発症・進展抑制の 最前線 - dm-net.co.jp · で示され(図3)、さらにaccord...

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1 糖尿病網膜症 白内障 網膜色素 変性 緑内障 18.312.2その他 15.614.51991その他 網膜色素 変性 黄斑変性 緑内障 糖尿病網膜症 13.79.1 20.7 19.02006その他 黄斑変性 網膜色素 変性 緑内障 糖尿病網膜症 9.521.015.6201312.0──糖尿病患者さんの失明が減っているそうですが、 糖尿病網膜症は制圧されつつあるのでしょうか? 障害者手帳交付時の障害認定資料を元に、視覚障 害の原疾患を解析した報告があります。それによる と 1991 年は糖尿病網膜症が 18.3%を占め原疾患の 第 1 位でした。そのためその後、長らく「糖尿病は 成人の失明原因のトップ」と言われていましたが、 2006 年の報告では緑内障が 20.7%で 1 位になり、糖 尿病網膜症は 19.0%で2位に順位を下げました。そ して 2013 年には、順位は 2 位で変動ないものの原 疾患としての割合が15.6%と低下しています(図1)。 糖尿病の患者数が増大を続けている中で視覚障害 V o l . 5 N o . 3 2 0 1 3 図1 視覚障害の原疾患の推移 〔厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克 服研究事業『網膜脈絡膜・視神経萎縮症に 関する調査研究』の当該各年の報告書より〕 巻頭インタビュー 巻頭インタビュー 糖尿病網膜症 発症・進展抑制の最前線 長崎大学大学院医歯薬総合研究科眼科・視覚科学教室准教授 鈴間 潔 氏 ……………… DIABETES NEWS ……………………………………………………………………… 学会レポート 56回 日本腎臓学会学術総会 …………………………………………………… 56回 日本糖尿病学会年次学術集会 58回日本透析医学会学術集会・総会 CONTENTS 4 1 5 糖尿病網膜症 発症・進展抑制の 最前線 鈴間 潔長崎大学大学院医歯薬総合研究科眼科・視覚 科学教室准教授 1993年 京都大学医学部卒業。1998年 Joslin Diabetes Center, Harvard Medical School留学。 2001年 京都大学医学研究科 眼科学助手。 2006年 静岡県立総合病院眼 科長。 2008年 長崎大学医歯薬総合研究科 眼科・視覚科学教室講師、 2010年より現職。 糖尿病による失明が減少し、 低視力を回避するための 新たな治療戦略が求められている

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Page 1: 発症・進展抑制の 最前線 - dm-net.co.jp · で示され(図3)、さらにaccord eyeではスタ チンへの上乗せによる有意な網膜症進展抑制効果が

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糖尿病網膜症

白内障

網膜色素変性

緑内障

18.3%

12.2%

その他

15.6%

14.5%

1991年

その他

網膜色素変性

黄斑変性

緑内障

糖尿病網膜症

13.7%9.1%

20.7%

19.0%2006年

その他

黄斑変性 網膜色素変性

緑内障

糖尿病網膜症

9.5%

21.0%

15.6%2013年

12.0%──糖尿病患者さんの失明が減っているそうですが、糖尿病網膜症は制圧されつつあるのでしょうか? 障害者手帳交付時の障害認定資料を元に、視覚障害の原疾患を解析した報告があります。それによると 1991 年は糖尿病網膜症が 18.3%を占め原疾患の第 1 位でした。そのためその後、長らく「糖尿病は成人の失明原因のトップ」と言われていましたが、

2006 年の報告では緑内障が 20.7%で 1 位になり、糖尿病網膜症は 19.0%で2位に順位を下げました。そして 2013 年には、順位は 2 位で変動ないものの原疾患としての割合が 15.6%と低下しています(図1)。 糖尿病の患者数が増大を続けている中で視覚障害

Vol.5 No.3

2013

図1視覚障害の原疾患の推移〔厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業『網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究』の当該各年の報告書より〕

