糖尿病患者における動脈壁血管開口伝播速度に関す...

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緒  言 糖尿病の慢性合併症のうち,細小血管障害(micro- angiopathy)の対語として用いられる大血管障害 macroangiopathy)とは動脈硬化そのものであり,こ れによる脳血管や冠動脈病変が,わが国の糖尿病患者 の死因の第一位を占めている。さらに 2 型糖尿病の前 段階ともいえる耐糖能障害(impaired glucose tolerance; IGT)の時期より,すでに冠血管疾患の発症率が高い ことも報告されている 1。すなわち糖代謝障害の初期 段階から糖尿病に至る一連の病態においては,動脈硬 化の有無や進行度を正確に把握し適切に対処すること が急務である。 上腕動脈の動脈壁血管開口伝播速度(opening velocity, 以下 OV と略す)は,動脈の粘弾性を反映するもので あり 2,動脈硬化の一指標としての有用性が確立され つつある。すなわち OV とは,Riva-Rocci 法による非 観血的血圧測定を行う際に,カフ圧で圧閉されていた 動脈が収縮期血圧前後までカフ圧を減圧した時に,動 脈血流により中枢側から末梢側に向かって血管開口運 動が伝播する速度のことである。OV は,同一被験者 において測定条件に左右されることなく再現性は良好 であり,測定操作の簡便性など非侵襲的な動脈硬化の スクリーニング法として優れた特徴を有している 3筆者らは糖尿病における動脈硬化について,動脈の 509 67 聖マリアンナ医科大学 内科学教室(代謝・内分泌内科) (教授 齋藤宣彦) 原  著 聖マリアンナ医科大学雑誌 Vol. 29, pp.509 ~ 518, 2001 糖尿病患者における動脈壁血管開口伝播速度に関する研究 がわ ゆたか おお あき かわ 剛裕 たけひろ 齋藤 さいとう 宣彦 のぶひこ (受付:平成 13 10 22 日) 抄  録 糖尿病の慢性合併症の 1 つである動脈硬化症は,糖尿病患者の予後に直接大きな影響を及ぼし ている。一方,上腕動脈の動脈壁血管開口伝播速度(opening velocity; OV)は,動脈の粘弾性を 反映するとされ,OV の低下は動脈硬化の進行を示すと考えられている。そこで本研究では糖尿 病患者の OV を測定し,加齢の影響および糖尿病の罹病期間や HbA1c との関係を検討した。ま た,動脈硬化の指標である大動脈脈波速度(pulse wave velocity; PWV)や総頸動脈の内膜中膜肥 厚度(intima-media complex thickness; IMT)との関連性を調べた。さらに上腕動脈についても IMT を測定し,動脈壁の器質的変化による OV への影響を検討した。 糖尿病患者の OV は加齢とともに低下し,各年齢層において健常者に比し低値であった。しか し,OV と糖尿病の罹病期間や HbA1c とは関連性が認められなかった。また OV PWV と有意 な負の相関を認め,総頸動脈および上腕動脈ともに,IMT 異常群では OV が低下していた。 OV は,その良好な再現性や簡便性からも動脈硬化のスクリーニング検査として有用である。 さらに OV と上腕動脈の IMT を同時に測定することで,より早期の動脈硬化性変化を捉えられる 可能性がある。 索引用語 糖尿病,動脈硬化,血管粘弾性,内膜中膜肥厚度,動脈壁血管開口伝播速度

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緒  言

糖尿病の慢性合併症のうち,細小血管障害(micro-

angiopathy)の対語として用いられる大血管障害

(macroangiopathy)とは動脈硬化そのものであり,こ

れによる脳血管や冠動脈病変が,わが国の糖尿病患者

の死因の第一位を占めている。さらに 2型糖尿病の前

段階ともいえる耐糖能障害(impaired glucose tolerance;

IGT)の時期より,すでに冠血管疾患の発症率が高い

ことも報告されている 1)。すなわち糖代謝障害の初期

段階から糖尿病に至る一連の病態においては,動脈硬

化の有無や進行度を正確に把握し適切に対処すること

が急務である。

上腕動脈の動脈壁血管開口伝播速度(opening velocity,

以下 OVと略す)は,動脈の粘弾性を反映するもので

あり 2),動脈硬化の一指標としての有用性が確立され

つつある。すなわち OVとは,Riva-Rocci法による非

観血的血圧測定を行う際に,カフ圧で圧閉されていた

動脈が収縮期血圧前後までカフ圧を減圧した時に,動

脈血流により中枢側から末梢側に向かって血管開口運

動が伝播する速度のことである。OVは,同一被験者

において測定条件に左右されることなく再現性は良好

であり,測定操作の簡便性など非侵襲的な動脈硬化の

スクリーニング法として優れた特徴を有している 3)。

筆者らは糖尿病における動脈硬化について,動脈の

509

67

聖マリアンナ医科大学 内科学教室(代謝・内分泌内科)(教授 齋藤宣彦)

