天然ガスから液体燃料を製造する(gtl 技術) 先...
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
作成日: 2013/4/2
調査部: 伊原 賢
公開可
天然ガスから液体燃料を製造する(GTL技術)
- 先行GTLとの比較~天然ガス以外からの液体燃料技術 -
(JOGMEC調査部・総務部、日刊工業新聞社)
天然ガスに関わる企業は、ガスタービン・コンバインドサイクル発電やシェールガス開発といったように
発電や資源の分野で攻勢を強めていくことが予想されるが、天然ガスの利用法はなにも火力発電だけ
ではない。
本資料では、天然ガスの発電以外の利用法として、有望と思われる「GTL: Gas To Liquids」の動きに
ついて、「先行他社GTLとの比較」から「天然ガス以外からの液体燃料技術」までを解説する。
1. はじめに
21世紀に入って、脚光を浴びるようになった「シェールガスによる天然ガスの大供給余力」を背景に、
天然ガスの利用技術の普及が望まれている。
水平坑井(こうせい)や水圧破砕といった技術の飛躍的な進歩により、シェールガスに代表される膨
大な量の非在来型の天然ガスを取り出せることが明らかとなり、世界の天然ガスの可採年数は 60 年か
ら、少なくとも 160 年を超えるのは確実になった。天然ガスの供給余力が高まると、その利用も熱を帯
びてくる。
2011 年の福島第一原発事故後、二度と深刻な放射線汚染は許されないし、また CO2の排出も国際
的責務として長期的に削減する必要がある。再生可能エネルギーによる発電コストは現在のところまだ
高い上、天候によって発電量や電圧が大きく変動する「出力が不安定」という問題を抱える。これから
の電力の選択は、安全性を確認した原子力発電、化石燃料、再生可能エネルギーなど、各々に欠点
のある選択肢をうまく組み合わせて、各面での不都合が大きくなりすぎないように工夫しながら何とか
やりくりするしかない。その中で一番大きく貢献しているのが「天然ガスを利用した火力発電」である。
一方、天然ガスを原料とする産業は日本国内ではまだ皆無と言ってよい状況だが、天然ガスから液
体燃料を製造するGTL技術にその有望性を見出す動きが出て来た。
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含
まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら
かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については
一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
先月2013年3月にリリースした資料
(http://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_pdf.pl?pdf=1303_out_c_gas_to_liquids_intro%2epdf&id=4849)
では、「GTLの基礎」から「JAPAN-GTLの開発経緯」までを解説した。
2. JAPAN-GTLと先行他社GTLとの比較
図1にJAPAN-GTLと先行他社との設備費、運転費の比較を示す。
図1 GTLプラントの設備費の比較
設備費、運転費ともに先行他社の公表データがあるわけではないので、各種資料からの推定に基
づく議論とした。原料ガスにCO2を含む場合、先行他社のA社、B社、C社と比較してJAPAN-GTLは設
備費が10%~20%程度安価であることが分かる。これは、CO2除去装置や酸素製造装置が不要である
からだ。図2に設備費の内訳を示したが、A社、B社、C社の設備費の40%~50%を合成ガス製造/天
然ガス処理工程が占めていることが分かる。
図2 GTLプラントの設備費の内訳
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GTLのCO2排出量の比較を図3に示す。
図3 GTLのCO2排出量の比較
原料ガスにCO2を18%含む場合のJAPAN-GTLプラントから排出されるCO2を100として、オートサー
マルリフォーミング/ATR法(先行他社で言えばサソール社)との比較を示している。原料ガス中に含ま
れるCO2の割合が18%より小さい場合、CO2排出量は先行他社と同等となる。一方、CO2の割合が18%
より大きい場合は、先行他社よりもCO2排出量は少なくなる。CO2の割合が40%程度までJAPAN-GTL
はCO2を有効活用できる。これが長所となる。短所は、GTLプラントは化学プラントの一種なのでCO2排