◆巻頭インタビュー

巻頭インタビュー

糖尿病網膜症発症・進展抑制の最前線長崎大学大学院医歯薬総合研究科眼科・視覚科学教室准教授 鈴間 潔 氏 ………………

DIABETES NEWS ………………………………………………………………………

学会レポート第56回日本腎臓学会学術総会 ……………………………………………………

第56回日本糖尿病学会年次学術集会第58回日本透析医学会学術集会・総会

CONTENTS

4

1

5

糖尿病網膜症発症・進展抑制の最前線

鈴間 潔氏長崎大学大学院医歯薬総合研究科眼科・視覚科学教室准教授

1993年 京都大学医学部卒業。 1998年 Joslin Diabetes Center, Harvard Medical School留学。 2001年 京都大学医学研究科眼科学助手。 2006年 静岡県立総合病院眼科長。 2008年 長崎大学医歯薬総合研究科眼科・視覚科学教室講師、 2010年より現職。

糖尿病による失明が減少し、低視力を回避するための新たな治療戦略が求められている

Page 2: 発症・進展抑制の 最前線 - dm-net.co.jp · で示され(図3)、さらにaccord eyeではスタ チンへの上乗せによる有意な網膜症進展抑制効果が

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血糖・血圧・脂質の内科的治療

網膜循環改善薬

レーザー光凝固術

抗VEGF薬 または ステロイド

心血管イベント? 内科でのリスク評価・管理

硝子体手術

低視力

循環障害

糖尿病発症

血管障害

単純網膜症自覚症状なし

増殖前網膜症自覚症状なし

増殖網膜症ほぼ自覚症状なし

黄斑浮腫視力低下

網膜剥離や硝子体出血視力低下・視野障害

失明

血管新生緑内障視野障害

線維柱帯切除術、抗VEGF薬 など

透過性亢進

者に占める糖尿病網膜症の割合が減少しているのは、やはり治療技術の向上が関係していると考えてよいのではないでしょうか。──眼科領域の進歩をお聞かせください。 診断においては、眼底を詳細に観察できる光干渉断層計(OCT)が、治療法の選択や治療効果の判定に威力を発揮しています。無散瞳超広角眼底カメラは、まだ精密眼底検査には及ばない点があるものの、広範囲の網膜を簡便に把握でき、今後、遠隔医療などでの普及が期待されます。 治療においては、網膜の負荷を軽減するとされる短時間レーザー光を自動照射するパターンスキャンレーザーが定着してきました。また硝子体手術については手術器具の改良や抗 VEGF 薬の術前投与によって、安全性が飛躍的に向上しました。浮腫再発抑制を期して行う内境界膜剥離も、黄斑への物理的負荷を抑えるために中心窩を残して剥離するといった改良法が提案されています。 病態解明という点では、眼底所見に変化が現れるよりも前の段階で起こる血管周皮細胞の脱落による血流調節能低下や、シェアストレス等による血管や網膜への物理的刺激の影響、酸化ストレスや AGE、PKC の関与などの基礎的研究が進んでいます。 ──最近、抗VEGF薬が話題ですね。 糖尿病網膜症の発症・進展機序のすべてが解明されたわけではありませんが、病態の主座が細小血管障害であることは間違いありません。血管透過性亢進により網膜の浮腫を生じ、血管閉塞による虚血が新生血管を招来し網膜剥離につながります(図2)。

VEGF は血管透過性と血管新生の双方を促す強力な因子ですから、それを阻害することは理に適っていて、実際、黄斑浮腫の改善や新生血管の制御に効果をあげています。国内でもまもなく糖尿病眼への適応をもつ薬剤が使用可能となる見込みです。なお、ステロイドにもほぼ同様の効果を期待できます。ただし副作用の緑内障や白内障に注意が必要です。 このような治療の進歩により、確かに視覚障害者数は減ってきました。しかし、失明は免れても低視力のため生活に不自由したり、自身でのインスリン注射や血糖測定が困難な方は少なくないと考えられます。そういった視機能低下の予防・改善に向けた治療戦略の構築が今、求められています。──失明を防ぐ治療と視機能低下を防ぐ治療には、どのような違いがあるのでしょうか? 治療目標を失明防止に置くなら網膜の虚血が生じてからでも何とか目的を達成できるかもしれません。しかし、高い視機能を維持するには、より早い段階からの介入が必要です。その理由は、早期介入したほうが治療効果が確実だということのほかに、これまで失明防止に大きな成果をあげてきたレーザー光凝固術や硝子体手術が、視機能維持という観点では、その侵襲性が問題になるためです。 例えばレーザー光凝固術が黄斑浮腫を惹起することがあります。また硝子体手術の安全性が向上したとはいえ適応は慎重に判断すべきですし、術後に抗VEGF 薬等の投与が必要になったとき、薬剤が眼球内にとどまりにくく効果が減弱してしまうという欠点もあります。抗VEGF薬の効果が画期的とは言っ