原  著 聖マリアンナ医科大学雑誌Vol. 29, pp.509 ~ 518, 2001

糖尿病患者における動脈壁血管開口伝播速度に関する研究

小お

川がわ

裕ゆたか

太おお

田た

明あき

雄お

川かわ

田た

剛裕たけひろ

齋藤さいとう

宣彦のぶひこ

(受付:平成 13年 10月 22日)

抄  録糖尿病の慢性合併症の 1つである動脈硬化症は,糖尿病患者の予後に直接大きな影響を及ぼし

ている。一方,上腕動脈の動脈壁血管開口伝播速度(opening velocity; OV)は,動脈の粘弾性を反映するとされ,OVの低下は動脈硬化の進行を示すと考えられている。そこで本研究では糖尿病患者の OVを測定し,加齢の影響および糖尿病の罹病期間や HbA1cとの関係を検討した。また,動脈硬化の指標である大動脈脈波速度(pulse wave velocity; PWV)や総頸動脈の内膜中膜肥厚度(intima-media complex thickness; IMT)との関連性を調べた。さらに上腕動脈についてもIMTを測定し,動脈壁の器質的変化による OVへの影響を検討した。糖尿病患者の OVは加齢とともに低下し,各年齢層において健常者に比し低値であった。しか

し,OVと糖尿病の罹病期間や HbA1cとは関連性が認められなかった。また OVは PWVと有意な負の相関を認め,総頸動脈および上腕動脈ともに,IMT異常群では OVが低下していた。

OVは,その良好な再現性や簡便性からも動脈硬化のスクリーニング検査として有用である。さらに OVと上腕動脈の IMTを同時に測定することで,より早期の動脈硬化性変化を捉えられる可能性がある。

索引用語糖尿病,動脈硬化,血管粘弾性,内膜中膜肥厚度,動脈壁血管開口伝播速度

粘弾性の視点から病態を解明することを目的として,

以下の検討を行った。すなわち糖尿病患者の OVを測

定し,糖尿病の罹病期間,HbA1c,および 3大合併症

などと OVとの関係について検討した。

また,動脈硬化の指標としてすでに確立されている

大動脈脈波速度(pulse wave velocity,以下 PWVと略

す)と総頸動脈の内膜中膜肥厚度( intima-media

complex thickness,以下 IMTと略す)を測定し,弾性

血管系の動脈硬化指標と OVとの関係も調べた。

さらに,上腕動脈における IMT(IMT of the brachial

artery,以下 bIMTと略す)の測定を試みた。すなわ

ち,動脈の器質的変化である IMTと,粘弾性という

機能的変化の指標である OVとを同部位にて評価する

ことにより,器質的変化が粘弾性に与える影響を検討

した。また,総頸動脈 IMT(IMT of the common carotid

artery,以下 cIMTと略す)や PWVとの関係も調べ,

bIMTの特徴や傾向についても検討した。

対象および方法

対象は 1997年 10月から 2000年 3月までに聖マリ

アンナ医科大学病院糖尿病センターに入院した 2型糖

尿病患者 134名(男性 67名: 平均年齢 54.0 ± 15.2歳,

女性 67名: 平均年齢 59.0 ± 10.7歳)である(Table 1)。

なお健常者における OVと加齢との関係についての報

告 3)によると,20歳を過ぎると OVは直線的に低下

するが,20歳未満では一定の傾向が認められないと

のデータがあるため 20歳未満の症例は対象から除外

した。

閉塞性動脈硬化症例,上肢の血圧に左右差を認める

症例および血清クレアチニン 1.5 mg/dl以上の腎障害

を有する症例や人工透析患者は対象から除外した。

PWVの測定には POLYGRAPH MIC-9400(フクダ

電子, 東京)を用い,安静臥位にて行った。

cIMTおよび bIMTの測定には,7.5 MHzの超音波

断層装置 SSA-380A(東芝, 東京)を用いた。cIMTは,

総頸動脈分岐部より頭側へ 1.5 cmから 2.5 cmの部位

で測定し,その評価には Salonenの分類 4)(Table 2)