出量をゼロにすることはできない。CO2を有効活用するJAPAN-GTLと言えども、同様である。運転費に
ついては1年あたり設備費の4%~5%と、先行他社と同様と考えられる。
3. 中小ガス田では LNGを上回る経済性
GTL の設備費は推定の域を出ないが。推定される設備費をプラントの生産規模で割った数値(ユニ
ットコスト)を図4に示す。
18% 40% 33%
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BPD = バレル/日
図4 GTLのユニットコストの推移
オリックスGTLは2002年に最終投資決定を行っており、ユニットコストはバレル/日あたり2万8千ドルと
推測される(1バレル=159リットル)。一方、シェル社のパールGTLは鋼材価格の上昇、他プラント建設
による労働力の逼迫による人件費高騰に伴いユニットコストは上昇し、バレル/日あたり9万ドル前後で
最終投資決定を行ったと考えられる。その一方、エクソンモービルが計画していたパームGTLはバレ
ル/日あたり10万ドルを超えた模様で中止になった。ウズベキスタンの「黄金の道GTL」がバレル/日あ
たり10万ドル程度で建設との情報があることから、現在GTL成立の目安としては、バレル/日あたり10万
ドルと考えて良いだろう。
1バレルのGTL製品油を製造するのに、約10MMBtuのガスが必要と考えれば、1万5千バレル/日の
GTLプラントで4ドル/ MMBtuのガスからGTLを製造する場合の概算の製造コストを考えると、以下のよ
うになる(MMBtu=100万Btu=25.2万キロカロリー)。
設備費: 10万ドル/バレル/日 x 1万5千バレル/日 = 15億ドル
GTL1バレル当たりの原料費: 10MMBtu/バレル x 4ドル/ MMBtu = 40ドル/バレル
GTL1バレル当たりの設備償却費(10年均等償却): 15億ドル/(1万5千バレル/日 x 365日 x 10年)= 27ドル/バレル
GTL1バレル当たりの運転費: 15億ドル x 5%/(1万5千バレル/日 x 365日) = 14ドル/バレル
1バレル当たりのGTL製造費=(原料費)+(設備償却費)+(運転費)=40+27+14=81ドル/バレル
これに税金などを加算し正味の製造コストとなる。
GTLの本質は「ギャップビジネス」である。原油価格を100ドル/バレルとすると軽油価格は120ドル/
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バレル前後となるので、120ドル/バレルと81ドル/バレルの差で税金、輸送費、利益を配分することに
なる。儲かるGTL事業を考える際に、技術力向上により設備費を安くする努力も必要だが、原料となる
天然ガスを如何に安く調達することが肝要となる。
以上の考察に基づけば、原油価格が100ドル/バレル前後であれば、中東や北米のように井戸元の
ガス価格が安いところでは、GTLは経済合理的に成立するだろう。また、原油生産に伴うガス(随伴ガ
ス)からGTL製造を行えば、原料費は限りなくゼロに近づくと言えるので、商業GTL成立の可能性は更
に高くなる。
次に同じ天然ガス量に対するGTLとLNGの事業性を試算・比較した。1万5千バレル/日相当のGTL
プラントに必要な天然ガス量に基づくと、LNGは年産で83万トンになる。この経済比較を実施した2008
年3月時点の原油価格は現在より少し低めの77.4ドル/バレルであった。この時、GTL製品価格を原油
由来のナフサ、灯油、軽油の製品価格の加重平均と仮定すると、94.6ドル/バレルとなった。LNGの
FOB(Free On Board:船積み価格)は7.97ドル/ MMBtuとなった。これらを前提に20年間の運転でIRR
(Internal Rate of Return:内部収益率)とガス価格の関係を試算すると図5のようになった。
図5 GTLとLNGの経済性比較の試算
この想定ケースでは、原料ガス価格によらず、GTLの方が高い経済性を示す。天然ガスの可採埋蔵
量が1兆立方フィート(GTL1万5千バレル/日を20年運転)と中小規模ガス田の場合、GTLの方が経済
性は良いという意味である。
一般にLNGは3兆立方フィート以上の可採埋蔵量を有する大規模ガス田に適用されると言われてお
り、さらにLNG受入れ施設を有するところに販売する必要がある。いわばLNGは天然ガス市場におい
てパイプラインガスと比べて市場が限られているため、ほかの大型LNGプロジェクトとの競合となろう。
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4. GTL製造はCO2排出量を増やすか?