図2糖尿病に伴う視覚障害の進行過程とステージ別介入法(監修:鈴間潔氏)

OCT : optical coherence tomography VEGF : vascular endothelial growth factorAGE : advanced glycation end products PKC : protein kinase C

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図3 FIELDにおける糖尿病網膜症レーザー治療の減少〔Lancet, 370(9600); 1687�1697, 2007〕

全網膜症相対リスク低下率(%)

対象:プラセボ群4,900例、フェノフィブラート群4,895例   Log-rank解析(対プラセボ)

0

p=0.0002

-31% -31% -30%

-39%p=0.002 p=0.015

p=0.0008

-10

-20

-30

-40

-50

黄斑症 増殖網膜症網膜症既往のない症例

図4ACCORD─Eyeにおける糖尿病網膜症の進行抑制〔N Engl J Med 363(3); 233�244, 2010〕

ロジスティック回帰分析調整オッズ比 0.60p=0.006NNT=27

相対リスク40%低下

シンバスタチン +プラセボ(787例)

シンバスタチン +フェノフィブラート(806例)

糖尿病網膜症が進行した頻度(%)

0

5

10

10.2%(80例)

6.5%(52例)

ても、病勢制御のため繰り返し投与が必要なことが多く、投与回数に応じて眼内炎などの危険性が高まりますし、患者さんの経済的負担も無視できません。ですから、それら負担の大きな治療をなるべく回避する努力が必要になってきます。

──では、「早期からの予防的治療」とは具体的にはどのような治療なのでしょうか? やはり内科的治療が鍵を握ります。眼科に患者さんが紹介されてくるときは既に眼科的な処置が必要な段階であり、効果的な予防的介入の時機を逸していることが多いからです。 具体的な介入方法としては、近年、網膜症の発症・進展抑制因子として、血糖管理以外の可能性を示唆する研究が相次いで報告されています。一例を挙げると、脂質低下薬のフェノフィブラートは黄斑症や網膜症に対するレーザー光凝固術の必要性を対プラセボ比で 3 ~ 4 割有意に減少させることが FIELDで示され(図3)、さらに ACCORD� Eye ではスタチンへの上乗せによる有意な網膜症進展抑制効果が示されています(図4)。フェノフィブラート以外でも、RA 系抑制薬など降圧薬の網膜症抑制効果も報告されています。──フェノフィブラートの網膜症発症・進展抑制効果は、脂質改善を介するものでしょうか? 脂質も血管障害の主要なファクターですから、その関与も考えられますが、私はフェノフィブラートの AMPK を介した eNOS の活性化が細小血管の循環を改善し網膜保護的に働いていると考えています。またフェノフィブラートの主要な作用標的であるPPARαは網膜にも発現していますので、局所での直接的作用も考えられます。 これらの作用はレーザー光凝固術や硝子体手術のような即効性は低く、早期から継続的に使うことで効果を発揮するものです。そういった面からも眼科医としては、網膜症の予防的治療にぜひ考慮したいところです。しかし眼科医が脂質低下薬を使いこなすのは荷が重いのも事実です。それだからこそ内科の先生方に、脂質異常症を併発している糖尿病患者さんに対し複数の大規模スタディでエビデンスが示されている薬剤を優先して選択していただきたいと考えています。

