100%以上)

→上記の他、凝固系や血小板数の検査値および臨床的な出血傾向

を参考に、新鮮凍結血漿や血小板濃厚液の投与も考慮。血圧、

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発行元:麻酔科 2版 38/62

脈拍数や尿量、心電図、血算、血液ガスなどを参考にする

*収縮期血圧 90mmHg 以上、平均血圧 60~70mmHg 以上、

尿量 0.5~1ml/kg/h 以上を目標にする。

6.筋弛緩薬

(1)適応

・ 気管内挿管時:挿管困難症のとき注意

・ バッキング予防:脳外科、心臓手術、肺外科、眼科、顕微鏡下手術

など

・ 手術のための筋弛緩:開胸、開腹術

(2)使用法

筋弛緩薬

(商品

名)

ロクロニウム

(エスラック

ス)

ベクロニウム

(マスキュラッ

クス)

パンクロニウ

(ミオブロッ

ク)

サクシニル

コリン

(サクシン)

初回投与

0.6~0.9mg/kg 0.1~0.2mg/kg 0,1mg/kg 1mg/kg

特徴 速効性、持続短

速効性、持続短

遅効性、持続

長い

速効性、持続

短い

副作用肝不全で作用時

間延長

肝不全で作用時

間延長

頻脈 Phase Ⅱ

Block

高カリウム

血症

胃内圧・眼

圧・脳圧上昇

リバース 不要のこともあ

必須 不要

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発行元:麻酔科 2版 39/62

禁忌 麻痺、熱傷、

腎不全、頭部

外傷、脳圧亢

進、眼外傷、

緑内障、悪性

高熱

、異型コリン

エステラー

ゼ症

(3)非脱分極性筋弛緩薬のリバース

・ アトロピン0.02mg/kg+ワゴスチグミン 0.05mg/kg

・ 混注するかアトロピンを先に投与すること。

・ 筋弛緩薬回復傾向(TOF で 1/4 以上、自発呼吸、サクション時のバ

ッキング)を待ってリバースする。

*抗生物質の使用(アミノグリコシド系)、神経筋疾患(重症筋無力症)、代謝

性アルカローシス、呼吸性アシドーシス(PaCO250mmHg 以上)、電解質異常、

Ca2+blocker 使用時、低体温等の場合非脱分極性筋弛緩が遷延することがある。

7.脊髄クモ膜下麻酔

(1)適応

下腹部(子宮、膀胱、前立腺など)、下肢、痔の手術

(2)禁忌

①絶対的禁忌

脳圧亢進、穿刺部位その周辺の化膿性疾患、出血傾向、ショック状態、

患者の同意・協力が得られない、菌血症

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発行元:麻酔科 2版 40/62

②相対的禁忌

脱水状態、全身性の感染症

中枢神経系の腫瘍・炎症・疾患

*腰痛、末梢神経障害などの患者では注意が必要

(3)準備

・ エフェドリン、アトロピン

・ いつでも全身麻酔に移行できるよう準備する。

(4) 投与量

・L3/4 からの穿刺で 168cmの成人に T10 までの麻酔域を得るのに

テトラカイン約 10mg 必要である。

・身長、得たい麻酔域により調節する。

・上記を参考とし、投与量以外に注入後体位、注入速度などの要因

に左右されることを認識する。

・妊娠・腹満・腹水により腹圧が上昇していると広がりやすいので

投与量を少なめにする。

(5)手順

・ 体位をとる(両膝をかかえて、臍部を覗き込むように)

・ 背中は垂直に、脊椎は水平にする。

・ 椅子に座り手術台の高さを調節する。

・ 穿刺部位を決めてマ-キングし、ワゴンを自分の右へ置く。

・ 手袋をつけイソジンフィールドで消毒し乾燥を待って、穴あきの布

をかぶせる。

・ 薬の準備:0.5%等比重・高比重マーカインを 5ml のディスポシリ

ンジに必要量吸う。

・ 必要な場合はエピネフリン、モルヒネを加えることがある。

・ 清潔なシリンジに必要量だけもらう。

・ 0.5%リドカインをとる(局麻用)。

・ 23G 針で穿刺部位を浸潤麻酔する。

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発行元:麻酔科 2版 41/62

・ 棘間靭帯を見つけたら穿刺部位の上下を左手の第2指と第3指で押

え、その方向をよくみながら 23G 針を進めていく。

・ 脊麻用穿刺針(27GQuincke 針)を進め、抵抗が変化したら内筒を

ぬいて脳脊髄液の逆流を確かめる。脊麻針が細いため抵抗の変化を

感じにくいので、ある程度の深さ(3cm)に達したら、時々内筒を

抜いて逆流の有無を確認しながら少しずつ(1mm/回)進める。

・ ガイド針を使用することもある。

・ 左手で外筒をしっかりおさえ(左手、手背を患者の背中につけて動

かないように固定する)、局所麻酔薬の入った注射器をつける。

・ ゆっくり吸引して脳脊髄液の逆流を確かめ、局麻薬を入れる(0.2

ml/sec)。最後に再度脳脊髄液の逆流を確認し、脊麻用穿刺針を抜

く。

・ 絆創膏を貼り、すぐに仰臥位にする。

・ 患側だけ効かせたい時は、はじめから患側を下にし、ブロック後そ

のまま10~15 分保つ。

・ 頻回(1 分間隔)に血圧を測定しながら、無痛域をチェックする。

勝負は最初の 5分間で決まる!

