市立吹田サッカースタジアムの設計と施工 建築・構造概要...
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市立吹田サッカースタジアムの設計と施工
1.プロジェクト概要
40m
160m
210m
N
所在地 大阪府吹田市千里万博公園3-3
事業主 スタジアム建設募金団体
構造下部:RC造(一部PRC造)屋根:S造
(屋根免震構造)
階数 地上6階
建築面積 24,695.51m2
延床面積 63,908.71m2
高さ 40.33m
立面図
平面図
断面図
バックスタンド
メインスタンド
ホームスタンド
アウェイスタンド
35°
20~27°
VIPエリア
コンコース
試合運営エリア
2.構造概要
写真-2.1に構造概要を示す。下部構造体には、多人数歩行に対する剛性確保やジャンプ応援に対する振動防止、耐久性
向上などを目的として、鉄筋コンクリート(RC)造を採用した。また、コンクリート断面の縮小やひび割れ防止、施工
効率の向上を目的として、プレストレスト鉄筋コンクリート(PRC)梁を併用している。架構形式は純ラーメン構造で、
エネルギー吸収用のオイルダンパーを設置している。コンクリート強度について、柱および大梁にはFc45、屋根を受け
る一部の柱にはFc100を、ホームスタンドの一部の柱にはFc200を適用した。建物外周部には覆い壁があり、鉄骨架構で
外装材を支持している。屋根構造には、大スパンの実現や軽量化を図る目的から鉄骨造のシングルトラス構造を採用し、
屋根直下に免震装置を配置する屋根免震構造とした。免震装置には高減衰ゴム系積層ゴムと直動転がり支承を併用した。
屋根構造の鋼材概要を表-2.1に示す。
屋根:鉄骨造(シングルトラス)
下部:RC造(一部PRC造)オイルダンパーあり
免震装置
高強度スリム柱(Fc200)
覆い壁
写真-2.1 構造概要
使用鋼材400 N/mm2級、490 N/mm2級(BCP325を含む)
使用鉄骨量 約2,600 ton
鉄骨製作・鉄骨建方 川田工業株式会社
表-2.1 屋根構造鋼材概要
◇建築・構造概要 - 1 -
本スタジアムは「みんなの寄付金」でつ
くった日本初のスタジアムで、その建設費約
140億円は、サポーターならびに企業からの
寄付金と各種助成金で賄われました。募金は
任意団体であるスタジアム建設募金団体が募
り、その資金で設計施工が発注されました。
竣工後、スタジアムは吹田市に寄贈され、指
定管理者に任命されたガンバ大阪がスタジア
ムを使った試合を運営しています。
市立吹田サッカースタジアムの設計と施工
3.屋根構造概要
4.屋根免震構造の効果
スラスト力5,867kN
非免震
スラスト力29kN
スラスト力がほぼ 0kN に
免震
屋根架構には、屋根トラスを長辺方向、短辺方向、45°方向の3方向に架ける「3Dトラス構造」と「屋根免震構造」を採用した。図-3.1に概要を示す。「3Dトラス構造」の特長は、トラススパン長さを短くできることである。スタジアムで多く採用されている井桁状にトラスを架ける架構形式と比較すると、トラススパン長さが約200mから約100mとなり、合理的な設計が可能となる。図-3.2に屋根架構および免震装置の概要を示す。屋根はスタンド架構に設置された高減衰ゴム系積層ゴム支承(800φ)8基と、直動転がり支承8基により支持される。(写真-3.1、3.2)「屋根免震構造」の採用により、屋根架構に対する地震力が大幅に低減され、屋根および懸垂物に対する構造安全性が向上する。また、スラスト力がほぼ0となることから下部構造躯体への負担も軽減され、スタンド構造の平面計画の自由度も向上している。
図-3.2 屋根架構および免震装置の概要図-3.1 「3Dトラス構造」概要
写真-3.2 直動転がり支承
写真-3.1高減衰系積層ゴム支承
図-4.2 最大応答加速度分布図(mm/s2)(X方向レベル2地震時Z方向成分)
約1,200 cm/s2 約120 cm/s2約1/10 MAX 約4,100 cm/s2 MAX 約440 cm/s2約1/10
図-4.1 最大応答加速度分布図(mm/s2)(X方向レベル2地震時X方向成分)
免震非免震 免震非免震
屋根免震構造の効果について説明する。図-4.1、4.2は、X(長辺)方向のレベル2地震動時の時刻歴応答解析の結果でX
方向の最大応答加速度分布とZ(鉛直)方向の最大応答加速度分布である。両方向とも免震とすることで約1/10となってお
り種架構、および懸垂物への地震力が大幅に低減され耐震安全性が向上する。図-4.3には温度荷重時のスラスト力の比較