──内科と眼科の連携が重要になりそうですね。 先日、日本糖尿病学会から新しい血糖管理目標が発表されました。それによると、低血糖等のため治療強化が困難な場合の血糖管理目標を HbA1c

(NGSP) 8%未満としています。HbA1c 8%未満という値は、従来の治療ではいずれ網膜症が発症・進展してしまうレベルです。血糖の管理を甘くせざるを得ないのであれば、脂質や血圧など血糖以外の内科的管理をできる限り徹底していただきたいところです。それでも発症・進行してしまう網膜症に対しては眼科医がベストを尽くすことになります。 内科 � 眼科の診療連携が重要であることは古くから指摘されていたことですが、その重要性はさらに増していくと言えるでしょう。抗VEGF薬の臨床応用もそれに拍車をかけています。抗VEGF薬はその作用機序から、脳や心臓などの虚血を助長する可能性を完全には否定できないからです。 われわれ眼科医は、抗 VEGF を使う前に、その患者さんの心血管イベントリスクがどのくらい高いのかを知りたいところです。もしリスクが高いのであれば、抗 VEGF 薬でなくステロイドを選択するなど

FIELD : fenofibrate intervention & event lowering in diabetes ACCORD : action to control cardiovascular risk in diabetesAMPK : AMP-activated protein kinase eNOS : endothelial nitric oxide synthasePPAR : peroxisome proliferator-activated receptor

新たな治療戦略のポイントは早期からの内科的・予防的介入と、内科-眼科の情報共有

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図5日本糖尿病眼学会が発行している  『糖尿病眼手帳』

表1精密眼底検査の目安(糖尿病眼手帳より)病 期 頻度の目安

網膜症なし 6か月~1年に1回単純網膜症 3~6か月に1回増殖前網膜症 1~2か月に1回増殖網膜症 2週間~1か月に1回

 肥満糖尿病への生活習慣介入では心血管イベントは減らないとのRCT の結果が NEJM 誌電子版に報告された。BMI25 以上の 2 型糖尿病患者を摂取エネルギー量1,200 ~ 1,800kcal/ 日、週 175分以上の運動を課す介入群と、食事や運動に関する情報提供を行う対照群に群分け。観察期間中央値9.6 年で介入群の体重減少幅は有意に大きく、HbA1c 等、LDL� C以外の危険因子が改善していたが、心血管死、非致死性心筋梗塞・脳卒中、狭心症による入院の複合イベントに有意差はなかった。

 重症低血糖が心血管疾患リスク上昇と相関するとの論文が BMJ誌電子版に掲載された。国立国際医療研究センター糖尿病研究部のグループによる6件の研究のメタ解析の結果。解析対象患者数は合計 903,510 人で、重症低血糖は0.6 ~ 5.8%の頻度で発生していた。重症低血糖による心血管疾患発症の相対リスクは 2.05 倍(95% CI:1.74-2.42)で、有意な関連が認められた。心血管疾患の予防には重症低血糖を起こさない血糖管理が有効である可能性を示唆している。

 日本高血圧学会は5年ぶりに改訂を予定している『高血圧治療ガイドライン 2014』の原案を公表し、パブリックコメントを募集した(8月末で公表終了)。原案では、若年・中年・前期高齢者の降圧目標を140/90mmHg未満とするなど現行ガイドラインよりやや緩和されているが、糖尿病や CKD 患者(蛋白尿陽性)については現行どおり130/80mmHg未満と設定している。また家庭血圧をより重視し、診察室血圧との間に差がある場合は