・ 硬膜外脊椎麻酔用(CSEA)のキットもある。

(6)血圧が下がった時の処置

・ 輸液の速度を速める。

・ エフェドリン 5~10mg を静注する。フェニレフリン 50 100μg

の静注も考慮する。

・ 上記の処置で間に合わない時や緊急時には、下肢のみ挙げる。(頭

部低位は不可)

(7)術中の鎮静

・ 不要な鎮静は行わない。

・ ミダゾラム 1mg 静注またはプロポフォールを持続投与する

(舌根沈下・呼吸停止に充分注意する)

・ 疼痛時に鎮静剤を投与すると興奮することがある。

・ ペンタゾシン 1A.などの拮抗性鎮痛薬を投与する。

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発行元:麻酔科 2版 42/62

・ ドロレプタン 2.5~5mg を静注する。

(8)退室許可の基準

・ 無痛域が T4-5 以下で、バイタルサインが安定している。

・ 無痛域が T4 以上の時は、下がる傾向となるまで待つこと。

8.硬膜外麻酔

(1)適応

・頚部以下の手術。但し、上腹部以上の手術では全身麻酔併用とする。

(2)禁忌

・脊髄クモ膜下麻酔に準ずる。

(3)準備

・ 脊椎麻酔に準ずる。

・ 薬の準備:1.5%リドカイン E

(1%リドカイン E10ml+2%リドカイン 10ml)

・ 投与量は穿刺部位、無痛域の範囲、年齢により増減させる。

・ 筋弛緩効果を期待して 2%リドカイン Eを用いることもある。

(4)手順

・ 消毒までは脊髄クモ膜下麻酔と同じ。

・ 0.5%リドカインをとり穿刺部位に浸潤麻酔を行う。

・ 棘間靭帯の方向に硬麻針(Tuohy 針)を穿刺し黄靭帯まで進める。

・ ガラスのシリンジを濡らし生食を 3ml 程度満たし、内筒を抜いた

硬麻針につけ軽く押し抵抗を確認する。

・ ゆっくりと、両手第 3指で背中を支点とし硬麻針を進める。

・ 1回進めるごと(1~2mm/回)に抵抗を確認する。:抵抗消失法

・ 硬膜外腔に空気をいれないように注意する。

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発行元:麻酔科 2版 43/62

・ 抵抗がなくなったら(硬膜外腔)、シリンジを軽く吸引し、血液や

脳脊髄液がひけないことを確認する。

・ 同時に皮膚から硬膜外腔までの距離を確認する。

(腰椎では 3~4cm 前後)

・ カテ-テルを挿入する。

・ 先端から10cmの所でカテーテルが針先から出るので患者に声をか

けながら進める。カテーテルが途中で進まなくなった場合、カテー

テルのみを引き戻すことはせず、硬麻針と共に抜く。

(カテーテル先端の残存を防ぐため)

・ 先端から 15cm まで挿入できたら、カテ-テルが抜けないようにカ

テ-テルを押さえつけながら硬麻針を抜く。

・ カテーテルにコネクターを取り付け適切な位置まで抜き、カテーテ

ル挿入長を確認する。吸引テストをした後フィルターと 3方活栓を

つける。

・ テガタ-ムを貼布後、背中を伸ばしてばんそうこうで固定する。

・ 患者を仰向けにし、テスト量として 1.5%リドカイン E を 3ml 注

入する。

・ 注入前に必ず血液や脊髄液が吸引されないことを確認する。

・ 3 分間待ち、血管に入ってないこと(入っていれば、心拍数 20bpm

以上の上昇、血圧上昇)とクモ膜下に投与されていないことを確認

し、初回量を投与する。

・ 血圧を頻回に測定する。

・ 特に高齢者は血圧の変動が大きいので注意が必要である。

・ 全身麻酔を併用するときはさらに血圧が低下するので、注意が必要

である。

(5)血圧が下がった時の処置

・まずは輸液速度を速め必要なら昇圧薬を用いる。

*血管内注入になると意識消失、痙攣を起こすことがある。

・ 痙攣に対しては対症療法を行う。

・ 換気ができていることを確認する。

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発行元:麻酔科 2版 44/62

*呼吸が停止したら →全脊麻の疑い

・速やかに気道を確保する。30~90 分で回復することが多い。

(6)硬膜外オピオイド投与

・ モルヒネ 2mg を生食 5~10ml に混ぜて注入する。

・ 効果発現に 2~6時間かかることを考慮し早めに投与する。

・ フェンタニル 50~100μg を生食 5~10ml に混ぜて注入する

(7)持続硬膜外麻酔注入法(術後鎮痛のため)