を示す。スラスト力がほぼ0となり、下部構造体への負担が大きく軽減される。
X
Y
高減衰系積層ゴム
直動転がり支承
T1トラス(スパン98.6m)
T2トラス(スパン95.1m)
T3トラス(スパン52.3m)
T4トラス(スパン37.4m)
図-4.3 静的解析結果の比較(長期+温度荷重(+30℃)軸力図)
◇構造概要 - 2 -
市立吹田サッカースタジアムの設計と施工◇施工概要(屋根鉄骨建方)- 3 -
5.鋳鋼を用いたトラス交差部の継手
6.支持点ディテール
写真-6.1 鋳鋼の回転すべり面部分 写真-6.2 屋根鉄骨-積層ゴム取り合い部
図-6.1 屋根鉄骨と積層ゴムの取合要領
免震装置による支持点では、ジャッキダウン時のスラスト力により水平変形が生じる。また、大スパンであるため、支持点には回転変形が生じる。これらの水平と回転変形を吸収するために免震装置との接合部に図-6.1に示す機構を設けた。(a)にジャッキダウン時、(b)に屋根材設置後の機構を示す。ジャッキダウン時は(a)に示すように、
免震装置上の回転治具により回転変形を吸収し、水平変形は積層ゴムにより吸収した。屋根設置後は、(b)に示すように、回転部分が動かないようにBOX断面とした後に積層ゴムの下フランジを動かしてゴム部分の変形を調整した。積層ゴムの変形について、1年間の温度差により40mm程度変形するため、春・秋に変形が中立位置となるように調整した。
3つのトラスが交差し、複雑に鉄骨が取合う箇所については鋳鋼を採用し鉄骨ディテールを簡略化した。またBOX断面
(冷間成形角形鋼管-BCP材)を用いた現場接合については、形状的に上向き溶接が必要となり、且つ高所での溶接作業
のため、溶接の品質確保が困難と予想された。そこで溶接継手部分の断面形状をBCP材からB-BOX断面に変更し上向き溶
接がゼロとなる継手形状とした。B-BOX部を上蓋形式とし溶接時には中に入り、下向き溶接にて品質確保をした。
上蓋形式
BCP B-BOXB-BOX
BCP
下側溶接時には溶接工が中に入って作業
図-5.1 鋳鋼採用箇所及び現場溶接箇所
図-5.2 鋳鋼部分の詳細図及び形状(3D)写真-5.1 鋳鋼部分の現場溶接部施工状況写真
鋳鋼金物(SCW480)
拡大図 T1トラス
内外
内外ジャッキダウン時スライド移動
下ベースプレートを仮設ボルトで柱に固定(屋根設置後撤去)
滑り材(水平すべり面)
回転すべり面
屋根材設置後にプレートを設置
屋根材設置後にベースプレートを移動
下ベースプレートを移動後にグラウトモルタルを充填(a)ジャッキダウン時 (b)屋根材設置後
市立吹田サッカースタジアムの設計と施工
8.建方手順
7.建方計画
写真-8.1 トラス地組状況 写真-8.2 コーナー鉄骨建方状況 写真-8.3 T1トラス閉合状況
写真-8.4 T2トラス建方状況 写真-8.6 スタンド側跳出し鉄骨建方中写真-8.5 T3トラス建方状況
55.0t
写真-8.1~8.6に建方手順を示す。各段階での施工時解析を行い、応力や変形を予測し、問題ないことを確認した。
建方時には解析結果との整合性を確認しながら慎重に進めた。
STEP1:外周梁
STEP2:T1トラス下弦材先行
STEP3:T4トラス(バットレス利用)
STEP4:T1トラス上弦材
表-7.1 過去のスタジアムとの比較
図-7.2 コーナー屋根部トラス建方手順
No.2
No.10
No.1
No.5
No.6 No.7
No.8
No.3
No.4
No.9
鉄骨数量(ton)
構台数量(ton)
構台数量/鉄骨数量(%)
市立吹田サッカースタジアム
2,600 290 11.2
A 8,960 2,286 25.5B 7,900 5,900 74.7C 6,200 1,200 19.4D 12,527 3,485 27.8
図-7.1 ベント構台配置図
屋根の鉄骨建方は、短工期で高品質な鉄骨架構を構築するために合理的な計画とした。トラス材を地組し大型ユニット化することで、高所での作業を極力減らし、仮設ベント構台を最小限(10基)とした合理的な建方計画とした。(図-7.1)表-7.1から他スタジアムに比べて仮設量が少ないことが分かる。建方手順としては、4隅のコーナー屋根部分を先行して建方し、その後、フラットな部分を建方する手順としている。図-7.2にコーナー部のトラス建方手順を示す。T1トラスの上弦材と下弦材を別々に建方することで不安定な状態をなくすことができた。
◇施工概要(屋根鉄骨建方)- 4 -