を用いた。各々の症例を Salonenの 4つの Categoryに

分け検討するとともに,Category 2以上を 1群にまと

めて動脈硬化性病変のある cIMT異常(cIMT+)群と

し,Category 1を動脈硬化性病変のない cIMT正常

(cIMT–)群とする 2群にも分け検討した。bIMTの測

定は上腕の大胸筋縁と上腕骨の内側上顆とを結ぶ線の

中点における上腕動脈の IMTを測定した(Fig. 1A, B)。

両上腕とも測定したうえ,両側とも bIMTを認めない

群を bIMT陰性(bIMT–)群とし,左右いずれかで

bIMTを認める群(unilateral bIMT,以下 ubIMT+群と

略す)および両側とも bIMTを認める群(bilateral

bIMT,以下 bbIMT+群と略す)の 3群に分類し検討

した。さらに ubIMT+群と bbIMT+群をまとめて

bIMT+群とし,bIMT–群との 2群間でも検討を行っ

た。

血中ヘモグロビン A1c(以下 HbA1cと略す)は入院

時に採血し,ラピジオアート HbA1c(富士レビオ, 東

京)を使用しラテックス凝集法にて測定した。

OVとその他の連続変数との相関関係の証明には

Pearson's correlation coefficientを用い,危険率 5%以下

をもって有意差ありとした。2群間の有意差の証明に

は Student's t-testを,独立性の証明には Chi-square test

小川裕 太田明雄 ら510

68

Table 1 Clinical profiles of subjects

Table 2 Classification of the intima-media complex thick-ness (IMT) of the common carotid arteries (Salonen's clas-sification)

を用い,各々危険率 5%以下をもって有意差ありとし

た。

OVは,BIMS-V(マクター, 東京)を用い,上腕動

脈にて測定した(Fig. 2)。この測定装置は,上腕に装

着するマンシェットと計測器の本体より構成されてい

る。マンシェットのサイズは,日常用いられている上

腕血圧測定用のマンシェットで,内部には波形検出用

圧変位センサーが内蔵されている。本体は,このマン

シェットを加圧するコンプレッサーと,圧変位セン

サーからの情報を解析するコンピューターとを一体化

させたものである。マンシェットに内蔵された圧変位

センサーは一本が 5 mm × 50 mmの高分子圧電素子で

あり,長さ方向に素子が弯曲されると変形の内部歪の

総和に比例した電位を発生する。マンシェット内には

このセンサーが 2本内蔵されており,中枢側と末梢側

に 80 mmの間隔で平行に取り付けられている。上腕

にこのマンシェットを装着することにより,2本の圧

変位センサーは上腕動脈と直交する。

OVの測定原理は,まずカフ圧を収縮期圧以上に上

げると,マンシェットで巻かれた上腕動脈は完全に圧

閉され,中枢側の圧変位センサー(Sp点)でのみ圧

波形が検出される(Fig. 3A)。この時点で末梢側の圧

変位センサー(Sd点)では波形は検出されていない。

その後カフ圧を徐々に下げ収縮期圧前後になると末梢

側の Sd 点でも圧波形が検出されるようになる

(Fig. 3B)。この血管開口運動が伝播する速度を動脈

糖尿病患者における動脈壁血管開口伝播速度 511

69

Fig. 1A Method for measurement of intima-media complexthickness of the brachial artery.

Fig. 1B Intima-media complex thickness of the brachialartery was defined as a distance between the intimal-luminalinterface and the medial-adventitial interface in the brachialarteries.

Fig. 2 BIMS-V: This apparatus can measure the openingvelocity.

Fig. 3 The principle of opening velocity (OV). The upperfigure is a longitudinal section of the brachium and thelower is a wave form of OV. A: The point where the pres-sure on the manchette is greature that systolic pressure. B:The point where the pressure is near to the systolic pres-sure. T: The time of the opening propagation. Sp: Sensingpoint of proximal side. Sd: Sensing point of distal side.