・ 適応: 開胸手術、開腹手術

・ 準備:バクスターインフューザー(4ml/h)あるいはシリンジェク

ター(2ml)

・ 使用薬剤は症例、術式、穿刺部位によりオーベンと相談の上調整す

る。

9.小児麻酔

「キャンセルのクライテリア」

・ 上気道炎;38℃以上の発熱、咳、鼻水、胸部ラ音

・ 予防接種;生菌ワクチン(BCG・ポリオ・麻疹風疹など)は 1ヶ月、

死菌ワクチン(日本脳炎・三種混合・インフルエンザなど)接種後

は 2週間手術を控える。

・ 胃腸症状

・ 伝染性疾患(麻疹、水痘、風疹)の罹患

*以上のことを手術の緊急度と考え併せて麻酔を受けるかどうかオーベンと

相談の上判断する。

「術前訪問」

・ 患児及びその保護者との信頼関係をつくることが大切。

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発行元:麻酔科 2版 45/62

・ ある程度こちらの言うことがわかる患児には入室時に行われる具

体的なこと(心電図のパッチを貼るとか、マスクを顔に当てるとか)

を、不安を増さない程度に説明してあげるとよい。

・ 患児からは充分な情報を得ることができないことが多いので、親へ

の問診が重要である。

「経口摂取の制限」

年令 ミルク・固形物 Clearwater

新生児~6カ月 4時間 2時間

6 カ月~3才 6時間 2時間

3 才以上 8時間 2時間

「前投薬」

・ 6 カ月未満 :なし

・ 6 カ月以上 :入室 40 分前に経口で

アタラックスPシロップ2~4mg/kg(100mg まで)

トリクロリールシロップ0.7ml/kg(15ml まで)

セルシンシロップ 0.3~0.5ml/kg

・または、入室 90 分前にセニラン坐薬 0.1mg/kg

*ミルク後絶飲とはせずに手術入室 2~3 時間前に ClearWater を飲ませる。

ClearWater; 麦茶、糖水、ポカリスエット、粒の入っていないオレンジジュ

ース、アップルジュースなど、量は 10ml/kg が目安。

「麻酔準備」

(1)麻酔回路の選択

・ 新生児、10kg 以下の乳幼児:Maplson’sD 回路

・ 15kg 以上:半閉鎖回路

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発行元:麻酔科 2版 46/62

(2)バッグ:体重(kg)/10〔L〕が目安

(3) 気管内チューブ

・必ず前後の径のものを含め多めに準備する。

・チューブサイズ

新生児 ID:2.5~3.0mm

6カ月迄の乳幼児 3.0~3.5mm

6カ月から1才まで 3.5~4.0mm

それ以上 4+年令/4

*深さに関しては成書を参照

(4)モニター

・ 自動血圧計のマンシェットは上腕周径を計測して選択する。

(上腕長の最低 2/3 以上)

・ パルスオキシメータ:小児用

・ 終末呼気炭酸ガス濃度モニター

(5)輸液は以下の何れか

・ 酢酸リンゲル液(V/F)500ml に 50%Glucose20ml を加え、2%

ブドウ糖液としたもの。

・ ヴィーンD

・ ソリタ T3、T1

・ 維持輸液を越える分は糖の入っていない酢酸リンゲル液を用いる。

・ 20kg 以下ではシリンダー付輸液セット、縦型点滴ポンプを準備す

る。

・ 点滴ラインの延長管は原則として x—1 を用いるが、急速な出血が

予想される場合にはスムーズに輸血出来るように x—2 を用いる。

「輸液量」

体重(kg) 維持輸液量(ml/kg/時)

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発行元:麻酔科 2版 47/62

新生児 3ml/kg/時

4~10kg 4ml/kg/時

11~20kg 40+2×(V-10)ml/kg/時

21kg 以上 60+(V-20)ml/kg/時

(V は体重)

*麻酔管理については、成書を参照

10.心大血管手術の麻酔

「前投薬」

①鎮静・鎮痛薬

・ 心機能正常の患者:45 分前、塩酸モルヒネ 0.1mg/kg 筋注。

・ 狭心症患者で心機能正常の場合は、さらに十分な鎮静が必要。

ジアゼパム5~10mg(経口、90 分前)、

モルヒネ0.2mg/kg(筋注 45 分前)