「家庭血圧による診断を優先する」との記述も追加されている。

の対応が可能です。逆に、われわれ眼科医がある患者さんに抗 VEGF 薬を使ったのであれば、それを内科の先生に伝える責任があるかもしれません。『糖尿病眼手帳』(図5)を用いるなどで、その辺りの情報交換を徹底していくことが望まれます。──最後に、眼科医の立場で内科医に伝えたいことがあればお願いします。 一点は、患者さんの視力を確認していただきたいということです。もちろん、日常診療で正確な視力を測定することは、時間的にも設備的にも困難だと思いますが、近見視力(距離 30cm における視力)の検査表を手元に置いておけば、短時間で大まかな視力を把握できます。その際、基本的なことですが、片眼ずつ測ることを忘れないでください。患者さんにも、ふだんから物の見え方に左右で差がないか、ご自身でチェックするように伝えてください。黄斑浮腫などによる視力低下などは、それだけでかなり早期発見できるのではないかと思います。 あともう一点は、繰り返しになりますが、糖尿病の診断後、早期から内科医と眼科医が連携して管理していく体制をともに推進していくべきだということです。眼底カメラを使いご自身で眼底を見られる内科の先生もいらっしゃいますが、網膜症のより的確な診断・管理は、やはり眼科医のほうが確実だと思います。前記の『糖尿病眼手帳』に記載されてい

る精密眼底検査の頻度(表1)などを参考に、適宜、患者さんを眼科に紹介していただき、両者で管理していくことが、患者さんの視機能維持に結び付くと考えています。

◆巻頭インタビュー

DIABETES NEWS肥満糖尿病への生活習慣介入、心血管イベントを減らさず

重症低血糖と心血管病リスクの関連がメタ解析で示される

高血圧治療GL改訂原案、糖尿病患者の管理目標は据置き

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 糖尿病にみられる腎病変は糖尿病性糸球体硬化症(DGS)であり、治療は対症療法が主体となる。しかし治療可能な非糖尿病性腎疾患

(NDRD)と DGS が併存することもあり、腎生検による正確な診断が予後改善につながることも少なくない。ただし腎生検にはリスクを伴うため、施行対象の絞り込みが必要となる。 福岡大学病院腎臓・膠原病内科の伊

藤とう

建けん

二じ

氏らは、糖尿病腎症患者から NDRD を抽出するための予測因子を検出し、その有用性を検証した。対象は同科患者のうちNDRD が疑われる①糖尿病罹病期間が 10 年未満、②糖尿病網膜症がない、③血清クレアチニンや尿蛋白の急激な増加、④血尿(沈渣RBC ≧ 5/HPF)のいずれかが該当し、検査の同意が得られた 39 名

(平均年齢 54.7 歳、男性 27 名、糖尿病罹病期間 8.5 年、HbA1c 6.4%、血清クレアチニン 1.0mg/dL、尿蛋白 4.2g/ 日)。 腎生検の結果、39 名中 23 名がNDRD(IgA腎症、微小変化型ネフローゼ症候群、ANCA関連腎炎など)がありと診断され、うち8名はNDRDとDGSの併発、15名はNDRDのみと診断された。多重ロジスティック回帰分析により NDRD を予測する有意な因子として、糖尿病罹病期間< 10 年、蛋白尿< 3.5g/ 日、急激な腎障害・ネフローゼの 3 項目が抽出され、このうち2項目が該当する場合、感度 65.2%、特異

 貧血・腎機能障害のある糖尿病腎症患者に対する貧血治療により血糖改善などの副次的効果が現れる可能性を、名古屋第二赤十字病院糖尿病・内分泌内科の佐

藤とう

哲てつ

彦ひこ

氏らが報告した。検討対象は、軽度の貧血(Hb9.5 以上 11g/dL 未満)があり、消化管出血など明らかな他疾患による貧血を除外した21 名の比較的高齢の糖尿病患者

(77.5±1.8歳、男性8名、eGFR30.3

度 93.8%と比較的良好な予測能で、積極的に腎生検をすべき症例の抽出に役立つ基準と考えられた。

 東急病院糖尿病内科の林はやし

俊とし

行ゆき

氏らは、24 時間自由行動下血圧測定(ABPM)の結果と脂質代謝異常との関係を詳細に検討し、2 型糖尿病患者で多くみられる血圧日内変動異常とTG richリポ蛋白やMDA� LDL の増加が相関することを報告した。対象は同院または昭和大学病院の入院 2 型糖尿病患者133 名(年齢 61±14 歳、HbA1c9.6 ± 2.2%。脂質低下薬使用例は除外)。ABPM によりディッパー型33名、ノンディッパー型69名、ラ