壁血管開口伝播速度(OV)と呼び,センサー素子間

隔(80 mm)をその伝播時間(second; s)で除し OV

(m/s)が算出される 5)。

OVは成人健常者では加齢とともに低下し,同一被

験者では同時再現性(r=0.99, p<0.001)および日差再

現性(r=0.98, p<0.001)ともに良好なことが報告され

ている 3)。また,血圧や心拍数などの変化にも影響さ

れず 6),左右差や体位,上腕の筋緊張負荷でも測定値

は干渉されないことが証明されている。その測定が,

現在汎用されている非観血的自動血圧測定器と同程度

の簡便性を有することもあり,OV測定は非侵襲的な

動脈硬化のスクリーニングとして有用とされている。

結  果

1. OVの男女差および年齢との関係

OVの平均値は,男性 0.56 ± 0.15m/s,女性 0.53 ±

0.15 m/s(全症例 0.54 ± 0.15 m/s)と,男女間では有意

差を認めなかった。

年齢との関係では,男女とも有意な負の相関(全症

例群 r= –0.40, p<0.0001,男性群 r= –0.42, p<0.0005,女

性群 r= –0.36,p<0.005)が認められ,OVは加齢に伴

い低下した(Fig. 4A)。これをすでに報告されてい

る,OVの年齢別正常基準値 7)と比較すると,糖尿病

症例では健常者に比し OVは低値な傾向にあり,若年

であるほどその差が大きかった(Fig. 4B)。

2. OVと糖尿病の各指標

1) OVと糖尿病罹病期間との関係

OVと糖尿病罹病期間との間に有意な関係は認めら

れなかった。また,年齢群別に 20歳から 39歳,40

歳から 59歳,60歳以上の 3群に分けて検討を試みた

が各々有意な関係は認められなかった。

2) OVと血糖コントロール状態(HbA1c)との関係

OVと HbA1cとの間にも有意な関係は認められな

かった。前述のごとく年齢により 3群に分けての検討

でも特記すべき関係は認められなかった。

3) OVと糖尿病合併症との関係

OVと網膜症,腎症,神経障害の 3大合併症のいず

れをも有しない群と,いずれかを有する群との間にお

ける検討でも有意な関係は認められなかった。3大合

小川裕 太田明雄 ら512

70

Fig. 4A Relationship between opening velocity and age indiabetic patients.

Fig. 4B Comparison of opening velocity and age of thecases in each group. The regression line of OV: diabetes(solid line) between normal range of OV8) and arterioscleroticdisease19).

Fig. 5 Relationship between opening velocity and PWV.

併症のうち 2つ以上の合併症を有する群との間でも検

討したが有意差は認められなかった。また,それらを

各年齢群別に分けた検討でも有意な関係は認められな

かった。

3. OVと PWVとの関係

OVと PWVとの間には,男女とも有意な負の相関

(r= –0.40, p<0.0001,男性群 r= –0.34, p<0.01,女性群

r= –0.41, p<0.001)を認めた(Fig. 5)。

4. bIMTの測定結果

bIMTは 47例について計測を行った。その結果,

上腕動脈内径の最小径 2.2 mm,最大径 6.5 mm,bIMT

の最大は 0.7 mmであった。なお,bIMTが測定器の

測定限界である 0.1 mm未満の症例を含んでいるた

め,平均値の算出は行わなかった。石灰化を伴うプ

ラークを認める症例はなかったが,1症例のみに超音

波上動脈壁のびまん性高輝度を伴う上腕動脈を認め,

単純エックス線写真では Mönckeberg型の動脈硬化の

像を呈していた。しかしこの症例は,腎機能障害が高

度である上に OVの測定上も有効な波形が得られな

かったため検討症例より除外した。

5. bIMTと PWVとの関係

bbIMT+群では bIMT–群に比し有意に PWVが高値

であった(p<0.05)。片側にのみ IMTを認める ubIMT+

群も,bbIMT+群に比し有意に PWVが低値であった

(p<0.03)(Fig. 6)。ubIMT+群と bbIMT+群を併せた

群である bIMT+群では bIMT–群との間に有意差は認

められなかった。

6. bIMTと cIMTとの関係

bbIMT+群では 75.0%が cIMTの異常を認め,bIMT–

群の cIMT異常率(31.6%)との間に有意差をもって

高率に cIMT異常が認められた(p<0.03)(Fig. 7)。

また,cIMTのうちプラーク病変を認める Category

3および 4を除外して検討した。Category 1では bIMT–

群が 60.9%を占め,bIMT+群の 39.1%に比し高率で

あった。逆に Category 2では bIMT+群が 70%を占め

た。また,bIMT–群では Category 2が占める割合は

17.6%に過ぎず,bIMT–群の 82.4%が cIMTの異常を

伴わなかった。

7. OVと bIMTおよび cIMTとの関係

OVと cIMTとの関係では,cIMT+群が –群に比し

有意に OVが低下していた(p<0.01)。また,Salonen

の Categoryで分けた 4群のうち,Category 2は Category

1に比し有意に OVが低下していた(p<0.01)。しか

しその他の群間では有意差は認められなかった

(Fig. 8)。

一方,OVの測定対象である上腕動脈の IMTとの

関係は,ubIMT+群,bbIMT+群ともに bIMT–群との

間に有意差は認められなかった。しかし,左右どちら

か一方でも bIMTを認める群である bIMT+群では,

bIMT–群に比し有意に OVの低下を認めた(p<0.03)

(Fig. 9)。

cIMT– 群における bIMT–群の OV の平均値は

糖尿病患者における動脈壁血管開口伝播速度 513

71

Fig. 6 Relationship between opening velocity and the IMTof the brachial artery (bIMT). bIMT–: without bilateralbIMT. ubIMT+: with unilateral bIMT. bbIMT+: withbilateral bIMT.