・ 重症心不全(NYHAClass3-4)では半量にするか、ジアゼパムのみ

にする。

・ 僧帽弁疾患の患者では、鎮静による低換気・低酸素で肺動脈圧の上

昇を招くことがあるので注意する。

・ 前投薬投与後、入室まで酸素 3L/min フェイスマスクで投与する。

②術前からの投薬

・ 降圧薬、利尿薬:当日朝まで継続。電解質異常に注意する。

・ ジギタリス:心拍数のコントロールのため直前まで継続する。

・ ニトログリセリン、ニトロール:継続

・ カルシウム拮抗薬:継続。突然中止すると反跳現象をおこすこと

がある。

・ β遮断薬:継続

・ ワーファリン:4~5 日前に中止。塞栓症のリスクの高い患者では

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発行元:麻酔科 2版 48/62

ヘパリンの持続静注にかえることがある。

「薬の準備」

・通常の準備に加えて静注用 2%リドカイン、ミダゾラム、フェニレフリン、

ヘパリン(200~300U/kg)、プロタミンを準備する。

「カテコラミン投与量」

・ ドーパミン(DOA,イノバン):3~20μg/kg/min

・ ドブタミン(DOB,ドブトレックス):3~20μg/kg/min

・ ノルエピネフリン:0.05~0.5μg/kg/min

・ エピネフリン:0.05~0.5μg/kg/min

・ イソプロテレノール:0.005μg/kg/min から開始

・ アムリノン:初回投与量0.75~1.0mg/kg、

維持量:10μg/kg/min

「モニター」

・ 心電図:ⅡおよびV5 誘導

・ 観血的動脈圧ライン:トリプルライン

・ 中心静脈ライン:トリプルルーメンセット

・ Swan-GanzCatheter(CCO)

・ 経食道エコー

・ 無侵襲脳内酸素飽和度監視装置(INVOS)

「麻酔導入」

・ 導入前に観血的動脈圧ラインを挿入する。

・ 疾患の種類、重症度(例えば、不整脈、左室機能、心筋虚血)によ

って麻薬の量、筋弛緩薬の選択をする。薬に対する心拍数・血圧の

反応を見ながら導入する。

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・ 麻酔導入に必要なフェンタニル(3~5μg/kg)を心拍数・血圧を

見ながらゆっくり静注する

・ 導入初期に、パンクロニウムまたはベクロニウム(0.01~0.015

mg/kg)を投与して、フェンタニルによる Rigidity を防ぐ。

・ 筋弛緩薬を投与後喉頭展開し、4%リドカインで気管内スプレーを

行い、体動、血圧上昇、頻脈などの反応が起きないことを確認して

から挿管する。

・ 挿管後、中心静脈ラインと S—G カテーテルを挿入する。

*ベンゾジアゼピンは麻薬と併用した場合、循環抑制を起こすことがある。

*フェンタニルとベクロニウムで過度の徐脈になることがあるので注意する。

「人工心肺前」

・ 必要に応じてフェンタニル、ミダゾラム、筋弛緩薬の追加投与をす

る。

・ 胸骨切開時、用手的換気に切り替え陽圧を加えないようにする。

・ 送脱血管挿入前にヘパリン(200~300U/kg)を中心静脈ラインか

ら投与する。

・ 3 分後 ACT を測定し、300 以上であることを確認する。

「人工心肺中」

・ ポンプがまわりはじめたら、輸液はすべてとめる。

・ ニトログリセリンなどは必要に応じて投与する。

・ 水分バランスは人工心肺前、中、後、にわけてチェックする。

・ 空気 3L/min で維持。

・ 麻酔深度は?

・ 筋弛緩は十分か?

・ 脳灌流は保たれているか?

・ 顔面紅潮・浮腫はないか?

・ 瞳孔は?(瞳孔径・左右差)

・ 尿量:>1mg/kg/h、色は?(溶血に注意する)

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「人工心肺離脱時」

・ 開心後の心臓内の空気の有無をエコーで確認し、術者と協力して肺

を用手加圧しながら空気を除去する。

・ 動脈遮断解除時には頭部を下げ、自己心拍再開の初めの数回は内頚

動脈を圧迫する。

*人工心肺離脱の条件

・ 直腸温が 35℃以上である。

・ 前負荷を評価(CVP、PCWP、LAP をモニターする)する。

・ カテコラミン、血管拡張薬を投与し安定した循環動態を維持する。

「人工心肺後」

・ 輸液、輸血量は適当か?