4-1. GTLの効率とCO2排出量
図6にGTLの効率の一例を示す。
図6 GTLの効率
原料ガスの熱量を 100 btu(british thermal unit: 1btu=252カロリー)とした場合、生成物の熱量は 60
btuとなる。即ちGTLの熱効率は 60%である。
一方、炭素の利用率を見てみると、原料ガス中の炭素の 77%がGTL生成物に取り込まれており、残
りの炭素は燃料ロスである。即ち、GTL プラントを動かすための燃料として使われ、結果 CO2 として
GTL プラントの外に逃げている。GTL の CO2問題を議論するときには、熱効率について議論すれば
良いことが分かる。熱効率の向上がCO2排出量を減らすことにつながる。
4-2. GTLの LCA
図7と図8は、GTL製品油を含む石油製品のライフサイクルアセスメント(LCA)におけるCO2排出量
を比較したものである。
7%
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図7 石油製品の CO2排出量
図8 GTLに係るCO2排出量
図7ではWell-to-Tank、Tank-to-Wheelに分けて、ガソリンを 1.0(両者の合計)とした場合のCO2排
出量の相対比較を示している。上から 7番目が天然ガスから得られた FT軽油の排出量である。ガソリ
ン(一番上)よりは少ないが、軽油(5番目)よりは排出量が多い結果となっている。これは一例だが、
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LCAを議論する場合、「Well-to-Tank」と「Tank-to-Wheel」を足した「Well-to-Wheel」で、即ち井戸から
車を動かすところまでのトータルでCO2がどれくらい排出されるのかということを議論する必要がある。
そうすると、図7のようにGTLは LCAによれば良くないという人がいる。その一方で、既存の油と変わ
らないと主張する人もいる。後者の根拠は、既存の油で比較する場合、製油所では連産品として重い
油も出ているのに軽い油だけで比較するのはおかしい、重い油から出るCO2もカウントすべきではな
いかということだ。
そうすると、図8に示すようにGTLの方はCO2排出量が少なくなり、製油所と同じくらいになると試算
される。さらに図8の右側に示すように、今後GTLプロセスやGTL油を使用するエンジンの効率を上
げることができれば、さらにCO2排出量を少なくすることができる。熱効率を上げることは、CO2低減だ
けでなく、原料ガスの有効利用にもつながるわけであるから、そのための努力は今後も必要である。
4-3. LNGの LCA
化学変化のGTLと比較して、物理変化の LNGの LCAはどうなるのだろうか?
LNGの熱効率は 90%~95%なので、CO2の排出量は少ないと直感的に考えられる。しかしながら、
カタールの天然ガスを例に取ると CO2は約 3%含まれ、LNG プラントの液化能力は合計で 7,700 万ト
ン程度になるので、CO2も約 230万トン程度排出される。LNGは CO2排出量が少ないはずだが、規模
が大きくなると、このようなことが起きる。
中東湾岸には油ガス田やプラントが多く存在するので、LNGプラントなどから排出された CO2をソー
スとして、近傍の油田に対してCO2–EOR(CO2による油の増産)を行えば、炭化水素の有効利用と環境
負荷低減の両立ができるはずだ。
4-4. フレア規制にも対応
フレア規制への対応でも GTL は注目されている。フレアというのは、油田からの随伴ガス
(Associated Gas : 油田の生産時に一緒に出てくるガス)とか、天然ガス田から出てくる圧力の低いガス
(パイプライン輸送に適さない)などを井戸元で火を着けて燃やすことである。これらのガスは用途が限
られ、しかたなく燃やされているが、これらによる CO2の大気放散は環境上の問題となっており、資源
国は規制の方向に動いている。
公開データなどから計算すると、その量は世界で年間 5兆立方フィート(約 1,400億立方メートル)に
も達する。これは年間100万トンの液化能力を持つLNGプラント5つ分に相当する。もっと具体的に言
えば、熱量換算で世界の原油消費量の8日分に相当し、日本のガス消費量で言えば1.3倍ほどのガス
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が放出されていることになる。単に燃やすのでなく、これらの随伴ガスをGTLの原料として有効利用で