Fig. 7 Appearance ratio of abnormal IMT of the carotidartery (cIMT+) in the IMT of the brachial artery (bIMT).bIMT–: without bilateral bIMT (31.6%). ubIMT+: withunilateral bIMT (50.0%). bbIMT+:with bilateral bIMT(75.0%).

0.636 m/sで, cIMT+群および Category 2における

bIMT–群 の OVの 平 均 値 ( 平 均 0.475m/s, 平 均

0.443m/s)との間に有意差を認めた(p<0.01, p<0.03)。

更に cIMT–群においては,bIMT+群の OVの平均値

は 0.566 m/sと,有意差は認められなかったものの

bIMT–群に比し低下していた(Fig. 10)。

考  察

動脈硬化には多様な解釈があり,画一的な定義は未

だ存在せず,1つの検査法をもって動脈硬化を評価す

ることは極めて困難である。粥状硬化などの病理組織

学的変化,血管壁の肥厚や血管内腔の狭窄といった器

質的変化,硬固性および粘弾性に代表される機能的変

化,分子生物学的な発症メカニズムなど,動脈硬化の

病態や重症度は多方面より総合的に判断する必要があ

る。本研究では動脈の機能的変化の評価に OVを用

い,糖尿病の各指標との関係を調べるとともに,その

他の汎用されている動脈硬化の指標との関連性につい

ても検討した。OVは,カフ圧により圧閉された動脈

が,減圧に伴い収縮期血圧前後で動脈血流により中枢

側から末梢側に向かって血管が開口していくときの速

度であり,それには動脈壁の粘弾性が強く影響する。

OVが高値であれば血管開口運動が速く伝播し,その

血管は柔らかく,血管弾性が低いといえる。逆に,硬

く,血管弾性の高い血管では OVは低値となり,動脈

硬化の存在が推測される。

動脈は,その性質として弾性を示すが正確には粘弾

性体である。粘弾性とは弾性を持つ物質に加えた弾性

変形が,時間的に変化する粘性流動の重なりとして表

現される力学的性質である。動脈の粘弾性は心臓から

始まる循環機能の効率化を担っている。すなわち,ポ

ンプである心臓より拍出された血液は,その粘性およ

び末梢抵抗血管により進行方向の抵抗を受け,弾性血

管である動脈を拡張させる。この左室の収縮期に拡張

した動脈は,拡張期にその弾性的復元力により血液を

押し出す。このことにより間欠的なポンプからの拍出

が連続的な血流に変換され,血流の間欠性を軽減する

と同時に急激な血圧上昇を防ぎ,心臓の負担を軽くし

ている 8)。これが動脈の機能的特徴である。

弾性 elasticityと,硬固性 stiffnessとは通常は同義語

として用いられているが,必ずしも一致せず,両者は

小川裕 太田明雄 ら514

72

Fig. 8 Relationship between opening velocity and the IMTof the common carotid artery (cIMT). Salonen's category2–4 is abnormal IMT of the common carotid artery(cIMT+).

Fig. 9 Relationship between opening velocity and the IMTof the brachial artery (bIMT). bIMT–: without bilateralbIMT. ubIMT+: with unilateral bIMT. bbIMT+: withbilateral bIMT. bIMT+: with either unilateral or bilateralbIMT, that is to say ubIMT+ and bbIMT+.

Fig. 10 Relationship between opening velocity and theIMT of brachial artery (bIMT) in appearance of the IMT ofcarotid artery (cIMT). bIMT–: without bilateral bIMT.bIMT+: with either unilateral or bilateral bIMT that is tosay ubIMT+ and bbIMT+.