・ ヘパリンのリバース後にプロタミンを投与し ACT 値が回復してい

ることを確認する。

・ リバース後も 30 分ごとに ACT 値は回復しているか検査する。

・ 人工心肺の血液を使用した場合は特に頻回に ACT 値を測定し、延長

していたらプロタミンを追加投与する。

・ 胸骨縫合後、心タンポナーデの所見がなく循環動態が安定している

ことを確認し経食道心エコーを抜く。

・ 経食道心エコーを抜いた後に経鼻胃管を挿入する(手術終了時でも

よい)。

「ICU への移動」

・ 循環動態が安定していることを確認し搬送する。

・ 移送用モニターで、心電図・動脈圧・SpO2をモニターしながら移送

する。

・ 移送中は循環動態や換気状態が不安定になり易いので十分注意す

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る。

・ 移送後少なくとも患者の呼吸循環動態が安定するまでは責任を持

って管理する。

・ ICU 入室後、心電図・動脈圧・肺動脈圧・中心静脈圧、Swan-Ganz

Catheter のモニターを接続する。呼吸器の換気条件を調節し、接続

後 3-5 分後に動脈血ガス分析で評価・必要があれば再調節する。

・胸部X線写真で肺野・心陰影の状態、カテーテル・気管チューブ・

ドレーン位置を確認する。

・ICU 帰室後数時間は循環変動が起きやすいので注意する。

11.開胸手術(肺外科・食道外科)の麻酔

*麻酔医は、気道を手術術者と共有して管理するので、術前、術中、術後に術

者と緊密な情報交換を必要とする。

「術前回診」

*一般の注意点に加えて、心肺系の評価を厳密に行うこと。

・ 日常生活の程度、喫煙歴、喀痰量

・ 胸部X線写真:気管の走行、太さ、狭窄の有無、肺陰影、無気肺、

横隔膜

・ 心電図:不整脈、虚血性変化がないか。

・ 動脈血液ガス

・ 術式、術中体位、チューブの選択・入れ替えについて術者に確認す

る。

「麻酔準備」

・ 通常の気管チューブに加えてダブルルーメンチューブを準備する。

・ 携帯用気管支ファイバースコープを準備する。

・ 観血的動脈圧モニター、必要に応じて中心静脈ライン、Swan-Ganz

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カテーテルを考慮する。

・ 術野挿管するときは滅菌された F回路。

「麻酔方法」

・ 胸部硬膜外麻酔+全身麻酔

・ 気管支挿管

・ 術中の筋弛緩薬は横隔膜の動きを止め、人工呼吸を容易にし、咳反

射を起こさせないため、必須である。

「麻酔導入」

・ 必要であれば、導入前に Aラインを挿入する。

・ 十分脱窒素をしたのち気管挿管(気管支挿管)。

・ 気管チューブの位置確認を聴診とファイバーを用いて行う。

・ 必要なラインを挿入した後、体位変換を行う。

・ 体位変換時は蛇管をはずし、気管チューブが気管支から抜けないよ

うにする。

・ 体位変換後に、再度チューブ位置の確認を行う。

「麻酔維持」

・ 筋弛緩薬を継続投与する。

・ 気管内の分泌物や血液は、随時吸引する。

・ 開胸直前に胸膜を開ける時は用手的人工呼吸とし気道内圧をさげ

メスで肺損傷が生じないように換気する。

・ 片肺換気前に血液ガスを測定し、吸入酸素を 50%以上にする。

・ 片肺換気後 5分程度で血液ガスの測定、特に低酸素血症に注意する。

・ PaO2が 100mmHg 以下であれば酸素濃度をあげる。気管内分泌物を

吸引し、チューブ位置を確認する。

・ パルスオキシメータの値が 95%以下は注意する。

・ 90%以下の場合は、術者に告げ両肺換気にするか、患側に CPAP を

かける。

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・ 手術操作によって気管と気管内チューブとの位置関係が変化する

ことに注意する。

・ 手術操作で気道を術者が圧迫牽引して咳反射、迷走神経反射、心臓

圧迫、大出血などが起きることがある。

・ 気道内圧が変化したら要注意。分泌物や気管支痙攣に注意する。

・ 閉胸後胸腔ドレーンチューブがドレナージユニットに接続され胸

腔内圧が陰圧になるまでは陽圧換気とする。

・ 自発呼吸に戻す前に気管内分泌物を吸引し肺を十分に膨らませる。

「麻酔の終了」

・ 自発呼吸下、純酸素の換気条件で血液ガスをとり、PaO2350mmHg

以上、PaCO240mmHg 台であれば抜管可能と考えるが、換気量、意

識の回復状態、痰の喀出の状態などを見て総合的に判断する。

・ 食道全摘術後は開腹開胸手術であり、術後1日の陽圧換気は術後の

回復を早めるので気管挿管で帰り術後人工呼吸とする。(開腹術

中に投与した水分が肺には多すぎる)