きれば、CO2対策だけでなくエネルギーの有効利用の観点からも有意義なことになる。
5. 洋上設置も可能なマイクロGTL
シェル社、サソール社のものを従来型のGTLだとすると、マイクロチャネル・リアクターという特殊な
反応器を用いた新しい型のGTL(マイクロGTL)が開発されている。
マイクロチャネル・リアクターとは、熱の供給や除去が律速(化学反応の速さを決定する最も主な要因)
となることが多い化学反応において、熱交換効率を上げるべく表面積を増大させ、図9のように径1ミリ
メートル程度のチャネルと呼ばれる流路を用いて反応を行わせるリアクター(反応器)を指す。
図9 マイクロGTLの概念
もともとは海上プラットフォームや船上といった限られたスペースに設置する熱交換器として、1990
年頃に英国のヒートリック(Heatric)社にて開発され、その後、化学反応が行われる高温高圧に耐えら
れる反応器が欧米や日本の企業で開発されてきた。
ブラジルの国営石油会社であるペトロブラス社は、英国のコンパクトGTL社と米国のベロシス社にこ
の新型GTLの開発を競わせている。ペトロブラス社は自国のカンポス盆地やプレソルを対象とした海
底油田からの原油生産に生産される随伴ガスのフレアを削減するとともに、この随伴ガスを有効活用し
てGTLを製造するプロジェクトという一石二鳥を考えて、マイクロチャネル型のGTL開発を競わせてい
る。いわゆる洋上GTL(FGTL : Floating GTL)というアイデアである。
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プラント規模は、2,000~5,000バレル/日を想定している。船上のように限られたスペースでGTLが
製造できるならば、陸上に目を向けるとプラントの輸送が容易になることも意味する。比較的コンパクト
にモジュール化したGTLプラントを鉄道で輸送し、内陸地に建設することも可能となろう。米国のベロ
シス社は北米内陸で増産されるシェールガスを原料としたGTL製造も検討している。
各種資料によると、マイクロGTLのユニットコストは 2,000バレル/日でバレル/日あたり 10万ドル程
度と言われる(図10)。
BPD = バレル/日
図10 マイクロGTLのユニットコストの試算
1万バレル/日を超えるような大規模なGTLとなると、従来型のGTLに比べ競争力は低下するが、
2,000~5,000バレル/日のような中小規模であれば、従来型に対して競争力は担保されよう(図10)。
6. 天然ガス以外からも製造されるクリーンな液体燃料
天然ガスを原料とし、合成ガス製造工程、FT合成工程ほかを経て、ナフサ・灯油・軽油を製造する方
法をこれまで説明してきた。これを含めた液体炭化水素の反応体系を図 11に示す。
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図11 液体炭化水素の反応体系
原料としては、石炭、バイオマス、廃棄物、天然ガス(シェールガス、炭層ガス/Coal Bed Methane、
油田随伴ガス)が考えられる。
石炭、バイオマス、廃棄物(ゴミ)はガス化工程、天然ガスは合成ガス製造工程を経て、それぞれ一
酸化炭素と水素から成る合成ガスが製造される。次に FT 合成工程を経て、直鎖状の炭化水素
(-CH2-)を作り、最後にアップグレーティング工程を経て、ナフサや灯油・軽油といった燃料油を得るこ
とができる。
FT 合成工程を経て燃料油を得る工程を間接法 GTL と呼び、OCM(Oxidative Coupling Methane :
酸化カップリング)反応工程からエチレンを製造し、重合反応から燃料を得る工程を直接法 GTL と言
う。
OCM 反応工程では、メタンを直接部分酸化・脱水素して、エタンやエチレンを製造する。現時点で
は商業化されていない。式(1)~式(4)に OCM に関連する反応式を挙げる。酸化金属系触媒を用い
て CH4/O2=2~10、反応温度 600℃~800℃、反応圧力 0.1MPa の条件でエタン(C2H6)やエチレン
(C2H4)が製造される。
2CH4 + 0.5O2 → C2H6 + H2O …(1)
2CH4 + O2 → C2H4 + 2H2O …(2)
CH4 + 1.5O2 → CO + 2H2O …(3)
CH4 + 2O2 → CO2 + 2H2O …(4)
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また、先述したように石炭(Coal)、バイオマス(Biomass)、廃棄物(Dust/Waste)からはガス化工程、