異なる概念である。硬固性とは,物体が外力(応力

stress)により変形(ひずみ strain)する程度であり,

硬固性の増加は伸展性(伸びの程度 distensibility)の

低下とも言い換えられる 9)。

動脈壁に関する伸展性の研究は,1880年 Roy10)が

動脈片の一端を固定し,他端に重りを吊るして伸びを

測定したものが最初である。しかし血管は力の加わる

方向により弾性率の異なる異方的な物体である上,長

軸方向の進展性の評価は臨床においては現実的でな

かった。1937年 Hallock and Benson11)は 10 cm程のヒ

ト大動脈の一端に栓をして生理食塩水を満たし,他端

より圧力を加えるモデルにより短軸方向の進展性につ

いて検討し,以後この方法は種々の血管伸展性の検討

に用いられてきた。

一方弾性とは,ある硬固性をもつ物体を外力により

変形させた後,外力を解き放った時にもとに戻る性質

をいい,一度変形を加えるともとに戻らない粘土のよ

うなものは硬固性は低く伸展性は高いが,弾性はゼロ

である 9)。しかし物体を変形させる外力の強さも影響

し,外力の小さい間ならば変形は外力に比例し

(Hookeの法則),弾性限界を超えると塑性 plasticity

を示す。

現在,血管弾性を評価する方法として臨床的に有用

性が最も確立しているものは PWVである。左室収縮

時に駆出された血液が,その血圧により大動脈壁に振

動を発生させ,この振動が媒体である大動脈壁を横波

として伝播する。これが大動脈脈波であり一定の弾性

を持つ物体を伝播する脈波は,Hookeの法則が成り立

つ範囲では弾性率が大きく,または密度が高いほど速

く伝わる。よって PWVは,硬固性の高い大動脈では

高値となり,動脈硬化が進展していることを意味する。

一般に血管弾性は加齢により増加するため PWVも加

齢により高値となる 9)。しかし PWVは血圧変動によ

り影響を受けることが知られている。動脈は粘弾性体

であり,PWVが血圧の変動に影響を受けるのは,動

脈を弾性体と見なすことに限界があることを示唆して

いる。また測定対象の大動脈全長における平均的な血

管弾性を評価できるが,局所の状態は捉えられな

い 12)13)。これに対し OVは動脈を粘弾性体としてい

るため,その測定原理より血圧による影響を除外し得

る。OVの測定に際しては,動脈壁に及ぶ血管内腔か

らの外力(収縮期血圧)と外側からの外力(カフ圧)