12.帝王切開の麻酔

「麻酔方法の選択」

前置胎盤、ショック状態、子宮破裂、胎盤早期はく離、臍帯脱出、著明な

FetalDistress等では全身麻酔の適応となる。

①区域麻酔

・ 酢酸リンゲル液 1000~2000ml 輸液(糖を含まないもの)。

・ 増大した子宮による大動脈、下大静脈の圧迫防止のため、右側臥位

で穿刺後、左側臥位とするか右腰部に枕を入れておく。

・ 脊髄クモ膜下麻酔、硬膜外麻酔にかかわらず、T4 までの無痛域を

目標とする。

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・ 脊髄クモ膜下麻酔では L2/3 或は L3/4 からブピバカイン 7.5 10mg

注入。

・ 硬膜外麻酔では、局所麻酔薬を減らす必要はない。20 万倍エピネ

フリンを添加する。硬膜外腔からのエピネフリンの吸収は、子宮血

流量、子宮収縮力を減少させない。

・ 全麻用フェイスマスクで酸素投与する。

・ 最初の 20 分間は、1分毎に血圧測定

・ 収縮期血圧が麻酔前の 30%以上減少、又は 100mmHg 以下ならば、

子宮を左側に圧排し、輸液速度を速める。

・ 同時にエフェドリン 5~10mg の投与で対処する。

②全身麻酔

・ 砕石位、術野の消毒、執刀準備を進める。

・ 酸素の投与(導入前 3分間もしくは深呼吸 4回)

・ チオペンタ-ル 5mg/kg、サクシニルコリン 1.5mg/kg静注し、輪

状軟骨の圧迫(CricoidPressure)し挿管する。

(妊婦はすべてFullStomachと考える)

・ 維持は、亜酸化窒素 3L/min+酸素 3L/min+揮発性吸入麻酔薬

(セボフルラン 1.5%以下、イソフルラン 0.75%以下)

・ 必要なら筋弛緩薬を投与する。

・ 亜酸化窒素 20 分以内の吸入であれば、胎児の血中亜酸化窒素濃度

はさほど高くない。

・ 胎児の娩出が遅れれば遅れるほど、SleepingBabyとなる。

・ 過換気を避ける。過度の陽圧換気、PaCO220mmHg 以下は胎児の低

酸素血症、アシドーシスを引き起こす。

・ 臍帯結紮後、麻酔深度を深くしフェンタニルを投与する。

・ 抗性物質は臍帯結紮後に投与を開始する。

・ 吸入麻酔薬は子宮を弛緩させ、出血量を増加させるので、フェンタ

ニルの併用が望ましい。

・ 十分覚醒してから抜管する。

13.脳神経外科の麻酔

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発行元:麻酔科 2版 55/62

「術前評価」

・ 頭蓋内圧の上昇の有無を確認する。

・ CT スキャン:病巣が大きい、ミッドライン・シフト、脳浮腫

・ 脳室の圧排症状:意識の低下、頭痛、嘔吐

「前投薬」

・ 高炭酸ガス血症、脳圧上昇を来すような前投薬はしない。

・ 鎮静薬の投与が不要な場合もある。

「麻酔導入」

・ チオペンタール 4~6mg/kg で導入し、直ちに過換気(PaCO2=30~35

mmHg)とする。

・ 気道閉塞のある場合、ためらわずにエアウェイを挿入する。

・ 筋弛緩薬を投与し、気管内挿管を行う。

・ 喉頭展開1-2分前に2%リドカイン2mg/kgを静注することもある。

・ 喉頭展開時に血圧が上昇したら、一旦中止し麻酔薬を追加する。

・ 喉頭展開時に血圧が変化しなければ、気管内挿管する。

「麻酔維持」

・ MEP のモニタリングを併用する場合には、筋弛緩薬は導入時のみに

使用し、維持には使用しない。また、吸入麻酔薬は MEP の振幅を減

弱させるので、プロポフォールによる維持を行う。

・ 通常、プロポフォールの TCI とレミフェンタニルの投与で維持する。

・ 咳反射、体動、及び気管内チューブのトラブルは患者の死につなが

る。

・ 大量出血・著明な脳浮腫・調節呼吸を要する等の場合は、挿管した

まま帰室する。

・ 多くの場合は筋弛緩薬の作用をリバースして抜管する。

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発行元:麻酔科 2版 56/62

①脳動脈瘤・脳動静脈奇形

・ 人為的に高血圧としないことがもっとも重要。

・ クリッピングの際、低血圧麻酔が要求されることがある。

・ 脳動静脈奇形の場合、出血量が多い。

・ 脳圧亢進時の血圧上昇時の治療には十分な注意が必要。Cushing 反

射による高血圧の場合は下げると脳血流が減少し危険である。

②水頭症(V-P シャント)