± 1.6mL/ 分 /1.73m2 、トランスフェリン飽和度 24.6 ± 3.1%、フェリチン 105 ± 19.8ng/mL、EPO濃度 2.1 ~ 22.8U/mL)で、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)と鉄剤を3カ月間投与。ESAは2週間ごとの Hb 値により投与量を調整、鉄剤は 50 ~ 100mg を継続した。 3カ月後、全例がHb11.5~12.5g/dL へ改善。その間、HbA1c はほぼ一定だったがグリコアルブミン

(GA)は有意性 p=0.05 と境界値ながら改善傾向を示した。このほか歩行可能距離の延長、大腿周囲長の増加、行動意欲や認知度の上昇も認められた。試験期間中、糖尿病治療は変更しなかったにもかかわらず GA が低下傾向にあった点について同氏は、貧血治療による運動耐容能の上昇が血糖改善につながったのではないかと考察。

「より大規模な前向き介入試験の可能性を探りたい」と述べた。

イザー型 31 名の 3 群に分類。各群の臨床指標を比較すると、HbA1cや空腹時血糖、血清クレアチニン値に有意差はなく、eGFR はディッパー、ノンディッパー、ライザーの順に低く、ディッパー群とライザー群は有意差があった。心電図 R� R 間隔変動係数(CVR� R)も有意に至らないものの同順に低下する傾向があり、自律神経障害の影響が示唆された。 脂質関連指標では、LDL� C は有意な群間差がなかった。しかし、ノンディッパー群のHDL�Cとapo A1 がライザー群に比して有意に低下しているとともに、RLP � Cは有意に上昇しておりTG richリ

糖尿病患者における、非糖尿病性腎疾患の予測因子の検討

一般演題(口演)

2型糖尿病患者における24時間血圧変動パターンと脂質代謝異常の関連

一般演題(口演)

糖尿病に併発する腎臓機能障害を有する患者に対するエリスロポエチン製剤投与と糖尿病治療相乗効果

一般演題(口演)

【2013年5月10日~12日・東京】総会長  : 順天堂大学大学院医学研究科腎臓内科学教授  富野康日己氏

第56回日本腎臓学会学術総会

【2013年5月16日~18日・熊本】会長  : 熊本大学大学院生命科学研究部代謝内科学分野教授  荒木栄一氏

第56回日本糖尿病学会年次学術集会

DGS:diabetic glomerulosclerosis NDRD:non-diabetic renal diseases ANCA:anti-neutrophil cytoplasmic antibodyABPM:ambulatory blood pressure monitoring MDA-LDL:malonyldialdehyde low density lipoproteinRLP-C:remnant-like particle cholesterol AF:auto fluorescence

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 終末糖化産物(AGE)は糖尿病合併症の原因の一つとされているが、透析患者では糖尿病の有無にかかわらず AGE が高値であることが報告されている。ただし血清AGE 濃度が必ずしも組織の AGE蓄積程度を反映していないとも言われている。一方、皮膚に紫外線を照射し AGE の自然蛍光を評価した値(スキン AF 値)は、皮膚生検による測定結果との相関が確認されており、白色人種では生命予後予測因子の一つとの報告もある。福島県立医科大学腎臓高血圧・糖尿病内分泌代謝内科の木

村むら

浩ひろし

 日本人で ABI 値異常が心血管イベントや全死亡に与える影響は未だ明らかでないため、自由が丘横山内科クリニック院長の横

よこ

山やま

宏ひろ

樹き

氏は同院で行っている初診時全患者の ABI 施行データを解析し発表した。解析対象は 3,004 名(59± 12 歳、糖尿病 86%)で、ABI0.9未満の異常群が 127 名(4.2%)、0.9以上の正常群が 2,877 名(95.8%)。観察開始時点の患者背景を、年齢、性別、BMI、喫煙で補正した上で比較すると、ABI 異常群は、糖尿病の割合、HbA1c、拡張期血圧、

 nonHDL� C 値は食事に影響されないため、空腹時採血が現実的でない慢性血液透析(HD)患者の脂質管理指標に適しているが、HD 患者において nonHDL � C が心血管死の有用な予測因子になり得るかは十分に検討されていない。東和病院腎臓内科の越