とが平衡しているため,血圧変動の影響を受けな

い 2)。OVの基本原理である血管開口運動は,単なる

弾性を表すのみではなく,粘弾性という動脈壁本来の

特性を強く反映すると考えられる。

OVと PWVとの関連性については,動脈硬化の危

険因子を有する群で検討された結果,負の相関がある

ことが報告されている 14)。本研究では糖尿病患者に

おいて両者の間に負の相関を認めた。弾性血管である

大動脈と筋性血管である上腕動脈との間で,動脈硬化

の進展に差異がある可能性はある。しかし弾性血管で

ある総頸動脈の IMTの進展は,心血管イベントの危

険性を増加させる 4)ことなど,弾性血管と筋性血管

である冠動脈との関係は多数報告されている。その測

定原理から大動脈の弾性度を表す PWVと,上腕動脈

における OVが相関を示したことは,OVの動脈壁機

能評価としての有用性をさらに強く支持するものであ

る。

和田らは OVと加齢について,健常者 1,058名を対

象に検討した 7)結果,OVは,20歳から 80歳までは

直線的に低下することが判明し,これを年齢別正常基

準値としている。本研究においても,OVは加齢とと

もに直線的に低下したが,健常者と比較すると低値で

あった。これは糖尿病が OVの低下に関与しているこ

とを示しており,若年期よりすでに OVの低下がある

ことが明らかになった。動脈硬化危険因子の合併率が

高くなる高齢者になるほど,健常者に比し,より OV

が低下することが予想されたが,OVに対する糖尿病

の影響は若年であるほど大きく,加齢とともに健常者

との差が小さくなった。本研究での OVの最低値は

0.28 m/sであった。和田らは OVの正常下限値を年齢

に限らず 0.35 m/sとしているが 7),本研究では症例条

件とは無関係に 0.28 m/sが OVの下限値だと考えられ

た。よって若年期より健常者に比し OVが低値である

糖尿病症例では,加齢による OVの低下率は小さく

なったと推察された。また,健常者と糖尿病患者の

OVと加齢との関係を示す回帰直線は,計算上 107.8

歳で交差し OVは 0.26 m/sとなり上記 OVの下限以下

である。糖尿病症例の回帰直線上,OVが正常下限の

0.35 m/sとなるのは 93.3歳に達することから,OVは

90歳以降の検討には適さないと考えられる。

動脈硬化の危険因子を有する群 14)や冠動脈有意狭

窄を有する群 15)における OVの加齢的変化も,直線

糖尿病患者における動脈壁血管開口伝播速度 515

73

的低下を示し健常者に比し低値であることが報告され

ているが,本研究における回帰直線は,動脈硬化の危

険因子を有する群と冠動脈有意狭窄を有する群の両回

帰直線と健常者回帰直線の間に位置した。これは健常

者から,糖尿病を発症し,さらには複数の動脈硬化危

険因子の合併や,臨床上問題となる器質的な動脈硬化

性病変の出現に至る動脈硬化進展の臨床経過と,OV

の低下が密接に関連していることを示唆している。同

一症例で検討すると,健常者における OVの経時的変

化は年齢別正常基準値に沿い低下したのに対し,経過

中に動脈硬化性疾患を発症した症例群では,40%が

年齢別正常基準値の –2 SD以下となっている 7)。こ

れらの結果から,経時的に OVを測定することが動脈

硬化性変化の進展をモニタリングできる可能性があ

る。

OVと糖尿病の各指標(糖尿病罹病期間,HbA1c,3

大合併症)との間には,関連性を見出せなかった。し

かしながら前述のように,糖尿病患者の OVは年齢別

正常基準値に比し若年期より低下していたことから,

糖尿病の存在が動脈の粘弾性の悪化に影響を与えてい

ることは確かである。すなわち糖尿病合併症がその慢

性的経過から発症するのに対し,動脈硬化ではすでに

若年期から糖尿病が促進因子としてかかわっているこ

とが示唆された。一方 HbA1cは,過去 1~ 2ヵ月間

の血糖コントロール状態を表すに過ぎず,数年以上の

長期的なコントロール状態の指標にはならない。

次に頸動脈硬化と OVとの関連について述べる。

cIMTは,虚血性脳血管障害あるいは心筋梗塞例にお

いては,その判別閾値を 1.1 mm以上とする報告が多

い。cIMTは加齢により生理的増加をきたすが,高血

圧や糖尿病などの動脈硬化危険因子を保有する群で

は,ほとんどが 0.8 mm以上であるという 16)。本研究

では 1.0 mm以上を Category 2とし病的肥厚とみなす

Salonenの分類を採用した。Category 2の群は動脈硬

化性変化のない Category 1の群に比し有意に OVが低

下しており,総頸動脈壁肥厚例では上腕動脈の粘弾性

も低下することが示唆された。しかし,有プラーク性

動脈硬化である Category 3および 4の群での OVは,

Category 1との間に関連がなかった。この結果から,

局所のプラーク形成や粥状硬化の存在は,動脈の硬固

性や粘弾性に直接影響を与えないものと考えられた。

動脈が加齢につれ伸展性を低下させる最も大きな原因

は,中膜の変化にある。加齢による中膜の肥厚は,内

膜に比し少ないが,平滑筋細胞はその数を減少させ,

萎縮や変性を起こし糖蛋白やコラーゲンなどの間質成

分に置き換わる。さらに弾性板はその層の数を減じ,

断裂や走行の乱れなどの変化が加齢と共に高度とな

る 17)18)。1970年谷川 19)は,Gore-Tejadaの粥状硬化

指数 20)を用いて動脈の伸展性との関係を検討した結

果,石灰化病変を含め粥状硬化の軽重による伸展率の

増減はみられず,明らかな相関関係は見出せなかった

ことを報告している。また,動脈硬化を粥状硬化のみ

に限っていえば,大動脈の硬化がその他の動脈に比し

早く発現する 21)。脳および心血管イベントを有する

症例においても,粥状硬化の頻度や程度は大動脈がそ

の他の動脈に比し明らかに高い 22)23)。これは,粥状

硬化が動脈の硬固性に関与しているとするならば,評

価の対象が大動脈である PWVと上腕動脈である OV

が,動脈硬化の早期より高い相関関係を示すことと矛

盾する。よって硬固性に関しては,内膜の変化やプ

ラークの関与はあっても小さなものであると考えられ

る。

一方上腕動脈壁の肥厚と OVとの関連については,

bIMTを認める群では,認めない群に比し有意な OV

の低下を認めた。これは OVの低下,すなわち血管粘

弾性の悪化が器質的変化と相関していることを示して

おり,上腕動脈においては,IMTが血管の粘弾性を

決定する重要な因子であるといえる。今回対象となっ

た症例の bIMTを観察する限り,プラークの存在は明

らかでなかった。典型的な粥状硬化を思わせる局所変

化はなく,同一症例における IMTは観察範囲内にお

いて比較的均一であった。一般臨床上も上肢に動脈硬

化性の閉塞病変を認めることは稀であることより,

bIMTは中膜の変化が主体であると考えられる。また

PWVについても bIMTと相関関係にあったことによ

り,上腕動脈における IMTの存在が全身の動脈硬化

の進展を反映している可能性がある。