・ 頭蓋内圧上昇患者の麻酔に準ずる。

・ 通常、動脈および中心静脈ラインは不要である。

③経鼻的下垂体腫瘍摘出術

・ 気管内チューブはらせんチューブを用い、固定位置をあらかじめ術

者に確認する。

・ 術野に大量にエピネフリンを使用するので不整脈の出現には注意

する。

14.TUR の麻酔

*経尿道的切除術の対象となる疾患(前立腺肥大、膀胱腫瘍等)は、高齢者

に多いということに注意しなくてはならない。

「TUR-P症候群」

・ 術中・術後合併症として、①還流液の血管内吸収、②出血、③膀胱

穿孔が挙げられる。

・ 静脈叢からの還流液の吸収による低 Na 血症:TUR-P症候群

・ 早期発見のために局所麻酔(麻酔高は T10 までで十分)がよい。

・ 初期症状:血圧上昇、心拍数増加、不穏

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発行元:麻酔科 2版 57/62

・ 呼吸回数増加、呼吸困難、Wheezing、Hypoxia、Hyponatremi

・ 中枢神経系:混迷、意識レベル低下、昏睡、等

*検査:疑ったら、血清ナトリウム濃度・ヘマトクリットを測る。

*治療:高張の生食液(3%)投与、利尿薬(フロセミド 10~20mg)

・ 還流液での洗い流しや排尿により、出血量の評価が難しい。特に、

心疾患を有する患者で注意。

・ 経尿道手術操作時、膀胱穿孔が起こりうる。この時、伝達麻酔であ

れば、患者は腹部膨満感、腹痛、嘔気を訴える。高血圧、頻脈が観

察され、引続き突然で激しい低血圧が起こる。

「閉鎖神経ブロック」

・ 膀胱腫瘍において、腫瘍部位が膀胱三角にある場合、電気的刺激が

膀胱後壁近くを通る閉鎖神経を刺激し大腿内転筋群の急激な収縮

を誘発する。その結果、膀胱穿孔に至ることがあり危険である。

・ 予防的処置として閉鎖神経ブロックを併用。

・ 用意;ポールブロック針、神経刺激装置、心電図電極、1%リドカ

イン、

15.腎移植の申し合わせ事項

*所定の手順書を参照のこと

「Donor」

・皮切から約1時間欠けてメチルプレドニゾロンナトリウム(注射用プリドー

ル1000)1000mg+生食 100ml〉を投与する。

・1000ml のアリメバッグに〈10%ブドウ糖液 500ml+生食 500ml+20%マンニ

トール 60ml〉の溶液を作り、尿管切断まで投与する。切断直前にラスト 300ml

を急速静注する。(指示がある)

・観血的動脈圧ライン、硬膜外カテーテルを挿入する。

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発行元:麻酔科 2版 58/62

「Recipient」

・投与すべき薬剤が多数あるため、指示書でタイミングと量を確認して投与す

る。

・ プログラフ(指示量)を生食で 50ml とし、帰室まで 2ml/h で投与する。

・ シムレクト バックテーブルで移植腎灌流開始時に投与。20mg を生食

100mlに溶解し、1時間で点滴静注する。

・プリドール 500mg+生食 500ml を移植腎に還流を始めた頃から約1時間か

けて投与する。

・移植腎の動脈縫合が始まる頃までに中心静脈圧が 8cmH2O 以上になるよう輸液

を負荷する。

・血流再開に向けて、ドーパミンを 3μg/kg/min で開始し、血圧を 160mmHg

以上に保つ。

・初尿確認後は、ヴィーン Fで負荷し、中心静脈圧、血圧を維持する。

・補液は PPF や FFP を適宜補充する。

・必要に応じてフロセミドを投与する。

・観血的動脈圧ライン、中心静脈圧ラインを挿入する。

16.術後鎮痛

・硬膜外カテーテルを挿入した場合には、術中より、ディスポの持続注入器を

接続して投与する。

・成人では、

上腹部:身長 150cm 以上:0.2%アナペイン 200ml+フェンタニル 6A4ml/hr

0.25%ポプスカイン 200ml+フェンタニル 6A4ml/hr

上腹部:身長 150cm 以下:0.2%アナペイン 100ml+フェンタニル 6A2ml/hr

0.25%ポプスカイン 100ml+フェンタニル 6A2ml/hr

下腹部:身長 150cm 以上:0.2%アナペイン 200ml+フェンタニル 6A4ml/hr

0.25%ポプスカイン 200ml+フェンタニル 6A4ml/hr

下腹部:身長 150cm 以下:0.2%アナペイン 100ml+フェンタニル 6A2ml/hr

0.25%ポプスカイン 100ml+フェンタニル 6A2ml/hr

フェンタニルは適宜量を調節する(投与しない場合もある)。

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・硬膜外カテーテルを挿入していない場合には、IV-PCA を用いて投与する。

(整形外科の脊椎の手術の場合には、病棟よりフェンタニルを持参するので設

定して接続して帰室する。)