FT 合成工程、アップグレーティング工程を経て、合成燃料油を得ることができる。それぞれ英語の頭
文字をとって、CTL、BTL、DTL/WTLと呼ばれ、総称はXTLとなる。
メタノールやジメチルエーテル(Di-methyl Ether : DME)もGTLの一種と考えられている。
メタノールは化学原料としての用途の他に近年、携帯電子機器の燃料電池の駆動燃料として注目さ
れている。
式(5)に示すように、CO を含む 5MPa~20MPa の合成ガスから Cu-Zn 系触媒などを用いて反応温
度250℃~300℃においてメタノールが製造される。商業実績は多数ある。
2H2 + CO → CH3OH (△H298 = -90.6kJ/mol) …(5)
△H298 : 絶対温度278 (K)におけるモルあたりの反応熱
T(K) =t(℃)+273.15
DME はメタノールを脱水・縮合して得られ、エアゾール噴射剤や冷媒などの用途に使用されている
が、近年は液化石油ガス(Liquefied Petroleum Gas : LPG)代替としても注目されている。
間接法DMEは、式(6)に示すようにメタノールを原料とした脱水反応で製造する方法であり、工業実
績が多数ある。反応温度280℃~340℃、反応圧力0.5MPa~0.8MPaの条件でγ-Al2O3触媒を用いて
行われる。
2CH3OH → CH3OCH3 + H2O (△H298 = -23.4kJ/mol-DME) …(6)
直接法 DME は、式(7)に示すように合成ガスからメタノール合成触媒と脱水触媒のハイブリッド触媒
を用いて直接合成を行う方法である。反応温度250℃~280℃、反応圧力3MPa~7MPaの条件で行わ
れる。JFEグループが触媒と反応器を開発しており、100 トン/日のデモンストレーションプラントにおい
て、約1年間の運転実績を有している。
3H2 + 3CO → CH3OCH3 + CO2 (△H298 = -246.0kJ/mol-DME) …(7)
図 11のMTG(Methanol To Gasoline)は、メタノールから脱水工程を経てガソリンを製造する工程で
ある。メタノールとDMEの混合ガスを反応温度370℃、反応圧力0.2MPaの条件にてZSM-5の形状選
択性を持ったゼオライト触媒に導くことで、式(8)のように脱水・縮合・環化という発熱反応が起こり、ガソ
リンが製造される。石油メジャーのエクソンモービル社は、かつて14,500バレル/日規模のプラントをニ
ュージーランドで稼働させていた。
CH3OH → (-CH2-) + H2O…(8)
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FT 合成を経ない液体炭化水素の製造方法としては、石炭から直接合成燃料油を製造する「石炭直
接液化法」がある。これは熱分解水素化反応で石炭から液化粗油を製造し、次にアップグレーディン
グ工程によって合成燃料油を製造する方法である。
また、UCG(Underground Coal Gasification:石炭の地下ガス化)といって、地中で石炭層の一部をガ
ス化し、FT 合成へと導き、合成燃料油を製造する方法もある。2011 年にオーストラリアでは Linc
Energy社が、プラント規模は 5バレル/日と小規模だが、UCGにて出来た合成ガスを用い、GTL製造
を実証した。
最後に図11の補足説明をする。NGHとはNatural Gas Hydrateの略で、天然ガスから人工的にハイ
ドレート(水和物)を製造し、ガス輸送に利用する方法である。三井造船が精力的に技術開発中である。
GTWとはGas To Wireのことで、ガス田の井戸元でガスからガスタービンで発電(Wire)する技術であ
る。中東の陸上ガス田では実際に適用されている。海洋ガス田では10年ほど前に検討されたが、適用
実績はない。
シェールガス増産で天然ガスの供給余力が顕在化している米国では、GTL のみならず、石炭を原
料とするCTLや石炭直接液化法といった経路からも液体炭化水素を製造できるポジションにある。メタ
ン化学(C1化学)の復活となるのか注目したい。
<参考資料>
・ JOGMEC 石油天然ガス資源情報「天然ガスの供給余力で変わる産業構造、生まれるビジネス」、2012 年 7
月11日、伊原賢
・ 日刊工業新聞社「天然ガスシフトの時代」、2012年12月25日、伊原賢 末廣能史
以上