bIMTを測定するにあたり基準値設定を試みた。し

かし,超音波断層装置の測定限度である 0.1 mm未満

の bIMTは実測できなかったため,平均値の算出は行

わなかった。0.1 mm未満の症例も含めた bIMTの有

無が OVおよび PWVと関連性を認めたことより,少

なくとも 0.1 mm以上の bIMTは病的と捉えてよいの

ではないかと考える。

小川裕 太田明雄 ら516

74

本研究では,上腕動脈に Mönckeberg型動脈硬化を

有する症例を 1例経験した。この症例では有効な OV

の波形が得られず,研究対象から除外したが,カフ圧

を最大にしても動脈を圧閉できなかった。Mönckeberg

型動脈硬化のような動脈中膜石灰化をきたしている症

例では,血管弾性が極端に悪化しており,OVの測定

限界を超えていると考えられる。

組織学的には上腕動脈と総頸動脈は,筋性血管と弾

性血管という差異があるが,動脈壁肥厚に関しては両

血管に同様に起こり得た。上腕動脈硬化を認めない群

では,31.6%に総頸動脈の内中膜肥厚を認めるに過ぎ

ないのに対し,両側の上腕動脈に内膜中膜肥厚を認め

る群では,75.0%に総頸動脈硬化が認められた。総頸

動脈硬化の陽性率は上腕動脈硬化の進展とともに増加

していた。また上腕動脈硬化のない群における OV

は,総頸動脈硬化のない群と比べ総頸動脈硬化を有す

る群が有意に低下しており,片側のみ上腕動脈硬化を

認める群における OVも,総頸動脈硬化のない群と比

べ総頸動脈硬化を有する群が低下していた。よって総

頸動脈硬化を認めれば OVの低下は著しく,OVが軽

度低下している時期より上腕動脈硬化が存在すること

が推察される。これらの結果より,総頸動脈硬化と比

較すれば上腕動脈硬化の存在の方が,動脈硬化の初期

段階を反映している可能性がある。

以上 OVは,言わば血管年齢ともいうべき総合的な

動脈硬化の進展性評価に適しており,その良好な再現

性や簡便性からもスクリーニング検査として有用であ

る。また,同様に非侵襲的な検査である bIMTと OV

を同時に測定することにより,上腕動脈において,よ

り早期の動脈硬化の評価が期待できる。

結  語

本研究では,動脈硬化性疾患の増悪因子である糖尿

病の動脈に対する影響を,粘弾性の変化という観点か

ら検討した。糖尿病患者の OVは加齢とともに低下

し,健常者の OVと比較すると低値であったことよ

り,糖尿病は動脈の粘弾性を悪化させていることが示

唆された。

また,OVは PWVや cIMTといった現在確立され

ている動脈硬化の指標との間にも,有意な関係が認め

られた。OVが血管粘弾性を反映する指標であるこ

と,またプラークの存在と OVが無関係であることか

ら動脈の粘弾性の低下は中膜の関与が主であることが

示唆された。さらに bIMTとも関連性が認められ,

OVと bIMTを同時に測定することで,より早期の動

脈硬化性変化を捉えられる可能性がある。

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小川裕 太田明雄 ら518

76

Abstract

Opening Velocity of Arterial Wall in Diabetic Patients

Yutaka Ogawa, Akio Ohta, Takehiro Kawata, and Nobuhiko Saito

Arteriosclerosis, a chronic complication of diabetes, has a profound and direct effect on the prognosis of

diabetic patients. The opening velocity (OV) of brachial arterial wall reflects arterial viscoelasticity and a lowered

OV indicates the progress of arteriosclerosis. In the present study, we measured the OV of diabetic patients to

examine the effect of aging and the relationship between the duration of diabetes and HbA1c. The association

between the pulse wave velocity (PWV) of the aorta and the intima-media complex thickness (IMT) of the

common carotid artery, both of which are indices of arteriosclerosis, was also examined. Moreover, the IMT of the

brachial artery was measured to examine the effect of organic changes of the arterial wall on OV.

The OV of diabetic patients decreased with aging and showed lower values than those of healthy adults in

each age groups. But the OV did not correlate with the duration of diabetes and HbA1c. OV had a significant nega-

tive correlation with PWV; the OVs of both the common carotid and brachial arteries were lower in the group with

abnormal IMTs.

Both repeatability and reproducibility of OV are excellent, and OV is a useful noninvasive method of evaluat-

ing arteriosclerosis. Moreover, it is suggested that early evaluation of arteriosclerotic change is possible by simul-

taneously measuring OV and IMT of the brachial artery. (St. Marianna Med. J., 29: 509-518, 2001)

Division of Metabolism and Endocrinology, Department of Internal Medicine (Director: Prof. Nobuhiko Saito)

St. Marianna University School of Medicine, 2-16-1 Sugao, Miyamae-ku, Kawasaki 216-8511, Japan