えち

田だ

善よし

久ひさ

氏らは HD 患者 259 名(61.3±11.9 歳、男性 63.7%、糖尿病 23.9%。30 歳未満または 90 歳以上、透析歴 6 年未満、心血管疾患の既往、感染症・悪性腫瘍患者は除外)を 5 年半追跡。追跡期間中に 44 名が死亡し、うち 33 名が心血管死だった。 心血管死の有意な予測因子として、単変量解析では高齢、糖尿病、透析歴、収縮期血圧高値、アルブミン低値、nonHDL� C 高値が挙げられ、多変量解析では高齢、糖尿病と、TC 高値、TG 高値、nonHDL� C 高値が抽出された。nonHDL� C 90mg/dL 以下、91~115mg/dL、116mg/dL 以上の 3 群に分けてカプランマイヤー生存曲線を描くと、nonHDL� C 116mg/dL 以上の群は他の 2 群に比して生存予後が有意に不良だった(p=0.0165)。これより、同氏は「ガイドラインで二次予防の目標とされている 130mg/dL 未満よりさらに厳格な管理が必要かもしれない」と述べる一方、低すぎるコレステロール値は低栄養を反映している可能性もあることから「心血管死以外の予後規定因子が今後の検討課題」とまとめた。

氏らは、皮膚反射率の低い黄色人種の日本人でもこの測定法が有用かを検討した。 維持透析患者 128 名(65.1 ±11.6 歳、男性 59 名、透析歴中央値4.0 年、糖尿病 34.3%。皮膚反射率が 10%未満の症例は除外)を平均5.5 年追跡。追跡期間中に 19 名が心血管死に至り、心血管死に至らなかった群との比較において、高齢、心血管病の既往、アルブミン低値、CRP 高値、スキン AF 高値が有意な予測因子だった。ROC曲線により心血管死に対するスキンAF のカットオフ値は 2.58 と求められ、これを基準に対象を 2 群に分けてカプランマイヤー曲線を描くと、2.58 未満の群は心血管死が有意に多かった(p=0.02)。Cox

脈圧、LDL� C、TG、尿酸値が高値、HDL� C、eGFR が低値であり、それぞれ群間に有意差がみられた。 全死亡、心血管死、心血管イベント、全死亡+心血管イベントをエンドポイントとして、観察期間

(平均 3.9±2.9 年)中の発生率を比較すると、すべてのエンドポイントにおいて ABI 異常群が有意に高く、補正項目を前記 4 項目に糖尿病、高血圧、脂質異常、eGFR、CVD の既往を加えてもなお有意に高かった。多変量解析により、70 歳以上(HR 3.11)、ABI 0.9 未満(同 2.52)、糖尿病(2.41)、CVD既往(1.87)、喫煙(1.42)が、全死亡+心血管イベントの有意な予測因子だった。日本人においてもABI 異常は重要な予後予測因子であると言える。

ポ蛋白の増加が示された。他方、ライザー群は他の 2 群に比し MDA� LDL が有意に増加していた。

比例ハザードモデルによる解析では、アルブミン低値、CRP 高値、スキン AF 高値が、心血管死の独立した予測因子だった。

ABI異常者の死亡、心血管イベントへ及ぼす影響

一般演題(口演)

血液透析患者におけるnonHDL–Cと心血管死亡の関係

一般演題(口演)

皮膚AGE蓄積は慢性血液透析患者の心血管死を予測する

一般演題(口演)

【2013年6月20日~23日・福岡】会長  : 日本赤十字社福岡赤十字病院副院長  平方秀樹氏

第58回日本透析医学会学術集会・総会

SEASONAL POST監修・企画協力:糖尿病治療研究会 提供:科研製薬株式会社 企画・編集・発行:糖尿病ネットワーク編集部(創新社) 2013年9月作成

LIP60-13I-12-SO1

シーズナルポスト Vol.5 No.3 2013年9月20日発行