・機械のものを使用する。

・成人では、

フェンタニル 10A+生食 40ml(+ドロレプタン 1ml)フェンタニル 20μg/ml

持続 2ml/hr、lockout20 分、bolus1ml、最大 1時間 100μg

17.CPR(心肺蘇生)

*麻酔中のNearArrestや心停止(心室細動または心静止)には以下のよ

うな原因があり、一般的な対処(CPR)の他に原因を除去する必要がある。

(1)心停止に至る主な原因と対処

① 脊髄クモ膜下麻酔・硬膜外麻酔下の(特に全身麻酔との併用時)血圧低下

・純酸素、輸液負荷

② 脊髄クモ膜下麻酔・硬膜外麻酔下の著しい徐脈(迷走神経反射による)

・純酸素によるマスク用手的換気:気道確保されていない時

・アトロピン;0.01~0.02mg/kg

・ボスミン;0.01mg/kg

③ 麻痺患者などにおける SCC の使用などによる高カリウム血症

・カルチコール、GI 療法

・10~15 分で高カリウム血症は元に戻るので CPR は継続する。

④ 大量出血(低容量性ショック)

・輸血、輸液

⑤ 心筋梗塞などに伴う不整脈(心源性ショック)

・ニトログリセリン;0.5~1.0μg/kg/min

・フェンタニルなどにより麻酔を深くする。

⑥冠動脈スパズム

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・ニトログリセリン;0.5~1.0μg/kg/min

・Ca 拮抗薬の投与

⑦空気塞栓、肺梗塞

・中心静脈ラインから空気を吸引

(2)心停止時の手順(NearArrestのときはこれに準ずる)

1)術者に告げ、手術操作を中止する。

2)麻酔医を集め、インチャージを呼ぶ。

3)純酸素で換気。挿管していないときはマスクベンチレーション。

4)心マッサージ80-100回/分

・開腹手術では横隔膜を挟むようにして心マッサージを行うよう指

示する。

・収縮期血圧が 60mmHg 以上になるように努める。

5)原因の除去

6)救急蘇生薬の投与(中心静脈内投与が望ましい)

・ 除細動(DC)を行う;200Jから開始

適応; VF,VT

・無効の場合は心マッサージを続けながらエピネフリン 1mg を 3 分

毎に投与し、くり返し除細動を行う。(200→300→360J)

・アトロピン;0.02mg/kg

再開した自己心拍が徐脈の場合に投与する。

18.局麻薬のアレルギー

「鑑別」

・本当に局麻薬自体によるものか疑わしいことが多い。

・過換気との鑑別が重要である。

・防腐薬(メチルパラベン)による事も多い。

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→静注用 2%リドカイン(防腐剤は入っていない)の皮内反応で検査する。

「皮内反応」

① 使用する局麻薬の 1/1000 希釈液をつけた針先を皮膚に刺す

② 使用する局麻薬の 1/1000 希釈で皮下注(0.1ml 膨疹)

③ 15 分観察。陰性なら非希釈液で皮下注(0.1ml 膨疹)

④ 15 分観察。陰性なら非希釈液で 2~4ml を皮内に注入

・アナフィラキシ-の人は、①~②の段階で反応がおこることが多い

・心肺蘇生の準備をして行うこと。

(蘇生薬、酸素、マスク、アンビューバッグ)

19.悪性高熱症

・サクシニルコリン、揮発性吸入麻酔薬で誘発される。

・斜視や進行性筋ジストロフィー症等のように CPK が高値を示す症例に本症が

起こりやすいといわれる。

・家族性に発症するため、悪性高熱症の家族歴の有無、血清 CPK 値をチェック

する。

「診断」

次の所見のうちいずれかを認めたら、悪性高熱症を疑う。

・ 説明のつかない頻脈

・ SCC 投与後の筋硬直(咬筋)

・ 説明のつかないチアノーゼ

・ 頻呼吸

・ 呼吸性アシドーシス、EtCO2 の上昇

・ 代謝性アシドーシス、高カリウム血症

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・ 体温上昇(15 分間で 0.5℃)

「治療」

・ インチャージに告げ応援を呼ぶ。

・ 吸入麻酔薬を中止する。

・ 純酸素で過換気にする。

・ ダントロレンの投与;1~2mg/kg

*総量 10mg/kg になるまで 5分毎に反復投与する。

(筋小胞体からのカルシウム放出を特異的に抑制)

・ できるかぎり早く手術を中止する。

・ アシドーシスの補正(重炭酸ナトリウム 2~4mEq/kg の投与)

・ 38℃を目安に患者の冷却(表面、胃、直腸、膀胱など)

・ 尿量の維持(マンニトール 25g、フロセミド 20mg、補液)

・ 血液ガス分析を行い、電解質を是正する。

・ 不整脈の治療をする。(カルシウム拮抗薬はダントロレンとの併

用により心停止の報告があるので、慎重投与)

・ 麻酔回路の交換を急ぐ必要はない。